『  高嶺の花  』

 

 

 

 

 

 

 

「 それってさ。  チーム・ワークがとれてないから、じゃないのか。 」

「 ・・・ え ・・・? 」

どきん・・・!  人工心臓が引っ繰り返るか??と本気で疑うほどに・・・跳ね上がった。

 

      この言葉 ― 知ってる。  ううん! 知ってる、じゃないわ。

      わたしが  わたし自身が言ったじゃない・・・!

 

 

         こんなことになったのも チームワークがとれていないからよっ

 

 

かつて自分自身が口にした言葉が がんがんと耳の奥から響いてくる。

あの夜の暗さが、そしてジョーの沈んだ目の色がくっきりと脳裏に甦る。

フランソワーズは ほんの一瞬だけれど目の前が真っ暗になった。

「 あ ・・・ はっきり言ってごめん。  すいません ! 」

目の前で 困った顔がぺこり・・・!とアタマを下げている。

 

      ・・・ いけない・・・! 彼にはなんの責任もないのに・・・!

 

彼女は俯いたままきゅ・・・っと唇を噛み すぐに顔を上げた。  そう、満面の笑みを浮かべて ・・・

「 ううん、 ううん! 全然気にしてないわ。 ありがとう! アドバイスしてくれて。 

 本気で言ってくれるんですもの、ありがたいわ。 」

「 え・・・ あ、そ、そうかな。 オレってアドバイス・・・って柄じゃないけど・・・

 でもさ、 さっきチラっとだけ窓から見えた。 フランソワーズ達の 『 カトル 』 がさ。 」

「 柄じゃない、だなんて。  タクヤはいつだってモノゴトの本質を見分けるヒトよ。

 そう・・・ そうよね。 チーム・ワーク・・・よねえ。 」

「 まあな、オレらはスポーツのとはちょいと違うだろうけど・・・ 」

「 でも 似ているところもあると思うわ。  ・・・ ありがとう〜〜 タクヤ! 」

「 え ・・・ いやァ〜  ちょっと思いついただけなんだ。  

 なあ、それよりもさ。  ここのケーキ! 旨いと思うだろ? 」

「 ええ ええ。 お茶も美味しいわ。 ステキなお店にさそってくださって。 本当にありがとう! 」

「 ・・・ あ へへへ・・・ うん。 まあ、こんなモンさ。 」

タクヤは何気ない風を装っているつもりらしいのだが ― もう顔の筋肉がしっかりと裏切っていた。

そんな彼を フランソワーズはにこにこ顔で眺めている。

 

     ふふふ・・・ なんか、すばるの笑顔みたい・・・

     男の子の天真爛漫な笑顔って ホント、いいわよねえ・・・

 

最高に カッコつけている ( つもりな )ご本人はよもや 9歳の息子と同列に見られているとは

夢にも思ってはいなかっただろう・・・!

彼はすい・・・っと長い脚を組みかえると、気取って斜に構え前髪なんぞをかき上げている。

実際、彼はかなりのモテ系で 女性ファンも増えてきている。

フランソワーズが通うバレエ・カンパニーの 期待の若手ダンサーなのだ。

「 元気だして、頑張れよな。  うん、今回はオレとのパ・ド・ドゥじゃなくて残念だけど。 」

タクヤは 長い指で優雅 ( なつもり ) にカップを持ち上げくい・・・っと傾け ―

「 ・・・ うわ!  な、ななななんだ〜 にっげ〜〜  あ ヤバ・・・! 」

吹き出すことは辛うじて堪えたけれど カップから雫が飛び出してしまった。

「 あらら・・・ ほら これで拭いて?  ・・・ タクヤ。 それってストレート・ティじゃない? 」

「 え ・・・ あ  そうだった ・・・! 」

「 もう・・・ ほらほら・・・ぼんやりしないで早く拭かないと。 あ〜あ・・・綺麗なシャツ、シミになっちゃうわ。

 お茶を飲むときには 余所見をしてはダメよ。 ・・・わかったの、すばる。 」

「 ・・・ ( え・・・) ・・・ 」

ぽんぽんぽん・・・と彼女はお絞りで手際よくタクヤのシャツに散った紅茶をふき取った。

「 さ、これでシミにならないと思うわ。 もう〜〜 気をつけてね。 」

「 ・・・ あ  う、うん・・・ 」

「 やっぱりミルクやお砂糖を入れた方が美味しいでしょ。 うちの父なんかジャムを入れるのよ。 」

「 え ・・・ ジャム ・・・ 」

「 そうなの。  ロシアン・ティっていうのだけど。 わたしも好きよ。 あら・・・もうこんな時間?

 いっけない、帰らなくちゃ・・・  タクヤ、今日は本当にありがとう! 」

「 い、 いや・・・ あの! また! また、お茶、しようぜ。 

 オレ、フランソワーズが好きそうなカフェ、捜しておくからさ。 」

「 ありがと、楽しみにしているわね。   タクヤも 『 ライモンダ 』 頑張ってね! 」

「 お、おう。  ・・・ オレ、フランソワーズと あれ、踊りたかったな。 」

「 まあ。何を言っているの。 タクヤにはもっと若いお嬢さんがお似合いよ。

 このオバチャンはね、ふる〜い作品でいいの。  それじゃ・・・ また 明日ね。 」

「 あ ああ。  じゃ・・・ あ! すばる! すばるにヨロシク・・・ 」

「 ええ、ええ。  タクヤお兄さんがそう言ってたって聞いたらあの子、すごく喜ぶわ。

 じゃあ ・・・ 本当にありがとう!  メルシ・・・ 」

「 ・・・ ( うわ 〜〜〜 ! ) 

タクヤの頬に す・・・っと唇を掠めると、彼女は大きなバッグを抱え足早に出ていった。

 

      くぅ 〜〜〜〜〜〜〜 !!!

      なんで 〜〜 なんで  彼女は 彼女 なんだよ 〜〜〜

 

彼は がぶり、とカップに残った紅茶を飲み干した。

・・・・  冷え切ったストレート・ティは ますます苦かったけれど。

 

      ・・・ くそ〜〜 これが失恋の味ってヤツか・・・

      もうとっくにわかっているハズ・・・なんだけどなァ・・・・

      ちぇ・・・!  オレとしたことが。

      未練ったらしいぜ。 ううう ・・・ くそ・・・!

 

      でも  よ。  あああ・・・・ なんで彼女は さァ・・・・・

      手を取って踊れるのに  手は <届かない> んだからなあ!

      ・・・・ あ〜 あ ・・・ ! 

 

山内タクヤは端正な顔を 思いっきり歪め盛大に溜息を吐いた。

 

・・・ そう。 彼女は ― 人妻。   そして  子持ち!

 

 

 

 

 

海岸通りから大きくカーブして幹線道路から反れれば もう他の車とすれ違うこともない。

ジョーは ぐん! とアクセルを踏み込み、 だらだらした長い坂道へとハンドルを切った。

 

     あ〜あ・・・・ ただいま〜〜  

     ここまでくると ほっんとうに<帰ってきた>って気分だよ・・・・

 

右手に穏やかな海原をみつつ ジョーは自然に頬が緩んでしまう。

この地に住み着いてかれこれ10年以上にもなる。

当初は何回か焼け落ち建て直し ・・・ しばらく離れていた時期もあったが ここ数年は落ち着いている。

なによりもありがたいことだ、とジョーは素直に感謝している。

 

最後の傾斜を登りきると 思いがけなく広い平地に出る。 そして その先に ― 彼のホーム があるのだ。

すぐにとっぷりと暮れた夜の中に ぽつ ぽつ 灯りが見えてくる。

あの窓に。  あの灯りのもとに。  彼の 家族 が 彼の帰りを待っている。

 

     帰る家があるって そこでぼくを待っていてくれるヒトがいるって ・・・

     ああ ・・・ こんな幸せって世界中で一番だよなあ・・・!

 

ジョーは嬉しさのあまり溜息をついてしまう。

「 ただいま〜〜 ・・・って もうチビたちはとっくに寝ちまってるよなあ・・・

 あ〜あ こんな生活が続くとさ、顔、忘れられちゃうかもなあ・・・ ううう ・・・ 」

ぶつぶつ呟きつつ それでも彼は毎日ここに帰ってくるのが何よりも嬉しい。

ちょっと見には、ごくありふれた門扉を開き 愛車を滑り込ませた。

 

「 ・・・ ただいま ・・・ フラン? 」

「 ジョー。  お帰りなさい ! 

彼が玄関のポーチ前に立つと すぐにドアが開き ― 満面の笑みが迎えてくれる。

「 んんん ・・・・ ただいま・・・ 」

「 ・・・ んんん ・・・ 愛してるわ、ジョー・・・・ 」

上り框で二人は熱いキスを交わし ― やっと当家の主人・島村氏のご帰還となるのだ。

 

 

「 お仕事、お疲れ様・・・  まだ夜になると冷えるでしょ。 お食事、すぐに暖めるわね。 」

「 そうだね〜 この辺りは都心よりは暖かいけど・・・この時間になるとさすがにやっぱりな。 

 なあ チビ達は? もうとっくにお休みなさい、だよね・・・ あ〜あ つまらないなあ。 」

「 ええ。 コドモ達もね、お父さんと遊びたがってるわ。 

 それにねえ・・・ すぴかもすばるも・・・ そろそろわたしの言う事なんか聞かなくなってきて・・・

 ねえ、今度! 日曜日にでも がつん!と言ってやってくださらない? 」

「 え・・・ なにを? アイツら・・・ なにか悪さでもするのかい。 」

二人は互いの腰に腕を巻きつけつつ リビングに入ってきた。

広々とした部屋には・・・ コドモ達のオモチャ やら 学用品やら 本やら 新聞やらが雑然と置いてあるが

それすら 彼の目には好ましいものに映る。

そりゃ・・・・ どうしてソファの肘掛の上にすぴかのスニーカーが乗っているのか。

どうして ジョーの秘蔵の写真集の上にすばるのソックスが丸まって脱ぎ捨ててあるのか。

若干 不思議にも思うけれど  ―  そんなコトは些細なことなのだ。

いや それこそが<家庭>の温か味、だとジョーには感じられる。

 

    だってさ。 ココは ぼくの家、なんだもの。

    家族のものがいろいろ・・・ 散らばっていて当然だろ

 

照明は少し落としてあるが 部屋の中はほんのりと温かい。 

博士ご自慢の太陽光利用のパネルで この邸はごく自然な温度に保たれている。

二人はゆったりとソファに腰を降ろした。

いい匂いのする身体が ぴたり、と彼に寄り添ってくる。

ジョーは ごく・・・っと咽喉が鳴りそうになるのを必死で押さえた。

「 悪さ・・・ってこともないけど。  さっさと宿題をやらないとか。 プリントを見せないとか。

 すぴかは相変わらず寄道の女王様だし。 すばるはヒマさえあればPCに張り付いているのよ、

 もう 〜〜  いっくら言っても  うん うん・・・ってそれっきり。 」

「 あは・・・ まあ な。 二人とも三年生にもなれば いろいろあるさ。

 うん でも今度の休みこそゆっくり・・・ウチでのんびりしたいよ。 家族皆でさ、晩御飯食べたいし。 」

「 そうよね。  あ、すぐにお食事にするわ。  今晩は肉ジャガよ〜 ジョー、好きでしょ。 」

「 うわお〜〜♪  やったな♪ 」

「 ふふふ ・・・ じゃ、ちょっと待っててね。 」

ジョーの細君は 伸び上がってちゅ・・・っと小さくキスするとぱたぱたキッチンに駆け込んでいった。

「 ふんふんふ〜ん♪ 肉ジャガか・・・  あれ?  へえ・・・DVDか。 珍しいなあ。 」

ジョーはテーブルの上に目をやり、散らばっている中から一枚を手にとった。

そのレーベルにはふわり、とした衣裳をつけた優雅な舞姫たちの姿があった。

「 ・・・ ああ。 フランの仕事用か。  ふうん・・・やっぱいろいろ・・・大変なんだなあ。 」

フランソワーズは相変わらずバレエ・カンパニーに通っていて、近年では公演に参加する回数も増えてきた。

同時に ジュニア・クラスの教えも受け持ち始めている。

なにしろ。  双子 なのだ。 いろいろモノイリの昨今だけれど、 この家では全てが × ( かける ) 2。

勿論、充分に覚悟をしていたことだし、フランソワーズは家計を助ける意味もあり、

真剣に仕事に取り組んでいた。

そんな訳で 現在 島村家は共働きのなかなか忙しい家庭になっているのだった。

 

「 ジョー? 手を洗った?  そろそろいいわよ。 ・・・ あら。 」

「 お。 ありがとう・・・  なあ、これ。 仕事で使うのかい。 綺麗な写真だね。 」

ジョーはしげしげと手元のDVDのレーベルを眺めている。

「 ええ そうなのよ。  あ! そうだわ、ジョー。

 お疲れのとこ、悪いんだけど・・・ DVD の コピーのやり方、教えて? 」

「 コピー? これ・・・ コピーするのかい。 」

「 そうなの、今度の舞台なんだけど。  ええ もう古典中の古典、な作品なの。

 マダムがね、昔のパリ・オペラ座版のを持っていて・・・ はい、これでやって、って。 」

「 ??? どういうことなのかい。 」

「 つまり ・・・ このDVDの通りの振りでやりますよ、覚えてきなさいって。

 だから まず、皆で原版をコピーしてしっかり振りを覚えないとね。 」

「 皆?  人数が沢山の大きな作品なのかい。 」

「 ううん。 4人だけ。  さゆり と めぐみ と。 ありさ と わたし。

 わたし以外は みんな若いお嬢さん達なの。 」

「 ふん! きみだって充分に若いぞ! え・・・ 女性ばっかり? じゃあ ・・・ 

 アイツとの ぱ・ど・どぅ じゃないんだ? 」

「 アイツ? ああ タクヤね。 そうなのよ〜〜 実はね、ちょっと残念だな〜って思ってるんだけど・・・

 わたしもタクヤと踊りたかったのよね ・・・・ 」

「 ふ〜ん・・・・ そりゃ 残念だったね♪ 」

「 ・・・ ジョー。  なんかちょっと嬉しそう ・・・ ね? 」

「 うん? そんなコト ・・・ ないよ。  ( へへへ・・・ 実は大有り、だけど、さ。 ) 」

「 そう? タクヤって。 いいコだと思うわ、にこ〜って笑うとねえ、ちょっとすばるみたいだし。  」

「 ・・・ そんな笑顔、アイツはきみにみせるんだ? 」

「 え? そうねえ ・・・ そんなに頻繁じゃないけど、ね。

 ほら、若いコはかっこつけてるでしょ。 こんなオバチャンの前でなら遠慮なしで笑えるのだろうけど。

 若い綺麗なお嬢さん達の前では クールな存在でいたいのよ、きっと。 」

「 ・・・ きみは! オバチャン なんかじゃないってば。 」

「 いや〜だ、ジョーったら。 わたし、二人の子持ちのオバチャンよ。  さ、お食事にしましょ。 」

「 あ・・・ ああ・・・ うん。 」

ジョーはなんとな〜く釈然としない気分でソファから立ち上がり 細君の後を付いてキッチンに向かった。

目の前で きゅ・・・っと引き締まった魅惑のヒップが揺れている。

 

    ふ、ふん!  こ〜んなステキなオシリの どこがオバチャンなんだよ。

    ・・・ あ ・・・ そそられるぅ〜〜  ヤバ ・・・

 

ついつい・・・手が伸びそうになり、ジョーは慌てて目を反らせ深呼吸した。

「 まあ〜 やっぱり疲れているのねえ・・・ 大丈夫? 早くお休みなさいな。 お風呂も沸いてるし。

「 あ・・・うん ・・・ でもさ、ほら、きみのDVD, コピーするんだろ? すぐだから・・・ 」

「 あら、いいわよ。 ともかくお食事、 どうぞ? 」

「 うん・・・  わあ〜〜 美味そうだなあ〜〜  いっただっきまァ〜す♪ 」

ジョーは大にこにこで箸を取り上げた。

 

   ふふふ・・・・ この笑顔♪  ほっんとうにすばると同じ!

   男の子の嬉しそうな顔って・・・ いいわねえ〜〜 大好きよ♪♪

 

   ・・・ あ 〜〜 美味い〜〜!

   ふふふ・・・ この笑顔♪ 今晩はこちらもイタダキマスだなあ〜〜♪♪

 

島村氏は彼の愛妻の笑顔を 肴に?晩御飯をお腹いっぱいに詰め込んだのである。

さすがの彼も よもや9歳の息子と同列に見られている・・・とは思ってもみなかった。

どうやら 現在に彼女にはいつだって愛しい息子や娘が 基準 となっている・・・らしい。

 

「 ああ ・・・ 美味かった・・・!  」

はあ〜〜 ・・・ と満足の吐息を洩らし島村氏はご機嫌ちゃんでハナウタ交じりにバス・ルームに消えた。

「 よかった・・・本当にこのごろ忙し過ぎるもの・・・

 う〜〜ん ・・・ それじゃ コレはまた明日だわね。  ・・・ 『 パ ・ ド ・ カトル 』 かあ・・・ 」

フランソワーズは テーブルの上からDVDを拾い上げこちらも盛大に溜息を吐いていた。

「 ちょっとだけ、今晩中に振りを確認しておければなあ。  ジョーが寝ちゃったらこっそり・・・ 」

手早く後片付けをしつつ、フランソワーズはあれこれ・・・今後の予定を組み立てていた。

   ― せっかくの計画は ほぼ水泡に帰した・・・

その夜は  島村氏に独占されてしまい・・・ 彼女は不覚にも彼氏よりも先に寝入ってしまったのだった!

 

「 ふふふ・・・ 無理させちゃったかな。 ごめん ・・・ でも ステキだったよ・・・

 ああ ・・・ これですっきり疲れもとれた、かなあ。  ああ ・・・ 可愛い寝顔だなあ・・・

 ううう ・・・ そそられる ・・・ ! 」

腕の中でくうくう眠る恋人の寝顔を ジョーは堪能し、こちらは満足の吐息と共に寝付いたのだった。

 

 

 

 

   そうなのだ。  『 パ ・ ド ・ カトル 』  なのだ・・・!

 

「 ねえねえ〜〜フランソワーズ。  次、何が回ってきた? 」

「 あら、お早う! みちよ ・・・ え わたし、まだ見てないのよ。 もう発表になっているの? 」

「 昨日ね。 あ そか。 フランソワーズ、ジュニアクラスの教えだったものねえ。 」

「 そうなのよ・・・  みちよはなあに? 」

「 う〜ん ・・・ それがさ。  『 パ ・ ド ・ シス 』 なんだ〜〜 」

「 え・・・ 妖精の? 」

( 注 : 妖精の パ・ド・シス → 『 眠りの森の美女 』 プロローグで踊られる女性6人の踊り。 

 リラの精、はその中心的役 )

「 そ〜うなんだァ  新人ちゃん達をひっぱってお姐さんは リラ ! 」

「 あ、な〜んだ・・・ 大変ねえ。  先輩〜〜 がんばって! 」

「 う・・・ うう・・・ おねいさん、いや オバサンは辛いわァ・・・ 」

相変わらずの仲良し同士、フランソワーズとみちよは レッスン前にぼそぼそお喋りをしている。

二人とももう中堅になってきて、公演ではカナメになる役も回ってくることが多い。

また 今回のように新人達を引っ張ってゆくのも彼女たちの役割なのだ。

「 みちよなら大丈夫。 頼もしいリラの精、だわ。 」

「 ・・・ ううう ・・・ こりゃ本気でダイエットだわ〜〜 キビシ〜な〜 」

「 あんまり日にち、ないわよねえ・・・ あ・・・ 始まるわよ。 」

「 うん。  フランソワーズはなんだろうね? 」

「 さあ・・・?  『 パキータ 』 のコールドとか好きなんだけどな。 」

 

「 お早う。 始めますよ。  はい、 二番から ・・・ 」

 

ぴん・・・!と通る声と共に 朝のクラスが始まり、二人のぼしょぼしょ話はお終いになった。

 

 

 

「 ・・・ うそ。  ・・・ 」

かっち〜〜ん・・・・と掲示板の前で キャスト表を覗きフランソワーズは固まった。

次の公演、ちょびっとでもソロがあればなあ・・・とワクワクしつつ覗いたのだが。

「 うわ〜い。 フランソワーズ、どう? なんだった? 」

「 あ・・・みちよ。  カトル だったわ・・・ 」

「 カトル?  え。  ・・・って コレ? 」

みちよは ひら・・・っと両手でポーズをしてみせた。

( 注 : このポーズは有名。 )

「 そう・・・ みたい。  それで わたし・・・ うそ〜〜・・・」

「 あ ! フランソワーズさん!  」

「 え? あ・・・あら ・・・ 」

後ろからトーンの高い声が彼女を呼んだ。 そして すぐその後で

「「「 『 パ ・ ド ・ カトル 』 ヨロシクおねがいしま〜す!!! 」」」

賑やかな<ご挨拶> と一緒に3人の若い女のコ達がぺこり、とアタマを下げた。

「 あ・・・ あらら・・・・ あ。 はい、 こちらこそ・・・ 」

「 あは。 フランソワーズ・・・ タリオーニ なんだァ〜〜 」

みちよは どぎまぎしている彼女の背中を ぽん・・・!と叩いた。

「 みちよ・・・  どうしよう〜〜〜・・・  」

「 ま、頑張りなよ。  このお嬢さん達を引っ張ってさ、タリオーニ姐さん♪ 」

「 え ・・・ ええ ・・・ できるかしら・・・ 」

フランソワーズは ふか〜〜く溜息をついた。

 

『 パ ・ ド ・ カトル 』  これは古い古い作品である。

ゆるゆると優雅な時間が ふわり ふわり・・・と過ぎてゆく・・・そんな雰囲気を感じさせる。

激しい回転やら 高いジャンプ、 超絶技巧なステップ などは一つも含まれていない。

音もゆっくり、優しい音色のもと、典雅な舞いが披露される ― 風に見える、のだが。

それはあくまで観客側の感想なのだ ・・・!

 

 

   注 :  『 パ ・ ド ・ カトル 』 ( Pas de quatre ) とは

 

      曲: プーニ  振り付け: ジュール・ペロー

   4人の舞姫たちが優雅に踊ります。 初演の舞姫たちの名前が

   現在もそのまま役名になっています。 ( グラン、 グリジ、 チェリート、 タリオーニ )

   ゆっくりな曲なので易しい振りに変えたりして発表会では定番かも。

   でも 原曲はとても長く、元の振り付け通りに踊るのは・・・難しいのです!

 

 

 

「 ・・・ 自習時間 増やさなくちゃ・・・ そうね、教えの後、スタジオが空いていれば・・・ 」

「 あ、混ぜて、混ぜて〜〜 このお姐サンも頑張らないと! 

 お互い ・・・ オバサンになったってコトだね、フランソワーズ。 」

「 そうねえ・・・ 」

仲良しの二人はもう一回仲良く溜息を吐き ちょっとばかり情けない笑顔を見合わせた。

 

その日から島村夫人の帰宅時間は夕方ぎりぎりになった。

岬の下の停留所から 大きなバッグと両手に買い物袋をさげ、坂道をダッシュしてゆく姿が

夕闇に溶け込んでゆくのを見ていたのは ・・・ 道端の桜の樹だけ だったかもしれない。

 

 

 

 

次の日曜日 ― やっと春の女神は微笑みはじめ、この地域ではちらほら桜がほころび始めた。

崖っぷちのギルモア邸のリビングは 明るい陽射しで一杯だ。

「 ねえねえ〜〜 お母さん〜〜 だからさァ、 野鳥の観察、が宿題なのぉ〜〜 

 だから 巣箱確認するからアタシはあの樹に登るのぉ〜〜 」

「 木登りが宿題、だなんて聞いたことありませんよ。  鳥さん達の観察なら双眼鏡でしょう?

 おじいちゃまが作ってくださったのではっきり見えるでしょ。 登る必要、ありません。

 すばる? 朝からPC,使わないの! 宿題は終ったの?  」

「 う〜ん ・・・ あとでやる〜〜 だって、昨日はちゃんと夜、やめたよ〜〜 」

「 そんなにPCばっかり見ててどうするの? お家の中にばっかりいないで・・・・

 ほら、自転車で公園まで行ってきたら? わたなべ君でもさそったら。  」

「 お母さん〜〜 だ〜から〜〜  巣箱なの!  う〜〜ん、お父さんと一緒ならいい? 」

「 ・・・ わたなべ君はそろばん。 公園にはなんにもないよ。 

 あ、お父さんに僕〜〜 聞きたいコトがあるんだ! ウチのPCの設定でさあ〜 」

リビングからキッチンへ。 キッチンからまたリビングへ。

コドモ達は 母の後をついて回ってぶつくさゴネている。

「 ねえねえ〜〜 お母さんってば〜〜 いいでしょう〜 」

「 お母さん、わかる? あかうんと ってさァ〜〜 なに? 」

フランソワーズは朝食の準備をしつつ キッチンを出たり入ったりしていたのが・・・

 

    ・・・・ !  もう〜〜 同じコトを何回も 何回も〜〜

    幼稚園児じゃあるまいし 〜〜〜   も〜〜〜ッ !

 

「 静かになさい。 お父さん、まだお休みなのよ? 

 せっかくのお休みなんですからね、ゆっくり寝かせてあげてちょうだい。 」

「「 はァ〜い・・・ 」」

「 ほらほら・・・ このカップ、 テーブルに並べて。 お皿もよ、わかっているでしょう? 

 あ、すぴか。 ミルクを出して。  すばる、トーストを焼いて! いつものお仕事、やって頂戴。 

 ほらほら ・・・さっさとする! 」

「「 ・・・ はァ〜い ・・・ 」」

「 あ・・・ お父さんの分は後でいいわ。 多分・・・ ブランチになるでしょうし。 」

「 な〜んだ〜〜 つまんないの。 せっかくお父さん、お家にいるのにさあ〜

 一緒に御飯、食べたいなあ。 皆で食べたほうが美味しいじゃん。 お父さん、起こしてきてもいい?

 ねえねえ アタシ! お父さんと一緒なら ・・・樹に登ってもいい? 」

「 お父さんさァ・・・ ず〜っと会社にお泊りしているの? 」

「 だから! 木登りはだめ。 なに言ってるの、毎晩ちゃんとお帰りよ?

 二人がもうぐっすり眠ってから帰ってきて そう・・・っと寝顔を見ているわ。

 あなた達のお顔、見たいから・・・って。 お父さんはどんなに遅くなっても帰ってくるの。 」

「 ふう・・・ん ・・・ 」

「 だから。 お疲れなの、うるさくしないで。 二人とももう赤ちゃんじゃないでしょう? 」

「 う ・・・ ん ・・・ 」

「 さあ、おじいちゃまがそろそろお散歩からお帰りでしょ、そうしたら御飯にしましょう。 」

「 う〜ん ・・・ お父さんはァ〜  」

「 すぴかさん。 何回おなじこと、聞くの。 すぴかさんはお耳も日曜日なのですか。」

「 ・・・ う〜ん・・・ あ、おじいちゃまかな! お〜かえりなさ〜い! 」 

すぴかは ミルクのパックを放り出して ぱたぱた玄関に駆けていってしまった。

「 あ  もう〜〜 しょうがないわねえ・・・ すばる? トーストは? 」

「 ・・・ いま、入れたよ。   あ!?  」

オーブン・トースターの前で こちらもムス・・・っとしていたすばるもキッチンを飛び出した。

「 ― お父さんだっ ! 」

「 あ・・・ こら! 途中で・・・  お父さんはまだお休みよ!  ・・・・ もう・・・ 」

母はキレる寸前・・・ ぶつぶつ、ミルクをミルク・パンに注ぎ オーブン・トースターをオンにした。

「 まったく!   ・・・ あら?? 」

「 ただいま〜〜  あ、 お早う、だったね。 」

「 やれ どっこいしょ・・・・ただいま。  ああ ・・・ いい気分じゃった。 」

リビングのドアが開いて博士とジョーが入ってきた。

「 お帰りなさい。 まあ・・・ ジョーったら。 まだ寝ていると思ってたわ。 」

「 お早う、フラン。  うん・・・ ぱかっと眼が覚めちゃってさ。 顔洗ってたらちょうど博士が

 散歩に出られるところだったんで 一緒に な。  う〜ん いい気分だった・・・! 」

「 まあ そうなの。 それじゃ・・・すぐにお食事にしましょうね。 」

「 うわ〜〜 お父さ〜〜ん おじいちゃま〜〜 皆で一緒の御飯だ〜〜 」

「 お父さん お父さん ねえ、ぱそこんの設定でさあ・・・ 」

コドモ達はさっそく父に纏わりついている。

「 あなた達!  さっきお母さんが言ったこと、ちゃんとやって頂戴! 

 途中で放りださないの! 」

 

   ― ついに母は  キレた ・・・・

 

 

 

「 ・・・ うむ ・・・美味しかったなあ。 フランソワーズのパン・ケーキはまたまた味が良くなったぞ。 」

食後のお茶を啜りつつ、博士はのんびりとしている。

「 まあ、そうですか? 嬉しいな・・・ 実はね、生地に蕎麦粉を少し混ぜてみたのですけど・・・

 お口にあってよかったですわ。 」

「 ほう・・・ あの香ばしさは蕎麦粉か。 ふむふむ・・・なるほどなあ・・・ 

 和風の素材でもバターやジャムにも合うもんじゃな。  ふふふ・・・ お前と同じ、か。 

 おっと逆じゃったな。  こちらは粋なフランス素材、じゃったなあ。 」

「 え・・・ あ、あら・・・・ 」

フランソワーズは食卓の上を片付けつつ・・・ぱっと頬を染めた。

「 いやですわ、博士ったら・・・ ああ、ごめんなさい、せっかくの日曜の朝なのに子供達が騒々しくて・・・ 」

「 いやいや・・・ チビさん達、久し振りに父さんと一緒ではしゃいでしまったのじゃろ。

 それに ジョーだって満更でもない顔、しておったじゃないか。  ほれ・・? 

博士はキッチンのハッチ越しに リビングを眺めた。

そこでは  ―  双子の姉弟がテーブルに宿題を広げ 熱心に鉛筆を走らせ・・・・

父親が どっかりと前にすわって <監督> をしている。

「 ・・・ ええ まあ、ね。  本当にもう・・・ わたしのいう事なんかもうちっとも聞きませんわ。 」

「 ははは・・・ ま、チビさん達もどんどん成長してゆく、という事じゃ。 」

「 はあ ・・・ 」

フランソワーズは 食器をトレイに集めると盛大に溜息をついた。

 

 

  お父さん〜〜〜 木登り、してもいいよね!?    ねえねえ ぱそこんの設定だけど〜

  ねえ、おじいちゃま! やっぱり直に見たほうがいいよね! 鳥さんの観察はさ!

  あかうんと ってなに、おじいちゃま。 ここから進めないんだ〜 

  お父さん  お父さ〜ん  おじいちゃま〜〜 おじいちゃまったら〜〜

 

・・・ ぴいぴい わいわい ・・・ 朝食のテーブルは大騒ぎになった。

賑やかなおしゃべりの合間には ―

「 ― すぴかさん。  お口にモノを入れたまま お話しない! 」

「 あ〜あ〜 ・・・すばる、ミルクが零れてますよ、気をつけてちょうだい! 」

「 ほらほら・・・ おじいちゃまにパン・ケーキ、もう一枚取って差し上げて。 」

「 すばる! お野菜、残さない!  ドレッシング、もっとかけていいから。 」

母の小言がちりばめられていた・・・・

そして 食後に遊びに飛び出そうとする姉弟を これは父がしっかりと < 捕縛 > した。

「 まず。 宿題をやること。 ここにもっておいで。 お父さんが見ているから。 

 遊びに出る前にすませるんだ。 」

意外にもコドモ達は こっくり素直に頷き・・・ それぞれ教科書やらノートを子供部屋から持ってきた。

 

 そして 今、姉弟は一応熱心に宿題に取り組んでいるのだ。

 

 

「 ともかく宿題だけでもちゃんとやってくれれば・・・ 」

「 ふふふ・・・ これで後は心置きなく父さんと遊べるだろうよ。 

 うむ。 ワシももっとチビさん達の相手をしてやらんといかんなあ・・・ 

 申し訳ないな、役にたたんで・・・ 子守りはジジの役目じゃというのに。 」

近年、博士はコズミ博士を通して 医療分野にその豊富な知識と経験を提供し始めている。

特に成形外科では博士は密かに数々のサイボーグ技術を伝授し治療法や医療技術開発に貢献していた。

ジョーもフランソワーズも とても嬉しく思っている。

「 あら、そんなこと。 お忙しいのに・・・  わたしこそ、ちゃんとあのコ達を躾なくちゃ。

 最近 わたしの帰りが遅いので本当にあのコ達 遊び放題なんです。 」

さあて・・・とフランソワーズはエプロンを掛け、立ち上がった。

「 キッチンを片付けて・・・ ああ、そうだわ。 博士、 DVDのコピー、やり方お判りですか? 」

「 DVD? なにか特殊なものかね。 」

「 え? いいえ、ただの・・・普通のDVDですわ。 

バレエので・・・ 次の舞台で踊るので振りを覚えなくちゃ ならないんです。 」

「 なんじゃ、それならすぐにできるぞ。 一部でいいのかな。 」

「 え・・・ あの ・・・複数、出来るのですか。 」

「 ふふ・・・ 容易いことさ、この手のDVDのつくりは単純じゃからの。 違法なことも楽々、さ。

 全部で4部? おお すぐにコピーしてやろう。  ちょっと待っておいで。 」

「 あら、嬉しいわ。 助かります それじゃ・・・ 子供たちはジョーに任せて。

 わたし、頑張っちゃいますね。  さあ〜 大急ぎでお皿を洗って・・・と。  」

博士もフランソワーズも 食卓を離れた。

 

 

「 ・・・ あ、お母さん! ねえねえ〜〜 一緒にさあ〜 」

「 あら すぴかさん、宿題は終ったの? 」

「 うん! ね〜 お父さん、アタシ、ちゃんとやったよね〜〜 」

フランソワーズがキッチンを片付け リビングを横切ってゆくと、すぴかが呼び止めた。

「 ああ、ちゃんと終らせた。 えらいぞ、すぴか。 」

「 えへへへ・・・  ねえ、それでね、お父さんと〜公園までいこ!って。 

 お母さんも一緒に行こうよ〜  ね、すばる。 」

「 うん。 お母さんも一緒なら、 僕も行く。 」

「 あらァ〜〜 ・・・お父さんにつれて行って頂きなさいな。  お母さん、ちょっと忙しいのよ。 

 ジョー? お願いできる?  」

「 え・・・・ ああ、いいけど。  なに、きみ、仕事? 」

「 そうなの 〜〜 これからしっかり振りを覚えないと!  ・・・ ああ もう時間がもったいないわ。

 それじゃ 3人で行ってらっしゃい。  ああ ちゃんとマフラー、してゆくのよ。 」

「 ・・・ お母さん 行かないなら 僕ぅ〜〜  ねえねえ皆でウチでげーむ、しようよ〜〜 」

「 やだ。 アタシ、 公園に行きたいもん。 ねえねえ お母さ〜〜ん 皆でさあ〜〜 」

子供たちは 父の側を離れフランソワーズのスカートに両側から引っ付いた。

「 あらら・・・  なあに、あなた達。  赤ちゃんの時みたいよ?

 ほらほら・・・三年生にもなっておかしいでしょう? 」

「 う〜ん ・・・ でもぉ〜〜 」

「 僕 ・・・ お母さんと一緒にさあ・・・ 」

「 すぴか、すばる。 お母さんさ、忙しいんだよ。 

 お父さんと 行こう。  すばる、帰ったら一緒に ゲーム、しような。 」

「「 ・・・ う〜〜ん ・・・ なら・・・ いい。」」

二人は不承不承に母のスカートを放した。

「 ジョー、 ありがと♪  じゃ・・・ 気をつけて行ってらっしゃいね。 」

さ・・・っと頬にかるくキスすると フランソワーズはそのまま二階へ行ってしまった。

 

「 さあ、ほら !  出かけるぞ! ブルゾン着てマフラー、しておいで。

 まだちょっと風が冷たいからね。 」

「「 うん ・・・ 」」

ジョーは 殊更明るい声を出し、子供たちの背をぽんぽん・・・と軽く叩いた。

「 さあ〜〜 おいで! 玄関で待ってるから。  誰が一番かな。 」

「 アタシがいっちば〜〜ん! 」

「 あ〜〜 僕がさき〜〜 僕ぅ〜〜! 」

ジョーの声に 双子たちもようやっと笑顔をみせ、子供部屋へ駆け上がっていった。

 

    やれやれ・・・ ウチの奥さんは本当にご多忙なんだな

    ・・・ ぼくもちょっと残念だけど・・・・

    ま、たまにはウチのお転婆姫とのんびり坊主の相手をしてやらなくちゃな・・・

 

ジョーはちょっとばかり複雑な気分で玄関に向かった。

 

 

 

 

 

優雅な音楽が 優雅にゆっくりと空間に吸い込まれてゆき ・・・ 消えた。

後に聞こえるのは 四種類の荒い息づかいの音。  

 

    ハア・・・・・!

 

中央で典雅なポーズを取っていた4人は ぱっと姿勢を崩し肩をゆらし、身を屈め大息をついている。

「 そう・・・ あなた達には易しいテクニックばかりね。  みんなステップは完璧よ。

 でもね。  今のは 『 パ ・ ド ・ カトル  』 じゃないわ。 

一瞬 稽古場がしん・・・とした。  荒い息の音は ぴたり、と止んだ。

このバレエ・カンパニーの主宰者のマダムは 4人の踊り手たちをじっとみつめた。

「 もう一回 よ〜くDVDを見て。  考えてごらん? いいわね。 

 次のリハーサルまでに 自分達で工夫して・・・ この作品を作ってきなさい。

 それじゃ・・・ お疲れ様。 

「 あ ・・・ ありがとうございました! 」

しゅん・・・とした空気の中、フランソワーズが慌てて挨拶を返した。

「 あの ・・・ ごめんなさい、わたし・・・ なんだか上手くまとめられなかったかも・・・ 」

彼女はポーズを解いた若い踊り手たちにおずおずと声をかけた。

「 ・・・ いえ ・・・ 」

「 あ・・・ べつに・・・ 」

「 ・・・ そんなこと。 」

新人、とはいっても皆 コンクールに出場したりジュニア時代、それなりの実績を積んできている、

所謂優等生ばかりだ。  どこか 皆 憮然とした表情である。

「 あの ・・・ それじゃ。 次のリハーサルまでに DVDをよく見直しておきましょう? 」

「 ・・・・・・・ 」

新人の踊り手達は黙ったまま こくん、と頷くだけだ。

「 あの ・・・ じゃ ・・・ お疲れさま・・・ 」

「 お疲れ様でしたァ 〜 」

なんとも重苦しい雰囲気のまま リハーサルは終了し、彼女らはスタジオを出て行った。

 

     ・・・ なんか ・・・ 自分の踊りだけで精一杯、だったかしら。

     それでも他の三人を ちゃんと見ていたつもりなんだけどなあ・・・

 

     ( 注 : タリオーニは要となる役どころ )

 

フランソワーズは ガラン・・としたスタジオの鏡の前で溜息をついた。

 

     コーダ ( 最後に全員で踊る部分 ) でのタイミング・・・ 合ってなかったわ・・・

     でも ここで あの音で ・・・ こう・・・プレパレーション、するじゃない?

 

鏡に向かって 一人で踊り始めていると ―  口笛でコーダの部分の曲が流れてきた。

「 ・・?? あら・・・?  だれ?   まあ! タクヤ ・・・! 」

「 オス♪  ・・・ もう終ったんだろ? タリオーニ姫? 」

スタジオの出口から 山内タクヤがひょっこり顔をのぞかせた。

「 ええ。 まあ 〜 タクヤだったの?  よく知っているわねえ、この曲。 」

「 あは、だって有名だもの。 そりゃ・・・オトコの出番はないけど。  なあ、もう終わりだろ。

 帰りにちょこっと お茶、どう? あ ・・・ もし、時間があれば、だけど。 」

「 え ・・・ 

「 ほらほらほら〜〜 フランソワーズにそんな顔、似合わないぜ〜〜 

 下の出口で待ってるからさ。 よし、10分後! 」

「 え〜〜 もう〜〜相変わらずせっかちさんねえ。  ・・・いいわ! 大急ぎ、するから待ってて。 」

「 わお♪ やったァ〜 ! 」

「 じゃ・・・ 10分後! 」

フランソワーズは大慌てでポアントを脱ぐと荷物を纏めて更衣室に飛び込んだ。

 

     ふふふ ・・・ なんかちょっと ・・・ ジョーに似てる?

     そうねえ・・・ 同じコト、言っても ジョーはお茶には誘ってくれないわねえ・・・

 

生真面目な夫の顔が ほわん・・・と浮かび、フランソワーズはくすくす笑ってしまった。

 

 

「 そりゃさあ〜 彼女みたくスタイルもよくないし? 美人でもないけど・・・・ 」

「 なんでもかんでも揃っている人はいいよねえ〜 」

「 ・・・ やっぱガイジンって得だよね。 」

「 ソンしちゃったな〜今回。 どうせ目立つのは彼女よね〜〜 」

 

     ・・・ あ ・・・ あのコたち ・・・

 

更衣室の奥の方からぼそぼそ話声が聞こえてきた。

時間外なのでもう誰もいないと思っているのだろう、一緒に踊った娘たちだ。

フランソワーズはそっと入り口近くののシャワーを使いそそくさと着替えた。

 

    そんなこと・・・ないのに・・・!

    あなた方の方が 何倍も  ううん、何百倍も綺麗なのよ・・・!

 

本当の若さ、生命の輝きに満ちている彼女達が フランソワーズにはただ ただ眩しかった。

大急ぎで着替え、ひっそりと更衣室を出た。

 

    やっぱり・・・ 普通の人たちの間に混じってはいけないのかしら・・・・

    生身の、本当の若さの間に入ればニセモノはすぐに判ってしまうのかも・・・

 

ぽろり・・・と涙が一滴 鼻の横を転がりおちた。

 

 

「 お そ〜〜い! 遅刻! 」

「 ・・・ あ、ごめんなさい!  わたしって手際が悪くて・・・ 」

駆け出してきた彼女に 口ではぶつくさいいつつも タクヤはご機嫌な顔で迎えてくれた。

「 よし、それじゃ・・・ うん、すぐ近くだから。 あのカフェ、 フランソワーズ、絶対気に入ると思う。 」

「 まあ そう?  嬉しいわ。  ちょっと・・・疲れちゃったから。 」

「 へえ?  なんか ・・・ 上手く行かないわけ? 」

タクヤは 少し驚いた顔で彼女をみつめた。

「 え ・・・ あ、あの。 そういうわけじゃ・・・ ううん、わたしがね、ダメなんだと思うんだけど。 」

「 なに。  フランソワーズ・アルヌールともあろうダンサーが  『 カトル ・・・ 』 に苦戦してるのか。 」

「 まあ タクヤったら・・・ でも あの ・・・ね・・・ 

彼のご推奨のカフェに入ると フランソワーズはやっとぽつぽつ話始めた。

 

   そして ―  タクヤはひとこと ・・・ 言ったのだ。

 

  「 それってさ。  チーム・ワークがとれてないから、じゃないのか。 」

 

 

 

 

「 つぎは〜〜 岬入り口〜 岬入り口 でございます〜  お降りのかたは・・・ 」

聞きなれたアナウンスが 突然・・・ 耳に入ってきた。

 

    あ・・・! いっけない! わたしったら居眠り・・・!

 

「 す、すみません〜〜!!  降ります、 降ります〜〜〜!! 」

フランソワーズは大慌てで荷物を掴むと 大声で運転手に告げた。

「 はい〜〜 次の角の先ですから ご安心ください。 」

「 あ ・・・・ す、すみません ・・・ 」

ガラガラのバスの中、 彼女は真っ赤になってぼすん・・・と座りなおした。

 

   やだ・・・ もう〜〜 ・・・ 慌てん坊のフランソワーズ・・・!

 

バスは大きくカーブして がったん・・・!とゆれ、停まった。

「 岬入り口 〜   どうぞ気をつけて! 」

「 ・・・ あ  ありがとうございます・・・ 」

岬の洋館の若奥さんは 今日も大きな荷物を抱え ― 目の前の急坂を駆け上がっていった。

 

 

 

 

「 ねえねえ〜〜 お母さ〜ん お煎餅、買ってきてれたァ? 」

「 ジュースでね ペットなんだけど ちゃんとアイスの味がするんだ。 あれ、飲みたい〜〜 」

「 今晩 なに〜  あ ・・・ またシチュウ〜〜ぅ? 」

「 僕・・・ 人参、いらない。 」

「 ねえ〜〜 ぷち・とまとは? アタシ、黄色いのが食べたい〜〜 」

 

    ・・・・ はいはいはい ・・・ わかったから。

    ちょっと二人とも 離れていて頂戴・・・! 

 

大急ぎで帰宅して、 島村さんち の奥さんは着替えるヒマもなくそのままエプロンをした。

半日留守にした家は ―  溜息しかでなかった。

雑然としたリビングを ざ・・・・っと整え キッチンに飛び込んでこちらもざっと片付けて。

「 二人とも〜〜 使った食器はちゃんと洗っておいて、って言ったでしょう? 」

「 アタシ、洗ったも〜ん。 」

「 すぴかさん。 自分の分だけじゃなくて・・・ 他の人のも一緒に洗ってちょうだい。 

 ああ すばる? ジャガイモ、洗って剥いてくれるかしら。 」

「 いいよ♪ いくつ? ・・・ あれェ。 お母さん、お野菜箱にジャガイモ・・・ ないよ? 」

「 ・・・ え。

「 あ〜 そうだ。 おじいちゃまね、 今日、遅くなるって。

 コズミのおじいちゃまのトコで御用なんだって。 」

「 あら そうなの。  あ〜〜 じゃがいも ・・・なかったんだ! どうしよう・・・ 」

 

「 ― ただいま 〜  」

 

「 ?? あらっ?!? ジョー・・・ 随分早いのね。  お帰りなさ〜〜い! 

 気がつかなくて・・・ごめんなさいね。 」

リビングのドアが勢いよく開いて、ジョーがにこにこ顔で入ってきた。

「 あ! お父さ〜〜ん!! お帰りなさい〜〜 」

「 わ〜 わ〜〜 お父さん〜〜 」

「 ただいま・・・ フランソワーズ。 」

「 おかえりなさい。 お出迎えできなくてごめんなさい、ジョー。 」

どんな時でも 最優先! な <ただいまのキス> を 二人は熱く熱く交わした。

子供たちはもう慣れっこで そんな両親の側にひっついて待っている。

「 ・・・ うふ・・・ん ・・・ ねえ、早いお帰りは嬉しいけど・・・なにかあったの? 」

「 え? ・・・あは、今日は土曜日だよ? 」

「 ・・・ あ。 わたし、自分がいつもと同じスケジュールだったから すっかり・・・ 」

フランソワーズは カレンダーを振り返り思わず心の中で舌打ちをした。

 

    あ・・・ 今日って土曜日だったんだ・・・  しまった・・・!

    え? それじゃ・・・ 子供たち・・・ 半日二人っきりだったの?

 

「 お父さ〜ん 今度さあ、自転車で裏山に登ってみようよ〜〜 」

「 じゃがいも、ないんだって! お父さん、さつまいも でシチュウ、できるかなあ〜 」

子供たちは 早速父親に纏わりついている。

「 ごめんなさい、ジョー。 晩御飯、ちょっと遅くなりそう・・・ じゃがいも、買ってくるから・・・ 」

「 え。 これから? 」

「 そうなの。 あと・・・ 胡瓜も一本しかなかったのよ。 わたし、帰りに慌てお買い物したから

 足りないものだらけ・・・ ごめんなさい・・・ 」

「 ふうん ・・・ あ、博士は? お出掛けかい。 」

「 おじいちゃまね〜 遅くなるんだって! コズミのおじいちゃまとお仕事だって! 」

「 そうか、 ありがとう すぴか。  ふうん ・・・ よし! それじゃあね。 」

ジョーは 細君と子供たちの顔を眺め、ちょっと考えこんでいたけれど ぽん、と手を打った。

「 ・・・ なあに、ジョー。 」

「 なあ、たまには皆で出かけよう!  お弁当、もって。 海岸の方に行こう!

 ほら、ぼくがぱぱぱ・・っとお握り、作るから。 きみはさ、残り物でも詰めてよ? 」

「 ええええ??? い、今から?? お弁当持って?? 」

フランソワーズは窓から外を覗いてみた。

そろそろ西の空は 青から茜色に替わり始める気配だ。

いかに温暖な地域でも 陽が落ちれば外はもう温かくはない。

「 でも・・・ 寒くなるかも。 子供たち、風邪ひいたら・・・ こんな時間だし・・・ 」

「 たまにはいいさ。 しっかり着込めば大丈夫だよ。 まだ冬のコート、あるだろ? 」

「 ええ・・・ 

「 よ〜〜し! それじゃ。 すぴか、 すばる〜〜 ピクニックに出発だ! 

 皆でゆくぞ。 厚いセーター、着ておいで。 」

ジョーは すぴかとすばるのアタマをくるりん・・・と撫ぜた。

「「 うわ〜〜〜〜いい!! 一緒だあ〜〜 お父さんも お母さんも〜〜 いっしょだァ〜〜 」」

「 わかったわ。  それじゃ・・・ね? お母さんからおねがい。

 お父さんとお弁当を作っている間にね、お庭のジェロ伯父さんの温室から

 トマトと・・・ もし赤くなっていたらいちごをちょびっと摘んできてちょうだい。 できるかしら? 」

「「 できる〜〜〜 !!! 」」

子供たちは大歓声をあげ、庭に飛び出していった。

「 さ。 それじゃ。 こっちは弁当作戦〜〜 開始! 」

「 了解! 」

ジョーとフランソワーズは 顔を見合わせ大笑いしてキッチンに向かった。

 

 

 

「 さあ〜〜 もっとこっちにおいで。 ほら・・・ すぴか、そこじゃ風がくるだろう? 」

「 うん ・・・ アタシ♪ お父さんと〜お母さんの〜さんどいっちだあ〜〜 」

「 ぼ、僕だって! さんどいっちだも〜〜ん ! お父さ〜ん、ぎゅ〜〜 お母さ〜ん ぎゅう〜♪ 」

「 まあ・・・二人とも甘えん坊さんねえ・・・ 」

岬の下、海に近い崖途中の窪地で夕方のピクニックになった。

一家4人はくっ付きあってお弁当を広げる。

お弁当、と言っても 簡単なオムスビと残りもののオカズ、すぴかとすばるが摘んできたトマトと

ほんの数粒のいちごだけだ。 あとは熱々のお茶。

  でも。   子供達も お父さんもお母さんも。 み〜〜んなお腹いっぱい・・・食べた!

「 お〜〜いし〜〜〜ね〜〜!!!  皆でくっついてると すご〜く おいし〜〜 」

「 うん! ウチのとまと、甘いね〜〜 おいし〜ね〜 」

子供たちは夢中になって ぱくぱく・・・ < 残りもの・お弁当 > を平らげてゆく。

「 ・・・ ははは ・・・ よく食うなあ、お前たち。 」

ジョーはもう・・・ヒモの解けっぱなしな笑顔である。

「 本当・・・ すばるったらキライなお野菜も・・・ まあ、すぴか、それはお父さんのよ? 」

「 いいさ いいさ・・・ いっぱいお食べ。 」

「 うん!  皆でさあ〜 御飯っておいし〜〜 」

「 そうだね。 お父さんも皆で食べる御飯が一番スキさ。 」

「 わたしも最近遅いから・・・ ちっとも子供たち、かまってあげられなくて。

 淋しいのかもしれないわね・・・  ごめんね・・・ 」

フランソワーズがお茶のカップを手に低い声で言った。

「 それはぼくも同じさ。  ・・・ 我が家もチーム・ワークが必要ってことかもな。 」

「  ・・・ チーム・ワーク・・・?? 」

・・・どきん・・・! と またフランソワーズの心臓が跳ね上がる。

「 きみ、覚えているかな。  ―  こんなことになったのも チームワークがとれていないからよっ 

 そう言ったんだ、きみが・・・ まっすぐに前を見つめて、さ。 」

「 ・・・ ええ・・・。 覚えているわ。 ・・・ 地下に行く前、でしょう。 」

二人の声が一段と低くなった。 

子供たちは父母に挟まれつつ お弁当に夢中だ。

「 うん ・・・ あの時さ。 ぼく・・・こう〜 ガン!っとショックだった・・・ 」

「 ショック??  わたしの言ったことが? 」

「 うん。 ぼくは一応・・・あの事件全体をちゃん把握しているつもりだった。

 いずれ全員に係わることだから・・・ しっかり対応しなくちゃ、ってね。 」

「 そうね・・・ 確かに ・・・ 皆 巻き込まれたわね。 」

「 そうなんだ。 そう思っていたのに。 だけど、ぼくはちっとも <見て> なかった。 

 眼の前のことばかりに気をとられて・・・ 。

 きみがしっかり全体を見ていてくれて本当に助かった、と思った。 」

「 ・・・ 思い出したわ。 ジェロニモ Jr. が言ったわね。  みんな ・・・ 」

「 ああ。  みんな 幸せになったからだ、って。 」

「 自分のことばかり考えて ・・・ チーム・ワークがばらばらだったのよね ・・・ 」

「 そうだ。  今のぼく達は勿論状況は全然ちがうけど。

 自分の忙しさばっかりにかまけてて・・・ 家族全部のこと、見えてなかった。 」

父親として失格だよなァ・・・と ジョーは声を落とした。

「 ・・・ ううん ううん ・・・! 」

フランソワーズはそれ以上なにも言えなくて ただ首をぶんぶん振り・・・ ジョーの手を握った。

「 ・・・ わたし ・・・も! 」

 

     わたし ・・・! 全然 なんにも。 見えてなかったんだ・・・

     子供たちを淋しがらせて・・・ 一人で焦って。

     ・・・ そうよ。 だから 踊りも上手くゆかないんだわ。  

 

「 わたし、ね。 仕事でも・・・ちょっと悩んでて・・・。 やっぱりチーム・ワークがなかったのよね。

 ・・・ 決めたわ! 皆に協力してって 言うわ。 」

「 うん。 それがいいよ。 一人で抱えこんでいてもな・・・ 」

「 そうよね! ウチのチーム・ワークも・・・  子供たちにも もっとお手伝い、やらせちゃうわ。 」

「 ぼくも休日には ・・・ 掃除くらいシマス。 」

「 まあ・・・ それじゃ、皆でやりましょ。  ね? 」

フランソワーズは両腕を伸ばしてすぴかとすばるを抱き締めた。

「 わ?? わ〜〜 お母さ〜ん ・・・ へへへ・・・ あったか〜・・・ 」

「 お母さ〜〜ん ・・・ お母さ〜ん・・・僕、だいすき〜〜 」

「 お母さんも大好きよ。 」

「 ・・・ ぼくも淋しいんですけど? 奥さん・・・ 」

「 まあ ・・・ ヤキモチ妬きね♪  あ・・・ きゃあ・・・! 」

ジョーは 長い腕をまわして彼の一番大切なモノ達を きゅう〜〜〜っと抱きかかえた。

 

         ふふふ・・・ これはぼくのタカタモノ。

     そして この花は。  そう簡単には手の届かない 高嶺の花 なのさ。

     ぼくだけの ・・・ 花・・・・!

 

 

   ぴゅう〜〜〜・・・・ 早春の夜風がぽかぽか家族の側を通りすぎていった。

 

 

 

    *******    ちょこっとオマケ♪   ******

 

「 ・・・ はァ・・・ もう・・・ ジョーったら ・・・・ 」

「 ・・・ ふふふ ・・・ きみのせいだよ・・・ 」

「 え ・・・ ? 」

その夜。  リネンの海で二人はまだ昂ぶりの残る身体を寄せ合っている。

恋人たちの空間は もうとっくに春・・・ いや、灼熱の夏、になっていた。

「 きみが さ。  あんまり魅力的すぎるから ・・・ つい ・・・ 」

「 もう ・・・ イヤな・・・ ジョー・・・・ 」

「 あは・・・ 懐かしいな、そのフレーズ・・・ 」

ちゅ・・・っとジョーは恋人の白い谷間にキスをする。

ぴくん・・・ !  しなやかな肢体が 輝く胸が揺れ ・・・ 

「 ・・・ ぼく達のチーム・ワークは ・・・ なかなかだと ・・・思わないかい? 」

「 まあ・・・ もう・・・ ジョーってば。

 あ。 あのね タクヤも ・・・ 同じこと、言ってくれたの。 」

「 えええ???  アイツと?? 」

「 いやだ、そういうことじゃなくて。  あの、ね。 いつでも相談に乗るから・・・って。

 踊りのこととか 仕事のこと・・・よ。 」

「 ふうん ・・・ 」

ジョーは ぱたん・・・と寝返りを打ったが がば!っと身を起こした。

そして 彼の恋人に覆いかぶさると 耳元で宣言した。

「 遅くなる時には! ぼくが迎えにゆくから! 一緒に帰るんだ。 」

・・・ 彼のヤキモチ妬きは ・・・ どうやら不治の病 らしい・・・!

 

 

 

*************************       Fin.    ************************

 

Last updated : 04,06,2010.                            index

 

 

 

 

**********    ひと言   **********

はい〜〜〜 のほほん・島村さんち  でございます♪

いろいろ・・・暗いことばっかな世間ですので しばし ・・・のほほ〜ん・・・な

雰囲気に浸りたくて♪   幸せ家族に助けてもらいました。

タクヤく〜〜ん・・・・! 次にはもっと出番を作るからね!!!

うんうん・・・ 次はフランちゃんと 『 ロミ・ジュリ 』 でもどう?

・・・・ あ・・・! ジョー君が睨んでるよ〜〜〜 (^_^;)

 

ご感想の一言でも頂戴できましたら幸せでございます〜〜 <(_ _)>