『   プロロ−グ   』

 

 

 

 

 

「 ・・・・ こッ ・・・? 」

「 あの・・・ だから、ね。 ごめんなさい〜〜。

 わざとじゃないのよ、本当なの。 つい・・・ちょっと気を抜いたらね・・・その〜

 ・・・ね? ごめんなさいっ! ・・・ あの ・・・ ジョ−、 大丈夫 ? 」

「 ・・・ あ、ああ ・・・。 」

一瞬絶句して棒立ちになっていたジョ−はやっとのことで呻き声みたいな返事をした。

「 それでね、大丈夫なんですって。 あ、コレがね。 

 だから ・・・ そのぅ ・・・ そんなに気にしないで・・・ね? 」

フランソワ−ズはジョ−の回りをひらひら飛びまわり、彼の顔を覗き込み・・・

くい、と腕を取った。

「 さあ、もう戻りましょう。 ここは冷え込むわ。 ね? 」

「 ・・・ ああ。 わかった ・・・ よ。 」

「 ジョ−。 本当に ・・・ ごめんなさい。 」

「 ・・・ もう ・・・ いいって。 」

ジョ−はぎこちなく微笑むと フランソワ−ズの髪をくしゃり、と撫ぜた。

「 今度 特訓だぞ? 」

「 ええ、ええ。 そうね。 だから早く元気にならなくちゃ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズは精一杯伸び上がり、ジョ−の額に手を当てた。

「 わかったよ。 」

ジョ−は今度はゆっくりと彼女の身体に腕を回した。

 

  − この温かさに ぼくは救われたんだ ・・・

 

「 さあ ・・・ 戻ろう。 」

「 ええ! 」

 

寄り添って、支えあうみたいに。 二人はゆっくりと出口へと歩き始めた。

ジョ−は ・・・ 最後にちら、と振り返り心の底にそっと溜息を押し込めた。

 

  − きみは フランス人なんだよね・・・・

 

「 なあ、よかったら・・・明日ドライブに行かないか? 新車を慣らしたいし・・・ 」

「 まあ、うれしいわ。 でも・・・ドライブなんて大丈夫? 」

「 平気平気。 きみも練習できるよ。 」

「 練習? 」

「 ・・・ 縦列駐車 と 車庫入れ ・・・ ! 」

「 ジョ〜ォ! 」 

とん、とフランソワ−ズはジョ−の腕を叩いた。

さっと淡く染まった頬が ジョ−にはたまらなく愛らしく思えた。

「 ははは ・・・ ごめん。 季節もいいし、ぼくも <足慣らし> さ。

 山を越えて 湖の方まで行ってみよう。 」

「 ええ、いいわ。  ね、もしかしてドライブなんて初めて・・? その・・・二人っきり 」

「 ・・・・・ 」

ジョ−は何も応えずに彼女の肩をきゅっと抱き寄せた。

 

 

 

 

 

「 よし、わかった。 出来る限り ・・・ やってみようじゃないか。 」

「 ふふ・・・ 君は絶対そう言うと思ってたよ。 」

「 コイツ ・・・! 」

アルベルトがまさに鉄拳を ぶん、とピュンマの鼻先に振った。

「 全力を尽くす、ソレはアイツらのためでもある。 」

「 そうアル。 ワテらはいつだって皆一緒やで。 」

静かに口を開いたジェロニモの隣で大人は どん!と胸を叩いた。

コクピットの張詰めた空気が一気にゆるんだ。

「 窮鼠猫を咬む・・・やないけどナ。 今度はワテらの出番アルね! 」

「 それでは。 今回の指揮はアルベルト、おぬしに任せるぞ。 我輩は・・・ 」

先行して潜入してみるワ、とグレ−トがばちんとウィンクをひとつ。

「 いや。 」

アルベルトはすっと立ち上がり、レ−ダ−を見つめているフラソワ−ズに手を差し伸べた。

「 君に。 発議をしてくれたフランソワ−ズに ・・・ 任せる。 」

 

「 ・・・・ アルベルト。 」

 

「 そうだね。 人数が少ない分全員で全員をフォロ−しよう。 」

「 ありがとう・・・ みんな。 」

声にならない応えが コクピット中に満ちる。

 

ともかく今は。 やると決めたからには完遂を目指し全力を尽くさねばならない。

 

「 それでは・・・ ミッションの概要はさっき報告しました。

 対策、というより今回の各自の担当についてなんだけど ・・・ 」

 

たった二人、欠けただけなのに狭いはずのコクピットがやけにがらん・・・と感じられる。

いや。

みんな一緒だ。 場所は、身体は 離れていても俺達の魂は いつも一緒なんだ。

サイボ−グ戦士たちは みな心の内は同じだった。

 

 

 

 

 

地下帝国での壮絶な闘いの後、二人の仲間は半死半生の形骸となり果て宇宙 ( そら )から

降って来た。

辛くも生命だけは取り留めたが彼らは ・・・ まだ目覚めない。

 

焼け残ったギルモア邸の地下施設、そのメンテナンス・ル−ムの奥に設置された

医療用の特殊ブ−スの中で、二人の青年は懇々と眠り続けている。

そして、彼らを見守るがごとく・・・ 隣の小部屋では赤ん坊がこれまた眠り続ける。

仲間らの身体を、魂を、地上に留めるために フル稼働したちいさな頭脳は

ひたすら休養を貪っているのかもしれない。

 

どんな形でもいい。

とにかく ・・・ 彼らはココに。 仲間の許に還ってきたのだ。

そうだ。 それだけで充分だ。

フランソワ−ズはくっと唇を噛み締めた。

 

 − わたし達が出来る限りのコトを ・・・ !

 

 

「 フランソワ−ズ ・・・ ここはワシに任せてお前はもうお休み。 」

「 ・・・ 博士 」

じっと特殊ブ−スの脇に佇む少女に ギルモア博士はそっと声をかける。

「 はい・・・ でも、もうちょっとだけ・・・。

 随分、数値が安定してきましたね。 ジェットなんか ・・・ 多分もうじき ・・・ 」

「 ああ。 彼の方が格段に損傷が少なかったようじゃの。 

 この調子なら2−3日うちにブ−スから出せるじゃろ。 」

「 ・・・ そうですか ・・・・ 」

「 大丈夫。 ジョ−も ・・・ ほら、ちゃんと回復してきているではないか。 」

「 ・・・ ええ。 」

博士が示すモニタ−のデ−タに フランソワ−ズはちらりと視線を投げた。

「 だから、フランソワ−ズ。 安心して・・・ お休み。

 お前はこのところほとんど毎晩ココで仮眠しているではないか。 」

「 ・・・・・・・ 」

博士の大きな手がそっとフランソワ−ズの頬に触れた。

「 お前の方が ・・・ 参ってしまうよ。 

 もうワシも手一杯、この部屋も満員御礼じゃぞ? もっと自分を大切にしなさい。 」

「 ・・・ はい。 じゃあ ・・・ もうちょっとだけ。 」

「 うむ。 今夜はちゃんと自分のベッドで休むと約束しておくれ。 」

「 はい。 」

気遣わし気な博士の視線がとても嬉しかったけれど。

フランソワ−ズはジョ−の側に居たかった。

 

・・・だって。

 

半透明の医療ブ−ス越しに じっとそのヒトを見つめる。

夥しいコ−ドとチュ−ブに繋がれ血の気の失せた顔色は 

わずかに上下している胸部が眼に入らなければどうみても生者のものではない。

 

でも・・・。

 

フランソワ−ズは呟く。

 

そう・・・ このごろ。 ちょっとだけど感じられるのよ、あなたの 存在を。

わたしの 思い込みかもしれないけど。

ここで ・・・ こうしてね、一生懸命こころで呼びかけると 

ほんの一言・フタコト ・・・ あなたの意識が返ってくる ・・・ ような気がするの。

 

ええ、勿論わたしにしか聞こえないしただの思い込みって言われても仕方ないわ。

でも。 でも、ね。

たとえわたしの勝手な想像でもいい。

あなたの意識は こころは ちゃんとココに、わたしの元に還って来ている・・・

そう信じたいの。 

 

ね。 こうやって・・・ 気持ちを集中して。

あなたのこころに話かけるの。

そうすると ・・・ね。

初めは 随分時間がかかったわ。 

でも このごろは ほんの少しならちゃんとあなたは返事をしてくれる。

 

わたし。 

あなたが完全に戻ってくる日を待つわ。 大丈夫、わたしは 大丈夫よ。

今度のミッション・・・

ジョ−、あなたなら。 ・・・あなたも そうするでしょう? ね・・・ ジョ−。

わたし達。  行きます。 行ってきますね。

 

 

 

コクピットは静まり返っていた。

「 あの、ね。 信じてもらえないかもしれないけれど。 」

フランソワ−ズは青白く引き締まった頬をほんのすこしだけ染めた。

「 あの時 ・・・ ジョ−達が大気圏に突入するほんの少し前にね。

 聞こえたの。 

 

  − ちっぽけでも。 ぼく達は ヤツらに抵抗する細胞なのだ。

 

 あれは ジョ−のこころの叫びなんだと思うわ。 」

「 ・・・ 抵抗する細胞、か。 うん、彼らしいね。 」

ピュンマがほ・・・っと息を吐いた。

「 ふふん・・・ 上等じゃないか。 細胞は増殖してやがて勢力を増す。 」

「 ほっほ。 一寸のムシにも五分のタマシイってネ。

 形 ( なり ) はちっぽけでもバカにしてもらっては困るアルよ。 」

「 おうおう・・・ 大人よ。 我輩のお株をあまり奪わんでくれ?

 決めの台詞を述べるチャンスがなくなってしまったじゃないか。 」

口ぶりとはうらはらにグレ−トは悠然と立ち上がった。

「 ともかく。 悪い芽は早目に摘み取ること、だな? 003。 」

「 ええ、そうね。 」

「 さ、話の腰を折ってすまなかったな。 これからの行動の指示を頼む。 」

「 了解。 」

さ・・・っと全員は緊張した面持ちとなった。

 

本拠地となるはずの研究所も仮拵えだし、メンバ−も欠けている。

下手に動けば自分達へも危惧が及びかねない。

しかし

彼らは遭遇した事件に目を瞑ることはできなかった。

見つけてしまった癌腫は ・・・ 除去し壊滅させなければならない。

 

現在の自分らの力の及ぶ限りのことをしよう。

 

それは自然と湧き出た彼らひとりひとりの想いだった。

そして 博士と3人の仲間を研究所に残し、彼らは再び出撃した。

 

 

 

聞きなれたエンジン音が単調に響いている。

きゅうごしらえではあるが修理と改造を終えたドルフィン号は順調に航行していた。

収拾したデ−タを確認しているアルベルトにピュンマが声をかけた。

今回、ピュンマは情報の分析と共に航行の舵取りも任されている。

 

「 さっきのフランソワ−ズの話だけど。 君はどう思う。 」

「 ・・・ あ? ・・・ああ、ジョ−の言葉が、ってヤツか。 」

「 うん。 」

アルベルトは手を止めたがコンソ−ル盤を見つめたままだ。

「 ・・・アイツには聞こえたんだ。 それで ・・・ 充分だ。 」

「 そうだね。 ・・・ それで 充分だね。 」

「 ああ。 」

「 さっき彼女から作戦のデ−タが来ただろう? なんか・・・すごい。 」

「 お前もそう思うか? 」

「 うん。 正直、驚いた。 いや、彼女の実力を見縊っていたわけじゃない。

 そうじゃなくて ・・・ なんていうかな。 < らしくない >? 」

「 鋭いな。 ・・・歴戦のプロの目にはお見通しか? 」

「 いや・・・ 彼女の方がずっと経験は豊富さ。 ただね。 今回の作戦は綿密で入念だし・・・

 これだけの布陣ならほぼ成功間違いなし、って思う。 思うけど・・・ 」

ピュンマはかなり深刻な面持ちで考え込んでいる。

 

 

003からメンバ−達に提示された今回の作戦は見事、の一言だった。

デ−タの面では常に非常に念入りなチェックをするピュンマも舌をまいたし、

指揮官として経験豊富なアルベルトも異論を挟まなかった。

グレ−トは バチっとウィンクをひとつ。 後は彼なりに潜入の方法を検討しはじめ

ジェロニモはすぐにデ−タを補助脳にインプットし始めた。

 

「 アイヤ〜〜。 フランソワ−ズはん? コレは重大なポイントが抜けているアルね〜 」

「 はい ? 」

ピリピリした雰囲気の中、長閑な声にフランソワ−ズは思わず表情を固くして振り向いた。

ドジョウ髭をゆらし、丸まっちい福顔が笑っている。

「 なにかしら。 張大人、教えてくださいな。 」

「 あのな。 」

まん丸な顔の真ん中でもっと丸い鼻がひときわ大きく膨らんだ。

「 お ・ や ・ つ タイムや。 人間、どんな時も食べるコトを忘れてはあきまへんデ。 」

「 ・・・ あ ・・・!  そう、そうね! 大事なお茶タイムを忘れていました。 」

「 そうやろ。 ほな ・・・ ココに入れさえてもらいまっせ。 」

ちゃかちゃかとぷくぷくした指が器用にキ−ボ−ドを叩く。

「 ・・・ ほい。 これで満了アル。 今回の作戦は完璧アルね。 」

「 はい。 ありがとうございます、大人。 」

 

緊迫した雰囲気にいい具合にリラックス・ム−ドが混じり、戦士たちは

活気に満ちてそれぞれの任務に取り掛かったのだった。

 

 

自動操縦のもと、ドルフィン号は安定して航行している。

船体全体はシ−ルド加工してあるし、現在地は夜間の地域なのでひとまずは安心だ。

 

ピュンマはトン、とコンソ−ル盤を叩いた。

「 君の指示が入っているのかな・・・と一瞬思ったけど。 違うな。

 コレは君のテイストじゃない。 」

アルベルトはやっと顔を上げた。

「 ・・・ ふふん。  だから、さっき彼女が言ったろう? 」

「 さっき ・・・? なにを・・・ ・・・・ あ! 」

「 わかったろ? <ジョ−の言葉>さ。 

 今回の作戦は アイツの、いや、アイツと彼女の共同戦線だ。 」

「 ・・・ な・・・る・・・。 そういえば ・・・ ジョ−らしいね?

 この ・・・ 持って行き方は彼の思考だよ。 」

「 実際は彼女の考えかもしれん。 彼女は ・・・ 」

「 うん、わかったよ。 ジョ−ならどうするか、検討したんだ。

 彼女流に言えば <ジョ−の言葉>に 耳を澄ませたってコトだろ。 」

に・・・っとアルベルトは唇の片端を上げた。

「 経緯はどうあれ、出来る限りのコトをやる。 全員でな。 」

「 了解 ( ラジャ− ) 」

ばちん、とウィンクをひとつ。 

ピュンマはメイン・パイロットの席 − 今回の彼の指定席 − に戻った。

 

 − ・・・ さあ。 行こう!

 

ドルフィン号はぐん・・・と高度をあげ、それと共にスピ−ドを増した。

 

 

 

 

 

「 どうだ? 見えるか? グレ−トは何処だっ 」

「 ・・・ 待って。 ギリギリまで可視レンジを拡げてみるから・・・ 

 ごめんなさい、ピュンマ。 ドルフィン号の周囲は ・・・ お願い。 」

「 了解 ! 」

ピュンマはレ−ダ−画面をメインパネルに投影しじっと見入った。

「 ・・・・ 地上は ・・・ ダメ。 瓦礫の影ばかりよ ・・・ 動くものはないわ・・・ 」

「 徹底的に破壊できたアルね。 一時はどうなるやろ、おもたアルが。 」

「 グレ−トが地下に居たら。 ・・・ 大人、頼む。 途中までオレが活路をひらく。 」

「 了解、ジェロニモはん。 準備万端、いつでも着火できまっせ。 

 ほらな、ワテらはスタンバってますよって。 」

よろしく、と大小のコンビは格納庫へと出て行った。

 

ミッションそのものは首尾よく完遂し、問題の闇の施設は壊滅させることができた。

だが、一番深く潜行していたグレ−トが取り残されてしまった。

レ−ダ−でも 彼の居場所を発見できない。

脳波通信にも応答がないのだ。

 

「 ピュンマ ・・・ 周囲 ( まわり ) は大丈夫か。 残存する兵力はないな。

 こっちも ギリギリだ、今攻撃されたらちょいとキツイぞ? 」

「 ・・・ ウン。 今のところ大丈夫・・・

 このレ−ダ−で見る限り、基地は壊滅しているよ。 きみのミサイルが

 正に中枢にヒットしたからね。 」

「 構造を見抜いたのは ・・・ 彼女だ。 」

「 うん。 ・・・ すごいよ。 」

「 並大抵の集中力じゃねえな。 俺ならとっくにキレちまってる。 」

「 ・・・ <彼>が教えた、のかもしれない。 」

「 ・・・・・・ 」

アルベルトは答えなかったが、ピュンマには彼の気持ちがよくわかった。

 

 − 俺たちは 一緒だ。 いつでも全員一緒だ。

 

「 ・・・ いた! 」

身じろぎもせずに前方を凝視していたフランソワ−ズが 鋭く一声を上げた。

「 どこだ?? 地下か? 」

「 中心から東へ ・・・ 約500メ−トル。 地下第三層 ・・・ 防火扉に挟まれているわ! 

 身動きが取れないようね。 ・・・ バリアも残ってる。 」

「 よし。 詳しい位置をジェロニモ達に伝えてくれ。 ピュンマ、可能な限り接近しよう。 」

「 了解。 アルベルト、大丈夫とは思うけど迎撃準備頼む。 」

「 了解。 フランソワ−ズ? ヤツは ・・・ 無事か。 」

「 ・・・ 待って。 耳のレンジもmaxにしてみる。 ・・・・・・・ O.K.! 心音も呼吸も大丈夫。

 ああ ・・・ でも急いだ方がいいわ。 火傷が ・・・ ひどい。 」

「 そうか。 ココでも応急処置はできるが・・・ 博士に連絡しておこう。

 ヤツを救出したら全速力で帰還だ。 」

「 了解。 ・・・ 格納庫? ジェロニモ〜 発進していいよ。 グレ−トの位置はわかったね? 

 ・・・ああ、 よし。 頼むよ。 」

微かな衝撃を残してドルフィン号から偵察機が発進していった。

 

「 これでアイツらが帰還すれば ・・・ すべて完了、だな。 」

「 うん。  フランソワ−ズ ・・・ どうした? まだ ・・・ なにか? 」

フランソワ−ズは まだ姿勢を崩さずにじっと押し黙っている。

「 ・・・ ピュンマ! 後方を見て!! 何か ・・・ すごいスピ−ドで追ってきているわ! 」

「 え! ・・・ あ、今レ−ダ−の範囲に入った ・・・ わ、なんだこの速さ? 」

「 メインパネルに映せ。 こっちの迎撃は任せろ。 可能な限り応戦してやる。 」

「 了解。 」

「 ・・・チッ。 なんて速さだ! オマケに ・・・ ちょこまかと航路を替えやがって。 」

「 速いわ! 種類はわからないけれど多分直に射程距離に入る・・・ 」

「 おうよ。 ピュンマ! ドルフィンを反転して、後は任せるぞ。 ふん、そう簡単に的にはならん。 」

「 あ、大人達が現場に到着したわ。 ・・・ええ、そうよ・・・ その位置でお願い。 」

「 よし。 ・・・先制攻撃とゆくか。 」

アルベルトの指が攻撃用のパネルに掛かる。

 

 

「 あっ!! ダメっ! 004!! 待ってっ! ・・・アレは ジェットよっ!! 」

 

 

「 な、なに?? 」

< お〜い! 撃つなよっ! 俺様だ〜〜。 へっへっへ。 お迎えに参上したぜ >

< ・・・ ジェット〜〜〜 >

 

飛び込んできた脳波通信に可聴範囲にいた全員が 悲鳴みたいな歓喜の声をあげた。

 

< おい! もういいのか? >

< イイも悪いも。 とにかく飛んできたんだ、俺様も仲間にいれろよ。 >

< ジェット! そのままドルフィンを追い越して グレ−トの救出に協力してくれよ。

 場所は ・・・ >

< ・・・ O.K.! 了解、ピュンマ。 ほんじゃま、オッサン、ゆっくり待ってなよ〜〜>

< このぉ〜〜〜!  ・・・ 頼んだぞ! >

< 任せとけって! あ、お〜い、フラン? ジョ−のヤツも医療ブ−スを出たぞ。

 みんなで帰るころにゃ、起き上がれるだろうよ〜〜 >

< ・・・ ジェット ・・・ ありがとう ・・・・ >

 

「 は・・・はは。 力が抜けたよ。 」

ピュンマがパイロット・シ−トでバンザイをして計器類の上にどっと伏せた。

「 ・・・ああ 。 ったく、いつでも人騒がせなヤツだ。 」

「 でも、よかった。 これでグレ−トを無事回収できれば 全て大成功だよ。 」

「 ジョ−も順調のようだな。 ・・・ フランソワ−ズ? 」

「 え? ・・・ おい、フランソワ−ズ?? 」

 

駆け寄ったアルベルトの腕の中に 華奢な防護服姿がくたくたとシ−トから崩れ落ちた。

 

「 おいっ! ・・・ 気を失ってる。 」

「 もしかして。 限度オ−バ−なんじゃないかな。 聴覚も視覚も ・・・ きっと

 限界を吹っ飛ばしたんだ。 」

「 ・・・ 悪いことをしたな。 博士に早速連絡しよう。 」

「 頼むよ。 ・・・ ジョ−が目覚めたとき、彼女の笑顔がなかったら

 僕たち ・・・ それこそヒドイ目に遭うよ? 」

「 ははは ・・・ 違いねェ。 」

珍しく大笑いして、アルベルトはフランソワ−ズをそっと抱き上げた。

「 ご苦労さん。 さあ、ゆっくり休んで元気な顔でこの船を降りてくれ。 」

 

 

 

「 お〜い ・・・ 皆、フジ山が見えるよ〜 」

ピュンマの声に閑散としていたコクピットはたちまち満員御礼となった。

「 お〜〜〜 懐かしのフジヤマ・・・ 国敗れて 山河あり、とな。 」

「 グレ−トはん? ワテらは別に <敗れて> ないアルよ。

 火傷は癒えてもアタマの中味は ・・・ ダイジョブかね〜〜 」

「 へ、へん! ちょいと引用を間違えただけだ。 

 あ〜 ・・・ たたなずく やまとしうるわし というところだな。 」

ぐるぐる巻きの包帯の間から暢気なオヤジ声がひびく。

「 ・・・ ただいま! 皆で帰ってきたわ。 」

フランソワ−ズはゆっくりと舷側の窓に歩み寄った。

「 大丈夫か? 」

コンソ−ル盤の側からアルベルトが声をかけたが、彼女の足取りはしっかりとしている。

「 平気よ、もう。 ちょっと気が抜けてしまっただけ。

 充分休ませてもらったし・・・ 目も耳も普通に使う範囲なら大丈夫ですもの。 」

「 お〜司令官ドノ、ご立派〜〜 」

「 なによ! ジェット、あなたがいきなり飛んできて脅かすからよ? 本当にもう・・・無鉄砲なんだから。 」

「 ソレが俺サマの売りなのサ。 」

「 それで・・・ もうすっかりイイのかい、ジェット? 」

重傷だった彼を ピュンマはそれとなく気遣う。

「 はん。 ご覧の通りさ。 」

「 よせよせ。 コイツの心配など、するだけ損ってもんだ。 」

珍しいアルベルトの軽口に 全員が顔を綻ばせた。

「 俺たち。 心はいつも一緒だ。 」

寡黙な巨人の一言に 誰もが頷いた。

 

「 ねえ? <司令官>として最後にお願い。 」

「 え?? なに。 」

「 ドルフィン号の着陸をやらせて。 ・・・ ソレでわたしの司令官として仕事は おしまい。 」

「 ・・・うん、いいよ。 有終の美をお願いします、司令官どの。 」

「 了解。 」

ピュンマは笑ってメイン・パイロットの席をフランソワ−ズに譲った。

 

「 では ・・・ 着陸します。 」

 

・・・ 軽いショックを残し、ドルフィン号は母港とするギルモア研究所の地下に着水した。

 

 

 

 

「 ・・・ 信じない ・・・? 」

「 いや。 ぼくは。 ぼくもきみの声を聞いたから。

 きみの声を目当てに還ってきたんだ。 きみの声がぼくを、ぼくの魂を導いてくれた・・・ 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

白い腕が するり、とジョ−の首に絡みつく。

「 あなたは還ってきてくれた・・・ わたしの許に ・・・ わたしの腕の中に。

 ・・・ 神様 ・・・! こころから感謝します ・・・ 」

「 感謝するのは ・・・ きみに、かな。 」

ジョ−はお気に入りの亜麻色の髪をくりゃり、と愛撫しそこに顔を埋めた。

「 聞いたよ。 アルベルトやピュンマから。 立派にミッションを仕切ったって。

 きみの作戦も、指揮も見事だったって二人とも感心していたよ。 」

「 ・・・ ちがうの。 」

「 え・・・ ? 」

「 だから、ちがうの。 あれは ・・・ わたしの作戦でも指揮でもないわ。

 ・・・ あなた、のよ。 」

「 ぼくの? 」

そう、とフランソワ−ズはジョ−の腕の中でじっと彼を見上げた。

 

 ぼくは。 この瞳を、 この声を、 この温もりを 目当てに

 遠い道程を 戻って来た・・・

 彼女の全てが ぼくを ・・・ 引き戻してくれたんだ。

 

ジョ−は腕の中の白い肢体をぐっと抱き寄せた。

 

 還る・・・ ぼくは いま。 ココに。 彼女の中に還るんだ ・・・ !

 

「 ね? さっき ・・・ 言ったでしょう?

 ジョ−、どうする? あなたなら ・・・ どんな作戦を立てる? どんな指揮をする?

 わたし、心であなたに尋ねたわ。 そうしたら ・・・ あなたは応えてくれたのよ。 」

「 ぼくが、きみに ・・・ きみの声に導かれて戻ってきたのと同じだね。

 どこだ・・・どっちへ行けばいい? ・・・ そんなぼくをきみが引っ張ってくれた。 」

「 ジョ−。 もう離れないわ、離さない。 どんなことがあっても ・・・ わたしは ・・・ 」

「 ・・・ わかってる。 」

ジョ−は彼女の涙声を口付けで封じた。

 

 もう二度と。 離れない。 

 そう ・・・ 宇宙 ( そら ) でジェットが言ったけど。

 ぼくが 落ちたいトコロは 

 

 ・・・ ココさ。  きみの傍 きみの許  ・・・ きみの なか ・・・

 

彼の腕の中で白い陶器の肌がやわやわと染まり、燃え上がり始める。

 

「 ・・・ そうだ。 さっきも言ったけど。

 明日から特訓だぞ〜 ・・・ おい、司令官どの?? 」

「 ・・・  ? ジョ− ・・・・ 」

「 きみって。 うん、まさにフランス人なんだよね・・・ 」

「 ・・・ え ・・・ なんのこと ・・・ 」

「 いや ・・・ なんでもないよ。 あ ・ い ・ し ・ て ・ る って言っただけさ。 」

「 ・・・ あ ・・・ あぁ ・・・ ジョ ・・・ − ・・・ 」

彼女の細い指が きつくジョ−の腕に喰い込む。

「 ふふふ ・・・ もう・・・仕様のない子だね ・・・ 

 ぼくもドルフィン号も ・・・ 破損したらダメだってば。」

 

ジョ−の脳裏に舷側を格納庫の壁に摩り付け塗料がまだらになってしまった

ドルフィン号の姿が浮かんだ・・・

 

 − この司令官どのは ・・・ ホントウに・・・

 

「 ・・・ ジョ− ・・・? 」

甘い声が 朱鷺色に染まった肢体が ジョ−を招く。

「 ・・・・・ 」

 

 

ジョ−は口を閉じ フランソワ−ズの中に 落ちていった。

 

 

 

翌日、二人は予定どおりジョ−の新車でドライブに出かけた。

そして、それは。 

再び彼らが辿る長い戦の日々へのプロロ−グとなる。

 

 

 

*******   Fin.   *******

Last updated: 09,05,2006.                            index

 

 

*****   ひと言   *****

原作・ヨミ編と中東編の間での出来事・・・を捏造してみました♪

ジョ−の台詞、 < フランス人 〜云々 > は フランス人は縦列駐車が苦手で

前と後ろのクルマにぶつけて止める・・・というブラック小噺?から。( ・・・偏見ですよねえ? )

最後の <長い戦の日々へのプロロ−グ>は原作の小題より拝借しました。

フランちゃんだって〜〜〜 立派な戦士なのであります(#^.^#)

例によってミッション場面のデタラメぶりにつきましては どうぞ寛大にお目こぼしくださいませ〜〜<(_ _)>

ようするに ・・・ ウチの93はいつだって らぶらぶ♪ なのであります☆☆☆