『  Our Sweet Heart    ― 卒業舞踏会 ―  』

 

 

 

 

 

 

 

   ―  バタン ・・・ ッ !

 

「 ただいま〜〜〜 ・・・・ うん? 」

ジョーは玄関に踏み込んで ・・・あれ? と足を止めた。

 

「 ― そうなのよ〜〜 ええ ええ うふふふふ・・・・  」

 

涼やかな、そして くるくる弾んだ声が漏れ聞こえてくる。

ふうん?と首を伸ばしてみれば リビングへと続く廊下のドアが半開きになっていた。

どうも発信源はその奥らしい。

 

      あ〜 ・・・ フランが電話してるのか ・・・ 

      ふふふ・・・ 楽しそうだな。  

      オンナノコってさ、 ほっんとうに嬉しそうにお喋りするのな〜

 

靴を脱ぎつつもジョーも釣られて笑ってしまう。

彼女が楽しそうだと ジョーも嬉しい。  彼女の笑顔を見ているだけでも ジョーは嬉しいのだ。

岬の突端に建つ洋館 ― その一つ屋根の下に住む彼女に やっと想いが通じた!

早春の日、彼女は ジョーが捧げた萎びかけた苺の鉢を笑顔で受け取ってくれた・・・

ジョーはやっと・・・やっと 彼女の <恋人> に昇格した。

いや ・・・ そう信じているのはジョーだけかもしれないが・・・

 

ジョーは なぜかスリッパを脱ぎすり足でそう・・・っとリビングに入っていった。

ギルモア邸の広いリビング、そのソファの隅っこにフランソワーズはぽすん、とはまり込んでいた。

日溜りに丸まっている仔猫みたいに足を組んで携帯を耳に 亜麻色の髪が前に後ろにゆらゆら揺れる。

こぼれる笑みをリビング中に散らばせて 彼女は楽しげにお喋りをしている。

 

「 ・・・ フラン〜〜 ただいま・・・ 」

ジョーは口をうごかすだけ の挨拶をし、リビングを抜けていった。

 

      邪魔しちゃ 悪いもんな・・・

      別に ハナシの内容なんか 興味ないぞ・・・!

      うん ・・・ きっと女の子の友達とだよ。

      ほら〜〜 あんなにケラケラ笑ってるじゃないか

 

キッチンに入ると まずは冷蔵庫を開け ― コーラのボトルを出してイッキに呷った。

「 ふう 〜〜 ・・・・  なにか食い物〜〜 ・・・ あ ハムがある〜〜♪

 そうだ 溶けるち〜ず があったっけ・・・ ホット・サンドイッチつくるぞ〜 」

ふんふんふん・・・♪ ハナウタ交じりでジョーはオーブンに即席サンドイッチを放り込んだ。

「 ふ〜ん ・・・ っと  今晩のメニュウは ― あ、 そうだよな〜 フランの当番だよ。 」

ちらり、とキッチンを見渡せば シンクにごろごろジャガイモが転がっている。

「 ・・・ふうん 何に使うのかなあ? でも ちょっと多くないかなあ・・・ 博士とぼくたちで3人分なのに・・・ 

 お♪  できた できた〜〜♪  」

ジョーはキッチンのスツールに腰掛け出来立てのホット・サンドイッチにかぶりついた。

「 〜〜〜〜 んま〜〜〜〜い♪   ・・・ うん? 」

 

「 そうなの、そうなの。  卒業舞踏会 ですものね〜〜♪  

 ええ ええ。  初めてよ、勿論。  そうなの、物凄く楽しみ〜〜 」

 

リビングとキッチンは対面式になっているので 声や物音はだいたい聞こえてくる。

フランソワーズはまだソファで長電話に興じているらしい。

「 ふふ・・・楽しそうだなあ。  でも・・・ よかった・・・ フラン・・・ 」

 

   彼女には同性の友達が必要じゃよ ・・・

 

かねがね博士が憂慮していたことだ。

ジョー自身も 気になっているのだが ・・・ それではどうすれば良いか判らずにいた。

しかし 男どもの心配ごとを 彼女はいとも簡単に問題をクリアした。

「 もう一度 ・・・ 踊りたい。  踊ってみたいの・・・! 」

彼女は果敢に挑戦し ― とりあえず第一歩を踏み出したのだ。

去年からフランソワーズは 毎朝都心ちかくの稽古場にレッスンに通っている。

「 ・・・ 踊れないかも ・・・ でも。 諦めるのは もっとイヤ。 」

初めは緊張でガチガチになっていたが ― 今 フランソワーズは輝く笑顔で日々を送る・・・

電話でお喋りしあう友達も出来たようだ。

そんな彼女が ジョーは可愛くてたまらない。

博士も 大切な<一人娘>の笑顔が嬉しくて全面的に応援している。

 

「 ・・・へえ ・・・ 舞踏会??  ああ ・・・ダンス・パーティのことだな〜

 ふうん・・・ そんな習慣があるトコが日本にもあるんだ?  あ・・・フランの稽古場かあな・・・ 」

別に聞き耳をたてているわけではないが、彼女の高声はぴんぴん響いてくる。

ついつい・・・その声を拾ってしまう。

好きなコのことは何でも知りたい ― ジョーも当たり前の <恋する・オトコノコ> なのだ。

サンドイッチを食べ終え・・・ それじゃまあ ジャガイモでも洗っておくか・・・ と

シンクの前に立った。

「 これ・・・全部使うのかなあ・・・ 」

ゴシゴシ  ガシガシ ・・・タワシでジャガイモを洗いつつ ― ジョーの耳はリビングへ向きっぱなしだ。

「 う〜ん・・・ でもねえ わたしのパートナー・・・ ほら <ダンス> の・・・ 」

 

     え ・・・?!  ふ フランの相手 ??

 

ごろり・・・ とジャガイモがシンクに転がった。

     

      ・・・・・  ( ごく ・・・ッ! ) ・・・・

 

「 そ〜なの、なんかうまく行かないのね〜 ・・・  みちよは?  ああ それじゃいいわねえ・・・ 

 うん、でも参加できるだけ嬉しいから・・ うん、楽しむわね〜 もうワクワクしてるの♪ 」

ちょっと曇った声もすぐにまた、明るさを取り戻した。

 

 ― ごとん ごとん ごん ・・・!

 

ジョーはせっかく剥いたジャガイモを 全部シンクの中に落としてしまった。

 

「 ! ・・・・ぼ ぼくが・・・! パートナーになる! きみの相手はぼくだけだ! 

 ぼくが  きみを舞踏会にえすこ〜とする・・・! 」

 

剥きかけのじゃがいもと包丁を握り締め 島村ジョーは固く決心をした・・・!

・・・ この時。  <舞踏会> という、日本社会には、特にジョーの世代には

まったくと言っていいほど馴染みのない言葉は彼のアタマからは完全に消え去っていた。

 

       ―  ともかく!  彼女を他のヤツには ・・・ 触れさせない! 

 

 

 

「 ― よう。 」

「 あ・・・! アルベルト・・・・! ああ ごめんなさ〜い ・・・じゃあネ・・・ 」

 どうやら 女の子のお喋りは終ったらしい。

「 ごめんなさい〜〜 お迎えにも行かなくて・・・ 

「 いや。 俺が断ったんだから。 なに、東京は電車の方が便利だからな。 」

 

     えええ?? アルベルト??

     ・・・ ウソ だろ〜〜〜

 

ジョーは 包丁とジャガイモを放り出しキッチンから飛び出してきた。

「 ァ ・・・ アルベルト・・・! お帰り!  」

「 おう ジョー。 しばらく世話になるぜ。 」

「 え・・・うん、それはいいけど ・・・さ。  なにか・・・あったのかい? 

 あ ・・・もしかしてどこか不具合でも?? 水臭いじゃないか〜 言ってくれよ。

 え〜〜 それならすぐに迎にいったのに! 」

「 おいおい・・・勝手に俺をブチ壊すな。  部分メンテだ、職人さんからの要請だ。 」

「 そうなんだ、 よかった〜  あれ? それじゃあのジャガイモの山は・・・ 」

「 ええ お昼にね、連絡もらって。 もうびっくり、よ。

 迎えにこなくてもいいって言うし。 だからせめて晩御飯にはジャガイモ使おうって思って。 」

「 ふん、この国の 新ジャガ は中々美味いからな。

 おい、フラン。 料理の腕は少しは上がったか? 」

「 え う〜ん・・・ あ! そうだわ! 美味しい肉じゃが ならジョーがお得意よ?

 この前もね〜〜 ものすごく美味しかったの! 」

「 へえ・・・  ジョーが肉じゃが?? 」

アルベルトが呆れた顔でジョーを見れば、ご本人はにこにこオッケー・マークだ。

「 うん。 肉ジャガ〜〜 任せてくれよ。  マジで評判、よかったんだから。 

 今晩は ほっくほくの肉ジャガさ♪  あ〜 まず、コーヒー、淹れるよ。」

ジョーは張り切ってキッチンに消えた。

 

「 ・・・へえ?!   フラン、お前〜〜 よく仕込んだなあ・・・ 」

「 あらァ なんのこと?  ジョーは自発的に料理を始めたのよ? 」

「  ― 恋する彼女のため、 だろ? 」

「 うふ・・・ そう ね♪ 」

フランソワーズは ほう・・っと頬を桜色に染めて微笑んだ。

 

       ああ ・・・ !  いい笑顔だ。

       お前もやっと そんな笑顔で暮らせるようになったんだな・・・

 

ずっと ・・・ あの暗黒の日々を 共に抜けてきたアルベルトには 彼女の笑みが嬉しかった。

それは 男の気持ち ではなく  兄としての気持ち に近い。

 

「 ずっと踊っているのだろ? 」

「 ええ。 まだまだ・・・だけど。 一歩づつ・・・ってとこかしら。

 この前 ・・・ やっとヴァリエーションをひとつ、踊らせてもらえたわ。 オデットよ。 」

「 ほう、そりゃよかったな。 精進の甲斐あり、ってことか。 」

「 うん・・・でもまだ第一歩よ。 それでも大苦戦しちゃったし・・・ 」

「 何事もそうそう初めから上手くゆくはずないからな。 

「 ・・・ そうね、当然かも・・・ いい勉強でした。 」

「 おお 素直で宜しい。 

 ・・・ふふふ ・・・ ははは ・・・  二人は楽し気に笑いあう。

「 それで 今度はねえ  〜〜〜♪♪  〜〜〜♪   ・・・ これ、知ってる? 」

フランソワーズは数小節、メロディを口ずさんだ。

「 ・・・ ああ シュトラウス だな。  あの曲を使ったバレエ・・・ あったか?? 」

「 あの こっちで ・・・ 日本で知ったのよ。 新しい作品なのかもしれないわ。 」

「 ほう ・・・? 」

「 とっても面白い・・・というかコミカルなバレエなの。 ちょっとクラシカルなおハナシで・・・

 踊りのテクニックは勿論だけど演技力も必要かな。  」

「 ほう〜 面白そうだな。  それで 本番はいつなんだ。 

 俺がこっちにいる間なら喜んで拝見させて頂くよ。 」

「 ありがと♪   3月の〇日なの ・・・ 」

「 ・・・・・ 」

黒革の手袋がオッケーを出し フランソワーズはアルベルトに抱きついた。

 

 

「 フラン〜〜〜 カツオ出汁ってさあ・・・   う わ??? 」

ジョーが キッチンからひょい、と顔を覗かせ ― そのまま固まった。

「 ・・・あ ・・・ ご ごめ ・・・ ん ・・・ 」

慌てて引っ込み、しかし次の瞬間、反転してきた!

 

       そ そうだ よ!  < いやだ > を言うんだ!

       あ あの ママさんが言ってたじゃないか・・・!

 

       ・・・ あ  ・・・ あとはゆうき だけだァ〜〜〜

 

「 ア アルベルト!  か 彼女はぼくの! 」

「 ああ?  そうだってな〜 ジョー、お前やっと腹を括ったんだな。 」

「 そうなの。  ジョーってば素敵だったのよ♪ 」

フランソワーズはまだアルベルトの首ったまに抱きついたまま・・・ にこにこしている。

抱きつかれた方も 平然としているのだ。

「 え ・・・ ああ  まあ ね、 へへへ・・・ 」

 

        あ ・・・ あれれ・・・?

        この二人って ・・・ 仲がいいけど・・・

 

「 おい、ジョー。 なにかフランに用があったのじゃないのか。 」

「 え・・・?  あ!? そ、そうなんだ〜  フラン! カツオ出汁、ストックある?

 あれがないと、肉ジャガが・・・ 」

「 カツオ出汁?  ・・・え〜と あるはずよ。 小麦粉なんかのストックと一緒に。

 ああ 今探してみるわね。 」

アルベルトから離れると 彼女はぱたぱたキッチンに走っていった。

 

「 ・・・ あの さ。 アルベルト。 」

「 なんだ。 」

「 ― 頼みがあるんだけど。 」

「 頼み?  俺にか。 」

 

       ふん・・・? なにやら悲壮な覚悟を決めて・・・って顔だが?

       ・・・ ああ さっきフランが抱きついてきたのを気にしてんのか?

       ふふふ・・・ まだまだ坊やだぜ

 

こりゃ  決闘だ!  かな   ふん  やっとコイツも少しは大人になったか・・・

と内心にんま〜りしたのだが。

 

「 うん。  ―  ダンス 教えてくれる? 」

「 ―  は?? 」

「 だから その・・・ ダンスさ。  その〜踊るんだろ、舞踏会 って。 」

「 ぶ ・・・ ぶとうかい??    ああ  ダンス・パーティ か・・・ 

 へえ〜〜 お前、 そんなモンに行くのか。 」

「 ・・・ うん。 ぼく。   フランをえすこーとするんだ。 」

「 ・・・・・・・・・・ 」

「 それでさ、ダンスって。 フォーク・ダンス しか知らないんだ、ぼく。 」

「 ・・・ ふぉ フォーク・ダンス ・・・ 」

「 うん。 マイム・マイムとかさ。 あ・・・あと盆踊り、かな。  あは・・・アレはダンスじゃないかア 

 あ でもね、これ・・・フランには内緒にして! 」

「 ・・・・・・・・・ 」

マシンガンの右手と電磁ナイフの左手を持ち。 両膝にはミサイル、さらにはとんでもない爆弾まで

内蔵している ・ 死神の異名をとるオトコは   ―  完全にアタマを抱えてしまった。

  

 

  ― 翌日から 地獄の特訓 ( ジョー談 )が始まった。

 

フランソワーズがレッスンに出かけた直後に ジョーもレッスン・タイム開始 だ。

「 まずは。 ステップからだ。  俺の隣で ― マネしろ! 」

「 了解。 」

ジョーは アルベルトと並び彼の足裁きを見つめた。

「 いいか。 ソシアル・ダンスは男性のリードがモノを言うからな。

 よっく覚えろよ。  ワン ツー スリー  ワン ツ スリ ・・・ 」

「 ・・・ う うん ・・・ わん つう すり  ・・・ 」

当然、というか予想通り、なのだが。  アルベルトの教え方はスパルタだった。

最初に徹底的に男性ステップを ジョーに叩きこんだ。

 

「 ・・・ ちがう! もう一回。 」

「 ― 間違えたぞ。 もう一回。  初めからだ。 」

「 何回間違えれば気がすむ??  この〜〜 」

「 ・・・ジョー!!! お前ってヤツはァ〜〜〜 」

ついにはひんやりする右手 ( 注:手袋ナシ ) を押し付けられ・・・ 冷や汗に脂汗たらたら〜

・・・で やっとジョーは <ぎりぎり及第点> をもらった。

「 ふん ・・・ なんとか な。 」

「 ・・・ はァ 〜〜〜〜〜 」

ジョーは ぺったり・・・床に座りこんでしまった。

「 おいおい〜〜 まだ出だしだぞ? これから女性と組んで 」

「 ・・・え〜〜 」

 

   ― ばたん・・・!

 

リビングのドアが華麗に? 開いた。

「 お早う 諸君。 麗しくお目覚めかな。 」

「 !  グレート 〜〜〜 !! 」

艶やかなスキン・ヘッドが 気取った足取りで登場した。

 

      ああ〜〜〜・・・ これでちょこっとは休める〜〜

 

ジョーは地獄に仏・・・とばかりにふらふらと立ち上がった。

「 おう。 早いな。 」

「 ふっふっふ ・・・ それで? 我輩のお役目はなにかな。 」

「 ― え ・・・ 」

「 わかっているだろうが。  女役をたのむ。 」

「 ふふん・・・ そんなこったろうと思っていたよ。 それでお主は。 アルベルト。 」

「 俺は 音楽監督だ。   ・・・ それじゃ 

アルベルトはつかつかと居間の片隅にあるピアノに歩みよる。

「 ふふん。  それじゃ ・・・ とびっきりの美女になるか。 」

 

「 ・・・ う  わおぅ・・・・ ! 」

 

ジョーの目の前に 妖艶なボンバー・美女が嫣然と微笑み立っていた。

「 よ・・・ よろしくお願いします・・・ ( ごく!) 」

「 こちらこそ。 ミスタ・シマムラ。 」

驕慢な美女 そして 第一級の音楽 と共に  ―   ジョーの地獄が始まった・・・!

 

 

「 ・・・・って!!! おいおいおい〜〜〜 何回踏んづければ気が済むのかね! 」

「 おらおらおら〜〜 ジョー、 音! 音を聞け! てめェのカウントで踊るな! 」

「 ち が〜〜う!! 足が ちが〜〜う!! 」

「 どっち向いてんだ ジョー!」

「 おい。 背中に当ててる手が ・・・ お留守だぞ・・・! 

 

「「 お前〜なんだって三拍子が踏めないんだよッ !! 」」

 

     ひえ 〜〜〜〜〜 ・・・・・・・

 

自称・音楽監督 と 自称・世界の美女 にがんがん怒鳴られまくり。 どつかれ。

ジョーは はやボロ雑巾状態 となった。

 

「 う・・・ ううう ・・・ ちょ ちょっと・・・休憩・・・ 」

「 ったく〜〜だらしねえな。 フランをエスコート、するんだろう? 」

「 ほ〜うほうほう 我らがマドモアゼルのお相手には ・・ まだまだだッ!! 」

「 え〜〜ん・・・ グレートォ〜〜〜 」

「 ほらほら! 教えたはずだな、boy? 女性を誘う時には?? 」

グレートの美女? は気取った様子でソファに腰かける。

「 ―  ほら! 」

「 ( ううう ・・・・ )  お 踊っていただけますか? お お嬢さん ・・・ 」

「 あら素敵な方ね。 よろしくってよ? 」

美女はにっこり微笑むと す・・・っと立ち上がった。

「 よし! 行くぞ、 ジョー!! 」

「 うわ〜〜〜ん ・・・ 」

華麗なる三拍子が鳴り始め ・・・ ジョーは泣きっ面でぎくしゃくとワルツ・ステップを踏みだした。

 

     フラン 〜〜〜 ・・・助けて 〜〜〜

 

 

 

「 ・・・ジョー?  ジョーォ?? 

「 ・・・う〜〜ん ・・・ ・・・??!  あッ ?!? 」

ゆらゆら・・・とても気持ちよ〜〜く肩を揺すられ ジョーは はっ!と目を開けた。

「 フラン??!  あ あれ・・・ぼく・・・? 」

「 うふふふ・・・転寝していたのね? またゲームかなにかやって夜更かししたのじゃなくて? 」

目の前には 碧い瞳が優しく笑みを含んでいる。

「 ゲーム・・・って ち・・・違うよ!  ちょっとだけ休み・・・って思ったんだけど・・・ 」

「 休み? 」

「 うん・・・ アルベルトとグレートの特訓さ。 本当にもう・・・ 」

「 特訓??? なんの? 」

「 ・・・っと。 な・・・なんでもないよ。  ごめん・・・ちょっと本読んでたらうとうとしちゃってさ。  

 お帰り フランソワーズ・・・! 」

「 ただいま ジョー。  ・・・ふふふ・・・髪、ハネてる・・・ 」

「 え・・・あ ・・・・ 」

ジョーのセピアの髪を白い指が梳いてゆく。

「 ・・・ ( よし・・・! ) ・・・・ 」

ジョーは若干緊張した笑みを浮かべ するり、としなやかなその身体を抱き寄せた。

「 レッスン ・・・ お疲れさま。  今晩はぼくが食事当番だからね。 なにがいい? 」

「 うふふ・・・なんでもいいわ、 ジョーが作ってくれるものなら・・・ 」

白い腕はそのまま ジョーの首に絡まり・・・ しゅ・・・っと小さなキスがジョーの頬を掠めた。

「 ( うわ〜お♪ ) チキンのいいのがあったんだ。 それでいいかな。 」

「 ええ・・・・ 大好きよ。  嬉しいわ。 あら、アルベルトは? 」

「 さ〜て。 ああ 本屋に行ってくる・・・って。 そうだ、グレートも晩飯参加だよ。 」

「 まあ 嬉しい♪ 賑やかになるわね。 」

「 うん。  じゃ・・・下ごしらえ、してくるね。 」

ジョーは ( 一大決心をして )  ちゅ・・・っと彼女のオデコにキスをした。

「 うふ♪  ・・・ それじゃ わたしはお裁縫しなくちゃ。 」

「 お 裁縫?? 」

「 ええ ・・・ちょっとね、お衣裳を直さないと・・・ 」

フランソワーズはもう一回にっこりすると ぱたぱた自室に戻っていった。

 

        ふうん ・・・  <ぶとうかい> に着てゆくドレスかあ・・・

        どんなのかな。 フラン・・・キレイだろうなあ・・・

 

ジョーの瞳が かなりぽわ〜〜ん・・・としていたのは仕方ない・・・かもしれない。

 

 

 

その晩の食事は アルベルトにグレートが加わり賑やかで和やかな時間となった。

ワインもほどよく回り 博士もグラスを重ね楽しそうだった。

 

「 あ・・・ わたし、ちょっと縫い物、してもいいかしら。 」

全員がリビングに移り コーヒーやらお茶を楽しんでいる。

フランソワーズは カフェ・オ・レのカップをおき立ち上がった。

「 ああ よいよ。 ここに持っておいで。 

「 マドモアゼル? どうぞどうぞ・・・ 」

「 ありがとう、皆さん・・・ 」

 

「 ・・・ ところで特訓の成果は如何かな。 」

彼女の後ろ姿をみつめつつ 博士がジョーに訊ねた。

「 え・・・あ ・・・ あの〜〜 

「 博士。  009の徹底メンテンスを要求します! とくに音感の。 」

「 おう、我輩は 足 のスペック・アップをお願いしたいですな。 」

「 うん??  ・・・・ なんだ、ジョー。 お前・・・ぼろくそじゃないか。 」

「 え・・・ は 博士〜〜 どうしてわかるんですか〜 」

「 音感に足、じゃろ? そりゃ すぐに判るさ。 」

「 う〜〜〜 ・・・・ 」

 

       ―  ごべん ・・・!

 

テーブルに突っ伏したジョーに アルベルトとグレートのユルい鉄拳が飛んできた。

「「 そんなヤツに 彼女 は任せられねえ ( ん ) !! 」」

 

「 ・・・ それじゃ ここで作業させくださいね。 」

フランソワーズがふわふわした生地を抱えて戻ってきた。

「 あ! どうぞどうぞ・・・ ああ お茶とか退けるね。 汚したら大変だよ。 」

「 ええ ありがとう、ジョー。 」

ジョーはわさわさ茶器を片寄せ、 フランソワーズはクリーム色の生地を広げた。

「 ・・・わあ〜〜 キレイだねえ。 この色・・・美味しそうだね! 」

「 美味しそう ?? 」

「 ウン。 シュークリームの中身みたいだ♪ 」

「 しゅ シュークリーム??  ・・・ ああ カスタード・クリーム・・・ 」

「 うん そう。  なんかさ、 フランみたい、ふんわ〜り美味しそう♪ 」

「 そう?  うふふふ・・・わたしもこれは気に入っているの。 

 ね・・・ どう?  似会う? 」

ふんわりスカートの広がるドレスらしきものを フランソワーズは顔の前に翳してみせた。

「 うん・・・! すごく ・・・いい! 」

「 あら・・・ お衣裳が? 」

「 い・・・いや。  き きみ が!!! 」

ジョーは首の根っこまで真っ赤になりつつも きっぱりと言い切った。

「 まあ ・・・ うふふ・・・ありがと、ジョー♪ 」

「 あ? あははは・・・ これは思いっきり惚気られてしまったなあ・・ 」

「 ったく・・・ そんなコトは一人前に三拍子が踏めるようになってから言うんだな。 」

「 ??? 三拍子?? なんのこと? 」

「 あ いや。 こっちのことさ、マドモアゼル。  

 うん ・・・こんな場所でナンですが。  踊っていただけますか。 」

グレートはフランソワーズの前に立つとピシッ! と会釈を決めてみせた。

「 え・・・あらァ ・・・ でもわたし、あまり上手じゃないのですけど・・・ 」

「 かまわんよ、 俺が <音> で援護射撃だ。 」

アルベルトは ピアノの前に座りフタをあけた。

「 まあ・・・ きゃ♪ それじゃ ・・・ お願いします。 」

フランソワーズはクリーム色の生地を置くと立ち上がり 膝を少し折って優雅にお辞儀をした。

 

「「  ―  では 。 」」

 

「  ・・・・・・・・・  」

ちいさな ・ ちいさな 舞踏会 が リビングの隅で始まった。

「 ・・・うわぁ ・・・・・・・ 」

ジョーは 目の前に光景にひたすら・・・ただひたすら見とれている。

軽やかな音に乗って グレートの巧みなリードに身をまかせ  フランソワーズは踊る。

普段着のスカートにセーター・・・ だけど そこには春の妖精がいた。

 

       すご・・・・い ・・・ なんて  なんてキレイなんだ・・・!

       ぼ ・・・ぼく ・・・ こんな風にフランを踊らせてあげられる・・・かな・・・

       フラン・・・普段着なのにこんなにきれいだよ。

       あのクリーム色のふわふわしたドレス、着たら ― 超〜〜〜キレイだろうなあ

 

ジョーはひたすら・ひたすら見惚れている。

 

「 ジョー。  おい ジョー。 」

「 ・・・・・・ 」

「 っとに・・・ なんて面してやがる。 ≪ ジョー −−−!! ≫ 」

「 うわ!?  あ ああ ・・・ ≪ アルベルト?  ・・・びっくりした〜  なんだい? ≫ 」

「 ぼけっとみとれやがって。 いいか、よ〜〜〜く見ろ。 」

「 ・・・言われなくても見てるよ・・・ああ ・・・ キレイだ・・・ 」

「 ち・が〜〜〜う!! フランじゃない、いや フランだけじゃない。

 グレートのリードと二人のリズム感をと・・・・っくと見ろ。 そして 覚えろ! 」

「 ・・・り リズム感?? 」

「 そうだ。 お前のリードは、そりゃ順番は間違ってない。 なんとか覚えたらしいな。 」

「 うん。 ・・・だって・・・ アルベルト・・・怖いんだもの・・・ 」

「 ふん。 だけどな! 順番通に 右 ・ 左 ・ 右 〜〜って足を出しゃいいってもんじゃない。 」

「 え ・・・ 違うの。 

「 ああ。  いいから。 あの二人をよ〜〜〜く見ておけ。 いいな。 」

「 う ・・・ うん・・・ 」

  ― コトン ・・・・

ジョーはソファに背をつけて 直に床に座り込んだ。

 

        グレートは 特にフランを引っ張ったりして・・・ないんだ?

        ・・・ ほんのちょっと ・・・ 方向を示しているだけ・・・かな

 

やっと ジョーの<見る目> が変わってきた。

フランソワーズの顔ばかり見ず、 踊っている二人を、カップルとしての動きに目が行くようになる。

アルベルトの奏でるワルツに乗って、二人の足は ― 滑るように動く。

 

        そ・・・・っか ・・・・

        どっちか一人だけが 頑張ってもダメなんだ・・・

 

「 ・・・ふん? 少しはわかってきたかな。  」

  ・・・ ポン ・・・♪   ワルツはゆっくりと 止まった。

 

「 お相手頂きまして光栄です、マドモアゼル。 」

グレートは大仰にお辞儀をすると 彼のパートナーの手にす・・っと口付けをした。

「 まあ とんでもない! わたしこそ・・・最高に素敵に踊らせていただきましたわ。 

 ミスタ・ブリテン、 ヘル・アルベルト、 メルシ ボク  」

 

   早春の宵の夢 ・・・ が終った。

 

「 おい boy?  わかったかね。 」

「 ふふん ・・・ ま、気がついたことは気がついた・・・らしいぜ。 」

「 ??? なんのこと?   ・・・ ジョー?? どうしたの。 」

ジョーは まだ床で脚を抱えて座り込んでいた。

フランソワーズに覗き込まれ、 彼はあわてて立ち上がった。

「 ・・・え ・・・ あ う ううん。  あの。 素晴しかった・・! 本当だよ。 」

「 うふ・・・ こんな普段着で・・・ グレートのリードが素晴しから。

 踊れてるみたいに見えただけよ。 」

「 え  だってフラン、踊るヒトだろ? 」

「 ダンスが違うもの。 ソシアルはあんまり知らないの。  

 そうねえ・・・初めてのダンス・パーティの時に練習したくらいかな。 」

「 は 初めての ・・・? 」

「 そうよ。 リセの時 ・・・ ボーイ・フレンドに誘われてね。 」

「 ・・・ぼ ぼ〜い ふれんど ・・・ 」

「 ふふふ・・・ そうなのよ。 お互いに<初めて>同士だったから・・・ 

 もう〜〜ぎくしゃくしちゃって・・・ 酷かったわ。 」

「 そ・・・ そうなんだ・・・? 」

「 あのね、その彼・・・ バレエ学校の同級生だったのよ。 

 だからお互いに <踊るんだ!> って意識満々でね。

 二人とも自分勝手に動くから  ・・・ ふふふ  足、踏むし蹴飛ばすし・・・ 」

「 はははは  そうだな〜 青少年ってのはそんなものさ、マドモアゼル。 」

「 あら〜 グレートでも?  ・・・ あ もしかして < 卒業舞踏会 > とか・・・あった? 」

「 おお ありましたぞ。  懐かしいな、うん・・・ 」

グレートは ハンカチでみごとなスキン・ヘッドをつるり、と撫でている。

「 まああ・・・ それじゃ 士官候補生だったの?? 」

「 士官候補生??  なんのことかな。 我輩は王立演劇スクールの出身だぞ。 」

「 あ・・・ そ そうよね。 ごめんなさい。  ちょ・・・ちょっと勘違いしただけ・・・ 」

「 うん そうか?  我輩もな、パートナー嬢に がっちり足を踏まれたからなあ。 」

「 ふふん ・・・俺もさ。 」

「 ・・・ ええええ〜〜〜  ・・・・ 」

ジョーが頓狂な声を上げた。

「 boy? なにを驚いているんだ?  青少年はな、そうやって・・・ 失敗して

 蹴飛ばされ踏みつけられて・・・大人になるもんだ。

 お前さんも マドモアゼルにう〜んと蹴飛ばされるといい。 」

「 あら! 失礼ね〜 わたし、ジョーのことを蹴飛ばしたりしませんから。 」

「 ― どうだかな ・・・ くくくく ・・・ 

「 あ〜〜 アルベルト 〜〜  」

ジョーはアルベルトの妙な含み笑いを 慌てて打ち消した。

 

「 ?  ああ・・・ 楽しかった・・・!  あっといけない!わたし、お裁縫しなくちゃ! 」

フランソワーズはソファに戻るとクリーム色の生地をばさり、と取り上げた。

「 フラン・・・ そ、それを着て 舞踏会 なんだろ? 」

「 そうよ〜 ふふふ わたし、このお衣裳、着てみたかったから・・・物凄く嬉しいの。

 ね・・・ キレイでしょう? 」

「 ああ お前の髪に色にぴったりだな。 」

「 うんうん ・・・ 我輩も楽しみにしいるぞ。 」

「 まあ嬉しい♪ グレートも ? 」

「 勿論。 我らがマドモアゼルの晴れ姿をしっかと拝見せねばな。 」

「 きゃあ・・・ わたし、がんばっちゃう♪  あ ・・・ ジョー、ジョーは・・・どう? その・・・ 」

「 ・・・・・・・・ 」

「 ジョー?  ねえ ・・・ ジョーってば。 」

「 ・・・ う?  ・・・あ!! う、うん なに?? 」

「 なあに、どうしたの? そんなすみっこで・・・ 」

いつの間にかジョーはソファの後ろで じ・・・っと立ちん坊をしていたのだ。

「 あ ・・・ う、うん・・・ ちょっと考えごと・・・ 」

「 ?? それで あの。 ジョー・・・ 『 卒業舞踏会 』 に来てくれる? 」

「 うん!! 勿論!!  ・・・・ってごめん・・・・ 何日だっけ・・・? 」

「 なんだ なんだ boy、 安請け合いは感心せんぞ。 」

「 ち ・・・ ちがうよ!  そのう・・・なにがあってもその日は空けるさ! 」

「 まあ 嬉しいわ〜〜 三月〇日なの。 ・・・大丈夫? 」

フランソワーズはちょっぴり心配そうに聞いた。

「 オッケー♪  任せとけ。 」

ジョーは どん! と胸を叩き  ―  

 

       よ・・・ よし! その日までに絶対に三拍子をマスターするぞ! 

       ・・・ これは・・・BGを倒すよか ムズカシイかも・・・

 

ぶるん・・・と 茶色毛の仔犬は全身を震わせた。  

 

「 くっくっくっ ・・・・ 武者震い か・・・ 」

「 ははは ・・・ 少年よ、大志を抱け ってことさ。 」

年長者の二人は何食わぬ顔で ― その実、腹を抱えて笑っていた・・・!

 

 

 

 

「 ほらほらほら・・・!  そこの端の組!! 」

「「 ・・・ すみません ・・・ 」」

「 ・・・・?  その二人?  金髪の組! なにやってるの! 

「「 ・・・ すみませ〜〜ん ・・・ 」」

「 あ・・・っと?  フォーメーションが崩れてるぞ。  その組! 進む方向がちがう! 」

「「 すみません〜〜〜! 」」

 

「 ちょっと。  その組、そうそうあなた達よ。 こっち来て。 

 組んで踊るとこ、やってごらん。  ただのワルツでしょう? 」

「「 ・・・・・・・・・ 」」

「 ・・・ あのねえ。  次までにちゃんと合わせてきなさい。 

「「 申し訳ありません・・・ 」」

芸術監督とバレエ・ミストレスは  キレた。

  ― つまり。 フランソワーズとパートナー氏は リハーサルで完敗したのである。

 

「 ・・・ ごめん。 オレ・・・ 」

「 ううん ・・・ ユウさんが悪いのじゃないわ ・・・・ わたし ・・・ 」

「 わかんない・・・ どうしてオレたち 巧く合わないのか・・・ 」

「 ・・・ ごめんなさい・・・ きっとわたしが。 」

リハーサルの後、二人は溜息・吐息・・・で顔を見合わせるばかりだった。

難しいテクニックが必要は パ・ド・ドゥ じゃないのに。

フランソワーズとパートナー氏は なぜか音に外れ悪目立ちしてしまう。

 

「 ちょっと・・・よく考えてみようよ。 」

「 ・・・ そうね。  また ・・・明日。 」

「 うん ・・・また明日な。 」

 

二人はくら〜〜い顔でそれぞれ帰路についた。 

 

 

 

 

    コツ コツ   コツ    コツ     コツ  ・・・・

 

だんだん靴音は鈍くなってゆき どん・・・!と玄関のドアになにかがぶつかった。

  ― ガチャ ・・・・

セキュリティ ・ システムが ゆっくりとこの邸の女主人を迎え入れる。

「 ・・・ た だ い まぁ ・・・・・ 」

 ばたん ・・・ どん。

フランソワーズは重いバッグと脚をひきずって玄関にあがり、リビングへ向かった。

 

「 ・・・ あ〜ああ・・・ つっかれたぁ・・・  

 ああ でも、今日はわたしが夕食当番 なのよねェ・・・・あ〜ああ ・・・ 

 そのために 買出しもしてきたのよね! ・・・う〜ん 頑張れ、フランソワーズ!! 」

彼女は自分自身を声援し、キッチンに入る。

「 え〜と ・・・?   今日は和食にチャレンジ! なのよね〜  大根さんと〜ニンジン・・

 あら ・・・ すべすべお肌えね 大根さん? 」

フランソワーズは レジ袋からかなり立派な大根を取り出し その艶やかな手触りを楽しむ。

「 ふふふ・・・ ごわごわの葉っぱ〜〜 あら大根さん、踊って頂けますの?

 ありがとうございます〜〜♪ 」

  ふんふんふん〜〜〜♪♪

たちまち、彼女はご機嫌になり大根相手にダンス??を始めた。

「 るるる〜〜ん♪  まあ お上手ね?  わたし、舞踏会のパートナー と上手に踊れません。

 ねえ ムッシュウ・大根? パートナーになって教えてくださいな。 」

 

  彼女は踊る −−− 楽しげに・嬉しげに      大根相手で!

 

「 このシーン、好きなのね〜  ユウだって上手なヒトなのに・・・どうして上手く行かないのかしら。

 ユウの 士官候補生、 カッコいいのになあ・・・ わたし、足をひっぱってるわねえ・・・ 

 ふふふ・・・いつか・・・三つ編娘 が踊れたら ・・・ 」

 

「 ― ただいまぁ〜〜  ・・・?? うん? 歌が聞こえるけど・・・ 」

ジョーがのんびり帰ってきた。

「 う〜〜ん ・・・ 今日の晩飯はな〜にっかな・・・っと・・・ 」

 

       うん・・・?  あれ・・・ 楽しそうだなあ・・・

       ・・・ うわ〜〜 可っ愛いい〜〜〜

 

ひょい、とキッチンをのぞみ、ジョーも思わずにっこり・・・してしまった。

エプロン姿で 大根を抱えて踊るフランソワーズは本当に可愛らしかった。

「 ・・・えへ ・・・ぼ ぼく・・・! 踊れる ・・・ぞ! 

 毎晩 こっそり特訓、しているんだから! なにせアルベルトとグレートが教師なんだから。 

 だ ・・・大根よりは マシだよッ ! 」

 

    わん ・ つ〜 ・すり〜 ・・・ わん ・ つ ・ すり〜

 

ジョーはこっそりその場でワルツ・ステップを踏み。  ・・・よし!と頷くと。

 精一杯気取った足取りで キッチンのドアを開けた。

「 フランソワーズ ? あの おどって・・・・ 」

「 あら ジョー お帰りなさい!   あ、そうだわ、 これ チケット。 当日忘れないでね?

 三月〇日 よ?  」

エプロンのポケットから細長い紙片を取り出すと 彼女はぽん、とジョーに手渡した。

「 ・・・あ ?? 

「 これ。  約束したでしょう。  忘れないで持ってきてね。 」

「 ・・・あ ああ・・・ ( ふうん? 会場の入場券かなにか・・・かなあ・・・ )  」

ジョーはその紙片を そう・・・っとジャケットに内ポケットにしまった。

「 えっへん。  それで  ですね、ミス・・・じゃなくて マドモアゼル・アルヌール。 」

「 ・・・ ?? 」

えっへん ・・・えっへん・・・ ジョーはやたらと咳払いしているばかり。

「 あの・・・ジョー? 風邪? 」

「 え?  ! ち、 ちがうよ! あの !

 

     ぼくが ・・・ぱ パートナー に・・・なります。 」

 

「 ええ?? 」

「 そうです。  きみのその・・・舞踏会! ぼくがエスコートするから! 」

「 ・・・ ジョー・・・ なんのこと? 」

「 なんのこと・・・って。  きみ ・・・ 卒業舞踏会 なんだろ? 」

「 そうよ。 今度の公演。  ヤングバレエ・フェスティバル、というの。

 ほら さっきのチケット・・・ 見て?  」

 

     ―   は ・・・? 

 

ジョーはごそごそ・・・ポケットから細長い紙片を取り出し ―

「 『 卒業舞踏会 』 ・・?? ええ?? これって・・・ 作品のタイトルだったのか?? 」

「 ジョー・・・ なんだと思っていたの? 」

「 え・・・その・・・ き きみが その。  ダンス・パーティに行くのかって思って。

 エスコートするぞ!って。  アルベルトとグレートにダンス習ったんだ・・・ 」

「 まあ。  ジョーがダンスを? 」

「 ・・・ うん。  もう ・・・ ボロクソだったけど。 」

 

     やだ・・・ ジョーったら・・・ 

     なんて素敵なヒトなの・・・!  ジョーって ジョー・・・って・・・!

 

フランソワーズは ゆっくりと顔をあげジョーを見つめた。

「 ― 踊りましょ。  ううん ・・・ ジョー おど 」

「 あ! ストップ〜〜〜  ここからはぼくの オトコの出番さ。  え〜と・・・

 『 お嬢さん 踊って頂けますか? 』 

「 『 はい、 喜んで。 ムッシュウ。 』 」

 

音は ― なかったけど。  二人は踊る ・・・ 魅惑のワルツ。

多少 ― ぎくしゃくしていたけれど。  彼は彼女の首ったけ。 彼女は彼が大好きで。

 

   二人は踊る  ―  キッチンで 熱々の三拍子、ずっと一緒に踊ってゆく・・・・

 

 

 

そして 本番の日。

『 卒業舞踏会 』 は 拍手喝采の大成功♪

 

「 ・・・ フランソワーズ? なんだか・・・すごく巧くいったよね? 」

「 うふふふ・・・ ユウ、そうね♪ 」

「 なんか ・・・ よくわかんないけど・・・サンキュ!! 」

「 わたしも ありがとう〜〜♪ 」

<クリーム> と 士官候補生 は 特上の笑顔でカーテン・コールに応えていた。

 

   (  注 :  クリーム :  役の名前。 クリーム色のドレスの女子生徒役 )

 

つまり。  フランソワーズはジョーと踊って <ジャパニーズ> の音の取り方が判ったのだ。

多少 ・・・ 邪道だけど。  ともかく <合わせる> ことを覚えたのだった。 ( これはジョーには内緒! )

 

 

そして その日の楽屋口。

一張羅のスーツを着た茶髪青年が 佇んでいる。

 

「 ふふふ〜ん♪  今日 ぼくはきみに言う  申し込むからね。

 そうさ はっきり言うんだ。  結婚してください って! 」

 

       

   コツコツコツ ・・・

 

 

ほら もうすぐ。 ジョーの そして 皆の Sweet Heart がやって来る・・・♪

 

 

 

***********************     Fin.   ***********************

 

Last updated : 03,15,2011.                           index

 

  

 

      *******  解説〜〜〜

 

『 卒業舞踏会 』

J シュトラウス曲

ダビッド・リシーン原振り付け

 

日本バレエ協会・ヤング・バレエ・フェスティバル で毎年上演される定番作品。

老将軍と女学校校長の老け役と主役以外は全員が <ヤング>

コミカルな内容だが フェッテ競争 や ラ・シルフィード なども含まれテクニック必要!

出演者には年齢制限があり 本当に<ヤング>ばかりの舞台です。

 

 

 

*************  ひと言   ************

 Your Sweets   『  My Sweets 』  の 続編です〜〜

はい、ジョー君 やっとプロポーズまで漕ぎ着けました♪

 

はげし〜〜〜くオタク・ネタでごめんなさい〜〜

卒舞 』 は個人的にとても想い入れのある作品なので・・・

是非フランちゃんに  クリーム  を踊って欲しかったのです・・・