『 鬼は 』
わ〜〜〜〜〜 あははは〜〜〜 わ〜〜〜〜
元気、というか 少々意地悪な響きが混じる声が響く。
「 オニは〜〜〜そとっ!!! 外!!!
」
「 オニはそとっ! それ ぶっつけろ〜〜〜〜 」
「 ぶつける じゃね〜よ〜〜〜 豆まきさ オニは外っ 」
あ〜〜はっはっは ・・・
歓声と一緒にぱらぱらぱら 豆がとんできて一人の少年の背に当たる。
「 ・・・ ぼく オニじゃ ・・・ 」
「 オニじゃん〜〜〜 お前 オニ〜〜〜 ! 」
「 あははは〜〜 鬼だよ おに ! 」
少年たちは茶髪の少年を追いかけ豆をぶつけて大笑いしている。
「 や やめろ ! 」
「 オニは〜〜 外! なんだぜ〜〜 節分なんだ〜〜 」
「 そうさ オニを追い払うんだ〜〜 」
「 ぼくは オニじゃない 」
茶髪の少年は必死に抵抗するが・・・
「 へ〜〜〜 鬼ってのは 茶色の髪なんだぜ〜〜〜 」
「 オニは目が赤っぽいんだぜ〜〜〜 」
「 だ か ら お前は オニなんだ〜〜 オニは〜〜〜 外っ あははは 」
あははは〜〜〜〜〜 あはははは 〜〜〜
「 ・・・・ 」
背中にぱらぱら飛んでくる豆の中で 茶髪の少年はくっと唇を強く引き結ぶと
わざとゆっくりと歩いて行った。
― ぼくは オニなんかじゃない。 だから 逃げないんだ ・・・!
***********************
ばたばたばた ・・・・・ ぱたぱたぱた〜〜〜
元気な足音が響いてきた。
「 お〜〜っと 台風たちのご帰宅ね。 オヤツは・・・っと
あとは < きょうのほうこく > を聞いてから ね。 」
キッチンにいたフランソワーズは テーブルの上を見回し、エプロンで手をぬぐった。
「 晩ご飯の下ごしらえは オッケー・・・ 今日はゆっくりおしゃべりを
聞いてあげられるわ 」
町外れの崖っぷちに建つちょっと古びた洋館・ギルモア邸。
そこには 白髪白髭のご老人とその息子か娘夫婦と思われる若夫婦、そして
「 おか〜さん! おにはそと〜〜〜 やる! ウチでもやる〜〜〜 」
「 ウチも ぱら ぱら ぱら〜〜〜って ! 」
玄関が大きく開いて 賑やかな声が飛び込んできた。
【 島村さんち 】 の 双子 ― すぴか と すばる の姉弟が
幼稚園から帰ってきたのだ。
「 お帰りなさい、すぴか すばる。 あら? おじいちゃまは? 」
チビっこ達は だいたい朝 お父さんに送ってもらい お迎え はおじいちゃま なのだ。
おか〜さん は 朝のレッスンのために子供たちよりはやくウチを出るのだ。
「 ね〜〜〜 おか〜〜さん そと〜〜 やる! すぴか やる! 」
「 僕も 僕もぉ〜〜〜 ぱら 〜〜って えいって 」
子供たちは園鞄を肩からかけたまま 口々に喚きたてる。
「 え なあに? 」
「 あの ね! だから ね! おに〜〜〜〜 だめって! 」
「 しかくいのからね〜 おまめ! えいって。 」
熱心に言い立てるのだが ・・・ 母はさっぱり要領を得ない。
「 ね ・・・ おじいちゃまは? 」
「 ほい ただいま 」
博士がのんびり玄関のドアをあけた。
「 ほ〜〜〜 この季節、自転車はなかなかキビシイのう〜〜〜 」
「 お寒かったでしょう? ヒーターの温度 上げますね 」
「 いやいやいや〜〜〜 もう暑くてのう〜〜〜
チビさん達を前と後ろにのっけて ウチの前の坂は・・・・ 」
大きなハナを真っ赤にして 博士はごしごし・・・タオルで汗を拭いている。
「 え? あの坂・・・ 自転車で登ったですか?? 」
「 うん まあな。 チビさん達も応援してくれたし 」
「 博士〜〜〜 ご無理 なさらないで〜〜〜 」
「 だ 大丈夫じゃ! ワシの体力を嘗めるなよ? 」
「 はいはい・・・顔、洗ってらしてください、冷たいお茶でも淹れますから 」
「 うむ 頼むな。 さあ〜〜 チビさんたち? ワシと一緒に
手を洗って がらがら〜〜 しような? 」
「「 は〜〜〜〜い 」」
博士は上手に子供たちを ウガイ・手洗い に促したのだった。
ぱたぱたぱた ととととと ・・・!
「 おやつ〜〜〜 おやつ〜〜〜 」
「 おか〜〜さ〜〜〜ん おか〜さん♪ 」
たちまち賑やかな声が戻ってきた。
「 はいはい ちゃんと用意してありますよ。 ほら イスに座って 」
「 わ〜〜〜 おやつ おやつ〜〜 なに?? 」
「 今日はね ほかほか〜の蒸しパンよ 」
「 わあ〜〜〜い♪ アタシ おしょうゆつける〜〜〜 」
「 ちゃんと用意してありますよ。 すぴかにはニンジンさんの蒸しパンね 」
「 わあい〜〜 いっただっきま〜〜す 」
お煎餅系が好きなすぴかは 大喜びだ。
「 おか〜さん おか〜さん♪ おか〜さんのむしぱん〜 」
すばるがぴと・・・っと くっついてきた。
甘えん坊の彼は 母がいることがまず一番にうれしいらしい。
「 うふふ・・・ すばるにはね サツマイモさんの蒸しパン 」
「 わあ〜〜い ね ね みるく・てぃ〜 におさとういっぱい〜〜 」
「 はいはい 」
「 アタシ う〜ろんちゃ〜〜 」
「 ちゃんと用意してあるわよ。 あ 博士、お紅茶でいいですか? 」
「 おお ありがとうよ。 ワシも蒸しパンをもらおうかな 」
「 大人用もありますよ。 こっちのはキャラウェイの香で塩味を利かせてあります 」
「 いいなあ〜〜 チビさん達? 一緒に食べようなあ 」
「「 うん!! 」」
今日は珍しく母がいるので 子供たち、特にすばるはもう〜〜大ニコニコだ。
午後の光の中 紅茶のいい香やら 甘い香りがふ〜〜んわりリビングに満ちる。
子供たちだけではなく 博士もフランソワーズ本人も、ほっこりお茶タイムを
楽しんだ。
ああ ・・・ のんびりして いいわねえ ・・・
いつもはばたばたしているから ・・・
ふう ・・・ フランソワーズはこっそりため息を吐いた。
「 おいし〜〜〜 アタシ、にんじんぱん すき〜〜〜 」
「 僕も! お芋さんぱん すき〜〜〜〜 」
「 うむ うむ ・・・ フランソワーズの蒸しパンは美味しいなあ
」
「 ありがとうございます。 皆 いっぱい食べてね。 」
「 ん〜〜〜 あ ね〜 お父さんのむしぱん は? 」
「 夜食用にちゃんと用意してありますよ お父さんにはね すばると同じ
サツマイモぱんよ 」
「 ふう〜〜ん あ〜〜〜 おいしかったぁ〜〜 」
「 むぐ むぐ むぐ〜〜〜 おいもさん おいし〜〜
」
「 うふふ よかった・・・ あ ねえ?
すぴか すばる。 さっき言ってた ぱら ぱら〜 って なあに。
幼稚園で習ったの? 」
「 ん〜〜? あ あのね! そと〜〜〜 うち〜〜〜っていうの。 」
「 そうだよ〜 ぱら ぱら ぱらって え〜〜いって。 」
「 ??? なあに それ。 」
「 これから ね、ウチでもやる〜〜 」
「 僕もやる〜〜 ぱら ぱら ぱら〜〜 」
「 ??? これから? 今日は え〜と 2月3日でしょう?
なにかあるのかしら 」
「 ふむ・・・? なにか特別な日 じゃったかのう 」
博士は立ち上がると壁に貼ってある暦の前にたった。
「 え〜と・・・? あ おお〜〜 そういうことか 」
「 え なんですの? 」
「 チビさん達の そと〜〜 うち〜〜〜 っていうのがさ。 」
「 ?? 」
元・フランス乙女 は まったくわからない。
「 今日はな 節分 なんじゃ。 」
「 せつぶん ? 」
「 ああ。 その節分の日には、豆まきをするんじゃよ。 」
「 まめまき?? 豆の栽培を始めるのですか?
」
「 いやいや そうではなくて だな 」
「 おか〜さん あのね わるいおに おには〜そとって ! 」
「 おまめ〜〜 なげるんだ〜 ね〜〜 すぴか 」
「 ん! それが せつぶん だよ おか〜さん 」
子供たちが母のそばに飛んできて熱心に説明するのだが 混迷の度は深まるばかり・・・
「 え? え??? おに?? 」
「 そ! そんでね〜〜 ふくは〜うち! って 」
「 え?? また お豆をなげるの? 」
「 ち が〜〜うの。 < なげる > じゃなくて < まく > だよ 」
「 でね〜〜〜 おとしのかずにひとつたして たべるの。 」
「 ?? ひとつ?? おまめを今度は食べるの? 」
「「 ね〜〜 ウチでもやろうよ〜〜〜 」」
「 あはは ・・・ チビさんたちの説明じゃますますわからんかもしれんな。
日本の古くからの風習でな。 豆を撒いて 鬼・・・まあ 邪気あるものを
追い払うのさ。 その儀式をして春を迎えるのだと。 」
「 へえ ・・・? 春?? でもまだ二月ですよ? 」
「 節分は二月三日、翌四日が立春 ― 暦の上で春になる。 」
「 まあ〜〜 ・・・ なんか楽しいですねえ 皆で春を迎える準備をするのですね 」
「 らしい な。 古くから自然と共生してきた人々の暮らし方なのだろう。
なかなか 意味深いのう 」
「 そうですねえ。 ね! ウチでも せつぶん やりましょう!
お豆って グリーン・ピースですか? 」
「 あ〜〜 大豆 らしいぞ。 多分商店街とかで売っておるのではないかい。 」
「 そうですね! 買い物のついでに見てきますわ。 」
「 おか〜さん ! いっしょにゆく〜〜 」
「 僕も 僕もぉ〜〜〜 」
「 あら 二人とも ・・・ お買いもの袋 もってくれる? 」
「 ・・・ え ・・・え〜〜〜 」
「 僕 ちいさいからおおきなふくろ もてな〜〜い 」
「 あらそう? それなら せつぶん はお休みね 」
「 ! ・・・ もつ。 アタシ、おかいものふくろ もつ。 だから せつぶん〜〜」
「 僕も! ・・・ ちっさいふくろ ならもてる・・・ 」
「 まあ〜〜 ありがと♪ それじゃ お口を漱いでから一緒にお買いものね〜
ああ 寒いからマフラーと手袋、忘れずに 」
「「 はあ〜〜〜い 」」
わっせ わっせ わっせ〜〜〜
まだお日様の温かい光が残っている時間に 賑やかな一行が坂道を登ってきた。
「 すぴかさん? そんなに急がなくていいのよ? 転びますよ 」
「 へ〜〜き! アタシ つよいも〜〜〜ん えっほ えっほ 」
まず最初に 金髪のお下げをふりふり〜しているチビっこが坂道に現れた。
結構大きなレジ袋をしっかり抱え 足取りも確かだ。
「 ゆっくりでいいのよ〜〜〜 」
「 はやく〜〜 おか〜さん! そんでもって せつぶん のようい しよ〜〜 」
「 はいはい あら・・・ すばる?? 」
「 ・・・ おか〜さん ・・・ 僕 あるけない〜〜〜 」
「 あらあら・・・ すばる君 がんばって? ほら 脚 動かして?
みぎ ひだり みぎ ひだり〜〜 」
「 ・・・ 僕ぅ・・・ おか〜さん だっこ〜〜 」
「 まあ?? すばる君は赤ちゃんかしら? オカシイなあ〜〜 」
「 ・・・ あかちゃんでもいい〜〜 だっこ ・・・ 」
「 え〜〜〜 すばるったら おかし〜〜〜 あかちゃ〜〜んだあ〜〜〜
だっこ だってぇ〜〜〜おかし〜〜〜 」
すぴかが たたた・・っと戻ってきて わははは〜〜 と笑う。
「 ! ぼ 僕! あ 赤ちゃん じゃないもん! 」
「 へ〜〜 ひとりでのぼれるのぉ〜 」
「 の のぼれるもん! おか〜さん はやくいこ! 」
「 はいはい 」
すばるは顔を真っ赤にして ずんずん歩き始めた。
「 おか〜さ〜〜ん はやくはやくぅ〜〜〜 せつぶん せつぶん〜〜 」
「 おまめ〜〜 おまめさん〜〜 まくぅ〜〜 」
二人はとととと・・・っと家の前の坂道をほとんど駆け上り門の前で
母を待っている。
「 うふふ ・・・ はいはい わかりましたよ。
せつぶん の豆ってなんか香ばしくて美味しそう♪ それにヘルシーよねえ 」
「 「 おか〜〜さん〜〜〜 はやくぅ〜〜
」」
母はチビたちに引っ張られるみたいにして 帰宅した。
「 そうね 今晩はお父さんはちょっと無理だけど おじいちゃまと皆で
晩ご飯の後で < せつぶん > しましょうね。 」
「 わい〜〜 おには〜〜〜そと〜〜〜 」
「 ・・・ は〜〜うち! もだよ〜 」
「 いま いお〜とおもってたの! ・・・ あれ? おに だれ おか〜さん 」
「 おに? 」
「 そ。 ようちえんでね〜 たいそうのせんせいが おにさん になったよ 」
「 そ! あかおにさん になったんだよ〜 」
「 あら そうなの? おに がいなくちゃダメなのかしら 」
「 おと〜さん おに? 」
すばるが 妙〜〜な顔をしている。
「 ! おと〜さんは! おに じゃないからっ! 」
お父さん子 な すぴかが憤然として否定する。
「 ま〜 そうねぇ・・・ お父さんは おに じゃないわねえ・・・ 」
( くにんのせんきとぉ〜〜 ♪ そんな歌がフランソワーズの脳裏に
流れたが コドモたちの前ではしっかり封印した。 )
「 じゃ〜 どこになげるの? おまめさん 」
「 う〜ん ?? あ おじいちゃまにつくってもらおう! おにさん ! 」
「 あ そ〜だね〜 おじ〜ちゃまあ〜〜 あのね あのね〜〜 」
「 すばる〜〜 ずるい〜〜 アタシがかんがえたのにぃ〜〜
おじ〜ちゃまあ〜〜〜 あのね おねがいがあるのぉ〜〜 」
どたばた どたばた たかたかたか・・・
買い物袋を玄関に放りだし チビ達は先を争って博士の書斎へ駆けていった。
「 あらあら・・・ もう〜〜 結局わたしがもってゆくことになるのか・・・ 」
口ではぶつぶついいつつも フランソワーズは買い物袋を全部ひょいと持ち上げると
悠々とキッチンに運んでいった。
「 ふ〜んふんふん♪ あのお豆さんはなかなか美味しかったわねえ
おには〜そと だけに使うのは勿体ないわね? 」
八百屋さんの店頭で味見をさせてもらい 大豆の香ばしさに感激していた。
「 この国には面白い習慣があるのねえ ・・・ 春を迎えるためのセレモニーねぇ
オニですって・・・ ふふふ・・・ 博士はなんておっしゃるのかしら 」
キッチンで食材を仕舞いつつ 彼女は大豆の袋に印刷されている鬼を見て
くす・・・っと笑った。
「 ね〜ね〜 おかあさん。 おにさん はみえないんだって! 」
「 いるけど〜 でも みえないんだって。 」
その夜 食卓で子供たちはちょっと真面目な顔で母に報告をした。
「 まあ〜〜 そうなの? 」
「 うん! あのね みえないおにさんでね〜 わるいおに〜〜〜 あっちいけ〜
って おまめなげるんだって。 」
「 おには〜〜そと って おまめなげるんだって 」
「 ふうん? わるいおに ってなあに。 」
「 う〜〜〜ん ・・ とぉ・・・ あ! < ないたあかおに > の
あおおに かなあ 」
「 ! ちがうもん! あおおにさん はわるいおに じゃないよ!
あかおにさんのだめに わるいおに っぽくしただけだもん。 」
『 ないたあかおに 』 は すばるの愛読書なのだ。
「 う〜〜ん ・・・ じゃ みえないおに だから よくわかんない
きっとみえないのが わるいおに なんだよ 」
「 あ そっか。 だからおまめであっちいけ〜 なんだ。 」
「 うん! ね〜〜 おかあさん。 ごはん食べたら おには〜そと やろ? 」
「 僕 ・・・おと〜さん といっしょにやりたい 」
もうやる気満々のすぴかに すばるがちょいちょい・・とセーターを引っ張った。
「 あ ・・・ ねえ おかあさん、 おとうさん、 こんばんもおそいの? 」
「 え ああ そうねえ ・・・ いつもと同じ、って言ってたから・・・
やっぱり皆がおやすみなさいしてからでしょうねえ 」
「 え〜〜 つまんな〜〜い〜〜〜 」
「 僕 がんばっておきてる! 」
「 あら それはちょっと〜 明日も幼稚園あるのよ、あんまり遅くまで
起きてたら 朝 起きれないでしょう? 」
「 できる! 僕 ちゃんとおきるからあ〜〜〜 」
「 アタシも! おとうさん まってる! 」
「 ちょっとそれは ・・・ 」
「 僕 がんばる! 」
「 アタシ へいき! 」
子供たちはもう お父さんと一緒のまめまき に気分が集中している。
「 おやおや ・・・ 夜更かししていると 悪い鬼 が喜ぶぞ 」
あまりの盛り上がりぶりに 博士が笑いながら口を挟んでくれた。
「 え ・・・ おに が? 」
「 わるいおに ・・・ くるの? 」
「 来るかもしれんなあ〜 」
「 やだ! アタシ〜〜 やっつける! 」
「 ぼ 僕 ・・・ やだ やだな・・・ 」
「 すばる アタシがやっつけるから! 大丈夫だよ! 」
「 う うん ・・・ すぴか ・・・ 」
つよい姉 は 傲然と弟を庇うのだ。
「 おじいちゃま! アタシ やっける。 わるいおに きたらおしえて 」
「 さあ どうかなあ? それよりも 悪い鬼 が来ないように
皆で豆まきをして 早くベッドに入るほうがいいと思うぞ。
父さんも きっとそうしなさいって言うぞ。 」
「 え ・・・そ そう? 」
「 そうさ。 そして豆まきの様子を二人で父さんに伝えてあげよう 」
「 あ そっかあ〜〜 」
「 僕! え かく! 」
「 そうか そうか それじゃ < ごちそうさま > をして
明日の幼稚園の用意をしておいで。 それから 豆まきしよう。 」
「「 はあ〜い〜〜 」」
子供たちは 晩御飯の続きを口に押し込み、ちゃんとゴチソウサマをしてから
ぱたぱた・・・子供部屋に上がっていった。
「 ふう ・・・ やれやれ。 ありがとうございます 博士 」
フランソワーズは 食卓を片づけて香ばしいお茶を淹れた。
「 お いい香じゃな ・・・ いやいや コドモとは面白いのう〜 」
「 もう 賑やかすぎて・・・ でも豆まきって ・・・ 本当に豆を投げるのですか?
食べ物を投げる・・・ってちょっと抵抗が 」
「 まあ 神事に近いからなあ。 我が家では形式程度に豆を撒いて あとは美味しく
頂くとするか。 」
「 そうですね えっと・・・ この豆を・・・一緒に入ってた四角いイレモノの
入れるのかしら ・・・ 」
フランソワーズは買ってきた < 豆まき用 > の袋を開けた。
「 そうそう それはな 桝 といって。 昔は計量に使ったのだと。
今でも 桝酒 といって・・・ それに並々日本酒を注いで乾すのが 粋 なのだそうだ。 」
「 あら お詳しいんですのね。 」
「 ははは ・・・ 桝酒は グレートから聞いた。 」
「 あ ・・・ な〜るほど・・・ 」
どた どた どた〜〜〜〜
「 おか〜〜さん!! おじ〜ちゃまあ〜〜 まめまき する〜〜 」
すぴかが リビングに飛び込んできた。
「 あらら・・・明日の用意はできた? ハンカチ 新しいの、お鞄に入れた? 」
「 うん! そっくす もだした! 」
「 おお そうか それじゃ 豆まきするかい 」
「 わ〜〜〜い〜〜〜 すばる?? 」
「 ・・・ 僕 ・・・ 」
すばるは リビングの戸口でもじもじしている。
「 どうしたの? オシッコなら早く行ってらっしゃい。 」
「 ち が〜〜う オシッコじゃないよ ・・・ 」
「 それじゃ豆まきしましょ ? 」
「 やるよ〜〜 すばる! 」
「 ・・・ 鬼さん ・・・かわいそうだよ 」
すばる が ぽつん と言った。
「 え??? ど〜してぇ?? だって おに だよ?? 」
「 でも ・・・ おに は 外! なんて ・・・
さむいよ〜 おにさん ぱんつだけなんだよ? 」
「 あは〜〜 おに のぱんつは い〜ぱんつ♪ なんだからいいんだも〜ん 」
「 でもぉ〜〜〜 ・・・ ぶつけるって ・・・ 」
「 ふ〜〜ん じゃ ふくは〜 そと にする すばるはさ〜〜 」
「 ・・・ う ・・・ それはぁ・・・ 」
「 う〜〜〜 どうすうのさ〜〜〜 」
「 そうねえ それじゃ どっちも オウチ〜〜〜 にしましょうか。
ワルイ鬼 だけは あっちいけ〜〜〜 ってことにして 」
「 うん! アタシ、ワルイおに だけ しっ しっ〜〜って まめ まく! 」
「 僕 どっちもおうち〜〜〜 って するね〜 」
「 はいはい ・・・ それもお父さんに報告してね 」
「 「 うん ! 」 」
― やがて
ふく は〜〜〜 うち!! おにさんも おいで〜〜〜
わるいおに は あっちいけ〜〜〜 ふく は 〜〜〜 うち!!!
賑やかな声が ちょっと古びた洋館に響き ・・・ 豆がちょこっとだけ窓から
外に飛んでいった。
うふふふ・・・・ ウチらしくていいかも ・・・
ジョー 一緒に豆まき できたらよかったのにねえ・・・
「 わ〜〜〜い〜〜 これでわるいおに こないよね〜 」
「 えいっ! ね〜 これで ふくさん くるよね 」
「 そうじゃのう〜 ほっほ ・・・さすがに夜はまだまだ冷えるのう 」
博士は丹前の前を掻き合わせつつも ニコニコ・・・ 豆まきを観戦している。
「 あら お寒いですか? さあ そろそろ窓 閉めましょ?
次は お豆、食べるのよ。 歳の数 に ひとつ 足してね 」
「 え〜〜 いま たべてもいいのぉ?
」
「 僕! さっき は みがいちゃった ・・・ 」
「 今日は特別よ。 すぴか と すばる は幾つかしら? いえるかな〜〜
トシの数よりひとつ おおく食べるの。 あ 幼稚園で教わったかしら? 」
「「 うん わ〜〜い♪ 」」
「 ・・・フランソワーズ いいのかい? 」
博士がコソ・・っと耳打ちした。
「 ええ あのコたちの年齢+1 じゃ たかがしれてますもの 」
「 ははは そうじゃのう ・・・ オヤツにもならんか 」
「 ええ。 < えんぎもの > というのですよね 」
「 そうじゃ そうじゃ ・・・ チビさん達の無病息災を祈ろうなあ 」
「 はい。 そして博士のご健康長寿も 」
「 ・・・ ワシのことなど いいのだよ・・・ 祈願してもらう価値などない 」
「 そんなこと、おっしゃらないでください。
わたし達の親代わり チビたちのおじいちゃまとしてずっとお元気でいて
いただかなくては。 あ それから ジョーが仕事 頑張れますように! 」
「 そうじゃな。 父さんには頑張ってもらわんとな 」
「 ええ。 これからまだまだ・・・・ですもの。 チビ達だって
ジョーの夢だって 」
「 うむ うむ ・・・ そして フランソワーズ、お前の < 夢 > のためにも な 」
「 ふふふ ・・・ 家族全員の < 無病息災・健康長寿 > ですね 」
「 あはは まことに一般的な願いであるけれどな 」
「 おか〜〜さ〜〜ん おじ〜〜ちゃまあ〜〜〜 おまめ たべてい〜い? 」
「 僕 かぞえたよぉ〜〜〜 おか〜さんのも おじ〜ちゃまのも〜〜 」
可愛い声が響いてきた。
「 おやおや ・・・ いったい幾つ食わせられるのかいな 」
オトナ達はちょいと肩を竦め 苦笑した。
「 ただいまあ〜〜
」
「 お帰りなさい お仕事、遅くまでお疲れさま 」
案の定 その夜もジョーは日付が変わる少し前に帰宅した。
「 ふう ・・・ 夜になるとまだまだ寒いねえ ・・・ 」
「 そうね お風呂、先にする? 」
「 う〜ん 腹ペコだからとりあえず夜食 たのむ 」
「 はいはい。 あ 今晩はね〜 変わったオマケつきよ 」
「 オマケ?? 」
「 そ。 ほら ・・ 」
カラカラ コロコロ〜〜〜 フランソワーズは桝に入れた大豆をみせた。
「 ? まめ?? 」
「 そ。 今日 2月3日は何の日ですか? 」
「 え〜〜〜 ・・・・ 」
ジョーはきょろきょろ・・・壁に貼ってあるカレンダーを見つめている。
「 節分・・・? あ〜〜〜 そっか〜〜 もうそんな頃かあ・・・ 」
「 ぴんぽ〜〜ん♪ 正解で〜す。
ね ジョーも子供のころ、豆まき した? 」
「 うん? コドモのころ? 教会ではやらなかったなあ・・・
学校ではさ 鬼って髪が茶色なんだぜ〜〜っとか言われて
豆 ぶつけられたりした 」
「 まあ ひどいわ! 」
「 あは コドモなんてそんなもんなんだけどさ 」
「 でもね! 」
「 あんまり良い思い出じゃないけど ・・・ もう過ぎたことだし。
で ウチでも豆まきしたのかい。 」
「 そうなのよ〜〜 すぴかもすばるも お父さんが帰ってくるまで待つ〜〜って
言ったんだけど・・・ 先にやりましょって。 」
「 あ〜〜 一緒にやりたかったよ〜〜〜う ・・・ 来年こそ! 」
「 お父さんの分のお豆〜 ってチビたちが数えてとっておいてくれたのよ。」
「 わお〜〜 ・・・ これ・・・ 数 多くね? 」
コロコロコロ〜〜〜 桝の中の豆は30コを優に超えている。
「 ・・・ ぼく こんなトシに見えるのかな 」
「 いいんじゃない? まあ 適度な年齢ってことよ。 」
「 まあ ・・・な。 しかしかなりフクザツ〜〜 だなあ ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ ちゃんと食べてね? 家族皆の 無病息災・健康長寿 を
祈願してください お父さん。 」
「 はいはい ・・・ ( カリポリ ) 寝る前にチビ達の寝顔、眺めてくる 」
「 どうぞゆっくり見てやってね 」
「 あ〜〜〜 すぴかやすばるとゆっくり遊びたいなあ・・・
一緒に遊んでくれるなんて 今だけだろうし 」
「 ふふふ ・・・ どうぞごゆっくり 」
「 ん 〜〜 」
ジョーはいそいそと子供部屋へと階段を上っていった。
「 ああいいうのって ・・・ 日本語でなんとかって言うのですってねえ
なんだったっけ・・・? ぼんのう?? 」
( フランちゃん、それを言うなら 子煩悩 ですヨ )
あ? あわわ〜〜〜 ずって〜〜ん!!
突然、深夜の二階からとんでもない声と音が聞こえてきた。
「 !? な なに?? どうしたの??? 」
当家の主婦は階段を二段跳びで駆け上がった。
「 ・・・ いてぇ〜〜〜〜 ・・・ 」
二階の廊下では ― 彼女のご亭主が尻餅をつき呻っていた。
「 どうしたの??? 」
「 あ 〜〜 ・・・・ なんか・・・ ころころしたちっこいモノがいっぱい
落ちてて ・・・ 滑っちまったぁ 〜〜〜 いってぇ〜〜 」
「 ??? ― これ 大豆だわ。 豆まきのお豆よ。 」
「 え ・・・ よくみてなかったもんで さあ 〜 」
ジョーはオシリをさすりさすり立ち上がった。
! もう〜〜〜 このヒト、本当に 009 なのかしら??
「 おか〜さん なに〜〜〜 ・・・? 」
子供部屋のドアがそ〜っと開いた。
「 ああ ごめんね すぴか。 おっきしちゃった? なんでもないのよ 」
「 ・・・ おか〜さん でも ど〜〜〜ん って ・・・ 」
「 あは ・・・ ごめんな すぴか。 お父さん、ちょっと滑った・・・ 」
ジョーはパジャマ姿の愛娘を抱き上げた。
「 おと〜さん ! ねえ ねえ アタシたちね〜〜 まめまき したよ! 」
「 あ〜 その豆かあ 」
「 ?? なに おと〜さん? 」
「 い いや なんでもないよ。 そっか〜〜 豆まきしたんだ? 」
「 ウン! そんでね、すばるがね おにさん がカワイソウ〜〜 っていって・・・
ふくは〜 ウチ おにさんも おいで〜 って。
そんでもって < わるいおに > だけ あっちいけ〜〜 ! 」
「 そうか ・・・ オニさんも ・・・ おいで って? 」
「 ウン。 」
「 そっか ・・・ うん そっか ・・・ 」
― ジョーの中で またひとつ、遠い日に刺さったトゲが溶け去った。
「 おと〜さん どうしたの〜 」
― ぴと。 ちっちゃな手がジョーの頬にふれた。
「 どうも しない。 ああ すぴか ・・・ すばるはネンネかい。 」
「 うん。 ね おと〜さん おまめ たべた? 」
「 ああ 食べたよ 二人が選んでくれたおまめ 全部食べたよ 」
「 そっか〜〜〜 ふくは〜〜うち だね〜〜 」
「 そうだ そうだね ・・・ 」
ジョーは ちっちゃい身体をそっと抱きしめた。
悪いオニだけ あっちいけ〜〜〜〜
そして ね。 皆に いい春 が来ますように・・・!
*************************** Fin. **************************
Last updated : 02,07,2017.
index
*********** ひと言 ********
相変わらず な〜〜〜んも事件は起きません〜
節分 過ぎちゃったけど・・・・
春〜〜 はやく来い〜〜 ってことで (#^^#)