『 岬の家 にて 』
ザワザワ ・・・ ガサッ ・・・
「 ・・・・! 」
思わず びく・・・っと肩が震え脚が止まってしまった。
「 ? なに、どうしたの? 大丈夫、ただの風だよ。 」
すこし先を行く彼は ちら・・・っと振り返ると屈託なく笑った。
「 きみが恐がるなんて。 どうして? 」
「 え ・・・ ええ ・・・ 」
「 なにか気になる? フランソワーズ ・・・ 」
「 う ううん ・・・ でもこんなにすごい緑って ― ちょっと怖いかも。 夜だし・・・ 」
慌てて頭を振ると 彼女は改めてまわりを見た。
緑の空間 ― 周り中、樹木という緑のカーテンで囲まれた空間だ。
勿論、上は突き抜ける夜空が広がっているが、ここまで密な緑だと、屋外といえど
閉塞感の方が強い。 殊に夜の闇がその感覚を強めている。
頭ではわかっていても ・・・ 本能的に少しばかり 怖い。
彼女は両手で白い自分の腕を摩った。
「 なんか ね ・・・ こう ・・・ 閉じ込められるみたいな気がするのよ。 」
「 え〜? だってここ ・・・ ウチから大して離れていないよ?
もうちょっと上まで行けば雑木林も抜けるし、 ウチが見える場所もある。 」
彼は相変わらずあっけらかんとして そしていつもの通り穏やかに笑っている。
「 もっと凄いジャングルでのミッションもあったじゃないか。 」
「 え ええ ・・・そんなに遠くまで来ていないのはわかってるんだけど。
でも ・・・ 本当に凄い緑 ・・・ 」
彼女は溜息をつき、すぐ側の葉っぱを一枚だけぷちん、と毟り取った。
「 本当に ・・・ この国は不思議ねえ ・・・ 」
「 そうかな〜・・・? まあ いいや、 あとちょっとだよ。 」
「 そう? 」
「 あ ねえ 覚えていない? ここ通って春には花見に行ったよね? 」
「 え ・・・!? あ あのキレイなピンクの ・・・ サクラが咲いていたところなの? 」
「 うん、もうちょっと行くとね〜。 で この道を通ったじゃないか。 」
「 ・・・ そうだったかしら。 でも あの時はこんなにすごい緑・・・じゃなかったわ。 」
「 ああ そうかもなあ。 なんだかこの辺りはジャングルっぽいもんな。
え〜と・・・ さあ もうちょっとだよ? 」
はい ― 彼はいつもと同じに爽やかに笑って彼女に手を差し出した。
「 ! ・・・あ ありがとう ・・・! 」
ほんの一瞬、 躊躇ったけれど、彼女は素直にその手を握った。
「 よ〜し 出発〜〜 ほらラスト・スパート 〜〜〜 」
「 あ ・・ やん、ひっぱらないで〜〜 」
ガサザザザ ・・・・ ザザ ・・・
二人は 緑濃い低木やら育ちすぎた草をかきわけ かきわけ進んでいった。
頭上には 夏の夜空が広がっている。
この国に来て ― あの岬の突端の館に住むようになって。 彼女は驚きの日々だ。
ようやっと・・・ ようやっと 暗黒の世界と決別しこの地にやってきたのはまだ寒い頃だった。
カレンダーでは 冬 の領域だ。
しかし その地は彼女にはとても冬とは思えない、穏やかな空模様だった。
「 ステキ! 冬なのに凄い青空ね! 」
「 ・・・ 冬ってだいたいこんな天気だよ。 そんなに ステキ ?
うぷ・・・! この辺りも風がすごいなあ・・・ 」
茶髪の少年が乱された髪をおさえつつ、ぼそりと答えた。
「 だって 冬なのよ? なのに ・・・青空が見えるなんて♪
冬なのに こんなにお日様の光が ああ ・・・ いい気持ち♪ 」
彼女は空に向かって両腕をさしのべ さんさんと落ちてくる光を受け 笑った。
「 確かに明るいけどね〜 冬だもん、日陰とかは寒いよ。
ここは海ッ端だからさ〜 海風も強いし・・・ さあ 早く中に入ろうよ。 」
「 う〜ん ・・・ もうちょっとお日様を遊びたいわ。 もったいないもん。 」
「 明日も明後日も多分こんな天気だよ? 」
「 え。 そうなの??? ふうん ・・・ 日本の冬って明るいのね。 」
「 あ〜 まあ この地域はね。 北の方はざんざん雪が降るし寒いし
ず〜〜〜っと灰色の空が続くところもあるって。 」
「 まあ そうなの? 」
「 ・・・ぼくは行ったことはないけど・・・ え きみの故郷の冬って ・・・ 」
「 もうね ず〜〜っと。 ず〜〜っと暗いの。 だいたい朝はまだ真っ暗よ、それでもって
午後になればもう灯をつけるわ。 雪も降って道路の端っこにこびり付いて・・・
がちがちになっているのよ。 だからじくじく・・・冷えるのね。」
「 へえ ・・・ 雪国っぽいね。 」
「 雪国・・・って そんなに沢山降るわけじゃなけど・・・ とにかく暗くてさむいの。
わたし、冬って大キライだったわ。 」
「 ふうん ・・・ ここいら辺の冬は明るいけどね。 風が強くてやっぱり寒いんだ。
ねえ もうウチに入ろうよ? 」
「 あ ら ・・・ そろそろお茶の時間ですものね ・・・ 」
時計をチラっとみて彼女はようやっと門から中に入った。
やれやれ ・・・ 変わったオンナノコだなあ・・・
ジョーはこっそり溜息をついた。
彼にとって 一つ屋根の下に住むことになった彼女は 美人だけどおっかない存在だった。
必死の逃避行やBGの本拠地へ反撃作戦中には 無我夢中で ・・・ 頼りになる<先輩>
という気分だけだった。
闘いの場で 彼女が的確に送ってくれるデータは物凄く役立った。
特に < 戦闘 > ということに不慣れなジョーには 大変ありがたい存在だったのだ。
― で。 闘い済んで 日が暮れて・・・じゃなくて、 普通の日々 になったとき。
彼は この優秀で気が強い・美人な彼女 をやっとゆっくりと見つめることができたのだ。
何気ない、ごく普通の日々でも彼女はてきぱきと家事をこなす優等生だった。
すげ〜 ・・・ 万能サイボーグ、いや すーぱーぎゃる かあ・・・
ごく普通な現代のワカモノであるジョーは ( その点は改造されても変わっていない )
感心し、感服し ― 同時に少々引け目を感じていた。
なんでも出来ちゃうんだなあ・・・ ぼくなんかとはモトが違うのかも・・・
クラス代表とか生徒会長っぽい。 ぼくは ずっと一般生徒だったもんな
仲間として ― そして<家族>として同じ家で生活しつつも なんとなく距離感を持っていた。
そんな訳で カッコつきの家族 は 月日が過ぎても寄せ集めの臨時チームのままだった。
温暖な気候の地、 北風はじきに旅立ち白い雲がぽこぽこ浮かぶ日々がやってきた。
光の春、というが 日増しに朝の陽射しは華やかさを増してゆく。
「 ねえねえ 裏庭の隅にね、白くて小さな花が咲いてる樹があるの。
とっても いい匂いなのよ。 あれが ・・・ サクラ ? 」
フランソワーズが 乾きあがった洗濯物を抱えて戻ってきた。
サンダルを脱ぐのももどかしく、ジョーに話かける。
碧い瞳はきらきら ・・・ 春のお日様顔負けに輝いている。
「 あ ごめん! ぼくが取り込みにゆく当番だったのに 〜〜 」
ジョーは 慌てて彼女の < 荷物 > を受けとろうとテラスに出てゆく。
「 あら・・・ いいわよ、別に。 お庭はとっても気持ちいいし ・・・ サクラ もみつけたし。
ねえ あれがサクラなのね? お庭にあるなんて 素敵♪ 」
「 え・・・ まだ桜の季節じゃないよ? もうちょっとあと・・・ 」
「 そうなの? でも ・・・ それじゃ あの白い花はなあに? 」
「 白い花 の咲く木? そんなの、あったかなあ・・・ 」
ジョーは首を捻りつつ、洗濯物を持ってリビングの中に戻ってきた。
「 ― 梅 じゃないのかの。 」
ソファから博士が声をかけた。
定石本を広げ碁盤に向き合い、熱中している風なのだが 耳はしっかり二人の会話を捉えている。
「 うめ ・・・ ですか? サクラ とは違うのですか 」
フランソワーズが不思議そうな顔をしている。
この国で 春に咲く花、といえば サクラ 、と思い込んでいたのだろう。
「 あ〜 梅かあ〜 ・・・ そっか 梅の方が桜よか早いし。 匂いなんてするんだ? 」
「 おや ジョー。 地元国民が知らんのかな?
この国では桜は目で楽しみ、梅は香りも愛でる、と聞いておるがな?
古来は、梅は桜よりも親しまれていたそうじゃよ。 」
「 は ・・・ そ そうなんですか? ぼく 梅って・・・ 花とかあんまし気にしたことなくて・・・
実は ウメボシとか梅酒にするから知ってたけど・・・ 」
ジョーが面目なさそうな顔をしている。
「 香りを愛でる ・・・ って素敵ね! ねえ ジョー、一緒に見にゆくかない? 」
「 え・・・ きみは今 見てきたんだろ? 」
「 そうだけど ・・・ もう一回よく見たいの。 香りもまた楽しみたいし。 」
「 ・・・ いいけど。 でもこの洗濯物・・・ 畳んでしまうよ。 」
「 あとで一緒にやりましょ。 うめ ・・・ 白くて可愛い花なのよ。 いい匂いだし 」
「 ・・・ わかったよ。 でも裏庭に梅の木なんかあったなかなあ〜 」
「 ほら はやく はやく〜〜 」
「 あ うん ・・・ 」
ジョーは手を引っ張られ 多少どぎまぎしつつ駆け出した。
・・・ ウソだろ〜〜 しっかり手、握られてるんですけど〜〜
え〜〜 そんなに熱心に ・・〜〜
わあ〜〜〜・・・っと出来れば叫びたい気分で 彼は彼女と一緒に走った。
ギルモア邸の裏庭は まだ庭とはよべる状態ではなかった。
一応、岩などは取り除き整地はしてあるが それっきり。 雑草が我が物顔にはびこっている。
裏口からでて少し先に洗濯物干し場を作ってあるだけだった。
その干し場を通りすぎ 裏庭の奥まできて彼女は止まった。
「 ・・・ ほら ここ! 」
「 ・・・は は え どこ?? 」
「 ここよ。 ほら ・・・ この細い木 ・・・ 」
「 え? ふう〜〜〜 あ これ かあ〜 」
彼女の指す先に ひょろりとした若木がたっていて
それでも枝々には白い花をいっぱいに咲かせている。
「 お、 ほんとだ いい匂いだね〜 」
「 でしょ? 洗濯物、取り込んでて ・・・・ あら、と思ったの。
あま〜くてふっくらした香りが流れてきたのよ。 ふ 〜〜・・・ いい香り♪ 」
「 やあ ・・・ ホントだぁ〜 ・・・ なんか いいね、この香り ・・・ ぼく 初めてかも 」
草木や花のことなどほとんど関心をもったことがなかったので ジョーにとっても
早春の梅の香は 新鮮な驚きだった。
「 へえ ・・・ あ そうだ〜 赤い花のもあるはずだよ。
確か ・・・ ぼくが通っていた中学の校庭の隅っこに生えてた ・・・ 気がする。 」
「 まあ 赤い花もあるの? 可愛いでしょうねえ・・・
ね! 探してきてここに植えない? 白と赤、並んでいたらすごく素敵♪ 」
フランソワーズはきらきら 瞳を輝かせる。
「 う〜ん ・・・・? でも 多分 ・・・園芸店とかで高いと思うな〜 」
「 あら ・・・ そうなの? それじゃ ・・・ あ! ウチの裏山に生えてないかしら。 」
「 どうかなあ。 」
「 ねえ 今度 一緒に探してみない? 」
「 でも ・・・ もし見つかってもその木は裏山の所有者のヒトのものだよ?
ウチの敷地は 多分 この裏庭までだと思う。 」
「 ・・・ あ そうよねえ ・・・ う〜ん 残念〜〜
じゃあ ウチのこの <白い花さん> をうんと楽しむことにしましょう。 」
「 そうだね。 ・・・ ほんと、いい匂いだねえ。 」
ジョーも香りを楽しみ まるっこい花びらの小さな花をしげしげと眺めたりした。
あ ・・・? なんだ・・・?
不意に 視線を感じた。
思わず なに? と聞きそうになり ― でも 彼は反対に口を噤み気づかないフリをした。
だって ・・・ なんだかあまりに 切ない 哀しい視線だったので。
さすがのジョーも チリリ・・・と こころが痛んだ。
・・・フランソワーズ ・・・? どうしたんだ?
なにかマズイことでも言ったか? と考えてみるが ― 特に思い当たらない。
というより 庭に出てから彼女がず〜〜っとお喋りをしていて、ジョーは相槌をうつのに
精一杯だった。 彼自身の発言は皆無 といってもいい。
なんだろ ・・・? なにか気に掛かることでもあったのかな・・・
ぼく ・・・ なんにも ・・・ してないよね ・・・
なにがなんだかよくわからないけれど、こんな時には 黙っているに限る。
それは 集団の中で育ったジョーが身に付けた < うまくやってゆく知恵 > だ。
しばらく沈黙が続いていたが やがて彼女がぽつり、と言った。
「 ・・・ キレイ ね。 」
「 あ? あ うん 」
「 ・・・ キレイね。 香りもすてき ・・・ 派手じゃないけど忘れられない香りだわ。 」
「 あ ・・・ そうかもしれないね。 ぼく、梅の匂いって気がついたの初めてなんだ。
教えてくれてありがとう。 」
「 まあ ・・・ わたしこそ こんな場所まで付き合ってくれてありがとう。
< お花見 > しちゃった。 あ お花見 って サクラだけに使う言葉? 」
「 いや あ そんなこと、ないと思うけど・・・ 梅の花ってさ、ああ春がくるなってカンジだよね。 」
「 そうね。 日本の春はステキ ね ・・・ 」
「 あは そうだな〜 あ でもさ フランスの春だってステキだろ? 」
「 ・・・ パリの春は ・・・ もっと遅いのよ。 冬はもっともっと長いし暗くて寒いの。
この時期に こんなに明るくて暖かいのは 初めてよ。 」
「 ふうん ・・・ ね、 いつか ぼくのこと、案内してくれる? 」
「 え ・・・ なにを? 」
「 きみの 故郷の春 を! 」
「 ・・・ え ええ ・・・ そう ね いつか ・・・ 」
彼女は ほうっと小さな吐息をはき ちょっとだけ笑った。
そんな笑顔が 可愛くて。 ジョーも自然ににこにこしてしまった。
ヤバ〜〜 可愛いなあ〜〜 ♪
いつもの優等生 と同一人物とは思えないや
「 あ そうだ〜〜 この時期にね やっぱり春のお知らせ、があるんだ。
よかったら後で探しに行かないかな? 」
「 春のお知らせ?? 」
「 うん。 ここなら・・・そうだな〜 海岸の方にも草地とかあったよね? あの辺とか・・・
日当たりのいいトコロなら 多分もう来てるよ。 」
「 ・・・ おうちから外にでるの? 」
「 外・・・ってもすぐ近くだし。 この辺りにはあまり普通のヒトはこないよ。 」
「 そう・・・ それなら ・・・ お茶の後にでも・・・ 」
「 オッケ〜♪ ぼくら、チビの頃にね よく探したりしたから。 任せてくれよ。 」
「 ふふふ ・・・ 頼もしいのね? じゃ オネガイします。
じゃあ そろそろお茶の準備、しないと・・・ 」
「 あ〜 オヤツタイムだね♪ きみのスウィーツ、美味しいもんな〜
楽しみ〜〜〜♪ 」
「 ・・・ ありがとう ジョー。 じゃ 戻りましょう。 」
「 うん。 あ ぼく、お湯を沸かしておくよ。 お茶にはあつ〜〜いのがいいんだろ? 」
「 ええ お願い ・・・ 」
「 オッケ♪ 」
ジョーは 勝手口目指してぱっと駆け出した。
あれ。 ・・・ また見てる ね?
・・・ なにを見てるんだ フランソワーズ?
そう、彼女はまた じっと ・・・ 彼をみつめている。
最初は 自分に気があるのか?と多少なりともニヤけていたけれど いつしか気がついた。
彼女の視線は ぼくを通り越している。
あまりいい気持ちはしなかったけれど、あえて問い質すことはしなかった。
なぜなら ― 見つめる彼女の視線がいつもいつも あまりに切ないものだったから・・・
やがて桜が咲けば花見なんぞもして 春は賑やかに過ぎてゆき、直に青嵐の季節がやってきた。
海っ端だけれども、裏に里山を控えているのでギルモア邸の周辺は緑が豊かだ。
たちまち濃い緑の影が勢い良く進出してきて青臭いまでの香りを撒き散らす。
「 すご〜い・・・ もう夏なの? 」
フランソワーズは木々の間から眩しそうに空を見上げる。
「 え〜 まだだよ。 初夏 ・・・っていうのかな、 まあ この時期もけっこう暑いけど。 」
「 ふうん ・・・ 緑がこんなに凄いなんて・・・ この光もステキね。 」
木漏れ日に手をかざし、葉陰を踏んで。 半袖姿の少女が光と戯れている。
そんな彼女に 最近ジョーは見とれていることが多い。
あ ・・・ キレイだなあ・・・ 可愛い・・・
「 さ〜て お買い物 お買い物〜〜♪ ねえ ジョー、 今晩 何がいい? 」
「 ・・・え ? あ〜〜 」
彼女に見とれていたので ジョーはどぎまぎし、無意識に口にした答えは ―
「 あ あ〜〜 カレー ・・・ 」
「 え またあ? ・・・ じゃ ・・・ なにか美味しいサラダ、つくりましょ。
商店街の八百屋さんで今 一番美味しいお野菜、教えてもらうわ。
あ! そうだ〜〜 シーフード・カレーでもいいわよね? 魚屋さんにも行かなくちゃ♪ 」
「 あ ・・ うん ・・・ 」
「 行くわよ〜〜 あ、 カート、大きなほうをお願いね、ジョー。 」
「 う うん ・・・ 」
ガラガラガラ ・・・ 買い物カート ( 特大 ) を引っ張り ジョーは慌てて彼女の後を追う。
岬の突端の家に住む < 家族 > は 臨時寄せ集めチーム から少しずつ進化していた。
フランソワーズが まず地元の暮らしに溶け込んでいった。
地元商店街での買い物も当初は二の足を踏んでいたが、
一度訪れると ― たちまちお気に入り、になった。
昔ながらの商店街が 彼女にはとても懐かしかった。
「 へえ〜〜?? ああ あの岬の家のヒトかい? 若奥さん?
ははは 新婚サンかい いいねえ〜〜 ほら これも美味いよ! 」
元気な八百屋のオッサンに からかわれ頬を染めつつ・・・ 彼女は楽しそうだった。
「 え え? あの〜〜ゥ ぼく達はそのゥ〜〜 」
「 ジャガイモと ・・・ ねえ ジョー あの濃いピンクのはなあに?
え? サツマイモ? ああ スウィート・ポテトにするヤツね。 これも下さい〜 」
「 はいよ! こりゃ〜美味いよ〜 地元産だ。 」
「 ・・・フラン ・・・ そんなに持てない ・・・かも ・・・ 」
ジャガイモとタマネギとキャベツと。 人参とセロリとサツマイモ。 カートに詰め込んで
ジョーはさらに腕にレタスとトマトを抱えている。
「 あ〜ら この後、魚屋さんにも寄るのよ? あ! 料理用のワインが切れそうなの。
酒屋さんに行くわ。 う〜〜ん いいワインも欲しいし、博士のブランディ もね。
ジョー! 頑張ってね。 」
「 ・・・ う うん ・・・ ( ・・・サイボーグでよかった かも ・・・ ) 」
ギシ ・・・ 重いカートを引っ張りジョーは 溜息混じりに歩き出す。
溜息付いても ― それは明るい溜息 だ。
普通の日々を 彼らは 当たり前に、ごく普通に過せることを心底幸せに思っていた。
あれ ・・・・? また 見てる?
青葉の頃となっても、木漏れ日の中 そして 商店街の途中で。 はたまた 家の前の坂道で。
彼女は ・・・ 時折、じっと彼を見ている。 遠い瞳で 清んだ眼差しで ・・・
もしかしたら単なるクセなのかもしれない、 とジョーは無理に思い込もうとしていた。
・・・ 聞けない 聞けないよなあ ・・・ あんな目して見てるんだもん ・・・
少なくとも日々の生活は < 家族 > として快適に過している。
リビングで談笑 ・・・ なんてことも普通に出来るようになった。
本心から笑い 他愛もないお喋り興じ 博士の話題の広さに若い二人は驚愕したりした。
じめじめの日々が過ぎると ― 抜けるような青空がもどってきた。
それと一緒に 海風が熱気をはらんだ空気も持ち込み ・・・ 夏が 来た。
「 ・・・ ふう 〜〜 ・・・ 今日も暑かったわねえ〜 ああ いい風 ・・ 」
晩御飯が終わり、片付けも分担して済ませた。
フランソワーズはリビングに戻ってくると さあ〜〜っとレースのカーテンを引いた。
サワサワサワ ・・・・・ フワぁ 〜〜・・・・
「 おお ・・・ 海風か・・・ 心地好いのう ・・・ 」
博士までがテラスへ続く窓辺に寄ってきた。
「 ええ。 ウチは本当に風通しがいいですね。
この国の夏ってもっともっと暑いのかと覚悟してましたけど ・・・ 」
夜風に流れる髪を押さえ フランソワーズが笑う。
「 まあ ここいら辺りは海風や海流の関係もあって そんなに暑くはならんじゃろう。 」
「 博士 〜〜 フラン? スイカ、食べませんか? 」
ジョーがトレイを持ってにこにこしている。
「 あら。 ジョー ・・・・ デザートならオレンジが冷えているのよ? 」
「 ごめ〜ん この季節はさあ やっぱりスイカなんだよ。
昼間、八百屋のオッサンのお勧め! を買ってきたんだ。 どうぞ! 」
ジョーはトレイを持ってテラスまで出てきた。
「 え ・・・ ここで食べるの? 」
「 うん。 こうやって 星眺めながら・・・ってのもいいかなあ〜 と思って。 」
「 ほう ・・・ これは美味そうじゃな。 どれ ひとつ・・・ 」
「 美味しそう ・・・ でもどうやって食べるの? 」
二人ともすぐに手に取ったけれど ちょっと困った顔をしている。
大皿にざっくり切り分けたスイカが乗っかっているだけなのだ。
「 あは・・・ スイカはね〜 こうやって ( がぶ☆ ) 齧っちゃうのさ。
種は 〜〜 ( ぷ。 ) あ フランは ・・・ ほら ティッシュに 」
「 ― わたしも やってみる! ・・・ ぷ。 」
「 わ〜〜〜 上手だね〜〜 ぷ! 」
「 ワシも負けんぞ〜〜 ぷ! 」
「 わわ! 博士ってば すご〜〜い〜〜 」
・・・ しばらく三人は大いに盛り上がっていた。
「 ・・・ 星 ・・・ 今夜もとってもきれいねえ ・・・ 」
スイカを食べ終わったころ、 彼女がぽつり、と言った。
「 え? あ ああ そうだね〜 ここはよく見えるなあ ・・・ 」
ジョーも一緒に振り仰げば ギルモア邸の頭上には今夜も滔々と星の河が流れている。
「 うむ ・・・ 満天の星、とはこのような光景じゃろう。 」
「 冬や春もキレイでしたけど ・・・ 今が一番かも ・・・ 」
独り言みたいに彼女が呟いた。
「 あ〜 そうかもしれないね。 」
「 パリではあんまりよく見えなかったわ。 その後は ・・・ 見ることはできなかった・・・
ごめんなさい ・・・ 今 こんなにキレイな星空を見られて幸せだわ・・・・ 」
ジョーも黙って空を見上げた。
ふうん ・・・ 天文とか宇宙とか興味があるのかなあ・・・
それともロマンチックだから かなあ・・・
でも ホント ・・・ キレイだよね
あ。 そうだ。 今月だったよな〜 うん!
「 なあ ・・・ 流れ星 見ないかい? 」
「 え?? 」
突然言われて 碧い瞳が空からジョーに戻ってきた。
「 流れ星。 今月、すごくキレイな ・・・ はずなんだ。 」
「 ??? 」
「 ・・・ おお ペルセウス座流星群か ジョー。 」
「 はい、博士。 きっとよく見えると思うんです。 」
「 そうじゃなあ〜 二人で見て来るといい。 」
「 はい。 ね? 行こうよ。 13日がいいかな〜 」
「 ・・・ いいわ。 楽しみにしてる。 」
ほんのり笑顔が可愛いくて ― ジョーはまた目が離せなくなってしまった。
そして 13日の夜 ―
「 え?? 歩いて行くの??? 」
てっきり車で遠出するのかと思っていたら ジョーは門を出るとすたすた・・・
近所の裏山の方へと歩いてゆく。
「 うん。 山の上が一番よく見えると思うよ。 」
「 あ ・・・ そうなの? 」
「 うん、 この道なら覚えているだろう? 」
彼は先にたって夜の道をずんずん歩いていった。
「 あ・・・待って 待ってよ、ジョー・・・ 」
フランソワーズは慌てて彼の後を追い駆けてゆく。
途中で国道を横切り 少しの間海岸通り沿いに歩いてゆく。
「 ・・・ あら。 」
町の角で 細い路地の出口で 不思議な < 火 > を見た。
人々が地においた細い木に火を灯し ・・・ じっと眺めているのだ。
明るい火では ない。 ほう・・・っと幻みたいに闇夜に浮かんでいる。
「 ねえ ジョー。 あれ・・・ なあに。 」
「 え? ああ ・・・ あれはね、お盆の迎え火さ。 」
「 むかえび? ・・・ おぼん?? 」
「 うん。 毎年ね、この時期にやるんだ。
お盆にはね 亡くなった人の魂が帰ってくるんだって。 あの迎え火を目印に ね 」
「 ふうん ・・・ なにか宗教的な行事なの? 」
「 う〜〜ん どうかなあ ・・・・ ただ ぼくは教会の施設で育ったけれど
毎年、寮母さんや管理のおじさん達がお盆に迎え火とか焚くのを神父様は止めなかったよ。
にこにこして一緒に眺めていたなあ。 」
「 まあ ・・・ 神父さまが? だって・・・カトリックの行事じゃないわよ? 」
「 うん。 ぼくもさ、 生意気盛りの中坊の時に訊いたことがあるんだ、どうしてかってね。
どうして黙ってみてるんですかって。 そしたら ・・・ 」
「 ジョー ・・・・ 」
神父様は とても暖かい瞳でぼくを見た。
「 誰の心にも大切な人が住んでいるでしょう? ジョーの心にも 私の心にも ね。 」
「 ・・・ う うん ・・・ 」
「 その方達を想う気持ちは ― すべてを越えて尊い心だと私は思います。
そんな気持ちで焚く灯火 ( ともしび ) は どれもみんな ・・・ 清らかで美しい ・・・ 」
神父様はね ちょっと哀しいみたいに微笑していたんだ。
それで ぼくはもうなにも訊かなかったなあ。
「 ・・・・ そう ・・・ 素敵な火 なのね ・・・ 」
「 うん。 」
「 ・・・ きれいね。 皆 ・・・ 迷わないわね きっと。 」
「 ・・ うん。 ― なあ 聞いてもいい。 」
「 なあに。 」
「 あの さ。 きみ ・・・ なんでぼくのこと、 じっと見るのかな。 」
「 ・・・え ・・? 」
「 ここに来た頃から 時々じ〜っと見てる。 なぜ。 」
「 あ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
「 別に謝らなくていいさ。 だけど よかったら理由、教えて欲しいな。
だってきみ ・・・ ぼく を見てるわけじゃないだろ? 」
「 ・・・ ごめんなさい。 あの ・・・ ジョーっだって解ってるんだけど・・・
あの ・・・ どうしても お兄さんがいるみたいな 気がして・・・ つい 」
― ザ。 隣を歩いていた彼の足が 止まった。
彼女も 自然と歩みを止める。
「 ぼく。 ジョーだよ。 」
「 え? 」
「 ジョー。 ぼくは 島村ジョー。 きみの兄さんじゃ ない。 」
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ あの! 」
「 なに。 」
「 わたし ・・・ 解っているの でも どうしても ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
「 ・・・別に非難してるわけじゃないよ。 きみの気持ち ・・・ わかるもん。
けど。 ぼくは ジョー だよ。 」
「 ・・・ そうよね。 ジョーに失礼よね ・・・ もう 見ないわ。 」
「 え ! 」
「 ・・・?? 」
「 あ あのゥ〜〜 その ・・・ ぼくのこと・・・不愉快? 」
「 えええ?? なぜ?? ・・・ あ。 」
驚いて一歩踏み出した時 ― ズザ ・・・ 彼女がよろけた。
「 ? どうした? なんの音・・・ 」
「 あ ・・・サンダルが ・・・ サンダルのベルトが壊れちゃった ・・・ 」
「 え ・・・ 壊れた? 歩けないの? 」
「 あ〜 ・・・ ダメだわ ほら。 留め金が壊れちゃった・・・ 」
「 どれ? ・・・ あ〜 これは無理だなあ ・・・
うん きみ さ ここでちょっと待っててくれる? なにか履くもの、商店街で買ってくるよ。
ビーサンとかでもいい? 」
「 履けるならなんでもいいわ。 ごめんなさい・・・ジョー 」
「 気にするなって。 ふふ ・・・ 今夜はきみが謝ってばかり、だね。 」
「 え ・・・ あら ・・・ 」
「 ここなら街灯もあるし 人通りもいくらかあるから大丈夫だよね? 」
「 ええ。 ・・・でも早く戻ってきてね。 ・・・ 加速装置は使わなくていいけど・・・ 」
あは、了解〜と笑って ジョーは商店街目指し駆けていった。
行き交う人は多くはないけれど、フランソワーズは邪魔にならないように路地の側に移動した。
「 ・・・ ふう ・・・ オバカさんな フランソワーズ ・・・
あんなこと、言って。 ジョー ・・・ きっと本当はすごく傷ついているのよ。 」
― ワン・・!
「 え??? ・・・ あら ワンちゃん? 」
気がつけば 足元にやっと仔犬を卒業した・・・くらいの若い犬が座っていた。
「 あらら ・・・・ どうしたの? お散歩中にご主人サマとはぐれてしまったの? 」
キュ ゥ 〜〜 ン ・・・ パタパタパタ ・・・
茶色の瞳が じっとフランソワーズを見上げ、さかんにシッポを振る。
「 うふふ・・・可愛い・・・ なんだか誰かさんの瞳みたいねえ・・・
撫でてもいい? ・・・ そう? じゃ いい子ね ヨシヨシヨシ ・・・ 」
そ・・・っと頭に置いた手を 仔犬はぺろりと舐めた。
「 一人でお散歩していたの? 首輪、しているからちゃんと飼い犬よねえ。 」
彼女はとうとう犬と一緒に道路の端にしゃがみこむ。
「 うふ? ちょっと・・・ここに居てくれる? ・・・ 淋しいの ・・・
アナタと一緒にいると なんだかほんわかした気分になるわ。 ねえ わんちゃん。
あら ここだけ栗毛じゃないのね、 ステキな毛皮ね。 黒いマフラーみたい。 」
ワン ・・・! 仔犬はひと声吼えるとまた彼女をみつめた。
「 わたし ・・・ 本当は ジョーのこと、見てたのに。 そりゃお兄さんのことも思い出すけど・・・
でも ・・・ 今は 今のわたしが見ていたいのは ジョー なの ・・・ 」
パサパサパサ ・・・ シッポがフランソワーズの脚に触れた。
「 なあに、ワンちゃん。 ・・・ きゃ♪ ・・・・ あ ・・・! 」
彼女の顔をひと舐めすると 茶色毛の犬はぱっと駆け出し ― 夜に紛れてしまった。
「 ・・・ あ ん ・・・ おうちに帰ったのかしら あら? 」
「 やあ ごめん! 遅くなって ・・・ 」
反対側から ジョーが走って戻ってきた。
「 ジョー ! 」
「 こ こんなんで いいかな ・・・ サイズは合ってるはずだけど・・・ 」
ジョーは紙袋の中から 白いサンダルを取り出した。
「 ありがとう〜〜 ジョー! ・・・ まあ ぴったりよ。 ほら♪ 」
「 あ ・・・ よかった〜〜 靴屋にいろいろ出してもらって。 歩ける? 」
「 もちろんよ、 新しいサンダル、うれしいわ〜〜 ありがとう、ジョー! 」
「 えへへ・・・ な なんかさ、結構ヒトが出てるみたいだね。
そうそうさっき 外国のヒトもいたよ。 散歩中の犬、探してるんだって。 」
「 え! そのワンちゃんなら ・・・ ついさっきここにいたわよ? 」
「 へえ? ・・・ じゃ じきに会えるよね。 」
「 そうね、可愛いワンちゃんだったわ。 茶色の短い毛でね。 」
「 ふうん ・・・ じゃああのヒトが飼い主なんだろうね。
きみと似た色の髪のヒトだった ・・・ 背が高くて いいカンジだった・・・
きっとあのヒトたちも流れ星を見に来たんだよ。 」
「 そうねえ ・・・ 」
二人は並んで夜道を歩いてゆく。
「 ・・・ 星 きれいね ・・・ 」
「 あ うん ・・・ 」
「 『 死んだら星になるんだ 』 って。 ・・・ 兄がぽつり、と言ったことがあるの。
兄は飛行機乗りだったから ・・・ わたしも いつか ・・・ 」
「 星になっちゃいけない。 」
「 ・・・ え ・・・ そ そう ・・・? 」
「 そうだよ! きみも皆も ・・・ ぼくだって。 星には ― ならない。 」
「 ・・・ そう ね ・・・ 」
「 うん。 お兄さんさ ・・・ きっと きみのこと、見守っていてくれるよ。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 ほら もう少しだよ。 流れ星を見て ― 一緒に帰ろう。 」
「 ええ ・・・ わたし達のお家に 」
「 うん そうだね。 」
ジョーがごく自然に差し伸べた手の中に 白い指がするり、と入ってきた。
迎え火を焚く夜、ジョーはしっかりフランソワーズの手を握った。
星の流れる夜、フランソワーズは静かにジョーの手を握り返した。
微笑む先には 彼。 微笑みをかえす先には 彼女。
出会ってまだ 一年足らず。 二人の時間はこれから 始まる。
― 数年後の夏 ・・・
ギルモア邸への急坂の下で男性が二人、 なにやら包みを広げていた。
辺りはもうとっぷりと暮れて 頭上には今宵も数多の星々がまたたいている。
「 ・・・ へえ? こんなものなのかあ〜 」
「 ピュンマ。 とっとと検索しろ。 」
「 ・・・ わかったよ。 」
カタカタカタ ・・・ しばらくは 聞こえるのはキーボードを打つ音だけだ。
「 おい ・・・ おがらの組み方はこれでいいのか? 」
「 えっと・・・ ちょっと待ってくれる、アルベルト。 なかなか はっきりした写真がなくて
う〜〜ん ・・・ これは遠すぎるし これは ・・・ 半分以上燃えちゃってるし〜 」
「 へえ? お前、とっくに タブレットとかにしてると思ったがな。 」
「 このモバイルには愛着があるんだ。 僕のいい様にカスタマイズしてあるしね。
あ こんなとこか ・・・ う〜ん・・・・ そんなカンジでいいみたいだよ? 」
ピュンマは 目の前のシロモノとモニターの画像を熱心に見比べている。
「 わかった。 じゃ ・・・ これを燃やせばいいんだな? 」
「 そうだけど。 ふうん? 君がこういう古風な民間行事に関心があるとは意外だねえ。 」
「 ― フランソワーズの頼みだから な。 点けるぞ。 」
「 うん。 へえ ・・・ マッチかあ〜 あ ・・・ いいカンジだねえ。 」
「 ― そうだな。 」
二人の足元で 火が ― 還り道を照らす灯火が 静かに燃えている。
「 ふうん ・・・ 送り火 かあ ・・・ 夜の火はいいねえ ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
「 ・・・ こんな静かな火に送ってもらえたらさ ・・・ いいなあ ・・・ 」
「 ふん ・・・ 」
ふと 視線を上げれば。 そう遠くない角々にも小さな火が焚かれているのがみえた。
「 ・・・ いい火 だな。 」
「 うん。 」
― ワンワンワン ・・・ !
元気な犬の声が 道の向こうから聞こえてきた。
「 あの〜 すみません 〜〜 」
「 ワ ワン! ク ゥ 〜〜ン ・・・ 」
闇の中から 青年の姿がひょっこり現れた。 足元に茶色毛の犬をつれている。
「 はい ? 」
「 あの〜 この・・・上にある家の方ですか? 」
青年は坂の上を見上げて聞いた。
「 え ええ まあ そうですが? 」
「 よかった! すいません、シマムラ君 いませんか。 」
「 ワン! 」
「 あ〜 ・・・ ジョーの友達かい? 悪いな〜 アイツ、出かけてるんだ。
カノジョと一緒に 流星群の観察 だと。 」
珍しくアルベルトが気軽に応えた。
「 あの よかったら伝えておきますけど? お名前は・・・ 」
「 あ ・・・ いいです、約束してた訳じゃないんで。
そっか ・・・ 旅行中、なんだ。 彼女 と 」
「 ペルセウス座の流星群をね、 見に行ったんです。 」
「 そうですか。 ありがとう! お邪魔しました。 さ 行こう! 」
「 ワン !! 」
それじゃ・・・・と青年は軽く会釈をすると再び夜の中に歩いて行った。
星明りにも鮮やかに 亜麻色の髪がきらめく。
幸せ なんだな。 ・・・・ 安心したよ ・・・ ファンション ・・・
クゥ〜〜〜〜ン ・・・ ワンッ !
じゃ ・・・ 帰ろうか。 来いよ、 クビクロ!
ワ ワンッ ♪
一人と一匹はそのまま ― 夜空にながれる星の川の流れに乗って 還っていった。
*************************** Fin. ****************************
Last
updated ; 08,21,2012.
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*************** ひと言 **************
<迎え火> と <送り火> の間に <いろいろなこと> がありました。
流れ星になったり ワンコと別れたり・・・ 数年経ってマス。
留守番が 4 と 8 だったのは〜
日本滞在組の 6 と 7 は クビクロのこと知っていたかもしれないし。
5 は霊的なモノに敏感? だし。 ( 2 は対象外 )
・・・って 消去法の結果 なのであります。
本当は 先週アップしたかったのですが ・・・
先週は アレ、書いていたので・・・ 時期がズレました〜〜