『 新しい年へ 』
ぺりり ・・・ 日めくり式のカレンダーを一枚 はぎ取った。
「 ふうん〜〜 あとちょっとねぇ ってことは今年も < あとちょっと >
ってことか ・・・ 」
フランソワーズは朝陽が山ほど入るキッチンで 深くため息を吐いた。
「 クリスマスが終わっちゃうと なんか気が抜けるのよねえ ・・・・ 」
ふぁ〜〜〜 特大の欠伸をすると 彼女はエプロンのヒモをきゅっと結んだ。
「 さあ ・・・て。 今日辺り ジョーの ≪ そうじだぞ〜病 ≫ が
始まるかしら・・・ あ〜あ ・・・ 」
彼女はもう一回 ううう〜〜ん ・・・ ! と伸びをした。
そう ― 彼女の最愛のヒトにして人生の伴侶であり、かつ 戦友でもある
< 島村ジョー君 > は 年末になるとソワソワし始める。
クリスマス前には 張り切ってツリーに飾りつけをしたり、部屋を飾ったり・・・
彼女のケーキ作りに協力したりもしている。
もちろん クリスマス・イブにはちゃんと深夜ミサに参加し 世界の平和と
友人・知人・仲間たちに祝福を! と熱心に祈ってくる。
世界に散っている仲間たちには ちゃ〜〜んとプレゼントとカードを送った。
彼はそんな役目を にこにこと楽しんでいるのだが ― クリスマスがすぎると
猛然と! 張り切りはじめるのだ。
「 さあ〜〜 大掃除するよ〜 」
クリスマス明けの朝、 彼は高らかに宣言するのだ。
そもそもこの国のヒト達はやたと掃除好きらしいが ―
彼の情熱には 超 が付くのではないか・・・ と 彼の細君は思っている。
もちろん彼女とて かなりの掃除好き 綺麗好き なのだが。
「 そりゃ ね。 掃除は大切よ。 新しい年の前にきちんと掃除したいって
いうのは よくわかるわ。 そうよ、子供のころ、 ママンもパパに手伝って
もらって 窓を拭いたり納戸を片したりはしてたけど・・ 」
「 さあ お掃除しますよ。 ジャン、 ファン、 あなた達のお部屋は綺麗かしら? 」
楽しいクリスマスが終わるとキレイ好きの母は エプロンのヒモをきりりと締めあげ
息子と娘を呼びたてた。
「 え・・・ あ〜 うん。 」
「 そう? ジャン あなたのお部屋からウチ中が汚れるのは嫌ですよ? 」
「 う・・・ 」
「 古い雑誌はちゃんとまとめて出して頂戴。
それと! クロゼットにつっこんである洗濯ものもだして。
汚れてない、なんて言わせませんよ?
ほら ジャン。 掃除機、もっていってかけてなさい。 」
「 ・・・ 俺の部屋は汚れてないよ 」
「 そう? ママンが見ましょうか? 」
「 アタシがけんさするわ ママン! 」
「 ! 掃除機、借りマス。 」
兄は 掃除機と雑巾を渡され渋々・・・部屋に戻っていった。
「 ふ〜〜ん ねえ ママン お兄ちゃんってばちゃんとおそうじするかしら 」
「 さあ ねえ それよりもファン? あなたのお部屋はどうなの?
ママンが見にゆきましょうか? 」
「 ・・・ アタシ お掃除してきま〜す 」
妹も 小型の室内箒と雑巾をもって自室に駆けていった。
「 そうよね〜 ママンにいわれて慌ててお掃除したわ。
パパは土曜や日曜に窓ガラスを拭いたりオーブンをぴかぴかに磨いたり
キッチンのお掃除を手伝ったりしてたっけ。
気持ちよく新年を迎えましょう ってママンは言ってたけど 」
ぱふん ・・・ 柔らかい布で冷蔵庫の扉を拭った。
だけど ね! ジョーってば
なんだってあんなに集中するわけ?? この時期に・・・
ふう〜〜〜〜 ・・・ フランソワーズは大きくため息を吐いた。
この国の優しい瞳の青年と結婚し ― それなりにいろいろ、どたばた・・・
あった。
まあ・・・長年共に暮らしてきたから 結婚してもたいして変わりはないだろう、と
彼女は密にタカを括っていた。
故郷の国とは遥か離れてはいるけれど この国にはずっと住んでいるから戸惑うことも
あまりないだろう とも思っていた。
が。
いざ きっかりとこの地域の住民となり ニホンジンの男性の妻となると ―
「 え??? そうなの ??? 」
「 やだ このヒト・・・ そういうヒトだったの?? 」
― いやあ〜〜〜〜 結構いろいろ 思いもかけないことがでてきた。
その中で ・・・なにが びっくり、って 一番の 驚愕が
年末の いろいろな騒動 だった。
「 そうなのよね〜〜 この国の人々が < お正月 > を
大切にしているのはよ〜くわかったわ。
食べるモノとか 飾るモノとか あれこれこだわるのもよ〜くわかったつもりよ 」
そう ・・・ 拘りを真似てして仲間内で他愛もない騒動を起こしたこともあったっけ。
「 もうあんな事はゴメンよ。 年末年始は静かに過ごしたいのに・・ 」
結婚前にも クリスマスの後、ジョーはごそごそ・・・自分の部屋を片づけてはいた。
日頃 あまり掃除には熱心ではない彼が 古雑誌を纏めて出したり
ガラクタ ( 彼女にはそう思える ) を捨てたりしていた。
「 へえ ・・・ 珍しい ・・・ 」
そんな彼を 彼女は目の隅で眺め、でも なにも言わなかった。
ところ が。 結婚したその年に 彼女の夫は猛烈な情熱で掃除に、取り掛かった。
実に嬉々として大掃除をするジョーに ヒトが変わったみたい・・・ と
呆れはて眺めていた。
「 だいたいね〜〜 普段は ちゃんと片してよ〜って言っても
リビングの雑誌を散らしたり シャツやら靴下を脱ぎっぱなし〜〜 なのに
このヘンシンは なんなの??? 」
まあ・・あれこれ言っても仕方ない。 だまって彼の < 掃除・情熱 > に
任せることにしたのだ。
「 ま いいわ。 ウチだってキレイになるし。
わたしだって 綺麗なお家で新年を迎えるのはうれしいわ。
・・・ そうよ ね ・・・ お兄ちゃん。 パリのアパルトマンは
いつでも二人できちんと整理整頓していたわよね 」
「 それじゃ 行ってくるから。 戸締り、しっかりな 」
兄は ちらり、と室内に視線を飛ばした。
「 大丈夫。 お兄ちゃんも気をつけてね。 演習だって油断すると怪我するわ 」
「 コイツ〜〜 誰に向かって言ってるんだ? 俺の操縦テクは 」
「 わかってます。 でもね 油断は 」
「 わかってる。 じゃ な。 」
「 行ってらっしゃ〜い あ 帰宅はいつものパターン ? 」
「 ああ。 ○日の 午前中に北駅につく。 列車だから遅れはほぼない。 」
「 わかったわ。 駅まで迎えにゆくわね 」
「 メルシ。 それを楽しみに 行ってくる 」
「 ジャンお兄ちゃん 」
兄と妹は 軽くほほにキスをしあった。
「 わお〜〜〜 ちょっとホコリだらけ〜〜 やば・・・! 」
フランソワーズは リビングの中を歩きまわっている。
「 やだ〜〜 すっかり掃除、サボってたから・・・ 窓も曇ってるぅ〜〜
あ〜〜ん 明日お兄ちゃんが帰ってきたら怒られるわあ 」
仕方ない、 今からでもやらなくちゃ・・!
外はもうとっぷり暮れているけれど 彼女は掃除機をずるずる引っぱりだした。
「 あ・・・ でもこんな時間に掃除機かけたら・・・下のフラットのヒトに
怒られるかも・・・ モップで拭く?? あ それなら 先に窓を拭くべき??? 」
結局 夜おそくまでごそごそと掃除をするハメとなり ・・・
「 ・・・ ん〜〜 ?? あ!!
たいへ〜〜〜ん!!! お寝坊しちゃったわあ〜〜〜〜 !!! 」
兄が帰宅する日、妹は寝過ごし慌てて家を飛び出した。
― その結果。 彼女の人生はとんでもない方向に捻じ曲げられてしまった ・・・
「 ・・・ だから ってこともないけど。 掃除って ちょっと ね・・・ 」
十分にシアワセな今 そんなに拘ることもない、とは思う。
でも やはり チクリ と心の奥が痛む。 できるだけ気にしない、と思ってはいるが。
― ともかく これからは 年末は掃除漬けの日々となる とフランソワーズは覚悟をした。
ま 仕方無い か・・・。 いいわ、今年は 新婚の年 なんだもの。
優しい新妻としては オットの趣味に合わせてあげるわ
そうよ〜〜 ワタシ、貞淑な良妻賢母になりたいんだも〜ん
年末は掃除騒動に協力してさしあげますわ。
彼女は まあ言うならば 腹を括った というわけだった。
そして クリスマスもあっと言う間に通りすぎた朝 ・・・
「 お早う〜 ジョー。 今日はどこを掃除するの? 」
にこやか〜〜にリビングに降りて来てみれば・・・
「 ん〜〜〜〜〜 ・・・ 様、 と。 」
彼女のオットはテーブルに向かってなにやら書きモノをしていた。
「 ・・・ ジョー? 」
「 えっと 次は ・・・ あ〜〜 教会の世話係さんだな〜〜
えっと その節はお世話になりました・・・っと 」
「 え〜〜 ジョー? お早うございます 」
「 楽しい家庭を築く所存でございます・・・っと。 え? 」
彼はやっと顔をあげた。
「 あ〜 フラン。 お早う〜〜 」
「 お早う。 ねえ なにを書いているの 」
「 あ これ? 年賀状に決まってるじゃん 」
「 ねんがじょう? 」
「 そう。 ニュー・イヤーのグリーティング・カードさ。 」
「 あら クリスマス・カードと一緒じゃないの? 」
「 うん。 やっぱさ〜 年賀状はしっかりださないと。
特にさ、今年はきちんとご挨拶しないとね 」
「 ??? なぜ? 」
「 え?? だって今年 ぼく達は結婚したじゃないか〜〜 」
「 それは そうだけど わたし達の結婚式は5月だったでしょう?
それに 結婚しましたレター は ちゃんと出したわよ? 」
「 うん、 でもね 年賀状は特別さ。 ほら みて〜 」
「 ・・・? 」
ジョーは赤っぽい色が多いハガキを差し出した。
「 きみも友達とかに出す? たくさん印刷したから使っていいよ 」
「 きみも・・・って ・・・? 」
「 うん、これはぼくらからの年賀状だから。 連名にしたんだ。 」
「 ・・・ あ ふ〜〜ん 」
ハガキの表、差出人は 島村ジョー ・ フランソワーズ と記されていた。
「 あらあ〜 わたし? 」
「 ウン。 ウチの年賀状だからね。
あ ごめん これ今日中に書かないとさ〜 ちょっと時間が惜しいんだ 」
ジョーはごめん・・・と繰り返すと ペンを握るとそそくさ〜〜と机にむかった。
「 いいけど ・・・ 」
「 あ きみも書くんだったら ここからもっていってね 」
彼は目の前にあるハガキの山を指した。
「 え ・・・ わたしは クリスマス・カードに & はっぴ〜 にゅ〜 いや〜
って書いたし。 結婚のグリーティングは五月に送ってるから いいわ。 」
「 そうかい。 ま ぼくが出せばきみからも挨拶ってことになるしね〜
おっと急がなくちゃ〜〜 」
「 頑張ってね〜〜 」
「 ん ・・・・ えっと コズミ博士にはちゃんと近況報告もって・・ 」
「 ・・・ へえ ・・・ 」
ひたすらペンを動かす夫の側で 彼女はハガキを一枚裏返してみた。
「 え〜〜と? なになに・・? 」
印刷された細かい文字、 縦書きの文字に目を落とす。
「 えっと・・・ きんがしんねん ・・・ これ はっぴ〜にゅ〜いや〜 ってことでしょ?
その後のちっこい字は〜〜 え??
」
≪ 昨年五月に結婚いたしました。 若輩者ですが二人で楽しい家庭を築く所存でございます。
今後とも皆さまのご指導ご鞭撻を賜りたく ・・・ ≫
「 ??? え・・・どういう意味?? ね〜〜 ジョー どういう意味なの? 」
「 ・・・ え ・・・ うん 」
ジョーは書き書きに熱中していて 反応してくれない。
「 ね〜〜〜 どういう意味なのぉ 」
「 え ・・・あけましておめでとう だよ 〜〜 えっと 次は 」
「 うっそおっしゃい。 ね〜〜 いちいち手で書かなくても〜〜
ハガキソフトつかって印刷しちゃえば?? わたし、プログラム、組めるわよ? 」
「 うんうん ・・・ 昨年は大変お世話に〜〜っと 」
「 ねえ〜〜 イマドキのワカモノは メールやラインで済ませるのじゃないのぉ? 」
「 うんうん ・・・ 〜〜様 と。 え〜〜と 次は編集部だな〜〜 」
今回はなぜか〜 いくら話題を振っても いつもの 『 なに? フランソワーズ? 』 の
笑顔は返ってこないのである。
「 ふ〜〜ん だ。 いいわよ〜〜だ。 自動翻訳機 使うも〜〜〜ん 」
ぷくっと膨れて ・・・ 彼女はじ〜〜〜っとハガキを見つめた。
・・・・・ なにも頭の中に入ってこない。
「 ・・・! なんで〜〜〜 翻訳機 稼働しないのぉ〜〜〜???
ねえ ねえ ジョー〜〜〜 わたしの自動翻訳機 故障しちゃったみたい〜〜〜 」
「 え〜〜と まずは部長に ・・・ なにが 故障したって? 」
「 だから! 自動翻訳機よ! これ・・・見てても全然翻訳してくれないの〜〜 」
彼女は 年賀はがきをひらひらさせてみせた。
「 ・・・ あ〜 自動翻訳機は視覚には反応しない。 聴覚を通してデータを
取り入れて翻訳する。
で もって 昨年と変わらずご指導くだされますよう〜〜 っと。
あ? 漢字 これでよかったかな ・・・ 辞書 辞書〜〜 」
相変わらず、彼の視線はハガキにひたっと吸いついたままだ。
「 え〜〜〜 聴覚ぅ?? あ・・・ 読めってこと ? 」
「 あ〜 音声に反応するから ・・・ で もって・・・ 」
「 わかったわよ。 わかはいものですがたのしいいえにわをきずく ・・・
??? ねえ 〜〜 翻訳機 稼働しない〜〜〜 」
ねえ ねえ〜とウルサイ妻に とうとう ( 珍しくも ) ジョーがキレた。
「 ! あのね! けっこんしました これからもよろしく! ってこと! 」
「 あ ・・・ そ うなの? ふ〜〜〜ん 」
「 さ ぼくはこれ、全部今日中に宛名も文面も書いて投函しなくちゃならないんだ。
頼むから一人で遊んでてくれよ 」
「 ぷん ・・・だ。 べつに今日じゃなくたっていいでしょう? 」
「 今日までにだせば ちゃんと元旦に届くんだよ。 」
「 がんたん? ああ 一月一日ってことね。 べつにいいんじゃない?
お正月に間に届けば〜〜 」
「 ダメだよ。 元旦に届くことに意義あり なのさ。 」
「 だったらジョーが届ければ? 加速装置つかえば簡単でしょう? 」
「 ・・・ っとこれでよし。 次は〜〜 え? ダメだよ〜〜
元日にちゃんと郵便屋さんがポストに届けてくれるのに意味があるんだ。
さ 頼むから邪魔しないでくれたまえ。 っと 次は〜〜 」
ぷん ・・・。 膨れてもち〜〜っとも相手にしてもらえない。
「 ふん・・・ 掃除と年賀状が彼のこだわり なのね。
まあ ・・・ いいわ。 年に一回のことですもの・・ わたしは麗しき新妻〜〜
主人の好みには付き合いますわ〜〜 」
ぱらぱらぱらり。 彼女は夫が書いた年賀状を並べたり積んだりしている。
「 フラン ・・・ そこで遊んでいるなら これ・・・ 国内と海外にわけてくれ 」
「 え ・・ いいけど 海外? え〜〜 なあに これ!
ちょっとぉ〜〜〜 ジョー? アルベルトやジェットにも送るの?? 」
「 そうさ、当然だよ。 あ ギルモア博士やコズミ博士にも出すよ。 」
「 ええ〜〜〜 ギルモア博士にも?? だって同じお家に住んでいるのよ??
家族なのよ?? 」
「 そうだね、だけどね、皆 結婚式にも出席してくれたし〜〜
これは一家の主人としてのけじめなんだ。 」
「 け じ め?? ・・・ それ 日本の習慣? 」
「 ま〜 ちょっと違うけど。 ともかく ぼくはそうしたいんだ。
なにしろ今年は 島村家 としての船出一年目 だったんだからさ 」
「 ・・・ わたし は? 島村家 に入れてもらってないの??? 」
「 え〜〜〜 なにいってるんだよ? ウチはさあ きみとぼく で成り立っているんだよ?
」
「 でも・・・ このハガキにわたしは・・・ 」
「 これは きみとぼくからのご挨拶なんだよ? 」
「 ふうん ・・・ でもね〜 あの さっきも言ったけど 結婚式の時に皆に
グリーティング カード、送ったでしょう? それじゃダメなの? 」
「 うん そうだったよね〜〜 でもこれはまた別なのさ。 」
ジョーはペンを置くと 彼の愛妻に正面から向かいあった。
「 べつ? 」
「 そ。 年賀状って トクベツなんだよ。 ニホンジンにはね〜
新しい年への決意っていうか・・・ 希望でもあるかな〜
ぼく ずっとこうやって <ウチ> からの年賀状を出すのが夢だったのさ 」
「 そう ― じゃ ジョーの夢にわたしものっけてね 」
「 もっちろんだよ〜〜〜 きみがいてこその島村家だからね。 」
ほわん。 大きな手がフランソワーズの手を包みこむ。
セピアの温かい瞳が ほわん と彼女に注がれる。
あ ・・・ もう〜〜〜 反則よう〜〜〜
この目 と この手 ― ああ わたし 蕩けちゃう〜〜
きゅわわわ〜〜〜ん☆ フランソワーズのハートは舞い上がっちゃうのである。
「 うふふ そうよね♪ じゃ これ、郵便局に出してくるわね〜 」
「 うん 頼む。 あ そうだ 帰りに買い物、頼んでいいかな 」
「 いいけど・・・ 晩御飯の材料は買ってあるけど 」
「 あ 今晩のじゃなくて。 お節料理 なんだ。 」
にっこり〜〜〜 またまたジョーのほんわかスマイルが広がる。
「 おせちりょうり? あ それは知ってるわ! 二ホン伝統の
お正月専用のご馳走でしょう? 」
「 ウン あ そうか〜〜 去年とかも食べたよね〜〜
大人がお重にいっぱい作ってくれたよね 」
「 そうそう あ 今年はウチで作るの? 」
「 う〜〜ん 作るのはちょっとぼく達には無理だから〜〜 買ってこようと思うんだ。
今 メモ書くからね 」
「 ええ わかったわ。 わたしコート 取ってくる 」
「 うん。 あ〜 ぼく 晩ご飯の支度はしておくからさ
ショッピングとかしておいでよ? 暮れっていろいろセールやってるだろ? 」
「 そうね〜〜 ありがと、ジョー。 それじゃショッピングもしてくるわね。 」
「 ゆっくりしておいで。 あ このバッグ もっていって 」
「 は〜〜い 」
ジョーが渡したぎんぎんの保冷用トートバッグとメモをもって フランソワーズは
暮れの商店街に足を向けた。
いらっしゃ〜〜〜いい 安いよ〜〜〜〜 ほ〜ら買った 買った〜〜〜
ぴゅうう〜〜〜っと北風が吹き抜けるけれど 溢れる熱気が勝っている ・・・ かもしれない。
海岸通りの商店街はいつにも増して賑やかだ。
「 え〜〜と?? まずは〜〜 魚屋さん。 えっと 買うモノのは
こうはくかまぼこ。 だてまき。 かずのこ。 ・・・ どんなモノなのかなあ・・・
くださ〜〜い! 」
― 一時間後。 フランソワーズは山ほどの包を両手にさげてにこにこ・・・
帰宅した。
「 ジョー〜〜〜〜 ただいま〜〜〜 おせちりょうり〜〜〜 た〜〜くさん
買ってきたわあ〜〜〜〜 」
その年 ― 島村さんち の船出の年の新年は 山盛りお重のお節料理が
元旦をにぎわしたのだった。
なるほど ね。 ジョーはこういう < おしょうがつ > に
こだわるのね。 わかったわ。
わたし、理解のある妻 ですもの〜〜〜
拘りの日本人男性 と自分は結婚してしまったのだ ・・・ と フランソワーズは
納得した。
***********
「 ほらほら ・・・ 大掃除 ちゃんと終わったの? すぴか、 お部屋はどうなの? 」
「 はあ〜い ・・・ おか〜さんってば・・・ウルサイなあ
」
「 すぴか すばる! 年賀状、ちゃんと書いたの?? 今日中に投函しないと
元旦に届きませんよ 」
「 ・・・ いっけね・・・ ぼく 間に合わなかも〜〜 」
「 おと〜さんも? 僕もなんだ〜 」
「 すぴか! お節料理の準備 手伝って 」
「 ・・・ アタシ、 ろーすと・び〜ふ とかの方がいいなあ〜 」
「 ジョー! 門松の片方がちょっと歪んでいるみたい。 直してくださいな 」
「 へいへい・・・ 」
「「「 も〜〜〜 お母さんってば 正月・フィーバーだよう〜 」」」
今では拘っているのは ― フランソワーズさんの方 ・・・らしい。
*************************** Fin. ***********************
Last updated : 12,27,2016.
index
************ ひと言 ***********
ジョー君 って 案外古風で拘りなオトコかも・・・・
ともあれ みなさま よいお年をお迎えくださいませ <m(__)m>