『 my fair Lady 』
いやな予感はしていたのだ。
何回となく利用したこのタ−ミナル ・・・ とにかく滅茶苦茶に混んでいた。
よくTVで見る、トウキョウの朝の通勤タイムみたいだった。
ただ、通勤タイムと違うのは。
目の前のなが〜〜い行列に並ぶ人々の雰囲気だった。
眠そうな顔、いや座り込んで半分眠ってる人もいたけれど・・・・渋面やイライラ顔は見当たらない。
時折コドモ達のはしゃぎ声も響くが、誰一人迷惑顔などしていなかった。
そう、みんな にこにこしているのだ。
熱々カップルやら熟年夫婦、子供をつれた若夫婦 に友人同士のグル−プ・・・
果ては 団体サンにいたるまで、とにかく皆 にこやかなのだ。
・・・ これは。 もしかしたら・・・
長蛇の列を引っ張るカウンタ−の中で 一箇所だけ、閑散としている一角があった。
・・・ 予感はますます悪化し、それと共に足取りも鈍ってしまったが・・・
ともかく勇気をだして その窓口の前に立った。
なにをしにきたのか・・・? と後方から係員がのたのたとやって来た。
「 Pardon, Mademoiselle? 」
「 ああ、日本語で結構です。 あの、今日のパリ行きですけど・・・ 」
「 これは、失礼しました。
お客さま。 大変申し訳ございませんが、年末年始の当社パリ行きの便は全便満席でございます。 」
「 え!? tous les vols ? ( すべての便 ) 」
「 Oui Mademoiselle。 特に本日、大晦日の便はとっくに予約で満席です。 」
「 あの・・・明日も、ですか。 」
「 はい、明日もです。 」
「 ・・・ そうですか。 Merci。 」
「 A votre service,
Mademoiselle. ( どういたしまして お嬢さん ) 」
カツン ・・・ カツカツカツ・・・・
賑やかなはずのロビ−に自分の靴音だけがやけにはっきりと聞こえる。
・・・ 気持ちが違うと足音まで仲間はずれなのね・・・
ほろり、と転げ落ちた涙をみられたくなくて。
フランソワ−ズは襟元からマフラ−を引き上げ 顔の半分を隠してしまった。
・・・ どうしよう・・・ ホテルもこの近くは満室だったのに・・・
カツ ・・・ カツカツカツ ・・・
わくわく弾む気持ちが一杯のロビ−からともかくすこしでも早く逃げ出したくて。
彼女の靴音は 一層高くなっていった。
でも。 ・・・ そもそもの 言い出しっぺ はわたしなんだもの。
・・・ 仕方ない、わねえ・・・・
そんな必要もないのだが コ−トの襟を立てマフラ−に深く頤 ( おとがい ) を埋め、
フランソワ−ズは自分の靴先だけを見て 歩いていった。
ああ ・・・・ 寒い・・・!
・・・ そうよね、こころが風邪引いちゃったんですもの・・・ 寒いわよね・・・
滲んできた涙を 荒れた冬の風が強引に干上がらせていった。
<そもそもの>発端は。
TVで眺めていた 年の瀬の風景、というヤツだった。
「 ジョ−。 アレはなあに? 」
「 ねえ、きみはカフェ・オ・レ? それとも・・・ え? 何が。 」
朝のコ−ヒ−を淹れていたジョ−は 思わず手を止めた。
「 何がって。 ほら、あれよ、あれ。 今映っている・・・ 」
「 ?? なに? 」
フランソワ−ズが指さす画面に ジョ−も注意を向けた。
「 ・・・ ああ、 門松作りだよ。 ほら、ウチも毎年ちっちゃな松の枝を門のとこに貼るだろ。 」
「 ええ ・・・ でも全然違うわよ? なんだか・・・大きくて凄いわ! 」
画面には伝統的な門松を作っている姿が映っている。
確かに <全然違う> のだ。 ご家庭用のお手軽松飾とは雲泥の差?
切り口も瑞々しい青竹を中心にしっかり松葉がとりまき周囲を藁で囲ってある。
一抱えもあるだろうか・・・ なんだか厳粛な雰囲気でいかにもお正月といった情景だ。
「 う〜ん・・・ なんかムカシはみんなあんなのだったらしいよ?
今でも大きな会社とか神社とかでは ああいうの、飾っているみたいだよ。 」
「 ・・・ すごい・・・ ねえ、あれって売っているの? 」
「 え・・・・ さ、さあ・・・。 あ! 確かね、植木屋さんとかに頼むんじゃなかったかなあ・・・ 」
一般家庭に育ったわけではないので ジョ−の口ぶりも頼りない。
「 そうなの。 ・・・ いいわねえ・・・ 」
「 まあ・・・クリスマス・ツリ−の日本版みたいなもんだろ。
日本人は アレを見ると あ・・・お正月だなぁ・・・って感じるのさ。 」
「 ふうん ・・・・カドマツか。 ・・・ねえ! つくりましょうよ、あれ。 」
「 ・・・ え?? 」
フランソワ−ズは ポンと手を叩きゆっくりと頷いた。
あ。 この顔・・・! ヤバいな〜〜 こりゃもう絶対に引かないぞ?
言い出したら梃子でも引っ込まない・・・ ジョ−は長い付き合いで彼の恋人のつよ〜〜い一面を
身に凍みて知っているのだ。
日頃は大人しい彼女だけれど、一旦決心したら。 必ずやり遂げるのだ。
・・・ ふう ・・・ ジョ−はこっそり溜息を洩らした。
「 う〜ん ・・・ でもなあ、アレって難しいらしいよ? 専門の職人さんじゃないとさ・・・ 」
「 あら。 インタ−ネットとかで探せば作り方とかみつかるんじゃない?
それにほら・・・もうすぐ皆 来るでしょう? 手伝ってもらいましょうよ。 」
年末年始には 世界中に散っている仲間達がこの邸に集まり、のんびりと過すのである。
普段はジョ−達 4人しかいない家が 一年で一番賑やかな日々を迎える。
「 ・・・ う ・・・ん ・・・。 でも 材料がさ。 花屋さんとかでは手に入らないと思うよ。 」
「 材料? あの ・・・ 葉っぱとか? 」
「 そう。 どこどこの松、 どこそこの竹、とか・・・一種のブランドものを使うらしいよ。 」
「 ふうん ・・・ あ! でも大丈夫よ。 わたし達はサイボ−グなんだもの。 」
「 ・・・ はい ??? 」
「 わたし達は! ゼロゼロナンバ−・サイボ−グなの! 知ってた? 」
「 ・・・ 知ってたけど。 」
「 さ、じゃあ、ジョ−? どこでどんな材料を調達すればいいか検索してちょうだい。
わたしは、 うふふふ・・・ ちょっと<企画>を練っていますから。 」
「 企画 ? 」
「 そうよ! 皆で迎えよう・純日本式お正月企画 よ
ジョ−とジェットがいればね、世界中からだって新鮮な材料を調達できるから安心だわ。 」
「 ・・・ わかったよ。 」
・・・ ふう。 ジョ−は小さな声で応えると またまたこっそり、本当にこっそり溜息を飲み込んだ。
また・・・ 日本中を駆け巡るハメになるのか・・・・
・・・ 今度はお釣りを忘れないようにしなくちゃなあ・・・
<仮装行列かい? > じゃすまないだろうな・・・・ コスプレは禁止です〜とか言われそう・・・・
ジョ−はがっくり肩を落とし、ともかく防護服をクロゼットの奥から引っ張り出しに
のろのろと二階に上がっていった。
かくして その年は 本場モノのカドマツ で賑やかに、いや 厳粛に迎えるはず・・・だった。
年末は穏やかな晴天が続いた。
仲間達は各地から ホ−ム に戻ってきてしばし各地の話題で盛り上がった。
皆、フランソワーズに家事にこき使われつつもどことなくのんびりとした日々を送っていた。
今年も 穏やかに、静かな新年を迎える・・・ つもりだった。 ・・・ が。
「 やめて・・・! やめてよ、― もうたくさん! 」
「 ・・・ フランッ! 」
彼女は両手で顔を覆って 家のなかに駆け込んでいった。
そしてジョ−がすぐ後を追ったのを 全員が呆然とながめていた。
ギルモア邸の前庭には
土佐の松 丹波の竹 そして 出雲の藁・・・・
が トコロ狭しと並べてあり、本来ならお正月ム−ド満点!・・・・ なはずなのだが。
巷だったら 威勢のいい声とともに往なせな若い衆がきりきりと立派な門松を
つくりあげるところである。
確かに 見かけは若い衆 が沢山あつまっていた。
だが、人種も年齢も違う大の男たちは じつに気まずいモ−ドで立ち尽くしていた。
― くだらないコトで喧嘩をしてしまった・・・!
たった今 口から飛び出してしまった言葉をできればとっ捕まえて丸めて捨ててしまいたい・・・
当事者の二人だけでなく、全員が同じ気持ちだったのだが、今更引っ込みもつかず。
「 ・・・・ ― サヨナラ! 」
「 ・・・ アルベルト ・・・! 」
大股で邸内に入ってゆく後ろ姿を これまた皆が同じ気持ちでみつめていた。
「 ・・・ふん! だいたいニュ−イヤ−はのんびり自宅で過すものなのだ。
俺は帰る! ・・・・ ああ、故郷に帰るさ。 」
アルベルトは乱暴にコ−トをひっかけると小振りなス−ツ・ケ−スを取り上げた。
・・・ もう二度と ・・・ アイツらと行動を共にするものか・・!
ガチャリ、と玄関のドアノブに手をかけ ・・・ た瞬間。
「 た・・・大変だ! おい、待てったら! 」
どん! と後ろから彼に体当たりをしてきたのは ・・・ ジョ−。
しっかり防護服に身を固めている。
ふふん・・・! 一応はリ−ダ−として仲裁にきたってわけか。
そりゃそうだろうな。 9人揃わなければ戦力はガタ落ちだからなあ・・・
アルベルトは内心、にやり、とする気分でもなくはない。
引っ込みがつかなくなり、出てゆく羽目になってしまった、というのが正直な気持ちなのだ。
ぐっと口元を引き締め、最大限な渋面をつくり不機嫌満点な声をだす準備は完了である。
「 ・・・ ふん! 止めたって む ・・・ 」
「 大変だよ! きみも手伝ってくれッ 」
「 ・・・ だから無駄だっていうんだ。 俺はドイツに・・・ 」
「 いや! ドイツには行かないと思う。 行く理由がないもの。 」
「 なんだと?! 俺の故郷を忘れたのか! そりゃ現在のドイツではないが・・・ 」
「 故郷だって? だって今日になんていきなりチケット とれるかよ。 」
「 ・・・ ああ、大晦日、か。 まったくこの国のニンゲンっていったい・・・ 」
「 どうでもいいけど。 ちょっときみも手を貸してくれ、アルベルト! 」
「 ・・・・ だから。 俺はもうお前らに協力する気はねえんだよ。 」
「 いいや! 協力してもらうからねッ! 」
ジョ−は、てんでこちらの言葉など スル−しているらしい。
なんだ? こんなに取り乱したヤツを見たのは初めてだぞ??
「 ・・・ あの、なあ。 ジョ− ・・・? 」
「 ああ! 君はじゃあ・・・ エア・タ−ミナルを張ってくれ。 あと・・・ジェットに空から
偵察してもらう。 あ! そうだ、イワンにも・・・! 」
「 おい、ジョ−。 ・・・・ 大丈夫か?? おまえ、目の焦点が・・・ズレてやしねえか? 」
アルベルトはぐい、とジョ−の腕を引いた。
「 だって!! 冷静でなんかいられないよ!! 」
「 ・・・ ああ、お前日本人だものなあ。 正月を迎える興奮ってヤツか。
しかしなあ。 ほお〜、ついにミッションまで俺をシカトするのかよ。 ふん・・・! 」
「 アルベルト! じゃあ頼むぞ! ぼくはひとッ走り ナリタまで行ってみるから! 」
「 ジョ−・・・? 大丈夫・・・か?
お前 ・・・ 補助脳かどっか、イカレたのとちがうか。 視線が定まってないぞ 」
「 え? 大丈夫・・・なんかじゃないよッ! だって!
フランソワ−ズが荷物を纏めて 出て行ってしまったんだ・・・!!! 」
「 えっ! な、なんだって! 」
「 だから! もう何回も言っているじゃないか。
君達がくだらない口喧嘩して それでアルベルト、君が出てゆく!なんていい出すから。
彼女、自分があんな提案をしたからだ・・・って ひどく落ち込んでさ ・・・ 」
「 だから、どうしてフランが出てゆくんだ? 」
「 知らないよッ! ぼくにだってわからないよ。 ああ〜〜〜 フラン? どこいっちゃったんだ〜〜 」
ジョ−はせかせかとブ−ツに足をつっこむと しゅるる・・・!っとマフラ−を扱いた。
「 じゃ。 後は頼んだ。 ぼくは彼女を探しにゆくよ。 加速装置をつかえば関東地方一帯、
ぐるりと回ってこれるからね。 それじゃ・・・ なにかあったら脳波通信、フル・オ−プンで頼む。 」
「 ・・・ 待った! 」
アルベルトは ガシっと 今にも宙に消えるところだったジョ−のマフラ−をつかんだ。
「 く ゥ・・! な、なにするんだい?! 」
「 まあ、まて。 女の足だ、そう遠くにまでは行けまい。 おい、状況を詳しく話せ。 」
「 ・・・ え ? 」
「 オレにも 聞かせてくれ。 」
「「 ジェット・・・! 」」」
背高赤毛が 革ジャン姿でのそり、と現れた。
「 ふん、 面白くねェからよ。 ちょっくら街まで遊びに飛んでこうかな〜と思ったんだけどよ。
おい、ジョ−? どうしてフランから目ェ離したんだ? 」
「 ・・・ よく言うよ! 君達がくだらないことで言い合いしたりするからじゃないか! 」
「 ・・・・ それは ・・・ 」
「 そりゃ・・・ フランには悪かったって・・・ そんで、今彼女はどこにいるんだよ? 」
「 だから! ぼくは今から探しに・・・ う ぐ・・・★ 」
ドアノブに手をのばしたジョ−のマフラ−を 今度はジェットが引っ張った。
「 ゴホ・・・! な、なにするんだ〜〜 」
「 だからよ。 オッサンが言ってるじゃ? 状況を話せって。 それから探そうぜ。 」
「 ・・・・ 引っ張るの、やめてくれよ・・・ ああ・・・・ ゴホ・・・ 」
「 それで、どうしたんだよ! 」
「 ・・・ゴホ ・・・ いくらぼくでも君たちに引っ張られたら・・・ もう ・・・ ゴホ・・・
だから! アルベルトにジェット! 君達がくだらない喧嘩をするから もうたくさんよ!って
彼女、部屋に飛び込んで・・・ 声あげて泣きだしたんだ。 」
「「 へえ ・・・ 」」
「 ああいう時には無理に宥めてもダメなんだ。 泣きたいだけ泣けば ・・・ ごめんなさい、とか
言っていつもなら部屋から出てくる。 ・・・ でも! 」
「「 でも?? 」」
・・・・・ ごくり。
アルベルトもジェットも 先ほどの他愛も無い口喧嘩などきれいさっぱり忘れてしまい、
ジョ−のハナシに興味深々である。
ジョ−は・・・ 勢い込んで喋っているので 半分以上ノロケ話になっているのに気がついていない。
コイツらよォ、 いったい何処までの オツキアイ してるンだ?
・・・ フランのやつ、いったいこいつのどこに惚れたんだよ?
きゅ・・・きゅ ・・・
ジョ−は引き攣れてしまったマフラ−を結びなおした。
「 でもね。 なんだか静か過ぎるから・・・ ノックしても返事もないし・・・ そうっとドアを押したらさ。 」
「「 ・・・ 押したら?? 」」
銀髪と赤毛が ぐ・・・っと身を乗り出す。
「 ドアはすぐ開いて! 彼女の姿は見えなくて・・・ ほら、こんな手紙が・・・ 」
ジョ−は防護服のポケットから なにやら紙を引っ張り出した。
くしゃくしゃになり、ジョ−の体温で生暖かくさえあるそのメモ用紙には。
しばらく 留守にします。 心配しないでください F
「 んだよ〜〜 なら、心配いらねえじゃん。 <心配しないでください> って本人が
言ってるンだしよ。 フランだってコドモじゃねんだ。 」
「 コドモじゃないから! 余計に心配なんじゃないか!
悪いヤツに誘われたり・・・ 騙されたりしたら・・・・ ああ〜〜 とにかくぼく、探しに・・・ むぎゅッ 」
床を蹴ってとびだそうとするジョ−のマフラ−を アルベルトが再び引っつかんだ。
「 待てったら! ふん、なるほどな。 留守にしますってことはいずれは戻る意志あり、だな。
しかしアイツにどこか・・・当てはあるのか? 転がり込める友人の家とか。 」
「 ・・・・ さ、さあ・・・? ・・・あ! 和泉ジュン君! 彼女なら・・・ 」
「 ああ、あのプロテニスプレイヤ−か。 彼女はこの時期日本には居らんだろ。 」
「 ・・・ あ、じゃあ、あのモデルの ・・・ セリ−ヌ なんとか・・・ 」
「 へ? ありゃ とっくに引退して故郷に帰ったってよ。 」
「 ・・・ う ・・・ う〜〜ん ・・?? でも! だからさ、早く探し出さなくちゃ!
行く当てもなくこの寒空の下、ふらふらしてるなんて ・・・ そんな ・・・
ワルイ人達に捕まったら・・・ どうしよう ・・・ 浚われて身売りされて・・・ 」
ジョ−はすでに半分涙声になっている。
・・・ コイツ ・・・ こんな ウェットなヤツだったっけか?
まあ・・・ フランのコトになると別問題なんだろ。
「 これも! 皆キミ達がくだらない喧嘩なんかするからじゃないかッ!
二人とも責任を取ってもらうから。 ぼくはこれから成田の国際線ロビ−で張り込む。
ジェットは 羽田! アルベルトは東京駅だ、 いいな。 」
「 ・・・ あ、 ああ・・・ 」
「 しかたねえな。 」
「 それじゃ。 なにかあったらすぐ連絡しろ。 いいな、命令だ! 」
・・・ カチッ ・・・
シュ・・・!と独特の音と圧縮空気の匂いを残しジョ−の姿は消えた。
「 ・・・ アイツよぉ なんかいつもと違わねえ? 」
「 多重人格だったのかも、な。 」
「 でもよ、あの恰好でエアポ−トなんぞ行ってみろ? 不審者丸出しだぜ。 」
「 俺たちは <普通>に行くか。 ・・・ 責任はあるからなあ 」
「 ん。 それはな。 ほんじゃ ・・・ オレ、ハネダに行くわ。 」
「 ああ。 俺はトウキョウ駅だ。 そうだ、連絡は携帯使え。 そのほうが自然だ。 」
「 O.K. ・・・ あ〜あ のんびり正月、しようと思ったのによ・・・
コタツみかん が台無しだよ〜〜 」
「 まったくな。 こんな時期に仲間割れはゴメンだぜ。 」
そもそもの元凶どもは 自身の咎などすっかり忘れ果て
溜息まじりに顔を見合わせ ・・・ それじゃ・・・とコ−トやら革ジャンを引っ掛け出かけていった。
・・・ プァン・・・!
間延びした音を残し ロ−カル電車はごとり、と発車していった。
「 ・・・ あ ・・・・ 」
目の前で ドアが閉まったとき、フランソワ−ズは思わずちいさな声をあげてしまった。
直前まで 乗るつもりだった・・・ 当てはないのだけれど。
なぜか 足がそれ以上進まずにホ−ムに貼り付いたまま・・・電車を見送った。
「 ・・・ どうしよう ・・・ 」
エア・タ−ミナルから電車の駅の方へ歩いてきたけれど、行き先は決まっていない。
飛行機も満席、エア・ポ−ト隣接のホテルも通常の部屋は満室だったのだ。
それでは 有名なテ−マ・パ−クにでも行こうか・・と思ったが 空港のTVでは
< 年越しのイベント目当ての客で大賑わい > のニュ−スが映っていた・・・
「 ・・・ どうしよう ・・・ 」
人もまばらなホ−ムに そろそろ夕方の冷たい風が足元を浚ってゆく。
一回都心にもどろうか ・・・
フランソワ−ズは小振りのボストン・バッグを持ち直しホ−ムの表示板を探した。
「 えっと ・・・ 直通の・・・ 」
「 ・・・ あのう ・・・ スミマセン・・・? 」
「 ・・・ はい? 」
突然 ひどくおずおずとした声が 背後から聞こえてきた。
少し妙なアクセントだな・・・と振り返れば 3mほど後ろに薄茶色の瞳の青年が立っていた。
なにやら大きな荷物 ― どうやらバスケットらしかったが ― が足元に置いてある。
「 あのゥ ・・・ トウキョウ に行く電車はドレですか。 」
「 東京駅にいらっしゃりたいのですか? 」
「 ? ・・・ トウキョウエキ ・・・? ・・・お〜 ソウです、そうです。 」
「 直通のエクスプレスがありますわ。 この ・・・ 」
フランソワ−ズは案内板を指差した。
「 アリガトウございます。 ヒコウキに乗り遅れてしまいました。
今日ハもう ぱり行きの便は満員だと言われマシタ 」
「 あら、偶然ですね。 わたしもパリに行きたかったのですが ・・・ 満席でしたの。 」
「 お〜 ふらんすのカタですか? 」
「 Oui, Monsieur . 」
「 Oh〜〜〜〜♪ 」
たちまち青年は 母国語で洪水みたいに喋りだした。
「 ・・・ ああ ・・・ そうなんですか? それは大変でしたね・・・ 」
フランソワ−ズの控えめな相槌など あまり耳に入っていないようだ。
「 明日の朝一でキャンセル待ち? それなら都心まで戻ったら大変でしょう? 」
結局。 なぜか どうしてか なんの拍子か。
件 ( くだん ) の青年とフランソワ−ズは 有名テ−マ・パ−クで夜明かしすることになった。
・・・??? なんだか ・・・ どうして??
でも ・・・ 夜明かしなら。 それに遊園地だし・・・ このヒト・・・面白いわ
久し振りに聞く母国語の響きに誘われたのか、行く当てのない身に共感したのか・・・
フランソワ−ズは もう一人の自分があきれ顔をしているのがよ〜くわかっていた。
でも。
わかってます。
知らないヒトに着いて行ってはイケマセン。
だいたいお前は隙だらけだぞ。
嫁入り前のムスメが外泊なんてとんでもない。
きみって本当に、信じられないくらいお人よしだなあ・・・!
両親に 兄に。 学校の先生に。 ・・・ ギルモア博士に、そして ジョ−に。
いつもいつも 耳にタコができるほど言われてきたことが ちらり、とこころを過ぎったけれど・・・・
でも。
いいのよ。 ・・・ どうせ 行くあてもないんですもの。
今夜は大晦日。 夢の国で過したって だ〜れも文句なんか言わないわよね。
「 ・・・ お嬢さん? お嫌ですか。 」
「 え、 いいえ! さあ、ムッシュウ。 久々に遊園地で楽しみましょう! 」
「 おお! 最高の新年を迎えられますネ 」
青年は満面の笑みを浮かべ礼儀正しくフランソワ−ズに手を差し伸べた。
「 では ・・・どうぞ。 」
「 ありがとう、ムッシュウ。 」
よいしょ・・・ 二人は共に荷物を持ち上げまた笑いあった。
「 ふふふ ・・・ これでは全然ロマンチックじゃないですね。 」
「 こんなものでしょ。 あ・・・ こっちみたいですよ? 」
ホ−ムを歩く二人には 夜風はたいして気にならないようだった。
「 ・・・ お嬢さん? 着きましたよ。 」
「 ・・・ う・・・ん・・・ ・・・・??? あ! イヤだわ〜〜 わたし、眠ってしまって・・・
失礼いたしました、ムッシュウ。 」
「 いえいえ、お疲れのようですね、大丈夫ですか。 」
「 はい! ・・・ あら? ここ・・・? 」
降りた駅は なんだか人少なでとてもこの先に巨大遊園地があるとは思えなかった。
耳元を通る風も 夜の香りしか運んできてはいない。
フランソワ−ズは思わず身を固くして 青年を振り返った。
彼は大きな荷物をそうっと抱え上げていた。
「 乗り間違えたのじゃありません? ここは ・・・ 」
「 はい、 ここは遊園地ですよ。 ・・・ ほうら ・・・ 」
青年の目線を追って空を見上げれば。
「 ・・・?? あ・・・ わあ ・・・・ ! 」
たった今まで がらん・・・としていた空き地の奥に輝くお城が聳え建った。
夜の闇濃かった空間に 煌くクリスタルのライト・リ−スが縦横に廻る。
末枯れた立ち木には 光の花が咲き、その花々の回りを小さな妖精達が飛びまわる。
どこからか ・・・ 華麗なワルツの調が聞こえてきた。
「 ・・・ お嬢さん。 お相手お願いできますか ? 」
「 え・・・ あら?? 」
もう一度振り返ったそこには ・・・ おとぎの国の王子サマが立っていた。
かがやくシルバ−・グレ−のタキシ−ドが ブロンドの髪によく映える。
「 あ・・・でも、わたし。 こんな服ですし・・・ 」
「 ええ、よくお似合いですね、 あなたの美貌にぴったりのドレスだ。 」
「 ・・・ え??? まあ・・・! 」
フランソワ−ズ自身も 真珠色のドレスの裳裾を華麗に曳いていた。
重なる襞にやどる影は ペイル・ブル−、 頭に頂くティアラにも同色の宝玉が輝いている。
「 踊っていただけますか? 」
「 はい、よろこんで。 」
チェンバロの音も華やかに、盛装の二人はゆっくりと踊り始めた。
「 それじゃ 僕は海岸沿いに街に出てみますね。 」
「 おお頼んだぞ。 ワシは連絡係でここに居るから。 ああ、携帯を使っておくれ。 」
「 はい、博士。 あれ? イワンは。 」
「 イワン坊はなあ グレ−トはんが連れて出かけましたデ。
多分 そこいらへ買い物にでも行きはったん、ちがいまっか。 」
「 そういえばグレ−トもいなかったね。 そっちはそのうち帰ってくるよね。 」
「 腹が減ったら戻りまっさ。 気ィ使わんでもヨロシ。
それよか、ピュンマはん、安生頼んまっせ。 ちゃ〜んと見つけたってや。 」
「 うん、この岬周辺は任せてくれ。 」
「 よろしゅう・・・ ワテはここであのコの好きなモノ、作るアルね。
皆はんが帰らはったらすぐに食べられるように宴会の準備もしておくアル。 」
「 うわ〜〜 楽しみだな。
とんだ大晦日になっちゃったけど・・・ じゃあ行ってきます。 あれ、ジェロニモ? 」
ピュンマは玄関のドアを開けた途端に 巨躯の仲間にぶつかりそうになった。
「 ・・・ 替わりに作った。 あのコはコレが見たかったのだろう。 」
「 え・・・ わあ〜〜 凄いや! さすが、ジェロニモだねえ・・・
前に作ったことがあるのかい。 」
ギルモア邸の玄関の左右には 堂々たる門松がふたつ、新年に備え待機していた。
仲間達が この国中から集めてきた材料が作法どおりに使われている。
「 ほう・・・ これは見事じゃな。 うむうむ・・・・ さすがじゃわい。 」
ギルモア博士も 出てきて感嘆の声を上げた。
「 いや。 見たことがあるだけだ。 」
「 へえ! それで・・・ これだけのものを作れるのかい?! 」
「 この樹や藁が教えてくれた。 オレは彼らの意志に従っただけだ。 」
「 ・・・ なるほどな。 ともかくこの門松を囲んで皆で新年を迎えたいのう。 」
「 じゃ、行って来ます。 後をヨロシク、ジェロニモ。 」
「 おう。 」
ピュンマは手を振ると 身軽にギルモア邸の前の坂道を下っていった。
「 さて・・・ ワシはここで皆からの連絡を待つとするか・・・
お! ・・・ モシモシ ・・・? ああ、アルベルト。 東京駅に着いたか。
うん? ・・・ うん、うん・・・ そうじゃろうな、そりゃ混雑して当然じゃろうよ。
ああ、わかった、また連絡を頼む。 」
ふう・・・ 博士は携帯を置くとなんとなく周囲を見回した。
大掃除も終わり、きちんと整頓されたリビングが ・・・ ガラン、と広く感じられる。
普段は 博士の本だの、フランソワ−ズの縫い物だのジョ−の雑誌だの、ちらかり放題なのだ。
特にここ数日は わいわいと大人数で賑やかな空間だったので余計に寒々した気分だ。
「 博士? お茶にします、それとも、冷えますからロシアン・ティ 淹れましょうか 」
そんなフランソワ−ズの声が 聞こえてくる・・・ 気がしてしまう。
・・・ ああ・・・ 彼らがおらんと ・・・ さびしいのう。
どれ、お茶でも淹れるか・・・ 博士は独り言してよっこら ソファから立ち上がった。
「 ・・・ マズったよなあ・・・ 」
ジョ−はタ−ミナル・ビルの屋根の上に座り込み頬杖をついていた。
慌てて加速装置全開で ココ、ナリタ・エアポ−トまで駆けつけたのだが。
「 あ! サンタさんだ〜〜! 」
・・・ いけねッ!
こちらが国際線、それも西欧方面への出発ロビ−だろう、とフロアの片隅で加速を解いたのだが・・
その直後に後ろから可愛らしい声が掛かってきた。
「 サンタさん、そうでしょう? サンタさんも〜お出掛けなの? 」
ジョ−がおそるおそる振り向くと 彼の真後ろに5〜6歳の女の子が立っていた。
亜麻色のお下げが左右にぴん!と跳ね上がり、しっかりとウサギさんの縫い包みを抱えている。
「 ・・・・ や、やあ。 お出掛けかい、お嬢ちゃん。 」
「 そうよ! おばあちゃまトコにゆくの。 ぱぱ と ままん と! あ、ピ−タ−もよ。」
女の子はにこにこして 縫い包みのうさぎサンにキスをした。
「 そうか〜〜 いいなあ。 」
「 サンタさんも? 」
「 う、うん・・・ ぼくはお友達をまっているんだよ。 」
「 ふうん、 あ、 カノジョ? 」
「 ・・・え!? 」
「 あ〜〜 サンタさんのカノジョ〜 ねえ、カノジョもサンタさん? 」
「 う? あ、ああ・・・ あ。ほら。 ママンが呼んでいるよ? 」
「 うん、じゃあね。 ばいばい、サンタさん。 」
「 ・・・ ばいばい ・・・ 」
ジョ−はちっちゃなマドモアゼルに手を振り・・・そっと奥歯のスイッチを噛んだ。
・・・ <サンタさん> でよかったよ・・・ あのコに感謝だなあ〜〜
でも、ここじゃ、こりゃ・・・ マズよなあ・・・
加速状態のまま 広い空港をうろうろしたが ― 結局人目がないのはココだけだった。
それも屋根の凹凸に隠れてなんとか・・・一息ついているのだが、
なにせ、この色だ、下手に動けば警備の目に付くこと受け合いである。
それに・・・
西欧方面行きのロビ−にはフランソワ−ズの姿は見当たらなかった。
こんな時期に もうとっくに満席だろうし・・・
ともかくどこかで ・・・ この服を変えなければならない。
ミッションのつもりで何も考えずに駆けつけたが、この姿では身動きがとれないのだ。
「 どこかで・・・服・・? でも買うにもなあ・・・ どこか・・・この恰好でも目立たない場所・・・? 」
ジョ−は屋根にへばりつきつつ、必死に脳内検索をしていた。
「 あ。 そうだ! アソコなら・・・ 」
非日常な恰好を受け入れてもらうには 非日常な空間に行けばよいのだ。
・・・ うん、あそこなら。
・・・ カチっ!
タ−ミナルビルの屋根、ちょっとした死角にへばりついた赤い影は ひゅん・・・と宙に溶け込んでいった。
「 ・・・ お嬢さん、羽があるみたいですね。 」
「 あら。 ムッシュウこそ。 たいそうダンスがお上手ね。 」
二人きりのダンス・パ−ティは ますます盛り上がっている。
星明りにも似たライト・チェ−ンのもと、おとぎの国の王子と王女は 軽々とステップを踏む。
「 ムッシュウ? あの ・・・ 伺ってもいいですか。 」
「 なんなりと。 」
「 あの ・・・ あなたは 誰? 」
「 おや。 さんざん自己紹介したではありませんか。 ワタシは故郷に帰りそびれた
ドジな旅行者ですよ。 」
「 ・・・ そう? でも ・・・ ちがうわ。 あなた・・・ 魔法使い? 」
「 お嬢さん。 そう仰るアナタこそ、どなたですか。 」
「 わたし・・・ わたしは・・・。 ふふふ・・・ やっぱり故郷に帰りそびれたフランス人よ。 」
「 そうかな? 」
「 ・・・ え ? 」
「 アナタの故郷は ・・・ ココに、この国にあるのではありませんか。
生まれ育った街とは別に、ね。 」
「 ・・・ どうして知っているの。 ・・・ あなたは ・・・ 誰?! 」
フランソワ−ズは 王子サマの手をはずし脚をとめた。
二人のまわりはすべて停止し ただ音楽だけが低く高く夜空に流れゆく。
「 あなたは 誰・・・? 」
「 誰って。 お嬢さん、 アナタの王子サマですよ。 」
「 ・・・ え ・・? 」
「 フランソワ−ズ? 僕だよ ・・・ カ−ルだ。 」
「 ・・・ カ−ル ・・・? 」
「 ごめん ・・・ あの時は本当にごめん。 でも 僕が君を愛したのは本当なんだ・・・・ 」
夜の隅から 一人の青年の姿が浮かび上がりそして また闇に消えていった。
「 あ ・・・ 」
「 どうした、ファンション。 お兄ちゃんだよ。 」
「 ?! お兄さん・・・?! 」
「 元気なのか。 いつもいつも心配しているよ。 小さなファンション・・・ 」
反対の隅から 懐かしい姿が現れ彼女をじっとみつめるとそのまま夜に溶け込んでいった。
「 ・・・ お兄さん ・・・ お兄ちゃん ・・・ 」
「 みんなアナタを愛していますよ。 王子サマの許に行きましょう。 」
「 わたし ・・・? 」
「 アナタは ココから出てゆきたいのでしょう? ここでの生活から離れたいのでしょう? 」
「 ・・・ ち ・・・ ちがう ・・・わ。 」
「 ほう? 故郷に帰りたい、帰るつもりだったのではないのですか? 」
「 それは ・・・ そうだけど・・・ 」
「 あなたの王子サマは ここにはいない。 」
「 うそ! わたしの ・・・ わたしの王子さまは・・・! 」
「 ワタシ、ですか。 」
「 ・・・ あ?! 」
ぱっと振り向いたムッシュウは ・・・ いや、そこにいたのは。
「 ・・・ ジョ−・・・? 」
「 ・・・・・・ 」
ジョ−は さらり、とセピアの髪を揺らして黙って微笑み、彼女に手を差し伸べてきた。
「 ・・・ ジョ− ・・・? 本当に ・・・ ジョ−、なの? 」
「 ・・・・・・ 」
こくん、と頷き <ジョ−> は彼女を抱き寄せ そして。
「 あ・・・ え? うそ・・・ 」
二人は するすると踊りはじめた。
・・・ うそ ・・・! コレってウィンナ・ワルツなのに・・・
すごいわ、ジョ−! こんなリ−ド、初めてよ!
真珠色の裳裾を翻し、 シルバ−・グレイのタキシ−ドも鮮やかに 光の海で二人は踊る。
「 帰っておいで。 皆 待っているよ、探しているよ。 」
「 ・・・ え ・・・? 」
「 キミがいなければ、あそこはボクたちの ホ−ム ではない 」
「 ・・・・・・ 」
「 王子サマ、そう言ってくれたね。 キミの王子様が待っているから。 」
「 あなた ・・・・ ジョ−じゃない・・・わね 」
ゆるり、と回転が止まった。
「 あ〜あ バレてしまったかな。 でもマドモアゼル、キミの王子サマは ほら! 」
< ジョ− > はすい、っと彼女の肩越しに指を差した。
「 え?! 」
・・・ ガサッ!!
大きな衣擦れの音がして 夜の闇の中からなにかきんきらしたカタマリが転がり出てきた。
「 ・・・ う ・・・? 」
カタマリは一瞬地面に蹲ったがすぐに跳ね起きた。
瞬間 上着の裾がひらり、と揺れちかちかと大層な輝きをみせた。
「 ・・・ あの ・・・? 」
フランソワ−ズはおそるおそる声を掛けた。
どうもど派手なタキシ−ドを来た人物らしい。 年齢は・・・多分若い。
なんなの?? これ。
あ・・・あら。 えええ・・??? もしかして・・・
「 ・・・ ここは・・・? あ!! フランッ フランソワ−ズ・・! 」
「 ・・・ええ?? ジョ− ・・? 」
「 ああ ・・・ やっと 見つけたッ! 」
「 きゃ! ・・・ あの ・・・ ジョ−? ジョ−ってば・・・ 」
やたらときんきらしたタキシ−ドに無理矢理身体をつっこんだ・・・風な青年は
がば! と フランソワ−ズを抱き締めた。
「 ・・・ ねえ、 ジョ−? ちょっと ・・・ 離してくださらない。 」
「 だめだよ ・・・ そんなコトしたら キミはたちまち宙に溶け込んでしまいそうなんだもの。 」
「 どこへも ・・・ 行きません,ここにちゃんといますってば。 」
「 だめだ ・・・ だめだよ。 ああ・・・ もう二度と離さない! 」
「 あ〜あ もう〜。 折角 <王子サマ> と気持ちよ〜〜く踊っていたのに・・・ 」
「 フラン ・・・ フラン〜〜〜 ぼくの大事な大事なタカラモノ! 」
「 ジョ−ったら! ああ、ねえ、お願いよ、離してちょうだい。
ねえ、今まで・・・ どうしていたの? ・・・ これって舞台衣装みたいねえ? 」
フランソワ−ズはやっとのことでジョ−をひっぺがし、つくづくと彼を見つめた。
確かにカタチはタキシ−ド、なのだが。
いたるところにスパンコ−ルやブレ―ドが付き捲り きらきら・・・を通り越し目がちかちかしてしまう。
「 あ・・ これ? 」
ジョ−はぱっと真っ赤になり、きんきらのタキシ−ドを引っ張った。
どうも ・・・ かなり窮屈そうだ。
「 ぼくさ、ものすごく慌ててたんで・・・ウチを防護服で飛び出して来ちゃったんだ。 」
「 まあ・・・ 」
「 きみがフランスに帰っちゃったら大変!って思ってさ、加速装置全開で成田に着いたんだけど・・・
あの服じゃね・・・・ それであのテ−マ・パ−クでなにか服を借りようと思ってたんだ。 」
「 ・・・ 服を?! テーマ・パ−ク??」
「 あそこなら目立たないと思って・・・そしたら廃棄物のとこに古っぽい衣装が積んであったんだ、それで、これ。 」
「 それで そのきんきらな服を? 」
「 うん。 防護服の上に着込んだから もうきつくて・・・ 」
・・・・ ぷっ!
フランソワ−ズは しばらく目を真ん丸にしていたがとうとう吹き出してしまった。
「 あ、笑うなよ〜 それで
きみを探しに行こうとしたら、急に身体がふわ・・・ってなって
次の瞬間 ココにいたんだ。 ねえ、ここはどこなのかな。 」
「 え・・・ 多分 妖精の国、 かも・・・ 」
― 僕ガ呼ンダノサ!
隅に置いてあったムッシュウの荷物から 聞きなれた言葉が二人の頭の中に飛んできた。
「「 ・・・ イワン? 」」
― アタリ。 ・・・ア〜ァ・・・働キ過ギテ疲レチャッタヨ、僕。
「 ほうほう。 それでは我々はお先に失礼するぞ?
ああ、ボーイ? ちゃんとマドモアゼルをエスコ−トして帰ってくるんだぞ! 」
今度はのんびりしたオヤジ声が飛んできた。
「 ?? ・・・ あ! ムッシュウ ・・・ じゃなくて グレート! 」
タキシードの王子さまは 見慣れた禿げ頭のオジサンに変わっていた。
よいしょ・・・っと彼は大きなバスケットを抱えた。
「 じゃあな。 」
ばちん とウィンクを合図に二人の姿は夜の闇に溶け込んでしまった。
ふらんそわ−ず? キミガイナクチャ だめ ナンダ! 皆 心配シテルヨ〜
赤ん坊らしからぬ言葉が冬の夜空に吸い込まれていった。
「 ふわ〜〜・・・・ あああ ・・・ 徹夜は応えるなあ・・・ 」
グレ−トがとんとんと腰を叩いている。
サイボ−グ達は ともかく初日の出を拝み 三々五々ギルモア邸に戻り始めた。
「 あはは・・・ そうだろうねえ。 ず〜っと踊っていたんだろ? 」
ピュンマが ドン、と背をたたいた。
「 グレ−トとイワンのお蔭だな、すまん。 」
アルベルトが素直に詫びている。
「 て〜〜〜! そもそもオレらがよ〜 わりィ! 」
「 もういいって。 グレ−ト、お疲れさん。 」
「 いやいや・・・ なにもかもマドモアゼルのお蔭であるよ。
彼女がいないってだけで我々は何にも手につかなかったじゃないか。 」
「 ふふん。 特に誰かさんはなァ。 」
「 ・・・・・ ははは ・・・ そういうコト! 」
「 俺達は やはり、一人でも欠けてはダメなのさ。 」
「 ・・・ ところで 二人は? さっきは一緒に岬にいたよねえ? まだ海岸かな。 」
ピュンマが振り返り 海の方を探している。
「 おい。 新年早々ヤボなことは言いっこなし! 」
「 ・・・ あ! あ、そっか。 」
「 うお〜〜〜 飲むぞぉ〜〜〜 」
「 おう! 相手になってやる。 」
赤い服の一行はにぎやかにちょっと古びた洋館を目指していった。
カ−テンを引いても 芳しい新年の光は遠慮なく入って来ていた。
つい さきほどまで絡みあっていた二つの身体は今、穏やかに寄り添っている。
「 え。 きみ、わかったの? あの王子サマはぼくじゃないって・・・ どうして・・・・? 」
「 ふふふ・・・ だってね。 あの < ジョ−> はとってもダンスが上手だったもの。
まるで ・・・ 羽が生えたみたいに軽々とわたしをリ−ドして踊ったわ。 」
「 ・・・ それが・・? 」
「 だ〜から。 ジョ−、あなた。 運動会のフォ−ク・ダンスと盆踊りしかできないじゃない。
あのワルツの足捌きは ・・・ 日本人のものじゃなかったわ。 」
「 ・・・ どうせぼくには盆踊りがお似合いさ。 」
「 あら、民族舞踊って大切なのよ。 」
「 ふん。 それじゃ ・・・ ほんとうのぼくかどうか。
もう一度、じっくりきみ自身で確かめたまえ! 」
「 ・・・ あ、 きゃ ・・・・ ♪ 」
・・・ 穏やかな元旦が ギルモア邸にも廻ってきていた。
**************
Fin. *************
Last
updated : 06,10,2008.
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******* ひと言 *******
またもや激しい季節外れなハナシで申し訳ござりませぬ <(_ _)>
はい、原作のあのオハナシ〜〜 例によってフランちゃん・バ−ジョンであります♪
( 以前にも 後日談 を書きましたが まあ・・・アレとはベツモノと思ってくださいませ )
・・・ ともかく フランちゃんは わあ〜〜 ・・・なんて泣いて引っ込むヒトじゃない! と
思うのです (#^.^#) ジョ−君は大慌てだったでしょうけど。
それでちょっと、妄想してみました。 グレ−ト氏は役者さんですし 英国紳士ですから
ソシアル・ダンスはお得意でしょう♪ あ・・・ 二人の華麗なるステップを見たいなあ〜〜
ジョ−君は ・・・ 盆踊り専門です(^_^;)
これは L様のリクエストでもあるのでした。 L様、 妄想へのパワ−をありがとうございました〜〜