『 My   J ( マイ ジェイ ) 』

 

 

 

 

 

 

 

サク サク サク  ・・・・・

足元で海砂が乾いた音をたてる。

ざ・・・・・ ざわざわざわ ・・・・ざ ・・・・ ざ ・・・

アタマの上では 松の巨木たちが風にその葉を揺らし波にも似た音色を響かせている。

 

「 ・・・ ああ ・・・!  これが海岸の風景なのですね。 」

 

青年は ふと脚をとめると、ほう・・・っと大きく息を放った。

「 うん・・・ これが砂の感触なんだ。  ああ・・・ 樹だな〜 ごつごつしてでも硬くはない・・・ 

 この葉は 面白ですねえ。  ・・・いてて・・・ けっこう鋭いなあ。 

ぽんぽん松の幹を叩いたり、低い枝に手をのばし葉を触ったり。 彼は夢中になっている。

「 ふふふ・・・ そんなに珍しいかしら。 海辺に出たのは初めて? 

つれの少女はとうとう小さな笑い声を上げてしまった。

松の根方に石造りのベンチに腰をかけ、笑顔で青年を見つめている。

「 隣に座っても いいですか。 」

「 ええ、勿論。 どうぞ? 」

「 はい、ありがとうございます。  ・・・ 石、ですね。 自然のものは暖かいです。 」

「 あなたはとても感激屋さんなのね。 」

「 え・・・ あはは・・・・やっぱりヘンですか。 そうか・・・ そうだよなあ。 」

「 ヘンじゃないけど。  なんだか・・・ちっちゃな子みたい。 楽しそうでいいわね。 」

「 楽しいです! 海とか海岸とか。 情報は持っていますが実際に触れたのはこれが初めてです。  

 あ・・・ 海の中は経験しましたけど。 」

「 ・・・ え? だってあなたは・・・ 山崎博士の・・? 」

「 はい。 あの基地の中で生まれ博士と脱出するまで 一度も外の世界を見たことはなかったのです。 」

「 ・・・ まあ ・・・ そうだったの・・・ ごめんなさい、笑ったりして・・・ 」

「 いえ! 僕はこんなに嬉しいことはないです。 」

青年は ぽん、と立ち上がると 両手を大きく振上げた。

 

「 ・・・ 空 ・・・!  海 ・・・・!  ああ〜〜〜 なんて広いんだ。 なんて自由なんだ・・・! 」

 

「 これからはあなたも自由でしょう? 山崎博士と自由に暮らせるわ。 」

「 はい! 博士を助けてできるだけのことをしたいと思っています。 それが僕の使命ですから。 」

「 そうね。 ねえ ・・・ お友達になってくださる? 」

「 ・・・ え ・・・!?  い、いいのですか。 だって僕は・・・ 」

「 わたし達のこと。 知っているでしょう?  ・・・ わたしも、よ? 」

「 いや ・・・ それはそうだけど。 でも僕は・・・ その ・・・ 」

「 ・・・ 迷惑だったかしら。  」

海風が少女の亜麻色の髪をさらさらと梳いてゆく。 

青年は 濃い茶色の短髪をがしがしとかきまくっている。

「 そんな! とんでもない〜〜! でも・・・ 」

「 それじゃ、問題はないわね。  よろしくね、 わたしの名前は フランソワ−ズ・アルヌ−ルよ。 」

ひらり、と白い手が青年の前に差し出された。

「 あ・・・ はい! 僕は。 博士から頂いた名は ジャック といいます。 」

「 ジャック? 山崎ジャックさんね。 」

「 はい。 こういう・・・ 字を書きます。 」

青年は屈みこんで白砂に指文字を書く。

「 ・・・ まあ・・・ 難しい字ねえ・・・ あなたは <日本人> なの? 」

「 博士の亡くなった息子さんのお名前を頂きました。 」

「 ・・・ そうなの。 そう・・・ 素敵ね。 山崎博士の思いも頂いたのね。 」

「 ・・・ フランソワ−ズさん。 あなたは・・・ あなたこそ、本当に素敵な方だ・・・! 」

「 ありがとう。 ね? 握手。 してくださいな、ムッシュ・ヤマザキ。 」

「 あは・・・! あの〜 爵 ( ジャック ) と呼んでください。 」

青年、 いや、 ジャックは目の前の白い手をおそるおそる握った。

「 よろしく、ジャック。 わたしも フランソワ−ズ  ね? 」

「 はい!  」

松林を揺らした風が ジャックの真っ赤になった耳をちょこっとだけ冷やしていった。

「 うれしいわ。 わたし達に新しい仲間ができたのですもの。  心強いわ。 」

「 それは僕の方です! 皆さんはあの研究所に住んでいるのですか。 」

「 普段は ギルモア博士とイワン ・・・ あ、あの赤ちゃんね。 あとはジョ−とわたしだけ。

 張大人とグレ−トは中華飯店をやっていてね、ヨコハマに住んでるの。 

 今はアルベルトとピュンマが まだそちらに滞在しているわ。 」

「 ジョ−さん ・・・とはあの栗色の髪の方ですね?  一番初めに僕に話しかけてくれた・・・ 」

「 ええ。 わたし達のリ−ダ−なの。 ・・・ くしゅん ・・・! 」

「 あ。 クシャミですね。 もう戻りましょう! まだ風は冷たい季節ですよね。 」

ジャックはそっとフランソワ−ズの肩に腕を回した。

「 こうやって ・・・ 僕が風除けになれば。 少しは暖かいかもしれません。 」

「 ・・・ あら。  ふふふ・・・ ありがとう。 それじゃ帰りましょうか。 

 ちょっとお昼には早いから 朝のお茶の時間にしましょう。 」

「 お茶? ・・・ ああ! ティ−・タイムのことですね? 」

「 そうよ。 昨日焼いたシフォン・ケ−キがあるから。 美味しいカフェ・オ・レを淹れるわ。 」

「 うわあ〜〜 すごいな。 僕、初めてですよ! 感激だな〜 」

「 ね? これから少しづつ慣れていったらいいわ。  その ・・・ 普通の暮らしに。 」

「 はい。 」

 

    まあ・・・ このヒト・・・ 本当に<普通の世界>は初めてなのね。

    普通なら そのジャケットを脱いで女の子に着せるものなのに・・・

 

ふふふ ・・・ 軽い笑みが彼女の唇にのぼる。

風は冷たいのだけれど。  こころはちょっぴりぽかぽかしてきた・・・!

フランソワ−ズは ほんの心持ちジャックに身体を寄せ ギルモア邸目指して歩き始めた。

 

 

 

闘いの合間に 穏やかな日々が回ってきていた。

サイボ−グ達はそれぞれの故国にもどり、ギルモア博士はコズミ博士の口利きで 岬の突端に

研究所を建てた。

博士は本拠地としてこの極東の島国を選んだのだ。

博士とイワン、 そしてジョ−とフランソワ−ズが一緒に暮らしている。

 

「 ・・・ お〜い・・・ 誰か〜 フランソワ−ズ、おるかな。 」

「 えっと。 散歩に行ったみたいですよ。 」

のそり、と現れた博士に ジョ−はキッチンから返事をした。

博士はおや?という顔でがらんとしたリビングを見回している。

ジョ−はコ−ヒ−・ポットを手にしたまま顔をだした。

「 お? そうか。 ジョ−・・・・ お前は? 彼女は一人で散歩に行ったのかな。 」

「 いえ。  あの ・・・ ヤマザキ博士のとこの、アイツと。 」

「 うん? ・・・おお、あの彼か。 ほう、またきていたのか。 ヤマザキ君の用事でもあったのかの。 」

「 さあ? ぼくが下に降りてきたときには もう二人とも散歩にでてましたから。  ほらこのメモ。 」

ジョ−はひらひらと紙切れをつまみ上げた。

「 博士、コ−ヒ−、淹れましょうか。 ぼく、これから朝食なんで。 」

「 ああ? そうじゃなあ、頼もうか。 ・・・ ジョ−、なにかあったのか。 」

「 え・・・べつに。 じゃ・・・ちょっと待っててください。 アルベルトに美味しい淹れ方、習ったから。 」

「 ほう、それは楽しみじゃな。 

「 じゃ。 そっちのソファで待っててください。 」

栗色の髪の青年は 仏頂面を残してキッチンに引っ込んだ。

 

   なんじゃ? ジョ−にしては珍しく不機嫌そうじゃなあ・・・

 

一番最後にメンバ−に加わった彼はいつも穏やかな表情を浮かべていた。

動機はなんであれ、ギルモア博士がテクニックの極みを駆使して <創り上げた> 最強の戦士、は

この家ではごく普通に、穏やかに  どこにでもいる青年として暮らしている。

 

「 ヤマザキ君の、アイツか。 たしか ・・・ う〜ん、なんと言っておったかのう? 

 なかなかの好青年ではないか。 彼ともいろいろ、協力してゆきたいものじゃ。 」

「 ・・・ コ−ヒ−、どうぞ。 」

ジョ−はぼそり、と言って博士の前にカップを置いた。

「 ・・・ああ? ・・・ おお〜〜 これはいい香りじゃな。 ・・・ うん・・・! 腕を上げたな、ジョ−。 」

「 へへへ・・・そうですか。 アルベルトにさんざん怒鳴られた甲斐があったなあ。 」

「 ははは・・・アイツは拘りそうだからな。  ・・・ うん、美味い。 これならそこいらのカフェにも

 負けんぞ。 あの青年にも御馳走してやったらどうだ。 」

「 さあ・・・ 気に入りますかね。 だいたい飲んでくれるかどうか。 」

「 ジョ−? なんだ。 なにが気に喰わないのかね。 」

「 ・・・え? べ、べつに・・・ ただ、フランソワ−ズがお節介するから・・・ アイツに気を許して。 」

「 おいおい。 彼はヤマザキ君の <息子> じゃよ。 彼の話を、ジョ−、お前も一緒に

 聞いておったじゃろうが。 彼らもまた危険を承知で脱出してきたのじゃ。 」

「 ・・・ それは。 承知してますよ。  あ、博士。 なにかご用時だったのではありませんか。 」

「 お! そうじゃった、そうじゃった。 ワシの換えのワイシャツがな〜 どこに入っておるかと・・・・ 」

「 あ〜 それは・・・ フランじゃないと判らないですねえ・・・・ ちょっと迎えに行ってきます! 」

ジョ−はカップを置くと、身軽にソファから立ち上がった。

「 おいおい・・・そんなに急がなくてよいよ。 帰ってきてからで十分・・・ ありゃ。 」

ジョ−は。 それこそ彼の < 能力 ( ちから ) > を使ったごとく・・・ あっという間に

リビングから姿を消してしまった。

 

    ・・・・ バタン ・・・ !!

 

まもなく階下の玄関ドアが 大きく開いて  閉まった。

「 ・・・ ほっほ。  ふう〜ん・・・なぁんじゃ〜 ジョ−のやつ。 ヤキモチかい。 

 ま。 無理もなになあ。 あのお姫さんをヨソモノに取られそうなんじゃからな・・・ 」

博士はクスクス笑うと、美味コ−ヒ−の残りをずず・・・っと啜った。

 

 

 

門を出ると さ・・・・っと海風がジョ−の長めの前髪を吹き上げた。

「 ・・・ おっと。  ふん。 ヤツは黒髪短髪で黒目じゃないか。 ・・・全然似てないぞ! 」

ジョ−はぶつぶつ独り言を風と波の音に飛ばした。

「 そうさ。 似てないよ。 きみのお兄さんとは 全然ちがうじゃないか。! 」

 

 

   ・・・ 似てるの。 あなた・・・ちょっとだけ。

 

   似てる? ぼくが。 ・・・誰と?

 

   ええ ・・・ あの。 わたしの兄と。 ジョ−、あなたはちょっとだけ似ているの・・・

 

   ふうん? ソイツ、今は。

 

   兄? ・・・ ええ、元気でいるみたい。 多分 ・・・

 

   ふうん。  なら、帰ればいいじゃないか。 愛する家族のトコにさ。 

   もうきみは自由なんだから。

 

   ・・・・ 帰れるわけ ないわ。  こんな ・・・ 姿になって ・・・

 

   見かけは変らないと思うけど? わかるもんか、普通の人間には。

 

   あなた、なんにも判っていないのね!  < 変れない > のよ? ・・・永遠に。

   そんな ・・・ 姿、 家族に見せるなんて・・・

 

   ・・・ ごめん ・・・

 

 

「 あの時。 いいのよ、って言ったけど。 きみって。 いつもどこかでぼくの中にお兄さんを捜してるんだ。

 ああ、それでもいいさ。 ぼくを見つめてくれるなら。 きみが ・・・ あの空みたいな目で・・・

 海よりも深い青でじっとぼくを、ぼくだけを見つめてくれれば、それで。 ・・・ 海か。  ・・・ くそ! 」

ひゅん ・・・ 

小石がひとつ 大きな弧を描き飛んでゆく。

「 なんだよ! アイツ・・・。 大きな眼でじろじろフランソワ−ズを見てばかりでさ。

 多少難アリ、なのかい? 海の中で故障したんだろ、不完全品だよ、どうせ。 

 フン! 一度ちゃんとメンテナンスしてもらったほうがいいんじゃないか。 

 フランもフランさ!  あんなににこにこして・・・ 散歩なんてぼくとだってあんまり行かないのに! 」

ふん・・・! 

そもそも・・・あんな海の中で出会うなんて、さ。  ・・・ちぇ!

ジョ−は足元の小石を思いっきり蹴飛ばすと 海岸にでる道を駆け下りていった。

目の前には その<海>が穏やかな水面をみせ、ゆるりゆるりと揺れていた。

 

・・・ そう、彼らとはあの海の中で巡り会ったのだ。

頻繁に出没する正体不明の飛行物体を追っていた時のことだった。

 

 

「 ・・・! 3キロ前方で爆発音! ・・・ ああ?? なにか ・・・ 飛行物体が海から浮上して

 そのまま西北西の方向に飛び去ったわ ! 」

「 なんだって? 」

「 ・・・あ! レ−ダ−が ・・・う〜ん・・・ 追いきれん! 」

モニタ−の前でグレ−トが忌々しげに声をあげた。

「 爆発音って ・・・ 原因はわかるかい 003。 」

「 ・・・ いいえ。 どうもなにか ・・・ ミサイル攻撃があったみたい。 海底が一部大きく崩れているの。 」

「 ふうん? ちょっくら見てくるよ。 」

「 ぼくも行く。 003? 周囲の索敵を任せるよ。 004、さっきの旅客機事故の方、頼む。 」

「 了解。 」

「 我輩も行くぞ! 魚にでも変身すれば海は天国だからな〜 お〜い、008〜〜待ってくれ。 」

3人はばたばたと潜水艦の脱出用ハッチへと駆けていった。

「 これは ・・・ 事故じゃあねえな。 」

スクリ−ンで海底の様子を探査していたアルベルトが呟いた。

「 事故じゃない? さっきの墜落は ・・・ それじゃ・・・ 」

「 ああ。 お前、その目で見てみろ。 主翼と胴体部分に機銃掃射を受けた痕がある。 

 ほら、ここも、そっちもだ。 この旅客機は撃墜されたのだ。 」

「 なんですって?! 」

「 こっちにエンジンの残骸が見える。 これは完全に破壊されてるな。 」

「 一般の人々が沢山乗っている旅客機を攻撃するなんて・・・! 許せないわ! 」

「 ああ。 しかし それがヤツらの常套手段だ。 問題はヤツらの目的はなにか?? 」

「 さっきの爆発音と関係があるのかしら。 」

「 それをジョ−達が調べに行ったのさ。  」

「 そうね。 ・・・・あ! 帰ってきたわ。   ・・・あら??? 二人、増えてる。 」

「 増えてる、だと? 」

「 ええ。 一人は生身の人間ね。 もう一人は・・・ 」

< 004? ハッチを開けてくれ。  003〜 お客さんだ、医務室の用意を頼むよ。 >

< ジョ−?! どうしたの? 誰か怪我・・・? >

< 違うよ、003。 君にも見えるだろ? お客さんの一人は生身で・・・ちょいと潜水が苦手みたいなんだ。>

< ピュンマ! わかったわ。 早速博士にも準備のお願いをしておくわね。 >

< サンキュ。 >

< マドモアゼル〜〜〜 我らが名シェフにティ−タイムの準備を頼んでおくれでないか。

 我輩の腹のムシが五月蝿くてなあ〜〜 >

< はいはい・・・ 皆さん、お疲れ様。 >

「 おい! 急いで収拾しろ! さっきの一味がうろついているかもしれん。 」

「 チ! 水中だとオレ様の出番がねえなあ〜 」

「 操舵席に座れ。 ジョ−達を拾ったらすぐに発進だ。 」

「 了解〜〜 ふん、人使いが荒いオッサンだぜ。 」

「 ・・・ 何か言ったか! 」

「 no problem 〜〜〜 ♪ 」

のっぽの赤毛は口笛を吹きつつ、操舵管を握った。

 

 

 

「 ・・・ギルモア博士・・・! ギルモア博士ですな! 」

「 いかにも アイザック・ギルモアじゃが。 そういうあんたさんは・・・ 」

ぬれねずみのオトコは 医務室のベッドで歓声を上げた。

彼は息も絶え絶えにゼロゼロ・ナンバ−達の潜水艦に担ぎこまれたが別段負傷しているわけではなかった。

「 おお 失礼いたしました。 ワシは山崎といいます。 ロボット工学が専門でして。 」

彼の < 連れ > が 彼を機銃攻撃と旅客機の墜落から 身を挺して守ったのだ。

「 ほう・・・ それでは? 」

「 左様、コレはワシの手がけたものです。 ワシも ― ブラック・ゴ−ストにおりましたゆえ。 」

「 なんですと? 」

ギルモア博士は驚愕し、医務室の手伝いをしていた003は咄嗟に博士の前に出て庇った。

「 お嬢さん、ご安心ください。 ワシもあの組織を抜け出しました。

 それもギルモア博士が9人のゼロゼロナンバ−・サイボ−グの諸君らとあの島を脱出した、と

 知りましてな。 ・・・ 虎視眈々とチャンスを狙っていたのです。 」

「 おお・・・ そうですか。 それではあの旅客機で? 」

「 いや。 この・・・ 彼の力を借りて逃げ延びましてある場所に隠れておったのですが。

 ギルモア博士がサイボ−グ諸君と日本にいる、とのウワサを耳にしまして、お訊ねする最中でした。 」

「 まあ。 それでは ・・・ BGは貴方達を狙って、あの旅客機を? 」

「 ・・・ 左様 ・・・ 」

山崎博士は白髭を揺らし項垂れた。

「 ワシらが乗っていたばっかりに・・・ 多くの乗客たちを犠牲にしてしまった・・・申し訳ない・・・ 」

「 山崎君。 それは君の責任ではない。 

 しかし なんだってヤツらは君たちを付け狙うのだね。 この・・・彼にはなにかヒミツが? 」

ギルモア博士は 山崎博士の脇にぴたり、と控えている青年に目をやった。

「 いや、ヤツらはワシが集めた情報が広まるのを恐れたのでしょうな。 」

「 ほう? ・・・ 時に山崎君。  よかったら・・・ ワシらの家の近所に住まんかね。 」

「 ええ?? よいのですか。 」

「 勿論じゃよ。 ワシの旧友での、 ドクタ−・コズミというオトコがあの付近の地域に詳しいのじゃ。

 彼の口利きであの地を本拠地にしたらいい。 」

「 おお! それは嬉しいです! ワシもまだまだ・・・開発したい技術がありますし。

 コレももっともっと有能な存在になって欲しい・・・ 」

山崎博士は 頼もし気に側に控える青年をみやった。

「 博士。 わたし・・・コズミ博士にちょっとご連絡、取ってみますね。 」

どうも博士達は二人きりでいろいろ相談したい風だったので、フランソワ−ズは気を利かせた。

「 すまんなあ・・・ 頼むよ。 」

「 はい。  山崎博士? お食事をお持ちしますか?  」

「 お嬢さん、 いや・・・ お茶を一杯頂戴できますかな。 

「 はい、少々お待ちください。 あの・・・ その方は? 」

「 ああ、これは大丈夫です。 ご心配なく。 」

「 ・・・はあ。 それでは・・・ 」

フランソワ−ズは 山崎博士の側に立つ青年に目礼し 医務室を出た。

 

    大丈夫・・・って。 あのヒト・・・ サイボ−グなのかしら・・・・

    暖かい色の目をしていたわ・・・ あの国の人たちと同じね。

 

サイボ−グ達を乗せた潜水艇は密かに 東の果ての島国を目指していった。

・・・ かれら ― サイボ−グ達 ― は。  気がついていなかった。

一匹のイルカがじっと。 その潜水艇の行き先を窺ってういることを・・・! 

 

 

 

 

「 ただいま〜!  ただいま戻りました、博士。  あら ジョ−は? 」

「 ・・・ お邪魔します、ギルモア博士。 」

「 お帰り。  おや、 ジョ−と会わんかったかね。 さっきお前達を迎えに出ていったのだが。 」

博士はリビングのソファで新聞を広げていた。

「 いいえ? ねえ、会わなかったわよねえ? 」

「 はい。  僕達は一本道を登ってきましたが誰ともすれ違ってはいません。 」

「 行き違いかのう。  コ−ヒ−でもどうかな? え・・・っと・・・ 」

「 ジャック。 ミスタ−・ジャック・山崎、あ、 山崎 爵 さんです、博士。 」

「 おお、そうじゃった! 申し訳ない。 ジャック君? どうです、この地での暮らしは。 」

「 はい! 素晴しいです。 空も海も ・・・ 松も砂も。

 そしてこんなに素敵な方々と知り合いになれて。 本当に嬉しいです。 」

「 それはよかった。 時に山崎君はどうしているかね。 最近ちっとも顔をださんが。 」

「 申し訳ないです。 博士はもう、研究に夢中で・・・ 没頭なさっている時には声をかけても全然。

 仕方ないですから 食事とかの時には強引に召し上がっていただいています。 」

「 まあ・・・! ウチと同じねえ〜〜 」

「 ・・・おいおい、フランソワ−ズ? ワシはちゃんと食卓についておるじゃないか。 」

「 博士? お食事ですってお呼びしたらすぐにいらしてくださいね。 冷めてしまいますわ。  」

「 ははは・・・こりゃ、やられたな。 すまんすまん・・・ 」

「 ・・・ みなさん 仲がよくて・・・いいですね。 これが 家族 なんですね・・・・ 」

父娘にみえる二人の遣り取りを ジャックは微笑んで見つめている。

「 キミもな。 山崎君の家族なんじゃよ。 」

「 ・・・ え ・・・ 」

「 そうよ。 そして、わたし達の大切なお友達だわ。 あんなところで会えるなんて。

 本当に運命の引き合わせだったのよ。 ねえ、博士。 」

「 そうじゃなあ。 いろいろ・・・協力して行こうな。 ジャック。 」

「 はい! ああ、嬉しいです。 僕には家族と ・・・ 頼もしい仲間がいるんだ! 」

「 そうよ。 あなたは。 ううん、わたし達は一人ぽっちじゃないのよ。 」

うんうん・・・とギルモア博士も頷いている。

「 そうですね。 皆さんと協力してなんとかBGの企みを潰したいものです。僕はそのためならなんだって! 」

「 ふふふ・・・頼もしいわね。 じゃ、まずはね、わたしの焼いたケ−キと美味しいカフェを味わって下さいな。

 とりあえずはソレがあなたの今の使命よ。 」

「 おお、おお、そうじゃな。 お前のバナナ・シフォン・ケ−キは絶品じゃからな。

 キミもきっと気に入るぞ、ジャック。  ジョ−なんぞは一切れじゃとても収まらんのじゃよ。 」

「 今、お茶の支度をしますから。 そこで寛いでいてくださいな。 」

「 いえ! 僕もお手伝いいたします、 フランソワ−ズさん。 」

「 < フランソワ−ズ> よ、 ジャック。 」

「 あ! ごめんなさい。 え〜っと・・・ 」

えへん、といささかわざとらしく咳払いをしてか青年は息を吸って。

「 ― フランソワ−ズ。 」

「 はい。 それじゃ ・・・ その棚からケ−キ皿を出してくださいな。 え〜と4枚ね。 」

「 はい!   あれ、ジョ−さん、まだ帰ってきませんね。 」

「 そうねえ・・・ でも心配はいらないわ。 彼、メンバ−の中で最強なのよ。 」

「 ああ、そうなんですか。  あの ・・・ フランソワ−ズさん、 いえ フランソワ−ズ。 」

「 はい? 」

「 あの! お願いが・・・ アリマス。 」

「 なにかしら。 わたしに出来ることならばいいのだけれど・・・ 」

「 はい。 あの・・・・。 僕にシフォン・ケ−キのつくり方を教えてください ! 」

「 ・・・えええ??? あなたに? 」

「 はい! 山崎博士にも作って差し上げたいのです。 博士も ・・・ 仕事に没頭すると

 食事とか全然・・・お留守になってしまう方ですから。 」

「 まあ、そうなの。 ええ、よろこんで。  あら? そのブルゾン・・・肘が擦り切れそうよ? 」

「 え? ・・・ ああ、気が付きませんでした。ず〜っと着ているから・・・ 」

「 ずっと・・・って。 ジャック、あなた ・・・ お洋服はどうしているの。 」

「 洋服? ああ、初めに博士が・・・あの基地でもらったものです。 このブルゾンもズボンも。 」

「 まああ!!! ね! あとで一緒に買いに行きましょう! 」

「 え・・・ 別にこの肘には何か布切れでも貼り付けておきますが? 」

ジャックはケ−キ皿を並べフォ−クやスプ−ンも取り出しつつ、怪訝な顔をしている。

「 そういう問題じゃなくて。 ああ、ちょっと待っててね。 ジョ−の服を借りてくるわ。 」

「 はあ・・・ そんなに急がなくても肘が破けていても別に僕は・・・ 」

「 わたしがイヤなの! 」

フランソワ−ズは全てを放り出し ぱたぱたと二階へと上がっていった。

 

 

「 ・・・ ジョ−・・・ ちょっとお留守にごめんなさい・・・ 」

コンコン・・・と軽くノックの真似だけして フランソワ−ズは彼の部屋のドアを開けた。

 

「 ・・・わ!? な、なんだい、急に。 」

「 え?! やだ、ジョ−!? 帰っていたの? 」

「 ・・・ うん。 まあ ね ・・・ 」

誰もいないはずの部屋には その部屋の主がぼんやりベッドにひっくり返っていた。

「 ごめんなさい! 誰もいないと思って・・・ あら、でもいつ戻ったの? わたし、気がつかなかったわ。 」

「 ・・・ 玄関から入らなかったから。 」

「 ??どうして?  お茶にしようと思ってたのに。 ジョ−ってばどうしたのよ。 」

「 別にどうもしない。 」

「 そう? なら・・・いいけど。  あ、ねえ? お願いがあるの。 ジョー、あなたの服をどれか一着、

 譲ってくださらない?  着ないのとか、好きでないのがあれば・・・ 」

「 服? どうするんだい。 

「 ジャックに貸してあげようと思って。 とりあえず買い物に行く間だけでも・・・ 」

「 ・・・ え。 」

「 彼ね。 気がつかなったわたしのせいなのだけど。 着た切りスズメだったのよ。

 あの服 ・・・ あの基地でアイツらのお仕着せですって。 ・・・ そんなの、イヤじゃない! 」

「 きみのせいじゃない。  ・・・ わるいけど。 ぼくのサイズではアイツには小さいよ。

 アルベルトかジェットのを借りたら。 」

「 あら・・・ そんなこと、ないと思うわ? それに ほんの一時だから大丈夫よ。 」

「 ダメだよ。 ぼくの服はアイツには合わないって! 」

「 ・・・ そう? それなら ・・・ 留守にクロ-ゼットを開けるのはイヤなんだけど・・・ 

 ジェットかアルベルトのを借りるわ。 」

「 別にいいんじゃないかい。  あとでちゃんと説明すれば判ってくれるさ。 」

「 ええ・・・ そうね。 」

「 ・・・ ぼく、ちょっと用を思い出した。 出かけてくるね。 」

「 あ・・・ ジョ−ってば。 お茶と ・・・ 昨日のケ−キがあるのよ。 」

「 ・・・ 帰ってからもらうよ。  ・・・ じゃあね。 」

「 行ってらっしゃい・・・ 早く帰ってね・・・ 」

「 ・・・・・・・ 

黙って手を振ると ジョ−はすたすたと自分の部屋から出ていってしまった。

 

    きみが。 ぼくに選んでくれた服を ・・・ アイツになんかやれるかよ!

 

    ジョ− ・・・ どうしたの? なにが・・・気に喰わないの???

    このごろ、 ううん、ここに帰ってきてからずっと機嫌が悪くない・・・?

 

玄関のドアがやけに大きな音をたてて閉まった。

「 ・・・? 本当に。 ジョ−ったらどうしたのかしら。  どこか具合が悪いのかしらねえ。

 メンテナンス、もう一回って博士にお願いしてみたほうがいいかも・・・ 」

溜息がまた一つ。

「 あ、いけない・・・! ジャックが待っているわよね。 じゃあ ジェットの服・・・・だめ!

 ・・・いくらなんでもジャックが気の毒だわ。 ちょっとシブ目だけど アルベルトに借りましょう・・・ 」

ごめんなさいね・・・と小声で呟き、フランソワ−ズはアルベルトの部屋に向かった。

 

 

 

「 お〜い・・・ 君はもしかして。 ギルモア博士のとこの。 え〜と 009じゃね! 」

「 ・・・あ。  ・・・はあ? 」

幹線道路に出た途端に、駅方面からぶっ飛ばしてきたタクシ−から大声が飛んで来た。

ジョ−はぎょっとして脚を止め 一瞬身構えてしまった。

 

    誰だ!?  こんなトコまで・・・追いかけてきたのか??

 

思わず内ポケットのス−パ−ガンをまさぐったのだが・・・

「 ワシじゃよ〜〜〜 ワシ!  ほれ、<海>で出会ったじゃろ! 」

「 あ・・・ 山崎博士・・・ 」

派手は色合いのタクシ−から見覚えのある人物が大きく乗り出していた。

「 奇遇じゃのう! 今から君んちへ行くとこなのじゃ。  ・・・ なんだ、君は出掛けるのか? 」

「 いえ・・・ そのう ・・・ちょっと散歩・・・ 」

「 ふうん?  あの、もし急ぎの用事でなかったら。 すまんが・・・同席してくれんか。

 ギルモア博士に重要な話があるんじゃ。 」

「 ・・・ ミッションのことですか。 」

「 まあ ・・・ そんなトコじゃ。 」

「 了解です、 では 先に戻ってギルモア博士に話しておきますから。 」

「 おお、ありがとう。 しかし そんなに焦る必要 ・・・ ? あ、もう行ってしまったのか。

 ふふん ・・・・ 便利じゃのう、加速装置・・・ ウチのJQにも付けてやれるかのう。 」

山崎博士は ジョ−が消えた後をじっと見つめていた。

「 お・・・ お客さん・・・・今、話をしてたヒト・・・消えちゃいましたよね・・? 」

タクシ−の運ちゃんがおそるおそる声をかけてきた。

「 あ? おお、すまん、すまん〜〜。 いやなに、彼はな、滅法俊足なヤツで・・・

 うん、あっと言う間に駆けていっただけじゃよ。 」

「 ・・・そそそそ・・・そ〜ですか?? 」

「 そうじゃよ。  ほら〜〜 こちらも急いで出しておくれ。 」

「 へ・・・へい・・・! 」

山崎博士を乗せたタクシ−は 加速装置・・・顔負けの速さで発進した。

 

 

 

 

「 なんじゃと!? ミサイル基地衛星 ・・・? 」

「 そうなのです。 ミサイル衛星を打ち上げ、どこでも攻撃できるぞと脅すのがヤツラの目的です。

 脅迫による支配・・・ もうこれはBGの常套手段ですな。 」

「 う〜〜む ・・・ 相変わらずとんでもないヤツらじゃ! 」

ギルモア博士はアタマを抱え伸吟している。 

フランソワ−ズお得意のケ−キも 淹れたてのカフェ・オ・レもすっかり冷めてしまった。

「 博士・・・ 大丈夫ですか。 お水でも・・? 」

「 ・・・ ああ、 いや・・・ 大丈夫じゃ。 ありがとうよ、フランソワ−ズ・・・ 」

「 こちらに落ち着いてからもワシは密かに情報を収集していたのですが、どうもいよいよヤツらは

 動きだしたらしい。  それでこの際、ギルモア博士と皆さんのご助力を仰ぎたく・・・ 」

「 わかりました。 しかし そのミサイル衛星はどこから打ち上げるのでしょうか。 」

「 ・・・ ジョ− ・・? 

ジョ−がひどく落ち着いた口調で 淡々を発言した。

フランソワ−ズは少しおどろいて彼をふりかえった。

ジョ−は焼け焦げのぼろぼろな服で戻って来て、来客を告げた。

そして今まで彼はじっと話を聞くだけで ひとことも口をはさまなかったのだ。 

「 もちろんその衛星を破壊しなければ。 しかし発射地点がわからなければ出撃できません。 」

「 うむ。 一度BGに居るときに 奇岩島 という地名をチラと耳に挟んだのじゃが・・・ 」

「 奇岩島、 ですか。 」

「 ・・・ うむ、それしかわらんのだ。  ふうう・・・ 」

山崎博士も ぼすん・・・とソファに身を沈めてしまった。

「 どうせヤツラのことです、人知れず辺鄙な場所でしょう。  フランソワ−ズ? 皆を集めよう。 」

「 いいわ。 アルベルトとピュンマがまだこちらに居てくれてよかったわね。 」

「 うん。 ぼくはドルフィンの整備を確認してくる。  それじゃ・・ちょっと失礼します。 」

「 ジョ−、ワシからも他のメンバ−に連絡しておくよ。 」

「 お願いします。  」

「 009君? この ・・・ ジャックも連れていってくだされ。 きっと、いや必ず役にたちます。」

山崎博士は 傍らに付き添っている青年の背をポン、と叩いた。

「 足手纏いには決してならないです。 」

青年はぺこり、とアタマをさげた。  だぶついているブルゾンの肩がずっこけそうだ。

「 よし、それではジョ−、彼と協力して作業してくれ。 おっつけアルベルト達もやって来るじゃろう。 」

「 ・・・ わかりました。  こっちです、ジャックさん。 」

「 はい、よろしくお願いします。 」

ジャックはジョ−に丁寧にアタマをさげた。 ジョ−は無言で頷くとくるりと踵を返しリビングから出てゆく。 

「 あのね。 ここの地下からドルフィン号の、 あ、わたし達の水陸両用の戦闘艇なのだけど、

 その格納庫に繋がっているの。  エレベ−タ−で降下できるわ。 」

「 ありがとうございます、 フランソワ−ズさ・・ いえ、 フランソワ−ズ。 」

「 どういたしまして、ジャック。 わたしもすぐに降りてゆくわ。 」

「 はい。   ・・・ 山崎博士。 行って参ります。 」

「 うむ。 しっかりやってこい。  JQ。 」

「 はい! 」

にこ・・・・っと一瞬飛び切り晴れやかな笑みを浮かべると ジャックは目礼を残しジョ−の後を追った。

「 ・・・ JQ ? 」

「 ああ、アイツのコ−ド・ネ−ムじゃよ。 アイツは、ジャックはな、ワシの息子をモデルに作ったのじゃ。

 息子の記憶レコ−ドもインプットしてある。 」

「 息子さんの、ですか。 じゃあ ジャックは一種のクロ−ンなのですか。 」

「 いや、ジャックはジャック自身としての電子頭脳を組み込んであるよ。 息子の山崎 爵 は

 亡くなってしまったのでなあ・・・ 普段はもう、彼はワシの息子同様ですよ。 」

「 そうですか ・・・・ 」

 

    あの微笑 ・・・・  どうしてアナタはあんなに嬉しそうに微笑んだの・・・?

 

ジャックの微笑みがいつまでも瞼の裏から消えなかった。

 

リビングでは博士が受話器を握り締めている。

「 ・・・ ほい? おお、アルベルトか。 うん、うん・・・ おお、頼むぞ。 」

「 博士、連絡つきましたか。 」

「 ああ、今、張大人のところに滞在していた組がこちらにむかっておるとのことじゃ。 」

「 よかったわ!  ・・・ あら・・・!? イルカが??? 」

「 うん? ドルフィン号がどうかしたかね。 」

フランソワ−ズはリビングの真ん中に立ち尽くし、一点を見つめている。

「 イルカが格納庫周辺の海をうろうろ・・・回遊してるんです。 ・・・ヘンだわ・・・この付近にイルカなんて・・・」

「 イルカじゃと? お嬢さん、それはもしやBGのスパイ・イルカではないかの。 」

山崎博士がぐっと身を乗り出した。

「 ・・・ 1・・・2、3 匹いる!  サイボ−グ・イルカだわ!  < ジョー ・・・!!! > 」

脳波通信を開くと同時に フランソワ−ズもリビングを飛び出していった。

 

< 全員 出来る限り早く ドルフィン号に集合! >

 

ほどなくして、ジョ−の脳波通信がメンバ−達に飛んだ。

 

 

 

 

「 あれが奇岩島か。 」

「 うん ・・・ スパイ・イルカ達の情報が正しければ、ね。 」

「 はん、イルカども、命惜しさにべらべら喋ってくれたからな。 しかし・・・ありゃ単なる岩じゃないか。 」

「 そうだなあ。 フランソワ−ズ? なにか判るかい。 」

「 ・・・ いいえ。 かなりキツイシ−ルドがしてあるわ。 」

「 ほう、それじゃもう決まりだな。 基地はあの中さ。 」

「 うん ああ??? なんだ??  うわ・・・! 」

「 ・・・何か出てくる!  ロケットか?! 」

 

   ゴゴゴゴ −−−−−−− !!! 

   ズガ −−−−−−ン −−−−−− !!

 

サイボ−グ達がドルフィン号から偵察している目前で <奇岩島> は真っ二つに裂け

中からロケットが一機 発射されていった。

「 しまった・・・! 遅かったか! 」

「 ・・・ うほ〜〜 度肝を抜かれたアルな。 」

「 どうする、ジョ−。 ドルフィン号ではとても宇宙空間までは追跡できんぞ。 」

「 うん ・・・ あの島は多分ロケットの発射塔なんだと思う。 ロケットは一機だけではないだろう。 」

「 あ、なるほど。 潜入して一丁失敬すればオッケ−という訳であるな。 」

「 そうだね、その方がヤツらの目も誤魔化せて安全だよ。 ・・・・ ジョ−、潜入しよう。 」

「 よし。 それじゃ 003と006、007。 ここでドルフィンを頼む。 そして逐一情報を送ってくれ。 」

「 了解。 」

「 だめよ、ジョ−。 潜入するときにはわたしの能力が必要だわ。 わたしも一緒に行きます。 」

「 そうだよ、ジョ−。 一応BGの基地なんだから、彼女の能力は必須だよ。 」

「 わかった。 それじゃ・・・ ぼくと003、004、008で 」

「 僕も連れて行ってください。 必ずこのミッションの役にたちます。 」

「 え・・・  しかし ・・・ 」

「 ジョ−。 彼は宇宙空間ではわたし達以上の働きができると思うわ。 」

「 ・・・ それじゃ。 行こう。 」

「 おう ! 」

ジャックも加え、ジョ−達は密かにドルフィン号から海中に脱出していった。

 

 

 

「 003。 基地の様子は? ぼく達に気がついた様子はないか。 」

「 ・・・ 今のところは大丈夫。 特に変化はないわ。 」

「 そうか。 」

サイボ−グ達はできるだけ低く海底に沿って移動してゆく。

とろり、と凪いだ海底は 不思議に穏やかな世界に見えていた・・・

「 ・・・・! ジョ−! また あのスパイ・イルカよ! 」

「 こっちへ・・・! あの岩陰でやり過ごそう。 」

「 了解。 」

彼らはフジツボやらイソギンチャクがくっ付いている岩陰に身を潜めた。

 

< ・・・ どうだ? スパイ・イルカどもは。 >

< 大丈夫・・・ 気がついていないわ。 海底はチェックしていないみたい・・・ >

< この先が奇岩島だが、どこか潜入できる箇所はあるか。 あ・・っとジャックに説明してやれよ。 >

< 004、その必要はありません、僕にも皆さんの脳波通信をキャッチできます。 >

< え?? だって君は?? >

< 僕の受信機を皆さんと同じ周波数にセットしなおしました。 >

< ああ、そうだよね。 うん、さすが山崎博士のだなあ。 >

< ふうん。 やっぱりマシンは便利だよな。 >

< ・・・ ジョ−! そんなこと言うものじゃないわ! >

< いえ、本当のことですから。 そろそろ移動できますか? >

< もう少し ・・・ イルカ達が半径5キロから出るまで・・・ >

< うむ。 ここで騒がれてはな。 ・・・ ジョ−、そっちを見張ってくれ。 >

< 004、了解。 >

004と008は009を追ってゆっくりと移動してゆく。ジャックはさり気無く003を庇い岩陰から辺りを窺った。

< ・・・ ジャック。 ごめんなさいね・・・ >

< え?  ああ、さっきのことですか。 そんな・・・ 気にしてません、安心してください。 >

< ええ ・・・ ジョ−ったらどうかしているわ。 いつもあんなコト 言うヒトじゃないのに・・・ >

 

   ・・・ はっ !?

 

ゆらり・・・と辺りの海水がゆれた。

< ・・・ く ・・・! >

< どうしました? ああ・・・! なんだ、コイツ! >

フランソワ−ズの左腕が巨大なウツボに がっぷりと咬みつかれている。

< へ、平気 ・・・よ ・・・ つゥ〜〜・・・・! >

< ・・・ む! >

ジャックは片手で無造作にソレの首を ぐい、と締め上げた。

堪らず口を開けたソレを引き剥がし、そのまま踏みにじった。

< 大丈夫ですか。 ・・・ああ 血が・・! >

海水に一筋 ほそく赤いものが漂い、すう・・・っと消えてゆく。 また一筋・・・また・・・

< 防護服の下は大丈夫なの。 でも ・・・ 素手のところはね・・・ いたた・・・>

< ちょっと失礼。 >

< ・・・ あ・・・・ >

ジャックは彼女の手を取り、傷口にさっと唇を当てる。

< 多分大丈夫でしょうけど。 毒ウツボだったら大変ですから。 今・・・吸出します。 >

< ・・・ ありがとう、ジャック。 >

< いえ。  あなたは・・・ サイボ−グではないのですか。 >

< わたし、これでもゼロゼロナンバ−・サイボ−グの一員よ? ・・・でも生身の部分が一番多いの。

 だから・・・ こんな風に皆に迷惑をかけてばかり。 足手纏いよね・・・ >

< 迷惑だなんて・・・!  あなたのこの・・・皮膚の下には熱い血潮が流れているのですね。

  羨ましいです。 本当に羨ましいです・・・ さ、行きましょう。 >

< え ・・・ええ。 >

さっと彼女の手を離すと ジャックは先に立って仲間達の後に続いた。

 

     ジャック ・・・ あなたは。 いえ、あなたも。  生身の身体が欲しいのね・・・・

 

 

 

 

「 あら・・・ 地球が見えるわ。 本当に青いのねえ・・・ 」

「 ははは、本当にって当たり前じゃないか。 」

「 だって。 実際にこの目で見るのは初めてなんですもの。 」

フランソワ−ズは張り付いていた舷側の窓から振り返った。

「 それはぼくもだけど。  まさかなあ、月までゆくことになるとは思わなかったよ。」

「 そうね。 あ・・・ほら。 青い大きなボ−ルがだんだん黒くなってゆくわ。 」

「 うん? ああ、夜の部分に入るんだね。  あっちにはほら・・・月だ。 」

「 まあ ・・・  きれい・・・! 

 

    ・・・ きれいなのは きみの方さ・・・・ 

 

ジョ−は一緒に月を見るフリをして、実際にはフランソワ-ズの横顔だけをじっと見つめていた。

基地に潜入し発射されたロケットを追い、宇宙に飛び出した時には009と003、そしてJQだけになっていた。

他の仲間達は敵兵撹乱に回ってくれたのだ。

 

「 なんとしても。 絶対にBGのミサイル基地を叩く! 

 月の裏側なんてとんでもない場所に目を付けたもんだよな。 」

「 そうね。 あんな綺麗なお月さまからミサイル攻撃なんて 冗談じゃあないわ! 」

「 うん。 ・・・あれ、 フランソワ−ズ? きみ・・・その左手首、どうかしたのかい。 」

彼女の白い手首に 数箇所の傷跡が見える。  まだ血が滲んでいる箇所もあり生々しい。

「 え?  ああ・・・これ。 」

ふふ・・・と笑い彼女はそっとその傷を頬に当てた。

「 基地に潜入する前の海底でね。 ウツボに噛み付かれちゃったのよ。 」

「 なんだって? 全然 ・・・ 知らないぞ? 」

「 ええ、ジョ−達は先に行ってしまったから・・・ 」

「 ・・・ それで ・・・ その傷は・・・・毒性のものではなかったのかい。 」

「 大丈夫よ。 あのね・・・ジャックが吸い出してくれたの。 毒ウツボだったら大変だって・・・ 

 ふふふ ・・・ なんだか 兄を思い出しちゃったわ。 子供のころ、こんなこと、何回かあったわ。 」

「 アイツが・・・ 」

「 ジャックも。 ジョ−もだけど、本当にお兄さんみたい。 

 わたしね、時々・・・ ジョ−のこと、兄と間違えちゃう時があるくらいなの。 」

フランソワ−ズはほう・・・っと溜息をつき、傷を摩りつつ目を閉じている。

「 ぼくはね。 」

「 ・・・ え? 」

 

   ・・・ カツン! 

 

ジョ−はブ−ツを鳴らし、立ち上がった。 そして ・・・

「 ・・・ ぼくは! きみの兄さんじゃないだ。 ぼくは ・・・ ジョ−なんだ! 」

「 ・・・ ジョ−・・・?? 」

「 ジャック!  ヤツらの様子はどうだい? 」

目を見張っている彼女を残し、ジョ−はそのままコクピットへと出て行った。

 

 

 

 

 

「 まずいな! ロボット兵とサイボ−グ兵士か。 」

「 ええ。 戦闘用ロボット、三体。  サイボ−グ兵士は ・・・12人! 」

ジョ−とフランソワ−ズ、そしてジャックは月のミサイル基地付近まで接近していた。

途中でロケットを捨て、BGのサイボ−グ兵士を使いここまで到達したのだ。

 

しかし、基地を目前にしてBGの護衛戦隊に気づかれてしまった。

「 うむ・・・ よし。 きみ達は接近してきた敵だけを倒せ。 後はぼくが引き受ける。 」

「 009。 あなた達二人でヤツらを始末してください。 その間に僕はミサイル基地を破壊します。 」

「 しかし 君一人では・・・ 」

「 大丈夫です。 ・・・ それじゃ。 」

ジャックは二人にむかってぺこり、とアタマを下げた。

「 ・・・ ジャック! あなた、もしかして・・・! 」

「 フランソワ−ズ。 お願いがあります。 」

「 なあに。 」

「 ・・・ JQ って呼んでください。 」

「 え・・・ だってそれは ・・・ あなたのコ−ド・ネ−ムでしょう? 」

「 はい。 」

「 わたしだって ・・・ 003だけど、でも・・・ 」

「 JQ です。 僕は。 アンドロイドだけど。 < 山崎 爵 > の身代わりじゃない・・

 <お父さん>が 最後に JQって呼んでくれて。 僕は本当にうれしかったのです。 

 だから アナタも。  」

ジャック、いや JQは すっと息を吸うとゆっくりと言った。

「  JQ  として覚えていてくれますか。 」

「 ・・・ JQ ・・・・   はい。 」

「 ありがとう・・・!  フランソワ−ズ。  ・・・・ それじゃ。 」

 

 

    ・・・・JQ −−−−−−−−− !

 

アンロイド・JQは 爽やかな笑みを残し月の空に飛び立っていった。

 

    JQ ! ・・・ そうね、あなたは ・・・ あなた、なのよね。

    ・・・ああ ・・・! ジョ−・・・ ごめんなさい・・・! ジョ−だって・・・ジョ−なのよ!

 

 

山崎博士の造ったアンドロイドは使命を全うした。

爆弾の仕込まれた手脚をバラバラにし、ミサイル発射基地に体当たりしたのだ。

 

 

 

 

ギルモア邸の建つ断崖の下には 穏やかな海が広がっている。

ジョ−はヒマな時、 海岸に出ていることが多い。

あまり社交的ではない彼は、 一人でいるほうを好むらしい。

 

   あ! いたわ。  今日は絶対に、聞いてもらいますから・・・!

 

崖伝いに降りてきたフランソワ−ズは大きく息を吸い込んだ。 

「 ・・・ ジョ− ! 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ? 」

セピアの瞳が 大きく見開いて彼女を見ている。

 

   ふふふ・・・ びっくりした?  もっとびっくりさせてあげるわね♪

 

フランソワ−ズはスカ−トの裾をはためかせ 波打ち際のジョ−に駆け寄った。

「 どうしたんだい? なにか急ぎの用 ・・・ あ、まさかまたBGが ・・・ 」

「 ううん、ううん!  そんなんじゃないの。 もっとね、もっともっと・・・う〜〜んと大事なコトなの。

 これはね、 JQが教えてくれたのよ。 」

「 ・・・え ??? 」

ジョ−はますます判らない・・・と困り顔である。

「 もっと大事なこと?  ・・・ う〜ん・・・?? 」

「 あのね!  ようく聞いてね?  」

「 うん。 」

「 わたし。  009のジョ−が好きよ。 ジョ−がジョ−だから・・・好きなの! 」

「 ・・・は・・・あ・・・? 」

「 ・・・ こっち向いてくださる。 」

「 ハイ。 」

相変わらずハトが豆鉄砲〜な顔で ジョ−は彼女と向き直った。

 

「 ジョ−? ・・・んんん 〜〜〜 」

「 ・・・ うわ!?  ンンン・・・・・ 」

「 あの。 ・・・  これは!  家族のキス、じゃないですから! 」

「 ・・・ う、 うん ・・・ 」

「 ジョ−。  ・・・ ごめんなさい。 あの・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ。 おいで・・・ 」

ジョ−はそのまま、しなやかな身体を抱き締めると もう一度。 心行くまでその桜いろの唇を味わった。

 

 

   わたしには 大切なヒトがいる。  みんな 別々に わたしの心の中に住んでいる。

   でも 恋人はただひとり。

 

   My  J

    

   わたしの 情人 ( すきなひと ) ・・・・

 

 

 

 

***************************     Fin.    *******************************

 

Last  updated :  02,17,2009.                                       index

 

 

 

**************    ひと言    **************

え〜と。 今回は原作でもあまりメジャ−ではないお話が下敷きになっています。

MF版とか秋田文庫には収録されていますが・・・・ 未見の方、ごめんなさい。

それと設定変更多々あり、です。 当時はまだギルモア邸もドルフィン号もなく、

サイボ−グ達は放浪の身でした。

ふふふ・・・・ 原作のたった数コマが ジャック君とフランちゃんのいい雰囲気♪ な

妄想のモトとなりました♪  ふらんす人ですから、 すきなひと、なら

本当なら mon amoureux  でしょうけどネ  まあその辺りはお目を瞑ってくださいませ<(_ _)>

こ〜んな妄想もアリ???って読み飛ばしてくださ〜〜い。

タイトルは 太宰氏のあの名作の中の ヒロインの手紙から。 ( ふふふ〜〜♪ )

なにかひと言でもご感想を頂戴できましたら幸いでございます。 <(_ _)>