『 満月の夜 』

 

 

 

 

 − 今夜もお月さまが綺麗・・・・

 

ふうっとひとつ、こっそりと溜め息を漏らしてフランソワ−ズはキッチンの窓を仰いだ。

満月までにはまだ日にちがあるのだろう、そろそろ中天に掛かり出した月は

どことなく いびつな姿をみせている。

 

どんな姿でも変わらず 柔らかい光を投げかけてくれる月が

今夜はやけに気になのは・・・・・ もやもやした気分のせい・・・。

 

 − ふう・・・

 

また ひとつ。

ため息で キッチンが満杯になりそう・・・・ こころにも換気扇があったらいいのに。

 

そんな自分自身の想いを忘れたくて フランソワ−ズはエプロンの紐をしっかりと結びなおした。

とにかく今は。 せめて今夜くらいは。

すっきりした気分で過ごしたい・・・・・

 

きゅっと腕まくりをすると、シンクに向って彼女は食器を洗い始めた。

 

 

 

もう 二度と会うことはないだろう、と思っていた仲間達との再会、

それは 彼女にとって不安とともに心弾む想いを懐いく日々のはじまりだった。

 

 − あのヒトと 一緒にいられる・・・・

 

その想いは やっと取り戻した平穏な日々、自分だけのシアワセな生活をすっぱりと

捨ててくることに十分見合って余りあることだったのである。

 

 − あのとき。 あなたが迎えに来てくれたから、わたしは。

 

なにもかも捨てて自分の腕に飛び込んできた たおやかな身体を

ジョ−は躊躇なく抱きしめ フランソワ−ズは故国での最後の夜、乙女の初花を散らした。

 

 

「 ・・・・ 後悔、してない? 」

「 なにを。  」

「 きみ自身の道を捨てたこと。 それと・・・ 」

「 ・・・・・ ジョ− ・・・・ 」

 

ジョ−の腕のなかで フランソワ−ズはかっきりと彼の目をみつめた。

 

「 ジョ−。 わたし、捨てたんじゃない。 選んだ、のよ? 

 バレエをよりも パリでの暮らしよりも ・・・ なにもかもよりも。

 あなたに付いてゆくことを 選んだの。 」

「 ・・・・ フランソワ−ズ・・・ 」

「 だから。 可哀想、なんて思わないでね! わたし、自分で選んだ道に満足よ。 」

「 きみってヒトは、ほんとうに・・・・ 」

「 ・・・あ・・・・・ ああ・・・ 」

 

もう一度 ジョ−の唇が彼女の言葉を封じた。

 

初めての嵐が身体を突き抜けて行ったあとは なんとも心地好い微風が彼女を弄った。

穏やかな夏の海に漂っているうちに 漣が身体を取り巻き愛撫しそれはやがて

自分自身の内奥( なか )を昂ぶらせ フランソワ−ズは自分の内なる海が波立ち

紅く沸き立つのを感じていた。

 

「 ・・・・ ジョ− ・・・ もう・・・ もう・・・・ 」

「 会いたかったんだ・・・! ミッションなんて口実さ。 とにかく一目きみに・・・・ 」

「 ・・あ・・・・ ジョ−・・・・ジョ−・・・ ああ ・・ 」

「 もう離さない。 ああ、なんて綺麗なんだ・・・ きみのこの顔が・・・みたかった・・!」

「 ・・・ ジョ−・・! あなたと一緒に・・・・ 」

「 一緒さ。 どこまでも・・・・ いつまでも・・・・ 」

「 ・・・・くっ・・・・! 」

 

それは。 長めの前髪に自分自身を隠し、つねに控えめに人の陰へ後ろへと回っている

昼間の彼とは まったく別人のようだった。

夜の焔影で見る彼は 自信に満ち溢れ時に傲慢に・執拗に彼女に挑んできた。

そんな ジョ−にフランソワ−ズは新しい悦びの扉を開いてもらっていた。

 

「 ・・・・ いつまでも、一緒ね・・・・ 」

「 ・・・・ ああ。  」

 

嵐の後の凪の海、そこにゆるゆると漂って交わした睦言。

その時 なぜかフランソワ−ズはこころに響くちいさな声を聴いた・・・・

 

 − ほんとう・・・? 

 

ぞんざいに曳かれたレ−スのカ−テンを透かして 満月がゆったりとその光を投げていた。

 

 

 

 

再び あの特殊な服を着る日が来る。 銃を手にする日がやってくる。

でも。 いいわ、わたしは。

このヒトの側にいられさえすれば・・・・ なんだって耐えられる・・・!

そんな覚悟を決め、フランソワ−ズはジョ−に付いて祖国を後にした。

 

目的はどうあれ、仲間たちとの再会はやはり楽しい。

世界各地で不穏な事件が続いているが、いま滞在しているこの国、カレの国は

とりあえず、平和な日々が続いていた。

すくなくとも 表面上は・・・。

 

 

「 ジョ−? お夕食のお買い物に行って来るけど・・・何がいい? 」

「 ・・・・え? ああ。 なんでも・・・。 そうだ、彼女も一緒に連れて行ってあげてくれよ。

 ・・・その、いろいろと買い物とか・・・あると思うんだ。 」

「 ・・・・・ ええ ・・・・ いいけど ・・・ 」

「 まあ、いいの? 嬉しいわ、実はねちょっと困っていたの。 」

「 そうなの・・・? 言ってくださればよかったのに・・・ 」

「 すこし待っていてね。 すぐに用意してきますわ。 」

 

ショ−ト・カットの髪をゆらして 少女は自分の寝室へ駆けていった。

 

「 よかった・・・ 彼女も元気になって。 」

「 ・・・・・ そう、ね ・・・・・ 」

 

フランソワ−ズはジョ−とおなじ方向を向いてはいるが 伏し目がちに答えた。

見なくても よくわかる・・・。

彼が じっとそのほっそりとした後ろ姿を見詰めている表情( かお )が。

 

セ−ヌの川辺で 彼に付いてゆく決心をした時、

悲しさとやるせなさ、それと同じくらいに 心弾む想いがあった。

やっと取り戻した普通の女の子としての日々、夢を追う毎日・・・

そんなタカラモノを 心は残ったけれど置いてきたのは。

 

 − ジョ−。 あなたが。 あなたが来て欲しいと言ってくれたから。

 

差し伸べられた手をはねつけることは、 どうしてもできなかった。

生まれ育った地で 女への新しい扉を開けられたことも嬉しかった。

愛しているわ、ジョ−。  ・・・・ わたし、愛されてる、わね?

ひとりでにほころぶ頬を 時に懸命に引き締め、そっと側にいる人に目をやった。

 

 

 − それなのに・・・・。

 

 

「 紹介するよ、ヘレンさんだ。 ヘレン、こちらフランソワ−ズ。 仲間の一人だ。 」

「 よろしく。 フランソワ−ズ? 」

「 ・・・・・ Bonjour・・・」

 

ひさびさの日本、仲間達との再開の地でジョ−が親しげに紹介したのは 

プラチナ・ブロンドの少女。

彼女は物慣れた様子で リビングのソファから立ち上がった。

ジョ−に肩を抱かれにこやかに差し伸べられた手を フランソワ−ズはぎこちなく握った。

 

仲間、よね・・・。 

彼女も自分たちと変わらぬB..の犠牲者なのだ、とフランソワ−ズは懸命に自分に

言い聞かせた。

頼るヒトも知っているヒトもいない、この異国の地で彼女はどんなにか心細い思いをしているだろう。

そんな 彼女にジョ−が暖かい手を差し伸べるのは 当然のことだ。

 

ジョ−って。 そういうヒトだもの。 

 

それに、とフランソワ−ズは自分のなかで懸命に理由を捜していた。

ヘレンさんは・・・・ いいヒトよ、きっと。 何でも手伝ってくれて・・・明るくて。

だから、仲良くしなくちゃ・・・ それでジョ−が喜ぶなら、わたし。

 

 

仲間たちとの暮らしが始まってからも、二人は密やかに夜を共にしていた。

「 ・・・ジョ− ・・・ 」

「 ・・・・ うん・・? 」

「 ・・・ねえ。 あのヒト、ヘレンさんって・・・・あの・・・ 」

「 ・・・ああ・・・。 いい子だろ? 仲良くしてくれよな・・・・ 」

「 ・・・あの、・・・ジョ−。 ねえ・・? 」

「 もう・・・寝ようよ・・・ おやすみ・・・ 」

 

めんどくさそうに呟くと ジョ−はくるりと寝返りをうってしまった。

本当に眠いの ・・・・ それとも。

 

 − ジョ−・・・・・。 身体はひとつになれても、こころは・・・・

 

ことばは呑み込まれ想いだけが膨れ上がってゆく。

 

 

 

闘いに赴く日がそう遠くはないだろうといういくつかの異変が起きはじめている。

それも じわじわと包囲網を縮めるかのように自分達の周辺に近づいているようだ。

 

しかし、まだ行動を起こすわけにはゆかない・・・。

 

不安と苛立ちが綯い交ぜになった、なんともぎくしゃくした雰囲気がギルモア邸に満ちている。

だれもが 密かにいらいらと神経をささくれ立たせていた。

ある意味、それは一触即発の危険をはらんでいるのかもしれない。

 

 

「 ・・・・ ?? ・・っジョー ?? 」

「 ・・・し・・・・! 」

 

夜半、妙な息苦しさで目を開けたフランソワ−ズは 自分になかば覆い被さろうとしている

ジョ−に気付き、愕きの声をあげた。

しかし その声音はすかさず彼の唇で封じられてしまった。

 

「 し〜・・・・ 聞こえる、よ? みんな何と無く過敏になってるし。 」

「 ・・・・ ジョ−・・・ びっくりさせないで・・。 いつ入ってきたの? 」

「 こころを鎮めるのはコレがいちばん・・・ってね? 」

「 ・・・・ちょ、ちょっと・・・・ ねえ、待って・・・あ・・・! 」

上機嫌に彼は じつに巧みに彼女の夜着をはだけて行く・・・・

 

「 ねえ、待ってよ! ・・・・ピュンマのこともあるし・・・ そんな気持ちになれないわ・・・ 」

「 すぐに忘れさせてあげるから・・・ 」

「 ぁ・・・・・ジョ−・・・ い・・・や・・・! 」

 

白い身体に点々と 艶やかな花が咲いてゆく・・・

「 うっ・・・・く・・・・ ジョ−、ああ・・・ ねえ、待って・・・おねが・・い  きいて・・・ 」

「 し〜。 う〜ん、僕としてはもっとこの声が聞きたいんだけど。

 ほら、他の人間もいるし、ね。 ちょっとガマンしてくれる? 」

ジョ−はくすり、と笑ってフランソワ−ズの唇に指を当てる。

 

我慢だなんて。

ジョ−、あなたこの頃変わってしまったわ・・・・

あなた、わたしのことをちっとも見ていない。 見ようとしていないわ。

 

彼の愛撫は日ごとに巧みになり 悦びの波は的確に彼女に押し寄せる。

その烈しさに全てを委ねていると 小さな疑念など根こそぎ流されてしまいそうだ。

 

 − もう・・・ どうだって・・・いい・・わ

 

あなたが見てくれないなら。 わたしも・・・目を瞑ればいいの?

そんな想いが ちらちらと顔を出してはまた隠れる。

 

二人きりになれるのは ココしかないのに。

身体はすぐにでもひとつになれるのに。  

肝心の気持ちが、こころが ちっとも重ならない・・・・・

 

愛しているよ、とうわ言のように繰り返す彼に翻弄されながらも、

フランソワ−ズは どこかこころの隅が冷えたままなのを感じていた。

 

 −   ほんとう? 

 

ジョ−のなすがままに身体をあずけ フランソワ−ズはぼんやりと視線を外へと投げ出す。

海面に白銀の鱗を散らばせ ゆうゆうと中天に遊ぶのはそろそろ満月に近い月。

 

きれい・・・・ でも わたしはこわい・・・

 

だって。

 

満ちれば・・・・欠けるもの・・・・ かけてゆく月を止めることは できない。

満たされた先にあるものが わたしはこわい・・・

 

 

 

ピュンマがとりあえず 回復し戦線に復帰する日も遠くはない。

既にしびれを切らせていたメンバ−達は それぞれに行動を開始し始めた。

あえて隠しあっているわけではなかったが 結局それらの単独行動は実を結ばなかった。

 

「 失礼します、博士。  あの・・・ ジョ−・・いえ、009を知りません? 」

夕食もおわり皆が自室へ引き上げたあと、フランソワ−ズは遠慮勝ちにギルモア博士の

書斎の扉をたたいた。

 

「 ・・・おはいり。 ・・・? 知らんよ、寝とるんじゃないかね。 」

 

もうもうと充満するパイプの煙の間から ギルモア博士はさして関心のない声で応えた。

夢中になると 周囲の状況はおろか自分自身の寝食も忘れてしまうヒトに

聞いても何の情報も得られないのは わかりきっていたのだが・・・

 

「 はい、どこにもいないんです。 ・・・・それに・・・ヘレンも・・・ 」

口には出したくない名を そっと付け加える。

言葉にすれば 現実を見なければならない。

 

「 ・・・ほう? 」

「 どこへ行ったのかしら・・・。 あんな怪我をしているのに・・・・ 」

数日前、単独でなにかを探りに行ったジョ−は頭部に酷い怪我を負って帰ってきた。

なにか情報を得たらしいのだが、彼は不機嫌に黙り込んだままだった。

 

ただ、珍しくヘレンに対してキツイ口調で言葉を投げた彼は フランソワ−ズだけでなく

メンバ−たちみなの驚きを買っていた。

 

なのに・・・・・。

夕食後、そっとヘレンを促して車を出したジョ−を フランソワ−ズは見ていた・・・。

 

 − 自分の身体のことより、そのヒトと一緒にいたいの・・・・?

 

なにもかも二人の間柄に結び付けてしまう自分が フランソワ−ズはたまらなく嫌だった。

忌み嫌っていたはずの能力を こんなことに使う自分が情けなかった。

 

・・・でも・・・・

 

消しても消しても。 真っ白にしたと思っても。

無くなってゆくそのすぐ側から また新たな想いが吹きだしてくる。

 

 − ・・・・ああ・・・・! わたし・・・・ 嫉妬のうろこが・・・・生えそう・・・!

 

生臭ささせ感じる身体の火照りを少しでもなだめようと フランソワ−ズは

ひとり、テラスへのフレンチ・ドアを開けた。

 

 − ・・・・満月・・・・!

 

中天に掛かる白銀の銀貨、ふだんなら喜んで眺めるその穏やかな姿が

今晩は 彼女に冷たい戦慄を走らせた。

いまが頂点なら。

つぎに待っているものは・・・・

 

 

「 ・・・あ・・・・ 」

<耳>が いちばん聞き覚えのある車の音をとらえた。

昼と見紛うばかりの月明かりのなか、見慣れたジョ−の車がゆっくりと戻ってくる。

助手席の少女、星の光を照り返すプラチナ・ブロンドの少女の目は心持ちあかい。

 

青年の片腕がゆっくりと彼女の肩に伸びた・・・・

 

「 ・・・・ごらん、 ヘレン。  きれいな月だよ・・・ 」

やさしい声に少女はなんと応えたのか・・・

フランソワ−ズは ぷつり、とスイッチを切り、そっと室内に逃げ込んだ。

 

 − おかえりなさいって・・・・ どんな顔をして言ったらいいの・・・・

 

 

リビングから 仲間たちの声がにぎやかに洩れてくる。

怪我を心配してのギルモア博士の問いに、ジョ−はちょっと恐縮してみせ、

しかし 実に屈託なくどこか楽しげに応えた。

 

 

どうしてあと一瞬待たなかったのだろう・・・・

さんざん躊躇ったのちに思い切ってあけたドア、一生懸命平静をよそおっていた

フランソワ−ズの努力は 瞬時に崩れ去った。

 

まだ包帯が取れない怪我など微塵も気にとめていない、彼の明るい言葉。

ちょっと ドライブに。

その側で うっすらと頬を染めながらも寄り添う少女・・・

 

ばたん・・・・っとリビングを飛び出してきて佇む廊下の窓からは まんまるの明るい月が見えた。

 

「 月がきれいだ、なんて。 月が青いから、なんて。 」

 

逃げ帰った自分の部屋で フランソワ−ズはベッドに倒れこんだ。

 

ジョ−・・・・ジョ−・・・・・。

あなたが 遠いわ。 ねえ、どこへ行ってしまったの・・・。

あなたが 見えないわ。 ねえ、お願いかえってきて・・・。

アイシテイルって あの言葉は・・・・ うそ?

 

ジョ−。

あなたは あの女( ひと )にも同じ言葉を言ったの・・・?

同じように 口付けしたの

同じように・・・・ 愛したの・・・・?

 

・・・・ジョ−。

あなたにとって わたしは・・・・なに。

あなたにとって 大切なのは・・・・ なに。

わからない・見えない・きこえない・・・・ あなたのこころが 遠いわ。

 

・・・・・ ジョ− ・・・・・!

 

 

 

  − さむい・・・

 

まだ そんな季節でもないのに、フランソワ−ズはベッドの中で自分自身を抱きしめた。

自分でも どきりとするほど冷え切った身体・・・・

 

気持ちが こころが 温かさを求めて彷徨っているとき、

どうしてそのイレモノが 暖まることなどあるだろう。

 

満たされない想いは こころばかりか身体の飢え( かつえ )すらよびおこす。

ふらつく膝をおさえて 彼女は寝静まった廊下をゆっくりと辿った。

 

 − もうここにしか わたしの居るところはないもの・・・・

 

出来れば逃げて帰りたい。

なにもかも放り出し、全てをこころから追い出して

あの、懐かしい優しい街へ・・・・ 自分の居場所へ・・・

それが 出来たら。 どんなにか・・・・  

でも。 もし・・・・

自分の代わりに 彼があの少女の手を取ったとしたら。

 

もう、それ以上は怖ろしくて考えたくなかった。

 

 

 

部屋の灯りは落ちていても、テラス側から差し込む月明かりがリビングをほの白く照らしてた。

そっとすべり出たテラスは ますます明るい。

 

こうやってお月さまの光を浴びれば。 少しはわたしのこころのシミも薄くなるかしら・・・

・・・lunatic ・・・・ ふとそんな単語が思い出され、フランソワ−ズはあわててアタマを振った。

 

 

「 ・・・・ あら。 先客がいらしたのね・・・ 」

いちばん聞きたくないと思う声が うしろから響いてきた。

「 ・・・・ ヘレン ・・・ さん。 」

「 あなたも、眠れないの? ・・・・ ああ・・・ 月の光ってこんなに明るいのね。 」

「 ・・・・・ 」

 

隣りに佇む温かいその身体から フランソワ−ズはそっと身を離した。

ほんの わずか ・・・ でも。 ごめんなさい ・・・・ でも。

 

「 ねえ? <僕らは たった9人で>って言われちゃった・・・ 」

「 ・・・え・・・? 」

「 彼に、ジョ−にね、そう言われちゃったのよ。 」

「 ・・・ ジョ−・・に ・・・ 」

 

わずかな言葉尻が気に掛かる、そんな自分がますます嫌でフランソワ−ズは

じっと唇を噛み締めた。

 

「 ふふ・・・。 わたしって。 他所モノなのね、しょせん・・・

 <僕ら>の仲間には入れてもらえないってわけ。  

 ちょっと親切にしてもらったからって・・・ 期待しちゃった・・甘ちゃんでしょ、私って。 」

「 ・・・・・ そうなの ・・・? 」

二人して柔らかい光を浴びて 並んで眺める穏やかな海、 

でも・・・ ふたつの視線は重ならない。

 

ふふ・・・ 低い声が淡い微笑みを色どった。

 

「 でも。 いいの。 

 私、 私が彼を好きなんだもの。  その想いをもっている限り、平気よ。

 ついて行くわ・・・・ 私が出来るのはそれだけですもの。 」

「 ・・・あなたは それで・・・ いいの ? 」

 

ひとり言みたいなフランソワ−ズの問いかけに 少女は微笑んだだけだった。

お休みなさい、と彼女はすっと身を引いて室内に戻っていった。

 

 

 − わたしが 選んだの。

 

 

自分の中で 小さいけれどくっきりとした声が聞こえた。

そう、あれは。 わたし自身の言葉・・・ 

 

く ・・・・・ っと テラスの手すりを握る手に力がこもる。

選んだのも わたし。  決めたのも わたし。

 

ついゆくわ、ジョ−。 ううん、 一緒にゆくの、肩をならべて 一緒に歩いてゆくわ。

 

それがどこへ続く道であろうとも・・・

あなたが・・・・わたしを見てくれなくても。 振り返ってくれなくても。

・・・・ 行くわ、わたし。

選んだのは・・・・わたし。 あなたを 選んだのは わたし自身。

 

 

フランソワ−ズは しっかりと視線を上げた。

そのさきには。

ゆうゆうと中天をよぎってゆく 白い月。

 

 

次に二人で満月を眺められる日は・・・・ 来るのだろうか。

こんど眺める満月は・・・ どこでなのだろう。  

 

満ちれば・・・・かけてゆくもの。

・・・でも、 いい。

それも これも。 選んだのは わたし。 手を伸ばして掴み取ったのは わたし。

 

 − そう思わなければ ・・・ わたしは生きて行けない・・・

 

 

 

しらじらと辺りを照らす夜の使者。

それぞれの想いに捕らわれて眠れぬ人々に やさしい光を投げかけていた。

 

 

******  Fin.  *******

Last updated:07,23,2004.                         index

 

*****  後書き  by   ばちるど  *****

滅茶苦茶暗くて救いのない話です。 大好きな<原作・ヨミ編>の あの精神的に

息詰まるような前半をフランソワ−ズの視線で見てみました。 ここでのジョ−君は

身勝手なヤな奴、というかB.G.との闘いのことしか眼中にないようです・・・。