『 耳たぶ 』   

 

 

     ***** この小噺はthe Tears of the Steel】(森本様)宅

               < 100のお題より  90:『 耳朶 』 > の後日談、とでも

               思ってくださいませ。どうぞお先にコチラ↑をご一読ください。

               森本さま、掲載ご承諾ありがとうございました。<(_ _)> *****

 

 

 

応急処置用の簡易キット。 消毒用アルコ−ルに脱脂綿。 そして。

テ−ブルの上に並べた品々を見つめ フランソワ−ズはごく・・っと唾を飲んだ。

手に握っていた小箱をそっと開けてみる。

包んであるテイッシュを広げ・・・小型のホチキスのようなもの摘み上げた。

 

・・・そう、大丈夫。・・・たぶん。 みんなだって、やっているんだもの。

 

指でそうっと耳朶をつまんで爪を立ててみる。

チカッとした鈍痛はちゃんと感じるし、さっきから何回も鏡越しに透視したがココにはなにも、ない。

なんのメカニズムも組み込まれていない。

人工皮膚のなかに人工神経と同じく人工の毛細血管がはしっているだけだ。

 

よし。 やるわ、わたし。

 

フランソワ−ズは 意を決してその小型の道具を耳元に持って行った。

 

 

 

「 あら? ピアスじゃなかったっけ? 」

「 そうなのよ。 あなたに可愛いお土産もらったから、ピアスにしたいのだけど・・・」

言葉を濁し困った顔で笑うフランソワ−ズに バレエ・スタジオの同僚は

ははあ、という顔をした。

「 ダメだって? あなたのお父様も案外古いのねえ。 」

「 ええ、まあ・・・」

<お父様>じゃないんだけど・・・と口の中でぶつぶつ言ってフランソワ−ズは苦笑した。

「 黙ってピアス・ホ−ル開けちゃえば? みんなそんなカンジよ。 」

「 ええ・・・でもね・・・ 」

「 あら〜 自分でやるのよぉ。 布団針で!なんてコもいるけど、それは流石に、ね?

 今は本当は違法なんだけど、穴あけ用のキットがあるのよ。 」

専門医にゆくのをためらっているのかと誤解したらしい彼女は 意味ありげに笑った。

「 え・・・ 自分で・・・? 」

「 痛くないわよ、全然。 私もほら・・・全部自分で、よ? 」

髪を振り 彼女は耳朶に並ぶ数個の色とりどりの飾りを見せた。

「 そ・・・そうなの・・? 」

「 貸したげるわ。 簡単よ。 もうピアスの方が数が増えてきてるし。 

 明日、もって来るわね 」

「 ・・・え、ええ。 ・・・ありがとう・・・ 」

ハナシの急な展開にどきどきしてるフランソワ−ズを置いて 彼女は行ってしまった。

「 ・・・ 自分で、ねえ・・・ 」

おそるおそる手を伸ばした耳朶は 春浅い風に弄られてちょっと冷たかった。

 

 

真夜中。 わざわざ皆が寝静まるのを待った。

皆、といっても今は博士とイワン、そしてジョ−と自分しかいないこの邸は静まり返っている。

ごめんなさい!と思いつつ、そっと<耳>のスイッチをいれる。

聞こえてきたのは 地響きみたいな鼾と規則正しい穏やかな寝息、そしてくうくうと小鳩みたいな息使い。

・・・大丈夫。

灯りを落としスタンドを引き寄せて もう一度鏡ごしに耳朶をしっかりと透視する。

よし。 異常ナシ。

フランソワ−ズは 深く息を吸い込んだ。

 

 ― いくわよ・・・! あとは・・・

 

かちり・・・と当てた金属が耳朶に冷たく感じられた。 

握った指に力を入れた、と思った瞬間・・・  

 

☆○◆#*※ &%★△◎ 〜〜!

 

・・・なにもわからなくなった。

 

 

 

「 ・・・フラン? フランソワ−ズ? おい? 」

「 ・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・・ 」

肩を揺すられて目を開ければ 意外な近さにジョ−の顔がぼんやりと浮かんでいる。

リビングの暗さも変わりなく、あれからそんなには時間がたっていないようだ。

「 あ、じゃないよ。 どうしたの、こんな所に突っ伏して? なにか・・・あったの。

「 ・・・あ・・・あの。 ううん・・・なんでも・・・ 」

「 なんでもって顔じゃないよ。 これって戦闘時の応急処置用だよね? 」

真顔で尋ねられ フランソワ−ズはますます固まってしまった。

「 ・・・フランソワ−ズ? 」

覗き込んできたセピアの瞳の真剣さに フランソワ−ズはおずおずと口を開いた。

「 ・・・あの、ね。 実はね・・・ 」

 

 

「 ははは・・・。 そりゃ・・・随分と衝撃的だったろうなあ・・・ 」

「 博士〜〜 そんなに笑わないでください・・・ 」

翌日、コトの顛末を白状したフランソワ−ズに ギルモア博士は大笑いをした。

「 ほんとに、びっくりしたよ。 真夜中のリビングでぶっ倒れてるんだから。 」

「 ジョ−。・・・だって・・・。 ほんとうにすごい・・・<音>だったんだもの。 」

「 フランソワ−ズ、お前、<耳>のスイッチをオンにしたままじゃあなかったのかな? 」

「 ・・・ あ! 」

 

ぱっと赤くなって彼女は両手で耳朶を抑えた。

昨夜、穴あけ用のキットを耳朶に突き立てた瞬間 ― 

なんとも生々しく・すさまじい<音>が 脳裏に響きわたり、さしもの<視聴覚強化サイボ−グ>の

003も そのあまりの衝撃に失神してしまったのだ。

 

 

「 ああ・・・もう、よいよい。 よ〜くわかったから。 ちゃんとワシが処置をしよう。

 いつの世も恋する乙女ごころに勝てるモノなどありはせんからなあ。 」

「 恋って・・・そんな・・・。 」

桜いろに頬を染めた乙女に ギルモア博士は目を細めた。

「 なあ、ジョ−? 」

「 ・・・は、はい・・・!」

彼女に見とれていたジョ−は 突然話題を振られて彼女以上に首の付け根まで赤くなった。

 

 ― ほっほ。 命みじかし 恋せよ乙女・・・なんて詞がこの国にはあったの・・・

 

「 あの、博士。 お願いが・・・ 」

すっかり父親気分に浸ってほのぼのしていた博士に フランソワ−ズは微笑みかけた。

「 うん? なにかな。 」

「 あの、ピアス・ホ−ルですけど。 3個、お願いします。 」

「 ・・・・・ 3個 ?? 」

「 ええ。 奇数の方がいいのですって。 それにね、耳朶だけじゃないんです、このごろ。 」

・・・お前の好きにしなさい、と言い捨て博士は憮然として席を立った。

 

 ― ったく。 いまどきの若いモンは・・・!

 

 

 

海を渡って吹いてくる風に もう冷たさがなくなった頃、

フランソワ−ズの耳朶には ちかり、と光る紅玉が揺れていた。

 

「 ・・・ねえ、どう? 」

「 うん・・・ すごく綺麗だね! 」

相変わらず生真面目な返答をするこの東洋の朴念仁に フランス乙女はくすり、と笑った。

 

 

 

*****  Fin. *****

Last updated: 04,19,2005.                         index

 

 

 

 

****   ひと言  by  ばちるど  ****

森本さまの素敵短編に妄想させて頂きました。

実はほとんど体験談・・・別に失神はしませんでしたけれど。

ヨイコは真似をしてはいけません。 (^_^;)