『 あなたに ・・・ メリ−・クリスマス 』
****** はじめに *****
このお話は 【 Eve Green 】 様方の <島村さんち> の設定を
拝借しております。 今回は子供達も一緒のクリスマス♪♪
まずは!! この 素敵イラスト をご覧くださいませ。
「 ・・・ あら ・・・ 困ったわ・・・ どうしよう。 」
「 え ・・・? なあに、どうしたの、フランソワ−ズ。 」
「 う、うん ・・・・ このスケジュ−ル ・・・ キツイわあ・・・ 」
「 ・・・ そう? 今回はそうでもないんじゃない? 」
「 ええ、リハ−サルは・・・ ね。 わたしはマチネ−( 昼公演 ) 一回だけだし。
でも・・・ この時期は忙しいのよ〜〜〜 」
「 ああ・・・ 奥さん! 主婦業ピ−ク時かあ。 」
「 そ。 わたし・・・これでも 主婦業と母親業とダンサ−の 一人三役なんですもの。 」
フランソワ−ズは掲示板の前で大きく溜息をついた。
まだ師走の声を聞く少し前のこと、フランソワ−ズが通うバレエ団では
クリスマスの定期公演の配役が発表になっていた。
演目は季節がらお決まりの 『 くるみ割り人形 』
いろいろな踊りで盛りだくさんな上に 楽しいフィナ−レもあり人気の作品である。
毎年イブとクリスマス当日のステ−ジは バレエ団を代表するダンサ−が主役を務める。
今年も例外ではなく、人気の二人が名を連ねていた。
フランソワ−ズは最近、クリスマス公演はできるだけ辞退していた。
主婦業云々・・・というよりも、クリスマスは彼女にとって大切な行事なのだ。
家族と ― ジョ−と子供達と ― 一緒に平穏な日々を神に感謝する・・・
そんな過し方をしてきた。
最近でこそ穏やかで平凡な日常だけれど、それがいかに恵まれたことなのか
フランソワ−ズは ・・・ いや、003 は誰よりもよく知っているのだった。
神様 ・・・ ありがとうございます。
今年もまた 平和な日々を愛しい人とともに過すことができました・・・・
どうか ・・・ 来年も ・・・ 地には平和を・・・!
毎年、彼女はクリスマスのミサにはきちんと出席し、熱心に祈るのだった。
「 クリスマス・ケ−キも作らなくちゃならないし。 ツリ−の飾りつけとかプレゼントの用意とか・・・
本当に 大忙しなのよ。 」
「 そっか・・・ そうよね〜 やっぱフランス人なんだよね。 」
「 う〜ん ・・・ そうかもしれないわ。 でもネ、お正月も ・・・ いろいろ、また準備が大変なの。 」
「 あは♪ 島村サンって結構こだわりそう・・・
でもさ。 せっかく 金平糖、貰ったんだから! チャンスじゃない〜〜 」
「 ・・・うん! 頑張る。 クリスマス前のマチネ−だけど、芯を踊れるなんて夢みたいだわ。 」
「 金平糖はフランソワ−ズにぴったりよ。 夢見るお人形さんみたいだもの。 」
「 ・・・ え ・・・・ 」
「 次は! 負けないからね〜〜 アタシは 雪の女王 で勝負するわ。
フランソワ−ズ、よろしく 〜〜〜 !」
「 こちらこそ ♪ みちよサン 」
みちよはずっと一緒に仲良く頑張ってきた仲間なのだ。
ジョ−と結婚してからも。 子供達が生まれてからも。
フランソワ−ズは いつでも一生懸命だった。
やっと本公演で 真ん中を踊れるようになった ・・・!
フランソワ−ズは仲良しのみちよと 身の引き締まる思いだった。
「 ・・・ え〜と。 ツリ−の準備はジョ−に頼んで・・・ ちょっと早めに飾りつけしましょ。
子供達 ・・・ できるかな、もう任せられるかなあ・・・ 」
フランソワ−ズは帰りの電車の中で スケジュ−ル帳とにらめっこ、
あれこれこれからの計画を練っていた。
ただでさえ忙しい12月、 リハ−サルで帰りが遅くなる日が多くなる ・・・
子供達を ・・・ どうしましょう・・・
ジョ−は出版社勤務で休日出勤当たり前〜な多忙な日々だし、博士も最近、活動的で
今年いっぱいはアメリカに滞在する予定なのだ。
「 ずっと二人でお留守番 ・・・ それはまだ無理ねえ・・・ ウチの子達には。
う〜〜ん ・・・ 張大人にお願いできるかしら。 ・・・でも人気のお店ですもの、超多忙よねえ。 」
予定ぎっしりの日々をながめ、フランソワ−ズは溜息の連続だった。
「 ・・・あ! MDも聴いておかなくちゃ。 振りの確認もしておかないと・・・
ああ・・・ もうやることばっかり! わたしが二人いればいいのに。 」
「 ジョ−にも相談しなくっちゃ。 ・・・でもこのところずっと遅いし・・・・
疲れて帰ってきてまた煩わしいコトを聞きたくないでしょうねえ・・・ 」
ぱたん・・・・とスケジュ−ル帳を閉じ、またまた島村さんの奥さんは溜息である。
ゴトトン ・・・ ゴトトン ・・・
電車は速度を落とし始めた。
視界がぱあ〜っとひらけ、周囲にはのんびりした風景が真っ青な空の下に明るく広がっている。
さて。 買い物をして・・・ ああ、今晩は何にしようかなあ・・・
あらら・・・・ 急がなくちゃ・・・ すばるがもうすぐ帰ってくる時間だわ。
フランソワ−ズは大きなバッグを抱え、よいしょ・・・と立ち上がった。
これから お母さん としての戦闘開始! である。
「 お帰りなさい、ジョ−。 お仕事、お疲れさま。 」
「 ・・・ ただいま、フランソワ−ズ・・・ 」
冷え込む玄関先で ジョ−は満面の笑顔で迎えてくれた彼の愛妻を抱き寄せ
熱いキスを交わした。
「 ・・・ 唇が冷たいよ ・・・ こんな時間まで起きて待っていてくれなくてもいいのに。 」
「 ・・・ んん ・・・ いいの、あなたの顔みたいもの。 それに ・・・ キスも ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ ありがと。 ぼくもきみの笑顔で疲れなんか吹き飛ぶさ。 」
「 お食事は? なにか ・・・ 召し上がる。 」
「 う・・・ん。 残業しながら食べたけど。 なにかある? ちょっと食べたいな。 」
「 じゃ、暖めるから・・・ ちょっと待っててね。 」
「 サンキュ・・・・ そうだ、じゃあぼくはウチのお姫さまと王子さまの寝顔でも眺めてくるよ。 」
「 そうね。 あ、蒲団からはみだしてたら <しまって> やってね。 」
「 おっけ♪ ・・・ ああ、 ゆっくりアイツらと遊びたいなあ・・・ 」
ジョ−はぶつぶつ言いつつも 足取りも軽く子供部屋に向かっていった。
出版社の仕事は朝が少し遅いけれど、その分帰りはまったくの不定期で深夜に及ぶこともしばしばだ。
ことに、地の利の悪いギルモア邸、ジョ−の帰りが <翌日>になることが多かった。
どんなに遅くなっても 彼の奥さんはちゃんと起きて待っていてくれた。
そして お帰りなさいのキス。
結婚したその日から始まったこの、二人の習慣は双子の子供達が小学校に上がった今も
ずっと ・・・ ますます熱く続いていた。
「 あ〜あ・・・ やっぱりいいなあ・・・ チビ達の寝顔ってさ。 」
「 ふふふ ・・・ もうぐっすりでしょう? 」
ううん〜〜と伸びをしつつ、ジョ−はなんだか嬉しそうな顔でキッチンに入ってきた。
「 うん。 すぴかなんか半分ベッドからはみ出してた。 すばるは随分汗かいてたよ?
一応タオルで拭いておいてやったけど。 」
「 あら。 う〜ん、ちょっとまた風邪気味なのよね、すばる。
寝る前に張大人からもらった < あったまるお湯 > を飲ませておいたんだけど・・・ 」
「 あったまるお湯??? 」
「 ええ。 ほら・・・ 中国のお薬。 なんとか湯( とう ) ・・・ っていうの。
大人が子供むけにちょっと甘くしてくれたのよ。 」
「 なんとか湯・・・?? ・・・・ああ! 葛根湯、だろ? へえ・・・甘いのか。
ねえ、あとでぼくも飲んでおこうかな。 」
「 あら、風邪きみなの、ジョ−も? 」
「 ・・・う〜んと、予防♪ 」
「 ・・・ まあ。 じゃあ寝る前にね。 はい、お食事どうぞ。 ジョ−の好きな肉じゃがよ。 」
「 わお♪ 頂きます〜〜〜 」
ジョ−は大喜びで テ−ブルについた。
「 ・・・ ふうん・・・ きみも忙しくて大変だねえ。
うん、そうだね〜 もし張大人とこが大丈夫ならお願いしてみようか。 」
「 やっぱりその方がいいわよね。 二人だけでお留守番はまだ二年生だもの、ちょっと無理よね。 」
「 まあ・・・ ココは安全だけどね。 やはり大人の目がないのは不安だよ。
明日、ぼくから電話しておくね。 」
「 お願いね。 」
食後のお茶をのんびりと飲み、フランソワ−ズはジョ−に舞台や子供達のことを話した。
こんな雑事を・・・と思っていたが、彼は熱心に耳を傾けてくれた。
「 明日は午後出でいいし。 12月も前半を越せばぼくもけっこうヒマになるから・・・ 」
「 あら、そうなの? よかったわ〜〜〜 」
「 子供たちのこと、引き受けるよ。 きみは 舞台、頑張れよな。 」
「 うん! ありがとう〜〜〜 」
「 ・・・ それより、さ。 今晩は久し振りにゆっくり ・・・ いいだろ? 」
「 ・・・ ええ。 」
二人は食卓越しに熱い視線を絡ませ合う。
双子の両親となり、お互いに仕事も軌道にのり忙しい日々だけれど、
二人っきりになれば いつだって熱々の恋人同士なのだ。
「 きみがさ・・・ そうやって髪を梳かしているのってすごく好きなんだ。 」
「 え・・・ ブラッシングしているのが? 相変わらず可笑しなジョ−ねえ・・・
わたしの髪ってすぐに縺れてしまうのよ。 それに ・・・ 身だしなみはちゃんとしなくちゃ。 」
フランソワ−ズはドレッサ−の前から もうベッドに入っているジョ−に笑いかけた。
「 姫君のお支度が長いのには もう慣れましたヨ ・・・ でも、今夜は ♪♪ 〜〜 」
読み止しの雑誌をナイト・テ−ブルに置くと ジョ−は半身ベッドから乗り出し、
彼の妻をずるずると引き寄せた。
「 ・・・きゃ・・・ もう〜〜 せっかちなのはいつまでたっても直らないのねえ・・・ 」
「 きみが。 きみのせいだぞ、きみがいけないんだ。 」
「 あら、待つのには < もう慣れた > のでしょう? 」
すとん ・・・ とジョ−の腕の中に納まり、フランソワ−ズは蕩ける笑顔で彼をみつめる。
「 ああ。 だけど。 きみがあんまり魅力的すぎるから。 だからきみがいけないんだぜ。
ぼくはいつまでたってもどきどき・・・焦ってきみを抱き締めるのさ。 」
「 ・・・ う ・・・ んんん ・・・・ 」
唇で唇を塞ぎ、ジョ−は彼女のガウンのボタンを外した。
「 う・・・わ! どうしたの? 」
「 ・・・ だって ・・・ こんなおばちゃん、 あなたに飽きられたら・・・イヤですもの
たまには その ・・・ 違った恰好をしてみようかなって思って・・・ おかしい? 」
フランソワ−ズは もう頬を紅潮させている。
冬用の厚手のガウンのしたからは。
所謂 和風の寝間着 − 浴衣に包まれたしなやかな身体が現れた。
やわらかい感じの浴衣地が はんなりと彼女の肢体にまつわりついている。
それは剥き出しの裸体よりもその曲線を際立たせ魅惑的に見せていた。
ごく・・・ん ・・・!
ジョ−の咽喉がなった。
「 ううん! ・・・ すっごく ・・・ いいよ、これ。 ・・・シツレイします♪ 」
彼は震える指先で 彼女の伊達締めに手をかけ解いてゆく。
やがて、細帯は絡みつきつつ床に落ち・・・ 浴衣の襟元は大きく緩んできた。
ジョ−は 襟元をおさえる白い手をそっと外し 合わせ目に手をかける。
「 ・・・ 知ってた? こうやって ・・・ 開いてゆくのって すげ・・刺激的なんだ・・! 」
「 ・・・ きゃ ・・・ や ・・・ だ ・・・・ 」
広げられた浴衣は白地に紺の流水が描かれ その上に輝く肢体が横たわる。
「 ・・・ きれいだ ・・・ 本当に きれいだね・・・! 」
「 ジョ ・・・ 電気 ・・・ 電気、消して ・・・ 」
「 だ〜め。 ぼくにゆっくり鑑賞させてくれなくちゃ。 ・・・ ううん〜〜〜 凄い・・・ 」
ジョ−は身を屈め目の前の白い陶器の肌の 要所要所に口付けをしてゆく。
「 ・・・ あ ・・・! や ・・・ やだ、そこ! もう ・・・ ジョ−ったら・・・! 」
「 おや。 待ちきれませんか? せっかちサンはどっちなのかな〜〜 」
「 ・・・ イヤ、そんな ・・・・ !」
白い肌がどんどんピンク色に染まってゆく。
ジョ−は満足げにそんな様子を眺めていたが やがて彼女をしっかりと抱きしめた。
「 ・・・ ぼくも ・・・ もう待てな・・・い ・・・! 」
真冬の月が 中空に昇るころ ・・・ 二人の吐息も熱さの頂点を極めていた。
「 お早う〜〜 お父さん、お母さん〜〜 」
「 お早う、すぴか。 ・・・ あら、すばるは。 」
「 まだ寝てたよ。 一回起きたみたいだったけど。 」
「 あら〜〜 もうしょうがないわねえ。 すばる〜〜!!遅刻しますよ ・・・!」
翌朝、キッチンに現れたのは姉娘のすぴかだけだった。
たいてい毎朝、姉のあとから のんびりとすばるがくっついてくるのだが・・・
フランソワ−ズはエプロンで手を拭き拭き、子供部屋に駆けていった。
「 すばる? 起きなさい! 遅れますよ。 」
「 ・・・ うん ・・・ もう 朝・・・ ? 」
「 ええ、目覚まし、鳴ったでしょう? すぴかはもうとっくに起きて御飯食べてるわよ。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 すばる? ・・・ あら ・・・? 」
もぞもぞ起き上がった息子のほっぺがいつもより赤い。
そういえば声もどことなく鼻声である。
「 ちょっと ・・・ おでこ、貸して? 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
こっちん。 フランソワ−ズは息子のちっちゃな額に自分の額を合わせた。
「 あらら・・・ お熱があるわね〜。 ねえ、お咽喉、痛いかな? 」
「 う ・・・ うん。 なだか・・・むずむずする・・・ はっ・・・・くション!!! 」
「 あ・・・ やっぱりお風邪だわねえ。 今日はお休みしなさい。
ほら・・・ちゃんとお蒲団かけて。 あとで病院に行きましょ。 」
「 ・・・ ウン ・・・ なんだか ・・・ ふらふらする・・・ 」
「 ちょっと待っててね。 冷たいタオルをもってくるから。 なにか食べたもの、ある? 」
「 ううん ・・・ あ、お水ほしい。 」
「 はいはい、すぐに持ってくるわね。 」
・・・あ〜らら・・・ またお熱、か。
男の子って こんなに病気しやすいのかなあ。 すぴかなんて・・・寝付いたこと、ある??
フランソワ−ズはぱたぱたとキッチンに駆け戻った。
「 お早う、フランソワ−ズ。 」
「 お早う〜〜 ジョ−♪ あら、今日は午後からなんでしょう? 随分早いのね。
あ・・・ 煩さかったかしら。 起こしちゃった? 」
「 いや。 朝くらいしか子供達に会えないからさ。 なあ、すぴか。 」
「 うん! お父さんのチ−ズ・ト−スト、だ〜〜い好き♪♪ 」
すぴかはジョ−にト−ストを作ってもらい ご機嫌で齧り付いていた。
「 あはは・・・ 気に入ったかな。 あれ、すばるは。 」
「 ええ ・・・ やっぱり風邪みたい。 熱があるの。 今日は学校休ませるわ。 」
「 ありゃりゃ・・・ 昨夜、随分汗をかいていたもんな。 」
フランソワ−ズは冷蔵庫を開け、ミルクとスポ−ツ・ドリンク、そして冷凍庫からアイスクリ−ムを出した。
「 なるべく汗を出して熱を下げてないとね。 わたし、今日はクラス休むわ。 」
「 いいよ、きみはちゃんと行けよ。 ぼくが後で病院につれてゆく。 」
「 え・・・ だってお仕事、午後から出社でしょう? 」
「 う〜ん ・・・いいさ、今日は休む。 すばるのことは任せて、きみは稽古に行けよ。
リハ−サルも始まるんだろ。 」
「 ええ ・・・ そうなんだけど。 でも・・・ ジョ−、お仕事・・・ 」
「 いいって。 お互い様だろ。 」
「 ありがとう、ジョ−。 それじゃ・・・お願いね。 」
「 任せとけって。 あ、このアイス、あいつに持ってゆくよ。 」
「 ええ。 すばる、お熱をだすととたんに何にも食べなくなっちゃうから・・・
せめてアイスで栄養を摂らせないとね。 あら、すぴか! まだいたの?? 遅刻しますよ。 」
フランソワ−ズは食卓にまだ座っていた娘にびっくりした。
「 ・・・ アタシも〜〜お熱、あるかも。 こんこん。 あ、お咽喉が変かなあ。」
「 え。 なんですって?? 」
いたって元気一杯な娘のおでこに フランソワ−ズは慌てて自分の額をくっ付けた。
・・・ こちん。
「 ・・・ い〜え! なんともありませんよ! ほら〜〜早く行きなさい。 」
「 すばる、いいなあ・・・ 朝からアイスなんか食べてさ。 」
「 すばるはお病気なのよ? お咽喉も腫れているみたいなの、可哀想でしょう。 」
「 だってぇ ・・・ アタシもセキがでるよ〜 こんこん・・・ 」
「 すぴか。 セキがでるなら! ソックスだけじゃなくてタイツを穿きなさい。
それと、オ−ヴァ−を着て頂戴。 おじいちゃまが買ってくださったふわふわのがあるでしょう? 」
「 ・・・ い、いい! 平気だもん、あ! もう、アタシ治っちゃった!
いってきま〜〜す! お父さん、イッテキマス〜〜 」
「 おう。 あ、下のバス停まで駆けっこでゆこう! よ〜〜い・・・ 」
「 きゃあ。 待ってまって〜〜 ランドセル、背負うから〜〜 」
すぴかはこの時期になってもGパンにソックス、ジャケットとマフラ−だけで
毎朝元気に登校しているのだ。
ついこの間のお誕生日に博士から頂いた白いファ−付きのオ−ヴァ−は一向に出番がなかった。
「 おか〜さ〜ん、 イッテキマス〜〜 」
「 はいはい。 気をつけていってらっしゃい ! 」
「 は〜い。 あ、お父さん〜〜〜待ってったら〜〜 」
ばた −−−−−−−−− ん !!
玄関のドアが派手な音をたてて閉まった。
・・・ ああ・・・ やれやれ。 台風娘がでかけたわ。
あら、大変。 わたしも急がなくちゃ。 ああ、その前に保険証は・・・っと?
いけない、すばるの担任の先生に お電話しておかなくちゃ。
朝の時間、島村さんちの奥さんは大忙しである。
「 え・・・っと。 ここで ピルエットが入って ・・・ そのあと・・・? 」
「 ・・・パンシェしてプロムナ−ドだろ。 」
「 ? タクヤ ・・・! 」
いきなり後ろから声をかけられ、フランソワ−ズはびっくりして振り返った。
「 やだ〜〜 誰もいないと思ってたの。 あ、ここ、使う? 」
「 いや。 オレも自習しようと思ってたとこだから。
・・・なあ、やっぱ 相手がいた方がいいんでない? 」
「 え ・・・ タクヤだって自分のヴァリエ−ション、自習するつもりだったのでしょう? 」
「 お相手しますよ、シュガ−・プラムのお姫様。 」
「 いいの? だって ・・・ それにまだわたし、アダ−ジオもちゃんと復習してないのよ? 」
「 だから、 <自習> するんだろ。
ほら・・・ はじめから。 出からやろうぜ。 」
「 ええ ! ・・・ ありがとう・・・! 」
「 ナイショだから ・・・ 音、オレのポ−タブルでいい? 」
「 勿論よ。 音があるだけ嬉しいわ。 」
「 ・・・よし。 その代わりちっさいぜ。 」
クリスマスをすぐに連想するきらきらした音が小さく流れだした。
二人のダンサ−はすぐに <お菓子の国> の住人になっていった。
「 ・・・ 次のピルエット、もう少し早くできるか? 」
「 え・・・ このテンポだと遅い? 」
「 いや、音とはバッチリだけど。 ほんのちょっと盗むと ほら・・・ 次のアラベスクに
余裕で入れるだろ。 君のラインが綺麗にでる。 」
「 ・・・ あ ・・・ そうね。 でもあまり音を無視したくないわ。 」
「 わかってるって。 ほんの ・・・ 気持ち、さ。 」
「 オッケ−。 それでやってみましょ。 」
「 うん。 ・・・フランソワ−ズ、君さ。 君の良さをもっとアピ−ルしたら。 」
「 良さ?? 」
「 うん、長所・・・いや、魅力っての? その・・・ 君の 夢見る少女 みたいな雰囲気をさ〜
もっと踊りにも出してみろよ。 < 金平糖 > のイメ−ジにぴったりじゃん? 」
「 あらら・・・ ふふふ・・・とても二人の子持ちのオバサンには見えない? 」
「 ・・・ そんなこと、言ってないぜ。 」
「 やだ、怒らないでよ、タクヤ。 わたしが子持ちなのは事実なんだもの。 」
「 オレらさ。 夢、を踊るんだぜ? 君は夢見るお姫様でオレはりりしい王子さま、ってわけ。
現実は現実。 夢は ・・・ 別のトコで見るんだ〜〜 」
タクヤは急に ぽん・・・とフランソワーズを高くリフトした。
「 ・・・ わ ・・・! あら、すごいタイミング。 巧くなったわね〜〜 タクヤ。 ・・・ きゃ・・・ 」
すと・・・っとタクヤはフランソワ−ズの身体を放し、低い位置で受け止めた。
フランソワ−ズは咄嗟に身体を反らせ バランスをとった。
「 お見事。 完璧なリプカだなあ。 」
「 タクヤ ・・・ ! おどかさないでよ〜〜 」
( 注 : リプカ ・・・ リフトの名。 フィッシュ または パ・ポワソン とも。
『 くるみ〜 』 の三幕でのG.P.の最後のポ−ズにも使用 )
「 また・・・ってか、今度は全幕、踊りたいな、『 眠り〜 』 」
タクヤはフランソワ−ズをぽん、と持ち上げ起こした。
「 う〜〜ん ・・・ いつになるかしら。 まだまだよ、全幕の芯を踊るなんて・・・ 」
「 この前〜 なかなか上出来だったじゃん? 」
「 あれは・・・ 発表会だもの。 」
「 ふん ・・・ お、そういえば。 あの時の坊主 ・・・ えっと・・・すばるは元気? 」
「 そうそう、なんだか仲良ししてたわねえ。 オトコ同士のヒミツなんだ〜って教えてくれないのよ。
うん ・・・ 今、寝てるはず。 風邪ひいて熱だしてるの。 」
「 え ・・・ 」
「 あ、そうだわ。 ねえ、男の子って ・・・ あんなに始終熱だしたりするもの?
タクヤもそうだった? あのくらいの頃。 」
「 え ・・・う〜〜ん・・・??? あんまり記憶にないなあ・・・
あ・・・でも なんか・・・ 夜中に目、さましたら隣に母親がついててくれたコト、あったぜ。 」
「 ふうん ・・・ そうなんだ。 」
「 フランソワ−ズ。 今日はこれで終わりだ。 」
「 あら、なにか予定があるの? ごめんなさい。 」
「 ちがう、ちがう、オレじゃないよ〜〜 早くかえってやりなよ! すばるのトコにさ。
あいつ ・・・ 一人で寝てるんだろ? 」
「 ああ、大丈夫。 今日は ジョ・・・ううん、主人が休んでくれたから・・・ 」
「 でも! 母さんに側にいて欲しいんだよ。 絶対そうだってば。 」
「 あのコ、お父さんっこなのよ。 お父さんがいればご機嫌だから・・・ 平気よ。 」
「 そりゃ普段はそうさ。 でもな。 具合が悪い時にはやっぱ 母さんなんだ。
オトコって ・・・ そんなもんさ。 」
「 そ、そう・・・? そうなの? 」
「 ああ! ・・・ それに、な。 これはナイショなんだけど・・・ ( 許せ、すばる!)
すばるが <一番好きなオンナの子> は お母さん なんだってさ。 」
「 ・・・ まあ ・・・ 」
トン・・・・と軽く踏み切って タクヤは余裕で二回転するとスタっと着地した。
綺麗な五番に降り、上体にもブレはない。
トゥ−ル・ザン・レ−ルは彼の得意技なのだ。
・・・ちぇ! オレって相当おめでたいよな。
じゃあ、ゆっくりお茶でもどう?・・・なんて誘ってサ 忙しい人妻の心をゲットするチャンス ・・・
って 無理かなあ・・・ あのダンナじゃなあ・・・
亜麻色の髪のお姫様はついさっきぱたぱたとスタジオを出て行った。
ありがとう・・・タクヤ!
彼の頬に優しいキスを落とし・・・ 愛しい子供達の許へ。 愛する夫の待つ家へ。
ふん ・・・ ! いいさ、オレは。 なにせ夢の国の王子サマだからな〜〜
舞台の上では オレが! このオレが君の大事なパ−トナ−なんだ!!
シュ ・・・!
タクヤは大きくプレパレ―ションを取ると 高く ・・・・ ジャンプした。
「 ただいま。 ・・・? ・・・ ジョ−・・・? 帰りました〜〜 」
フランソワ−ズは息せき切ってギルモア邸の玄関のドアを開けた。
予定より早く稽古場を出たので、まだ陽のあるうちに買い物も済ませ帰宅できたのだ。
「 ・・・? ジョ−? あら、おかしいわね。 でかけたのかしら。 」
靴を脱ぎ、荷物を抱え直し ・・・ 耳を澄ましたけれどなんの音も聞こえない。
いつも賑やかなギルモア邸が 今日はし・・・ん と静まり返っている。
変ねえ ・・・ あら。 もしかしてまだ病院から帰ってないのかしら。
風邪じゃなかったの??
急につぎつぎと不安が湧き上がり、 フランソワ−ズは慌ててキッチンに荷物を置きに走った。
・・・ あら? なにか音が・・・?
駆け上がった二階で、子供部屋からキ−ボ−ドを打つ音が微かに聞こえてきた。
「 ・・・ ジョ−・・・? すばる・・・? 」
「 あ。 お帰り、フランソワ−ズ。 ごめん、気がつかなかった ・・・・ 」
「 あ・・・あ ここにいたの。 よかった・・・ 何かあったのかと思ったわ。 」
「 ごめん、ごめん。 すばるがさ、 一緒にいて〜〜って言うから・・・ 」
ジョ−がノ−トパソコンを持ち込んで すばるのベッドの横で仕事をしていた。
すばるはちょっとピンク色の頬をして、でもぐっすりと眠っている。
「 お帰り・・・ お疲れ様。 」
「 ただいま、ジョ− ・・・ 」
ジョ−はフランソワ−ズを抱き寄せ、二人は熱く唇を、重ねた。
「 ・・・ 急いで帰ってきたんだね。 唇が火照ってる・・・ 」
「 ええ ・・・ 側にいてやれよ〜って。 <もと・少年> のアドヴァイスがあったの。 」
「 <もと・少年>? 」
「 そう、今・王子サマ。 具合が悪いときにはやっぱりお母さん、なんですってさ。
それで、病院、どうだった? 」
「 うん、普通の風邪だって。 暖かくして寝てなさい、ってさ。
具合が悪い時にはお母さん、か。 ・・・ そうかあ・・・ そうだろうな。 ぼくにはわからないけど。 」
ジョ−はちょっと淋しい笑を唇に浮かべた。
「 病気の時だけは神父様が側にいてくれて・・・嬉しかったな。
ふふふ・・・ お母さんがいつも一緒のすばる達がさ、ちょっと羨ましいや。 」
「 ジョ−。 わたし、いつもあなたの側にいるでしょう? 」
「 うん。 そうだよね・・・ ぼくには ・・・ きみがいる・・・ 」
フランソワ−ズはジョ−の首に腕を絡め、背伸びして彼の唇にもう一度キスを落とす。
「 ずっとよ。 ずっと・・・・ 死ぬまで側にいるから。 」
「 ・・・ うん ・・・ んんん ・・・ 」
ジョ−はしっかりと寄り添ってきた身体を抱き締めた。
そうさ。 きみがいるから。 いてくれるから。
・・・ ぼくは何だってできる。 きみと子供達を護るためならどんなことだって・・・!
「 ・・・ う・・ん ・・・? あ ・・・ お母さん ・・・ お帰りなさい。 」
「 あら、すばる。 お目々、覚めた? どう ・・・ お熱は・・・ 」
フランソワ−ズは小さな息子のおでこに手を当てた。
「 うん、もうほとんど下がったわね。 よかったわ。 」
「 ・・・ こっちん、して。 お母さん ・・・ 」
「 え? ・・・ああ、はいはい。 」
すばるのセピアの瞳は まだちょびっと潤んでいるみたいだった。
フランソワ−ズは息子の側に身を屈め、彼のおでこと自分のおでこをくっ付けた。
「 うん、もうお熱、大丈夫ね。 」
「 ・・・ うん。 ・・・ お母さん ・・・ 石鹸の匂いがする・・・ 」
「 そう? 急いでシャワ−を浴びてきたから・・・ ボディ・ソ−プが残ってたかな。 」
「 ・・・ いい匂い ・・・ 」
「 あ〜らら・・・ もう。 甘えん坊さんねえ。 もう二年生になったのに・・・ 」
すばるはするり、と彼のお母さんに抱きついた。
「 あ〜〜 すばる、ずるいぞ〜〜 お父さんがお母さんのこと、抱っこしてたのに。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・! 」
「 えへへ・・・ お母さん ・・・・ 」
「 なあに、すばる。 」
「 なんでもな〜い・・・ 」
「 すばる。 」
「 な〜に、お母さん♪ 」
「 ・・・ふふふ・・・なんでもな〜い・・・じゃなくて。 なにか食べる? おなか、空いたでしょう。 」
「 う 〜〜 ん ・・・ あ! プディング、食べたい。 ミルク・プディング ・・・ 」
「 はい、わかったわ。 それじゃ・・・オヤツに作りましょうね。
ああ・・・ 随分汗かいたわね、 パジャマ、着替えようか。 」
「 ぼくがやるよ。 きみはオヤツ、作ってやって。 ・・・ ぼくも食べたい♪
きみの < 牛乳ゼリ− >。 」
「 はいはい、それじゃ・・・すぐに作ってくるわね。 あ、すばるのパジャマは
タンスの三番目の引き出しよ。 お願いね。 」
「 了解〜〜 さ、すばる。 汗拭いて・・・ 着替え用な。 」
「 うん! お父さんも〜 ミルク・プディング、好き? 」
「 ああ、大好きさ。 ・・・それと。 お父さんも <お母さんが大好き> なんだ。 」
「 わ〜〜 僕も♪ お父さんと一緒だ〜〜 」
「 お母さんはさ。 お父さんのお嫁さんなんだぞ。 」
なんだかジョ−はひどく真剣な顔をしている。
「 うん。 お母さんはぼくのお母さんだよ? 」
「 ・・・ そうなんだよな・・・ ( く ・・・・ ! 負けたゼ ・・・ ) 」
・・・ まあ ・・・・ ジョ−ったら。 本気で息子にヤキモチ焼いているかしら。
父子の会話を耳の隅っこに拾って フランソワ−ズは可笑しくなってしまった。
ふふふ・・・ 一番好きなオンナノコは お母さん、か・・・・
こんなコト、ジョ−に言ったら ・・・ またヤキモチかなあ。
フランソワ−ズは唇を綻ばせ、キッチンに下りていった。
「 ただいま〜〜〜!!! タダイマッ! 今日のオヤツ、なに〜〜 」
バタン!と玄関のドアが勢いよく開いて ・・・ 閉まって。
賑やかな足音と一緒に すぴかが駆け込んできた。
「 お帰りなさい、すぴか。 」
「 ただいま! お母さん。 ・・・ お父さんは? 会社? 」
「 いいえ、子供部屋にすばるのとこにいますよ。 」
「 ふうん。 あ、オヤツちょうだい、お母さん。 」
「 まず。 手を洗ってウガイして。 ランドセルをお部屋に置いていらっしゃい。
それから オヤツよ。 」
「 は〜い。 ねえ、オヤツ、なに。 」
「 ミルク・プディング。 すばるのリクエストなの。 」
「 え・・・ あの ・・・・ 甘いの? ・・・ おせんべ、ある? 」
「 ・・・ あるけど。 すぴか、ミルク・プディングはいらないの? 」
「 う・・・ ん ・・・ アタシ、おせんべがいい。 」
「 ・・・ わかったわ。 」
・・・ ほっんとうにこのコは 辛党なのねえ・・・
「 ねえ、お母さん。 」
「 なあに。 」
「 クリスマスにさ〜〜 アタシ、サンタさんにお願いしたいんだ。 」
「 あら、 DSが欲しいんじゃなかったの。 」
「 欲しいよ。 それとね〜 お稽古バッグ! とう・しゅ−ずの絵がついたの。
それからね、シュ−ズ入れと ・・・ あとね、あとね〜〜 縄跳び! もつトコが白くて
ヒモがね、早く回すとぴっぴっ・・・って光るヤツ。 」
「 お願いはひとつでしょう? 」
「 え〜〜〜 だって〜〜〜 ゆみちゃんもあみちゃんもいっぱい貰うって。
お祖母ちゃまとか〜 伯母ちゃまとかからも貰うって。 」
「 すぴかだってお祖父ちゃまから素敵なオ−ヴァ−を頂いたじゃない? 」
「 だって・・・ アレはお誕生日のだもん。 」
「 クリスマスと一緒に、ってお祖父ちゃま、仰ったわ、忘れたの?
毛皮がふわふわ付いて真っ白で・・・ あんな素敵なの、お母さんみたことないわ。 」
「 ・・・ でもでも〜〜 」
「 すばるとよく相談してごらんなさい。 」
「 うん! ・・・ すばる〜〜〜 」
母が出してくれたお煎餅も忘れて、すぴかは子供部屋に駆けていってしまった。
・・・ もう ! 貰うことばかり考えて。
クリスマスは プレゼントを貰う日、じゃないのに・・・・
フランソワ−ズはまたまた溜息をつき、トレイにミルク・プディングとお煎餅のお皿を載せた。
もうすぐお茶が丁度いい具合になるだろう。
「 だから。 クリスマスって、何の日? 」
「 ・・・ イエズス様がお生まれになった日。 」
「 イエズス様のお誕生日。 」
「 そうね。 それで皆でお祝いするのでしょう? そして お祈りするわね。 」
「 ・・・ うん 。 」
双子達は お母さんの前で神妙な顔をして立っている。
フランソワ−ズは日本に住むようになってからも時間をみつけては教会に通っていた。
<島村さんちの奥さん> になってからも、<すぴかちゃんとすばる君のお母さん> になってからも
その習慣は変わらない。
教会で育ったジョ−は勿論、子供達も一緒の事が多く島村さん一家は皆教会に慣れ親しんでいた。
「 皆でね、プレゼントを交換するの。 あなたにありがとうの心ですって・・・
それなのに。 あなた達は欲しいモノのことばっかり。 」
「 ・・・ だって ・・・ 皆 ・・・ 」
「 お祖父ちゃまや伯父さん達にお礼を言ってる? ちゃんとクリスマス・カ−ド、書きなさい。
もう赤ちゃんじゃないでしょ、今度はあなた達からプレゼントすることも考えなくちゃ。 」
「 ・・・ う ・・・ ん ・・・・ 」
風邪っぴき・すばるも <欲しいモノ> のことしかアタマにないようだった。
子供部屋にオヤツを運んできた母親に 双子の姉弟はたっぷりとお説教を喰らったのだ。
「 ・・・ そうなんだよねえ・・・ ぼくもうっかり忘れていたよ。 」
「 え ? 」
リビングに戻って、フランソワ−ズはもう一度お茶を淹れなおした。
香り高い紅茶に ジョ−はたっぷりとミルクを注ぐ。
「 さっきの。 きみのお説教さ。 クリスマスの本当の意味。
この国ではほとんどのヒトが考えてもみないんじゃないかなあ。 」
「 ・・・ 教会とかに縁がなければ仕方ないかもしれないけど。
でも ・・・ わたしね、子供達には知っていて欲しいのよ。
クリスマスには、ううん、クリスマスにこそ祈って欲しい・・・ この地の・・・ 平和を ・・・ 」
「 そうだね・・・ 本当に、そうだね。
ぼくもさ、神父様のとこで暮らしていたころってクリスマスは 祈りの時期 だったよ。
すっかり 忘れていたなあ。 」
「 あの子達にはピンとこないでしょうけれど。 こんな平和な暮らしができるって
本当に ・・・ 本当にわたしは神様に感謝したいの。 」
二人は 009 と 003 として見つめあい、どちらからともなく手を差し伸べ抱き合った。
「 ・・・ うん。 クリスマスには皆で深夜ミサに出席しようね。
あっと・・・ その前に、本番頑張れよな。 金平糖のお姫さま♪ 」
「 ふふ・・・ ありがとう、ジョ−・・・ 」
「 今度の 王子サマ は誰? 」
「 タクヤよ。 ほら・・・ すばると仲良しになってくれた、彼。
『 眠り〜 』 のグランを一緒に踊ったでしょう? 」
「 お〜〜 アイツか。 うん、なかなか好青年だよなあ。 ふ〜ん ・・・ そうか。 」
「 あら、なあに? 気になるの。 」
「 いや べつに。 」
「 あら、そうなの? わたし達、すっご〜〜く息が合うし♪ いい舞台にしたいね〜って
二人とも全幕モノの芯は初めてでしょう、張り切っているのよ。 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 らぶらぶ〜〜であま〜〜い金平糖のパ・ド・ドゥにしようね〜って・・・ 」
「 ・・・え ・・! 」
「 ・・・ ウソよ、そんなこと、言ってません。
皆が楽しんでくれる舞台にしようね・・・っていっているだけよ。 」
「 ・・・もう〜〜 悪いコにはお説教だぞ。 」
ジョ−は白い頬に手を当て、桜色の唇にキスを盗む。
「 ・・ン〜〜 んんん ・・・ 紅茶のいい香り・・・・ 」
「 そうだ・・・ それじゃ、忙しくて今年はケ−キ、無理だね。 どこかで買ってこよう。 」
「 う〜ん・・・ でも、イブは舞台じゃないから、大丈夫、わたし焼けるわ。 」
「 いいよ、いいよ。 無理するな。 きみと子供達と、一緒にすごせればそれが最高さ。 」
「 ・・・ わたしが焼きたいの。 クリスマスの・・・ブッシュ・ド・ノエルね、ママンがどんな時でも必ず焼いて
くれたの。 亡くなる前の年までずっと・・・・ 」
「 いいお母さんだったんだね。 」
「 ええ! ちっちゃい頃、大きくなったらママンみたいなママンになりたいってずっと思ってたの。
だから・・・。 大丈夫、24日までに材料はちゃんと揃えて下こしらえはしておくわ。
それに すばるにも手伝ってもらうから。 」
「 そうかい。 それなら・・・ でも本当にあんまり無理をするなよ? 」
「 ええ。 ・・・ ありがとう、ジョ−。 」
「 ぼくもさ。 実は・・・ きみのケ−キが食べたいんだ〜 」
「 ふふふ・・・ そうだろうと思ってたわ。 」
「 ぼくにとって・・・ きみのブッシュ・ド・ノエルは家族の、幸せのシルシだもの。
ぼくがずっと憧れて・・・欲しくて欲しくて仕方なかったモノが全部・・・今、本当に全部手入った・・・ 」
「 ジョ−? あなたが努力して得たものばかりよ。 」
「 ・・・ きみがいてくれるから ・・・ 」
「 あなたがいてくれるから、わたし ・・・ こんなに幸せよ? わたしも望んだもの、全部頂いたわ。 」
見詰め合う色違いの瞳には 揺るぎない信頼と愛情が込められている。
「 ・・・ ありがとう、ジョ−・・・ やっぱりジョ−はわたしの最高の王子様だわ。 」
「 フランソワ−ズ ・・・ ああ ・・・ ! 夜が待ちきれないな・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 相変わらずのせっかちさん♪ 」
見つめ合い、ぴたりと寄り添って・・・ 二人は甘い時間 ( とき ) を存分に味わっていた。
「 すばる〜〜 明日は学校、行けそう? 」
パジャマに着替え、すぴかはぽん・・・と弟のベッドに飛び乗った。
「 うん。 もう咳も出ないし〜 お咽喉も痛くないよ。 」
「 お熱は ・・・? こっちん、しよ。 」
「 うん・・・・ あはは・・・いててて・・・ 」
双子の姉と弟は小さな額をくっ付け合った。
「 ・・・ うん、もう平気だね〜〜 よかったね。 」
「 えへへ・・・ お母さんのプディングで治っちゃった〜〜 ねえ、すぴか。 」
「 なに? 」
すぴかはたたた〜〜とハシゴを昇り自分のベッドに潜り込んだ。
二人は二段ベッドに寝ていて、当然! すぴかが上段なのだ。
「 あのさ。 お父さんとお母さんにもプレゼント、あげようよ。 」
「 あ! さんせい〜〜! でも・・・ なににする?? 」
「 う 〜〜〜 ん ・・・ お小遣いじゃあんまり買えないよね。 」
「 アタシ・・・ 今月のお小遣い、もう無いもん・・・ 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ あ! そうだ!! ねえねえ、すぴか? 」
「 なになに?? 」
すぴかはくるりん、と手すりから乗り出し下段の弟のベッドに降りた。
「 あの、ね・・・ 張伯父さんにね ・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・?? 」
「 ・・・ うん ・・・え、ケ−キ? ・・・ うんうん ・・・ あ! それ いい〜〜〜! それに決め♪ 」
双子の姉弟はナイショ話をしつつくつくつといつまでも笑い合った。
「 いってきま〜〜す! お父さん お母さ〜〜ん! すばる! 先に行くよっ 」
「 行ってらっしゃい。 あ、すぴか〜〜 今日は帰りに張伯父さんのとこへ行くのよ、
いいわね、忘れないで! 」
「 は〜〜い〜〜〜 」
大声と一緒に バタン!と玄関のドアも大きな 声 を上げた。
師走の声を聞いたというのに、相変わらずすぴかはジャケットにマフラ−だけで駆け出してゆく。
細っこい身体なのだが、ほとんど病気をしたこともない。
「 もう ・・・ 乱暴なんだから・・・ すばる! 早くしないと遅れますよ! 」
「 ・・・ うん。 ミルク、全部飲んでから・・・ 」
「 すばる、わかってるわね、今日は・・・ 」
「 うん、帰りに張伯父さんのお店にいってお母さんのお迎えを待っていればいいんでしょ。 」
「 そうよ。 お母さん、なるべく急ぐからね。 伯父さんのとこでお留守番しててね。 」
「 お母さん、今日も りは〜さる ? タクヤお兄さんと? 」
「 そうよ。 今度はね、金平糖の精、を踊るのよ。 」
「 わあ〜〜 見たいな、 僕〜〜 」
「 皆で見に来て頂戴。 」
「 うん ♪ 金平糖〜〜〜 ちかちかちっちゃいツノがある〜〜♪ 」
「 おい、すばる〜〜 遅刻するぞ! ほら、急げ! 」
「 ・・・ あ ! 大変だ〜〜 バス、行っちゃうよ・・・ 」
「 よし、下のバス停までお父さんが <運んで> やる。 ほら・・・ ! 」
ジョ−は読み止しの新聞を畳むと、屈んですばるに背を向けた。
「 わ〜〜〜い♪♪ ・・・ おっけ〜〜 お父さん、出発〜〜 」
「 よ〜〜し。 行くぞ〜〜〜 」
「 おか〜さ〜ん! 行っています〜〜〜 」
「 はいはい ・・・ 行ってらっしゃい・・・ 」
・・・ ほっんとうに、息子には甘いんだから・・・!
フランソワ−ズは すばるをオンブして全力疾走してゆくジョ−を眺め呟いた。
「 さ。 わたしも急いで支度しなくちゃ。 」
クリスマスは もうすぐそこまで来ている。
「 ・・・ おい、ダメだよ。 寝てろってば。 」
「 大丈夫 ・・・ 朝御飯、作らなくちゃ。 それに今晩の御馳走の準備も ・・・ はっくしょん! 」
「 ほうら・・・ 寝てろって。 」
ジョ−はフランソワ−ズの肩を押さえ、掛け布団を引き上げた。
「 ・・・ うん ・・・? 熱いなあ ・・・ どれ。 」
「 そんな ・・・ たいしたコトないわ。 ちょっと疲れただけよ ・・・・ 」
ジョ−がそっと押し付けてきたおでこが随分と冷たく感じた。
ぞくり・・・と背筋に悪寒が走り、フランソワ−ズは蒲団の下で寝間着の襟を掻き合わせる。
「 たいしたコト、大有りだよ! ずいぶん熱があるじゃないか! 今日は大人しく寝てろ。 」
「 ・・・ でも ・・・ 」
「 食事くらいぼくが作る。 今夜の分も任せとけ。 」
「 え ・・・ 大丈夫・・・ 」
「 休んでいろよ。 いつもいつも ・・・ チビ達の世話もなにもかも、きみに押し付けてるもんな。
こんなときくらい、ぼくにやらせてくれよ。 」
「 ・・・ ジョ−だって毎日遅くまでお仕事しているじゃない ・・・ 」
「 でも。 今日は、ね。 今日くらいは< お母さん >も休業さ。 」
「 ・・・ これくらい・・・・ 平気 ・・・ 」
フランソワ−ズは無理矢理身体を起こそうとしたが、ジョ−はしっかりと蒲団ごと抱きとめてしまった。
「 もう〜〜 信用ないんだなあ。 ともかく、今日はきみはベッドだ。
すこし、冷やそうか。 ああ、咽喉かわくだろ、ミネラル・ウォ−タ−、持って来る。 」
「 ・・・ ありがとう ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 きっと本番終って気が抜けたんだよ。 ・・・ 素敵な金平糖の精だったよ。 」
「 ・・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ほらほら・・・ 涙もろくなってるのは熱がある証拠だぞ。
な〜に、今日しっかり休めば明日は熱なんてすぐに下がるさ。 」
「 ・・・ ええ ・・・ 」
ジョ−は愛妻の熱に赤らんだ頬に軽くキスをして、出て行った。
・・・ ふうう ・・・・
吐く息まで 熱い。
フランソワ−ズはぼんやりと天井を見つめた。
ああ・・・ 舞台、なんとか上手く行って・・・ よかった・・・!
皆、楽しんでくれたみたいだし・・・
・・・ でも せっかくのイヴなのに。 すばる、すぴか ・・・ ごめんなさい・・・
そ・・・っと頭を廻らせば くら・・・っと軽い眩暈がする。
これはどうも ジョ−の言う通りに大人しく寝ているしかないようだ。
レ−スのカ−テン越しに 淡い日の光が差し込んできている。
今日も 冬晴れ ・・・ 穏やかなクリスマス・イブになりそうだ。
・・・・ こんなイヴも ・・・ あり、かな。
神様 ・・・ わたし ・・・ 幸せです ・・・
熱に浮かされつつも フランソワ−ズは幸せの笑みを唇に浮かべていた。
「 ・・・ フラン ・・・? どうだい。 食事持ってきたけど。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
どれくらい眠ったのだろう。
フランソワ−ズは ジョ−の声と額に当たる彼の手の感触で目を覚ませた。
部屋はもう灯りが点っていた。
「 ・・・ 今 ・・・ 何時? 」
「 うん? 7時ちょっと過ぎかな。 ああ・・・随分熱が下がったね。 」
「 ・・・ ああ 〜〜 よく寝たわ・・・ 」
「 顔色も良くなったし ・・・ よかった。 さあ、じゃあコレを全部食べて。 」
「 ・・・ま ・・・ これ、ジョ−が・・・? 」
フランソワ−ズはジョ−の差し出したトレイを見つめ、目を見張っている。
そこには ほかほか湯気のたつ美味しそうな海鮮粥が乗っていた。
「 えへへ・・・ 実は張大人に電話でレクチュアしてもらってさ。
ぼくとチビ達は中華風クリスマス・ディナ−ってわけ。 」
「 まあそうなの。 これ、美味しそう〜〜〜 」
「 ・・・ お母さん・・・・ ? 」
「 入ってもいい ? 」
ドアの影から小さな声がふたつ、こっそり聞こえてきた。
「 あら? ええ、ええ。 いいわよ、入ってらっしゃい、二人とも。 」
「 すばるもすぴかも。 入っていいぞ〜 でも 静かに、な。 」
「「 は〜〜〜い 」」
「 ・・・ ?? 」
いつもは賑やかな双子は 随分と真面目な顔でそろそろと両親の寝室に入ってきた。
「 ・・・ これ。 作ったの。 アタシとすばるとで。 」
「 クリスマス・ケ−キだよ〜 ぶっしゅどのえる! 」
「 ・・・え??? 」
「 アタシ達ね〜〜 張伯父さんにお願いして・・・ お留守番のたんびに教わってたの。 」
「 えへへ・・・ でも難しくて・・・ 台は張伯父さんがつくって下さったんだ。 それにね・・・ 」
「 アタシとすばるで飾ったの! ほら〜〜 ぶっしゅどのえる、よ〜〜 」
「 ・・・ まあ ・・・! 」
フランソワ−ズのベッドの上に どん! と大きなお皿がのっかった。
そこには。
どうも中華風蒸しケ−キ・・・らしいロ−ル・ケ−キに。 チョコレ−トがマダラにかかり、その上に
棒型のチョコやら枝の形のチョコ、チョコレ−トのきのこやらがた・・・・っくさん飾ってあった。
なだかお煎餅みたいなモノもしっかり顔を覗かせている。
「 ・・・うわ〜〜〜 凄いわ! 二人とも、凄く上手ね〜〜
これ、本当に森にある薪みたいね。 お母さん、こんな素敵なブッシュ・ド・ノエル 初めて! 」
「 えへへへ・・・・・ 」
「 これ。 アタシ達から・・・お父さんとお母さんへプレゼントなの。
あ・・・ でも 〜〜 アタシ達にも齧らせてね! 」
「 勿論よ。 ねえ、ジョ−、皆で頂きましょうね。 」
「 そうだね〜〜 お父さんが切ってもいいかな。 」
「「 うん !! お父さん、お母さん〜〜 めり〜〜〜 くりすます♪ 」」
「「 はい、メリ−・クリスマス ♪♪ 」」
・・・ 神様 ・・・! ありがとうございます・・・
どうぞ ・・・ わたしの愛する人々に、 ジョ−に 子供達に。
そして 全世界の人々に ・・・ 祝福を ・・・・ !
クリスマス・イヴの夜。 島村さんちの奥さんは深夜ミサで一番最後まで熱心に祈っていた。
「 ・・・ もう、いいかな。 」
「 ・・・ ええ ・・・ ありがとう、ジョ− ・・・ 」
「 熱心に祈っているのに ごめん。 でも冷えるとまた・・・ぶりかえすよ。 」
「 ふふふ・・・大丈夫。 わたしにはね、専用のヒ−タ−があるの。 」
「 専用のヒ−タ−? 」
「 ええ ・・・ こ・れ♪ 」
フランソワ−ズは ぴたり、とジョ−に寄り添い彼の広い胸に顔を埋めた。
メリ−・クリスマス ・・・・ !
どうぞ 世界に平和な日々が訪れますように。
ジョ−とフランソワ−ズは 心から神に祈った。
********** Fin. **********
Last
updated : 12,25,2007.
index
***** ひと言 ******
え〜〜〜 お馴染み ・ 島村さんち・スト−リ−です♪♪
前回は新婚時代でしたが 今度は双子ちゃんも参加です。
例によってな〜〜〜んにも事件はおきません、のほほ〜〜んな・あったか・クリスマス♪
島村さんち の皆とご一緒にお楽しみくださいませ。 <(_ _)>
なお、 タクヤ君については 拙作 『 王子サマの条件 』 『 Voulez−vous du chocolat?』
に登場する好青年、フランソワ−ズとよく パ・ド・ドゥを組みます。
ミルク・プディングにつきましては 【 残暑お見舞い企画 】 に出てきます。
お時間がおありでしたら 是非♪♪