『 まほう使い 』
うんとちっちゃい頃 僕は <まほう使い> を信じてた。
教会の古びた絵本で見た 黒い帽子に黒い服。 ながくて曲がりくねった杖をもって。
そうして 一生懸命お願いをすれば ナニか難しいお手伝いをすれば きっと望みをかなえてくれる・・・
そんな <まほう使い> をチビの僕は本気で信じてたんだ。
いっしょうけんめい お願いすれば。 がんばってお手伝いすれば。 ばけもの退治についゆけば。
<まほう使い> はお礼に僕の望みをかなえてくれるって 僕は本気で信じていた。
お母さんが むかえにきてくれますように お母さんに あえますように
だけど。 神様なんているもんか、って呟くようになる前に僕は <まほう使い> を信じなくなった。
僕のヒ−ロ−の座から <まほう使い> は永遠に姿を消した・・・・
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きみは素適な季節だって言うけれど。 爽やかで明るくて大好きな月だって微笑むけれど。
僕は そう、ずうっと子供のころからこの月− 五月 −が大嫌いだったんだ。
きみと巡り合って はじめてこの月の最初の日に鈴蘭をもらって。 それはそれで物凄く嬉しかったけれど。
僕は そう、いまでもまだこの月− 皐月 −が好きにはなれないんだ。
GWなんて いったい誰が言い出したんだろう。 なにが 黄金週間 なんだろう。
教会で暮らす僕たちにとって それは楽しくなんかなくまして楽しみに待つ日々でもなかった。
賑やかな親子連れにだまって暗い羨望のまなざしを送り ふん・・・とそっぽを向いて。
こどもの日? そりゃ確かに教会の庭にもコイノボリは泳いだけど。 ソレは誰かの慈善の寄付。
僕のために僕の成長を祈って僕の幸せを望んで・・・・用意してくれたモノなんかじゃない
だいたいさ。 アノ泳いでる鯉だって<親子>なのに。 おとうさんと子供たちなのに。 それなのに・・・・
母の日 ? お母さんに赤いカ−ネ−ションを贈る、なんて決めのはいったいどこの誰なんだよ。
おまけにご丁寧に お母さんを亡くしたヒトは白いカ−ネ−ションだって? どういう神経してんだよ、
なんにもわかってなんかいないから。 そんなコト、言えるんだ・・・・。
極めつけは <お誕生日 おめでとう> ときたもんだ!
どうしてめでたいんだよ、ワケなんかないじゃないか。 誰だって黙ってればいっこづつ歳くってくんだぜ、
それがどうしてめでたいのさ・・・ 誕生日・・・なんて知らない。 そんな日・・・いらない。
ほんとに なんて憂鬱な日ばっかり続く月なんだ、五月って!
寄りにも寄って・・・そんな月のど真ん中に生まれるなんて・・・ ふふん・・・僕らしいってばそれまでかなあ・・・
すとんっと抜ける様な日の光を受けて、青葉が路におとす影が日ごとに濃くなってゆく。
人々の、樹々の、ざわめきがだんだんと声高になるにつれ、ジョ−の口数はますます減っていった。
なにをするでもなくぼんやり窓の外を眺めていたり、ふらりと外出しても沈んだ空気を漂わせたまま戻ってきていた。
その日も。
珍しく歩いて戻って来たジョ−に低いフェンス越しに庭からフランソワ−ズが声をかけた。
「 ねえ、ジョ−! ほら・・・こんなに綺麗に咲いたわ!頑張って水遣りに精出した甲斐があったわ。 」
「 へえ・・・ああ、ここは・・・カ−ネ−ションだったんだ・・・ 」
「 そうよ、あらヤダ、ジョ−ったら花が開くまでわからなかったの? この葉っぱだったらすぐわかるじゃない、普通 」
「 そ、そうかな・・・ 」
「 そう、よ? 変なジョ−ねえ? 」
研究所の庭で サブリナ・パンツの裾をもうすでに泥だらけにしてフランソワ−ズは屈託なく笑う。
四月のミュゲの株探しからますます彼女の<庭いじり熱>はエスカレ−トしてきたようだ。
「 いろんな色の種を蒔いたから。 日本の今頃って赤のカ−ネ−ションばっかり目につくけど。 それじゃ、つまんない
でしょ? 赤もピンクもオレンジも、白も。 みんな一緒の方が綺麗だし、楽しいわ。 」
「 ああ・・・赤いってのは、ほら、【 母の日 】 の定番だから、さ。 」
「 そう? じゃあ、わたしは。 」
フランソワ−ズはぱっとしゃがみこみ蕾を開かせはじめたカ−ネションを両手一杯にそうっと抱えて ジョ−を見上げた。
「 これを、この色を全部。 みんな、あなたのお母様に。 」
「 ・・・フランソワ−ズ・・・ 」
「 母の日ってステキね! あなたのおかあさまに こころからの感謝を。
あなたを生んでくださったことに。 あなたを育てようとしてくださったことに。
そして、 あなたをあの教会に託してくださったことに。 」
「 ・・・・・・ 」
「 いろんな色があると、綺麗でしょう・・・? たくさんの違った気持ちがあっても。 みんな一緒になればとっても
キレイだと思うの。 ううん、いろいろな想いがある方がずうっと素適だわ。 」
「 いろいろな・・・想い・・・? 」
「 そう、よ。 楽しいこと・うれしいこと・切ないこと・哀しいこと・怒ったこと・・・ いっぱいあるでしょ、嫌なことだって。
でも。 みんな一緒にすれば。 ほら、こんなにきれい・・・ね? 」
「 いやなコト、も・・・ 」
憮然としてるジョ−を尻目にフランソワ−ズは腕をいっぱいに拡げ高く空へと差し伸べた。
「 わたし、 五月が大好き! 日本の五月ってとっても素適だわ! 」
−コイノボリ、だっけ?あれ、おもしろいわよね! サカナが空を飛ぶ、なんて凄い発想じゃない? ジェット顔負けよ!
ひとり、あ、一匹?じゃないっていうのもいいわね! わたし!あの一番大きい黒いのに乗ってみたいなあ。
きっと・・・お兄ちゃんの飛行機みたいに・・・大空を自由にどこまでも飛んで。 たかくたかく泳いでいって。
幸せを運んでくるのよ・・・あなたに わたしに、そうみんなによ。 そうよ、きっとそのために空を泳ぐのよ!
そのために いちばん綺麗な五月の空に 泳ぐのよ・・・
− きみは。 ああ・・・きみって人は。 ほんとに・・・・
くるりと振り向くと、相変わらず呆然とつったっているジョ−にフランソワ−ズはぱっと抱きつき囁いた。
お誕生日 おめでとう! 生まれてきてくれてありがとう わたしと巡り逢ってくれてありがとう
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いま、 僕はやっぱり <まほう使い> を信じてるっていうよ。
僕の <まほう使い>、 それは。
翼はないけど煌く金の髪をもち 万能の杖じゃなくて優しい微笑みを振りまき 呪文のかわりは愛の言葉
そうして いつでも僕の傍にいて 僕を見詰めていて 僕を包んでくれて 僕の望みをわかってくれて
素適な <まほう使い>、 それは。
亜麻色の髪を風になびかせ 微笑とあたたかな想いを 明るい極上の笑みを 運んでくれる
そうして どんな時でもまっすぐに立ち すっと空を仰ぎ くっきりと正面をみつめて 怯むことはなく
かつての僕のヒ−ロ−は 素適な女性(ひと)に姿をかえて、いま甦ったんだ
僕は いま、僕だけの <まほう使い> を信じてるよ。
「 ・・・ねぇ フランソワ−ズ・・・ 」
「 なあに ? 」
「 − 僕も・・・・ 大好き、さ・・・ 」
「 そうでしょう、 ほんとにステキよねぇ、五月って・・・・! わたし、大好きよ ♪ 」
「 ・・・・・あの・・・・ 」
***** FIN. *****
後書き by ばちるど
え〜っと。 一応、ジョ−君へのお誕生日・スト−リ−です・・ので、甘やかしてみました♪
平ゼロでも原作ジョ−でもいいんすが。新ゼロの大人・ジョ−ではないことだけは確かデス。 ラストの会話ですか?
さあ・・・どこで交わしたんでしょうね〜♪♪♪ 設定は as you like・・・(お気に召すまま)・・・
Last update : 5,9,2003. index