『 Long vacation 』
とにかく。 全員が無我夢中の日々だった。
多忙、などという言葉ではとても表現できそうにもない毎日の連続で
・・・ ふと、我に返ったとき。 誰もがみな似た表情を互いの顔に認めていた。
ああ ・・・ なんとかここまで来たなあ
「 ねえ。 庭に残っていた梅がもうすぐ咲きそうなの。 また素敵な香りが楽しめるわね。 」
「 この地方は暖かいのねえ。 海風が直接当たらない空き地にたんぽぽが一杯よ。 」
「 国道沿いの雑貨屋さん、覚えてるでしょう? あそこのご主人にお久し振りですね〜って
言われちゃったわ♪ 」
毎日毎日、 この地に再び帰りついたその日から彼女は日常の細々したことを
楽し気に話した。
それはすべて些細なことで聞き流してもどうというわけではなかったが
不思議と彼女の声は、その雰囲気は彼らの気持ちを和ませるのだった。
燃え落ち、崩れた研究所の再建。
辛うじて残っていた地下設備での仮住まい。
そして
なによりもまだ予断を許さない容態の仲間達の看病・・・・
どれ一つを取っても容易ではなく、気の滅入ることばかり。
そんな日々、彼らは彼女の存在に援けられ癒されているのだ、と改めて気が付くのだった。
「 マドモアゼル。 少しは休み給えよ。 食事の用意は我輩らが引き受けるぞ。 」
「 あら、平気よ。 皆だって大変でしょう? ああ、買出し、ご苦労さま〜 」
フランソワ−ズは包丁を止め、顔をあげた。
よいしょ・・・とグレ−トがス−パ−の袋をいくつも調理台に置いている。
大人がさっそく中味を取り出し、吟味し始めた。
「 ナニ、研究所もほれ・・・ なんとか新築できたアルよ。 グレ−トはん!これは賞味期限ぎりぎりやで 」
「 あ〜 すまん。 激安コ−ナ−にあったのでつい・・・な。 」
「 いっくら安うても。 味が落ちてたらあきまへんで。 」
「 へいへい。 以後胆に銘じておきます。 」
「 そういうこっちゃ。 ・・・ 今日のトコはよ〜〜く火ィを通していただきまひょ。
フランソワ−ズはん、コレは博士には差し上げんといてな。 」
「 はい、わかったわ。 ふふふ・・・ 本当に皆の力って凄いのね。
あっと言う間にココもまたこんなにキレイになったし。 わたし・・・ 何も出来なかったわ。 」
「 なに言うてはるねん! フランソワ−ズはんの笑顔で ワテらどんだけ元気にさして
もろたか・・・・ あんさんはワテらの太陽でっせ。 」
「 まあ・・・・ 太陽だなんて。 」
「 うんにゃ。 皆おぬしの明るい笑顔とおしゃべりに元気をもらっておったよ。
・・・ 大丈夫。 アイツも直に目を覚ますさ。 」
「 ・・・ そう ・・・ そうね。 」
フランソワ−ズは手を止め、ふ・・・っと視線をキッチンの窓から外に飛ばした。
いつの間にか 春が廻ってきていた。
焼け跡だった研究所の庭にも ちゃんと緑はその若芽を見せ始めている。
・・・ この冬って。 どうやって過したのか・・・
ああ、 わたし ・・・ 全然覚えていないわ。
秋も終わりのころ。 この地を後にした。
地下に広がる脅威の世界に全員で旅立ち ・・・ やがて全員で帰還した。
一人の欠けることもなく。
しかし
二人の仲間は 半ば冥府に足を突っ込んでいた。
その日から 全員不休の日々が始まったのだった。
寒かったのかどうか・・・それもあまり記憶にない。
始めは野宿に近い生活だったがさして不便とも思わなかった。
そう、それでも形ばかりのクリスマスは皆で祝った。
ジェロニモが庭に燃え残っていた樹の枝を組み立てて、小さなツリ−を作った。
「 あら ! 可愛いわね! ねえ これ。 二人の枕元に置いてもいい。 」
「 もちろんだ。 彼らも喜ぶ・・・ 」
「 うん、いいね。 折角だから飾りをつけようよ。 」
「 そうね・・・ でもいつも飾っていたオ−ナメント、全部燃えてしまったわ。 」
「 ・・・ そうだ! 僕、ちょっと採ってくるね。 」
「 採るって・・・・? あ、ピュンマ・・・ 」
にっこり笑うとピュンマはたちまち駆け出していってしまった。
「 オレも作る。 材料を集めてこよう。 」
ジェロニモものそり、と彼の後を追った。
「 ふん・・・ それじゃ俺は ・・・ コレを使うか。
結構きらきらしたオ−ナメントになると思うがな。 」
建築資材をひょいと手に取って アルベルトは左手の電磁ナイフを当て加工し始めた。
「 ・・・ 皆 ・・・・ 素敵なクリスマスに・・・ なるわね!
ジェットも ・・・ ジョ−も喜んでいるわ。 」
「 そうだな。 」
ミニチュア・ツリ−には 貝殻だのアルミ片のオ−ナメントだのが
楽しげに顔をならべることになった。
「 ほう。 我々らしくてよいではないか。 山海の珍味・・・いや産物の集合だ。 」
ちいさなクリスマスは 二人の仲間の枕元をかざった。
年が明けないうちに まず、ジェットが目覚めた。
・・・ ジョ−はまだ眠っている。
運の悪い日 − というのは決して偶然の重なり合いじゃない! 断固違う・・・に違いない。
島村ジョ−はひそかに心に中で叫んでいた。
できれば・・・こぶしを固めて シュ・・・ッと空にパンチをいれたいところだったが
あいにくそんな余裕もまた物理的にも不可能だった。 彼は両手が荷物でふさがっている。
両腕に紙袋やらス−パ−の袋がさがりなおかつ両腕で抱えている荷物もあった。
かろうじて前方が見えたので なんとか行き交う人々とぶつかることは避けられていた。
・・・いや、通りすがりの人々の方が避けていった様子だった。
いったい何の荷物で、何のためなのか。 ・・・ 彼自身にもよくわからない。
でも。
ともかく 帰らなくちゃ。
その気持ちだけはジョ−の中でどんどん濃厚なものとなって来ていた。
「 ・・・ ヤバいよ。 どうして車で来なかったのかなあ・・・ 」
駅のコンコ−スを駆け抜け、ジョ−は駅前ロ−タリ−のバス停目指して走る。
「 う・・・ 最終バスに間に合うかなあ・・・ ああ ・・・! 」
目の前をバスが無情にもジョ−を追い越していった。
「 くそう・・・ しょうがない、タクシ−使うか。 ・・・ あ ちゃ・・・・ 」
ふと振り返れば タクシ−乗り場は延々長蛇の列、この分では乗り込めるのは
30分、いやヘタしたら小一時間以上後だろう。
仕方が無い。 もう歩くしか手段はないのだ。
ジョ−は腹を括って夜道を歩き始めた。
・・・ちぇ。 防護服、着てくればよかったなあ!
あ・・・でもダメか。 荷物がぱ〜になっちゃうし・・・
もうあとは二本の脚でてくてくと岬の突端の家までひたすら歩くだけだ。
ま、いいさ。 一歩ずつでも近づいてゆくからな。
荷物の山を抱えなおし、ジョ−は張り切って歩き始めた。
もうかなり遅い時間のはずなのに 周囲はどことなく明るかった。
国道沿いのライトのせいかな・・・とジョ−はぼんやり思っていた。
駅前のロ−タリ−から比較的通行量の多い国道を歩き ・・・ やがて幹線道路からそれる。
・・・ ふう。 ここまでくれば。 半分ってとこかな。
だんだん荷物が重くなってきた風に感じる。
ちょっと立ち止まり、一番重いス−パ−の袋を持ち直そうとした。
「 あれ ・・・ これって水だったのか・・・ 」
袋の中には大きなペット・ボトルが何本も入っている。
「 ・・・ う〜ん ・・・ 一本くらい飲んでも いいだろ。 」
ジョ−はぶつぶつ言いつつ、水のボトルを一本取り出した。
「 ・・・ あ ・・・・ 美味い ・・・・ 」
思いのほか咽喉が渇いていたのか、夜気に冷えた水が心地よい。
かなりの量を飲んでしまった。
「 ふう ・・・ さ。 あと半分、頑張るか・・・・ 」
よいしょ、とあれこれ荷物を抱えジョ−は再び歩き始めた。
・・・ あれ ・・・?
今まで不思議とすれ違う人も車もなかったのだが、少し先に目を凝らすと見覚えのある背中が
ひょいひょい進んでゆく。
夜目にも鮮やかな赤毛が揺れている。
肩を揺すって歩く長身は もうあまりに馴染みすぎていた。 しかし・・・
「 ・・・ ? ジェット ・・・!? 」
なんでまたこんな時間にこんな場所を歩いているか・・・ふとジョ−のアタマに疑問が
過ぎったが とりあえず道連れはある方がいい。
ジョ−は脚を速めた。
「 おい? 待ってくれよ・・・ 」
声をかけたつもりなのだが、先をゆくオトコは気づく風もなくすたすたと歩いてゆく。
なんだよ!? 聞こえないのかな・・・・
ジョ−が脚を速めると ・・・ 同時に彼も遠ざかって行く。
くそ・・・!
いっそ加速してやろうか、とも思うがずん・・・と腕に掛かる荷物の重みに思いとどまった。
「 ・・・ 待ってくれよ〜〜 ! 」
ジョ−はひた、と前をゆう背中に視線を定め ひたすら脚を動かし続ける。
・・・ まだ 追いつけない。
「 ああ、それね。 とっておいて下さる? 」
「 よいがね。 マドモアゼル、好物かい。 」
「 え・・・ ええ。 わたしじゃなくて・・・ ジョ−が好きなの。 」
「 なんやね〜〜 フランソワ−ズはん! ジョ−はんには別につくったげますさかい。
これは今、お上がりなはれや。 」
「 ・・・ 大人 ・・・・ 」
「 コレは出来立てが一番アル。 ダイジョブ、ジョ−はんが起きはったときには
ワテがぎょ〜さん美味しいもん、つくりまっせ。 」
「 そうだな。 ・・・ ああ、もう一月も終るか・・・・ 」
「 ・・・・ そやなあ ・・・・ 」
「 あのね。 このごろ、ちょっとづつなんだけど。 話しかけたりすると反応してくれるの。 」
「 そうか! そりゃよかったなあ。 」
「 ええ。 反応っていってもほんの少し首が動いたり 瞼がぴく・・・ってするだけなんだけど。
でも、きっと。 わかっているんだと思うわ。 」
うんうん・・・とグレ−トも大人も 笑みを浮かべ頷いてくれた。
「 だから、ね。 皆も ・・・ もう故郷 ( くに ) に帰ったりお仕事に行ってくれて大丈夫よ。
大人たちもお店に専念してちょうだい。 」
「 マドモアゼル ・・・ おぬしこそ。 ずっと・・・ もう、ここに戻ってきて以来ずっと
ジョ−たちにつきっきりではないか。 」
「 そうアル。 お国では兄さんがお待ちやろ。 いっぺん、帰ったげなはれ。
お兄さんもあんさんの元気な顔、見たい、思うてはるやろ。 」
「 え・・・ええ。 ・・・・でもね、わたしはここがいいの。 ジョ−のそばにいたい。 」
「 マドモアゼル ・・・ 」
「 彼の目覚めを待ちたいの。 彼が目を覚ませたとき一番に お早う って言いたい・・・ 」
「 ・・・ わかったよ。 」
彼女のさくら色にそまった頬を 二人の年長者は微笑ましく見つめた。
「 ほんなら。 昼間はワテら、店の方に出ますよって・・・ フランソワ−ズはん、お願いしまっせ。
ああ、キツい時にはいつでも遠慮のう、言うてな。 」
「 それで好きなだけヤツの寝顔を眺めたらいいさ。 一番のクスリかもしれんぞ。」
「 ま ・・・グレ−トったら・・・ 」
久し振りに明るい声がギルモア邸のリビングに響いた。
「 お早う・・・ 今朝の具合はどう? ほうら・・・こんなにいいお天気なのよ・・・ 」
病室のカ−テンを払い、フランソワ−ズは朝日に手をかざしベッドを振り返った。
地下のメディカル・ル−ムから普通の部屋に移り 身体を取り巻いていた夥しい機具も随分と減った。
今は簡単なモニタ−につながるコ−ドと普通の点滴にも似た装置だけになっている。
「 そろそろ栄養液を換えましょうね。 ・・・あら、大分スピ−ドが上がったわ。
ジョ−、お腹すいてるんでしょう? 」
ジョ−の頬がほんのわずか・・・動いた ・・・ ような気がした。
「 ふふふ・・・ちゃんと判っているわよ? あなたって細身なのに大食いなのよね。
それにね。 知ってる? ジェットが <起きた> 時、まず最初にね。
ああ! 腹減った! っていったのよ。 」
ぴくり ・・・
シ−ツの上に投げ出された彼の手がほんのわずか揺れた ・・・ ような気がした。
「 ああ、はいはい。 今、すぐに <朝御飯> にするわね。
お腹いっぱい食べて ・・・ はやく元気になって・・・ 」
栄養液のバッグを新しいものと交換し 彼女のはチュ−ブに付いたコックに指をかける。
「 さあ ・・・ どうぞ。 」
一瞬。
白い指は 止まった。
・・・ このコックを 少しきつくしたら・・・ 摂取する量を減らしたら・・・
ぶる・・・っと震えが全身を襲った。
フランソワ−ズは自分の行為に 一瞬全身が強張りちりちりと髪が逆立つ思いだった。
なにをやっているの、フランソワ−ズ! どうかしてしまったの?!
折角順調に回復してきているのに!
・・・ でも。 元気になれば。 もとに身体になれば。
また。 ・・・ また ・・・ 彼は 行ってしまう・・・・かもしれないわ。
なんですって?
そうよ。 また ・・・ わたし、彼を見送って 彼を失って
・・・ また 一人で 泣くの? ・・・ もう、イヤよ! そんなの、もうイヤなの!
だからって ・・・ フランソワーズ、あんたって恐ろしいヒトね・・・!
もう ・・・ 何も失いたくないの・・・!
あ・・・・!
咽喉からしぼりだした声が彼女の心と身体の硬直を解いてくれた。
「 ・・・ わたし! なんてコトを・・・ 」
固まっていた指先に 一気に熱が通った。
白く筋張るほどきつく摘まんでいたので なかなか指がコックから離れない。
フランソワ−ズは左手で 自分自身の指を一本づつはがした。
するすると透明な液体が管を通り ジョ−の身体に吸い込まれてゆく。
一瞬、眉根を寄せ、そしてすぐ彼は穏やかないつもの表情に戻っていった。
「 ジョ− ・・・ ! ジョ− ・・・・! 帰ってきて。 おねがい ・・・!! 」
触れる頬は温かく 滑らかな皮膚が指に吸い付く。
男には勿体ないほどの濃い睫毛は でも ぴたり、と頬に落ちたままだ。
彼女の指は秀でた眉、整った鼻梁を辿り ほんのわずかに隙間の見える唇に触れた。
・・・ わたしの知っているココは。 とてもオシャベリなの。
ううん ・・・ 言葉のオシャベリじゃなくて。
あなたのココは とても ・・・ 熱くて。 とても ・・・ 巧妙で。
いつだって わたしを有頂天にしてくれたわ。
フランソワ−ズはそのまま・・・顔を寄せジョ−の唇を奪った。
こんなに暖かいのに。 いつもとちっとも変わらないのに。
・・・ ジョ− ・・・ ! キスしてよ、わたしを吸い尽くしてよ・・・!
やっと彼から離れたとき、フランソワ−ズは荒い呼吸 ( いき ) で肩を揺らしていた。
・・・・ ジョ−はまだ眠っている。
もうどれだけ歩いただろう。
海岸通りに出て、右手に海をみつつずっと ・・・ 歩いている。
視線の先にはぽつぽつと灯りも見えるのだが。
せっせと脚を動かしているつもりなのだが、距離は一向に縮まらない ・・・ ふうに感じる。
「 お〜〜い、ジェット! なあ、いい加減でこっち向けよ〜〜 」
何度も声をかけているのだが 先にゆく長身の背は振り返る気配もない。
「 ちぇ。 自分から追いついてこいってコトか・・・ 」
ジョ−は溜息のひとつも悪態のひとつも吐き出したい。
諦めてふと視線を海側に飛ばせば・・・
あれ。 そんなに時間が経ってしまったのかな。
え・・・ ウソだろ〜〜 終電だったけど ・・・
空が 大気が。 すこしづつ明るくなってきている。
駅前から歩きだした時は そろそろ日付も変わろうか・・・という時刻だったが。
「 ヤだなあ・・・ ぼくって歩くのそんなに遅いのかな。 」
防護服を着込んでこなかったことが つくづくと悔やまれた。
「 普段、下に着ているんだけど。 ・・・ でも、まさかこんな時間になるって・・・ 」
加速装置を稼働できたなら 多少この沢山の荷物に損傷はでただろうけれど、
今頃はさっぱりとシャワ−でも浴びていられたはずだ。
ちぇ・・・ ! ・・・ あれ?!
「 あ・・・ ジェット! なあ、ちょっと待ってくれよ〜。 今 ・・・ あ!? 」
ずっと目の先にあったひょろ長い背中が 振り向いた。
特徴ある赤毛が薄明の空にも派手に見える。
じゃ、な。 待ってるぜ。
なぜかジェットは一言も発せず、 しかしジョ−の心にはしっかりと彼の声がひびいたのだが・・・
ニ・・・ッと笑いかけ 消えた。
「 え?? どうしたんだ? え・・・ 加速したのか?? 」
耳を澄ませても聞こえるのは寄せては返す波の音ばかり。
あの特徴ある音はまったく聞き取れなかった。
しかし。 ともかく、彼は消えてしまった。
「 なんなんだよ〜〜〜 ・・・ 」
ジョ−はしばらく呆然と路肩につったっていた。
< 待ってるぜ > って言ったよな。
・・・ってコトはアイツもウチに帰ったってコトか。
置いてきぼりを喰らったがともかく今は この道を行くしかなさそうだ。
ふうう 〜〜〜〜
ジョ−は特大の溜息を吐くと がしがしと大股で歩き始めた。
「 ・・・ 腹減ったな〜〜 そうだ、この中になにか・・・ 」
さっき水を失敬したときに、バゲットの包みが見えたはずだ・・・
ジョ−はごそごそとス−パ−の袋を探り始めた。
あれれ・・・ 確かココ、この袋に・・・
・・・ あ ・・れ ・・・ なんか 身体が急に ・・・
脚は動かしているので なんとなく巧く見つからないのだ。
加えて がくん・・・と身体が重く感じてきた。
「 おかしいな・・・・ これっぱかしの距離、歩いたくらいで・・・こんなに脚が重くなるなんて・・・
そうだよ、今までミッションでもっと長い距離を移動したり 戦闘で駆け抜けたりしたじゃないか。 」
独り言もちっとも励みにはならず、ジョ−は額に汗を滲ませる。
右 ・・・ ひだり。 ・・・みぎ ・・・ 左 ・・・
おかしいな 歩くのってこんなに意識することだっけ?
ジョ−は急に重くなった脚を引き摺り、引き摺り それでも歩んでゆく。
「 ・・・ 帰るんだ、帰らなくちゃ。 そうさ、 あの ・・・ ウチへ。
そう・・・ あの ・・・ ヒトのところに・・・ ! 」
彼の独り言は 波の音に紛れ海風に吹き飛ばされてしまいそうだ・・・・
・・・ まだ 帰りつけない。
「 博士。 どうぞお休みになってください。 わたしが看ていますから。 」
「 ・・・ フランソワ−ズ。 お前こそ ・・・ 」
「 わたし、平気です。 それにここでも休めますから。 もうそんなに急変はありませんでしょう? 」
「 それは ・・・ そうじゃが・・・ 」
フランソワ−ズは微笑んでいるがその笑みが浮かぶ頬に生気はない。
博士はジョ−のベッドサイドを行きつ戻りつしている。
「 このままではお前が参ってしまうぞ? お前自身が言うとおり、もうそんなに憂慮すべき
容態ではないのじゃから・・・ 」
「 ええ、ええ。 博士、これはわたしのワガママなんです・・・・
あの ・・・ ジョ−が目覚めたとき、側にいたいので・・・ その・・・ 」
「 ・・・ わかったよ。 それではお前に頼もうなあ。 」
博士はぽんぽん・・・・とフランソワ−ズの背を軽く叩いた。
「 数値のチェックはもう自動的に記録されるから必要はない。 なにか異常があれば
そっちから警報がでる。 あとは栄養液の点滴だけじゃ。 こちらは大丈夫じゃな。 」
「 ・・・・ はい。 」
「 そうじゃの、もう慣れたものじゃ。 ・・・ しかしなあ・・・ 」
「 はい? 」
「 やはり、な。 人間というものは口から食べ物を摂取するのが一番なんじゃ。
栄養液で必要な栄養素は身体に入るが ・・・ 口で食べ物を咀嚼し飲み下し
胃や腸で消化してゆく、というプロセス自体が身体を活性化させるのじゃなあ。 」
「 ・・・ わたし達でも、ですか。 」
「 当たり前じゃ。 お前達は人間じゃ。 」
「 ・・・ そうですわね。 」
「 一日も早く目覚めほんの重湯のようなものでもよい、彼自身が口から摂取できるようになれば
回復の度合いもぐっと早まるんじゃ。 ジェットもそうじゃった。 」
「 ええ、そうでしたわね。 腹減った・・・って目覚めて あとは・・・ 」
「 あはは・・・そうじゃった、そうじゃった。 アヤツは本当にあっと言う間に復帰したのう。 」
「 ・・・ ジョ−も ・・・ 」
「 心配はいらない。 この様子じゃとこの月のうちには目覚めるじゃろうよ。 」
「 ・・・・ そう ですか・・・ 」
「 フランソワ−ズ・・・ お前の看病の賜物じゃよ。 ほんとうになあ・・・ 」
「 博士・・・。 」
「 どうせな、コイツも目覚めれば腹が減ったの、早く起きたいだのワガママを言い出すにきまっとる。
せめて今のうちにゆっくり休んでおいたらいい。 」
「 ありがとうございます。 でも 本当に平気ですから。
ここでもわたしは十分にやすめますわ。 」
「 ・・・ そうかい。 それなら優秀な看護士サンに任せるかの。
ま、愛情に勝る看護はあるまいよ。 」
「 ・・・・・ 」
フランソワ−ズの青白い頬が桜色に染まる。
博士は目を細め、うんうん・・・と頷き静かにジョ−の部屋を出て行った。
・・・ 博士 わたし そんなにキレイな心じゃ・・・ ないんです・・・・
わたし。 栄養液を 止めました ・・・ 彼にココにいて欲しくて。
カサリ ・・・
「 ・・・? ・・・・ ジョ− ・・・! 」
小さな衣擦れの音にフランソワ−ズは振り返り ・・・ 脚が動かなくなってしまった。
「 ・・・ う ・・・・ ん ・・・・ 」
「 ・・・・ !? 」
「 あ ・・・・ ああ・・・ ココ ・・・? 」
毛布が静かに動き 枕に散らばるセピアの髪がゆっくりと波打った。
ずっと閉じられていた瞳が。 懐かしいあの大地の色の瞳が ・・・ 眩し気に開かれる。
「 ・・・ や・・・あ。 フランソワ−ズ ・・・ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・!! 」
「 今 ・・・ 何時。 お ・・・ はよう ・・・ かな。 」
「 ・・・・・ 」
震える脚を踏みしめベッドに近づくと あとはそのまま愛しいひとに、たった今、目覚めたそのひとに、
フランソワ−ズは縋りつき抱き締めた。
「 ・・・ おはよう・・・ お早う! ジョ− !! 」
はっきりと目が開くと、ジョ−は普段とあまり変わらない様子だった。
勿論まだ身体は動かせず、横臥したままだったが意識はクリアで話し方も通常だった。
「 そうか・・・ そんなに長い期間 ぼくは眠っていたんだね。 」
「 そうよ。 博士の手術が終ってしばらくは本当に <死んだように> 眠ってたわ。
わたし 何回も何回もモニタ−の数値を見て、あ・・・ジョ−は生きてるって安心したの。 」
「 ・・・ そうなんだ。 ごめん・・・ 」
「 ごめんって なにが。 」
「 ずっと看病してくれてたんだろ。 ・・・・ ごめん、いつだって迷惑ばかりかけているね。 」
「 ジョ−。 そんなコト言わないで!
あなたが還ってきてくれた・・・ それだけでわたし、どんなに嬉しかったか ・・・ 」
「 ・・・ もう ・・・ これでいいって思ってた・・・ 」
「 え・・・? 」
「 宇宙空間に投げ出さて 魔人像が砕けるのを見た時 ・・・ これで、もういいんだって思った。
全てお終いにしていいんだってね。 さばさばした気分だったよ。 」
「 ジョ− ・・・ ジョ−・・・! 」
「 ・・・ でも ・・・ 」
ジョ−はフランソワ−ズから目を逸らせ天井をじっと見つめた。
「 落下し始めて意識を失う瞬間に どうしてかな。 ・・・ 還りたい、還るんだっ! って
ぼくの中で ・・・ ぼくが叫んでた。 」
「 ・・・ ジョ−、もう ・・・いいわ。 ねえ、 もう・・・言わないで。 」
「 ・・・ ごめん。 ああ・・・ また、きみを泣かせてしまったね・・・ 」
ジョ−はチュ−ブの繋がる腕を微かに動かした。
「 あ・・・わたしこそごめんなさい! ね? 咽喉、渇いていない? 冷たいお水、持って来るわ。 」
「 ああ、ありがとう。 ・・・ 博士は? それに ジェットや ・・・ 皆は・・・ 」
「 し〜〜♪ もう遅いでしょ、博士には休んでいただいたの。 だから・・・明日にしましょう。 」
「 ・・・ うん ・・・ そうだね ・・・ 」
「 じゃ。 ちょっと待っていてね。 」
フランソワ−ズはジョ−の額にキスをすると、そっとベッド・サイドを離れた。
キュ ・・・ キュ・・・キュ・・・・
真冬の深夜、廊下は冷え切っていて 彼女の足音が微かに聞こえるだけだった。
「 ・・・ フランソワ−ズ 。 」
キッチンへ降りる階段の脇で 低い声に呼び止められた。
「 ・・・? アルベルト・・・ どうしたの。 」
「 ちょっと咽喉が渇いてな。 お前こそこんな時間まで・・・ ジョ−になにか・・・? 」
「 え・・・ ううん、大丈夫よ。 数値は安定しているし、変わりはないわ。 」
「 ・・・・ そうか。 まだ目覚めないのか。 」
「 ・・・ ええ。 でもね、博士が今月中には・・・多分、って。 」
「 それはよかった。 お前も あまり無理をするな。 」
「 ありがとう。 ・・・あ、今、わたしもお水が欲しくて・・・
ついでだからお水のボトルを取ってくるわね。 ペリエでいい。 」
「 ・・・ ああ、すまんな。 」
「 ドアの前に置いておくわ。 ・・・ お休みなさい、アルベルト。 」
「 ・・・ お休み、フランソワ−ズ。 」
かちり、とドアの閉まる音を背後で聴き、そのまま彼女はキッチンにむかった。
・・・・ええ。 まだ ジョ−は 眠っているの。
明日の朝、感動的に目覚めるのよ。 ・・・そう、そうしたら皆を呼ぶわ。
冷蔵庫から取り出したボトルが 火照った手に気持ちがよい。
こんな真冬の深夜、フランソワ−ズは身体の芯からふつふつと歓喜の波が湧き上がるのを感じていた。
いいでしょう? 今夜だけ。
今夜だけ ・・・ あのヒトを独り占めさせて欲しいの。
キュ ・・・ キュ ・・・ キュ ・・・
軽い足音が再び ジョ−の部屋に向かって響いていった。
・・・ ジョ−はまだ <眠っている> ことになっている。
気が付くと あんなに沢山ぶら下げたり背負ったりしていた荷物が ない。
確かに先ほど ペット・ボトルの水を飲んだ・・・ 気がするのだが。
今、ジョ−の手は何も持ってはいなかった。
それなのに。 身体が重い。
「 ヘンだ・・な。 あれ ・・・ さっき水を飲んだばっかりなのに・・・
また 咽喉が ・・・。 ああ、あのペット・ボトル、どうしたっけ? 捨てて・・・はいないよなあ? 」
でもとくかく一歩でも近づかなくちゃ・・・!
ジョ−は懸命に脚を動かす。 みぎ ・・・ 左。 右 ・・・ ひだり ・・・
ぼくの身体・・・ どうしちゃったんだ??
たかだかウチまで歩くだけなのに、 どうして ・・・ こんなに身体が重いんだろう・・・
肩で息をしつつジョ−はきゅっと唇を噛み締める。
「 帰るんだ・・・ ! どうしても。
・・・ でも、どうして・・・ ? わからない。 わからない・・・けど。
ああ・・・ あのヒトが呼んでいるからさ。 あのヒトって ・・・誰だ? 」
急に視界がぼやけてきた。
ジョ−の歩みはますます遅くなってゆく・・・ ぱた ぱた ・・・ぱた ・・・ ぱ・・・た ・・・・
・・・がくん ・・・!
ついに膝を突いてしまい、突き出した両腕は虚しく宙をつかみ ― 彼は道路に転がった。
「 ・・・・ ! 」
道路にしたたか打ちつけられた・・・と思った瞬間、ジョ−は空中を飛んでいた。
・・・ あ・・・?? あれ・・・・
見覚えのある景色がぐんぐんと迫り、やがてどこか懐かしく思える建物にぐんぐんと吸い寄せられてゆく。
ココは ・・・ 研究所、かな。 でも 初めて見る・・・
瞬きをしたあと、ジョ−は見慣れた天井を見上げている自分に気が付いた。
「 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・ ココ・・・・? 」
身体は全く動かなかった。 どうやらベッドに仰臥しているらしいのだが・・・
手脚の感覚もほとんどなくただ、目と耳だけがだんだんとはっきり周囲を認識し始めた。
「 ・・・・ ! 」
あれ。 ココは室内なのに ・・・ 空が見える いや、海かな・・・
もう一回瞬きをした瞬間、 ジョ−の目の前の空が急に近づいてきて・・・
驟雨みたいに 水飛沫がジョ−の顔に飛び散ってきた。
「 ・・・ や ・・・あ 。 フランソワ−ズ ・・・ 」
ここだ! ぼくはずっと ・・・ ここに帰ってきたかったんだ・・・!
・・・ やっと還りついた。
温暖な気候のこの地方、海風が当たらない地域はさらに一足はやく季節が廻ってくる。
崖っぷちの洋館、ギルモア邸でも庭の日溜りには 春が顔を覗かせ始めていた。
「 ねえ、見て。 水仙が咲いたわ。 球根が残っていたのね。 嬉しいわ・・・ 」
「 ・・・ああ、そうだね。 前も ここは花壇だったっけ。 」
「 そうよ、ほら。 ジョ−、手伝ってくれたじゃない? 深く掘って、っていったら・・・
ふふふ ・・・ 地下室でも出来そうなくらいの穴! 」
「 あ・・・ ココかあ。 あの後、埋めるのが大変だったよ。 」
「 でも ほら・・・ ちゃんと土の中のものは焼け残ったわ。 」
フランソワ−ズは白い花の脇にしゃがみ込み、そっと顔を近づけた。
「 ・・・ いい香り・・・ ! 春がもうすぐ、そこまできたわね。 」
「 また 花壇作り、手伝えるかなあ・・・ 」
「 ええ、ええ。 すぐに出来るようになってよ。 」
「 ・・・そう なるといいんだけど・・・ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
ぱっと立ち上がり、フランソワ−ズはテラスに戻った。
「 ジョ−、寒くはない? ひざ掛け、もう一枚持ってきましょうか。 」
「 いや・・・ 大丈夫。 ・・・ くそ ・・・ この脚がもっと自由に動けばなあ・・・ 」
ジョ−はテラスに置かれた籐椅子の中で 苛立たし気に身体を揺する。
「 あらら・・・ 大丈夫よ、きっと。 だから ・・・ 今はのんびり、ね。
焦ったりしてはダメ。 ちゃんと回復してきているんですもの。 」
「 だけど・・・ ジェットはすぐにほぼ元通りになったって聞いたんだ。
ぼくは目覚めるのも遅かったし・・・ 手脚の麻痺もまだ完全に消えていない ・・・・ 」
ジョ−はゆっくりと両腕を動かし、ぎこちなく目の前に差し伸べた。
「 細かい動作が 上手くできないんだ。 どうして・・・! 」
「 ジョ− ・・・ 」
フランソワ−ズは彼のすぐ脇に跪き彼の手を両手で包んだ。
「 ね・・・ あなたは、あなたの身体はジェットとは比べものにならない程損傷していたの。
大気圏突入の熱に耐えられたのが不思議なくらいだって・・・博士が。 」
「 ・・・ それはぼくも聞いたよ。 」
「 だから、ね。 回復にも時間がかかるの。 大丈夫、きっと。
そうね、この庭が花でいっぱいになって・・・ 梅の木にほら、丸い実が生るころまでには
きっと、きっと回復しているわ。 」
「 ・・・ そうかな。 そうだといいんだけど ・・・ 」
「 ジョ−ォ? そんな顔は止めにしましょう。 お日様と遊んで過すのも素敵だわ。 」
「 うん ・・・ きみがいてくれるから・・・ 」
ジョ−の手がきゅ・・・っと彼女の白い手を握り締めた。
「 ずっと側にいるわ。 ずっとよ、これから・・・ 」
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
ジョ−はぎこちなく腕をのばし、亜麻色のアタマを引き寄せ唇を探った。
テラスの籐椅子で 二つの影が重なり合っていた。
「 ・・・おい、今出て行くな。 」
アルベルトは グレ−トのジャケットを引いた。
「 お? ・・・ こりゃオジャマ虫でしたな。 でもまあ、あんなコトが出来るくらいにジョ−のやつも
回復したってワケか。 マドモアゼルの笑顔が一番のクスリだな〜。 」
「 だといいのだが。 」
「 どうした、意味深だな。 なにかあったのか。 」
「 いや。 ・・・ いや、俺の気の回し過ぎだと思いたいが・・・ 」
アルベルトは珍しく歯切れ悪く言うと、リビングの奥に引っ込んだ。
「 その言い方はますます気になるぞ。 おい・・・? 」
グレ−トはちらちらテラスを眺めつつ、アルベルトを追った。
「 ・・・ なんだ? マドモアゼルがわざと・・・?
いや! お前さんもよ〜く知っておるだろ? そんなことをする子ではないよ。
ただもう・・・アイツの事が心配で心配でたまらんのだろう。 」
「 俺もそう思いたい。 しかし アイツが目覚めた前の晩にな たまたま俺は彼女と顔を合わせたんだ。
その時、まだ ジョ−は目覚めない、と言ったんだ。 だが ・・・ 」
再び アルベルトはぼそぼそと低い声で語り始めた。
耳を傾けていたグレ−トは ふと口を挟んだ。
「 ふん? ・・・ なあ、こんな話がある。
古代の兵士の妻がな、夫を戦場に送りだしたくないゆえに出征前に毒を盛るんだ。
夫は倒れ首から下はまったく動かなくなり・・・ 妻は完全に彼を自分だけのものにしたのさ。 」
「 毒を・・・・? いや、まさかそんなことは。 」
「 ああ、勿論。 だが。 お前さんのカンが正しければ ・・・
マドモアゼルは無意識にヤツを 閉じ込めているんだな。
勿論、ヤツに元気になってほしい。 しかし、一方ではこのまま自分の側に留めておきたい・・・
どんな状態であれ、自分だけのものにしたい、そんな風に望んでしまうのだろう。 」
「 ・・・ 彼女の気持ちもわからんではない。 しかし ・・・ 」
「 ま、意図的なものではないだろうよ。 今まで押さえていた気持ちが自然と、な・・・
しかし、このままではやはりマズかろう。
それとなく ・・・ ヤツのリハビリでも持ちかけてみようじゃないか。 」
「 そうだな。 フランソワ−ズの為にもそれが一番だろう。 」
「 よし、 善は急げってことで・・・。 お〜い、ジョ−? マドモアゼル・・・! 」
グレ−トは声を張り上げ、がらり、とフレンチ・ドアを開けテラスへ出ていった。
「 ねえ、フランソワ−ズ。 一度 ・・・ パリに帰ってみたら・・・? 」
「 ええ、ええ。 ジョ−、あなたが完全に元気になったらね。 」
「 うん ・・・ それで、な。 あの ・・・ いいかな ・・・ 」
「 え・・・ なにが。 」
「 その ・・・ 一緒に行っても。 ・・・ きみのお兄さんにお目にかかりたいんだ。 」
「 ジョ−・・・。 ええ! きっと大歓迎してくれてよ。 」
「 ぼく。 一度お会いしてるんだ・・・ だから。 お詫びもしなくちゃ・・・ 」
「 嬉しいわ! こんどこそゆっくりパリの街を案内するわね。
わたしの故郷を よく見てちょうだい。 ・・・ お兄さんもいろいろ案内してくれるわ、きっと。 」
「 う・・・ うん。 なんだか緊張するなあ。 」
「 ・・・ ジョ−。 」
「 そのためにも、リハビリ頑張るよ。 大分 脚も動くようになったし。 」
「 そうね。 ジョ−は やっぱり ・・・ ジョ−なのね。 」
「 うん? なんだよ〜 意味深だな。 」
「 ・・・ なんでもないわ。 わたしの独り言よ。 」
ジョ−はちょっと笑ってフランソワ−ズを眺めていた。
不思議に落ち着いた空気が 二人を取り巻いている。
「 足慣らしにドライブに行ってみないか。 どこか行きたいところ、あるかい。 」
「 まあ、大丈夫? 脚 ・・・ 」
「 うん、いつまでも閉じ篭っていてもね・・・ 久し振りに街の方に出てみようか。
Y市まではちょっと無理かもしれないけど。 」
「 街中よりも ・・・ そうねえ、どこか山の中へ行ってみない?
ここは海ばっかりでしょう。 」
「 きみがそれがいいのなら。 ・・・ 山か。 そうだな〜 どこか、湖でも廻ってみようか。 」
「 ええ、そうね。 嬉しいわ! ジョ−とドライブなんて ・・・ もしかして初めてかもしれないわ。 」
「 ・・・え ・・・ そ、そうかな。 じゃあ ・・・ これからほうぼうに出かけようよ。 」
「 そうね。 ジョ−と一緒ならわたし・・・ 何処でもいいわ。 」
「 ぼくもだ・・・ 」
ジョ−は彼女を引き寄せ、軽くキスをした。
「 ずっと一緒だよ、 これから・・・ ずっと。 いつまでも。 」
「 ・・・・・・ 」
亜麻色のアタマが頷くと ほろほろと涙の雫が彼女の頬をすべり落ちていった。
「 ジョ− ・・・ ごめんなさい ・・・ 」
「 え、なにが? 」
「 ・・・ ううん。 こうやって元気なジョ−が やっぱり一番 ・・・ 素敵だわ。 」
「 やだな、どうしたの、急に? 」
「 ううん ・・・ なんでもない。 ・・・でも。 ごめんなさい ・・・ 」
「 可笑しなフランソワ−ズ・・・ ほら泣かないで?
ぼくはきみの笑顔を目印に還ってきたんだから・・・ 」
「 ・・・ ええ ・・・・ ええ ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 明日も 晴れそうだね。 ぼく達の長い休暇の始まりさ。 」
・・・ そして明日。 サイボ−グ達の 長い戦に日々へのプロロ−グが始まる。
*************** Fin. *************
Last updated : 01,29,2008.
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****** ひと言 *****
ヨミ編後、というところです。 以前 同じ設定で 『 プロロ−グ 』 を書きましたが
今回は心理編?? かな〜 (^_^;) 二人の心の中・・・かもしれません。
拙作に頂戴したご感想に ジョー君の抱える闇 という言葉がありました。
うん〜 これは深い言葉だな〜と感心したのですが それではフランちゃんの闇は? と妄想してみました。
< 黒〜 > という表現は苦手ですが誰もが心の奥底に闇を澱ませている と思うのです。
でもらぶらぶな二人ですから乗り越えて行きますよね(^-^)v
こんな裏事情もあったかもな〜〜 とお読み流しくださいませ。