『 いちばん小さいの 』
ザザザザ −−−−− ・・・・!
華やかな季節が過ぎ、浜辺には人影がめっきり減ったけれど。
大海原はそんな些細なことにはお構いナシ、 日がな一日悠然と揺れている。
水面を渡る風には すでに熱気はない。
「 ふぁ 〜〜〜 ・・・・ 」
島村ジョーは海に向かって大欠伸 − 本人に言わせれば深呼吸だそうだが。
思いっ切り潮風を吸って 吐いて。 彼はもぞもぞ動き始めた。
「 ふん ・・・ サイボーグだってさ 準備体操は必要だと思うんだ!
はっ はっ えい ほ! 」
砂浜で脚を蹴り上げたり 腕をぐるぐる回したり・・・さんざん一人で暴れてから彼は走り始めた。
ほっ ほっ ほっ ほっ −−−
波打ち際に点々と足跡を置いて、彼は足取りも軽く進んでゆく。
「 ・・・ 加速装置っても走るのはぼく自身だからな。
やっぱ鍛えておかくなくちゃ。 いつかみたいに稼働限度オーバーで引っくり返るのは
もうごめんだもんな。 ほっ ほっ ほっ ・・・ 」
人気もない海岸線だが、もしも通りかかりのヒトが見たとしても問題はない。
「 ・・・? ああ ・・・ どっかの大学の陸上部かな ・・・
箱根駅伝でも目指しているんだろう ・・・ ま がんばれ がんばれ ・・・ 」
地域柄、そんなコトをちらり、と連想するだけだろう。
当の本人は 全くなにも気にしていない。
― いや 彼は 彼の心はだた一つのことに集中しているのだ!
・・・ 世界の平和? いやいや・・・ この18歳の茶髪青年のもっぱらの関心は
カノジョの誕生日、どうしよう〜〜 なのだ。
「 ・・・ オンナノコってさ。 何が欲しいのさ?! っていうか〜〜
ケーキ? 花? とか ・・・ いや 後に残るモノだよな〜 服?? う〜ん ・・・ 」
ほっ ほっ ほっ ほっ −−−
青年の姿はあっと言う間に遠ざかりセピアの点になってしまった。
とんでもない運命の逆風に絡め獲られ 本来の自分自身を失った。
その激変に驚き、嘆いている間などなく否応なしに生き残るための戦闘に突入した。
― そして 何度かの焼失や倒壊の果て やっとこの地に落ち着いた。
<仲間> と住むことになった地は 彼の生まれ育った地域とあまり離れてはいない。
当初はかなり気にしていた。
なるべく街中に出ず、 人目につかないよう、ひっそりと暮していたのだが・・・
「 ダイジョブダヨ 009。 少々でーたヲ弄ッテオイタヨ。
君ノ不当逮捕記録ハ 抹消シテオイタ。 誰モ覚エテイナイ。 」
「 え ・・・ そ それは 犯罪だろう? 」
「 ナニ言ッテルンダ じょー。 アレハ奴等ノとらっぷダッタノダヨ。 」
「 うん ・・・ そうだよね。 ・・・ ありがとう ・・・ 」
ジョーはどこか浮かない顔だった。
しかしそれ以来 彼は少しづつ街に出るようになり <普通> の生活を取り戻していった。
― それと同時に 気になるコトが。 そう 気になるヒトが出現した。
いや、彼の意識がしっかりとカノジョの存在を捉えた、というところだろう。
< そのヒト > は始めから居たのだから。
はじめは へえ・・・ 女の子がいるんだ? という程度の意識。
少し余裕が出てきて お。 びっじ〜ん♪ と関心が向いたが その実、カノジョは
ひえ〜〜〜 おっかね な優秀な先輩だった。 新参者としては近寄り難い。
・・・ ぼくには高嶺の花 だなあ ・・・・
一緒に一つ屋根の下で暮らせるだけでも ラッキーだよ
同じ家で寝起きする日々、茶髪の青少年は ドキドキ気分を押し込めて何気ない風にしていた。
― ドンドン!
ノックと一緒に カノジョがひょい、とジョーの部屋のドアをあける。
「 ジョー! 洗濯モノ、出しておいてね。 一緒に洗ってしまうから。 」
「 え。 ・・・あ い いいよ、いいよ。 自分で洗うから・・・ 」
「 どうして? 一緒に洗うほうが早いし経済的なのよ。 さ 出して。 」
「 え あ う うん ・・・ 」
まごまごしていると、カノジョはずんずん入ってきて、彼のベッドからリネン類を強奪した。
「 え〜と? 他には・・・ あ シャツとかパジャマとか。 下着もだして。 」
「 え! い いいよ そ そんな・・・ 」
ジョーはパジャマとTシャツを抱えて首まで真っ赤になった。
「 よくないわよ。 ああ ご心配なく。 わたし、兄がいたから全然平気。 」
澄ました顔でのたまうとカノジョはジョーの身包みを剥ぎ ご機嫌で出ていった。
― な なんなんだ〜〜 カノジョ・・・!
ぱ パンツも 平気な顔で持っていっちゃったぞ?!
・・・ ハックショ −−−−−ン !!
呆然として突っ立っていたジョーは派手にクシャミをした。
へ ・・・ へへへ ・・・ なんかくすぐったい気分・・・・
洗濯モノは ― 下着類も含めて ― ぴんぴんにアイロンがかかり戻ってきた。
「 は ・・・ ははは・・・ ぱ ぱんつにアイロン、かけてもらったの、初めてだ・・・ 」
ジョーはそうっと両手で洗いたてのシャツを取り上げた。
・・・ あ お日さまの匂いがするよ?
「 えへ ・・・ なんか なんか しあわせ気分 〜〜 」
そんな平和に過ぎてゆく日々で 003 の存在はジョーの中でどんどん大きくなって行った。
ジョーは <仲間たち>と出会った当初は銃の持ち方も知らなかった。
そんな彼に 一から教えてくれたのもカノジョだった。
「 だから よく 見る。 いい? 」
「 あ うん・・・ 」
「 しっかり構えて。 まずはね、自分を知ることよ。 」
「 ― 自分を? 」
「 そう。 自分自身のクセを知るの。 」
「 クセ ・・・ か。 矯正するのか。 」
「 矯正? ふ ・・・ そんなヒマないわ。 クセを知ってそれを呑み込んで 撃つ。
そうすれば百発百中 ― ! 」
パシ パシ パシ パシ ・・・!
小気味よい音が前方の的を打ち抜く。
「 ― すげ・・・ 」
「 ぼけっと見てないで! 戦闘中ならたちまち蜂の巣よ。 」
「 あ うん ・・・ ( くそ〜〜〜〜 ) 」
やっと手に入れて <日常>、 しかしやがて束の間の穏やかな日々も終わりを告げた。
彼らは再び闘いの中に飛び込んでゆく。
― そして
長い闘いが終わり ・・・ジョーは瀕死の身体でこの星に帰還した。
カチャ カチャ ・・・ チリン チリリン ・・・
陶器の触れ合う高い音が聞こえてきた。
もうすぐだ もうすぐ・・・ カノジョが顔をだす・・・
ジョーはベッドの中で やっぱりドキドキ気分を押し込めていた。
瀕死の大怪我から数ヶ月 ― やっと普通のベッドに戻ることができた。
といってもまだまだ仰臥したきり、 介助がなければ起き上がることは難しい。
「 ・・・ ジョー? 起きてる・・・ 」
優しいノックと一緒に 明るい声が聞いてくる。
「 ・・・ あ ああ。 どうぞ 」
「 気分がよかったら お茶にしない? どうかしら。 」
「 ああ いいね ・・・ ありがとう。 」
カタン ・・・ ドアが開きカノジョがワゴンを押して入ってきた。
「 あら 今日は顔色がずいぶんいいわね。 やっぱり今日だからかしら。 」
「 ああ 美味しそうな匂いがするな ・・・ 今日って・・・? 」
ジョーは懸命に起き上がろうとしている。
「 あ! ああ ダメよ、無理しちゃ・・・ 」
カノジョは跳んできて彼の背をささえてゆっくりと起こした。
「 テラスの方にでてみる? とってもいいお天気なのよ 」
「 あ・・・いいよ ここで。 ・・・ きみに迷惑をかけちゃうから・・・ 」
「 まあ? ジョーってば。 ねえ、 わたしだって003なのよ? 」
「 ― ハイ・・・ 」
「 それじゃ ・・・ ちょっとわたしの肩によりかかってね。 」
「 うん ・・・・ 」
カノジョは実にたくみにジョーを助け 窓際にある籐椅子まで連れていった。
「 よい・・・しょ ・・・・っと。 どう? 」
「 ・・・ ふぅ〜〜 はぁ ・・・・ な なんとか ・・・ 」
支えてもらったジョーの方が大息をつき、汗をたらしてやっと椅子に納まった。
「 じゃ・・・ お茶にしましょう。 今日はね〜 ふふふ お楽しみがあるの。 」
「 お楽しみ? 」
「 そうよ〜 ・・・・ あ ちょっと目を閉じていてくれる? 」
「 ? う うん ・・・ 」
カチン カチン ・・・ 目の前のテーブルに皿やカップを置く音がする。
「 え〜と? ・・・ よし。 はい、いいわ、ジョー。 目を開けて? 」
「 ん ・・・ あ あれェ ・・・ 」
彼の前には 大粒の苺がびっしりと並ぶ ホールのケーキがあった。
「 ジョー! お誕生日 おめでとう! 」
「 あ ・・・・? 今日って・・・ 何日だっけ? 」
「 いやだわ〜〜 ジョー。 今日は5月16日、あなたのお誕生日でしょ。 」
「 あ ああ うん ・・・ 」
「 だ か ら♪ ほら。 バースデー・ケーキ、 よ? いかが。 」
「 ・・・すご・・・ こんなの 初めてだよ〜〜 ・・・ 」
「 うふふふ ・・・気に入って頂けて嬉しいわ〜〜
いつか言ってたでしょ? 手作りケーキ まるごと食べたい、 って。 」
「 え・・・ あ そ そんなコト言った・・・・かな? 」
「 言ったわよお〜 普通の苺ケーキじゃなくて丸いの、て。
それでね、いつか庭で苺作ってケーキ焼きたいわね、って盛り上がったわ。 」
「 あ は ・・・ 全然覚えてないや 〜〜 」
「 まあ〜 ・・・ あら それじゃ苺のケーキって好きじゃなかった? 」
「 ううん ううん! だい・・・好きさ! あのね、こういう苺の乗ったケーキなんだけど、
日本ではなぜか ショート・ケーキっていうんだ。」
「 ショート・けーき? ふうん ・・・ 面白いのね。 」
「 ありがとう〜〜〜 フランソワーズ♪ うわああ・・・ 夢みたいだ・・・
ね この苺って ・・・ 庭の? 」
「 そうよ、ジェロニモの温室でね、たっくさん生っているの。
ジョー もっと元気になったら一緒に摘みにゆきましょ。 」
「 あ・・・う うん。 わ〜〜 すごいなあ〜〜 すごいな・・・ 」
ジョーは すごいな を独り言みたいに何回も何回も繰り返し、ケーキを眺めている。
「 じゃ さっそく食べましょ。 ほら・・・ ジョー、切り分けてくれる? 」
フランソワーズは長めのナイフをジョーに渡した。
「 あは ・・・ なんかさ〜 切っちゃうの、勿体ないなあ〜
あ! そうだ そうだ♪ 写真、撮っておこう〜っと。 」
ジョーはご機嫌で携帯を取り出した。
「 え〜と・・・・? 製作担当者さん、ご一緒にお願いしま〜す♪ 」
「 え? あら わたし? ・・・ ここでいい? 」
「 オッケ〜〜 はい、ち〜ず☆ 」
カシャ カシャ ・・・ ジョーは座ったままで何枚もシャッターを切った。
「 ねえ ジョー。 あとでわたしの携帯にも送ってね。 」
「 ・・・ あ〜〜 う うん ・・・ じゃ。 食べようか? 」
「 あ その前にね ・・・ はい プレゼント♪
あらためて〜 もう一回。 お誕生日 おめでとう、ジョー。 」
「 ・・・ え ・・・ 」
ぽん、と渡されたのはブルーのリボンが掛かった小さな包み。
「 ぷ ぷれぜんと・・? 」
「 そうよ〜 ふふふ・・・ きっとジョーには必要だろうな、と思って。 」
「 ?? 開けて いいかい。 」
「 もちろんよ、どうぞ どうぞ。 」
「 あ う うん ・・・ 」
け けーき だけじゃなくて プレゼントも だって??
う ウソだろ〜〜 ぼくってば夢でも見てるのかな・・・
― あれ? いつ誕生日を教えたっけか・・・
ジョーはなんだかぼう〜〜・・・っとしてきた。 こんなコトって現実なのか??
サプライズに震える指が包みの中から取り出したのは ―
「 うん? これ 革製品だね〜 あ! キーホルダー か! 」
「 当たり♪ ジョー、 車のキイとか家の鍵とか ・・・ いつも捜していたでしょ。 」
「 あは・・・ 知ってた? 」
「 皆 知ってるわよ。 毎朝うろうろしているでしょ、ジョーってば。
だから これで纏めていれば便利でしょ。 」
「 うん、カッコいいなあ〜 ぼく、こんなの持つの初めてだよ。 」
「 使ってもらえれば嬉しいわ。 」
「 使うよ! いや 使わせて頂きます。 ありがとう〜〜 フランソワーズ ♪♪ 」
あとは楽しいお茶たいむとなり、 ジョーは子供の頃からの念願を果たした。
つまり 手作りのホール・ケーキを思う存分賞味したのである。
う うっま〜〜〜〜い・・・・!
こ こんなことって あっていいのかな〜〜
美味しい・楽しい誕生日、そして目の前には♪ 密かに憧れている女の子の笑みがあるのだ。
「 う〜ん ・・・・ こんなに幸せでいいのかな・・・ 」
「 まあ そんなに美味しかった? 嬉しいわ〜〜 」
ケーキを頬張りつつ うっとりしているジョーに フランソワーズもご機嫌だった。
「 ジョー、 早く元気になってね。 ・・・ 一緒に散歩 しましょ 。 」
「 うん ( え。 一緒に さ さんぽ・・・?? ) 」
ジョーはなんだかアタマがくらくらしてきた。
「 あら? ジョー、なんだか顔が赤いわね・・・ また熱が上がってきたのかしら・・・ 」
「 え そ そんなコト ないよ ・・・ あ 」
たちまち白い手がするり、と伸びてきて彼の痛いに置かれた。
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ ちょっと騒ぎ過ぎたかしら。 お昼寝する? 」
「 大丈夫だよ このくらい。 もう起きだしてもきっと平気さ。 」
ジョーは膝に掛かっていた毛布を取り除けようとした。
「 だめ。 無理させてはいかん、って博士に言われてますからね。
ちょっと待ってね。 ベッド、調えるわ。 」
「 ・・・ごめん ・・・ 」
「 謝ることじゃないでしょ。 ジョーのするべきことは早く元気になることよ。 」
フランソワーズは気軽に立ち ベッド・メイクを始めた。
ジョーは そんな光景を眺めるだけでも嬉しい。
「 なんかさ ・・・ 最高の誕生日になったよな。 」
「 そう? よかったわ。 5月って素敵な季節よね。 」
「 そう かな ・・・ あんまり考えたこと、なかったけど。 」
「 自分のお誕生日なのに・・・ 可笑しなヒトねえ ジョーってば。 」
パンパン ・・・ 枕を軽くたたき、彼女は笑った。
「 え・・・ そうかなあ。
あ なあ、どうしてぼくの誕生日、知っているの? 」
「 どうして・・・って ジョー、あなたが教えてくれたじゃない?
ほら・・・ まだドルフィンで暮していたころ。 皆で話したでしょう。 」
「 あ ・・・ そ そうだったっけか? 」
「 そうよ。 そんな話題でやっとすこしづつ打ち解け始めたわ。
だからとっても印象的なの。 」
「 そ うだった ・・・ か な ・・・ 」
え。 そんなことって ・・・ あったっけか??
いや、雑談で話題に上った っけ? 全然 おぼえてないよ・・・
ぼく、誕生日 教えたかなあ?
う〜〜ん・・・?
あの時 ・・・ 緊張の極致だったからなあ ・・・
ホント、な〜んにも覚えてないよ
ジョーはいろいろ考えめぐらすが どうもしっくりこない。
「 ま 別にいっか・・・ 知られても困ることないもんな。 」
よいせ! と椅子の背をつかみ 立ち上がる。
あれ? それじゃ ・・・ ― じゃ フランは?
フランの誕生日 ・・・・ いつだっけ??
「 よ・・・っと〜〜 」
「 きゃ・・・ ジョー 〜〜〜 待ってまって! 今 支えにゆくわっ! 」
急に立ち上がったので フランソワーズはびっくりしている。
「 焦らないでね ジョー 危ない〜〜 」
「 大丈夫さ。 もし 転んでもどうってことない。 あ 床が壊れるかなあ? 」
「 ジョー ・・・ 」
「 安心しろよ。 無茶はしない。
でも ぼくは。 一日も早く復帰したい。 するから ね。 リハビリ始める。 」
ジョーはかっきりした口調で言った。
「 そう そうね。 その意気よ、ジョー ・・・ 」
「 うん。 あ ねえ? きみの誕生日って いつだっけ? 」
「 え? ああ ・・・ 24日よ、一月の。 」
「 あ そうだったね〜・・・うん ( うわ〜 そっか〜〜〜 ) 」
よ よし! 次の誕生日には ぼくが!
ぼくが 盛大にお祝いする! うん、プレゼントも!
ジョーは普通受け流しつつ きゅ・・・っと拳を握った。
よし。 次の一月には! ぼくからサプライズを贈る。
・・・ その為には まずはきっちり復帰しなくちゃな。 ― やるぞ。
ジョーは携帯をしっかと握り締めた。
さっき撮った写真 ・・・ 実はケーキの写真 じゃなくて その後ろに立つ彼女がメインなのだ。
こ この笑顔を護るために・・・!
ああ そうさ!
ぼくはもう 二度ときみを泣かせはしない!
その印にぼくはきみに ・・・
・・・ よし。 まずは資金だな、 うん。
ジョーは 腹を括った。
― それでもって。
彼は猛然とリハビリに取り組み、 真夏を迎える前に完全に復帰した。
そして ばりばりばり と働き始めた。 合間に身体を鍛えることも忘れない。
「 ・・・ いったいどういう風の吹き回しから? 」
ジャージ姿で 門を出てゆくジョーを眺め フランソワーズは呆れ顔だ。
テラスの窓際で 強烈な日の光に顔を顰めている。
「 うん? ジョーのことかね。 」
「 ええ 博士。 まだまだ暑いのに わざわざ真昼間に <走ってくる> ですって。 」
「 ほう ほう ・・・ アイツも解ったとみえるな。 」
「 解る? なにを ですの。 」
「 いや ・・・ なんというか、自分自身の身体との折り合いの付け方、じゃよ。
生身の部分を鍛錬する という意味もあるしな。 」
「 ・・・ それは ・・・ わかりますわ。
生身とメカ部分が 本当に意味で合体するには時間がかかります。 」
「 ・・・・・・・・ 」
博士は黙ってフランソワーズの肩に手を置いた。
「 それじゃ ・・・ ジョーの好きな麦茶を沢山冷しておきますね。
そうだわ! なにか冷たいオヤツを作ります。 」
「 うんうん ・・・ ありがとうよ。 」
「 博士 ・・・・ 」
フランソワーズは明るい笑顔を見せると、キッチンに行った。
ほっ ほっ ほっ ほっ ・・・・
朝夕には涼風が吹くけれど、日中はまだ太陽が頑張っている。
強い日差しの下、白茶けた道をひたすら走りつつ ― 彼はひたすら考えている。
「 カノジョの誕生日〜〜 なにがいいんだろ・・・
指輪とか? う〜〜ん・・・アクセサリーとか高いんだろ? まだまだ足りないよなあ ・・・ 」
身体が利くようになってから すぐにアルバイトを始めた。
<目立たない> が原則なので いわゆる地味な縁の下のチカラモチ系統となる。
つまり 夜勤だったり早朝だったり。 そして 体力勝負系の仕事だ。
「 ごめん ・・・ 今日、遅いから。 先に寝てクダサイ。 」
朝 彼は出がけにそっとフランソワーズに伝えた。
「 え・・・また? ジョー 大丈夫? このところ、ずっとじゃない? 」
「 あ は。 このくらい、なんでもないさ。 あ 晩御飯 ― 」
「 作っておくから。 ウチで食べて? 毎回外食やらコンビニのお弁当では不経済でしょ。 」
「 あ う うん・・・ ありがとう〜〜 ! あ いっけない、イッテキマス〜〜 」
ジョーは時計を見ると 駆け出した。
「 ジョー −−−−! 気をつけてね〜〜 」
「 〜〜〜〜〜 」
わさわさ手を振って 彼は坂道を駆け下りていった。
やる! やるっきゃないんだ〜〜〜 !!!
こうして暑い季節、 ジョーはバイト三昧の日々を送っていた。
・・・・ がんばれ がんばるんだ・・・! 一月はもうすぐそこだ!
「 張り切っているのはいいけど ・・・ ジョー、あんまり無理しないで ・・・
明日からお弁当もつくるわ。 ね・・・? 」
茶髪の青年が駆け下りて行った道を じっとみつめる。
なんだか ・・・ 胸がチクチクするの ね・・・
いつも一生懸命なジョーを見ていると・・・
お兄ちゃんに似てるっておもってたけど
ジョーは ・・・ ジョーよ ね。
・・・ お兄ちゃんには こんな気持ちにならなかったのに・・・
どうやら彼女の胸にも茶髪ボーイはしっかりと棲み付いている らしい・・・・
じきに涼風は本格的な秋の風となり崖っぷちの邸からも紅葉を楽しむ季節が巡ってきた。
「 ・・・ ほい、 ただいま。 コズミ君の家を望む裏山がなかなかキレイだぞ。 」
「 国道の向こう側にも 紅葉の林があるな。 」
博士は散歩の範囲を広げ ご近所の < 見所 > を語ってくれる。
「 まあ そうですか。 日本の秋はほんとうにきれいですねえ・・・
パリの秋は マロニエの黄色が多かったけど ・・・ こちらは赤やらオレンジやら 」
「 本当になあ。 自然の描く絵画はなににも勝るなあ。 」
「 ええ。 この国は本当にキレイなものが多いですね。 」
「 うむ うむ ・・・ ん? 玄関が開いたようじゃな。 」
「 え? あら アラームがなりませんでしたわ。 ― ジョーですわ。 」
ほんのちょっとだけ目を凝らしてから 彼女はぱたぱたと玄関に出ていった。
「 ジョー? お帰りなさい。 ・・・どうしたの?? 」
「 ・・・ べつにどうも。 」
「 そ そう? ・・・ ねえ、バイトの採用面接にでも行ったの?」
「 ・・・ いやべつに。 」
ジョーは もごもごと口の中で返事をするとどたり、と靴を脱いだ。
彼にしては珍しいスーツ姿で 重い足取りである。
あらあ・・・疲れているのかしら ね?
それにしても きっちりスーツ着て 何処へ行ってきたのかなあ・・・
「 あ ねえ? 先にお風呂? それともお食事 ? 」
「 ・・・ どっちだっていいさ あれ それ いいね。 」
「 え? ・・・ ああ これ ・・・ 」
彼の視線が 胸のブローチに向いている。
「 裏山に抜ける路で拾ったの。 どんぐりのブローチよ。」
フランソワーズの白い指が 秋の実に触れる。
ころんとした実を3〜4個、形よく纏めニスを塗ってある。
「 ふうん ・・・ 可愛いなあ・・・ 」
彼はフランソワーズの顔をチラッと見ただけでそのまま二階へと行ってしまった。
まあ ・・・ なあに?? ヘンなヒト・・・!
・・・うふ? でも 彼のスーツ姿もなかなか・・・ いいわね♪
ふうん・・・ 新しいどっきり♪ 発見〜〜
彼女はちょびっとご機嫌ちゃんだった。
― ガチャ ・・・
ドアあけてしめて。 そのままどさ・・・っとベッドに倒れこむ。
あ ・・・ スーツがシワになる かなあ・・・ いいさ 別に ・・・
「 ・・・ 知らなかった ・・・ あ あんなに する・・・って あんなに高いって 」
ジョーは枕に一発お見舞いすると アタマをその下に突っ込んだ。
ウウウ 〜〜〜〜 ・・・・・
・・・ お前 それでよく彼女に ・・・ 言えるな?
くそ〜〜〜 !
そりゃ どんぐりも可愛いさ。
けど けど! やっぱホンモノを贈りたいのに・・・!
・・・ うう〜〜〜〜 ・・・!
一張羅のスーツを着たまま ジョーは呻き続けていた。
その日。 彼はばっちりスーツでキメて ( と思い込み ) 外出した。
「 ふんふんふん〜〜・・・ ちょっと下見ってとこかな。
一月までにいろいろ見ておきたいし。 まずは・・・ ギンザだな〜
ふんふんふん〜〜 ま 余裕ってとこか。 」
都心に出て、花のギンザにまわり四丁目の角にある超〜〜〜〜〜〜 有名宝飾店に入った。
そのテのものにはとんと縁のない平成ボーイ、 宝飾品は ピンきり ということを知らなかった。
高級なものは ギンザ。 そして宝飾店をさがせばど真ん中に見つかった、というだけなのだ。
シュ ・・・・
微かに音がして自動ドアが閉まった。
― 次の瞬間。 ジョーはまったく別世界に立っていた。
音は ― 騒音など聞こえない。 ごく低くクラシックが流れている。
歩くヒトの足音がしない、とおもったら 床は足がふんわり沈むほど毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。
誰もが ゆっくりと歩き、 小声で会話している。
え あ あ 〜〜〜〜
空調はどこかひんやりしているのに、ジョーはどどど・・・っと汗が噴出してきた。
「 ・・・ う ・・・? 」
「 ・・・ いらっしゃいませ。 ご案内いたしますが・・・ ? 」
黒いスーツの美女が す・・・っと寄ってきた。
「 え!? あ あのぅ〜〜〜〜 ぷ プレゼント ・・・・ 」
「 ・・・ プレゼント。 かしこまりました。
それで御用の向きはどなた様でしょう。 ご友人様ですか。 」
まちがっても あ〜 彼女サンに、ですかァ? とは言わない店なのだ。
「 そ そ その・・・ 友人 ってか その〜 プロ ・・・ いや ぷれ 」
「 ぷろ? まあ! ご婚約用ですか♪ それではお二階になりますので・・・
どうぞこちらへ 」
「 ・・・え え〜〜 あの ・・・ あ きょ 今日は見るだけで ・・・ 」
「 ええ ええ どうぞごゆっくりご吟味くださいな。
はやりご婚約にダイヤが一番、ですし♪ 」
彼女はジョーを強引にエレベータに押し込んだ、
「 え?? あ あの・・? 」
「 はい。お二階には専属スタッフがおりますので。 ふふふ・・・できれば私がお相手したい
のですが っとこれは独り言でございます〜 」
ぺこり、と最敬礼でエレベーターを閉められ ― 着いた先にはまたも黒いスーツの
ますますな美女が待っていた。
「 いらっしゃいませ。 ご婚約のプレゼントですね。 どうぞこちらへ ・・・ 」
「 え あ ・・・ そ その ・・・ 」
今更ちがうともいえず、 ジョーは引っ張られてゆく。
な なんなんだ〜〜 このヒトたち ・・・・
ぶ ぶらっく・ご〜すと よりも強力だぞ〜〜
し しかし このままじゃ え〜〜い あとは! ゆうきだけだっ !
「 あの! 見るだけ ・・・! 」
「 はい。 存じております。 まずは下見、ということですね。
お好みのものがございましたらご予約承ります。 」
「 ・・・ あ ・・・ ァ 〜〜〜〜 ・・・・ 」
ゆうき はあとかたものなくしぼんでしまった。
「 こちらは すこしカジュアルですから・・・ やはりご婚約となるとこちらの方が。 」
ずい ・・・と 彼女はきんきらきんに輝いているケースを示す。
「 お手に取って ― 」
「 あ!!! え ! い いいです〜〜〜 このままで・・・
あのぅ〜〜〜 ダイヤ じゃなくて ガーネット ・・・ 」
「 ガーネット? まあ 一月生まれでいらっしゃいますのね。
では ・・・ こちらになります。 これはプラチナの台にダイヤを添え こちらは・・・ 」
ジョーの目が吸いつけられる ― 宝石自体にではなく その値札タグに!
その ゼロ の数に ・・・!!
い? ・・・・ いち にい さん し ご ・・・ ろく ・・・
う うそ 〜〜〜・・・
彼はゼロの数を数えて絶句した。
「 ・・・あ あの! わ わかりました〜〜 き きょうは い いそぐので・・・! 」
「 まあ 残念ですわ〜〜 あの お客様? 」
「 は は はい!? 」
「 今日のようなカジュアルなスーツも素敵ですけれど。
ばっちり正装なさったところを是非是非是非拝見しとうございます。 」
「 は は はい 〜〜 」
か かじゅある??
これ ぼくの唯一の正装用すーつ なんだぞ〜〜
彼のそんな内なる抗議など わかってもらえるはずもなく。
ジョーはバカ丁寧なお辞儀に送られて ぽい、と外の舗道に放り出された。
「 ・・・ は ・・・! な なんなんだ〜〜〜
・・・ で でも。 あの値段〜〜〜 あのゼロの数〜〜〜 」
目の前にチラつくタグの数字に ジョーは再び軽く眩暈を感じていた。
― そして 正気に戻った、とおもったらベッドの上で苦吟していた ・・・
くそぅ〜〜〜 ・・・・ ジョーは改めて枕に鉄拳を打ち込んだ。
「 ― 頑張る。 それっきゃない! 」
翌日から ジョーの帰りはますます遅くなった。
「 ・・・ ジョー ・・・ きっとなにかとても大切なことなのね。
何も言わないわ。 ・・・ どうぞ気をつけて ・・・ 」
フランソワーズは 黙って朝は弁当をつくり夜は夜食を用意していた。
秋はその色鮮やかな裳裾を曳いて足早に去っていった。
温暖な気候のこの地域でも朝晩 ぐっと冷え込む頃 ・・・
「 あ ・・・ ふうん ・・・ もうお酉様かあ・・・ 」
新聞を広げていたジョーが 呟いた。
「 ? おとりさま? ・・・ それ なあに。 」
「 う〜ん ・・・ なんて言うかなァ・・・ 日本の旧い習慣、いや風習かなあ・・・
酉の日 ってのがあってさ。 毎年11月に御祭りがあるんだ。 」
「 ・・・ 御祭り?? 花火とか上がるの? 」
「 う〜〜ん そういうのともちょっと違うだけど ・・・
とにかく行ってみないかい。 お酉様ではね、 縁起ものにクマデを買うんだ。 」
「 クマデ ・・・? なあに それ。 」
「 う〜〜〜ん ・・・・ ま ! ともかく一緒に行こうよ。
えっと・・・ ああ ちょうどいいよ、次の土曜日が一の酉だからさ。 」
ジョーは 壁の暦を眺めて言った。
「 ??? いちのとり?? なにがなんだか全然わからないけど ・・・
土曜日ね、 いいわ。 で 遠くに行くの? 」
「 え〜と ・・・ やっぱり浅草のがいいかな。 きっと賑やかだから。 」
「 ふうん ・・・ 縁日みたいなのかしら。 」
「 あ そうかもな〜 外だからしっかり着込んでゆこうよ。 」
「 わかったわ。 ふうん ・・・ この国は面白いことがいっぱいね。
ジョーって詳しいのねえ。 」
「 あは・・・ ぼくのは全部受け売り。
ぼくの居た施設の寮母さんに詳しいヒトがいてさ。 お供でクマデ、買いにいったりしたんだ。
そうそう・・・ 教会にも飾ってたな〜 」
「 そうなの? ま 楽しみにしているわ。 誘ってくれてありがとう、ジョー。 」
にっこり笑う彼女は やっぱり滅茶苦茶に可愛いくて。
うわ〜〜〜ん ・・・・! この笑顔〜〜〜
・・・ やっぱどうしても ぼくは! 彼女に ・・・ 申し込む!
どうしても どうしても どうしても ・・・!
「 ? なあに。 なにか・・・わたしの顔についてる? 」
碧い瞳がじ〜〜〜っとジョーを見つめてきた。
「 ・・・え!? あ ぅうう ううん その あの その〜〜 」
ジョーは首の付け根まで赤くなってへどもどしている。
「 ま〜ったく可笑しなヒトねえ・・・ジョーってば。
・・・ 今晩もまた遅いのでしょう? お夜食、置いておくわね。 」
「 ・・・う うん ありがとう〜〜 フラン。 」
「 どういたしまして。 キレイに食べてもらえてわたしも嬉しいわ。 」
再び魅惑の笑顔を残し、 彼女はキッチンに消えてしまった。
う ・ わあ〜〜〜 ん!!!
キマリだ、キマリ!
ぼ ぼくは! ぷ ぷ ぷろぼ〜ず する!
そのためにも。 稼ぐぞォ〜〜〜
ジョーは天井を き!っ見つめ ぐい、と拳を突き上げたのだった。
・・・ ジョー ・・・ 大丈夫かしら・・・・
カノジョがこっそりキッチンのハッチから眺めているにも気がつかず・・・一人で大いに盛り上がっていた。
土曜日 ― あいにく どんより灰色の空、だったが二人は都心にやってきた。
地下鉄に乗り継いで地上にでれば かなりの人出だった。
「 え〜と ・・・ ああ こっちだ。 ほら ・・・ あそこ。 」
「 え? あらあ〜 大きな市 ( いち ) ね。 まあ ヒトがいっぱい・・・ 初詣の時みたいね。
ねえ ねえ 縁日みたいにお店がいっぱいだわ。 」
「 そうだね〜 さあ ぼく達も行ってみようよ。 」
「 ええ。 」
ジョーはさ・・・っと手をだし、フランソワーズの手を握った。
・・・ うふふ ・・・ あったかい ・・・
あは♪ えへへへ ・・・・ 細い手だなあ〜
人混みに揉まれ、 それも二人一緒なら結構楽しくて。
ジョーはおおっぴらにフランソワーズを抱き寄せ抱き締めることができてご満悦。
フランソワーズも 彼の胸に身を寄せて嬉しそうに笑っていた。
人混みに紛れていちゃくちゃしているカップルが多数いたので ちっとも目立つこともない。
大小さまざま、デザインもいろいろな熊手をながめて歩く。 ⇒ イラスト♪♪
「 ねえねえ くまで。 くまでよ、ほら・・・ 」
「 ああ そうだね〜 いろんなのがあるな〜 」
「 ねえ これってなんのオマジナイなの。 これ・・・ ホウキの一種? 」
「 ホウキでも オマジナイ・・・ じゃないけど。 あ! ここに書いてあるよ。
ウ〜ン・・・ あ このクマデで福をかき寄せるのさ。 」
「 ふく? ラッキー のこと? 」
「 うん それに ハピネス や ピース や ・・・ ラブ とか いいこと、全部! 」
「 まあ 素敵!! ねえねえ ウチにも買って帰りましょ。 」
「 そうだね〜 リビングに飾ろうよ。 どれがいいかな、 どれが好きかい。 」
「 ・・・ う〜〜〜ん 迷うわあ〜 ・・・ 」
「 でっかいのにしようか。 いっぱいかき寄せられるようにってさ。 」
「 うふふふ・・・ ジョーったら欲張りサンね〜 でも大きいの、素敵だわ。 」
二人でああでもない、こうでもない、とウロウロして ― 005用のウチワくらいのに決めた。
「 あの〜〜 すみません ・・・ 」
イナセな恰好の売り手のおっさんに声をかける。
「 ほい、兄ちゃんたち新婚さんかい? 最初っからでっかいのを買っちゃいけねえ。 」
「 え? 」
「 これはな、毎年、前の年よりでかいのを買うってもんなのさ。
だから最初は一番ちっこいのを買いな。
いいかい 美人のオクサン! 熊手も結婚生活も最初が肝心だよっ ! 」
ふふふ? 思わず顔を見合わせ二人して笑ってしまった。
「 それじゃ ・・・ ちっちゃいのを選びましょうよ。 」
「 そうだね〜 えっと・・・ 」
「 ほら こっち。 わあ〜〜 可愛い〜〜〜 」
結局 ジョーの手の平くらいの ミニチュアサイズのを買った。
「 ね? いいわねえ、こういう考え方って。 」
「 あ・・・ きみもそう思う? 」
「 うん。 だんだん大きくしてゆくのよね。 ・・・幸せとかも ・・・ 」
「 ん。 」
ジョーはもう一度 カノジョの手をきゅ・・・っと握った。
フランソワーズもしっかりカレシの手を握り返した。
そっか。 始めは小さいの、 か。
大きくしてゆく のね。 ・・・ 育てるのね
― そしてミニチュアくまで はギルモア邸のリビングの壁に収まった。
年が明けて 1月24日。
彼は小さな箱を差し出した。
「 フランソワーズ。 お誕生日 おめでとう! これ ・・・ 開けて欲しいんだ。 」
「 まあ ・・・ジョー ・・・ ありがとう! え 開けるの? 」
「 ・・・ ウン。 」
「 ?? ― まあ ・・・・ 綺麗〜〜! これ・・・ ガーネットね? 」
「 ウン。 あの ごめん、これがぼくの精一杯なんだ。
もっと大きいのって思ってたんだけど。 」
「 じょー! 大きさなんて関係ないわ。 とっても綺麗ね、すごく素敵! 」
「 う うん・・・ あの ・・・ ホントはダイヤがいいだけど ・・・ 」
「 ダイヤ? あら わたしの誕生石はガーネット、 これ だわ。 ダイヤは四月よ。 」
「 ・・・ ウン ・・ あの でもさ ・・・ ぷろ ・・・ 」
「 ぷろ?? 」
「 ん。 えっへん。 あ〜〜 フランソワーズ・アルヌールさん。
ぼ ぼくとけっこんしてください −−−− ! 」
「 ・・・・ じょー ・・・・ 」
フランソワーズは両手で ガーネットのチョーカーを包んだ。
白い手の中で 小粒な赤がきらり、と光る。
それは決して大きくないけれど、 フランソワーズにはなによりも愛しく見える。
「 うふ。 安心して? 毎年、去年より大きいのが欲しい! なんていわないから。 」
「 え・・・ あ・・・! ははは ・・・ありがとう フラン〜〜 」
ジョーは晴れやかに笑って フランソワーズをぽ〜んと抱き上げた。
そうね。 はじめは一番小さいの、 よね。
二人は微笑みあって 唇を重ねた。
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Last updated
: ,01,24,2012. index
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ひと言 *************
一応 フランちゃん・お誕生日おめでとう 話 であります〜
そして キリ番ゲットで頂戴した ワカバ屋さまのイラスト ( 文中から飛んでね )
に くっつけたオハナシでもあるのでした・・・ はへ・・・
熊手は初めは小さいのから〜 というネタは めぼうき様 から頂ました <(_ _)>
皆様〜〜 ありがとうございました。