『 千年の恋 』

 

 

 

 

 

「 おい!?  彼女をどうするつもりだっ!! 」

 

青年は自分自身でも驚くほどの大声を上げていた。

「 誰だ、お前ら! 彼女を放せ〜〜 !! 」

黒い服に身を固めたオトコ達は 青年の大声など歯牙にもかけず

少女を強引に乗り物に連れ込んでいる。

 

「 待て〜〜〜 !! 」

 

かなりの距離があったが 彼は全速力で駆け出した。

青年はわけもわからないまま、歯を食い縛って走った。

 

なんだ?? なんだってんだ? どうして・・・???

 

 

いつもの道、通い慣れた道をのんびりと歩いていた。

厳しい季節もやっと終わり、頬にふれる風も心地よい。

久し振りの休暇、彼女も心待ちにしているのだ。

青年は自然に零れてくる笑みを隠そうと、 ちょっと咳払いなどもしてみる。

もうすぐだ。 あの角をまがって・・・ きっと。

内ポケットの中の小さなケ−スがことん、と青年の胸に当たる。

 

待っているだろうな ・・・ うん、オレも会いたかったぜ!

いろいろあったけど。  やっとここまで漕ぎ着けた。

ごめんなさい、っていつもキミは言うけれど。 

キミのせいじゃないだろ。 キミは ・・・ 立派だよ、凄いよ。

オレに出来ることなら何でもやってやるから。

オレがずっと支えるから。

だから。 

その微笑を ほんの一時だけでも独占させてくれよな。

キミにはこんなモノ、見飽きているだろけど。

これはオレの誓いの証し。 気に入ってくれると嬉しいなあ。

 

青年は弾むこころのままに 足取りも軽く角をまがった。

 

  ・・・ そして。

 

 

「 くそうッ! ・・・ ちょいと 借りるぜ!! 」

大通りから一本はずれた裏通り、助けを求めようにも人影すら見当たらない。

たまたま路肩に止めてあった小型ヴィ―クルを、彼は無断借用した。

キ−が差したままなのは ラッキ−だった。

「 待て〜〜〜 ! 人攫い〜〜!! 」

青年は大声で喚きつつ、大型の乗り物を追った。

 

彼女が一人で出歩くのを見計らっていたのだろうか。

だとしたら。

オレのせいだ、オレを迎えにきてくれたばっかりに・・・

 

青年はぎり・・・っと唇をかみしめた。

 

   ― バシュ −−−−−−− !

 

大型の乗り物は充分に助走をつけると、突如両側から翼を出し宙に浮いた。

そして 悠々と2〜3回旋回するとスピ−ドを上げあっという間に視界から消えた。

 

「 ・・・ マリン ・・・・ !! 」

 

青年の慟哭が むなしく晴れ渡った空に響く。

いつもと少しも変らない空、いや、ほんの数分前までは

光り輝き、希望と幸福に満ち溢れていた空 ・・・ それが。 いまは。

 

・・・・ なにも ない ・・・ 

 

地に身を投げ出し、 青年は呆然と空だけを眺めていた。

 

愛してる・・・!  オレの愛は生涯 君だけに・・・ 

忘れないよ、 たとえ千年の時を隔てても・・・ !

 

 

 

 

「 あの・・・003。 本当によかったのかな。 」

「 ・・・ え? なあに、009? 」

「 いや、その・・・ 今回のこの<仕事>に誘ってさ。 

 せっかくパリで平穏に暮らしていたきみには迷惑だったかなあって思ってさ。 」

「 ああ、そのこと。 」

艦橋への廊下でジョ−はすれ違ったフランソワ−ズを呼び止めた。

慣れない深海作業用の潜水艇での<仕事>に、誰もが大忙しだった。

慌しく乗り込んで出航して以来、ジョ−は彼女とゆっくり話す暇もなかったのだ。

 

「 気にしないで、009。 あなたも言っているように ・・・ 今回は<仕事>でしょ。

 依頼主つきの。 ミッションとは違ってよ。 」

「 そうなんだけど。 でも ・・ やっぱりこうして防護服を着ているだろ。

 きみ・・・ あんまり気が進まなかったんじゃないかい。 」

「 コレは ただの作業服と思えば気にもならないわ。 」

肩を少々竦めて フランソワ−ズはほろ苦い笑みを見せた。

「 だって。 一応ス−パ−ガンは携帯しているけど、<闘い>じゃないもの。

 ジョ−、そんな顔しないで? 」

「 あ・・・ うん。 それなら いいんだけど。

 あの・・・さ。 その ・・・ 元気だった? きみがパリに帰ってからほとんど手紙も来ないから・・・

 ちょっと そのぅ・・・ 心配してた。 」

「 あら、ありがとう。 ・・・ 本当ね、ゆっくりジョ−と二人でお喋りするのって久し振りね。 」

「 うん。 あの。 また一緒に<仕事>ができて嬉しいよ。

 これからどんな具合に進むかわからないけど ・・・ きみを誘ってよかった。 

 あの ・・・ よかったら ぼくのキャビンに来ない? きみが好きな日本のお茶、持ってきたんだ。」

「 ジョ−。 わたしも皆と会えて嬉しいわ。 」

じつはね・・・ とフランソワ−ズはひくく笑って潜水艇の丸い窓から海中に目を逸らせた。

「 わたし。 ちょうどよかったの。 」

「 ? なにが。 」

「 ふふふ ・・・ パリに居たくなかったのよ。  ・・・ 振られちゃったの。 」

「 ・・・ え。 」

「 だからね。 いろいろ忘れたくて。 こんどの<仕事>の話は正直ありがたかったわ。 」

「 ・・・ そ、そうなんだ。 」

「 ええ。 だからね、ジョ−。 もう気にしないで。

 改めて宜しく、009。 003として頑張るわ。 」

「 あ・・・ うん・・・ 」

ぱ・・・っと出された白い手に ジョ−は恐る恐る触れた。

にこにこと元気な顔は 以前と変らずジョ−をまっすぐに見つめている。

 

   ・・・ そうか。 なんとも思ってなんだ、・・・ ぼくのこと。

   もう ぼくは単なる友人なのかなあ・・・

 

ジョ−は一生懸命に笑顔をつくった。

「 ・・・ ぼくのほうこそ。 よろしく・・・ 」

「 ねえ? 本当にタイタニック号だと思う? 

 アルベルトは あのムッシュウ・グレゴ−ルがお気に召さないようだったけど。 」

「 ・・・ あ ・・・ そ、そうだ ・・・ ね? 」

「 素敵なロマンスも一緒に沈んでいるのかしら・・・ 映画があったわね、見た?

 なんだかワクワクしちゃうわね。 」

「 あ、ああ・・・。 あの、フランソワ−ズ ・・・ そのぅ 振られたって・・? 」

「 久し振りに皆と会えて楽しいわ。 もちろん♪ ジョ−とも会いたかったのよ。 」

「 え・・・ あ、ああ。 ぼくも・・・ 」

「 あ・・・っと。 このデ−タ、インプットしておかなくちゃ。

 ねえ、このポセイドン号。 最新式っていうけど、わたしにはやっぱりドルフィン号のがいいなあ。 」

「 あ、ああ・・・ そうだね。 」

「 じゃ、またあとで。 」

「 ・・・ あ ・・・ うん ・・・ 」

さ・・・っと頬に掠めるみたいなキスを落とし、フランソワ−ズはコクピットに消えてしまった。

 

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

ジョ−はそこだけやけに熱い、自分の頬にそっと触れた。

彼女のキス。 それは単なる挨拶のキスだと充分にわかってはいたけれど ・・・。

 

   ― 振られた、だって?? いったいどこのダレに??

 

一瞬頭に血が昇ったが、すぐに今度は瞬間冷凍してしまった。

 

   ・・・ なにも言う資格なんか ないんだ。 

   彼女が故郷でどんな暮らしをしようが ・・・ どんな恋をしようが・・・

   ぼくには。 

   ぼくは ・・・ 彼女になにも言ってはいない・・・

 

長い間、一つ屋根の下で暮らしていた。

生死をかけた戦場を ともに駆け抜けてきた。 

気がつけば、いつも彼女は側にいてくれた。 彼女の存在がどんなに励みになっていたことか。

ジョ−は今、改めて気がつくのだった。

・・・ それなのに。

 

ぼく達はべつにそんな。 

・・・ そんなんじゃないよ、仲間として・・・

 

彼女との仲についてからかわれる度に そんな返事をしていた。

そんな時。

ジョ−自身は 否定半分・照れ半分の気持ちだったのだが・・・

彼女はどうだったのだろう。

どんな気持ちで ジョ−の言葉を聞いていたのか。

懸命に思い返してみても、うかぶのは ただ、笑顔。

ちょっと頬を染め、彼女はいつも微笑んで伏し目がちにしていた。

そう・・・ たしかに微笑んでいたのだ。

 

   わかってくれてる、と思ってた・・・

   そりゃ ・・・ はっきりと口に出したことはなかったけど。

   ・・・ でも。

   遊びじゃないよ、絶対に。 きみとの付き合いは そんなんじゃ・・・

 

ジョ−は懸命にこころの中で否定したのだが。

 

 

「 ジョ−。 あの ・・・ わたし、パリに帰るわ。 」

「 え。 ああ、うん。 やっといろいろ落ち着いたから・・・ ゆっくりしておいでよ。 」

「 ・・・・・ 」

「 それで だいたいいつ頃戻ってくる予定? 」

「 決めてないわ。 ・・・ 帰るの、向こうで暮らすわ。 」

「 フランソワ−ズ?? 」

一年前、ちょっとしたミッションが片付き、集合していた仲間達は再び故郷に散って行った。

最後の一人を見送ったあと、フランソワ−ズはごく自然にジョ−に告げたのだった。

 

「 元気でね、ジョ−。 なにか緊急の事があったら連絡してね。 」

「 ど・・・どうして?  あ・・・ またバレエを始めるのかい。

 その ・・・ こっちじゃダメなのかな・・・ 

「 う〜ん・・・ まだ決めてないわ。 

 皆も故郷に帰ったでしょう? わたしも 同じよ。 」

「 ・・・ そう なんだ・・・ 」

 

   だって! きみはず〜っとここで、日本のこのギルモア研究所で!

   ぼく達と暮らしてたいじゃないか。

   きみの家は ・・・ ここ ・・・ じゃなかったのかい。

   ぼくはきみの ・・・ 恋人だって ・・・ 思ってたのはぼくだけなのか・・・

   ・・・なあ! どうして、どうしてなのさ、フランソワ−ズ!!

 

こころの中でひとりの自分が喚いている。

そして一方ではそのわあわあいう声に呆れている自分も ・・・ ジョ−には見える。

結局 彼が口にだしたのは素っ気無いことばだけだった。

 

「 そうか。 じゃあ ・・・ きみも元気で。 」

 

あまりに淡々としている二人にギルモア博士すらも首を捻っていた。

「 ・・・ あの二人は恋人同士ではなかったのかね。 」

「 ウ〜ン ・・・ 男女ノ仲ニツイテハ 僕ニハヨク判ラナイヨ、博士。 」

「 そうじゃのう。 ワシにも あの二人の仲はとんと解せんよ。 

 ま、当分ここは男所帯になるということじゃ。 」

「 ワア・・・ 僕、ふらんそわ−ずト一緒ニ ぱり ニ行コウカナア・・・・ 」

 

空港へ彼女を送った帰り道、博士とス−パ−・ベイビ−は

密かにこんな会話を交わしていた。

 

 

「 ・・・ あれから 一年、か。 」

ジョ−は吐息ともつかない、低い呟きを漏らした。

さっき、彼女が眺めた丸窓に視線を投げてみる。

 

「 なにも 見えないじゃないか。 ・・・ なんにもわからない・・・ 」

 

彼女が日本を去ってから 手紙もほとんど来なかった。

時折、ジョ−は世界中に散った仲間達に 研究所の近況報告を送ったけれど、

それにすら返信があることは稀だった。

クリスマス・カ−ドと博士とジョ−へのバ−スデ−・カ−ドだけは

忘れずに送られてきたけれど・・・

 

そんな状況での今回の<仕事>、ジョ−はかなり期待をして

全員に声をかけたのだった。

彼女とまた ともに過せる。

こんどこそ。 ちゃんと言うんだ、そう・・・ ぼくの気持ちを。 ず〜っと想い続けていたって。

だから ・・・ !

彼女はすぐに応じてくれた。 集合の日よりも2日も前にギルモア邸に到着した。

一年前と少しも変らない笑顔で。

 

「 喜んで来てくれたのは 嬉しいけど。 」

・・・・ は !

一息、おおきく吐いて、ジョ−はぶるん・・・と頭をふった。

「 もういいじゃないか。 ともかく彼女は来てくれたんだ。

 <仕事> に集中しよう。 すべては ・・・ それからさ。 」

カツン ・・・ ブ−ツの踵を床に蹴り付け、009はコクピットに戻って行った。

 

 

 

 

「 千年?? 千年も ・・・ 地球のあの深海にいた、ってわけか? 」

「 ・・・ とても信じられないわ・・・ 千年も・・・ 」

サイボ−グ達は皆驚きの声をあげ、その不思議な星の<千年前の女王様>を取り囲んだ。

過去の沈没船を引き上げる、という依頼仕事は とんでもない方向へ発展してゆき

彼らは今、外宇宙の全く未知の星に降り立っていた。

 

その星 ― レプチュ−ム、という名だそうだが、 ― は 千年の昔から二つの種族の争いが絶えず、

天上族の女王様は 敵対する地上族に拉致されたのだという。

 

「 ・・・ あれから、もう千年もの年月が経ってしまったそうです。

 私には ・・・ つい、昨日のことに思えるのに・・・ 」

「 女王様 ・・・ どうぞ、お気を落とさずに・・・ 」

「 しっかし。地上族のソイツら。 信じ難い精神構造だぜ。 」

偶然助けた現在の天上族の娘から得た情報に、サイボ−グ達は驚愕した。

そして ・・・ 

千年前の女王様のショックは計り知れないものだった。

「 ・・・ なにもかも、変ってしまった・・・  ・・・・・・  」

低く呟いたのはどんな言葉だったのか。 ヒトの名前だったのか・・・

それは誰にも解らなかったが、誰一人聞き耳をたてようなどと思うものはいなかった。

「 そりゃ・・・ なあ。 目が覚めれば千年後、だぜ?

 それも ひとりぽっちでさ・・・、 気の毒に。 」

グレ−トの言葉に、似たような体験をもつ3人は黙って目を伏せた。

フランソワ−ズは自分自身のためにも、こころが痛んだ。

 

・・・ でも。 もっとなにか・・・ 女王様は酷いショックを受けているわ。

故郷の星が荒れ果てたことや今の住民達の行動を悲しんでいる・・・ それだけじゃない・・・

 

「 ・・・ 女王様 ・・・ 可哀想ね。 」

フランソワ−ズはぽつり、と言った。

「 うん ・・・ 」

ジョ−もそっと彼女を見守っている。

現在の天上族たちは 生き残りをかけて地上族に闘いを挑む姿勢なのだ。

争いは次の新たな争いを生むだけだ、という女王様の説得には耳も貸さなかった。

 

  ― 過去のヒトは口を出すな。

 

そのひと言に、千年前の女王は、ただ哀しげな瞳をするばかりだった。

そして 夜明けを前に、

荒れ果てた故郷の地を見渡せる丘で、彼女はひとり佇んでいた。

 

「 仕方あるまいよ。 千年もたてば人々の考え方も違ってくる。 」

「 ・・・ そう、 だけど ・・・ 」

「 ずっと傷めつけられて来たモノに 平和主義を説いても・・・

 そりゃ、おいそれとは受け入れられんだろうさ。 」

「 ・・・・ ちょっとお話してくるわね。 」

フランソワ−ズは スペ−ス・シップから出て黙って丘を上っていった。

 

空の一方から、微かに色が変わってきていた。 夜明けが近いのだろう。

カツン・・・

フランソワ−ズのブ−ツの下で、瓦礫がひとつ崩れた。

「 ・・・・ ? 」

項垂れていた女王は 微かに首をめぐらせた。

「 ・・・ 女王様・・・  そちらへ行っても構いませんか。 」

「 ・・・ ええ。 どうぞ。 ・・・ えっと ・・・? 」

「 フランソワ−ズ、といいます、女王様。 」

フランソワ−ズは優雅に腰を屈めて会釈をした。

「 まあ ・・・ そんな風に扱っていただけるなんて ・・・

 フランソワ−ズさん、さあ、どうぞ。 ここは岩場ですが、見晴らしがいいのです。 」

「 あら、本当ですね。 ・・・ 以前、女王様のお国はさぞかし美しかったのでしょうね。 」

フランソワ−ズは目の前にひろがる荒野を ずっと見回した。

荒れ果て、瓦礫の山が多いが緩やかなスロ−プから広い平野になっている。

 

「 ・・・ ええ・・・。 もう千年も昔のことになってしまいましたが。

 この丘に私が生まれ育った王宮がありました。 ここからはずっと・・・ 

 緑に囲まれた街が拡がっていて ・・・ 人々が穏やかに平和に暮らしていました。 」

「 女王様 ・・・ 」

「 あのね、フランソワ−ズさん。 どうぞ、マリンと呼んで下さいな。

 親からもらった名前ですわ。 」

「 マリン姫様。  この水に似た大気の惑星にぴったりのお名前ですのね。 」

「 ・・・ ありがとう ・・・ 同じことを言ってくれたヒトもいましたわ・・・

 そう ・・・ 昔。 大昔ですね ・・・ 」

自嘲めいた口調にはっとすれば、マリン姫の瞳は瑠璃の雫で満ちていた。

「 女王 ・・・あ、 いえ、 マリン姫様。  」

「 ・・・ はい? 」

「 わたしも ・・・ 年月を無理矢理飛び越えさせられてしまったのです。 」

「 まあ・・・! あなたも・・・? 

マリン姫は大きく目を見張った。

「 はい。 わたしはたったの40年ですけれど。

 ある組織に拉致されてサイボ−グに改造され ・・・ 時を飛び越えさせられました。 」

「 ・・・ 酷いわね。 」

「 千年の年月ではありませんが わたしも ・・・ なにもかも失くしてしまいました。 」

「 ・・・ フランソワ−ズさん。 」

「 こんなこと、伺ってごめんなさい。 あの ・・・ どなたか愛しい方が・・・? 」

「 ・・・ おわかりになる? 

 ええ、フィアンセがいましたの。 ちょうど彼に逢う日に私はヤツらに浚われてしまったのです。 」

「 ・・・ そうなんですか。 」

「 やっと帰りついた故郷ですけれど・・・

 時は流れ国は荒れ ・・・ 人々のこころも変わってしまいました。 

 わたしには思い出しか 残されていません。 」

「 ・・・ マリン姫様・・・ わたしも。

 懐かしい故郷の街に戻りましたけれど ・・・ わたしの居場所は見つけられませんでした。 」

「 フランソワ−ズさん? あなたには傍にいてくれる方が いらっしゃるでしょう。 」

「 ・・・ え ・・・ 」

「 ふふふ・・・ ちゃんとわかってよ。 あのセピア色の髪と瞳をした青年・・・・

 彼はあなたを心から大切に思っていますね。 」

「 ・・・ そんな ・・・ こと・・・ 

 ジョ−、いえ・・・ あのヒトは何も言ってくれません。

 ただの仲間として 一緒にいるだけですわ。 」

「 いいえ? ねえ、見落としてはダメよ。 」

マリン姫はフランソワ−ズの顔を覗き込むと くすくす笑った。

「 端からみればすぐにわかります。 あの青年の、あなたを見つめる瞳・・・

 あなただけに注がれている温かい視線。 彼はあなたを愛していますよ。

 ・・・ただ、口が重いだけなのではないかしら。 」

「 ・・・ そう ・・・ かしら。 

 でも。 わたしが彼の元を離れたい、と言った時も ・・・ なにも・・・ 」

「 愛している、と口に出して言い募るだけが愛ではないでしょう? 」

「 それは ・・・ そうですけど・・・ 」

「 私のあのひとは ・・・ 一生側にいる、と誓ってくれましたけれど・・・

 もう ・・・ あのひとは私の思い出の中にしか生きていません。

 でも。 だからこそ ・・・ 一生、一緒です。 死ぬまで・・・彼とは一緒です。 」

「 マリン姫様 ・・・ 」

「 ね? あなたにはあなたを誰より、何よりも大切に想ってくれるひとが

 ちゃんと側にいるのです。 目を逸らせないで・・・ そして 信じてあげて。 」

「 ・・・・・ 」

二人の娘達は見つめ合い、淡い微笑みを交わしあった。

 

   ・・・ わたし。

   意地を張っていたかもしれないわ。 ・・・ ルイにはそれが見えたのかも・・・

 

「 あ ・・・? 」

「 ええ、夜明けです。 」

荒野を覆う空の一角が か!・・・・っと明るく開けはじめた。

「 ・・・ すごい熱量ですね。 」

「 ええ、この星は夜明けと日の入りの時急激に天候が変るのです。

 さあ、大風が吹き荒れるまえに船にもどりましょう。 」

 

「 おおい ・・・ 女王さま! フランソワ−ズ! スペ−ス・シップに入るんだ。

 すぐに大嵐がくるぞ! 」

「 ジョ−! 」

「 さあ、はやく! 」

すでに吹き荒れ始めた風をついて、ジョ−がやってきた。

「 夜明けと共に気圧が急に変化したよ。 いそげ・・・ ああ、歩けるかい?

 女王様、失礼します。 」

ジョ−はマリン姫とフランソワ−ズをぴたり、と両脇に引きつけ歩き始めた。

 

 

「 すごい嵐ね・・・ なにもかもが吹き飛ばされてしまう・・・ 」

ようやっと戻ったスペ−ス・シップで、 フランソワ−ズは外をじっと眺めていた。

「 うん。 この天候の間は地上族も攻撃はしてこないだろう。

 その間に博士がいろいろとこの星のメカを調べているよ。 」

「 そうなの ・・・。 ・・・あの、ね。 ジョ− ・・・ あの ・・・ 」

「 うん ? ・・・ なに、フランソワ−ズ・・・ 」

「 あの ・・・ わたしね、パリで ・・・ 振られちゃったって言ったでしょ。 」

「 う、うん ・・・。 」

「 とてもいい男性 ( ひと ) だったの。 ルイっていって・・・

 わたしが通っていたエコ−ル・ド・ア−トで美術を専攻していたわ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・ 」

「 優しいヒト。 どんな事情や過去も関係ない、今のきみを愛してるって・・・ 」

「 ・・・・・・ そうなんだ。 」

「 ええ。 なのに ・・・ わたし。 わたしが・・・ 」

 

「 皆が ・・・ ! ここへやって来ます! 」

 

一番外側の窓辺にいたマリン姫が 突如声を上げた。

「 マリン姫様 ?  ・・・ ああ! 本当だわ! 」

「 見えるかい、003? 」

「 ええ。 この強風に飛ばされそうよ ・・・ ああ、危ない! でも沢山の人々がくるわ! 」

「 ・・・ 闘うことを厭うものたちが ・・・ 私の考えに賛同してくれる人々が 

 洞穴から出てこちらに・・・! 」

「 ほう・・・ 女王様、よかったですなあ。 」

「 もともと平和を愛する種族なんだろうな、彼女達天上族は。 」

サイボ−グ達は強風の中、てんでに飛び出してゆき、人々に手を貸して船内に誘導した。

マリン姫は 沢山の人々に囲まれ微笑んでいたが やがてはらはらと涙をこぼし始めた。

 

「 あの ・・・ マリン姫様? どうか・・・? 」

「 ・・・ああ、フランソワ−ズさん。 この方が ・・・ 」

「 ? 」

マリン姫の前に 一人の青年が方膝をついて畏まっていた。

「 ヴァンといいます。 どうぞ宜しく、遠い星のお嬢さん。 」

「 フランソワ−ズ、です。 よく・・・こちらに来てくださいましたね。 」

「 はい。 俺は闘いは好きじゃない。 それに ・・・ 」

青年はほんの少し言い澱み、俯いたがすぐにはっきりと続けた。

「 俺の家系にはずっと語り継がれている掟が あるのです。 」

「 掟 ?」

「 そうです。 ・・・ いつの日にかある高貴な女性 ( ひと ) が現れたら

 彼女に忠誠を尽くすように、 と。 そのひとは ・・・ 」

マリン姫が 静かに言葉を挟んだ。

「 ヴァンは あのヒトの妹さんの子孫なのです。 」

「 え・・・ フィアンセだった方の、ですか?? 」

ええ、とマリン姫は深く頷き白皙の頬を薄紅いろに染めた。

「 あのヒトは ・・・ 私が拉致された後もずっと捜し続け・・・亡くなったそうです。 」

「 そうなのですか ・・・ 」

「 彼は生涯独り身を通しました。 そして妹の子供たちに遺言を託したのです。

 彼の残したメッセ−ジは代々子孫に、俺の家系に受け継がれてきています。 」

青年はフランソワ−ズに一礼し、静かに彼らの女王の側に控えた。

 

   今度は俺が。 俺が女王様を護ります。

 

まだ年若い彼の顔にはつよい決意が読み取れた。

「 彼は ・・・過去からの贈り物を持っていてくれました。 

 ・・・ これです ・・・ 」

「 ・・・ アクセサリ−ですね? 」

「 そうです。 私たちはこれを腕に巻いて愛の証しとしています。 」

「 綺麗・・・ ずっとマリン姫様の腕に住む日を待っていたのですね。 」

「 ・・・ そう ・・・ やっと帰ってきました。 私は やっと ・・・・ 」

マリン姫は愛しそうに左腕に絡めた輝石に触れている。

 

「 女王様? ちょっと ・・・ いいですか。 」

「 ・・・ はい? 」

ジョ−が天上族たちの間をぬってやってきた。

「 今、ギルモア博士から ・・・ あ、ぼく達の親代わりみたいな人なんですが・・・

 提案があったのですけど。 」

「 何でしょうか。 」

「 はい、皆さんに移住をしたらどうか、と。 」

「 移住 ・・・? どこへですか。 」

「 じつは ・・・ 」

 

 

「 おい ・・・ 風が弱まってきたぞ。 また夜になるんだな。 」

「 う〜む ・・・ その時を下のヤツらも待っているだろう。 」

グレ−トとアルベルトがコックピットで話込んでいる。

「 博士の<移住>の件、可能なら急いだ方がいい。

 俺達も一緒にこのとんでもない星から脱出だ。 」

「 そうだな。 あ、おい。 ジョ−? 女王さま達のご意見はどうだ。 」

下の大キャビンからジョ−が上がってきた。

「 うん、それがさ ・・・ 」

女王は、出来るだけ多くの人たちを連れてゆきたい、という。

「 ・・・ ふん? まあ、仲間は多い方がいいだろうさ。

 しかしあまり待てんぞ? 早いほうがいい。 」

「 今、移住の呼びかけに行ってるんだ。 とにかく彼らの帰りを待たないとね。 」

「 う〜ん ・・・ それはわかるが。

 今度は我々のこの船も攻撃されるぞ。 」

「 ともかく まずその移住先の衛星に向かってだな・・・ 」

三人はスクリ−ンを睨み、脱出の方向を検討し始めた。

 

「 下から! 沢山の<船>が 上がってくるわッ! 」

「 フランソワ−ズ! まだ こっちのレ−ダ−には何も反応はないよ。 」

「 いいえ、すごい数よ!  嵐が収まる前に下を出発していたんだわ。 」

「 ・・・あ、今こっちにも反応したよ。 すごい数だ・・・! 」

「 女王様のお仲間はどうした? まだ戻ってこないのか。 」

「 ええ・・・。 

 あ! 見えたわ! あちらの基地から ・・・ 沢山の人々が!

 ちょっと迎えに行ってくるわね。 」

「 おい! 待てよ、フランソワ−ズ! 危ない・・・! 」

ジョ−の制止も全く耳に入らず、フランソワ−ズはあっという間にコクピットを

飛び出していった。

「 ・・・ったく! おい、待てったら〜〜 」

ジョ−も慌てて追って行った。

「 お〜お。 アイツら ・・・ 相変わらず仲のイイこって。 」

「 ふふん。 戦闘中もアテられるなあ。 」

ひゅう〜・・・っと口笛を鳴らし、グレ−トとアルベルトは苦笑しあった。

「 おっと。 ちょいとヤバそうだぜ?

 俺たちも迎撃したほうがよさそうだ。 」

「 了解 ! 」

 

 

「 皆が 来ました! 」

「 うむ、しかし下のヤツらもお出ましだ。 」

「 ・・・ あら! フランソワ−ズさんが外に ・・・危ない! 」

コクピットのスクリ−ンに映る003の姿に 女王は驚きの声を上げた。

 

フランソワ−ズは船から出ると、岩陰に身を潜めた。

遥か前方からは 天上族の人々が必死の勢いで飛んでくる姿が見え始めた。

「 早く・・・! こっちよ !」

同時に 地上族の攻撃も始まった。

ばらばらと細かい爆発物が撒き散らされる。 一つ一つがかなりの勢いで爆発する。

スペ−ス・シップから誰かが飛び出してきた。

「 あら? ・・・あ! あれはヴァン? 」

青年はどんどん落ちてくる爆発物の間を巧みに縫って こちらへ向かってくる仲間の方へ飛んで行く。

彼の身のこなしに隙はない。

 

「 危ない! あれを撃ち落とせば少しは時間が稼げるわね・・ よぉし! 」

バシュ ・・・!! バシュ !  バシュッ!!

フランソワ−ズのス−パ―ガンが降り注ぐ爆破物に次々とクリ−ン・ヒットする。

「 次は ・・・ あ! 真上に ・・・! 」

「 ・・・ フランソワ−ズッ!! 」

頭のすぐ上で爆破した・・・!と観念した瞬間。

懐かしい香りが フランソワ−ズを包んだ。

 

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

「 大丈夫かい?! 」

「 ええ。 ごめんなさい ・・・ また、迷惑をかけてしまったわね。

 ね、ヴァンは無事?  」

「 迷惑だなんて! うん、仲間を上手く誘導しているよ。  お、また来るぞ? 加速するから・・・ 」

「 あ・・・ 待ってジョ−? こちらから迎撃弾が発射されたわ! 」

「 え? ・・・ああ、本当だ。 すごい! 」

 

   ズガ −ーーー−ーーーー ンッ !!!

 

一直線に飛んだ光の束は 地上族の攻撃船を木っ端微塵にした。

「 天上族の人達の砦からよ。 」

「 この間に 皆を誘導してぼくらの船にもどるんだ。 」

「 ええ。 」

フランソワ−ズが瓦礫の陰から飛び出そうとした時、 ジョ−がふいに彼女の腕をつかんだ。

そして ひそり・・・と囁いた。

「 ・・・ やっぱり きみは素敵だ・・・! 」

「 ま・・・ ジョ−ったら・・・  」

「 その ・・・ 好きだよ、愛してる・・・ 」

「 ・・・ ジョ− ・・・・ あ。 」

さ・・・っと彼女の唇を盗むと、ジョ−はぱっと身を翻し丘に立った。

「 お〜い! こっちだ〜〜 急げ! 」

移住に同意した天上族の人々が 次々に舞い降りてき始めた。

 

「 ・・・ ジョ− ったら ・・・ 」

 

フランソワ−ズは そっと ・・・ 自分の唇に手を当てた。

 

 

 

「 わあ ・・・ 気持ちよさそうね! 」

「 うん。 彼女達の星はもともと濃密な大気に覆われていたから。

 水の中とあまり変らないだろうね。 」

「 あ、マリン姫様よ? お〜〜い ・・・ 」

フランソワ−ズはハッチから乗り出して大きく手を振った。

波間から マリン姫が満面の笑みで応え、周囲の人々も皆笑顔で手を振っている。

「 女王様たち・・・ この星が新しい故郷になるといいわね。 」

「 そうだね。 今度こそ本当の <リトル・マ−メイド>達だ。 」

 

惑星レプチュ−ムの多くの衛星群の中にほとんど水で覆われている星があり、

そこが天上族たちの移住先となった。

ギルモア博士の簡単な改造手術で彼等はすぐに<水の惑星>に適応できたのだ。

 

「 あ・・・ねえ、ほら。 女王様のとなりに♪ 」

「 ・・・ ああ、あの青年だね。 」

「 そう、ヴァンよ。 しっかりマリン姫を護ってね〜〜 」

「 これからいろいろ大変だろうな。 」

「 ええ。 でもね、ふふふ・・・大丈夫よ。 彼は水の国の立派な騎士( ナイト ) だもの。 」

「 きみに判るのかい。  」

「 ええ。 」

澄まして応えるフランソワ−ズを ジョ−はちょっと首を傾げ・・・でも楽し気に見つめている。

 

・・・ ごめんなさい、マリン姫様、ヴァンさん。

わたし・・・ 聞こえちゃったの♪♪

 

離陸前にうっかり切り忘れた耳のスイッチ、でも素敵な会話が飛び込んできたのだ。

 

  ・・・俺でよかったら。 一生貴女の傍にいます! 貴女を護ります!

  ずっと憧れてきました。 伝説になっている平和の女王様に。

  ・・・ そして 今は ・・・ 

 

あっと いけないわ。 盗み聞きするつもりはないの。

 

ぷつん・・・とフランソワ−ズは耳のスイッチをオフにした。

聞かなくてもわかってる。 その先は ・・・ 全ての女の子が聞きたい言葉、でしょ。

よかった・・・ ! マリン姫様 ・・・ 千年たっても想い人はいたのね。

 

Au revoir ・・・ ! ( また会う日まで ・・・! ) 

 

 

サイボ−グ達を乗せたスペ−ス・シップは水の惑星の上を大きく旋回すると

一直線に急上昇していった。

 

 

 

「 あの。 さっきのこと・・・ あれ、本気だから。 」

「 ・・・ え? 」

スペ−ス・シップは最後のワ−プから抜け、

なんとなく見覚えのある星々が浮かぶ宇宙空間にもどってきていた。

ウキウキした雰囲気が船全体に満ちている。

 

   ・・・ 帰ってきた・・・!

 

メンバ−の誰もが自然と笑みを浮かべている。

そんな中で。  

真剣そのもの、の表情 ( かお ) で、ジョ−はフランソワ−ズを呼び止めた。

「 さっきのこと?  ・・・ あ !  もしかして・・・あの ・・ 」

フランソワ−ズはぱっと頬を染めたが、 ジョ−は相変わらず神妙な顔のままだ。

「 その ・・・ きみには故郷に恋人がいるのかもしれないけど。 でも ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

「 でも。 ぼくは。 ぼくは ・・・ きみが好きだ。 愛してる。

 その ・・・ たとえ、きみが他のオトコのものになっても! 」

「 ・・・ ジョ− ・・・・ 」

フランソワ−ズの紅潮した頬を 瑠璃の玉が伝い落ちる。

「 こんなコト、言ってごめん。 でも ・・・ 黙っては居られなかったんだ。

 不愉快だったら ・・・ ごめん。 本当にごめん。 」

ジョ−はぺこり、と頭を下げた。

「 ジョ−ったら・・・。 ねえ、ちゃんとわたしの言ったコト、聞いてた? 」

「 ・・・ え? 」

「 あのね。 ・・・振られたって言ったでしょう? 

 きみの心には別のオトコがずっと居るんだ!って言われちゃったの。 」

「 ・・・ そ、そうなんだ・・・? 」

「 わたし。 意地を張ってたけど。 でも・・・ でも、ね。

 ジョ−のこと・・・ どうしても 忘れられなかった・・・の ・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ! 」

「 あ・・・! きゃ♪ やだ、どうしたの〜 」

ジョ−はぱっと彼の愛しい・恋人を抱き上げた。

 

ぼくは ・・・ 愛してる!

千年だって 千年の後までも愛してるよ〜〜 !!

 

艦橋からはそろそろ青い惑星が 懐かしい姿が、望めるに違いない。

二つの愛を紡いで、スペ−ス・シップはぐん・・・と速度を上げた。 

 

 

**********   Fin.   **********

 

Last updated : 07,10,2007.                           index

 

 

*****  ひと言  *****

えっと。 原作あのお話に平ゼロ・第一世代設定を無理矢理に組み込んでしまいました、

ごめんなさい〜〜〜 <(_ _)>

脇役の ヴァン君、 は le vent,  <風>の意味です。 海と風♪ 素敵なカップルかも☆

余談ですが。

あの女王サマ、故郷の星に帰る以前の体型って・・・ワタクシそっくり・・・(^_^;) ははは・・・