『 胡蝶 』

 

 

 

 

 

 

「 わあ・・・・ 空気が・・・ 美味しい・・・・! 」

 

フランソワ−ズは立ち止まって、目を瞑りゆっくりと深呼吸をしている。

「 ・・・ ふんふん ・・・ ほんにそうじゃのう。 

 清澄な大気、と一口にいうが ここの空気は・・・ うん、冷たくて甘いな。 」

ふうう〜〜〜 ・・・ 博士も負けずに息を吸い込み・・・

科学者には似合わないコトをもごもご言っているが その目は彼女に注がれていた。

「 随分気温がちがいますね。 ・・・ と、14℃ですか。 ほんの2時間足らずで20℃の差か。 」

ジョ−は最後に車から降り立ち腕時計で温度を測っていた。

「 うむ。 日本列島は 本当に自然豊かな地じゃのう。

 灼熱の猛暑日から一気に これは春先の気温じゃな。 ・・・ 寒くはないかな? 」

「 大丈夫ですわ、博士。 ああ・・・ いい気持ち・・・! 

 なんだか 身体中が、そうねえ、髪の毛の一本一本までもが ほっとしてるみたい。 」

「 ほら・・・ショ−ル。 車の中よりも寒いから気をつけろよ。 」

「 あ・・・ ありがとう、ジョ−。  あら、本当ね。 腕が冷たくなっていたわ。 

「 風邪をひかんようにな。 ・・・ うんうん、その顔色なら安心じゃ。 」

「 本当にいい気分なんです、ああ・・・ この美味しい空気が身体の隅々にまでしみこんで行きそう・・・! 」

「 それはよかった・・・ なに、ここで夏を過せばお前の頬も元通りふっくらするじゃろうよ。 」

「 え ・・・ 太っちゃうのは困るんですけど・・・ 」

両手を頬にあて フランソワ−ズはちょっぴり眉を寄せている。

「 いやいや。 お前はもうすこしふっくらしていた方が魅力的だぞ?

 ジョ−のヤツだってそう思っているに違いないわい。 」

「 まあ ・・・ 博士ったら・・・! 」

「 あはは・・・ まあ、あとで本人にじっくりと聞いてみることじゃな。 」

「 ・・・ もう ・・・! 」

青白い頬が ほんのりと薄紅色に染まり、大きな瞳がしっとりと潤っている。

 

    よしよし ・・・ これならば大丈夫。

    転地療養はいい効果を現すじゃろう・・・ よかった・・・!

 

博士は満足気に一人、頷いていた。

 

「 お〜い。 休憩はこのくらいにして出発しましょう。 別荘まであと少しですよ。 」

何時の間にか 車に戻っていたジョ−が二人を呼んでいる。

「 はあい。 今 ゆくわ。 ・・・ねえ、ジェットはもう先に着いているのでしょう? 」

ぱ・・・っとフランソワ−ズが駆け出した。

「 うん。 朝イチで千歳に着いて直行しているはずだよ。 」

「 ・・・ まさか <自分> で? 」

「 まさか。 ちゃんと公共交通機関を利用した・・・はず・・・だけど・・・ 」

「 でも ・・・ ねえ? 」

「 ・・・ そうだよな〜  やりかねないよね、アイツなら。 」

「 ほいほい・・・ 置いてゆかんでおくれ・・・ 」

博士が のしのしと足早にやって来た。

「 ふえ・・・ おお? ちっとも暑くないのう。 こりゃ〜 いいわい。 」

「 いやですよ、博士ったら、今頃。  ・・・ さあ出発しますよ、二人とも乗ってください。 」

「 は〜い。 博士 どうぞお先に。 」

「 うむ。 フランソワ−ズ、あと少しじゃ、助手席で大丈夫じゃろう? 」

「 え ・・・ ええ・・・ 」

空港から先ほどの休憩まで 彼女は後部座席で半分横になっていたのだ。

「 ほれほれ、 ジョ−が淋しがっておるぞ? 」

「 ・・・ また ・・・ 博士ったら・・・ 」

「 大丈夫かい? ・・・あの、あとほんの20分くらいだから・・・ よかったら。

 ぼ、ぼくも嬉しいけど・・・ 」

ジョ−は 助手席のドアを開けた。

俯き口篭り彼も赤らめた顔を懸命に前髪で隠している。

 

   ほ・・・! なにを今更 赤くなっておるのかのう・・・ 今時の中学生以下じゃな。

   ま、 この夏は存分に二人でゆっくりと過すがいい。 

 

博士は笑いを噛み殺すのに苦心していた。

 

「 え〜っと。 それじゃ 出します。 大雪山高原の別荘まであとちょっとです。 」

ジョ−は、レンタ・カ−を滑らかに発車させていった。

 

   ああ・・・ よかった・・・! きみがまたぼくの隣にいる。

   ぼくの隣で 微笑んでいてくれるよ・・・!

 

ジョ−は口笛でも吹きたい気分で ゆっくりとアクセルを踏んだ。

 

 

 

フランソワ−ズは体調を崩していた。

そもそもの原因は 猛暑 だった。

海辺の崖っぷちに建つギルモア邸、 爽やかに海風もとおり街中とは比べ物にならないほど

快適に暮らせる設計になっている。

真夏の強烈な日差しも巧妙にエネルギ−として処理され、大きくとった窓からは真昼でもいい風が吹きぬける。

よほどのことがないかぎり、冷暖房はあまり必要のない実に快適な住まいなのだが・・・

 

 

「 ・・・ こりゃ 暑さ負けじゃな。 」

003の額に手を当て、ギルモア博士は事も無げに言った。

「 暑さ負け? 」

「 そうじゃ。 俗にいう 暑気中り というヤツじゃ。 」

「 暑気・・・って。 でも・・・ ぼくはなんともありませんよ?

 それに、彼女だって。 その・・・ ミッション中はもっともっと過酷な条件だったことは何回もありましたけど

 そんな ・・・ 暑さで具合が悪くなるなんてこと・・・ 」

ジョ−は手にしていた保冷剤をタオル包み、彼女の枕元にたった。

「 フランソワ−ズ? ちょっとアタマを上げてくれるかな・・・ ほら・・・ これで少しは楽になるよ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ごめんなさい、迷惑かけて・・・・ 」

汗ばんだ頬は どうも精気がない。

微熱が続いているのだろう、見た目にも彼女の頬はげっそりこけていた。

博士やジョ−が彼女の変化に気づいたときには いつもの微笑みすら見られなくなっていたのだ。

 

 

その年の夏はかなりの暑さで 新聞やTVには連日 <猛暑> の字がおどっていた。

涼しいはずのギルモア邸でも 時に軽くエアコンを入れることもあったほどだ。

そんな中ある事件も無事に片付き、メンバ−達もそれぞれの地に帰り・・・・

ギルモア邸では ふたたび静かな、そして穏やかな・普通の日々が始まっていた。

 

「 ごちそうさま。 ・・・あれ? フランソワ−ズ、きみ、それだけ? 」

「 ・・・え、ええ。 あんまりお腹、空いてないから。 」

「 でも 朝はちゃんと食べないと。 暑いときにはなおさらだよ。 」

「 カフェ・オ・レ、飲んだから。 大丈夫よ。 」

「 そうかい。 あれ、博士は? 」

「 ふふふ・・・・ 博士はね〜この頃すごい早起きなの。 

 わたしが起きる頃にはご自分で軽くト-ストとか召し上がって 植木に水やりをなさっているのよ。 」

「 へええ・・・・ すごいね。 こんなに暑いのに大丈夫かなあ。 」

ジョ−は北側のテラスの窓の方に伸び上がった。

開け放った窓ごしに博士の大きな麦藁帽子が上下している。

吹いてくる風といっしょに かすかにハナウタが流れてくるのは ・・・ 博士のご機嫌のシルシだ。

コズミ博士から譲られた一鉢の盆栽梅がきっかけで 北側のテラスはたちまち鉢物に占拠されてしまった。

「 うむ・・・ これは実に奥が深い分野じゃのう・・・

 天然・自然とは まあ、なんと手のかかるガンコモノじゃのう。 よし、ワシもひとつ・・・ 」

・・・ ギルモア博士は完全に盆栽にハマってしまったのだ。

以来、博士は剪定に、水遣りに、植え替えに・・・日々こころを砕いているのだった。

 

「 ・・・ おお、ジョ−。おはよう、やっと起きたのか? 植木ではないぞ、盆栽じゃ。

 お前も早起きせんか、気分もいいし朝飯も美味しいぞ〜 」

ハナウタと一緒に 大声が飛んできた。

「 あちゃ・・・ 聞こえてたよ・・・ お早うございます〜博士。 ぼく、仕事に行ってきます! 」

「 おお、気をつけて。 行ってこい。 」

「 はい 〜〜 」

それじゃね、とジョ−は食卓を立った。  暑い一日が始まる。

「 ・・・ やれやれ。 これで朝の一仕事は終ったわい・・・・ 

 フランソワ−ズ・・・は  ああ洗濯モノ干しか。  どれ、冷たい飲み物でも作っておくかの。

 いや その前にざっと汗を流してこよう。 」

博士はテラスから引き上げてくると そのままバスル−ムに直行した。

リビングとキッチンは綺麗に片付き、 どこにも彼女の姿はみえなかった。

 

「 ・・・ フランソワ−ズ? ありゃ・・・まだ庭におるのか・・? 」

しばらくの間、博士はキッチンでアイス・コ−ヒ−相手に奮戦していた。

なんとか 氷が盛り上がったグラスにコ−ヒ−を注ぎ、そうっとそうっとトレイに乗せる。

われながら上出来だ・・・と思って ふと、我にかえった。

 

   ・・・ あの娘 ( こ ) は どこに行ったのか・・・??

   いや 買い物なら必ずそういって出かけるはずじゃがな〜〜

 

裏庭に続くポ−チに出て 物干し場の当たりに目をやった。

 

「 ・・・? ん? 洗濯モノが落ちておる・・・  あ!?  ど、どうしたッ!?? 」

博士がスリッパを蹴散らし裸足で裏庭に飛び出した ― その瞬間。

 

    シュ ・・・・ッ !!

 

小さな旋風が 博士の脇をすり抜けて行き・・・

「 フランソワ−ズ ・・!!!  」

物干し場の近くには 焦げくさいニオイがただよい その真ん中にジョ−がいた。

半分焼け焦げた服が纏いつきとんでもない恰好で 屈みこんでいる。

「 ・・・ あ ・・・ ジョ− ・・・ おまえ? 

「 フランッ! おい、どうしたんだい、しっかりして・・・ 」

ジョ−はその腕にしっかりとフランソワ−ズを抱きかかえていた。

「 博士! 彼女は ・・・ どうしてこんなトコに倒れているのですか?!  」

「 い、いや・・・ワシもたった今気づいての・・・ ジョ−、お前はでかけたはずじゃったろ。 」

「 ええ。 途中で忘れモノに気づいて ・・・ 戻ってきたのです。

 そんなコトより、彼女、動かしても大丈夫ですか? ・・・・ どこにも外傷はなさそうです。 」

「 ・・・ 多分 ・・・いや、とにかく家の中へ。 涼しくて風通しのよいところに運べ。 」

「 メンテナンス・ル−ムではないのですか?  もしかしたら何かに襲われたのか

 システムの異常かも・・・ 」

「 いいから。 早く運んでやれ。 それでお前。 着替えてこい。 」

「 ・・・え?  あ。 夢中でつい・・・ 防護服でないなんて全然考えてもいませんでした。 

 フラン・・・? そうっと運ぶからね。  ・・・ああ、こんなに汗びっしょりで・・・ 」

ジョ−はぼろぼろな姿のまま、陽射しから彼女を庇いつつ邸内に戻って行った。

 

 

結局、リビングのテラスちかくにソファを引っ張ってゆき彼女を寝かせた。

「 ・・・ あ ・・・・ 」

「 ああ、フラン! 大丈夫かい、どこか・・・痛むところはない? 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ どうして・・・ 」

「 え? ああ、へへへ・・・・実は忘れ物をしてさ、取りに戻ったトコだったんだ。 」

「 そうなの・・ それで ・・・ <使った> のね。 」

「 ・・・ う ・・・ ごめん。 」

「 ・・・ 謝るのは わたし よ。 ごめんなさい ・・・ 洗濯モノ干してたら

 あんまり暑くて つい・・・ふらふらして・・・ ストンって身体中の力が抜けてしまったの。 」

「 あ〜 今日も格別に暑かったのう。  

 すまん! ワシはのんびり飲み物なんぞ作っておって お前が倒れているのに

 気がつかなんだ。  すまんことをした・・・ 」

「 ・・・ いえ、博士。 わたしがだらしないのですわ。 」

「 博士〜〜 ここでいいのですか? ちゃんと地下のメンテ・ル−ムで・・・ 」

ジョ−はまだ ぼろぼろを身体に纏ったままで、イライラと彼女の周りを歩きまわっている。

「 こら、ジョ−。 じっとしておらんかい。 

 ・・・ ふむ・・・ いや・・・ フランソワ−ズ、お前、随分とほほがこけたのう? 」

「 え・・・ そうですか? 」

「 いや・・・ワシも迂闊にもたった今まで気がつかんかったが・・・ 」

「 フラン〜〜〜 そんな、ずっと具合が悪かったのかい!? どうして黙っていたのさ! 」

ジョ−がどさり、と彼女の横にすわり込んだ。

「 だってミッションの後で皆いろいろ・・・疲れているだろうな、と思って。

 いつものことだもの、そのうち元気になるだろうってわたし、自分でも思っていたの。 」

「 ・・・ きみってヒトは。 ほんとうに。 いつもいつも自分自身のことを

 一番後回しにしてしまうんだね・・・ 」

「 そんなことないわ。 わたし、いつだってワガママ言ってるじゃない。 

 今回はちょっと・・・ 暑かったし・・・ いつもよりバテちゃっただけ・・・ 」

「 いつもって・・・ きみ、ミッションの後っていつもこんなに消耗しているのかい。

 だって ・・・ ずっと普段とかわらないカンジだったじゃないか。 」

ジョ−の声がどんどん低くなってゆく。

 

   あ・・・。 随分怒っているのね、ジョ−

   お願い、 そんなに ・・・ そんなにわたしのことなんかで怒らないで・・・

 

フランソワ−ズは溜息を飲み込んでから 努めて明るい声音で話しだした。

「 ええ。 ・・・ そうね、・・・ なんというのかしら、すこうしづつ残った澱が・・・・

 そう、身体の底にだんだん溜まってきたみたいに感じるの。

 そんなに辛くはないのよ、でも ・・・ その澱はもう完全に無くなることはないわ。

 ・・・ そんな風にこのごろ 感じるようになったの。 

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・  」

「 だから そんなに心配しないで・・・そんなに怒らないでちょうだい、ジョ−。 」

「 でも・・・! 博士、そんな 暑気中りだなんて、ぼく達にありえるのですか。 

 戦闘中なんかもっと過酷な環境の中でも 平気じゃないですか! 」

「 まあ、落ち着け、ジョ−。 わあわあ喚くと余計に暑苦しいわい。 

 フランソワ−ズ、ほれ、これをお飲み。 いや、ただのスポ−ツ・ドリンクじゃよ。

 お前は一種の脱水症状をおこしかけていたようじゃの。 ジョ−? エアコンを入れておくれ。 」

「 はい。 がんがんに冷やしましょう!  」

「 あ・・・・ ジョ−、いいのよ。  博士、わたしここで自然の風に当たっているほうがいいです。

 ク−ラ−は苦手なんです、 このお家はいつでも風がいい気持ちだから・・・ 」

「 そうかい? それなら・・・ えっともっと風通しのいいトコに行こうか? 

 う〜〜ん ・・・ ??? この家だと ・・・ ここか きみの部屋か・・?? 」

「 ここでいいわ。 皆といるほうがいいの。 」

「 きみがそれでいいのなら・・・ じゃ、もう少し窓の側にソファを持ってゆくよ。 」

「 ありがとう、ジョ−。 」

ジョ−はフランソワ−ズを乗せたまま、ひょいとソファの位置を変えた。

「 博士、 さっきの質問ですけど。 ぼく達は <普通> よりもずっと・・・ 悪条件のもとでも

 平気ですごせるはずですよね。 」

「 そうだ。 それがサイボ−グの重要な利点のひとつだからのう。

 しかし 同時にお前達は完全な機械の身体ではない。 

 サイボ−グ技術で一番の難点はなんだと思うかね。 ・・・ 生体部分との融合じゃ。 」

「 ・・・ それじゃ・・・ 」

「 生身の部分が一番多いわたしの身体は その融合が一番の弱点、ということなのですね。 」

フランソワ−ズはソファにしゃっきりと身体を起こしていた。

目に強い光が蘇り、そこにいるのはきりりと表情も身体も引き締めた 003 だった。

「 はっきり言えば、そうだ。 生身とサイボ−グ部分とのアンバランスが原因じゃ。 」

「 そうですか。 それは多分・・・わたしの一生の持病みたいなものですね。 」

「 ・・・ そういうことになるな。 ・・・すまん ・・・ 」

「 博士。 どうぞそんな謝ったりなさらないで下さい。 わたしは 嬉しいのですから。」

「 嬉しい・・・? 」

「 ええ。 」

ジョ−は黙って聞いていたが、努めて明るい声音で口を挟んだ。

「 ともかく! なんとか有効な治療法はないのですか? 

 この暑さ、まだまだ続くそうですからね〜 」

ふわり・・・とレ−スのカ−テンが風をはらみおおきく揺れる。

午後になって 松林を縫ってくる風も 随分とぬるくなってきたようだ。

「 そうじゃ! 」

ポン! と博士が手を打った。

 

 「 別荘に行こう! 」

 

 

 

 

「 ・・・ えっと。 あの角よ、白樺林の途中に細い道があるでしょう? 」

「 え〜・・・ああ、わかった。  サンキュ、フランソワ−ズ。

 やっぱりきみのナビが一番だな〜 これじゃちょっと・・・ 見落としてしまうよ。 」

「 ふふふ ・・・ ジョ−の運転のタイミングって結構難しいのよ、知ってた? 」

「 え・・・? いや、全然・・・ 

「 そうねえ、こういうコトって本人にはわからないのかも。  あら・・・ ずいぶん細い道だけど

 車が入ってもいいのかしら。 」

「 ・・・ どうかな。 あ、悪いけど <見て> くれる? オ−ナ−氏はどうしているのかな。 」

「 了解。 ・・・ ええと ・・・ あら、大丈夫だわ。 入り口付近が狭くなっているだけ。

 けっこうくねくねしているけれど 一台分の道幅はあるわね。 」

「 サンキュ。 ・・・ それじゃ まがりま〜す ! 」

ジョ−は滑らかにハンドルを操っていった。

 

   ふふふ・・・ やはりコイツの隣にはフランソワ−ズが居らんとなあ。

   まさに 絶妙のコンビじゃわい

 

後部座席から博士は微笑ましい思いで 二人のやりとりを眺めていた。

やがて 前方に瀟洒な別荘が見えてきた。

「 え〜と。 ここで降りるみたいですね。 あとは 歩きです。

 フラン、大丈夫かい。 あまり足元がよくないけど、歩いてゆけるかな。 」

ジョ−はゆっくりとりと車を止めた。

「 あら、大丈夫よ。 ほんのちょっとじゃない。 それに土の道は足に優しいわ。 」

「 そうか、よかった・・・ 博士〜 博士は大丈夫ですか。 」

「 おい! あんまりトシヨリ扱いせんでくれ。 このくらい、ウチの前の坂道に比べれば

 ヘでもないぞ。 ふん・・・ ! 」

「 あははは・・・すいません。  あ、ほら・・・ジェットだよ。 」

「 あら ほんとう。 お〜〜い !! 

別荘に前には 長身の赤毛がわさわさと手を振っていた。

「 嬉しいわ〜〜 ふふふ。 わたしね、 避暑ってちょっと憧れていたのよ。 」

「 ぼくだって。 別荘 なんて初めてだもの。 」

「 さ、行きましょ。 どんなオウチなのかしら、楽しみだわ。 博士〜 お荷物は持ちますわ。」

「 あ・・・ おい、待ってくれよ〜〜 」

フランソワ−ズは車を降りるとさっさと博士と並んでさっさと歩きだしていった。

 

 

北海道の 夏でも残雪がみえる高原、その一角にある別荘地にジョ−たちはやって来ていた。

冬には深い雪に埋もれてしまうであろうその地は、いま歓喜の季節をむかえ、

沢山の木々や草や花々 ・・・ そして動物たちが束の間の夏を謳歌している。

そんな中に その別荘はあった。

博士の旧友の、やはり同じ分野の重鎮でもある人物の所有なのだが

ご本人は海外旅行中とあって、こころよくひと夏の使用を了承してくれたのだ。

 

「 ・・・ へ?? 別荘??? ほえ〜〜 避暑ってかよ〜〜 豪勢じゃん。 」

「 うん、ちょっとね。 フランソワ−ズがさ、体調崩してて・・・

 博士が涼しいトコでゆっくりしよう、って借りてくださったんだよ。 」

 

別荘に出発する前日、 ジョ−はさまざまな準備を一手に引き受けてんてこ舞いをしていた。

「 ねえ、ジョ−。 わたしがやるから・・・ 」

「 だめだよ。 きみは自分の身の回りのモノだけ、纏めてくれればいいから。

 いいね、部屋でゆっくりしてろよ、頼むから〜〜 」

ジョ−は半ば強引に <全部> を背負い込んだ。

そんな真っ最中に電話が入り 珍しくもアメリカからだった。

「 は〜ん・・・ オマエ、ほどほどにしろよな〜 いっくら惚れてるってもよ。 」

「 どういう意味さ? 」

「 ま、 ホドってもんがあるってことさ。 愛のロング・プレイもほどほどにってよ。 」

「 ・・・! な、なんだよ、そんなんじゃ・・・ぼく達はそんなんじゃない・・よ ・・・ 

「 へええ? えらく歯切れが悪いじゃん、ジョ−? 」

「 ・・・うるさいな! だからさ、メンテナンスは悪いけど9月になってからでいいかな。 」

「 OK。 すぐにどうこうってヤツじゃねんだ。 たまたまそっちに行く用事があるからよ、

 そのついでにメンテもすっか〜ってな。 」

「 ごめんね。 だから改めて9月に・・・ 」

「 ちょ〜っと待てって。 フランとお前と博士だけで行くのかよ?

 その別荘とやらは <普通>の家なんだろ? 」

「 うん、博士の学会の友人の方の別荘でね、北海道にあるんだ。 」

「 そりゃ 物騒じゃんか。 用心棒がいるよ、ボディガ−ドがよ。 オレが一緒に行ってやる。 」

「 ・・・え・・・ 」

「 な〜んだ?その え・・? ってのは。 ジョ−、なにかい、オレ様がいちゃ邪魔ってか。」

「 そ、そんなこと、言ってないよ! でも・・・な〜んにもないところだよ?

 ゲ−センもレンタルビデオショップも そうさ、ファ−スト・フ−ド店なんかもないし。 

 そんなトコで ジェット、過せるのかい。 」

「 お〜〜 言ってくれるじゃん? オレ様だってたまには大自然の中で過したいさ。

 ふん、ど〜してもって時には ・・・一ッ飛び! だしよ〜 なんてコトね〜よ。

 ほんじゃ、予定とその別荘とやらのアド、たのま。 いっちょ先に行って下見しといてやるよ。 」

「 ・・・ 壊すなよ。 汚すなよ? 」

「 ジョ−。 てめェ だんだん小姑みたいになってきやがったな? そんなヤツには

 オレらの大事なフランはやれねェぞ。 」

「 ・・・ わかったよ。 住所はね ・・・ 

 

本人曰くの グッド・タイミング で別荘暮らしには用心棒も同居することとなったのである。

北の大地の夏は まことに優しく フランソワ−ズはどんどん元気になっていった。

「 食事はぼくが作るからさ。 きみは休んでいろってば。 」

「 あら、いつまでも病人扱いしないでくださる?  わたし、もう元気よ、大丈夫。 」

「 きみの大丈夫 はアテにならないからな〜 」

「 そんなことないわよ。 それに・・・ ジョ−、あなたのお料理じゃ皆が気の毒よ。 」

「 あ〜〜 言ったなあ〜〜 」

「 だってせっかく自然の真ん中にきて レトルト食品じゃつまらないでしょ。 」

「 ・・・ そりゃ・・・ そうだけど。 」

「 それじゃ、今日からわたしが食事、作ります。 」

「 うお〜〜い、歓迎!! 美味いメシ、歓迎!! 」

「 ジェット!! 」

軽口の応酬を楽しんでいる3人を 博士もにこにこと眺めていた。

<夏の避暑>は みんなにとってものんびりとした時間を満喫するいい機会となった。

 

 

「 ねえ、ねえ ジョ−。 お散歩、行かない? 近くにお花畑があるのですって。 」

「 お花畑? ・・・ ああ、高山植物とか見られるのだろう。 」

「 そうみたい。 ほら・・・ ガイド・ブックの写真、 きれいねえ・・・ ラベンダ−にエゾカンゾウですって。 」

「 どれどれ・・・ ふうん、ここからちょっと先だね。 車、だそうか。 」

「 歩きましょ。 お散歩、したいわ。 」

「 いいけど。 大丈夫? 」

「 平気だってば。  ああ、いい気持ちねえ・・・ 本当に空気の色まで違うみたい。 

 さ、ジョ−。 行きましょ。 」

「 う、うん。 博士〜 ちょっと出かけて来ます〜〜 ジェット〜〜?? お〜い?? 」

「 あら、彼はさっき出かけたみたいよ? 

 ほら・・・・ あの蝶々捕りに夢中な少年と一緒だったから湿原の方に行ったのじゃない? 」

「 そうなんだ? じゃ・・・ 行こうか。 」

二人は別荘に前の小路を降りていった。

「 ふふふ ・・・ 土の道っていいわね、足の裏に優しい・・・ 」

「 そうだけど・・・ あ〜あ、ぐちゃぐちゃになっちゃったよ。 」

「 泥だらけ、なんてステキだわ。 冬にはこの辺りはず〜っと深い雪の中、なのね。」

「 うん、冬は大変だと思うよ。 」

「 だから 短い夏に皆 ・・・・ そうよ、草も木も動物達も 大喜びして活動してるわ。 」

「 大喜び、か。 きみらしいねえ。  ええと・・・ お花畑はこの先だ。 」

「 どんなお花が見られるのかしらね。 ・・・・ ? ・・・え・・・・? 」

「 なに、どうしたの。 ・・・ ああ・・? 」

雑木林を抜けて ぽっかり開けた地に出て 二人の足はぴたりと止まってしまった。

目の前には

とりどりの色彩が点在し、濃く・淡く 瑞々しくゆれる緑が広がっているはずなのだが。

 

「 ・・・ どうして? 枯れてる・・・? だって今は夏なのに・・・ 」

「 場所はここでいいのかな。 もしかして別の、ほら、耕作放棄地とか・・・ 」

「 ううん。 ここよ。 だってわたし達ほとんど一本道を上がってきたじゃない。 」

「 あ。そ、そうだったよね。 」

「 どうして・・・ ?? ひどい・・・ 」

緑の大地、のはずの盆地がまるで秋も深い枯野に変わっていた。

あちこちに茶色く変色した植物群が倒れている。 まだ蕾のまま、枯れてしまったものが大半だ。

おそらく、湿地帯にちかい野原だったのだろうが、大地は乾きひび割れ始めていた。

・・・ なにかが 起こっている。

 

「 これは・・・ 誰かが除草剤でも撒いたのかな。 」

「 まさか・・・ でも調べてみましょう! もしかしたらなにか大変なコトの前兆かもしれないわ。 」

「 うん、そうだね。 悪いんだけど、この近辺の水脈・・・ そう、地下水の状態をサ−チしてくれるかな。

 ごめん、休暇中なのに・・・ 」

「 なに言ってるの、ジョ−。 わたし達に出来ることはなんだってやらなくちゃ。 そうでしょ? 」

「 うん、さすが 003。  ぼくはこの枯れている植物のサンプルを少し採集してくるよ。 」

「 そうね、博士のご意見を伺いましょう。 ・・・ きゃ! な、なに?? 

フランソワ−ズがいきなり小さく飛び上がった。

「 どうした?! 」

「 ご、ごめんなさい・・・ なにかね、グリ−ンの、すごく鮮やかな色の小さなモノが足元を通ったの。 」

「 な〜んだ・・・ トカゲかなにかだろう? 」

「 多分・・・でも、こんな北の地域にトカゲがいるかしら。 それもね・・・ こう・・・

 よく南の地域にいるみたいな派手な色だったのよ。  」

「 ふうん・・・・? それじゃ、そのことも博士に伺ってみようよ。 」

「 ええ。 ・・・ ねえ、ここ・・・ちょっとヘンじゃない? 」

「 ヘンって、だからこの枯野の原因を 」

「 ううん、そのことじゃなくて。 お花畑だったのでしょ、本当は。

 そのお花が枯れてしまっただけで ・・・ こんなに静かになってしまうものかしら。 」

 ほら・・・ 鳥のさえずりも ムシの羽音も聞こえないわ。 そうよ、蝶々もいないわ。 」

「 あ! そうだね。 静か・・・っていっても自然の静寂じゃなくて・・・ 音がしないんだ。

 音を発する生物が・・・ いない・・・! 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ! いやな予感がするの、よくないコトが起きているのかもしれない・・・ 」

「 うん・・・ ぼく達でできるだけ調査してみよう。 」

「 そうね。 できればこの地域のヒトに訊いてみてもいいし。 」

「 とりあえず、一回帰って準備をして来よう。 この服装ではな。 」

「 あら・・・ そうねえ、湿原やら原野に入るにはちょっと・・・ね。 」

二人は肩を竦めて 別荘へと戻って行った。

 

 

 

「 よう! デ−トにしちゃお早いお帰りで〜 」

「 あら、あの坊やと出かけたのじゃなかったの? 」

別荘の居間ではジェットがソファにひっくり返っていた。

「 あ〜 リョウはもう帰った。 あいつ、も〜蝶の採集にハマっててよ。

 例のリュウセイウスバシロチョウを捕まえるんだ〜って張り切っててさ。 」

「 ・・・ リュウセイ・・・ なんですって? 」

「 リュウセイウスバシロチョウ。 ほら・・・ ここのオ−ナ−のコレクションで見ただろ。 」

「 ああ、あの銀色の斑点のある蝶々ね? 」

「 そ。 アレってよ〜 今では幻の蝶 なんだと。 数が激減して絶滅寸前らしいぜ。 」

「 まあ そうなの・・・・ わたし、標本ってあんまり・・・ 

 たしかにここのオ−ナ−さんのコレクションは素晴しいとは思うけれど。 」

「 へえ? お前もオンナノコじゃん。 」

「 どういう意味よ。」

「 え〜 オンナってさ〜 ムシとか苦手じゃん。 オトコはガキの頃からトモダチだけどよ。 」

「 まあ、そんなんじゃないわ。 そりゃ・・・ キッチンに出没するアレ・・・は苦手だけど。 」

「 ああ、 ゴキな〜。 アレはちょっちグロいぜ。 

 リュウセイウスバシロチョウとゴキが同じ昆虫とは オレでもちょっと思いたくねえよ。 

 あ〜 でもアレって毒持ちなんだとさ。 

「 え・・・!? ゴ・・・が??? 」

「 ちゃうちゃう、リュウセイウスバシロチョウの方。 触っても害はないけど、

 喰ったりすると猛毒なんだとよ。 」

「 ・・・ 蝶々なんか食べません! 」

「 ははは・・・・おう、ジョ−。 どうした? 」

博士とジョ−がなにやら熱心に話し込みつつ、居間に現れた。

「 それでですね・・・  あれ、ジェット。 お帰り。 」

「 ・・・ ふうん。 分析できんのではっきりとは言えんがの。

 この植物は根を喰われて枯れたのじゃな。 土壌の変化は植物群が枯れて起こったのだろう。 」

博士の手の中で土塊は簡単にぼろぼろと崩れてしまった。

「 乾燥しているな。 このままでは お花畑はみな、干上がった地になってしまう。 」

「 でも、どうして急に起こったのでしょう?  根を荒らした、いわば天敵は― 昆虫か小動物か 

 わかりませんけど、急に数が増えたのでしょうか。 」

「 う〜ん ・・・ その辺りはようわからんな。 地元のヒトに訊いてみてはどうかね。 」

「 ええ、そうします。 それに植物だけじゃないのですよ。

 なんだかムシとか小鳥とかも ぜんぜん姿が見えなかったんです。 」

「 あん? あの お花畑 のコトかよ。 」

突然ジェットが話に口を挟んだ。

「 うん、ジェット、なにか知っているかい。 」

「 いや・・・ ただ、リョウがチラっと言ってたけど。 な〜んかこの辺りの原野を

 言い値で買い占めているヤツがいるんだと。 」

「 原野を? ・・・ それはちょっと ・・・ 妙だな。 

 この地域にはほとんど目立った産業はないはずだよ。 牧場とかはもう少し下の方だし。 」

「 なんかな〜 地域でも話題になってるんだと。 」

「 ふむ・・・ やはり地元の人々に聞いてみる必要があるな。 ちょっと行って来るよ。 」

「 ジョ−、わたしも行くわ。 」

「 フラン、きみはゆっくり休んでいろよ。 なんのためにここに来たのさ。 」

「 もう大丈夫よ。 わたしも気になるの。 あの・・・ グリ−ンの生き物・・・ 」

「 ワシも少々調べものがしたい。 町の図書館まで行って来るわい。

 地域の情報はネットより <地元> が一番じゃ。 」

「 そんじゃ〜 オレ、博士のお供するわ。 ぼで〜が〜どってヤツ。 

 その後で、悪ィ、ちょっくらリョウとの約束で 出かけてもいいかな。 」

「 勿論じゃよ。 じゃ、図書館までよろしく頼む。 」

「 おう。 博士〜 途中まで飛んで行くってのはど? 」

こうしてサイボ−グ一行は それぞれに出かけていった。

 

 

 

「 トカゲ・・・ですか?? 」

「 そうじゃ。 ミドリコトカゲ、といってな。 こんな・・・ちっこいヤツだが。 」

年配の男性は両手で10センチくらいの長さを示した。

彼は町外れの耕作地で 草取りをしている最中だった。

「 それを原野に放して・・・ 何でも土壌改善をして儲かる作物を栽培するんだと。 」

「 そのオトコはどういう?? どこかの企業の計画なのですか。 」

「 さあなあ。 なんたら言う名刺を配っとったが ぜ〜んぶ横文字で

 ワシらにはちんぷんかんぷんさ。  とにかく内密にってな。 」

「 ・・・ そうですか。 それで何を栽培する予定なのですか。 」

「 わからん。 」

「 え? 

「 もうすこし奥の方にも同じような原野があるけんど、そこから始めるとか言っとったが。

 立ち入り禁止じゃ、いうてワシらは追い返されたよ。 」

あまり近づかないほうがいい、といいその男性はそれきり口を噤んでしまった。

 

「 ジョ−。 行きましょう、なにか判るかもしれないわ。 」

「 うん。 ・・・大丈夫かい。 」

「 ジョ−ォ? 何回言わせたいの。 わたし 」

「 <わたしだって 003 なのよ> だろ? 

「 あら、ちゃんとわかっているじゃない? それじゃ、出発よ、009。 着いていらっしゃい。 」

「 了解。 ・・・ もう ・・・ 参ったなあ〜 」

「 ふふふ ・・・ さ、行動開始よ。 」

「 了解。 」

ジョ−とフランソワ−ズは高原の奥へと分け入って行った。

 

「 この雑木林の先・・・かな。 どうだい、003。 」

「 ・・・・ 当たり。 かなり広い原野があるわ。 ? ・・・ 同じ植物が沢山生えて・・・

 いえ、あれは栽培してあるみたい。 あれは・・・ なにかしら。 」

「 行くよ!  サ−チ、頼む。 」

「 了解。 」

雑木林を抜けると 目の前に緑の地が広がっていた。 しかし。

「 ・・・ これは! 大麻?! 

「 え? そうね、多分 ・・・ ちょっと普通の大麻とは違う風に見えるけど。 」

「 うん。 おそらく新種かなにかなんだろう。 この地の気候に適した改良種かもしれない。 」

「 そうとう大規模ね。 裏に<なにか>が噛んでいるんじゃない? 

「 多分な。 そいつらが例のトカゲも持ち込んだのだろう。 」

「 ・・・ 抜いてしましましょう。 処分しなくちゃ! 」

フランソワ−ズはずんずんと畑に入ってゆき手当たり次第に引き抜き始めた。

「 おい、待てよ、ぼくがやるってば・・・ 」

ジョ−もあわてて彼女の後を追った。

「 これ広さだとな・・・ 焼却したほうが早そうだね。 そうだ、ジェットも呼ぼうよ。 」

「 そうね。 完全に除去しなければ・・・ 」

「 脳波通信で呼んでみる。 」

二人は大麻の畑の中で 立ち上がった。

その瞬間 ― 

 

< ・・・ ジョ−! うしろ! >

< ! ・・・!!! >

シュ・・・っと微かな音がした。 そして。 

「 ・・・ わああ・・・! 」

雑木林の影から 黒服のオトコが腕を押さえて転がり出てきた。

同時にあらぬ方向に銃が飛んでいった。

「 誰だ! 誰に頼まれてこんなコトを・・・! 

 

ジョ−に取り押さえられたオトコは 真相をほとんど知らなかった。

ミドリコトカゲを原野に放すことと、<畑>の管理だけを指示されていたのだ。

そして彼自身、裏事情には何の関心も持っていなかった。

「 か、金が欲しかったんだ・・・! 」

ぼそぼそと語る男を ジョ−は黙って放逐した。

警察に突き出したところで、<元締め>はとっくに姿をくらましているに違いない。

サイボ−グ達も 表立って行動することはできないのだ。

 

「 ぼく達ですべてもみ消してしまおう。 」

「 ・・・  それしか方法はないわね。 ここの大麻は焼却してしまえばいいけど・・・

 他の土地、 <畑> にされてしまった土地はどうやったらもとのお花畑に戻せるのかしら。 」

「 まずはあのトカゲの駆除、だろうね。 博士に聞いてみよう。 」

「 そうね。 あ、ジェットは? 連絡はついたの。 」

「 うん ・・・ それがさ、繋がらないんだ〜 」

「 え? チャンネルを閉じているの? 」

「 ウウン ・・・ < 圏外 > 」

 

 

 

ミドリコトカゲの <天敵> は偶然にもリュウセイウスバシロチョウだった。

このトカゲは植物の根や蝶を好んでエサにするが、ウスバシロチョウの猛毒にやられてしまう。

天敵のチョウを殖やすことで 徐々にトカゲの数は減ってゆき植物を齧ることもなくなる。

時間は掛かるが環境も戻りトカゲの数は自然に減ってゆくはずだ、と博士が説明してくれた。

「 そうすれば、いずれは土壌も変化する可能性はあるな。 」

「 自然に委ねるしかないのですね。 」

「 そういうことじゃ。 ただのう・・・ あの蝶、リュウセイウスバシロチョウは近年 

 ここいらでは見られんそうだ。  主な生息地はシベリアらしいのじゃがの。 」

二人は別荘に戻り、博士と今後の計画を練っていた。

「 シベリアかあ・・・ それで 幻の蝶、なんですね? 」

「 らしいな。 ココのオ−ナ−の標本にあっただろう? 銀の斑紋が入った綺麗な蝶じゃよ。

 羽ばたくとその斑紋が流れ星のように見えるらしい。 」

「 なるほど、だから リュウセイ・・・なんですね? 」

「 おそらくな。 ・・・おお?? 」

「 オッス!! 帰ったぜ〜〜 遅くなっちまった〜〜 」

突然 防護服姿のジェットが窓から飛び込んできた。

「 ジェット!! 君、何処へ行ってたんだい? 脳波通信も全然通じなくてさ。 」

「 あ、悪ィ ちょっくらシベリアまで飛んでってた。 リョウのヤツがよ〜 チョンボっちまって・・・

 俺も責任あっからよ、代わりのヤツを採りにいってたんだ 」

ジェットは得意気に手にしたビンを振りかざした。

蝶が二匹 狭い空間で銀色の斑紋を煌かせていた。

「 それって あのなんとかいう蝶なのかい。 」

「 ん。 それも〜カップルなんだぜえ。 お前らみたく・・・・ 

 な〜んか二匹でいちゃいちゃやってたからいっしょくたに捕まえてきた。 」

「 わ〜〜 やったよ、これでまたお花畑復活だ! 」

「 そうね! すごいわ〜〜 ジェット、お手柄よ!!  」

「 うむ。 これはお前にしかできんことじゃのう。 シベリアから直輸入だな。 」

「 ・・・ へ??? 」

歓声をあげる仲間達の真ん中で 赤毛ののっぽはひとり ぽかんとしていた。

 

 

 

 

 

北の大地では季節の巡りが一足もふた足も早く、裏の林にはちらちらと色づき始めた葉も見えてきた。

朝晩の空気はますます澄みきって 時にちりり と肌をかすめてゆく。

別荘での夜も今夜が最後、明日は帰京の予定である。

寝室の窓をいっぱいに開け放てば 忍び込んでくる夜気にはもはや暑さのかけらすらなかった。

 

「 ・・・ ああ・・・・いい空気。 空気が美味しいって素敵ね。 身体中にエネルギ−が満ちてくるわ。 

  きみの顔色もよくなったし。本当によかったね。 」

二人はベッドの上に寄り添い ゆったりと夜空を見上げている。

北の空には 星々がそろそろ秋の星座を描きだしていた。

「 ねえ ・・・ あの蝶々のカップル・・・ どうなったのかしら ・・・ 」

「 うん ・・・ ? 」

ゆるゆると亜麻色の髪を愛撫していたジョ−の手がとまった。

「 原野に放した蝶々よ。 リュウセイウスバシロチョウ。  」

「 ・・・ ああ。 どうって・・・ お花畑でひらひら飛んで、子孫を残して・・・ 」

「 その後は? 」

「 え・・・ そりゃ・・・ ああいうモノは寿命も短いからひと夏の命なんだろうね。 

 でも 命を終えても役にたつんだ。 あのトカゲを駆除する第一歩になる。 」

「 ・・・ そう・・・・ そうね。 死んでもなお、役に立つのね。 」

「 そうだね ・・・ 」

「 ねえ、 ジョ−。 」

フランソワ−ズはかさり、と身体の向きをかえジョ−と向き合った。

「 なに。 」

「 ・・・ わたし。 年をとっているわ。 」

「 ・・・ え? 」

「 わたし、確実に年を取っているの。 もちろんとてもゆっくりだけど・・・ 」

「 なんだって? 」

「 サイボ−グはいつまでも歳をとらないって、あれはウソね。 

 ここに来る前に博士が仰っていたでしょう。 わたしは たぶん、あなたとずっと一緒には

 ・・・・ 生きてゆけないわ。 」

「 フランソワ−ズ・・! 」

「 ジョ−。 聞いて。 

 でもね。 あの蝶々は蝶々として命を終えても 自然を護る役目を担っているわね。

 わたしも ・・・ いつかはこの空や地や緑の中に溶け込んでいけたらなあ・・・って思うの。 」

「 そんなこと、言うな・・・ ! きみはちゃんと! ここに生きているよ。

 ぼくの腕の中で 生きて微笑んでいるじゃないか! 

ジョ−の真剣な眼差しを受けフランソワ−ズはほんのりと微笑んだ。

「 大丈夫。 それはもっと・・・ずっとずっと先のハナシよ。

 わたし。 ・・・ やっぱり 生きているものが一番美しいと思うの。 たとえ・・・ 短い生命でも、ね。 」

「 きみは! 生きてる、ずっとずっとぼくと一緒に・・・! 」

ジョ−はそのまま 彼女を押し倒し、白い肢体に溺れていった。

 

やがて

フランソワ−ズは瞼の奥に 蝶の銀の斑が煌めかせ ジョーとともに中天に意識を飛ばした。

 

 わたしも ・・・ この身が滅んでも ・・・ ジョ−を護るから。 きっとジョ−の側にいるわ 

 そうね・・・ 蝶々にでもなってあなたの周りをひらひら舞っているかもしれない・・・わ

 

したたか彼の熱い飛沫を受けつつ フランソワ−ズは小さく小さくつぶやいた。

 

 

 

****************         Fin.        ******************

 

Last updated ; 08,05,2008.                        index

 

 

 

*******    ひと言    *******

原作あのオハナシは ジェットの話でなぜか93はほんの数カットしか登場しません。

でも! でも! 二人で仲良く寄り添ってるし♪ 別荘だったらお部屋数も多くないから〜〜

きっと同室でしょうし♪ こりゃ〜〜 <裏ではなにをやっていましたか?> 妄想びしばし〜〜

になるじゃ〜ありませんか(#^.^#)

・・・ で サイボ−グも 生きているのだ! ⇒ すこしづつ老化してゆくに違いない。 と

思ったりもしました。 とにかく・とにかく 二人はいつだって らぶらぶ♪ なのであります。

あ、トカゲと蝶々のコトは例によって嘘八百〜〜〜(^_^;) 

ただ小笠原諸島でのトンボとトカゲの記事を参考にさせていただきました。

たまには・・・ こんなオハナシも いかが?