『 昨日の夢  明日の思い出 』  

 

 

 

 

 

 

どの国でもどの地域でも 他の土地へ出かけ、また帰ってくる時に通る<場所>は

いつでも活気に満ちているものだ。

希望に満ちた気持ちだけでは勿論ないのだが、なんとなく、そう、どことなく心がさわぐ。

それが空への玄関であれがなおさらである。

 

カツカツカツ ・・・ コツコツコツ ・・・・ 

 

フランソワ−ズには自分の足音が自然と軽くなっているのに気がついた。

かなり広いコンコ−スを それでも行き交う人々の波に乗りどんどん足が速まってゆく。

 

  ・・・ ふふふ。 自分が出かけるのもわくわくして大好きだけど。

  お迎えも 好きよ。  そう ・・・ いつだって ・・・

 

不意に 遠い日の <起こったはず> の情景が目の前に見えてきた。

 

柔らかい声音のアナウンス、 小鳥みたいな早口で愛のさえずりを交わす恋人たち ・・・

色彩ゆたかな人々の中に地味な軍服、でもたまらなく懐かしい顔をみつけて。

「 ・・・ お兄さ〜ん!! ここよ!  お帰りなさい〜〜 」

「 おう。 ただいま、ファンション ・・・! 」

「 きゃ♪ 」

かるがると抱き上げてくれる腕は相変わらず逞しい。

「 お前〜〜 よく寝坊しなかったな。 」

「 ふふふ♪ 目覚まし時計を3つもセットしておいたの。 」

「 うは・・・・ 近所迷惑だぞ〜〜 」

「 ふふふ・・・ コンシェルジュのおばさんも笑ってたわ。 大丈夫、間に合うよ〜って。 」

「 あはは・・・ 出迎え、ご苦労サン。 さあ〜 帰ろう。 」

「 ええ。 お兄さんの大好きなキッシュ、用意してあるわよ。 」

「 うほ♪ 感激だなあ。 」

互いに腰に手を回し 亜麻色の頭をよせあって兄妹は家路についた ・・・ はずだったのだ。

 

でも。

 

目覚ましは鳴らず、妹は寝坊をし。 そして ・・・ 兄は出迎えの妹に会えなかった。

そして。

 

「 到着便のご案内です。 ロンドン発 BA342便 ・・・ 」

 

   ・・・ あ ・・・・ いけない・・・!

 

ぷるん、と頭を振ってフランソワ−ズはあわてて到着ゲ−トの方向に足を速めた。

そう、悪夢はもうおわったのだ。 今、目の前にあるのは穏やかな幸せ。

ずっとずっと望んでいた ごく当たり前の幸福をやっと手にいれたのだ。

 

もうすぐ。 もうすぐ彼の顔が見られる・・・!

自然に熱くなる頬に 彼女はそっと手を当てた。

 

   だって。 一週間も一人だったんだもの。  初めて・・・

 

無意識に左手をさぐり、まだ真新しい指輪をそっとなでる。

可笑しなものね・・・・  フランソワ−ズは小さく微笑んだ。

以前は別々に暮らしていたこともあるし、彼が何週間も家を空けていたこともあった。

何ヶ月も会わない時期すらあった・・・

たまに会えるのは勿論とても嬉しかったけれど、彼の不在がこんなに不安なこともなかった・・・

 

   ずっと、ね。 あなたが出かけた日からカレンダ−に×印をつけて・・・

   昨夜は心配で眠れなかったの。

   もし ・・・ 寝坊してしまったら。 焦ってあなたを迎えに行って ・・・ そして。

 

やめ。

フランソワ−ズはきゅ・・・っと一回目を閉じた。

やめ。  余計な想像な ・・・ やめ! 

あんなことはもう二度と起こりっこないし、今日はほら。 時間通りにちゃんと空港に着いた。

そう ・・・ 愛するヒトを迎えに。

 

   ジョ− ・・・・ ! 早く帰ってきて・・・

 

到着ゲ−トのロビ−にはどんどんヒトが溢れてきていた。

大荷物の旅行帰りのひと、 慣れた足取りですり抜けてゆくビジネスマン、

この島国を初めて訪れたひと・・・ みんな一様にほっとした様子なのが面白い。

  

   あら。 なにか事件かしら・・・・

 

ロビ−の隅にさり気無く立つ数人の男達が目に入った。

ごく地味な、目立たない背広姿なのだが ・・・ 雰囲気が異彩を放っている。

普通のヒトなら見過ごしてしまうが 彼女にはピンとくるものがあった。

警察か ・・・ 公安関係のヒト達ね。

・・・ まさか ・・・ テロ ?  ううん、それならもっと警戒が厳重なはず・・・

003のカンでは レッド・ゾ−ンではない。

フランソワ−ズは静かに視線を逸らせた。  あまり係わり合いにはならない方がいいだろう。

 

  それよりも・・・・!  あらあ・・・遅いわねえ・・・  あ♪

 

人々に間から見覚えのあるセピアに髪が見えた。

お気に入りのコットン・バッグを肩にかけ、キャリッジには小振りにス−ツ・ケ−スだけ。

大股で、でもゆっくりと彼は歩いてきた。

フランソワ−ズは 気がついたら駆け出していた。

 

「 ・・・ ジョ− ! お帰りなさい! 

「 やあ。 ただいま・・・ 」

そのままジョ−の首に腕を絡め キスをした。

「 ・・・・ お帰りなさい。 どうだった、取材旅行は。 」

「 うん・・・まあまあ、かな。 」

さすがに注目の的となり、ジョ−はセピアの髪の陰からもごもごと応えた。

「 ・・・ 淋しかったわ。 一人って ・・・ こんなに淋しいのね。 」

「 ぼくも 淋しかったよ。 不思議だね、ずっと一人で平気だったのにさ。 」

「 わたし ・・・ なんだか泣き虫になってしまったわ。 」

「 ふふふ ・・・ ごめんよ、ぼくの奥さん。 さあ・・・ 帰ろう。 」

「 ええ♪ ジョ− ・・・ mon cheri ・・・ 」

二人は腕を絡ませあい到着ロビ−を抜けてゆこうとしていた。

 

「 失礼。 島村ジョ−だね。 」

気がつくと目の前に大柄の男性が立ちはだかっていた。

 

   あ・・・? さっきの、隅の方にいたヒト・・・? 

 

「 ・・・ そうですが。 」

ジョ−は何気ない口調で答えたがすっとフランソワ−ズを後ろ手に庇った。

「 なにか用ですか。 」

 

   あ! 周りに!  < ジョ−! このヒト達? >

< シ・・・! なにもわからない素振りをしておいで。 いいね。 >

< え ・・・ ええ ・・・ >

とっさに飛ばした脳波通信にジョ−は落ち着いた声で応えてきた。

フランソワ−ズはそっと彼の肩越しに そのオトコたちをみつめた。

すると。

 

「 島村ジョ−。 田代ミ−殺人容疑で逮捕する。 」

 

「 ・・・ なんです、いきなり。 」

「 こっちへ。 一般の人々の邪魔だ。 」

「 あなた方、なんですか? 彼がなにをしたというのですか。 」

「 お嬢さん? こんなヤクザなオトコとは別れて・・・さっさとお国へお帰りなさい。 」

ジョ−を引っ張ってゆこうとした男が フランソワ−ズへ小馬鹿にした風に声をかけた。

「 わたし! 彼の妻です! 」

「 ほう? ・・・ アンタもこのタラシに誑かされたってわけか。 気の毒に・・・ 」

「 ! なんですって・・・! 」

 

  シュ ・・・!

 

独特の音と 特徴のある匂いの空気がさっと流れた。

「 あ!?  ・・・ し、島村は・・・!?? 」

拘束されかけていたジョ−の姿は忽然と消えていた。

呆然と立ち尽くすオトコたちの足元に 引きちぎれた手錠の残骸がころがっていた。

 

< ・・・ フラン! 大人に連絡を頼む! >

< ジョ−?!  ええ、わかったわ。 あなたはどこへ? >

< きみ、家には帰るな。 大人と一緒に・・・! >

< ・・・ 了解 。 >

 

切れ切れに飛んできた脳波通信は加速時の雑音の中に消えてしまった。

 

 

 

 

「 ・・・ ふうん・・・? 」

ジョ−はあがってきたばかりの雑誌をぱらぱらと捲っていた。

読者の投稿欄に何気なく目がいったのだが・・・

「 お? なあ、島ちゃん。 その詩、どう思う? 」

「 ・・・ どうって・・・ この雰囲気、女性のようですね、作者。 」

「 多分ね。 ちょっとム−ドがあって面白いかな〜と思って採用したんだけどさ。 」

「 ま〜たまたいい加減なんだから〜 編集長ったら! 」

「 そう! 混沌とした現代には曖昧なテ−マがよく似合う! 」

「 ・・・っていい加減そのまんまじゃ〜 」

明るい笑いが部屋中に広がった。

小さな雑誌社の編集部だが、社員達は活き活きと動きまわっている。

 

  ・・・ ここに勤めてよかったな。 皆愉快な人たちだし・・・

 

ジョ−は担当の記事の取材日程を確認したり資料を検索したりなかなか忙しい。

ひょんなきっかけで就職した編集部なのだが、彼はヤル気満々だった。

普通の社会でごく当たり前のニンゲンとして働く・・・ それは本当に素晴しい、と思った。

それに ・・・

 

「 そういや、島ちゃ〜ん♪ 新婚生活のゴ感想は? あの美人のオクサン、元気かな。 」

「 え・・・ いや〜〜・・・はあ ・・・ 」

「 あはは・・・なんだ、そりゃ。 」

「 そうか! 新婚早々なのに海外取材なんか頼んで悪かったわねえ・・・ 」

「 いえ。 是非行ってみたかったから。 ぼく、嬉しいです。 」

「 お? ムリしなくっていいぜ。 」

「 そんな ・・・ ムリだなんて。 フランソワ−ズも写真や記事、楽しみにしてるし・・・ 」

「 <フランソワ−ズ>かあ♪ 甘くていいのぉ〜〜 よ♪新婚サン 」

「 ・・・・・・・・ 」

またまたど・・・っと笑い声が編集部に溢れた。

 

 

就職を期に、ジョ−とフランソワ−ズは正式に結婚した。

もう何年ひとつ屋根の下に共棲みし事実上は夫婦と同じな暮らしをしてきたのだが・・・

今回、ジョ−としてはきちんとケジメをつけた。

「 ・・・ いままでも通りでもよかったのよ。 」

「 ダメだよ。 ちゃんとしなくちゃ。  きみのお兄さんにだって申し訳がたたない。 」

フランソワ−ズは幸せの涙を滲ませて ジョ−に囁いた。

「 ちゃんと、って言っても住むトコは変わらないけど・・・

 あ、やっぱりぼく達、引っ越そうか? きみがそうしたいのなら・・・ 」

「 ううん、ううん! わたし、この家が好き。 ジョ−と 博士とイワンと一緒に居たいわ。

 ちゃんとわたし達のお部屋があるもの、それで充分よ。 」

「 ・・・ きみがそれでいいのなら。 

「 ええ、最高に幸せよ・・・! 」

「 ぼくも、さ。 」

そんなわけで 二人は海辺のギルモア邸に<新居>を構え、ジョ−はそこから

毎日務めに出かけるようになっていた。

 

 

「 編集長! 次の企画で読んだ例のカノジョ、来ましたよぉ 」

「 お。 そうか。 」

編集長はそそくさと出て行き、部員たちもそれぞれのデスクに戻った。

「 次の企画って < 現代のミステリ− > ですか。 」

「 そうそう。 それでなぜか・・・ 話題の霊感少女を呼んだのよ。 」

「 霊感少女?? 」

「 あれ、知らない? 女子高校生なんだけどね、結構マジで当たるのよ〜、カノジョの予言。 」

「 予言、ですか。 」

「 うん。 それもこっちが指定した日に起きる事件とか・・・・

 ちょい、キワモノかな〜と思ってたけど。 あんまり当たるんで気になるんだって。 」

「 編集長が?  へえ ・・・ 」

「 あれ、関心ない? 」

「 ・・・あは。 ぼくにはネッシ−とか雪男の方が向いてますよ。 」

「 あはは・・・ そうかも。  あ、ほら。 噂をすれば・・・ってアレ。 」

「 ・・・・・・ 」

編集部の廊下に制服姿の少女が 立っていた。

ごく普通のセ−ラ服、豊かな黒髪が印象的だが特に奇異な点はなかった。

 

  ・・・ふうん ・・・? 本当に霊感〜なんてあるのかなあ・・・・

 

ジョ−はちらり、とその少女を見たがそのまま通りすぎた。

明日からの取材旅行、準備はまだまだ残っている。

エレベ−タ−・ホ−ルまで来て ジョ−は何気にふりかえったが。

 

  ・・・ あ ・・・?  まだ 見てる。

 

突き刺さる視線にジョ−はわざと気がつかない様子でそのままエレベ−タ−に乗り込んだ。

大きな黒目がちな瞳が まだじっとみつめているみたいに感じる。

いや 多分あの少女はジョ−を < 見て > いるのだろう。

 

  まさか・・・? いや。 確か・・・霊感少女 とか言っていたから。

  カノジョの感受性が 異質なるモノ、に反応したんだろうな・・・

 

それこそ係わり合いにならないほうがいい。

ジョ−はそのまま普段と変わらない足取りで そのビルを出ていった。

 

「 え〜と・・・ 着替えなんかはフランソワ−ズが揃えておいてくれるって言ってたし。

 あとは フィルムと電池、バッテリ− ・・・ 寝袋もいるかな。 」

これからの予定を考え、ちょうど最寄の駅付近まできたときに、ジョ−の携帯が鳴った。

 

  ・・・ 誰だ? フランソワ−ズかな〜  ・・・ 編集長?? 

 

一瞬緩んだ顔を引き締め ジョ−は携帯を開いた。

 

「 ・・・ はい? 」

「 あ! 島ちゃん?  あ〜〜 よかった、連絡ついて・・・! 」

「 なんですか? なにか・・・? 」

「 いや〜〜〜 あの、さ。 実はね。 ミ−が、いや、あの霊感少女がさ・・・ 」

「 ・・・ はい? 」

 

 

「 ・・・ まあ、それで引き受けたの? 」

「 うん・・・ 仕方ないだろう。 」

「 そうだけど・・・  はい、お茶。 」

「 あ、ありがとう。  ・・・ あ・・・ 美味しいな。 お茶の淹れ方、上手になったね。 」

「 そう? 嬉しいわ〜  ジョ−がこんなに日本茶、好きだって知らなかったわ。 」

「 う〜ん ・・・ 言わなかったっけ? 前も結構飲んでたけど・・・ 」

「 そう・・・かしら。  あ、ねえ、それで? その霊感少女のインタビュ−、どうだったの。 」

「 いや・・ どうもこうも ・・・ 」

ジョ−は 手元の湯呑みから美味しそうにお茶を飲んだ。

「 予知とかするんでしょ。 何月何日に地震があります〜・・・とか。

 箱の中がちゃんと見えます〜〜とか・・・は霊感じゃあないわねえ? 」

「 あはは・・・・ フランソワ−ズ、きみ テレビの見すぎだよ。

 うん ・・・ 一応真面目な予知を聞かせてくれた。  かなり細かい部分までね。 」

「 へえ〜〜?! じゃあ ・・・ ホンモノ? 」

「 ・・・ うん ・・・ いや、その<予知>は多分ホンモノだとおもうけど・・・・

 あのコはなあ。 どうも胡散臭いんだ。 あ、怪しいカンジってこと。  」

「 ああ・・・そう、 なにが臭いのかと思ったわ。

 え・・・でも どうして。 真面目な予知だったのでしょう? 」

「 うん。 今までも予知の結果ってのを検索してみたんだけど。

 あまりに当たりすぎ・・・ 正確過ぎるんだ。 」

「 正確すぎると ・・・ 悪いの? 」

「 うん ・・・ まるで過去の映像を見ているみたいな感じにしゃべるんだ。

 明日が <見える> からって言えばそれまでだけど。 」

「 霊感って・・・ 超能力の一種でしょ。 だからそのコには明日が見えるのかもしれないわ。 」

「 う〜〜ん ・・・・ それにしてもな。 まあ、一応話は聞いておいたけどね。 」

「 ふうん ・・・ いろいろなヒトがいるものねえ。 」

「 ・・・ それで、さ。 」

ジョ−はどさ・・・っとソファに寄りかかり 溜息をついている。

「 一応インタビュ−して、お帰り願ったんだけどね。 

 すぐに編集部に電話があって・・・ 会って欲しいっていうんだ。 」

「 え・・・ その霊感さんが? 」

「 あはは・・・霊感さん、か。 そう、その霊感さんがさ。  僕ともう一度会いたいって言うんだ。 」

「 まだなにか予知をしてくれるのかしら。 」

「 フランソワ−ズ・・・ 」

フランソワ−ズは無邪気な興味で顔を輝かせている。

 

  やれやれ・・・ ほっんとうに素直なんだなあ・・・

 

ジョ−は半ば感心して 彼の新妻の笑顔を見つめていた。

・・・どうも あの霊感少女とやらは一筋縄でゆく相手ではなさそうなのだ。

うっかり二人きりで会って とんでもない騒ぎに巻き込まれたりしたらたまらない。

ジョ−の不良時代の経験が あの田代ミ−というコにアラ−ムを鳴らしている。

 

「 それじゃさ。 一緒に来る? いや・・・ 一緒に行ってほしいんだけど、いいかな。 」

「 え?? だって ジョ−、お仕事なんでしょう? 」

「 いや、多分これは・・・ 違うな。 それにきみに <正確すぎる予言> の調査に 

 手を貸してほしいのさ。 」

「 ・・・ いいけど。 あ、明日からの出張の用意はばっちりよ。 あと・・・ 歯ブラシを入れてね。 」

「 ありがと♪ 有能なオクサンで大助かりさ。 」

ジョ−はフランソワ−ズを抱き寄せ軽くキスをした。

 

「 ・・・・ さびしいわ ・・・ 」

「 え? 」

「 だって。 ジョ− ・・・ 一週間もいないのでしょう・・・ さびしいわ、わたし・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

青い瞳に涙をいっぱいにして、フランソワ−ズはぴたりと身を寄せてきた。

「 ・・・ 可笑しいわね。 前は・・・ 結婚する前には何ヶ月も会わないことだってあったのに。

 たった一週間のあなたのお留守が ・・・ こんなにさびしいなんて。 」

「 ・・・ ちゃんと一週間すれば帰ってくるよ? 普通の仕事だもの。 

 ね・・・? 今晩 ・・・ ゆっくり・・・ 二人で、な? 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

涙の痕が残る頬をちょっと染めてこっくり頷く姿が たまらなく愛らしい。

ジョ−は思わず きゅ・・・っと彼女を抱き締めた。

「 ああ・・・ 可愛いなあ〜〜  じゃあ、ちょっと手伝ってくれるかな。 」

「 ええ。 ジョ−のお仕事の役に立てれば嬉しいわ♪ 」

 

  ・・・ マトモな仕事、ならいいんだけど、ね・・・

 

 

 

二月は光の春、というそうだが、温暖な気候のこの土地もからりと晴れ上がった日が続いている。

・・・といっても足元を吹きぬけてゆく海風は まだまだ冷たさしか感じられない。

 

「 ジョ−! ちゃんとマフラ−、して? 」

「 平気だよ、このくらい。 」

ジョ−は車を出してきて、門の前でまつフランソワ−ズにドアを開けた。

「 でも。 ・・・ 普通のヒトは まだ真冬の恰好をしているわ。 ほら・・・これ。 」

「 ・・・ ああ、そうだね。 」

フランソワ−ズは後部座席に放り出してあったマフラ−を渡した。

「 もうすぐ三月ねえ・・・ ちょっとは暖かくなってきたけど。 」

「 うん。 」

「 三月ね、雛祭りでしょ。 お雛様をリビングに飾るわ。 手伝ってね、ジョ−。 」

「 ああ、いいよ。  そうだね〜 コズミ博士からすごく立派なのを頂いたんだっけ。 」

「 ええ、わたしのタカタモノだもの。  それに、今年は初節句だし。 」

キキキ−−− !!!

ジョ−は一瞬ハンドルを切り損ね・・・そうになった。

「 ・・・・ え?!  そ、そうなんだ?? 」

「 あぶない! どうしたの、ジョ−? 」

「 ごめん ・・・ だって きみが・・・ は、初節句だって・・・ あの! そうなのかい? 」

「 え? なにが。  」

「 だから・・・ そのゥ ・・・ アレがあのゥ・・・ デキた・・・とか ・・・」

「 ??? なあに? あなたと結婚して初めての雛祭りでしょ。 

 そういうのって 初節句って言うんじゃないの? 」

「 ・・・ え ・・・・ あ、 ・・・・そ、そう ・・・ かな? ち、ちがうかも ・・・ 」

「 違うの? あら。 なんでそんなに汗かいているの、暑い? 可笑しなジョ−ねえ。 」

「 う、うん ・・・ 」

 

  ・・・ 焦るよ〜〜  ま、ちょっとがっかりだけど。

  初節句 はもうちょっとオアズケ、だな。

 

ジョ−は真正面を向いて運転に専念した。

こんなところで事故ってはしゃれにもならない。

「 それで・・・ どこで会うの。 その霊感さんと。 」

「 うん、ヨコハマ方面で・・・っ言うから、大人の店にしてもらった。 あそこなら。 」

「 そうね、なにかあっても安心だわ。 」

「 なにかあっちゃ困るけどさ。 」

「 ・・・・ ちょっとドライブで嬉しいな。 」

「 なあ。 出張から帰ったら ・・・ どこか温泉でも行こうか?  のんびりしようよ。 」

「 わあ、嬉しいわ〜〜 ね? リクエストしてもいい? 」

「 勿論。 どこ? ちょっと遠出してもいいよね、九州とか・・・ 」

「 あのね。 箱根に行きたいの。 」

「 え、そんな近くでいいのかい。 」

「 うん。 ジョ−と一緒なら。 どこだっていいの♪ 」

「 ・・・・・・ 」

ジョ−は片手で 彼の愛妻を引き寄せ素早く唇を盗んだ。

外はまだ風も冷たい早春、 でも車の中の二人はいつだってお熱い春真っ盛りのようだ。

 

 

 

「 アイヤ〜〜ジョ−はん! ・・・ もう、来てはるで。 」

張々湖飯店のマスタ−はきんきらきんの中国服の袖をぱたぱたと振ってみせた。

「 大人。 すみません、迷惑をかけて・・・ 」

「 なんのなんの。 お。 フランソワ−ズはん、一緒にきはったん?

 や〜や〜 ちょっと見んうちにえらい別嬪サンにならはったな〜〜 」

「 こんにちわ、 張大人。 ・・・ まあ、お世辞がお上手ね。 」

「 うんにゃ。 お世辞と違いまっせ。 ほっほ・・・ 愛情に勝る美容師はなし、いうことアル。 」

なあ? と張大人はドジョウ髭をしごいて、ジョ−の背中をドン!とど突いた。

「 いて・・・ !  あ・・・えへへへ ・・・・  」

「 ほんなら、先にお茶と点心、出しておきまひょか。 」

「 うん ・・・ そうだね。 オンナノコだからなにか・・・ 甘いのがいいかな。 」

「 了解。 なにかあったらすぐに呼んでや。 」

張大人はつんつん・・・と自分の頭をつついた。

「 こっちも了解。  じゃ、 フランソワ−ズ? 行くよ。 」

「 はい。 」

ジョ−はフランソワ−ズを伴って張々湖飯店の小部屋がならぶフロアに通っていった。

 

 

「 ・・・ この女、誰。 」

「 ぼくの家内ですが。 」

「 ふうん。  ・・・ ま、いいけど。 」

霊感少女 ― 田代ミ−は ジョ−とともに入ってきたフランソワ−ズをじろじろと眺め、

ぼつり、と言った。

挨拶も会釈も あったものではない。

椅子に座ったままの彼女は かなり不機嫌な様子だ。

「 それでご用件は何ですか。 ぼくに伝えたいことがある、と仰っていましたが。 」

ジョ−は事務的に彼女と向かいあった椅子に座った。

隣にそっと座ったフランソワ−ズはちょうど、田代ミ−の斜交いになった。

 

「 ・・・ 別に。 ただ、もうちょっと予知を聞かせてやろうかな〜と思っただけさ。

 あんた、明日っから海外出張とか言ってたじゃん。 」

「 そうですが・・・。 でも編集部では これ以上話すことはないって・・ 」

「 ・・・! き、気が変わったんだ。 明日のスコットランドの出来事、言うよ。 」

「 ・・・ どうぞ? 」

「 ・・・・・・ 」

田代ミ−は 視線を一点に据え、息も潜めているようだった。

遠くから微かに飯店の客のざわめきが聞こえてくる。

ジョ−もフランソワ−ズも 固唾を呑んで目の前の少女を眺めていた。 

 

< ・・・ ジョ−? なにか雑音・・・受信音だわ。 あ。 彼女の耳、イヤリングが受信機よ!>

< お。 ぼくにも 内容はよく聞き取れないけど・・・雑音は聞こえる! サンキュ、フラン♪ >

< どこか・・・発信元は ・・・ う〜ん ・・・ わたしの可聴範囲を超えているわ。 残念! >

< いや。 それだけで充分! >

 

「 わかった。 明日、グラスゴ−で・・・ 」

「 もういいよ。 」

「 なんだって? ・・・ あ! なにを! 」

ジョ−は立ち上がると腕を伸ばした。 

「 いきなり失礼。 でも、君はこの、イヤリング型の受信機で <聞いて>いたんだろ。

 その ・・・ 明日の出来事をさ。 

「 ・・・ なんのことさ。 」

「 あまりに正確すぎるからね。 君は<明日>にいる誰かから実際に起きた出来事を

 これで受信してしゃべっていただけだ。  その<誰か>が問題なのだが。 」

「 ふん・・・ どうしてわかったの。 」

少女から妙なつっぱりが消えた。  彼女はおどおどとジョ−とフランソワ−ズを見上げている。

「 ぼく達にも 受信機能が着いてる。 

 さあ。 言ってくれ。 君に指令をしていたのは誰だ? そして 君は何者なんだ。 」

「 ・・・ だめ。 今は 言えない。 言えないのよ ・・・ 」

「 君! 」

「 ・・・ 今はだめ。  そう、明日 ・・・ 明日なら。 きっと。 」

「 明日? ぼくは明日、夕方のフライトで海外の取材に行くんだ。 」

「 それじゃ ・・・ その前に。 と、友達のアパ−トに来て・・・ 」

少女の大きな黒目が必死にジョ−を見つめている。

「 しかし ・・・ また、はぐらかすんじゃないだろうな。 」

「 ジョ−。 行ってあげたら。 」

ひっそりとフランソワ−ズが口を開いた。

「 ・・・ フラン・・・ 」

「 口を挟んでごめんなさい。 でも ・・・ この方にも事情がおありなのよ、きっと。 」

「 う〜ん ・・・ 仕方ないな。 それじゃ場所と時間を指定してくれ。 」

少女はだまってメモを書き出した。

 

   

 

「 フラン? どうした、疲れたのかい。 」

「 え・・・あ、 ううん。 ただ ・・・ ちょっと気になって。 あのヒト ・・・ 」

帰りの車の中、フランソワ−ズはずっと一点をみつめ黙り込んでいた。

「 とにかく、話を聞かないとな〜。 彼女の後ろにいるのは誰か。 」

「 ・・・ ジョ−。 あなた、わかっているのでしょう? 」

「 う ・・・ ん。  多分 ・・・ 」

「 明日、会いに行くのね。 ・・・わたしも行くわ! 」

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

「 あのコにわからないようにするから。 どうしても気になるのよ、わたし。 」

「 いいけど。 気をつけろよ。 ・・・ たいしたコトはないと思うけど。 」

「 了解。 」

 

   あンた ・・・ 幸せだネ。  ジョ−のオクサン ・・・

 

別れ際にぽつり、とミ−は口の中で呟いていた。

聞き取れたのは フランソワ−ズだけだった。

 

 

 

 

「 ジョ− ・・・・ ! 愛してる・・・ 」

「 ・・・!? きみ、ふざけてるヒマはないよ。 」

翌日、ジョ−が指定されたアパ−トを訪ねると あられもない姿をしたミ−が一人、悄然としていた。

ベッドばかりが目立つ部屋に 彼女はジョ−を引き入れ縋りついていきた。

「 お願い、一回でいいの。 ・・・ キスして。 」

はだけた胸元からは豊かな胸が見え隠れしているが、ジョ−には全くの逆効果だ。

「 ミ−。 きみにこんなコトを命じたのは誰だ。 」

「 誰も。 アタシはジョ−が好きなだけ。 

 初めて、一目見たときから ・・・ わかったの。 あなたを好きになるって。 

 だから ・・・ お願い、アタシにも時間がない・・・ 抱いていいのよ。 」

「 きみの目的はなんだ? どうしてぼくに近づいた? 」

「 ・・・ 言えない・・・ 言えないの。 言ったら・・・殺される・・・・!」

ミ−はジョ−から離れるとベッドににじり寄った。

「 でも ジョ−のことが好きなのは・・・ 本当よ。 お願い、抱いて欲しいの・・・ 」

「 ・・・ 言えないのなら、ぼくが教えようか。  君の後ろにいるのは時間漂流民。

 君に<明日>の出来事を送信し、ぼくに接近させた。 そして、君に与えられた使命は ・・・ 」

ジョ−は一歩、部屋に踏み込んだ。

「 ぼくを暗殺すること、だろ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・・  あ ・・・! 」

ミ−がベッドから取り出したレイガンは 次の瞬間にはジョ−にもぎ取られていた。

 

「 やめときな。 君にはとても出来ないよ。 」

「 ・・・ ジョ−。 」

「 さ。 そんな恰好、風邪引くぞ。 取材から帰ったらゆっくり話そう。 それじゃ。 」

ジョ−はレイガンをくしゃり、と捻じ曲げ足元に捨てた。

そして そのまま踵を返し出て行った。

「 ・・・・・・・ 」

 

 

「 ジョ−! 」

「 ああ、ごめん。 待たせたね。 もう終ったよ。 」

ジョ−は近くのパ−キングに置いて車に乗り込んだ。

「 運転、替わりましょうか。 」

「 いや、いいよ。 ありがとう ・・・ きみが待っていてくれてほっとしたよ。 」

「 そう・・・? 」

「 ああ。  ぼくの奥さん。 エア・タ−ミナルまでドライブのつもりで・・・♪ 」

「 ・・・ 嬉しいわ。 ジョ−・・・ 愛してる♪ 」

「 ぼくもさ、フランソワ−ズ ・・・ 」

一人の青年がなめらかに発進してゆく車をじっと見送っていた。

彼はジョ−の車が視界から消えると すたすたとジョ−がやって来た方向に歩いていった。

 

 

 

 

「 それで。 警察はなんと言ってはったアルね。 」

「 ええ ・・・ 田代ミ−殺人容疑ですって・・・ 」

「 ふん。 殺人アルか。 ほんなら死体はどこ、いうねん。 

 ジョ−はんがあんさんと一緒に空港に出発しやはった時、 あのコぉは生きてたんやろ。 」

「 ええ。 悪いとは思ったけど ・・・ ミッションだし。 わたし、<見て> いたの。

 でも警察が言うには ・・・ あの部屋の持ち主が帰ると部屋中血だらけで・・・

 隣の人が男女が言い合う声を聞いたのですって。  ・・・ それで ・・・ 」

「 ふむ ・・・・ 」

大人はドジョウ髭をさかんにしごいている。

裏口からそっと訪ねてきたフランソワ−ズを ともかく店の奥にあるプライベ−ト・スペ−スに押し込んだ。

「 悪いけどここで待っとってや。 ジョ−はんから連絡が来たらすぐに飛び出しまひょ。 」

「 ありがとう! 張大人。 」

「 ほっほ。 これはワテらのミッションやさかい。 時にフランソワ−ズはん、防護服は・・? 」

「 ばっちり。 今日は下に着込んできているの。 」

フランソワ−ズは何気ないパンツ姿で くるり、と回ってみせた。

「 さすがやな。 いや〜 ますます別嬪はんでスタイルもようならはって♪ 」

「 やだわ、大人ったら。  ・・・あ、ねえ? ひとつ教えて欲しいことがあるの。 」

「 ? なんやねん? 」

「 あのね。 初節句って言うでしょ。 お雛様や・・・鯉幟や・・・ どういうお祝いなの? 」

「 ??  ・・・ あいや〜 桃の節句に端午の節句のことやろ。 

 そのおウチに赤さんが生まれて初めて迎える節句のこととちがいまっか。 」

「 え・・・・・。 そ、そうな・・・の ?? 」

フランソワ−ズはみるみる首の付け根まで真っ赤になってしまった。

「 そ・・・っか。 それで ・・・ ジョ−ったらあんなに慌てて・・・ ヤダ〜〜 わたし・・・! 」

「 ??? ソレがどうしはったん?   ・・・ お! 」

「 あ! ・・・ < はい、了解。 ただちにそちらに向かいます。> 」

「 < ジョ−はん? ほな、ソッチで >  ほんなら 行きまっせぇ〜〜〜 !! 」

「 了解!! 」

二人のサイボ−グ戦士の乗った車が張々湖飯店の裏道から密かに出ていった。

 

 

 

 

  ズガ −−−−−− ン !!! 

 

遥か古の、不思議な都市は紅蓮の炎に包まれた。

「 ・・・や、やったで。 これで ・・・ あとはイモヅル式に丸焼きや。 」

「 ふう・・・。 やれやれ。 こんなモノがこの時代に存在しては困るんだ。 」

「 ふん。 臭いモノは元から断たないと〜 っちゅう発想アルか・・・ 」

張大人は 大息を吐き彼自身の < 火 > が燃え盛ってゆくのを見つめていた。

 

ジョ−達三人はミ−の父親と共に三千年の昔まで時間の川を遡った。

「 ミ−は ・・・ あの娘は、アンタをどうしても殺せない、と泣きよった。 」

古代から現代への橋渡しをしているという田代氏は 疲れた中年サラリ−マン、といった風体だった。

「 それで 彼女は? 」

「 連れ戻されたよ! ともかく! アンタらは<あの御方達>を邪魔する悪魔なんだ! 」

「 悪魔でもなんでも ・・・ うわ。 なんだ、これ。 」

「 ・・・ すごいわね。 未来都市だわ、本当に三千年昔なのかしら。 」

「 うん ・・・ 彼ら、時空間漂流民達はなんとしても自分達の未来を変えたいのだろうね。 」

ジョ−達の目の前には 延々と現代的、というよりも未来風な基地がひろがっている。

時の狭間を彷徨う人々は ココを足がかりにするつもりなのか・・・

「 ・・・ 許されないことだけれど。 でも、彼らの気持ちも判るわ。 

 もしも。 もう一度やり直せるのなら。 出来るならば・・・って。 誰だって一度は思うわ・・・・ 」

「 フランソワ−ズ ・・・ 

「 ジョ−はん。 どないする? やっぱコレはのうなってもらわんとあかん、違いまっか。 」

 

「 ? ・・・ ジョ− !! 来てくれたんだ? 」

「 ミ−? 」

<霊感少女> が 飛び出してきて、ジョ−に抱きついた。

「 どうしても ・・・ どうしてもアンタが忘れられなくて・・・ 」

「 わ〜〜!! ジョ−はん!! 暢気にモテてる場合やあらへんで! 見ぃ!! 」

「 ! まずいな! なるべくあのメカだけ壊すんだ! 」

「 ジョ−! あのピラミッドの中から凄い機械音がするわ。 

 なにか・・・大型のエネルギ−増幅装置があるわ。  土偶・・・? ・・・ロボットだわ! 」

「 よし、それを破壊して ・・・ この奇妙な都市を爆破するんだ。 行くぞ! 」

「 アイアイ・サ−☆  」

 

そして  ― 張大人の炎が超古代都市のエネルギ−中枢を包んだ・・・

 

 

「 ・・・やったわ。 これで後は連鎖反応で全滅するはずよ。 」

「 よし !  さあ、急いでぼく達は <本来の時間> に戻らなければ。 」

「 ふん。 あの珍妙なキカイに乗るアルね。 」

「 急げ・・・! ここも直に延焼するぞ。 」

 

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

「 ミ−。 きみはこの時代のヒトなんだろ。 

 自分の生まれた時代で 自分の生きるべき場所で 生きてゆくのが幸せだと思うよ。 」

「 ・・・・・・・ 」

「 ジョ−はん? たいむ・ましん、作動させまっせ。 早う〜〜乗りなはれ! 」

「 了解。  じゃ・・・ 」

ジョ−はミ−の腕をはずすと すたすたとタイム・マシンに向かっていった。

 

「 ・・・ ジョ−! お願い、ひとつだけ! 」

「 なんだ。 」

ミ−の呼びかけに ジョ−は振り返らずに返事をした。

 

「 ・・・ ジョ−! アタシがそのヒトより先にめぐり合っていれば ・・・ 愛してくれた? 

 私の気持ちに 応えてくれた・・・? 」

ジョ−は足を止め、ゆっくりとミ−と向き合った。 そして。

 

「 たった今、彼女に、フランソワ−ズに出会ったとしても。

 ぼくが愛するひとは ・・・ このヒトだけだ。 ぼくの妻は彼女だけさ。 」

ジョ−は静かにフランソワ−ズの肩を抱いた。

 

「 ・・・ 周りを見て? きっと ・・・ あなたを大切に想う気持ちがあるわ。 」

「 もう ・・・ 逢えないね ・・・・ ジョ−。   さよなら ・・・ 

次の瞬間。 まさにほんの瞬きをした後に ― サイボ−グ達は現代の世界に < 居た >。

 

   

 

 

三月、雛祭りの日を目の前にして、 ギルモア邸のリビングには所狭しと

沢山の小振りな木箱やら 包み紙が散乱していた。

「 えっと・・・・ 緋毛氈は・・・と・・・   ジョ−? もう段々は出来た? 」

フランソワ−ズはその真ん中で木箱から次々に人形を出してゆく。

「 う・・・ん。 これで・・・大丈夫だと思うよ。 」

ジョ−が七段に設えた雛段の下から這い出してきた。

「 ありがとう。  ああ・・・ 今年も皆無事、だわ。 さあ・・・ 飾ってゆきましょう。 」

以前にコズミ博士から譲られた雛人形を フランソワ−ズはそれはそれは大切にしている。

 

「 ・・・ なあ。 もう少し 前にセットすればよかったな。 」

「 え? ココの方が良くない? 邪魔にならないし、でもよくお雛様が見えるし。 」

「 いや。 雛段じゃなくて。   ・・・ あのタイム・マシンさ。 」

「 どういうこと、ジョ−? 」

「 もうちょっと、いや・・・数年前か。 きみがヤツらに拉致される前の日に戻れば、さ。 」

「 ・・・ え ・・・? 」

「 ちゃんと予定の時間に家を出ていれば ・・・ あんな目には遭わなかった・・・ 」

「 ・・・ ジョ− ・・・! 」

「 きみにはもっと違った・・・いや素晴しい明日があったはずなのに。 それを・・・ 」

「 ジョ−。 それは ・・・違うわ。 」

「 違う? 」

「 ええ。  わたし、あなたとめぐり逢う幸運を選ぶわ。 

 生身の当たり前の女性としての一生よりも・・・ あなたと出会うためなら

 この・・・ ツクリモノの身体になる運命を選ぶわ。 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

「 昨日の夢は ・・・ もう見ないわ。 」

「 そうだね。 ぼく達、一緒に明日の思い出を作ってゆこう。 」

「 ねえ、ジョ−。 」

「 ・・・ うん? 」

「 時間 ( とき ) の流れの前で すべては変わってしまうけど・・・

 でも。  愛だけは。  ・・・ 変わらないでいてほしい・・・ 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

ことん・・・とフランソワーズは亜麻色の頭をジョ−の肩に寄せてきた。

ジョ−は黙って彼女の肩に腕をまわす。

「 あの・・・ね。 ジョ−。 この前の あの 初節句・・って わたし、間違ってたみたい・・・ 」

「 うん? ああ、そうだね。 ・・・ いつか。 祝いたいね ・・・ぼく達も。 」

「 ええ ・・・ ええ。 本当に・・ 」

「 お雛様も きっと楽しみに待っていてくれるよ。 」

「 そうね。  あ! 鯉幟でもいいんだけどな、わたし・・・ 」

「 え・・? ああ、そうだね。  ふふふ ・・・ ぼくはどっちでも。 」

「 ・・・ わたしも。 」

絡めた腕をそのままに 二人は熱く唇を重ねる。

コトン ・・・ 人形に身体が触れてしまった。

ジョ−は手元にある雛人形をちらり、と見た。

豊かな黒髪が ふ・・・っと懐かしい ・・・ ほんの一瞬だけ、彼は思った。

 

 

三月・弥生 三日の日。 雛祭りは もうすぐだ。

 

 

 

***************    Fin.   ****************

 

Last updated : 03,11,2008.                            index

 

 

******   ひと言   ******

え〜〜 もしかして原作をご存知ない方もあるかもしれませんので・・・

( 後期のわりかしマイナ−? な作品かも?? )

『時空間漂流民編』 の第二話、であります。

第一話で仲良しな二人なのに! どうしてまたジョ−君は一人なの??って

ず〜〜っと憤慨していましたので・・・ <フランちゃん参加型> で

二人は新婚♪ って設定をでっちあげました♪♪ 

しょ〜もない妄想やのう・・・とお目溢しくださいませ〜〜 <(_ _)>

ちょいと時期がズレまして すみません・・・・