『  ジョイント  』

 

 

 

 

 

「 まだ、行くの? あとどのくらい? 」

< ウン。 マダワカラナイ ・・・ >

後部座席を振り向いたフランソワ−ズにイワンは尊大な調子で答えてよこした。

「 ・・・ もうそろそろ教えてくれよ、イワン。 」

ハンドルを握るジョ−も バックミラ−越しにイワンに語りかける。

「 もう ずいぶん来たぜ? いったいなにが・・・そしてどこが目的地なんだい。 」

ジョ−は元来車好きだから、かなり辺鄙な場所へでもイヤな顔ひとつせず、

むしろ喜々として車を出してくれるのだがさすがの彼も今日は少し呆れ顔である。

それもそのはず・・・・ 目的地のわからないドライブはもうかなりの時間になるのだ。

「 そうよ。 ・・・・ 目が覚めたなって思ったら、急に車をだして、って言うのですもの。

 それから あっちだこっちだ・・・って。 どうなってるの? 」

助手席からねじ向いたまま、フランソワ−ズがちょっと頬をふくらませている。

「 ふむ・・・・ そういえばかれこれ半日以上車を飛ばしているな・・・ 」

ギルモア博士も後部座席のチャイルド・シ−トの隣で大きく頷いた。

 

< ダカラ。 マダワカラナイト言ッタダロウ?  僕ガイイト言ウマデ黙ッテ進メテクレタマエ。 >

 

赤ん坊には不似合いな切り口上な調子のテレパシ−が3人の頭に飛びこんできた。

「 ・・・・ はいはい、了解。 」

ジョ−は苦笑してハンドル操作に専念し、フランソワ−ズも仕方なく姿勢を戻した。

 

  ・・・ ふう ・・・ なだかやりきれない雰囲気だな。

 

  あ〜あ ・・・ また、<だんまり> になっちゃった。

 

運転席と助手席、いつもの指定席でジョ−とフランソワ−ズはそれぞれに

こっそり ・・・ 絶対に絶対に隣に聞こえないように溜息を心の中で吐いていた。 

 

二人は 微妙に間隔を保ったままだ。

普段、ドライブならフランソワ−ズの楽し気なおしゃべりにジョ−も時折口を挟み

二人して大いに盛り上がっているものだ。

日頃から仲間達には < 後部座席 > は とことん評判が悪い。

「 アイツらの後ろに乗るのはゴメンだ。 」

「 あはは・・・ 悪気はこれっぽっちも無いみたいなんだけどさ。

 なにかこう ・・・ こちらの罪悪感を呼ぶよね。 邪魔してすみませんねって気分になるよ。 」

「 ふふん。 恋する二人に外野は見えないし気にもならんのであろうな。

 恋は盲目、とはいつの世でもどこでも共通の真理さ。  」

「「「 とにかく。 二人の世界は二人だけで頼む 」」」

そんなコメントをよこすのはまだマシな方で、予め姿をくらます輩もいるのだった。

平気でいられるのは 眠ってばかりの赤ん坊と世慣れた老人くらいのものだ。

それでも当の本人達は一向に気づく様子もなく、ドライブとなれば笑顔満載で出かけることになる。

 

それが  ―  今日は。

 

< ・・・? どうしたのかの? 今日は二人とも大人しいなあ。 >

< 博士デモ ソウ思ウカナ? >

< ああ。 いつもはぼそぼそ・くすくす・・・ なにやら楽しそうにしているではないか。

 ワシはそんな二人を眺めているのも 楽しいのじゃが・・・ >

< フフフ ・・・ 博士ラシイネ。 >

< 何か あったのかの。 >

< ウ〜ン ・・・ 僕ニモヨク判ラナインダケド。 

 今朝、目ガ覚メタ時カラ ナントナ〜クふらんそわ−ずノ顔ガ曇ッテイルンダ。 >

< それで ・・・ わしらを連れ出したのか。

 この ・・・ 行き先不明のドライブに。 >

< イヤ ・・・ ソレモアルケド。 本当ハ ・・・ 呼ンデル ・・・ カラサ。 >

< 呼んでいる? なにがかね。 >

< ワカラナイ。 デモ ・・・ ズット聞コエル、イヤ感ジルンダ。 微カナンダケド・・・ >

< ふむ・・・ イワンに判らんのじゃったらワシらはただ黙って着いてゆくしかないな。 >

< ウン。 ダカラ 少し放ッテオイテクレナイカナ。 >

< ほい、こりゃ・・・すまんな。 >

色違いのアタマが 寄ったと思うとかなり意識的に離れて ・・・ またなんとなく・・・

そんな繰り返しを演じている後ろで ギルモア博士はイワンと意志を通わせていた。

一方、色違いのアタマの方は・・・

 

「 ・・・ ジョ−、あの。 お茶、飲む? 」

「 いや、いい。 」

「 ・・・ そう ・・・。 」

 

無理矢理絞りだした言葉はアッと言う間に途切れてしまい、後には一層気まずさがつのる。

膝の上のバッグを握り締め、フランソワ−ズは前方を凝視し続けていた。

 

  ・・・ なんだって ・・・ こんなコトになっちゃったのかなあ・・・・ う〜〜ん ・・・??

 

肩も触れそうな距離で ― でもわざと。 必死で知らん顔して ― ジョ−とフランソワ−ズは

まったく同じ思いを煮詰めていた。

特別に喧嘩をしたとか、大きな揉め事があった ・・・ わけではない。

いつもと同じはずの 平凡な日々が流れていただけなのだが。

 

  ・・・ もしかして。 あのことかしら・・・・  え・・・あんなコトで機嫌が悪いの?

  ヤだわ・・・ 子供みたいね、ジョ−って・・・ ヤキモチ焼き!

 

  なにが気に喰わないのかなぁ ・・・ いつも思うんだけどなんでもかんでも

  抱え込まないでほしいな ・・・ わかんないよ、フランソワ−ズって・・・

 

 

閉じ込めたつもりのもやもやした気分は自然とはみ出してきて グレ−のオ−ラを

出しているのかもしれない。 二人は自分達自身で気まずい雰囲気をせっせと作りだしていた。

 

 

「 ・・・ アルベルトは もう帰り着いたかの・・・ 」

「 ・・・ え ・・・ ? 」

ギルモア博士の のんびりとした声が後部座席から響いてきた。

フランソワ−ズは思わず声をあげ、その声の高さに自分自身で驚きあわてて口に手を当てた。

「 そうですね。 今頃はやれやれ・・・ってとこじゃないですか。 」

珍しくジョ−が口を開いた。

 

先日、アルベルトは定期的なメンテナンスに来日しその後数日この国の秋を楽しんで行った。

楽しむといっても旅行をするでも名所旧跡観光にゆくでもなく、

ギルモア邸の近所を散策したり テラスの日溜りで終日読書に耽っていたり・・・そんな日々だったが。

 

「 ま〜あ・・・ せっかく久し振りにココに来たのに。 

 ねえ、少しはお出掛けしない? ううん、ほんの近所よ、紅葉が綺麗な場所があるのよ。 」

「 べつにドイツでも紅葉は見られるが。 」

「 ・・・ あら、こんな素敵なお日様のもと・・・っていうわけには行かないでしょう? 」 

ね? ・・・ と大きな青い瞳に覗き込まれればジョーでなくても 諾、というだろう。

それじゃ、お弁当でももって紅葉狩りね・・・・とたちまち決まってしまった。

 

「 へえ・・・ 紅葉狩? アルベルトが・・・珍しいね。 」

「 あ、ううん、わたしがさそったのよ。 たまにはお出掛けしましょうって。

 お弁当〜〜 なにがいいかしら♪ サンドイッチ・・・ じゃお決まりでつまらないわねえ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・ あ・・・ おにぎり がいいかも ・・・ 」

「 え? あら。 ジョ−。 どうしたの。 あ、都合が悪かったかしら。  お仕事? 」

「 いや・・・ べつに。 」

「 そう? ・・・ なんだか気乗りがしないみたいよ。 」

「 ・・・ そんなこと、ないよ。 」

「 それなら、ね。 〇日に車、出して。 紅葉狩りにゆきましょうよ、そろそろ綺麗になってるわ。 」

「 ・・・ いいけど ・・・ 」

「 ランチねえ〜 うん、やっぱりサンドイッチが便利よね。

 そうだわ! アルベルトのお気に入りの K山のロ−スト・ビ−フを奮発しようかしら。 」

「 ・・・ オカカのおにぎり が ・・・ 

「 ねえ? あれってアルベルト、好きよねえ? 」

「 え ・・・ あ、ああ。 そうだったかも ・・・ あの・・ ぼくは ・・・ 」

ジョ−は相変わらず口の中でもごもごと返事をしていたが、 ウキウキ気分のフランソワ−ズは

気にも留めてはくれなかった。

 

   ・・・ ちぇ。 なんだよ・・・  そんなに嬉しそうな顔、することかなあ・・・

 

はしゃいでいるフランソワ−ズの笑顔が ・・・ どうにもシャクに障る。

自分に向けられていないからだ ― という本音にジョ−は気がついていない。

ようするに。 単なる彼のヤキモチなのだが。

 

   ジョ−は普段から口数が少ないもの。 機嫌が悪いってことじゃないのよ。

   彼はあれで ・・・ 充分に楽しんでいるから、いいの。

 

どうも勝手に解釈してくれているらしい ・・・ それもまた気に喰わない。

だからといってこの複雑な胸の内を上手く説明できるはずもなく・・・

ジョ−はいつもと変わらない ( ようにみえる ) 様子で 紅葉狩りツア− の運転手を務めた。

 

 

「 気をつけてね。 また・・・ 来てちょうだいね。 次はクリスマス、なんてイヤよ。

「 無茶いうな、 これでも仕事をしているんだぞ。 」

「 あら・・・ いいじゃない、仕事優先〜 なんてク−ルじゃないわ。 」

「 ははは ・・・・ 考えておこう。 」

「 ん ・・・〜〜 それじゃ、また・・・ 」

「 ああ。 お前達も元気で。 仲良くしろよ?  」

「 ・・・ もう ・・・ アルベルトったら・・・ 」

空港の出発ロビ−で 微笑とハグと。 そして軽いキスを交わし、アルベルトは祖国へ戻っていった。

 

  ・・・ う〜ん ・・・ 淋しいような 嬉しいような ・・・ 妙な気分だよなあ。

 

送迎デッキから身を乗り出して手をふるほっそりした後ろ姿を ジョ−はじっと見つめていた。

「 ・・・ あ〜あ ・・・ 行っちゃったわね ・・・ 」

「 ・・・ ウン ・・・・ 」

「 やっぱり淋しいわ。 また皆で一緒に暮らせないかしら。 

 大変だけど賑やかで楽しいじゃない?  」

「 ・・・ あ ・・・ うん。 」

くるり、と振り返り小さく溜息をつく彼女は滅茶苦茶に可愛いらしく、愛おしい。

どきん ・・・ ! と高鳴った胸の音を聞かれた気までして、 ジョ−は長目の前髪の影に

こそこそと逃げ込んだ。

「 ね、ジョ−。 ちょっとお茶でも飲んでゆかない? わたし・・・空港ってなんとなく好きなの。 」

「 あ・・・ う、うん。 そうだね。 」

「 この空は ―  ドイツにもパリにも ず〜っと繋がっているんだなあって思うと

 なんだかちょっと嬉しいの。 そんなに自分は遠くにいるわけじゃないって気持ちになれるのよ。 」

「 うん ・・・ア! そ、そう・・・? 」

「 ・・・ 行きましょ。 」

「 あ・・・ うん。 」

ふうう ・・・・・  かなり大きな溜息をついてフランソワ−ズはさっさとロビ−を横切っていく。

 

  もう ・・・! 何をいっても < あ、 うん。 > ばっかり!

  気の利いたひとことでもいってくれれば ・・・ 少しは気分も明るくなるのに・・・

 

仕方ない、それが 彼 ― 島村ジョ− というヒトなのだ。

そんな風にいつもは思いきっているのだが・・・ だが。  今日はやたらに気に触る。

 

  ・・・ アルベルトだって 気の利いたジョ−クのひとつも言ってくれるのに。

 

もうお茶を飲む気分も醒めて フランソワ−ズはどんどん進んでいった。

「 フランソワ−ズ・・・? お茶、するんじゃなかったのかい。  ・・・ なあ?! 」

後ろの方で なにやらジョ−の声が聞こえたが 足を緩める気になれないまま、

フランソワ−ズは靴音を響かせタ−ミナル・ビルのロビ−を抜けて行った。

 

  ・・・ あら ・・・・?!

 

後ろから聞こえていた ジョ−の足音がとまった。

 

  なに。 どうしたの。 ・・・ どこ ・・・・ ?

 

流れる人ごみを幸いに フランソワ−ズは廊下際に身をよせそっと ・・・ 振り返った。

 

ジョ−はかなり後ろで ロビ−の真ん中に突っ立っていた。

そして 

隣には 彼をしげしげと見つめる ・ 女性がひとり。

ジョ−よりもその女性 ( ひと ) の方が、いやほとんど彼女が一方的に話しかけている。

 

ごめんなさい ・・・ ちょっとだけ ・・・ ほんの少しだけ。

 

フランソワ−ズはほんの少し 耳 のレヴェルをアップした。

そしてすぐに通常に戻し、そのまま駐車場へと歩いて行った。

 

  ・・・ ジョ−の ばか。  もう ・・・ 知らない!

 

鼻の脇をぽろろん ・・・と涙が転げ落ちて行った。

 

 

 

 

「 イワン。 どうする? これ以上は車では進めないよ。 」

ジョ−はかなりの幅をもつ谷川の畔で車を止めた。

滝つぼを前に 行き止まりになっている。

「 ほう ・・・ 随分と山間深くきたものじゃな。  どの辺りかの。 」

「 えっと  ・・・ あ、プレ−トがありますわ。 ほら・・・ あそこ。 」

フランソワ−ズが窓から顔を出して 古びた木製の道標を指差した。

< 大日高原村 ・・・ ココダ。 イヤ ・・・ モット奥 ・・・ >

だんまりを決め込んでいたイワンが ぽつり、と皆の頭の中に返事を送った。

「 え ・・・ もっと奥へゆくのかい。 でもどうやって ・・・? 

 ロック・クライミングでもしないとこれはぼくでも無理かもしれない・・・ 」

ジョ−は目の前にそびえる断崖を見上げている。

< ナニカ ・・・ 呼ンデイルンダ。  >

「 呼ぶって、テレパシ−で、なの? 」

< ウウン ・・・ 似テルケド、モット弱イ。 ソウ、虫ノ知ラセ・・・予感カナ >

「 え?? イワンらしくないコト、言うのねえ。 

 あ・・・ この上につり橋があるわ。 あれを渡って ・・・ 崖の向こうは集落よ。 」

フランソワ−ズがじっと前方を見つめている。

「 そうか。 それじゃ・・・ 博士、大丈夫ですか。 」

「 ふん、何を言っておるか。 なんのこれしき。 半日ちかく座ったきりじゃったで

 ちょうど良い足ならしじゃよ。 よし、行くぞ! 」

博士はさっさとイワンをバスケットに移すと車から降りてしまった。

「 あは・・・ ともかく 行こうか。 」

「 え ・・・ ええ。 」

なんとなくぎこちない雰囲気のまま、ジョ−とフランソワ−ズは博士を追って車を降りた。

 

「 わ・・・ 凄い滝だな。 つり橋は・・・と こっちか。 

 博士、イワンのバスケットはぼくが運びます。 本当に大丈夫ですか。 」

「 ふ、ふん。 そんなに年寄り扱いせんでほしいの。 

 ・・・ いや〜〜 本当に見事な渓谷じゃな。  あの淵になんぞ、滝の主が棲んでいそうじゃ。 」

「 まあ・・・ 大人に話したら釣りに来たがるかもしれませんね。 」

「 それじゃ・・・ 行くよ。 」

ワインのバスケットを持ったジョ−を先頭に 3人はつり橋を渡り始めた。

 

   ・・・ なんだかミッションの時みたい。 でも ・・・ 楽しい気分の方が強いわ。

   ミステリ−・ツア−みたいで わくわくする・・・

 

   ああ、よかった・・・ やっと普通に話してくれるようになった・・・

   でも ・・・ どうしてなんだ? いったいなにが原因なんだろう ・・・

 

博士が絶景に 感嘆の声をあげるが、二人はまるで目にはいらない。

ジョ−はさり気なくフランソワ−ズの顔を窺い、 フランソワ−ズもこっそりジョ−を見つめ・・・

同じ思いに浸っていた。

 

   ・・・ まったく どうして。 こんなコトになっちゃったんだ ( の ) ??

 

< ・・・ ココ。 >

「 え ? なんだって? 」

つり橋を渡り終え、断崖を回ると目の前の谷あいに棚田が拡がっていた。

山すそには 古めかしい藁葺きの屋根もまじる集落があった。

 

「 ココが <大日高原村> ね。 でも・・・ ここになにがあるの? 」

「 ふむ ・・・ 典型的な日本の山村じゃな。 農業と林業の村じゃろう。 」

「 イワン ・・・ 本当にここなのかい。 」

< ソウダヨ。 サア行コウ。 >

3人は山道を集落にむかって降りて行った。

ぽかぽかと秋の陽射しが 山間の村に柔らかく注がれている。

刈り入れの終った田んぼのそこここに藁が束ねて干してあった。

静かな山村は 穏やかにこのヨソモノ一行を迎えてくれていた。

 

 

 

 

 

「 ・・・ ふう、参ったな・・・ あれ?? フランソワ−ズ?? 」

ジョ−はハンカチでごしごしと汗を拭い ・・・ きょろきょろと周りを見回した。

やっと解放された・・・! と思ったらフランソワ−ズの姿はどこにも見えなかった。

「 あれ・・・ ? 先にお茶しに行ったのかな・・・ あ?? どこの店だ?? 」

ティ−・ル−ムに行きたい、と彼女は言っていたが・・・

ジョ−はだだっ広いロビ−で途方に暮れてしまった。

 

   ・・・ こんな場所で なんだってああいうヒトに遭遇するんだ??

 

先ほどのヒトのアクシデントに ジョ−は今更ながらに舌打ちをしたい気分だった。

 

 

「 ・・・あ! ごめんなさい! 」

ヒ−ルを鳴らして足早にやってきた女性のバッグが すれ違い様にジョ−の腕に当たってしまった。

バッグの角は金具が打ち付けてあったが ジョ−にとっては問題にもならない。

「 ・・・ あ・・・ いいえ・・・ 」

かるく会釈して 行きすぎようとしたのだが。

 

「 大丈夫ですか?? ごめんなさい〜〜 このバッグ、角が痛いんですよね・・・ 」

派手なカンジのその女性は声も大きかった。

なにごと ・・・ と振り返るヒトもいて、ジョ−はますます困惑してしまった。

「 なんともありませんから。 どうぞご心配なく。 ・・・ 失礼 ・・・ 

「 え〜〜 本当ですか。  ・・・あら。 あのう ・・・ もしかしたら ・・・ 」

「 はあ? 」

「 あの ・・・ ハリケ−ン・ジョ− ・・・ いえ、そんな訳ないわね。

 もうあれから何年も経っているもの  ・・・ でも ・・・ 」

「 ・・・ じゃ。 」

ジョ−はそそくさと立ち去ろうとしたが、相手の女性はぴったりと前に立ち塞がったままなのだ。

「 あの ・・・ 失礼 ・・・ 

「 あ、あの! もしかして ・・・ なにかモ−タ−・スポ−ツ系の方じゃありません?

 いえ、ご自身じゃなくてもお身内に ・・・ 」

大きな声で捲くし立てる彼女は若作りしていたが じっくり見ればソレ相当の年齢らしい。

・・・ ヤバいな ・・・ とジョ−は思ったが、徹底的に知らん振りすることに決めた。

「 さあ・・・ なにも関係ありませんよ。 」

「 そうですか?? それじゃ、他人の空似なのかしら。 残念・・・ 」

「 ( なにが残念、なんだよ?? )  すいません、連れが待ってますから。 」

「 あ、あら〜〜 デ−ト?? まあ〜〜 アナタ、もてるでしょ♪ ふふふ ・・・ 」

「 失礼・・・ 」

さすがのジョ−もかなりイライラしていたので、無遠慮にその女性を押しのけて歩きだした。

 

「 あ・・・ん。  それじゃ ・・・ っと。   ねえ!!? 」

「 ( なんだよッ!!)  ・・・? 」

一際大きな声が追いかけてきた。 不機嫌さ一杯でジョ−がちらり、と振り向いた途端に・・・

 

  パシャ ・・・・ !

 

ごく小さな音をジョ−の耳が捕らえた。

 

  あ・・・! このォ・・・・ 携帯で撮ったな・・!

 

「 どォもォ〜〜〜 」

屈託のない笑顔を向けているオバサンに呆れ果て、ジョ−はそのままくるり、と踵を返した。

きょろきょろと目の届く限り見回したが あの亜麻色の髪はどこにも見あたらなかった。

 

  ・・・ まずい〜〜〜 マズイよ ・・・!

 

ジョ−は足早に空港のロビ−を通りぬけてゆく。

脳波通信を使おうか・・・とチラリと思ったが 開きかけた回線はすぐに閉じた。

フランソワ−ズが日常で < 能力 > を使うのを極端に嫌っているは

よくわかっていたからだ。

 

  先に帰ったのかな ・・・ 電車で・・・? まさか・・・ 

  でも車のキ−は僕しか持ってないし ・・・

 

とりあえず、車に戻ろう・・・! 

どんなミッションの時よりも ジョ−は真剣な顔で出来る限りの<普通の>駆け足で

パ−キング・エリアめざして行った。

 

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・?  ああ、やっぱりここには戻っていないや・・・ 」

息せききって駆け寄ったジョ−の車の周辺には人影はなかった。

もっともだだっ広いパ−キング・エリア内で待っているとは限らない・・と

ジョ−はあたりとぐるりと見回したが、彼女の姿は見つからない。

 

  ・・・ やっぱり電車で帰ったのかな。 あ、携帯に掛けてみよう。 えっと・・・

  ・・・・ あ、フラン ・・・ え ? ・・・・ なんでだよ〜〜電源、切ってる! 

 

ジョ−は繋がらない携帯に溜息を吐き、仕方なしに車のドアを開けた。

とりあえず、ギルモア邸に連絡を入れてみよう・・と思いなおした時 ・・・ 

 

「 ?! ・・・ だれだッ! 」

カサリ ・・・  

後部座席から衣擦れの音がして  ― 亜麻色の髪のアタマが起き上がった。

「 ・・・ わ・・・! フランソワ−ズ!! きみ ・・・ ! 」

「 あら。 やっとお帰りね。  待ちくたびれて ・・・ お昼寝しちゃったわ。 」

あ〜ああ ・・・ とフランソワ−ズは大きく伸びをした。

「 な ・・・ なんだよ〜〜  どこの誰がいるのかと思ったよ! 」

「 あら。 ・・・ どこかのプリンセスじゃなくて 残念だったでしょ? 」

「 ・・・あのなあ。 先に行くのならひとこと、言ってくれよ! さんざん探したんだぜ。 」

「 だって。 お邪魔なようだったから。 これでも気をきかせて差し上げたのよ。

 大切なファンに女連れだと思われたくないんでしょ。 」

髪を整えてフランソワ−ズは つん・・・とした様子だ。

 

  ・・・ はあ ・・・ 〜〜〜

 

ジョ−はもう何を言う気にもなれず、また溜息をついてしまった。

「 それにしても。  どうやって入ったのかい??  ・・・ え? 」

フランソワ−ズは黙ってジョ−に手を突き出した。

「 なに。 」

「 ・・・ これ。 あなた、ドア・ロックしてなかったわよ。 キ−は後部座席に落ちてたわ。 」

「 ・・・ あ ・・・ 壊れてたんだ・・・ 」 

しゃりん ・・・ と小さなキ−がジョ−の掌で音をたてた。

・・・ 昨日掃除して ・・・ その時に落とした・・のかも・・・!

「 ありがとう。 ・・・ 帰る? 」

「 ええ。 帰る。 

「 ・・・じゃ。  ・・・? 」

運転席から振り向いたジョ−に フランソワ−ズはあっさりと首を振った。

「 こちらで結構よ。 」

「 そ ・・・ 」

指定席の助手席を断られ、ジョ−もそれきり口を噤み ー 運転に集中した。 

 

  ・・・ ナリタからウチまでって。 こんなに遠かったっけ???

 

いつもはあっという間・・・と感じている距離が 今日は二人とも倍にも感じていた。

楽しみなはずの 二人だけの時間 が今日はひたすら我慢大会に近かった。

 

  ・・・ まったく どうして。 こんなコトになっちゃったんだ ( の ) ??

 

ジョ−もフランソワ−ズも。

なんでもない顔をして普段と同じな風におそって ・・・ 心の中で泣きたい思いだった。

 

 

 

 

「 ・・・ ねえ? なにか ・・・ 聞こえるかい? 」

「 え。 いや ・・・ なにも。 」

「 ふむ。 ワシにも聞こえんが・・・ 」

村の入り口と思われる坂を登りきった時、フランソワ−ズが声をあげた。

「 そうよ。 なにも聞こえないの。 なにも、よ。 おかしくない?

 だって ・・・ ここはちゃんとヒトが住んでいる村なのでしょう? 」

「 そういえば ・・・ 静かすぎる。 鳥の声やら家畜の鳴き声も ・・・ 聞こえない。 」

「 でしょ? ほら ・・・ 遠目に見てもなにかが動く気配もないわ。 」

「 そうじゃ ・・・ 犬の吠え声も聞こえん。 これではまるで死んだ村じゃ。 」

「 ― 見て! 」

角をまがったところで フランソワ−ズの足が止まった。

彼女が指差した前方の草原には 牛が倒れていた。 

「 ・・・ し、死んでいる ・・・ のですか? 」

おそるおそる近寄り、博士はそっと牛の背に手を当てた。

「 ねえ、みて・・・ 牛だけじゃないわ。 あそこには ヤギ ・・・ あっちの農家の庭には

 ほら・・・籠の側に鶏がいっぱい ・・・ みんな 倒れてる ! 」

「 動物達 ・・・ この村の動物が皆死んでいるのですか ? 」

「 ・・・ らしいな。 呼吸をしている様子がない。 不思議と体は柔らかいのじゃが・・・ 」

「 まあ ・・・ なにかの病気ですか。 流行病かしら・・・ 」

「 いや。 ちがう ・・・ ! 動物だけじゃない。 」

「 ・・・ え ? 」

ジョ−は村の中へ通じる道をじっとみつめている。

「 何 ・・・ どうしたの、ジョ−? ・・・・ あ ! 」

彼の側に並んで フランソワ−ズは息を呑んだ。

 

ヒトが ・・・ 倒れていた。

村の公道と思われる比較的広い道のまんなかに野良着姿の男性が伏していた。

目だった外傷はなく、ただ地面に倒れているだけなのだが・・・ 

 

「 これは・・・ !  おお、あそこにも ・・・ こっちの畑にも! 」

追いついたギルモア博士が困惑の声を上げる。

駐在所の前には中年のお巡りさんや、中学生らしい少年が、

そして畑には農作業の最中かと思われる恰好の人々が点々と倒れている。

「 なにか ・・・ 事故とかあったのでしょうか。 」

「 う・・・む・・・  お、家があるな、ちょっと失礼 ・・・ 」

博士は小路を辿ってゆき、農家らしい家をひょいと覗き込んだ。

 

「 ・・・ あ ・・・! 」

天井の高い少しひんやりと感じる板敷きの間で 人々が横たわっていた。

おそらく、その家の家族なのだろう、小さな男の子が母親らしき女性の側に倒れている。

外の人々や動物達と同じで その表情は皆安らかだったが・・・

「 大変だ! もし 病気だとしたら・・・ ウィルスとか・・・ ぼくらにも! 」

「 ・・・だとしたら ・・・ 多分もう手遅れね。 かなりこの村を歩きまわったもの。 」

「 ・・・ うん ・・・? 」

「 博士! あまり近づかない方が ・・・ もう無駄かもしれませんが・・・ 」

ジョ−の制止など意に介さず、ギルモア博士はつかつかとその家に入っていった。

「 ・・ 博士 ・・・ ! 」

「 ふむ ・・・ これは ・・・ 眠っておるんじゃな。 」

「 ・・・ええ ?? 」

「 眠っているって・・・ でも、呼吸 ( いき ) をしていないのですよね? 」

「 そうじゃ。 たしかに。 」

博士は横たわっている女性の背にそっと手を当てている。

「 ごらん。 この状態がいつ始まったか判らんが、皮膚や筋肉の弾力性は失われておらん。

 いわゆる死後硬直はみられん。 これは 仮死状態だ。 」

「 どう言うことです? 」

ジョ−もフランソワ−ズも呆然としたままだ。

「 つまり − 動物の冬眠状態と同じじゃな。 」

「 ・・・ これはなにかの ・・・ ウィルスに侵されたのでしょうか。

 イワン ・・・ 君が聞いたのはこの人々の声だったのかい。 助けを呼んでいたのかい? 」

ジョ−は手にしたバスケットの主に話しかけた。

< チガウ・・・。 ココジャナイ。 外ダヨ ・・・ 村ヲ抜ケテ。 >

3人は顔を見合わせ、イワンの望むままにまた村の道を辿りはじめた。

< モット先 ・・・ 村ハズレノ岡ダヨ。 アッチ! >

 

 

 

 

 

トントン ・・・ トン ・・・・

随分と軽い音のノックが聞こえた。

 

  ・・・ !  ・・・ 

 

ジョ−はがばっと身を起こしベッドから飛び出した。

すぐにドアに走り寄ったが 一瞬立ち止まりシャツの裾をひっぱりくしゃくしゃの髪をなでつけた。

えへん・・・と声にならない咳払いをひとつ。  そして ・・・

「 ・・・ どうぞ? なに。 」

わざと ゆっくり。 ドアは軋みこんな時に限って大きな音をたてた。

「 ジョ−? あの ・・・ 晩御飯よ。 」

細目にあけたドアから フランソワ−ズが半分だけ顔を覗かせた。

「 あ ・・・ そう。 もうそんな時間か ・・・ 今、行くよ。 

「 ・・・ ええ。 」

ひと言呟いて 彼女はあっさりとドアを閉めてしまった。

 

  ・・・ あ ・・・・

 

おかずはなに? とか  冷めちゃうから早く! とか。

ジョ−はそんないつもの会話を期待していたのだが 口を開けかけたままドアと睨めっこする羽目になった。

アルベルトを送ってゆき、沈黙の車内に耐えて海辺のギルモア邸まで帰りついた。

シーーーンとした午後は ゆっくりと過ぎてゆき ・・・

ジョ−は所在無さ気に 自室にこもっていた。  

音楽を聴いてもTVを見ても。 ネットを巡ってみても ・・・ ちっとも楽しくなかった。

 

  ちぇ。 ・・・ ヒマな午後って憧れていたんだけどなア・・・

 

ねえ、ジョ−。 ちょっと手伝って? 

いつもならこのひと言で、休日の午後ジョ−はかなり忙しい。

洗濯物の取り込みやらアイロンかけやら。 季節・季節の模様替えやら庭の手入れもある。

要するに家庭の雑事に フランソワ−ズの手伝いを頼まれるのだが・・・

ジョ−には楽しいひと時なのだ。

 

「 うん、これでいいわ。 ありがとう、ジョ−。 ごめんなさいね、いつも手伝ってもらって・・・ 」

<仕事>の出来栄えをながめ フランソワ−ズはにこにこしている。

「 あ・・・ ううん。 ぼくも楽しいもの。 」

「 あら。 無理しなくていいのよ? 」

「 してないよ。 ぼく ・・・ なんていうか・・・ こういう家の用事ってやったコト、なかったから。 

 ふふふ ・・・ やってみたいな〜って思ってたんだ。 」

「 そうなの?  なら、今度からもっとお願いしちゃおうかしら。 」

「 うん、いいよ。 どんどん言ってくれよ。  あ・・・ その代わり・・・さ。  お願いがあるんだ。 」

「 まあ、なあに。 

「 ウン ・・・ あのゥ。 晩御飯 ・・・ 肉ジャガにしてくれる? 」

「 え・・・?? あら〜〜 何かと思えば・・・ はい、了解よ。 あ・・・っと ・・・ 」

「 勿論! ジャガイモの皮むき、手伝うからさ。 」

「 あ ・ り ・ が ・ と ♪♪ 」

素早く頬にキスを落として、にっこり笑う顔がジョ−にはたまらなく可愛らしく思えた。

 

・・・・ そんな遣り取りで忙しいけれど密かに楽しみにしている時間 ( とき ) のだが。

 

今日はなぜだか <お呼び> はかからなかった。

ぽつん ・・・ と自室にこもっての気ままな午後、ジョ−はすっかり時間を持て余していた。

 

  ・・・ 早く夕食にならないかなァ・・・

 

時計と睨めっこしていたので思わず部屋を飛び出し ・・・ そうになって。

エヘン・・・とひとつ、今度は大きく咳払いをしてジョ−はわざと悠々と階下のダイニングへ向かった。

 

 

「 あれ。 博士は。 」

「 お出掛け。 今日は遅くなるのですって。 」

「 そうなんだ ・・・ 」

「 ええ。  はい、どうぞ。 」

「 ・・・ いただきます。 」

湯気のたつ皿を前に、 ジョ−は手をあわせてから箸を取った。

「 これ ・・・? 」

「 ブイヤベ−スです。 」

「 そう。 」

 

・・・ なんだ?? シチュ−じゃないのかな。 あれれ・・・エビ? 貝だよな、これ・・・

あら。 気にいらないのかしら。 

ふうん ・・・ 変わった味だなあ。 

もしかして。 食べたこと、ないのかしら。

・・・ トマト味なら チキンでいいのに。  へえ ・・・ 魚も入ってるな・・・

魚介類、苦手? ・・・ まさかね。  日本人だもの。

 

カチャ ・・・ カチン ・・・

ひそかに食器の音だけが それもほんのときたま響くだけだ。

 

「 あ ・・・ 」

「 お代わり? 」

「 あ・・・ ううん、あのう ・・・ 御飯は。 」

「 今日はパンなの。 ほら、ガ−リック・ト−スト。 目の前にあるでしょ。 」

「 あ ・・・ ああ。 ごめん・・・ 」

「 いいえ。 」

 

ト−スト?  ・・・ なんだ〜〜 晩御飯には<米の飯>が食べたいのに・・・

パンはキライ? まさかね。 ブイヤベ−スにはバゲットよ。

・・・ 美味しいけど。 御飯じゃないとどうもな〜 腹保ちが悪いってか・・・

ゴハンじゃないとダメなのかしら。 だって今晩、炊いてないわよ。

いつもは ゴハンとパンとどっち・・・って聞いてくれるのに。 

たまにはわたしの食べたいモノ、作ってもいいじゃない。 

 

「 ・・・ ごちそうさま。 」

「 あら、もう ? 」

「 うん、 美味しかったです。 」

「 そう?  あ ・・・デザ−ト、あるの。 」

「 なに。 」

「 ライス・プディングよ。 」

「 ( ・・・え ・・・ ) あ ・・・ うん、今日は いいや。 この林檎、もらっていい。 」

「 え ・・・ええ、 どうぞ。 」

「 うん。 じゃ ・・・ ゴチソウサマ ・・・ 」

ジョ−は食卓の奥に盛ってあった林檎を一つ取り上げると そのまま出て行ってしまった。

 

なんなのよ?? いつもならデザ−トは?ってそっちから聞くじゃない。

ライス・プディング ・・・! あれは 米への冒涜だよな〜〜 甘く煮た米が喰えるかって。

わたしのデザ−トより 林檎の丸齧りのがいいの?? そう・・・ そうなの。

あ・・・ コ−ヒ−飲みたいな。 お茶でもいいんだけど・・・

コ−ヒ−もいらないの? そんなに ・・・ わたしと同席したくないわけ??

 

 

がちゃり、と自室のドアを開けて ・・・ どさっとベッドに寝っ転がり。

ジョ−は林檎を一口 齧った。

 

  ・・・ しゃりり ・・・ しゃりしゃり ・・・

 

静まり返った部屋に 林檎を噛む音だけがやけに大きくひびく。

もう一口。

・・・ かぷっと齧り付き ジョ−は林檎を口から離してしまった。

 

  コレ、食べちゃったら。 もうすること、ないんだ・・・

 

ギルモア邸での夕食は 普段はいつも賑やかで食事が終ってもず〜っとそのまま・・・

お喋りを楽しむ時間になる。

もちろん、たいていはフランソワ−ズがその日の出来事やらメニュウの出来栄えについて

話し ジョ−はほとんど相槌を打つ・・・というパタ−ンなだが・・・

それでも 笑ったり感心したり。 

この国独特の習慣をちら・・・っと説明したり。

たとえ二人っきりの食卓でも − いや、ジョ−はかえって嬉しいのだが − 賑やかな時間を過す。

孤独な少年時代を送ったジョ−には 一日の最大の楽しみだった。

昔は永かった夜は この邸ではあっと言う間に過ぎた。

 

  いったい何を 怒っているんだよ。  あの ・・・ 女性のことか?

  ふん ・・・ 案外ヤキモチ焼きなんだな、フランソワ−ズって。

 

天井に向かって吐いた言葉はそのまま ジョ−の上に落ちてきた。

  

  ヤキモチって ・・・。  ふん!

  ・・・ もう 寝る。 寝ちゃおう・・・!

 

ジョ−は林檎をサイド・テ−ブルに放り出すと 毛布をアタマから被ってしまった。

毛布は薄暗い闇をつくってくれたけど、いつもの優しい眠りは運んでくれなかった。

 

 

ふううう ・・・・

溜息は その部屋にもいっぱいに満ちていた。

軽い羽根布団の下で フランソワ−ズはもう何回寝返りを打ったか忘れてしまった。

さっさと後片付けをし、ゆっくりとお風呂に入り ・・・ 髪を乾かすともうすることがなかった。

 

  どうしたっていうの? なにが気に入らないのよ。

  ジョ−って・・・ 抱え込むタイプだったのね・・・  もう 寝るわ・・・!

 

久し振りにゆっくり・・・と思ってもぐりこんだベッドはいつもみたいには温かくなかった。

 

 

「 ・・・ あら。 お早う。 ・・・ 早いのね。 」

「 ああ・・・ お早う。 うん 気持ちがいい朝だからね。 」

やっと。 輾転反側の溜息塗しで過した夜が終った。

朝日が ちょい・・・と顔を覗かせ最初の光がギルモア邸のリビングに差し込んだころ。

ジョ−は フランソワ−ズと 廊下でばったり顔を合わせた。

腫れぼったい目をみられたくなくて。 いつもよりもっとくしゃくしゃの髪が気になって。

二人はてんでに目を伏せ、そっぽを向いていた。

「 今日もいいお天気ね。 」

「 あ ・・・ ああ、うん。 」

 

  ・・・ はあああああ・・・・・  どうしよう ・・・ また・・・?

 

  もう 限界よ ・・・ がまんもオシマイだわ ・・・ !

 

「「 ・・・ あの! 」」

 

  起キタヨ! ネエ、 出掛ケタインダ。 支度ヲシテヨ!!

 

二人のアタマに同時に 赤ん坊の声がきんきんと響いてきた。

「 あ ・・・! イワン、起きたのね。 」

「 そうだね。 出掛けたいって ・・・ どこへ? 

「 わからないわね。 ともかく、<おめざめ> の用意をしてあげなくちゃ。 

 ジョ−、お風呂に入れてあげてくれる? 」

「 了解。 きみ、着替えとミルクの準備を 頼むね。 」

「 わかったわ。 いったいどこへ行きたいのかしら? 」

今の今までの、ぎくしゃくしたム−ドは何処へやら、二人はてきぱきと行動を開始した。

 

そして ―  当てのないドライブの果て、 ココに辿り着いたのだ。

 

 

 

秋の日が穏やかな光を投げかけている。

なかば取り入れの終った田んぼからは藁のいい香りが漂う。

ゆるゆると風が色づいた葉を 運んできた。

 

自然は確かに <生きて> いるのに。 植物はちゃんと目覚めているのに。

その村には 動くモノの気配はまったくなかった。

道端の道祖神が 通り過ぎる3人をじっと見つめていた。

「 ・・・ こわい ・・・ なんだか わたし、とっても ・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

ジョ−は空いている手を伸ばし フランソワ−ズの手を握った。

白い手はいつもよりひんやりと冷たかった。

フランソワ−ズは 一瞬ぴくり・・・と身を震わせたが、すぐにジョ−の側に寄り添った。

 

  ・・・ やっぱり・・・ 暖かい ・・・

 

どちらからともなく 握り合う手に気持ちが篭った。

 

  ・・・ ごめん。

 

  ごめんなさい ・・・

 

前を見つめているけれど、二人の指はゆっくりと絡まりあった。

そう ・・・ 一緒ならなんだって平気だ!

ここ数日、ぐちゃぐちゃと心の中での堂々巡りは いつの間にか終っていた。

天井を睨み、寝返りを打ち続け  溜息を付き果て過した時間は

この ・・・ わずかな触れ合いできれいさっぱりと融け去った。

 

ちょん、と握りあった小さな接点から ほんのり暖かさがだんだんとひろがり

ジョ−を フランソワ−ズを 包んでゆく。

 

  きみがいないと ・・・ぼくは。 それだけでいい、きみが居てくれるだけで。

 

  いつも側にいて。  ・・・ それがわたしの幸せ ・・・ 他には何もいらないわ。

 

言葉も見詰め合う眼差しも無いけれど、二人の気持ちが通じ合う。

繋いだ手をことさら誇示するでもなく、隠すでもなく・・・ 二人はごく当たり前の顔をして

歩いていった。

 

 

やがて長閑な農道は村落を抜け、目の前がぱあ・・・っと開けた。

 

  ・・・ あ ッ !!

 

3人の前には 目路はるか続くかぎりの ― 花畑が広がっていた。

色彩の乱舞に 一瞬目が眩み3人は呆然と言葉を失ってしまった。

 

「 ・・・ すごい ・・・ 岡一面に花が ・・・ 花だらけだ。 」

「 みんな満開ね。 ・・・ あら ?? でも ・・・ 変じゃない?? 

 だって ほら ・・・ ほら。 百合に菊にチュ−リップに ・・・ ポピ−?? 

 みんな一緒くたに咲いてるわ! 」

「 そうだね! そう ・・・ 今はこんな花の季節じゃない。 」

「 変なのはそれだけじゃないようだぞ。 こっちへ来てごらん。 」

「 え・・・  あ?? 」

「 あら ・・・ 道ができてるわ・・ こんなにくっきり。 」

遠目には岡全体が花で覆われて見えるが、実際にはその中にくっきりと<道>が

できていたのだ。

 

「 これは ・・・ だれかが意図的につくったのじゃ。 」

 

花畑の中に顔を出した岩の上で、博士は呆然と呟いた。

咲き乱れる花々の中には 正確な渦巻き模様の<道>が出来ていたのだ。

 

 

 

 

「 ・・・ 行っちゃったわね ・・・ 」

「 ウン。 もう ・・・ 見えないや。 」

「 小さな宇宙船だったのじゃな。 多分乗組員もそんなサイズなのだろう。 」

「 ええ・・・ そうですね。 」

3人の目の前は地面が盛り上がり、もはや整然とした花畑ではなかった。

螺旋模様に咲き乱れていた花々の真ん中にあった岩は 消えてしまった。

いや ・・・ 飛んで行ってしまったのだ、星々の彼方 ― 彼らの故郷の星へ・・・・

不意の遭難で難儀をしていた不思議な生命体が 必要としていたのは

たった一本の小さな ネジ だったのだ。

それを与えてくれる存在をもとめ、<彼ら>は村人を眠らせ花々に

高度な地形文様を描かせたのだ。

 

花々が宙に舞い散ったのはほんの束の間で、今は穏やかな日差しが

多少縒れてしまったが、色とりどりの花たちに注がれている。

ふわり ・・・と花々を揺らす風が 暖かい。

「 異星人さん達。 また ・・・ 来るのかしら。 」

「 ウン。  でも 数千年の後、だよ。 この星の時間でね。 」

「 そうねえ。 ちょっと残念ね。 」

「 しかし、イワン。 君はあのネジをどこから調達したのかね。 」

ぷらぷらと農道を歩きつつ、博士はフランソワ−ズの腕に抱かれたイワンに尋ねた。

 

< ウン? ・・・ アア。 ホラ ・・・ 見テゴラン。 >

「 え ・・・? 」

村の入り口で 中年のお巡りさんが呆然を立っていた。

足元には自転車が転がっている。

 

< アノ ・・・ 自転車カラサ。 イッポン失敬シタンダ >

「 まあ ! イワンったら・・・ 」 

 

コケコッコ 〜〜〜  

村の方から 目覚めた鶏が時を告げていた。

 

 

 

帰りは一直線 〜〜 なドライブをおえ、一行はやっと海辺の我が家へ帰りついた。

「 ・・・ なんだか不思議なドライブだったわね。 」

「 うん ・・・ ちょっと真昼の夢みたいだった。 本当のコトかなって・・・ 」

「 そうねえ・・・ お花畑でみんなで白昼夢を見てたのかも。 」

ほっと一息ジョ−とフランソワ−ズはぼんやりリビングのソファに座っていた。

「 ワシらはちょっと ・・・ さっきのデ−タを考察してみたいのでな。 」

< ウン。 博士、アノ星ノ位置ハ ・・・ >

車に乗り込むなり博士とイワンは熱心に討論を始め海辺の邸に戻ってもそのまま二人は

研究室に直行してしまった。

 

「 ・・・ あの、さ。 ・・・ ごめん。 気の利いたコト、言えなくて・・・

 でも! ぼくはきみの作ってくれる御飯もお弁当も 大好きだからね! 」

「 あら。 食べるものだけ? 」

「 ・・・う ・・・ いや。 あの ・・・ きみが! ぼくはきみが 好き なんだ。 」

「 ジョ−。 ありがとう ・・・ あなたのその言葉が聞きたかったの。

 ううん、勿論 ジョ−の気持ちはわかっていたわ。 でも ・・・ でもね。 

 なにも言ってもらえないと 不安なの。 ・・・ 淋しいわ。」

「 ごめん・・・ こんなヤツでもいいのかな。 」

「 ・・・ ジョ−でなくっちゃイヤよ。 」

フランソワ−ズはするり、とジョ−の首に腕を絡めた。

・・・どきん ・・・! 

ジョ−の心臓が密かに燃え上がり・・・

「 ぼ・・ぼくも ・・・! きみでなくちゃ ・・・ きみと一緒がいいんだ。 」

「 ・・・ ねえ、ちょっと付き合ってくださる。 」

「 え ・・・ どこか行くの。 あのゥ ・・・ ぼくの部屋で ・・・ 」

もじもじしているジョーに フランソワ−ズは さっと軽いキスを落とした。

 

   ・・・ え ・・・ あのあの ・・・ ココで・・・?

   そのう ・・・ ベッドの方が落ち着くと ・・・

 

ジョ−はますますどぎまぎして 立ちんぼうである。

フランソワ−ズは そんな彼に艶やかに微笑み ・・・ そして。

 

「 さあ。 それじゃこれから町の金物屋さんに行かなくちゃ。 」

「 ・・・ 金物屋 ?? 」

「 そうよ。 あのネジ。 無断借用でしょう? 

 駐在さん、自転車が動かなかったら困ってしまうわ。 ちゃんとお返ししましょう。 」

「 あ・・・ ああ  そ、そうだね ・・・ 」

「 ジョ−・・・。 あ ・ い ・ し ・ て ・ る ♪♪ 

「 う ・・・ ああ・・・うん。 」

「 ・・・ねえ・・・? 」

青い瞳が じっとこのシャイなジャパニ−ズ・ボ−イを見つめている。

 

  ・・・ よし ・・・! ぼくだってオトコだッ!!

 

「 あ〜 ( えっへん ) アイシテルよ!! ぼくのフランソワ−ズ!! 」

 

 

お花畑に埋もれていた小さな異星人が 恋人達の間にジョイントを 渡してくれたのかもしれない

    ネジを一本、もらったお礼に。   

 

 

**********   Fin.   **********

 

Last updated : 10,30,2007.                                 index

 

 

******  ひと言  ******

え〜 このモト話 ( 原作 ) はかなりマイナ−なのでご存知ない方も多いのでは・・・とおもいます。

『 メルヘン星 ( ほし ) のお花 』 編 です。

J & F が仲良く登場するのですが、ミッション・・・とは少し違ったお話が展開します。

( 小難しい数式は パス!! )  

それで♪♪ 微妙〜〜な関係の二人を絡めてみました (^_^;)

あ・・・ ジョイント と  ネジ は別モノですが ・・・ ま〜 <くっつける>って機能は

同じかな〜〜〜 なんて大目に見てくださいませ。 <(_ _)>