『  そして二人は  』

 

 

 

 

 

 ・・・・ ふうぅ 〜〜〜〜 ・・・・・

 

大きく吐いた息は 一陣の風がさらって冬の空へと持ち去っていった。

フランソワ−ズの瞳はその後を真っ青な彼方まで追いかけていた。

「 ・・・ あら。 春 ・・・・? 」

空を写し取った瞳が きらきらと輝いている。

 

季節の移り変わりは ちょうど絵の具を塗り重ねゆくのと似ているのかもしれない。

冬はある日突然にその座を春に明け渡すのではなく、 たとえば空の色は毎日ほんの少しづつ

変わってゆき・・・気がつくと まったく違う優しい色合いになっていたりするのだ。

 

フランソワ−ズはこの岬の突端の家に住むようになり、初めてそのことに気がついた。

 ― いや。

それまではその日を無事に生き延びるだけで精一杯・・・ 見上げても目が追うのは戦闘機の機影と数、

そして耳に入れなければならないのは 爆音やらスクリュ−音だけだった。

空の色の微妙な変化  流れる風の肌触りの差  ― そんなコトに意識を向ける余裕はなかった。

たまに  ほんの時たま。

疲れすぎて眠れない夜、 < 当たり前だった日々 > を思い浮かべることもあったが・・・

それはかえって現在への絶望感を増すだけだったのでやがて意識的に記憶を封印していた。

 

 

   そして ―  いま。

 

 

「 ・・・ う〜〜ん ・・・ いい気持ち・・・!  風は冷たいけど、お日様がこんなに ・・・ 」

岬のギルモア邸のリビングから からりと窓を開けフランソワ−ズは大きく深呼吸をしていた。

眼下に広がる海も おだやかにたゆたい、吹きぬける海風も厳しいものではなかった。

この地は あの悪夢の日々をすごした島や 彼女の故郷の街と違い温暖で穏やかな気候に恵まれていた。

「 まだ一月だなんて信じられないわ。 ・・・ ついこの間、新年になったばかりなのに。 

 あ・・・ サクラ草にお水をあげなくちゃ・・・ 」

彼女はぱたぱたとテラスから引き返し ほどなくして如雨露を手に戻ってきた。

「 わあ・・・ こんなに沢山 蕾が!  あらら・・・こっちのシクラメンも元気ねえ。 外に出してあるのに・・・

 アパルトマンの窓だと 冬には鉢植えは凍ったりしたのにねえ。 

つぎつぎと草木の鉢に水をあげ・・・ ふと 手が止まる。

「 あのゼラニウム ・・・ 兄さん、枯らしてしまったかしら・・・ 」

もう一度、青い瞳は同じ色を捜して 空に飛んで行く。

見上げる空は東の果てのこの島から 故郷のへと続いている・・・はずだ。

想いは距離も そして時間すらも超えることができるのだろうか。

・・・ ふうう・・・・

今度はすこしだけ 重い吐息がもれた。

「 もう・・・忘れたはずでしょ。 フランソワ−ズ? あなたの居場所はここしかないのよ。 」

亜麻色の髪が冷たさを残す風に さらさらとゆれる。

 

そう・・・ ここが <我が家> なのだ。

 

フランソワ−ズはぷるん、と首を振ると、サンダルを鳴らし部屋にもどった。

「 さあて・・・と。 お洗濯もお掃除も終ったし。  う〜〜ん・・・ 誰もいないってヒマ過ぎてヘンなの。 

 つまんないな。  ジョ−まで出かけちゃっているんですもの。 」

ぽすん・・・とソファに腰を落とし なんとなくリビングを見回す。

南向きに大きくテラスを取ったその部屋は 仲間達たちが全員顔を揃えた時でも狭苦しくはない。

緊迫した雰囲気の時も リラックスし談笑する日々も ここは皆の集う部屋なのだ。

それが いま。 彼女はたった一人で。 自分自身の膝に頬杖をついていた。

 

「 博士とイワンはもうずっと研究室に篭りっぱなしだし・・・・ ジョ−は。 え? あれ・・・

 買い物・・・じゃないんだわ。 図書館でもないわね〜  どこへ行くって言ってたかしら。 」

壁にかけたカレンダ−を覗いてみたが 彼のメモらしい書き込みはない。

「 そういえば。 昨夜も・・・ ううん、このごろずっと遅いわよねえ。 」

一つ屋根の下に住む・セピア色の髪の青年、近頃あまり家にはいない。

「 ・・・ ジョ−には この家はつまらないのかしら。 そうよね・・・ 若いんですもの。

 にぎやかな繁華街とか ・・・ 都会の大きな街のほうが楽しいに決まっているわよね。 」

 

ふうう ・・・・

 

今度はもう少しだけ重い溜息が零れ出る。

「 若い、 か。  ふふふ・・・ ホンモノの18歳、だものね。 こんなオバアチャンの側にいるのは

 退屈よねえ。 もしかして・・・本当はもっと街中で一人暮らしでもしたかったのかも。 」

大地の色をした瞳は いつだって優しく仲間達に ― 彼女に 微笑かけていたけれど。

 

 

 

「 ・・・ぼく。 ここに一緒に住んだらダメですか。 」

ギルモア博士がこの土地を本拠地に決めたとき、彼は一番最後におずおずと発言した。

仲間達のほとんどが帰郷をえらび、また別の地に住むことに決めていた。

「 それは勿論かまわんが。 いや、そうしてくれたらワシは大変助かるがなあ。

 しかし、 君は・・・その・・・この国に身内とか友人が居るのではないのか。 」

「 ぼくは他に行くところなんて ないんです。 博士、お願いします。 」

「 ・・・ よし。 ワシから君に頼むよ。 一緒にここで暮らしておくれ。 」

「 はい。  ありがとうございます。 」

彼はぴょこん、と立ち上がると身体を深く折って挨拶をした。

「 あの。 わたしも ・・・ ここに住まわせてくださいませんか。 」

やわらかい声が すぐに続いた。

 

   ・・・ あ・・・あら。 わたしったら・・・ こんなコト、言ってる・・・?

 

自分自身でもすこし呆れるほど自然に そんな言葉が口から出ていた。

セピアの瞳は びっくり、大きく見開かれたあと、優しい光に満ち ・・・

「 わあ〜〜 本当かい? 嬉しいなあ〜〜 」

「 あはは・・・ ジョ−? これで美味しいメシにありつける、と思っておるのだろう? 」

「 え! そ、そんなんじゃないですよ〜〜 」

「 はは〜〜ん・・・ おい、ボ−イ? 我らがマドモアゼルに手を出すなよ? 」

「 えええ!! そそそそ ・・・そんなんじゃ・・・ ぼくたち、そんなんじゃ・・・ 」

「 はん。 <ぼくたち> ねえ?  これで証拠は上がったな。 」

「 え〜〜〜 ・・・  」

「 ははは・・・ いいじゃないか。 ワシらは 4人、ここで仲良く暮らすことにするよ。

 皆も いつでも帰ってきておくれ。 」

博士は満面の笑みを浮かべ 大きく頷いた。

「 ここはな。 皆のもう一つの <家> だと思って欲しいのじゃ。 」

不思議と誰も返事をしなかった。

しかし  声には出さなくてもそれぞれが安堵の視線と吐息と。 そして笑顔で博士の言葉に応えたのだ。

あの時から この岬の邸で フランソワ−ズはセピアの髪の青年と暮らすようになった。

・・・ もちろん 仲間として。  もちろん 友人として。  もちろん  二人っきり・・・ではない。

 

   ・・・ わたしのこと。 どう思ってる・・・?

   仲間?  食事を作ってくれるヒト?  ・・・ もしかして・・・ 鬱陶しいなあ、なんて思ってる・・・?

 

 

 

いつの頃からか、気がつけば彼の姿を追っていた。 彼の声を捜していた。

外では勿論、 家の中でも、彼女は絶えず彼を意識している自分自身に驚くこともあった。

この地に来てじきの頃は彼がまさに < 頼り > だった。

「 日本語って! ・・・ も〜〜 よく判らないわ! 」

「 え。 だってきみ、上手だよ? さっきのお店でだってちゃんと通じていたじゃないか。 」

「 ・・・ カンよ。 買い物用語は簡単だもの。 観光客だって使うでしょう? 」

「 う〜ん、そうはそうだけど。 でも・・・ ほら? こうやってぼくとちゃんと話しているじゃないか。 」

「 ジョ−の言葉はわかるの。 でもね。 さっきの雑貨屋さん・・・オジサンの喋る言葉は値段くらいしか

 わからなかったわ。 化粧品コ−ナ−にいた女の子たちの話は ・・・ 全然理解不可能!  」

「 あは。 そりゃ・・・ ぼくだってカノジョ達の話なチンプンだよ。

 あのオジサンは ・・・ う〜ん、日本語ってさ〜地域によって微妙に違うし。 」

ジョ−はなぜか くっくっ・・・と咽喉の奥で笑っている。

「 それはフランス語だって同じだわ。  自動翻訳機、使っちゃおうかな・・・ 」

「 え。 ・・・きみ、使ってないの? 」

「 ええ。 普通の時には何も使いたくないの。  ジョ−だってそうでしょ? ここはあなたの国なんだし。 」

「 う・・・うん・・・ まあ、ね。  あ、ねえ? お茶、してゆこうか。 あっちに静かなカフェがあるんだ。 」

ジョ−はなぜかひどくどぎまぎし、珍しく彼から寄道を提案した。

「 まあ、嬉しいわ。  ジョ−が外でお茶に誘ってくれたのって・・・ 初めてじゃない? 」

「 ・・・ そ ・・・そっかな〜〜  さあさあ、行こうよ。 」

ひょい、と買い物袋を取り上げると ジョ−は先にすたすたと歩きだした。

 

   ふふふ・・・ 可笑しな・・・ヒト。  でも ・・・ とっても温かいヒト、ね。

   あなたと一緒にいるのって。  好きだわ、わたし・・・

 

 

そんな淡い想いを自分自身の中に見つけたのは何時の頃だっただろう。

でも。 ひょっとして。  想いの色合いは一方的に濃くなっているとしたら。

 

   いいじゃない。 わたし、一人で閉じ込めておけば。 

   ・・・ 一緒のお家に居られるんだもの  それだけで ・・・

 

・・・・ いけない・・・!

またもや零れ出そうとした吐息を 彼女はそっと飲み込んだ。

 

「 あ〜あ・・・ 時間が有りすぎるとヘンなカンジねえ。 そうだ! ケ−キでも焼こうかな・・・

 そうよ、今日のティ−・タイムに あの真っ赤な林檎を使ってパイを焼くわ。 

 きっと ジョ−もその頃には帰ってくるでしょうし・・・。 ふふふ・・・甘いモノ、好きなのよね、彼って。 」

パン・・・!とエプロンを叩くと フランソワ−ズは勢いよく立ち上がった。

 

 

その日のアップル・パイは。  酸味の強いかっしりした林檎を生かした味を博士は絶賛したのだけれど。

切り分けておいた、一番大きなピ−スは。 パリパリのパイ皮は萎れ林檎の蜜が染み出てしまい。

それでも なお、食べるヒトをまってリビングのテ-ブルに上にひっそりと置かれていた。

 

 

「 ・・・ く 〜〜〜 !! もう  ・・・・ ダメだぁ 〜〜 」

ジョ−は自室のドアを開けると そのままふらふらとベッドに倒れこんだ。

ぼすん・・・!  

シ−ツと枕カヴァ−のぱりっとした肌触り、そして微かに香る・・・ これは石鹸かな、いやもしかして。

ふかく息を吸い込み ジョ−の口から思わず感嘆の呟きがもれた。

「 あ・・・  ああ イイ匂い ・・・これって フランの匂い・・・かなあ・・・  ふう・・・ん・・・ 」

枕元に手を伸ばし、カレンダ−を手にとった。 

日付に丸印と なぜか <3倍> と赤い字が大書きされている。

「 ・・・ まだまだなんだ。 間に合うかなあ・・・ 間に合わせる・・・! だから・・・ね 」

ジョ−はもぞもぞ起き上がると卓上カレンダ−の裏側をめくった。

「 ・・・へへへ・・・ 集合写真しかないけど。 オヤスミ・・・ 間に合わせるから・・・絶対に! 」

そうっと指先で写真を撫でる。 真面目な顔が ちょっと微笑んだ・・・風に見えた。

「 ・・・ ぜったいに・・・ ぼくの ・・・ ああ・・・ うん・・・ 」

ぶつぶつの呟きは ― ものの一分と経たないうちに 穏やかな寝息に変わった。

 

 

 

「 おはようございま〜す・・・ あら? 」

トントントン ・・・・

軽い足音が階段を降り、リビングに入ってきた。

カ−テンを引き、窓を開ければ朝の冷気が篭った空気をさ・・・っと追い出した。

「 ジョ−ってば昨夜いったい何時に帰ってきたのかしら。   あら? 」

リビングのテ−ブルの上には  空っぽのお皿。 そして

 

   超〜〜〜おいしかった! ゴチソウサマ。 朝御飯にしたよ。 

   今日は夕飯には帰ります、   ジョ−

 

「 え・・・ 夜中に帰ってきて、それでもう出かけたってこと? いったい何処に何をしに行っているのかしら・・・ 」

「 おお、 お早う、フランソワ−ズ。 」

「 あ、博士。 お早うございます。  お早いのですね〜 」

「 うん? ワシの定刻じゃよ。 おや・・・ ジョ−はもう出かけたのかい。 」

朝刊を手にギルモア博士は フランソワ−ズの手元のメモを覗きこんでいる。

「 ええ。 このところずっと。 行き先とかご存知ですか。 」

「 いやあ? 何も聞いてないが・・・多分 アルバイトでもしているのではないかな。

 アイツも年頃じゃて、欲しいモノもいろいろあるだろう? 」

「 ・・・アルバイト ・・・ でも、こんなに朝早くから夜まで・・・ ? 」

「 ま、心配せんでも大丈夫じゃよ。  お前も やりたいことがあったらなんでもやってごらん。 」

「 え ・・・・ ええ ・・・・ 」

「 自分の人生を、思うがままに生きて欲しい・・・  ワシが口出しできる義理ではないが・・・な。 」

「 ・・・・・・・・ 」

博士の苦い笑みに フランソワ−ズは穏やかに微笑み返した。

「 わたし。 今は ここの生活がとても好きですわ。 」

「 ・・・ ありがとうよ。 」

ぽつり、と言うと博士はそっとフランソワ−ズの髪に手を乗せた。

「 踊りたいのではないかな。 この国でも チャンスはあると思うぞ。 」

「 ・・・ え ・・・・ 」

「 なに、ちょいとジョ−から聞いてな。 ワシにも少々心当たりがあるし、コズミ君に聞いてもいい。

 自分で探したければ 今はネットでいろいろ検索できるぞ。 」

「 ありがとうございます。 ・・・・ もうちょっと 考えさせてください。 」

「 ああ、勿論。 ただなあ・・・ こんな辺鄙な場所で家事ばかりしてもらっていて申し訳なくてな。 」

「 あら、わたし。 このお家のことをするの、好きです。 だって・・・ ここはわたしのお家ですもの。 」

「 そうじゃったな・・・ ありがとうよ、フランソワ−ズ・・・ 」

「 博士? わたし達、家族なんですもの。 お礼なんて ・・・ 

 わたしもちゃんとやりたいコト、計画してますから。 どうぞ安心なさってください。 」

「 うんうん・・・ それじゃお前の計画とやらを楽しみにしておるよ。 」

「 はい。  ・・・ でも・・・ ジョ−って。 ちゃんと御飯、食べているのかしら。 」

「 ははは・・・ カップ・ラ−メンでも掻き込んでおるのじゃろ。 心配無用じゃよ、若いオトコなんて

 そんなものさ。 」

「 ええ・・・ そうですわよね・・・ 」

確かに元気一杯の18歳、 それも実は最強のサイボ−グ戦士の身を案ずるのも 妙なコトなのだが。

 

   ・・・ ジョ−。 やっぱり このオウチが面白くないのかしら・・・

 

カラのお皿に聞いてみたい気分なのだ。

「 さあ! 美味しいコ−ヒ−淹れて。 朝食にしましょう。 」

「 おお・・・ いいなあ。  だんだん温かくなってきたし、春には花見に行こう。 」

「 はなみ?  それってなんですか。 」

「 あははは・・・ この国に人間が大好きな行事じゃよ。  さ・・・朝食じゃな。 

 おっと、オレンジはワシが剥こう。 ここは果物がほんに豊かな土地で嬉しいわい。 」

「 そうですね。 

二人は笑いあいキッチンに向かった。

明るい光が リビングに、そしてキッチンにも溢れ、ちょっとだけ春の兆しを見せていた。

 

 

 

 

「 すいません!  遅くなりました・・・! 」

キャップを深くかぶった青年が ばたばたと駆け込んできた。

「 おう! 島村〜〜 待ってたぞ。 早速だけど、配達に出てくれ。 これと・・・これとああ、これも。 」

林立するビ−ル・ケ−スやらダ−ス箱の間にいた大将は とん、と配達票の束をさしだした。

「 あ、大丈夫か? ちょっと積み過ぎかもな。 

「 大丈夫です!え〜と ・・・ ああ、こっちはワン・ケ−スですね。 うんしょ・・・ 」

青年はスリムな身体に似合わず、 ひょいとビ−ル・ケ−スを持ち上げ配達用のバイクに積み込んだ。

「 それから日本酒か・・・ 化粧箱いりって・・・ああ、これですね〜 それに缶ビ−ル・・・ 」

「 お前って。 ほっんとうにチカラ持ちなのな。  すげ〜なあ。 」

「 あはは・・・ その分、アタマの中味、軽いですから。 じゃ、行って来ます〜 三倍、三倍〜〜っと♪ 」

「 おうよ。 事故らんように頼むぜ〜 」

「 はい〜〜 」

専用ブ−スの方が重そうなバイクは 滑らかにかつ全速力で旨安酒店を飛び出していった。

 

「 ・・・ マジ、すげ〜よなあ・・・ しかし・・・さんばい ってなんだ? 」

「 おやっさん? どうかしましたか。 あれ、バイトのヤツはまだ来ませんか。 」

「 あ? ヤツならとっくに配達に出たぞ。 二人分、 いや三人分くらい積み込んでよ。 」

「 ・・・ へええ〜〜 アイツ、店番よか配達のが合ってるらしいですね〜 結構人気あるけど。 」

「 や〜 あの馬力は今時、貴重だ! 学生か? 」

「 あ、いや〜 フリ−タ−ってやつみたいですよ。 ここに来る前にコンビニで一仕事してくるらしいです。 」

「 へえええ??? あ! 車かでっけ〜バイクでも買いたいんだな。 うんうん・・・きっとそうだ。

 ・・・ なあ? <さんばい> って名のバイクでもあんのか? 」

「 サンバイ? なんっすか、それ。 」

「 いや〜〜 島村がな、いっつも嬉しそうに さんばい さんばい ってぶつぶつ言ってるからよ。 」

「 サンバイ ねえ? どっか外国のヤツですかね。   あ・・・ モシモシ? 旨安酒店です〜 」

「 おし! 俺もあと一踏ん張りするか。  え〜と ・・・ 張々湖飯店 〇〇ビ−ル 5ケ−スか。 

 あ〜たしかこれはアイツが紹介してくれた客だったな。 いや〜〜アイツはウチの福の神、かもな。 」

酒屋の親父は上機嫌で注文伝票をひっくり返し 商品を並げ続けた。

「 サンバイ ・・・サンバイ〜〜っと。  あ? ははは・・・アイツの口癖が移っちまった! 」

活気に溢れる店先に オヤジの恵比須顔が行き来していた。

 

 

「 え〜〜と・・・この後今日はっと。 道路工事は・・・あ、休みか。 うわ♪ ウチで御飯〜〜♪ うわお〜〜 」

「 ??? な、なんだ〜 島村、足でもぶっつけたか? 」

「 あ! いえ〜〜 オヤッさん、 なんでもないです〜。 」

妙な雄叫びに驚いた店主に 青年は倉庫の奥からもう一回声を張り上げた。

「 そうか〜? ああ、もう上がっていいぞ。 お前のおかげで配達が速いって評判なんだ。 

 どうだ〜 たまには呑みに行かんか。 奢るぞ。 」

「 あ・・・すんません〜 今日はウチで食べるんですよ。 すんません〜〜 それじゃ! 

 ウチで御飯〜〜 三倍 三倍〜〜っと♪ 」

「 あ・・・ああ。 明日も頼むぞ〜〜 あ・・・ もう行っちまった・・・ 

 ウチでメシって ・・・ そんなに嬉しいもんかね? 近頃の若けえヤツはち〜っともわかんねえなあ。」

このご時勢に結構なこったが・・・ オヤジはブツブツいいつつも上機嫌で店の片付けを始めていた。

 

 

 

「 ・・・ ただいま・・・!! 」

「 お帰りなさい、ジョ−。  今日は早いのね、嬉しいわ。 」

「 うん! 晩御飯、みんなと一緒食べれる〜〜って もう加速したい気分だった♪ 」

「 まあそうなの? ね・・・ バイトしているの? 」

「 え・・・あ〜 ・・・うん、まあね。 そこそこやってるだけさ。 ねえ晩御飯、なに。 」

「 あ ・・・ ジョ−の好きな肉ジャガよ。 この前、作り方をTVでやっていたから・・・ お昼からず〜っと

 煮込んでいたの。 ジョ−の気に入った味になっているか・・・心配だわ。 」

「 うわお♪ やったあ〜〜〜  うん、きみの料理なら美味しいに決まっているよ! 」

「 まあ・・・ じゃあ、すぐに用意するから・・・ 手を洗ってきてね。 あ! ウガイも〜〜 」

「 はいはい♪  ふんふんふん〜〜♪ 肉ジャガ〜〜〜 肉ジャガ♪ 」

ジョ−はハナウタと一緒にバス・ル−ムに消えた。

 

   あらまあ・・・ あんなに上機嫌の彼って 珍しいわねえ・・・

 

ジョ−って。 いつもにこにこしているのね。

そう、最初に彼に関してこころに残った印象は  笑顔  だった。

笑顔、というか淡い微笑み、というか。  気がつけば彼はいつでも穏やかな笑を浮かべていた。

命をかけた脱出劇とそれにともなう逃避行がおわり、曲りなりにもやっと落ち着いた日々が戻ってきたとき、

フランソワ−ズは やっとゆっくりとこの <最後の仲間> を見つめる余裕が持てた。

 

   へえ ・・・ ? このボウヤって。 いっつもにこにこしているわね。

   あの島で初めて会った時は ただまん丸に目を見開いていただけだったけど・・・

 

呆然としているのは当たり前だったろう。 なにがなんだかさっぱりわからない・・・ 

半分泣いているのか 怒っているのか ・・・そんなあやふやな表情だった。

それでも。   彼の眼差しはフランソワ−ズの心に深く染み透ったのだ。

 

   そう・・・ね。 わたし。  彼のあの目が。 あの瞳が忘れられない・・・

 

全員で脱出し転戦に継ぐ転戦の日々、 闘いの炎を共に掻い潜ってゆく日々だった。

そんな中で時に仲間達同士 激しくやりあう場面もしばしばあったけれど、

彼は ― 最後のメンバ−、 ジョ−・島村 は ― いつも黙って微笑んでいた。

 

「 009! 009はどう思う。 」

「 そうだ、お前の意見を聞こうじゃないか。 」

「 ・・・え ・・・ ぼくは皆の意見に従うよ。 」

「 だから! その<皆の意見>を決めようってんだ! 」

「 お前の意見、を言え。 」

「 ・・・ え ・・・ 困ったな〜 ぼくの意見って・・・ 」

「 今までの議論を聞いてなかったのか!? 」

「 ちょっと・・・ そういう意味じゃないと思うわ。 009は皆で出した結論に従うと言いたいのよ。 」

「 あ・・・うん。 そ、そうなんだ・・・ 」

セピアの髪の間から 同じ色の温かい瞳がしずかに彼女に向けられていた。

 

   ・・・ このひと。 微笑んでいるって思ったけど。 ・・・ 目が・・・ 目は笑ってない・・・!

 

一瞬垣間見た彼の瞳にフランソワ−ズの心は 凍りついた。

スタンガンでの衝撃よりも 避けそこなったレイガンの激痛よりも それは強烈だった。

しかし ジョ−の瞳はすぐに柔らかな靄にも似た微笑に包まれてしまい、あの冷たさはもうどこにも

感じることはなかった。

 

   もしかして。 ・・・ 彼は。 彼のこころは。 ・・・ 凍えているのかしら。

 

 

しかしそんな想いも ひとつ屋根の下で暮らしてゆく日々の中で次第におぼろ気になっていた。

いつでもにこにこしているヒト  ―  そんな印象が <ジョ−> そのヒトになった。

 

 

「 ・・・ ゴチソウサマ!  あ〜〜〜 めっちゃくちゃに美味しかったぁ〜〜 」

「 うん、本当にこれは美味しいな。 フランソワ−ズ、料理の腕を上げたなあ。 」

「 あら、そうですか? 嬉しい! ・・・ でも・・・ ジョ−、本当? その・・・ 」

「 え〜 本当ってなにが? 」

「 だから・・・ホンモノの肉じゃがと同じ味かなあって思って。 ジョ−のお家のと同じかしら。 」

「 ホンモノって・・・ 肉じゃがってさ、その家によって微妙に違うみたいだよ? ぼくはよく知らないけど。 」

「 え・・・ 知らないってどういうこと。 」

「 ああ、ぼくはさ。 施設で育ったから。 <普通のウチ>って判らないんだ。 」

「 あ・・・・ ごめんなさい。 わたしったら・・・ 」

「 いいよ、別に。  あ〜〜 美味しかった! へへへ もしかしてぼく、全部食べちゃったかなあ。 」

「 ええ、お鍋のなか、空っぽよ。 ふふふ 嬉しいわ〜〜 ね、デザ−トも作ったの。 あのう、好きかしら・・・

 今日はね、カスタ−ド・プリンなの。 」

「 ほう? 昨日のアップル・パイも中々の味じゃったがの〜 これは楽しみじゃ。 」

「 あ! あのパイ! 美味しかったよ〜〜! ・・・ごめん、勝手に全部食べちゃったけど・・・ 」

「 いいの、あれってジョ−の分ですもの。 ・・・ じゃ、ちょっと待っててくださいね。 」

「 お皿運ぶの手伝うよ。 え〜と・・・お盆は・・・ 」

「 ありがとう、ジョ−。 」 

博士は仲良く後片付けを始めた二人に 温かい視線を送っていた。

 

   ・・・ いいム−ドじゃないか。  おい? 気がついてやれよ。

   お前は 世にも稀なラッキ−野郎なんだぞ・・・

 

 

「 お待たせしました。  ちょっと型から出すのに苦心しちゃって・・・ 」

大きなトレイを捧げ、フランソワ−ズはリビングに入ってきた。

食後は いつもなんとなくお喋りしつつ、リビングでデ−ザトやらフル−ツを摘まんでいる。

ハイ・スペックのTVやら 各種DVDも揃っているのだが、見ることはあまりない。

せいぜいニュ−スか天気予報を眺める程度なのだ。

「 おお ・・・ これは懐かしいのう。 ワシは子供の時分、このカラメルの部分が大好きじゃった。 」

「 まあ〜 そうなんですか? そういえばわたしの兄も好きでしたよ。 

 こんな子供っぽいデザ−ト、ジョ−は笑うかも・・・  あら・・? 」

「 うん? そっちのソファで新聞を広げておったぞ。 」

ジョ−は食器を運びおえると一足先にリビングに戻っていた。

「 ジョ−? デザ−ト、持ってきたわよ。 ・・・ ジョ−? あらあ・・・ 」

「 どうしたね。 あ・・・ありゃりゃ・・・ こりゃまた・・・ 」

「 食事するのが精一杯だったのかしら。 」

「 ま・・・ そっとしておいてやれ。 なんだか活躍しているようだからの。 」

「 ええ・・・ そうですわね。 」

ジョ−は。

新聞を広げ、その上に突っ伏したまま  ―  くうくうしっかり寝入っていた。

 

   だってほんのちょっとの時間よね?

   ・・・ プリンが食べたいなあ〜って あなたのリクエストだったのに・・・

 

つんつん。  ・・・つん・・・!

フランソワ−ズはちょ・・・っとだけ 新聞の上に広がるセピアの髪を引っ張ってみた。

 

   せっかく 晩御飯、一緒に食べれたのに。

   たまには ゆっくりお喋りしたかったのに ・・・ ねえ、どうしてそんなに疲れているの?

   ・・・ しばらく寝たら、ちょっとだけでいいの、話を聞いてね・・・

 

摘まんだ髪を さらさらと撫で、フランソワ−ズは穏やかな寝顔にこそ・・・っとキスを落とした。

 

 

 

   ポッポゥ 〜〜  ポッポゥ 〜〜  ポッポゥ 〜〜 ・・・

 

リビングの鳩時計が 随分と長い時間、繰り返し啼いていた。

「 あら・・・ もうこんな時間? 全然気がつかなかったわ・・・ 」

フランソワ−ズはふと顔を上げ、すこし驚いた風だった。

ロウ・スタンドだけにして本に没頭していて、すっかり時計を見るのを忘れていたのだ。

そういえば 博士はもうとっくに寝室に引き上げていたっけ・・・

本を閉じ、う〜〜んと伸びをする。

 

   あ〜あ・・・ もう寝ちゃおうかな。 ジョ−はどうせ遅いのでしょうし・・・ あ!?

 

伸びをしていた手が止まった。 がば!っとソファから立ち上がった。

「 なに言ってるのよ、フランソワ−ズ? ジョ−はちゃんと帰って来ているわ!

 一緒に晩御飯、食べたじゃない〜〜  ・・・・ あら? でも・・・ もしかして・・・? 」

薄暗いリビングの中をそう・・・っと横切り、TVの前のソファに近づいた。

ソファの上には。  相変わらずセピアのアタマが突っ伏して静かな寝息を立てていた。

 

   ・・・ やだ・・・! あれからず〜っと 寝てたの?? 

 

すこし躊躇ってから おずおずと彼の肩に手を伸ばす。  軽く揺すってみる。

「 ・・・ ジョ− ・・・?  ねえ、こんなトコで寝てたら風邪ひくわ。 」

「 ・・・ う ・・・・   うん ・・・・ 」

もう一度 揺する。 今度はちょっとチカラをこめて。

「 ジョ−?? ほら、起きて。 お風呂、入ってからお休みなさいよ? 

「 ・・・う ・・・ うん ・・・・ あ〜 ・・・ うん ・・・」

「 明日も早いの? だったらちゃんとベッドで寝たほうがいいわ。 ねえ・・・? 」

「 ・・・う ・・・ うん ・・・ オヤスミ ・・・ 」

ゆさゆさ・・・・ 彼女の腕にかなりチカラが入った。

「 ね、 ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど・・・ 相談に乗って・・・?」

「 ・・・ え ・・・ う〜ん ・・・ な、なに・・・ 」

「 あの、ね。 またバレエのレッスン、始めてみたいな・・・なんて思うのだけど。 」

「 ・・・ うん ・・・ 皆に任せる・・・ う〜ん ・・・」

「 ・・・ もう ・・・!  知りません!  朝までココで寝てたらいいわ。 オヤスミなさい! 」

パン・・・!と彼の肩を叩くと フランソワ−ズはスリッパを鳴らしリビングを出て行ってしまった。

「 ・・・ う〜〜ん ・・・ 賛成。  オヤスミ ・・・ 

真っ暗なリビングの中で暢気な声が呟いていた。

 

 

「 ・・・ ほっんとうに仕様がないヒトね! ・・・風邪、ひかないで、ね。 」

1時間後。  

ピンクのガウン姿がそっと・・ ソファで熟睡している人物に毛布をかけていった。

ほんのり漂うシャンプ−の香りにも気がつかず、茶髪ボ−イは昏々と寝呆けていた。

 

 

 

 

翌朝。

リビングのソファの上には。  毛布がきちんと畳んで置いてあった。 その上には・・・

<  ありがとう〜〜〜  今日は遅くなります、先に寝てください  J >

 

   ・・・ふ〜〜ん ・・・だ。 メモ、書いてくれて嬉しいけど。

   ちょっとだけでも、お喋りしたいのに・・・

 

フランソワ−ズは ちょん・・・と見慣れた文字を突っついた。

「 今夜はね。 どうしても聞いて欲しいコトがあるから、しっかり起きて待ってるわ。 」

丸っこいジョ−の文字が ぷるるん、と揺れた・・・風に見えた。

「 普通の18歳って。 こんな風な字、書くのかしら。  ネットで見つけた<ペン字検定> の

 お手本とはずいぶん違うみたい・・・ 別の種類の字なのかしらねえ。 日本語って大変! 」

彼女はじ〜っとメモを見つめていたが ていねいに折るとエプロンのポケットにしまった。

「 ・・・ いつでも一緒よね。 ふふふ・・・お兄さんのメモ、御守にしたこともあったっけ・・・ 」

もう会えない兄の面影がほんわりと浮かび上がってきた。  会えない悲しみ、ではなく懐かしい思い出として・・・。  

  

  あ ・・・ れ。 なんだか・・・懐かしくて暖かい気持ち・・・ 

  あら。ほっぺが熱いわ?  ・・・ どうして・・・?

 

ポケットの上からメモに手を当て、フランソワ−ズは頬を淡く染めている自分に驚いていた。

 

 

 

「 お疲れさ〜〜ん ! 」

「 おう・・・ お疲れ〜〜 」  「 ・・・ お疲れさん〜〜 」 「 ・・・ う〜 ・・・ お疲れ・・・ 」

夜もそろそろ終わりに近いころ、現場からオトコたちが次々に引き上げてくる。

汚れた作業着、重い足取り・・・ 疲れて無表情な顔が大半なのだが。

「 お疲れサマでした! シツレイします〜〜 」

「 お・・・ お前、元気だなあ〜〜 今時の若けえのにな〜にができっかって思ってたけどな。 」

「 ああ。 その細っこい腕、すげ〜チカラ持ちなのな! また次も頼ま〜 」

「 あ。 ども〜〜 」

ぴょこり、とアタマを下げると 茶髪の青年は弾む足取りで帰っていった。

「 ・・・ なんだあ? いそいそと・・・・ 」

「 はああ・・・ ありゃ、カノジョでもいるんだろ。 あの顔だし。 」

「 んなのにこの仕事か?  ・・・なあ、 サンバイってなんだ? 」

「 サンバイ??? なんだ、それ。 」

「 いや〜 あの兄チャンよ、ず〜っとハナウタみたく サンバイ♪ サンバイ〜〜♪ ってよ。 」

「 カノジョの名じゃねえの。 ガイジンとかでよ。 」

「 ・・・ そんな名、あるか〜〜  ま〜 また来てくれると助かるんだがなあ。 えっと・・・

 なんてヤツだっけか・・・  ああ・・・しまむら、か。 」

現場監督は 軍手の指で書類を繰って、とっくに帰ってしまった茶髪の青年の名に ◎ をつけた。

その頃、 ◎印をもらった当のご本人は軽快な足捌きで疾走していた。

出来れば スキップ・スキップしたい気分だったのが・・・ いかに深夜とはいえ、無人でありえないこの国ゆえ

さすがにそれは思い留まった。

 

「 ・・・へへへ・・・へへへ・・・ 間に合った〜〜 間に合ったぞ! 明日〜明日だもんな〜〜

 待っててくれよ〜〜 ああよかった、これで サンバイ〜サンバイだよ、フランソワ−ズ!! 

 あ〜〜 本当なら あっと言う間にウチなんだけど。  ま、 いっか〜〜 ♪♪ 」

思わず ひゅう〜と口笛をならし、 はっと慌てて口を押さえ。

それでも零れる笑みをなんとか封じこめ、青年は茶髪を翻し深夜の街を駆け抜けていった。

 

 

「 ・・・ ただいま ・・・  」 

ジョ−はそ〜〜っとリビングのドアを開けた。

もう日付はとっくに新しい日になっていたが、外はまだ真っ暗だ。

「 明日の、じゃなくて今朝はちょっとだけ寝坊できるから。 ・・・なにか夕飯の残りモノ、あるかなあ〜〜 」

抜き足・差し足〜〜〜 でリビングを通り抜けキッチンへ行き ・・・ かけた足が止まった。

「 ・・・ん?? なんか ・・・ 酒臭い・・・よ?? 」

じ〜っと闇に目を凝らしてみれば。  ソファの下に、テ−ブルに突っ伏している影がひとつ。

「 え・・・ フランソワ−ズ ・・??  こんなとこで居眠り・・・ あ・・・うわ、な、なんだ?? 」

ぐしゃり、とジョ−の足の下で 柔らかめの金属がつぶれた。

「 ・・・ これって・・・ 缶ビ−ル・・・じゃないな〜 発泡酒??  あ・・・ここにも あれ・・・こっちにも ・・ 」

ソファの脇に、 テ−ブルの上に。 色とりどり、大きさもまちまちな缶が林立していた。

どうもその缶たちが酒臭さのモトを作っているらしい。

「 もしかして・・・ コレ・・・ 全部、飲んじゃったのかなあ・・・ 」

ジョ−はそうっと突っ伏している彼女の脇にしゃがみ込んだ。

「 ・・・ もしも〜し・・・ フランソワ−ズ・・・? 大丈夫ですか〜〜 」

「 ・・・・ んん ・・・ 美味しい 〜〜 の〜〜 」

「 は? えっと〜 あの・・・ これ、きみが飲んだのかい。 博士とか大人とか・・・宴会・・・って雰囲気でもないよなあ ・・・ 」

ジョ−は改めてリビングを見回し、そして彼女に視線を戻した。

温かそうなピンクのガウン、その上に白い毛糸のショ−ルをかけている。

洗い髪がさらさらとガラスのテ−ブルに散り、いつもは白い頬がぽう〜〜っと染まっている。

どうやら、空の缶の中味はすべて彼女の胃に収まってしまったらしい。

「 ・・・ あちゃ〜〜 ・・・ これじゃ 明日は二日酔いだよ? ねえ・・・フランソワ−ズ・・・

 ここで沈没はまずくないですか〜〜。 」

「 う〜ん ・・・ イイで〜す・・・ 」

つん・・・・! 

ジョ−は指先で彼女の肩を突いてみた。

「 もしも〜し? このままじゃ風邪引きますよ〜 ・・・ もしも〜し・・・? 」

つん ・・・! 

「 ・・・ しょうがないなあ。 それじゃ・・・シツレイして。 あ、別に何にもしないから! よいしょ・・・ 」

ジョ−はおそるおそるピンクと白の衣類のカタマリみたいな姿を抱えあげた。

「 あは・・・ 彼女ってこんなに軽いんだっけ?  なんか・・・ 女のコなんだなあ・・・ 」

戦闘中に咄嗟に抱き上げて庇ったことや、加速して退避したことなど 彼女の身体を持ち上げたことは

数え切れないのだが。  緊急時にはまったく気がつく余裕などない。

「 へえ・・・ 嬉しそうな顔、してる。 きみは案外飲兵衛なのではありませんか? 」

ジョ−は軽くて温かくて。 イイ匂いがして。 最高に素敵な<荷物>を 最高に丁寧に抱えていった。

「 えっと。 あの〜 ぼくは何にもしませんから。 ぼくは ・・・う〜ん・・・? あ、紳士です。 」

誰もいない深夜の廊下で、ジョ−は生真面目にぶつぶつと呟いていた。

 

 

 

 

「 フランソワーズ・・・? 開けてもいいかい。 」

ごんごん ごごご〜〜〜ん ・・・  

( ・・・!?!  いったい何で叩いているの?? ドア・・・・ 壊さないで〜〜 ! )

「 ・・・ 起きてるかい?  具合はどう〜〜 」

ごごごん ごごごん  ごごごごご 〜〜〜ん !

( ううう ・・・ ドアより わたしのアタマが割れそう・・・ やめてってば! )

「 あの〜 フラン・・・? 」

ご・・!

  ― もう限界だった ・・・!

フランソワ−ズは 渾身の力をこめて羽根布団から顔をだすと。

「 ・・・ ジョ−! ノック、やめて!!!  ・・・・あ ・・・・ うううう・・・・ 」

一声叫び ・・・ すぐにアタマを抱えそのまま蒲団に倒れこんだ。

 

「 なあんだ〜 起きてたのか。 ・・・あれ・・・ 大丈夫・・・・じゃないよね。 」

「 ・・・ 大丈夫 ・・・じゃない。 

「 そ〜だよねえ。 あれだけいっぺんに飲んじゃうと・・・ あれってお酒なんだよ、わかってた? 」

「 ・・・ わかってない。  グレ−プ・フル−ツ とか  ライム とか 書いてあって ・・・漢字は苦手だし、

 果物の綺麗なデザインだったし。 冷蔵庫に入ってたんだもの・・・ ジュースだって思って・・・ ジョ−、遅いし。 」

「 あ・・・ごめん。 冷やしたほうが美味しいかな〜と思ってさ。 全部発泡酒だったんだ。 」

「 ・・・ そ ・・・ なの・・・ これって・・・どのくらいで治るの・・・」

「 うん。 ごめんね。 ・・・これ、博士にもらった二日酔いの薬。 でもね〜水分たくさん摂るのがイチバンなんだ。

 あとは時間がクスリだから、さ。 」

「 ・・・ 時間 ・・・  あ。 朝御飯! ・・・・う・・・う 」

「 あ、起きなくていいってば。 今朝はぼくがやるよ。 きみは寝てろ。 」

「 ジョ− ・・・ ありがと・・・あ、でもジョ−・・・出掛けるのでしょ? 」

フランソワ−ズはそっと蒲団に縁から顔を半分 覗かせた。

「 もう出かけないよ、お終い♪ 朝も昼も任せとけって。 それで ・・・ 夜までには復活しなよね。 」

「 ・・・ 夜?  あ、また ・・・バイト? 」

「 え・・・ちが〜うよぉ! 今日はさ、 きみの誕生日じゃないか! 

「 ・・・ あ ・・・・ すっかり忘れてたわ・・・ 」

「 ヤだなあ〜〜 本人が。  ま、いいさ。 今日はきみが主役だから。 

 きみの <仕事> は晩までに元気な笑顔になること。 いいね? 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

せっかく覗いていた青い瞳は ぱふん・・・と蒲団の中に逆戻りしてしまった。

「 ? あ、 あれ・・・ ご、ごめん! な、なんか ・・・ ぼく、マズイこと、言ったかな・・・ 」

「 ・・・ う ・・・ううん ・・・ ううん ・・・ なんか・・・涙が・・・ 」

「 え。 可笑しなフランソワ−ズ〜 ほら、水、飲んで? 」

「 ・・・ ジョ−。 あっち、行ってて・・ わたし、お酒臭いし 目は腫れてるし。 髪はぐちゃぐちゃだし・・・

 こんな顔、見られたくない・・・ の ・・・ 」

ジョ−は ぼわぼわ蒲団越しの彼女の声を聞くと、ぽんぽん・・・と軽くその上から叩いた。

「 気にするなって。 あ、そうだ。 スポーツ・ドリンクの方がいいかも・・・取ってくるね。 」

「 ・・・ あ・・・ お水でいいの・・・ に ・・・ 」

相変わらずアタマはズキズキ ・・・ 最低な気分だったけれど。

フランソワ−ズは ほんのり、こころが暖かいことに気が付いていた。

 

   ・・・ ジョ− ・・・ ありがと ・・・

 

午後になって フランソワ−ズにひっついていた酒精はようやくどこかへ飛んでいってくれたらしかった。

 

 

 

 

その晩。

御馳走を抱えた張大人とグレ−トのでこぼこコンビを迎え、ギルモア邸では

フランソワ−ズと博士の誕生日パ−ティ− 兼 宴会がにぎやかに開かれた。

 

楽しい宴もお開きとなり、皆それぞれ自室に引きあげたころ。

 

   コンコン ・・・ コン ・・・

 

「 フランソワ−ズ・・・? ちょっといいかな。 」

「 なあに、ジョ−。 」

  

    あら。 今度は随分小さな音のノックね。 

    ふふふ・・・ わたしってば やっと二日酔いから完全復帰なのかも・・・

 

フランソワ−ズはくすくす笑いつつ ドアを開けた。

ジョ−はそんな彼女に 目をまん丸にしている。

「 あ・・・ あれ。 ぼく、なにか可笑しなコト、言った? 」

「 ううん。 これはわたし自身を笑っているの。  気にしないで。 」

「 ???  あの ・・・さ。 ちょっとだけ 入ってもいい。 」

「 ええ、どうぞ。  あ、今日はいろいろありがとうございました!  朝とお昼、御飯作ってくれて・・・

 それにこんなに素敵なお誕生日って 初めてよ。 」

「 へへへ・・・ 嬉しいな。 でもさ、晩の御馳走は張大人とグレ−トのプレゼントだし・・・ 」

「 美味しかったわね! 皆で食べるって本当に楽しいわ。 プレゼントもいろいろ頂いたし。

 スカ−フ、ありがとう〜〜 この色、大好きなの。 」

「 あ・・・そ、そうなんだ? その色って・・・きみの目の色と似てるな〜なんて思って・・・ 」

「 まあ、うれしいわ〜〜 こんなに綺麗な色じゃないけど・・・ 」

フランソワ−ズはふわり、と肩に掛けていたスカ−フを揺らせてみせた。

「 え・・・ きみは。 綺麗だよ! 

「 ・・・ まあ ・・・ 」

 

くすくすくす・・・・

 

小さな鈴を転がすみたいな笑みが 珊瑚色の唇から零れる。

 

   ・・・ キレイだなあ 〜〜〜  サクランボみたいだ・・・  

   あ・・・! いけね。 見とれている場合じゃない・・・よ!

 

えっへん ・・・!   ジョ−はひとつ、重々しく咳払いをしてみせた。

「 えっと。 あ〜〜 ・・・ フランソワ−ズ ・・・さん。 」

「 ? はい・・・?  どうしたの、ジョ−。 」

「 あの〜〜 あ・・・ これ。 よかったら。 受け取ってもらえませんか。 」

「 ・・・ ?  なあに、これ。 」

「 あ・・・あの。 ぼくからです。 ぼくからの サンバイ です。 」

「 は? サンバイ・・? 」

「 あ! ああ・・・そ、そうじゃなくて。 あの・・・これ! きみの誕生日に! 

ぽん!   ジョ−は後ろ手に持っていた小さな包みを彼女の手に押し付けた。

「 え・・・ でも、あの。 さっきスカ−フ頂いたわ? 」

「 あの! これ。 とにかく〜〜 開けてくれよ。 」

「 ・・・?  いいの? ・・・ それじゃ ・・・   あら! これ・・・ 指輪・・・? 」

「 あの! これ。 ガ−ネットなんだ。 ・・・サンバイだよ。 」

「 わあ〜〜綺麗 ・・・   ねえ、サンバイってなあに。 この指輪を買ったお店の名前? 

 日本では有名なの? 」

「 え!? 違うよ〜〜お! ・・・ だってさ。 女の子に指輪をあげるときって。

 給料の三倍のモノにするだろ? そんな風に聞いたよ、ぼく。 」

「 ・・・えええ???  ・・・ あ!それって ・・・ それってね、ジョ−・・・! 」

「 あ・・・はめてみてくれる。 」

「 ・・・ ジョ−。 あの ・・・ はめて ・・・ くれるかしら・・・ 」

フランソワ−ズはおずおずと手と差し出した。

「 うん、いいよ。 ちょっと貸して? ・・・あれ、なかなか取れないな〜 」

ジョ−はケ−スから細いプラチナの指輪を外すのに苦心している。

白金のリングはティアラみたいに真上に赤い輝石を頂きまわりには細かいダイヤが煌いていた。

「 え・・・っと。 ああ、とれた! お店の人がさ、普通はダイヤですよ?って言うんだ。

 でも! きみの誕生石はガ−ネットだもの。 どうしても〜!って頑張ったんだ。

 そしたら お幸せに・・・だって。 なんだろうね?  はい、どの指にはめる? 」

フランソワ−ズは首の付け根まで真っ赤になっている。

「 え・・・ あの〜〜 その〜〜 それって ・・・そのう〜〜 」

「 ・・・ な、なに? ぼく、なんだかヘンなこと、したかなあ。 」

「 ううん、ううん! でも、ね。 あのう ・・・わたしも雑誌とか広告とかで見たんだけど。

 そのう・・・ お給料の三倍の、って・・・ そのう・・・エンゲ−ジ・リングのことじゃなくて? 」

「 え・・・ え・・・・えんげ〜じ・・・って そのぅ ・・・こ、婚約指輪ってこと? 」

ジョ−は指輪を摘まんだまま。 しっかり硬直していた。

「 そ・・・ そうなんだ・・・?? ぼく・・・てっきり女の子に指輪を贈る時の習慣かと思ったんだ。
                        だから・・・がんがんバイト、掛け持ちしてお金、貯めて・・・  ごめん・・・! なんか、勝手なコトして。 
                        え?・・・・ あ。 」

フランソワ−ズの両手がふわり、とジョ−の指を包んだ。

「 ジョ−。 わたし。 この指輪に篭ったあなたの気持ち・・・すごく嬉しい。 」

「 ・・・ あの、さ。 フランソワ−ズ。 」

「 なあに。 」

「 あの。 ぼくと付き合ってくれる・・・かな。 」

「 いいわ。 あなた、今 笑ってないから。 」

「 え・・!?  」

「 ジョ−って。 いつでも笑顔だけど。 でも。 ・・・ごめんなさい、言ってもいい。

 わたし、気が付いたのよ。 そう・・・ 見ちゃったの。 」

「 ・・・ いいよ、言って。 なに。 

「 ジョ−。 あなた、眼が笑ってなかった。 初めて会った時から・・ずっと・・・

 いつだって静かに皆の後ろで笑顔だったけど。 でも・・・ 笑ってなんかいなかった。

 だから、ジョ−のこと、よくわからないヒトだって。 本当の気持ちが見えないヒトだって ・・・思って。

 わたしのことなんか ・・・ 鬱陶しいって思っているだろうな・・・って・・・ 思ってたの。 」

ジョ−は 空いている手を伸ばし、彼女を抱き寄せた。

いま。 彼の顔から < 笑顔のジョ− > は消え失せている。

セピアの瞳が真っ直ぐに彼女に注がれた。

「 ぼくは絶望していたんだ。 もう誰も信じない、誰にも信じてもらえないって。

 だから笑顔のフリしてた。 笑っていれば。 笑顔だったら。 ・・・ 皆 スル−してゆくだろ。

 ぼくは ・・・ ヒトと係わり合いになるのが恐かった。 これ以上絶望したくなかったから・・・ 」

「 あなたは信じてくれたでしょう? あの時。 あの島で。 わたし達を信じてくれたわ。 」

「 ・・・ きみ達が きみが。 ぼくを信じてくれたから・・・! でも 本当は ・・・ 」

「 え・・? 」

「 好きなんだ! あの時から。  きみが!! 」

ジョ−は一声叫ぶとぎりり・・・と唇を噛み締めた。 

ことん ・・・

亜麻色のアタマが ゆっくりと彼の胸元に寄り添った。

「 わたし。 ジョ−が 好き。 」

「 ・・・・ ! 」

ジョ−は黙ったまま ず〜っと摘まんでいた指輪を彼女の左手の薬指にはめた。

 

 

  付き合ってくれる?

 

  ふふふ・・・ エンゲ−ジ・リングをはめてから申し込むのって・・・・ あり?

 

  ・・・ ハッピー バースデイ  フランソワ−ズ!

 

 

ゆっくりと そのまま・・・ベッドに倒れこんでいった。

最高のプレゼントは一番最後に贈られた ・・・・ らしい。

 

 

 

*********************************          Fin.       ***********************************

 

Last updated :  01,27,2009.                                         index

 

 

 

***************      ひと言      ****************

フランちゃ〜〜ん♪ お誕生日、おめでとう〜〜♪♪ 遅くなってごめんなさい〜〜 って気分で

書いてました。  一応 原作設定にしたかったのですが、ど〜もこれは平ジョ−ですね(^.^)

二人っきりの時には原作ジョ−君もか〜なり甘ったれているのだろうな、と思います。

ともかく! 二人の想いがちゃんと!通じ合うまでを書いてみたかったのですよ〜〜

いつまでも <僕達はべつにそんな・・・ > なんて言ってるからさ !!!(_)!!

My 設定に近いですが あまぁ〜い・ケ−キ・・・と思って楽しんで頂けましたら嬉しいです♪