『 岬の家にて 』
カチャ カチャ ジャ〜〜〜
おはようございます やあ おはよう。
ふん ジョーはまだか ええ
バタン ゴソゴソ カチャン ・・・
海に近いギルモア邸 ― 朝はとても賑やかだ。
ここに常時暮らしているのは たった三人。
時に いろいろな国のオトコ達が出入りしたりもするのだが
普段は おそらく家族であろう、と思われる人物たちが
静かに暮らしている。
「 博士〜〜 オレンジ、冷蔵庫です〜
」
「 おお ありがとう。 おや 」
博士は 時計にちらり、と目を向けると そのままリビングのドアを開けた。
顔を突き出すと 二階に向かって声を張り上げる。
「 ジョー −−−−−− !! 起きろっ 」
「 起きませんから。 」
フランソワーズは オムレツ用の卵を溶くのに集中、
顔も上げない。
「 しかし もう起きんとバイトに間に合わんのじゃないか アイツ
よし ちょいと叩き起こしてくるか 」
「 ・・・ 起きませんよ? 揺すっても叩いても ・・・
そのうち すご〜〜く大きな音で 目覚まし時計が鳴り響いて
鳴り終わるころ やっともそもそ動き始めます 」
彼女は 注意深くオムレツ専用のパンを火にかける。
「 う〜〜〜む そういうヤツじゃったのか 」
「 わたしだって ここで暮らして 初めて知りましたもの 」
ジャア ・・・・
いい音と共にたまらない香が漂う。
「 ふんふん ・・・朝の香り じゃな 」
「 うふふ ・・・ んん〜〜〜 っと。 はい 出来ました。
中はとろとろ〜オムレツです どうぞ 」
ぽん。
お皿の上ではカタチよく盛られた卵料理が 最高に食欲を
そそる香を放っている。
「 おう すまんな これは美味しそうじゃ。
おっと・・・ カフェ・オ・レ 淹れたぞ 」
「 わあ〜 ありがとうございます。 ふふふ 出来立て、
頂きますね 」
「 ほい どうぞ。 」
「 〜〜〜〜〜 んん 美味しい♪ 」
「 〜〜 美味い! 」
「「 これこそ 朝の味 じゃな ・ ですね 」」
早起き組は 朝陽いっぱいの食卓で 笑顔を交わす。
「 パン 焼けたぞ 」
「 ありがとうございます。 あ チーズとサラダ どうぞ 」
「 おう ありがとう レッスンに間に合うかい 」
「 ええ 大丈夫です。 博士 今日のご予定は 」
「 うむ コズミ君と論文の詰めじゃ。 」
「 そうですか。 じゃ 晩ご飯には 」
「 ああ 戻る。 フランソワーズ、君は 」
「 はい 午後には戻ります。 」
「 よい一日を ・・・ 」
「 博士も 」
で ジョー は???
二人は時計を見て 肩を竦めた。
「 コーヒー 置いておくぞ。 トーストも 」
「 オムレツ と サラダも ・・・ 」
「 洗いモノはやっておくから。 もう出ないさい 」
「 はい。 博士 お気をつけて 」
「 ありがとうよ さあ 今日もがんばろうな 」
「 はい! いい日にしましょう 」
「 ふふ 美味しい朝メシで充電完了じゃ 」
「 ホント♪ 」
二人が ゆったりと立ち上がりそれぞれの行動を開始した その時。
バタン。 ガタタタタタ −−−−−
階段を駆け下りる足音とほぼ同時に リビングのドアが開いた。
「 わあ〜〜〜〜〜〜 遅刻するぅ 〜〜〜〜〜 」
てんでな方向を向いている茶髪アタマが 飛び込んできた。
「 ああ 時間ない〜〜〜 」
「 あら ジョー 起きたの? 」
「 起きたよ! 」
「 おう ジョー。 遅刻するなよ。 」
「 朝ごはん 置いてあるから。 あ 食器はちゃんと
洗っておいてね 」
じゃあ・・・ イッテキマス と 二人はにこやかに
リビングを出ていった。
バタン。 ほどなくして玄関のドアは開いて 閉まった。
「 あ い いってらっしゃい ・・・ う〜〜
あ 顔! 顔 洗ってね〜〜 」
ドタバタ 〜〜〜 バスルームに飛んでゆき
すぐに 雫を垂らしつつ戻ってきた。
「 う〜〜〜 あ メシ めし〜〜〜 」
彼は 立ったままテーブルに置いてあった < 朝ご飯 > を
口に押し込み、コーヒーで流し込んだ。
「 う う 〜〜 髪・・・ いいや キャップで抑えれば・・・
あ 皿 皿〜〜〜 洗わなきゃ・・・ う〜〜 」
ザ −−−−− びしゃ びしゃ ・・・・
シンク周りは水滴が飛び 彼自身もかなり濡れてしまった が。
「 う・・・ ま いいや 走れば乾くさ
ああ〜〜〜 マジ やば〜〜〜
遅刻不可ってさんざん言われてるし〜〜
駅まで自転車ダッシュだあ〜〜〜 」
ジョーは スマホをポケットにねじ込むと 玄関から飛び出していった。
う〜〜〜 加速そ〜ち したい・・・!
けど 服 燃えたら困るし〜〜〜
くっそ〜〜〜〜 行くぞぉ 〜〜〜
ジャ 〜〜〜〜〜〜〜 !!!
自転車が猛スピードで坂道を疾走して行った。
― さて バイト先では ・・・
新しく来たバイトのコ、 熱心だねえ〜
ホント! 今朝もすっごい勢いで自転車飛ばして来ましたよ
ふうん この近所のコだっけ?
いいえ 海岸通りの方みたい。
へ え ・・・! 遠いじゃないか。 バス 使わんのか
節約してるみたい ・・・
お〜〜 ますます気に入った!
ギリギリだけど なんとか時間内に到着し 一心不乱に掃除を
始めるので なかなかウケがいいらしい。
( 特に オッサン オバサン 世代に ・・・ )
「 島村く〜〜ん 配達たのむ 」
「 はいっ! 」
重い荷物もひょいひょい運び 店のスクーターに積みこみ気軽に
飛び出してゆく。
「 ひゃっほ〜〜 行くぞぉ〜 」
「 気をつけて! 」
「 はい〜〜 へへへ 気持ちいいじゃん〜〜
えっと・・・ 電子レンジとクリーナーと あと プリンターか
カルい カルい〜 よおし どるふぃん 発進(^^♪ なんちゃって〜〜 」
ジョーは 店のロゴ入りのキャップを被りなおすと
スクーターのスピードを上げた。
地方量販店の裏方 は どうやらジョーの性格と境遇? ( 力持ち )
には ぴったりのようだ。
― 都心にほど近い とあるバレエ・カンパニーの稽古場で。
コトコト カツン ・・・
新しいポアントが床に当たる。
フランソワーズ は思わず顔をしかめる。
「 ん〜〜〜 んん やっぱり固いなあ 」
「 おはよ フランソワーズ あれ おニュウ? 」
「 あ みちよさん おなよう〜〜 うん かっちかち・・・ 」
「 ぴかぴかじゃん。 どこの? 」
「 レペットよ グリシコの方がもつけど 固すぎて 」
「 あ わかる〜〜 アタシ、ブロックを履き潰してゆくヒトだからね
ブロックはまあまあ安いから さ 」
「 それもいいわねえ 」
「 こればっかりは人それぞれだからさ ・・・
フランソワーズはずっとレペットなんでしょ? 」
「 ええ ・・・ そのう・・・向こうでは国産だから高くないの 」
「 あは そうだよねえ〜 あ〜〜 アタシも新しい靴、
作らないとぉ〜〜 ・・・ これ 潰れそうだ 」
「 ああ ほっんと面倒くさいなあ 」
「 へえ〜 フランソワーズでもそんな風に思うんだ? 」
「 え だっていろいろ縫ったりしても ちょうどいい時って
すごく短いと思わない? 」
「 思う! アタシ、リボンが付いてるってだけで
靴を選んでた時もあったもん。 」
「 わかるわあ〜〜 ・・・ う〜〜ん しょうがないわ
これ履くっきゃない 」
「 アタシは 潰れないこと、祈るよ 」
フランソワーズは 仲良しのみちよとぼそぼそ・・しゃべっている。
ポアント ( トウシューズのこと ) について あれこれ
おしゃべりできるのが 嬉しい。
「 ふふふ ・・・ 」
「 あれ なに〜〜 なんか嬉しそうだよ フランソワーズ? 」
「 え そう? そうねえ〜 ウチじゃバレエの話 しても
皆 はあ?? だから ・・・ 」
「 あ それはウチもさ。 グチを零せるのは皆と居るときだけだもん 」
「 そうよね〜〜 レッスン 厳しいけど
皆 いるから ・・・ 」
「 そ! へえ フランソワーズもそう思う? 」
「 勿論よ わたし みちよサンをお友達になれて
すっご〜〜く楽しいの。 ありがとう
」
「 やっだ〜〜 アタシだってよ〜〜 」
「 あ〜 私も仲間にいれてよぉ〜〜 」
反対隣にいたオンナノコが 笑って声をかけてきた。
「 あ 蘭さん 」
「 らんちゃん、だよん☆ わたしも 同期 だからね〜〜 」
「 あ そだよね〜〜 らんちゃん☆ 」
「 らんさ ・・・ いえ らんちゃん、ピルエットすごい〜〜って
いつも見てるの 」
「 ・・・ 私さあ 回れるだけ なんだよね〜〜〜 」
「 え?? 」
「 運動神経だけね なんて言われてるの 」
「 運動しんけいだけ? 」
「 そ。 野性的なんて言われちゃうしさ〜〜〜
優雅なフランソワーズは もう憧れよ〜〜ん 」
「 え わたし 優雅なんかじゃないわ もうぎくしゃく・・・
アダージオとか 皆の足腰の強さってすごいって思うもの 」
「 あは そりゃ〜ね、フランソワーズ。 我々じゃぱに〜ずはさあ
脚 短いの! 太いの。 腕も短いの! だ〜から安定してみえるのさ 」
「 そ〜そ〜 太い柱は倒れないってこと 」
「 え〜〜 ・・・ 」
「 ま ね。 皆 他人が羨ましいのヨ 」
「 うふふ ・・・ そうかもしれないわね
でも 新しいポアントがイタイのは 皆 同じ よねえ 」
― コンコン カツン !
フランソワーズは 新しい靴で思いっ切り床をタップした。
「 あは〜 そうよねえ ・・ 痛くない靴って 」
「「 ない ない ! 」」
「 あ〜〜 ・・・ どんなパッドを詰めても痛いものね 」
「 ウン。 フランソワーズも 詰めてる? トウ・パッド 」
「 もっちろん〜〜 あのね 日本の方がいろいろ揃ってるわ。
わたし パッドは皆東京で買ったの、使ってる 」
「 あ〜 そうなんだ? 」
「 レオタードもねえ トウキョウのお店のほうがいろいろあるし 」
「 え〜〜 そう? 」
「 ね 通販でね〜 いいのあるよ〜 乗る? 」
「「 のる!!! らんちゃん! 」」
「 じゃ あとで一緒に見よ?
まとまれば 送料シェアできて安くなるし〜〜 」
「 わお〜 アタシ なんか違った感じの稽古着 欲しかったんだ〜 」
「 みちよ わたしも。 ・・・ あ でも 高い? 」
「 ん〜んん。 まとまればもっと安くしてもらえるの ! 」
「 きゃ〜〜 楽しみ♪ 」
おはよう 始めますよ !
マダムの声が びん、とスタジオに響く。
ダンサー達は 床から立ち上がり、す・・・っと姿勢を正す。
〜〜♪♪ ピアノの音で全員がレヴェランス。
「 はい じゃあ 二番から〜〜 」
朝のクラスが始まった。
さあ 新しい日 ね♪
・・・ わたしの新しい日 ♪
「 ・・・ ただいまあ〜〜 」
ガタン。 玄関のドアを開けると フランソワーズは
大きなバッグを 足元に置いた。 いや 落とした のかもしれない。
「 う〜〜〜 なんとか ・・・ 帰ってきた ・・・
ううう ・・・ いった〜〜〜★ 」
そ〜っと靴を脱いで ちらっと足を見る。
「 ・・・ ああ 血は止まってるかあ ・・・
このままバス・ルーム行きかしら 」
どたん。 上がり框に座り込み ずりずり膝で進み始めた。
「 ・・・ いった〜〜〜 ぶつけた・・・
ううう ううう 明日 ポアント履けるかなあ
う〜 バス・ルームってこんなに遠かったっけ・・・? 」
「 お帰り フランソワーズ ・・・ ?
うん? どうしたね?? 」
リビングから博士が顔をだし 慌てて駆け寄ってきた。
「 どこか不具合が?? 」
「 え い いえ ・・・ 足が ・・・ 」
「 なに! 足が動かんのか 」
「 い いえ 足の指が 剥けて・・・ 痛くて 」
「 足の指??? なんでまた ・・・
まずはちょっと見せてごらん。 」
「 あのう バス・ルームで洗ってきますから 」
「 いやいや こっちにおいで。 歩けないかい 」
「 あ 裸足になれば大丈夫です。 」
フランソワーズは 靴下も脱いでぺたぺた・・・ リビングへ
博士についていった。
「 ここに座って ・・・ ああ 買い物袋はワシが
キッチンに運ぶよ。 え? 卵? うむ、気をつけるから
とにかくお前はそこに座っていなさい 」
「 はい 」
リビングのソファで自分自身の足を もう一度見てみる。
「 ・・・ うわあ 〜 痛いはずよねえ ・・・
こっちも剥けてたんだ ・・・ やだ〜靴下、汚したあ 」
白い素足は 小指の脇側と中指の背が 派手に剥けていた。
「 ほい、ちゃんと冷凍食品はフリーザーに入れてきたぞ 」
博士が 手を拭き拭き戻ってきた。
「 あ ありがとうございます。 」
「 いやいや で どこが痛むのかね 」
「 あのう〜〜 」
フランソワーズは ぷらん、と左足を差し出した。
「 ・・・ これ は・・・? 」
博士は 彼女の足を手にとりじっと観察している。
「 あ 洗ってきます、やっぱり ・・・ 」
「 いや。 治療をするから。
しかし なぜこんな損傷をした? なにかを落としたのかい 」
「 いいえ。 あのう レッスンで・・・ 」
「 レッスンで?? ふむ・・・?
なぜ ここにだけ重心が掛かっているのかね? 」
「 あのう ポアントを履くので ・・・ 」
「 ぽあんと? ああ あの靴のことかい 」
「 はい。 これです。 」
彼女は バッグの中からトウ・シューズを取りだした。
「 う〜〜〜む〜〜〜〜 」
博士は その靴も手にとり仔細に観察している。
「 これを ・・・ 履くのか? こんな固いモノを? 」
「 はい。 新品で今日おろしたばかりなので・・・
余計にカチカチなんです 」
「 これを 履いて 踊るのかい、お前たちは ・・・ 」
「 はい。 」
「 この靴を なあ ・・・ こんな固い靴をよく履けるなあ
」
「 あ 固いのは初めだけなんです。
この靴は 布と底の革でできていて 先をカゼインで固めてあって
踊ってゆくうちに 柔らかくなります 」
「 ほう〜〜〜 つまり自分の足で柔らかくするわけかい 」
「 そうですね〜 あ でもね、 丁度いい固さの時期って
ほっんと短くて・・・ レッスンで履き潰しますし
舞台で グラン・パ・ド・ドウ 踊って潰れる時もあるんです 」
「 ふうん ・・・ しかし この足では ・・・
すぐに治療する。 ちょっと待ってておくれ 」
「 あ はい。 あのう〜 裸足なら痛くないので ・・・
晩御飯の準備 始めたいんですけど 」
「 それはジョーに頼め。 ああ 下ごしらえならワシでも
手伝えるからな。 う〜む ・・・ 」
想定外じゃ・・・と 博士は呟きつつ研究室に消えた。
想定外 かあ ・・・
そりゃね BGのヤツら
ポアントの存在なんて 知るワケないわよねえ
・・・ ねえ わたし サイボーグなのよ?
それなのに 足指の皮が剥けるてるわけ
バレエって ポアントって すごくない??
フランソワーズは しばらく素足をぶらぶらさせていたが
そのまま歩きだした。
「 靴 履かなければ痛くないし・・・
やっぱりやるべきことはやらなくちゃ。
今晩はねえ 二ホン風のオムレツなの♪ 」
ペタペタペタ ― 元気にキッチンに入っていった。
「 えっと・・・ 卵でしょ ひき肉に タマネギ、ニンニク と。
これはねえ ジョーが教えてくれたの。
美味しそうなんですもの ワクワクするわ 」
まな板の上には タマネギが鎮座している。
「 まずは タマネギのミジン切り ね 」
トントン リズミカルな音が聞こえ始めた。
「 フランソワーズ・・・ おや どこだい? 」
リビングから博士の声がする。
「 あ はあい キッチンです〜〜 」
「 足は大丈夫なのか 」
「 はい 今 ちょっと手が離せなくて ・・・ 」
「 よいよ 切りがよいところでこっちへ来ておくれ。
その足をなんとかせんとなあ 」
「 はあい 」
― 剥けた足指は緊急に新しい皮膚型パッチを貼ってもらった。
「 わあお・・・すごい〜〜 」
「 なに 普通の絆創膏をちょいと加工しただけじゃ 」
「 へえ あ でもこれなら明日 痛くなさそうです 」
「 え その足でまたあの固い靴を履くのか 」
「 ええ。 レッスンありますから 」
「 う〜〜〜む ・・・ 他のダンサーさんたちも
同じようなことがあるのかい? 」
「 はい。 ポアント 履き始めた頃から皆 そうです。 」
「 痛みはないのかい?? 」
「 痛いですけど ・・・ 仕方ないですねえ 」
「 う〜〜む ・・・ あの靴の中にはなにも入れんのか
緩衝材になるようなモノは 」
「 あります。 トウ・パッド というのですが・・・
いろいろな種類 あるんですけど それでもやっぱり剥けたり
しちゃうんですよ 」
「 う〜〜〜む ・・・ どんなモノなのかい? 」
「 えっと これです 」
博士は 手渡されたパッドをしげしげと見つめている。
「 ふむ ・・・ 」
「 その時の足の状態にもよりますし 靴もいろいろですし・・・
まあ仕方ないです 」
「 ちょいと工夫してみるか 」
「 はい? 」
「 様々な状況にも応じられるヤツが あればいいだろう? 」
「 それは ・・・ でも 無理ですよねえ 」
「 いやいや やってみる価値があるぞ 」
「 え・・・? 」
「 うむ うむ これは ― 久々に燃えてきたぞ! 」
「 え 」
「 まあ 楽しみにしていておくれ。 研究室におるからな 」
「 は あ ・・ ・ 」
博士は 溌剌とした足取りでリビングを出ていった。
「 へ え ・・・ 」
どうも 博士の研究者魂? に着火してしまった らしい ・・・
「 ギルモア博士って 研究フェチ??
ま いっか。 ウチでトウ・パッドを作ってもらえるなんて
考えてもみなかったわあ〜 楽しみ〜〜〜
よおし それじゃ 美味しい晩ご飯作るわ。
うん 足のひりひり感も消えたし。
今晩は 二ホン風オムレツで〜〜す ♪ 」
フランソワ―ズは きりり!とエプロンのヒモを結び直した。
― さて そろそろ陽が西に傾くころ
「 ただいま〜〜〜 」
玄関で のんびりした声が聞こえる。
「 あ ジョー! お帰りなさ〜〜〜〜い 」
フランソワーズは エプロン姿のまま玄関に飛んでいった。
「 お帰りなさ ・・・ どうしたの??? 」
玄関へのドアをあけたまま 彼女は棒立ちになった。
ジョーは オデコにかけてアタマから包帯を巻き、片方の頬には
でっかい絆創膏が貼ってあるのだ。
「 あ は ちょっと転んで ・・・ 」
「 転んだ??? 」
「 すいません〜〜〜〜 ウチの配達の途中に・・・
ジョー君 飛び出した近所の子供と荷物を庇って 単車の下敷きに 」
ジョーの後ろに 小柄なオジサンがいてしきりにアタマを下げている。
「 え ・・・ あのう〜 こちらは? 」
「 あ バイト先の店長サン。 どうしても ぼくの保護者に会うって
・・・ いいです〜大丈夫ですって何回も言ったんだけど 」
「 よくないよ ジョー君! アタマ打ったんだよ??
あ ジョー君のお姉さんですか? お家の方は ・・・ 」
店長さんは フランソワーズにもアタマをさげる。
「 あ は はあ・・・ あのう ちょっとお待ちくださいね
≪ < おとうさん > を呼んでくるから。 話、合わせてね ≫
≪ 了解 ≫
≪ なんともないのでしょう? ≫
≪ ぼくを誰だと〜〜 ≫
≪ わかってますってば。 009! ≫
緊急通信を交わし フランソワーズは研究室に飛んでいった。
結局 ―
すいません すいません と 謝り続ける店長さんに
博士は ウチの倅は無鉄砲でご迷惑をお掛けして・・・ と
笑顔で逆に謝ってくれた。
ご心配なく、明日もちゃんとバイトに出します 宜しく〜との
言葉に 店長さんはおおいに恐縮しつつも ほっとした顔で
帰って行った。
「 あ ・・・ すいません、大騒ぎで 」
< 家族 > だけになった時 ジョーは改めてアタマを下げた。
「 謝らないでいいのよ、 ジョー。
でも どうしたってわけなの? 」
「 うん … 配達に出る前にさ 荷物 崩れそうなのを積み直してたら
近所のチビっこが駆けてきて あああ〜〜 って単車ごと止めに。
― で ガツン 」
「 あらあら でもそのくらいの重さ 全然平気でしょう?
」
「 ・・・ だって人目があるんだぜ? 」
「 あ そうねえ 」
「 だから 一応誰もとばっちり受けないトコで下敷きになったわけ 」
「 ご苦労様でした 」
「 ありがと ≪ お姉さん ≫ 」
ジョーは に・・・っと笑った。
「 ふん。 姉としては やんちゃな弟が心配です。 」
「 まったくなあ ほい。 」
博士も苦笑しつつ ジョーのオデコになにかを張り付けた。
「 わ ?? な なんですか 」
「 しばらく 痣の人工皮膚、貼り付けておけ 」
「 え 」
「 心配してくれた店のヒトたちに 悪いじゃろう? 」
「 うふふ ・・・ 普通と反対だけど ね
ジョー いいトコでバイトしてるわねえ 」
「 えへ ・・・ オデコにたんこぶかあ〜〜
えへへ なんか懐かしいなあ ・・・ 」
「 強打したことは事実じゃから 一応調べておくぞ。
メンテ・ルームに来ておくれ 」
「 はあい あ あのぉ〜〜 脚もぶつけて 」
「 なんじゃと??? 」
「 単車と荷物の間に挟まったです、一応 ・・・ 」
「 荷物はなんじゃ 」
「 あ 水です、5リットルのヤツ 40本かな 」
「 ! いくらお前でも ・・・ ちゃんと言え !
おい 準備するから 10分後にメンテ・ルームじゃ いいな! 」
「 はい〜〜 」
まったくお前達 世話が焼けるなあ ・・・ 博士はぶつぶつ言いつつ
地下のメンテ・ルームに降りていった。
「 あは 怒られたぁ
」
「 ふふふ 博士ってばなんだか 楽しそうよ 」
「 不肖のムスコ と お転婆ムスメ だもんなあ 」
「 おてんば? どういう意味? 」
「 ・・・ あとで検索してみて〜〜 おっと〜〜 メンテ・ルームに
行かないと ・・・ < おとうさん > に叱られるよ〜〜ん 」
ジョーは 笑いつつ地下へ降りていった。
「 あ ジョー・・・
ま いいわ。 今晩は皆でオイシイ晩御飯 ♪ 」
岬の家には こんなヒトたちが ごく普通の日々を送っている とか・・・
************************ Fin. ************************
Last updated : 03,03,2020.
index
************** ひと言 *************
彼らの日常 って こんな感じかなあ〜〜〜 ☆
ああ 博士! 万能・トウ・パッド を
是非是非 開発してくださ〜〜〜〜い (ノД`)・゜・。