『  星の降る夜に  』

 

 

 

 

 

 

   カタン ―  キッチンの窓を大きく開けた。

 

 

      ふぁさ 〜〜〜〜〜〜〜〜  ・・・・ !

 

丈の短いレースのカーテンが 派手に翻る。

そして もう暑さはほとんど感じられない風が 家中を巡っていった。

「 ふう 〜〜〜 ・・・・  いい気持ち ・・・ 

フランソワ―ズは 風に乱れた金髪をくるり、と指先に絡めてみた。

その年の夏は 本当に暑かった。

この家は 辺鄙な崖の上にあるけれど 海風が通り街中よりは格段に

過ごしやすい。

その上 邸も風が通り易い設計になっているので

ほとんどの夏は クーラーなしで過ごしてきたのであるが ―

 

「 ・・・ フランソワーズ。 エアコンを入れたのかい 

「 はい 博士。 今日は猛暑日とか ・・・ お身体に障ります。 」

「 なに ワシは元気じゃよ。 窓を開ければ十分すごせる  」

「 いえ 今年の夏は異常高温ですから・・・

 ほら リビングのソファで寛いでくださいね。 適温にセットしてあります

 あ 冷たい紅茶も おもちしますね 」

「 ・・・ そんなにせんでもワシは! 」

「 はい。 お元気ですわ、でもね 快適にすごしましょう  ね? 」

「 う ・・・ む 」

最近 流石に寄る年波には勝てなくなってきた博士・・・

頭脳は相変わらず明晰なのだが 身体の方が心配なのだ。

 

「 今日は午後にはすばる達も帰ってきますから  涼しくなってから

 お散歩でもいかが 

「 おう そうだなあ ・・・  うむ 」

「 お茶 淹れてきますね 」

フランソワーズはエアコンの温度を操作すると キッチンに戻った。

 

 

すぴか と すばる、ジョーとフランソワーズの双子の子供たちも中学生 ―

お弁当作りの日々も なれてきた。

彼らは 朝 早くに登校してゆけば たいがいは午後も遅くなるまで帰ってこない。

ジョーも 出版社勤めも中堅となり 帰りは深夜に及ぶことも多い。

彼自身 出版人として仕事が楽しくて仕方がない時期でもあり

本人はいたく充実した日々を送っている。

 

< お母さん > としては 結構ヒマになってきた この頃である。

 

 

     ふ わ 〜〜〜〜 ん  ・・・・

 

通り抜ける風は 一服の清涼剤となり  なにか  を残してゆく。

 

      あ ・・・?  

 

フランソワーズは 青い 青い それだけの空を じっと見上げていた。

やがて 空は少しづつ茜色になり夜の女神が裳裾をひろげるだろう。

 

「 ・・・ ! いっけない ・・・ 洗濯モノ、 取り込んで・・・

 晩ご飯の買い物に行かなくちゃ。  え〜と 明日のお弁当はのオカズ

 どうしようかしら  」

彼女はすぐに日々の動きの中に戻っていった。

 

 

わいわいと相変わらず賑やかな晩ご飯が終わり 子供たちは自室に引き上げていった。

反抗期だの 思春期だの いろいろあるが

とりあえず 食欲が一番!のお年頃、 ウチのご飯 はやはり

圧倒的に人気なのだ。 

食卓では 子供たちは結構いろいろおしゃべりをし満足そうだった。

博士も機嫌よくベッドに入った。

あとは 遅い夫の帰りを待つだけだ。

 

     カタン。    キッチンの窓をあけた。

 

「 あら ・・・  

空気はつう〜んと澄んでいて 中天には星達が瞬きあっている。

ちょっと前まで 熱を含んだ空気でいっぱいだったのにいつ、

こんなに変わったのだろう。

「 ―  お星さま  きれい ・・・ !

 ふふ ・・・ 七夕の頃よりず〜〜〜っとキレイねえ  」

フランソワーズは しばし夜空に見とれていた。

「 星空 かあ ・・・ 本当は今の時期の方がよく見えるのかも・・・

 今頃のほうが 星まつり にいいんじゃないのかしら  」

 

 

            あ。

 

 

ふと。 ある光景が浮かんできた。

 

 

 

「 いってらっしゃい ・・・ 」

「 ・・・・ 」

ジョーは 黙って頷き、そのまますたすたと門を出ていった。

「 ・・・・ 」

フランソワーズも 敢えてなにも聞かず見送った。

 

梅雨の合い間 ようよう晴れた宵の口に彼はふらり、と出かけた。

彼はしばし晴れた空を見上げていたが ― 思い立ったように動きだしたのだ。

 

「 でかけてくる。 遅くとも明日の昼までには戻るから 」

「 そう?  ひとり? 」

「 ウン。  ・・・ 戸締りに気をつけて 」

「 はい ・・・ 」

 

それ以上 なにも聞いていないし なにも聞かされてはいない。

なぜか 聞けない雰囲気だった。

ジョーは すこし思い詰めた瞳で前だけを見て 出ていった。

 

    ふう ・・・  待つだけ  ね ・・・・

 

フランソワーズは 雲の間を見上げ星に向かってため息を吐いた。

一緒に暮らしていたイワンも なにも言わなかった。

彼女も あえてなにも聞かなかった。

ただ 黙って見慣れた背中を見送った。

 

       ふうう ・・・ あら お星さま ・・・

 

そういえば今晩は たなばた という伝統行事の夜だと聞いた。

星の祭りだそうだが仔細はよくわからないので ただ ただ 

頭上に広がる星たちを見上げてみた。

 

    ・・・  きれい ・・・  

    伝説 とか 神話 は よく知らないけど

 

    こうやって眺めているだけで  いいわ 

    こうやってぼ〜〜っと夜空を見上げることができるって

    シアワセ だわ ・・・

 

その日 夏の短夜が白みはじめるまで 彼女は星をながめていた。

 

 

 果たして 翌日の昼前、彼は戻ってきた。

妙にすっきりした顔をして 軽い足取りで帰ってきた。

相変わらず 詳しくは語らない。 

日頃から口が重い方なので あまり気にはならなかった。

着ていたシャツの背中には 草の染みが点々と付いていて

どうやら野宿をしたらしい ・・・ ことだけは推測できた。

しかし 彼はいつもの穏やかな笑顔なのだ。

 

  ― だから 彼女はなにも聞かなかった。  

戻ってきてくれた ・・・ それだけで十分、と思った。

 

 

      あの夜 彼はなにを夢みたのだろうか。

 

      あの夜 自分はなにを思っていたのだろう。

 

星はなにも教えてくれない。 星々は ただ ただ 美しく輝くのみなのだ。

 

 

そんな想いは 子育ての忙しい日々の中に飲みこまれ

次第に記憶の奥へ と流されていった。

 

 

ジョーと結婚し 双子の子供たちに恵まれ 十年以上が経った。

子育てに 彼としっかりタグを組み奮戦してきた、そうしなくちゃ

とてもじゃないが やってこれなかったから。

彼は人生においても頼もしい戦友 であり、もうはや彼女の半身にも近くなっている。

彼の考えていること 拘りなど だいたい察しがつくようになった。

 多分 彼の方も同じだろう。

夫婦というよりもきょうだいに近い感覚すら おぼえる時もある。

 

    それでも。 時折ふと。   あの夜を思い出す。

 

あの星祭の夜 自分の夫はなにを求め なにを得てきたのだろう。

聞き穿りたいとは思わない。 ただ ― 自分も同じ風景を見たいな 思う。

 

       ねえ お星さま ・・・ いいでしょう?

 

彼女は こっそり、広がる星空に呟いていた。

 

 

 

 次の日も晴れあがった秋日和となった。

「 う〜〜〜ん  ・・・・ いいお天気ね〜〜〜

 お蔭で洗濯モノ全部 ぱりっと乾いたし。 毛布やタオルケットも

 しっかり乾せたわあ ・・・ 

取り込んだ洗濯モノの山を畳み終えたとき ―  

 

           ことん。

 

なにかが彼女の気持ちのなかで 音をたてた。

「 ・・・・? 

午後の早い時間なので 家にいるのは自分だけだ。

「 ・・・ あ ・・・・  そう  ね 」

彼女は手早く洗濯済みの衣類を各自の部屋に届け キッチンに戻ると

炊飯器をセットした。

「 ご飯さえ炊いておけば ―  」

キッチンのテーブルの上にあったメモ帳をとりあげ さらさらボールペンを

走らせた。

 

    ちょっとでかけてきます 明日には戻ります。  F

 

それだけ記すと 彼女は薄いジャケットを手に日傘とバッグひとつで家を出た。

太陽は まだまだ頭上に高い。

 

         星が  みたい わ

 

日傘の影でバスを待ち、地元の駅に出た。

「 ・・・ えっと ・・・? 」

駅まで来て 彼女の脚が止まった。

 

    どこに行けばいいのかしら ・・・

 

星がみたい それが目的なのんだが ― 具体的な場所がわからない。

「 う〜〜ん  こういう時は なんとか検索 すればいいのかしら

 でも ・・・ 自分の脚で探したいのよね 」

それにしても具体的な場所が決まらないと さがしようもない。

「 ・・・ う〜〜ん  星だけなら ウチだってキレイよね

 あの辺鄙さですもの、星と空気だけは自慢ができるわ。

 ・・・ でも。  あの時、ジョーはどこに行ったのかしら ・・・ 

閑散とした午後の駅舎で しばらく周囲をみまわしていた。

 

    ・・・ ん? あら これ・・

 

ふと すみっこの広告に目が留まった。

端っこがめくれ写真はなんだか色が変わっていたけれど ― きっと

ずいぶんと長い間 張りっぱなしなのだろう。

 

   星が映る川  ― そんなキャッチ・フレーズに目が行った。

 

「 あ  ここ がいいわ 」

目的地の駅名をメモし、ちょっと迷ったが 長距離の切符を買った。

「 ふふふ・・・ 切符 なんて久しぶり ・・・ 

 わたし 旅行の時とか ピピッっていうの、あんまり好きじゃないのよね 」

時間など構わず 来た電車に乗り 乗り継ぎ乗り継ぎしてゆく。

気がつけば 窓の外は緑濃い山が迫ってきていた。

最初は 陽が陰ったのか、と思っていたのだが ―

「 うん? あ ・・・ 森の匂い ・・・ え わ あ ・・・ すごい ・・・ 

あ 次の駅で降りるのかな 〜 」

地元駅のポスターから書きとった駅名を確かめた。

バッグひとつの旅なのだ、 彼女は身軽に駅ホームに降りたった。

学生らしい姿が数人 同じ列車から降りただけだ。

彼らはすぐに改札から散っていった。

 

   リ ・・・ リ 〜〜〜  り 〜〜〜〜

 

「 え? これって 虫の声?? すご〜〜い〜〜〜 」

すでに西の空は茜色 ―  狭いホームの片側は雑木林が迫っている。

「  ふうん ・・・?  えっと この川に行きたいのよね

 駅のヒトに聞いてみましょうか 」

フランソワーズは 地上の踏切を渡り改札口へと向かった。

 

「 はあ?  星がうつるかわ?  ・・・??

 ・・・ あ〜〜〜〜 アレかあ ・・・ 七夕の頃の 」

駅構内には 中年の駅員さんが一人いるだけだった。 

彼は この滅茶苦茶にキレイなガイジンさんに話し掛けられ

しばしたじろいだ様子だった。

「 そうです、七夕祭のころのポスターで 見たんですけど 」

「 はあ〜〜 すんませんね〜〜 私は隣の駅と兼任で ・・・

 こっちの駅周辺は詳しくないんですワ。  えっと ・・・

 この先にここいら一軒だけの < みちのえき > っつう

 雑貨屋がありますけ、 そこで聞いてもらって ・・・ 」

「 あ ありがとうございます 」

美人のガイジンさんは ぺこり、とお辞儀をすると

すたすた・・・ 駅舎を出ていった。

 

「 へ〜〜え ・・・ こんな な〜〜んもねえトコに来るなんて

 やっぱ ガイジンさんは変わっとるね 」

彼は ぶつぶつつぶやきつつざっと掃除を済ませると

駅の窓口を閉める準備を始めた。 

 

「 ふうん ・・・?  駅前って ウチの近くの駅も随分田舎だな〜〜

 って思ってたけど。  ここは ・・・ すごいわ 」

な〜〜んにもない、というか ただ広い場所になっているだけの駅前を抜けると

一応舗装はしてある道が 夜に向かって伸びていた。

「 えっと ・・ 道のえき だったわね  あ あそこかも。 」

前方の右側に ぼんやりした灯がついた看板が見えた。

左右は暗い雑木林、合い間に民家がぽつぽつ・・・建っていた。

しかし 灯が点っている家は数えるほどだ。

「 ・・・ なんか 淋しい町なのねえ ・・・

 あ でもこの向こうは畑だから ・・・ 農業が主の町なのかしら 」

普通の女性なら 歩みが鈍ってしまいがちな景色だが

そこは我らが003、さっとサーチしてずんずん進んでゆく。

 

 ― 果たして < みちのえき > は 店じまいの最中だった。

 

「 あのう〜〜 すみません ・・・ 」

「 はえ?? 」

突然 入ってきたガイジンさんに ここでも店員さんは目をぱちくり・・・

しばし呆然とつったっていた。

「 あの ・・・・ 星が映る川 って どちらですか? 」

「 あいあむそ〜り〜〜〜 あい きゃのっと すぴ〜く いんぐりっしゅ 」

「 ええ あの。  わたし、日本語わかりますから。

 あのう 星が映る川 の場所、教えてください。 

「 お〜〜 そ〜り〜〜  ぱ〜どんみ〜? 」

「 星が映る川 は どこですか? 」

「 店員さん。  このガイジンさんは 川の場所、聞いていなさるようじゃの 」

入口の後ろで 声がした。

「 ふぁっと? 」

「 え?   ああ   そうなんです〜〜〜 」

振り返えれば 農作業から戻る最中らしい老婆がネギを抱えてたっていた。

「 ばあちゃ・・・ 川だって? 」

「 そうだよ。 ガイジンさん、 川に行きたいんですかの。 」

老婆は に・・・・っとフランソワーズに笑いかけてくれた。

「 ええ ええ そうなんです。

 ここに・・・ この近くに < 星が映る川 > っていうところがあって

 とても美しい・・・って聞いたのですが 」

「 は〜あ  そうかね。  店員さん アタシが案内するよ。 」

「 ばあちゃ・・・ 頼みます〜〜 俺、英語さっぱり なんで〜〜 」

「 アタシに任せな。  」

老婆は ついてこい、とフランソワーズに合図をした。

「 あっは ・・・ すんませんね、ガイジンさん。

 びっくりしなすったでしょう? 」

「 え ええ ・・・ あのぅ わたし日本語で質問したのですけど・・・ 」

「 あっはっは ・・・ あのヒト、舞い上がってたからね〜〜

 こんな美人さんに聞かれて さ 」

「 あら ・・・ 」

「 キレイなガイジンさん。 ここいらは妙〜な輩はおらんから 安心して。

 タヌキやハクビシンはおるけどね〜〜 あははは ・・・

 そんで ・・・ 星が映る川 だと? 」

「 はい。 七夕の頃のポスター で見たんですけど 」 

「 はぁ〜〜 七夕の頃は たっくさんお客さんらが来るけんど・・・

 ほっんとに星がキレイなのは 秋だぁ  今ごろかねえ〜 

 ヒトがほとんどおらんけ、じ〜っくり見てってくださいよぉ 

ああいって こういって。 その角の地蔵さんを目印にして・・・

と 土地の老婆は < 星が映る川 > をのんびりと教えてくれた。

お礼を述べて 彼女はわくわくしつつ夜の中に歩きだした。

 

    ふふふ ・・・ ちょこっとルール違反ですけど。

    < 眼 > オンにしておきま〜す

 

お地蔵さまの小さな祠の前から 広い道を外れた。

 

 ざわざわざわ −−−− 丈の伸びた草を掻き分けてゆく。

やがて川岸におりた。

川は ― ゆっくりとした流れで広くはない。

 

    ここ ・・・?   あ ・・・!

 

身を乗り出した時、 彼女は息を呑んだ。

 

ゆるゆる流れる水面には ― 星々が 数えきれない星たちが揺れていた。

「 わ ・・・ あ ・・・・ 」

頭上と足元、両方で星が瞬いているのだ。

「 ・・・ 」

言葉もなく ただ ただ 吐息をつき、彼女は星明かりに包まれ立ち尽くす。

降るような星空の下、 冷たい炎をあげ瞬く星々を見上げ

足元からは ゆらゆらと流れる星あかりに照らされて いつしか

彼女は 心を全開にしていた。

 

  星明かりが こころの隅々にまで ほの暗い奥までも 照らす。

 

 

    お兄さん   パパ   ママン ・・・ 

    わたし  生きてます・・・!

 

ごく自然に家族の面影を追っていた。

 

 

    ファンション ・・・ シアワセかい ?

 

    元気に暮らしている? 子供たちは元気?

 

    おい! アイツは大事にしてくれてるか!

 

家族は ちゃんと応えてくれた。

 

「 はい! パパ ママン〜〜  わたし シアワセです!

 ママン、 子供達はもう中学生なのよ 

 お兄ちゃん ええ 彼はとっても優しいわ 」

 

    ざわざわざわ −−−−  川岸の草がゆれる。

 

「 ・・・ ああ  そうなのね ・・・ こうやっていれば

 いつだって 会える いつだって ハナシができる いつだって 」

 

     つ ぅ〜〜〜〜  零れる涙は頬を熱くつたう 

 

「 そう  ね ・・・ ジョーもきっと。  そうだったんだわ ・・・ 」

彼女は ぺたん、と川岸に腰を下ろしていた。

 

 

 

  ― 少し時間は遡る。

 

「 おと〜〜さん 大変だ! お母さんが 家出だ〜〜 」

「 なに??? 」

早めに帰宅したのに、中学生の子供たちの報告に ジョーはびっくり仰天。

「 ほら !!! 」

すぴかがメモを突き出す。

「 え??  ・・・ あ  あ〜〜 」

「 あ〜 じゃないわよ おと〜さん!  おか〜さんとケンカでもしたの? 」

「 おと〜さん! 

「 あ  いや    うん でも 

背の伸びた子供たちにわいわい詰め寄られ さすがの009もタジタジだ。

 しかし ― 

 

      あ。  もしかしたら    あそこ かもしれない

 

天気がいいとふらり、と出かけたくなるわよねえ〜  七夕でなくても

 そんな妻のコトバが 脳裏に浮かんだ。

 

「 あ〜 うん。 これから迎えに行ってくるから。 」

「 迎えに・・・って。 行き先 わかるわけ?? おと〜さん! 」

「 あ まあね。   じゃ 行ってくる。 」

ジョーは 家にあがらず、そのまま玄関のドアを開けた。

「 おと〜さん 晩飯は任せろ。 おじいちゃまの分もおっけ〜〜さ 」

「 すばる〜〜 頼んだよ。  あ 戸締りを 」

「 アタシ!  おと〜さん 戸締りはアタシに任せて。 」

「 す すぴか。  よ  よし・・・ 頼んだぞ 」

「 りょ〜かい♪ 」

 

  なんか役割りが違うんじゃないか〜 と首を振り振りジョーは出かけた。

 

 

 

 

    ざわざわざわ −−−−  

 

草がゆれる。  夜風が大分 冷たくなってきた。

フランソワーズは 目を閉じていた。

 

「 もしもし?  こんな時間に女性が一人で・・・危険ですよ 」

よ〜〜く知ってる声が降ってきた。

「 ・・・ あら。 ここは安全です。

 それに わたくしを誰だと思っているのですか? わたしだって 」

「 はい ぼくの奥さんです。 」

 

    がさり。  よ〜〜く知ってる温か味が隣に座った。

 

「 あら こんばんは。 」

「 こんばんは。 ご機嫌は如何です? 」

「 たいへんいいです。 」

「 それはよかった・・・ 」

「 はい。 」

 

言葉が途切れ 二人は空と地に瞬く星明かりに包まれている。

 

「 わかったの。 」

ぽつり、と彼女が言う。

「 え なにが 」

「 ううん なんでもない・・・ 」

「 そう?  旅は ステキだったかい 

「 ええ。  ええ とても ・・・ 」

 

彼がなにを見てたいのか  ・・・ それは 知らなくてもいい と思った。

ジョーの 夫の夢は  彼だけのもの。

 

     同じ星空を見られたわ  

     ええ わたしも 夢を見たの。

 

     それで いい。 それだけで いいわ。

 

このヒトと一緒に これまでも そして これからも歩いてゆこう。

こそ・・・っと隣にいる彼の手に触れれば 

 

           きゅ。    

 

ごく自然に 彼は握りかえしてくれた。

 

     ええ  これで いい。  これが いいの。

      

     ね  お星さま  そうでしょう?

 

二人は立ち上がると 黙って手を繋ぎ歩き始めた。

 

 

 

  その頃 岬の家では  ―

 

「 ちょっと〜〜〜 とうとう帰ってこないじゃない あの二人! 」

「 ったく〜〜 朝帰りかよ? とんだ不良夫婦だぜ〜〜 」

「 すばる、 あんた たまには がん! と言いなよ? 」

「 う〜〜 ん ・・・ 」

「 アタシじゃあ もうダメなんだもん。 おと〜さんはニコニコしちゃうし

 おか〜さんは はいはいわかりました だし〜 」

「 も〜〜 手に負えないよ、 ウチの親はさ! 」

思春期の姉弟は本気で憤慨していた ― 

ソファの影では 博士が笑いをかみ殺すのに物凄い苦労をしていたとか・・・

 

 

   その夜 天上には数多の星々がその煌めきを散らばしていた。

 

 

******************************     Fin.    **************************

Last updated : 08,28,2018.                          index

 

 

***************   ひと言  *************

原作 あのお話 の十数年後の後日談☆

季節的にもうちょっと 後かな 〜〜〜

こりゃもう 熟年夫婦 ですよね (*^^*)