『  Holly Night  ― あなたの幸せを ―  

 

 

 

 

 

 

 

   §  ジョー

 

 

  ザッ ザッ ザッ  −−−−−    ザザッ  −− ・・・・・

 

「 ふう ・・・  これでいいか〜 な? 」

箒を使っていた少年は ゴミを集めてやっとのことで息をついた。

御聖堂 ( おみどう ) の中の掃除から始まって ― 今 やっと外回りの掃除が終った。

「 ・・・ やれやれ ・・・ もう ・・・ 」

気がつけば 辺りには夕闇が迫っていて寒さもぐんと増してきた。

「 さむ ・・・ ああ シャツだけだったんだ・・・ 動きっぱなしでセーター、脱いでたし 」

 

  ―  ハ −−−−  ックション ・・・!!

 

立ち止まったこともあり、急激に寒さを感じた。 もう大分前に太陽は沈んだ。

「 いっけね〜〜〜  夕食準備当番なんだっけ 〜〜〜 ! 」

彼は大急ぎでちりとりの中身を捨てると あたふたと教会の隣の建物に戻っていった。

 

     うううう 〜〜〜  クリスマスなんて ・・・大 ッキライだよ〜

 

明るいセピアの髪を揺らし、彼は心の中で大声で喚いていた。

そう ・・・ この時期 ― クリスマス前後は毎年 悪夢 だった。

ほんのチビの頃から 掃除の分担はあったし、聖歌隊 という重要な仕事もあった。

この教会付属の施設で暮す子供たちは 皆忙しいのだ。

しかし 声変わりして聖歌隊を抜けてから彼の仕事はどっと増えた。

その上 いつもは雑用も引き受けてくれる神父様が この時期は完全に<戦力外>、

本来の職務 ― ミサの司祭 ― に専念してしまうので とばっちりを彼が一身に受けてしまう。

 

     ・・・ くそ〜〜〜!  クリスマスなんて クリスマスなんて〜〜

     なくなっちまえ 〜〜〜

 

内心、大いに毒づきつつも 彼はにこにこ ・・・ 黙って雑用に追われていた。

だって 彼はここにしか居場所はなかったから  ・・・

 

  彼 ―  島村ジョーは  ここの教会付属の施設で暮している  ・・・ 赤ん坊の時から。

この温暖な地域には珍しく雪がチラついた朝  ―  彼は教会前で拾われた。

神父様が育ての親であり、この施設が彼の故郷なのだ。

 

   バタバタバタ ・・・   建物のドアが開き、また彼が駆け出してきた。

 

「 ちぇ・・・!  セーター・・・! 御聖堂 ( おみどう ) の前庭に置いてきちゃった! 

 それに 祭壇の拭き掃除〜〜 わすれた〜〜! 」

は〜〜っくしょん!  またまた大きなクシャミをして彼は表に回った。

 

教会の門には灯が灯っていたけれど、前庭辺りはもはや暗くて周囲がよく見えない。

彼はごそごそと植え込みを探った。

「 ・・・ え〜と・・・?   ああ あった あった ・・・ 」

やっと手に触れた衣類を引き寄せた。

 

「 ― きゃッ!? 」

 

「 !?!?? わ ・・・・!  な な なんだ〜〜〜 」

突然 セーターが甲高い声を上げた。

「 え ???  え〜〜〜 ??  」

「 は はなして〜〜〜 」

「 !?  あ。 これ ・・・セーター・・・じゃないんだ?? 」

「 はなして〜〜 ワタシのオーヴァー 〜〜 放して 〜〜〜 」

ジョーは自分の手の先を 恐る恐る見つめれば ― 彼が掴んでいるのはセーターじゃなかった。

彼の手の先には  7〜8歳の少女 が いた。

「 ご ごめん〜!  せ セーターかと思って ・・・ 」

「 ワタシ、 セーターじゃないわ!  」

「 ご ごめん! 」

ジョーは慌てて彼女の白いオーヴァーの背中を放した。

「 ・・・ ひどい〜〜〜 ワタシの大事なお気に入りのオーヴァー なのに ・・・! 」

くるり、と振り向いた少女はもう涙声だ。

 ・・・ ふわり。  オーヴァーのフードから金髪がこぼれ、大きな碧い瞳は涙が溢れそうだ。

 

    ・・・ うわあ ・・・ かっわいい〜〜〜 ・・・!

    え。  ここの教区にこんなコ、 いたっけ??

 

    日本人じゃないよな ―  けど ・・・  コトバ、わかるよね?

 

「 ごめんね。  ぼく、自分のセーター、探してて ・・・ 間違えちゃったんだ。 」

ジョーは少女の前に屈みこんで 謝った。 ごそごそとポケットからハンカチを引っ張り出す。

「 ほら ・・・ 涙、拭きなよ? 」

「 ・・・ ワタシ、 ハンカチもっているわ。  お兄さんのセーターはこれ? 」

少女がカーキ色のカタマリを差し出した。

「 あ〜〜 ありがとう! うん、それだよ。 」

「 よかったわ。  これ・・・ あっちの木に引っかかっていたの。 」

「 そっか〜〜 よかった・・・無くなったら困っちゃうものな〜〜  寒いし・・・ 」

ジョーは少女からセーターを受けとり、ごそごそ着込んだ。 

「 それ ・・・ お兄さんのお気に入り? 」

「 え・・・ お気に入り・・・ってか、冬用の厚いのってこれしか持ってないから 」

「 まあ・・・ あ それじゃあ サンタさんにお願いしたら? 」

「 え。 あ〜〜〜 まあ  そ そうだねえ〜〜 」

施設の子供達に サンタさんは毎年、寄贈品のお菓子の詰め合わせを配るだけだ ・・・

ジョーがたった一枚だけもっている冬用のセーターも 施設のバザーで残っていたものなのだ。

 

    でももらえただけ ラッキーだよな ・・・  これ、暖かいもん・・・

 

カーキ色のごついセーターだったけど、ジョーはけっこう気に入っているのだ。

「 ・・・ クシュン ・・・ ! 」

女の子が小さなクシャミをした。

「 あ ここ 寒いよねえ・・・ ね ねえ 君?  ここにいたのかい、 その ・・・ずっと? 」

「 ・・・ わたし・・・ パパやママンや お兄さんとごミサに来たのだけど ・・・

 先に行って待ってるわ・・・って来たのだけど ・・・ ええ いつもと同じ道を通ってたのに・・・

 ・・・ な なんか ここ ・・・ ちがう  の ・・・ 」

「 ちがう? 」

「 ウン。 いつもの サン・ミッシェル教会 ・・・じゃない みたい ・・・ 」

「 さんみっしぇる?  そりゃ ・・・ ちがう よ? 」

「 え ・・・ ねえ ここ ・・・ どこ ・・・? 」

「 ここは 湘南第三教会 だよ。  きみのお家はどこ? 」

「 お家は64区のアパルトマンよ。  パパとママンとお兄さんとすんでいるの。 」

「 64区???  う〜〜ん ・・・べースの中のコなのかなあ・・・ 

 あ ・・・ ねえ ここ、寒いからさ、教会の中に入らないかい。 」

「 え・・・ でも。  お庭でまっている、ってやくそくなの。 

 中にはいってしまったら・・・ パパたち、わたしがいないとおもってしんぱいするわ、きっと 」

「 う〜〜ん ・・・ でも もう暗くなるし寒いし ・・・

 うん じゃあさ 窓からず〜〜っと気をつけていればいいよ、ぼくも見てるし。 

 ぼく、これから教会の中の掃除をするんだ。 だから 一緒に中で待っていようよ? 

 クリスマス・ツリーとか ・・・ けっこう綺麗だよ。 」

「 そ そう ・・・・ ?  クシュンッ 」

「 ほらほら・・・ すっかり冷えちゃったね〜 こっちへおいで。  ・・・あれ?

 オーヴァーの前が汚れてるよ。 土埃がついてる ・・・ 」

ジョーはぱぱ・・・っと白いオーヴァーの裾を払ってやった。

「 え ・・・ あ ・・・ さっきね、そこの角をまがるときに ころんじゃったの ・・・ 」

「 ふうん ? 怪我は? 」

「 へいき。 でも てぶくろをかたっぽう・・・なくなっちゃった。 」

「 じゃあ あとで探してくるよ。  とにかく中に入ろう。 ちょっとは暖かいよ。 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

ジョーは少女の手をにぎって 教会の扉をあけた。

 

    うわ ・・・ 冷たい手 ・・・ こりゃ本当に風邪引いちゃうよなあ ・・・

 

「 あんまり暖かくないけど  ・・・ あれ?  けっこうほんわりしているねえ。 」

夕方のミサの前、まだ暖房は入れていないはずなのだが  ―  ガランとした聖堂の中には

なぜか暖かい空気が満ちていた。

「 ふうん ・・・?  ああ 今日は午後の特別ミサがあったからかなあ・・・

 けど・・・さっき掃除した時にはすげ〜〜寒かったんだ・・・ なんでだろ? あったかいや・・・

 でもよかったね。  ほら クリスマス・ツリー、キレイだろ  ・・・  うん? 」

「 ・・・・・・・ 」

ジョーが振り返ると、少女は祭壇の前でちょこん、と膝を折って会釈をしていた。

「 ・・・ ごあいさつ したの。  ・・・ ここ ・・・ やっぱり サン・ミッシェル教会 じゃないわ。 」

「 う〜ん ・・・ きみはきっと道を間違えたのかもしれないね。 」

「 え?? でもでも ・・・ いつもとおなじみち・・・ 」

「 じゃあさ、 神父様に相談しよう。 それできみのお家の方まで送ってもらうよ。 」

「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ きっとしんぱいしてるわ・・・ 」

「 大丈夫、 ぼくがちゃんと説明するから。 大急ぎでざざ・・・っと掃除しちゃうからさ。

 祭壇の拭き掃除だけだから ・・・ ほんのちょっと待っていてくれる? 

 これから夕方のミサやら深夜ミサで今日は大変なんだ。 」

「 わかったわ。  ・・・ わあ・・・やさしそうなマリアさまね。 」

少女は祭壇やらマリア像を眺めてちょこちょこ歩き回る。

「 それ もう古くなっているから ・・・ 触っちゃだめだよ。 」

「 そんなこと、しないわ。  ごあいさつ、するだけ。   ボンジュール? 」

彼女は白いオーヴァーの裾をつまんで 優雅にお辞儀をした。

「 えっほ ・・・っと ・・・・  わあ ・・・きれいだねえ・・・ 」

ハタキを使っていたジョーは思わず見とれてしまった。

「 うふふ・・・ わたしねえ、しょうらいはバレリーナになるの。 レヴェランスはだいじなのよ。 」

少女は ジョーに向かってもお辞儀をしてみせた。

「 ふうん ・・・ なんだか白い妖精みたいだよ。  あ ぼく、 ジョー。 」

「 わたし、 ファ・・・ あ! ううん  え〜と ・・・ ま マリア! 」

「 え? 

「 だって ・・・ お兄ちゃんがね、知らないヒトにおなまえ、おしえちゃだめって ・・・ 」

「 あは そっか。  ・・・ うん マリアちゃんか。 ぴったりなおなまえだね。 」

「 そ そう ・・・? ごめんなさい。 あの〜 ムッシュウ・ジョー? どうぞよろしく。 」

「 あは ・・・ どうぞよろしく、まりあちゃん。 」

ジョーはちょっとばかりドギマギしつつ ぺこり、とお辞儀をした。

「 ようし ・・・ 張り切って掃除しちゃうぞ〜〜  」

「 ジョーさん、がんばって。 あ わたしもおてつだいするわ。 これで ふくの? 」

少女は祈祷台の下に置いてあったダスキンに手を伸ばした。

「 あ うん ・・・ でも いいよ、いいよ。 待ってて。 」

「 ううん。 クリスマスだもの、教会もきれいにしなくちゃ。  え〜と・・・ お水は? 」

「 あ あのね、 それ・・・そのまま使ってくれる? 」

「 え ・・・ ぬらさないの? ほこり、とれる? 」

「 うん、それはそのままでいい雑巾なんだ。 」

「 ・・・ ふうん ・・・? 」

少女は物珍しそうにダスキンをながめてから 祈祷台だの祭壇のホコリを払い始めた。

 

    へえ ・・・? ダスキン、知らないのか・・・

    あ〜 どこかの金持ちのお嬢様で ・・・ 雑巾なんてしらないのかなあ?

    あれェ  でも ・・・ この近くにそんな家 あるっけか?

 

「 サンタクロースに何を頼んだのかい。 」

「 うふふ ・・・ ピンクのレオタード。 ず〜〜っとほしかったの♪ 」

「 れおた〜ど? 」

「 ええ バレエのおけいこぎのことよ。  ジョーさんは? 」

「 あ ・・・ ぼくのトコにはサンタはこないから ・・・ 」

「 え!? どうして。  ・・・ あ イタズラしたのでしょう? ワルイ子ね! 」

「 ははは ・・・違うよ。  ぼくは ― この教会付属の孤児院にいるのさ。 そこで育ったんだ。

 親は いない。 」

「 ・・・ ごめんなさい ・・・ 」

「 きみが謝ることないよ。  本当のことだもの。 

 ぼくの靴下にプレゼントは入らないし、 祝福の祈りを捧げてくれるヒトもいない。 」

「 ― いるわ! 」

少女はひどく生真面目な顔になり背伸びしてジョーをじっとみつめた。

「 え? 」

「 いるわっていったの。 ジョーさんにしゅくふくを! っておいのりしてくれるひと! 」

「 いないよ。  ぼく、そんな親しい友達もいないし・・・ 」

「 こ ・・・ ここにいるわ!  わたしがおいのりするわ。 

 クリスマスだけじゃないの、まいばん・・・ 神様、 ジョーさんにしゅくふくを! って・・・

 わたしがおいのりするの。 」

少女の白い頬はさくら色になっている。

「 ・・・ マリアちゃん ・・・ 」

「 ね? だからだいじょうぶ。  ジョーさんもこれからたのしいことがたくさんあるのよ。 」

「 きみってコは ・・・ あ  ぼくも! これから毎晩 マリアちゃんに祝福を!って祈るよ。

 ずっとだよ・・・ きみが幸せな人生を送りますようにって。 」

「 ありがとう〜〜 ジョーさん。  ・・・ あ  あの ね。 

 わたし・・・ ほんとうは マリア ってお名前じゃなくて ・・・ ファ 」

「 あ いいよ いいよ。  神様はちゃんとわかっていらっしゃるから。

 ぼくが祈るときには きみの姿をしっかり思い浮かべるから さ。 」

「 ありがとう〜〜〜 ジョーさん! 」  

少女はジョーの手を きゅっと握った。  

「 え えへ ・・・ ぼくこそ ありがとう  ・・・ あ 手、少し暖かくなったね。 」

「 ええ ここはあたたかいもの。  あ?  お兄さんだわ!  お兄さ〜ん 〜〜! 」 

「 ― え? 

少女はぱっと駆け出すと 窓に張り付いた。

「 お兄ちゃんがきたわ!  わたし、ゆかなくちゃ ・・・ お兄ちゃ〜〜ん! 」

「 ・・・ え ・・・あ ああ  よかったね。 」

たちまち彼女はドアまで走っていってしまった。 そして くるり、とふりかえり ・・・

「 ありがとう〜〜 ジョーさん!   メリー ・ クリスマス!! 」

「 ・・・あ  ああ   め メリー ・ くりすます ・・・! 」

 

   ― バタン    

 

聖堂のドアが閉った。

 

     ・・・ 行っちゃったか ・・・   天使みたいな女の子 ・・・

 

ジョーはしばらくぼんやりと そのドアを見つめていた。

「 ・・・ ?   う ・・・ 寒〜〜〜   なんだ 急に冷えてきたぞ?  う ・・・

 あ あのコ、兄さんとか言ってたけど ・・・ 彼女はここで待ってたって言っとくべきか・・・な? 」

急いで窓から覗いたけれど。   冷え冷えとした前庭には  ―  誰もいなかった。

「 ・・・ もう行ってしまったのか ・・・ 」

ジョーの指先は深々と冷えてきた。 ― しかし心の中にはほっこり暖かいなにかが残る。

 

  わたし! わたしがいるわ。

  わたし、毎晩 ジョーさんにしゅくふくを っておいのりするわ。

 

碧い瞳が真剣に語りかけてくれた。

「 ・・・ ありがとう・・・マリアちゃん。 ・・・ ふふ ・・・ あったかいな ・・・ 」

ジョーは彼女が置いていった暖かさをこころに、大急ぎで掃除を終えた。

 

 

 

   キ ・・・・   御聖堂 ( おみどう ) のドアは意外なほど大きく軋んだ。

 

「 ・・・ うひゃ ・・・ 」   

ジョーは 首を竦め、慌ててドアを手で押さえた。

深夜ミサの一番最後の滑り込み、だったのでできる限りそ〜〜っと紛れこみたかったのだが・・・

  (  シ ・・・! )   ( 静かに! )   ( 早くドアを閉めて! )

聖堂の一番後ろの列に座っている施設の先生達が チラリ、と振り返りジョーを睨んだ。

「 ・・・ す ・・・ スイマセン ・・・ 」

ジョーはごにょごにょ口の中で謝ると 最後列の隅に腰掛けた。

 

    ・・・ だってさ〜〜 チビ達、中々寝ないんだもの〜〜〜

    それに ケンってばオモラシするしさあ ・・・

 

年長の彼は年下の子供たちの面倒もみなければならない。

加えて教会の行事が多いクリスマスは 彼にとっては超多忙な最低の季節なのだった。

 

    掃除も終ったしなあ ・・・ 窓ガラスもぴかぴか・・・

    そうだ これ・・・落し物 ・・・  

 

今 聖堂に走ってくる途中に、白い小さな手袋を拾った。

深夜ミサに来た家族連れの落し物かもしれない。 あとで届ければいいや・・・と思った。

 

    ふう ・・・ やっと なんとか・・・ ノルマ完了〜〜

    ・・・ ふぁ〜〜〜  ・・・ ああ ねむっちまおう・・・

    神父様の声って モロ眠気を誘うようなあ〜〜 ・・・ ふぁ〜 ・・・

    あ れ ・・・ ? この手袋 ・・・ どっかで見た ・・・・?  

    ・・・ えっと  ・・・

 

          ―   あ  ・・・ !  

 

    これ!  あのコ・・・マリアちゃんのだよ!

    ・・・・ あ〜〜〜〜 わ 忘れてたっ

    そうだっ! いっけね〜  約束!  約束したんだ!

 

ミサの最中はすっかり居眠り休息タイムを決めこんでいたのだが、

ジョーはしゃんと、背を伸ばし祭壇を見つめた。

華やかなクリスマスの飾りつけやら 神父様の一張羅の司祭服は まるで目に入らない。

ひたすら祭壇の御聖体と十字架をみつめ 小さな手袋をにぎりしめる。

 

「  神様。 この・・・手袋の持ち主に。 どうぞ祝福を ・・・! 

 彼女がいつも微笑んでいられますように   彼女がいつも幸せでありますように  」

 

         神様  ― どうぞ あの小さな少女に 祝福を   

 

ジョーは生まれて初めて 真剣に心から他人のために祈った。

凍て付く深夜 ・・・・ ひときわ美しく星々が輝いていた。

 

 

 

「 お兄ちゃ〜〜ん ・・・! 」

「 ああ〜 お前、 どこ行ってたんだよ〜〜 」

道を曲がったところで兄と鉢合わせした。

「 教会の前で待ってるっていうから。  パパたちより先に来てやったのに! 」

「 え ・・・ そうなの、お兄ちゃん。

「 そうさ。  ・・・ 俺はデートを切り上げて! 家族でのミサに合流したってのに・・・

 お前はどこにもいないし〜〜 もう心配したぞ! 」

背の高い少年が くしゃくしゃと小さな妹の髪を撫でる。

「 あ・・・ん  やァだァ〜 お兄ちゃんったら〜〜  せっかきれいにしたのにィ〜〜

 あのね。 わたし、おみどうのなかにいたの。 」

「 へえ・・? 先にいれてもらえたのかい。 」

「 うん。 それでね セピアのかみのお兄さんとおはなし、してたの。 」

「 ふん  セピアの髪の野郎? ・・・ この界隈なら ・・・ シモンか? レオか? 」

「 ううん ・・・ しらないひと。 でもとってもやさしいお兄さんだったわ。 」

「 おい ファン! 」

少年は妹をじろり、と睨んだ。

「 知らんヤツと気安く口を利くな!  ・・・ 名前、教えなかっただろうな!? 」

「 うん ・・・ お兄ちゃん・・・ 」

「 よし。 以後 厳重に注意しろ!  あ〜  パパ! ママン〜〜 」

「 え? どこどこ ・・?  わあ パパ 〜〜 ママン 〜〜 」

兄妹は手を繋いで両親の元に駆け寄った。

その夜、イブの深夜ミサで ―  少女は兄と母の間に挟まれ神妙な顔で跪いていた。

小さな手を組み 彼女は祈る ・・・ 聖なる日に天にまします我らが神に ・・・

 

  「 神さま ・・・  どうぞ ジョーお兄さんにしゅくふくを ・・・ !

   ジョーさんがいつもほほえんでいられますように  ジョーさんがしあわせでいいますように 」

 

 

片っ方の手袋はきっと彼が見つけてくれるわ ・・・ 少女は固く信じていた。

 

 

 

 

 

   § フランソワーズ

 

 

「  ふう ・・・・  」

長い坂道を登ってきて ― 思わず大きく溜息をついてしまった。

息が切れるとか脚が痛いとか ・・・ そんなことは有り得ないのだが。

 

    う〜ん ・・・ いやァねえ ・・・

    ・・・ これはね、精神的な 溜息 なの・・!

 

フランソワーズはご機嫌ナナメな様子で 周囲を見回した。

「 ・・・ あら。  ここ ・・・ この前来たときと ・・・ ちょっとカンジが違うわねえ・・・

 ああ 季節が違うから なのね。 」

石段を登りきったところは 小さな公園になっていて広場らしきものが見える。

手前には薔薇園があって 今は冬薔薇がすこしだけ花をつけているが閑散としていた。

「 あの広場 ・・・   周りにベンチとかあっていい雰囲気なのに 

 ― 目の前は工場地帯、なんだもの。 ちょっとがっかり、なのよねえ・・・ 」

彼女はぶらぶら広場目指して歩いてゆく。

< ちょっとがっかり > な場所でも やはり有名なデート・コース、それもイヴの日となれば

カップルの姿がやけに目につく。

 

   ・・・ わたしも わたしだって デートだったのに ・・・

   ふ ふ〜〜ん ・・・だ ・・・

   なんだってこんな日に バイトの替わりなんて引き受けるのよ〜〜〜

 

   もう 〜〜〜〜  ふん ・・・! だ ・・・

   知らない しらない〜〜〜   ジョーってば! 

 

前方左には古めかしいホテルが見えるが、ここはわざと < 旧式 > を模して

建てられた、と聞いた。   この国に初めて < 洋風建築 > ができた頃の様式だそうだ。

 

   洋風? ・・・ ふうん わたしにはただの古ぼけた建物にしか見えないけど?

   あんなホテルって 設備が悪いんじゃないの?

   シャワーのお湯がすぐに落ちる、とか ・・・

 

   わたしならぴかぴかのタタミがあってひろ〜〜いお風呂がある リョカン の方が

   ず〜〜〜っといいと思うけど?

 

最近ますますジャパナイズしてきたパリジェンヌは ふん・・・と肩を竦める。

「 だいたいねえ・・・ 異人館 ってなんなの? ただの古屋敷じゃない? 

 あんな家に住んでいたら不便で仕方ないわよ。  いつのハナシよ?

 ・・・ ジョーったら ・・・ きみの家もこんな風だったの?  だって!

 いくらなんでも薪を燃してオーブンを使ったりなんかしないわ!

 ウチのアパルトマンにだってね、ちゃ〜〜んと石油ストーブはありました。 」

彼女のご機嫌はどんどん下り坂 ・・・ らしい。

 

目の前の広場に出るには 車道を一本横切り、階段を上がらねばならない。

「 ほ〜んとにあがったり下がったりな街ね?  ふ〜ん ・・・   あ! 」

  

    ―  コツ ッ ・・・・!

 

なんでもない舗道で 彼女は爪先をつっかけ見事にすってん・・・と転んでしまった。

「  きゃ ・・・・    い  ったァ 〜〜〜〜 

脚を庇ったために、妙は倒れ方をして したたかオシリを打ち付けてた。

「 きゃ〜〜ん ・・・ いたたたた・・・ 」

「 あの  大丈夫 ・・・ ですか? 」

目の前に若い女性が現れ 手を差し伸べてくれた。

「 ―  え?  あ  ああ ええ ・・・ 大丈夫です、ちょっと派手に転んじゃったけど・・・ 」

「 よかったですね  ここは石畳だったのを部分的に舗装しなおしたりしてるから

 でこぼこなんですよ。  よく ・・・ 転ぶ方がいます。 」

「 まあ そうなんですか・・・  えへへ・・・でもわたしは不注意でしたから ・・・ 」

パン ・・・っと裾を払ってフランソワーズは立ち上がった。

 

     あ。   このヒト ・・・ お腹 大きい ・・・?

 

やっと目の前の女性に注意を向ける余裕ができた。

彼女は ― どことなくゆったりした着付けをしていた。

「 ありがとうございました。   うふ ・・・ ちょっと気が晴れました。 

 転んだのに 可笑しいけど・・・ 」

「 そう?  なにかご機嫌を損ねるようなことがおありですか。 」

黒髪の美女は こくん? と首をかしげた。

 

     あら ―  。    この表情 ・・・ 誰かに似てる・・・?

     それも身近でよく ・・・ 見るわ ・・・ 

 

     え ―  誰だったかしら ・・・・ う〜〜ん?

 

「 いえ ちょっと ・・・ くだらないコトで勝手に腹を立てていました。 」

「 貴女みたいに綺麗な方でも? 」

「 え ・・・ わたし、そんな綺麗じゃありませんよ?

 せっかく 港でも眺めて気分を変えよう ・・・と思って ここまで登ってきたのですけど ・・・

 でもここは ちょっとがっかりな眺めですよね。 」

「 ああ  うふ・・・ そうですね、ここは年々海が遠くなります。 」

「 きっと この公園が出来たころには ― 目の前はず〜〜〜っと海 だったのでしょうね。 」

「 そうらしいですよ。  この港は開港100年以上経ってますから ・・・ 」

「 そうなんですか ・・・ 転んだのがわたしでよかったです。  」

「  え? 」

「 だって ・・・ あの、大切なお身体でしょう? 」

「 あ ・・・ ふふふ ・・・わかります?コートを着ていればわからないかな、と思ったのですけど 」

彼女は頬を染めつつ微笑んだ ― 幸せな暖かい笑みが広がる。

「 あの ・・・ 座りません?  あ それともご家族の方がいらっしゃるのかしら。 」

「 ありがとうございます。  それじゃご一緒に広場の方に行ってみませんか?

 あそこにはベンチがいくつかあります。 私も一人ですから。 」

「 ・・・ でも ・・・ カップルで埋まっているのでは ・・・ 」

「 行ってみましょ。  あそこからでもちょっとは海が見えますし。 」

「 そうですねえ ・・・ あら 歩き回って大丈夫ですか? 

フランソワーズはその女性に気遣わしげな視線を向けた。

「 お具合が悪いとか ・・・ そんなことあったら ・・・ 」

「 大丈夫。  悪阻もほとんど治まりました。  こうやって外の空気を吸っているほうがいいの。

 それに ・・・ 海の向こうが見えるから ・・・ 」

「 そう・・・ですか? それじゃゆっくり行きましょうか。 」

「 はい。  あら あのう ・・・ デートの待ち合わせじゃなかったのですか? 」

「 え ・・・ ええ  あの  ・・・ わたし ・・・ < バイトの替わり > に負けてしまったの。

 ね? ともかく少しでも見晴らしのよい場所に行きましょう。 」

「 そうなの? ・・・ いいわ。 海をみていると幸せになれますもの。 」

二人はゆっくりと道を横切り階段を登り  ―  広場に出た。

 

「 ・・・ この先に 海が ・・・ ひろ〜〜〜い海が見えればステキなのに 〜 」

「 そうねえ ・・・ ね? この下は広い海だ・・・って思ってみません?

 ココに座れば <現実> は見えないし。 」

黒髪の女性は笑みを絶やさない。  しかしコートがあまり暖かそうではなかった。

「 うふふ 〜〜 そうですね。  あ ・・・ 冷えません? 大丈夫? 」

「 下にね沢山着込んでいるから大丈夫。  ほら あなたもどうぞ? 」

「 はい。  ・・・ あの柵の向こうには  ―  海が広がっている・・・と・・・・ 」

「 そうそう そうなのよ。   その海に向こうに彼は行ったの。 」

「 あら ご主人ですか? ・・ 赤ちゃんのお父さんかな? 

 あ・・・ 立ち入ったこと、聞いてごめんなさい! 」 

フランソワーズは思わず口にしてしまった言葉を慌てて取り消した。

「 いいのよ、別に。  彼 ・・・ クリスマス休暇に本国に帰ったの。

 もっとも、彼も身寄りなくて ・・・ お世話になった方々に報告したいから・・・って。

 年明けに帰ってきたら ― ちゃんと入籍する予定。 子供のコトもありますから 」

「 まあ〜〜 おめでとうございます♪

 ・・・ う〜ん 羨ましいわあ〜〜〜 いいな いいな〜 」

「 うふ・・・ あなたは?  < バイトの替わり > に行ったデートのお相手とは? 」

「 え ええ ・・・ あの ・・・ あ ちょっと失礼・・・ メール、入っているかしら。 」

フランソワーズはバッグからごそごそ携帯を取り出した。

「 ・・・ あれ? ―  いやだわ〜〜 壊れちゃったのかしら・・・ 

「 はい・・・?   まあ・・・  」

あれこれ操作する彼女を その女性は目を丸くしてみている。

「 あれえ〜 さっきまでなんともなかったのに〜 ・・・ ヘンねえ。 全然反応しないわ。

 電源は入っているのに ・・・ メールだけがダメなのかしら。

 すみません、ちょっと電話させてくださいね。 」

「 え ・・・ええ どうぞ  まあ  それ、電話なのね ? 」

「 え?   ・・・・ ん〜〜〜〜???  電話もダメだ〜〜

 あ! さっき転んだときにどこかにぶつけちゃったのかなあ・・・ う〜ん ・・・? 」

携帯は掌の中で ウンともスンともいわない。 辛うじて機能しているのは時計だけなのだ。

「 帰りに携帯屋さんに持ってゆかなくちゃ・・・ ふふ ねえ スマホにしろってことかしらね? 」

 ねえ? と隣の女性にも同意を求めたのだが ―

「 ・・・ それ、お国の ・・・ 電話、なのですか?  まあ ・・・ すごい ・・・ 」

「 ― え?  これ・・・ もう旧いんです 」

「 そうなの?  ああ あなたのお国ではずいぶん便利なのですねえ ・・・

 私の勤め先でも業務用で使っているヒトもいますけど、もっと大きな機械です。 」

「 ??  そう なのですか??  」

「 あの赤電話なら さっきの入り口の横に電話ボックスがありますわ。 」

「 え ええ  でも 彼、仕事中なので  ―  いいです、 もう〜〜 知らないッ 」

フランソワーズはぷりぷりしつつ、携帯をしまった。

「 ふふふ ・・・ ボーイフレンドはお忙しいのかしら。 」

「 ボ  ボーイフレンド・・・?  ええ・・・ でもね、今日のデートは イヴだからってず〜っと前から

 約束してたのに・・・ なのに ・・・ 急に ・・・

 クリスマスのヨコハマは綺麗だよ、って珍しく彼から誘ってくれたんです。 」

「 それなのに < 替わり > なのね。  それは 腹が立つわねえ? 」

「 ええ! もう〜〜 それもね、 ごめん、 のひと言なんですもの。 」

「 ふふふ ・・・でもなんか優しそうな方ね、そんな感じ。 」

「 優しいけど ・・・ う〜ん・・・・ もうちょっとはっきり言って欲しいなって・・・

 わたし達、けっこう付き合っているのに ・・・   あ ごめんなさい、わたしったら・・・

 グチばっかり言って ・・・ 」

「 いいのよ。  私も誰かとお喋りしたいなあって思ってたの。 」

「 あ・・・ご家族は・・・・ 」

「 誰もいませんの。  あ ・・・ 今はこのコがいますけど ね? 」

女性は微笑んでお腹に両手を当てた。

 

    わあ ・・・ ステキな笑顔 ・・・ とっても優しい方ね 

     ・・・ なんか 羨ましいわあ ・・・

 

    愛するヒトの ―  子供 ・・・    いいなあ ・・・

 

「 ― なにか ・・? 

「 え  ええ   いえ  ・・・ あのいいなあ〜って思って。 赤ちゃん、ご予定は? 」

「 来年の五月なんです。  元気に生まれてきてくれればそれでいいわ。 」

「 いいですね ・・・  なんだか・・・ あ ・・・ご ごめんなさい・・・あれ ・・・ 

 わたしったら なんで涙が  ・・・ 

女性の隣に座っておしゃべりしていただけなのに ― フランソワーズの頬には

あとからあとから涙の粒がこぼれ落ちてゆく。

「 ・・・ やだ ・・・ どうかしてますね わたし ・・・ 」

「 ・・・・・ 」

最初のうちこそ、照れ笑いをしハンカチをひっぱりだして懸命に涙をぬぐっていたのだが ―

「 ね? 泣きたいときには泣いたほうがいいのよ。 

  ぽん ・・・  背中をかるく叩いてもらった。 また どっと涙が溢れてきてしまった。

「 ・・・ そ そう ・・・ です  ・・・ か?  ああ 涙 が ・・・  」

「 私、ここにいますから。  ― 泣いていいのよ、お嬢さん。  」

「 そんな ・・・ ああ で でも 涙が ・・・ う うう うう ・・・ 」

とうとうフランソワーズは身を折って泣き出してしまった。

「 ・・・・・・・ 」

背中に当てられた細い手が穏やかに優しく ゆっくりと ・・・ 彼女の心も撫でてくれた。

 

 

「 ― あの 〜〜 こんなに歩いて大丈夫ですか? 」

フランソワーズは 歩みを速めつつ、心配で仕方がない。

公園のベンチで泣き出してしまった彼女をその女性は散歩にさそった。

妊婦さんと歩くのだから ぷらぷら・・・・ 辺りのバラ園でも眺めるのかな・・・と思っていたのだが。

そろそろお腹が目立ってきた彼女は 意外なほど速くしっかりとした足取りなのだ。

「 あの・・・? 」

「 ずっとね、こんなカンジで歩いています。  大丈夫、赤ちゃんも慣れているわ。 」

息を弾ませ、追いついてきたフランソワーズに女性はにこにこ・・・答えた。

「 すごいですねえ・・・ きっととっても元気な赤ちゃんが生まれますね。 」

「 そうだといいなあ〜って思っているの。  あのね、 この先に・・・小さな教会があるんです。

 時々しか行かないけれど ・・・ せっかくのイヴですし。 」

「 まあ それはいいわ。  わたし、深夜ミサには参加するつもりだったのですけれど 

 ご一緒できればとても嬉しいです。 」

「 私こそ・・・ ステキなお友達ができました♪ クリスマス・プレゼントだわ。 」

「 わたしも ・・・ 貴女の幸せな 幸せなお母さんの笑顔を見て ・・・ なんだか・・・ 」

   ぽつ ・・・   また涙がこぼれてしまった。

「 や・・・だ もう〜〜 わたしってば今日は涙腺が故障しているんだわ。 」

フランソワーズは慌てて目尻を払った。

「 ・・・・・・ 」

黒髪の女性はそっとフランソワーズの手を取った。 

「 ねえ・・・ その方のこと、愛しているのでしょう? 」

「 ええ ― とても。 」

「 彼は?  愛してくれている? 」

「 はい。 ・・・でも なんだか照れ屋で ・・・ はっきり言ってくれない ・・・」

「 ふふふ ・・・ 彼は日本人なのね? あなたのお国の男性とちょっと違うのね? 」

「 え ・・・ ええ ・・・ でも! 」

「 でも  好き、なのでしょう? 」

「 ― はい。 」

「 それなら大丈夫。  ああ ほら、あそこに見えるでしょ、教会。 」

「 ?  ・・・ あら本当。 可愛い教会ですね。 」

「 貴女の気持ちが届きますように ・・・ 貴女が幸せに笑っていられますように って祈るわ。

 今日はイヴですもの、 きっと神様は祈りを聞いてくださるわ。 」

「 ・・・ わたし も。 貴女と貴女のベビーの幸せをお祈りします。 」

「 ありがとう ・・・ お嬢さん 」

「 ・・・ わたしこそ ・・・ マダム ・・・ 」

亜麻色の髪と黒髪の女性は じっと見つめ合った。

「 ―  あ? 」

突然、 黒髪の女性から笑顔が消え ― お腹に手を当てている。

「 え? あ どうかした・・・のですか?? あ! ・・・ い 痛む とか・・・?

 ね!  救急車とか呼びます!  」

「 あ ・・・ い え  大丈夫 ・・・ あの ね。   今 動いたの、赤ちゃんが・・・! 」

「 ・・・ まあ ・・・・ 」

「 うふふ・・・ 私の赤ちゃんも貴女のことを応援しています、って 。」

「 わあ〜〜 それならものすごく嬉しい〜〜  でもちょっと休みましょうよ。 」

「 そうね ・・・ ほら あそこにベンチがあるわ。 」

二人は再び手を繋ぎ ゆっくりと歩きだす。

「 ― ずっとこの国にいらっしゃるの、お嬢さん。 」

「 ええ ・・・ 多分 ・・・ 」

「 それじゃ ― 来年のクリスマス・イヴに またお会いできればいいわね。  この教会で。 」

「 はい。  ママンとベベにきっと会えますね。 」

「 ステキなカップルに会えるわ。 」

 

  ありがとう ・・・ メルシ ・・・  二人の女性は軽く抱き合ってから教会に入って行った。

 

 

  ガヤガヤガヤ −−−  ミサが終わり 人々が挨拶を交わしている。

「 ・・・ あら? あの方・・・ どこかしら。 」

フランソワーズはきょろきょろ辺りを見回す。

彼女と教会の中では通路を隔てて座っていたのだが ― 先に外に出たのだろうか。

「 おかしいわねえ・・・ いいわ、きっと前庭で待っていてくれるのかも・・・ 

 ・・・あれ?  この教会 ・・・ こんなに古びていたかしら・・? 」

彼女はちょっと妙な気分で辺りを見回してから 建物の外に出た。

「 ・・・ いないわ。  へんねえ・・・   あ? メール ・・・! 」

取り出した携帯はちゃんと機能していた。

「 よかった〜〜 壊れてなかったのね〜   ・・・  わ♪  ジョーだわ〜〜〜 」

 

   ・・・ その日。  フランソワーズはあの黒髪の女性とは会えなかった。

 

 

 

 

 

   §  ジョー と フランソワーズ と

 

 

「 わぁ 〜〜〜〜 い 〜〜〜  きれい〜〜 ぴかぴか〜〜〜 」

「 ・・・ まって〜〜 すぴかぁ〜〜〜 」

「 おそ〜〜いんだも〜〜ん すばる〜〜  」

「 だって だっえェ 〜〜〜 」

 

  パタパタパタッ  ・・・・   トタトタトタ ・・・

 

二組の足音と甲高い声が 教会の前庭に響いている。

「 こら〜〜 お前たち! 騒いじゃダメだってば〜〜 」

 ダダダダ  −−−− !   茶髪の青年が大急ぎで駆け込んできた。

「 あ〜〜〜 おとうさん〜〜 」

「 おとうさ〜〜ん 」

「 もう〜〜〜  ・・・ ふう〜〜 勝手に先に行っちゃだめだって言っただろう〜〜 」

「 え〜〜 だってさあ〜 おとうさん、おそいんだもん。 」

「 〜〜 だもん。 」

「 今 追いついた! 」

「 ほらほら・・・ 二人ともきちんとしてね。 」

「 おかあさん〜〜 ねえ すぴか、きちんとおさげ、あんであるでしょう? 」

「 おか〜〜さ〜〜ん♪ 」

ぴと・・・っと二人のチビっこは 亜麻色の髪の女性の両脇に張り付いた。

「 ほら リボンが曲がってる・・・ すぴかさん。 すばる、シャツのえり、内側に折れてるわ。 」

「「 ・・・ は〜〜い ・・・  」」

チビっこたちはもそもそ・・・ 身仕舞いを直している。

「 ふう〜〜  こんなトコで徒競走するとは思わなかったよ〜〜 ふう・・・ 」

「 ふふふ ・・・ ジョーってば、ほら ネクタイの結び方、ちょっとヘンよ。 」

「 え〜 ・・・ 直してくれる? 」

「 りょ〜うかい♪  ・・・ はい オッケ♪ 

「 メルシ♪ 」  

「「 ・・・ また ちゅ〜 してる・・・  」」

「 なんだい?  さあさあ ・・・ ごミサが始まるからね〜 静かに中に入ろうね。 」

「「 は〜い 」」

夫婦は子供たちを連れて ゆっくりと御聖堂 ( おみどう ) に入った。

昼のミサなので 子供連れも多い。  顔見知りも多く笑顔で会釈をしたり 子供たちは手を振り合う。

 

≪ ・・・ ねえ?  ≫

≪ ?  なんだい、突然 ・・・ 脳波通信なんか使ってさ 

≪ ちょっと ・・・ ナイショ話がしたかったのよ。 ≫

≪ お〜〜 浮気のコクハクかい? 

≪ あら。 ジョーじゃありませんわよ〜 だ。 ≫

≪ え ・・・  い いや ・・・ だからなんだよ? ≫

≪ あのねえ ・・・ わたし。 あるヒトの幸せを祈りたいの。 

 ずっと前 ・・・ そうね、ジョーと結婚する前のイヴに出会った方なのよ。

 その方とその方の赤ちゃんの幸せを神様に祈りたいの。 ≫

≪ いいんじゃないかな。  そうだ ・・・ ぼくも ね。

 ず〜〜〜っと前 ・・・ まだ施設にいる頃に 初めてぼくのために祈ってくれた

 ちっちゃなレディの幸せを 祈ろうかな。 

≪ あら いいわねえ ・・・ 勿論 <皆> の幸せを祈るけれど ・・・ ≫

≪ そうだね ・・・ きみとチビたちと。 博士と仲間たちと。 ≫

≪ ええ ・・・ ≫

≪ うん。  フラン?    メリー・クリスマス ♪ ≫

≪ うふ ・・・ ジョー ・・・   メリー・クリスマス♪ ≫

 

               「「  あのヒトが幸せでありますように ・・・ 」」

 

ジョーとフランソワーズは心からそう祈った。  

 

 

 

   天には御栄  地には平和を   ―  そして 皆様が幸せでありますように 

      あまねくこの地に生きる人々に 神様のお恵みがありますように 

 

                 Merry    Christmas !

 

 

 

******************************        Fin.      ******************************

 

Last updated : 25,12,2012.                           index

 

 

 

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ぎ ぎりぎり〜〜〜 クリスマス話 です 〜〜〜

えっと・・・ 公園とか教会とか彼らの家とか・・・ 

滅茶苦茶距離につきましては目を瞑ってくださいませ <(_ _)>

クリスマスにはどうもこの二人は時空間を超越するらしい・・・