『 ひとりだち 』

 

 

 

 

 

*******   はじめに  ******

このお話は 【 Eve Green 様宅の

<島村さんち> 設定を拝借しています。

 

 

 

 

  ―  カッチャ カッチャ  ・・・  タタタタ  ・・・・

 

「 ばいばぁ〜〜い  おか〜さ〜ん 」

「 ・・・ おか〜さ〜〜〜ん ・・・ 僕 ぅ ・・・  」

 

色違いの頭が こちらを振り向いてはわさわさ手を振っている。

「 はい いってらっしゃい。   ばいばい〜〜 」

こちらも 満面の笑顔で手を振り頷いている。

「 いってキマス 〜〜〜   あ〜〜  まりちゃ〜〜ん あそぼ〜〜〜 」

「 あ〜〜〜  すぴかちゃ〜〜ん あそぼ〜〜〜 」

姉娘の方は もう仲良しができたのだろう、友達をみつけると駆けていってしまった。

「 ばいば〜〜い おか〜〜さ〜〜〜〜ん 」

弟の方は ちょいと半分泣きそうな顔でまだこちらを見ている。

「 はい、ばいばい、すばる。  た〜くさん遊んでいらっしゃい〜〜 」

「 ・・・ う ・・・ おか〜さ 〜〜ん ・・・ 」

「 はい おはよう! しまむらすばるクン!  」

「 ・・・ あ  めぐみせんせい 〜〜  」

「 はあい。  ・・・ すばるクン、 ごあいさつ は? 」

「 お  ・・・ おは  おはよ〜〜〜ございます〜〜 」

「 はい よくできました。  さあ〜〜 中に入りましょ。 」

「 ウン! 」

めぐみ先生は フランソワーズの方に笑顔で会釈をすると、 すばるの背を軽く押して

どんどん園庭に入っていった。

「 ・・・ おねがいしま〜す ・・・っと。   さ! 帰るわ 〜〜 」

彼女は 止めていた自転車を引き向きを帰ると勢い良く乗り込んだ。

 

     さあ〜〜〜!!!  わたしだけの時間  に 出発〜〜〜 ♪

 

フランソワーズは  弾ける笑顔でペダルを漕ぎ始めた。

 

       サワサワサワ 〜〜〜〜 ・・・・・

 

まだ稚い葉をゆらし 晩春の風がここちよく吹き抜けてゆく。

「 う〜〜ん ・・・・ さっいこ〜〜〜〜  ♪♪   お天気は上々〜〜 風も緑のいい香り♪

 それでもって それでもって それでもってェ〜〜〜〜

 

      ― わたしは一人 なの〜〜〜♪    

 

 スカートの両側を握り締める手もいないし。  御手洗まで追いかけてくる声もないし。

 自転車の前と後ろで 騒ぎ捲くる姉と弟もいない。

 

     そうよ〜〜〜 わたし 一人なの♪  ひっさびさの たった一人の自由時間なの♪ 

 

     シュ  −−−− ・・・・・・  !

 

フランソワーズ゙の自転車は かるがると乗り手を担いで新緑の中を疾走していった。

    

        わあ〜〜〜い♪  自由な時がまたやってきたわ〜〜〜

 

亜麻色の髪を靡かせ 初夏近いお日様よりも明るい笑みを振り撒き ― 前も後ろも

今日ばかりは からっぽな自転車と共に 彼女は歌いだしたい気分だった。

 

 

街外れの崖っ淵 ― そこにはちょいと古びた洋館が建っていて。

そこには仲のよい家族が住んでいて。   そこには 幸せな笑顔がいっぱいなのだ。

そして その住人の双子の姉弟は この春から幼稚園に通っている。

 

 

その日。  朝 目覚めた時からフランソワーズは超〜〜〜ご機嫌チャンだった。

「 ふんふんふ〜〜〜ん♪   幼稚園ってあっという間に帰ってきてしまうけど。

 でも♪ 今日からはちょこっと違うのよね〜〜  うふふ うふふ うふふふ〜〜ん ♪ 」

双子の母は もう本気で歌い始めていた。  

「 だって待ちに待っていた日 なんだもの。

 

   ― では。 その待ちに待った日 のために。 準備作業を始めましょう。  」

 

そっと起き出し 隣でまだく〜〜〜く〜〜〜 熟睡しているジョーにちょん!とキスをして。

彼女は足取りも軽く キッチンに向かった。

「 さ〜て と。  で〜は。 お弁当大作戦 の始まり 始まりぃ〜〜 ♪ 」

朝陽いっぱいのキッチンで 彼女は文庫本くらいな大きさの < おべんとうばこ > を取り出した。

 オレンジ  のと  グリーン のと。  おままごとみたいな弁当箱だ。

「 リクエストはちゃんと聞いてあるのよね〜 ふんふんふ〜〜ん♪ 」

もうハナウタ交じりに 彼女は冷蔵庫のドアを開けた。

 

今日という日のために、 彼女はたっくさんあれこれ ・ いろいろ ・ うろうろ ・・・ してきた。

 ― まず 一番初めは ・・・ 

入園準備のプリントを夫に読み上げてもらっていた時、 おべんとう という言葉にであった。

「 ふ〜ん ・・・ 4月の下旬になったらお弁当をお願いします  だって。 」

「 え?  おべんとう?  ああ ランチね? サンドイッチ とか クッキー でいいのでしょう?

 そうだわ、 ケーク・サレ なんかもいいわよね。 」

「 う〜ん ・・・ クッキー ・・・はマズイと思うよ? オヤツじゃないんだし。 

 ほら、毎日ぼくに作ってくれるだろう? あんなんでいいんだよ。  」

「 え ・・・ あのコ達に 二段重ねのランチを持たせるの? 

 御飯 ぎゅ〜っと詰めてウメボシ真ん中にいれて 卵焼きとか煮物とか昨夜のオカズの残りとか

 ・・・ 食べきれないわよ〜〜 」

「 あの。 そうじゃなくてさ。  なんかさ〜 ちっこい弁当箱、買ってきてやって、ウィンナーとか

 ゆで卵とか・・・ちまちま入れてやればいいだよ。  御飯もさく・・・っと さ。 」

「 ・・・ ちまちま??  さく・・・っと? 」

「 なんか  きゃらべん とかいうのもあるんだって。  」

「 ―  きゃらべん ??? 」

「 うん。 どうもね〜  幼稚園ライフには必須らしいよ?  ネットで調べてみようか? 」

「 あ 一緒に見るわ〜〜 」

「 よ〜し 

 ・・・ そんな訳で夫婦で PCの前に座り < きゃらべん > なるものを検索し ―

 

    ・・・・ !? ☆ ※ ◆ ◎ § # ???

 

    こ  ・・・ れ  ・・・  た たべ  も の ・・・?

 

夫婦で目をテンにして 夫婦で溜息をついた。

 

「 ・・・ 無理よ〜〜〜 とても無理。 わたし には無理〜〜 」

「 う〜ん ・・・ こんなに凝る必要 ・・・ ある かなあ ・・・ 」

「 でも ・・・ 皆 こんなの、もってくるの?  他のお友達は ・・・

 日本のお母さんたちって ・・・ 皆 お料理の天才 なの??  」

「 う〜〜ん   ・・・ いいさ  ウチはウチだ。  アイツらの好きなモノ、入れてやって

 御飯の上に ちょちょっとなにか書いてやればいいんでない? 」

「 ・・・ 愛してる〜〜はあと って? 」

「 そ それは! ぼく専科。  ぼくだけでいいんだ! 」

「 あらあ〜〜?  ジョーってば ・・・ 自分の娘と息子にヤキモチ〜 

「 ち ちがうってば!   そ その・・・ほら、まだアイツら、字 よめないだろ? だから・・・ 」

「 あら。  お言葉ですが。 島村すぴかさん と 島村すばるクン は ちゃんと字 読めますよ?

 すぴかは ほぼ ・・・ ひらがなも全部かけますが。 」

「 あ ・・・ あ〜〜〜  う  ・・・ そ それじゃ ・・・あ ! そうだ〜〜

 ほら  すぴか  とか  すばる とか・・・名前でも書いてやれば? 喜ぶよ〜〜 

 フリカケとか桜デンブとかで さ。 」

「 でんぶ?  ・・・ああ! あのすばるが大好きな甘いピンク色のトッピングね? 」

「 ・・・・ まあ そんなモンだけど ・・・ 」

「 そうね〜 それじゃ ・・・ 二人の好きなモノ、ちまちまっと詰めるわ。

 今日の帰りにお弁当箱、 買ってくるわ〜〜 」

「 うん うん そうしてよ。 たまにはサンドイッチもいいと思うよ? 」

「 う〜ん ・・・ とりあえず、最初はゴハンにしてみるわ。 」

「 ・・・ なんだかぼくも食べたくなってきたよ〜〜 」

「 え。 きゃらべん が??  ・・・ スーパー・ヒーローもの それとも ぷりきゅあ? 」

「 い いや!  きみのお弁当が さ。  ねえ〜〜明日の弁当だけどォ〜〜 」

「 はいはい わかってますってば。  今晩のカツの残りがあるからそれでカツどん弁当 

 にします〜〜  いかが?  」

「 うわお〜〜〜♪♪ やったぁ〜〜〜♪ 」

 

     ・・・ なんか  ジョーも子供たちもたいして変わらない  みたい ・・・

 

無邪気に喜んでいる夫を眺め フランソワーズはこそ・・・っと溜息をついた。

 

 

そして   いよいよお弁当開始 のその朝。

すぴか と すばる は母お手製のお弁当を きっちりバスケットにつめると

にこにこ顔で 自転車の前と後ろに乗った。

 

「 おじ〜〜いちゃま〜〜 イッテキマス♪ 」

「 ます!  おじいちゃま〜〜 」

子供たちは 送りに出てくれた博士にぴらぴら手を振っている。

「 おうおう いっておいで。  今日からは弁当もち、だなあ 」

「 ウン!  おじいちゃまのおべんとうばこ〜〜 アタシ、 みかんいろ すっご〜くすき♪ 」

「 おじいちゃまのおべんとうばこ〜〜 僕 みろり〜〜 」

「 み ど  り  だよ すばる! 」

「 み   ろ り? 」

「 み ど り!!! 」

「 ほら〜〜 二人とも〜〜 出発しますよ〜〜  しっかり掴まってね。 」

「「  はあい  」」

 ばいばぁ〜〜い♪   双子は母の前と後ろで ちっちゃな紅葉みたいな手をひらひら振り

あっと言う間に家の前の坂道を下っていった。

 

「 ふふふ ・・・ 元気でいいのう・・・ ワシも少しばかりお裾分けにあずかった かな・・・

 老け込んでもおられんなあ  どれ ・・・ 一仕事上げようかの。  

 うん ・・・ あの弁当箱の素材を使って防護服を改良してみるか ・・・ 」

孫たちを見送って 博士はとんとん・・・と腰を叩き伸びをした。

双子が持っていった お弁当箱  は 博士謹製  ― というか特殊仕様なのだ。

 

 

  ― 数日前のこと ・・・

「 ・・・う〜ん ・・・? お弁当箱って どれもイマイチ・・・ 

買い物から帰り、キッチンで袋を開けつつ、フランソワーズはぼやいていた。

「 フランソワーズ、 悪いが茶葉を足してくれんか ・・・ 」

博士が茶筒を手に 書斎から顔をだした。

「 はい。  いつもの煎茶でよろしいんですか? 」

「 ああ それでいいよ。  ・・・ なにが イマイチ なんじゃな? 」

「 ― え ?  ・・・ あ あら ・・・ 聞こえてまして? 」

「 うむ。 イマイチ ? 」

「 ええ そうなんです、 お弁当箱 ・・ チビ達の ・・・ 」

「 おお チビさん達も弁当持ちになるのかい。 」

「 はい。  今よりは長い時間 幼稚園にいてくれるようになります。 やっとちょっと手が

 空きますわ。 

「 ははは ・・・ まだ行ったと思うとすぐに帰ってくるからなあ。 」

「 そうなんです。 それでね、 そのお弁当箱を買いに行ったのですけど それが どうも・・・ 」

「 ほう? チビさん達が気に入ったのがなかったのかね? 」

「 いえ ・・・ あの子たちのリクエストじゃなくて ・・・ お弁当箱そのものが イマイチ。 

 できれば通気性が良くて それでいて液体が漏れない そんなのが欲しいんですけど ・・・ 

 可愛いデザインのは多いけど、 どれも密閉性しか考えてないのばかり。 」

「 ・・・ ふむ? まあなあ 両立させるのはなかなか難しい問題だろうからな。

 よし。  ワシがちょっと考えてみよう。  なに、すぐにできるさ。

 そうそう ・・・ チビさん達に色のリクエストを聞いておいておくれ。 」

「 え・・・ 博士が 子供たちのお弁当箱を 作られるのですか?? 」

「 ははは  密閉性と通気性を兼ね備えた素材、 というのはちょいと面白いしな。

 まあ アテもあるから大丈夫、 任せておきなさい。

 そうさな ・・・ 宇宙飛行士用のシャツ素材を応用するとしよう。 」

「 うわあ〜〜 ありがとうございます♪ それじゃ ・・・ 二人に好きな色を聞きますね。 」

「 うむ うむ ・・・ 頼むぞ。 」

「 は〜い  きゃあ〜〜〜 うれしいわ〜〜 」

 

  ― で。   

「 アタシ!  みかんいろ !!  」   「 ・・・ 僕 ・・・ みろり がいい 」  ということになり。

二日後には オレンジ色と緑色の可愛い弁当箱が出来上がった。

そして その通気性と密閉性を兼ねた安心・弁当箱 にフランソワーズは小鳥のエサみたいな

量のお弁当を用意したのだった。

 

 

 

「 たっだいま〜〜 っと♪ 

誰もいないリビングに フランソワーズは上機嫌で入ってきた。

「 ふんふんふ〜〜ん♪   って あと3時間は♪  だ〜れもいません、帰ってきません〜〜

 博士もお出掛けで〜す  わたし一人の 一人っきりの時間ですぅ〜〜〜   わい♪ 」

 

  ぽ〜〜ん ・・・ 意味もなくクッションを放り投げてみた。

 

「 うふふ うふふ ・・・ さ〜て ・・・と。  じっくり読みたい本も やりかけのお裁縫もあるし。

 そうだわ〜〜 ポアントのリボン!  来月から朝のクラスに毎日出られそうだから

 ポアント、余分に作っておかなくちゃね♪  ふふ〜〜  まずは ・・・ ちょこっとお腹減ったから

 お茶タイムしよっかな。   そうそう あの子たちのお弁当さんの残り、食べよっと。 」

彼女はスーパーでの買い物を一緒くたに冷蔵庫に放り込み ― ガス台にケトルを置いた。

「 あっつあつの沸き立てのお湯で おいし〜〜〜いカフェ・オ・レ 淹れるわ。

 で・・・ お弁当の残りは ・・・ と ・・・ 」

今朝はジョーもお弁当持ちの日で、 彼も基本双子と同じオカズの弁当を持っていった。

勿論、量は多いし昨夜の残りのハンバーグをソースとケチャップで煮込んだものも + してある。 

( 信じられないコトなのだが。 彼女の夫はこの煮込みハンバーグが大好物なのだ! )

オカズの残りを集めておいたタッパーを 冷蔵庫から取り出す。

「 これこれ ・・・ ふふふ〜〜 すぴかとすばるでオカズも変えたのよね〜

 わたしって 100点ママだわよねえ〜  彩りだって考えて〜 すぴかの御飯の上には

 のりたま と タラコ で  す  ぴ  か♪  すばるの御飯には桜デンブで す ば る♪ 

 でもってついでにジョーの御飯の上には ゴマとタラコと桜デンブで  愛してる はあと ♪ 

 うふふ〜〜〜 わたしって天才じゃない? ねえ〜〜 」

一人でにこにこしつつ 彼女は残りのオカズをつまみ始めた。

「 ふ〜ん ・・・ このツクネと鶉の卵の煮物 はしっかり煮込みました。 う〜ん 美味しい♪ 」

むぐむぐ食べていて  ふと。   刺していたプラスチックの楊枝に目が留まった。

「 ―   あ  ?   これ。  先っぽ ・・・ 案外鋭いわ  」

  チク。  指先に刺さることはなかったけれど、痛みは感じた。

「 ・・・  やだ ・・・ あの子達 ・・・ 口の中を突いたりしてないかしら。  すぴかは ・・・

 たぶん大丈夫でしょうけど ・・・すばる ・・・ あのコ、トロいからなあ ・・・ 

いつもにこにこ・すばるクン  は いつだって同じ日に生まれた < 姉 > の後を

とことこ着いて歩いているのだけれど。

「 ・・・ 明日っから先を折って丸くした爪楊枝を使うわ。  ・・・ 大丈夫かなあ・・・

 幼稚園に電話してみようかしら ・・・ ああ 今 お弁当タイムの真っ最中ねえ ・・・

 なんの連絡もないし ・・・ ってことは 口の中を怪我したり指に刺したりはしていないって

 ことかしら ・・・  う〜ん ・・・ 」

眉間に一本縦ジワが寄った。   ・・・ どうしようもないわよね ・・・ でも! う〜〜 気になる! と、

本気になって < 眼 > のレンジを最大級にしてサーチしてみたが ― 

残念、地形の関係か、可視範囲外、だった。

「 ・・・う〜〜ん ???  ウチからじゃ幼稚園の教室の中は  < 圏外 >  か ・・・ 」

しょうがない、と彼女は幾分落ち込んで、残りのオカズを食べ始めた。

「 ・・・ あら?  このプチ・トマト ・・・ なんだか固いわねえ・・・ すぴかの好きな

 クシュ・・・ってつぶれるのじゃいみたい・・・ 美味しくな〜い・・・って怒ってるかなあ・・・  」

タコさんうぃんなー は 残りを全部ジョーの弁当箱に詰めてしまったので試食できない。

「 ・・・ 美味しかったかなあ〜・・・  味見、しておけばよかったわ ごめんね すぴか。

 明日からはちゃ〜んとお母さん、美味しいかどうか味見するからね!

 えっと ・・・ そうそう、サラダよ!  これが今回のメイン・イベントかも〜〜  」

別のお皿にはポテト・サラダが これも二種類。  中身は同じだけど味付けが違うのだ。

彼女の息子 ― いつもにこにこ・すばるクンは 離乳食の頃からの野菜嫌い。

野菜 + 果汁のジュースにしてみたり、 細かく切ってハンバーグやらコロッケに混ぜてみたり

レタスやキャベツで好物の肉団子を包んでみたり・・・あれこれいろいろ目先を変えているのだが。 

 ― ぷっくりした指で箸を持ち、彼は器用に微塵切りを除けてしまう。

「 う〜〜ん ・・・ なんでなのかしら。 すぴかはなんでもぱくぱく食べるのに ・・・

 一緒にわたしのお腹に入っていたのに、どうしてこんなに好みが違うの〜〜 」

今でも毎朝、 一片のキュウリ、 一カケのトマトを食べさせるのに大苦戦している。

「 なんとかねえ・・・ お弁当で治したいのよねえ ・・・ 好き嫌いはダメだもの。 

ちょいと古い感覚の持ち主ゆえ、 彼女は子供の好き嫌には容赦しなかった。

「 ともかく。  全部食べてもらわなくっちゃねえ・・・ 今日のポテト・サラダだって

 すばるのは甘いお味噌をちょっと足したマヨネーズで和えてあるのよね〜〜

 甘い味に釣られて 食べてくれればいいのだけれど ・・・ 美味しい ・・・ はず ・・・よ? 」

  むぐむぐ ・・・   特製! のつもりだった味噌味ポテト・サラダは ― 珍妙な味だった。

「 ・・・あら。 朝は美味しいと思ったのに・・・  時間が経つと分離してしまうのかしら。 

 あ〜 ・・・ 今日は失敗ねえ・・・ きっとお残しだわあ ・・・ ごめんねえ〜 ・・・

 あら。 こっちは普通に美味だわ〜〜 ポテト・サラダ、すぴかは大好きだから

 ご機嫌ちゃんだわね〜   ・・・ すばる ・・・ 怒ってないかしら ・・・ 」

ポテト・サラダはやはり普通にマヨネーズだけで和えるべきだったのだろうか。

「 でも ・・・ そうするとジャガイモだけ 食べるのよね〜〜 すばる は ・・・

 人参やらキュウリを器用に除けちゃうのよ ・・・ う〜〜ん ??  いっそ甘味噌だけで

 和えてみたほうが? ・・・ ううん ・・・ それはちょっと・・・ う〜ん??? 」

残り物のお皿を前に フランソワーズの堂々巡り が始まっていた・・・

 熱々のはずのカフェ・オ・レは いつしか冷えてどろん、とカップに溜まっていた。

 

   コンコン ・・・ コン ・・・  

 

「 ―  フランソワーズ? ここにいるのかな。 出掛けたかい ・・・? 

  ・・・ そろそろチビさん達の お迎え の時間ではないかな 」

控えめなノックと共に博士がドアから顔を覗かせた。

「 ・・・ え? 

「 ああ おるのかい。  今 帰ってきたのじゃが ・・・ 自転車がまだあったので な。

 そろそろ出た方がよいのではないかい。 」

「 ・・・ え ・・・ さっき帰ってきたばかり  ―  まだ そんな ・・・ 」

フランソワーズは ぼ〜〜〜っと リビングの鳩時計を見上げた。

「  ―   え!??   う うそぉ〜〜〜〜〜 ??? 」

 

ほんのちょっとだけ。 お茶を飲んでお弁当の残りを食べて ・・・ と思っていたのに。

まるごと一人っきりの時間〜〜〜♪ チビ達から解放〜 ・・・ と喜んでいたのに。

 

ゴシゴシ ・・・ 目を拭って見直した時計は ― もうお迎えタイムまでいくらもない時を示している。

 

      うそぉ 〜〜〜〜〜  ワープしちゃったの???

      なんだってわたしの回りだけ 時間が速く進むの??

 

      時計の加速装置! なんて ナシよぉ〜〜〜

 

泣き言満載 ・・・ できれば喚きたかったけど。 そんなヒマはなかった。

さささ・・・っと髪を梳き ちら・・・っと鏡をみてリップクリームだけ塗って ― 母は飛び出した。

「 は 博士〜〜〜 すみません、 お留守番をお願いします〜〜〜 」

「 ほいほい  気をつけて!  そんなに慌てんでも大丈夫じゃよ〜〜

 チビさん達は 園でお利口さんでまっておるよ〜〜 ・・・・聞こえん か ・・・ 」

博士は 慌てて門まで送りにでたが ―  フランソワーズの自転車は もう急坂を下り切っていた。

「 ・・・ ワシは意識せずに あの娘にも加速装置を搭載しとったのじゃろうか ・・・ 」

初夏に近い陽射しの中 博士は呆然として門の側に立っていた。

 

 

 

さて。 少し時間は遡り  ―  ちょうど正午になろうか ・・・という頃。

  ここは都心に近いビルの一室・・・

「 ・・・ うわ〜〜お ・・・  メシ! オレ、 メシにする! 」

「 ちょっとぉ〜 タカハシ君?  いちいち大声で宣言しなくてよろしい! 」

「 あ ・・・ すいませ〜〜ん ・・・ メシ! 行って来ますっ! 」

 ドタドタ ・・・  声を共に青年が一人、事務所を駆け抜けていった。

「 ・・・っとに も〜〜 」

「 お弁当 きましたヨ〜〜  頼んだ人〜〜 」

「 コンビニ、行くよ?  なにか買ってくる? 」

「 あ アタシ、 今日はお弁当。  あ でも〜〜 カフェ・オ・レ お願い〜 」

「 スタバには行かないよ? 」

「 コンビニのでいいの〜 お願い! 

ざわざわざわ ・・・ 今日もやっとお昼時、 事務所の中では人々がてんでに動き始めていた。

  ― ここはジョーの勤め先の雑誌社編集部。 

仕事の性質上、明確なランチ・タイムは決まっていないのだが 編集部員の大半は通常時 

まあ普通に12時から昼休みに突入しているようだ。

「 島村く〜ん ・・・ 一緒メシどう? 」

「 あ  はにゅ〜課長 〜 すいません、ぼく、弁当持ちなんで・・・ 」

ジョーは こそ・・・っとチェックの小風呂敷に包まれた弁当箱を持ち上げてみせた。

「 やあ いいなあ〜 愛妻弁当かい? 羨ましいなあ〜〜 」

「 いやぁ ・・・えへへ 愛妻って  ・・・ 今日からチビ達も弁当開始なんで オカズとか余るから

 そのついでですよ〜 」

「 あ 君のとこ、確か ・・・ 双子さんだったっけ? 」

「 はい。  やっとこの春幼稚園に上がりました。 」

「 ・・・ それで奥さん、君の弁当まで作ってくれるのかい???  すごいなあ〜〜 」

「 いえ だから その・・・ついで・・・ 」

「 いやいや <ついで> に三人分作るってのは無理だからねえ・・・ 偉いなあ・・・

 ゆっくり奥さんの手作りを味わうんだな 〜 」

「 すいません〜〜 次、お供します〜〜 」

はにゅ〜課長はひらひら手を振って出ていった。

「 ふんふんふ〜〜ん♪  」

ジョーはハナウタまじりに ( これはどうやら細君のクセが移ったらしい ) 弁当を机の上に

置き、 お茶を淹れ ― 満足と期待の溜息をついている。

「 ・・・ ひ〜び〜のか〜て〜を〜〜♪  ・・・ あ〜めん ・・・ 」

ほんの小声で 子供の頃からの習慣、食前の賛美歌を歌い、そっと手を組み目を閉じて。

「 ― いっただっきまぁ〜す !! 

  ―  かぱ。  島村氏は静かに弁当箱を開いた。

 

「 あ〜〜〜 島村さ〜ん、 今日もお弁当ですかぁ〜〜 」

向かいの席から 女性社員が声をかける。

「 アサダさん・・・ うん、 君も? 」

「 そ〜なんですぅ〜〜 お母さんが持ってけってウルサイんで〜 」

「 いいお母さんじゃないか〜 感謝しなくちゃ。   さ〜て ・・・ お。 この煮物〜〜

 味が浸みてて昨夜よりずっとウマ 〜〜〜 

「 ( にもの??  ・・・ オッサン臭〜〜  豪華ステーキ弁当 とかじゃないのォ??? ) 

耳をダンボにしていた女性社員は少し引き気味の気配 ・・・

「 あは ・・・ タコさんウィンナーだあ〜〜♪ チビ達も今頃食べているのかなあ〜

 ・・・ お♪  卵焼き〜〜〜  ・・・・ どうもまだオムレツっぽいなあ〜  

 ま しょうがないか・・・ ウチの奥さんはふらんす人なんだもんなあ〜 」

ジョーは嬉々として弁当を平らげてゆく。

どうも彼は 残り物のオカズ やら 昨夜のオカズ とかが入っているのが 嬉しい ・・・らしい。

一回、 冷凍エビフライ をチンして入れたら 真面目な顔でできればやめて欲しい、といわれ

彼の細君はびっくりしてしまった。

「 ?? あ ジョー ・・・ エビフライ、 嫌いだった? 」

「 いや。 大好きだよ。 ただ ―  ぼくはきみが作ってくれた昨夜のオカズの残り とかを

 弁当にもってゆきたいんだ。 」

「 ・・・ 昨夜の ・・・残り? だって ・・・ 同じ味で飽きるでしょう? 」

「 ぜ〜〜んぜん!  知ってるかい? 翌日になると手作りのオカズって もっともっと

 美味しくなるんだぜ〜〜  ぼく ・・・ ず〜〜〜っと憧れていたんだ。 」

「  ・・・!   あ  そ そう? それなら ・・・ そうするわ。 」

「 うん  お願いシマス。  」

夫の生い立ちを思い出し 彼女は素直に彼のリクエストを承諾した。

 

 で。 島村氏は取材に出る日以外、ほぼ毎日幸せ〜〜な表情で 昨夜の晩御飯の残りモノ

 やら 常備菜の煮物 などをぱくぱく食べているのである。

 

「 島村さ〜ん ・・・ ちょっと聞いていいですかぁ〜〜 」

「 うん? なにかな〜〜 アサダさん。 」

ごちそうさま をして 静かにお茶を啜っていると 例の新人女子が声をかけてきた。

「 あ あのォ〜〜 オトコのヒトってェ 〜   そ〜ゆ〜お弁当、好きなんですかぁ ? 」

「 そ〜ゆ〜おべんとう?? 」

「 ハイ。  その ・・・ 茶色っぽいオカズのお弁当 ・・・ 」

「 あ は?  ・・・ ああ 確かにぼくの弁当は <茶色っぽい> オカズが多いねえ 〜

 ウン ・・・ ヒトにもよると思うけど。 ぼくはウチの奥さんが作ってくれたオカズが一番!だから。 

それにね〜 知ってるかい?  煮物とかは翌日の方がず〜っとウマイし〜

 こう ・・・ 煮汁とかが滲みたゴハンって またまたウマイんだよ〜〜  ハンバーグなんかも

 ソースとかケチャップでに煮返してもらうと すご〜〜く 」」

「 ・・・ あ  そ  そ〜ですか ・・・ 」

「 うん! 

「 ・・・ ど どうも〜〜 」

アサダ嬢は そそくさ〜〜と離れていってしまった。

 

    うっそ。 島村さんって見た目とのギャップ〜〜〜 大き過ぎ〜〜〜

    ・・・  がっかり 〜〜・・・・

 

どうやら お若い向きには ハンバーガーとかスタバのサンドイッチを豪快に齧って欲しかった・・・

のかもしれない。

 

「 あっはっは ・・・・ 乙女には少々キツかったかもね〜〜〜 」

「 あれ アンドウ・チーフ・・・  会食じゃなかったんですか〜  」

「 は ん。  もう終ったわよ〜 スポンサーさんの接待は サトウ部長達に丸投げ ヨ 」

「 あは ・・・ 豪華な昼御飯で羨ましいなあ〜 」

「 な〜に言ってるの、島ちゃん。  君のオクサンのお弁当の方がよっぽど豪華だよ〜

 今時ねえ、 煮物を作ってソレをちゃんと翌日の弁当のオカズにする・・・って。

 そんなコト やってくれる奥さんって も〜〜 特別天然記念物っぽいんだからね! 」

「 あ ・・・は  そ そ〜ですか ・・・ 」

「 そうです!  ですから君は感謝して − その分、仕事に邁進したまえ〜〜 」

「 アイ ・ アイ ・ サ 〜〜〜  」

「 よし。 午後もしっかり頼む!  例の〇〇先生は 落とさせるな! 絶対に! 」

「 了解〜〜 です。 おし! 元気満タンですから〜〜 ちょいと腹ごなし、してきます 」

ジョーは ぶんぶん腕を振り回しつつ 編集部から階段でガシガシ外に飛び出していった。

「 ・・・ あ〜あ ・・・ 気はいいんだけど。  単純、というか 乗せ易い、というか。

 アレで二児の父、よねえ・・・ まあ奥方がしっかりモノだから いっか ・・・ 」

アンドウ女史は ずず・・っと眼鏡をずりあげつつ ちょこっと溜息をついた。

 

  ガヤガヤガヤ ・・・・   カタカタカタ ・・・・

 

午後になって 編集部は相変わらず雑音と活気に溢れている。

「 ・・っと。  ここまではオッケ〜 ・・・っと。 」

ジョーはず〜っとモニターと睨めっこしていたが ひと段落し、やれやれ・・・と姿勢を変えた。

「 う〜〜ん ・・・  あとは次の取材だなあ もう少し企画、詰めなくちゃな ・・・ 」

横の置いたカップから 冷え切ったコーヒーを飲む。

「 ・・ うわ ・・・ ひで〜味 ・・・  味ってば。 チビ達〜〜 お弁当、ちゃんと食べたかなあ

 すぴか ・・・ たこさんウィンナー、美味しかったよねえ?  

 すばる ・・・ ちゃんとポテト・サラダ、食べたかあ?  ・・・ちょっと変わった味だったけど。 

 しかし フランも頑張るよなあ 〜〜  うん さすがぼくのオクサン♪ 」

この時間、編集部内は皆自分の仕事に集中している。 

一見、騒々しく浮ついた風に見えるが 実際は逆で他人のことを気にしているヤツはいない。

   ・・・ う〜ん ・・・ ジョーはこそ・・・っと伸びをし さて次の段階へ進めよう、と思った が。

「 弁当ってば。  博士特製の弁当箱って言ってたけど。 ちゃんとフタ、開けられたかなあ・・・

 すぴか ・・・ 力いっぱいフタ、引っ張って ・・・ 弁当箱ごと落としたり ・・・して ・・・

 すばる ・・・ フタ、開けられなくて じ〜〜っと弁当箱 見詰めていたり ・・・ して ・・・

 う〜〜〜 ・・・・ 気になる!  ちょっとだけ ・・・ 見てこようかな。

 加速装置使って往復すれば 大丈夫だよな?  あ 服が燃えちゃう ・・・ か。

 よし それならウチに帰って着替え取るだろ、それで うん、幼稚園での滞在時間を考えても

 15分あればなんとか  ―  よ  よし ・・・! 」

   ―  カサリ。   そ〜〜〜っとジョーはイスを引き立ち上がり ・・・ 

 

      「  かそくそ〜〜〜  」

 

「  ― 島村クン?  ちょっと見てくれるかな。 」

 

      「 〜〜〜っ ???!      ・・・ んぐ !!! 」

 

まさに、カチ!っとスイッチを押す ―  0.1秒前にチーフから声が掛かった。

そして ジョーはといえば  ・・・思いっきり口の中を噛んでしまったのである。

 

          いって ェ 〜〜〜〜〜〜〜 !!!!

 

 

  ちゃぽ ・・・  ビニール袋の中で溶けかかった氷がゆれる。

「 ・・・ う〜〜・・・・ 」

ジョーはオタフク風邪の子供みたいに ほっぺに氷入り袋を当て三角巾で頭の上に結び上げている。

「 島村クン ・・・ 大丈夫?  ぷ ・・・ 」

アンドウ・チーフは何回か心配顔で覗きにきたが その度に吹き出す  ・・・ 

「 ・・・ ひゃい  ( はい ) ・・ 」

「 ねえ 歯医者、行ったほうがいいんでない?  口腔外科 とかさ・・・ 」

「 らいじょうふ でふ ・・・ ひゅっけつ もとまったひ  ( 大丈夫です、出血も止まったし ) 」

「 そう??  じゃ さ 消毒のためにもウガイ薬とかで漱いでおいたら・・・ 」

「 ひゃい ・・・  これ、もうおはりまふから ・・・ ( もう終わりますから ) 」

ウサギさんのお耳みたいに白い結び目をゆらゆらさせて 島村クン は仕事を続けている。

「 ・・・ か かわいい  くくくく ・・・ 」

「 な なんか妙〜〜にしっくり似合ってるぅ〜〜〜 ぷぷぷ ・・・ 」

「 ど〜しよ ・・・ オレ ときめいちゃった 〜〜〜 」

口内損傷のご本人より 周囲の皆様の方が笑いやら萌え心を抑えるのに苦心三嘆していた・・・

「 うお〜〜い  島ちゃ〜〜ん ?  次の号の写真だけどォ? 」

「 あ。  スズキ部長〜〜 」

クマさんみたいなスズキ編集長が のそり・・・と顔を出した。

「 え???  なに〜〜〜 島ちゃん ・・・ 今さら虫歯かい?? 」

「 ・・・ え あの ・・・ 口のなか かみゅまひた ( 噛みました ) 」

「 おいおい ・・・大丈夫かい?  病院、行ってこいよ〜 」

「 らいじょうふ でふ ・・・ ぶひょう うひあわへでふか ( 部長 打ち合わせですか ) 」

「 うん 次号の特集の写真だけど  ―  しかし なんだって口の中なんぞ噛んだんだ?

 あ ・・・ ワルさして美人の奥方に噛まれたんだろう〜〜  」

「 ひ ひがいまふ〜〜〜  ( 違います 〜〜 )  ひょっとあわへへ ( ちょっと慌てて )

 うひほひび達のこと ・・・ 気になっへ ( ウチのチビ達のこと気になって ) 」

「 なんだあ? 」

スズキ編集長は しばしジョーの聞き取り難い < 解説 > を解読していたが やがて ―

「 あっはっは ・・・ 島ちゃん、君も立派に父親してるなあ〜〜 」

彼はメタボ気味の腹を揺すって大笑いした。

「 え ・・・ ひゃ? 」

「 いや〜〜 初めはしょうがないか  な?  しかしなあ、だ〜いじょうぶだよ。 

 子供ってさ 案外逞しいんだぞ〜〜  親が思ってるよかず〜〜〜っと な。  」

「 ほ〜でひゅか ・・・( そうですか? ) 」

「 そうさ。  ウチの子供達もなあ 弁当箱ひっくり返しちゃったコもいたけど

 皆にちょっとづつ弁当分けてもらって ・・・ かえってすご〜〜く楽しかった なんて言ってたし。」

「 え ・・・ ひ ひっくひかえふ?? 」

「 うん。 チビってさあ、こう〜〜 力の加減ができんだろ? 力余ってほっぽり投げちゃったり

 ひっぺがしちゃったりするけどな。 」

「 はあ ・・・ 」

「 いろいろな目にあって、 だんだん解ってくるんだよ。 親は基本 傍観 さ。

 非常に危険な時以外は 黙って見守る。 」

「 ・・・ う〜〜〜ん ・・・ ソレってひょう ( 超 ) 〜〜 なんいろ ( 難易度 )アップ ・・・ 」

「 あっはっは ・・・ 偏差値70以上、 か? 」

「 う ・・・ れす ( です ) 」

「 そうなんだよなあ〜  それでさ、子供が  一人で出来る!  ってのは  

 親の独り立ちでもあるかもなあ〜 」

「 ・・・ ふぇ? ( え )  おやのひほりらち? ( 親の独り立ち ? ) 」

「 コレが ・・・ 難しいんだ。  それこそ偏差値70超え さ。 」

「 へんひゅうひょう〜〜 ( 編集長 )  ごけいけふれすか ( ご経験ですか ) 」

「 ふ ・・・   まあ ・・・ な 」

スズキ氏は 淋しいみたいな、哀しいみたいな 嬉しいみたいな 顔をしていた。

 

 

 

    シュ −−−−−−− ・・・・・・・   キキ ッ !!!!

 

赤い自転車は寸分の狂いもなく、園庭の門の前に止まった。

「 ・・・ ふう 〜〜〜  ・・・・ ああ  なんとか  間に合った ・・・ 」

亜麻色の髪をくしゃくしゃに風に玩ばれ、フランソワーズは大きく息を吐いた。

「 すご〜〜い・・・・最短記録だわあ・・・ ふふふ もしかしてわたしにも加速装置が

 搭載されているのかも。  帰ったら博士に聞いてみよ♪  あ ・・・ 終ったかな〜 」

お迎えのお母さんたちも そろそろ集まってきていて、 フランソワーズもにこやかにご挨拶。

「 ・・・ あら  すばるクンとすぴかちゃんのお母さん、こんにちは。 」

くりっとした大きな目のお母さんが声をかけてくれた。

「 あ  ・・・ わたなべ君のお母様ですね〜 こんにちは! 」

「 ねえ お弁当・・・ ちゃんと食べたかしらねえ ・・・ 」

「 ええ そうですよね。 わたし ず〜〜っと気になってて・・・・ 」

「 まあ アナタも?  ウチの子、結構好き嫌いがあって。 お弁当も苦労しますのよ。 」

「 はあ ・・・ すばるもなんです〜 野菜が苦手で ・・・ でも食べさせます! 」

「 ねえ なにかいい方法があったら教えてくださいな。  あ ・・・ 終ったみたいよ? 」

「 あら ・・・ そうですね〜 」

園の中から  歌が聞こえてきて、最後に一際大きな声で 

 

     せんせ〜〜〜 さようなら   みなさん さよ〜〜ならっ !!

 

                                          が 響いてきた。

 

「 ほらほら ・・・ 帰ってきますわよ。 」

「 ええ。  お弁当 ・・・ドキドキですね。 」

恐らく同じ想いのお母さん方の前に チビっこ達はたたたた・・・っと駆け出してきた。

 

「 あ!! おか〜〜さ〜〜〜ん!!  」

「 まま〜〜〜 まま〜〜〜 」

「 ・・・ お母さん〜〜〜  」

てんでにお迎えの手に駆け寄ってゆく。

 

「 おか〜〜さ〜〜〜ん!!  ただいまぁ〜〜〜 」

「 ま〜〜〜〜 おかあさん〜〜 」

フランソワーズの腕にも 色違いの頭が二つ、まっすぐに飛び込んできた。

「 はあ〜い お帰りなさい、 すぴか すばる〜〜〜 いい子にしてたかしら? 」

「 うん!!!  ねえねえ おかあさん〜〜 おべんとうね〜〜 」

「 おかあさ〜〜ん〜〜〜 」

「 はいはい さあ 自転車に乗りましょうねえ ・・・ よい  しょ・・・っと ・・・ 

自転車の前と後ろに乗せてもらいつつも すぴかは賑やかにお喋りをしているし

すばるは じ〜〜〜〜っと母に張り付いてほっぺをすりすり〜〜している。

「 ほら・・・ すばるクン、 ちょっと離してちょうだい、 ちゃんとシートに座って?

 すぴかサン 前を向いてね〜〜  さあ 出発しますよ〜〜 」

「 うん!  ねえねえ それでね、お母さん〜〜 たこさんうぃんな〜 おいしかった〜〜

 それでね それでね  ほうれそうののりまき〜〜 もっといれて〜〜 」

「 まあ ホウレンソウの海苔巻き、美味しかった? よかったわあ〜〜 

 ねえ すばる、ポテト・サラダ、 食べてくれたかなあ? 」

「 ・・・ ん ・・・ おかあさん ・・・ 

すばるは後ろのシートで ぴと・・・っと母の背中にくっついている。

「 すばる?  気持ちワルイの?? 」

「 う〜うん ・・・ おかあさん いいにおい〜〜 ・・・ 」

「 あ ・・・ は  そう?   ( やれやれ ・・・ 父親譲りの甘ったれがぁ〜〜  )  

 ねえ すぴか〜〜  明日はたまごやき がいい? それともゆでたまご? 

「 う〜〜〜ん ???  すぴか どっちもすき!! 」

「 まあ うれしいわ。 お母さん、明日も張り切って作っちゃう♪  ねえねえ すばるは?

 明日はなにがいい? 」

「 ・・・ 僕ぅ ・・・ じゃむ。 」

「 ・・・ ジャム? 」

「 ウン。  いちごのジャムとまーまれーど。 いっしょくたにいれて。 」

「 ・・・ ちょっと考えてみます。  ねえ ポテト・サラダ、あの味、すきかなあ すばるクン? 」

「 ・・・ う 〜〜 ん  と ・・・・わかんない ・・・ 」

「 アタシ! ぽてと・さらだ だ〜〜〜いすき〜〜〜♪ 」

前のカゴから元気な返事が返って来るが 後ろの乗組員はどうやら母の背中にすがりついて

ぼ〜〜〜っと満足している ・・・ らしい。

 

     やれやれ ・・・・ ま、 帰ってお弁当箱、開けてみてのお楽しみ、ね。

 

  ピュウ 〜〜〜〜 ・・・・  前と後ろに双子を乗せて 赤い自転車は岬めざして疾駆していった。

 

 

   ぱこ。 ・・・・ カラン    オレンジの弁当箱はな〜〜んにも入っていなかった。

 

「 わあ〜〜 すぴか すごい〜〜 全部キレイに食べられたのね〜〜 」

「 ウン !  お母さん〜〜 アタシね〜〜 ぜ〜〜んぶたべた! 」

「 えらいわあ〜〜  あら? プチトマトのヘタはどうしたの? 幼稚園で捨てた? 」

「 ―  たべた! 

「 え。  あ あのね 今度からプチトマトのヘタは残していいから  ね? 

 ・・・ プラスチックの楊枝がないわね?  ・・・ すぴか まさか ・・・ 」

「 なに〜〜?   つくねのシン? おはしばこのなか〜 」

「 あ   そう ・・・ よかった ・・・  じゃあ 次はすばる〜〜

 

  ぱかん  ・・・ ぼん。    緑の弁当箱には御飯粒が少々くっついていたけれど  一応空。

 

「 うわあ〜〜 すばる もすごい〜〜 全部食べてくれたのね!?

 ポテト・サラダのお野菜も全部 ・・・ すごいわあ〜〜  えら〜い すばる〜〜 」

「 あ ・・・ う  ・・・ う〜〜ん ・・・ と ・・・? 」

「 アタシも! ぜんぶたべたよ〜〜 おかあさん! 」

「 ええ ええ すぴかもえらいわあ〜〜  お父さんにもご報告、しましょうね。 」

「 うん!  おとうさんも〜〜 おべんとうばこ からっぽ? 」

「 ええ そうよ。 お父さんはいつだってきれ〜〜いに食べてくださるの。 」

「 ふうん〜〜 おとうさん、えらいね〜〜〜 」

「 うふふ ・・・ そうね。  ねえ すばる? ポテト・サラダ ・・・ あの味・・・すき? 」

「 ・・・ う〜  ? 」

「 おかあさん! アタシ〜〜 いつものがすき!  あまいぽてと・さらだ ・・・ すきくない。 」

「 そうねえ すぴかさんは甘党じゃないものねえ・・・     うん??? 」

 

      ちょっと!?  ・・・ なんですぴかが あまいぽてと・さらだ を知ってるのよ??

      すぴかのは 普通のマヨネーズ味のポテト・サラダ のはず〜〜

 

「 すばる ・・・ ねえ、甘いおみその味、美味しかった? 」

「 ??? おみそ ・・・?  しらない、僕。 」

「 すぴかは? 」

「 え〜〜 だからあ〜〜アタシは あまいぽてと・さらだはあ〜〜  

「 すばる。   ・・・ お野菜、 すぴかに食べてもらったのでしょう〜〜〜!? 

 すぴか。  すばるがキライなもの、食べてあげたでしょう〜〜〜!? 

 

    「「  えへ ♪  」」

      

 

 

「 ・・・ ぷぷぷぷ ・・・・ アイツら らしいなあ〜〜〜〜 」

ジョーがソファで笑い転げている。

「 らしいなあ〜〜 じゃないわよ〜  それでね、どうしてそんなことしたの?って

 すぴかに聞いたらね  『 アタシたち ふたごだもん 』  だって! 」

「 あははは・・・・ うん うん そうらよなあ〜〜 

「 ・・・ もう〜〜  ジョーまでそんなに笑うこと、ないでしょう?? 」

「 あは ・・・ ご ごめん ごめん ・・・ らけろ すごいひ〜むわ〜くらよねえ〜〜 」

「 ・・・ っとにぃ〜〜〜 」

ジョーは涙を零し、文字通り腹を抱えて笑っている。 言葉が多少不明瞭なのは

でっかいマスクをしているからなのだ。

 

 

  ―  そう ・・・ 島村氏は本日 顔がほとんど見えないマスク姿で帰宅した。

 

「 おかえりなさ〜 ・・・・ ( 目でサーチしている )  あ ジョーだわ ・・・

 まあああ・・・・ どうしたの???  ジョー ・・・ あなた、花粉症だったっけ?? 」

玄関のドアを開けた島村夫人は 夜も遅かったにも拘らずかなりな声を上げてしまった。

「 ・・・ う  うん ・・・ 博士、まだ起きていらっしゃるかなあ? 」

「 もうお休みのはずなんだけど ・・・ 」

「 そっか。 そうだよなあ ・・・ じゃあ 明日の朝でいっか。 」

「 よくないぞ。 」

「「 博士???  」」

玄関ポーチには ガウン姿の博士が立っていた。

「 ちょうどトイレに起きてな ・・・ ジョー、どうした。  なに?? 口内損傷??

 ― すぐに研究室に来い。 」

「 あ  あの ・・・ 」

博士は問答無用 ! と ずんずん彼を引っ張って行った。

 

 

   ― そして 深夜。 応急処置の後、やっと解放されたのである。

 

「 ・・・ やだ。 それで 口の中を? 」

「 ウン・・・ 思いっ切り ・・・ 」

「 うふふ ・・・ ジョーってば心配性ねえ〜〜 」

「 それはきみも同じだぞ〜〜 」

「 でした ・・・  」

「 で ムスメはムスコの苦手なオカズを食べてやり ムスコはにこにこ・・・か 」

「 ・・・ です ・・・ 」

夫婦は ベッドの中でぼそぼそ・・・ どうやら愚痴大会が開催されている模様だ。

「 あのコ達 ・・・ ホントに案外タクマシイのよねえ・・・ 」

「 あは・・・ 独り立ち しなくちゃいけないのは  ぼく達のほう ・・・ かもなあ 」

「 そうね ・・・ 一人の時間〜〜って張り切っていたのだけれど ・・・

 結局 あの子達のことが気になって余計な心配ばかりしてて ― な〜んにも出来なかったの。

「 ―  なんか ・・・ ちょっと羨ましい な。 」

「 え? なにが。 」

「 いや ・・・ そんなに思ってもらえるアイツらが さ。 」

「 だって ジョーの、ジョーとわたしの子供達なのよ? 大切に思って当たり前 ・・・でしょ。 」

す・・・っと白い手がジョーの頬に当てられた。

「 ・・・ う うん ・・・ そうだよねえ 」

「 そうよ。  わたし達の大切なタカラモノだもの。 」

「 うん うん ・・・ せいぜい心配してやろうよ。  それがぼく達の役目かもなあ・・・ 」

「 うふふ ・・・ そうねえ・・・  ひとりだち、まだまだできないわね。 」

「 いいさ ― 心配できる間にう〜〜んと心配してやるんだ。 」

「 ・・・ ええ ・・・ 」

「 あ〜〜 それにしもて腹減ったぁ〜〜〜 」

ジョーは 博士から絶食を言い渡されているのだ。 

 

オマケに ・・・

   マウス・ピースをして寝なさい、明日ちゃんとメンテするから。  

   今夜は  < おとなしく > 寝るのじゃぞ!

                                     ・・・ と クギを刺されてしまった。

 

「 ・・・ ねえ フラン〜〜 腹ペコのぼくを癒して ・・・ 」

ジョーは彼の細君の肩を引き寄せ 抱き寄せ ・・・ たが。

「 あらあ〜〜 キスしたら傷に障るわよね〜〜  興奮しても傷によくないでしょ。

 じゃあ オヤスミなさ〜〜い♪ 

彼女はにこやかに挨拶をすると  くるり、 と反対側を向いて ― たちまち寝入ってしまった。

 

       くううう 〜〜〜〜   餓えた魂に救いの手はこないのかぁ〜〜 

 

 ジョーは <両方> オアズケ ― 眠られぬ夜を過すハメになった。

 

 

 

******************************   Fin.   *********************************

 

Last updated : 04,30,2013.                         index

 

 

 

*****************   ひと言  ********************

例によって な〜〜〜〜〜に〜〜も 起きません。

親御さん方!!  子供達の食べられる分量を考えて! お弁当を

持たせてやってくださいね〜〜〜