『 春のひかり 』
三月の声を聞いた途端に 空が 空気が ― そして日の光までもが ― ぱあ〜っと華やかになった。
せっかちな大都会では、 街中に飾られたファッションはとっくに次の季節だったけれど、
やはり自然の明るさには敵うものではない。
うわ〜〜〜 いい気持ち ・・・!
フランソワ−ズは大きく深呼吸すると、マフラ−をすこし緩めコ−トも二番目までボタンを開けてみた。
レッスン帰りの身体にはまだ音楽と踊りの余韻が纏わり付いている。
白い咽喉がすっと冷たい空気を感じたが、ついこの間までの刺すみたいな冷たさはではない。
「 う〜〜ん・・・ ちょっとだけ 春の気分、ね。 この街は本当に早いわ・・・・ 」
彼女の生まれ育った街ではまだまだ厚ぼったいオ−ヴァ−に埋もれて過す灰色の季節なのだ。
しかし東の果てのこの島国では乾いた歩道に響く靴音は どれもこれも軽く弾んでいる。
「 ふふふ・・・ おかしいわね。 なんだか嬉しくなってきちゃった・・・
そうだわ! 今晩はジョ−を呼んで・・・ 晩御飯には彼の好きなモノ、作ろうかしら。
そうよね、折角飾ったお雛さまもみせたいし・・・ 」
この時間なら捕まるはず・・・と彼女は足をとめ歩道の端に寄った。
「 え〜と・・・携帯、携帯〜〜は・・・っと。 ・・・・ あった! ・・・ え?? 」
レッスン帰りの大きなバッグから携帯をやっと見つけ出したのだが、手に取った途端に可憐なワルツを
響かせ始めた。
「 あ、ああ・・・・ 電話、ね。 あ〜びっくりした・・・ 誰・・? まあ、博士からだわ?? ・・・ アロ− ? 」
珍しくもギルモア博士からの電話だったので フランソワ−ズは多少緊張してお気に入りのピンクの
携帯を耳に押し付けた。
「 はい、あの・・・なにか。 ・・・・ ああ、お出掛けですか。 ええ、どうぞ・・・ はい、はい。
え・・・? いやだ、大丈夫ですわ。 わたし・・・ え・・・? ジョ−のところ? ・・・ はい、わかりました。
それじゃ・・・博士こそどうぞお気をつけになって。 はい、行ってらっしゃい。 」
かちり、と携帯を畳む。
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ 急に行ってもいいかしら。 ジョ−にだって都合があるわよねえ・・・
ちょっと電話してみようかな・・・ この時間なら大丈夫よね・・・? 」
フランソワ−ズはもう一度携帯を開くと、短縮番号を押した。
ジョ−は去年、研究所を出て市内のマンションで一人暮らしを始めていた。
都内の小さな出版社に就職したので やはり街外れの崖っぷちの家はなにかと不便だったのだ。
彼は意気揚々と 独立した ・・・ はずなのだが、その実週末にはしっかりギルモア邸に
<里帰り>し <家族>との生活を満喫していた。
フランソワ−ズも初めは淋しがっていたが 恋人の部屋に遊びに行く、という楽しみが増えたし、
週末は一層待ち遠しいものとなった。
「 ・・・ 変ねえ・・・? 留守なのかしら。 電話に出られないって・・・ それじゃメ−ルしとこう。 」
フランソワ−ズはメイン・ストリ−トを折れ、ビルの脇で足を止めメ−ルを打ち始めた。
「 〜〜〜と ・・・ これでいいわね。 さ〜あ・・・それじゃ晩御飯の材料仕入れて〜〜♪
あ・・・ ジョ−のとこ、フライパンは・・・あったわよね。 なにを作ろうかな・・・ 」
よいしょ・・・とレッスン帰りの大きなバッグを肩に掛けると、彼女は軽い足取りで歩き始めた。
・・・ 二人っきりの夜なんて・・・ 久し振りだわ♪ うふふ・・・
きゃ・・・ それならもっとオシャレしてくればよかったわあ〜〜
博士ったら〜〜 予定変更は早めにお願いしま〜す♪
早春の始まりの風に 恋する乙女が亜麻色の髪を揺らせて歩いていった。
・・・ ああ ・・・ やっと終ったなあ・・・
忙しかったけど、なんとか慣れてきたかもだな。
ジョ−はマンションのフロント・ドアをあけると ロビ−を横切ってポストに前に行った。
「 ・・・ ダイレクト・メ−ルが多いな。 う〜ん これは請求書と ・・・ 領収書と・・・ 」
2〜3通を持ってエレベ−タ−の前に戻ったとき、管理人が声を掛けた。
「 島村さん? お帰りなさい、お疲れさま・・・ 」
「 ・・・あ、 管理人さん・・・ こんばんわ〜 ただいまです。 」
「 はい、こんばんは。 夕方ごろね、彼女さんが見えてましたよ。 ほら、あの金髪の美人さん。 」
「 ・・・ え ・・・ ああ、そうですか。 へえ? 平日に珍しいな。 」
「 なんだか大きな袋もって ここで待ってらっしゃいましたけど・・・ 」
「 ここで? ・・・連絡、したのかなあ。 」
「 しばらく待ってらしたけど。 お帰りになったみたいです。 」
「 あ、そうですか・・・ どうも〜 オヤスミなさい。 」
ぺこり、とお辞儀をしてジョ−は丁度降りてきたエレベ−タ−に乗り込んだ。
箱の中で ス−ツの内ポケットをさぐり、鞄の中を引っ掻き回し・・・
ジョ−は重大なことに 一日の終わりになってやっと気が付いた。
・・・ しまった・・・! ぼくの個人携帯・・・ 部屋の中に忘れて来てたんだ・・・!
ヤバ〜〜〜 彼女からなにか着信、あったかも・・・
多くのビジネス・マンと同様に 彼も仕事用と個人用の携帯を使い分けていた。
・・・ 昨夜枕元に置いて。 多分それっきりだ。 ・・・ チッ !
脳波通信で・・・とジョ−はチラリと思ったがすぐに打ち消した。
彼らは日々の暮らしで能力 ( ちから ) を使うことを極力避けている。
フランソワ−ズが一番徹底しているが、ジョ−も似たり寄ったりだ。
もっとも脳波通信は彼らの行動範囲が広まるにつれ日常でもあまり役にはたたなくなってきていた。
携帯という誰もが持つ小さなメカが 彼らのちから以上の働きをしてくれるのだ。
だから 日常の連絡にはジョ−もフランソワ−ズもごく普通に携帯を使っていた。
マズったな〜〜 彼女、ぼくの仕事上のアドレスは知らないし・・・
でもまあ・・・ なにかあっても研究所にいるから安心だけど。
ジョ−は一人きりのエレベ−タ−の中で盛大に溜息をついた。
・・・ あああ ・・・ やっぱ・・・一人暮らしはキツいよ。 暗い部屋に帰るのはさ・・・
<一人> には慣れているはずのジョ−は いつのまにかギルモア邸の家族との生活に馴染んでいた。
ガクン・・・と軽い衝撃で箱がとまり、彼は自身の住むフロアに下りた。
「 ・・・ あれ ・・? 」
廊下の角を曲がり突き当りのドア ― 島村 の表札に下に人影があった。
彼の足音に気づいたのだろう、ゆらり・・・と影が立ち上がる。
ほの暗い廊下の明かりの中に 青白い顔がぼんやりと浮かんだ。
「 ・・・?! 」
「 ・・・ お帰りなさい、ジョ−・・・ 」
「 フランソワ−ズ ・・・! 」
「 うふ・・・ 百年くらい・・・待っちゃった・・・ 」
「 え!? ずっと ここに? 」
ジョ−は駆け寄り、ふらふら立ち上がる彼女を抱き止めた。
ベ−ジュのコ−トの上からもすっかり冷え切っているのが感じられる。
「 ず〜っとここに座ってたの。 なんか・・・上手く動けないわ・・・ クシュン・・・! 」
「 こんなに冷えて! どうしたの、ウチへは帰ってないのかい。 」
「 ・・・ 今日、博士は急な外泊で・・・ ジョ−のとこに行ってなさいって・・・
下のロビ−で待ってたんだけど。 ジョ−の携帯、ず〜っと留守電だし。ウチへの最終バスはでちゃったし。
・・・今晩帰ってこなかったら どうしよう・・って思ったら ・・・ 心細くて・・・ 」
ほろほろほろ・・・
冷え切って強張った頬に 涙がぼろぼろ転がり落ちてゆく。
「 あ・・・ やだ・・・ 涙、とまらない・・・ 」
「 ごめんよ! ああ、はやく入って! 」
ジョ−は彼女をぎゅっと抱き締めると大急ぎでロック・キ−をあけた。
「 ジョ− ・・・ ごめんなさい、迷惑でしょ・・・ 」
「 はやく! 風呂に入ってくるんだ。 もう・・・ きみってヒトは本当に・・・ 」
ららら・・・ら・・・らら〜〜ら・・・〜〜♪
バスル−ムから シャワ−の音の合間に微かに歌声が聞こえてきた。
うん? ・・・ ああ、ご機嫌なんだな。 よかった・・・!
ジョ−はコ−ヒ−の準備をしつつ ほっと胸をなでおろした。
この分なら風邪を引くこともないだろう・・・
「 ・・・ ジョ− 〜〜〜? 」
突然 バスル−ムのドアが少しだけ開き、彼女の声が響いた。
「 ジョ−ってば。 ねえ〜〜 なにか着るモノ、貸して〜〜 」
「 ・・・ え。 き、着るもの・・?? 」
「 そうよ、スウェットとかトレ−ナ−とかでいいわ。 温かそうなの、貸して〜〜 」
「 ・・・ ちょっと待て。 」
ジョ−は大声で返事をするとあわてて寝室に飛んで行った。
着るものって。 ・・・ウチには女物なんて 置いてないぞ??
クロ−ゼットをさんざん引っ掻き回し、 やっと新品に近いスウェットの上下を見つけ出した。
洗い立てのバスロ−ブも持ってきた。
「 フラン?? ここに・・・ 置いておくから。 」
「 ありがとう〜〜 」
曇りガラスの向こうに 肌色の影が浮かび上がる。 ジョ−はぱっと目を逸らせた。
・・・ な、ななんなんだ〜〜 もう〜〜 ほっんとうにきみってヒトは〜〜
ココはオトコの一人住まいなんだぞ??
ふは〜〜っとキッチンで大息をつけば、目の前には冷え切ってしまった入れかけのコ−ヒ−があった・・・
・・・ あ〜あ・・・ もう豆がないしなあ。
そうだ、カフェ・オ・レにするか・・・ ホット・ミルクも好きだって言ってたよな。
ジョ−は再びキッチンでごそごそ・がたがた し始めた。
ふんふんふん・・・〜♪
彼自身も知らず知らずにハナウタを口ずさんでいた。
「 ああ・・・やっと温かくなったわ〜〜 ありがとう、ジョ−・・・ 」
「 ちゃんとゆっくり温まったかい。 ・・・ あは、やっぱりぶかぶかだねえ。 」
「 ふふふ・・・ 当たり前でしょ。 」
フランソワ−ズは彼のバスロ−ブを巻き付けバスル−ムから出てきた。
青白く沈んでいた頬はさくら色に輝いている。
「 ・・・ ほら。 カフェ・オ・レにしてみたんだ。 どうぞ。」
「 あ、ありがとう〜〜 きゃ・・・ 熱い〜〜 」
フランソワ−ズはぺたん、とクッションの上に座り込むと カップを両手で受け取った。
「 ほんと、ごめんな。 今日、携帯、忘れてさ。 しかもそのことに全然気が付かなくて・・
さっき下まで帰ってきてやっと・・・ 」
「 そうなの・・・ なにかあったのかしら、ってちょっと心配しちゃった。
あの ・・・ 一回だけアレ、飛ばしてみたのだけど・・・ 届く距離じゃなかったみたい。 」
「 ・・・ ああ、そうだよね。 ここからだとちょっと無理かな。 」
「 ええ。 だからいきなり来ちゃったの。 ごめんなさいね。 」
「 そんなこと! すごく嬉しいけどさ、どうして? 博士のお言いつけなのかい。 」
「 そうなの。 こんな辺鄙な場所に一晩でもムスメを一人で置いてはおけん! って・・・
ふふふ・・・ 可笑しいわね? わたしってそんなに頼りないかしら。 」
フランソワ−ズは すこしばかり意味あり気に微笑んだ。
「 ・・・・・ <一人娘>のきみが可愛くて大切で・・・気が気じゃないんだよ、博士はさ。 」
「 そう? それじゃ・・・ カレシの部屋の前で夜明かしした・・・なんて言ったら。 」
「 お〜っと。 こりゃ 口止めしておかなくちゃな〜〜 」
ジョ−は彼の恋人をするり、と抱き寄せた。
「 ・・・ わ・・・ オ・レが零れるわ〜 」
「 きみは <お父さん>公認の恋人の部屋で 熱い一夜を過したのさ。
うん、ぼくからそう報告しておくよ。 ・・・ な、いいだろ? 」
抱き締める腕に力が入った。
腕の中で細い身体がもぞもぞ動く。 ジョ−の芯熱に火が点いた・・・!
「 ・・・ ああ・・・ なんて可愛い ・・・! 」
「 ・・・ もう・・・ ジョ−ってば・・・ あ・・・! 」
姿勢がくずれ、バスロ−ブの裾が割れ、白い素足がジョ−の目の前に現れた。
「 こんなに魅力的な・・・ きみがいけないのさ。 ・・・ ああ・・・ いつも綺麗な脚だね・・・ 」
「 ジョ− ・・・ こんな・・・ トコで・・・ 」
忍び込んできた彼の手が 脚の付け根をそっと撫でる。 長い指がちらちらと悪戯を始めた。
「 いいさ。 ここはぼくの・・・ いや、ぼく達の部屋だもの。 ・・・ おいで。 」
「 ・・・ ん。 ・・・ ジョ− ・・・! 」
ジョ−はそのまま・・・空いている腕で細い身体を抱えあげた。
「 ・・・ 起きてるかい。 」
「 ・・・ ・・・・ え え ・・・ 」
ナイト・ランプが 緩やかな光を寝室に投げかけている。
乱れたリネンの下で、二人は汗ばんだ身体をぐったりと寄せ合っていた。
夜気が やっと冷めてきた・・・
「 ・・・ ああ ・・・ きみって。 どんどん素敵になるんだね・・・ 」
「 ・・・ え ・・・? 」
寄り添う白い肢体をジョ−はもう一度抱き寄せた。
「 ふう ・・・ いい香りだ・・・ 」
「 ジョ−のいつも使っているボディ・ソ−プの匂じゃないの? 」
「 ふふん ・・・ これはな、もっともっと魅惑の香り、さ。 愛された女から漂うかおり・・・ 」
「 ・・・ や・・・だ・・・ ジョ−ったら・・・ 」
フランソワ−ズは真っ赤になって彼の胸に顔を押し付けてしまった。
「 フラン ・・・ やっぱりさ、一緒に 住みたいな・・・ 」
「 ・・・ でも ウチは・・・不便でしょう? 」
「 う〜ん ・・・ でも なあ・・・ 」
ジョ−は半身を起こし、身体の向きを変えた。
「 時間は川のようには流れない ・・・ か ・・・ 」
「 なあに、 それ。 」
「 うん ・・・ 今日さ 編集部で見た投稿詩の一節なんだけど。 ちょっといいなって思ってさ。 」
「 ・・・ 川のようには流れない ・・・ 穏やかに過ぎては行かないっていうことなの? 」
「 さあ・・・ でも ぼくにはそんな風に思えたんだ。 作者はさ、霊感少女なんだそうだよ。 」
「 霊感少女 ? 」
「 うん。 予言とか・・・かなり正確らしい。 予知能力の霊感少女って騒がれてる。 」
「 まあ、そうなの。 それでそういう詩を書いたのかしら。
時間って とっても・・・残酷よね。 わたし達は・・・ 置いてゆかれてしまったけど・・・ 」
「 だから こうやって・・・ きみと一緒に過せる時間に貪欲になりたいのさ。 」
「 ・・・ わたし、 今のままでも満足よ? 」
「 ふふふ ・・・ ぼくが。 ぼくの方が 不満足 なのさ。 もっともっと きみを味わいたい! 」
ぱさ・・・っとリネンを捲ると、ジョ−は寄り添う白い肢体をほれぼれと見つめた。
「 きゃ・・・ やだ・・・ もう〜〜 ジョ−ってば・・・ 」
「 ・・・ 同じ時間を ・・・そうだな、あの詩みたいに言えば、同じ川を一緒に漂っていきたい・・・ 」
「 ・・・ あ ああ ・・・ わたし ・・・ 溺れそう・・・! 」
「 ぼく、さ。 溺れるのは・・・ きみにこの豊かな海に ・・・ 」
ジョ−は再び彼女の中にもぐりこむ。
「 ・・・ ジョ ・・・− ・・・ ! 」
「 まだ ・・・ 熱い んだね。 この海は ・・・ 」
「 ・・・ もう ・・・ ああ。 もう・・・ 」
「 あの作者に悪いかなあ・・・ 明日、うちの社でインタビュ−なんだって。 ・・・ う ・・・ 」
「 ジョ ・・・−− ・・・! わたし ・・・! 」
もう一度 二人は同じ昂みへと昇りつめていった。
南向きの窓から 早春の光が絨毯いっぱいに煌きを降り注がれている。
フランソワ−ズは そうっとサッシの戸を開け 狭いベランダに出た。
「 ・・・わあ〜〜 ・・・ 温かいわあ・・・・
あら。 鉢植えなんて置いてあるのね? これ博士の盆栽じゃない? ピンクのお花、キレイねえ・・・
サクラ・・・じゃあないわね? お水、あげましょう。 」
「 お〜い・・・フラン? バス・ル−ムかい。 」
ジョ−がガウン姿のまま、キッチン兼リビングに入ってきた。
「 ここよ、ベランダに出ていたの。 ねえ、ジョ−。 ジョウロ、ある? 」
「 ジョウロ?? そんな洒落たモノ、ないよ。 」
「 え〜? それじゃ お水やりはどうしてるの。 ほら、ベランダの盆栽。 サクラ? 」
「 ・・・ ああ、あれはね、花桃だって。 ぺっと・ボトルでじゃばじゃば・・・って。 」
「 まあ! 博士が怒るわよ? もっと優しくお水、あげてね。 ふうん、
あら、ジョ−ってば今日はお休みなの? 」
「 いや。 遅番なんだ。 午後までに出社すればいいのさ。 」
「 ふうん ・・・ あら、でもあんまりのんびりも出来ないのじゃない? 」
フランソワ−ズは壁の時計を見上げた。
「 ・・・ え。 あ! ・・・ ヤバ・・・! 寝坊しすぎた〜〜 」
ジョ−は本当に少し飛び上がるとスリッパを跳ね飛ばし寝室に走っていった。
セピアのくせっ毛が 寝癖にまけてさらにてんでな方向に揺れている。
「 早く! 朝御飯、作るから。 もう・・・昨夜あんなに・・・ちょっとしつこかったわねえ。
・・・ あら? 誰か・・・ 来たわ? 」
― ピン ポーーーン
彼女が <見る> 前に玄関のチャイムが鳴った。
「 ・・・ は〜〜い、ただいま・・・ ジョ−? どなたか見えたわよ〜〜 」
「 ・・・・ ・・・ ・・・・ ! 」
「 わかったわ。 は〜い、今 行きます! 」
ベッド・ル−ムに返事をし、さ・・・っと髪をなでつけるとフランソワ−ズは玄関にむかった。
「 はい? どちらさま・・? 」
「 ・・・ 島村ジョ− ・・・ってヒト。 いる? 」
ドアの前にはセ−ラ−服姿の少女が立っていた。 切りそろえた黒髪が艶やかに肩口に揺れる。
「 ええ・・・ 居りますが。 あの、どちら様ですか。 」
「 ・・・ 田代ミ−。 ジョ−、呼んで。 」
「 あのう。 ・・・ お約束ですか。 」
「 なんだよ、いちいち。 さっさとジョ−を呼びな。 ・・・ あんた、 誰。 」
田代ミ−と名乗った少女は 逆光に顔を顰めつつジロジロとフランソワ−ズを見ている。
「 ・・・ わたしは ・・・ あの ・・・ 」
「 彼女はぼくの妻ですけど。 」
「 ・・・ ジョ− ・・?! 」
不意に後ろから落ち着いた声が聞こえた。
「 ・・・ 妻 ・・?? アンタ、独身じゃ・・・ 」
「 まだ正式には届けてませんがね。 もうずっと一緒に住んでます。 田代ミ−さん。 」
「 ! なんで アタシの名前を・・? 」
「 霊感少女・田代ミ−。 検索したらすぐに出てきましたよ。 アナタはなかなか有名なんですね。 」
「 そ・・・ そんならハナシは早いよ。 ちょっと 外にでてくれない。 」
「 僕はもうすぐ出勤しなくちゃならないんで。 ここで話してくれませんか。
それとも後程 社の方で? インタビュ−の時間は4時半でしたね。 」
「 ・・・ それじゃジョ−の会社まで送ってくれる? 車の中でいろいろ・・・ 話すよ。 」
「 それはちょっと。 ああ、タクシ−を呼びます、ご自宅まで送らせます。 」
「 ジョ−・・・! アタシは・・・ アンタに会いたくて どうしても会いたくてココに来たんだよ! 」
「 ・・・ あのう・・・ ごめんなさい。 ジョ−・・・ 電話よ、会社から。 編集部の方・・・ 」
玄関で言い合っている二人に フランソワ−ズが遠慮がちに口をはさんだ。
「 うん? ああ、ありがとう。 田代さん、失礼します。 」
「 あ・・・ ジョ− ・・・ 」
「 ごめんなさい。 あの・・・ よかったらお上がりになりませんか。 」
「 ふん! あんたらの住いになんて。 あんた、引っ込んでな。 」
田代ミ−はフランソワ−ズが揃えたスリッパを蹴飛ばし彼女を睨み据えた。
チャリン ・・・
微かな金属音がして小さなものが床におちた。
「 ・・・ あ、落ちましたよ。 イヤリングかしら・・・ 」
フランソワ-ズは屈んで拾い上げると、彼女の前に差し出した。
「 ふ、ふん・・・! どうやってジョ−を引っ掛けたかしらないけど〜 ・・・・ ああ・・?? 」
突然言葉を止切らせると ミ−はじっと ― それこそ穴のあくほど、フランソワ−ズを見つめた。
「 ・・・ え? あの・・・なにか・・・? 」
「 ・・・ どうしよう・・・アンタだったんだ・・・! どうしよう ・・・ 」
「 あの? 気分でもお悪いの? ねえ、大丈夫ですか。 ・・・ あの、やっぱり上がって・・・ ええ? 」
「 ああ! 貴女様です・・・ ! その亜麻の滴りの光を宿した髪と空の色の瞳・・・! 」
ミ−はフランソワ−ズの手をしっかりと両手で捧げもった。
「 ・・・ ご無礼をいたしました。 いずれまた。 」
ほんの数秒前とは別人のごとくの声音となり、打って変わった態度で恭しく頭をたれる。
「 ・・・ お迎えに上がります。 陽の巫女さま。 失礼します。 」
「 え?? ミコ・・? ・・・ ああ・・!? 」
低い、ほんの呟きよりも低い声を残し、ミ−はするり、とドアから出ていった。
「 まって? ・・・ あら? 」
あわてて彼女がスリッパにまま、マンションの廊下に飛び出したとき、すでにミ-の姿はなかった。
「 ・・・へんねえ? エレベ−タ−の音、しなかったのに・・・ 」
「 編集部からの伝言なんですが・・・ あれ? 田代くんは。 」
ジョ−が奥から出てきて、玄関できょろきょろしている。
「 ジョ−・・・ 彼女、なんか ・・・帰っちゃったみたいなの。 」
「 帰った? ふうん ・・・ それなら丁度いいよ。 インタビュ−はやっぱり社でやってもらわないと・・・
とんだ 霊感少女だよなあ。 」
「 ・・・ ええ ・・・ そうね。 でも ・・・ どうしたのかしら。 急に態度がかわってね・・・ 」
「 ふうん? どうせ気紛れなんだろ。 放っておいていいよ。
まったくなあ・・・ プライベ−トなとこまで尋ねてくるって ロクなヤツじゃないし。 」
「 ジョ−。 これ、みて? 」
「 ・・・ うん? これ・・・ このイヤリング ・・・ 小型通信機じゃなか。 きみの、・・・じゃないよな。 」
「 ええ。 これ、彼女が落としたのよ。 」
「 田代ミ−が? ・・・ はは〜〜ん それでわかったよ。 予知能力の謎がとけた。 」
「 どういうこと ? 」
「 うん ・・・ さあ、ウチに入ろう。 一緒にでよう、駅まで送ってゆくよ。 途中で話す。 」
「 そう? ・・・ それじゃ、荷物、もってくるわね。 」
「 うん。 ・・・ 今度そっちにゆくよ。 ゆっくり・・・な♪ 」
「 ええ・・・週末・・・ まってるわね。 」
「 ああ、待ち遠しいなあ・・・ んんん ・・・ 」
二人は軽く唇を合わせ 名残惜しげに見詰め合っていた。
「 それじゃ。 博士によろしく ・・・ 」
「 ええ。 行ってらっしゃい、ジョ−。 気をつけて・・・ 」
フランソワ−ズは遠ざかる車にキスを投げて見送った。
昼に近いタ-ミナル駅は 結構込み合っていた。
駅前のロ−タリ−でジョ−の車を見送ると、フランソワ−ズはしばらく流れる人波を眺めていた。
・・・ レッスン休んじゃったし。
それじゃ 今晩の材料でも買って帰ろうかしら。 博士のお好きな活きのいいお魚、あるかな。
ふんわり明るい陽射しに 足取りもすこしだけ軽くなったみたいだ。
よいしょ・・・っとバッグを肩にかけ 彼女はロ−カル線の発着口めざして歩き始めた。
す・・・っと数人に男女が同じ方向に歩きだしていた。
しかしかれらはどうみても一見 <普通> の人々だったし、親子・夫婦・カップル・友人同士・・・と
どこにでもいる風だったので 目立つことはなかった。
フランソワ−ズ自身も すこしも気に止めてはいない。
え〜と・・・? ああ、この駅ビルの地下に大きな食品売り場があるのよね・・・
どこから降りるんだっけ・・?
「 もしもし。 落としましたよ・・・ ハンカチ。 」
不意に 脇からごく穏やかな声がして、フランソワ−ズの目の前に水色のハンカチが差し出された。
「 ・・・え? いいえ、わたしのではありませんわ。 」
「 そうですか。 これは失礼しました、 お嬢さん。 」
「 いいえ ・・・ ・・・ !? 」
軽く微笑して先へ行こうとした時 ― 前後左右からぴたり、と背の高いヒト達が寄ってきた。
「 ・・・ な! ・・・・・・・ 」
次の瞬間 さっきのハンカチがきつく鼻と口に当てられ ・・・ すとん、と意識が途切れた。
「 ・・・・・ 」
彼らは無言で そのまま小さな集団として足早に去っていった。
真昼の雑踏で 一人の人間が連れ去れたことに誰も気づくものはいなかった。
「 それでこのカチュ-シャが? 」
「 そうなんです! 携帯も全然繋がらないし。 地元に駅で彼女が降りた形跡もないんです。
それで ・・・ もしや、と思ってあのタ-ミナル駅の遺失物係りに寄ってみたら。 ・・・ これが。 」
ジョ−は壊れ物を扱うみたいなてつきで そうっと・・・ 大判のハンカチの上に置く。
一秒でも我が手から離していたくないのだろう、そのままじっと視線を外そうとはしない。
「 ふむ・・・? 」
博士は身を乗り出し、ためつ眇めつ目の前の赤いカチュ-シャを見つめた。
彼女がいつも身に着けているものと非常によく似ている、いや、そのもの・・・に見える。
しかし ちがう、と言われても ・・・ 頷いてしまいそうだ。
「 ・・・ よう、似とるな。 多分 ・・・ フランソワ−ズのもの・・・ 」
「 彼女のですよ! ほら・・・ ここに引っ掻いたみたいな傷があるでしょう? 」
「 ・・・? あ、ああ・・・ そう言われればそんな気がするのう。 」
「 これ。 下の海で泳いだとき、岩場で擦った跡なんです。 これはフランソワ−ズのものですよ。 」
「 それはよくわかったが。 それじゃ マドモアゼルはどうしてこれを駅の構内になぞ落としたのだろうか? 」
グレ−トがジョ−の剣幕に恐れをなし、おずおずと口をはさんだ。
「 だから! 絶対に何か・・・ 事件とかトラブルに巻き込まれたんですよ!
なにか ・・・ キナ臭い動きとか目立った変化はありませんか! 」
「 ジョ−はん。 ち〜と落ち着きなはれ。 フランソワ−ズはんはなにか急ぎのご用事中なのかもしれへんで。
あんさん自身もプライベ−ト用の携帯、忘れはって連絡とれへんかった、言うたやないか。 」
「 大人・・・! それは ・・・ そうなんだけど。 でもぼくにはどうもあの霊感少女のことが
ひっかかって仕方ない。 それにこのイヤリング型の受信機。 ミ−が落としたものなんだ。 」
カチン・・・ ジョ−は小さな金属音とともにすこし大振りなイヤリングを置いた。
「 霊感少女? ・・・ 例の田代なんとか嬢かな。 これは・・・ また精巧な・・・
お、読めたぞ? 田代嬢の <予知> はインチキだな。 」
「 うん。 ぼくもそう思う。 それにわざわざ僕のマンションまで訪ねて来て絡んだのに急に帰ってしまった。
午後にインタビュ−の予定が入っていたんだけど、勿論すっぽかし、だったそうだ。 」
「 は〜ん? そりゃ、ジョ−。 お前のファンなんじゃないか。 」
「 ファ ・・・ ファン?? ぼくの? ― どうして??なんで?? 」
「 Oh my boy 〜〜! ジョ−よ、お前さんは相変わらず自分自身のことについちゃ な〜んにも
わかっとらんのだな。 霊感少女はお前さんの <おっかけ>で。 訪ねた部屋では お前さんと
マドモアゼルが夫婦然として居て ショックを受けた、って筋書きであろう。 」
「 ・・・ そ、それにしても。 どうしてフランソワ-ズを浚う必要があるのさ! 」
「 まあまあ・・・ ジョ−はん。 そんならこっちもそのなんたらいう女の子のウチに行ってみたらええ。 」
「 そ、そうか・・・な? 」
「 そうや。 さあ、 ワテが付いてゆくさかい、その子ォのとこに行きまほ。 」
「 ・・・ う ・・・ うん。 それじゃ・・・編集長に彼女のアドレスを聞くよ。 」
「 そうしてや。 ・・・ ほな、博士、 グレ−トはん? ちょいと出てきまっせ。 ごめんやす。 」
「 了解。 では我輩はなにか怪しい動きがないかどうか念入りにチェックしておこう。 」
「 はいな。 頼みまっせ〜〜 」
「 グレ−ト・・・ それじゃ・・・ お願いします。」
「 ジョ−はん! 行きまっせ。 ワテの車でええな? グレ−トはん、博士と坊をよろしゅう。 」
「 ・・・ ま、待ってくれ・・・ 今・・・・ 」
ジョ−はばたばたと 張大人を追ってリビングから出ていった。
「 たいむ・ましん ・・・って本当やったんか・・・ 」
「 うん ・・・ ここはおそらく ・・・ 3000年以上前の縄文前期。 」
「 あいや〜〜 ほんの一瞬やった〜 ほんならここにフランソワ−ズはんも居るんやろか。 」
「 おそらくね。 田代親子はこの世界からの一種の工作員だったんだ。
ぼくの暗殺指令を受けて、ね。 だが、フランソワ−ズのことはわからない。 」
「 ・・・ そやな、あのオヤジはほんまに知らんようやったし。 うほ・・・こりゃ未来都市やね〜〜 」
「 そうだね〜 でも こんなモノ、ココにはあってはならないんだ! 」
二人の目の前には近代的な基地が はるか彼方まで広がっていた。
ジョ−と張大人は田代ミ−の父親を訪ね ・・・・ 彼らの故郷である <古代> へとやって来たのだ。
そこには ・・・ 近未来さながらのとんでもない情景が繰り広げられていた・・・!
「 ひょ〜〜〜 ここ、 本当に ココあるかね?? 」
「 本物だけど。 本当はあっちゃ困るものだ。 縄文時代にこんな・・・ 」
「 そうアルね。 縄文時代にこ〜んなモノはないアルよ〜〜 」
ヒュン ・・・・!
小型円盤にも似た飛行メカに乗った<縄文兵士>がいきなり攻撃してきた。
「 そうさ! こんな古代文明が存在しては ― いけないんだ! 」
ズガ −−− ン ・・・!
ジョ−はス−パ−ガンで次々に飛行メカを撃ち落してゆく。
「 そやけど〜〜 ジョ−はんの暗殺を命じたり こ〜んなメカを持ち込んだのは誰やねん? 」
ゴォ〜〜〜〜 ・・・!
張大人、 いや 006 の紅蓮の炎が炸裂する。
「 どっちにしろ後ろ暗い連中に決まってるさ。 うん? 」
「 ほ! ・・・ なんや? 兵士ら〜〜急に引き上げ始めよる〜〜 」
「 いや・・・ 集結してるんだ。 あそこ! 」
「 ほえ〜〜〜 ジョ−はん! ・・・ どなたはんかがお出ましでっせ。 」
「 そうみたいだね。 兵士たちは警護に戻ったのか? ・・・ とすると支配者? 」
「 ひええ・・・ 」
「 一発 威嚇射撃してみようか。 」
「 やめなはれ。 どんなヤツらかわからしまへんで。 」
「 それを知るために、さ。 小手調べ・・・ってことで。 ああ、あれが旗艦だな。よし 端っこを・・・ 」
ジョ−は建物の影からス−パ−ガンを構えた。
「 ・・・ 援護、たのむ。 」
「 ええけど・・・ よしたほうが賢い、ちゃいまっか・・・ 」
「 あの前に立ち塞がってるヤツが退いたら 〜〜 よし。 」
ジョ−の指がす・・・っとトリガ−を引き ―
「 お止めなさい! 無用の争いは許しません! 」
辺りの空中に 涼やかな声が響いた。
「 ひえ〜〜 な、な、なんやねん〜〜 おなごはんの声やで〜 」
「 ・・・ っと〜〜 ぎりぎり外せた・・・ 今のは声? いや・・・テレパスかな。 」
「 ジョ−はん! あの大きな船みたいなのんが 来まっせ〜 真ん中に綺麗なおなごはんがおるやん。 」
「 む。 006、油断するな。 ・・・ あ! あれは ・・・ まさか・・・フ、フラン??! 」
「 えええ?? あの女帝はんが、でっか。 」
「 声も雰囲気も全然違うけど。 でも・・・ あの容姿 ( すがた ) は! 」
大人はジョ−につられ、まじまじと上方空中に浮かぶ <船> を見つめた。
「 ・・・ ほんまや。 あれはフランソワ−ズはんや。 妙なキモノ着はってキツい顔してはるけど。
あれは フランソワ−ズはんや。 まちがいおまへん。 お〜〜い!! 」
「 あ! 006〜 !! 」
張大人はジョ−の脇をするりと抜けると その丸まっちい身体で縄文軍団の前に飛び出していった。
「 わてやで! フランソワ−ズはん。 ジョ−はんも来てはるで。 お迎えになあ〜
はよ、一緒に帰りまひょ! 」
「 ・・・危ない! 」
シュ ・・・!
恰好の標的! とばかりの狙い撃ちからジョ−は加速装置で大人を救い出した。
「 あの者たちを ここへ。 撃ってはなりません。 」
またもやりんとした声が響いてきた。
「 ・・・ ここは素直に捕まるか。 」
「 ひえ〜〜 おおきに、ジョはん。 ・・・ そうやな、窮鳥懐に〜 ・・・ や! 」
「 ふふん・・・ いざ 虎の穴へって気分さ。 」
009と006は 両手をアタマの後ろに組んで歩きだした。
投降した、と装ったジョ−と大人は案外丁重に扱われ 巨大なピラミッドの中に案内された。
「 この者たちに手出しをしてはなりません。 」
表情ひとつ変えず、女王は言い放つと裳裾を翻し奥に引っ込んでしまった。
≪ 003! ・・・ フランソワ−ズ・・・! 応えてくれ! ≫
≪ ・・・・・・・・・・ ≫
≪ フランソワ−ズはん! こっそりでええ。 なんか言うてんか! ≫
≪ ・・・・・・・・・ ≫
009と006が飛ばした脳波通信にはなんの反応もなかった。
「 ジョ−! 来てくれたんだね!! 」
「 ミ−。 君はやはり・・・ この時代の人間だったのか・・・ 」
質素な布でできた短いキモノを着た少女が駆け込んできた。
「 そうだよ。 アタシ達は神々の命令で ・・・ 神々の邪魔をするアンタを暗殺に・・・・ でも! 」
田代ミ−はきゅっと唇を噛み締めた。
「 でも。 アタシには出来ない・・・ アンタを殺すなんて・・・ 好きになったヒトを殺すなんて・・・ 」
「 ミ−。 神々は君達をどうしようというのか。 支配されているのかい。 」
「 ・・・ 神々は ・・・ ある日 空からやってきて・・・アタシ達を導いてくれた。
周辺 ( まわり ) の部族を打ち破り支配して・・・やがてはこの国全部を支配できるようにって。
そのために ほら・・・・ あんなモノを作っていったんだ。 」
ミ−は周囲に回らされてメカ類を見回した。
そこは ― 一大中核基地の内部だったのだ。
「 ・・・ あの女性は・・・ いや、君は知っているね、ぼくの妻だ。 マンションで会っただろう?
でも・・・ どうして彼女が ・・・!? 」
「 だって! あの方は アタシ達の本当の <神> なんだもの! 」
「 ・・・ 神 ??? 」
うん、とミ−はこっくりと頷いた。 艶やかな黒髪が肩口にゆれる。
「 <神々>は ・・・ いろんなモノをアタシ達に与えてくれた。 そりゃ・・・便利だけど。 でも・・・ 」
「 あんさんらの <神々>はんはどこにいてはるねん。 」
張大人はきょろきょろと辺りを見回している。
「 うん・・・ 神々はね、 姿は見えないんだ。 アタシ達の頭の中に <声> が聞こえるだけ。
この耳飾りをつけるともっとはっきり、ね。 」
ミ−は黒髪を揺すり 大振りのイヤリングを見せた。
「 ・・・ ふ〜ん ・・・やっぱり、な。 思ったとおりだ。 これでコントロ−ルしてるんだ。 」
ジョ−は一目で看破した。
「 でも! アタシ達が待ち望んでいたのは ・・・ あんな神々じゃない・・・!
あんな <神々>に支配されるのはいや。 だって ・・・ 陽の巫女じゃないもの。 」
「 陽 ( ひ ) の巫女? 」
「 アタシ達の間の伝説さ。 輝く陽の巫女が現れこの部族を統率し繁栄する、って。
もうず〜っとムカシから・・・ばあちゃんのばあちゃんのもっともっと前から伝えられてるよ。
アタシ達の部族は皆知っている。 知っていて 待ってたんだ。 」
ミ−はジョ−達に木の実と果物、水を持ってきた。
「 それが彼女だっていうのかい。 彼女はフランソワ−ズ・アルヌ−ル・・・いや、フランソワ−ズ・島村さ。」
ぼくのただ一人の愛する女性 ( ひと ) だ。 」
「 そうさ! アンタのとこで アタシは ・・・ 陽の巫女様をみつけた!
あの髪が証拠さ。 あんな髪のヒトはここにはいない・・・! 」
「 ・・・ そやけど、フランソワ−ズはんは異国のお人やからあないな色の髪をしてはるだけでっせ。 」
「 ち・・・ちがうよ! だって ・・・ 巫女様は <神々>の言いなりにはならないもの。
これ以上争いはダメだって。 皆で平和に暮らしてゆくんだって・・・ 」
「 彼女も 耳飾りをつけていたよね。 」
「 うん。 ・・・でも時々辛そうに・・・アタマを押さえていらっしゃる・・・・ 」
「 そうか。 それでわかった。 ・・・ 誰か来る? 」
「 ・・・ あ。 巫女さまだ。 」
「 よし。 張大人、頼みがあるんだ。 ミ−、君も手伝ってくれるかい。 」
「 手伝うって・・・ 巫女様のためになることかい。 」
「 勿論さ。 大人・・・・ いいかな? 」
ジョ−は素早く脳波通信を送った。
「 ・・・ ほう・・・ なるほどアル。 よっしゃ!引き受けまっせ〜〜 」
大人はどん!とその肉厚な胸を叩いた。
「 謝々〜〜 それじゃ、ミ−。 <巫女さま> を頼む。 」
「 ?? いいけど・・・ 」
≪ 行くぞ! フランソワ−ズを撃つのが合図だ。 ≫
≪ 了解〜〜 アル。 久々に活劇アルね〜〜 ≫
カツカツカツ ・・・
軽い足音が近づいてきた。
「 ミ−? そこに ・・・ 彼らと居るのですか? 」
「 ・・・み、巫女さま・・・ 」
「 その者たちと話がしてみたくて。 ・・・ どこにいるの? 」
「 こ・・・ ここです・・・ 」
「 ・・・? 」
− バシュ ・・・・・!
ジョ−のス−パ−ガンが吹いた。 そして・・・
「 きゃあ〜〜〜 ! 」
カチャーーーーン・・・・!
悲鳴と共に金属製の耳飾が千切れ飛び ― 白い裳裾を揺らして亜麻色の髪の巫女は倒れた。
「 行くぞ! 」
「 アイアイ サ− 〜〜〜 ! 」
赤い防護服姿は外へと飛び出していった。
ズガガガガ −−−−−− ン ・・・!!!
程なくして大音響とともに ありえぬ・縄文都市 ( シティ ) は連鎖反応を起こし始めた。
「 ええ?? 行ってしまうの、巫女さま・・・ アタシ達を置いて・・・ 」
「 ・・・ アナタよ。 アナタが 陽の巫女 なのよ。 アナタがここを統べるの。
そして 平和で穏やかな那 ( くに ) を目指して・・・ 」
「 でも アタシは 輝く髪なんか持ってない・・・
「 いいえ? ほら・・・ アナタのこの髪・・・ お日様を受けてこんなに艶やかよ、黒が光っているわ。 」
フランソワ−ズはミ−の手を引いて陰から出た。
まさに日は中天にあり、 明るい早春に光がぱあ〜〜っとミ−を包んだ。
「 ほうら・・・ お日様の微笑みがいっぱい ・・・ アナタの髪、黒曜石みたい。 」
「 ・・・ あ ・・・? 」
「 陽の巫女 さん。 ・・・ お別れね。 」
「 ・・・ やっぱり帰っちゃうのかい。 」
「 ええ。 わたし達はここに居るはずではない存在ですもの。 」
「 ・・・ ごめん・・・ いろいろ。 でも・・・ アタシ。 ジョ−のこと 好きなのは本当なんだ・・・ 」
「 わかってたわ。 ・・・ ありがとう、わたしの愛している人を好きになってくれて。 」
「 怒らないのかい。 」
「 わたしの半身でもあるヒトが 多くのヒトに好かれる魅惑的なヒトだってことだもの。
嬉しいわ。 ・・・でも ホント言うと。 やっぱり心配だけど・・・ 」
「 ・・・ アタシ。 アンタも 好き かもしれない・・・・ 」
「 ありがとう。 ・・・ お別れね。 あの・・・ キスくらいなら いいわよ? 」
にっこり微笑んでフランソワ−ズはジョ−を振り返った。
「 えええ!! 」
ジョ−の頓狂は声に 居合わせたものがみんな声をあげて笑った。
「 ・・・ やめとく。 きれいな思い出にしとくよ。 ・・・ ジョ−? 」
ミ−はすっと手を差し伸べた。
「 こんな挨拶があるって アンタ達の時代で知ったんだ。 握手なら ・・・ いいだろ。 」
「 ・・・ ジョ−? 握手 してあげて? 」
「 うん。 」
ジョ−は目の前のふっくりした手を ・・・ ガシっと握った。
「 あれは ・・・ 夢だったのかしらって思うわ。 」
「 夢じゃない。 彼女は、 田代ミ− は。 あの地の女王に、陽の巫女になったんだ。 」
カツカツカツ ・・・・ コツコツコツ・・・・
二つの足音が 乾いた歩道に響いてゆく。
午後に陽射しが道いっぱいに広がっていた。
行き交う人々もコ−トを手にもったり ひらひら引っ掛けているだけの姿が目立つ。
街路樹の中にもそろそろ青い芽を見せ始めたものもあった。 季節はゆっくりと移ってゆく・・・
三千年のムカシへの旅は ほんの一瞬だったのだ。
・・・ ひら ・・・・ 白い可憐薄いカケラが風に乗る ・・・
「 そうね・・・ あら・・? 花びら・・・ サクラじゃなくて ・・・
「 うん。 これも花
「 ・・・ あ! 大変! おひなさま・・・! 今日ってもう4日でしょう? 」
「 そうだけど・・・ 」
「 大変〜〜〜 はやくはやく! 帰ってしまわなくちゃ! ジョ−手伝って。 」
フランソワ−ズはつんつんジョ−のジャケットを引っ張っている。
「 いいけど。 でもなんで? そんなに焦ること、ないだろ。
月末にはアルベルトが来るから 彼にも見せてやろうよ。 」
「 月末?? とんでもないわ! ぜったいに今日中にしまうの〜〜
遅れたらね、お嫁に・・・ 」
「 ?? お嫁に・・・?? 」
「 ・・・! な、なんでもないわ。 とにかく、わたし、先に帰るわね! 」
フランソワ−ズはコ−トの裾を翻し 本気で駆け出した。
「 あ!? 待ってくれよ・・・ あ ・・・また、花びら・・ 」
・・・ひら ・・・ 白い花びらがふと 黒髪の少女の面影に重なる。
― 陽の巫女として 元気にやっているだろうか・・・
ジョ−の掌は ほんの少しの間、あの温もりを懐かしんだ。 ほんの少しだけ・・・
一瞬の感傷を 早春の風が吹き飛ばす。
自分の大切なものは ちゃんとここにあるではないか。
「 ・・・ お〜い・・・! フランソワ−ズ・・・! 」
ジョ−は彼の愛しい春のひかりに向かって 駆け出した。
************************* Fin. **************************
Last
updated: 03,10,2009.
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********** ひと言 ***********
え〜と ・・・ 一週間遅れですが一応 季節モノ ・・・のつもりです〜〜
原作あのオハナシ〜〜 じつは去年の今頃?も同じ話をモトネタに妄想駄文を
書いたのですが、今回はちょいと見方を変えてみました。
ジョ−君、たまにはカッコよく? フランちゃんは可憐で可愛い雰囲気に
書きたかったのですが ・・・ (;_;)
皆様ご承知済みの活劇シ−ンは (よろこんで) 割愛しちゃいました♪
こんなバ−ジョンもいいかな〜〜って笑ってやってくださいまし。
ご感想のひと言でも頂戴できましたら狂喜いたします〜〜 <(_ _)>