『 はっぴ〜・でいず 』
― ある年の 初夏の夕暮れ
足元に 細波の音をきき 頭上には 煌めき始めた 星々の光を眺め …
海辺に、広々とした瀟洒な邸宅前の プライベート ビーチ に
しゃがみこんでいる青年がひとり。
彼は 海を眺めるでもなく 砂浜を見るでもなく その視線はただ ただ 遠い。
海の そして 暮れなずむ空の彼方を 眺めている。
さく さく さく
・・・
軽い足音が近寄ってきて
サマードレス姿の乙女が すとん と隣に座る。
「 やあ
」
ほんの少しだけ 視線を向けると、彼は低く言った。
「 ・・・うふ ここだと思ったわ。 」
彼女も 海に視線をむけつつ応える。
「 あ うん
… 海は 」
「 ええ 海は つながっているわ。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 あなた 今日は毎年ここにいるもの・・・。 」
「 うん … やっぱり さ 」
「 そう ね 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
彼は 大切そうに そして いとおしそうに 手にした小さな袋を撫でる。
色褪せた赤色の布袋 ― その中には
もういない愛の温もりが眠っているのだ。
「 ・・・ 」
彼女も その袋に暖かい視線を送る。
「 ・・・・ 」
「 ・・・・ 」
温かいため息をつき 二人は寄り添って砂浜に座り、
海原の遥か彼方に 想いを飛ばすのだった。
そう
いつだって笑っていた あの頃へ ―
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たたたたた 〜〜〜〜 たっ たっ たっ ・・・・
二種類の足音が聞こえてきた。
「 あら お帰りね。 そろそろぴんぽんかな〜 」
フランソワーズは洗濯モノを畳む手を動かしたまま にっこりした。
「 ・・・ じゃ 続きは二人に頼むことにして ― オヤツの用意ね 」
お日様の香がする衣類の山を 彼女はずず・・・とソファの隅に追いやった。
「 みるくティ に ビスケットとお煎餅 でいいかな
そうそう チビ達にも相談しなくちゃね 」
彼女はリビングの壁に貼ってあるカレンダ―を振り返った。
ぴんぽ〜〜〜ん おか〜〜さ〜〜〜ん っ
玄関のチャイムと一緒に 甲高い声が響く。
「 あらら ・・・ すぴかったらもう 大声で・・・ はあい〜〜 」
フランソワーズは玄関に向かって声を張り上げると小走りになった。
おか〜〜〜さ〜〜〜ん アタシ !
・・・〜〜〜〜〜
大声と共に ちっちゃな声がなにやらむにゃむにゃ〜〜言っている。
「 はあい 今 開けますよ〜〜 意味不明、はすばるね
はい お帰りなさ〜〜い すぴか すばる 」
カチャリ ― ドアが開くとほぼ同時に小さな姿が二つ、
どん、と彼女の脚に飛び付いてきた。
「 ただいま〜〜〜 おか〜〜さん! 」
「 ・・・ おか〜〜 さ ・・・ 」
はいはい、と 子供達の母は屈みこみ、二人を腕に抱いた。
「 すぴか すばる ・・・ 」
ちゅ ちゅ ・・・ ピンク色のほっぺにママンのキス。
「 うわ〜〜い ね〜ね〜 おか〜さん アタシね〜 今日ね 」
「 おか〜さ ・・・ 」
すぴかは賑やかにおしゃべりを始め 弟のすばるは母の胸にすりすり〜している。
「 さあさ オヤツにしましょ。 ほら 二人とも手を洗ってウガイして 」
「 オヤツ! わあ〜〜い 」
「 ・・・ おやつぅ 」
「 そうよ。 まずランドセル下ろして? 」
「 ウン。 」
すぴかは すぽん、とランドセルを置くとぱたぱたバス・ルームに駆けていった。
「 ほら すばるも ・・・・? 」
「 う ・・・ おか〜さん やって 」
「 あらあ 一人でできるでしょう? はやく手、洗ってらっしゃい 」
「 ・・・ う ん 」
すばるが やっとランドセルを下ろしたとき、もうすぴかが駆け戻ってきた。
「 おか〜さん オヤツ! 」
「 はい キッチンに言ってね〜 すばる? お手々 洗ってきて。 」
「 うん ・・・ 」
とて とて とて ・・・ すばるはやっとバス・ルームに向かった。
「「 いただきまあす 」」
子供達は ご機嫌ちゃんでオヤツを食べ始めた。
「 ねぇ すぴか すばる。 16日 って な〜んだ? 」
お母さんは にこにこ・・・ 二人に話しかける。
「 じゅうろく? 」
「 そうよ 16日。 今月は五月でしょう?
はい クイズで〜す 五月十六日 は なんのひですか。 」
「 あ ははのひ〜〜〜 」
珍しくも すばるが先に声を上げた。
「 ぶ〜〜〜〜。 ばっかじゃない すばるってば〜〜
ははのひ は終わったばっかじゃ〜ん。 」
すぴかは容赦なく否定する。
「 ・・・ あ そっか〜 」
「 そうね 母の日には二人から素敵なプレゼントもらったわね〜〜
お母さん もう宝モノよ、 リビングに飾ってあるでしょう? 」
「「 うん ♪ 」」
ビスケット と お煎餅 を齧りつつ 二人は大満足だ。
母の日に
双子は 折り紙でカーネーションの鉢植えを作り ( かなりの力作 )
おか〜さんだいすき〜 のキス と一緒にくれた。
しまっておくのは勿体ない〜〜 と 母はその作品をリビングに置いたのだ。
「 さあ〜〜 二人とも わかるかな? 」
「 う〜〜〜ん ・・・? 」
「 じゅ〜ろく〜〜〜〜 のひ にゃは♪ 」
「 あ の ね。 お父さんのお誕生日! で〜〜す。 五月十六日よ。 」
「 あ〜
そっだ〜 」
「 そっだ〜〜〜 」
「 ・・・ あ。 ぷれぜんと ・・・・ しなくちゃ・・・ 」
「 ぷれぜんと ・・・? おと〜さんに ・・・ 」
子供たちは 困った顔をしている。
「 ぷれぜんと おみせで かう? 」
「 おと〜さんの すきなもの ・・・ 」
「 ウン ・・・ でも アタシ おこづかい もうない・・ 」
「 僕も ・・・ 」
どうしよう ・・・
珍しくすぴかが おろおろしている。すばるはもう涙目だ。
「 ねえ お母さんと一緒に お父さんのお誕生日会 しない? 」
母は笑いつつ助け船を出してくれた。
「「 する〜〜〜〜〜〜 !!! 」」
「 そうねえ ・・・ すぴかさん、おとうさんのこと、書けるかな? 」
「 え さくぶん ってこと? 」
「 そうね すぴかさん、お得意でしょ? 」
「 うん ! かくね〜〜〜 」
「 僕 ・・・ 」
「 すばるくんは おとうさんの絵、描いてみようか? 」
「 え? うん! 僕 おと〜さんのかお、かく 〜〜 」
「 わあ すごいな〜〜 お父さん、きっと大喜びよ〜〜
オヤツ食べて 宿題、終わったら かいてみましょうね
」
「「 うん !! 」」
すぴかとすばるは 大にこにこ〜〜 でオヤツの続きを食べ始めた。
やがて リビングでは ―
「 ・・・ ん〜〜〜〜 ・・・っと 」
すぴかは 真剣に鉛筆を動かしている。
「 きゅきゅ〜〜 っと♪ ささ さ〜〜〜 」
すばるは ハナウタ混じりにくれよんで塗り塗りしている。
「 ふふふ ・・・ 最高のプレゼントになりそうね 」
フランソワーズはくす・・・っと笑い キッチンを片づけに行った。
「 おか〜さん かけた ! 」
「 かけた〜〜 」
やがて 二人はそれぞれの <さくひん> を手に、キッチンにやってきた。
「 わあ〜〜〜 お母さんにも見せてくれる? 」
「 うん。 あたしの作文〜〜 」
すぴかは 丁寧な字の並ぶ原稿用紙を差し出した。
「 これ 僕の! 」
すばるは くれよんの作品を広げる。
「 あらあ〜〜 二人とも素敵! お父さん、 大喜びよ〜〜 きっと 」
「 えへへ〜〜 そっかな〜〜 」
「 えっへん そっかな〜〜 」
「 お父さんがお帰りになったら プレゼントしましょうね 」
「「 うん !! 」」
「 ねえ 二人とも。 ひとつ、お願いがあるんだけど 」
「 なに〜〜 おか〜さん
」
「 おか〜さん ? 」
「 あのね 」
フランソワーズは 色違いの瞳に笑いかける。
「 すぴか すばる。 おかあさんに協力してくれる? 」
「 きょうりょく? なに 〜〜 」
「 なに〜〜 」
「 あ の ね。 バースデーケーキ !
お父さんのお誕生日のバースデーケーキ作りを 手伝ってほしいの。 」
「 うわぉ〜〜〜♪
やる〜〜〜 」
「 け〜き け〜き〜〜〜〜♪ 」
子供たちは とんとん飛び跳ねている。
「 それじゃあね もう一回手を洗ってきて?
それからキッチンで始めましょ。 いい? 」
「 いい〜〜〜〜〜 」
だだだだ ・・・ たたたた ・・・・
ま〜〜 チビ達はバスルームに すっとんでいった。
さて。
お揃いのエプロンをして すぴかとすばるは神妙な顔をしている。
フランソワーズは キッチン・テーブルの前に立った。
「 さあ いいかしら 二人とも 」
「「 うん! 」」
「 それじゃあね 順番を説明するわね。 最初にね 」
お母さんは ゆっくりとケーキの作り方を説明し始めた。
「 ・・・ じゃ 順番にやってゆきましょ。 」
「 うん!!! 」
すばるが元気よく返事をする。
彼は ほんのチビの頃からキッチンが大好きで いつも母にくっついて
料理を見ていた。 その結果 ― もうホット・ケーキくらいは一人で焼けるのだ。
「 僕 やる。 」
すばるは 粉をふるう。 フルイを使ってかなり器用にふるってゆく。
「 できた〜〜 」
「 まあ 上手ね〜〜 じゃ 次はね たまご。 」
「 僕 たまご われるよ〜〜 」
ぷっくりした指で卵を割ると すばるは 卵白の泡立てに奮戦し始める。
「 ・・・ アタシ … 」
珍しくすぴかが うじうじしている。
彼女は料理にはあまり興味はなく 日頃のお手伝いは もっぱら
食器ならべ とか 野菜洗い なんかなのだ。
「 あ あのね すぴかさんはね、 すぴかさんにしかできないことを
お願いします。 」
「 え ・・・ なに?? 」
「 それは ね。 いっちばん美味しいイチゴ を 摘んできてくれる?
温室のいちご きっといっぱいいい色になっていると思うの 」
「 うん!!
」
これに入れて・・・ と渡された籠を持って すぴかは裏庭の温室に
すっとんでいった。
「 すばる ・・・ ゆっくり ゆっくり よ 」
「 ウン ・・・ 」
すばるは真剣は表情で ボウルの中身をまぜている。
「 そうそう じゃあ これを型に流し込むわね。
あ すばるは型を抑えていてくれる? 」
「 うん 」
「 いくわよ〜〜 ・・・ さ 〜〜〜〜 」
「 わあ ・・・ 」
スポンジ・ケーキの材料は ゆっくりと型の中に入った。
「 とってきた!!! 」
すぴかが勝手口から 飛び込んできた。
「 あ お帰りなさい〜〜 どれどれ? 」
「 これ! みて〜〜〜 」
「 わあ〜〜 すっご〜〜 すぴか〜〜〜 」
すばるが歓声をあげる。
「 まあ ほんとう。 すぴかさん、美味しそうないちご いっぱいね 」
「 えへへ〜〜〜 ね これものっけて〜〜 」
すぴかは 山ほどの熟れた苺と共に プチトマトも摘んできた。
「 あら カワイイわ、 いいわね〜〜
じゃあね 二人でイチゴとトマト、 そ〜〜〜っと洗ってね。
お母さん ケーキをオーブンに入れるわ。 」
「「 うん !! 」 」
ケーキ型をオーブン入れてから 洗いモノをした後で
三人でぴかぴかに洗ったイチゴを選んだ。
「 わあ〜〜 おいしそうなの ばっかり摘んできたわね〜 すぴかさん 」
「 えへへ〜〜〜 きれいだね 〜 イチゴさん 」
「 そうね えっと ケーキの上に飾るのは 」
「 ん・・っと これ! これ まんなか〜〜〜 」
すばるは そ・・っと大粒を取り上げた。
「 あ おうさまいちご 〜〜 」
「 ね! おうさまいちごだあ〜 」
「 ほんとう・・・ じゃ これをケーキのてっぺんにのっけま〜す 」
「 わあ〜〜い あ おかあさん とまとも 」
「 はいはい すぴかさん まんまるトマト、選んで? 」
「 うん えっと これ と これと これ。
いちご とまと いちご とまと で並べましょ 」
「「 うわ〜〜い〜〜〜 」」
ふわん ・・・
「 あ いいにおい〜〜〜〜 」
「 くんくん 〜〜〜〜 あ けーき のにおい 」
子供たちは ハナを鳴らし始めた。
「 ああ ホント。 ケーキが焼け始めたわねえ ホント いい匂い 」
「 えへへ〜〜〜 け〜き け〜きぃ〜〜 ♪ 」
甘いモノ大好き少年・すばる はもうるんるんしている。
「 ・・・ あのさ おか〜さん アタシ ・・・ 」
「 なあに すぴかさん 」
「 アタシ ・・・ くり〜む あまいのすきくない ・・・ 」
「 大丈夫よ。 クリームにはお砂糖、いれないから 」
「 え?? で できるの? 」
「 できるわよ。 皆がオイシイ♪ って 食べらるケーキがいいもんね 」
「 でもぉ〜〜 おと〜さん と すばる、あまいの だいすきじゃん 」
「 そうね。 クリームは甘くなくても あまあ〜〜〜い・イチゴ が
のっかっているから。 すぴかさんは イチゴは好きでしょう? 」
「 うん♪ わあ〜〜い 」
すぴかは チビなのに辛党なのだ。
「 うふふ ・・・じゃあ 生クリームの準備しましょうか
」
「 うん! 」
「 まず 大きなボウルを用意します。 」
「「 ん ! 」」
ケーキの焼けるいい匂いを堪能しつつ 三人は生クリームに挑戦した。
カシャ カシャ カシャ 〜〜〜〜
「 う〜〜〜 ・・・ すばるぅ〜〜〜 こうたいして〜〜 」
「 うん いいよ ・・・っと。 」
島村さんち には電動泡立て器はない。 ハンドルを回す手動式だ。
小さな手が 懸命にハンドルをまわす。
「 ん〜〜〜〜 ん〜〜〜〜〜〜〜 ん〜〜〜〜〜 」
すばるはかなり頑張った。
「 さあ お母さんと交代しましょ。 」
「 うん おねがい〜〜 」
「 はい。 よお〜〜し 」
フランソワーズは腕まくりをし ボウルを受け取った。
「 あれ おかあさん あわだてき は? 」
「 ふふ お母さんは これ。 」
「 これ? 」
「 そうよ〜〜 さあ〜〜〜 いきます! 」
お母さんは 先っちょが風船みたいな不思議な形の器具を取りだすと ―
猛然とスタートした。
カシャカシャカシャ 〜〜〜〜 カシャカシャカシャ〜〜〜
「 う わ ・・・ 」
「 すっげ〜〜〜 」
大ボウルの中で 生クリームはたちまちまったりし始め
つん。 泡立て器を持ち上げるとツノが立つようになった。
「「 おか〜さん すっご〜〜〜〜〜 」」
「 うふふ ・・・ ちょっとこれ、冷蔵庫に入れて ・・・・
ねえ オーブン 見て? 」
「 うん! あ〜〜〜 けーき色 になってきたァ〜〜 」
「 ほんとだ! けーきいろだあ〜〜 」
オーブンの前で 二人はちょんちょん踊っている。
「 そう? どれどれ ・・・ あ〜〜〜 いい色ねえ ちょっとこのままね〜 」
「「 え?? 」」
「 あのね 急に出すと しゅわ〜〜〜ん・・・って萎んじゃうの。
待つ間に 洗いモノ、しましょ 」
「「 うん! 」」
テーブルの上をすっきりさせて ― 真ん中には
焼き上がったケーキ台 が どごん と乗っている。
「 うわ うわ うわ〜〜〜〜〜 」
「 うわうわ〜〜〜〜 」
「 どう? ね 美味しそう〜〜〜 」
「「 うん!! 」」
「 くり〜〜む ど〜〜ん? 」
「 えっと もうちょっと待ってね? もうすこし熱いのがとれてから 」
「 ふうん・・・ あ ふ〜ふ〜しよっか 」
「 ほら これつかて 」
母は慌てて団扇をさしだす。
「 ウチワだあ〜〜〜 」
「 ほら すぴかはこっちから すばるは反対側から
わふわふ〜〜〜 ってやって 」
「「 うん !! 」」
二人は張り切って扇ぎはじめた。
母はにこにこ・・・ 冷えたボウルを冷蔵庫から取りだした。
「 さあ〜〜 いよいよクリームを塗ります 」
「 うわ ・・・・ 」
「 うわ ・・・・ 」
さあ こっちにきて、 と二人を招いた。
「 最初にね〜 ケーキに生クリームをぬります。 このね・・・・
平たいヘラで塗るの。 」
「 ・・・ で きるかな ・・・ 」
「 僕 やる! 」
お料理・少年 すばる は 真剣な顔で ケーキの前に立った。
「 よ〜し お母さんが生クリームをケーキの上に置くから
それをたいらに伸ばしてくれる? 」
「 はい! 」
「 ほら すぴかさんも手伝ってくれる? 」
「 ・・・ アタシ できる? 」
「 大丈夫。 ほ〜ら クリームよ〜〜 」
フランソワーズは程よいかたさになったクリームをひと掬いケーキの上にのせた。
「 ほら 伸ばして〜〜 」
「 ん ! 」
すばるは結構器用に クリームを伸ばしはじめた。
「 すぴかさんもこっちがわ、お願い 」
「 う うん ・・・ こ こう ? 」
「 そうよ そう そう 二人とも上手よ〜〜
じゃ お母さんが周りを塗るから 二人は飾るイチゴを選んでね 」
「「 うん !
」」
― やがて。 こっくりした白いクリームの上に 盛大にイチゴとトマトが
のった < おとうさんの バースデーケーキ > が できあがった。
「 うっわ〜〜〜〜〜 おっいしそ〜〜〜〜 」
「 うわうわうわ〜〜〜 たべたいよ〜〜 」
子供達は もう大興奮だ。
満足のゆく仕上がりに フランソワーズもにっこり、だ。
「 ふふふ〜〜〜 さあ 今晩のお楽しみ♪
お母さん、 晩ご飯の用意をするから 二人は宿題を済ませてね 」
「 おか〜さん 今晩 なに? 」
「 お父さんのお誕生日でしょ? お父さんのお好きなものよ 」
「 なに〜〜〜
」
「 なになに〜〜 」
「 うふふ・・・ お楽しみよ。 」
「 ねえ おと〜さん 今日もおそいの ・・・・? 」
「 いっしょにごはん できる? 」
「 ええ 今日はね 皆でご飯、食べられるわ。 」
「 「 うわ〜〜〜い 」」
「 それじゃ 二人は しゅくだい〜 お母さんは ご飯の用意 」
「「 わかった 〜〜 」」
双子は ちょっぴりほっぺを膨らませつつも、子供部屋に上がっていった。
すぴか・すばる のお父さんの帰りは 毎晩遅い。
二人がとっくにベッドでく〜く〜 眠っているころに やっと帰ってくるのだ。
ジョーは毎日 遅くにくたくたで帰宅する。
サイボーグだって 脳は生身 … 疲れる。
彼は 今 ― 編集人としてアブラの乗りだした時期だ。
編集部でも
新人を指導することもある。
・・・ 次は 島ちゃんが チーフだな と 編集長は目論んでいるらしい。
― そして そろそろ夕闇が迫ってくるころ。
「 ただいま〜〜〜 」
「 わ〜 おと〜さ〜ん 〜〜〜 おかえりなさ〜〜〜い !!
」
玄関に立ったジョーに 子供達は歓声をあげた。
ジョーは 本日、たまたま校了日と重なり、 早く帰宅できたのだ。
「 お帰りなさい ジョー 」
「 ただいま フラン〜〜 」
んんん 〜〜〜〜 二人は熱〜〜〜いキスを交わす。
お帰りなさいのキス は この家の恒例になっているので
子供たちも もう慣れっこ。 大人しく待っている。
「 ただいま すぴか すばる〜〜 」
やっとお父さんは 子供たちに向かって両腕を広げた。
「 わ〜〜〜〜〜〜 おと〜〜さ〜〜〜ん 」
「 おと〜さ〜〜〜ん ・・・・ 」
すぴか と すばる は お父さんの腕の中に ぽん、と飛び付いた。
「 わはは〜〜〜 すぴか・・・ すばる ・・・・ 」
「「 おと〜〜さ〜〜ん ! 」」
「 ・・・ わは はは ・・・ 」
笑顔のチビたちに抱きつかれれば
疲れなんか全て吹っ飛ぶ。
ちょこっと滲んできた涙を ジョーは慌てて袖で拭いた。
「 ね〜 ね〜 おと〜さ〜ん
きょうね 〜〜 」
「
し〜 すばる、し〜〜
」
「 あ
いっけね …
」
すばるは あわてて自分の口を押さえている。
「 ・・・ うん? どうした、すばる 」
「 あは あのね < さぷいらず> なんだ〜
」
「 ??
なにが要らないって? 」
「 さぷいらず。
びっくり だよ。 」
「 ! <さぷらいず> だよ〜 すばる ! 」
すぴかが つんつん・・・ シャツの裾をひっぱる。
「 あ
そか らいず なんだ〜
らいず だからさ おと〜さん
ね〜〜 すぴか 」
「 うん。 ね〜〜 すばる〜〜 」
「 ?? 」
「 さあ 皆 ご飯よ〜〜〜 」
首をひねっていると お母さんの声が聞こえてきた。
「「 わあ〜〜〜 ごはん ごはん〜〜〜 」」
「 おう おっと まず手を洗ってくるよ
」
「 おと〜さん はやくね〜〜〜 」
「 おう。 」
家族で囲む晩御飯は ―
「 じゃ〜〜〜ん 」
お母さんは 白いお鍋から皆のお皿によそった。
「 あ〜〜〜 アタシ これ すき! 」
「 とまと〜〜 僕 も すき! 」
「 わあぉ〜〜 ぼくも大好きさ。 」
晩御飯は
フランソワーズお得意の
ラタトゥイユ。
トマトで煮込み いい味になった野菜がごろごろ・・・地元産の新鮮なものばかりだ。
別に煮たソーセージが どん、と添えられている。
トマト味につられて
いつもは野菜が苦手なすばるも ぱくぱく
玉ねぎ大好きすぴか は 玉ねぎニンゲンになるほど ぱくぱく〜
「 ん〜〜〜 美味しいなあ〜〜 ん〜〜 」
ジョーも箸がどんどん進む。
「 うふふ ・・・ よかったわ。 お野菜 皆美味しいわね 」
「「「 うん !! 」」
皆 お皿を空にして ―
「 デザートはね
ちょっと待っててね 」
お母さんは キッチンから大きなお皿を高く捧げてもってきた。
「 じゃ〜ん ! すぴか すばる いい? せ〜〜の 」
はっぴ ば〜すで〜
おと〜さ〜ん
「 え … あ あ〜
そうだったねぇ 」
ジョーは 目をぱちくり、ちょっとぼんやりしている。
「 いやだわ ジョーってば。 ねえみて。
ほ〜ら 三人で作ったのよ
ね〜〜 すぴか すばる ? 」
「「 うん!! 」」
バースデーケーキ が ど〜ん と食卓の真ん中に置かれた。
コクのあるクリームたっぷり に イチゴ と トマト が山盛りだ。
「 う ・・・わ〜〜 すご・・・ 」
ジョーは
声を詰まらせる。
「 さあ みんなで〜〜 ♪ 」
おと〜さん はっぴば〜すで〜
でぃあ おと〜さ〜ん♪
可愛い声で 混声二部合唱〜〜〜。
「 おと〜さん ろうそく! ふ〜〜〜して 」
「 ふ〜〜〜 して おと〜さん 」
「 う ・・・ うん ・・・ う ・・・ 」
ジョー 涙で ろうそくが吹き消せない。
「 あらら・・・ お父さん 嬉しすぎ?
ふふふ ・・・ じゃ みんなでふ〜〜 しましょ ? 」
お母さんの掛け声で
いっせ〜の〜せ! ふ〜〜〜〜〜〜 っ !!!
美味しいケーキを またまたお腹いっぱい詰め込んだあと、
子供たちは お父さんに < おたんじょうび おめでとう おとうさん >
のプレゼントを渡した。
「 え ・・・ 『 アタシのおとうさん 』 ・・・ すぴか・・・!
わ < おとうさんのかお > すばる〜〜〜 」
幼い作品を手に ジョーは どうしようもない程 涙をこぼしてしまった。
「 おと〜さん ・・・ ないてる・・・ 」
「 おと〜さん ・・・ 」
「 こ これは! 嬉しすぎて涙もでちゃったのさ!
すぴか すばる〜〜〜〜 」
ジョーは 両腕に きゅ・・・っと彼の娘と息子を抱いた。
「「 きゃわ〜〜〜〜 」」
子供たちの作品は 後に防護服の素材の御守り袋に 畳んでいれて
彼は終生 肌身離さず持ち歩いた。
「 ありがとう ありがとう ・・・・ 」
その夜、 彼は彼の愛妻を抱きしめずっと呟いていた。
「 ・・・ ジョー ・・・ 」
豪華な料理や 高価なプレゼントは ない。
彼の元にあるのは
家族の、 妻と子供達の あったかい笑顔 ― おと〜さん だいすき〜の 笑顔
ああ ぼくは今 最高に幸せなオトコだよぅ
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ザザザザ −−−−− 潮がすこしづつ満ちてきた。
「 ぼく さ ・・・・ 」
「 ん? 」
「 あの さ。 きみがいて あの子達がいてくれたから 」
「 え? 」
ニンゲン でいられるんだ
サイボーグでも 何十年経っても
「 ・・・・ 」
小さなキスが 彼の頬を掠めた。
はっぴ〜 ば〜すで〜
ジョー
隣で
フランソワ−ズが 低く呟いた。
*************************** Fin. **************************
Last updated : 05,22,2018.
index
***************** ひと言 ****************
一週遅れですが ジョー君お誕生日 おめでとう話。
【島村さんち】 は 最終的には どうしても切ないですよね