『 春 や 春 ― (2) ― 』
・・・ うっそ ・・・
なんで なんで わたし が ・・・??
同じ踊りを踊るダンサーたちが集まってきた。
皆 このバレエ団でソリストを務める実力者ばかり。
彼女たちは 皆、フランソワーズににこやかに挨拶してくれた。
「 わ〜〜 ヨロシクね〜〜 フランソワーズちゃん 」
「 一緒に躍れてうれしいわぁ〜 」
「 ヨロシクおねがいしまあす うふふ ワタシ 前回の < 新人 > よ 」
「 フランソワーズちゃん 宜しくね 」
「 可愛いわあ〜〜 お願いします 」
誰もが 明るい笑顔で好意的・・・ に思えた。
しかし フランソワーズは強張った顔にぎこちない笑みをうかべ
ひたすら アタマを下げている。
「 ・・・ よ よろしく おねがいします! 」
「 あらあ〜〜 そんな緊張しないんで ・・・
あ 準備してくれたの、ありがとう! 」
「 わ〜〜 ホントだあ マダムの椅子まで ・・ サンキュ 」
「 雑巾と松脂も? ま〜 ごめんね〜 」
「 ・・・ ねえ そんな気を使わないでいいのよ?
リハは < 皆 一緒 > なんだからね 」
ストレッチしたり ポアントの具合を確かめたり 髪を結い直したり・・・
先輩たちはのんびりした雰囲気だ。
そんな中で 金髪乙女だけが カチコチになっている。
「 い いえ あの ・・・ 」
「 ほら〜〜 リラックス! 」
「 安心してよ、 皆 久々〜の 『 Wild Fire 』 なのよぉ〜 」
「 そ! 私 昨日 必死で振りの復習したんだけど・・・
アヤシイなあ 〜〜 」
「 皆 同じだってば〜〜 」
あはは・・・ 先輩たちは 声を上げた笑う。
・・・ な なんで ・・・?
皆 楽しそう ・・・?
あんなスゴイ振りを踊る前なのに !
フランソワーズは一人、固い表情でポアントのリボンを結びなおし
隅っこでストレッチを繰り返している。
「 お待たせね〜 さあ やりましょう 」
威勢のいい声とともに マダムが入ってきた。
「 よろしくお願いしま〜す 」
ダンサー達が挨拶をする。
「 はい よろしくね。 マユミちゃんが音出ししてくれるからね 」
「 マユミ先輩 お願いシマス 」
「 はい 」
皆 のんびりと稽古場のセンターに集まってきた。
「 ふふ フランソワーズ? ほら 笑って?
」
マダムは 一番後ろで半分泣き出しそうなくらい緊張しているコに
笑いかけた。
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 それじゃ 始めましょうか。 一応 通してみて?
あ〜 間違えてもいいからね〜〜 」
くすくすくす〜〜〜 皆が笑った ― 彼女だけを除いて。
「 え〜と フランソワーズ? 最初はね〜 まずは見ててね。 」
「 は はい 」
「 じゃあね 皆。 彼女の場所は空けて踊ってね 」
「 はい 」
「 それじゃ 音 お願いね〜 」
「 はい 」
ちゃ〜〜ん ♪♪ ♪♪
軽快な前奏が始まった。
ごくり。 フランソワーズは息を詰めて全身を目にしていた。
カツ カツカツ! ポアントの音が響く
五人のダンサー達は 軽やかに そして確実にステップをふみ
ジャズ風の音に身を委ね おどる。
! ぜ 全然違う ・・・わ
DVD じゃ こんな雰囲気 わからなかった ・・・ !
ほんの一瞬 アームスが肩に触れるだけの振りなのに そこに一種の
特別な雰囲気が生まれる。
・・・・ すっ ご ・・・ !
違う ・・・ 違う 全然違う〜〜〜
ううん 同じ振りなのに、 覚えてきた振りなのに
ひとつ ひとつの動きの印象が 全然ちがうわ
繰り返し 繰り返し 見て、丸暗記したDVDでの踊りは
確かに今、目の前で踊られているものと同じ振り付けなのだ が。
ナマで見る踊りの雰囲気は まったく違っている。
いや 違う というより DVDからはこの雰囲気は感じられなかったのだ。
こ ・・・ これを ・・・ 踊る?
わ わたし ・・・ が?
・・・ なんてすごい作品なの ・・・!
瞬きも惜しんで見つめる中 長いはずのその踊りはあっという間に
終わってしまった。
〜〜〜〜 ♪♪ !
五人が中央に集まり ぱ・・・っと音が消えた。
「 は〜い ありがとう。 ・・・ どう 雰囲気 わかった? 」
マダムは笑顔でフランソワーズを振り帰る。
「 ・・ は はい ・・・ 」
「 それじゃね〜〜 第一楽章から やってみようか。
あ 少し休む? 皆 」
「 大丈夫です〜〜 」
「 平気で〜す 」
たった今 踊り終わった先輩たちは にこやかに応えるのだ。
「 そう それじゃ ・・・ さあ 今度は六人でお願いね 」
「 は はい ・・・ 」
フランソワーズは 堅い固い硬い表情で センターに出ていった。
「 そう それじゃ まあ 止め 止め で行こうか〜 第一楽章から
ああ 足、痛かったら立たなくていいからね 」
〜〜〜 ♪♪ ♪
前奏が始まった。
六人、 いや 五人 + 新人 が踊り始める。
「 〜〜〜 あ〜っと 止めて。 」
マダムは立ち上がって ダンサー達に近寄ってきた。
「 ふんふん〜〜〜 の後。 フランソワーズ アナタは次にどこに移るの? 」
「 は はい あの ・・・ ミカさんの場所に 」
「 そうね。 で あなたの場所には ユミコがくるのよ。
だから ? 」
「 あ は はい ・・・ 遅れると 」
「 そうね〜 アナタが退くのが遅れると ユミコの踊り始めが
遅れるの。 」
「 は はい ・・・ 」
「 自分のパートの振りを覚える だけじゃないわね? 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 音と一緒に動く じゃだめ。 音のほんの一瞬前に動きだす。
あ 先取りしろって言ってるんじゃないのよ 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
「 じゃ 始めから 音 いい? 」
「 はい。 音 でま〜〜す 」
〜〜〜〜 ♪♪ ♪
軽やかなリズムの音楽が流れ始めた。
「 ! 止めて フランソワーズ ? 」
― 結局 リハ初日は第一楽章の途中で終わった。
「 は〜〜い お疲れさま〜〜 しっかりね フランソワーズ。 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
マダムは なぜかとて〜〜もご機嫌ちゃんで スタジオを出ていった。
新人は お辞儀をしたまま ― 動けなかった。
「 はあ〜〜 お疲れね〜〜 頑張ったわね 」
ぽん。 先輩が フランソワーズの肩にそっと触れていった。
「 す すみませんでした ・・・ 」
新人サンは タオルで顔を半分覆って ― アタマを下げている。
「 お疲れさま〜 大丈夫だって。 皆 始めはこんな感じよ〜 」
「 振り 覚えてるもん、 あとはしっかりこなすだけよ〜 」
「 ・・・ お疲れ〜〜 今日は早く寝ようね〜 」
「 アタシも泣いたから。 明日 一緒に自習しよ? 」
先輩たちは皆 温かい言葉をかけてくれ ― 帰っていった。
・・・ わたし ・・・ !
完全に皆の足、ひっぱってる ・・・
・・・ なんでわたしが あんな先輩たちと一緒に?
こんなの ・・・ 出来ない ・・・
涙と汗で タオルはぐちゃぐちゃになってしまった。
「 お疲れさまでした ・・・ 」
結局 午後のクラスの子供たちが来るまで フランソワーズは
自習をしていた。
「 ・・・ まあ 頑張れ 頑張れ
」
事務所に挨拶をし とぼとぼ帰ってゆく後ろ姿に、マダムはこっそり声援つきの笑みを
送っていた。
「 ・・・ あ そうだわ。 今日 アルベルトが来るって・・・ 」
ぼんやり駅の改札を出てバス停の前まで来てから 彼女は慌て引き返した。
「 じゃがいも ! 足りないわあ〜 」
ずっしり。 駅前のスーパーでじゃがいも と 蜜柑 を買った。
「 ・・・ う〜〜 ・・・ サイボーグでよかった〜〜〜
でも ・・・ 重い〜〜〜 」
大きなバッグと ぱんぱんのレジ袋を両手に下げて
フランソワーズは < 我が家 > に急いだ。
・・・ 落ち込んでる場合じゃないわ !
「 ただいま〜 戻りましたァ 」
玄関には すでに見慣れた靴が鎮座していた。
「 わあ もう着いたのね〜〜 アルベルトぉ〜〜〜
いらっしゃい 〜〜〜 」
どたばた ・・・ 荷物も一緒にリビングに駆けこんだ。
「 おう お疲れさん レッスンは終わったのか 」
銀髪オトコは ソファから新聞をちょいとずらし挨拶を返した。
「 ね ゆっくりしてね〜〜 今晩、ポトフにするわよ 」
「 おう。 ― お前 なんて顔、してるんだ? 」
「 ? ・・・ なにかついてる? 」
「 ああ。 泣きました、って書いてあるぞ 」
アルベルトは くしゃ・・っと フランソワーズの髪を撫ぜた。
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 その顔でずっと帰ってきたのか? 」
「 ・・・ え ええ ・・・ やだ〜〜 そんなに ヘン? 」
「 変、というか 尋常じゃないぞ お前。
どうした。 ジョーとケンカでもしたのか 」
「 え まさか〜〜 」
「 それじゃ・・・ 誰かにいじめられたか? 」
「 ・・・ 自分自身に。 」
「 は? 」
「 自分自身に怒ってるの! だらしないわたしに! 」
「 なんだ どうした。 リハーサルで転んだか? 」
「 ・・・ 転ぶ方がずっとマシよ 」
「 ?? 」
「 ねえ! わたしってホントに足手纏いでしかないの。
キャリアも そうよ、 そもそも実力が全然ちがうのに・・
なのにどうして わたしなの??? 」
「 落ちつけ。 なにを言ってるのかさっぱりわからん。
論理的に話せ。 」
「 ・・・ あ ・・・ ご ごめんなさい ・・・
あの ・・・あんまり踊れないから つい ・・・ 」
「 ふん 感情的になってもなにも解決はしないぞ。 」
「 わかってる ・・・ でも でもね あんまり出来ないから 」
「 なにを踊るんだ? 古典か 創作か
」
「 創作よ、マダムの。 有名な創作なんですって 」
「 ほう? 音は 音楽は何を使う? 」
「 ! ねえ とにかく聞いてみて ! 」
フランソワ―ズは 駆けだしてCDを取りにいった。
「 ふ ん ・・・? 」
― 結局 『 Wild Fire 』 の音楽を聞いてもらうことになった。
〜〜〜〜♪♪ ♪
毎日 それこそ朝から晩まで彼女が聞いてる音楽が リビングに流れた。
「 ふん ・・・ オイゲン・キケロ ?
ふんふん ・・・ああ もとネタは ショパンじゃね〜か ・・・ ふん 」
一回 音を聞くと アルベルトはすぐにピアノに向かい弾き始めた。
「 ! そ そうよ〜〜 ・・・すごいわね アルベルト 」
「 この音で踊るのか? 」
「 そうなの ・・・ 」
「 ふうん お前はモダンも踊るんだ? 」
「 違うの〜〜 ポアント あ トウ・シューズ履いて
テクニックはクラシックなの 」
「 ほう? それは斬新だな 」
「 でしょ? でもね 初演はもう30年以上前なの。
あ 見る? 」
「 ビデオがあるのか 」
「 うふふ〜〜 DVDです〜〜 」
「 見たいな 」
「 うん 見て 見て〜〜 それで アドバイス 欲しいの 」
「 ・・・ ふん? 」
「 じゃ ここに座ってね 今 セットするから 」
「 やけにサービスがいいな 」
「 さあ 始めるわよ はい 」
スクリーンの中で六人が整然と、 そして スピーディに
かつ正確に踊り始めた。
〜〜〜 ! 六人が中央に集まり ― 終わった。
「 ― ねえ どうしたら いい? 」
「 ふん フランソワーズ お前は手も足も出ないのか? 」
「 ・・・ 自分の振りは 丸暗記したわ!
だけど ・・・ リハで皆と一緒になったら ・・・
わたし ・・・ 全然ダメだったのよ 」
「 ダメ とは? この速さについて行けなかったのか 」
「 それも あるけど・・・
わたし 他の五人と一緒に動けないの 」
「 ・・・ ふん 」
バレエのテクニックはわからない、と断わってから
アルベルトは ごく短い、そしてかなり一般的なことを言った。
「 この音楽の隅々まで身につけてみろ。 」
「 ・・・ え? それってよ〜く音をきけってこと ?
もう毎日 イヤってほど聞いてるわ 」
「 音聞いて 音通りに動いてる ― か? 」
「 そうよ!」
「 それじゃ ダメだ。 」
「 ! なんで?? バレエは音と踊るものよ 」
「 お前さんが 音をおっかけている間は このDVDのダンサー達みたいには
踊れんだろうよ 」
「 え ・・・ 」
「 俺たちは ピアノ弾きは なあ
その曲を その音を 自分の音 にしない限りはただの練習なのさ。
曲が自分の身についた時 自分だけの、自分自身の演奏ができる。 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 もちろんダンサーとピアニストは違う。
しかし 音楽 を相手にするってことは 同じだと思うぞ。 」
「 ・・・ う ん ・・・ そっか ・・・
わたし まだまだまだ ・・・ 足りないわね、音との格闘が 」
「 格闘 か? ふふん それもいいんじゃないか 」
「 ありがとう〜〜 アルベルト
なんかすこし ・・・ 見えてきた かも 」
「 そりゃよかった しかしこの作品 ・・・あのバアサンのか? 」
「 そうよ。 わ〜〜〜 そんなコト言ったら大変よ?? 」
「 ふん 聞こえやしないぜ。 しっかし斬新だな 」
「 これね〜 30年 ううん 初演はもっと以前なんですって 」
「 はあ〜〜ん ・・・? あのバアサンは天才だな
お前さん いい師匠に出会ったな 」
「 そう思う? 」
「 ああ。 チャンスがあれば この作品について聞いてみろ。
なにか ヒントがもらえるかもしれんぞ 」
「 う〜〜ん ちょっとおっかないけど ・・・ 」
「 当たって砕けろ だ
」
〜〜〜♪♪ ♪
アルベルトは たった今、見ていた映像に流れていたメロデイを
弾き始めた。
〜〜〜 ああ ・・・ いい わあ ・・・・
「 フランソワーズ 」
「 ・・・え なに 」
音楽の合い間に 彼は淡々と話す。
「 お前さんは プロなんだろ? 」
「 うん。 ・・・ 一応 」
「 なんだ それ。 つまり金を払ってチケットを買った人たちの前で
踊るんだろ 」
「 ・・・ はい。 」
「 それなら ― 一生懸命やりました は シロウトさん だ。 」
「 ・・・ え? 」
「 頑張りました〜〜 は お子ちゃま か 素人 にしか
通用しない。
」
「 ・・・・ 」
「 チケット代に見合う舞台を披露するのが プロ だぞ。 」
「 ・・・わ かったわ 」
「 腹 括れ。 プロなら当然だ。 」
「 ・・・ はい。 」
フランソワーズは 真剣な顔でしっかりと頷いた。
そう よ。 踊れるのよ?
長い間 どんなに夢みたことか・・・
やる。 やるっきゃない。 やるわ !
彼女の瞳が 強い光で輝きだしたのを アルベルトは目の端で
しっかりと確認していた。
― ピンポーーン
夕食を終え リビングでお茶を楽しんでいると 玄関のチャイムが鳴った。
「 ? 誰だろ 」
「 宅配便 かしら 」
「 え〜〜 なにも頼んでないよ? それに 門を通過してきてるってことは 」
「 ・・・ 」
ギルモア邸の門は 一見ごく普通の低いフェンスと門扉なのだが
その実は がっちりコンピューター管理され門は個人識別登録していない限り
通れない。
この地域を受け持っている、とおぼしき郵便屋さんと宅配便さんは
ジョーがひそかに顔写真を撮り登録していた。
一瞬、彼らは真顔を見合わせたが ― すぐにフランソワーズが
明るく言った。
「 あらあ〜〜 大人 か グレートが来たのかも 」
「 ! そうだね〜 は〜〜い 今 開けます〜〜 」
ジョーが 返事を返し玄関に飛んでいった。
「 わあ〜〜〜 ピュンマ〜〜〜 いらっしゃい 」
「 え? ピュンマ? きゃ〜〜〜 久し振り〜〜 」
ジョーの声にフランソワ―ズが駆けだした。
「 は。 珍客揃いか 」
「 ふむ 本当に珍しいのう 」
「 コーヒー 淹れ直しますよ 」
「 ありがとうよ 」
アルベルトも ソファから立ち上がった。
― 果たして 珍客 は アフリカからの仲間だった。
「 どうしたの〜〜〜 なにかあったの? 」
「 荷物 こっち置いて。 コートも・・・ え 仕事? 」
「 ウン。 あ 博士〜〜 御無沙汰しています。
アルベルト〜〜 久し振り〜〜〜
」
「 うんうん 元気そうじゃな 」
「 おう 」
博士は相好を崩し、 アルベルトは軽く手を上げて に・・・っと笑った。
「 いきなり来てすいません 」
「 なに言ってるの、ここはピュンマの家でしょう 」
「 そうなんだけどさ・・・ 国の外務省からいきなり呼ばれてさ〜
日本語と直で通訳できるのって 僕しかいないんだって 」
「 へ え・・・ 」
「 留学生とか いるよね? 駅伝に出てるじゃん 」
「 学生はね〜 まだ通訳は無理だよ 」
「 ああ そうねえ 」
「 普通はね まず英語にしてそれから日本語ってやるんだって。
でも こう〜〜 微妙〜〜なニュアンスとかズレてくるから・・・って。
ここに来る前も 会談で2時間 ぶっ通しで通訳さ 」
「 ひえ〜〜〜 すっご ・・・ 」
「 モテモテだな 」
「 そりゃ日本語は 翻訳機ナシでもわかるさ。
だけどね〜〜〜 経済専門用語なんてよくわからないんだよね
もう冷や汗流しっぱなしさあ 」
「 まあまあ お疲れ様。 あ お風呂 どう? 沸いてるわよ 」
「 お いいなあ〜 日本のお風呂って最高だよね 」
「 明日も仕事なの? 」
「 ウン 一応 仕事は三日間 ・・・ で 博士 皆〜〜
僕 一週間 お世話になっていいでしょうか 」
「 もちろんじゃよ そうじゃ こっそり経済専門用語のモジュール、
搭載するか? 」
「 う う〜〜ん ちょっと考えます〜 」
「 賑やかになってうれしいわ。 あ ピュンマ 晩ご飯は? 」
「 一応 ・・・ 軽食が出たけど 」
「 あら まだ入りそうね? 今晩、ポトフだったんだけど 」
「 たべる! あ 手洗ってウガイしてくるね 」
ピュンマは 荷物を持ったジョーと一緒に二階に上がっていった。
「 ふ〜〜 美味しかったぁ〜 あれ? 」
遅い夕食を終えて ピュンマがリビングに戻ると
ジョーがノートを広げ呻吟していた。
「 ? どうしたんだい ジョー
」
「 え あ ・・・ うん 宿題 」
「 へえ? あ コズミ先生の、かい。 助手してるって聞いたよ 」
「 そうなんだけど さ
」
「 え〜 なに苦戦してるんだい? 」
ピュンマは ジョ―の手元を覗きこむ。
「 ・・・ あ 数学と物理 なんだ ・・・ 」
「 数学? ・・・ ふ〜〜ん? 」
ピュンマはつらつら〜〜 問題を読むとすぐに鉛筆を動かし始めた。
「 えっとぉ〜〜 〜〜〜 だろ? で こうなって・・・ 」
「 え すご ・・・ 」
「 ・・・ で いいんだと思うな〜 」
「 すっご ピュンマ〜 数学 好きなんだ? 」
「 いや べつに でもさ これ中学の延長だろ 」
「 まあ そうだけど 」
「 基礎できてれば 解けるよ 」
「 う〜〜〜〜 その基礎がないからなあ 」
「 ?? なければ今からで十分間に合うよ? 」
「 ハイ。 ガンバリます 」
ふ〜〜〜〜 ジョーは 深い深いため息〜〜 なのだ。
「 なんだい 数学は必須だし君の頭脳だったら何でもないだろ 」
「 ぼく さ。 自分の脳みそだけでやってるんだ 」
「 あ そうなんだ? うん いいことだね 」
「 ・・・ だから苦戦してるんだよ〜〜 」
「 そりゃ ・・・ まあ 頑張りたまえってことだな 」
「 コズミ先生も同じこと、言うよ 」
「 だろうね〜〜 」
ふ〜〜〜 ジョーはまたため息だ。
「 なんだよ そんなに数学 苦手かい 」
「 いや それもあるけど ・・・ 」
「 なんだい 」
「 実はさ〜〜 」
ジョーは しばらくピュンマの顔を見つめていたが ―
イッキにしゃべり始めた。
「 あのさあ コズミ先生のとこでさ ・・・ 」
「 島村クン 」
いつも温和なコズミ博士、いつもと変わらぬ表情でジョーを呼んだ。
「 はい 」
「 これは 再提出だ 」
「 ・・・え? 」
ぱさ。 彼の手に 結構ページ数のあるレポートが渡された。
「 さい ていしゅつ? 」
「 左様。 書き直したまえ 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
がび〜〜〜ん ・・・ ジョーとしてはかなりのショックだった。
< レポ―ト提出 > の課題が出たのは初めてだった。
テーマは 『 子供の福祉について 』
このテーマは ジョーにとっては超〜〜関心大だし かなり思い入れもあるので
彼は張り切って書いたのだ が。
「 いっぱい調べてさ ・・・ データもたくさん引用して。
ページ数だって指定よかオーバーして書いたんだ ・・・ 」
「 ふうん ・・・ 」
ピュンマは ちらり、と一ページ目を眺めた。
きちんとプリント・アウトしたレポートが きっちり綴じてある。
「 どう書き直したらいいんだ ・・・ 」
「 読んでも いいかなあ 」
「 あ うん どうぞ どうぞ それでさ ヘンだな〜
って思ったとこ 教えてほしい〜〜 」
「 ・・・・ 」
ぱさり。 ピュンマは読み終えたレポートを閉じた。
「 ジョー。 これ 感想文? 」
「 え あの ・・・レポート なんだけど 」
「 ふうん? で 君の意見は? 」
「 え 意見って ・・・?」
「 このテーマについての 君の意見というか 主張したいことさ 」
「 ・・・え ? 」
「 君が調べた資料とか情報は わかった。 現状の説明もわかった。
で それに対しての君の意見はどうなんだい 」
「 ・・・・ 」
「 自分の主張がなければ レポートにはならないよ 」
「 そ そうなんだ ・・・? 」
「 だからコズミ博士は 再提出 と言ったんだ。」
「 現状に対する君の意見、 そして 提言 が必要さ 」
「 ・・・ そう なんだ ・・・ ぼく レポートって ・・・
そういう風に書くのか 」
「 レポート提出はさ、高等教育では必須だから ― どこでも。
資料とかよく集めてるから ― 書けるだろ? 」
「 うん ・・・ やってみる。
ありがとう! ピュンマ〜〜〜 」
「 どういたしまして。 ・・・ あれ フランソワーズは?
もう寝たのかな
」
「 あ ・・・ 地下のロフトでさ 練習してる。 」
「 練習? 」
「 うん。 今度公演があって ・・・ 彼女いわく 苦戦 してるんだって 」
「 ふうん フランソワーズも頑張ってるってことか 」
「 うん ― ぼくも 負けらんない! 」
「 だ ね。 」
― わたしの 踊り ・・・
・・・ ぼくの主張。
「 ふむ ・・・ 翻訳機のバージョンアップは必須だな 」
博士も悩む。
「 ジャズも いいな 」
銀髪のピアニストは呟く。
「 日本語講座、必要だよね 」
アフリカの若者は 思案する。
春の夜が 皆の熱い想いをふんわり包み 更けてゆく ―
Last updated : 04,09,2019.
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*********** またまた途中ですが
ジョー君は ジョー君なりに悩んでいますなあ〜
拙宅設定では アルベルトは ピアニストなのです(^_-)-☆