『  春 や 春  ― (2) ―  』

 

 

 

 

 

 

    ・・・  うっそ ・・・ 

    なんで  なんで わたし  が ・・・??

 

同じ踊りを踊るダンサーたちが集まってきた。

皆 このバレエ団でソリストを務める実力者ばかり。

彼女たちは 皆、フランソワーズににこやかに挨拶してくれた。

 

「 わ〜〜 ヨロシクね〜〜  フランソワーズちゃん 」

「 一緒に躍れてうれしいわぁ〜 」

「 ヨロシクおねがいしまあす うふふ ワタシ 前回の < 新人 > よ 」

「 フランソワーズちゃん 宜しくね 」

「 可愛いわあ〜〜 お願いします 」

 

誰もが 明るい笑顔で好意的・・・ に思えた。

しかし フランソワーズは強張った顔にぎこちない笑みをうかべ

ひたすら アタマを下げている。

 

「 ・・・ よ  よろしく おねがいします! 」

 

「 あらあ〜〜 そんな緊張しないんで ・・・

 あ 準備してくれたの、ありがとう! 」

「 わ〜〜 ホントだあ   マダムの椅子まで ・・ サンキュ 」

「 雑巾と松脂も?  ま〜  ごめんね〜 」

「 ・・・ ねえ そんな気を使わないでいいのよ?

 リハは < 皆 一緒 > なんだからね 」

 

ストレッチしたり ポアントの具合を確かめたり 髪を結い直したり・・・ 

先輩たちはのんびりした雰囲気だ。

そんな中で 金髪乙女だけが カチコチになっている。

 

「 い いえ  あの ・・・ 

 

「 ほら〜〜 リラックス!  」

「 安心してよ、 皆 久々〜の 『 Wild Fire 』 なのよぉ〜 

「 そ! 私 昨日 必死で振りの復習したんだけど・・・ 

 アヤシイなあ 〜〜 」

「 皆 同じだってば〜〜 」

  あはは・・・ 先輩たちは 声を上げた笑う。

 

    ・・・ な なんで ・・・?  

    皆  楽しそう ・・・? 

 

    あんなスゴイ振りを踊る前なのに !

 

フランソワーズは一人、固い表情でポアントのリボンを結びなおし

隅っこでストレッチを繰り返している。

 

「 お待たせね〜  さあ やりましょう 

威勢のいい声とともに マダムが入ってきた。

 

「 よろしくお願いしま〜す 」

ダンサー達が挨拶をする。

「 はい よろしくね。  マユミちゃんが音出ししてくれるからね 」

「 マユミ先輩 お願いシマス 」

「 はい 」

皆  のんびりと稽古場のセンターに集まってきた。

「 ふふ  フランソワーズ? ほら 笑って?  

マダムは 一番後ろで半分泣き出しそうなくらい緊張しているコに

笑いかけた。

「 ・・・ は はい ・・・ 」

「 それじゃ 始めましょうか。  一応 通してみて? 

 あ〜 間違えてもいいからね〜〜 

 

 くすくすくす〜〜〜  皆が笑った ― 彼女だけを除いて。

 

「 え〜と フランソワーズ? 最初はね〜 まずは見ててね。 」

「 は はい 」

「 じゃあね 皆。 彼女の場所は空けて踊ってね 」

「 はい 」

「 それじゃ  音 お願いね〜 」

「 はい  」

 

    ちゃ〜〜ん ♪♪   ♪♪

 

軽快な前奏が始まった。

 

  ごくり。  フランソワーズは息を詰めて全身を目にしていた。

 

    カツ  カツカツ!  ポアントの音が響く

 

五人のダンサー達は 軽やかに そして確実にステップをふみ

ジャズ風の音に身を委ね おどる。

 

     !  ぜ  全然違う ・・・わ

    DVD じゃ こんな雰囲気 わからなかった ・・・ !

 

ほんの一瞬 アームスが肩に触れるだけの振りなのに そこに一種の

特別な雰囲気が生まれる。

 

    ・・・・ すっ  ご ・・・ !

 

    違う ・・・ 違う 全然違う〜〜〜

    ううん 同じ振りなのに、 覚えてきた振りなのに

 

    ひとつ ひとつの動きの印象が 全然ちがうわ 

 

繰り返し 繰り返し 見て、丸暗記したDVDでの踊りは

確かに今、目の前で踊られているものと同じ振り付けなのだ  が。

ナマで見る踊りの雰囲気は まったく違っている。

いや 違う というより DVDからはこの雰囲気は感じられなかったのだ。

 

    こ ・・・ これを ・・・ 踊る?

    わ わたし ・・・ が?

    

    ・・・ なんてすごい作品なの ・・・!

 

瞬きも惜しんで見つめる中 長いはずのその踊りはあっという間に

終わってしまった。

 

     〜〜〜〜  ♪♪  !

 

五人が中央に集まり   ぱ・・・っと音が消えた。

 

「 は〜い ありがとう。   ・・・ どう 雰囲気 わかった? 」

マダムは笑顔でフランソワーズを振り帰る。

「 ・・ は  はい ・・・ 」

「 それじゃね〜〜 第一楽章から やってみようか。 

 あ 少し休む? 皆  」

「 大丈夫です〜〜 」

「 平気で〜す 」

たった今 踊り終わった先輩たちは にこやかに応えるのだ。

「 そう それじゃ ・・・ さあ 今度は六人でお願いね 」

「 は  はい ・・・ 」

フランソワーズは 堅い固い硬い表情で センターに出ていった。

 

「 そう それじゃ まあ 止め 止め で行こうか〜 第一楽章から

 ああ 足、痛かったら立たなくていいからね 」

 

 〜〜〜 ♪♪  ♪

 

前奏が始まった。

 

六人、 いや 五人 + 新人 が踊り始める。

「 〜〜〜 あ〜っと 止めて。 」

マダムは立ち上がって ダンサー達に近寄ってきた。

「 ふんふん〜〜〜 の後。  フランソワーズ アナタは次にどこに移るの?  」

「 は はい  あの ・・・ ミカさんの場所に 」

「 そうね。 で  あなたの場所には ユミコがくるのよ。

 だから ? 」

「 あ  は はい ・・・ 遅れると 」

「 そうね〜 アナタが退くのが遅れると ユミコの踊り始めが

 遅れるの。 」

「 は  はい ・・・ 

「 自分のパートの振りを覚える だけじゃないわね? 

「 ・・・ は  はい ・・・ 」

「 音と一緒に動く じゃだめ。  音のほんの一瞬前に動きだす。

 あ 先取りしろって言ってるんじゃないのよ 」

「 ・・・ はい ・・・ 」

「 じゃ 始めから  音 いい? 」

「 はい。  音 でま〜〜す 」

 

   〜〜〜〜 ♪♪   ♪

 

軽やかなリズムの音楽が流れ始めた。

「 ! 止めて   フランソワーズ ? 」

 

   ―  結局 リハ初日は第一楽章の途中で終わった。

 

 

「 は〜〜い お疲れさま〜〜   しっかりね フランソワーズ。 」

「 ・・・ は   はい ・・・ 」

マダムは なぜかとて〜〜もご機嫌ちゃんで スタジオを出ていった。

新人は お辞儀をしたまま  ― 動けなかった。

 

「 はあ〜〜 お疲れね〜〜  頑張ったわね 」

ぽん。 先輩が フランソワーズの肩にそっと触れていった。

「 す すみませんでした ・・・ 」

新人サンは タオルで顔を半分覆って ― アタマを下げている。

「 お疲れさま〜  大丈夫だって。 皆 始めはこんな感じよ〜 」

「 振り 覚えてるもん、 あとはしっかりこなすだけよ〜 」

「 ・・・ お疲れ〜〜  今日は早く寝ようね〜 」

「 アタシも泣いたから。  明日 一緒に自習しよ? 

 

先輩たちは皆 温かい言葉をかけてくれ ― 帰っていった。

 

     ・・・ わたし ・・・ !

     完全に皆の足、ひっぱってる ・・・

 

     ・・・ なんでわたしが あんな先輩たちと一緒に?

     こんなの ・・・ 出来ない ・・・

 

涙と汗で タオルはぐちゃぐちゃになってしまった。

 

「 お疲れさまでした ・・・ 」

結局 午後のクラスの子供たちが来るまで フランソワーズは

自習をしていた。

「 ・・・ まあ 頑張れ 頑張れ  

事務所に挨拶をし とぼとぼ帰ってゆく後ろ姿に、マダムはこっそり声援つきの笑みを

送っていた。

 

 

「 ・・・ あ そうだわ。 今日 アルベルトが来るって・・・ 」

ぼんやり駅の改札を出てバス停の前まで来てから 彼女は慌て引き返した。

「 じゃがいも !  足りないわあ〜 」

 

  ずっしり。  駅前のスーパーでじゃがいも と 蜜柑 を買った。

 

「 ・・・ う〜〜 ・・・ サイボーグでよかった〜〜〜

 でも ・・・ 重い〜〜〜 」

大きなバッグと ぱんぱんのレジ袋を両手に下げて

フランソワーズは < 我が家 > に急いだ。

 

    ・・・ 落ち込んでる場合じゃないわ !

 

「 ただいま〜 戻りましたァ 」

玄関には すでに見慣れた靴が鎮座していた。

「 わあ もう着いたのね〜〜  アルベルトぉ〜〜〜

 いらっしゃい 〜〜〜 」

どたばた ・・・ 荷物も一緒にリビングに駆けこんだ。

「 おう お疲れさん レッスンは終わったのか 」

銀髪オトコは ソファから新聞をちょいとずらし挨拶を返した。

「 ね ゆっくりしてね〜〜   今晩、ポトフにするわよ 」

「 おう。  ― お前 なんて顔、してるんだ? 」

「 ? ・・・ なにかついてる? 」

「 ああ。 泣きました、って書いてあるぞ 」

アルベルトは くしゃ・・っと フランソワーズの髪を撫ぜた。

「 ・・・ あ ・・・ 」

「 その顔でずっと帰ってきたのか? 」

「 ・・・ え ええ ・・・  やだ〜〜 そんなに ヘン? 」

「 変、というか 尋常じゃないぞ お前。

 どうした。 ジョーとケンカでもしたのか 

「 え まさか〜〜 

「 それじゃ・・・ 誰かにいじめられたか? 」

「 ・・・ 自分自身に。 」

「 は? 」

「 自分自身に怒ってるの!  だらしないわたしに! 」

「 なんだ どうした。  リハーサルで転んだか? 」

「 ・・・ 転ぶ方がずっとマシよ 

「  ?? 」

「 ねえ! わたしってホントに足手纏いでしかないの。

 キャリアも そうよ、 そもそも実力が全然ちがうのに・・

 なのにどうして わたしなの??? 」

「 落ちつけ。 なにを言ってるのかさっぱりわからん。

 論理的に話せ。 」

「 ・・・ あ ・・・ ご ごめんなさい ・・・ 

 あの ・・・あんまり踊れないから つい ・・・ 

「 ふん  感情的になってもなにも解決はしないぞ。 」

「 わかってる ・・・ でも でもね  あんまり出来ないから 」

「 なにを踊るんだ?  古典か 創作か  

「 創作よ、マダムの。 有名な創作なんですって 

「 ほう?  音は 音楽は何を使う? 」

「 !  ねえ とにかく聞いてみて ! 」

フランソワ―ズは 駆けだしてCDを取りにいった。

「 ふ ん ・・・? 」 

 

 ― 結局 『 Wild Fire 』 の音楽を聞いてもらうことになった。

 

    〜〜〜〜♪♪   ♪

 

毎日 それこそ朝から晩まで彼女が聞いてる音楽が リビングに流れた。

 

「 ふん ・・・ オイゲン・キケロ ?

 ふんふん ・・・ああ もとネタは ショパンじゃね〜か  ・・・ ふん 

一回 音を聞くと アルベルトはすぐにピアノに向かい弾き始めた。

「 ! そ そうよ〜〜  ・・・すごいわね アルベルト 

「 この音で踊るのか? 」

「 そうなの ・・・ 」

「 ふうん お前はモダンも踊るんだ? 」

「 違うの〜〜  ポアント あ トウ・シューズ履いて

 テクニックはクラシックなの 

「 ほう? それは斬新だな 」

「 でしょ? でもね 初演はもう30年以上前なの。

 あ 見る? 」

「 ビデオがあるのか 」

「 うふふ〜〜 DVDです〜〜 」

「 見たいな 」

「 うん 見て 見て〜〜  それで アドバイス 欲しいの 」

「 ・・・ ふん? 」

「 じゃ ここに座ってね 今 セットするから 」

「 やけにサービスがいいな  」

「 さあ 始めるわよ  はい 

 

スクリーンの中で六人が整然と、 そして スピーディに

かつ正確に踊り始めた。

 

    〜〜〜  !   六人が中央に集まり ― 終わった。

 

「  ― ねえ どうしたら いい? 」

「 ふん   フランソワーズ お前は手も足も出ないのか? 」

「 ・・・ 自分の振りは 丸暗記したわ!

 だけど ・・・ リハで皆と一緒になったら ・・・

 わたし ・・・ 全然ダメだったのよ 」

「 ダメ とは?  この速さについて行けなかったのか 」

「 それも  あるけど・・・

 わたし 他の五人と一緒に動けないの 

「 ・・・ ふん 」

バレエのテクニックはわからない、と断わってから 

アルベルトは ごく短い、そしてかなり一般的なことを言った。

 

「 この音楽の隅々まで身につけてみろ。 」

 

「 ・・・ え? それってよ〜く音をきけってこと ?

 もう毎日 イヤってほど聞いてるわ  」

「 音聞いて 音通りに動いてる ― か? 」

「 そうよ!」

「 それじゃ ダメだ。 」

「 ! なんで??  バレエは音と踊るものよ 」

「 お前さんが 音をおっかけている間は このDVDのダンサー達みたいには

 踊れんだろうよ 」

「 え ・・・ 」

「 俺たちは ピアノ弾きは なあ

 その曲を その音を 自分の音 にしない限りはただの練習なのさ。

 曲が自分の身についた時 自分だけの、自分自身の演奏ができる。 」

「 ・・・ あ  ・・・  」

「 もちろんダンサーとピアニストは違う。

 しかし 音楽 を相手にするってことは 同じだと思うぞ。 」

「 ・・・ う ん ・・・  そっか ・・・

 わたし まだまだまだ ・・・ 足りないわね、音との格闘が 

「 格闘 か? ふふん それもいいんじゃないか 」

「 ありがとう〜〜 アルベルト 

 なんかすこし ・・・ 見えてきた かも 」

「 そりゃよかった  しかしこの作品 ・・・あのバアサンのか? 」

「 そうよ。 わ〜〜〜  そんなコト言ったら大変よ?? 

「 ふん 聞こえやしないぜ。  しっかし斬新だな 」

「 これね〜  30年 ううん 初演はもっと以前なんですって 」

「 はあ〜〜ん  ・・・?  あのバアサンは天才だな

 お前さん いい師匠に出会ったな 」

「 そう思う? 」

「 ああ。  チャンスがあれば この作品について聞いてみろ。

 なにか ヒントがもらえるかもしれんぞ 」

「 う〜〜ん  ちょっとおっかないけど ・・・ 」

「 当たって砕けろ だ  

 

  〜〜〜♪♪  ♪

 

アルベルトは たった今、見ていた映像に流れていたメロデイを

弾き始めた。

 

    〜〜〜 ああ ・・・ いい わあ ・・・・

 

「 フランソワーズ 」

「 ・・・え  なに 」

音楽の合い間に 彼は淡々と話す。

「 お前さんは プロなんだろ? 」

「 うん。 ・・・ 一応 」

「 なんだ それ。  つまり金を払ってチケットを買った人たちの前で

 踊るんだろ 

「 ・・・ はい。 」

「 それなら ―  一生懸命やりました  は シロウトさん だ。 

「 ・・・ え? 

「 頑張りました〜〜 は お子ちゃま か 素人 にしか

 通用しない。  

「 ・・・・ 」

「 チケット代に見合う舞台を披露するのが プロ だぞ。 」

「 ・・・わ かったわ 」

「 腹 括れ。 プロなら当然だ。 」

「 ・・・ はい。 」

フランソワーズは 真剣な顔でしっかりと頷いた。

 

    そう よ。  踊れるのよ?

    長い間 どんなに夢みたことか・・・

 

    やる。 やるっきゃない。 やるわ !

 

彼女の瞳が 強い光で輝きだしたのを アルベルトは目の端で

しっかりと確認していた。

 

 

 

  ―  ピンポーーン 

 

夕食を終え リビングでお茶を楽しんでいると 玄関のチャイムが鳴った。

「 ?  誰だろ 

「 宅配便 かしら 」

「 え〜〜 なにも頼んでないよ? それに 門を通過してきてるってことは 」

「 ・・・ 」

 

ギルモア邸の門は 一見ごく普通の低いフェンスと門扉なのだが

その実は がっちりコンピューター管理され門は個人識別登録していない限り

通れない。

この地域を受け持っている、とおぼしき郵便屋さんと宅配便さんは

ジョーがひそかに顔写真を撮り登録していた。

 

一瞬、彼らは真顔を見合わせたが ― すぐにフランソワーズが

明るく言った。

「 あらあ〜〜 大人 か グレートが来たのかも 

「 ! そうだね〜 は〜〜い 今 開けます〜〜 

ジョーが 返事を返し玄関に飛んでいった。

 

「  わあ〜〜〜  ピュンマ〜〜〜  いらっしゃい 」

 

「 え?  ピュンマ? きゃ〜〜〜 久し振り〜〜 」

ジョーの声にフランソワ―ズが駆けだした。

「 は。 珍客揃いか 

「 ふむ 本当に珍しいのう 」

「 コーヒー 淹れ直しますよ 」

「 ありがとうよ 

アルベルトも ソファから立ち上がった。

 

 ― 果たして 珍客 は アフリカからの仲間だった。

 

「 どうしたの〜〜〜 なにかあったの? 」

「 荷物 こっち置いて。 コートも・・・  え 仕事? 」

「 ウン。 あ 博士〜〜 御無沙汰しています。

 アルベルト〜〜 久し振り〜〜〜  

「 うんうん 元気そうじゃな 」

「 おう 」

博士は相好を崩し、 アルベルトは軽く手を上げて に・・・っと笑った。

「 いきなり来てすいません 」

「 なに言ってるの、ここはピュンマの家でしょう 」

「 そうなんだけどさ・・・  国の外務省からいきなり呼ばれてさ〜

 日本語と直で通訳できるのって 僕しかいないんだって 」

「 へ え・・・ 」

「 留学生とか いるよね? 駅伝に出てるじゃん 」

「 学生はね〜 まだ通訳は無理だよ 

「 ああ そうねえ 」

「 普通はね まず英語にしてそれから日本語ってやるんだって。

 でも こう〜〜 微妙〜〜なニュアンスとかズレてくるから・・・って。

 ここに来る前も 会談で2時間 ぶっ通しで通訳さ 」

「 ひえ〜〜〜 すっご ・・・ 」

「 モテモテだな 

「 そりゃ日本語は 翻訳機ナシでもわかるさ。

 だけどね〜〜〜 経済専門用語なんてよくわからないんだよね

 もう冷や汗流しっぱなしさあ 」

「 まあまあ お疲れ様。  あ お風呂 どう? 沸いてるわよ 」

「 お いいなあ〜  日本のお風呂って最高だよね 」

「 明日も仕事なの? 」

「 ウン 一応 仕事は三日間 ・・・ で 博士 皆〜〜

 僕 一週間 お世話になっていいでしょうか 

「 もちろんじゃよ  そうじゃ こっそり経済専門用語のモジュール、

 搭載するか? 」

「 う う〜〜ん  ちょっと考えます〜 」

「 賑やかになってうれしいわ。  あ ピュンマ 晩ご飯は? 」

「 一応 ・・・ 軽食が出たけど  」

「 あら まだ入りそうね?  今晩、ポトフだったんだけど 」

「 たべる!   あ 手洗ってウガイしてくるね 」

ピュンマは 荷物を持ったジョーと一緒に二階に上がっていった。

 

 

「 ふ〜〜 美味しかったぁ〜   あれ? 」

遅い夕食を終えて ピュンマがリビングに戻ると 

ジョーがノートを広げ呻吟していた。

「 ? どうしたんだい ジョー   

「 え  あ ・・・ うん 宿題 

「 へえ?  あ コズミ先生の、かい。 助手してるって聞いたよ 」

「 そうなんだけど さ  

「 え〜 なに苦戦してるんだい? 」

ピュンマは ジョ―の手元を覗きこむ。

「 ・・・ あ 数学と物理 なんだ ・・・ 」

「 数学? ・・・ ふ〜〜ん? 」

ピュンマはつらつら〜〜 問題を読むとすぐに鉛筆を動かし始めた。

「 えっとぉ〜〜  〜〜〜 だろ? で こうなって・・・ 」

「 え すご ・・・ 」

「 ・・・ で いいんだと思うな〜 」

「 すっご ピュンマ〜  数学 好きなんだ? 」

「 いや べつに  でもさ これ中学の延長だろ 

「 まあ そうだけど 」

「 基礎できてれば 解けるよ 

「 う〜〜〜〜 その基礎がないからなあ 」

「 ?? なければ今からで十分間に合うよ? 」

「 ハイ。 ガンバリます 」

  ふ〜〜〜〜  ジョーは 深い深いため息〜〜 なのだ。

「 なんだい 数学は必須だし君の頭脳だったら何でもないだろ 

「 ぼく さ。 自分の脳みそだけでやってるんだ 

「 あ そうなんだ?  うん いいことだね 」

「 ・・・ だから苦戦してるんだよ〜〜 」

「 そりゃ ・・・ まあ 頑張りたまえってことだな 」

「 コズミ先生も同じこと、言うよ 」

「 だろうね〜〜 」

 

   ふ〜〜〜  ジョーはまたため息だ。

 

「 なんだよ そんなに数学 苦手かい 」

「 いや それもあるけど ・・・ 」

「 なんだい 」

「 実はさ〜〜 

ジョーは しばらくピュンマの顔を見つめていたが ―

 イッキにしゃべり始めた。

「 あのさあ  コズミ先生のとこでさ ・・・ 」

 

 

「 島村クン 」

いつも温和なコズミ博士、いつもと変わらぬ表情でジョーを呼んだ。

「 はい 

「 これは 再提出だ 」

「 ・・・え? 

  ぱさ。  彼の手に 結構ページ数のあるレポートが渡された。

「 さい ていしゅつ? 」

「 左様。 書き直したまえ 」

「 ・・・ は  はい ・・・ 」

 

  がび〜〜〜ん ・・・  ジョーとしてはかなりのショックだった。

 

< レポ―ト提出 > の課題が出たのは初めてだった。

テーマは 『 子供の福祉について 』

このテーマは ジョーにとっては超〜〜関心大だし かなり思い入れもあるので 

彼は張り切って書いたのだ が。

「 いっぱい調べてさ ・・・ データもたくさん引用して。

 ページ数だって指定よかオーバーして書いたんだ ・・・ 

「 ふうん ・・・ 」

ピュンマは ちらり、と一ページ目を眺めた。

きちんとプリント・アウトしたレポートが きっちり綴じてある。

「 どう書き直したらいいんだ ・・・ 

「 読んでも いいかなあ 

「 あ うん どうぞ どうぞ  それでさ ヘンだな〜

って思ったとこ 教えてほしい〜〜 」

「 ・・・・ 

 

  ぱさり。  ピュンマは読み終えたレポートを閉じた。

 

「 ジョー。   これ 感想文? 」

「 え あの ・・・レポート なんだけど 」

「 ふうん? で 君の意見は? 」

「 え 意見って ・・・?」

「 このテーマについての 君の意見というか 主張したいことさ 」

「 ・・・え ? 」

「 君が調べた資料とか情報は わかった。 現状の説明もわかった。

 で それに対しての君の意見はどうなんだい 」

「 ・・・・ 」

「 自分の主張がなければ レポートにはならないよ 」

「 そ そうなんだ ・・・? 」

「 だからコズミ博士は 再提出 と言ったんだ。」

「 現状に対する君の意見、 そして 提言 が必要さ 

「 ・・・ そう なんだ ・・・ ぼく レポートって ・・・

 そういう風に書くのか 

「 レポート提出はさ、高等教育では必須だから ― どこでも。

 資料とかよく集めてるから ― 書けるだろ? 」

「 うん ・・・ やってみる。

 ありがとう! ピュンマ〜〜〜 」

「 どういたしまして。  ・・・ あれ フランソワーズは? 

 もう寝たのかな  

「 あ ・・・ 地下のロフトでさ 練習してる。 」

「 練習? 」

「 うん。 今度公演があって ・・・ 彼女いわく 苦戦 してるんだって 」

「 ふうん  フランソワーズも頑張ってるってことか 」

「 うん ― ぼくも 負けらんない! 

「 だ  ね。 」

 

     ― わたしの 踊り ・・・

 

     ・・・ ぼくの主張。

 

 

「 ふむ ・・・ 翻訳機のバージョンアップは必須だな 

博士も悩む。

「 ジャズも いいな 」

銀髪のピアニストは呟く。

「 日本語講座、必要だよね 」

アフリカの若者は 思案する。

 

 

     春の夜が 皆の熱い想いをふんわり包み  更けてゆく ―

 

 

Last updated : 04,09,2019.           back   /   index   /   next

 

 

***********   またまた途中ですが

ジョー君は ジョー君なりに悩んでいますなあ〜

拙宅設定では アルベルトは ピアニストなのです(^_-)-