『 楽しき日々 ― (1) ― 』
一人暮らし 開始します。
彼女は いつもの通り、ぴんと背筋を伸ばし首をまっすぐに擡げ 宣言した。
「 ・・・ は ?? 」
「 うん? おお いよいよ開始かい。 」
ジョーは ― 固まっている。
ソファでのんびり雑誌を拾い読みし ぼわぼわ欠伸なんぞもして < 休日 > を
満喫していたのである が。
彼女のいきなりの発言に かち〜〜〜ん ・・・と凍結してしまった。
「 ・・・・・??? 」
固まった姿勢のまま ひた! と 目だけがしっかりと彼女に張り付いている。
「 ふむ 具体的な目当てがついた、ということかね 」
博士も ジョーと同様書物を広げていたが、 そこは年齢 ( とし ) の功?
やんわりと受け止めている。
「 はい。 決めました。 ず〜っと探していましたけれど ・・・
駅から海岸通りへの途中にある女子専用のアパート にしようかなって。 」
「 ほう? 女子専用 とな 」
「 はい。 だから安心です。 ここからもそんなに遠くないし 」
「 ふむ? それで具体的な住所はどこかね 」
「 はい えっと・・・ 」
フランソワーズは テーブルに置いたファイルからごそごそメモを取りだしている。
「 だ ・・・ ダメだよ! そ そんな 一人暮らしなんて!
だってさ もう 止めたって思ってたんだよ? きみ、 この前から何も言ってないし・・
そ それにさ! あぶないよ そうだよ〜〜
お おんなのこが ひとりで ・・・ あ あぶないよっ 」
口をあんぐり・・していたジョーが 突如 絞りだすみたいに 吠えた。
「 まあ ジョー・・・ そんな大きな声で ・・・ 」
「 あ ・・・ ご ごめん ・・・ 」
「 ジョー ひとまずフランソワーズの話を聞こうじゃないか 」
「 ・・・ ぅ・・・ ぼくは! 絶対反対ですけど。 」
「 それは後じゃよ。 さあ 話しておくれ 」
「 はい ・・・ え〜と ・・・ あら? 部屋に置いてきちゃったみたい・・・
間取り図とかももってきますから ちょっと待っててくださいね 」
「 ああ 急がんでいいよ。 どれ お茶でも淹れておこうかね 」
博士はどっこいしょ・・とソファから立ち上がった。
「 あ・・・ ぼくがやります、博士。 そのくらいできますよ 」
「 そうかい ・・・ それじゃ 頼むとするかな。 」
「 はい。 え〜と・・・ 日本茶・・・いや コーヒーでも淹れましょうか。
このまえ しっかりアルベルトから習いましたから 」
「 おお そうか。 たしか・・・ まだ封を切っていない豆があるはずだよ 」
「 わ〜〜 いいですね、 それじゃ
う〜んと美味しいコーヒーで しっかり彼女を説得しなくちゃな〜〜
そうさ 絶対にダメだよ、若い女の子が 一人暮らし なんて! 」
ジョーはうんうん・・・と一人で頷きつつ キッチンに行った。
そんな彼の姿を 博士は注意深く観察した。
ふむ ・・・ 日常動作は ほぼ オッケー 平常なのじゃが。
あとは ― う〜〜ん 意味もなく戦闘能力のテストをするわけにも
ゆかんしなあ・・・
うむ ・・・ せめて加速装置 だけでも試みておきたいな
「 博士〜〜〜〜 ブラックにしますか〜〜〜 」
「 あ〜〜 頼む〜〜 」
博士は気楽な声で返事しつつ・・・ 思索を巡らせていた。
― あの死闘から ほぼ半年が経っていた。
ほとんど溶解した金属の塊と化し 二人は地上に落ちてきた。
< 帰還 > などといえる状態ではなかった。
イワンでさえ能力ぎりぎりで 二人を引き寄せここにテレポートするので
精一杯だった。
博士は すぐにその < 塊 > を 地下に設置していた極秘施設に運びこみ
緊急手術を執刀した ・・・
そして ― 009 と 002 はからくも生命をとりとめた。
しかし それから、術後の療養期間が長かった。
彼らが再び自力で自由に動けるまでは容易なことではなかったのだ。
辛くも一命をとりとめた二人は 新築された地上の邸に移され、治療を受けつつも
滾々と眠り続けるのだった。
「 おい。 夜は俺が代わるから。 お前は休め 」
深夜もベッド・サイドを離れない彼女に アルベルトはかなり強硬に主張した。
「 マドモアゼル。 我ら皆、仲間なのだよ? 」
グレートは婉曲な表現で、しかしはっきりと交代を申し出た。
順番に看病するから と他の仲間達全員が 言ってくれた。
「 ありがとう 」
彼女は目をぱちぱちさせ そして ほっこりと微笑む。
そして − 微笑み返しつつも フランソワーズはほぼ一人で ジョーを看取った。
「 フランソワーズ! 」
「 マドモアゼル。 きみの意志は尊重するが 」
「 無理 よくない 」
仲間たちの口々の抗議をも 彼女は微笑でかわし、ただ黙々とジョーの
ベッド・サイドに詰めていた。
損傷状態が多かったジェットの方が なぜか回復が早かった。
「 ふむ ・・・ 彼はもう一人で大丈夫じゃろう。 もとの部屋に戻るかい 」
「 勿論! イエイ〜〜〜 002様の復活だぜ〜〜〜 」
まだまだ心もとない足取りではあったが 赤毛の青年は意気揚々と特別室から
出ていった。
「 よかったわね ジェット ・・・ 」
彼女は心から喜び彼をハグした。
「 フラン ・・・ わりぃな ・・・ ジョーより先に 」
「 そんなこと 気にしないで。 早く完全に元気になってジョーを待っていて 」
「 お おう ・・・ フラン 無理すんな 」
「 ・・・ ありがと。 ― ジョーを連れて帰ってくれて ありがとう 」
「 あ ? なに 」
「 ううん なんでもないわ。 ああ まだあまり無茶しちゃだめよ 」
「 へいへい 」
流石の無鉄砲オトコも 003の前ではカタナシだった。
そして ― 彼女は再び 彼の脇にもどり静かに見守るのだった。
「 ・・・ 今日は 顔色がいいわね ジョー 」
柔らかいタオルで 眠り続ける人の額をそっと拭った。
「 わたし ずっとここにいるわ。 うふふ・・・ よしてくれよって言ってる?
でも ね わたし決めたの。 」
彼女はじっと目を閉じた彼の顔に見入る。
わたし。 もしもの時 ― この目でアナタを見送りたいの。
もう二度と 手の届かないところで逝かせはしない。 あんな絶望的な無力感にぎりぎりと
苛まれるのは もうゴメンだ・・・! あんな思いをするくらいなら この目で
彼の最後を見届けたい。
― 彼女は そんな覚悟を決め 看病した。
ゆるゆると時間は流れ ・・・ 彼は
ゆっくり まさに 薄紙を一枚 一枚 剥ぐごとく
回復していった。
そんな彼を看つつ ・・・ 彼女の心の傷も 少しづつ ゆっくり ゆっくり 癒えてゆくのだった。
「 博士 ・・・ あの、ですなあ 」
日本残留を決め込んだグレートだが 彼も新築された研究所に頻繁に顔をだす。
「 うん? 」
「 ・・・ どうもね。 ここに来る度に なんかその・・・彼女の緊張感、というか
気合いみたいなモノが なんというか少しづつ薄くなってきてる風に感じるんですわな 」
「 気合い? おやおや 英国人が非合理なことを言うのう 」
「 え ・・・ いや わが英国はファンタジーとフェアリ―・テイルの国ですからな
ゴーストやら魔法の類は身近なもんですよ・・・
けど なあ〜 あんまり無理させちゃ〜 マズくないですかね 」
グレートにとって 彼女は可愛い姪に近いのだろう。
博士は ちらり、とジョーの療養部屋に視線を飛ばした。
「 あ〜 いや 彼女のためにも必要な時間なんじゃ ・・・ 」
「 ほぇ?
」
「 うむ・・・ ずっとなあ 〜 あまりに
いろいろ … 見んでもよいモノを見すぎた からのう … 」
「 ? ・・・・ あ ! ああ ・・・! 」
グレートは ぽん、と手と打った。
「 そうかあ〜 我々の何十倍も 見て きたわけですなあ マドモアゼルは … 」
「 うむ 。 決して口には出さんが ・・・精神的なダメージは最高値だと思う。
その 彼女の 心のデトックス がな 必要じゃろうよ そのための時間じゃ 」
「 なるほど … 時が全てを癒す ってことですな 」
「 そう ・・・ あって欲しい ・・・ 」
「 左様 ・・・ 」
またまた 日々はゆるゆると流れ ― 彼が しっかりと自力で立ち上がった日
彼女は 自分自身を解放した。
ジョーが 療養ベッドから抜け出せた時に フランソワーズも飛び立つ決心をしたのだ。
ごく普通の、当たり前の日々を送りつつ彼女は準備に没頭していた。
買い物ついでに コズミ博士を尋ねたり ネットや雑誌でなにやら検索していることが
多くなった。
「 駅の方まで買い物にゆきますけど・・・ なにかご用 ありますか? 」
フランソワーズが 博士の書斎のドアをノックした。
「 うん? 駅の方まで かね 」
「 はい。 駅前のショッピングモールに寄りたいので 」
「 そうかい、それじゃ・・・ 煙草を頼んでよいかな 」
「 勿論ですわ。 あ ・・・ 帰りにね、あの和菓子屋さんで栗饅頭〜〜
買ってきま〜すね〜 あ でもこの時間じゃあ売り切れかも ・・・ 」
「 おお いいなあ それじゃ ・・・ これを頼む 」
博士はメモを渡した。
「 はい。 それじゃいってきます 」
「 気をつけてな 〜 」
フランソワーズが玄関にでると ― ばたばたとジョーが駆けてきた。
「 フラン! 出かけるのかい 」
「 ええ。 夕食の買い物と ちょっと駅前のモールにも行くわ 」
「 じゃあ ぼく、 荷物持ちに行くよ! 」
「 え・・・ 大丈夫よ〜 重いモノは配達してもらうし ・・・
わたしだってね 腕力には自信あるの。 」
「 手伝いたいんだ〜〜 だめ? 」
「 博士から 外出の許可はでたの? 」
「 別に ・・・ もう大丈夫だよ ! 」
「 だめよ。 ちゃんと許可を頂いてから ね。 」
「 もうなんだってやってるじゃないか。 買い物の荷物持ちくらい〜
」
「 それじゃ 洗濯モノを取り込んで畳んでおいてくれる? 」
「 それっくらいお安い御用さ! 」
「 じゃあ お願いします。 」
「 任せてくれよ〜〜 あ 買い物、本当に・・・ 」
「 はい。 わたしだって 003 なんですから。 」
「 う〜〜〜 」
に・・っと笑うと 彼女は意気揚々と玄関を出ていった。
「 いってらっしゃい ・・・ ちぇ〜〜〜〜 」
ジョーは ぶつぶつ言いつつ 勝手口から裏庭に出た。
ひゅるるる〜〜〜〜 ・・・・ 水色の空に一筋、冷たい空気が流れている。
「 ひゃ ・・・ いい気持ちだな。 うん ・・・ もう 秋 なんだ ・・・ 」
ベッドで過ごしている間に 季節は確実に巡っていた。
「 ・・・ なんか さ こんな風に空を見るって 久し振りだな・・・ 」
どこまでも広がる明るい空 ― こんな空に あの女性 ( ひと ) は
憧れていた ・・・
「 ・・・ 救いだしてあげられなかった ・・・ こんな明るい空の下で
笑っていたかっただろうに ・・・ 」
チリリ ・・・ 身体の奥に小さな痛みが走る。
「 ああ ・・・ うん きみのこと、忘れたりしないから。 ね? 」
彼はその痛みに 彼の女性( かのひと )の面影を感じていた。
「 うん ・・・ なんとか無事に 生きているよ ・・・
ぼくが生きている限り ― 忘れないから。 君はぼくの思いの中で 生きているよ 」
空は ― 限りなく広く彼の上に広がっている。
「 ・・・ ふう ・・・ あの向こうには 真空の闇 があるんだけど ・・・
ふふ ・・ 誰だって考えないよなあ 」
― ぞくり。
不意に 灼熱の炎の記憶が蘇った。
ぶるり、と勝手に身体が震え足元が揺れた。
「 ・・・ おい! しっかりしろ! もう ・・・忘れたはずだろ?
いや。 忘れるんだ、 009! 」
ジョーは自分自身を叱咤激励した。
ひゅるりん〜〜 海風がまだ丈の低い庭木を揺らす。
気持ちの悪い冷たい汗も 秋風が持ち去ってくれた。
「 ふう ・・・ あは ・・・ 洗濯モノ、よ〜く乾いているな〜
さっさと取り込んで っと。フランが帰ってくる前に 掃除もやっちゃおう。
そうそう バス・ルームも磨くぞ〜 」
ジョーは ぶるん、とアタマを振ると、視線を戻しひらひら揺れている洗濯物に手を伸ばした。
ほわ〜〜〜ん ・・・ 温かい湯気がキッチンにあふれている。
「 いっただきま〜〜す♪ 」
博士とジョーとフランソワーズと。 三人はにこにこ顔で箸を取る。
「 〜〜〜 んわ〜〜〜 美味しそう〜〜〜 」
「 うふふふ・・・ 午後からず〜っと煮込んでいたのよ 」
「 ほう〜〜 いい匂いじゃのう 」
熱々のお皿を < 家族 > で囲む。
あ は。 いいなあ〜〜〜
・・・ うん おいしい〜〜〜 ♪
ジョーはもうしゃべるのも惜しい勢いで 箸と口を動かしている。
「 ああ よかった。 皆 気に入ってくれて ・・・ 」
「 うむ うむ ・・・ これは美味いなあ 」
熱心に食べる二人の姿に フランソワーズは満足気である。
「 フランソワーズ、 料理の腕を上げたなあ 」
「 そうですか? ウレシイ〜〜 あ ジョー お掃除しておいてくれて
ありがとう! 助かっちゃった。 バス・ルーム、ぴかぴかね〜〜 」
「 〜〜ん 〜〜 ?? ああ なんてことないよ〜〜 」
「 ふむ ふむ これはいい ・・・ 」
「 うふふ ― 博士。 ジョーは完全回復ですか 」
「 うん? 」
「 日常生活とか ・・・ ですけど。 」
「 うむ。 日常の動作、掃除なども含めてOKじゃよ。
運動もなあ 通常の運動、 ジョギングとかキャッチ・ボールとかも
そうじゃ 水泳ももう大丈夫じゃ 」
「 まあ そうですか! よかったわね〜〜 ジョー 」
「 ん 〜〜〜〜 ・・・ え なに?? 」
当のご本人は お皿の中のほかほかオカズに夢中〜 ・・・・
突然 話題を振られ目をぱちくりしている。
「 なにか・・・? ぼく なにかやったっけ? 」
やっと彼は箸を止め、周囲を見回した。
「 まあ ・・・ アナタのことを話していたのよ ジョー。 」
「 へ?? ぼく のこと?? 」
「 そうです。 ああ でもいいわ、よくわかったから。 」
「 ははは そうじゃなあ ・・・ 」
「 ??? 」
「 それで ね。 わたし ― 決心しました。 」
「 ほう? なんじゃな 」
「 ?? あ レッスン? また始めるのかい 」
「 それも あるけれど。 え〜っと。 ですね 」
フランソワーズは ちょっとだけはにかんだ笑みを浮かべ 言葉を切った。
「 なになに?? あ〜〜 きっとイイコトだよね? 」
「 ・・・ うふ あの ね 」
ちょっとだけ顔を伏せてから ぱっと他の二人に満面の笑顔を見せ ・・・・
そして。 朗かに
宣言したのだ
わたし 一人暮らし
します。
「 ・・・・・・ 」
「 ほう? それはいいなあ 」
固まっているジョーをしり目に 博士はすぐに賛意を表してくれた。
「 と 言いましても、 まだまだ < 部屋さがし > の状態なんですけど 」
「 ほうほう? しかし 目当てはできた、ということかな 」
「 えへ ・・・ いろいろ 手続きとか ― 調べたりしてたんですけど。 」
「 そうじゃな。 一応我々は < 外国人 > じゃしなあ 」
「 そうなんです。 でもね コズミ先生にご相談したら ・・・
先生のご紹介なら・・・って地元の不動産屋さんもすぐに引き受けてくれました。 」
「 おお それはよかった〜〜 うむ ワシが保証人になるぞ 」
「 あ ・・・ お願いできますか? 」
「 勿論じゃよ。 それで どこか具体的な目当てはあるのかな 」
「 一応・・・あんまりこのお家からは離れたくないな〜って思って・・・
うふふ・・・だらしないですか? 」
「 いやいや その方が安心じゃよ。 そうしたいのならおいおい東京方面に移ったらいい。
若いモンは やはり都会がよいだろうよ 」
「 はい♪ それで ご相談なんですけど ・・・ 」
「 うむ なんじゃな 」
「 ぼ ぼくは!! は はんたい だ っ 」
ず〜〜〜〜っと黙り込んでいた ― というよりは 彼は固まっていたのだが ―
ジョーが 口を開いた。
「 なんじゃな ジョー。 藪から棒に・・・ 」
「 す すいません ・・・ でも あの その
」
「 静かに彼女のハナシ、聞かんか。 」
「 で・・・でも! ぼくは 反対 っ !! 」
「 あら ジョー。 ジョーは反対? 」
「 当たり前だよ〜〜〜 お おんなのこが 一人で暮らす なんて!! 」
「 ― あら 上京してきた人は皆 独り暮らし でしょう? 」
「 そ それは ・・・ だ だって! きみはちゃんと 家が ここに!
あるじゃないか〜〜〜
」
「 それはそうだけど。 わたし 決めたの。 」
「 でも でもでもでも ・・・ 危ないよ! 」
「 ジョー? 日本って世界で一番安全な国だと思うけど?
この町は とて〜〜もとても平和で長閑だって知っているでしょ。 」
「 それはそうだけど ・・・ 」
「 でしょう? だから安心して。 」
「 でも でもでもでも ・・・・ 」
「 あのね。 わたしだって 003 なんですから。
それに ― 一人で暮らしている女性はたっくさんいるわ。 」
「 それはそうだけど ・・・ いきなり あんまり急だよ 」
ジョーは もう闇雲に同じ言葉を繰り返すだけだ。
「 まあまあ 落ち着け ジョー。
フランソワーズはなにも明日にでも引っ越す、とは言っておらんぞ
そうじゃろう? 」
ついに博士が やんわり間に入ってくれた。
「 はい。 いくつか物件を紹介してもらっているのですが・・・
まだ決めてはいません。 」
「 ふむ ふむ ・・・ いろいろ比べてみるといいぞ。 」
「 はい。 気に入ったのはいくつかあるのですけど 」
「 ほう 物件を実際に見てきたのかね ? 」
「 いいえ ・・・ まだ間取り図をもらっていろいろ・・・
検討している段階なんです。 」
「 ふむ ふむ ・・・ 急ぐ必要はないんじゃ よ〜く検討するといい。 」
「 はい。 あ 博士のご意見も伺いたくて ・・・
今もところ 一番気に入ってるのが ・・・ あら?
」
フランソワーズは テーブルの上に出したファイルの中を探している。
「 ああ あったわ。 そうだ、他のもいろいろあるんです、ちょっと取ってきますね。 」
「 ぼ ぼくは!! 賛成できないよ! 」
「 ジョーの意見はもうわかりました、 今後はわたしの意見も聞いてね? 」
「 ・・・ う ・・・ そ それは ・・・ 」
「 そうだ、葡萄がね、八百屋さんにならんでいたの。
デザートに食べていてね 」
「 き きみのハナシの方が先だよ 」
「 あら そう? じゃあ ちょっと待っていてね 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
ひらひらした足取りで二階にゆく彼女を ジョーはじ〜〜っと見つめていた。
「 ジョーよ? 彼女だってコドモじゃないんだ。
ちゃんとハナシを聞いて ― そして 意見をしなさい。 」
「 ― は い ・・・ けど ・・・ ! 」
トントントン ・・・ 軽い足音が戻ってきた。
「 ほら これです! 」
にこにこしつつ フランソワーズはアパートの部屋取り図を広げた。
「 ほう? 東南の角じゃな。 なかなかいい位置じゃな。
ふむ ・・・ 五階建ての三階 か 」
「 だ だめだ だめだよ〜〜 」
「 あら なあぜ? 」
「 だって三階だろ? 」
「 ええ。 オートロックだし 三階だから安全でしょ? 」
「 さ 三階なんて! ジャンプすればすぐに届くじゃないか! 」
「 ・・・ そんなの ジョーだけ でしょ? 」
「 そ ・・・ あ ああ そりゃ そうだけど ・・・ 」
「 ふむ ふむ ・・・ これならまずまず安心じゃな。
で 住所は ・・・ おお 循環バスですぐだなあ。 」
「 うふふ やっぱりこのお家からあんまり離れてしまうと淋しいので・・・
だらしないですけど ・・・ ここが今のところ一番気に入っています。 」
「 広さも ・・・ まあまあ か。 当面は必要なモノだけもって行けばよいよ。 」
「 ありがとうございます。 あと、不動産屋さんもいろいろ探してくれてます。
具体的に決める時には コズミ先生がご一緒してくださいますって。 」
「 そうか。 ああ ワシも保証人になるよ。 」
「 ありがとうございます。 あ そうだわ さっきの葡萄〜〜
もってきますね。 八百屋さんお勧めなんですよ 」
「 ― お茶、 淹れるよ。 」
ジョーが ぽつん、と言って立ち上がった。
「 あら ありがとう、ジョー。 そうねえ ・・・ 紅茶にしましょうか 」
「 ・・・ わかった 」
彼はスタスタ ・・・ キッチンに入っていった。
「 え〜と ? ガラスの器がいいわね〜〜 よ・・・っと 」
「 ほら。 これだろ? 」
食器棚の前で背伸びをしてた彼女の後ろから 長い腕が伸びてきた。
「 あ ・・・ ありがとう。 この器、大好きなのね・・・
無事でよかったわ 」
「 ・・・ 以前の家の時から ・・・? 」
「 ええ。 滅茶苦茶になったみたいだったけど ・・・ キッチン用品とか
食器はね 戸棚の中で無事だったの。 キセキよねえ 」
「 ふうん ・・・ 」
「 ほら とっても美味しそう! あ 先にもってゆくわね。 」
「 うん。 ― なあ フラン ・・・ 」
「 はい? 」
ジョーは トレイを持った彼女の前に立った。
「 ぼくのこと ― キライに なった ・・・? 」
「 ?? なぜ??? 」
「 だって ・・・! 家を・・・出る なんて ・・・ ! 」
「 え〜〜 そんなこと・・・ すぐじゃないわ、まだ検討中よ?
どうなるかわからないわ 」
「 ― でも ! 」
「 うふふ ・・・ あ い し て る わ〜〜〜 ジョー ♪ 」
ちょん・・・と 彼の唇に軽いキスを落とすと 彼女は艶やかに微笑んだ。
「 ・・・・ 」
― そして。 ジョーの願いも空しく?
ある晴れた冬の朝 彼女は意気揚々と引っ越していった。
Last updated :
10,25,2016.
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******** 途中ですが
原作 か 平ゼロ か ・・・・?
こんな時期って あったと思うのですね〜〜