『 おめでとう〜〜 』
「 さあ 今年はどうする? 」
フランソワーズは 帰ってきた子供たちに聞いた。
その一時間くらい前のこと。
すぴか と すばる は ランドセルをかっちゃ かっちゃいわせ
長い坂道を上って お家の玄関に飛び込んだ。
たっだいまァ おやつ〜〜〜 おか〜さん〜〜〜
おかあさ〜〜〜ん ただいまぁ・・・
「 お帰りなさい。 手 洗ってうがい。 ランドセル置いて 」
「 は〜い ねえねえ オヤツ なに? 」
「 おやつ〜〜 ねえねえ みるく・てぃ におさとう みっつ! 」
「 二人とも。 お母さんは 今 なんていいましたか 」
「 だから オヤツ〜〜〜 」
「 おさとう みっつ入れてね、おか〜さん 」
「 ― オヤツは なし
」
「「 え〜〜〜〜〜 」」
「 え〜 じゃあありません。 ウチのキマリを 守れないなら
オヤツ なし。 」
「 ・・・ 手 あらってくる 〜〜 」
「 うがい してくる 〜〜 」
チビ達は どたどた・・・ バス・ルームに駆けて行った。
「「 あらってきた〜〜 がらがらしてきたあ 」」
「 手 見せて? ・・ はい よろしい。 座って 」
「「 はあい 」」
「 できたてのほやほや〜〜〜 どうぞ 」
やっと食卓について 待っていたオヤツは ― オーツ・ビスケット。
フランソワーズのお手製で 評判の焼き菓子だ。
「 はい。 すぴかは クリーム・チーズ乗せ。
すばるは あんこ・ペースト乗せ 」
「「 うわ〜〜〜い ♪♪ 」」
「 ミルク・ティ どうぞ。 すぴかはシナモン入り。
すばるは お砂糖2杯 」
「 きゃっほ〜〜〜♪ 」
「 ・・ 3杯〜〜〜 だめ? 」
「 2杯で十分 甘いデス 」
「 ぶ〜〜〜 」
「 シナモン、 いれてみる? 」
「 じたいしま〜す 」
はい 召し上がれ。 二人の前に湯気のたつカップが置かれた。
「「 わっは〜〜 いっただっきまあ〜〜す ! 」 」
「 ん〜〜〜〜〜 おいし〜〜〜〜 」
「 んぐんぐんぐ〜〜〜〜〜 」
チビ達は夢中で食べている。
「 ねえ すぴか すばる。
今年は − なににする? 」
お母さんは子供たちに真面目な顔で 聞いた。
「 ・・・ あ? なに 」
「 なに ってなに〜〜 」
「 ― 16日。 お父さんのお誕生日 でしょう! 」
あ〜〜〜〜 あ・・・ !
すぴかもすばるも 手を止めもぐもぐも止め お母さんを見た。
「 おと〜さんのお誕生日 だあ 」
「 おたんじょうび ・・・ 」
「 思い出した? 」
「「 うん! 」」
「 じゃ 今年はどうする? 晩ご飯のメニュウ、協力してちょうだい。 」
「 あ〜〜〜 えっとねえ〜〜〜
アタシ おか〜さんのちらし寿司! あれがいいなあ〜 」
「 僕も!!! ねえねえ 甘い卵焼き のせて〜〜 」
「 ちょっとぉ? 皆さん?
お母さんは お父さんの! お誕生日おめでとう の話をしてますが?
二人のリクエストを聞いているのでは ありません 」
「 ・・・ あ ・・・ う〜〜ん・・・
あ でもね! アタシが好きなものはおと〜さんも好きだよん 」
「 うん! おと〜さんも 甘い卵焼き すきって 」
「 ・・・ そう ねえ・・・
お父さんって あなた達と同じモノ 好きよねえ 」
「「 でしょ?? 」」
「 ・・・ いつまでもお子ちゃま味覚なのよねえ・・・ 」
「 ? なに? 」
「 いいえ なんでもありません・・・・
じゃ 散らし寿司にするけど 乗っけるもの、決めましょ 」
「「 うん!!! 」」
「 まずね お父さんの好きなもの は? 」
「 えっと〜〜〜 甘い卵焼き〜〜 」
「 うん! それとね〜 てりやき・ちきん でしょ〜
あ 花形にんじん と ・・? 」
「 ま ぐ ろ!! あとね〜〜 のり! 」
「 そうねえ・・・ う〜〜ん 」
お母さんは メモをとりつつ首を捻っている。
「 アタシ〜〜 ウチのちらし寿司 だあ〜〜いすき 」
「 僕も!!! あのね きゅう食のよか ずっとおいし〜〜 」
「「 ね〜〜〜〜 」」
「 うふふ あら そう? 給食のよりも美味しい? 」
「「 うん! 」」
「 嬉しいわあ〜〜 あ あとはアボガドかな〜〜
あ お寿司のご飯 作るの、手伝ってね 」
「 あ うちわで ごはん、 ばふばふ〜〜〜 するんだよね 」
すばる は 料理に関することはかなり正確に覚えている。
「 そうよ たくさん作りたいから 二人でばふばふ〜〜
してほしいの。 」
「 いいよ〜 ね すぴか? 」
「 あ〜 うん ・・・ ねえ お母さん お魚 もっといれよ? 」
「 お魚? マグロいれるわよ 」
「 う〜〜ん なんだっけ・・ あれ。 あ シャケ!! 」
「 あら いいわね〜 サーモン ささっと焼くと色もキレイだし 」
「 うん うん アタシ 大好き〜〜〜 しょっぱいし♪ 」
「 あ〜 わかったわ。 塩シャケの切り身 買ってくるわ 」
「 あ ねえ おか〜さん おじいちゃま チーズ好きだよ
チーズも入れようよ〜〜 」
博士は いつだってすぴかの強力な味方なのだ。
このちょいと風変りな孫娘を 博士はとても可愛がっている。
「 そうね じゃあ プロセス・チーズ 細かくして混ぜるわ 」
「「 うわ〜〜〜〜い♪ 」」
誕生日晩御飯 のメニュウは着々と決まっていった。
「 ふうん ・・・ 買ってくるものも 決まってきたわ。
二人とも ありがとう! 」
「 えへへ〜〜 あ お買い物、いくよ? 」
「 おか〜さん かいもの・りすと 書いて〜〜〜 」
「 すばるとアタシで買ってくる! 」
「 買ってくる〜〜 ね〜〜〜 」
「 あ ・・・ え〜と ・・・ 今日はお母さん 行ってくるわ。
二人はね お留守番、お願いできる 」
「 え ・・・ だってお買い物 いっぱいでしょ?
アタシとすばる、 チカラもちだよ 」
「 うん! 僕〜〜 いっぱい持てるよ〜 」
「 ありがとう〜〜 あのね 今日は本当にたくさんお買いものがあって・・・
重たいものは配達してもらおうと思ってるの。
だから すぴかさんとすばるクンは お庭の花壇にお水を上げて?
それからね ほら 薔薇に虫がついてないか みてくれる 」
「 うん いいよ〜〜 」
「 ふっふっふ〜〜 僕 虫さがし とくい〜〜 」
「 ありがと、 じゃ お願いね 」
「「 いってらっしゃ〜い 」」
お母さんは なぜかとて〜〜〜もにこにこ・・・ご機嫌ちゃんで
まま・チャリを漕いででかけた。
うふふふ・・・・ごめんね すぴか すばる〜〜
ジョーへのプレゼントをね
探したいのね〜〜
よおし 駅の向うのモールまで!
チャリで飛ばせば あっという間よ〜〜
ふふふ ・・・ かそくそ〜〜ち!!!
びゅん ・・・! 赤い自転車は風に乗った。
じゃば じゃば じゃば・・・・
如雨露の水が 花壇を潤してゆく。
すぴかは盛大に撒くので 自分の脚も半ズボンの裾も ・・・
すでに十分 <潤って> いる。
すばるは慎重〜〜にちょっとづつ撒くので いつまで〜〜〜も終わらない。
けど。 二人ともそんなコト、 ぜ〜〜んぜん気にしていない。
「 ね〜〜 けーき どうする? すばる 」
「 あ・・・ 」
「 お父さんへのプレゼント、 ケーキ! って あんた宣言したよね? 」
「 あ・・・ あ〜〜 うん・・・ 」
「 ・・・ 駅前のけいき屋さんで 買う・・・? 」
「 う〜〜ん ・・・ たかいよぉ 」
「 だよねえ アタシたちのお小遣いで ・・・ 買えるかなあ 」
「 すぴか! 僕! けーき 作る!! 」
「 え ・・・できるの ? 」
「 で できる っ ・・・ かも ・・・ 」
「 そんなら ざいりょうはれいぞうこにあるモノ、使えるし
買うのって 生くり〜む だけ? 」
「 そだね〜〜 なら 買えるね!
あ〜〜〜 らんぱく かしゃかしゃ〜〜って 無理かも・・・ 」
「 アタシ てつだうってば。 」
「 すぴか〜〜〜〜 ありがと〜〜〜〜 」
「 あは ねえ なにけーき? 」
「 きまってるじゃ〜ん いちごのぉ〜〜 」
しょーと・けーき!!!!
あははは ・・・ 双子は声を揃えて笑った。
「 じゃあさ いちご。 アタシ 温室からとってくる!
ナイショのヤツもとってくるよん 」
「 ないしょのやつ?? 」
「 へっへっへ〜〜〜 めっちゃオイシイの、なってるとこ
見つけたんだあ 」
「 え ・・・ どこで 」
「 ウチの温室にきまってんじゃ〜〜ん
このまえ 探検してて見つけたんだ〜〜 」
「 え〜〜〜 おしえて〜〜 」
「 やあだ。 見つけたもん勝ち〜〜 」
「 え〜〜〜 ・・・ お父さんのけ〜き だよ? 」
「 だから〜〜 とってくるって。
あとね〜〜 ナイショだけど きいちご も 」
「 きいちご?? なに それ〜〜 」
「 だから〜〜 木になってるイチゴ! すっげ甘いよぉ 」
「 え〜〜〜 そんなの温室に ある? 」
「 ぶっぶ〜〜〜 裏山でさ 見つけたんだ〜 」
「 うらやま? あ〜〜〜 い〜けないんだあ〜
勝手に入っちゃだめ っておか〜さんが 」
「 なんで?? 裏山で行っちゃいけなくないじゃん?
黙って行っちゃだめ ってお母さん言ったよ。
行くよ〜〜 って アタシ、ちゃんと言ってるもん 」
「 だれに? 」
「 えっとぉ ・・・ スズメさんとか に 」
「 それ 言ってる に入る?
」
「 い〜じゃん。 アタシ だまって行ってなんかしてないよ? 」
「 でもぉ 池 あるから 危ないって 」
「 池のもっと向こう だも〜〜ん きいちご の木って。
それにね〜〜 あの池 膝までくらいだよ 」
「 ・・・ 知ってるの? 」
「 へへへ・・・ 一回 じゃぶって ・・・ 」
「 あ〜〜〜〜〜 」
「 し〜〜〜! きいちご 取ってこないよぉ? 」
「 ・・・ う ん ・・・
あ じゃあさ? けーきに ちょこちっぷ のせていい 」
「 ・・・ う〜〜 いい。 アタシ 避けるから 」
「 わっは〜〜 じゃあ決まり♪ 」
「 すばる・・・ ほんマジで けーき つくれる? 」
「 まっかせて〜〜 まあるいの、焼くよん♪
そんで くり〜む ぬって いちご と きいちご と ちょこちっぷ
のっける〜〜 」
「 あはは あ! くり〜む おさとうはひかえ目に! 」
「 ・・・ わ〜〜ったよ でもねでもね
あまあ〜〜〜〜〜い いちご 探してきて! 」
「 ふんふ〜〜〜ん まっかせなさ〜〜い 」
すぴかは ばち・・・っと片目をつぶってみせた。
すばる は 超甘党、 すぴか は 辛党 だけど
フルーツは 二人とも ( 当然 ) 甘いのが 好き♪
これで バースデー・ケーキの概要?は 決定した。
「 ん〜〜っと。 あと 垣根にもお水だね〜 」
「 うん。 ほーすでじゃ〜〜〜〜 しようよ 」
「 わ〜った。 アタシ ホース にぎってるから
すばる〜〜〜 全開 して! 」
「 え ・・・ だいじょぶ? 」
「 う ん ・・・ あ でも全開したら すばるもここきて。
いっしょに ホースもって 」
うんしょ うんしょ・・・と 巻いたあったホースを伸ばし
庭の水道にはめた。
「 おっけ〜〜〜 ・・・ いくよ ? 」
「 ん!! 」
姉は 口を真一文字に結び ぐっと足を踏ん張った。
「 〜〜〜〜 まわしたよ〜〜〜 」
「 すばる 来て! 」
「 うん! 」
どたどたどた〜〜〜〜 弟は駆け付けて 姉と一緒にホースを持ち
おわわあああ〜〜〜 うわああああ〜〜〜〜
水流にのた打つホースに 姉弟は見事に引きずれられ ・・・
ばっちゃ〜〜〜ん ・・・ どぼぼぼぼぼ 〜〜〜〜
「 うわうわうわ〜〜〜 」
「 うきゃあ〜〜〜 」
庭先で転び アタマからホースの水を浴びる ・・・ ハメになってしまった。
「 ! チビさんたち〜〜 なにかあったのかい!?
・・・ うわ ・・・・ 」
二人の悲鳴に近い声に 博士が慌てて庭に出てきた。
「 あ おじいちゃまあ〜 」
「 おじ〜ちゃま ・・・ 」
「 ! 二人ともじっとしていろよ まずは 水道を止めて と。
・・・ うわ? うわあ ・・・ 」
ばっしゃん。
ツッカケをすべらせ 博士も水たまりに尻餅をついた。
「「 おじいちゃまあ〜〜〜〜 だいじょうぶ!!
あ わああ〜〜〜 」」
ずる ばっちゃん。 ずべ〜〜〜ん
博士に駆け寄ろうとしたチビたちも みごとにひっくり返った・・・
― さて 一方 マダム・島村は・・・
我が家での 水難 など 知る由もなく。
「 ふんふんふ〜〜ん♪ メニュウは決まったし。
お花はねえ ずっとテラスで育ててきた薔薇が とってもキレイだから。
鉢のまま お部屋に飾るの。 」
くるくるくるり。 フランソワーズの足取りは自然に軽くなる。
「 プレゼント〜〜〜 なににしよっかな〜〜〜 」
まま・ちゃりであっと言う間に駅前まででて 駐輪場に止めた。
駅の向うには この地域で一番大きなショッピングモールがあり
休日等は かなり遠くからも買い物客がやってくる。
「 ふふふ ヨコハマやギンザにでなくても
ここでも結構 買い物できるのよね〜
さて と。 なにがいいかしら・・・
お財布 キーホルダー スマホ・ケース は贈ったわ。
ネクタイ・・・ はあまり使わないし。
靴 ・・・ 本人をひっぱって来ないとダメ。
う〜〜〜ん ・・・? 」
わくわく気分で フランソワーズは広い売り場をぷらぷらと
歩いていった。
「 ふうん ・・・ 最近 こういうモールに来てなかったから・・・
いろいろあるわねえ ・・・
なあにがいいかしら 皆のと被らないようにしないといけないし? 」
16日に、 と 海外組からも ちょっとしたプレゼントが届いている。
勿論 まだ仕舞ってあるし( 本人には勿論、チビ達にもナイショ )
開けてはいない。
しかし ・・・
「 えへ ちょっと失礼〜〜 」
ラッピングや箱など 003の敵ではないのだ。
「 うふふ〜〜 これはねえ? 妻の特権よ?
えっと・・・ この緑のパッケージは っと 」
フランソワーズは納戸に籠って < 観察 > に集中した。
独逸からは 革のカード・ケース。
アフリカからは 遺跡の写真集 本人編
アメリカからは 香木で作ったチャーム に どぎどぎ原色のガム詰め合わせ
イギリスからは 一番摘み紅茶の詰め合わせ。
ヨコハマからは フカヒレ と 北京ダックの燻製
「 う〜〜〜ん・・・ なるほどねえ・・・・
皆いろいろ考えているわ さすが 付き合い、長いものね 」
さて 一番身近にいるモノとしては どうする?
「 ふふん ・・・ そりゃね プレゼントは わ た し♪
ってもありだけど ― それじゃ〜 いつもと変わらないし?
チビ達は けーきをつくる! って言ってたし〜〜
どうしようかしら ・・・ 高額のものは ジョーは嫌がるわ。
ふふ もっともそんなに高いモノは買えないけど 」
「 本当はね〜〜 ネクタイ とか タイピン とか
選びたいんだけど ・・・ ジョー あんまし使わないのよね。
彼ってば 結婚前に博士から頂いたネクタイ、 まだず〜〜っと
大事にしてるんだもの。 う〜〜ん???
女子なら セカンド・バッグとかもいいけど ・・・ 」
はあ〜〜 溜息が出てきた。
ジョーは < お弁当入れ > と称し、すぴかとすばるが
幼稚園時代につかっていた手提げを まだ使っていたり するのだ。
( それも大喜びで自慢気に ! )
「 こまっちゃうぅ〜〜〜 スニーカー ・・・ ダメだわ
めちゃくちゃ拘ってるから 本人以外は無理。 う〜〜ん 」
さんざん迷っているうちに ―
「 !? え。 今の時報 5時???
わっきゃあ〜〜〜〜 加速そ〜〜ち で帰らなくちゃ ! 」
その直後。 赤いままちゃり が一台、恐ろしい速さで
国道を爆走していった・・・
「 た ただいま っ! あ あらあ〜〜 」
リビングに飛び込んで お母さん は目をまん丸にした。
「 ― どうしたの??? 」
「 あ おか〜さん お帰り〜〜〜 」
「 おか〜さ〜〜〜ん 」
すぴか と すばる が バスタオルをかぶり湿った髪を散らばせている。
まだ 夕方になったばかりなのに 二人からは石鹸とシャンプーの
いい匂いが漂ってきている。
「 ・・・ お風呂 入ったの? 」
「 そ。 ちゃ〜んと かみもしゃんぷ〜 したよん 」
「 えへへ〜〜 きもちい〜〜よ〜 」
「 そう? それはよかった けど。 どうして?
あ おじいちゃまに伺って ・・・ あら まあ? 」
「 お〜〜 お帰り〜〜 ははは 三人で早々に風呂を
終わらせたよ 」
浴衣をひっかけ湯上りの艶々顔で 博士が奥から現れた。
「 まあ それはよかったですけど ・・・ ?? 」
「 あのね〜〜〜 おか〜さん アタシたち ずってん
びっちゃ〜〜〜 なんだ 」
「 おか〜さん どろんこ ぎったきた〜〜 」
子供たちが ぴょんぴょん話に飛び込んできた。
「 え え?? ・・・ ころんだの? 」
「 そ ! お庭でさ〜 水やりしてたらさ〜〜
ホースが ぐわ〜〜ん 〜〜〜 」
「 あのね あのね 僕が ぎゅわん ってひねったから・・・ 」
「 じゃばあ〜〜〜〜 って。 そんでもって おじいちゃまが
すって〜〜ん 」
「 そ〜 そんで 僕もすぴかも ばっちゃ〜〜〜 」
「 ・・・ で げでげで ?? 」
「「 そ! 」」
チビ達は にっこにこだ。
「 あ ・・・・ らあ〜〜〜
大丈夫ですか? お怪我は ・・・? 」
フランソワーズの心配顔に 博士は磊落に笑った。
「 すまんなあ〜 チビさん達と一緒にびしょ濡れ ・・・
三人で風呂に入ったよ。 汚れた服は洗濯中じゃ 」
「 あらあら ・・・ すみません。
あのう 庭の水道、壊れました? 」
「 いやいや ちょいと水圧が強すぎたようじゃ。
それでな水流を手元で操作できるようにホースを細工しよう・・と
思ったがなあ やめたよ。 」
「 え どうして 」
「 いやあ・・・ これも勉強かな と。
楽しそうじゃったし ・・・
ああ 安心しておくれ。 < 正しい使いかた > は
チビさん達にレクチュアしておいたからね 」
「 「 えへへへ ・・・ 」」
「 そうなの? それならいいけど・・・
あ! 晩ご飯〜〜 急がなくちゃ〜〜〜 」
「 ああ お前は着替えておいで。
ワシとチビさん達で チン!できる食材をみておくから。 」
「 おか〜さん 僕にまかして! 」
珍しく姉より先に すばるがしゃっきり言い切った。
「 まあ ありがとう〜〜 じゃ お願いしますね 」
「 まかして〜〜〜〜 おか〜さん 」
すぴかが 自信満々に頷いてみせた。
彼女は 味見係 に徹するつもり らしい。
「 え〜〜〜 庭で どろんこ? いいなあ〜〜〜 」
その夜 ジョーは遅い晩御飯を食べつつ心底羨ましそうな声を上げた。
「 ・・・ いいなあ? 」
「 うん。 ホースでじゃば〜〜〜 なんて最高じゃん。 」
「 最高 ?? 」
「 よおし こんどの週末、ぼくもチビたちと水撒きだあ 」
「 ちょっと。 三人でげでげで はごめんです! 」
「 え〜〜〜 いいじゃん〜〜 ちゃんと洗濯するし 」
「 冗談じゃないです。 まだ水遊びの季節じゃないでしょう?
風邪 ひきます 」
「 ・・・ ちぇ〜〜 ああ チビ達と転げまわって遊びたいよう〜 」
「 じゃ 三人でトレーニング・ジムにでも行ってくださいな 」
「 う ・・・ ん ・・・
なあ もう少し暑くなったら海岸ピクニック するか 」
「 あら いいわね ピクニックなんて久しぶり〜〜 」
「 な〜〜 ちょいとその前に一山あるけど
ま〜〜 頑張ってこなす! 」
「 お仕事、忙しいの? 」
「 いつものことさ。 きみとチビ達がいるって思えば
ぼくは〜〜〜 なんだってできる! 009は無敵 なのさ 」
「 ふふふ じゃあ ― エネルギー ちゃ〜じ ? 今晩 ・・・ 」
「 う は・・・ お〜〜〜 大賛成〜〜 」
おとうさん と おかあさん は 恋人同士に戻って
熱い視線を絡めあわせた。
― さて 問題の? 5月16日。
ガタ ガタガタ ・・・・
風が 窓ガラスを揺らせてゆく。
「 ・・・ おと〜さん 遅いね〜〜〜 」
「 まだかな まだかな 」
すぴかとすばるは 門が見える窓に張り付きっぱなし、である。
「 そう ねえ・・・ 」
フランソワ―ズも もう何十回も居間の鳩時計を見上げている。
いつもの晩御飯 の時間は もうとっくに過ぎている。
今日は お父さんのお誕生日〜〜〜晩ご飯 なのである が。
肝心の主役が ― まだ帰宅しない。
「 ねえ おと〜さん ・・・ おしごと いそがしい? 」
「 そうねえ ・・・ 今朝はなにも言ってなかったけど
急なお仕事なのかもしれないわね 」
「 でもぉ〜〜〜 もう 晩ご飯の ・・・ 」
「 そうねえ 二人とも 先にゴハンにしよっか 」
「「 やだ!!! おと〜さん まってる 」」
二人は 迷いもせずの即答混声二部合唱だ。
「 じゃ もうちょっと 待つ? 」
「 ・・・ ちょっと だけ なら ね すばる 」
「 ん ・・・ すぴか 」
姉弟は また窓に張り付いた。
ぐうううう〜〜 きゅるきゅるきゅる〜〜〜
「 あは ・・・ お腹なっちゃったぁ〜〜 」
「 すぴか お腹さんもね おと〜さん 待ってるよ〜って言ってる 」
「 そだね そだね〜 おと〜さん ・・・ 」
「 まだかな まだかな まだかな ・・・ もう電車 のったかな 」
「 ウン。 すばるのけーき、 しっかり冷えたよね〜 」
「 うん! すぴかのきいちご はやくたべたいなあ〜 」
「「 おと〜さ〜〜〜ん 」」
色違いのアタマが二つ くっついて窓辺にならんでいる。
カサリ。 ソファで博士が新聞を閉じた。
「 フランソワーズや ・・・ 連絡してみるかい 」
「 あのう ジョーは仕事場に連絡するの、すごくイヤがってて
仕事とプライベートは別だ! って 」
「 ほう? ああ ヤツは 昭和の日本人 なのだなあ 」
「 そうなのですか? コドモたちのコトならいつでもオッケー
なんですけど ね 」
「 ふうむ? ― あんなに待っておるのじゃから・・・
ワシが頼んだ、と言って 連絡しておくれ 」
「 博士 ・・・ 」
「 アイツがなにか言ったら ワシが引き受けるよ。
どうもなあ・・・ あんな後ろ姿を見せられると・・・ 」
博士は そっと目じりを指で払っている。
「 そ そうですね ・・・
ええ わたしが怒られますから。 大丈夫。 えっと 」
フランソワーズは スマホを取り上げた。
その日 島村ジョー氏 はめっちゃくちゃに多忙だった・・・
校了日は過ぎているのだが 予定外のクライアントからの注文
部下のちょんぼのカバー 常連作家さんへの急な連絡などなどなど・・・
「 あ は ・・・ なんとかなった か ・・・ 」
ふと 息をつき自分のデスクに座りぼ〜〜っと時計を眺めた。
「 だはははあ こんな時間かあ 〜〜 あ 腹減ったかも・・・
昼メシ 忘れてた ・・・ ってもう晩飯時間 過ぎそうだあ 」
編集部の中は もう誰も残っていない。
部長も30分ほど前に帰った。
「 はあ〜〜〜〜 帰るかあ〜〜〜 ごめん フラン〜〜
遅くなっちまったなあ 」
ジョーは 自分のスマホを取りだし ― 着信に気が付いた。
「 あ? なんだ??? え チビ達になにか??? 」
慌てて 画面を開けば
〔 ジョー。 皆 待ってるの、 あなたのお誕生日よ 〕
! わ すれて たあ〜〜〜
え?? この時間にまだ まってる ??
う〜〜〜〜〜〜〜〜
もう スマホを使うのもまだるっこしい。
ジョーは 自身の通信能力を最大限に限界までアップし
速攻で 脳波通信を送った。
≪ ごめん! フラン〜〜 二階の窓 あけといて ≫
≪ ジョー! ・・・ 窓?? ウチの? ≫
≪ そ! それと・・・ 着換え おいといて 頼むね ≫
≪ いいけど ・・・ あ ≫
ジョーの返事はない ― その代わり
カチッ シュッ!
彼女がよ〜〜〜く知っている音が聞こえ 脳波通信は途切れた。
「 あらあ これはあっと言う間に ご帰還ね
あ 窓 窓 ・・・ 」
フランソワーズは 二階に駆けあがり夫婦の寝室の窓を大きく開けた。
「 あらあ〜〜〜 いいお月さまねえ ・・・
えっと 服 ね。
あ〜あ 今日 着ていったのは 焼失 だわね 」
シュ ・・・ !!!
その直後 ちょいと焦げ臭い匂いとともに 今夜の主役 が
立っていた。
「 え へ ・・・ た ただいま〜〜 」
「 お帰りなさい。 あのね いくら妻の前でも・・・
ほら ! 」
バサ〜〜
マダム・島村 は 彼のアタマから毛布を掛けた。
「 ・・・ えへへ どうもシツレイいたしました マダム。 」
「 服 だしておいたから。 うまく玄関から帰ってきてね?
コドモたちの視線を逸らせておくから 」
「 お願いシマス〜〜 」
「 ふふふ ・・・ 素敵よ ジョー 」
「 え? 」
「 あなた、 わたしの子供達の最高のお父さんだわ 」
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ 」
島村氏の奥方は 最高に魅惑的な笑みを残し
階下へ降りていった。
はっぴば〜〜すで〜〜 でいあ おと〜〜〜さ〜〜〜ん!!
ほどなくしてウチ中に 元気な歌声が響いた。
遅い晩御飯の最初から最後まで ジョーは 泣きっぱなし だったとか。
ふふふ ・・・ よかったね ジョー君
お誕生日 おめでとう !!!
*************************** Fin.
*****************************
Last updated : 05,18,2021.
index
************** ひと言 ************
お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズで
ジョー君 はぴば話〜〜〜 (*^_^*)
なんてことないけど 彼にとってはきっと
こんな誕生日が最高なのでしょうね (*^_^*)
さて フランちゃんのプレゼントは???