『 張々湖飯店騒動録 』
「 こういうのってさ ・・・ 」
ジョ−はふうふう吹いてから かぷり、と春巻にかぶりついた。
「 ・・・ アチチ アチチチ ・・・ あの、さ。
風が吹けば桶屋が儲かる − って、アレだよねえ。 ・・・ふぁ・・・ アツツ ・・・ 」
「 少年よ。 マナ−が悪いぞ。 我らがマドモアゼルの御前で 失礼であろう? 」
グレ−トが大袈裟に眉を顰め、ナプキンでくい・・・っと口を拭った。
「 あ・・・ ごめ ・・・ そのゥ ・・・ あんまり美味しくて ・・・ 」
「 ふふふ ・・・ まあ、今日は許してあげましょ。 」
ジョ−の隣で フランソワ−ズは器用に象牙の箸をあやつり微笑んでいる。
「 ほ。 これはこれは・・・ とんだオジャマ虫でしたな。
それにジョ−よ? この度の事態は 弱り目に祟り目、というところだ。
おぬしの引用句は間違っておるな。 」
「 え・・・ そうなの? 」
「 そうだな。 泣きっ面に蜂、の方だぞ。 」
珍しくアルベルトが口を挟んだ。
「 うむ。 おぬし、自国の格言くらい適切に引用できないとは ・・・・ 情けない。 」
「 う ・・・ ぼく、国語はあんまり得意じゃなかったんだ・・・ 」
「 学課の話ではないぞ。 コレは教養のモンダイだ。 ベンキョウせよ。 勉強、ではなくてな。 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
わかったのか、わからないのか・・・・
ジョ−は相変わらずにこにこと頷き、目の前の皿に黙々と箸を伸ばしている。
「 ほい♪♪ 点心のワゴンあるよ〜〜〜 ほんに、みなはん、ご苦労サンでした。
謝々〜〜〜〜 おおきに! サンキュウ だんけしぇ〜ん ♪♪ 」
賑やかな声と一緒にがらがらとワゴンを押して張々湖が入ってきた。
ワゴンの上には 湯気のたつ蒸篭がならびいい香りがただよっている。
「 まあ、張大人! 大丈夫なの、今日はずっと働きづめじゃない? 」
フランソワ−ズが驚いて振り向いた。
「 そうだよ。 朝早くから大変だったよね。 あ、ぼくがやるよ。 」
「 無理するな。 」
「 我輩に言いつけてくれ。 そりゃ・・・ おぬしの腕には及びもせぬが・・・ 」
仲間達はみな心配顔である。
「 ほっほ。 ダイジョブ アルよ! ワテは別に身体の具合があかんのんとは違いまっせ。 」
蒸篭のフタをつぎつぎと開け、湯気の向こうで福々した笑みが揺れている。
「 でも ・・・ 嗅覚センサ−、まだ故障しているのでしょう? 」
「 はいな。 機械の身体はほんに便利が悪いわな。 イカレてしまうと、どんならしまへん。
ま、博士が元気にならはったら あんじょうしっかり直していただきますワ。 」
「 あれ・・・ それじゃ この・・・? 」
ジョ−は 配られた皿のをしげしげと見つめた。
熱々の皿には 胡麻団子が湯気を立てている。
「 ダイジョブ、大丈夫アルよ〜〜〜。 ジョ−はん、安心して上がりなはれ。
コレ・・・ この点心はみ〜〜んなワテが前に作って冷凍しておいたものアル。
出来立てよりちぃ〜と味が落ちるかもしれへんが、勘弁して欲しいワ。 」
ちょっと淋しい顔の大人に、皆もシュン・・・・としたのだが。
一番初めにジョ−が胡麻団子を口に放り込んだ。
「 ・・・・ んんん ・・・ 美味しいよ! これ、すごく♪ 」
「 ま。 ねえ、大人、わたしにはその桃饅を頂戴。 ・・・・ わ ・・・ ほわほわ〜〜 」
「 我輩は 月餅を頂こう。 ・・・ う〜〜ん・・・ ウマイ! 」
「 オレは そうだな、ああ その胡麻煎餅がいい。 」
みんなのてんでのリクエストにてんてこ舞な大人はますます笑顔満開である。
「 アイヤ〜 こりゃ、ほんまに 災い転じて福となす、 アル♪ 」
風が吹けば 桶屋が儲かる ・・・ とジョ−が言ったが そんなコトもこの世には多々あるらしい。
そして 一方
弱り目に祟り目 とか 泣きっ面に蜂 とかも ・・・ 多いのも現実。
そんなトンデモナイことが 両方重なる、というトンデモナイ事態に
巻き込まれた人々が いた。
そう。 われらがゼロゼロ・ナンバ−サイボ−グ達 である。
そもそもの発端は 秋口の急な冷え込みにギルモア博士が風邪を引き込んだことだ。
なに、大丈夫・・・と甘くみたのか相変わらずの研究最優先の生活を続けたあげく、
ついには高熱を発しぶっ倒れ、ジョ−とフランソワ−ズは慌てて病院に駆け込むこととなった。
「 ええ? 入院ですか?! ・・・ あの ・・・ よほど悪いのでしょうか。 」
担当の医師から入院を勧められ、フランソワ−ズは蒼白になってしまった。
すぐ傍で ジョ−はそっと彼女の背に手をまわし、細かく震えている身体を支えている。
「 風邪ではないのですか。 なにか重大な疾患があるのでしょうか。 」
「 あ、いえいえ。 どうぞご心配なく。 」
二人の真剣な眼差しに 担当医師はあわてて手を振った。
「 心配なくって ・・・ だって入院なんて・・・ 」
「 いや。 勿論風邪を甘くみてはいけませんが。
ギルモアさんの場合は風邪そのものよりも ちょいと過労気味のご様子ですからね・・・
まあ、ゆっくり休養なさるおつもりで2〜3日 入院なさることをお勧めしますよ。 」
「 あ・・・ そうなんですか。 」
それに・・・ と医師はにこにこして二人を眺めた。
「 娘さんとご主人さんですか? あなた方もお疲れでしょう? 看病は我々に任せて・・・
ご夫婦で しばらくのんびりなさったらいかがです? 」
「 ・・・ え ・・・ ふ、夫婦って ・・・ あの ・・・ 」
「 お父様はご高齢ですから大事を取って しばらくこちらで養生なさり、
その間にあなた方もリフレッシュなさってください。 」
「 あ・・・ はあ。 あの、それではとりあえずそんなに心配な容態ではないのですね。 」
「 はい。 かなりの寝不足と過労ですね。 なにか根をつめたお仕事をなさっていますか。 」
「 はあ・・・ あのある分野の研究者ですので・・・ 」
「 ああ、なるほど。 熱中のあまり寝食も忘れて・・・というタイプですな。
ゆっくりなさるのが一番のクスリですよ。 」
「 はい。 それでは あ・・・つ、妻の父をヨロシクお願いいたします。 」
「 はい、確かに。 」
にこやかな医師にむかって ジョ−は深々とアタマを下げた。
隣で頬を染め俯いていたフランソワ−ズも慌てて 彼にならった。
・・・・ 二人とも真っ赤になった顔を 見られないですむ ・・・とほっとした気分だった。
「 あ〜あ・・・ ちょっとびっくりしたけど。 大事じゃなくてよかったね。 」
「 そうね 〜〜 これで博士ももう徹夜を続けたりなさらないといいのだけれど。 」
入院に必要なものを再び届け、ジョ−とフランソワ−ズはほっとした
面持ちで病院をあとにした。
日頃、自身の身体のことにはまったく無頓着な博士も、今回の<入院さわぎ>に
少々ビビったらしく、 あまり文句は言わなかった。
「 あとは ・・・ なにか必要なものがありますかしら。
足りないものがあったらいつでも電話してくださいね。 」
「 ああ、ああ。 大丈夫だとも。 ふん、なにほんの1〜2日のコトではないか。 」
「 まあ・・・ ゆっくり養生なさってください。 のんびりなさるのが一番ですって。
消灯後にこっそり本なんか読んでいてはダメですよ。 」
「 ・・・・ わかっとるわい。 」
「 本当に いつでも電話してくださいね。 明日、また来ますから。 」
「 ああ、もう放っておいてかまわんよ。 お前達こそ二人で旅行にでも行っておいで。 」
「 あら、全快祝いにみんなで行きましょう。 ねえ、ジョ−。 」
「 そうですよ。 ああ、この枕はこうしたほうが・・・・ 」
ジョ−は身軽に動きまわり 博士のベッドを整えた。
「 おお ・・・ ほんにずっと楽じゃわい。 ありがとうよ。 ああ、ほれもう面会時間は終りじゃ。
ワシの事は気にせんで ・・・ はやくお帰り。 お前達も疲れたろう。 すまんなあ。 」
「 それじゃ・・・ また明日来ますから。 お休みなさい。 」
「 ああ。 お休み。 」
フランソワ−ズは博士の頬にかるくキスを残し、振り返り振り返り・・・ 病室を後にした。
「 どうぞ、お父様のことはお任せください。 」
「 はい。 ・・・・ どうぞお願いいたします。 」
ナ−ス・ステ−ションでも <ギルモアさんとこのお嬢さん夫婦> は深々とアタマをさげ、
仲良く肩を並べて帰っていった。
「 遅くなっちゃったね。 どう? 今晩は張大人のとこで晩御飯ってのは。 」
ジョ−が車を出しつつ、提案した。
「 あら、いいわね! 久し振りだわ〜〜 嬉しい♪ 」
「 ぼく達も栄養をつけなくちゃね。 ・・・・ふふふ <奥さん> 」
「 ・・・ え ・・・ ヤダ、ジョ−ったら・・・ 」
頬を染めるフランソワ−ズを横目でながめ、ジョ−は左手で彼女の手を握った。
「 ・・・ そう見えるんだよね。 うん・・・・ だから、さ・・・・ ぼく達・・・」
「 え・・・なあに、ジョ− ? 」
うん ・・・ ジョ−はちょっと言葉を切って立て込んだ道を慎重に抜けていった。
「 ・・・ あの、さ。 博士が退院なさったら。 その ・・・ ぼくと けっ・・・ 」
「 え? あらっ! ちょっと、ジョ−! 止めて止めて〜〜〜 !! 」
突然、フランソワ−ズは前方を凝視したまま ハンドルを握るジョ−の手をぐいぐいゆさぶった。
「 わ・・・! な、なんだよ〜〜 うわッ・・・ あっぶね〜〜〜 」
「 ねえ、あの車! 大人とグレ−トが乗ってるの、わあ〜〜 すごいスピ−ド ・・・
< お〜〜〜い、ちょっと待ってえ?? どうしたの? >
< ?? おお、誰かと思えば我らがマドモアゼル! どうして こんなトコに ? >
< う〜ん、話せばなが〜いのですけど。 そちらこそ、どうしたの? そんなに急いで? >
< うむ。 緊急事態発生でな。 博士の元へ 加速装置・・・がないのが残念なんだが。 >
< え? 博士は ・・・ 研究所にはいらっしゃらないわよ。 >
< ええ!! 学会かい、ご旅行かな。 >
< ううん。 病院よ。 今日から入院なさてね、わたし達今、病院からの帰りなの。 >
< 入院?? そりゃ大変だ どこかお悪いのか? >
< ああ、心配ご無用よ。 ちょっと休養・・・ ってお医者様が。>
< そうか ・・・ それなら安心だな。 >
< ええ。 ねえ、そちらこそどうしたの? >
< あ! そ、そうなんだよ。 こっちは ・・・ 緊急事態発生!! 博士〜〜 SOS ・・・
のはずのだが ・・・・ どうしたらよかろうか。 ともかく、戻るワ >
< オッケ−。 じゃあ、わたし達お店にゆくわね。 >
「 ジョ−! 急いで! 張々湖飯店まで加速・・・じゃなくて大至急よっ 」
フランソワ−ズはまたしてもジョ−の腕をつかみがくがくとゆさぶった。
「 ・・・ なんだよ・・・・ はいはい、わかりました。
もう・・・ 突然 止めて! って騒いで黙り込んで今度は急発進かよ〜 」
「 あ・・・ ! ごめんなさい〜〜 脳波通信をオ−プンにするの忘れてたわ。
ワケは後で話すわ! だから! 今は飯店まで 〜〜〜 急いで!! 」
「 ーーー 了解。 」
ジョ−はこっそり溜息を飲み込み アクセルを踏んだ。
・・・ ちぇ。 一世一代の名場面・・・ のつもりだったんだけど・・・・なぁ
「 え! システム障害 ?! 」
「 そう、アル。 原因はわかりまへん。 ほんでもある日突然不具合を生じるのが
機械っつうもんですがな。 仕方おまへんなあ。 」
張大人はいつに変わらぬ福々した笑顔を振りまいている。
「 だって ・・・ 壊れちゃったのでしょう・・・・ 普通にしていて大丈夫・・・? 」
「 ほっほ。 壊れたには違いおまへんが ・・・ モンダイの箇所はココや。 」
「 ・・・ ?? 」
大人はきゅ・・・っと団子ッパナを摘まんでみせた。
「 ・・・・ え〜〜〜 < 匂わない > ??? 本当に?全然・・・? 」
「 はいな。 風邪っぴきとは違いまっせ。 ちゃんと息はできるし ホレ ・・・・ 」
大人は ゴウ〜〜〜 と紅蓮の炎を吹き出してみせた。
「 わ・・・・ 危ないよ! 」
「 ふん。 自分の火ぃで火事なんぞだしますかいな。 能力 ( ちから ) は無事アル。
ただ においがぜ〜んぜんわからしまへんのや。 」
「 そりゃ・・・ 不便だね。 でもその程度でよかったじゃないか。 」
張々湖飯店、臨時休業の店内でジョ−達はお茶のテ−ブルを囲んでいた。
「 身体の具合が悪いとか 手が利かないとか・・・ そんなのだったら料理できないし
大変だよね。 だけど嗅覚センサ−の異常ならそんなにたいした・・・ 」
「 ジョ−はん!! 」
どん!
大人の鉄拳がテ−ブルを直撃し、皿小鉢がぶつかり合って賑やかな音をたてた。
「 ・・・わ! どうしたんだよ? あ〜あ こぼれちゃったじゃないか・・・ 雑巾は ・・・ 」
「 ジョ−はん! あんたさんは料理のこと、ち〜っともわかっておまへんアルな! 」
「 ・・・ へ ・・・?? 」
たった今まで ちょっと情けない表情を見せても柔和な笑顔の大人が
真っ赤になって − 湯気まで立てていた!
「 料理はな。 舌と手だけで作るのんとちがいまっせ。
匂われへんかったら味、わからんのや。 それににおいも料理の大事な一部アル。 」
「 ああ・・・ そうねえ。 風邪を引いている時って まるで妙な味に感じるわね。 」
「 そうや。 フランソワ−ズはんの言うとおりやで。 それに ・・・ 」
大人は懐から出した手巾で ていねいに食卓の上をぬぐった。
「 ワテひとりの御飯が美味しゅうないのは 我慢もでけるアル。
ほいでも、店に来やはるお客はん方に 妙な味のもん、出せますかいな。 」
「 ・・・ そんなに 味、ちがうかな・・・ 」
「 そりゃいっつもと同じ手順でやりますさかい、見た目は同じモノができますやろ。
せやけど・・・ 味はその日その日の食材の塩梅で違うてきます。
ソレをハナと舌で感じて、味を足したり引いたりするのんが料理人やで。 」
「 ふうん ・・・ そうなんだ.〜 料理って奥が深いんだね。
あ・・・ でもどうするの。 博士はしばらく病院だよ? 」
「 う〜〜む ・・・ どないしょ ・・・ 」
「 本当に大変ね。 でも・・・ 博士が退院なさるまで少しゆっくりしたら?大人だって働き詰めよ。
お店をお休みするのはイヤでしょうけれど。 」
「 イヤ。 妙な味のもん、お客はんに出すわけには行かしまへん。
いつもなら潔う、休業の札、ぶら下げますワ。 ・・・ ほいでも ・・・ 」
・・・ ふう 〜〜〜〜
大人の太鼓腹がう・・・っと膨れ しゅぼ〜〜〜と萎んだ。
「 宴会の予約がありまんのや。 それも明日。 」
「 ・・・ あ! スズキさんの予約か! 」
グレ−トが ぽん、と手を打った。
「 宴会の予約? 事情をお話して、お断りできなの? 」
「 うん。 ちゃんと説明すればわかってもらえるよ、きっと。 」
「 うんにゃ。
ワテが。 料理人のワテが! どないしても心をこめて仕切りたい宴会なんや。 」
ふう 〜〜〜 大人は再び盛大に溜息を吐き、本当にアタマを抱えてしまった。
「 スズキさん って・・・ 大切なお客さまなの? 」
フランソワ−ズがこそ・・・っとグレ−トに耳打ちをした。
「 ごく普通の人だ。 初老のサラリ−マン氏なんだが。 」
グレ−トも ううん ・・・ と眉間に縦ジワで呻いた。
「 ずっと・・・ そう、この店が開店したときから 家族でよく来てくれるヒトなのだ。
家族を上げてウチの店のご贔屓さんで もう随分な付き合いになる。
そのミスタ−・スズキの娘さんの結婚披露宴、なのさ。 」
「 まあ ・・・ それじゃ ・・・ 」
「 うん。 そりゃ ・・・ 」
そっと頷きあう二人は 実は ・・・ こそっとテ−ブルの下で手を握りあっていた。
「 そうでっしゃろ!! 」
どん!!
再び 大人の鉄拳がテ−ブルを襲い ・・・ ジョ−とフランソワ−ズは仰天してばっと飛び退いた。
「「 ・・・ わ・・・! 」」
「 ワテは! なんとしてもあの嬢ちゃんのお祝いをしてあげたい。
ワテの料理で新しい門出を祝福したいんや。 」
またまた大人は丸まって頭を抱えてしまった。
「 ・・・ ずっと前にもこんなコトがあったねえ。 」
「 え・・・・? 」
椅子をきこきこ鳴らして グレ−トがしみじみと言った。
「 ほら。 やっぱりおぬしらがいて ・・・ そう、ピュンマとジェットもいたぞ。
そうして やっぱり溜息に埋もれていた張々湖を 取り巻いていた。 」
「 あ! うん、覚えてる! 」
「 そうそう・・・ あの有名な料理評論家が来るっていう時だったわね。 」
「 そうだよ。 それで・・・ 皆がホンバモノの新鮮な食材を集めてきてくれたよね。 」
「 さよう。 本格中華のための、な。 しかし 結局この店の常連さん達が
喜んでくれたのは <いつものココの料理> だったぞ。 」
「 ええ。 珍品でも幻の味、でもなくってね。 」
「 うん。 ねえ、大人。 あの時ほどの食材は無理でも・・・
言いつけてくれれば、ぼく、日本中から集めてくるよ? 加速装置使ってさ。 」
「 そうよそうよ。 それで大人はとびきりの御馳走を作って差し上げたら?
そのお嬢さんはきっと喜ぶと思うわ。 」
「 ・・・ ほいでも。 このハナでは味つけが・・・ 」
「 味見は我輩が買ってでようぞ。 」
「 グレ−トだけじゃ頼りないのなら、ぼくとフランソワ−ズも手伝うからさ。 」
「 ・・・ ほうか。 ほんなら ・・・ みなはんの熱意を無駄にしとうない。
ありがたく ・・・ お手助け願おう・・アルか。 」
「 わお♪ そうだよ、決まり決まり!! ね、必要な食材をリストアップしてくれる?
出来るだけ揃えられるように 頑張ってみるからさ。 」
「 わたしも下ごしらえとかお手伝いするわ。 当日はチャイナ服でお給仕も ・・・ 」
「 だ! ダメだよっ!! 」
「 え・・・ あら、どうして? ジョ−、あなただってあの服、好きだって言ってたじゃない。 」
いきなり血相を変えたジョ−に フランソワ−ズはちょっとばかり呆れ顔である。
「 あ・・・ そのゥ ・・・・ チャイナ服は着て欲しいけど・・・
そのう ・・・ あの姿はぼくの前だけってことにして欲しいな・・・って ・・・ 」
「 まあ ・・・ 」
「 ははは このヤキモチ焼きが〜。 それじゃとりあえず、そういうコトで。 」
「 ウン。 あ、じゃあ大人がリストを作っている間に ぼく、ウチに戻って<準備>してくるよ。
防護服と あの箱・・・ え〜と・・・? どこに仕舞ったかなあ。 」
「 箱? なんのかね。 」
「 ああ、ほら、食材の運搬用の箱。 加速したり空を飛んでも中味に影響のないものを
あの時に博士が作ってくださったのよ。 」
「 おお、なるほど。 鮮魚が ウェルダン に焼きあがってはどうしようもないからな。 」
グレ−トはつるり・・・と禿アタマを撫でた。
「 ほ〜い! でけたアル。 ジョ−はん? このリストの食材をお頼みします。 」
「 了解 ・・・ っと ・・・? わ・・・ 京都の錦市場に 越前蟹?? 釧路に ・・・ 明太子! 」
「 ジョ−、それじゃ一緒に一回ウチに帰りましょ。 あ、グレ−ト? イワンをお願いできる? 」
「 おお、了解。 な〜んだ・・・ 肝心の時におねんねかい、寝ぼすけ王子殿は? 」
「 ふふふ ・・・ こればっかりは仕方ないわねえ。 」
在日組4人は笑いあって各自の分担仕事に赴いた。
久し振りの楽しいミッションに みんながわくわくしていたようだ。
大丈夫。 なんとかなる。 4人で協力すれば。
うん、最高の wedding
party にしてあげよう。
張々湖飯店の名にかけて・・・!
「 ・・・ あら ・・・? なんだか ・・・ あ ! 」
「 え、どうしたの。 ぼく、違うモノを買って来ちゃった?? 」
「 ううん、ううん。 ちゃんと カニよ。 えっと ・・・ ナントカ蟹。 でも ・・・ 」
「 でも ・・・? あ・・・?! 」
ジョ−はフランソワ−ズが眉間に縦ジワを寄せるのを見逃さなかった。
はるばる北陸の旧い都市の旧い市場から<走って> 持ち帰った箱を
ジョ−は慌てて覗き込んだ。
・・・ ? ・・・ あ!
確かに、越前蟹だった。 たった今水揚げしたんだ、断然お勧めだぞ!と 威勢のいいあんちゃんが
得意顔で 詰めてくれたのだ。
しっかりフタもしたし。 どうしたっていうのさ・・・
ジョ−はちょっと膨れッ面をしたい気分で <特製・加速装置用はこ> を睨んでいる。
そこには。
立派な ・ 今朝水揚げされたばかりの ・ キングサイズの ・ 越前蟹が
・・・ 真っ赤に 綺麗に 茹で上がっていたのだった!
「 コレって・・・・ ? あれれ・・・ 」
「 ええ ・・・ 火が。 あ、いえ、熱が通ってしまったみたい。 」
「 ・・・ 熱?? ・・・あ! それじゃ・・・ 」
「 う〜〜ん・・・・ ちゃんとフタはしっかり締めて運んだんだけどな・・・ 」
「 そうねえ・・・ これじゃ生食には無理だわね。 」
「 なんでかな? 箱のフタ・・・ い〜やしっかり閉じたよお? 」
「 それじゃともかく! 蟹は釧路で一緒に買ってきて。
今度はちゃんとフタしたこと、覚えていて頂戴ね! 」
「 う、うん。 じゃ ・・・ イッテキマス。 」
「 はい、お願いね。 もう仕込みにはいらないと・・・ ア ・・・ ? 」
シュン ・・・ という小さな音ともに 赤い防護服は空気の溶け込んでしまった。
「 おんや? 今、ジョ−はんが帰りはったかや〜と思たんアルが・・・?? 」
「 ええ。 帰って ・・・ また行ったの。 」
「 ほっほ。 ご苦労はんでっしゃなあ。 そうや、ジョ−はんの好きな胡麻だんご、
た〜んと用意しておきまひょ。 」
「 ありがとう、大人。 食材が届き次第戦闘開始!ね。 」
「 これも立派なミッションでっせ。 」
「 そうね。 皆に幸せを運ぶミッションね。 」
「 はいな。 う〜〜ん、腕がなりまっせ〜〜〜
グレ−トはん? 出汁用のス−プの仕込み、どうやね・・・ 」
大人はまんまるな後ろ姿をみせ、厨房にぱたぱた駆けて行った。
ー 結局。 ジョ−の東奔西走は ・・・ ことごとく無駄足におわった。
「 え・・・・??? なんで〜〜〜 どうしてなんだよ?? 」
「 う〜〜ん ・・・ こりゃこちらも不具合、としかいいようがないなあ。
しばらく放置しておいて装置が狂ったのかもしれんよ。 」
「 ・・・ それにしても ・・・ あ〜あ ・・・ 凄いわ! 」
「 コレはこれで ・・・ 後で使うアル。 簡単カナッペの具に、ええ塩梅やで 」
4人の前には すっかり加熱処理されてしまった蟹やら雲丹やら壬生菜やら明太子が
山積みになっている。
なかなかいい匂いが立ち込める中、ジョ−はおろおろしっ放しだった。
「 ・・・ ごめん、大人。 ぼく ・・・ 全然気がつかなかった・・・ 」
「 ジョ−はん。 もう気にする無しアルね。
わてのハナとおんなじでな、機械っちゅうもんは突然ヤワになるのんや。
たまたま・・・ その時期にぶつかっただけやで。 」
「 ・・・ う、 うん ・・・ そう言ってくれると ・・・ 」
「 コレはこれとして。 しかし、献立をどうする? 名産の食材はもう手に入らんぞ。 」
グレ−トの発言に またまたジョ−はシュン・・・としてしまった。
宴会は明日に迫っているのだ。
一同は顔を見合わせ ・・・ 誰の口からも自然に吐息が漏れてしまった。
「 ・・・ そうだわ。 ねえ? その・・・ スズキさんご一家は張々湖飯店の <いつもの献立>
のファンなのでしょう? 」
「 そうアルよ。 」
「 それなら。 なんとかなるわ、きっと。 あのね・・・ 」
「 ん ? 誰か裏口に来たようだぞ。 マドモアゼル、ちょい待ち・・・ 」
グレ−トが身軽に店を抜けて厨房にある出入り口にとんでいった。
「 ・・・ おお! これはこれは・・・ 」
「 よう。 」
戸口の外には銀髪の男性が立っていた。
「 ほう ・・・ そんなことがあったのか。 博士は? 」
「 ええ、もうお風邪の方はほとんど良いみたい。 休養のための入院だから。 」
「 そうか。 それはよかった。 」
アルベルトはほっとした様子で 出された中国茶の湯呑みを取り上げた。
「 あら・・・? でも、どうして。 メンテナンスの時期じゃないはずよね。 」
フランソワ−ズがお茶ポットを持ったまま、首をかしげている。
「 あ。 そうだよね。 アルベルトってメンテ以外、あんまりココに来ないじゃないか。
それを ・・・ あ! もしかしかして 君も ?? 」
「 縁起でもない! ・・・と言いたいところなんだが。 じつはな。 」
「 おいおい ・・・ 皆どうしちまったんだ? まさかシステム障害を引き起こす、なにか
悪質なウィルス感染とかではあるまいな。 」
「 ふん。 それは有り得んな。 オレはお前達とはしばらく情報交換もしていないぞ。
・・・ お前達ならお互いにうつし遭うだろうがな。 」
「 え ・・・ ぼ、ぼく達は そんな ・・・ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
思わず赤面しあい、言葉とは裏腹にジョ−とフランソワ−ズは<個人的な事情>を
仲間達の前に暴露した。
「 ほっほ♪ ええってことアルね。 仲良きコトは美しき哉・・・えら〜いセンセイも言うてはるやんか。 」
「 ふん、今更なにを隠すんだ? 」
「 おい、それでアルベルト、おぬしは? いったい何処の不具合なのかね。
まさか ・・・ マシンガンの暴発とか? ミサイルの発射装置の故障とか・・・ 」
グレ−トの口調が真剣になり、在日組はみな固唾を呑んでいる。
「 馬鹿。 そんな物騒なモノではないぞ、安心しろ。 ・・・ ほら、これだ。 」
黒革の手袋が するり、と抜け落ち ・・・ 鋼鉄の手が現れた。
「 やっぱりマシンガン ・・・??? 」
「 いや。 こっちだ。 」
ひらり・・・と左手が空を切り、なにか鋭いモノがギラと光った。
「 左手 ・・・? え ・・・あら。 電磁ナイフね? 」
「 ああ、そうだ。 これが なぜか引っ込まなくなっちまったんだ。
自分で簡易メンテをしてみたのだが、どうにもこうにも動いてくれん。 」
「 ありゃ・・・ 年中ナイフの刃が出っぱなし・・・か。 そりゃ難儀だな。 」
「 オレ自身はともかく・・・ 周囲に迷惑がかかるからな。 入国審査には汗掻いたぜ。 」
「 ・・・ でしょうねえ・・・ 」
「 おい、それはそうと。 マドモアゼル、さっきの発言の続きをどうぞ? 」
「 え・・・ あ! そうよ、そうなのよ!
その宴会のメニュウだけど・・・ 張々湖飯店の <いつもの献立> を <いつもの通り>に
<いつもと同じようにこころをこめて> 作ればいいのじゃない? 」
「 あ・・・・ な〜る・・・! 」
グレ−トがぽん・・・と手を叩いた。
「 なんだ? 俺の自動翻訳機までイカレたのか?? いつもの・いつもの・・・・ってなんだ。 」
アルベルトは眉間に縦ジワ ・・・ で本気でアタマをとんとんと叩いている。
「 あ! あのさ、アルベルト。 実はね・・・ 」
ジョ−があわててぼしょぼしょと事情を説明している。
「 ・・・ ほいでも。 匂われへんかったら正確な味もわからへん。
<いつもの通り>に調理したかて、食材の塩梅はその時によって違うよって・・・
その微妙な差ぁを極めるのが料理人の腕なんや。 」
「 だ・か・ら、ね。 そこをカバ−するために ・・・ 新鮮な材料を使うの。
この、地元の材料で最高の御もてなしをしましょうよ! 」
「 そうか〜〜〜 食材に助けてもらうんだね〜 」
「 そんなら ・・・・ やってみましょか。 いや、みんなはん、お願いしまっせ。
・・・ ほっほ♪ そうやった、そうやった。 己の腕を過信したらあかんのんや。 」
大人は椅子から飛び降りると 丁寧にアタマを下げた。
「 よし、我輩も正念場だ。 日頃の助手として磨いたこの舌を駆使しようぞ。 」
「 はいな。 グレ−トはん、しょっちゅう味見〜いうてツマミ喰いしてはってんからに。 」
「 おいおい ・・・ ソレは言わぬがハナってなあ。 」
「 えっと。 それじゃわたし達、買出しに行って来ます。
ふふふ、大丈夫地元の市場に行きますから・・・ 加速装置は使わないわ。 」
「 おおきに。 ほいでも、今日のトコは根菜類だけでええアル。
鮮魚関係は 明日の朝一番で頼んまっさ。 」
「 え ・・・ 朝 ・・・? 」
ジョ−がどき・・・・っとした顔でそっと周囲を見回している。
「 そうね〜 朝の市場は早いから。 ジョ−、いっそ寝ないほうがいいんじゃない? 」
「 う ・・・ うん。 あ・・・ きみと一緒なら♪ 一緒に徹夜しようよ・・・ 」
「 ・・・ ま ・・・ ジョ−ったら ・・・ 」
「 ほいほい? 2人世界は別室で頼むわな。 」
「 オレはなにをしたらいい? 」
「 おお! アルベルトはん!! あんさんにぴったりの仕事がありまっせえ〜〜 」
「 トラックは転がせないぜ? この手では ハンドルをぶち切ってしまうかもしれん。 」
「 うんにゃ。 あんさんには厨房で活躍していただきます。 」
「 それでは。 諸君、総員配置につけ〜〜! 」
「 アイアイ・サー〜〜〜 」
グレ−トの号令で 00ナンバ−サイボ−グ達 ( 在日組 ) は ミッションにむかって発進した。
翌朝、本当に完徹したジョ−は フランソワ−ズと共に地元の朝の市場にやって来た。
( 徹夜が 一人だったかどうか ・・・ ジョ−は誰にも言わなかった。 )
「 あ〜 見学ですかい? すんませんがちょいと避けててくれませんかね?
あ・・・・ ガイジンさんかア ・・・・ 弱ったな。
え・・・あ〜 あいむ そ〜り〜・・・え〜と・・・ 」
ジョ−とフランソワ−ズが鮮魚の競に参加しようと、歩み寄ると一段と高いところにいたおっさんが
大声で呼び止めた。
「 ・・・え ? 違う? 見学じゃなくて ・・・ 買い物だって??
それじゃますますダメだ。 ここは一般向けの小売はしないよっ 」
「 ・・・ あ? それも違うって・・・? なに? え・・・ 張さんとこの??
張さんは ・・・? え?? ハナが利かない!! そりゃ大変だ〜〜〜 」
フランソワ−ズの説明に おっさんはにこにこと目尻を下げっ放しである。
ジョ−は 口を挟むチャンスに恵まれずただぼ〜っとフランソワ−ズの後ろに立っていた。
「 はん! そんなワケならチカラを貸すぜ? おれら、この近辺のやつらはみ〜〜んな
張々湖飯店の常連だからな。 それで ・・・ なにが必要なのかい!? 」
結局。
ジョ−は荷物の山から脚が出ている・・・ 状態になった。
「 ・・・ ジョ−? 大丈夫・・・ 」
「 う、うん。 重さはへっちゃらだけど・・・・うわ! このエビ〜〜動くよォ・・・・ 」
活きのよい<買い物>に、 ジョ−はおっかなびっくりである。
「 ははは・・・ エビが妬いてるゼ。
張大人もいい跡継ぎをみつけたな〜 若旦那、あんたその綺麗なオクサンとがんばって
商売繁盛 〜〜 ついでに子供増やしナよ〜〜 」
「 は・・・ははは ・・・ ど〜もォ ・・・ 」
威勢のいい声に送られて、初冬の陽とともにジョ−とフランソワ−ズは地元の市場を後にした。
「 ふふふ ・・・ なんだか滅茶苦茶に誤解されちゃったわね。 」
「 う ・・・ うん ・・・ ごめん、迷惑だった? 」
「 ・・・ ううん。 楽しかった・・・ オクサンって ・・・ ふふふ♪ 」
「 ふ、フランソワ−ズ ・・・ あ、あのゥ。 ぼく ・・・ 」
「 え? なあに、重い? 半分持つわ。 」
「 わ! ・・・ いいよ、いいよ。 そんなんじゃなくて ・・・ あの・・・ 」
「 ・・・・ わたし。 ・・・・ 嬉しかったわ。 」
「 そ、そうなんだ・・・? 」
フランソワ−ズはさくら色の頬をして 呟いた。
「 ジョ−こそ。 ・・・ イヤじゃないの。 所帯持ちなんかに思われたくないでしょ。」
「 そんなこと! ぼくは ・・・ ぼくは。 ぼくも嬉しかった。 ものすご〜く。 」
「 ね? 笑わないでくれる・・・ わたしの夢なの。 その ・・・ ジョ−と ・・・ 」
「 フランソワ−ズ。 その先はぼくに言わせて?
今日の < ミッション > が無事に終了したら、さ。 」
「 ?? ええ・・・ いいわ。 そうね〜 まずは ・・・ 戦闘開始!ね。 」
「 うん。 了解 !! 」
「 うふふ・・・ 久し振りでチャイナ・ドレスのウェイトレスさんよ♪ 」
「 え・・・ ! う〜〜ん ・・・ それならぼくもウェイタ−、手伝うよ。 」
ジョ−は密かに拳を握り締めていた。
「 ・・・ なんだって ・・・ くそ! どうしてこんなに涙がでるんだ ・・・! 」
アルベルトは張々湖飯店の厨房で ぼろぼろと涙をこぼしていた。
「 そこ! 手がとまっているぞ。 」
現場監督氏は 禿頭をふりふり厨房で采配をふるっている。
「 ・・・! 涙がとまらんのだ。 これはなんなんだ?? 玉葱とは全然ちがう形態なのに
この ・・・ 刺激臭はなんなんだ〜〜〜 」
「 ほっほ。 ええから、ええから。 ・・・ そうや、そんな感じに縦にほそ〜くほそ〜く頼むアル。
アルベルトはん? ええスジしはってるよ。 」
「 ・・・・ く ! ・・・・ 目が ・・・ ううう・・・ 」
「 ダイジョブやて。 われらサイボ−グ戦士、長ネギごときに負けたらあきまへん。 」
「 く〜〜〜〜 」
アルベルトの前には 見事な細さになった白髪葱が山をなしている。
「 おう、見習い。 それがおわったら慈姑の皮剥きだ。 さっさとしろ。 」
「 ・・・ く ・・・ そ ・・・・! 」
死神の異名をとったオトコは 今日も左手の電磁ナイフをふるい続けていた。
「 ジョ−ォ? そんなにくちゃくちゃ弄くりまわしたらダメよ。
ほら ・・・ こんな風にさささ・・・って ね? 」
「 う・・・ん ・・・ でもね。 ぼくがやると中味が多すぎてパンクしたり・・・
ああ・・! 今度は少ないよね? これじゃ ・・・ このを取ったヒト、怒るよね。 う〜ん・・・ 」
「 ほらほら。 そんなにいちいち悩まないで! だいたいでいいのよ、スプ−ンで一掬い。
それで ・・・ きゅきゅきゅ ・・・って。 ね? 」
「 わあ〜〜〜 凄いや。 フランソワ−ズ、上手だねえ・・・
あ ・・・ ねえ、お願いがあるんだけど。 」
「 あら。 なあに。 」
「 そのゥ ・・・ また、ウチでも作って欲しいんだけど。 そのゥ ・・・ 」
「 勿論。 リクエストしてちょうだい。 そうだわ〜〜 博士が退院なさったら
皆でパ−ティ− しましょ。 快気祝いの 餃子パ−ティ− ♪ 」
フランソワ−ズは手早くできあがった小振りの餃子を大皿に並べてゆく。
「 あ ・・・ う、うん。 それもいいね。 あのゥ ・・・ そのゥ・・・・
ぼく達が けっこ ・・・ 」
「 あ! ジョ−ったら! そんなに皮を握り締めたら ・・・あ〜あ。 穴があいちゃったじゃない。 」
「 ・・・あ ・・・ ごめ ・・・ 」
「 もう・・・ いいわ。 これはあとで ・・・ 皆でワンタン・ス−プにでもしましょ。
えっと。 あと一皿ね〜 ジョ−? またひき肉を混ぜてくれる〜〜 はい、ボ−ル。」
ジョ−の前に どん! と洗面器よりももしかしたら大きいかも・・・というボ−ルが置かれた。
「 ・・・ あ。 ああ、いいよ。 」
ジョ−はなぜかチカラなく頷き − どうしてこんなにいつだって邪魔が入るのか ・・・・ と
そっと。 本当にそうっと溜息をついた。
「 ほいで ・・・ そろそろ味見 ・・・。 グレ−トはん? 何をしはってるねん?? 」
「 く〜〜〜〜〜 !!! 」
小さな壷に箸を突っ込み。 総支配人氏は力いっぱい ・・・ 混ぜていた。
艶やかな禿アタマのてっぺんまで真っ赤になって グレ−トは握った箸を回す。
「 ほいほい・・・ 良い塩梅アルか? ここは ピリっと。 ほんでも鷹のツメとは違う辛さが欲しいねん。 」
「 く 〜〜〜〜〜 !!!! 」
「 ワテが嗅ぐべきなんやが・・・ しょうもありまっせん。 ココひとつ・・・ グレ−トはん? 」
どや? と料理人氏はグレ−トがしか!と握っていた壷をひょい、と彼の鼻先に向けた。
「 ・・・な・・? ・・・へ ・・・へ、へ・・・へっくしょ〜〜〜〜い!!! 」
「 よし。 これで〜〜〜 溶き芥子は及第アルね! 」
「 ・・・ たかがマスタ−ドに ・・・ これほど体力を使うとは・・・なあ・・・ 」
へいっくしゅ!
総支配人氏は 涙も一緒に飛ばしていた。
「 ・・・ ありがとうございましたっ!!! 」
「 ご馳走さま〜〜 本当に美味しかったですよ〜〜 」
ジョ−は最後の招待客を送りだし深々とアタマを下げた。
「 ・・・・ おわったぁ ・・・・ 」
「 終わった ・・・ わね・・・ 」
ジョ−の掠れた声とともにフランソワ−ズはトレイを持ったまま、ぺたり・・・と床に座ってしまった。
・・・ わ ・・・! そ、その格好で ・・・・
ジョ−はあわてて目をそらし、ぼそぼそとつぶやいた。
「 あの ・・・ ぼく、その格好・・・キライじゃないけど・・・ あの〜〜 」
「 ・・・ え? ああ。 ごめんなさい、お行儀悪かったわね。 」
フランソワ−ズはスリットの深いチャイナドレスの裾をひっぱり よろよろと立ち上がった。
「 なんか・・・ 気が抜けちゃって・・・ 足元が崩れた気分だったの。
うん、もう大丈夫♪ ジョ−、ご苦労様〜〜!!」
「 きみも! ウェイトレスさん、ご苦労さま。 さあ〜〜 大人にも お疲れ様!を言いに行こうよ 」
「 ええ、そうね。 みんな ・・・ ほっんとうに美味しい美味しいって喜んでいたって 早く伝えなくっちゃ♪ 」
ジョ−とフランソワ−ズはがらん・・・・とした店内をぬけぱたぱたと厨房に駆けていった。
「 そやったか・・・・ ほんまに ・・・ 」
二人の報告を聞いて、張々湖飯店の店主もまた、ぺたん・・・と床に座り込んだのだった。
店主は最後の点心を共した際に、宴席に顔をだし挨拶をしていたのだが、やはりすべてを
無事終了するまで気が抜けなかったのだ。
「 ははは ・・・・ 終わったか・・・! 」
「 ・・・ ああ。 終わり良ければ ・・・ ってな。 」
「 そりゃ我輩の台詞だ ・・・ アルベルト。 」
「 ・・・ さあ! これから ぱぁ〜〜〜〜〜っと 打ち上げやでぇ〜〜〜 !!」
こうして 張々湖飯店の大騒動の日は無事に幕を閉じたのである。
「 それじゃ・・・ お休みなさい。 」
張々湖飯店を出ると かなりの時間になっていた。
夜になっても空はきっかりと晴れ上がり ジョ−とフランソワ−ズは満天の星明りに歓声をあげた。
「 わぁ・・・・ 綺麗ねえ、お星さま・・・! 」
「 あ〜あ ・・・ お腹いっぱいだア・・・・ ねえ、歩いてゆかないか。 」
「 ええ、そうしましょう。 すこし動かないと ・・・ 」
「 そうだよね。 ああ ・・・ 夜風が気持ちイイなあ・・・ 」
「 素敵なwedding
party だったわね。 幸せのお裾分け、もらっちゃったわ。 」
フランソワ−ズは 手にした花束に顔を寄せた。
ブ−ケ・トスではないけれど、御礼に・・・と花嫁さんから送られたのだ。
「 これを ・・・ 受け取ってください。 」
「 え? でも・・・」
花嫁さんは 可憐なブーケをフランソワ−ズに差し出した。
披露パーティも終わりに近く、お客様を送りに立ち彼女は出口近くに控えていたフランソワ−ズに
つかつかと歩みよったのだ。
「 ぜひ、あなたに。 そして張大人にお礼をお伝えください。 」
「 はい、確かに大人には伝えますわ。 でも ・・・ このブ−ケは今のドレスに合わせたものでしょう?
とってもお似合いです。 」
花嫁さんはオレンジ色を基調にしたス−ツに着替えていた。
「 ありがとうございます。 とても・・・とても気持ちのよい披露宴でした。
お食事もとっても美味しかったです。 ふふふ・・・ 私も彼もお腹いっぱい頂いてしまいました。 」
ピンク色の頬をもっと濃く染めて、花嫁さんはちょっと恥ずかしそうだった。
「 ブーケ・トスのものでなくて申し訳ないのですが。 きっと次の花嫁があなたでありますように・・・
あの、素敵な茶髪の方と、ね? 」
「 ・・・・ ありがとう ・・・ ございます・・・ 」
フランソワ−ズはその幸せを束ねたブ−ケをそうっと受け取った。
「 お裾分け ・・・ じゃなくて。 」
「 え? なあに。 」
「 お裾分けじゃなくてさ。 ホンモノを、ね。 ・・・ フランソワ−ズ。 あの。 」
「 なあに、可笑しなジョ−? 花束をくださるの。 」
「 ち、ちがうよォ!! <ミッション> も成功裡に終ったし。 約束どおりに・・・
・・・ えっへん。 あ ・・・ あのゥ・・・ 」
目をぱちぱちさせているフランソワ−ズに ジョ−は一言 ・・・ !
「 ぼくと結婚してください! 」
**** おまけ
しっかりと手をつなぎ、なぜか顔を赤らめあった2人がギルモア邸に帰りつくと。
ばん!
玄関のドアが勢いよく開き、ギルモア博士が飛び出してきた。
「 おお! やっと戻ったか! 待っておったぞ。 」
「 博士?! 退院なさったのですか?? 」
「 いや。 あのセンセイが引きとめるからの、外出許可をもらって来たのじゃ。
お前達 ・・・ 不具合の続出だそうじゃないか! 」
「 え・・・ 誰に聞かれたのですか。 」
「 アルベルトじゃ。 アイツがきちんと報告してくれたわい。
ああ・・・ ジョ−よ、お前もそんな赤い顔をして・・・ オ−バ−ヒ−トしておるのかな? 」
「 ・・・あ、 あのう ・・・ 」
「 ふむ。 手も熱いのう。 まずはお前からじゃ。
臨時のメンテナンスを行うからな! 」
「 あ・・・! 」
言葉もでないジョ−を 博士はずんずんと研究室に引っ張って行ってしまった。
「 ・・・・ 終りよければ全て良し、・・・かしら。 」
ジョ−の半ベソ顔を見送って フランソワ−ズはクス・・・っと笑った。
************ Fin ***********
Last updated :
11,13,2007.
index
***** ひと言 *****
はい、あのお話の 後日談 であります♪
原作では ジョ−君って ・・・ ちょっと最後にウェイタ−さんやってるだけ!なんですね〜。
実際に動いたのは 2 と 8 。 フランちゃんだってちょっと色気ナシなチャイナで
お給仕しているのに・・・
ソノ分?のペナルティ−でしょうか、平ゼロではジョ−君、こき使われてましたけど(^_^;)
原作ラストペ−ジのフランちゃんの台詞から むらむらむら〜〜と妄想してみました♪