『 晩夏 』

 

 

 

 

 

 

その島は海と空に抱かれて、 全てが青一色に染まっている・・・かと思われた。

多くの島が点在する海域にありながら ぽつん、と離れているその佇まいはまるで

他者との交流を拒んでいる風にも見える。

しかし 風はどの島にも同じ季節をはこび太陽は等しくぎらぎらと照りつけるのだった。

日が西の果てに姿を隠すとき、その島も一緒に茜色に燃え上がる。

 

「 ・・・ 最期の輝きか・・・ 

断崖の上から眺めていると彼女自身もまた、赤々と燃え尽きてゆく気持ちがした。

白いロ−ブもその下から伸びるすんなりした手脚も 背を覆う黒髪も そして黒曜石の瞳も。

そう・・・・

なにもかも 太陽の炎に包まれ 滾る想いの熱さに焼かれてゆく。

「 ・・・ こんな風に。 私もこの命を終えることができるのだろうか。 」

彼女の口からぽつり、と言葉が漏れた。

いつの頃からだろう。

一日の終わりにこの場所に来て 太陽を見送るのが習慣になっていた。

 

   ・・・ 神、女神。 それは 誰が決めたのだ

   わからない ・・・ 私には少しも 何もわからない・・・

 

茜色が残る海原を見つめていた眼差しが 力なく足元に落ちる。

乾いた地表には風にさらされた石材がちらばり、その間からわずかばかりの緑が顔を覗かせていた。

「 こうやって生きてゆくものもあるのだな。

 この地にしがみつきしっかりと・・・・ ささやかだがしっかりと地に足のついた<生>・・・ 」

ふうう・・・・  

密やかな溜息が大気に散り 白皙の頬に影を落とす。

「 私は。 私の生き様はなんだというのだ。

 闘いの女神・・・・ そんなことを誰が決めただろう。 私は ・・・・ どうして私なのだ。 」

来るべき戦い恐ろしいのではない。 まだ見ぬ敵に怖気づいているのでもない。

 

お前達は神なのだ。 ヒトよりも何よりも優れた存在なのだ。

あの老人の言葉を信じてきた。 ずっとそのまま その通りに生きてきた。

 

しかし。

 

「 私は。 私は・・・ 何なのだろう・・・ 」

常に心の中に渦巻いてる問いに応える声は  ない。

彼女の呟きは 岩場を踏み拉き近づいてくる足音に飲み込まれていった。

 

「 姉上!  こんなところにいらしたのですか。 」

 

緋と燃える髪を揺らせ、一人の青年が姿を見せた。

白いマントが 彼の姿を一層際立たせている。 

大きな声が 当たりの大気を震わせ、足元に転がる小石が砕け散った。

 

「 アポロン ・・・ 

「 ガイア博士がお呼びです。 ・・・ どうぞ。 

「 博士が・・・ なんだというのだ。 」

「 さあ。 しかし、緊急に全員集まるように、とのお達しです。 」

「 そうか・・・ 」

青年は慇懃に彼女に向かって手を差し出した。

「 お急ぎください、姉上。 」

「 ・・・・・ 」

わずかな衣擦れの音を残し立ち上がり、 彼女は青年に一瞥もくれずすたすたと歩きだした。

「 姉上 ・・・! ご一緒いたします!

 

夕闇が二人を追ってこの島にも訪れ始めていた。

 

    ここは ギリシア ・・・・  群青の海と空の地 ・・・・

 

 

 

 

「 フランソワ−ズ? あと・・・ 運ぶもの、あるかい。 」

ジョ−がぱたぱたとキッチンに戻ってきた。

「 え〜と・・・ ポットもOKでしょ、お茶の支度は大人とグレ−トに任せたし。

 食べるモノはもう全部運んだし・・・ 」

シンクの前でフランソワ−ズはあれこれ数え上げている。

「 ぼくが見たカンジ、だいたい・・・いいと思うけどね。

 ふふふ・・・ 久し振りだね、これだけの人数がそろうなんてさ。 」

「 本当。 ジョ−ったらなんだかウキウキしているんじゃない? 」

「 え・・・ そんなコト・・・へへへ ・・・ あるかなあ。 

 賑やかなのって楽しいじゃん? ぼく、皆でわいわいお茶したり食事するの、好きなんだ。 」

「 そうねえ。  皆の元気な顔をみて故郷でのコト、いろいろ聞くの楽しいわよね。

 ・・・・ ただの、<楽しい集まり>ならもっといいのに。 」

フランソワ−ズの顔に さっと陰が差す。

シンクの縁をつかむ手が すこし震えている。

「 あ・・・ うん。 ごめん。 」

「 まあ、おかしなジョ−。 どうしてあなたが謝るの。 」

「 え・・・ だって。 なんだかぼく、一人ではしゃいでいるね。 ・・・ ごめん・・・ 」

「 また・・・ 本当にヘンなひとねえ。

 そうね、目的は何であってもまた皆が一緒にいてくれるのは嬉しいし心強いわ。 」

「 ・・・・ ぼくじゃさ、頼りないよね・・・やっぱり・・・ 」

「 そんな意味じゃないわ。 ジョ−、わかっているくせに・・・

 わたしが一番好きなのは 博士とイワンと ・・・・ ジョ−と。 この家で静かに暮らす毎日なのよ。 」

「 ・・・ ウン、それはぼくも同じだけど。 でも・・・ 」

「 そうね。 静かな日々は・・・ わたし達の安息の時は終わりなのかもしれないわ。 」

「 まだわからないけど。  でも、さ。 きみも言っただろ?

 ぼく達 ・・・ みんな一緒だもの、大丈夫さ。 」

「 だと ・・・ いいのだけれど。 」

「 大丈夫。 そんな顔、やめてくれよ、フランソワ−ズ。 ぼくは・・・ぼくがきみの笑顔を護るから。

 どんなことがあっても、きっと護るから! 」

「 ・・・ ありがと、ジョ−・・・・ 」

フランソワ−ズはことん、とジョ−の胸に額をつけた。

 

「 うぉ〜〜い! 小腹が減っちまった〜〜 何かねえ? 先にちょちょっと喰い・・・ あれま。 」

ばん! 

キッチンのドアを蹴飛ばして 赤毛ののっぽが跳び込んできた。

「 お〜やおやおや。 こりゃまたシツレイ〜〜 

 なあ、クラッカ−かなんかねえ? それ、もらったら退散すっからよ。

 ああ、でも手早く済ませてくれよな〜〜 もうすぐ始めるってよ、博士がさ。  おっとぉ〜 ! 」

「 ジェット!!! 」

台布巾が宙を切って飛んできた。

「 ととと。 お〜〜 そりゃねえぜ、いっくらオレ様でも雑巾は喰えねえよ。 」

「 もう・・・! ・・・ ほら、これ! 」

「 お♪ サンキュ☆ 」

こんどこそ、クラッカ−の箱が空中からジェットの手に収まった。

「 ほんじゃ、ま。 ごゆっくり・・・とも言えねえけどよ。 ジョ−? 手早く切り上げろよ〜 」

「 ・・・そ、そそそ そんなんじゃ・・・・ ぼく達はそんな! 」

「 はいはい、そのセリフ、聞き飽きたからよ。

 へん、同じ部屋に寝起きしといて な〜にがそんなんじゃ、かよ。 マジやっちゃらんね〜 」

「 ・・・ もう! 」

「 ととと・・・ フラン、お前 ノーコンじゃん? 

 愛のお時間が忙しすぎて射撃の腕が鈍っちまった〜なんてジョ−クにゃなんねえぞ。 」

・・・ばん! 

スリッパの片方が飛んでくる前に のっぽの赤毛は姿を消した。

「 ジェットったら! 」

「 ごめん・・・ フラン、リビングに行こうよ。 なにか足りないものがあれば

 また取りにくればいい。  博士も多分待っているよ。 」

「 そうね。 ・・・ ああ、もう・・・。 」

フランソワ−ズは台布巾やらスリッパを拾い上げた。

「 ジョ−。 」

「 うん? なにかもってゆくものがあったかい。 」

「 ううん、そうじゃなくて。

 あのね。 わたしも、護りたいの。 ジョ−を、そして皆を。 そう、わたし達の愛するものを、ね。 」

「 ・・・・ うん。 そうだね。 」

「 だからどうぞ安心して。  ― わたし、負けないから。 」

碧い瞳には今、つよい輝きが漲っている。

たった今までの 不安に慄く少女の面影はどこにもなかった。

 

   ああ・・・ ! この瞳さ、この眼差しなんだ。

   いつもいつも ぼくを護り、 そして ぼくに勇気をくれるのは・・・!

 

「 ぼくも。 負けない。 」

ジョ−はにっこり微笑むと、片手を差し出した。

「 さあ。 行こう。 」

「 ええ。 行きましょう。 」

・・・ パタン。

キッチンのドアが 軽い音をたてて閉まった。

それは 安息の日々の終わり そして 闘いの日々への始まりの合図だったのかもしれない。

 

 

 

「 それじゃ・・・裏にはやはり? 」

「 さよう。 恐らくBGかその息の掛かった組織が噛んでいるのは確実じゃ。 」

「 ・・・・・・・・ 」

言葉にならない吐息が 広いはずのリビングを占領してゆく。

明るい夏の日、 海風が爽やかに吹きぬけてゆくのに、

その広い部屋にはいつまでも重い空気が澱んでいる。

 

「 次にそいつら・・・ その、なんですか、神話に出てくる恰好をしたヤツらが現れるのは

 確かにそのポイントなのですか。 」

「 恐らく、な。 」

「 へ〜 なんだァ、ソイツら。 ジョ−、なんつったっけか? 

 ほれ、お前んとこで流行ってるんだろ。 アニメやコミックのヒ−ロ−の恰好するヤツ。 」

「 え・・・ ああ、コスプレ? 流行ってるってまあ、ごく一部だと思うけど。 」

「 そ〜そ〜。 ソイツらさ。 ソイツらがワルノリしたんとちがう? 」

「 いや。  いささか常軌は逸しているがの。 遊び半分ではないのじゃ。

 使用された武器は殺傷力の高いものだし、 それに ・・・ 」

博士はなにやら新しい画像を映しだした。

「 これを見ろ。 これは・・・・映画やTV向けの <ツクリモノ> とは思えん。 」

「 ・・・ ふん・・・? ロボットとは思えない動きですな、やはり・・・ 」

「 サイボ−グかそれに似た存在じゃろう。 」

「 ふうん・・・? それじゃ、わざわざ凝ったテを使って神出鬼没をしているのは

 挑発っていうことなのかな。 それも僕たちへの。 」

全員が はっと顔をあげピュンマを見つめた。

誰もがうすうす感じていたことを、彼は実にさらりと言ってのけた。

「 必ずしもそうとは限らないじゃろうが・・・ 」

「 博士。 そう思っていらっしゃるから僕達を集められたのでしょう?

 可能性だけで判断なさったのじゃないはずですよね。 」

「 ・・・ そうじゃ。 」

「 決まりだ。 」

キシ・・・ッと革張りのソファを鳴らして アルベルトが立ち上がった。

「 出撃だ。 ソイツらのテに乗ってやろう。 」

「 O.K  ドルフィンの整備は完了だよ。 昨日、ココに来てすぐやっておいたんだ。 」

「 おう、久々に腕がなるぜ。 へん、神話だと? 気取るんじゃねってんだ。 

 おい、ジョ−? 腕はなまっちゃいねえだろうな。 」

「 うん、大丈夫さ。  でもその前に ・・・ これ。 皆で食べようよ。

 皆が集まるからって フランソワ−ズが焼いたんだ。 美味しいよ〜 」

「 ほっほ。 嬢ちゃん、ウデが上がりはりましたな。 ・・・ このスポンジの肌理細かいコト・・・ 」

「 やれ、またドルフィンの日々か。 それでは我輩は香り高いお茶をとっくりと味わっておこう。 」

「 皆 たくさん食べてね。 やっぱり皆と一緒に食べるのは美味しいわね。 」

「 博士。 最終目的地は。 」

「 ・・・ ギリシアじゃ。 いや、エ−ゲ海の外れに位置する島じゃが。 」

博士はもう一度パネルを操作し海図を呼び出した。

「 この島じゃ。 」

 

   マグマ島。 

 

そんな名前を記されている島にゼロゼロナンバ−・サイボ−グ達の視線が集まった。

 

 

 

「 それではいよいよ本命を迎えるのですね。 」

「 左様。 諸君らはこの地に蘇った現代の神々として 存分にその力をふるって欲しい。

 罪深い人間どもに味方するサイボ−グどもを葬り去れ。 」

「 ふん。 どうも俺達の相手としては役不足のように見えるな。

 ヤツらの主な能力 ( ちから ) とは なんと原始的なことよ! 」

「 そうだな。 これで我ら神々に刃向かおうとはいい度胸だ。 はっはっは・・・ 」

異形の戦士達、いや神々らは 声高に談笑している。

篝火をうけ、石造りの神殿に映る影は みな神話に登場する姿そのままだ。

「 ふん。 ヤツらの正確な能力 ( ちから ) は未知数だが、所詮人間の手がけた

 ツクリモノさ。 われらの敵ではない。 」

常に中心にいる若者は さっと立ち上がった。

炎を燃える髪が辺りに細かい火花を、撒き散らす・・・ 

それはそのまま 彼の感情の昂ぶりであり、迸る情熱の表れなのかもしれない。

「 丁重に迎えてやろうではないか。 この ・・・ 我らが本拠地の島に! 」

「 おう! ふふふ・・・ そして存分にいたぶってやるわな! 」

「 それがいい。 我らはネズミどもがみすみすトラップに入るのを待つことにしよう。 」

黒牛やら豹頭の戦士らは 腹を揺すって哄笑しあう。

海を制する怪物も巨大な青銅の騎士も奇声を上げている。

「 頼もしいな、諸君。 その気合だ。

 ふん、神々のちからとはどんなものか、しっかりと味わわせてやるがいい。 」

「 了解しました、ガイア博士。 

 それでは ・・・ 一応作戦を練っておくか。  おい、アポロン? 」

先ほどの青年が 彼らの輪を抜けてでた。

「 ・・・ ああ、先に始めていてくれ。 すぐに戻ってくる。 」

青年は仲間達の返事も待たずに すたすたと奥の院に向かっていった。

 

石作りの宮殿は奥に向かうにつれ ひんやりとした空気が満ちていた。

カツカツカツ・・・

磨きこまれた石床に 青年の足音だけが大きく響き、ほの暗い回廊は彼が撒き散らす

細かい火花で 一瞬ほんのりと明るくなるのだった。

回廊を抜けると 大きな岩を模した扉が聳えている。

しかし 青年が手を翳すとそれは難なく左右に開いた。

・・・・ ゴゴゴゴ ・・・・

微かな地鳴りがして贅を尽くした居室に 青年は迎えいれられた。

 

「 ・・・ 姉上・・・! 」

「 ・・・ アポロン・・・ 」

「 姉上! ご気分でもお悪いのですか。 集会から黙って抜けられて・・・・ 」

「 ああ ・・・ 心配をかけて悪かったな。 」

紗のカ−テンの陰から 物憂げな声が青年を迎えた。

「 姉上? やはりお具合がお悪いのでは? 失礼いたします。 」

「 ・・・・・・ 」

青年は さっと薄い布を払い豪華な寝台に近寄った。

「 ・・・ アポロン。 そんな乱暴な・・・ 」

「 おや、少しお顔の色が冴えないですね。 なにか・・・ 極上のワインでも持ってこさせましょう。 

 ・・・ 誰か! アルテミス様にワインを ! 」

「 よい、アポロン。 なにもいらない。 私は大丈夫・・・ 」

「 しかし 姉上。 」

「 ・・・ それで作戦とやらは。 私は何をしたらよいのだ。  」

拡がるリネンの海から 黒髪をかき上げ彼女は起き上がった。

胸元を覆うロ−ブが乱れ 白いたわわに実った胸が青年の目を誘う。

「 ・・・ あ、 姉上 ・・・ 」

・・・ ごくり、と青年は咽喉をならす。

「 だから。 私の役割を教えてくれ。 アルテミス・・・ 月の女神として私は何をしたら・・・ あ? 」

「 ・・・ 姉上ッ ! 」 

擦れた声をようやく絞りだすと 青年はそのまま・・・ 彼女を押し倒した。

ともに倒れこんだ拍子に彼女のロ−ブの裾が捲れあがり、蒼白い陰を潜ませた腿までもが露わになった。

「 ・・・ ・・・・ ! 」

「 あ・・・ アポロン・・・! そんな ・・・急に  」

彼女の声など一切耳を貸さず、 たちまち彼女のロ−ブを剥ぎ取ってしまった。

白いリネンの上に なお沈み込む白さを含んだ肢体が横たわっている。

「 ・・・・ お美しい ・・・ ! 

「 アポロン。 ・・・ また、そんな目をして。 」

「 姉上 ・・・ 姉上、姉上・・・!! 」

ひたすらその人の尊称だけを呟きつつ、青年は白い肢体に覆いかぶさっていった。

「 おお、アポロン・・・ 私の炎・・・愛しい炎・・・

 さあ その熱く滾るものを私に注いでおくれ。 」

「 ・・・ ・・・ ! 」

たちまち青年の引き締まった身体と白いたおやかな身体がぶつかり合い、絡み合い・・・

やがて一つに溶け込んでゆく。

「 ・・・ あ ・・・ああ  アポロン ・・・わ・・たしの 太陽 ・・! 」

「 ク ・・・・姉上・・・っ!!! 」

 

 

熱い高みへと上り詰めたあと、二人は海に漂うクラゲとなってただただ体を寄せ合っていた。

「 ・・・ 愛している・・・ 」

「 ・・・ ・・・ 」

白い手が ゆっくりと青年の緋色の髪を梳る。 ゆっくり。 ゆっくりと ・・・ 愛撫する。

細いが強靭な指先は 髪からうなじへそして首筋からするする・・・とどんどん下へ降りてゆく。

「 なぜ・・・・ 」

「 ・・・ なにか、姉上? 」

「 ・・・ なぜ。 なぜ、闘わねばならぬ? 我らは闘わねばならないのか。

  こんなにも愛しい お前・・・ そんなお前がその手を血で染めるのを見たくは無い・・・ 」

彼女の指が漣を送り、愛撫し 密やかにまた熱くする。

「 く ・・ ゥ ・・・! 姉上 ・・・ ああ・・・ 姉上・・・・

 な・・・なんのことやら。 あやつらはいわば害虫・・・ 殺めてなんの咎がありましょう。  

 我らは 神 なのですから・・・ ! 」

「 神 ・・・  そんなこと、誰が決めた。 そして 誰が望んだのか・・・ 私は知らない 」

「 生まれる前から決まっていた我らの運命 ( さだめ ) なのです。 

 愛しい姉上、 わたくしの姉上・・・! う ・・・ ! 」

「 神・・・・? それはヒトではない、ということか。

 ・・・・ そうだな。 確かにヒトではないな。 こんな・・・姉と弟でつるんでいるとは・・・

 動物と同じ・・・ いや それ以下かもしれぬ。 」

彼女はするり、と小麦色の逞しい身体にわが身を乗せた。

「 ・・・ 地獄に堕ちるな。 

「 どこまでも共に。 あ ・・・ く ゥ・・・! 」

「 望むところだ。 」

蒼白い月の光が 灼熱の太陽を覆っていった。

 

 

 

「 あの島だ。 」

アルベルトは ぴしり、と一言、それっきり口を引き結んでしまった。

「 ・・・・ふうん。 妙な形だね。 名前の通り活火山の活動で隆起し、島になったんだな。

 すこし地殻の変動デ−タを録る方がいいかもな。 」

ピュンマは早速 キ−ボ−ドを叩き始めた。

「 ちょっと見にはごく当たり前の この近辺にはざらにある無人島、だなあ。  

 しかし 平凡な外見のしたには得てしてとんでもない本性が潜んでいるものだ。 」

「 ほっほ。 ソレはワテのことアルか? グレートはん。 」

「 へええ〜〜〜 こっちでは神サマは無人島にお住まいかよ。 」

「 なにか判るか。 」

「 う〜ん・・・・ 普通の探索では・・・ なにも引っかからないね。

 ふふん、これではわざわざトラップあり、と宣伝しているようなもんさ。 」

ピュンマは小馬鹿にしたかのごとく鼻先で嗤った。

「 わたしにも 見つけられないわ。 本当に ・・・ 普通の島、に見えるのだけど・・・ 」

「 な〜オッサン。 マジ、あれなのかよ〜 」

「 座標をデ−タに入れてドルフィンを操縦してきたのはお前達だろうが! 」

「 へ・・・! やぶへびだ。 」

「 確かにデ−タ通りにやって来たもの。 やっぱり これはトラップだろうね。

 手分けして上陸してみようよ? ココにいるよりもマシだと思うけど・・・ 

 それに ぼく達が派手に騒ぎを起こしたほうがいいのだろう?」」

ジョ−が控えめに提案した。

「 おうよ。 ジョ−、お前もだんだんミッションってもんがわかってきたらしいな。 

 そんじゃ ちょいと行ってくらあ。 加速して飛んで行けばいくらか目立たねえだろ。 」

「 待て。 」

アルベルトの一言が今にも飛び出さんばかりの赤毛の足を止めた。

「 んだってんだよ? 」

「 敵さんのテに乗ってやろう。 」

「 へ? どういうことさ。 」

「 完璧に本性を隠しているつもりらしいからな。

 こっちは惑わされてやろう。 <なにも見当たらない島> にのこのこと真正面から

 アホ面さげて乗り込んでやろう。  その間に、グレ−ト。 頼むぞ。 」

「 承って候。 」

グレ−トは慇懃に腰を屈めてお辞儀をした。

「 ほっほっほ。 ソレは痛快やねえ。 」

「 トラの穴の奥には虎の子がいるってヤツだよね。 」

「 ・・・ ジョ−はん? あんさん、もっときちんと勉強せなあきまへん。 」

「 え?? 違ったっけ? ぼく、古典の時間にそんな諺、習ったと思うけどなあ ・・・ 」

「 ほら、行くぞ! お前はフランソワ−ズに援護してもらえ。 」

「 え・・・ 」

「 あら。 わたしとではご不満? 009。 」

「 いいえ! よ、よろこんで・・・・ 」

「 はい、ではご一緒に参りましょう。 みんな、行きましょう。 」

「 お〜お・・・ オレ達も女神さまに率いられ出発ってかよ。 」

「 ジェット! ごちゃごちゃ言ってないで、急いで! 」

「 へいへい 女神サマ 」

サイボ−グ達は眼下にひろがる紺碧の海に ― 敵の本拠地に ― 飛び込んでいった。

 

 

 

「 ・・・ ヒョウ〜〜 さっすがに手強いぜ。 」

「 ああ。 並のヤツラではないな。 」

瓦礫の陰からアルベルトはにやり、と合図を送った。

「 オレらが苦戦してるってことはよ? 他の皆・・? 」

「 ・・・ ま、深追いは禁物ってわかっているから適当なところでかわしているだろうな。 」

「 フン! なあ、オッサン。 久々にコンビ・プレ−なんか ど? 」

「 やるか。 外すな。 」

「 そ〜れはオレのセリフ。 んじゃ・・・ ! 」

ザシュ・・・!

瓦礫を吹き飛ばし赤毛が靡いて一直線に上昇してゆく。

 

「 そこに隠れたいたのか! 出来損ないのサイボ−グ、くらえ! 」

豹頭の戦士がレ−ザ−を発射した。

「 空中に逃げる気か! ふふん、そうは行かんぞ! 俺も宙を飛べるのだからな! 」

ザ・・・っと地表を蹴り飛び上がった瞬間 ―

ババババ・・・・!

地上からマシンガンが打ち上げられた。

「 な、なんだ? そうか、お前にも加速装置がついていたのだな。 ふふふ・・・それくらいで

 慌てるこのアキレス様ではないわ。 ・・・ ここだな! 」

空中から地上を狙い撃ちを始めた。

「 行くぜ オッサン! 」

「 おう。 ヤツと同じかすこし低めの位置でとまってくれ。 」

「 あん? いいけどよ? 」

「 ふん。 ヤツめ、自慢気に墓穴を掘った。 ・・・ふふん。アキレスか・・・! 」

「 行くぜ、オッサン! 」

「 ・・・! 」

瓦礫の下に居たアルベルトの姿は忽然と消え同時にその場所にレ−ザ−が炸裂した。

「 仕留めたぞ! ・・・・ ああ?? 」

「 ふふふ 名乗ってくれてありがとうよ。 こっちだ、アキレスさんよっ!!! 

「 な、なんだと? うぬ、そこにいたか! 加速して片付けてやる! 」

ガガガガガ・・・・!

アルベルトのマシン・ガンはただ宙を通り抜けただけ・・・と見えた。

「 おっと! お前さんの弱点は ・・・ ここだろ! 」

ガガガ・・・! 即座にマシンガンが再び唸った。

「 ぐ! うわァ〜〜!??? 

ギュゥ・・・・ン !! バリバリバリバリ・・・・!

突如 宙に豹頭の姿が現れたが、 彼は異常な回転をするとそのまま地上に叩きつけられた。

ド・・・・ン・・・!

「 ワ・・・・ギャァ〜〜〜!!! 」

喚き声が途切れ、豹頭の騎士は動かなくなった。

 

「 ? ヤツ・・・ なんだ、どうしたんだ? 」

「 ふん。 ちょいとな、片方のかかとを吹っ飛ばしてやったのさ。 」

「 カカト? 」

「 ああ。 ヤツの加速装置はカカトにあったんだ。 それを片方壊したから失速して

 加速したまま地上に激突、自爆。 」

「 ほえ??? オッサン、ヤツの機能を知ってたのかよ? 」

「 ふん、ヤツ自身が教えてくれた。 アキレス、と。 」

アルベルトは ぽん、とカカトで地をけった。

「 あ、な〜る ! 」

「 おい。 感心していないで他の連中を援護に行こう。 」

「 あ、ああ・・・ 確かジョ−達が島の東側にいるはずだぜ。 」

「 よし。 連絡を取ってみる。 」

「 頼ま。 上手くやってるといいがよ。 」

< 首尾はどいだい、009?>

< ・・・・・・・・ >

< おい、009? チャンネルを開け! おい? >

< わ!! なにをするんだ、003? 003〜〜〜〜〜〜 !!! >

< ・・・ うッ! ・・・ ジョ ・・・・ − ・・・・  >

< な? なんだ、おい、どうした? 003? ・・・応えろ、009!!!>

< 003、003〜〜!! フランソワ−−−−−ズ −−−−−! >

< 009? どうした、003になにがあったんだ?? >

ジョ−の叫び声と 呻き声に続きかすかな003の悲鳴がほぼ同時に入ってきた。

「 行くぜ、オッサン!  」

「 ああ。 ともかく急げ! 」

「 おう!

ジェットはアルベルトをかかえたまま、全速力で島の東側に飛んだ。

 

 

 

 

「 それで・・・相手はアポロンと名乗ったのか。 」

「 そうだ。 太陽の神、なんだと。  なあ、フランソワ−ズ−は・・・まだみつからない? 」

「 落ち着け、009。 水中のことは008にまかせろ。 」

「 ・・・ でも ・・・ 全然応答がないよ? ずっと・・・呼びかけているのに・・・

 彼女はぼく達ほど 長い時間水中にはいられないはずだ。 怪我もしているし! 」

「 どこをやられた? そのアポロンとかの攻撃はレ−ザ−か 」

「 肩を、右肩を撃ち抜かれていた・・・ アイツの武器はレ−ザ−よりも高温の熱線なんだ。 」

「 なるほどな。 太陽神だから、というわけか。 

「 ぼく、探しに行って来る! 」

ジョ−はコクピットの出口に突進した。

どん・・・!

大きな身体が ジョ−を身体ごと止めた

「 彼女もサイボ−グだ。少々のことでやられたりはしない。 信じて、待て。」

「 ・・・ そ ・・・うだね。 ありがとう、005。 」

「 ・・・・ 」

ぼん・・・っと大きな手がジョ−の肩に置かれた。

 

 

フランソワ−ズはジョ−の目の前で 海に落ちていった。

太陽神を名乗る若者は 指先からレ−ザ−にも似た光線を発しさんざん009を翻弄した。

それは

まるでネズミを玩ぶネコの如くな攻撃だった。

「 ふふふ・・・ 罪深き人間どもの側に立つ、愚かなサイボ−グよ! 消えろ! 」

パシ・・・・・!

光線が飛ぶたびに ジョ−は跳ね飛ばされ岩場に叩きつけられる。

反撃するス−パ−ガンのレ−ザ−ではほとんど歯がたたなかった。

「 ふふふふ・・・・それまでか? ふふん、なんとも情けないヤツだな。

 お前の武器はその、旧式な加速装置だけなのか。 存在する値打ちもないな! 」

「 ・・・ くそ・・・! 」

ジョ−が 強く奥歯を噛み締める。 

しかし若者の指は正確にジョ−の左胸に狙いを定めている。

「 ・・・ ジョ−! 危ないッ! 

「 来るな! 003! 隠れてろーーー! 」

バ・・・・・

ジョ−のス−パ−ガンが若者の髪を掠めた。

「 ほう? 窮鼠 猫を噛む、というわけか。 くくくく・・・・ そろそろトドメを差してやろうか。  」

一条の光線が ジョ−の胸板を狙った。

 

   きゃ ・・・ぁ ・・・・−−−−−−−− !

 

ジョ−が加速装置を噛む一瞬まえに、赤い影がジョ−の前に飛び込んだ。

「 ?? な・・?  003? なんてことを・・!! 」

< ジョ ・・・  無事で ・・・ よかっ・・・・ >

右肩を打ち抜かれ 003は吹っ飛びそのまま断崖から海へ落ちていった。

「 003? ・・・・ 003〜〜〜!!!

 今、助けにゆくから!! 待ってろ〜〜〜 !」

「 後を追うか? ふん、今度こそ二人纏めて片付けてやる! 

若者の指がぴたりとジョ−に狙いをつける。

「 危ないッ!!! 」 

バリバリバリバリ・・・・!

飛びこんできた二人が反撃するのと、005がジョ−を引き戻したのがほぼ同時だった。

「 ・・・引き上げよう! 一旦 退却だ。 」

「 おう ! 」

「 逃げるのかッ! 

「 フランソワ−ズ!! ・・・ フランソワ−ズを助けるんだ!! ・・海に !! 」

「 今は逃げるのが先決だ! 大丈夫、すぐに探しに戻る! 」

サイボ−グ達はそれぞれ損傷を抱えたまま 海中に待機するドルフィン号に戻って行った。

 

 

 

ちゃぷ・・・・ ちゃぷちゃぷ・・・・

穏やかな波の端が 耳元でひそかな音を立てている。

 

   ・・・・ うう ・・・・ こ、ここは・・・・ どこ ? 

 

ぼんやりと開いた目に 煌々と輝く銀色の光が映った。

 

   ?? あ・・・ ああ・・・ お月さま ・・・・ ? 

 

フランソワ−ズはゆっくりと起き上がった。 手を着いた地は湿り気を含んだ砂だった・。

「 ・・・ ? ・・・ くゥ ・・・! 」

身を起こした途端に肩に走る激痛に 呻き声が漏れてしまった。

「 ・・・あまり激しく動かないほうがいい。 応急手当をしただけだ 」

「 ・・・ え??  だ、誰・・? どこにいるの・・・ 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズは目を使う余裕もなくそろそろと声の降る方角に顔を向けた。

「 ここだ。 」

「 え・・・? 

仰ぎ見たそこには。

断崖に突き出た岩場に人影があった。

おりから中天にさした月は 彼女の頬をつめたく蒼白く染めあげる。

漆黒の髪が長く背に流れ 白銀にくっきりと縁取りを与えていた。

月光のなか、白く光る女神が ・・・ 女神の姿がはっきりと浮かびあがった。

・・・ シュタ・・・!

 

微かな音がして、 フランソワ−ズの目のまえに白銀の女神が降り立った。

「 わが名はアルテミス。 月の女神。 

「 ・・・ 月の・・? 」

フランソワ−ズはやっと身体を起こし、彼女と向き合った。

す・・・っと白い指がフランソワ−ズの頬にふれる。

 

    ・・・ あ・・・ ? 冷たい・・・

 

ひんやりとした感触が頬にひろがってゆく。

「 美しい ・・・ 美しい身体をもっているな。 」

「 ・・・え ・・・ あなたが 手当てを・・? 」

そっと右肩に手を当てれば 防護服の裂け目から包帯状の布が触れた。

「 お前が落ちてゆくのを見ていたから、すぐに拾いあげた。 

 あれの熱線をまともに受けたら その美しい身体はたちまちもえあがったぞ。 」

「 ・・・ どうして。  どうして・・・あなたはわたしを助けてくださったの。 

 あなた達の目的は わたし達を殲滅させることのはずなのに・・・ 」

「 美しいものが ・・・ 損なわれるのは辛い。 」

「 どんな命も無碍に損なわれてはいけないわ。 」

「 ・・・ なぜ、ヒトの側に立つ。 

「 ・・・ わたしは ヒト だから。 ヒトを愛しているから。 」

「 ふん、所詮勝ち目などない戦いなのに。 ・・・さあ、このままこの島を立ち去れ。

 罪深く腹黒い人間どもは滅ぼされて当然なのだ。  

 我らが神々の所業に ちょっかいを出すのはやめろ。 」

「 わたしは ・・・ 闘いは嫌い。 戦争、殺人・・・殺し合いはもう沢山だわ。 」

「 行け。 お前だけでも逃げ延びろ。

 夜の間にこの島を離れるのだ。 月が天を支配してる間は誰もわたしに手出しはできぬ。

 わたしのパワ−に勝てるものはいない。 」

アルテミスは フランソワ−ズの腕を引き立ち上がらせた。

「 ・・・ そら・・・行け。 そして二度と我々の前に現れるな。 

「 いいえ。 助けてくださってありがとうございました。

 今は仲間のもとに戻ります。 ・・・ でも、逃げないわ! 」

「 ・・ なんだと? 」

「 あなた達が 無益な破壊行動をやめないかぎり・・・わたし達はここを去ることはできないわ。」

「 折角生き延びる方法を教えたのに。

  ・・・ もう よい。 勝手にどこへなりと行くがいい

月の女神はぷい、と背を向けた。

「 わたしは闘わないわ。 わたしは護りたいだけ。

 わたしはわたしの愛するヒトを ・・・ わたしの愛する全てのモノを 護るの。

 それが わたしの人間としての闘いなんだわ! 」

「 愛するヒト ・・・ 」

「 そうよ。 わたしはわたしの全てを掛けて愛するひとを護るわ。 」

「 ・・・ この 美 を失うのは辛いな・・・  」

「 え・・・? あ・・・ 。 」

長い腕はするり、とフランソワ−ズの身体に巻きつき引き寄せた。

そして 不意に唇を奪われた。

 

   ・・・ あ ・・・・! ・・・・ く ゥ ・・・・

   ああ ・・・ このヒトのこころは ・・・ 熱い・・・

 

「 ・・・ 行け! 」

ぱっと身を離すと 月の女神は踵を返し断崖の上に消えていった。

「 ・・・・ アルテミス ・・・・ 

晴れていた夜空に 薄い雲が流れてきていた。

 

 

 

 

「 アポロン、 そなた・・・明日はどうしても闘うつもりなのか。 」

「 姉上。  なにを気弱なことをおっしゃるのですか。 」

逞しい腕が 白い肢体を抱き寄せる。

火照りの残る身体に ひんやりとした石の寝台が心地よい。

「  ・・・ 誰が決めたのだ・・・ 」

「 え? 

「 我らが 神 だ、などと・・・誰が決めたのだ。 」

「 姉上。 何度申し上げれば・・・ 」

「 ヒトだ、私達は ・・・ 私達だとてモトはヒトだったのだ。

 思いおこせ、我らはガイアに作られたサイボ−グ・・・・  」

「 いえ! 姉上。 お言葉を返すようですが われらは 神。 選ばれた存在なのです。 」

「 ・・・ こんな熱い心をもっているのに。 こんなに温かい心があるのに・・・ 」

「 ふふん。 明日こそはアイツらの息の根を止めてみせます。 

 さあ ・・・ そろそろ夜が明ける。 我らが勝利の日が始まります。 」

青年はそっと彼女を放すとがば、と起き上がった。

「 出撃だ。 」

「 ・・・・・・・ 」

青い月の支配する時間は終わり 東の空は太陽の出番を告げていた。

 

 

 

 

島中に戦いが広がっていた。

爆発音と岩石やら崖が崩れる音、 そして呻き声が大気をうめつくしてゆく。

ぎらぎら照りつける陽のモトで ただただ破壊だけを目的にした闘争が繰り広げられていった。

 

「 だめだ・・・! くるなッ!!! 

「 ・・・ 009? 」

ジョ−はいつになく激しい口調で言い放った。

「 隠れてろ。 あとは ぼくがやる。 」

「 ・・・ わかったわ。 ロケ−ションの座標は脳波通信で直接送るわ! 」

「 了解 ! 

ちらっと一瞬だけ振り向くと次の瞬間 ジョ−の姿は消えた。

「 ジョ− ・・・・! 」

< ぼくはいつもヒトでありたいから。 ヒトを 愛しいヒトを守る!>

飛んできた通信を フランソワ−ズはしっかりと心に刻み付けた。

 

 

「 ふふん・・・ また出会ったな! 今度こそトドメを差してやる。 」

「 ぼくは! ヒトの可能性を信じる。 そして ぼくはいつでもヒトでありたいんだ! 」

ジョ−は 太陽神を名乗る若者と 正面から向き合っていた。

 

  ゴゴゴゴ・・・・・  ゴゴゴ 〜〜〜・・・・

 

不気味な地鳴りがし、島全体が軋んでいる。

「 ふん、小ざかしいヤツめ。 この出来損ないが! 優れた者だけが生き残る価値があるのだ!

 不完全な人間どもには生きてゆく資格などないのさ。

「 だから排除するのか!それが神のやり方か?  」

「 ほう? わかっているではないか。 そう・・・我らは 神! 」

「 こい! ぼくは ぼくの愛するものを護るためなら なんだってやる! さあ、 ぼくが相手だ!! 」

 

  ・・・バッ ーーーーー!!!

 

火花を散らし 加速中の二人は宙で激突し たがいに跳ねとんだ。

「 ふふん ・・・ 小癪な!  

 愚かな出来損ないのサイボ−グよ、・・・ 行くぞ! 」

緋色に髪を靡かせ、 若者はジョ−に飛びかかろうとしていた。

 

「 ・・・ やめろ! やめるんだ!! 

 

青白いロ−ブを揺らした影が 若者の胸に飛び込んだ。

「 な?? なにを?? あ 姉上?? 」

「 アポロン ・・・ ! こんなにも愛しい弟よ・・・ 

 もう・・・いい。 無駄な争いは ・・・ もう、我らが最期としよう。 

「 姉上? この手をお離しくださいッ! こやつめにトドメを・・・! 

「 なぜ・・・殺す? なぜ ・・・ 神とはそんな恐ろしい所業をするのか・・・ 

 もう・・・ もうやめろ。 」

「 姉上! 邪魔をなさらないで ああ? わあ〜〜 」

彼女は 弟の高熱に焼かれつつ弟を抱き締めたまま 落ちていった。

 

  ・・・ 真っ青な どこまでもどこまでも澄んだ大海原へ・・・

 

「 ・・・ アポロン・・・!! ああ、 アポロン・・・ 愛する弟・・・!

 ああ ・・・ああ、アポロン・・・・ 」

「 姉上・・・・!! わああ〜〜〜〜〜〜・・・・・ 」

 

 ジュバ −−−−−− !!!!

 

海面はたちまち白い無数の泡が浮かび煮えたぎる飛沫がせめぎあう。

・・・ やがて

火は 水に呑みこまれ没していった。

 

 

ごごごごご ・・・・・・

突然島全体が大きくゆれ 地面に亀裂が走り出した。

< おい! 逃げろ・・・! 火山が爆発するらしい。 >

< なんだって?? >

< ああ、あのサイボ−グ達が 滅茶苦茶なエネルギ−の使用をしたので 

 この島の火山活動を活性化してしまったらしい。 >

< んなこと言ってよ、コイツら、どうすんだよ〜〜 わあ・・・ >

島の各所で闘っている仲間達に通信が飛ぶ。

< ひええ〜〜〜 ホンマに逃げるが勝ち、アルな〜〜 >

< 巻き添えを喰わんように! いいな! >

< アイ アイ サ−!  名誉ある撤退なり >

 

ごごご・・・・ どーーーーんん・・・・!

 

ついに活火山が火の粉交じりの噴煙を上げはじめた。

地面は大きく傾ぎ、地割れがどんどん大きくなっていった。

やがて

マグマ島 という名の島は渦まく海に呑みこまれていった。

 

 

「 ・・・ 風が ・・・ 涼しいわ。 」

フランソワ−ズは ドルフィン号のオ−プン・デッキに身を預けた。

「 危ないよ、フラン。 まだ波が荒いし・・・ 」

ジョ−が慌てて彼女の身体を引き寄せる。

「 大丈夫よ・・・ ああ・・・ いい気持ち・・・ 」

亜麻色の髪が風に遊び舞い踊る。

太陽は相変わらず照り付けているが 吹きぬける風には最早熱気は含まれていない。

夏も ・・・ 終ろうとしていた。

 

「 二人で一緒ね・・・・ 」

「 うん。 ずっと一緒だよ。 ・・・ ほら、ぼくにもっと寄りかかって。 」

「 ・・・・ふふふ ・・・わたし達だけじゃなくてよ。 」

「 あ・・・ うん、そうだね。 あの二人 ・・・ 姉弟といっていたけど。 

「 愛していたのね。 愛しあっていたわ・・・ 」

「 ・・・ そう ・・・ か。 」

ふわり、と細い身体がジョ−の腕に中に納まった。

「 ・・・ 海 ・・・ すごい色だね・・・青よりももっと青い・・・ 」

「 そうね・・・ ずっとずっと深くて。  二人ともやっと静かに眠れるわね。 」

「 ・・・ああ、 そうだね。 」 

「 もう、誰にも邪魔されないわね。 ずっと ・・・ 」

「 傷 ・・・ 本当にもう大丈夫なのかい。 」

「 ええ。 激しく動かさなければ痛みもないわ。 」

「 ・・・ 心配だな〜 ぼくがしっかり確かめる! ・・・ 今夜 ベッドで・・・さ♪ 」

「 ・・・ もう ・・・

「 ・・・・・ 」

ジョ−は きゅ・・・っと愛しい人の身体を抱きよせた。

 

 

「 お〜い! 出航するぞ! お邪魔虫にはなりたくないがね、戻れ。 」

グレ−トが ぽこり、とハッチから顔をだした。

「 あ・・・・ いけね。 さあ、戻ろうよ。 ほら・・足元、大丈夫かい。 」

「 ありがとう、ジョ−  」

フランソワ−ズは ふ・・・と空を見上げた。

青い 青い ・・・ どこまでも澄んだ空 

そして 足元には 青い 青い ・・・ たゆとう海

 

   ・・・ さようなら ・・・  

 

南国の空は海は 穏やかに微笑を浮かべているだけだった。

 

 

 ・・・ ここは ギリシア     太陽と神話が眠る地 ・・・

 

 

 

******************        Fin.       ********************

 

 

Last updated : 08,19,2008.                              index

 

 

********    ひと言   **********

 

え・・・ ひたすら 平ゼロの <姉上> が書きたかったので

平ゼロ + 原作 ・・・っつ〜珍妙な設定となってしまいました。

本当はど〜して島が沈んだのか、とかいろいろ書くべきなのですけど・・・ご勘弁を<(_ _)>

<姉上> は 平ゼロ屈指の脇キャラだと思うのです。

今回 我らが93には傍観者に回ってもらいました。 

へへへ・・・でもさりげなくフランちゃんに活躍してもらいましたけど・・・・ね♪

なお、タイトルは某有名小説とはまったく無縁です、夏の終わりって・・・切なくて好きです。