『 垣根の 垣根の 』  

 

 

 

 

 

「 え・・・ どうしてもソレがいいの? 

「 うん!! 」

「 そう・・・・  あの、すぴかは? あなたは何がいいの。 」

「 え〜 アタシはなんでもいいもん。 あ!ぷちとまと、入れてね〜♪ 」

「 はいはい。 ねえ、すばる。 サンドイッチ・・・いえ、オムスビ、はどう? 」

「 ううん、僕。 ぷちとまと、いらないから。 」

「 だめです。 ちゃんとお野菜、食べなくちゃダメでしょう? すぴかは大好物なのに・・・ 」

「 ・・・ じゃあ、入れてもいい。 だから〜〜 」

「 どうしても? 

「 うん!! 僕、ぷちとまと も れたす も残さないから! ねえねえ お母さん〜〜 」

「 はいはい、わかりました。 じゃ・・・ 遠足のお弁当は決まり、ね。 」

「 うわ〜〜いい♪♪ おべんと・おべんと うれしいな〜〜♪ 」

すばるはもうぴょんぴょん跳ね回っている。

 

   ・・・ どうしよう・・・ そんなモノ、作ったコト、ないし。

   いいわ、あとでお料理の本を探して・・・

 

フランソワ−ズは こっそり・・・本当にこっそりと溜息をついた。

「 お母さ〜ん、 オヤツ! オヤツがね〜〜 」

すぴかがつんつん母のエプロンを引っ張っている。

「 あら、今日の分はもう上げたでしょ。 ほら、皆アナタのお腹の中でしょう? 」

「 ちがうよ〜〜お! えんそくのオヤツ。 アタシね、みやこ・こんぶ とぉ ぽてち とぉ〜 」

「 ああ、遠足の、ね。 あら、ビスケット、焼いてあげますよ。 皆の好きなオ−ツ・ビスケット。

 レ−ズン入りにしましょうか。あと・・・ウサギのお林檎に・・・あら、バナナの方がいい? 」

「 ・・・ アタシ! みやこ・こんぶがいい! 」

「 僕、らむねと〜ぐみと〜びっくりまん・ちょこと〜 」

「 ああ、ああ、判りました。 あとで一緒にス−パ−まで行きましょ。 」

「「 うわ〜〜〜い♪ 」」

「 えんそく・えんそく・ ウレシイな〜〜♪ 」

すばるはさっそくお得意の <すばる・そんぐ> を歌い始めた。

 

   もう・・・! せっかく添加物とか入っていない手作りのオヤツ、頑張っているのに・・・

   どうしてああいうのが好きなのかしらねえ・・・

 

フランソワ−ズはシンクに向かうと今度は大きく溜息をついた。

盛大に水道を捻ったので 誰にも聞かれることなく溜息は流れていった。

 

コドモ達は母手作りのビスケットやケ−キは 勿論大好きなのだが、

それと同じくらいにス−パ−で買うちまちましたお菓子が好きなのだ。

人気アニメのキャラクタ−とおぼしき絵やら写真がついていて、すばるは大事に集めているらしい。

中味はごく平凡で フランソワ−ズの目からはあまり美味しそう・・・ には見えないのだが。

「 あはは・・・懐かしいなあ。 ぼくもよくコレ食べたよ〜

 なあ、すばる。 そのラムネ、いっこお父さんにもおくれ。 」

帰宅したジョ−は すばるの隣にすわると懐かしそうに眺めている。

お父さんに  おやすみなさい  を言いたくて双子達は頑張って起きていたのだ。

最近、ジョ−は仕事が忙しくなり帰りが遅い。 深夜になることもしばしばだ。

家族一緒に晩御飯のテ−ブルを囲むのは休日だけになってしまった。

「 うん! いいよ〜 ・・・ はい、お父さん、あ〜ん・・・ 」

「 あ〜ん・・・  お♪ これこれ・・・この味だよ〜〜 」

「 お父さん おとうさん〜ん アタシも! はい、みやこ・こんぶ。 」

「 お、サンキュ、 すぴか。  うわ〜〜これってまだこのパッケ−ジなんだ?

 うひゃあ。 全然かわってないなあ・・・ 」

「 アタシね〜〜 コレ、大好き! あとね〜かきのたね、も好き♪ 」

「 そうか? それじゃ今度美味しいの、買ってこような。 

 お父さんも柿の種は好きさ。 すぴか、お前って本当に辛党なんだなあ。 」

「 僕〜〜 あんずあめ がいい。 お父さん、僕にも〜〜 」

「 あんずあめ、かあ。 アレはお祭りとかあればなあ。 よし、今度捜してきてやる。 」

「 わあい♪ 」

ソファの上で一塊になって駄菓子を摘まんでいる 父子を眺め、

フランソワ−ズは フクザツな思いなのだ。

 

   ジョ−ったら・・・ アナタもああいうお菓子がいいの?

   わたしにはアナタ達の味覚がわかりません・・・!

 

「 さあさあ、もうお菓子はお終い。 ちゃんと歯を磨いてお休みなさい。 」

「「 はあ〜い 」」

「 ジョ−、お食事が冷めてしまうわよ? 」

「 あ、いけね。 あはは・・・あんまり懐かしくてつい、ね。 さ〜て今晩の御馳走はなにかな〜 」

コドモ達をバスル−ムに見送り、ジョ−はやっとソファから立ち上がった。

 

 

「 御馳走さま。 ・・・ ああ ・・・ 美味しかった! やっぱりウチのゴハンが最高だよ・・・ 」

「 あら うれしいわ。 ・・・ はい、お茶。 

 わたしの味でいいの? もっとそのう ・・・ 和風なおかずとか沢山作れればいいのだれど・・・ 」

「 え? だって今日の肉ジャガも立派な日本の晩御飯、だよ?

 ぼくはコレ食べるとさ、 ああ ウチに帰ってきたなあ・・・ってほっとするんだ。 」

「 ・・・ ジョ− ありがとう。 これ、ね。 昔わたしの母が作ってくれてたポトフを応用しただけなの。

 だから・・・多分 本当の<肉じゃが> じゃないと思うわ。 」

「 本当かどうかなんて関係ないって。 ぼくは、そしてチビ達はこの味が好きで

 これがウチの味なんだもの。 ぼくは所謂<おふくろの味>って知らないだろ。

 うん、ぼくにとっての おふくろの味 はきみの料理なのさ。 」

「 そう? ふふふ・・・ フランスと日本がごちゃ混ぜになってて・・・ ウチそのものみたいね。 」

「 そうさ、奥さん。 <ごちゃ混ぜ>の結果は 今頃ベッドの中で蒲団を蹴飛ばしているよ。 」

「 ふふふ・・・ そうよね。 あ! いけない、わたし、縫い物があるんだわ。 」

「 またすぴかが服を破いたのかな。 」

「 ううん、袋を縫うの。 袋じゃなくて本当はリュックなんだけど。 それもふたつ! 」

「 リュック?? 幼稚園で必要なのかい。 」

「 ええ。 明後日遠足でしょう? 春の遠足の時にね、可愛いリュックを背負っているお友達がいて

 ああ、あんなのウチの二人にも縫ってあげたいなあ〜って思っていたの。 

 ず〜っと忘れていたのよね、わたしったら。 」

「 ふうん、いいなあ。 お手製のリュックか。 」

「 それにね、今度の遠足には なにかしっかりした袋をもたせて下さいって。

 ソレをもって行くのですって。 おいもほり なんだけど・・・ねえ、ジョ−。 おいもほり ってなあに? 」

「 ああ! 遠足なのかあ〜〜  おいもほり? わあ〜〜秋だものなあ・・・・

 あ、芋堀ってね、皆で畑にお邪魔してちょうど収穫時期の芋を掘らせてもらうんだよ。 」

「 ??? この辺りでイモ畑なんか・・・ある? もっと寒い土地じゃないの?

  日本では北海道とかが有名な産地でしょ。 」

「 え?? あ、その 芋 じゃないんだ。 ジャガイモじゃなくて、サツマイモさ。 

 う〜〜ん・・・??? あ! そうだ、スウィ−ト・ポテトの材料の芋。 」

「 ああ! あの濃いピンク色の長っ細いのね?  patate のことね。 」

( 注 : ジャガイモ は pomme de terre  )

「 うん。 日本ではね、秋ってばやっぱりサツマイモなんだ。 特に女性は好きらしいよ。 」

「 そう・・・? そりゃ スウィ−ト・ポテトは美味しいけど・・・ 」

「 ふふふ・・・ 他にもね、たくさん美味しい食べ方があるのさ。

 へえ・・・芋ほりかあ。 そりゃ、今度の週末はチビ達と一緒に庭掃除だな〜♪ 」

「 ???? 」

「 ともかく週末が楽しみだよ。 いいね、秋だなあ・・・・ 」

ジョ−はなにやらご機嫌で食べ終わった食器をシンクに運び始めた。

「 あ・・・ いいわ、ジョ−。 わたしがやるから。

 あなた、残業続きで疲れているでしょう?  お風呂入って早くお休みなさいよ。 」

「 うん・・・ でもな〜こういう全然別に作業って結構アタマ休めになるんだ。 

 それに、さ。 二人でやればそれだけ早く片付くだろ・・・ 」

ジョ−は側に立っている彼の細君の唇に さっと小さなキスを落とす。

「 ・・・ きゃ♪ もう・・・ こんなトコで。 本当にジョ−は悪戯っ子ねえ。 きゃ・・・もう〜〜 」

「 そうさ♪ ぼくは手に負えない悪戯っ子なんだ♪ 

 このところ ずっと <ひとり> で 淋しかったんだ・・・・ 」

「 あら。 だって忙しいのでしょ、早く寝たほうが・・・  」

「 それとコレは別なんだ。 ・・・ ああ・・・ ゆっくり < 休み >たいなあ・・・・

 きみ、のトコでさ♪  ねえ、いいだろ、愛する奥さん♪ 」

するり、とブラウスの襟元から長い指が忍び込む。

「 ・・・ ほらほら・・・ ちゃんと手を拭いて。 あ・・・・もう ・・・・ や・・・だってば・・・ 」

「 ふふふ・・・ きみだって♪ ね。元気になるために 元気を分けっこしませんか。

 ぼくはさっさと風呂に入ってきますので〜 ・・・・ 先に寝ちゃうなよ?! 」

「 はいはい・・・ それじゃ わたしはここを片付けて。  ・・・ 待ってる ・・・ 」

「 わお♪ そうこなくっちゃ♪ 」

ジョ−はきゅ・・・・っと彼女を抱きしめると肌蹴たブラウスの襟元に熱く唇を寄せた。

「 ・・・ へへへ ・・・ 予約済み♪ 」

「 きゃあ・・・ もう〜〜 本当に 」

「 うん、悪戯っ子・ジョ−は 悪いコ・ジョ−なのさ。 ・・・ じゃ あとで。 」

「 ふふふ・・・ <あとで>。 悪い子・ジョ−君♪ あんまり悪戯するとオヤツはナシよ〜〜 」

「 あはは・・・それだけは 勘弁してくださ〜い・・・ 」

ジョ−は朗かな声を残し 二階に昇っていった。

 

   さて ・・・と。 あとは布巾を煮沸して・・・

   あ! いけない・・・ リュック、縫うつもりだったのよね。

   ・・・ まあ、いいわ。 明日 頑張っちゃう。 

 

フランソワ−ズはキッチンを綺麗に片付けると 足取りも軽く寝室に戻っていった。

 

 

003は。 この時点で決定的なミスをしている。

未知なる不可思議な モノ について 同僚であり戦友でもある009に

確認する義務を きれいさっぱりと失念していたのだ。

・・・ そう。 

003も、そして頼りの009すらも。

二人は 彼の腕の中で そして 彼は彼女の中で 燃え上がる夜に夢中になっていたのだった。 

 

 

 

 

そう・・・! 遠足、 なのだ!!

島村さんち の双子の姉弟はこの四月に無事に幼稚園に上がり、あっという間に

夏休みが過ぎ・・・秋も真っ盛りのこの季節、明日はいよいよ えんそく の予定である。

「 ああ、春にも行ったわね。 ひろ〜い草原みたいな原っぱで 皆で遊んだわねえ。 」

「 うん。 こんどはね〜 すぴか達だけ、なの。 すばると〜せんせいと〜みんなと〜

 いくんだよ。 それでね、 とおくないえんそくなの。 」

「 ???? よく ・・・ わからないけど。 ねえ、すぴか。 <おしらせ>は?

 せんせいがプリント、配ってくださったでしょう? 」

「 ・・・ わかんない。 」

「 もう・・! すばる? すばるはどうしたの、プリント。 」

「 ・・・ 知らない〜〜 」

「 もう〜〜! すぴか、ちょっと幼稚園おカバン、見せてちょうだい。 

 ・・・ あ! ほら、あった! あ〜あ・・・ こんなにしわくちゃになっちゃって・・・ 」

フランソワ−ズはすぴかの鞄の底からくちゃくちゃのプリントを引っ張り出した。

「 あ〜 せんせいがお母さんにわたしなさいって・・・ 」

「 ! すぐに出さなければだめよ。 ・・・え〜と・・・? なになに・・・ ? 」

「 お母さん、おかあさ〜ん! それでね。 おべんとうね〜 」

「 すばる、ちょっと待って・・・ お母さん ゆっくりじゃないと日本語、読めないの。

 ・・・ えんそくのおしらせ、ね。 ・・・・・ 」

「 お母さんってば。 あのね、遠足のおべんとうね〜〜 」

「 ・・・・ ふんふん ・・・ 持ち物。 しっかりした袋。 ・・・???? 」

「 おべんとうね〜 のりまき にして。 」

「 はい・・・・   え?? なあに、すばる。 」

「 のりまき! お母さん! 僕、・・・ のりまき がいい! 」

ジョ−にそっくりなセピアの瞳が 真剣にフランソワ−ズを見つめている。

 

   ・・・・ のりまき ・・・??? 

 

 

東の果てのこの島国にやって来て、沢山の未知なモノに出会ってきた。

そして

運命の出会いをしたヒトと人生を分かち合うこととなり・・・コドモ達にも恵まれ

フランソワ−ズの 未知との遭遇 は本当にいろいろあったのだけれど、

今、また新たなる 出会い が待っていたのだ!

 

   ・・・・ のりまき ・・・・???

 

それは彼女にとっての新たなる挑戦の始まり、でもあった。

 

 

 

「 ・・・ いけいない! ジョ−に聞くの、すっかり忘れていたわ。 」

翌日の晩、フランソワ−ズはジョ−からの電話と切ったとたんに 思い出した!

昼間、がんばって明日のために二つのリュックを縫い上げた。

ピンクとブル−、チェックの生地もアクセントに使い、なかなか可愛いく出来上がったのだ。

「 わあ〜〜 明日、コレもってゆくの? すご〜いすご〜い! 

 おかあさん!アタシ、きてみる〜〜 」

「 ふふふ・・・ あら、 着る、じゃなくてね、背負うっていうのよ、リュックは。

 はい・・・ほら、こっちにお手々通して・・・そうそう、次はこっち。 ・・・・どう? 」

「 わあ〜〜い♪  おせなかでなにかことこと 音がする〜〜 」

「 中にね、オヤツが入っているのよ。 重くないでしょ? 」

「 うん! わあ〜〜い♪ 」

「 おかあさん、ぼくも〜〜 ぼくも! 」

「 はいはい・・・ ほら、すばるはこっち。 はい、始めにここにお手々を入れて? 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

「 あら〜〜 可愛いわねえ〜〜 二人、お揃いで素敵、素敵! 」

「 えへへへへ・・・ おかあさん、おべんとうも入れてね。 」

「 はいはい。 ・・・・ あ! ・・・ のりまき ・・・・! 」

「 うん♪ 僕 すご〜〜くたのしみになんだ〜 わたなべ君もね、のりまき なんだって。

 いっこっつ とりかえっこしようね〜ってやくそくしてきたんだ〜 」

「 え・・・・ と、取替えっこ・・・? 」

「 うん♪ ね〜 すぴか? 」

「 え? ああ・・・ アタシは〜〜 ねえねえお母さん、 ぷちとまと! 忘れないでね。

 あとね〜〜 ちゅ〜りっぷのゆでたまご、いれてね。ね、ね。 」

「 はいはい・・・・ ちゃんと入れてあげますよ。

 ねえ、すばる。 わたなべ君も ・・・ のりまき なの? 」

「 そ〜だよ〜 あのね、わたなべ君ちの のりまき、すご〜〜くおいしいんだ〜〜

 このまえね、おべんとうの時、いっこもらったの。 」

「 まあ。 ちゃんとお母さんに言ってちょうだい。 」

「 う・・ん・・・ 僕もね〜 ろーるさんどいっち、あげたんだよ。 とりかえっこ。 」

「 ああ・・・ そうなの。 」

わたなべ君はすばるの一番の仲良しで 彼のお母さんはお料理上手なのだ。

フランソワ−ズよりちょっと年上でなかなか気さくなヒトなので 母親同士も仲良くしている。

日本の生活習慣やら和風の献立について、教えて頂くこともしばしばだ。

 

   うわ・・・ 困ったわ〜〜 ジョ−に教えてもらわなくちゃ。

   あ・・・! 今日は帰れるかどうかわからないって言ってたんだわ・・・

 

ジョ−の仕事は雑誌社の編集部勤めで 絞め切り日やら校了日には徹夜のこともある。

今晩は帰宅できるかどうかわからないから 先に休んでいてくれ、とたった今、

ジョ−は電話をしてきていたのだ。

どうも今回は間の悪いコトばかりが重なってしまった。

 

   ・・・ いいわ。 あとでお料理の本、見ましょ。 

   のりまき ・・・ ねえ? ・・・あ! <のり> ってあの海苔かしら。

     それならまだあるから、なんとかなる、かも・・・

 

オムスビ好きの子供たちのために、島村さんちのキッチンにはちゃ〜んと大きな海苔が

常備してあった。

 

「 お母さん、お母さんってば! ねえ、ねえ〜〜 」

「 ・・・ あ・・・ え? なあに。 」

気がつけば コドモ達が両側からつんつんスカ−トを引っ張っている。

「 お母さん! いいでしょ? 」

「 わあ〜〜い、 僕はぁ〜 すい〜とぽてと がいいな。 

「 アタシ・・・ 甘くなくしてね、お母さん。 」

「 ・・・え ・・・ なにが。 」

「「 だ〜か〜ら! おいも。 」」

「 あ・・・ ああ、そうそう・・・お芋、ね。 ええ、ええ。 二人とも沢山取ってきてね。

 お父さんも楽しみだな〜って言ってたわ。 」

「 お母さん。 」

すばるがすご〜〜く真面目な顔で母を見つめている。

 

   あら、なにかしら。 ・・・きゃ〜〜この目、ジョ−にそっくり・・・

   こんな目で見つめられたら・・・ わ・・・なんだかドキドキして来ちゃったわ・・・

 

母はほんのり染まった頬に掛かる髪をさり気なく髪なんぞをかきあげたりしている。

しかし。

彼女の小さな息子はますます真剣な眼差しで じ〜〜〜っと見つめている。

「 な・・・なあに、すばる。 ちゃんとスウィ−ト・ポテト、作ってあげますよ。

 そうだ! お林檎と一緒に甘く蒸してもいいわよね? 」

「 お母さん。 あのね。 

「 ・・・ はい。 」

「 ほる んだよ。 とる んじゃなくて。 」

「 ・・・ は? 」

「 おいもほり、 って〜 はたけの中にいるおいもさんを ほる のよ〜ってせんせいがいってた。 」

「 ・・・あ、ああ・・・そ、そうなの? ふうん・・・ すばるは偉いわね、ちゃんと先生のお話、

 聞いてて。 だから こんどからちゃんと!プリントを持って帰ってきて頂戴、いいわね。 」

「 うん! 」

「 お母さ〜ん、オヤツ〜〜 」

「 僕も、僕も オヤツ〜〜 」

「 はいはい・・・ ちょっと待ってね、ここ・・・片付けるから。 」

 

   え〜と・・・ お料理の本・・・ <和食入門>はどこに仕舞ったかしら ・・・?

 

フランソワ−ズは針仕事を片付けオヤツの用意をし・・・ <のりまき>解明は後回しになってしまった。

 

 

 

パタン・・・!

フランソワ−ズの手から薄い本が転げ落ちた。

「 どうしよう・・・ !  ないわ。 どこにも・・・載ってない・・・ 」

ぺたり、とソファに沈み込んだきり・・・彼女はアタマを抱え込んでしまった。

そう。

日本に落ち着いたばかりのころ、街の本屋で見つけた < 和食入門 >。

ゴハンの炊き方、お出汁のとり方、お味噌汁の作り方。 そして玉子焼やら干物の焼き方、

はては 納豆の食べ方 まで懇切丁寧に書いてあるのだが。

最初から最後まで ずずず〜〜〜っと眺めなおしてもどこにも のりまき は登場しない。

 

コドモ達と簡単な夕食を終らせ、お風呂にいれて・・・

「 さあ、早く寝ないとね。 天気予報で明日は晴れるでしょうって。 よかったわね。 」

「 うん!  アタシさ〜〜 たっくさんおいも とってくるね! 」

「 すぴか。 おいもは ほる んだよ。 」

「 ・・・ わかってるってば! アンタの分もアタシ、ほる もん。 ぜ〜んぶよ。 」

「 やだ! 僕もいっぱ〜〜いほる! 

「 ほらほら・・・喧嘩しないの。 二人でね持てるくらい、掘ってきて頂戴。 ね? 」

「「 うん! 」」

「 いい子ね・・・ じゃ・・・ お休みなさい。 」

ほっぺにキスをもらって 二人ともぱふん・・・とお蒲団の中に納まった。

 

   ・・・ やれやれ。 やっと寝てくれたわ・・・

 

「 ・・・ おかあさん ・・・ 」

「 なあに、すばる。 」

コドモ部屋の入り口で 息子の小さな声にフランソワ−ズは振り返った。

「 おかあさん。 のりまき〜〜〜 」

「 あ・・・は、はいはい。 ちゃ〜んとね、作ってあげますよ。 だからもうお休みなさい。 」

「 うん・・・! 

どきん・・と 心臓がひっくりかえった ・・・みたいな気分だった。

 

 

 

床に落ちた本を拾い上げる気力もない。

「 ・・・ どうしよう・・・ 買って・・・来ようかしら。 でも のりまき ってコンビニとかで売っているの? 

 だいたいどんなモノかよくわからないし・・・ 」

街外れのギルモア邸の近辺には24時間営業のコンビニはなかった。

一番近いス−パ−  ― 個人経営でどちらかというと雑貨店に近い ― も国道まで出なければならず、

それも夜9時には閉まってしまう。

この近所で 深夜にうろうろする住民はいないのだ。

「 ・・・ダメだわ。 もう・・・ こんな時間だけど・・・ ごめんなさい ! 」

リビングの隅っこで フランソワ−ズはそうっと受話器を取り上げた。

他所のお家に夜遅く電話するのは気が引けた。

でも。

ごめんなさい・・・と小さく繰り返しつつ フランソワ−ズはb押した。

「 ・・・ もしもし。 あの・・・夜分遅くに申し訳ございません・・・ あの・・・島村ですが。

 あ・・・あの、島村すばる の母ですが・・・ 奥様・・・  はい、はい。 」

受話器を握り締めた手が 汗でつるり、とすべりそうだ。

 

   ・・・ お願い! わたなべ君のお母さん! 

 

「 あ! あの・・・ こんばんは。 こんな時間に大変申し訳ないのですけど・・・

 あの・・・ ごめんなさい、教えてください〜〜 お願いします・・・! 

とうとう最後は涙声になってしまい・・・  

このあと小一時間、フランソワ−ズは受話器片手に必死でメモをとり続けていた。

 

「 ・・・ はい、・・・ はい。 わかり・・・ました・・・ はい。 はい・・・ 」

「 はい・・・ はい・・・。  ありがとうございます! ああ・・・本当に本当にありがとうございます・・・

 ・・・ はい・・・はい。 ・・・お休みなさいませ・・・ 」

 

   ・・・ カタリ。

 

そうっとそうっと受話器を置いた時、 フランソワ−ズの顔は涙と汗でくしゃくしゃになっていた。

でも 泣いているヒマなんかない。 

 

   ・・・ よ、ようし・・・・!  やるわ! が、頑張る・・・!!

 

フランソワ−ズはすっく!と立ち上がった。

さあ。 ・・・ 戦闘開始・・・ の予行演習である。

 

   今晩のうちに 一回作ってみれば。 明日の朝、なんとか・・・ 

   中味は なでもいいって・・・ だから・・・ そうね、二人が好きなもの、ね。

 

きゅ・・・! とエプロンの紐を結びなおし、 003はたった一人の闘いを開始した。

 

 

 

 

「 ・・・ ただいま。 ・・・ フラン? 」

時計の針が日付の線を跨いだころ、ジョ−はそう・・・っとリビングのドアをあけた。

予想どおり徹夜に近い状況になっていたのだが なんとか帰宅できた。

そっと門のオ−ト・ロックを通り玄関を開け・・・ そのまま二階の寝室へ直行するつもり、

だったのだが。

 

   ・・・ あれ? 消し忘れかな・・・

 

玄関ホ−ルからリビングへのドアが少し開いている。

そこから 細く一筋薄い明りが漏れ出てきていた。

常夜灯を消しわすれたのだろう・・・と ジョ−は引き返し リビングに入った。

「 ?? 消えてるじゃないか。 ああ・・・ キッチンか。  へえ・・・ 珍しいなあ・・・

 点けっ放しなんて・・・ 」

ジョ−はすたすたとリビングを突っ切り キッチンへのスウィング・ドアを開け。

 

「 ??? ふ、フランソワ−ズ・・・! 」

 

キッチン・テ−ブルに 亜麻色のアタマが突っ伏していた。

そして。

彼女の前にはお皿が一枚 ― その上には 海苔の香も懐かしいつやつやした太巻き が一本。

 

「 ・・・?? あ、ああ! 明日の弁当・・?? いや・・・ まさか・・・

 おい? フラン? こんなトコで寝ちゃだめだ・・・おい・・・? 」

ジョ−はそうっと彼の愛妻の肩を揺すった。

「 ・・・う・・・ ん ・・・・ 

「 あれ・・・ なんだ、泣いてたのかな・・・ ああ、疲れているんだろうなあ・・・

 これってもしかして、フランが作った・・んだよな? すげ・・・ 」

ジョ−はお皿を持ち上げてしげしげと 彼の愛妻に作品 を眺めた。

端からはみ出るほど具が入っていて なかなか美味しそうである。

「 これ・・・ 多分試作品だよなあ? ちょっと一口 ・・・ 」

ちょうど小腹が空いていたので ジョ−はそのまま・・・がぶり、と太巻きにかぶりついた。

「 ・・・ん ・・・んんん ・・・ こりゃ・・・美味いよ〜〜〜 」

残りも平らげてしまいたかったが さすがに少々気が引けた。

「 すごいなあ・・・きみってヒトは本当に・・・・ 海苔巻き、なんて見たこともなかっただろうに・・・

 ああ、片付けておいてやるか・・・ 」

ジョ−はちょん、と彼女の頬にキスをするとシンクの前にたち 洗い物を始めた。

「 ・・・ う・・・ん・・・ ・・・! いけない ・・・ 水道、出しっぱなし・・??

 ・・・え・・・? あ! ジョ−・・??? 」

「 ああ、起きちゃったかな。 ただいま〜 そして ゴチソウサマ♪ 」

「 え・・・? ああ、お帰りなさい。 まあ、今晩は徹夜じゃなかったの。 」

フランソワ−ズはあわてて起き上がった。

「 うん、なんとか終ったから帰ってきたんだ。  ねえ、ソレ。 美味いよ〜〜 」

「 え・・・? あら! やだわ〜〜 試作品なのよ? 」

「 明日の、いやもう今日だよな。 チビたちのお弁当だろ。 うん、一口もらったけど、

 すげ・・・美味い! 最高だよ。 」

「 まあ、本当? わたし・・・どうやったらいいかぜんぜんわからなくて・・・

 わたなべ君のお母さんに電話で教えて頂いて・・・ もう大苦戦してやっとなんとか出来たの。 」

「 あ〜 ごめんな。 早く帰れたら少しは手伝えたのに・・・ 」

「 あら、ジョ−。 のりまき、つくったことあるの? 」

「 ・・・ じつは ないんだ・・・けど。 TVとかでさ、見たことはあるけどね。 」

「 な〜んだ、それじゃわたしとあまり変わらないじゃない。 でも・・・ これ、ちゃんとのりまき? 」

「 うん! すごく のりまき だよ。 ・・・なあ、お願いがあるんだけど。 明日さ・・・ 」

「 ふふふ・・・わかってます。 あなたも お弁当にもって行きたいのでしょ。 」

「 へへへ・・・ お母さんにはお見通しですネ。 うん、ぼくも弁当箱いっぱいに入れてくれよ。 」

「 はいはい。 あ! もう寝なくちゃ! 明日 起きられないわ。 

 ああ・・・ジョ−〜〜 ありがとう〜〜〜 洗い物・・・ 

「 いいっていいって。 ・・・ぼくこそ ありがとう。 」

「 え、なにが。 」

「 うん ・・・ ぼくとぼくのコドモ達にさ・・・いつも美味しいご飯やら弁当やら・・・

 ず〜〜っと憧れたんだ、こんな<ウチ>。 絶対にぼくには手に入らないって諦めてた・・・ 」

「 ジョ−。 ここがあなたのホ−ムなのよ。 そして家族なの。 ・・・作ったのはジョ−なのよ。 」

「 ・・・ と、きみ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ わたし。 ああ、わたし ・・・ 」

フランソワ−ズはじっとジョ−を見つめていたが 

 

  ぱた ・・・ ぱた  ぱた ぱた ぱたぱた・・・

 

大粒の涙が彼女の足元に落ち始めた。

「 あれ どうした? ・・・ん? 」

「 ジョ−・・・わ わたし ・・・ わたし ・・・ 」

「 うん? なんだい、おかしなフランだなあ。 どうした、泣いたりしてさ。 」

洗い物を済ませると ジョ−は笑ってフランソワ−ズの肩を引き寄せた。

「 ・・・ ジョ− ・・・ わたし。 ああ・・・わたし・・・しあわせだわ・・・ 」

「 な〜んだい? しあわせだって泣くのかい。 」

「 ・・・ だって。 涙か勝手に ・・・ 」

「 ふふふ・・・ 甘えん坊さんだなあ。  ほら、そんな顔はもうやめ。  

 早く寝ないとさ、明日は 海苔巻き本番 なんだろ? 」

「 うん・・・ ジョ−のお弁当も・・・ 」

「 ああ、頼むね。 ふふふ・・・ 楽しみだなあ〜♪ おべんと・おべんと・うれしいな〜♪ 」

「 ヤダ・・・ すばると同じね。 」

「 あはは・・・ 親子だもんなあ。  今晩は いいこ にしてますから。

 明日の晩は♪ ゆっくりと・・・・、な? 」

「 ええ♪ コドモ達はきっとくたびれて早く寝てしまうでしょうしね。 」

「 ・・・ では・・・ 予約〜〜 んんん・・・・ 」

「 きゃ・・・ ジョ ・・・ った ・・・ 」

二人は深夜のキッチンで熱く熱く 口付けを交わしていた。

 

 

 

 

「 お弁当、頼んだヒト? だれ〜〜 」

「 あ、はい。 今行きます〜〜 」

「 ねえ S・・・の地下に新しいブラセリ−、オ−プンだって。 」

「 高いんじゃないのぉ? 」

「 ク−ポン、配ってた。 ほら〜〜 」

「 ランチ、買いに行きますけど? 」

「 あ〜〜 悪い〜〜 頼める? 」

正午になって編集部はそれまでにもまして賑やかになってきた。

席を立ち、出かけ行くヒトやら給湯室にお茶を淹れにゆくヒトやら、皆足取りも軽い。

「 し〜まちゃん! 今日のお弁当はなに? 」

「 あ、そうですよね! また愛妻弁当かな♪ 」

ジョ−の席の周りに同僚たちが集まってきた。

「 え・・・愛妻って そんな。 えへへへ・・・でも 今日はちょっと自慢かも。 」

「 え〜〜 なになに? 早く見せてよ。 」

「 はい。 実は・・・チビ達のお裾分けってか。 アイツらの遠足弁当のお余りなんですけど・・・

 海苔巻き、なんだ。 」

「 へえ??? あれ・・・ 島ちゃんの奥さんってさ、あの金髪碧眼のフランス人形・・・ 」

「 そうそう! あの美人さんですよね。 海苔巻き?? 」

「 えっと〜 ウチのオクサンはなかなか料理上手なんです。 ・・・ はい。 」

ジョ−は包みを開けると 大振りのお弁当箱のフタを自信満々であけた。

「 わ〜〜 海苔巻き! ・・・ 海苔巻き・・?? 」

「 すご・・・??? あああ??? 」

期待と好奇心に満ちた数々の目の前には。 

 

   お弁当箱いっぱいに・ぎっしりつまった・海苔! 

 

「 ・・・ あれ?!  あ・・・! アイツ、切ってないんだ・・・ 」

「 あ、ああ・・・そうか。 びっくりした〜〜 海苔弁かと思っちゃった。 」

「 給湯室に包丁、ありますよ。 持って来る〜〜 」

「 え・・・あ・・・す、すいません〜〜 」

 

   おい・・・? コレって。 もしかして。 チビ達のも・・・かな?

   お〜〜い フランソワ−ズ・・・!! ってココからじゃ無理か・・・

 

「 ねえねえ、切ってもいい? 」

「 あ、ああ どうぞ。 お願いします。 」

「 で〜は・・・ わあ・・・ なんか・・・ ユニ−クな具だわね? 」

「 あ、どうぞ。 ひとつ? 」

「 あら、いいのぉ? じゃ・・・小さく切ろう。 それで一個づつ・・・ちょっとだけ。 」

「 頂きま〜〜す♪ ・・・・ あ! これ、美味しい〜〜 」

「 頂きマス。 ・・・うん! これ、新種のサラダ巻きですよ? 」

「 えへへへへ・・・ これが〜 島村家風ってヤツなんです。 」

「 すご〜い、すごい! 島ちゃんのオクサン、美人の上にお料理もこんなに上手なんて

 島ちゃ〜〜ん、 このぉ〜〜 しあわせモノめ! 」

「 これ・・・ 覚えさせてください。 私も作ってみる! 」

「 どうぞ、どうぞ。 へへへ・・・・ ウチのオクサン、悦びますよ〜〜 」

「 いやあ、ゴチソウさん。 島村クン、君は果報者だなあ。 」

部長サンまで顔をだし、皆口々に 海苔巻き・島村さんち風 を褒めてくれた。

ジョ−は大得意、島村さんちの奥さんの株は急上昇、だった。

しかし。

 

 

 

「 お母さ〜〜ん!! おいも、おいも〜〜〜♪ 」

「 お帰りなさい! わあ・・・ 二人ともリュック、ぱんぱんねえ。 」

「 うん! おいも、い〜〜っぱいほってきた! ね〜〜〜 すぴか! 」

「 ・・・ うん。 」

「 そう、よかったわね。 さあ、お家に帰りましょ。 ほら・・・乗って? 」

お迎えのお母さんに 二人は元気に駆け寄ってきた。

お手製のリュックは ちょっと泥がついていたけど、二人の背中でまん丸にふくれあがっている。

フランソワ−ズは自転車にまずすばるを抱えあげた。

「 うん! あのね、あのね。 僕がうん!ってひっぱったらね〜 ごぼごぼ〜〜っておいもがね〜 」

「 はいはい、ちょっと待って。 ほら・・・すばる、ちゃんと乗った? 

 あら? すぴか! どうしたの、早く乗って頂戴。 

「 ・・・ うん。 乗ったよ。 」

「 いい? それじゃ・・・行くわよ。 」

「 うわ〜〜い♪ お〜いもおいも・うれしいな〜〜♪ 」

「 ふふふ・・・すばるはお歌が好きねえ。 あ、そうだ、お弁当、どうだった? 

 のりまき ・・・ 美味しかったかしら。 」

「 うん!!! すご〜〜くすごく美味しかった! わたなべ君にも齧らせてあげたんだ♪ 」

「 そう! ・・・ああ、よかった〜〜 すぴかは? 」

「 ・・・ お母さん。 ちゅ〜りっぷのゆでたまご、入ってなかった。 」

「 ・・・あ! ご、ごめんね〜〜 お母さん、 すっかり忘れていたわ。 ごめんなさい〜〜

 今度入れるから、ね? 

「 ・・・ うん。 あれさ・・・ のりまき じゃないよ。 」

「 え・・? ど、どうして・・・ 」

「 のりまき って。 かじるんじゃないもん。 こうやってさ〜きってあって・・・・

 ぐるぐる〜〜ってなってるなかみが見えるんだもん。 

 かじってるの、アタシとすばるだけだった・・・ 」

「 ・・・ええ?? そ、そうなの?? だって昨夜 ・・・お父さんも齧ってたわよ? 」

「 ちがうもん、ちがうもん〜〜 アタシがかじるの、みんながみてた。

 わたなべ君も じ〜〜〜っとみてた・・・ 」

「 え・・・ そうなの・・・?  お母さん ・・・ 初めて作ったから・・・・

 ごめんね・・・ ごめんね〜〜 すぴか・・・ 」

「 お母さん。 お母さんののりまき、と〜〜〜ってもおいしかったよ〜〜〜

 僕 ぜ〜〜んぶたべちゃった。 」

「 ・・・ アタシも。 お母さん おいしかった。 アタシもぜんぶたべたよ。 」

「 ・・・ ・・・・ ・・・・ ごめんね ・・・ ごめん・・・ね ・・・ 」

「 お母さん?  ないてるの。 」

「 ・・・あ ・・・ううん! 泣いてなんかいないわ。 ちょっと・・・お目々に ごみ・・・

 さ、さあ。 お家に帰ったら お芋さんをお料理しましょ。 」

「「 うん! 」」

自転車の前後から元気な声が返ってきて、どうやら姉娘もご機嫌を直してくれたようだ。

 

   ・・・ うそ・・・ 切る、ものなの?? のりまき って。

   あのまま 齧るものかと思ってたわ。  あ! ジョ−のお弁当も!!!

   ・・・ やだ、どうしよう〜〜〜 会社で笑われちゃったかしら・・・

 

賑やかな前後のお喋りにフランソワ−ズは全くの上の空で返事をしていた。

 

 

 

「 ジョ−・・・ ごめんなさい!! 」

「 ただいま・・・ え?? なんだい、いきなり・・・ 」

玄関のドアをあけるなり、突然の<ごめんなさい> に ジョ−は目をぱちくりさせた。

その日、珍しく日付の変わる前に我が家に帰りつき、口笛のひとつも吹きつつ、ドアを開けた・・・のだが。

「 だから。 ごめんなさい! 本当に ごめんなさい! 」

彼の細君は ただひたすら一言だけを繰り返しアタマを深く垂れている。

「 ??? だから、なにが? 」

「 ・・・ のりまき、よ。 お弁当。 ・・・ 会社の皆さんに呆れられたでしょう・・・? 

 ジョ− ・・・ 恥ずかしかった・・・でしょう? 」

「 恥ずかしいって・・・ どうして?? 」

「 だって・・・ あんな・・・まるごと入れてしまって。 でも、でもね、ジョ−・・・!

 わたし、知らなかったの! のりまき の食べ方・・・ ジョ−が昨夜齧ってたし・・・ 」

「 ああ、なんだ。 そんなこと・・・ 全然平気さあ、ちゃんと切って食べたよ?

 それよか・・・もう大評判だったんだから! 」

「 え・・・・ ほんとう・・・? 」

「 うん! 皆がさ〜 美味しいね〜 オクサン、すごいね〜って大絶賛・大好評だったんだ。 」

「 ・・・ まあ ・・・ それで、ジョ−・・・は? 」

「 え? 昨夜よりももっと! 最高〜〜に美味かったよ。 

 ぼく、鼻が高かった。 編集長やら部長まで 君の奥さんは立派だ、君は果報モノだって

 言ってくれてさ。 なんか、自分のこと、褒められたよりもずっと嬉しかったよ。 」

「 ・・・そ ・・・・ そう ・・・・ よかった ・・・よかっ・・た ・・・わ ・・・ 」

「 あれれ・・・ どうしたんだよ? あ! チビ達、なんて言ってた?

 あの〜 もしかして。 アイツらが文句いったのかい。 」

「 ・・・ う・・・ううん ・・・ わたしが悪いんだもの。 ・・・ あのコ達 ・・・可哀想なことしたわ・・・ 」

「 フラン・・・ 」

フランソワ−ズの大きな瞳から 涙がひっきりなしに流れおちている。

ジョ−はそっと彼女を抱き寄せ、胸に抱いた。

「 なあ。 泣くなよ。 ・・・ 誰がなんて言ってもさ。 そう、コドモ達だってそうさ。

 どんなコトいっても。 ぼくはいつだってどんな時だってきみの味方だから。

 世界中を相手にしても、ぼくはきみの味方なんだ。 

「 ・・・ ジョ− ・・・・ 

「 だから、さ。  そんなに泣くなよ。 泣かないでくれよ。

 きみの笑顔が ぼくの最大の元気のモトなんだ。 ぼくの大切なエネルギ−なのさ。

 きみが微笑んでいてくれる限り ぼくは百万回だって再起できるんだ。 」

「 ジョ−・・・! ジョ−・・・・ あなた・・・ 」

フランソワ−ズは きゅう・・・っと彼女の恋人に胸に縋りついた。

「 あは♪ これはまた・・・随分と情熱的ですね〜〜 奥さん。 

「 ジョ−・・・! 大好きよ、大好き! ・・・ ねえ、愛して・・・ いっぱい、いっぱい愛して・・・・! 」

「 お。 これはまた〜〜 

 それじゃ お誘いを頂きまして・・・・謹んでお受けいたします。 」

「 ・・・ きゃ♪ ・・・ ふふふふ・・ どうぞ・・・ 」

ジョ−はひょい、と彼女を抱き上げると そのまま玄関から寝室に直行した。

 

 

 

 

翌日の日曜日も穏やかな秋晴れの空がひろがった。

「 う〜〜ん ・・・ いい気持ちだなあ・・・・ 」

「 お父さん、 お父さ〜ん !  おいも! おいも、見て〜〜 

 きのう アタシ達がほってきたんだよ〜〜 」

「 お父さ〜〜ん ほらほら〜〜〜 」

「 ん? わあ〜お。 すごいじゃないか〜 二人とも・・・ 」

リビングで伸びをしていたジョ−の前に 子供たちがてんでに昨日の収穫を持ってきた。

「 あのね! うんしょ〜〜ってみんなでひっぱったら〜〜 」

「 ひっぱったら〜〜 おいもがごぼごぼでてきたんだ〜〜 」

「 あははは・・・ ごぼごぼ、ねえ・・・ こりゃ 美味しそうだなあ。 」

「 ふふふ、すごい大収穫でしょう? ジョ−、なにがいい。 スウィ−ト・ポテト? 」

「 う〜ん ・・・ いや、まずは アレだな。 」

「 アレ? 」

「 うん。 なあ、すぴか、すばる。 お前達 知ってるかな〜 」

「 ??? 」

ジョ−はにこにこ・・・子供たちのそばにしゃがみ込み ひくく口笛を吹いた。

「 ・・・ あ! しってる〜〜 かきねの かきねの〜♪ 」

「 僕も! まがりかど〜♪ 」

子供たちはたちまち、父の口笛に合わせて歌い始めた。

「 ・・・??? まあ、上手ねえ。 なんのお歌? 」

「 ふふふ・・・ ちょっとみててごらん。 あ! きみにお願いがあるんだ。

 芋をね、そうだな〜 3〜4本でいいや ホイルに包んでおいてくれる? 

 あ、べつべつに、だよ。 ぴっちりな。 」

「 いいけど・・・・? 」

「 さあ〜〜 それじゃ <垣根の・垣根の> を やろう! 」

「 うん! わ〜〜〜い♪ 」

呆気にとられているフランソワ−ズを残し、 ジョ−とチビ達は大はしゃぎで庭に出ていった。

そして しばらくの間、庭からは落ち葉を掃き集める箒の音がさかんに聞こえてきていた。

「 ・・・ なんなの・・・?? 」

 

 

「 まあ・・・! 焚き火だったのね? 」

「 そうなんだ。 ああ 芋は? ・・・うん、 ありがとう・・・ 

 それじゃ ・・・ この辺りにつっこむかな。  ああ、すぴか、危ないから下がっていろ。 」

「 アタシ、平気〜〜 」

「 だめ。 火傷したら大変だろ。 こっち、おいで。 お父さんのズボンをつかんでいなさい。」

「 は〜い・・・ 」

「 ねえ、ジョ−。 さっきの歌、なんというの? 」

「 ああ、あれはね・・・ 

「 <たきび> っていうんだ〜。 お母さん、ぼく。 おしえてあげる。 」

「 まあ、ありがとう! 

「 あ! アタシだって歌えるも〜ん  かきねの かきねの〜♪ 」

「 あ〜〜〜 すぴか、ずる〜い〜〜 」

「 こらこら・・・ほら、一緒に歌おうな。 皆でお母さんに聞かせてあげよう。 」

「「 うん ! じゃあね いっせ〜のせ! 」」

やがて ギルモア邸の庭からは混声二部合唱?? が賑やかに聞こえ始めた。

 

 

大騒ぎで やきいも を食べると 子供たちは奥庭でどんぐり拾いを始めた。

ジョ−とフランソワ−ズは 焚き火の前になんとなく腰をおろしている。

「 ・・・ 火って。 ううん、炎って。 暖かいのね。 」

「 え? ああ・・・・ そうだね。 最近こんな近くで直にモノを燃やすなんてこと、ないもんなあ。 」

「 それもあるけど。 ・・・・今まで・・・ずっと見てきた火はいつだって戦闘や攻撃、

 そして破壊の象徴だったわ。 最後にすべてが燃え落ちる風景って・・・・ 

 胸の奥の奥まで焼け尽くしてしまうみたいでとてもつらかった・・・ 」

「 ・・・ そうだね。 ぼく達が身近で見てきた火は いつでも厳しい顔をしていた・・・ 」

今、家族でなんでもない日々を送っているこの家も。 かつては何回も灰燼に帰した。

焼け跡に立つ虚しさ、哀しさは もう出来れば二度と味わいたくはない。

 

   そんなコトが再びないために。 

   ぼくは ・・・護る! この愛しいもの達を全身全霊をかけて・・・!

 

ジョ−は きゅ・・・っと箒の柄を握り締めていた。

「 でもね、ジョ−。 ほら・・・ この火は。 この・・・落ち葉が姿を変えてゆく炎はこんなに温かいわ。

 ・・・ さっきの歌ね、 悴んだお手々をかざせば ほら・・・ほっこりするのよ。 」

「 うん ・・・・ 」

「 本当は 火って凍えていた人類を暖めてくれた、優しいものなのよね・・・ 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

「 人間が勝手に 間違えた使い方をしているだけ、なのに・・・ 」

二人の目裏に 数え切れないほど見てきた光景が浮かぶ。

「 火だって ・・・ 焚き火や灯りになっていたかったでしょうに・・・ね。 」

「 ・・・ そうだね。 」

ジョ−はぽん・・・っと持っていた小枝を火の中に放り込んだ。

一瞬 華麗な火の粉が舞いあがる。

「 きみはさ。 ずっと・・・ ぼくの火でいてほしいな。 ぼくを暖めてくれる永遠の火でいてくれ。 」

「 ジョ−・・・ 」

「 ぼくは 護るから。 ぼくの全てをかけて この・・・火を護るから。 」

ジョ−はそっと隣にいる彼の細君の手を握った。

「 ・・・ ジョ−。 あなたは わたしの炎よ。 いつだってわたしを熱く燃え立たせてくれるわ・・・

 わたし、どんなことがあってもこの炎を消させやしない。 」

きゅ・・・っと細い指がジョ−の手を握り返す。

「 ああ・・・ ぼくの永遠の火は ココにあるんだなあ。 」

ジョ−はふわり、とフランソワ−ズのアタマを抱き寄せた。

「 ・・・ ふふふ ・・・ わたしの炎は、ね。 」

「 うん? 」

「 ・・・ ココ。 」

フランソワ−ズはそのまま・・・ ことん、とジョ−の胸にオデコをつけた。

 

垣根の垣根の曲がった先の、 焚き火の煙の向こう側。 

恋人達が こっそり こっそり 唇を合わせていた。

 

 

 

*******  かわいい ・ おまけ  *******

 

リビングに戻るとすぐに電話が鳴り始めた。

「 あら誰かしら。すぴか〜 出て頂戴〜 」 

「 はあい。 ・・・もしもし〜しまむら でございます〜 」

なかなかおしゃまな喋り方をジョーはにこにこして聞いている。

「 ・・・はあ〜い  すぴかよ〜  ・・・え?  お母さん? ちょっと待っててください〜 

 お母さん〜 わたなべ君のおばちゃん 

「 あら、なにかしら。 ありがとう、すぴか。 はい、モシモシ〜?

 あ、昨日は本当にありがとうございました!助かりました。  え? 中身、ですか。

 はい  はい ・・・ あらまあ、そうなんですか! ふふふ〜わたしったら 切るのを忘れてしまって

 すぴかに怒られましたの。 まあ、大地君が? ・・・まあ・・・  」

フランソワ−ズは大にこにこですぴかに受話器を差し出した。

「 すぴか? わたなべ君がね、お話したいんですって。 」

「 ・・・え 〜〜 ・・・・ すぴかよ〜 ・・・・ うん。 

 うん! じゃあ こんどかじらせてあげるね! うちののりまき、おいしいでしょ。 」

ばいば〜い ・・・と手まで振ってすぴかはご機嫌で電話を切った。

「 あのね、あのね〜〜 わたなべ君も〜 すぴかのみたいなのりまき、たべたいんだって! 」

「 まあ、そうなの。 わあ〜〜 お母さん、うれしいな。 」

「 えんそくでね、いいな〜〜って みてたんだって! のりまき・のりまき〜〜かじるぞ〜〜 」

この時から 島村さんち の海苔巻きはいつだって どどん!と丸ごと、がお約束になった。

 

 

 

*************************       Fin.     **************************

 

Last updated : 09,30,2008.                                   index

 

 

 

***********   ひと言   *********

はい〜〜 お馴染み・島村さんち小話 でございます♪

例によって な〜〜んにも起きません。 ごく普通の日々です。

秋ですね〜 遠足ですよね〜・・・ 懐かしいですよね〜

フランちゃんの作った海苔巻きの具は ↓

ハム  チ−ズ  細く切ったオムレツ  サニ−レタス  きゅうり 

なのでした♪

すぴかちゃん と わたなべ君、実はこの頃からお互いに <気になるあのコ>

だったのでした(#^.^#)

93 の日に、ほんわか気分を味わって頂けましたら幸いでございます。

ご感想の一言を頂戴できれば 最高〜〜に嬉しいです〜〜〜