『 ありがとう 』
ザザザザ −−−− ・・・・
明るい光の下で 濃い藍色の水面が揺れている。
穏やかに 時には白い泡を飛ばしつつ 冬の海は揺蕩う。
「 ・・・ ああ ・・・ 」
彼女は 窓辺から眼下に拡がるその風景にぼんやりと視線を投げていた。
白いレエスのカーテンからは 陽射しがたっぷりと注がれている。
室内にいるかぎりは 快適で静かな午後なのだが。
「 ・・・ 」
こそっと漏れるため息は 雪ならばもう随分と降り積もっているはずだ。
バタン。 リビングのドアが勢いよく開いた。
「 ただいま! あ〜〜 寒かったぁ〜〜 」
もこもこもジャケットに身をつつみ ジョーが飛び込んできた。
「 ・・・ あ お帰りなさい。
気が付かなくて ごめんなさいね 」
「 え? あ いいよべつに。 気にしないで〜
うわ〜 ここは暖かいね〜〜 あはあ・・・ あったか〜 」
彼は ジャケットを脱ぎつつヒーターの下に立ちにこにこしている。
「 ・・・ そんなに 寒かった? 」
「 うん! 天気はいいんだけどさあ 風が結構あって・・・
日向はかなりいい感じなんけど 日陰はさむ〜〜〜 」
「 そう なの ・・・ 日本の冬ってお日様いっぱいで
いいなあ〜〜って思ったたんだけど 」
「 あ フランスの冬って 寒い? 」
「 ええ ・・・ それにこんなに明るくないの。
お昼を過ぎれば もう灯をつけるわ 」
「 へえ ・・・ あ じゃあ 雪 降る? 」
「 ええ 舗道にいつまでも残って歩きにくくて
・・・イヤだったわ 」
「 ふうん この地域じゃ 雪はほとんど降らないなあ 」
「 そうなの? 温暖な地域なのね 」
「 そうだね〜〜 」
「 ・・・ そう ・・・ 」
彼女は また視線を外に、遠く広がる海原に移してしまった。
「 あ の ・・・ 」
ジョーは 話しかけたかったが言葉を呑みこんだ。
彼女の白い横顔は すう〜〜っと冷えた雰囲気を漂わせる。
なんか ・・・
ここにはいないヒトみたい だ・・・
あ。 もしかして。
やっぱ故郷のこと 考えているのかなあ
うん ・・・ 帰りたいんだ きっと。
そうだよなあ ・・・
こんな遠くの知らない国に来て さ
知らないヒト ばっかで
! ぼく達が ・・・ ぼ ぼくが いる。
だから!
ねえ そんな淋しい顔 しないでくれよぉ
ジョーはしばらくもじもじしていたが 意を決して口を開いた。
「 あ の〜 フランソワーズ ? 」
「 ・・・ ? なに 」
やっと彼女は 振り向いた。
「 あの。 なにか あった? 」
「 え なにかって ・・・ 」
「 うん。 どうかしたのかな って思って。 」
彼女の碧い眼が すこし大きく見開かれた。
「 ううん べつに。 ただ― 」
「 ただ? 」
「 いいの なんでもないの。 ごめんなさい 」
「 なんでもない は ナシだろ? 」
「 そう だったかしら 」
「 そうです。 きみが言ったんだよ 」
「 ・・ そう ねえ そうだったわね ・・・
それなら言うけど。
あの あんまり気にしないでね 」
「 そりゃ 内容によるけど ・・・ 」
「 たいしたことじゃないの。 だから 気にしないで。 」
「 気にする! だっていつものきみじゃないよ?
なにかあったのかい。 」
「 ううん ・・・ ただ ね。 ああ もうすぐ24日だなあって 」
「 ?? 24日?? 」
「 そう。 それだけのことなの。 」
「 ・・・??? 」
「 ごめんなさいね もう忘れて ・・・ 」
彼女は 静かに立ち上がった。
「 買い物、行かないと・・・ ねえ 晩ご飯 なにがいい 」
「 え ・・・? 」
「 晩ご飯。 ジョーはなにが食べたい? 」
「 あ〜 ・・・ あのう この前のチキンのシチュウ ・・・
美味かったなあ〜って 」
「 チキンの? ・・・ ああ ホワイト・シチュウね。
いいわ。 この国のお野菜はとても美味しいからいい味になるのね
アルベルトもね、 そう言ってるわ 」
「 そうなんだ? めっちゃ美味しい〜って思って。
あれ・・・ リクエストしていいですか 」
「 はい。 それじゃ チキン、買ってくるわね。 」
「 あ 野菜とかも・・・重たいだろ? ぼく 荷物持ちに
一緒に行くよ 」
「 あら 大丈夫。 お野菜は買い置きがまだあるし 」
「 そ そう? あ でも他に ほら牛乳とかパンとか
米とか・・・ いろいろ買うだろ? 」
「 ええ。 でもね わたしだって 003 なのよ?
そのくらい 持てます。 でもありがとう ・・・
今日は一人で行きたいのよ ごめんなさいね 」
すこしだけ微笑むと 彼女はダウン・コートを羽織って
出掛けてしまった。
「 ・・・ 本当に なんでもない のかなあ ・・・ 」
ジョーは 少しばかりがっかりした顔で リビングに戻ってきた。
「 なんだ シケた顔して 」
ソファで新聞の陰から 銀髪がぼそり、と言った。
「 アルベルト。 え ・・・ そんな顔 してる ぼく? 」
「 ああ。 ネズミに逃げられた猫みたいだ 」
「 ね 猫ぉ〜〜?? 」
「 ふふん 逃がしたネズミにぞっこん、か 」
「 え え え〜〜〜 そ そんなコト・・・ な い ・・・ 」
「 ない か? 」
「 ・・・ う ううん ・・・ なく ない。
でも あの さ。 あのう ちょっと聞いて いいかな 」
「 なんだ。 女の口説き方か 青少年よ 」
「 ち ちがうよ〜〜 あの さあ
そのう ・・・ フランソワーズのことなんだけど 」
ジョーは とつとつと彼が < 気にしている > ことについて
語った。
アルベルトはちゃんと耳を傾けてくれた が。
聞き終わると事も無げにぼそり、と言った。
「 24日? ・・・ ああ アイツの誕生日 さ 」
「 え ! 」
「 なんだ お前、知らなかったのか 」
「 し 知らないよぉ〜〜 そ そんなこと、聞けないじゃん 」
「 まあ な。 ま 覚えておくんだな。
ふふん ― まあ 頑張れ 」
「 が 頑張れって そ そんな ぼくは その ・・・ 」
「 ふん。 健闘を祈る 」
ぽん、と背中を一発、 アルベルトは出て行ってしまった。
「 ・・・ え え〜〜〜 ・・・ た 誕生日??
! 24日ってば もうすぐじゃんか〜〜〜〜 」
彼女 ・・・ なにが好きなんだ??
う〜〜〜〜 ・・・
普通のハナシとかはするけど
そ〜ゆ〜のって カノジョとの会話だよね?
そりゃ 彼女とは同じ家で暮らしてるよ
けど。 けど さ。
ぼくって 彼女にとっては
< ふつ〜のクラスメイト > に近い存在なんだぜ
・・・ それくらい わかってる さ ・・・
でも。 でも ・・・ !
クラス・メイト以上に なりたい!
う〜〜 う〜〜〜〜
どうしたら いい??
オンナノコ が好きなもの・・・っていうと
う〜〜〜ん??
チョコ とか ケーキ とか・・
あ バラとかの花とか ・・・
! ぶらんどモノの服 バッグ くつ !
― 買えないよぉ〜〜〜
24日なんて〜〜 バイトしても間に合わない〜〜
でも ! でもでもでも〜〜
彼女が喜ぶモノ、 贈りたい
そうさ 彼女の笑顔 見たいんだあ〜〜
「 う〜〜〜〜 ・・・ 」
彼は まさに文字通り < アタマを抱えて > しまった。
どうしよう〜〜〜
もっとはやく 教えてくれよぉ〜
ジョーはリビングのソファで ひとり、じたばたしていた。
「 ジョー ? いるかな。 ちょっと手伝ってほしいこと が 」
半分開いていたドアから 博士が顔をのぞかせた。
「 すまんが ― あ ・・・? 」
博士は戸口で 足が止まってしまった。
日当たりのよいリビングのソファの上で
最高傑作? の 最新・最強のサイボーグが じたばた しているのだ。
「 ! ・・・? 」
さすが科学者、博士はまずは仔細に状況を観察した。
「 ・・・ 身体的な異常反応・・・では ないな。
脳神経系の損傷・障害 ・・・ でも ないようだな。
この邸は外部からの不法音波、通信波は シャットアウトしとる。
よって外部からの干渉ではない。
・・・ じゃ どうしたんだ アイツは ?? 」
博士は 慎重に脚を運ぶ。 ゆっくりとソファに近づき 咳払いをひとつ。
いきなり近寄って 噛みつかれたら困るからな。
ああ なにか好物をでももってくればよかった か
( ・・・ 博士〜〜 ワンコじゃないんですけど ・・・ 9
「 あ〜〜 ジョー? そのう ・・・ 」
ソファの上のサイボーグは ぱっと姿勢を正した。
「 ! あ 博士〜〜 何かごようですか 」
「 いや あの。 ・・・ どうか したかね? 」
博士は すこし距離を取り慎重に尋ねた。
「 ・・・ え あ べつに ・・・
そうだ! 博士〜〜〜 教えてください ! 」
「 ! な なんだ 」
ぱっと跳ね起きたサイボーグに 博士は思わず後退りをしてしまった。
「 あの! あの。 ・・・ あの ぅ ・・・ 」
「 ??? 」
「 あ の・・・ ふ ふらんそわーず が好きなモノってなんですか? 」
「 はあん? 」
「 だから その・・・ 彼女が喜ぶモノ 知りたくて 」
「 なぜかね? 」
「 ・・・ あ のう〜〜〜 ぷ プレゼント・・・
た 誕生日の ・・・ そのう〜〜 」
「 そのことについて 思い悩んでいた のかね? 」
「 ― はい! だって ・・・ 全然わかんないし〜
24日 ってばもう目の前なのに どうしよう〜〜 って。
博士! どうしたらいいんですか ぼく は 」
「 ・・・・ 」
ドクター・ギルモア は しばし この悩める青少年の顔を
見つめていた が。
「 ま その回答は 自分自身でみつけるがよいよ。
直接 彼女に聞いてもよいではないか 」
「 そ そんなこと〜〜 出来ません〜〜 」
「 そうかな? あとは勇気だけだ だと思うがなあ 」
「 ・・・ 博士〜〜〜 」
「 ふっふっふ まあ 存分に悩みたまえ 青少年よ
それが若さの特権というものだろうよ 」
「 ・・・ そんなあ 」
「 こういうことはな 自分自身で悩むことが重要なのじゃ。
悩み苦しむ ― それでこそ青春 ! ではないか 」
「 ・・・ は ぁ ・・・ 」
ジョーは そりゃ いつの時代のハナシだよ〜〜 と 思ったが
大人しく傾聴していた。
「 ああ 言っておくがなあ 金をかけることが上等、という
概念は 捨てたまえ。 要は はーと じゃ は〜と♪
ま それなりに軍資金は必要じゃからなあ〜〜
百万といわなければ 用立ててやるから安心しろよ?
と〜にかく カノジョのは〜と をゲットせよ〜〜 」」
ばっちん。
目にゴミが入りました? と思わず聞きたくなるウィンクを残し
博士は からから笑いつつ出ていってしまった。
! なんなんだよ〜〜〜〜
一人で盛り上がっていっちまった・・・
< おじいちゃん > は 仕方ないか
「 ちょいと駅の方まで行ってくっかなあ ・・・
なにか見つかるかもしれない し 」
え・・っと キャップ、どこ置いたっけか〜〜
そこいらをさがしていたが ― 動作が止まった。
「 ・・・ だめだあ・・・・
フランは買い物、 博士は研究室に閉じこもり。
アルベルトも出掛けちゃったし・・・
ってことは 留守番中 ってことじゃん? 」
はあ〜〜〜〜〜 ジョーの特大ため息が 宙に浮いた。
「 あ〜あ ・・・ ウチに居たのじゃなんも探せないしぃ 」
ぼっすん。
ジョーは 再びソファにダイブした。
陽射しいっぱいのリビングからは テラスに続く前庭が見渡せる。
「 ・・・ なんか やっと庭っぽくなってきた かな ・・・
ああ? あ〜 花壇とか作業途中じゃないか やっちゃえ 」
彼は飛び起きると カタカタ・・・ サンダルを鳴らし庭に出た。
あのね。 わたし ずっとアパルトマン暮らしだったから
庭いじり って憧れてたの。
ね ここの日向に ず〜っと花壇を作るわ!
フランソワーズは 秋の頃からちょっとづつだったけれど
庭弄りをしていた。 南側に花壇を作りたい、という。
ジョーも土を柔らかくするために 掘り起こす作業を手伝ったりした。
「 え〜と・・・ こんなもんでいいのかな 」
ジョーは シャベルを止めて尋ねた。
「 わあ ありがとう! そうね それで 土を細かく砕いて・・・
この肥料を混ぜるんですって 」
「 ふうん 詳しいね 」
「 ふふふ ・・・ 花屋さんで聞いてきたの。
まず土を整えて。 お花を植えたり種を蒔いたりはそれからなの。 」
「 そうなんだ〜〜 土を細かく、だったね〜〜
こんな感じ? 」
「 わあ 上手ねえ お家にお庭、あったの? 」
「 いや ・・・まあ ね。 手伝ったりしたから・・
あ それで肥料は 」
「 ほら これ。 この袋に入ってるのを土に混ぜるのよ 」
「 よっしゃあ〜〜 任せて 」
「 わたしもやるわ! ・・・ ああ 土ってこんな感触なのね
ふうん ・・・ 冷たくないのねえ 」
「 え〜 泥遊びとかしたこと、ない? チビのころ 」
「 う〜ん・・・ ない・・というか覚えてないわあ 」
「 そっか じゃ 今 楽しもうよ。
ぼくは泥んこ遊びとか 大好きだったんだ〜
ここに水! 如雨露で水を まいて〜〜 」
「 きゃ ・・・ げでげでよ 」
「 いいのさ ここにまた土を入れて 」
「 わあ〜 ブルドーザーみたいねえ 」
二人でならんで < 泥遊び > を 楽しんだ。
・・・ あれは 秋も半ばの頃だったか。
「 あれえ なんだよ まだ全然途中じゃんか
あの時 完成したと思ってたんだけどなあ 」
彼は作りかけの花壇の側に寄り、 縁石を並べたり
雑草を引き抜いたり・・・作業を始めた。
「 ・・・ っと こんなモンか ・・・
うん なかなかいい感じじゃん? 庭!って感じ。 」
彼は少し離れ 表庭を見渡しにんまりしていた。
「 ここ なんか植えるのかなあ・・・
あれ こっちは土がならしてあるけど
あ そうだ〜〜 なんか植えたって言ってたよ〜 」
ふふふ チューリップの球根を植えたの!
春にはねえ いろいろな色の花が咲くわ
「 そうだよなあ ・・・ チューリップ って
小学生の頃、学校の花壇に植えたっけ ・・・
あ じゃあ こっち側、水をあげとこう。 」
さわさわさわ〜〜〜 乾いた地表は黒いいい色に変わった。
「 ふ うん ・・・ 庭ってば 裏庭!
あそこの温室〜〜〜 最近ほったらかしてた 〜〜 ! 」
ジョーは 庭サンダルのまま裏庭に駆けていった。
「 う〜〜〜〜っしょ っとぉ 」
ギギ ギ −−−−
温室のドアは かなり重く、嫌々・・・というカンジで開いた。
裏庭には 広い洗濯モノ干し場、 と 張大人のハーブ園、
そして ジェロニモ Jr.が作った温室がある。
野菜や果物の自家栽培が目的で、肥料やら水やり機能は
ほぼ自動で働くように設計してあった。
作られた当初は 物珍しくて よく入り込んでいた。
毎日 とれたての野菜の美味しさに目を見張ったものだ。
・・・ <当たり前> になってくると
いつしか忘れがちになっていた。
「 ・・・ 開いたぁ〜〜 う わ〜〜〜 なんだ ここ! 」
もわ〜〜っと暖気が押し寄せてきた。 青くさい香もする。
「 うへえ・・・ なんかもじゃもじゃ生えてる〜〜 」
庭サンダルは 草の中に埋もれ、目の前にもわさわさと
大きな葉っぱが垂れ下がっていた。
「 こりゃジャングルだあ〜〜 ウチの庭にジャングルがある〜
伸び放題ってヤツかあ 」
ガサ ガサガサ もそもそもそ〜〜
葉っぱやら蔓の間を抜け 栽培用の棚まで行き付いた。
「 確か ・・・ 隅っこでイチゴ、作ってたはず・・・
あ あったあ〜〜 うわ すげ〜でかい葉っぱ
お み〜〜っけ 」
育ち過ぎた葉の陰に ちっちゃなイチゴがひっそりと
赤い顔をみせていた。
ひとつ、摘み取った。
「 ・・・ んま〜〜〜♪ うん これ 今晩のデザートさ。
博士もフランも喜ぶよお〜〜
あ こっちにも お〜 裏側でも めっけ! 」
ハンカチを引っぱりだし、 イチゴを集めた。
「 こりゃ ちょっと手入れ、しなくちゃなあ 」
ふんふんふ〜〜〜ん♪
彼は上機嫌でキッチンに戻った。
「 今日のでざーと〜〜〜 あ フラン? お帰り〜〜 」
ハナウタ混じりでドアを開ければ
フランソワーズがキャベツの葉を剥がしていた。
「 ただいま〜 ねえ ジョーの故郷って冬でも
柔らかいキャベツがあるのねえ〜〜 」
「 え ・・・ あ〜 キャベツってばだいたい一年中
食べられるけど ・・・ 」
「 まあ そうなの?? ほんとうにお野菜やら果物がたくさんね♪
美味しそう〜〜 今晩はね これで ろーる・きゃべつ 作りたいの
ホワイト・シチュウじゃなくても いい? 」
「 わあ〜〜 すっげ〜〜〜〜 もっちろん♪
ろーる・きゃべつ って フラン、きみの得意料理?
フランスでもよく作るの? 」
「 ううん。 初めてよ。
フランスのキャベツってもっと固いから たいていは煮込みにしてたの。 」
「 へえ ・・・ 」
「 この前 大人に教わったの。 ひき肉も買ってきたから
今晩は ろーる・きゃべつ です。 」
「 わっはは〜〜ん♪ たのしみぃ〜〜〜〜
あ デザートは これ! これ 食べようよ 」
ぱっとハンカチの包を開ければ ― 小ぶりの赤い実が零れそうだ。
「 わあ まあ〜〜 イチゴ! かわいい〜〜〜
え 温室で? こんなに? 嬉しいわぁ〜〜 ウチのイチゴね 」
フランソワーズは そう・・・っと包を受け取ると
甘い香りを楽しんでいる。
「 ね? 明日から ちょっと温室の手入れするよ。
なんだかね〜 ジャングルっぽくなってたから ・・・ 」
「 まあ そう?? すっかり忘れたわね ・・・
そうだわ プチ・トマト とか ラデイッシュも 生きてる かも 」
「 多分・・・ 明日 レスキュー隊 します! 」
「 わたしも〜〜 なんか・・・楽しそう〜〜 」
「 ・・・ 虫とか いるかも 」
「 平気よ。 虫も野菜、食べるんだもん。 」
「 あのう ・・・ フランソワーズ。 きみ 花 好きだよね 」
「 ええ 大好き 」
「 えっと〜〜 なにが一番すきかなあ 」
「 なにが? 」
「 あ 花の種類 っていうか ・・・ 」
「 あら お花は皆好きよ。 薔薇も桜もマロニエの花とか
ミモザとか 木の花もいいわね 」
「 ・・・ ( まろ にえ? み もざ? なんだ ソレ ) 」
「 道端の雑草の花も好き。 雑草 なんてないんだけど 」
「 え?? 」
「 だって どの草にもちゃんと名前はあるはずでしょ
ただ わたし達がよく知らないだけよ 」
「 あ そ そうなんだ? 」
「 だから 花は皆好きなの。 ねえ イチゴの花ってしってる ? 」
「 ううん 知らない あ きっと真っ赤で 」
「 ぶっぶ〜〜〜 イチゴの花は真っ白なの。 」
「 白?? へえええ・・・ 」
「 あら 温室で気がつかなかった? 」
「 ・・・ ぼく 実ばっか探してた ・・・ 」
「 じゃあ こんどちゃんと見てあげてね? とても可愛い花よ。 」
「 そっか〜〜 花 好きだよね 」
「 ええ。 だからね 花壇のチューリップ、楽しみなの♪
そろそろ芽が出ると思うんだけど 」
「 それって去年の秋に植えてたヤツだよね 」
「 そうよ〜 ここに花壇つくって最初に植えたでしょ 」
「 そっか〜 秋に植えて 咲くのは春かあ
そんなに時間がかかるんだね 」
「 じ〜っと土の中で準備して 芽がでて 葉っぱが出て
蕾が出て・・・って 素敵じゃない?
こんなに楽しい < 待つ > 時間はないと思うの 」
「 あ〜 そうだねえ 」
「 自然って もしかしら 待つ ってことなのかも 」
「 待つ かあ ・・・ 」
「 春が楽しみ♪ 春のためには冬を過ごさないといけないの。
< 待つ > からよけいに嬉しいのかもね 」
「 ふうん ・・・ そっかあ 」
フランって 本当に花が好きなんだなあ
待つ って なんか素敵な言葉に聞こえてきた
そうだ!
花屋にいってみよう!
フランが好きそうなもの、みつかるかも・・・
夕食作りの手伝いをしつつ ジョーはわくわくしてきていた。
翌日のこと − ジョーは意気込んで商店街に出かけていった。
少し遠くからでも その一画は艶やかな色彩にあふれていた。
ジョーの足取りは 自然に速まっていった。
「 わあ〜〜 もう咲いてる〜〜 きれいだなあ
そうだ これ 買っていって庭に植えれば・・・ 」
花屋では チューリップの鉢植えがいっぱい並んでいた。
「 いらっしゃいませ〜〜 」
長靴をボコボコいわせて 若い女の子の店員が出てきた。
「 あ あのう ・・・ もう咲いてるんですね
これは早く咲く種類なんですか 」
ジョーは 足元を見回す。
「 チューリップをお求めですか? 」
「 え〜と なにか春の花って思ったんですけど。
沢山咲いてる〜〜 ウチの花壇はまだ芽がちこっと です 」
店員さんの笑顔が少し 曇った。
「 ああ これは人工的に早く咲かせているんです。
・・・ なんか可哀想ですよねえ 」
「 え 」
「 本当ならまだ土の中でゆっくりしてて
さあ 春に向かってがんばるよ〜 って頃なのに 」
「 ・・・ そ そうですねえ 」
「 早く春を・・・って気持ち わかりますけど
もうすぐ咲くかなって待つのも楽しいんじゃないかな〜 なんて ・・・
ふふふ 花屋の店員がオカシイですけど 」
あ ・・・ このヒトも。
< 待つ > かあ
なんか ― いい言葉 かも。
うん。 先取り だけがいいんじゃないよね
ジョーは 足元でせいいっぱい背を伸ばした黄色の蕾が
すこしばかり 気の毒に見えてしまった。
「 あ あのう 今 植える花ってなんですか
夏とか秋に咲く花・・・って。」
「 え? ああ それじゃこの種はいかが
ものすごくポピュラーですけど 」
店員さんは タネの袋を二つ、もってきてくれた。
「 タネ・・・ あ これ・・・って。
あは ぼくでも知ってます! 夏に咲きますよね
これ ください! はやく夏にならないかなあ 」
「 はい 楽しみにお待ちください。 お世話、お願いしますね 」
「 はい! 」
カサ カサ カサ。
ジョーのポケットで 朝顔 と 向日葵 の種の袋が揺れている。
「 ふんふんふ〜〜〜ん♪
あ。 結局 なにも見つけらなかったじゃん ・・・
好いモノ、買ったけど ・・・ 24日には咲かないし
・・・ どうしよう〜 なんも解決してないよう 」
帰路 少し回り道をして 海岸の崖の方に出た。
「 え〜と ・・・ この辺・・・ あ あったあった 」
崖の途中、、枯草の窪地までやってきた。
「 ・・・ っとぉ へへ ここ、ぼくの < 隠れ場所 >
なんだよねえ〜〜 よっしょ〜 」
ぽすん。 カサコソ カサリ。
両手両足を延ばし ひっくり返った。
サワサワ ・・・ サワ〜〜〜
窪地は風も避け行き お日様の光だけが集まってくる。
「 うひゃ・・・ あったか〜〜い〜〜〜〜
それに ふう〜〜 枯草の香り っていいなあ 」
ジョーは目を閉じ いっぱいに息を吸いこんだ。
ス ・・・・
「 ・・・? 」
なにか いい香りが 冷たい香りが流れてきた。
彼は少し アタマを動かしてみた。
「 ・・・ あ ・・・ 花だあ ・・・ 水仙 ?
」
寝転がったアタマの すこし上にすっと伸びた葉っぱと
白い小ぶりな花が数輪 咲いていた。
「 へ え・・・ こんなにいい香なんだ〜 ふう〜〜〜 」
ジョーは深呼吸して澄んだ甘い香りを思いっ切り吸いこんだ。
「 えへ ・・・ あ〜〜〜 なんか 最高だな ・・・ 」
あったかくて 焦げたみたいな匂いに 甘い香が加わる。
「 ひゃあ ・・・ いいなあ〜〜〜 」
ばっさ・・・ 大の字になった。
ここは崖の途中の窪地で陽当たりが抜群。
少し引っ込んでいるので 上を通る道からは、見えない。
枯れた雑草が折り重なり クッションになっていて快適だ。
えへへ ここはぼくの隠れ場 さ。
まだ この邸に住み始めたころ、ジョーは散歩をしていて偶然みつけた。
晴れた日の昼間は勿論、寝ころんで見た 名月 は 最高だった・・・
「 うわあ ・・・ すっげ ・・・ 」
一人きりで眺めるわびしさ よりも 冷たく光る月が
あまりに間近にあるみたいで 彼は思わず手を伸ばしたものだ。
― 以来 この窪地はジョーの別荘になっていた。
「 ふううう ・・・・ 本当にいい香だなあ ・・・
そうだ! これ 持って帰ってフランにも 」
えいやっと起き上がり その一株の水仙に手を伸ばした。
あ。 ― ふと 手がとまる。
花はほんの数輪、お日様に向かってしっかりと首を上げている。
この地に根付いて 海風にも耐えて花を咲かせた。
ここで この光と風の中で咲いてるのが
最高 だよね?
ここで 精一杯咲いているのが いいよね
ああ でもフランソワーズにも見せたいなあ・・・
! そうだ〜〜 そうだよ
ザザ。 ジョーは立ち上がり枯草を集め直した。
水仙の周りを 枯れ枝で囲み、風対策をした。
「 ― うん これで いっか。
ここに ・・・ 招待する! 来てもらうんだ! 」
待っててね〜〜〜 と 彼は花に手を振って
坂の上の我が家に向かって がしがしと歩き始めた。
バタン ・・・ ! 玄関に飛び込んだ。
「 た ただいま! 」
「 ジョー? お帰りなさい。 ・・・ どうしたの? 」
息せき切って入ってきた彼に フランソワーズは少し目を見張った。
「 あ ううん いや あの! 」
「 ?? なにか あったの? 」
「 あの! ちょっと一緒に来てください 」
「 ?? 」
「 あ 寒いからコート 着て。 」
「 え ・・・ええ 」
玄関で彼女を待ち、さ・・・っと彼女の手を取った。
「 あ あら ・・・ 」
「 ご ごめん ・・・ でもでも〜〜 来てください。 」
「 ?? なあに 可笑しなジョー・・・ でもいいわ
なんか いい気持ちねえ 〜 」
金髪美女は くすくす・・・笑っている。
茶髪の日本男児は 大真面目。
しっかり彼女を エスコートしてる ・・・つもり。
「 うん こっちです。 」
ずんずんずん ジョーは彼女の手を引いて歩いてゆく。
ざ ざ ザザ ・・・ 二人で崖を少し降りた。
「 ?? どこへ行くの? 」
「 もうちょっと ・・・ 」
「 あら ここ温かい〜〜〜 」
「 風が遮られるから・・・ あの ここです。 」
「 ここ ・・・? 」
「 うん。 それで・・・ここに座ってみてください。」
「 いいけど ・・・ わあ 枯れ草のクッションね?
あったかくて 好い匂いがするわ 」
フランソワーズは 窪地に座り辺りを見回している。
そんな彼女の前に 彼は立った。
「 ここ・・ ぼくの隠れ家なんだけど ―
今のここの景色 きみにプレゼント !
あ〜〜 フランソワーズ はっぴ〜ば〜すで〜〜! 」
え ・・? 大きな碧い瞳がもっと大きくなった。
「 ばーすでー って・・・ あ! 24日 ・・・
やだ〜〜 すっかり忘れていたわ 」
「 フラン〜〜〜 きみの誕生日だよぉ〜〜〜
ね ほら ここ ・・・ 水仙が咲いてるんだ。 」
「 ・・・ ! 」
思わず息を呑み 彼女は小さな白い花に顔を寄せた。
「 ・・・ わ あ ・・・ すてき ・・・!
ここだけ もう春 ね! 」
「 だよね! なんかこの香り 冷たくて甘いよね
自然にここに 春 が来てるんだ 」
「 そうそう そうよ〜 ああ なんて可愛いの?
あ あら! ・・・ わあ〜 」
フランソワーズは 窪地の中に座り込んだ。
「 ねえねえ ジョー、見て! ちいさなスミレが咲いてる〜〜〜
あ ほら これは・・・ さくら草!
・・・ ああ ここに春が隠れていたのね! 」
「 え あ〜〜〜 ホントだあ ・・・
これ スミレ だよね 」
「 そうよ そうよ あら ジョー 今 気づいたの? 」
「 ウン ぼく 水仙ばっか気にしてて・・・ 」
「 ふふふ ジョーらしいわぁ 」
「 ・・・ なんか ・・・ ごめん 」
「 そんなこと、言わないで? ああ 本当にステキな場所 !
お日様の光も 枯草の匂いも 水仙の香も ・・・ ! 」
「 あのう・・・ 気に入ってくれた? 」
「 ジョー 」
彼女は すっと背を伸ばすとジョーを真正面から見つめた。
「 最高に素敵なプレゼントだわ ・・・
ありがとう〜〜 ジョー〜〜〜 大好き! 」
ちゅ。 桜色の唇が ジョーの頬に当てられた
「 ・・・ う は ・・・ !!! ( うわ〜〜〜 ) 」
だははは 〜〜〜〜
よおし、 次は満月の夜に招待する!
二人っきりで 月見だあ!
・・・ ちゃんと キス する! するよ!
ぽすん ぽすん。
彼と彼女は日溜りで 隣り合って肩を寄せ。
「 ・・・ ジョー ? 」
「 ん? 」
「 あ り が と う 」
「 フラン・・・ 」
「 なあに 」
「 ・・ ありがとう 」
春まであと少し。
****** オマケ
「 え わたし、そんなこと、言った? 」
「 うん! もうすぐ24日ねえ って・・・ 」
「 覚えてないけど ・・ ああ 一月も終わるなあ〜って
思っただけよ。 誕生日って ・・・ ふふふ
ホントにすっかり忘れてたの 」
「 ・・・ マジで ? 」
「 そ。 でも 今は と〜っても嬉しいわ。 」
「 えへへ よかった・・・ 」
「 ねえ ジョーは? ジョーのお誕生日は いつ? 」
「 ・・・ え いいよ。 」
「 よくない〜〜〜〜 ねえ いつなのぉ 」
「 いいってばあ あ 博士に買い物 頼まれたんだっけ
イッテキマス〜〜 」
「 も〜〜 ジョーってば〜 」
― いつ この彼は彼女にコクるのでしょうね
************************ Fin. **********************
Last updated : 01,26,2021.
index
*************
ひと言 ************
数日遅れましたが フランちゃ〜〜ん
お誕生日おめでとう♪ 話 です (‘◇’)ゞ
まだまだ恋人未満、 早春時代? な
二人の 早春ものがたり であります☆