『 forget − me − not 』
「 ・・・ あ ・・・ 」
フランソワ−ズが小さな声を上げた。
「 ・・・ なに。 どうかした? 」
行為のあと、だんだん希薄になってゆく熱い波を惜しみつつ味わっている・・・ そんな時だった。
けだるい充足感で まわりの空気もまったりと感じるのは気のせいだろうか。
ジョ−は 遠くからその声が聞こえた風に思え、彼自身もぼんやりと応えていた。
「 ・・・ ううん ・・・ なんでもない ・・・ 」
「 なんだ ・・・ 可笑しな フラン ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
フランソワ−ズはもうなにも言わずに ジョ−の胸に頬を寄せた。
ぴくり、と彼女の身体に痙攣が走る。
「 ・・・・ ? ・・・ 」
名残の小さな波が彼女を襲ったのかもしれない ・・・
ジョ−は つい先ほど過した濃密な時間 ( とき ) を反芻し 満ち足りた溜息を吐いた。
彼だけが知っているその香りをもう一度いっぱいに吸い込み、ジョ−はそのしなやかな身体に腕を回す。
手にあたる彼女の髪が、金の生糸が、しっとりと心地よい。
甘い疲れの先には 優しい眠りが奈落の底へと誘っている。
「 ・・・ お ・・・ やす ・・・み ・・・・ 」
切れ切れの言葉は ほとんど無意識に彼の口から零れて出て行った。
「 ・・・ 忘れないで ・・・ 忘れないでね・・・ 」
彼女の呟きを ジョ−の意識は拾い集めることが出来なかった。
「 ・・・ あれ 。 」
う・・・ん ・・・ と延ばした腕には 何も当たらない。
朝の目覚めの時でさえ、ジョ−はほとんど無意識にゆっくりと動くのが習慣になっていた。
隣に伏す愛しいひとを護るため。 そのひとの眠りを妨げないため・・・・
ジョ−は静かに身動ぎするのだが。
その朝
ジョ−の腕の中にも そして隣にも。 彼の恋人のその白く輝く裸身を見つけることはできなかった。
・・・ もう 起きたのかな。
ゆっくりと首をめぐらせば彼の部屋は綺麗に整頓されていて、昨夜床やらベッドに上に
脱ぎ散らした服は きちんと畳んでナイト・テ−ブルの上でみつかった。
ふん? 昨夜のうちに自分の部屋に帰ったのかなあ・・・
・・・ 今、誰もいないんだもの。 朝まで一緒でもいいじゃないか。
ぶるん・・・とアタマを振り、溜息とひとつ ふたつ。 昨夜の満足の吐息とは程とおい。
朝の極上の気分はすこし陰ってきてしまった。
「 ・・・ おはよう、フランソワ−ズ。 ・・・ あれ ? 」
ジョ−はスリッパを鳴らして二階から降りてきて 戸口で立ち止まってしまった。
初冬の朝日がいっぱいに差し込むリビングは きらきらと光に満ちていたが・・・
人影はなかった。
いつもごたごたとモノが転がっているその共有の広間は 今朝は妙にガランとしている。
「 ・・・ お〜い? フランソワ−ズ・・・・ ? 」
気がつけば 音 がしない。
いや、聞こえるのはこの邸に常に響く寄せては返す 波の音だけなのだ。
「 キッチン ・・・ かな。 」
ふと漏れる自分の言葉は 受け取り手のないままころころと床に落ち散らばってしまう。
わざとスリッパを引き摺り、派手な音をたてジョ−はリビングを抜けてゆく。
「 おはよう ・・・! ・・・ あれ。 」
いつも人影があり、熱気が流れてくるその場所も今朝は静まりかえっていた。
ガス台の上はからっぽでシンクに流れ落ちる水音もしない。
裏の窓から差し込む光にキッチン中のステンレスがやけにまぶしく感じる。
「 ・・・ どこか ・・・ 出かけるって言っていたっけかなあ・・・ 」
ジョ−はがらん・・・としたキッチンの真ん中でぐるりと周囲を見回した。
調理台の上には なにもない。 レンジの前に張り紙も なかった。
どこかに彼女の文字が見つけられないか・・・とジョ−はきょろきょろとさがしまわる。
毎朝バレエのレッスンに出るときでも、フランソワ−ズは必ずメモを置いていった。
< 行って来ます、サンドイッチとオレンジが冷蔵庫に入ってます。 >
< 5分、温めてね。 >
< イワンのミルク、お願いします。 >
そんな毎度お馴染みのメッセ−ジはどこにもみられない。
「 ・・・? まさか ・・・ ? 」
不意に湧き上がってきたイヤな予感に ジョ−自身ぞっとして・・・
平和な日々にあまりにも慣れすぎた自分に舌打ちをした、その時。
「 ・・・あ! 」
やっと冷蔵庫にマグネットで止められたメモに気づいた。
< しばらくパリに帰ります。 >
「 ・・・ あ。 そう・・・か。 そうなんだ ・・・ 」
カチリ。
いちご型のマグネットを外し、ジョ−はメモを手にとった。
サインはないけれどきっちりとした筆跡は 間違いなく彼女のもの。
でも・・・ そんなコト、全然聞いていなかったぞ?
ジョ−は少々不機嫌に その文字を睨みつけていた。
・・・ < 帰る > か。 やっぱり彼女の<家> は ここじゃないんだ・・・
何気ないひと言が 自分でも驚くほどカチン・・・とこころに当たった。
ふうん ・・・ そうなんだ・・・ いいさ。 まあ、しばらくゆっくりしてくれば。
きみには < 帰る >家があるんだから。 待っていてくれる家族がいるんだしな・・・
普段はもう忘れていたはずの旧い棘が ちくりと心の奥の奥で痛んだ。
・・・ あ・・・。 もしかして。 嫉妬してるのかな、ぼく。
くしゃ・・っと一回は握り潰したメモを、 ジョ−はあわてて引き伸ばし、丁寧に折り畳んだ。
ふん。 いいさ。 ぼくもしばらく仕事で海外に行くし。
別々に暮らすのも ・・・ そう、たまには、ね。
ふうう ・・・・・
特大の溜息をつき、のろのろと冷蔵庫からミルクを取り出した。
ミルク・パンをどこに仕舞ったのかわからずに適当な鍋でミルクを沸かす。
「 ・・・ そうさ。 しばらく ・・・ 別れているのも。 ・・・ そう、少しの間なら・・・ 」
ぶわ・・・!! っとミルクが吹き零れるまでジョ−は同じ言葉をぶつぶつと繰り返していた。
「 あら。 もう随分マロニエの葉も落ちてしまったわね。
帰ってきた頃には 紅葉が綺麗だったのに・・・ 」
フランソワ−ズはカフェ・オ・レのカップを取り上げたまま、背を伸ばした。
ちょうど食卓の彼女の席から窓越しに街路樹の並木が見通せるのだ。
「 ・・・ あ ・・・・ そうか? 」
「 紅葉ってね。 ここでは黄色から茶色になって散ってゆくでしょ。
それも綺麗だけど。 赤やらオレンジになる樹もあって ・・・ とっても素敵なのよ。 」
「 ふん ・・・ そうか? 」
「 ・・・ もう・・・! 」
フランソワ−ズは椅子を鳴らして立ち上がり窓辺に立った。
兄は相変わらず新聞に顔を突っ込んだまま、生返事を繰り返している。
「 ほんとうに ・・・ 綺麗なのよ。 今年は見損ねちゃって残念だわ・・・
そういえば・・・ 初めて紅葉を見たとき、一緒に裏山を散歩していたわね。 」
綺麗ねえ ・・・
うん。 日本の秋は紅葉がきれいなんだよ。
そのヒトがそんな言葉を口にするのが意外だった。
ぶっきらぼう・・・というほどでもないけれど、彼は日常生活ではかなり無口で
必要最低限のことしか喋らなかった。
初めは なにか機嫌でも損ねているのか・・・と思ったが すぐにそれが彼にとって
普通の状態なのだ、ということがわかった。
思いもかけずにやってきた極東の島国、そこでの日々は目新しいことの連続だった。
一応 当面の危機は去り、<普通の日々>を過ごし始めていた。
「 そう ・・・ あの頃・・・ あなたってとっても不思議なヒトだなあ・・・って思っていたわ。
でも。 もしかしてずっとそのまま、なのかもしれない・・・ 」
ほとんど葉を落としたマロニエの木々が 急に寒々しく感じられた。
・・・ なんだか わたしのこころみたい・・・
細い枝々を震わせ、木枯らしが音をたてて吹き抜けてゆく。
ふう ・・・ どこまで ・・・ 吹き飛ばされてゆくの・・・・?
気づかないうちに また溜息を付いていた。
あ・・・ ! いけない。 また・・・
フランソワ−ズは慌てて口元を押さえ そっと振り返った。
テ−ブルの前の席は 空っぽだった。
よかった ・・・ ちょっとほっとして、彼女は窓辺を離れた。
さっきまで兄は食卓で新聞を拡げていたが 出勤の支度をしに自室に戻ったらしい。
飲み残したコ−ヒ−が まだいい香りを放っている。
さあ! わたしもここを片付けて出かける用意をしなくっちゃ。
フランソワ−ズは ぱん ・・・ ! と小さく自分の頬を叩いた。
「 おおい ・・・ ストライプのYシャツ、どこに仕舞ったかあ?
この前、クリ−ニングからとってきた、アレ。 」
兄の声が響いてきた。
少々くぐもっているのは クロゼットの中にでもアタマを突っ込んでいるのかもしれない。
「 いつものところに入れておいたわよ。 」
「 ・・・ ないぞ! 」
「 もう ・・ ・ ! 今、ゆくわ。 」
「 頼む。 」
・・・ もう、ジョ−ったら。
フランソワ−ズはぶつぶつ言っている自分に ふと気がついてほろ苦い笑みを浮かべた。
やだ。 ・・・ふふふ でも。 オトコのひとって。 ウチでは皆似たりよったり・・・・ってことかしら。
・・・ でも。 本当にちょっと。 ちょっとだけだけど似ているのよ。
兄はクロゼットの中をうろうろしていた。
「 おい、ないぞ。 どこに置いたんだ? 」
「 だから。 いつもの棚よ。 ほら・・・ ここにあるじゃない。 」
フランソワ−ズはぱりっと仕上がったYシャツを 奥の棚からとり上げた。
「 ・・・ あ ・・・ そこには。 もう置いてないんだ。
その ・・・ ここに引っ越してきてから。 」
「 あら。 ・・・ そうだったの。 ・・・ ごめんなさい。 」
「 いや。 オレの方こそ・・・ つい・・・ 」
兄は、兄のほうこそが少々情けない顔をしていた。
「 ・・・ わたし、 気にしていないから。 」
「 う、うん ・・・ ごめん。 」
「 そんな ごめん、なんて・・・ でも。 ふふふふ ・・・ 」
なぜか自然に笑みが浮かんでしまった。
「 あの、ね。 同じようにすぐに 〇〇はどこだっけ??って訊いてまわる コ がいて。
お兄さんとよく似ているのよ。 」
「 ・・・ アイツか。 」
「 え・・・? ええ。 そうなの。 」
「 ファンション。 お前・・・ 無理にここにいてくれなくてもいいんだぞ?
たまの休暇に帰ってくる、そんな風でいいんだよ。 」
「 あら。 自分の国に帰ってきて自分のウチに居ちゃいけない? 」
「 そんなこと言ってないだろ。
そりゃお前が居てくれれば俺も楽しいけど。 アイツの事も考えてやれよ。 」
「 ・・・・ 別に喧嘩したわけでも なんでもないってば。 」
「 そうか? 俺の携帯に何回もヤツから連絡はいっているぞ。 」
「 え ・・・・ 」
「 ともかく。 連絡くらいしてやれよ。 それとも・・・・本気で別れるのか。 」
「 別れるって・・・ そんな・・・ ただ ちょっと 離れていてもいいかなって思って・・・ 」
もじもじ歯切れの悪い妹に 兄は大きく溜息をついた。
「 お前な。 油断していると 浚われるぞ? アイツだってオトコなんだから。
いつまでも拗ねていると 横合いからちょっかいを出される。 」
「 あら。 お兄さんの経験? 」
えっへん ・・・
ジャンは咳払いをしてから まじまじと妹の顔をみつめた。
「 なあ。 素直になれよ。 そりゃ お前が居てくれるのは嬉しいさ。 」
だけどな、と兄は口調を少々改めた。
「 俺は ・・・ ずっと一緒にはいてやれない。 アイツはいいヤツじゃないか。
そりゃあお前にしてみれば いろいろあるだろうけど・・・ 」
「 いろいろって・・・なによ。 ジョ−はそんな! ・・・ あ。 」
「 な? だから素直になれって。 」
ムキになって ・・・ はっと頬を染めた妹に ジャンは優しい眼差しをむけた。
「 ほら。 今時珍しく手紙が来てたぞ。 」
ぱさり、と手渡されたのは一通のエア・メ−ル。
本当に 最近手紙といえばダイレクト・メ−ルばかりになってきている。
・・・ ジョ−らしいわ・・・ わたしの携帯だってちゃんと教えてあるのに。
見覚えのある筆跡に 思わず笑みと一緒に涙が滲んできてしまった。
「 ・・・ ありがとう お兄さん ・・・・ 」
「 アイツをな、ここに呼んでもいいぞ。 あ、Yシャツは今度からこっちの棚に頼む。 」
ジャンはお目当てのYシャツをつかんで に ・・・っと笑った。
「 もう ・・・ お兄ちゃんったら・・・ 」
フランソワ−ズはまだ紅潮したままの頬にそっと手をあてた。
カサコソ ・・・ カサ ・・・・ カサ
足元で 落ち葉がにぎやかな音をたてる。
話し声みたい・・・
普段の石畳が奏でる固い音色とはちがった、やわらかいオシャベリに
フランソワ−ズはふっと淡い笑みを浮かべた。
・・・ ああ。 この音。 あの街の歩道と同じね・・・
そう・・・・ ここの道は固いわ。
もうすぐ綺麗に片付けられてしまうと思うと なんだか惜しい気持ちで彼女は褐色のふかふか
絨毯をわざわざ踏んで歩いた。
そんな頓狂なことをしている娘を この街の人々は知らん顔して追い越してゆく。
サクレ・ク−ル寺院を背に 長い階段を下りる。
毎日通い慣れた道だけれど、毎日その表情はちがっていた。
なんだか・・・全然知らない街みたいね。
ふふふ・・・ 可笑しなフランソワ−ズ。 あんたが生まれ育った街なのに・・・・
以前は木々の佇まいや風の音、陽の光の色 ・・・ 以前はそんなコトに気を止めたこともなかった。
あの街に あの国に暮らしたから・・・? フランソワ−ズは首を傾げる。
季節はいつの間にやら廻り、大気にはいつも湿気が含まれ人々は穏やかに行き交う・・・
そして言葉も眼差しも ちょっと曖昧に優しい 本当に不思議な 東洋の離れ小島。
ふ・・・っと気付けば いつも心に思い描いていた。
ヤダ・・・。 帰り・・・、いえ。 また <行きたい> の?
今年は 紅葉狩り に行けなかったわね。 ・・・ だれと・・・? え・・・?
もうすぐ ・・・ そう、あっという間に冬になるわ・・・
この街では もうとっくに冬なのかもしれないけど。
レッスン帰り、まだ身体も心も音の響きが残っていてほんのりと暖かい。
そう ついさっきまでの弾んだ気持ちもまだ冷えてはいない。
フランソワ−ズはコ−トに纏わり着くスカ−フの感触を楽しんでいた。
「 ねえ、今度お茶しない? ちょっといいカフェを見つけたの。 」
「 まあ、どこに。 」
「 うん、表通りから二筋ひっこんでいるんだけど。 なかなかシックでいい雰囲気なの。 」
「 いいわね、一緒に行きましょ。 ああ、来週〇〇のバーゲンでしょ、帰りに行かない? 」
「 オッケ−。 じゃあ・・・ また明日〜 」
「 サヨナラ ジャネット。 」
「 ・・・ え??? 」
「 あ・・・ ごめん、a demain ( また明日 ) 」
「 バイ、フランソワ−ズ。 」
ふふふ ・・・ つい、クセで・・・ 日本語なんてわからないわよね・・・
金髪の友の背を見送ってフランソワ−ズはそっと呟いた。
そう・・・
そうして なんとなくメトロに乗らず、ずっと歩いて来てしまった。
わたし。 帰りたい・・・? ううん、正直におっしゃいよ、フランソワ−ズ?
< ジョ−に会いたい > って・・・!
コ−トのポケットにこっそり手を当てる。
カサリ ・・・
彼女にだけ聞こえる音がして 彼女のだけ読める文字が脳裏に浮かぶ。
ジョ− ・・・ 本当に? 本当にパリに来てくれるの・・・・?
カサカサ ・・・ カリリ カツカツ ・・・
はずんだ気持ちで 彼女は落ち葉の道を歩き始めたのだった。
「 おおい・・・ こっちだ! 」
入国ロビ−の人混みの中で見覚えのある禿アタマがつやつやとライトを反射し、わさわさ手を振っている。
「 ・・・・ ! 」
ジョ−は軽く合図を返し、キャリッジを押し彼のいる方向へ進んでいった。
「 グレ−ト! ありがとう。 」
「 よう、ボ−イ。 わが女王陛下の国へようこそ。 」
「 ヨロシク! 」
二人はがっちりと握手をした。
「 なんだか ・・・ 雑誌記事の取材だったって? 」
「 うん。 それの終わり次第で休暇オッケ−なんだ。 それで大急ぎで仕事は片付けたってわけ。 」
「 ははは・・・ 我らがリ−ダ−は仕事にも加速装置・・かい。
時に希望の場所はどこだね。 スコットランド、だけじゃわからんよ。 」
ジョ−とグレ−トは並んで空港のロビ−を突っ切ってゆく。
「 うん。 じつは、さ。 ネス湖に行きたいんだ。 」
「 ネス湖ォ??? ネッシ−見物かい! 」
「 そ。 ず〜〜っと憧れてたのさ。 だから是非、地元民のグレ−トに案内して貰おうと・・・ 」
「 おい? ボ−イ。 相変わらず勉強不足だなあ。 我輩は由緒正しいロンドンっ子だ。 」
「 ま・・・ その辺りはご近所ってことで・・・ 頼むよォ〜〜 」
「 ふん。 ・・・あれ、そう言えばお前、一人か? ああ、後の便かい。 」
グレ−トは立ち止まり、急にきょろきょろと今来た方向を見回している。
「 後の便?? 」
「 ああ。 マドモアゼルと一緒だろう? あ、それとも現地で落ち合う約束かい。 」
「 ・・・ べつに。 ぼく、ひとりさ。 」
「 ひとりだぁ〜〜〜??? おい! ひょっとしてマドモアゼルは置いてきぼりの留守番か!
ジョ−! お前なあ!! 」
まさに襟元を掴み上げんばかりの剣幕である。
「 ちょ・・・ ちょっと ・・・ グレ−ト・・・ ! ち、ちがうって・・・ 」
「 なに?? 言い訳は見苦しいぞ。 ジョ−! 」
「 だから・・ 違うってば! フランソワ−ズは 今、パリなんだ。 お兄さんのとこに帰ってる。 」
「 へ・・・ なんだ。 そうか。 そりゃ・・・ よかったなあ。
おい、丁度いいチャンスじゃないか! 」
「 チャンス? 」
「 ああ! マドモアゼルは兄上の所にいるのだろ。 だったら!
迎えに行きがてら ・・・ 正式にイッパツ殴られてこい。 」
「 ・・・ はあ??? 」
「 だ〜か〜ら。 兄上に、だ。 お嬢さん・・・いや、妹御さんを僕に下さい!って
土下座してこい。 そして正々堂々とイッパツ喰らってこいよ。 」
「 ・・・ グレ−ト。 それって・・・ 」
「 なあ。 ほら、お前の国の言い回しで・・・なんとか言うじゃないか・・・え〜と・・・
そうそう! 年貢の納め時だぞ! なんなら一緒に行ってやる。 」
「 ・・・ あのねえ グレ−ト。 ぼくたちはそんな・・・ 」
「 兄上も結局は喜んでくれるさ。 うん、決まり。 ネス湖経由でパリ行きだ! 」
「 ・・・ だからさ ・・・・ 」
「 ジョ−。 」
グレ−トは突如立ち止まり、ジョに向き合った。
「 わかっていると思うが。 ケジメをつけてこそ一人前のオトコなんだぞ。
それに。 我らが姫君を泣かせるヤツはこのグレ−トおじさんが許さんから。 わかったな。 」
「 泣かせるって、そんな。 勝手に彼女が帰っちゃったんだ。 その・・・何にも言わずにさ。 」
「 は〜ん? 多分そんなこったろうと思っていたさ。
お前、マドモアゼルをほっぽっておいたんじゃないか? 近頃ゆっくり話をしたか。 」
「 ・・・ え ・・・ゥ ・・・ う〜〜ん ・・・・??? 」
そう言われてみれば。 ジョ−は宙に目を据えて想いめぐらす。
身体の関係は続けていても ・・・ そうか、・・・ そうかも。
日常の何気ない会話は別として フランソワ−ズと二人だけで出かけたのは ・・・ いつだったっけ?
「 ・・・ ウン ・・・ そう、だね。 そっか・・・ ぼく ・・・ またぼんやりしてた・・・かも。 」
「 ふん。 やっと自覚したか、天然ボ−イ。 それじゃ 腹を括れ。 いいな。 」
「 うん。 あ・・・ あのリムジン・バスで移動かな。 」
「 あ? ああ、そうだ。 おい、行くぞ! 善は急げってな! 」
「 善は・・・って・・・もう〜〜 グレ−トォ〜〜〜
あ! 待てよ、待ってくれったら。 」
「 遅いぞ、ジョ−! ネッシ−に逃げられちまう。 」
急にすたすたと早足になったグレ−トを ジョ−は慌てて追いかけて行った。
ゴオン ・・・ ゴオン ・・・ ゴ ・・・
かすかなエンジン音とほんの少しの振動が ずっと続いている。
国内線の機内は のんびりム−ドで空気までまったりしていた。
「 ・・・ ボ−イ? お前、何やっているんだ。 」
「 え ・・・ 何って。 手紙書いてるんだよ。 」
「 手紙?! おう・・・ 今時の青少年にしては珍しいコトをするな。 」
「 え。 ア・・・そうかな・・・ だってまさか飛行機の中でメ−ルは打てないだろ。 」
「 そりゃそうだが・・・ うむ。 <正しい恋の道筋>をちゃんと踏んでおるな。 よしよし。 」
「 恋の道筋って ・・・ そんな。 だって急に訪ねるわけには行かないじゃないか。 」
「 ・・・ ふん ・・・ どれどれ・・・ 」
「 あ・・・! 見るなよォ。 」
「 ふふん ・・・ おい?まさか〇日の×時に到着予定です、かしこ。 ジョ− なんて
書いていないだろうな? 」
「 ・・・ やっぱり覗き見したんだろ。 」
「 図星かよ・・・。 おい・・・! ビジネス・レタ−じゃないんだぞ?
アイシテルよ・・・とか 書いておけ。 」
「 え・・・ そ、そんな。 ぼく達はべつに そんな ・・・ 」
「 ・・・ ジョ−? 」
「 ・・・ わかったよ ・・・ 」
ジョ−は一人でなぜか耳の付け根まで赤くなりつつ ・・・ 書いては消し書いては消し・・・
狭い座席で大汗を掻いていた。
「 ふふふ ・・・ やはり恋文は手紙に限るな。 メ−ルはどうも無粋でいかん。
命みじかし 恋せよ乙女・・・・ か。 少年よ、おぬしの国には粋な詩人がおるなあ・・・ 」
悪戦苦闘する茶髪・日本男児の隣では英国紳士がスコッチの水割りなんぞを舐めていた。
がくん・・・と高度がさがった。 そろそろ眼下に湖沼地帯が見えてくるのかもしれない。
優雅なピアノの調が止み、軽やかな足音が廊下に響く。
がらんとしていた建物に 急に華やかな色彩とオシャベリのさざめきが満ちてきた。
「 ・・・ さっきのアレグロの振りさあ・・? 」
「 あ、あれはねえ・・・ 」
「 いや〜〜 参った! しばらくサボっていたツケが回ってきた〜〜 」
「 ふふふ・・・ 明日、筋肉痛かも〜〜 」
賑やかに人々が移動してゆく。
スタジオはたちまち閑散となり、ぽつぽつ自習をしている姿が目立つ。
カッ ・・・・
ペイル・ブル−の稽古着が さかんにピルエットの組み合わせを繰り返している。
「 ・・・っと。 そうか・・・ この、ア−ムスの位置がまずいのね。 」
・・・ カッ ・・・!
薄水色の風が ふわり・・・と宙に舞う。
「 フランソワ−ズ〜〜? まだやってゆくの〜 」
スタジオの入り口から金髪がひょいと顔をのぞかせた。
「 あ、ジャネット。 う・・・ん・・・・ もうやめるわ。 」
「 熱心ねえ。 あなた、こんなオ−プンのとこには勿体無いんじゃない?
オ−ディョンとか受けてちゃんとしたカンパニ−に入れるよ。 」
「 あら ・・・ そんなの無理よ。 わたし、そんなに上手じゃないし ・・・
いいの、自分の楽しみで踊っているだけだから。 」
「 そォ? 勿体無いなア・・・ 」
「 わたしにはそれで充分よ。 ね? バ−ゲン行く前にお茶してきましょ。 」
「 おっけ-。 じゃ、あのカフェに行こう。 」
二人の少女は笑いさざめき 更衣室に飛び込んだ。
「 ふふふ ・・・ なんだか楽しそうね? フランソワ−ズ。 」
「 え ・・・ そう?
あのね、もうすぐお友達が訪ねてくるの。 」
「 あら。 カレシでしょう? 」
「 え ・・・・ あ ・・・ あの・・・ 」
「 きゃは。 あなた、可愛いわねえ〜 ほんと、あなたのカレシはラッキ−・ボ−イだわ。 」
「 やだ ・・・ そんな。 」
でも ・・・ 嬉しいわ。
やっぱり、わたし。 ・・・・ ジョ−が 好き・・・!
フランソワ−ズは友達にからかわれ頬を染めた。
こっそり押さえたコ−トのポケットには 不器用な愛の言葉を載せた手紙がある。
ふふふ ・・・ なんだかお守りみたいになっちゃった。
巴里の午後、陽射しは急速に薄くなっていった。
「 ・・・ あ ・・・・ 」
突如黒雲に覆われ、雷鳴が轟き ・・・ 大気全体がきしきしと不気味に軋んだ後。
一条の光線銃が 全てを変えた。
ジョ−がかっと目を見開き、レイガンのトリガ−を引いた − 次の瞬間。
三人の頭上には ほんの数分前と少しも変わらない初冬の巴里の空があった。
しろっぽい空に 相変わらずエッフェル塔が優美に聳え立つ。
さらにその上空を旅客機が ちがう空を目指し上昇していった。
「 ・・・・ ・・・・ ! 」
言葉もなく、息も詰めたまま。
フランソワ−ズは ジョ−の胸に飛び込んだ。
ジョ−もは 銃を投げ捨てフランソワ-ズを抱きしめた。
「 ・・・ ジョ ・・ − ・・・ ! 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ・・・ マドモアゼル ・・・ よ ・・・よかった ・・・ 」
グレ−トがへなへなと石畳の歩道に座りこんだ。
巴里での再会の後、彼らはまたしてもとんでもない奇禍に巻き込まれたのだ。
かつて 彼らの前に現れジョ−とフランソワ−ズの未来をちらり、と告げていった<未来人>達。
その彼らが原因不明の事故に遭遇し、<時間漂流民>になってしまった。
彼らに引き寄せられ亜時空間世界に迷い込んだ挙句・・・・
やっと現実世界に戻ってきたとき、 なぜかジョ−とグレ−トの前には
二人のフランソワ−ズが立ってた。
どちらかをパラレル・ワ−ルドに戻さなければ − この世界から< 消す > ことを
ジョ−に委ねられ − 彼はレイガンのトリガ−を引いたのだった。
彼の愛しい女性 ( ひと ) に向かって・・・
随分と長い時間 < 向こう > に留まっていたと思ったが
実際には 星の瞬きにも似た一瞬であり同時に悠久の時間でもあったらしい。
ジョ−達は三人、連れ立って巴里の道を歩いていた。
「 ジョ−? どうしたの。 」
「 え ・・・ あ。 うん。 そのゥ・・・ 」
ジョ−は アパルトマンの前で急に立ち止まってしまった。
ネス湖の話に興じていたグレ−トとフランソワ−ズは怪訝な面持ちで振り返った。
「 なあに? 」
「 うん ・・・ あの、さ。 その・・・ お、お兄さんさ・・・ 」
「 え? 兄がどうかしたの。 」
「 う ・・・ もう帰ってきてる・・・のかな。 」
「 う〜ん ・・・ どうかしら。 今日はちょっと用があるって言ったけど・・・
でもジョ−達が来るって言ってあるからそんなに遅くならないはずよ。 」
「 そ ・・・ そうなんだ ・・・ 」
「 なんだぁ? ジョ−、今更怖気づいたんじゃあるまいな。 」
「 ぐ、グレ−ト・・・! そ、そんな ・・・ 怖気づくって そんな ・・・ 」
「 ええ?? なに、どういうこと。 」
フランソワ−ズはワケが判らず、目をぱちぱちさせ二人を交互に見つめている。
「 いやさ、マドモアゼル。 ここは じっくり観客席へどうぞ・・・といった所だ。
ジョ−が オトコを上げるか否か。 よっく見ていてやってくれ。 」
「 ??? え ・・・ ええ。 でも・・・?? 」
「 まあまあ。 ここはトシヨリの言い分を聞いてやって欲しいな。 」
「 なんだか ・・・ よくわからないけど。 さあ、ここよ。 どうぞ・・・・ 」
フランソワ−ズは古びてはいるが気持ちの良い部屋にジョ−とグレ−トを招きいれた。
「 失礼いたす。 おお ・・・ いい部屋だな。 」
「 お邪魔しま〜す ・・・ 」
「 さあ、荷物はそっち、クロゼットの中において。 どうぞ座ってちょうだい。 」
「 それでは失礼して・・・。 うん、落ち着くなあ〜 」
「 今お茶をいれるわね。 グレ−トはティ−? ジョ−は? 」
「 そうだな、マドモアゼルのお国に敬意を表し熱々のカフェでも頂くかな。 」
「 はい。 ジョ−は? ・・・・ ジョ− ? ねえ うろうろしてないで座ったら。 」
「 う ・・・ うん・・・ 」
荷物を置いたきり 窓辺に行きまた戻り戸口の方に進んで立ち止まり・・・
ジョ−は部屋中を 歩きまわっていた。
「 ・・・ おい! 落ち着け。 みっともないぞ。 」
「 う ・・・ うん・・・ 」
「 ?? ねえ、どうしたっていうの。 まるで動物園のクマさんみたいよ? 」
「 う ・・・ うん・・・ 」
「 マドモアゼル。 放っておけ。 ヤツはいま、一世一代の大舞台を前にした
主演俳優の心境なのさ。 」
「 ?? なんのコトかさっぱりわからなわよ ・・・? あ。 帰ってきたみたい。 」
「 ・・・ え ! 」
やっと座りかけていた椅子から ジョ−は本当にちょっと飛び上がった。
「 こ、こんにちわ! お久し振りです・・・ ジョ−で・・・ 」
「 ジョ−。 まだお兄さん、下のエントランスに入ったばかりよ。 」
「 ・・・ あ ・・・・ 」
「 本当に可笑しなヒトねえ。 だって初対面じゃないでしょ。何回も会っているじゃない。 」
「 そ・・・・そうなんだケド・・・さ ・・・ 今日は・・・・ 」
ふうう〜〜 ・・・・ 特大の吐息と共にジョ−はごしごしと額の汗をぬぐった。
・・・ チリリ ・・・チロチロ ・・・
小さなカリヨンの音に、フランソワ−ズはぱっと戸口へ駆けてよった。
「 お帰りなさい、お兄さん! 」
「 ただいま・・・ ファンション・・・ 」
兄妹が軽く頬にキスを交わす。
・・・ ガタッ !!
ジョ−は椅子を蹴飛ばして立ち上がり ― 彼の一世一代の舞台の幕が上がった!
ジャンはグレ−トとは初対面だったが、二人は波長が合うというか気が合ったらしい。
最近の話題の舞台やら映画の話に盛り上がっている。
ジョ−はその方面には全く疎いので 会話に加わることができない。
しばらく もじもじとグレ−ト達の話を聞いていたが・・・・
フランソワ−ズがお茶を替え、持ってきたときについに! 彼は意を決した・・・らしい。
「 あ ・・・ 妹さんをぼくにくださいッ !! 」
は ・・・?
前置きナシの単刀直入な発言に 一瞬全員が ― 当のフランソワ−ズでさえ ― ぽかん・・・と
発言者の気負った顔を見つめてしまった。
「 ・・・ ふん・・・? 」
最初に我に帰り 沈黙を破ったのはジャンだった。
彼は目の前のカフェ・オ・レのカップを押しやり、静かに立ち上がった。
そして つかつかとジョ−の前に立った。
「 ジョ−君 ? ・・・ 眼鏡、じゃないな。 コンタクト・レンズ・・・は入れてないよな。 」
「 ・・・ ? あ、は、はい。 」
「 ようし。 それじゃ、まず立ってくれ。 」
「 は、はい・・・ 」
「 よし。 次に。 歯ぁ 食い縛れ。 脚、開いて踏ん張れ。 いいか? 」
「 ・・・ はあ ・・・ はい。 」
「 お兄さん! 」
「 ファン、黙ってろ。 コレはオトコ同士の問題だ。 」
「 いくぞ・・・ ! 」
「 なに・・・? わ ッ ・・・・ !! 」
シュッ ・・・
ジャンの拳が空を切って ジョ−の顎に炸裂する ・・・ 一瞬手前で止まった。
「 ・・・ あ ・・・・ 」
「 妹を ・・・ フランソワ−ズを 頼む。 一生 ・・・ 頼む・・・! 」
「 ・・・ お兄さん ・・・ 」
ジャンはそのまま ジョ−の手をしっかりと握った。
「 は、ハイ! はい、確かに。 確かに ・・・ ! ジャンさ ・・・いえ、ジャンお兄さん!! 」
「 ほ・・・ いいねえ。 最高の出来だぞ、ボ−イ。 」
グレ−トはカフェ・オ・レのカップを取り上げ、冷えてしまった残りをずずず・・っと飲み干した。
「 ねえ ・・・ 」
「 ・・・ うん ・・・ なに。 」
「 ・・・ ねえ ・・・ 」
「 だから ・・・ なんだい。 」
ジョ−はぴたりと寄り添っているまろやかな彼女の頬にそっと手を当てた。
身体の火照りは 随分とおさまり、すべすべした肌が心地よい。
「 うん・・・・ あの、ね。 ・・・ どうして ・・・ わかったの ・・・ 」
「 ・・・ え? なにが。 」
「 だから。 あの時 ・・・ わたしだって どうしてジョ−はわかったの。 」
ああ ・・・ とジョ−は呟き身体の向きをゆっくりと変えた。
「 ・・・ ねえったら。 ・・・ きゃ ・・・ ヤダ・・・もう・・・ 」
彼の胸の下に 白い肢体がすっぽりとはまり込む。
ジョ−は またゆっくりと彼女の頬に 首筋に 肩に ・・・ 口付けを散らし始めた。
「 ねえ・・・ ジョ− ・・・・? 」
「 うん ・・・ ? いいだろ。 ぼくはこのヒトに夢中なんだ〜 あ・・・! 」
「 だ ・ め ! 」
フランソワ−ズはいきなりくるり、と身体を丸めてしまった。
「 なんだよ ・・・ 」
「 教えて? ねえ、 どうして。 どうして わかったの。 」
「 ・・・ 意地悪さん ・・・ これでも ・・・ダメ? 」
「 意地悪って どっちが ・・・ きゃ♪ 」
ジョ−の指が巧みに 彼女の身体のすきまから忍び込む。
本人よりも数倍饒舌な指が 彼女とのたった今の愛の記憶をなぞってゆく。
消えかけていた火が 再びちろちろと姿を現し始めた・・・・
「 や ・・・ や ・・・めて ・・・ きゃ ・・・ 」
白磁の肌が 再び淡いピンクに染まり始めた。
「 ・・・ きみも ・・・ おしえて? 」
「 え・・・・ なに ・・ を。 あ ・・・! 」
「 あの時。 ・・・ なにを考えていた? どうして<こころが残って>いたんだい。 」
「 え・・・? 」
「 あそこ ・・・ あの亜時空間に。 あの・・・ 少年のところに・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
「 ・・・ フランソワ−ズ? 」
「 ・・・ 内緒! 」
「 おい ・・・ ずるいぞ 」
「 うふふふ・・・・ だ〜め、ナイショ♪ 」
「 こいつぅ 〜〜 」
「 ・・・ きゃ ・・・!! 」
ジョ−は腕の中の身体を しっかりと抱えこむと、閉じた蕾をゆっくりと解き始めた。
「 ・・・ わるいコだね。 このコは・・・ 」
「 ナイショは ・・・ ナイショなの。 ・・・ きゃ ・・・ 」
・・・ だってね、ジョ−。 彼は − フィリップは − ちょっとだけ あなたに似ていたんですもの。
フランソワ−ズはジョ−のすべすべする胸板に頬を擦りつけ こころの中で呟いた。
・・・ だってね、フランソワ−ズ。 きみは ・・・ きみだけだもの。
ジョ−はフランソワ−ズの暖かい谷間に顔を埋め 声に出さずに囁いた。
「 ねえ ・・・ 忘れないで、ね・・・・ 」
「 え なにを。 」
「 ・・・ みんな。 なにもかも。 わたしと・・・ジョ−のこと。 」
「 勿論だよ。 」
「 ・・・ わすれないで。 わたしが ジョ−を ・・・ 愛してるってこと・・・ 」
「 ごめん。 」
フランソワ−ズはびくっと身体を震わせ、顔をあげた。
ジョ−の応えがちょっと思いがけないものだったから・・・・
「 どうして。 どうしてあやまるの。 」
「 うん ・・・ きみが側にいてくれるのが当たり前みたいに思ってて・・・
でもちゃんと考えてみればそれってぼくの勝手な思い込みだよね。 」
「 ・・・・・・・ 」
ジョ−は寄り添う彼女の細い肩をゆったりと引き寄せた。
「 こんな風に ・・・ いっつもきみが手の届くところにいるって 不思議にも思わなくなってた。
朝、起きればきみが隣にいるって、本当はすごく幸せなことなのに・・・ 」
「 ・・・ジョ−、 それは ・・・ わたしも 」
「 それにね ・・・ ねえ、不安だっただろ。 ぼくは何にもきみに言ってないしさ・・・・
こんなぼくにあの 向こうの世界の坊やにヤキモチを焼く資格なんか ・・・ ないよ。 」
「 わたし ・・・ 彼のことが気になるのは 本当よ。 」
「 うん・・・ だから、ごめん。 それと いきなり・・・先にお兄さんにお願いして・・・ ごめん 」
「 ううん。 すごく、すご〜く嬉しかったわ。 ありがとう ジョ− 」
「 わすれない。 わすれないよ。 」
「 ・・・ え? 」
「 今日を ・・・ わすれない。 これから ずっと・・・ きみと一緒さ。 」
「 わたしも わすれないわ・・・ ずっと ・・・ ずっとね。 」
「 どこにどんな別世界があっても ぼくには ・・・ きみだけだ。
きみがいれば ・・・ それでいい。 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
二人の熱い想いには 時間の枠も空間の歪みも敵わない ・・・ らしい。
巴里の夜は 穏やかに更けていった。
********** Fin. **********
Last
updated : 11,20,2007.
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***** ひと言 *****
え〜〜 あのムズカシイお話@原作 ・・・なのですが。
仲良しな二人が出てきてとっても好きなあのお話の <ACT 1 >なのですけど・・・
オバカなワタクシにはよく判らないのであります ・・・ (^_^;)
それで! < ペ−ジの裏では なにをしていたの? > 妄想を書き込んでみました♪♪
うふふ・・・ ジョ−君の プロポ−ズ作戦 第二弾 ?? になっちゃいましたネ〜〜
こんなんもあり・・??って笑い飛ばしてくださいませ。
あ、ちなみに forget
– me – not は 忘れな草のことです。