『 炎 − ほのお − 』
海魔 ・・・ というのだそうだ。
今時、めずらしく坊主刈りにした少年は 不承不承に口を開いた。
「 カイマ ・・・? そいつがどうかしたのかい。 」
「 ・・・ 教えてなんかやんない! どうせヨソモノは ・・・ 大人は本気になんか
してくれやしないんだ。 迷信だの気の迷いだのって笑いものにするに決まってる! 」
冷たい海風に 少年は涙を飛ばしていた。
「 そんなことないよ、ちゃんと聞くよ。 だから教えてくれないか。 」
「 そうアル。 まずは話してみなはれ、坊。 」
いきなり現れた栗色の髪の青年と やたらに日本語が達者な中国服のオヤジに
その少年は面くらい、ますます口を閉ざしてしまった。
「 ごめんなさい、いきなり。 びっくりしたでしょう? 」
「 ・・・ あ ・・・ う ・・・ ううん ・・・ 」
後ろに停めてあった車から 今度は金髪にも似た淡い色の髪の乙女が降りてきた。
「 そ・・・ そんなコト・・・ないよ。 」
さっきまでの不機嫌はどこへやら、少年は真っ赤になってもじもじしている。
「 わたし達ね、釣りに来たの。 あまり混んでなくて景色が良い所・・・って捜して
この西伊豆を選んだのだけれど・・・・ 」
「 ・・・ うん、この辺は不便だからね、あんまり観光客は来ないんだ。 漁師ばっかりだもの、
民宿だってほとんどないよ。 」
「 ええ・・・ それで ・・・ 海を見ていて、君を見つけたの。
よかったら教えてくれない? カイマってなあに。 君は ・・・ どうしたの? 」
フランソワ−ズの海よりも澄んだ瞳に見つめられ、少年は首まで真っ赤になってしまった。
「 わたし達、君の話をききたいのよ。 ええ、絶対に笑ったりしないわ。 」
「 ・・・ うん ・・・ お姉さんはイイヒトみたいだから ・・・ 特別に教えてやるよ。
ぼく ・・・ 浜田ユウジというんだ。 」
「 ユウジくん、ね。 わたしはフランソワ−ズ・アルヌ−ル。 よろしくね。 」
「 あ・・・ う、うん・・・ 」
差し出された白い手を 少年はちょっとだけ握ってぱっと離してしまった。
「 海魔は ・・・ この村にある伝説さ。 海の底に住んでいるバケモノで・・・
時々浮かび上がってきては船をひっくり返して・・・ 漁師を食っちまうんだ。 」
「 まあ ・・・ 」
「 それで・・・ 漁師たちはほとんど帰ってこない。 遺体もあがらなくて・・・行方不明のままさ。
昔、奇跡的に助かったヒトもいるけど・・・<冥土から使いがくる> とか口走って
気が触れてしまったんだって。 」
「 ・・・ ひどいわね。 そんなことがずっと・・・? 」
「 ああ、新聞でも読んだよ。 最近、ここいら辺りの海で遭難者や行方不明が多発しているってね。
君 ・・・ ユウジ君だっけ、君は何か知っているのかい。 」
「 ふん! ヨソモノはいつだって・・・ それは迷信だとか言ってバカにするだけだ!
だけど、本当なんだ。 だから・・・ 村では神社を作って海魔を祀ってあるんだけど・・・
そんなの、何の役にも立たちゃしない ・・・ よ!! 」
ユウジ少年は ぼとぼとと涙を落とした。
「 どうしたの? 誰か ・・・ ユウジくんの身内の方とか災難に遭われたの? 」
ひゅ ・・・・ !
少年は 涙と一緒に小石を海に投げ飛ばした。
「 ・・・ 僕の お父ちゃんが・・・ ! 夜釣りに行って 船を沈められちまった。
海魔に ・・・ 喰われちまったんだ・・・! 」
「 まあ・・・ そうだったの・・・ 」
「 だから! 今に! 僕がアイツをやっつけてやるんだ! 海魔のヤツを・・・!
今にみてろ〜〜〜 バケモノめっ!! 」
「 そやったんか。 そりゃ・・・ 坊も腹が立つやろなあ。 」
海風がびゅうびゅうと吹き付ける。
伊豆とはいえ、真冬のこの時期には冷たい湿気を帯びた風が吹き荒れるようだ。
・・・ へ− −−−−っくしょ ・・・!
張々湖が派手なクシャミを連発し始めた。
「 大人 ・・・ 大丈夫? 」
「 ふぇ・・・・ ふぇ −−−−− っくしょい ・・・ こら あきまへんワ・・・ 」
「 なあ、ユウジ君。 この辺りで釣船を貸してくれるところを知らないかな。
ぼく達、夜釣りをしてみたいんだ。 」
「 釣り? ふ〜ん・・・ 本当かなあ。 だってお兄さん、奥さんも一緒に行くの? 」
「 ・・・お、奥さん・・?! 」
ジョ−は少年のひと言に ぎくり、として寒風のなか固まってしまった。
「 オンナに夜釣りは向かないと思うよ。 天気もあんまり・・・だしさ。 」
「 ひょひょひょ・・・ 坊、なんやねん、今時。 古めかしいコト、言いよって。
このお姉ちゃんな、海洋生物の研究してはるねんで。 今日は旦那はんのお供やけど、
坊の言いはった 海魔 いうバケモンのこと、調べてくれはるんや。 」
「 え・・・ ! そうなんだ? すごい・・・ 」
少年は 真っ赤になっているジョ−になど目もくれず、ひたすらフランソワ−ズをじっと見つめている。
「 え ・・・ ええ・・・ あの、そ、そうなのよ。
だからね、船を貸してくれるところを教えてくださらないかしら。
( 大人〜〜〜 突然ハナシを振らないでちょうだい〜〜 ) 」
「 ほっほ。 ワテからもよろしく頼んまっさ。
( 堪忍え、フランソワ−ズはん。 ジョ−はん? なんとかフォロ−いれなはれ! ) 」
「 ・・・あ ・・・ あ、そ、そうなんだ。 うん、そんなワケでさ、釣り船を一晩・・・
う〜ん、獲物がなかったら二晩になるかな。 借りたいんだ。 」
「 ・・・ 僕の父ちゃんの船があるけど。 」
「 そりゃ丁度いいや。 お願いするよ。 ・・・ 勿論、借り賃は先に払う。 」
ジョ−は内ポケットからお札を取り出し、少年の手に押し込んだ。
「 え・・・ こ、こんなに・・? 」
「 じゃあ、頼んだよ。 今晩、8時にあの入り江の港に来るからね。 」
「 ふんふん〜♪ 久し振りの活劇にアルかもネ。 腕が鳴りまんなあ〜〜
フランソワ−ズはん、寒うないよう、気ィつけなはれや。 」
「 まあ、ありがと、大人。 でも ・・・ あの服があれば大丈夫よ。 」
「 ほっほっほ。 そやった、そやった。 ジョ−はん、でっかい獲物を狙ってはるな。
カイマいうバケモノは 釣りでがあるやろ。 」
「 シ・・・・ 大人! 」
ジョ−はあわててやたらと張り切っている大人の口を塞ごうとしたが、間に合わず・・・
「 ・・・ 僕もつれてっておくれよ! 」
「 ユウジ君・・・ 」
「 こ、これは返す! 船はタダで貸すよ。 そのかわり、僕を一緒に連れてってよ! 」
「 ほうらみろ・・・。 だめだよ、ユウジ君。 連れてはゆけない。
それに ・・・ ぼく達、 ただ夜釣りにゆくだけだよ? 」
ジョ−は防戦に懸命である。
確かに <海魔> なるバケモノ調査、のつもりだが、
コドモを連れて行くわけにはいかない。 戦闘ではないにしろ、危険な目には遭わせられない。
「 お兄さんも小父さんも ・・・ 海魔退治に行くつもりなんだね。
お願いだよ! 僕、 あのバケモノをどうしても・・・! 」
「 だめだよ。 これは ・・・ 遊びじゃないんだ。 」
「 う・・・ そ、そんなら 船は貸さないよ。 」
「 まったく! 別のトコで船を借りることだってできるんだぜ。 」
「 ・・・ く ・・・ 」
ユウジ少年は 唇を噛んでジョ−をじっと睨んでいる。
「 こういうことは 大人に任せたまえ。 それじゃ、とりあえず、今晩拝借するよ。 」
ジョ−はさっさとフランソワ−ズと大人を車に乗せると、アクセルを踏んだ。
「 あら。 なにか面白い記事でもあるの? 」
「 うん ・・・? ああ、ちょっとね。 ネットでも調べてみるかな。 」
ジョ−は熱心に読んでいた新聞を畳んだ。
「 いったい何なの? 」
お茶のトレイを運んできたフランソワ−ズは目をぱちぱちさせている。
「 ・・・ ああ、また雨ね。 冬の雨って ・・・ どうも陰気でイヤね。 」
「 いっそ雪にでもなれば、楽しいかもしれないね。 」
「 そうね・・・ でも、本当の雪国ではこれからが大変な季節なんでしょ。 」
「 らしいね。 ぼくには経験がないからよくわからないけれど・・・ 」
ジョ−はリビングにある共用のPCを立ち上げ始めた。
温暖な気候に恵まれたこの地でも 師走の声を聞けばさすがに寒さが増してくる。
ことにギルモア邸は海傍、岬の突端に位置しているので、海風も時に強くがたがたと
窓ガラスをゆすって通り過ぎる。
フランソワ−ズは海にはあまり縁のない内陸の都会育ちだったから、この邸周辺の様子には
季節ごとに楽しんだり、驚いたりしていた。
「 海って ・・・ 随分とイロイロな表情があるのね。
普段は穏やかで温かくて。 優しいカンジだけど、荒れる時には全く別の顔が見えるわ。 」
ギルモア邸の広いテラスに佇み、彼女はよく海を見つめている。
金糸みたいな髪が海風に弄られ 白い頬に陰影を落とす。
・・・ 綺麗だ・・・ ! 光と影が ・・・ すごい効果だな。
もともと美しい横顔が自然のライトでより一層輝いて見える。
ジョ−はじっと ・・・ 彼の恋人のプロフィ−ルに魅入られていた。
「 ねえ、ジョ−? 」
「 ・・・え ・・・? あ、ああ・・・ そうだね。 」
「 やだわ、まだ何も言ってないわよ。 」
「 あ・・・ごめん・・・。 つい、そのゥ・・・ 見とれていたんだ。 」
「 まあ、ジョ−も? そうよね。 本当に綺麗・・・ 海って・・・ 」
「 ・・・・ え ・・・ あ、そ、そうだね、うん・・・ 」
きみの方がもっと ・・・・ 何百倍も綺麗さ・・!
ジョ−はこっそりと口の中で< 追加・訂正 >していた。
「 その海なんだけどね。 ほら・・・ この記事。 」
「 なあに。 さっきから随分熱心に読んでいたけど・・・
海と関係があるの? 」
「 うん ・・・ まだよくは判らないけど。 どうも関連があるかな〜と思ってさ。
ああ・・・ ネットにも載っているな。 」
「 ? 」
フランソワ−ズはジョ−の後ろからモニタ−を覗き込んだ。
「 釣り船や ・・・ 漁船の遭難事故ね? ・・・まあ、行方不明の方がこんなに・・・ 」
「 うん、そうなんだ。 それにね・・・ この記事も、・・・こっちも。
場所を見てごらん。 ほら・・・ ほら、ほら。 」
ジョ−はカチカチと画面に記事をアップしてゆく。
「 え・・・ あら。 ・・・あら、あら?? わたし、その場所は知らないけれど・・・
地図上では すごく近いわね? こう ・・・ ほら、円内に入ってしまうわ。 」
フランソワ−ズも手を伸ばし、 ジョ−が示した地図上をクリックしてゆく。
「 だろう? 台風の季節でもないのに・・・ これはちょっと不自然だ。 」
「 そうねえ・・・・ 海流の関係かしら。 」
「 いや。 この辺りには大きな海流はないんだ。 いつも比較的穏やかな海さ。 」
「 じゃあ・・・ あら? 電話だわ。 ・・・ アロ−? 」
リビングのテ−ブルの上から、フランソワ−ズは受話器を取り上げた。
「 アロ−? ・・・ あら、張大人。 コンバンワ。 え? ジョ−? ちょっと待ってね。
ジョ−、 大人からよ。 」
「 お、サンキュ。 やあ 大人・・・ うん、うん・・・ 伝言聞いてくれたんだ? 」
しばらくジョ−は大人と話し込んでいた。
どうも ・・・ 釣り、それも夜釣りにゆく計画を立てているらしい。
「 ・・・ うん、うん。 じゃあ・・・ そういうコトで・・・ じゃ。 お休みなさい。 」
チン・・・と小さな音でジョ−は電話を切った。
「 わたしも行くわ。 」
フランソワ−ズはジョ−をまじまじと見つめてはっきりと言った。
「 え・・・ でも、つまんないよ? だって夜釣りだから・・・寒いし。 獲物もあんまり・・・ 」
「 あら。 本当に魚釣りにゆくつもりなの。 西伊豆のはじっこまで。 」
「 ・・・! ・・・ああ ・・・ きみには隠せないな〜〜
うん、実は ちょっと・・・ 調査に行こうかな、と思ってさ。 」
「 ほ〜らやっぱり。 あ、言っておきますが。 わたし、ヒトサマの電話を盗み聞きする < 耳 >
なんか 持っていませんからね。 」
「 はいはい、わかってますって。 でも・・・本当に来るつもりかい。 」
「 ええ、勿論。 お二人の <獲物> に期待していますわ。 」
「 ふふふ・・・ 大物を期待してるね? 」
「 さあ。 あなた達の腕じゃ・・・ とても頼りなくて。 」
「 お、言ったな〜〜 海はおっかないぞ。 こんなふうに ・・・ 」
「 ・・・ きゃ・・・! 」
ジョ−はフランソワ−ズの腕を引き、そのまま一緒にソファに転がった。
「 ほうら ・・・ 大波がきて 服を浚ってゆくよ・・・ 」
「 や・・・ やだ、ジョ−ったら・・・! こんなトコで ・・・ きゃ・・・ 」
「 ざっぱ〜〜ん・・・って もうきみは逃げられない・・・ ほらほら・・・ もうこんなに・・・ 」
「 く ・・・ ううう ・・・ 」
ジョ−の巧みな誘いに フランソワ−ズは自身の海を大きく揺らせ熱い飛沫を滴らせる。
ジョ−は夢中になって 彼女の海に潜り込み・・・ 息もつかずに深く深くすすんでゆく。
・・・ ああ ・・・ 海が ・・・ 沸き立って ・・・ 沸騰しそう・・!
う ・・・ くっ! 彼女の海に・・・飲み込まれる ・・・ う ・・・!
潮位は上昇し 高潮となってたちまち二人を巻き込んだ。
「 ・・・ 海はさ。 ・・・ 本当な優しいのさ。 」
「 ・・・ そう ・・・? わからない ・・・ わからなくてよ・・・ 行方不明なんて ・・・ そんなの一番残酷だわ 」
「 フランソワ−ズ ・・・ ぼくがいるよ 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ 」
潮が引いていったとき、
恋人達は波打ち際に打ち上げられ ・・・ まだ熱い肢体を絡ませあうのだった。
夜になっても 天気はぱっとせず、ボロ布みたいな雲が夜空をどんよりと覆っていた。
雲間からは輪郭のぼやけた月が時折姿を覗かせていたが、風も一向に止む気配はなかった。
「 ジョ−はん。 この船、やろか。 」
「 え・・・っと ・・・? 」
「 第二海神丸 ・・・ ええ、そうね、この船みたいよ。 」
「 ほっほ。 やっぱりフランソワ−ズはんも一緒に来てもろて大助かりアルな〜 」
「 そうだね〜 ありがとう。 それじゃ ・・・ 出航させようか。 」
「 うひょひょ・・・ なんとのう、胸が高鳴りまんな。 久々の活劇アルな〜〜
それはそうと、あの坊、怒ってあのまま・・・ どこかへ行ってしまったアルねえ。 」
「 仕方ないよ。 あの子の気持ちはわかるけど・・・
危険すぎる。 コドモを連れてゆくわけには行かないよ。 」
「 ジョ−はん? そやったらやっぱり、あんさん、 カイマとやらが出てくる思うてはるねんか。 」
「 ・・・ わからない。 でも <なにか> があるんだと思うよ。
この近辺だけにあれだけの行方不明とか遭難が集中するのは普通じゃない。 」
「 迷信とか ・・・ 伝説、だけじゃないわ。 きっとなにか ・・・ 」
フランソワ−ズはぷつり、と言葉を途切らせてしまった。
・・・ 妙な <敵> に遭遇するのではないか ・・・
ジョ−や大人の頭にも同じ思いが浮かんだ。
「 ま。 とりあえず、夜釣りを楽しみまひょ。 こんな機会はめったにあらへんよって・・・
なんぞ珍しいモンでも釣り上げて ・・・ 手土産にするアルね。 」
「 ふふふ ・・・ 大人、美味しそうなモノだったら即捌いてくれるかい。 」
「 いいアルね〜〜〜。 即席の宴会アルよ。 じつは ・・・ ホレ。 」
「 ・・・ あら。 いつの間に・・・ 」
大人は持ち込んだ手荷物の中から 一升瓶を取りだして見せた。
「 冷えるとあかん、思いましてな。 ワテらの<燃料>だっせ。
さ〜〜あ! カイマはん? ドンとやってきなはれ〜〜〜 」
「 あはは・・・ 張り切ってるねえ。 」
沖に出るにつれて 海は次第に凪いできた。
風も弱まってきて、頭上には半月を少し過ぎた月が ぼんやりと一行を照らしている。
一応は 絶好の夜釣りの晩になったようだ。
「 ・・・う〜〜ん ・・・ なかなか現れないアルねえ・・・
もう 3〜4時間経ったやろか。 フランソワ−ズはん、寒うはないアルか。 」
「 ええ、大丈夫よ。 防護服なら、この程度の天気はなんともないわ。
・・・ それよりも ・・・ 本当になんにもないわね。 海だけよ。 」
「 あはは・・・ 海だけ、ってそれはいいね。 それじゃ・・・ 」
ジョ−は笑って船のエンジンを止めた。
「 あや〜〜 どないするねん、ジョ−はん? 」
「 いや・・・ やたらと走りまわっても仕方ないから。 本来の目的を達成しようと思ってさ。 」
「 目的 ? 」
「 コレさ。 」
ジョ−は 釣竿を取り上げた。
「 あら・・・ そうよね。 わたし達は夜釣りに来たのですものね。
それじゃ・・・お二方、せいぜい頑張ってくださいな。 」
「 あ〜〜 ぼく達の腕前を信用していないな? 」
「 うふふふ・・・・だってねえ・・・ 今までのコトを考えると・・・
それより、カイマって・・・正体はなんなのかしら。 」
「 う〜ん ・・・ 大きな光がってあの子も言っていたから発光クラゲとかかな。 」
「 あ、そうやなあ。 大海蛇とか巨大イカとか・・・ おお! 海洋冒険談アルね。 」
「 ふふふ・・・ そうねえ。 海って実はあまりよくわかってないわよね。
わたし達人間が知らないところで どんなコトが起きているか・・・予測もつかないわ。 」
「 そうだね・・・ じゃあ ・・・ ひとまずこの辺りで始めようか。 」
「 ヨーソロ〜〜 ・・・っと・・・エサはどこアルかね。 」
「 ああ、そこの生簀に入れておいたはずよ。 ・・・ あら・・・ なにか聞こえない? 」
「 ほ? なんも・・・ って イヤ! 聞こえるアルよ〜〜 」
「 ・・・ イビキ・・・みたい。 でも小さいわ、子供?? 」
「 は〜ん?? 」
ジョ−はつかつかと生簀用の囲いに近寄ると木蓋をイッキに引き上げた。
「「 ・・・ ユウジ君 ・・・! 」」
「 ・・・ごめんよ。 僕・・・ どうしても ・・・ 」
「 仕方ないな。 今夜はこれで引き上げよう。 」
「 ・・・ お兄ちゃん・・・! 頼むよ〜〜僕も海魔退治に連れていっておくれよ〜〜 」
「 ダメだ。 さあ・・・ 帰るよ。 」
ユウジ少年はこっそり船に忍び込んでいたのだ。
しゅん・・・としてしまった少年を連れて、港に舳先を向けた途端 ・・・
「 ジョ−・・・! なにか ・・・ なにかとてつもなく大きなものがくるわ。
ええ、下よ、この船の真下に ・・・! 」
「 なんだって?! 」
「 ウ・・・ 見なはれ! 急に明るくなってきたやんか。 お月さんともちがいまっせ。 」
「 ― でた ・・・! 」
真下から浮かび上がってきた巨大な光は あっというまに漁船を包み込んだ。
「 ・・・わ ・・・! 」
「 ウウウウ ・・・むむむ ・・・ 」
「 くっ ・・・! ・・・フラン、 大丈夫か・・・! 」
「 ・・・ええ ・・・ なにも なにも見えないわ。 聞こえない・・・ 」
「 と、閉じろ! 目も耳も ・・・! 」
ジョ−はよろめきつつフランソワ−ズの側に立つと彼女をしっかりと抱え込んだ。
その瞬間 ぐらり、と漁船が傾ぎ全員が海に放り出された・・・・ はずだったのだが。
「 ・・・わ 〜〜〜 !!! 」
巨大な光に包まれユウジ少年も006も。 003を抱いた009も そのまま意識が途切れてしまった。
「 ・・・ う ・・・ 星だ! みろよ、あれは・・・地球型の惑星だぞ。 」
「 フウン ・・・ さんざんヒトのこと、引っ張り回しよって・・・! ナンの御用アルかね、海魔はんは。 」
張大人は不機嫌さ満杯で 窓の外を眺めている。
光のカタマリに飲み込まれ、全員が気が付いた時には なんと宇宙空間にいたのだ。
それも光速以上の速さで どんどんと異世界突入し・・・ 今、大きな惑星を間近に眺めている。
「 ・・・ 地球型、よ。 大陸があるわ。 海らしいところも見える。 」
「 ・・・ なにか ・・・ 生物はいるかい。 」
「 ・・・ わたしが見える範囲には ・・・ いないわ。 なんだか荒廃したかんじ・・・ 」
「 それは きみのイメ−ジかもしれないよ、フランソワ−ズ。 」
「 あ・・・ そうね。 わたしのイメ−ジの中にある <異世界> なのかしら。 」
「 う〜ん ・・・ このロケットといい・・・どうも、ぼくらの思考、それも想像力を読み取って
即、カタチにするらしいね。 すごい ・・・ 精神力、これも一種の超能力だろうね。 」
「 ・・・ こわいわ、ジョ−。 いったい・・・どんな 敵 なのかしら。
超能力を駆使されたらいくらわたし達でも ・・・ とても敵わないでしょう? 」
「 フン ・・・? 空気、あるネ。 見てみなはれ・・・ 木ィや草が生えているアル。 」
「 気をつけろ、006。 わざわざこんな所まで連れて来たんだ、なにか目的があるはずだぞ。 」
「 そやったそやった。 いよいよ海魔はんのお出ましかいな。 」
サイボ−グ達が 窓から眺めているうちにロケットと思しきモノはその惑星に着陸した。
「 物凄く・・・ 速いのね。 コレ・・・ 」
「 多分 ・・・ コレの推進力は普通の動力じゃないな。 意志の力とか精神力・・・かな。
だからぼく達は多分 テレポ−トされてきたのと同じなんだと思う。 」
「 そんな優れたチカラを持つモノが どうして・・・ ?
わたし達、人間をこうやって ・・・ 浚ってゆくのかしら。 」
「 う〜ん・・・? ともかく降りてみよう。 」
「 そうね。 」
一行は おそるおそるその惑星に降り立った。
「 ・・・ なんだか ・・・ 空気が変だわ。 」
「 フン・・・?? 別に普通アルよ? 妙なモノは混じってないアル。 」
団子鼻をひくつかせ張大人も油断なく周囲をうかがっている。
「 ううん ・・・ そういう意味じゃなくて・・・ なにか ・・・ しめつけられるカンジがするの。
そんなに強くはないのだけれど。 でも ・・ じわじわと絞まってゆくみたい。 」
「 サイコ・パワ−かな。 ヤツらはどこかで僕たちを監視しているんだ。 」
「 それが・・・レンジをぎりぎりまで拡げているのだけれど・・・ なにもそれらしいものは見えないのよ。
生物の姿がない。 音も、よ。 風が岩山を吹き抜ける音だけ・・・ 」
「 ・・・ぼ、僕のお父ちゃんも ココにつれてこられたのかな・・・ 」
「 ユウジ君 ・・! 」
少年のぼそり、としたひと言に 全員が振り返った。
「 ・・・ ごめんなさい! わたし達・・・・ あんまりびっくりして君のことに気が回らなかったわ。 」
「 アイヤ〜〜 申し訳ないアルね〜〜 」
「 ごめん、ユウジ君 ! ああ、そうだね、おそらく多くの <海魔> に捕まった人々は
ココにつれてこられたんだと思うよ。 」
「 それなら! もしかしたら・・・ お父ちゃんに会えるかもしれないね! 」
少年は顔を輝かせた ・・・ が。
サイボ−グ達は そっと顔を伏せた。
・・・ おそらく。 可哀想だがそれは無理だろう。
この星に ・・・ 生物の気配はない・・・・
「 しかし、なにが目的なんだろう・・・・? 」
「 う〜〜〜むむむ・・・・ 海魔はわてらをとっ捕まえて喰うつもり、やろか。 」
「 まさか ・・・ 昔のおとぎ話じゃあるまいし・・・ 」
「 うん ・・・ そりゃアタマからガリガリ・・とかそんなコトはないと思うけど。
ちがう意味で < 喰う > つもりかもしれないよ。 」
「 ちがう意味? 」
「 ああ。 遠い宇宙空間を超えて引き寄せるほどのサイコ・パワ−の持ち主なんだ。
絶対になにか ・・ 搾取とかの目的があると思う。 」
「 う〜〜む・・・ なんやワテは強烈な匂いで虫を誘い込んで喰っちまう花、ありまんな?
アレみたいな気ぃがしてまっさ。 」
「 やだ・・・ それじゃ、わたし達は ・・・ 哀れなムシなの? 」
「 その可能性もあり、ってことさ。 」
「 しかし ・・・ なんもあらしまへんなあ・・・ 」
サイボ−グ達はユウジ少年を真ん中に 油断なく進んでゆく。
「 あ! なんか来るよ? ・・・ ああ! お父ちゃん〜〜!! 」
「 あ! ダメよ、ユウジ君 ・・・ ! 」
「 あれ〜〜 祖父ちゃん? 死んだ祖父ちゃんだ〜〜 」
少年はフランソワ−ズの制止を降り切り駆け出した。
なんと 突然前方から人影が近づいてきたのだ。
「 ・・・ 変だとおもわないか。 003、006。 」
「 はん ・・・? そうやネ。 ち〜とばかしタイミングが良すぎるアルな。 」
「 そう。 ユウジ君の言葉、聞いた? <死んだ祖父ちゃん> よ? 」
「 ああ。 これは ・・・ ワナだ。 気をつけろ。 」
ジョ−はス−パ−ガンを構えたまま 慎重に近づいていった。
「 ・・・ フランソワ−ズ? フランソワ−ズじゃないか! 」
「 ・・・ え ・・? 」
岩崖の横合いからまた突如人影があらわれた。
「 こんなところにいたのか! 随分捜したんだよ。 ああ・・・ 無事でよかった・・・! 」
「 ・・・ な、なに ・・・? 」
「 どうした? さあ・・・こっちにおいで・・・ 」
「 ・・・ 寄らないで! 」
「 003? どうした・・・ あ! 」
「 009。 お願い、わたしを捕まえていて。 もし ふらふら・・・・あっちに行きそうになったら
パラライザ−で撃ってちょうだい! 」
「 003・・・ 」
「 ・・・ちがう、ちがうわ・・・! そんなはずない。 そんなはず・・・
・・・ ああ、でも ・・・ 似てる ・・・ ううん、あれは お兄さ ・・・ いいえ! ちがう・・・! 」
「 見るんじゃない! 」
ジョ−は悲鳴を上げたフランソワ−ズを引き寄せると彼女の頭をしっかりと抱え込んだ。
「 見るんじゃない。 聞くんじゃない! あれは・・・ 多分まやかし・・・ 」
「 ふん。 ワテはあんさんを知りまへんで。 」
「 張?! どうしたんだ! 忘れちまったのかい。 隣の琳だよ、ほら。
お前、急にいなくなっちまって・・・心配してたんだ。 」
「 ・・・ 琳 ・・・ 」
「 そうだよ〜 今年は小麦の出来も上場だ。 お前んちの畑だってちゃんと
おれらが守っているよ。 一緒に帰ろう・・・! 」
「 いんや! だまされへん。 ・・・ ほんまの琳は もうとっくに亡うなってる・・・ 」
「 006! どうした?! 」
「 ・・・ ジョ−はん・・・! わても ・・・ わてを撃ってくんなはれ。 」
「 な、なにを・・・? 」
「 これは ・・・ ちゃう! ホンモノとはちゃう・・・・ アタマではわかってまんねん。
でも ・・・ 心が ・・・ 気持ちがふらふら・・・・ ああ・・・琳 ・・・ わての畑 ・・・ わての・・・ 」
「 見るな! 006! 君はぼく達の仲間、サイボ−グ戦士の 006なんだ! 」
ジョ−はフランソワ−ズを抱きかかえたまま必死で叫ぶ。
「 おにいちゃん! ねえ、僕のお父ちゃんだよ! やっぱり捕まって・・・ ここに
連れてこられたんだって。 ねえ、祖父ちゃんもいたんだ!
祖父ちゃんは僕が小さい頃に死んだって聞かされてたけど、ウソだったんだ。 」
ユウジ少年が 漁師風の男性の手を引いて戻ってきた。
「 お父ちゃん。 このおにいちゃんとおいちゃんが僕をココまでつれてきてくれたのさ。 」
「 ・・・ ところで 名前を伺ってもいいかな。 」
ジョ−は片手でフランソワ−ズを抱き寄せたまま、油断なくス−パ−ガンを構えている。
「 ・・・え ・・・? おにいちゃん、なんでそんなコト聞くんだい?
このヒトは僕のお父ちゃんだってば。 ねえ、お父ちゃん ・・・お父ちゃん、どうした?
お父ちゃんの名前は ・・ 」
「 言うな! ユウジ君。 さあ、答えてください。 お名前は? 」
「 疑っているのかい、おにいちゃん・・・ ひどいよ! さあ、お父ちゃん・・・ 」
「 ・・ は、浜田 ユウノスケ・・・ 」
「 そうだよ! 僕のお父ちゃんだよ! 」
「 じゃあ、もう一つ聞きますが ・・・ その前に。 」
「 ・・・ う ・・・わ ・・・ ! 」
ジョ−のス−パガンが一瞬光線を発し、ユウジ少年が崩折れた。
「 ・・・ 009 ?! 」
「 パラライザ−さ。 それも最小パワ−だから・・・すぐに気づくよ。
さあ、あんた。 住所は? 家族は? 乗っていた船の名前は? 」
「 う ・・・ 」
倒れた息子を抱き上げもせず、漁師風の男は突っ立ったままだ。
「 ふん。 わかるはずないよな。 このコのアタマから情報を読めないものな。」
「 ジョ−はん ・・・ 」
「 ( 006? アタマを低くしていろ。 このコを頼む。 )
ふん、コイツは相手の心を読んで ・・・ そのイメ−ジを形にしているのさ。 」
「 ( オ−ライ。 フランソワ−ズはんは大丈夫アルか。 )
な、なんと ・・・ ほんならあのロケットと同じやないか! 」
「 ( ああ。 003? 目も耳も ・・・ 閉じていろ、いいな? )
そうやって・・・ぼく達をおびき寄せどうするつもりなんだ? いうんだっ!! 」
「 ・・・ そ ・・・ それは ・・・ 」
バ −−−−−−−−−− !!!
ジョ−は瞬間加速し、ス−パ−ガンを四方にむかって発射した。
「 ・・・ ふ、フランソワ−ズ ・・・ どうしてお兄ちゃんを ・・・ 」
「 張 ・・・ 忘れちまったのか ・・・ 琳 ・・・だ ・・・ 」
「 ・・・ ユウジ ・・・! 」
サイボ−グ達をじわじわと取り囲んでいた <人々> がどっと倒れ ・・・ あっという間に
ぼろぼろと土塊となり塵になり・・・ 風に吹き飛ばされていった。
「 009 ! 」
「 ・・・ ジョ− ・・・ ! 」
「 ああ。 みんな ・・・ みんなまやかしさ。 」
「 ・・・ ひどい ・・・ 酷いわ・・・! ヒトの心の中の大切な想い出を盗んで・・・! 」
「 ふう ・・・ ほんま、騙されるトコやった・・・ ありがとうさん、 ジョ−はん。 」
「 <海魔> は、 ヤツらは ・・・そうやって浚ってきた人々を引き寄せたんだろうな。 」
「 ・・・ でも ・・・ でも、何のために?? 」
「 ・・・ う ・・・・ あれ・・・ お父ちゃんは・・・?
おにいちゃん、僕の・・・・ お父ちゃんはどこ。 」
ユウジ少年は大人の腕の中で意識を取り戻した。
「 坊。 アレは・・・ 坊のお父ちゃんやない。 海魔や、海魔が化けとったんや。 」
「 ・・・ 海魔が・・・? う、ウソだ! あれはお父ちゃんだよ!
お父ちゃんは海魔に捕まったけどちゃんとココで生きてたんだ! 」
「 ユウジ君。 辛いだろうけど。 本当は 」
「 やだ! 聞かない! 僕、お父ちゃんを捜すんだ! お父ちゃん〜〜〜 」
少年は大人の腕から飛び降りると ぱっと駆け出してしまった。
「 待つんだ! ダメだよ、危ない・・・! 」
「 ・・・ ジョ−! あの ・・・ 崖の向こうに何かあるわ。
あれは ・・・ 樹?? でも動いてるの。 そして なにかとても つよい・・・ 」
「 フランソワ−ズ! 大丈夫か? 」
フランソワ−ズは蒼白な顔で、でもしっかりと頷いた。
「 大丈夫 ・・・ これは ・・・ 多分ものすごいパワ−、サイコ・パワ−ね。
こころの中にぐいぐい入ってきて ・・・ 支配しようとしている・・・ 」
「 とにかく、あのコを追うんだ。 006? 大丈夫か? 」
「 ・・・ウウウ・・・ 大丈夫アル。 許さへん・・・ 許さへんで・・・!
さあ、 あの坊を助けにゆきまひょ。 」
「 ええ。 」
崖を回ると、荒廃した風景が一変した。
目の前には 初めて見る世界が広がっていたのだ。
「 ・・・ ウ? ココはなにアルね? 全然別の世界アルか? 」
「 これが多分・・・ この星本来の風景なんじゃないかな。
今までのは ぼく達のイメ−ジにある <異世界> だったらしい。 」
「 ・・・ジョ−・・・! あれを ・・・ !! 」
フランソワ−ズの悲鳴にも似た叫びで ジョ−と張大人は正面を見た。
「 ・・・ な、なんだ?? これが・・・モト締めか・・・? 」
「 は〜ん・・・・ コレが 海魔 の正体アルか。 」
彼らの目の前には 巨木が ― 木、といっても良いならば ― が唸りをあげて立っていた。
枝とも触手ともつかないモノが空を切り揺れ動き、不気味な音をたてている。
空気全体が振動し、びりびりと身体が震えてきた。
「 ・・・ ああ ・・・ アタマが ・・・ 締め付けられるわ、ぎりぎり・・・
ここの空気には ・・・ なにかが混じっているみたい ・・・ ああ ・・・! 」
フランソワ−ズががくり、と膝をつき崩れ落ちた。
「 フラン! しっかりしろ・・・ さあ、捕まって ・・・・う わ ・・・ ぼくも く・・・! くそう 〜〜!
・・・ く ・・・・! 身体が しびれて動けない ・・・ 」
「 う・・・は! コレは あの面妖な木ぃから流れてくる 気 アルね・・・ 」
「 フランソワ−ズ? ・・・大丈夫か・・・・ 」
「 ・・・ ええ ・・・ なんとか・・・ くう ・・・ ユウジ君? 大丈夫? ・・・ あ??? 」
釘付けになっているサイボ−グ達の前に またしても突如人影が出現した。
「 張・・・! 待っとってん。 なあ、また一緒に畑、耕そうなあ。 ワテなあ嫁はん、もろうたで。 」
「 ・・・ り、琳・・・・? 」
「 ・・・ あんた・・・! 」
「 め、明鈴・・・! 」
「 どこへ行っていたの?! アタシ・・・5年待ったよ。 でも・・・あんた、帰ってこないから・・・
アタシ ・・・ 琳と一緒になったの。 許して・・・ 」
「 ・・・ 明鈴 ・・・ いんや! コレは ・・・ちがう! 」
「 フランソワ−ズ! さあ、お兄ちゃんと一緒においで。 可哀想に・・・酷い目にあったんだね。 」
「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ ちが・・・う、 ちがうちがう 違うわ〜〜〜 」
「 こっちにこい、ユウジ。 お父ちゃんのとこに来るんだ! 」
「 ・・・ お父ちゃん ・・・! 」
ユウジ少年も蹲っていたが、顔をあげよろよろと立ち上がった。
「 ダメだ! 行くんじゃないっ ソイツは君のお父さんじゃないんだ! 」
「 ・・・ でも、でも・・・! ・・・あっ ・・・ 」
「 ・・・ 大丈夫? 」
「 う、うん ・・・ 石に足が・・・? こ・・・これ! 骨だ・・・ 」
「 え?! ・・・・ ジョ− ・・・! この下は ・・・ この下には骨が埋まっているわ。
それも ・・・ すごい数よ。 」
「 なんだって! 」
「 あれ? これは・・・ この手鉤とこの時計 ・・・ お父ちゃんのだっ!
お父ちゃんがいっつも持ってたんだ。 それじゃ ・・・ この骨 ・・・ 」
「 ・・・ ユウジ君! くそ〜〜 身体が縛りつけられたみたいだ・・・! 」
「 お、お父ちゃんを よくもっ! ちくしょ〜〜〜 このバケモノがっ!! 」
「 ・・・ あ! 足が・・・身体が動くわ。 ジョ−、今なら攻撃できるわ! 」
「 よし、皆で一斉射撃だっ! 」
「 お兄ちゃん! 僕にも ・・・ 僕にも撃たせて!
お父ちゃんのカタキを! あのバケモノをこ、殺してやるんだ〜〜!!! 」
「 ・・・ ユウジ君 ・・・ 」
少年の必死の願いに ジョ−は躊躇っていた。
彼の気持ちは充分すぎるほどよくわかる。 しかし コドモに銃を持たせることはできない。
「 頼むよ、お兄ちゃん! 小父さんも、お姉ちゃんも・・・! 」
必死の形相の少年の前に、のそり、と張々湖が立ちはだかった。
「 おっと・・ 坊? アンタはそこまでや。 あとは・・・このおいちゃんに、いんやオトナに任せとき。 」
「 小父さん。 でも、でも・・・僕・・・! 」
「 コドモさんはな、綺麗なことだけ考えてはったらええんや。
そのうち イヤでもぎょ〜さんえげつないコト、見たり聴いたり・・・ せんならん。
その時に心まで染まらんように・・・ ちっさい頃はまっさらなこころを大切にしとき。 」
張大人はフランソワ−ズを振り返った。
「 なあ、この坊を頼むワ。 ちょいと・・・目隠ししててや。 」
ばちん!と彼はジョ−にもウィンクを送った。
「 急げ! 」
「 はいな〜〜〜 」
バウ 〜〜〜〜〜〜 !!!
006の炎と009と003のス−パ−ガンが 妖木を紅蓮の炎で包み燃え上げた。
「 ほい、 わてら<オトナ>の仕事、完了や。 」
「 大人! ユウジ君。 終ったよ。 ほら・・・ アレは今燃えているよ。
あの木のようなモノは おそらく人間の精気を吸い取っていたのだろう。
浚ってきた人々を誘き寄せるんだ。 そのヒトのイメ−ジを読んで ・・・ 」
「 はん。 そいでヒトの思い出をかき回したアルね。 ・・・
「 そうよ ・・・ ! 燃やして当然だわ。 ヒトのこころを玩ぶのは ・・・ 思い出を利用するなんて・・・!
一番残酷だわ。 」
「 フランソワ−ズ ・・・ 」
「 カタチだけ真似て蘇って何になるの。 それは ・・・ 哀しいだけだよ。 」
「 ・・・ でも ・・・ アレは ・・・ 本当にお父ちゃんみたいだった・・・ 」
ぽとり・・・と少年の涙が 抱えている遺骨に落ちた。
「 坊。 惑わされてはあかん。
坊のお父はんはな。 身体はのうなってしまいはったけど、ちゃ〜んといてはるで。 」
「 え・・・ どこに? 」
「 お父はんは、いつも坊と一緒や。 坊の ・・・ ココになあ。 」
張大人は ぽん・・・と少年の胸に手を当てた。
「 あ・・・・ う、うん ・・・ そうだね。 」
少年は涙を拭き、ぶすぶすと燃え落ちてゆく不気味な姿を じっと見つめていた。
「 ・・・ あの星の住人達って・・・ 本当に<弱い>モノだったのかしら。 」
「 え・・・ どうして。 」
ぽん・・・とシ−ツの上に白い腕が投げ出された。
ジョ−はそっと引き寄せ、唇を寄せ また 指で愛撫する。
「 うん ・・・ ずっとあの妖木に支配されていたって・・・ あの後、出てきたでしょう? 」
「 ああ。 闘争心を持つ者を捜していたって言ったね。 」
「 それで・・・ 地球人の目をつけた、とも言ってたけど。
なんだか巧く利用されてしまった気もするのよ。 」
「 う・・・ん ・・・ どうなんだろうな。 どちらにしても彼らも凄いサイコ・パワ−の
持ち主だよね。 あんな種族が闘争心を持ったら・・・恐ろしいよ。 」
「 そうね。 ・・・ 天の采配、とでも言うのかしら・・・ 」
妖木を退治したあと、 あの星元来の住人だと名乗るモノたちが現れ、
サイボ−グ達はユウジ少年と共に無事に地球に送還してもらった。
ワレワレモ あれニ 支配サレテイタノデス。
必死デ 闘争心ヲ持ツ種族ヲ捜シテイマシタ。
奇妙ないでたちの生物はサイボ−グ達の脳裏に直接語りかけてきたのだった。
闘争心を持たないこの星の住人達は <代理> を探し・・・ 地球を見つけたのだ。
妖樹と闘ってくれる <代理人> を捕らえてきたのだが、かえって皆その餌食となってしまったのだ。
望郷の念にかられたモノたちは たやすく偽のイメ−ジに引かれ・・・ 命を落とした。
ギルモア邸が望む海は今夜も穏やかで 空には真冬の月が冴え冴えとその姿を見せている。
カ−テンの隙間から白い光が 二人の褥にも淡く忍び込んできていた。
「 ・・・ 一番大切に・・・そっとしまってある想いを勝手にかきまわして ・・・!
そんなの、許せない。 許せないわ・・・ 」
「 フランソワ−ズ・・・ 」
「 そうでしょう? 心の中にあるものは自分だけのものだわ。 」
「 ・・・ ぼくは あの少年や・・・きみ達が羨ましかった・・・ 」
「 羨ましい? 」
ジョ−の熱い唇が 白い腕に点々と跡をつけてゆく。
「 ジョ−・・・? 」
「 ぼくには・・・ こころの奥に大切にしまってあるヒトなんて ・・・ いない。
だから。 ぼくには何のマヤカシも現れなかった・・・・ ぼくには何も見えなかった。 」
「 ジョ−! 皆が ・・・ そして、わたしが。 わたしがいるでしょう? 」
「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」
「 大人の炎と ・・・ ユウジ君の怒りの炎が悪い夢を焼き尽くしたわ。
ジョ−・・・ わたしがいるわ。 一緒に過ごしてきた沢山の思い出が ジョ−のこころにあるのよ。 」
「 ・・・ああ! そうだね。 この身体になって ・・・ ぼくが得た最大の宝モノだ。 」
「 これかもずっと。 ずっと一緒よ・・・・ 」
「 ふふふ ・・・ じゃあ、今夜は違う炎で − きみの情熱の炎にぼくは身を焦がすことにするよ。 」
「 ・・・ まあ ・・・・ その炎を点じたのは ・・・ だあれ ・・・ 」
「 ・・・ ・・・・・ 」
白い月の夜。
ジョ−とフランソワ−ズはお互いの熱い炎に包まって ・・・ 昇華していった。
************ Fin. ************
Last
updated : 12,18,2007.
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******* ひと言 *******
この原作、<少年まんが>の典型・・・なのかもしれません。
でも・・・ 93モノとしては、ねえ?? ですからフランちゃん・参加バ−ジョンにしてみました♪♪
オンナの子としては 闘争心云々・・・よりも 大切な想い出を利用された事の方が
ず〜〜〜〜っと腹立たしいと思うのです。
原作・ジョ−に 人間の頃の<いい想い出>って ・・・ なさそうですよね ・・・
ジョ−君、フランちゃんとめぐり合えてよかったね♪♪