『 雪の元には 』

 

 

 

 

 

 

「  ・・・ !  誰か・・・ 崖から飛び込んだわ! 」 

少女は急に針仕事から顔を上げた。

「 ああ?  ・・・ どうしたね。 」

やはり暖炉の側で本を広げていた老人が驚いて少女を見つめた。

「 ・・・ ちがうわ! 多分・・・落ちたのよ・・・! 」

「 ふん・・?  なにも聞こえんが。 きっと波の音か風の悪戯じゃよ。 」

「 ・・・ いいえ! お父さん、確かに誰か ・・・ 少年・・? 飛び込んだの・・! 」

「 まさか・・・ ここいらの海は泳ぎには向かん。それにこの季節に海に飛び込む酔狂もんもいないじゃろ。」

「 でも・・・。 私、ちょっと見て来るわ! 

「 ・・・ あ・・・ おい?!  ああ・・・もう。 おい、ジュニア。 一緒に行ってやれ。 」

「 わかったよ。 」

暖炉の前で細工ものをしていた少年が ぼそり、と立ち上がった。

「 ・・・ やれやれ。 この分だと今夜はかなり吹雪くかもしれんなあ・・・ 」

老人は窓の外をながめ 溜息をついた。

 

昨日からの雪は一向に降り止む気配はなく ただ静かに同じ調子で ― しかし絶え間なく ― 

舞い降りてきている。

白い帳の向こうで 海は黒く不気味にうねり、寒風をきらって海鳥さえ姿をみせてはいない。

 

「 どれ。 ・・・ 薪と今夜の食料を運んでおくか。 今夜は一段と凍て付きそうじゃて・・・ 」

老人は肘掛け椅子から立ち上がると、壁のフックから分厚いコ−トをはずし纏い始めた。

 

 

「 お〜い・・・! どこだ? 」

「 兄さん! ほら・・・・ あそこ。  あの崖の途中に松の樹があるでしょう? 」

「 う・・・・? 雪が酷くてよく・・・ みえない。 」

「 こころを澄ませてみて・・・? 命のオ−ラを感じるでしょう? ・・・ほら ・・・ 」

少女は崖の上から身を乗り出して見下ろしている。

その白金の髪に、肩に ・・・ 雪は霏々と降り注ぎたちまち白いベ−ルになって少女を覆う。

「 危ないから・・・ 避けてろ。 ・・・ああ、あそこにいるな。 枝に半分ひっかかってから落ちた・・・ 」

「 でしょう? ・・・ あ! 兄さん。  あのヒト・・・ 生きてる! 生きてるわ! 」

「 ・・・・ ああ。 そうだな。 ・・・不思議な <生命>だ。 冷たい炎 ・・・ 」

「 でも、生きているのよ! 助けなくちゃ! 」

「 むう・・・・。  手伝ってくれ。 

「 ええ、勿論。 ・・・ でも ・・・ 不思議な服を着ているわ。 真っ赤・・・初めて見る服・・・

 兄さん 〜〜 大丈夫 ? 」

少女は雪の中、崖を降り始めた兄に声をかけた。

「 黄色が見える。 あれは ・・・ マフラ−か。 」

「 そうみたい。 ・・・ ああ、あれで樹にひっかかったのね。 」

「 しかし すごい生命力だ・・・! でも ・・・ 本当の生命の熱さ・・・ではない・・・ 」

「 兄さ〜〜ん・・・? どう・・? 」

「 ああ! ・・・大丈夫。 このオトコ、生きてる。 」

「 よかった〜〜〜 ・・・ええ、大丈夫ね。 オ−ラが強くなってきたみたい。 」

「 いま・・・上がってゆく。 」

「 気を付けて〜〜  雪は今晩中降っていそう・・・ 」

少女の声は白い闇に吸い込まれ、やがて・・・ ヒトの姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

   ・・・ あと一箇所・・・!

 

009は く・・・っと唇を噛んだ。

NBGの息が掛かっていると思しき基地の爆破になんとか成功しそうだった。

拉致されていた人々は 無事解放することができた。

どうやら超能力者たちを集めてそのチカラを利用するのが目的だったようだ。

時限爆破装置は 008の手で巧妙に仕掛けられ、 あとは時間稼ぎの撹乱作戦の手筈のはず。

しかし

ICチップの回路を模した基地は随所にトラップが設けられており、ゼロゼロナンバ−達を惑わした。

トラップとは別にNBG要員が思いがけない箇所に潜んでいる。

 

≪ 008 !  首尾はどうだ。 ≫

≪ あと少し! どうせなら一緒に基地内のすべてにプログラムも連鎖反応を起こすように・・・

 今 ・・・ セットしてる! ≫

≪ そうか 頼む!  ≫

≪ OK! ≫

よほど切羽詰まっているのだろう、008はひどくぶっきら棒に通信をきった。

いつも穏やかな彼には似つかわしくない。 まさに時間との、いや秒単位での競争なのだ。

 

   ぼくもここを突破して早く脱出しなければ ・・・ 皆の首尾はどうかな。

 

009は再び唇を噛んだ。

陽動作戦もふくめ、メンバ−全員が単独で随所に侵入したのだ。

従って脱出も個人の能力に任されている。

≪ 009だ。 これから最終ゲ−トを突破して脱出する! ≫

≪ おう!  ・・・ 俺様はもう外だぜ! 一箇所デ〜ハに穴開けてやった! ≫

≪ チュ〜〜! 我輩も脱出完了! ははん、コ−ドを相当箇所齧っておいたゆえ、直にショ−トしだすだろうよ。 チュ〜〜  ≫

メンバ−達から 威勢意のいい応答があった。

 

   ・・・ フラン・・? どこだ。 もう脱出したのか・・・?

 

ふ・・・っと愛しいひとの面影が009の  いや、 ジョ−のアタマを過ぎった。

その瞬間 −

≪ 009! あなたの真下の回路にいるわ。 今から脱出します。≫

よく通る<声>が ジョ−のアタマに飛び込んできた。

≪ 了解! お、きみがみえるぞ? 床もかなりぼこぼこにしたから・・・下がみえる。 ≫

≪ まあ、そうなの? こっちからも見えるかしら・・・? ≫

≪ うん。 あと10メ−トルくらい東寄りだ。 壁際の天井にでかい亀裂が走っているだろう?

 そこから ・・・・ あ!  003! 伏せろ!! 危ない −−−−! ≫

≪ ・・・え?? ≫

≪ く・・・! ≫    カチッ !

009の姿はす・・・っと消え   ― 次の瞬間  ・・・ !

 

    ズガ −−−−−−− ン !!!

 

009と003が潜んでいた回廊が大爆発を起こした。

 

「  −−− ジョ− −−−−−− !!! 

 

すでに脱出したメンバ−達が救助に飛び込んだとき、 もうもうと上がる煙の中に見たものは。

瓦礫の中に半ば埋まっていた003の姿だけだった。

「 おい! 003〜〜 しっかりしろ! ・・・ 腕の傷を縛るから。 少し我慢しろ。 」

「 おお〜〜〜 可哀想に!  脚は? 動くか。 」

「 ・・・・・ だ ・・・い・・・じょうぶ・・・ 」

「 水だよ! 目を拭って ・・・・  」

「 ・・・ ありが・・・と ・・・・ ジョ・・・ は ・・・ ? 」

「 ・・・・・・・ 」

「 ね ・・・ ジョ - ・・・は・・・・」

甲斐甲斐しく彼女の手当てをしていたメンバ−達は一様に口を噤んでしまった。

「 004。  こたえ・・・て。  009 ・・・は。 」

傷だらけの細い指が 004の鋼鉄の腕をぎっちりと掴む。

「  ― わからん。 009は 009の姿は 消えてしまった。 

「 ・・・ !?  ・・・・ 」

 

基地の完全爆破は完了した。

メンバ−達は瓦礫の中を出来る限り捜した。  あの程度の爆発でやられてしまう009ではない。

たとえ 損傷していてもどこかにきっと・・・!

しかし。  009の姿はどこにも見当たらなかった。  彼は忽然と 消えて しまったのだ。

 

 

 

 

「 本当に大丈夫かの。 ウチにあった傷薬を塗っただけだぞ。 」

老人は身を乗り出してベッドに横たわる青年を見つめた。

「 ええ、多分。 いま ・・・ このヒトの内側 ( なか ) で炎が盛んに燃えているわ。 」

「 ・・・ 生命の火だ。 しかし、変わった色・・・ 青白い・硬質の火だ。 」

「 でもこのヒトは生きているのよ。 それで充分でしょう? ・・・あ? なにか固いモノが心にささっている・・・」

「 ああ・・・ その通りだ。 どんなカタチであれ生命は尊い。 」

ベッドに両側から少年と少女はしずかに青年の顔を見守っている。

「 ふん・・・ お前らがそう言うのなら・・・ そうなのじゃろう。 ・・・しかし 奇妙な服じゃな。 」

「 そうね。 変わった服・・・ でもぼろぼろよ。 兄さん、服を貸してあげて? 」

「  ・・・ ああ。  オレ、薪をもっと運んでおこう。 」

「 お願いね。 私はそろそろ夕食の準備を始めるわ。  父さん、傷薬の予備はある? 」

「 ああ。 納戸にある。 出しておこう・・ 」

「 ありがとう。 ・・・さあ、赤い服のあなた? 明日の朝にはきっと目が覚めてよ・・・ 」

少女は青年の額に掛かる髪をそっと掻きやった。

 

   ・・・ 綺麗な髪・・・・ これは春の大地の色、ね。

   瞳は ・・・ どんな色なのかしら。  きっと暖かい色・・・そんな気がするわ・・・

 

「 雪の中で見つけた命 ・・・ 消させはしないわ。 ねえ・・・春の大地の髪をしたあなた・・・ 」

「 ・・・ 薪。 ここの暖炉にも足しておこう。 」

「 ありがとう、兄さん。  わあ・・・ 暖かい・・・! 」

「 そのオトコ。 もうすぐ目覚める。 」

「 え・・・ そうかしら。 今晩はわたし、ここで看取るつもりよ。 」

「 その必要、ない。  彼の身体は・・・急速に回復している。 」

「 そう? それならいいのだけれど。  ・・・ あ・・・? あら・・・・ 」

 

「 ・・・ う ・・・・  あぶな・・・い ・・・ ゼロ ・・・スリ− 」

 

ベッドで昏々と眠っていた青年の口から呻き声にも似た言葉が零れだした。

「 ・・・ 本当・・・ このヒト、もうすぐ目を開けるわ。 

「 ほう? ・・・不思議な身体だな。  冷たくて固いものがぎっしりと詰まっているが 奥の院には

 炎が燃えている。 熱くない冷たい炎が。 」

「 そう・・・ 本当に不思議なヒト。  あ・・・ 気がついた・・・みたい・・・ 」

 

「 ・・・ う ・・・ ココは・・・? 」

 

「 大丈夫? どこか・・・痛むところ、ありません?   ああ・・・ 大地色の目、ね。 」

「 う・・・? ・・・ キミは・・? ここは どこ・・・ 」

「 ああ、あなたは  ジョ−  というのね。 」

「 ・・・ え!? 」

「 私は マリア。 安心してね、ここは私のお家よ。 」

「 なにか飲むか。 」

「 ・・・?? 」

「 これは兄のヨ−ゼフ。  あなたはね、雪の崖の途中にひっかかっていたの。 脚を滑らせたのね? 」

少年と少女はおだやかに青年に話しかけた。

赤い服の青年はじっと二人を見つめていたが そろそろと身体を起こした。

「 あ・・・ まだ寝ていた方がよくてよ。 無理しないほうが・・・ 」

少女は慌て手を差し伸べたが彼は顔をしかめつつも一人で起き上がった。

「 ぼくは ・・・ ジョ−。 ぼくは・・・・・・・・ そう、吹き飛ばされた ・・・ 」

「 まあ。 吹雪にあって脚を取られたの。 あの崖から落ちて無事だったのはすごくラッキ−よ。 」

「 ・・・ ちがう ・・・ なにか・・・爆発・・・ ああ、あれは誰だろう。

 青い瞳 ―  そう、キミをよく似た青い瞳が心配そうに見つめていた・・・ あれは・・・? 」

「 今夜はゆっくり休んだ方がいいわ。  ね、ジョ−。 」

「 そう・・・ そんな風にいつもぼくの側で ぼくを見ていてくれた・・・青い瞳・・・

 あれは ・・・ 誰・・・ そして ぼくは。 誰なんだ!  ああ・・・ 判らない・・・! 

青年は頭を抱え、蹲ってしまった。

「 ・・・ ゆっくり眠る。 それがいい。 この香が眠りの精をつれてくる・・・ 」

ヨ−ゼフと名乗った少年は 小さなカップを赤い服の青年の枕元に置いた。

ゆらり・・・と細い煙が立ち昇り、涼しげな香が漂ってきた。

「 ・・・ 眠れ。 安らぎがオマエに活力をはこんでくるだろう。 」

「 う・・・ あ・・・・ああ。 目が・・・まぶたが勝手に ・・・ 」

「 そうよ、眠って。 そうすれば・・・きっと楽になるわ。 辛いことは忘れなさい、ジョ−・・・ 」

「 今夜は一荒れしそうだ。 オレ、戸締りしてくる。 」

「 兄さん、お願い。  ・・・ さあ ジョ−・・・ ほうら横になって・・・ 」

「 ・・・ う ・・・・ 力が 抜けて ・・・ 」

青年は再びベッドに崩れおち、 やがて安らかな寝息をたて始めた。

「 ・・・ ああ、よかったこと。 こんな夜は暖かくして早く休むのが一番よ・・・ 」

少女は窓辺のランプの灯を絞ると 静かに部屋を出ていった。

 

   ビュウ −−−−  ヒュウ −−−−−

 

頑丈な小屋の外を 雪嵐が一晩吹き荒れていた。

 

 

 

翌朝は磨き上げたごとくの青空に きらきらと冷たい太陽が昇った。

すっぽりと雪に覆われた小屋では 早朝から息子が熱心に雪かきをしていた。

 

「 ほう・・・ いい天気じゃな。 この分なら氷も締まって湖の釣には絶好の日和じゃの。 」

「 ・・・釣にゆこう。 」

「 おお、いいのう。 マリア? 留守を頼む。 ときにあのオトコはどうしたね? 」

「 昨夜寝る前に覗いてみたのだけど。 ええ、よく眠っていたわ。 」

「 そうか。 それはよかったのう。 秘伝の傷薬が効いたようじゃな。

 ご領主様には 釣にゆく途中でワシがお伝えしておくよ。 」

「 ありがとう、お父さん。 あのクスリ、本当に何にでも効くわね。 さあ 〜〜 朝御飯にしましょう。 」

三人は笑い声をあげ、すこしばかりウキウキと食卓に着いた。

 

 

「 ・・・・ お早う、ジョ−。 大丈夫 ? どこか痛むところ、ない。 まあ、起き上がって大丈夫? 」

「 ・・・ これが 僕の腕か。 僕の脚、か・・・ そうか。 」

「 あら。 あんまり感心した風ではないのね。 」

少女は部屋に入ると 捧げてきたトレイをベッドの横に置いた。

朝日は雪に映り その部屋は真昼よりも明るくなっていた。

「 朝御飯を持ってきたの。 しっかり食べて元気になって。 」

「 ありがとうございます。 すみません。 助けて頂いて・・・ でも。 ここはどこですか。 

 そしてあなた方は・・? 」

「 私は。 私達は<お父さん>って呼んでますけど祖父と兄と・・・3人でここに住んでいます。

 そうね、 もうずっと・・・ここは北の果ての国、丘の上のご領主さまが代々治めていらっしゃるの。 」

「 ・・・ 北 ・・・  ぼくはどうしてここにいるのか・・・ああ、それすら判らない。 ・・・まるで霧の中に

 いるみたいで なにも思い出せないんだ。 

青年は頭を両手で押さえ ひくく呻いている。

「 あ・・・ 無理をしてはダメよ。 まだ身体が弱ってるから・・・ 元気になるのが先よ。」

「 ・・・ う ・・・ すみません・・・ 」

「 お父さんがね、ご領主さまにお知らせしてくれるわ。 もしあなたを捜すヒトが来たらすぐにわかるように。

「 ぼくを ・・・捜すひと・・? 」

「 ええ。 あなた、うわ言で誰かのことを気にしていたわ。 スリ−・・・って聞こえたけれど。 」

「 スリ−・・・? なんだろう、名前かなあ。 」

「 さあ・・・  ね、それよりも朝御飯、どうぞ。  このチ−ズはウチの自慢なの。 」

「 ・・・ ありがとう・・・ えっと・・・ 」

「 マリア、よ。 」

「 マリア。 きみにぴったりな名だね。 ぼくは 」

「 ジョ−、でしょ。 」

「 あ・・・・うん。 ぼく ・・・ 言ったっけか? 」

「 ふふふ・・・さあねえ?  コ−ヒ−が熱いうちに召し上がれ。 」

「 うん。 いただきます。 」

「 どうぞ。  ・・・ああ、ジョ−。 あなた、とても元気になったのね。 」

「 ・・・ え? 」

「 もう大丈夫。 そうだわ、あとですこし散歩にゆきましょう。 今朝は吹雪も収まってすっきりした雪晴れよ。 

 いい空気を吸って 海をみればきっと気分も晴れるわ。 」

「 あ、 ああ。 ありがとう・・・ 」

青年は湯気のたつマグ・カップを静かに口に運んだ。

「 辛いことは忘れて・・・ ここで楽しく過しましょう。 」

「 本当に気持ちのいい場所ですね。 」

 

    ―  ・・・ 名前を教えたかな・・・?  別にどうでもいいや・・・ 

       ここは 居心地がいい ・・・

 

少女の微笑みは青年のこころをふわり・・・と包み、温めていった。

 

 

 

 

「 だからあと一日待てと言っている! 

「 そうだよ。 ドルフィンで飛んで行くほうがずっと速いし安全だよ。 」

「 左様。 それで皆で協力して捜せばよいではないか。 」

「 その一日が惜しいの!  わたし、もう我慢できないのよ。 

 わたし。 この目と耳で隅から隅まで、全部捜したわ。 全部、よ。 黒焦げや破損した死体の下も!」

「 それはわかってる。 いつも一番辛い作業を強いてしまうな。 」

「 それがわたしの出来る全てなの。 ・・・ 目を瞑って諦めるより 悲惨でもそのままを見るわ。 」

「 ・・・ フランソワ−ズ。 お前は 強いな。 

「 皆の そうよ、 ジョ−のためなら なんだってできるわ。 」

それじゃ・・・とフランソワ−ズは立ち上がった。

「 行って来ます。 とりあえず <普通に> 入国してあの現場付近に行っているわ。 

 ・・・なにか情報があるかもしれないし。 現地にゆくのが一番よ。 」

「 今までも情報の収集は継続してきた。 焦って現地に行っても状況は変わらないぞ。 」

アルベルトもとうとう立ち上がりリビングを横切ると、ドアを押さえた。

「 あと一日、待て。 」

「 その手を退けて。  わたしが状況を変えるの。 ・・・ 行って来ます。 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズはス−ツケ−スのキャリッジのハンドルを持つとすたすた歩きだした。

・・・ ふん ・・・!

アルベルトは肩を竦め、彼女を通した。

「 ありがとう。  それじゃ。 」

近所に買い物にゆくのと同じ足取りで フランソワ−ズは北の果てへと旅立っていった。

 

 

あの大爆発のあと、サイボ−グ達は現地での捜索を中止しドルフィン号でギルモア邸に帰還した。

帰路途中も、邸に帰りついてからもジョ−の捜索はずっと続けられていたが、力な情報は得られなかった。

もう一度、あの基地のあった地域へ出向くことになったのだが。

フランソワ−ズがついに痺れをきらせた。

 

「 だって! わたしのせいなのよ? わたしを庇おうとして・・・ ジョ−はあの爆発に巻き込まれたのよ。 

 だから。 わたしが捜すわ! 」

「 誰の責任・・・という問題ではない。 仲間の捜索・救出は全員の問題だ。 」

「 それは! ・・・ そうだけど。 でももう、待てないわ、わたし。 一足先に行くわ。 」

「 だから、全員で、と言っている! 」

堂々巡りの議論が続いた。

北の国から戻れば ギルモア邸のある地域はそろそろ春の兆しが見え隠れする季節になっていた。

 

   ・・・ ジョ− ・・・ ! あなたは ・・・ あの北の果ての・・・どこに居るの・・・!

   ああ・・・・ ここはもうすぐ春が巡ってくるのに・・・

 

フランソワ−ズは空を見ても海を見ても。 冷たさの和らいできた風にも焦りしか感じなかった。

「 やっぱり、わたし ・・・ 」

「 ふうん ・・・ それじゃ、この地域から捜索を始めようか。 」

「 え?! ピュンマ、なにが手掛りを見つけたの!? 」

モニタ−の前に座るピュンマに 彼女は駆け寄った。

「 いや。 ごめん、がっかりさせて。 ただね。 ほら・・・ あのNBGの基地のあった地域・・・

 フィヨルドをひとつ越えると村があるんだ。 ・・・アスガルト・・・ そんな名前らしいよ。

 ここも捜してみよう。 」

「 アスガルド ・・・ なにか聞いたことがあるわ。 ・・・神話? 

「 ああ、きみは正しいね。 北欧神話に出てくる神々の国の名前さ。 」

「 神々の国・・・ そこにジョ−がいるかもしれないのね。 」

「 おいおい、それはまだわからんぞ。 」

「 ええ、 でも。 可能性があることは全て調べたいの。 わたし、行くわ・・! 」

「 お前一人で行ってどうする。 全員で捜索だ。 」

「 ・・・ 先に行くわ。  」

「 ・・・ この強情っ張りが。 」

「 ありがとう。 じゃ。 大急ぎで用意しますから。 ピュンマ、お手数だけどエア・チケット捜してくださる。 」

「 ・・・ わかったよ。 どこかの路線に巧い事してもぐりこんでみる。 」

「 メルシ♪ 」

微笑とキスをピュンマの頬に落とし、フランソワ−ズは軽い足取りで自室へ戻っていった。

 

「 ― 負けたよ。 」

「 左様 ・・・ 愛は剣よりも強し! 」

「 ペン、だろ。 」

「 いやいや・・・ 我らがマドモアゼルの場合は 愛 さ。 ・・・げに強きもの、汝の名はオンナなり。 」

「 同感だ。 」

ついにアルベルトも白旗を掲げたらしかった。

 

    そして フランソワ−ズは飛び立った。  ・・・ ジョ−の居る場所を求めて。

 

 

 

 

北の果ては。

ついこの間、ミッションで訪れたときとはまったく違った顔で 彼女を迎えた。

もっとも 防護服に身を固めステルス加工したドルフィン号で潜入した彼らを 歓迎などするものはなく、

あの時は空も海も そして空気すらも余所余所しい顔を見せていた。

 

「 ・・・ わあ・・・ 空気の質が違うみたい。 コンコン・・・って音がしそうね。 

毛皮に包まり二重に手袋をし、カシミヤのマフラ−で顔を半分覆い ― まさに目だけだした状態で

フランソワ−ズは車から降り立った。

極北といわれる地に行った経験もあったけれど  <普通の>姿で北の地域を<普通に>訪れたのは

今回が初めてだった。

「 ・・・ すごいわ。 ああ、足先からもう凍りそう・・・・  えっと・・・・アスガ−ド家? ここね。 」

目の前には壮麗な門構えがあり、周りはきちんと雪かきがしてあった。

門のア−ルデコ調の鉄格子の間から、石造りの大きな館が眺められる。

「 さすが・・・ この地域一帯の大地主、といわけね。 まさか・・・ NBGの?

 ううん、それは調査しなければわからないわ。  今はジョ−のことが第一よ。  」

すう・・・っと息を深く吸うと 亜麻色の髪をちょびっと覗かせた美人記者は門のブ−スにあるインタフォンに指をかけた。

 

 

「 いやあ・・・ こんなにお美しい方とは! まるでフレイヤの髪とイドゥンの林檎の唇をお持ちですな。」

「 まあ、アスガ−ド卿・・・・ なにを仰いますやら・・・ 」

「 いやいや。 こんな北の果てに雑誌の取材というからどんな男勝りが来るのかと思っていたのですが。

 このような美神にいらしていただいて光栄です。 」

「 あら・・・ どうぞそんな。  アスガ−ド卿、こちらこそ不躾にお邪魔しまして・・・ 」

白髭の老人に フランソワ−ズは優雅に膝を屈めて会釈をした。

「 おお・・・まるで王家の姫君のようですな・・・  どうぞ、ご存分に取材をなさい。 」

「 ありがとうございます。 この北の国の素晴しさを出来るだけ皆さんにお教えしたいですわ。 」

「 ふ・・・ あまり騒がしいのはお断りじゃがの。 ほどほどに訪れてもらえれば・・・

 地元のもの達も喜ぶじゃろう。 」

「 そうですわね。  地元、といえばアスガ−ド卿? 途中で耳に挟んだのですが・・・ 最近、なにやら

 大きな爆発があったとか。 湾の向かい隣、とか聞きましたけれど。 」

「 ・・・ なに、耳が早いな。 気になさるな。 この地域は昔は神々にそして今は精霊達に守られておるのでの。 」

「 精霊 ・・・ ですか。 」

「 左様。 邪悪なものがあれば彼らが滅ぼしてくれます。 精霊達の隠れ里がありますからな。 」

「 隠れ里??  本当に精霊がいるのですか?  だって・・・ 21世紀ですわ? 」

「 ふふふ ・・・ お嬢さん。 信じるモノがいる、ということは 存在する ということなのですぞ。

 この地域には不思議なチカラをもった精霊達が住んでおって。 決して彼らを脅かしたり私利私欲に使ったり

 してはならんのです。 彼らと ・・・ そう、この空や海、空気と同じに 一緒に生きていれば彼らはこの地を  

そして我々を守ってくれるのです。 

「 まあ・・・ 守護の天使・・・・いえ 土地の守護霊ですのね。 」

「 そんなものです。 時に迷える魂を精霊の国に連れていったりもするとも言いますがな。 」

「 まあ・・・! 死者の使いですか。 」

「 さあなあ。 精霊の国は憂いも悩みもない、穏やかな地と言われています。 しかし彼らを脅かすと・・・

 先日の爆発も彼らに手を出そうとした輩の末路でしょう。 」

「 ・・・・・・・・・ 」

「 おや、どうなさった。 お顔の色が・・・ ああ、熱い飲み物をもっと持ってこさせましょう。 」

す・・・っと蒼ざめ、口をつぐんでしまった < 美人記者 > に老領主は眉を顰めた。

「 あ・・・ 失礼しました、大丈夫ですわ。 ちょっと・・・ その、びっくりしましたので。  」

「 そうですかな? よろしければ下の村を案内させます。  この上天気なら橇 ( そり ) にしますか。 」

「 まあ・・・! 素敵ですわね。 」

「 ははは・・・ これはまるで猫の車で外出する美神・フレイヤですな。 村人達も驚くでしょう。 ああ、これ!」 

老領主は手を打って召使を呼んだ。

「 橇の用意を。 この方を下の村にご案内せよ。 ・・・・ なに? 事故。 なんじゃと? 」

「 はい・・・ 今朝方 岬のイザ−クがご報告に。  奇妙な ・・・ はい、赤い服の ・・・ 」

フランソワ−ズの足先が ほんのわずか動いた。

彼女はゆっくりと瞬きをし ― また穏やかな笑みを浮かべた。

「 そうか。 わかった。 後で必要なものを届けてやるように。 今はこのお嬢さんのご案内を。 」

「 はい、旦那様。 畏まりました。  ・・・・どうぞ、お客様。 」

「 ありがとうございます。 では  アスガ−ド卿、お言葉に甘えまして行ってまいります。 」

「 おお・・・ 楽しんでいらっしゃるといい。 」

「 はい。  では・・・ 」

フランソワ−ズは静かに応接間から出ていった。

 

   ・・・ ジョ− ・・・! 見つけたわ!  ああ・・・ジョ−・・・! 

   無事だったのね・! よかった・・・ よかった・・・!

 

思わず零れる涙をそっと指で払った。  ・・・ 脚が震えている。

「 お寒いですか。 」

「 え・・・ あ、いえ・・・ なれない雪道に脚が驚いているみたいです。 」

ああ・・・と、召使のオトコは頷き、眩しい気に彼女の顔に視線を走らせた。

「 ここは北の果てで・・・ 本当になにもありません。 都会の方にはかえって面白いかもしれませんが。 」

「 あの。 精霊達の住む村って・・・ 本当ですの。 」

「 精霊・・・?  ああ。 イザ−クの爺さん一家は占いとか予言が得意で・・・ なに、コドモ騙しですよ。 」

「 ・・・ そうですか。 」

「 どうぞ? こんな旧式な乗りものも都会の方には珍しいですかね。 」

フランソワ−ズは黙って毛皮と毛布に包まり、小型の橇に乗った。

「 ・・・はい! 

召使は肢の太い大きな馬に合図をおくると橇は緩やかに動き始めた。

 

 

ちらちら舞う程度の雪だったが 橇上ではかなりの速さで顔やら毛布に降りかかってくる。

「 ・・・あらら・・・ 真っ白になってしまうわね。 」

フランソワ−ズは笑ってさらさらの粉雪を叩き落とす。

「 今日はこれでも上天気ですよ。 この季節には何日も吹雪が続きます。

 お客さんも ・・・ 落ちたヤツもラッキ−だ。 」

「 吹雪が、ねえ? ・・・ あら、遭難事故でもあったのですか。 」

「 ああ・・・なんだか、吹き飛ばされて崖から落ち損ねたヤツがいたらしいですよ。

 普段だったらそのまま飛んでいっちまうか 海にどぼん、でお陀仏だけど・・・なんとか助かったらしい。 」

「 へえ? お天気が助けてくれたのかしら。 」

「 そういうこってす。  ・・・ 曲がりますよ、しっかり手すりを握ってください。 」

「 ・・・ きゃ・・・! すごいわ〜〜  あら?ほら、あそこに 誰か歩いてきますよ。 」

「 大丈夫ですかい?  ああ・・・ マリアだ。 岬の占い一家のとこの娘っこですよ。 」

「 ・・・ マリア ・・・ 」

「 おお〜い・・・!  うん? 一緒にいるのは ・・・ ありゃ、兄貴のヨ−ゼフじゃないなあ。

 お〜〜い・・・! マリア ! 

「 ・・・・・・・・ 

橇は次第に速度を落とし、雪道を歩いている二人連れと行き逢った。

 

「 あら。  お館のヘイムダルさん・・・ こんにちは。 」

「 おう、こんちわ。  ・・・ そいつ、誰かい。 まさか今朝イザ−クの爺さんが言ってた・・? 」

「 ええ、そのヒトよ。 ウチの傷薬ですっかり元気になったの。  ね、ジョ−。 あら、お客様?」

「 ふうん? すげえなあ。  ああ、こちらは都会から取材にきた雑誌社の記者さんだ。 」

すっぽりとショ−ルを被った少女は ぺこり、と頭を下げた。

橇の上の、毛皮に包まった美女はただじっと少女を  ― いや、連れの青年を見つめていた。

 

セピアの瞳は まっすぐにその視線を受け止め、そのまま・・・何の反応も示さなかった。

彼もまた、傍らの少女に倣い軽く頭を下げた。

 

「 そんじゃ。 後で・・・いろいろ届けるから。 ご領主さまからだ。 」

「 ありがとう・・・!  私たち、薬草を探しに行くのよ。 」

「 ふうん・・・ そうだ、傷薬、また分けてもらえるかい。 」

「 ええ、お安い御用よ。 あれは本当によく効くの。  ねえ、ジョ−? 」

「 ・・・ ウン。 もう なんともないよ。 」

「 へえ? あんた、どっから来たのかい。 クロス・カントリ−でもやってて飛ばされたのか。 」

「 ・・・ あ、あの・・・ 」

「 ヘイムダルさん、 このヒト、頭を打ってね。そのう・・・細かいコト思い出せないみたいなの。 」

「 記憶喪失ってヤツかい・・・!? そりゃまあ・・・大変だなあ。  」

「 ええ・・・ 父さんはね、時間がたてばゆっくり思い出すかもしれないって。 」

「 ふうん・・・ それじゃお館の方になにか問い合わせがあったら教えるわな。 」

「 お願いね。  ・・・ じゃ また・・・ 」

「 おう。 気をつけて行きなよ。 」

「 ありがとう 〜 ! 」

少女はまた 頭を下げ、さくさくと雪道を歩いていった。

彼女の横を 青年が守るごくに寄り添っている。

 

「 これから海の側まで回りますかい。 ・・・ もし? お客さん? 」

「 ・・・ え・・・・!  あ、ああ・・・・ そ、そうね。 いえ、もう・・・お邸へ戻ります。 なんだか寒くて・・・ 」

橇の上で美女は青白い頬を強張らせていた。

「 あ〜 そりゃいけねえ。 ま、この辺りの寒さは都会とはケタ違いだかんな。 」

「 ・・・ え・・・エエ・・・・本当に・・・・ 寒い。 」

そんじゃ・・・と召使は馬首を回らせ橇の向きをゆっくりと変えた。

 

   ・・・・ ジョ− ・・・!!

 

至近距離から何回も、いや何十回もとばした脳波通信には ついに返答はなかった。

彼は回路を開く、ということすら忘れてしまっているらしい。

フランソワ−ズの目の奥に 遠ざかってゆく二人連れの後姿が焼きついていた。

 

 

 

 

「 綺麗なヒトだったわねえ。  雪の女王さまみたい。 」

「 ・・・ あ ・・・・ああ。 うん・・・ 」

マリアは足を止め、青年を振り返った。

彼はずっと横に付いて歩いていたのに 数歩遅れぼんやりとしている。

「 ・・・ ジョ−? 女王さまに氷のカケラで心を刺されてしまったの? 」

「 ・・・ え?! な、なに? なんだって。 」

「 ふふ・・・ あの綺麗なお嬢さんに見とれていたから。 」

「 そ、そんなこと・・・!  でも ・・・ 」

「 ・・・ でも ? 」

「 うん・・・ なにかあのヒト。 あの瞳 ・・・ ぼくは知っているのかもしれない・・・ 」

「 ・・・ 青い瞳、こんな雪曇じゃなくて晴れた空の色だったわ。 アナタはそこから来たの? 」

「 う・・・ わからない・・・ ああ・・・でも君の瞳とよく似ている・・・ でも・・・わからない・・・! 

 ぼくには・・・ なにかやらなければならない事があった・・・気がするんだ。 

 スリ− ・・・ この言葉は何なのだろう。 」

「 大丈夫・・・ 私達と一緒にいれば何も心配はなくてよ。 

 ゆっくり ・・・ この岬で休んでいったらいいわ。 辛いことは雪の下に埋めてしまいましょう。 」

「 ・・・ マリア ・・・ 」

「 ね? 薬草摘みをすませましょう。  この先の渓にはね、雪の下に沢山薬草が眠っているの。 」

「 ああ・・・ 君の瞳を見ていると なんだかとても・・・ 心温かくなってくるよ。 」

「 ふふふ・・・ さあ、風が雪を運んでくる前に、ね? 」

「 うん。 」

青年と少女は 再び肩を並べて雪の原を突っ切って行った。

 

「 マリア。 君をみていると・・・ なぜかどこかの街の風景を思い出すんだ。 」

「 その下にも埋もれているわよ。  え? なあに。 街? どこの街。 」

二人は小さな渓に降りていた。  地形の関係で風が遮られ、雪もそれほど深くはない。

緩やかな斜面で薬草を探し始めた。

「 街・・・ うん、石畳があって・・・ 橙色の灯が点く街なんだけど。 」

「 そこがジョ−の生まれた街 ? 」

「 ・・・う ・・・ いや。 すごく懐かしいんだけど・・・ でも、ぼくの故郷・・・じゃない・・・ 

 でも同じくらい温かい気持ちがする・・・  ああ・・?! 」

「 どうしたの。 」

「 ぼくは ・・・ 誰かを護らなくちゃいけないんだ!  でも・・・・ 誰を? 」

青年は頭を抱えると 雪の上に蹲った。  摘み集めた薬草が零れ散る。

「 ・・・ ジョ−・・・ 焦ってはだめ。 無理をすると余計に判らなくなるわ。 」

「 そうだろうか・・・ ぼくの頭の中にずっと霧が立ち込めているみたいなんだ。

 時々 霧の向こうに何かが見えるんだけど・・・手を伸ばしてもつかめない・・・ 」

「 何かって・・・さっきのお嬢さんみたいなヒト? 」

「 ・・・ わからない。 でも誰かが呼んでいる・・・ずっとぼくのあたまの中で声がきこえるんだ。

 あれは・・・幻影か幽霊かもしれない。 」

「 ジョ−。 幽霊なんかいないのよ。 ほら・・・ めずらしく海峡の霧も晴れて来たようよ。 」

「 ああ ・・・ 本当だ・・・・ 」

青年は伸び上がって少女の指す方角を眺めた。

険しい崖を挟んだ海がだんだんとはっきりと見え始めていた。

 

「 ・・・ あの海峡の向こう ・・・ あそこに何か、いや誰がが・・・? 」

 

  あ・・・・ アナタの心には誰か住んでいるわ。  青い瞳・・・ 金の髪・・・?

  ・・・ あの綺麗なヒト・・・?

  あのヒトの心は 私には見えなかった・・・ 霧がかかってしまって・・・

  あのヒトは ・・・ 敵?  私たちの敵なの・・・?

 

マリアはじっと青年の後姿を見つめていた。

 

 

 

 

「 いろいろ・・・ありがとうございました。 とても参考になりましたわ。 」

「 おお、それはよかった。 お役にたててワシも嬉しいですぞ。 」

「 本当に魅惑的な地域ですわね。 この神秘的な雰囲気がいつまでも壊されることがないといいですね。 」

「 そう願いたいですワ。  しかし、いつまでも辺鄙な土地というのも困りますしなあ。 」

「 ええ・・・ そういえば 精霊 でしたか。 ふふふ・・・残念ながら会えませんでしたわ。 」

フランソア−ズはアスガ−ド家で ティ−・テ−ブルを囲んでいた。

老領主が是非に・・・と彼女を引きとめたのだ。

セントラル・ヒ−ティングが効いた部屋にも 昔ながらの暖炉がありぱちぱちと火が炊かれている。

「 ははは・・・ 精霊達は滅多なことでは姿を現さん、といいますからな。 」

「 そういえば例の爆発した建物はこの地域の工場か・・・なにかだったのですか? 」

「 いや・・・よくわからんのです。 恐らく精霊のチカラを利用しようとしたのでしょうな。 」

「 そうですか・・・・ ああ、それではこれで失礼いたしますわ、アスガ−ド卿。 」

別れを惜しむ老領主に 必ず雑誌が出来たら送ると何度も約束してフランソワ−ズは出発した。

 

 

「 あ・・・ 」

冷たいものがひらり、とフランソワーズの頬に落ちた。

雪が 降り始めていた。

朝方の磨き上げた青空はどこへやら・・・ 空一面に灰白色の雲が垂れ込めている。

 

    ちょうどいいわ。 この雪に紛れて ・・・

 

アスガ−ド邸から幹線道路とは反対にハンドルを切りわざと吹き溜まりに突っ込んだ。

雪の中で彼女の車は ミッション用の雪中車にモデル・チェンジしその運転席には 003 が座っていた。

 

    ジョ− ・・・ ! 今、あなたを迎えに行くわ・・・!

 

雪とほとんど見分けにつかない乗り物は 静かに集落のある岬へ向かった。

 

 

「 ・・・ 誰か来るわ。 」

暖炉の前で少女が突然 声を上げた。

「 え。 」

「 ・・・ ああ。 雪に紛れているつもりらしいが。 妙なものに乗っているな。 」

向かい側に座っていた少年も頷いた。

「 誰だろう? ここになんの用があるのかな。 」

「 さあ。 でも心配しなくて大丈夫よ、ジョ−。  誰も私達に危害は加えられないわ。ねえ、兄さん。 」

「 ああ。 精霊は ・・・ 誰のものでもない。  邪悪な心で手をだせば、アイツらと同じ運命を辿る。 」

「 アイツら・・・? 」

「 ええ。 精霊を自分達の意のままに操ろうとしたモノ達がいたの。 」

「 精霊の勘気に触れて滅びた。 」

「 ・・・・ それは ・・・ それをぼくは ・・・ ぼくは知っている・・・気がする・・・ 」

「 あ! ジョ−! どこへ行くの。 」

青年は暖炉の脇で細い木の枝をくべていたが 突然立ち上がり部屋を出て行った。

「 彼を呼ぶ声がする。 雪の風に混じってジョ−を呼んでいる。 」

「 ・・・・・・・ 」

マリアはだまって立ち上がると 肩掛けを頭から被り青年の後を追った。

 

 

外はすでに真っ白な闇に包まれていた。 

「 ・・・ ジョ− ・・・?!  どこに・・・ ああ、アナタの心が感じられないわ・・・ 

 今 ジョ−のこころは 誰か他のヒトのことでいっぱいなのね。 」

少女はじっと吹雪に向かって目を凝らし、心を研ぎ澄ませた。

「 ・・・ みつけた・・・ジョ−。 そんな吹きさらしのところに居たら凍えてしまうわ。

 ・・・ あ。 あのヒト ・・・  雪よ。 私に力を貸しておくれ。  ジョ−の側に運んで・・・ 」

不意に少女の姿は白い帳の中に消えた。

 

 

ジョ−は吹雪の中に ぽつん、と立ち尽くしていた。

 

   ・・・ 誰か・・・ 誰だ? 誰かがぼくを呼んでいる・・・ 

   あの声・・・ とても懐かしい声・・・ でも、誰の声だ?? 

 

この雪深い村で気がついてからずっと ・・・ 遠くの潮騒のように彼のこころに響いていた <声>。

その声はいま、 ごく間近に迫っている。

「 ・・・ 誰だ? そこに居るのは。 」

降りしきる雪を透かして、 赤い影がゆらりと現れた。

 

「 ・・・ジョ−!  ジョ−・・・! 無事だったのね! 」

 

ゆっくりと ・・・ そして最後は新雪に縺れる脚でそのヒトは駆け寄ってきた。

「 ジョ− −−−− ! 」

ジョ−の目の前に、 赤い奇妙な服を纏った女性が立っていた。

亜麻色の髪には雪がこびりつき、大きく見開かれた瞳からは ぽろぽろと涙が零れている。

「 ・・・ アナタは・・・?  」

「 ジョ−! わたしよ?! ねえ、思い出して! 」

「 ・・・・・・・・ 」

「 009! やっと見つけたわ。 さあ・・・・ 皆のところに帰りましょう。 」

「 ゼロ ゼロ ナイン ・・・? それは ぼくのことか。 」

「 そうよ。 そしてわたしは 003。 」

「 ゼロ ゼロ スリ− ・・・ あ・・・ スリ− って君のことなのかな。 」

「 ジョ−。 帰ってメンテナンスを受ければ すぐになにもかも・・・思い出すわ! 」

「 ・・・ メンテナンス ・・・?  思い出せるだろうか・・・ 」

「 ええ。 必ず。 だから さあ、帰りましょう! 」

 

 

    だめよ・・・ !!

 

吹雪の中からつよい声が伝わってきた。  雪が ・・・・  止んだ。

「 誰? どこにいるの?! 」

「 ・・・ マリア? マリアだね。 」

 

    そうよ、ジョ−。

    彼を連れていっては駄目。 彼は ・・・彼の心は壊れてしまう・・・

 

二人の目の前には誰もいない。 

吹雪は当然に消え、夜空は綺麗に晴れ上がった。

フランソワ−ズはス−パ−ガンを構え 慎重に周囲をサ−チする。

「 ・・・ ヘンねえ。 誰も ・・・ なにも見えないし足音も呼吸も聞こえないわ。 」

「 マリア! どこにいるんだい? 姿を見せてくれ・・・ 」

 

    ジョ−。  あなたは ここにいればいい。

    つらい事・・・ ジョ−のこころは辛い事や悲しみではち切れそうだわ。

    ・・・ 忘れてしまえばいい。 辛いことは忘れて ・・・ 

    ここで静かに暮らせばあなたは幸せでいられるわ。

 

「 だめよ! ジョ−は わたし達の大切な仲間なの、一緒に帰るわ! 」

フランソワ−ズはジョ−の前に立ちはだかり、宙にス−パ−ガンを向けた。

 

    どこを見ているの?   ・・・ 私はここよ。  ほら・・・

 

キラリ・・・!と一瞬 宙に強い光が見え ―

 

「 ・・・!  だめだ!! やめろ・・・! 」

「 ・・・あ !?? 」

 

    ・・・・ !!  ジョ− −−−−

 

次の瞬間、 フランソワ−ズは突き飛ばされ雪の上に転がった。 そして。

あわてて起き上がった彼女の目の前には ジョ−が肩を押さえ蹲っていた。

「 ・・・ ジョ− ・・・!! 」

「 ・・・う ・・・・くゥ・・・・ 」

「 ジョ−! どうしたの? どこが痛むの!  ジョ− !! 」

「 だ・・・大丈夫 ・・・多分 ショック ・・・ きみが無事でよか・・・った 」

「 ああ・・・ ジョ−・・・また・・・わたしのせいで。 ごめんなさい、なんて言う資格もないわ!」

フランソワ−ズの涙が ほろほろとジョ−の頬に落ちた。

ジョ−はゆっくりと目を閉じ  そしてすぐにかっきりと彼女を見上げた。

セピアの瞳は今、まっすぐに青い瞳に注がれている。

 

 

   ・・・ フランソワ−ズ ・・・?

   

   そうよ! 

 

   フランソワ−ズ!  

 

   ・・・ そうよ、ジョ−! わたし、よ!

 

 

二人の手がしっかりと握りあわされた。

ひゅるり ・・・・

晴れていた夜空に一陣の雪風が再び 吹き始めた。

 

    ジョ−! ウチの薬草を塗ればすぐに治ってよ。

    そうして 何もかも・・・辛いことは忘れて。 静かに暮らしましょう。

 

「 ・・・ ぼ ・・・ぼくは。 忘れたくは ない。 どんなことにも 目を瞑らない。 」

ジョ−はゆっくりと立ち上がると 空を見上げた。

 

    そんなことをしていたら。 アナタのこころは壊れてしまうわ!

    ・・・ それでも ・・・いいの・・・?

 

「 ジョ−。 誰と話をしているの。 」

「 ・・・ うん。 ぼくを助けてくれた精霊さ。 助けてもらってありがたいけど・・・ でも。 」

ジョ−は きゅっと唇をいったん結んだ。 そして はっきりと話始めた。

「 ぼくは・・・。 いつか哀しみでこの胸が破れてしまっても。 それでも逃げはしない。

 ぼくにはぼくの命よりも守りたいものがある。 」

「 ・・・ ジョ−。 わたしもよ。 わたし・・・あなたを ・・・ 

「 ふふふ・・・ それはぼくの役目さ。 ぼくに愛と勇気をくれたきみを守る。 」

 

 

「 ジョ−・・・ 」

「 マリア。 」

雪の中から 不意に少女の姿が浮かびあがった。

「 ・・・ さよなら・・・ ジョ−。 私達はこの地で生きてゆくの。 」

「 マリア ・・・! 」

「 どうぞ・・・あなたの信じる通りに 生きて・・・ 」

 

ふ・・・っと少女の姿が消えた。

 

ひゅるるる ・・・・ ひゅう ・・・・

 

再び粉雪が舞い始めた。  辺りは完全に白い闇にもどってしまった。

「 行こう。 ・・・ 帰ろう。 フランソワ−ズ。 」

「 ジョ−。 ええ、帰りましょう、わたし達の家へ。  ・・・一緒に 」

「 そうだね。  一緒に。 」

 

 

雪深い地でのミッションは やっと今、 終結した。

 

 

 

**********************************      Fin.     ******************************

 

Last updated :  01,20,2009.                                                  index

 

 

*****************     ひと言     ******************

え〜〜〜っと ( 大焦 & 大汗 )  原作 ・ あのお話 の逆バージョンを書こう!と

思っていたのですが、 ど〜も上手く行きませんで・・・・ (^_^;)

原作準処・・・なミッションもの @ フランちゃん活躍! になってしまいました〜( 泣 )

も〜冬は いやだあ〜〜って気分で? 北の果てを舞台にしてみました。

冒頭のミッション中、 ジョ−君は加速中に爆発にあったので 激しく遠くまで吹っ飛んだ・・・・

っつ〜風に解釈してくださいませ。

・・・ ジョ−君、例によって美少女のモトでぬくぬくと?過しています★

もうこれは彼の役得ってか お約束・パタ−ン?  毛皮を着て橇にのったフランちゃん、

きっとまさに 雪の女王様 みたいだったでしょうね・・・

たまにはこんな話も ・・・ いかが?  ・・・精進します・・・! <(_ _)>