********  クリスマス・スペシャル   おまけ!   **********

 

                                                         『  幻影の聖夜  ― (3) ―  』

           

 

 

 

 

    § 島村さんち・93  『 星降る夜に 囁いて 』

 

 

 

    *****  お馴染み・島村さんち♪  双子ちゃんは小三くらい  *****

 

 

 

海岸沿いの崖っぷち、その天辺へと延びている一本道を青年が一人、ずんずん登って来る。

かなりの勾配と距離で 大方の人が途中で一息いれるのだが、彼の足は止まらない。

止まらないどころか 登るにつれて足取りはますます軽くなりご本人も上機嫌 〜〜

・・・ どうやらタダモノではない・・らしい。

茶色のすこしクセのある髪を揺らしつつ、青年はハナウタなんかも歌っている!

 

     ふんふんふ〜ん♪  も〜ろ〜びと〜 こぞ〜り〜て〜♪

 

流行のPOPSでもクリスマスにツキモノの  〜 真っ赤なお は な〜の♪ でもなく!

聖歌( 賛美歌 )なんぞを歌っているところが 彼の彼たる所以なのであるが。

両手に大きな袋を提げ、さらに背中にはぱんぱんのリュック ・・・ でも彼は元気一杯・ご機嫌だ。

「 ひとみな ねむりて〜〜・・・♪  ツリーもリースもとっくに完備。

 今晩はフランがお得意のブッシュ・ド・ノエル を作ってくれるもんな〜〜 

 とこよの〜 ひかりの〜 ♪  ふふふ・・・博士とチビたちへのプレゼントも おけ♪ 

 <皆> にはとっくに発送済みだよ。 フランのプレゼントは・・・へへへ 頑張ったもんなあ〜〜  」

彼はちょいと足を止め荷物を足元に置くと  内ポケットからビロードの小箱をさぐりだした。

「 ・・・ 気に入ってくれるかな くれると いいな ・・・ これ ・・・ 」

そっと覗き込んだのは 小さな真珠のペンダント・ヘッド。 

真珠の周りを星屑みたいな細かいダイヤが取り巻いている。

「 ぼくにはこれが精一杯 ・・・ ぼくとしてはいいセンいってると思うんだな 」

そっとフタをした小箱にキスをして 彼はまた大切にしまった。

「 ふふふふ〜〜ん♪  準備完了〜〜〜っと。

 どうせチビたちは腹いっぱい食ってしまえば沈没〜 だもんな。

 あいつらの靴下にプレゼントを詰め込んだら〜〜 ふふふふ〜〜ん♪ 」

よいしょ・・・と両手に買い物袋を持ち直し、 ジョーは歩き始めた。

 

   ふんふんふ〜〜〜ん♪  フランとあつ〜〜〜いイヴの夜ぅ〜〜♪

   しゅわ〜 しゅうわぁ〜〜 きま〜せ〜り〜〜・・・っとぉ♪♪

 

聖歌をハナウタしつつ、にやにやそわそわ・・・ 他人から見れば不審者そのもの。

職務質問されかねない  が  ここは町外れの一軒家前。

空を飛ぶカモメが首をかしげつつ時おり通り過ぎるだけだった。

 

 

   ―  ガチャ ・・・!

 

「 ただいまぁ〜〜 フラン〜〜〜 」

玄関でジョーは陽気な声をあげる。  

 パタパタパタ ・・・ 軽い足音がして 彼の愛妻が駆け出してきた。

「 お帰りなさい ジョー。  ごめんなさい、今 キッチンが大忙しで ・・・・

 あ、お願いしていたもの、買って来てくだすった? 今、使いたいの。 」

「 うん。  な ・・・ その前に・・・ お帰りのきす・・・ 」

ジョーはくい、と細君の肩を引き寄せた。

あ ・・・ ちょっと・・・とそんな彼から彼女は身をかわし 買い物袋を覗き込む。

「 ね、どこ? セロリはどうしても必要なの。 」

「 セロリはこっちさ。  なあ その前に きす〜 」

「 こっち? ・・・ ああ あったわ。  そうそう、あとパセリがいるの。  どうしても よ。

 ねえ ジョー、温室で摘んできてくださらない? 」

「 パセリ? そんなの後でいいよ、 それよりもさぁ 〜 」

「 今 よ。 煮込みにね、パセリの茎は必須なの。  ほらほら〜〜 お願い

 ね、 イイコだから ・・・ 」

「 え  ―  あ ★ 」

彼の細君は背伸びすると さ・・・っと彼の頬にキスを落とし 買い物袋とともにキッチンへと消えた。

 

   な  なんだ よ 〜〜  子供のキスじゃんか、チビ達といっしょかよ 〜〜 

   ・・・ ふん。 ま いいさ。

   ここは大人しくパセリを採ってくるさ。

   きみの美味しい料理で元気をチャージして♪

 

   うっふっふ〜〜〜ん♪ イヴの今夜は眠らせないぞ〜〜

 

ジョーはキスをもらった頬に手を当て ちょいと肩を竦めて裏庭に周った。

裏庭には ジェロニモ手製の温室がありハーブ類や苺、プチトマト、キュウリなどが栽培されている。

 

 ― カタン ・・・

「 〜〜〜おお あったかいなあ・・・ こりゃ春だな・・・ 」

ジョーは温室に入り う〜〜ん・・・と伸びをした。 それまでの冷えた外気で凍えていた身体が

イッキに潤びはじめる。

「 ふ〜〜ん ・・・・ サイボーグだってさ、冬は寒いんだよね。

 え〜と なんだっけか ・・・ ああ パセリ パセリ〜〜  ここだな。 」

片隅の畝をみつけジョーは屈みこむ。 

「 〜〜♪ ♪ っと ・・・ やあ パセリの匂いだ。 ふふ 当たり前かあ 

 うん?  この甘い香りは ・・・ あ 苺♪ 」

ジョーはちょい、と手と伸ばし、中段のプランターから伸びる苺に触れた。

「 お〜 真っ赤で美味そう ・・・っと! だめだ だめだ。 これはケーキ用、だ。

 チビたちが楽しみにしているケーキだからなあ。 

 うん、 お父さんはお前たちと一緒に食べる方がず〜〜っと美味いさ。 」

彼は相好を崩し、パセリ摘みにもどった。

 

     も〜ろびと〜〜  こぞ〜〜り〜〜てェ〜〜〜♪♪

 

温室の中には クリスマス聖歌 が漂っていた。

 

 

 

「 じんぐるべ〜る じんぐるべ〜る ♪♪ 」

「 〜〜〜 今日は〜 楽しい くりす〜ます〜〜♪ 」

賑やかな混声合唱が門から近づいてくる。  

もうすぐ 勢いよく玄関が開いて元気すぎる声が響いてくるのだ。

 

    「「  ただいま〜〜〜  お母さん お腹すいた !! 」」

 

やれやれ・・・ フランソワーズはエプロンで手をぬぐった。

「 台風たちが帰ってきたわ。  え〜と ・・・ オヤツは。 おせんべいとビスケットでいいか・・・

 おっと・・・・ 吹いてしまうわ・・・ 」

彼女はガスの火を弱め、ちょいと大なべのフタをずらした。

「 え・・・っと。 チキンは ん −−−− いい具合ね。  あとは ・・・ 」

オーブンの中を覗き込み、さて玄関に行かなくちゃ、と思っていたら ―

 

  ―  バン ッ !!

 

「「 おかあさ〜〜〜ん !!  オヤツぅ〜〜〜〜 」」

キッチンに色違いの小さな頭二つ飛び込んできた。

「 はいはい・・・・ お帰りなさい、 ふたりとも。 」

「「 ただいま〜 お母さん 」」

「 はい、じゃあ まず、ランドセルを片付けて ウガイと手を洗う! 」

「「 は〜〜〜い 」」

「 ・・・と! まってまって。  今日は二学期の終業式でしょう?

 通知表、 みせて。  あと お知らせプリントは? 」

「「 ・・・・ ・・・・・  」」

ちろ・・・っと顔を見合わせ 二人はランドセルの中をごそごそやり始めた。

「 ちゃんと綺麗に出してね。  おじいちゃまとお父さんにもお見せするから。 」

「 う うん ・・・・  

二人 ― すぴかとすばる ― は よいせ・・・とランドセルの中からひっぱりだした。

「「 お母さん ・・・ これ 」」

「 はい、ありがとう。  ・・・ そうね、やっぱりあとでお父さんと一緒に見るわ。 

 そうしましょう。 」

「 ・・・・ あの ・・・ さ  オヤツ ・・・ 」

「 僕も。  ・・・ ちょこ ある? 」

子供たちの関心は もうテーブルの上のお皿に向かっている。

「 手 洗って。 ウガイ! 」

   どたばた −−−−!!

二人はあっという間に戻ってきて またピイピイ喚きはじめた。

「「 オヤツぅ〜〜〜 」」

「 はいはい ・・・ ま、通知表のお説教は後 ね。 はい、 オヤツ。 」

「「 うわ〜〜〜〜いいいいいい♪♪ 」」

子供たちはオヤツに殺到した。

「  ・・・ おかあさ〜ん  ぷち・とまと、ほしい! 」

「 むぐむぐむぐ 〜〜〜  もっと ちょこ〜〜 」

「 あらあ 今夜はクリスマス・イブ、晩御飯は御馳走なのよ? 

 チキンやケーキが入らなくなってもいいの? 」

「「 やだッ !! 」」

「 じゃ オヤツはそこまで。  お手伝いしてちょうだい。 」

「「 は〜い 」」

「 ええとね ・・・ すぴかはこのクラッカーを砕いて。 タルトの台にするのよ。 すばるは〜 」

「 おかあさん!! じゃがいも! 僕、じゃがいも、むく!」

「 あ ・・・ ごめ〜ん・・・ ジャガイモはお母さんが剥いちゃったの、ほら もうお鍋の中よ。 」

フランソワーズは大なべのフタをとリ、息子を抱き上げて中身をみせた。

「 ・・・ う うっく ・・・ ぼ 僕がむく、っていったのにい〜〜 」

「 あ〜〜 ないてる〜 泣き虫すばる〜〜 や〜〜い 」

「 ち ちがうもん!  な ないてないやい!  じゃ じゃがいもぉ〜〜〜 」

「 へえ? なみだ、こぼれてるよ〜〜 なきむし、 なきむしィ〜〜 」

「 こ〜ら ケンカしない。  すぴかさん、ほら このクラッカー 砕いてちょうだい。

 この袋にいれてね、すりこぎでたたくの、できる? 」

「 できる! おかあさん。  あ これ、すぴかの好きなのだあ〜 」

すぴかは 袋に入ったクラッカーをじ〜〜っとみていたけど、やがてとんとんたたきはじめた。

「 ・・・ 僕はあ〜〜 」

「 う〜ん ・・・ あ それじゃおりんご、剥いてくれる? タルトの中身にするの。 できるかな。 」

「 ウン!!  うわ〜〜い りんごだぁ〜〜 僕ね、! かわをず〜〜〜っとだよ。 」

「 ??? ず〜っと? 」

「 うん。 くるくるくる〜〜って。 おかあさん、いつもやってくれるでしょ。 」

「 あ ああ・・・皮をず〜っと切らないで剥くのね、すごいな〜〜できるかな、すばる君。 」

「 できる、 僕。  おかあさん、僕のほうちょうかして。 」

「 はい これ すばるの。 それで このおりんごを3コ。 剥いてちょうだい。 」

「 わかった。 」

フランソワーズの小さな息子はキッチンのスツールに座ると熱心に作業を始めた。

 

    あらあ〜〜  この座ってる姿 ・・・ ジョーにそっくり♪ 

    可愛いわあ ・・・・

 

キッチンはいい匂いでいっぱいになってきた。

ガス台では大鍋がポトフを そしてオーブンではチキン、そして テーブルでは息子が林檎を剥いている。

 

    ふんふん・・・ いいわねえ・・・ 

    そうね クリスマスの時って こんなカンジだったわ

    ママンがキッチンの魔法使いに見えたもの

 

「 ・・・ おかあさん お母さんってば〜〜 」

娘がツンツン・・・母のエプロンを引っ張っている。

「 あ?  あら なあに、すぴかさん。  おしごとは終ったの。 」

「 うん。  はい、 これ・・・・。  ねえ あたし、ぷち・とまと 食べたい〜〜 」

「 ぷち・とまと?  あら それじゃ・・・晩御飯用を温室で摘んできてくれる?

 それをつまんでもいいわ。 今 お父さんが行ってるから、パセリはやく!って言って? 」

「 わ〜〜〜い♪  行ってくるね〜〜 」

「 あ ほら ・・・ このボウルに摘んできて! 」

フランソワーズは慌てて娘にボウルを渡した。

「 え・・・っと?   ・・・あら? クラッカー・・・・ こんなに少なかったかしら・・・ 」

すぴかが砕いたクラッカー ・・・ タルトの台になるべきソレは袋の中にぽそっと入っているだけだ。

「 ヘンねえ・・・? 」

「 ・・・ くらっかー ・・・ すぴか、食べてたよ。 」

すばるがりんご剥きに真剣な眼差しで取り組みつつぼそ・・・っと言った。

「 え! まあ! なんてこと  ・・・ そうだった これ、すぴかの大好きなのだったわ・・・ 

 オヤツ、足りない〜って言ってたものねえ・・・ 」

ツマミ喰いはお尻ペンペン〜 だけれど、大好物が目の前・・・というのもちょっとばかり可哀想な気がした。

「 しょうがないわねえ・・・ もうクラッカーないし。   あ。 あれ、使っちゃお♪ 」

彼女はシンクの出窓に手をのばた。

そこには ― ジョーが毎朝スズメたちに撒いている固くなったパンの欠片を詰め込んだ袋がある。

「 これこれ。  ・・・ うん、使えるわね。  さ〜て それじゃこれにバターを加えて・・・っと。 」

「 おかあさん。 おりんご むいたよ〜 」

息子がにこにこ・・・綺麗に剥いたりんごをボウルに入れてもってきた。

「 わあ〜〜 ありがとう、すばる!  ・・・すご〜い きれいに剥けてる ・・・ ! 」

「 えへへへ・・・ みて みて おかあさん ほら〜〜 」

「 え?  ・・・ う わ〜〜・・・・ 」

すばるはひょい、と剥いた皮を摘まんで びろ〜〜〜〜ん ・・・・と伸ばしてみせた。

一個の林檎の皮はほぼ一本に繋がっていた。

「 すばる・・・ お母さんよか上手よ〜〜 すごい♪ これ、お父さんにも見せましょ。 」

「 わあ〜い♪  ・・・ お母さん、 お父さんは? 今日も遅いの? 」

「 え。  あらやだ! お父さんったら裏の温室にパセリを採りに行って・・・

 やだ〜  まだ帰ってこないわ!  すばる、見てきてちょうだい。 」

「 うん。  あ すぴかも温室に行ったね。 

「 あら そうだったわねえ。  そうそう いちごを摘んできてくれる?

 ケーキに使うのよ、真っ赤で甘くて・・・美味しそうなの、選んでね。 」

「 うん!  いくつとればいいの。 」

「 そうねえ ・・・ そのボウルに一杯 でいいわ。 」

「 何個? 」

「 すばるが数えてきてちょうだい。 それでね、お父さんとすぴかを引っ張ってきて。 」

「 はあ〜い   いっちご いちご〜〜〜 いっち〜〜ご♪ 」

すばるは温室へ ちょんちょん飛んでいってしまった。

そんな息子の姿をキッチンの窓からながめつつ ・・・ ぼんやり思う。

 

    ふうう ・・・ やれやれ ・・・・

    それにしも ジョー!!!   パセリは必須! って頼んだのに。

    すぴかもよ〜〜 また二人してぷち・トマトの観察でもしてるのかな・・・

 

ジョーとすぴかは仲良しだ。  ジョーは見た目、愛妻にそっくりな娘が可愛くて仕方ないし、

すぴかは性格的にもよく似ている父親が大好き、赤ちゃんの頃からお父さんっ子なのだ。

 

    すぴかだって可愛いわ、たった一人の同性ですもの。

    でも ・・・ なんかよくわからないのよね、あのコ ・・・

 

ちょびっと溜息をつき ―  さあ〜〜 ぼんやりしてはいられないわよ! と 

彼女は自分自身に気合を入れて ガス台の前に戻った。

 

 

 

「 そら 行くぞ〜〜 」

「 うん! 

 

   シュワ − −−−−−−−−− ・・・・・・ !!!

 

ジョーの手元から水が霧状になって散ってゆく。

「 きゃあ〜〜〜〜  あははは ・・・ 雨だあ〜〜〜 」

「 ほらほら 避けなさい  びしょびしょになっちゃうぞ〜〜 」

「 いいもん、 ここ 暑いから〜〜  あ お父さん、ぷちとまとさんも喜んでる〜〜 」

「 うんうん そうだね。 じゃあ  あっちの苺さんににも〜〜  ゆくぞ! 」

「 雨だよ〜〜〜 いちごさん♪ 」

 

    シュワ −−−− !

 

「 − うわあああ〜〜〜 !! 」

向こうの苺のプランターの方から叫び声が飛び上がった。

「 ?? す すばる か?? 」

「 え〜〜〜  すばるぅ??  ・・・ あ! お父さん、すばる、びしょくた 

すぴかは言葉よりも先に駆け出し、苺のプランターの陰でずぶ濡れになっている弟を発見した。

「 あ〜あ・・・ すばる〜 あんた なんでこんなトコにいるのぉ〜 」

「 ・・・ぼ 僕 ・・・ いちご とりにきたら  ・・・ う うぇ ・・・ つめたいぃ 〜〜 」

「 また泣くぅ〜〜  泣き虫すばる〜〜 」

「 こらこら ・・・ おい すばる? どっか痛いのか ぶつけたのか? 」

「 う?  ううん ・・・ でもつめたぃ〜〜〜 」

すばるは父を見つけると とびついてメソメソ始めた。

「 つめたい かな?  すばる、ほら 見てごらん、 ここは夏みたいだろう? 」

「 ・・・う ウウ?」

ジョーはノズルを温室の天井に向けるとコックをひねり ―  細かい霧状の水滴が噴霧された。

「 ほら  ほら  みてごらん? すぴかもすばるも  ほ〜ら・・・・ 」

「 ?   あ!  にじ! にじだあ〜〜〜 おとうさん! 」

「 え  ど どこ どこ??  すぴか どこ? 」

「 ほら あそこ。  天井のすぐ下 ! 」

「 どこ ・・・あ!  ほ ほんとんだ、  わあ〜〜 虹だあ〜〜〜 」

子供達は大はしゃぎ、 ジョーの降らす <雨> の中をきゃあきゃあ大騒ぎで駆け回っている。

「 さあ じゃ、皆で収穫しよう。 まず〜 」

「 いちご! 」

「 いや、いちごは最後。 パセリ、それから ぷち・とまと さ。 」

「「 はあ〜〜い   きゃ〜〜 うふふふ 」」

双子はもうはだしになって 髪から雫をたらしつつ温室内を走る。

「 パセリはちょっとでいいよ。  ああ 畝に踏み込んじゃだめだぞ。 」

「 は〜〜い  お父さん、僕 パセリ、 とった 」

「 アタシ〜〜  ぷち・とまと ・・・ むぐ・・・ 美味しい♪ 」

「 こら すぴか〜 つまみ食いは後。 よ〜し じゃあ 次は皆で苺♪ 」

「「 きゃっほ〜〜♪ 」」

はだしでげでげで・・・服はびしょびしょの双子たちは 苺のプランターに駆け寄った。

ホースを片付けてジョーも子供たちと一緒になる。

「 いいかい? ちゃんと真っ赤になってるのを採る。 そうっと そうっと ね。 」

「「 はい お父さん♪ 」」

「 それと。  つまみ食いは  ―  後! まずはタルト用の苺〜〜 」

「「 うわい♪♪ 」」

父子三人が いちごのプランターの前に集合し大にこにこだ。

「 さ〜あ  いちご摘み〜〜 開始♪  」

「「 はあ〜〜い 」」

 

   ―  カタン ・・・ !

 

温室の外側のドアが開いた 音がして ・・・

「 皆 いつまで温室に ・・・  うわ・・・! 」

亜麻色のアタマがひょい、と現れたが  ―  家族の様子をみて絶句した。

いつもは温かいだけの温室内は むっとするほどの温度で蒸気がこもっていて・・・

そして 彼女のご亭主も愛娘も愛息も  真冬だというのに 

全身ぐちゃぐちゃ 髪からは雫を滴らせ 足も手も泥でげでげでだった。

「 ・・・ な なにしてるの、みんな ・・・ 」

「 や やあ ・・・ フラン。  ここは夏みたいなんだ。 」

「 おかあさ〜〜ん  いちご♪  こっちは はい、ぷち・とまと。 」

「 おかあさん いちご〜〜〜 」

「 ・・・ あ  ありがと ・・・ 」

「 さ〜あ♪ 二人とも? これからバス・ルームに直行〜〜 それッ!! 」

「 うわ〜〜〜〜い 〜〜 !!! 」

 

    ぐちょぐちょぐちょ ペタペタペタペタ〜〜〜  !!

 

細君に山盛りのぷちとまととセロリ そしてボウル一杯のいちごをおしつけ

ジョーは双子たちを抱え上げると脱兎の如く母屋の風呂へと駆けていってしまった。

 

      ぴちょん ・・・・ !

 

「 きゃ! 冷たい!    ・・・ な なんなの〜〜〜  今日はイブだってのに! 」

誰もいなくなった温室で いちごやぷちとまとが フランソワーズを眺めていた。

 

 

 

 

クリスマス・イブの晩御飯は ― めっちゃくちゃに美味しかった・・・!

すぴかもすばるも <目の上> くらいまで チキンやらポトフやらサラダを詰め込み・・・

「 はい お待ちかねのケーキよ。 」

「「 うわあ〜〜い♪ け〜き  け〜きィ〜〜〜♪♪ 」」

お母さんお手製のケーキに 二人は歓声をあげた。

「 おやあ もうお腹いっぱい、なんじゃなかったのかなあ〜? 」

「 けーき はべつなの! 」

「 べつのトコに入るんだもん〜〜 」

  ― ともかく楽しくイブの夜は過ぎ、 双子は <靴下> を確かめてから早々にベッドに入った。

 

 

  カチャ ・・・・

 

ジョーがうろうろと寝室で待ちくたびれた頃 やっとドアが開いて彼女が入ってきた。

「 あ フラン〜〜〜   」

「 ・・・ ふう ・・・  やっと乾燥機、終ったわ ・・・ 」

「 あ ・・・ ぼく達の服 ・・・ ご ごめん ・・・ 」

「 別に。 親子で楽しそうでしたものね、 いいことよ。 クリスマス・イブに ね。 」

「 ( あちゃ〜〜・・・ ) ご ごめん  ・・・ つい・・・ 調子にのって・・・

 あ! さんたくろーす の役は、やってきたからね! 」

「 ・・・ そう。 ありがとう。   イブですものね。 」

 

     ヤバ・・・ やっぱ怒ってるよなあ・・・

     そうだよなあ・・・ イブの夜にげでげで・どろどろの洗濯 だもんなあ・・・

 

ジョーはそう・・・っと細君の様子を窺うが。 彼女は静かに髪を梳いている・・・

プレゼントはさっき交換した。

「 ・・・ あの〜〜 ・・・ 」

「 おやすみなさい、ジョー。 」

フランソワーズは静かに言うとガウンを脱いだ。  

声があまりに静かで ― ジョーは冷や汗がおちる。

「 ・・・あの  怒ってるかな〜 奥さん 」

「 ・・・・・・・・・ 」

するり、とジョーの細君はベッドに入ってしまった。

「 ―  あの〜〜〜  その・・・ 」

「 ・・・・・ 」

 

   ―  ふぁさ ・・・    フランソワーズは無言で羽根布団をめくった。

 

「 ・・・あ♪    う  あ ありがとう・・!  うわあ それ・・♪  」

勇んでその隣にすべりこみ ・・・ ジョーはしっかりと確認した・・・ 

そう、彼の細君の白い胸には  ― 彼のプレゼントがちかり、と光っているのを・・・・

 

 

 

 

   *****  ひとこと注 *****

島村さんち  のクリスマス・ケーキは いちごつきのブッシュ・ド・ノエル と

りんごのタルト。 これはりんごとレーズンの甘味を生かしたさっぱり味♪

 

 

 

 

 

 

 

  § 平ゼロ93  『  幻影の聖夜  』

 

 

 

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「 ・・・ 本当に 一人でいいのかい。 」

「 ええ ・・・ 」

「 じゃ ・・・ 気をつけて。 

「 ありがとう  ジョー ・・・  イッテキマス 」

「 あ うん ・・・ 」

ひそやかな会話のあと、河畔にとまっていたボーパスから人影が降り立った。

「 それじゃ ・・・ 時間には戻ってくるね。 」

「 ええ。 何回も言ったでしょう? 」

「 ・・・ごめん。 あ 道に迷ったりしない? 大丈夫? 」

「 あのね。 わたしの生まれた街なのよ?  目をつぶっても歩けるわ。 」

「 そ そうだね。  ・・・あ! スーパーガン! 持ってゆけよ。 」

「 え ・・・ いらないわ。 わたし 闘いにゆくのではなくてよ。 」

「 うん  わかってるけど。 けど ・・・ 万が一ってこともあるだろ?

 持ってゆくだけでいいから。  ね? 頼むよ。 」

「 ・・・ ジョー ・・・・ 」

セピアの瞳がじっと見つめている。  彼女は少したじろいだ。

「 わ わかったわ。  じゃあ ・・・ 一応持ってゆくわ。 だから本当に心配しないで。

 ・・・もう行くわ。 」

「 ん。 気をつけて ・・・ 」

「 ・・・・・・・・ 」

チラっと彼に一瞥を残すと、彼女は真っ直ぐに前を向いて歩き出した。

( ・・・ カチ ・・・ ) 歩きつつ、 人工視覚、聴覚、 そして 脳波通信のスイッチを全て切った。

彼女は 一歩づつ思い出の中に還ってゆく。  ・・・フランソワーズ・アルヌールとして。

 

    ―  フランソワーズ・・・!  きみは どうしても ・・・

 

ジョーは ぴんと背筋を伸ばして夜の闇にきえてゆく後姿を見つめていた。

・・・ パシャン ・・・  セーヌがボーパスの腹を洗う。

ふと 顔をあげれば都会のざわめきと 聖夜の煌きは案外と間近に広がっていた。

「 ・・・ そりゃ確かに故郷だろうけど。  変わっているよなあ・・・40年前とは。

 !  やっぱりぼくが護るよ・・・・!  003 ! 」

ボーパスから赤い影がひそかに河畔に上がり  やがて夜の闇に消えた。

 

 

 

悪魔の島からなんとか脱出し、彼らの潜航艇は欧州へ近づいていた。

今のところ追っ手が掛かる様子もなく、しばらくは気を許せる状態になった。

「 ― なんじゃと?  上陸したい? 」

「 はい。 ここまでくればパリはすぐです。  一目 ふるさとの街を ・・・ 」

「 ふむ ・・・ しかし なあ ・・・ 」

ギルモアは人混みは危険だ、とよい顔はしない。  ・・・いや それは口実にすぎない。

彼は別の心配をしていたのだ。

 

     危険 は承知の上じゃ、 なに、003なら心配はいらんじゃろうが

     しかし ― 40余年  ・・・ 変わらんほうがおかしいのう

     ・・・ 懐かしいはずの故郷の変貌が かえってショックになるかもしれん・・・

 

「 大丈夫ですわ。 だって生まれ育ったところですから。 」

「 それは そうじゃが・・・ 」

博士の苦渋を見てとった009が 静かに口をはさんだ。

「 ぼくが送ってゆきます。 迎えにも行くよ ・・・ きみさえよければ・・・ 」

「 まあ ありがとう。  でもお迎えは結構よ。 待ち合わせ場所で待機していてくれる? 」

「 ・・・ え  あの ・・・ 」

「 よし それでは009、ボーパスでセーヌに出ろ。 帰路はどこかの船着場で合流しろ。

 それでよいかな、003。 」

「 はい。 ありがとうございます・・・ 準備をしてきます。」

彼女は009にも淡く微笑み、 静かにコクピットをはなれた。

 

   そして ―  クリスマス・イブの夕方、 009の繰るボーパスは密かにセーヌ護岸に着いた。

 

 

 

 

 

  ・・・・ ザワザワザワ ・・・・  カツカツカツ ・・・・

 

行き交う人々の間から いつにも増して陽気なざわめきが舞い上がる。

外套に頤を埋め、マフラーでぐるぐる巻きになりつつもどの顔にも笑みがみえる。

大きな箱を抱えて帰路を急いだり、 逆に腕を組んでのんびりと歩くカップル ・・・

皆 それぞれに今日のイヴを楽しもうとわくわくしている。

 

   ・・・ ここは ・・・ ああ あの店があった道ね ・・・

   この角に花屋があったはず ・・・  

   

そんな雑踏の中を 亜麻色の髪の乙女が少々心許無い足取りで縫ってゆく。

「 ここにあったカフェ ・・・ ! まだ あるわ ・・・! 

 でも ・・・ インテリアも雰囲気も 全然ちがう ・・・  そうよね もう 40年 ・・・ 」

込み上げてきた嗚咽をく・・・っと飲み込み、彼女は足を早めた。

繁華街から一本裏道に逸れてみれば − そこにも人影がかなり見える。

 

  ―  ガタン ・・・

 

右手の建物のドアが開き、すらりとした女性が二人出てきた。  大きなバッグを肩から掛けている。

「 ・・・ っとに イヴだってのに・・・ はああ〜〜  」

「 お疲れ様でした〜 ああ もう〜〜 ダメかも・・・ 」

「 これ以上 振りは変えさせないわ。 三楽章はあれで決まり、よ。 」

「 そうですよねえ・・・ 何回変更すれば気が済むのか・・・ 」

「 あれはねえ   ルディのクセよ。  甘い顔をしたら ダメ。 」

「 はあ〜い ・・・ じゃ あそこは クロワゼで入って・・・ 」

「 そうそう ・・・  脚と顔は互い違いで ね。  」

「 〜〜〜 こう こう  こう でしょ? 」

「 そうよ それでキマリ。 」

二人は歩きつつも 手脚を大きく動かしている。

 

    あ。  ・・・ このヒトたち  リハーサル帰り・・・?

 

フランソワーズは知らず知らずのうちに彼女たちの後について行く。

  ― コト ・・・  なにかの袋が一人のバッグからおちた。

 

「 で 〜  ミィのソロが終るでしょ、それで  ・・・ はい? なにか。 」

年上の方の女性が脚を止めて振り返った。  後ろから呼びとめられたのだ。

「 ・・・ あの。  これ・・・落し物です。 」

「 え? 」

彼女らの後ろには アイボリーホワイトのコートを着た亜麻色の髪の女性が立っていた。

「 これ・・・ ポアントでしょ? 」

「 ・・・あ。  すみません、ありがとうございます。 」

「 ―  ナタリ − ・・・・ 」

「 はい? 」

「 あ ・・・ ご ごめんなさい。 ちょっと・・・知っているヒトと似てたので・・・ 」

「 はあ ・・・ 」

「 失礼しました ・・・ 」

「 ??? 」

亜麻色の髪の女性は俯いて踵を返した。

「 ジュリさん?  なに? 」

「 さあ・・・?  なんか ・・・ 人違いみたい。  綺麗なヒトだったけど・・・ 」

「 ふうん?  さ ちょっとお茶してゆきましょうよ〜〜う 」

「 はいはい ・・・ 」

二人は 元気よく表通へと歩いていった。

そんな二人を フランソワーズはじっと見送っていた。

 

    ・・・ あの感触 ・・・!  ポアント ね 

    ああ ああ  おどりたい ・・・・ 踊りたい ・・・! 

 

表通りのざわめきはますます賑やかになってきたようだ。

フランソワーズは その雑踏の海に自らを沈みこませた・・・・

 

 

 

「 ・・・あ! す すいません ・・・  あれえ?? 確か こっちへ・・・? あれえ?? 」

人波の中 ジョーはこちらにぶつかり あちらに足を踏まれ・・・ ヨレヨレになっていた。

彼女の後ろ姿だけは見失うまい、と必死で歩いてきた。

009も <超視力> の持ち主、視聴覚強化サイボーグの003には敵うべくみないが、

一般人よりは遥かに可視範囲がひろい。

通行人にぶつかったりはしていたが ともかく彼女を護らなくては! と ジョーは必死に

パリの夜の街を進んでゆく。

街中では防護服がひどく目立つ、ということをすっかり失念していた。

ジョーは風除けに、と持ち込んでいたウィンドブレーカーを羽織り できるだけ道の端を歩いていた。

しかし 赤いズボンを隠せるはずものなく、ときどき纏わりつく視線を感じた。

「 よお!?  サンタの兄ちゃん! 出勤かい?? 」

酔いどれがからかってゆく・・・

   ・・・・ ちぇ。   彼はマフラーをきつく巻き込みますます足を速めるのだった。

 

「 ・・・ ここは・・・?  ・・・ ああ あの店 ね ・・・! あの頃はビストロだったわ ・・・

 お兄さんのご贔屓の店で  そうよ、あの日、お祝いだってここに来たわね ・・・ 」

一軒のカフェの前でしばらく店を眺めていたが やがてふらり、と入っていった。

   ―  半時間もしないうちに 亜麻色の髪の女性はその店を後にした。

彼女は通りに溢れる人々の間をするすると抜けてゆく。

さきほどまでの足取りはどこへやら、ひどく急いでいる風で群集の間を突っ切ってゆく。

時折 ぶつかりそうになり、肩を竦めて飛び去る男性がいたりする。

 

  ・・・ お兄ちゃん   お兄ちゃん ・・・ どこ ・・・・

  わ わたし ・・・ 踊りたいの   踊らなくちゃならいないのよ ・・・

 

彼女はぶつぶつと呟きつつ  なにかに憑かれたかのように足を運んでいた。

 

「 ・・・ どこだ? どこへ行った・・・?  フラン ・・・! 」

雑踏の中で すっかり彼女を見失い、 ジョーは焦っていた。

彼の人工視力も常人を遥かに越えるものだが 彼女を <見つける> ことができない。

「 糞・・・ ≪  003!  どこにいるんだ?? 003 〜!! ≫ 」

ついには脳波通信で呼びかけてみたが 全く応答はない。

彼女は完全にスイッチをオフにしているのだろう。

「 フラン ・・・ フラン、 どこだ??  どこにいる・・・? 」

ジョーは聴力も最高レベルに展開した。

「 ・・・うわ・・・!?  ・・・ くそぅ〜〜〜  この中から彼女の声を拾えるのか !? 

どっと押し寄せた雑踏の音の大波に 彼は顔を顰めた。 アタマがガンガンしてきた ・・・

「 ・・・ ううう ・・・・ ああ! そうか ・・・フランはいつも こんな世界に ・・・! 」

003 の聴力はこんなレベルではない。 ということは ―  ジョーは歯を食い縛る

 

    フラン! フランソワーズ・・・!   きみってひとは ・・・

    たった今まで ぼくは  きみの負担を考えたこともなかった・・・

    ぼくは なんてバカヤロウなんだ! 

    

    フラン!!!  どこだ!?  どこにいる −−−−!

 

ジョーは頭を押さえつつ 慎重に周囲を探る。  精神を集中し求める音を探す。

  ― やがて ジョーは聞き馴染んだ音、特徴のある音を拾いあげた。

 

       ―  コ ッ   コ ッ   コ ッ   コ ッ ・・・

 

「 ・・・これだ!  この音 ・・・ この靴音だ。 これは防護ブーツの音・・・! 

 フラン フラン! きみを見つけたよ・・・! 」

ジョーは猛然と走り始めた。  さすがに雑踏の中、加速装置は使えなかった。

 

 

「 ・・・ そうよ。  わたしは赤い靴を履いてしまったの・・・

 そう、 あの日から。  あの映画を見て、ずっと ずっと踊り続けたい、と望んだ日から ・・・ 

いつの間にか 街中を抜け出していた。

目の前には人気のない公園が あった。  

「 ナタリー ・・・ あなたとはライバルとか皆に言われたけど ・・・

 わたしはそんなこと、思っていなかったわ。  ナタリー ・・・ 」

懐かしい友の顔が 闇に浮かぶ。

「 わたしは ・・・ わたしは  ただ 踊っていたかっただけ ・・・ 踊り続けていたかっただけ。 」

コンクールの授賞式で ― 皆にこやかに祝福してくれたけれど。

目は笑ってなんかいないのは 彼女自身だけじゃなく、皆よ〜くわかっていた。 

「 でも !  嬉しかったのよ・・・!  ううん、一位になったことじゃないわ。

 ずっと踊り続けてゆける、と思ったから!

 ずっと ずっと ・・・ 赤い靴を履いていられる と思ったからよ ・・・ 」

誰もいない公園の広場に ふらふらと彼女は入ってゆく。

「 ・・・  そうよ わたしはいつだって踊っていたいの ・・・・

 ここは ・・・ ああ 次の音でわたしの出番だわ  ねえ踊るのよ、わたし。 」

彼女は広場に中央に走り出ると ポーズを作りゆっくりと踊り始めた。

真っ暗な公園のなかで 一人のダンサーが踊る。

白い腕ひるがえし たおやかな脚を振上げて 夜の闇に跳び夜気を散らせて回る。

「 ・・・ 踊りたいの ずっと ずっと ・・・ わたしの赤い靴を脱がさないで ・・・

 ああ ・・・ やめて やめて  こないでッ ・・・! 」

突然彼女は悲鳴を上げて駆け出した。 

 

 

「 ・・・ あ!?  フランの声だ! フラン〜〜〜  今 行くよッ 」

ジョーの人工聴覚は彼女の悲鳴を拾い上げた。

方向を特定し 彼は周囲を見回し路地に曲がり ― 加速した。

 

   ― フランソワーズ ・・・! 

 

次に彼の人工視覚が捉えた光景は ― 

がらんとした公園の石段から 転げ落ちる彼女の姿だった。

「  !  ふ フラン !!   大丈夫か っ ・・・! ! 」

 

  ―  シュ ・・・ ッ    

 

彼が加速と解いたとき、 先ほどの石段に彼女の姿はなかった。

「 ・・・ どこへ行ったんだ?  どこも損傷していないといいが ・・・ 」

ジョーは再び 彼の全視聴覚能力を最高レベルにしてオープンにした。

「 ・・・ ん?  これは ・・・さっきの足音だ!  どこへ行くんだ フラン ・・・ 」

彼は耳朶の奥に響く小さな音を追って 再び駆け出した。

 

 

「 ・・・ どうして?  どうして踊り続けることが ・・・できないの?

 ねえ ・・・ ナタリー  ・・・ お兄さん ・・・ 皆 どこへ行ったの ・・・ 」

フランソワーズはふらふらと真っ暗な道を辿り、 街外れまで来ていた。

「 ・・・ ここ ・・・ 教会 ね ・・・  ここでなら踊ってもいい? 

 ずっと ずっと踊り続けても ・・・ いい ・・? 」

彼女の前に大きな建物が現れた。  どの窓も真っ暗で物音ひとつ聞こえない。

  ・・・ いや、よく見れば窓の多くは破れ 石造りの壁は所々崩れている。

「 神様 ・・・ お願い、わたしの願いを聞いてください ・・・

 お兄さん?  ああ そこに居たのね? ねえ わたしの踊りを見ていて ・・・・ 」

崩れかけたテラスで 彼女は踊りだす  ―  夜空のはるか中天を見上げつつ。

 

 

 

フランソワーズの靴音を追いつつ ジョーも街外れまで来た。

賑やかな街のざわめきの中にも 異なる音を聴いていた。

「 うん?  なんだ あの音は? プロペラ機?? いやちょっと違うな・・・

 しかしこんな都会の真上で それも夜中に ・・・ 」

「 どこだ? どこにいるんだ、フランソワーズ・・・

 ぼくは ・・・ きみのこと、なんにも解かってなんか いなかった ・・・

 きみの哀しみも きみの気持ちも ・・・・  」

ジョーは自分自身の無神経さに舌打ちしたい気分だった。

「 きみは ・・・ つよい女の子 なんかじゃないよ  

 きみは きみは ―  ぼくが 守る ・・・!! 

 ぼくの大切なヒト・・・ ぼくは ぼくは  きみが好きなんだ、フラン !! 」

彼は 廃墟の前にやってきた。

「 ・・・・ ここは ・・・?  ああ 教会だな  十字架がある。 

 しかし 随分と旧い建物だなあ。 ほとんど崩れかけているじゃないか・・・

 こんなところに 彼女が ・・・?   うん ? また あの音だ 」

見上げれば 頭上に小型の飛行機が見えた。

「 ??  な なんだ???    ―  あ! フランの靴音 ・・・! 」

ジョーは聞きなれた音をごく至近距離に拾った。

「 どこだ?  ― こっちだな  フラン 〜〜 ! 」

崩れかけた石壁の欠片を弾き飛ばしつつ 彼はテラスへと疾走した。

 

 

 

「  ―  こないで!!  わたしを放っておいて・・・ ! 」

「 フランソワーズ!  ぼくを見て! 」

「 来ないで!  それ以上近寄ると   撃つわ! 」

「 ぼくだ ジョーだ フラン! 」

所々陥没しているテラスで ジョーは彼女と向き合っていた。

彼がこの場所に飛び込んで来た時  そこには無心に踊る一人の舞姫がいた。

「 ・・・ フラン ・・・ きみは ・・・ 」

しばし呆然と眺めていたが ついに声をかけた。

「 フランソワーズ。 捜したよ、 さあ ・・・一緒に帰ろう。 」

「 ― !?  だれ?  

「 ジョーだよ。   よかった・・・無事だったんだね 」

「 ―  こないで −−−− ! 」

「 ・・・・な ・・? 

 

 

「 わ わたしを邪魔しないで!  わたしを踊らせて・・・

 わたしから 赤い靴を取り上げないで ・・・・・! 」

フランソワーズはジョーに向けてスーパーガンをしっかりと構えている。 

彼はじりじりと彼女に近づいてゆく。

「 さあ ・・・ そんなモノは下ろすんだ。  こっちへおいで。 」

「 寄らないで!  お願い ・・・・! 」

「 ― フランソワーズ ・・・! 」

ジョーは気が付いてしまった ― 彼女の足元が大きく崩れていることに。

「 ほら こっちへおいで。  ゆっくり ゆっくり だ  」

「 こないでっ !    う  撃つ  わ ・・・! 」

 

       ヴィ −−−−−−−−−  ・・・!!!

 

一条の光線がイブの闇夜を貫いた。   ― が その瞬間にジョーは跳んで彼女を抱いた。

「 え?  きゃあ ・・・・ 」 

 

       ヴィ −−− !!

 

「 フラン っ ! 危ない!   ― う うう ・・・・ 」

ほんの僅かにズレて レーザーがジョーの肩を掠った。

「  ・・・ う  ・・・・ ! 」

彼はフランソワーズを抱いたまま吹っ飛んだ。

「 ・・・ きゃ ・・・ ・・・ あ? ここ ・・・は ・・・  あ!?  ジョー !? 

 どうして?  あなた どうしてここに? 」

「 ・・フラン ・・・ ああ 気がついたんだね ・・・ 」

「 気が・・・つく?  いったい何が ・・・ あ! ジョー あなた 肩が!? 」

「 ・・・ 大丈夫 ・・・ 防護服の上 からだから・・・

 へへ ・・・至近距離なんでちょっと ・・・キツいけど・・・ 」

「 ・・・ わたし?   わたしが ・・・撃ったの? 」

「 き きみを守れなかったんだ  撃たれて当然 ・・・・ さ ・・・ 」

「 !  ジョー !? 大丈夫? わたし ・・・ なんてことを 」

「 だ 大丈夫 ・・・ 掠っただけさ。 ちょっとショックだったけど・・・ 」

「 本当?? ああ 肩が!  ・・・ はやくドルフィンに戻らなくては! 」

「 ・・・フラン   きみ ・・・ 戻ったんだね ・・・ 」

「 え?  ・・・ あ  あの ・・・わたし、気が付いたら ジョーと飛ばされていたの・・・ 」

「 あは  ・・・ そうか〜 ああ ・・・ よかった ・・・ 」

「 よかった? 」

「 うん ・・・ きみが帰ってきてくれた ・・・ ぼくのところに ね。 」

「 ・・・ ジョー ・・・ え なあに? 」

「 うん、 応援してもらったんだ。  ほら あれ ・・・ 」

「 ・・・・・・・ 」

ジョーはだまって上を指差した。  そこには  ― 

二人はほんの一瞬だが 上空を旋回する赤い複葉機を見た。

「 ・・・ お お兄ちゃん ・・・・ 」

「 ありがとう ・・・ お兄さん ・・・ 」

 

       パパパパ −−−−−−  ン ッ !!

 

連発の花火が一斉に夜空に開いた。

「 ・・・あ  12時になったのね。  花火はその合図なのよ。 」

「 ふうん ・・・ キレイだな ・・・ 」

「 ええ ・・・ 」

二人は肩を寄せてテラスに立つ。

街中からは人々の歓声が 潮騒のように響いてきた・・・

 

彼は彼女に向かって 静かに言った。

 

   メリ − ・ クリスマス ・・・  フランソワーズ ・・・!

 

ジョーはそっと彼女を抱き寄せた。  フランソワーズはゆっくり彼に身体をゆだねた。

 

   ジョー ・・・  メリ − ・ クリスマス ・・・

 

 

       ポポ −−−− ン !!   パ − −−−−− ン !!!

 

パリの夜空を彩るとりどりの光が 口付けを交わす恋人たちを彩かに照らしていた。

 

 

 

*****************************     Fin.     *****************************

 

Last updated : 01,10,2012.                              index

 

 

 

*************   ひと言  ************

年が明けてからナンですが・・・

やっぱりどうしても! 平ゼロ・バージョンを書きたかったので!

付け足し、というか オマケです〜〜〜 <(_ _)>