『 孤悲歌 ( こいうた ) 』
ひゅう −−−−−−− ひゅう −−−−−
そこはいつも風が吹いているのだという。
樹々を揺らし 葉ずれの音をたて ― 岩の間を抜け小石を飛ばし砂を吹き上げ。
そこで四六時中大地は 自然は 泉は 風の哭く ( なく ) 音を聞いている。
ひゅううううう ・・・・・ ひゅうう ・・・・
その風はその咆哮の中に ひそやかに黄金の音を含んでいた。
小鳥たちは樹の洞の巣で 動物たちは岩陰の巣で その音に耳を澄ませている。
−−−−−− −−−−
時に強く 時に低く ・・・ 黄金の笛の音がその都に流れてゆく・・・
風の都 ― いつしかその旧い跡地を人々はそう呼ぶようになっていた。
「 きゃ・・・・いたた・・・小石が顔に・・・ 」
フランソワーズはマフラーを引っ張り上げた。
彼らがこの地に降り立った時から 風は吹き続けている。
亜麻色の髪がフレアみたいに彼女の顔の周りで縺れ乱れ風に踊っていた。
「 大丈夫かい。 ぼくの陰に入るといい。 少しは風避けになるだろう? 」
ジョーは彼女の手を引いて自分の後ろに連れてきた。
「 ・・・ ありがとう、ジョー。 もう・・・本当に凄い風ねえ・・・・ 」
「 ああ。 この風は ここに都ができるずっと前から吹いてる、といわれているらしいよ。 」
「 できる前から? ほう・・・ この地には先住民がいたのか。 」
ずっと仏頂面だったアルベルトが すこしだけ関心を示した。
「 伝説では な。 黄金の文化をもつ人々で長の歳月、富み栄えていた・・・と。 」
「 ふふん ・・・ よくある伝説ってヤツ、か。 」
「 わからん。 今では全て ・・・ 飛び散ってしまった。
ああ この風に浚われてしまったのさ。 後に残りしは時に埋もれる廃墟のみ・・・ 」
朗々と語るグレートに 焚き火が気紛れなスポット・ライトを当てる。
「 その廃墟に なんだって俺たちは ! 」
アルベルトは ぽん・・・と小枝の束を火に放った。
― パチパチパチ ・・・!!
一瞬にして炎は華麗に踊り 周りに集まる顔 ― グレート、アルベルト、ジェロニモ ジョー そして
フランソワーズ を照らし出す。
「 だから! 我輩は恩を返さにゃならんのさ。 そのために諸君にお付き合い願った。
忝い! この老骨の頼みを聞いてくれ・・・ 頼もしき友どもよ! 」
「 ふん ・・・・ ! 強引に呼び出したクセによ・・・ 」
アルベルトは気のない風に嘯き、肘枕でごろりと横になった。
「 ともかく俺は ― 寝る。 」
「 おお あまりにそれはつれないお言葉〜〜 」
「 ― ふん! 詳しい捜索は明日だ。 」
「 そ そうだな。 ・・・ この風と暗さじゃ 動きがとれんしなあ。
では 各々方・・・ 今宵はこれまでにいたすとしよう。 ぐっない♪ 」
グレートは焚き火越しに大仰にお辞儀をすると そのままテントの中へ退場した。
「 俺は先に寝るぞ。 ― 夜中から火の番をするから起こせ。 」
「 了解、アルベルト。 」
「 ・・・ ったく・・・! 」
バサ・・・! アルベルトもテントにもぐった。
「 ふふふ・・・ 本当は気になっていたのよね、アルベルトも・・・ 」
「 そうだね。 彼がグレートのたっての頼みなんだが・・ってぼく達に声をかけてきたのだもの。 」
「 いいじゃないの、なんだかワクワクするわ。 ここは黄金の国があったのでしょう? 」
「 ・・・という伝説がね。 実際は どうなんだろうなあ・・・ 」
ひゅううう ・・・・・・・!!!
また 風が吹きぬけ焚き火を揺るがし炎の勢いを弱めてゆく。
「 この風がなあ。 ・・・ どうも気になるんだ。 あまりいい雰囲気じゃない。 」
「 まあ 珍しい。 ジョーらしくないこと、言うのね?
ねえ 明日は皆で徹底的に調査しましょう。 張り切っているのよ、わたし。 」
「 おいおい 気をつけろよ? さあ そろそろぼく達も休もう。 」
「 そうね ・・・ 」
「 オレ、見回りをしてくる。 先に休め。 」
「 ジェロニモ ・・・ ありがとう。 それじゃ焚き火を小さくしておくね。 」
「 うむ。 任せておけ。 」
「 気をつけてね ジェロニモ。 」
「 ああ。 オレ・・・ この地の精霊の声を集めてくる。 夜の方がよく聞こえる。 」
ジェロニモは臆する風もなく スタスタと闇の中に消えていった。
「 ・・・ 大丈夫かしら・・・ 」
「 彼を信じよう。 彼にはぼく達にはない感覚があるしね。 」
「 そうね ・・・ じゃ、火をすこし小さくしましょうか。 」
「 うん。 ― フラン ・・・ 」
「 え? ・・・ あ ・・・ 」
ジョーは彼女の手を引き 腕の中にそのたおやかな身体をするり、と抱きこんだ。
「 ・・・ 身体熱くてさ ・・・ 」
「 ・・・ ジョーってば ・・・ わたし、眠れそうもないから・・・ 」
「 大丈夫 ・・・ ぼくが眠らせてあげる ・・・ さ ・・・ 」
ゆらゆらゆら ・・・ 炎の灯りに抱き合い唇を重ね合う二人の姿が揺れた。
ひゅううううう ・・・・・ ひゅうう ・・・・
夜の静寂 ( しじま ) すら その席を風の咆哮に譲っていた。
― 夜半をとうに過ぎても 風はやまない。 テント全体もぎしぎしとゆれる。
風は テントの細い隙間からもしのび入ってくる。
二人の熱い時をすごしてもなお、フランソワーズは眠れなかった。
「 ・・・ う・・・ん ・・・ ジョー・・・? 」
フランソワーズはそっと顔をあげ自分の身体をつつみこんでいるヒトを見つめた。
秀でた眉の下、男にはもったいないほどの濃い睫毛はぴくりとも動かない。
「 ・・・・・・・・ 」
「 ・・・ 眠っちゃったのね・・・ 」
すん・・・ とハナを鳴らし、彼女はもう一度彼の胸に顔をうずめた。
暖かい胸と馴染んだ香に ほっとし ・・・ やっとうとうとし始め ―
−−−−−− −−−− −−−−− ・・・・
「 ・・? なに ・・・? なにか ・・・ 聞こえる? 風の音に混じって・・・ 」
吹き荒ぶ風の音に なにか違う音色が混じっている・・・ かすかに 聞こえる ・・・?
フランソワーズは ジョーの腕の中で耳を澄ませた。
「 ・・・ なにかの ・・・ 声? いえ・・・ 歌?? ま まさか・・・ 」
もういちど ― 今度は < 耳 > のレンジを最大に広げサーチした。
・・・ あい して ・・・ あいして ・・・・ さみしいよ さみしい
ここは ・・・さみしい さみしいよ だれか ・・・ あいして・・・
切れ切れの言葉が 澄んだ音に混じって聞こえてきた。 なにかの楽器かもしれない。
「 え?? こ これは・・・ ヒトの声・・・? あ ・・・ あら・・・? 」
フランソワーズが起き上がろうとした時 その声は消えた。
「 ・・・ 気のせいだったのかしら。 いいえ ちゃんと聞こえたわ。
淋しい 淋しい ・・・って。 あれは ・・・ 誰の声?? いえ 歌、かしら・・・ 」
ひゅううううう ・・・・・ ひゅうう ・・・・
また ― 風の吼え声が一段と強くなった・・・ 風の都に静寂は見当たらぬ。
「 それでは出発しよう。 このキャンプ地を中心に散開する。
当然だが 脳波通信のチャンネルをフル・オープンしておけ。 」
「 了解、ご同役。 」
「 ― むう ・・・ 」
「 わかったわ。 」
「 了解〜〜 」
アルベルトの合図で サイボーグ達は遺跡の中に散っていった。
その地 ― プカラ と呼ばれた街があったという廃墟を サイボーグ達数名が訪れていた。
そもそもの発端は グレートの発案、いや リクエストだった。
彼の <恩人> が この遺跡調査中に行方不明となった、という。
その人物の捜索のため、彼らは南米の奥地までやってきていた。
ひゅううう ・・・・・ ひゅう ・・・
夜が明け太陽がまっさらな光を降り注ぐ時刻になっても 風は 止まない。
「 ・・・ 本当に一日中 吹いているのねえ・・・よくこの場所に住むことができたわね・・・ 」
フランソワーズは < 耳 > のレンジを落とした。
あまりに風の音が強く < よく聞こえる > 耳は 敏感すぎた。
頭の中に音がなだれこみ、渦巻いてしまう。 たまったものではない。
「 ふう・・・ これで少しは楽になれるかな・・・ ここだと少し風避けになるかしら。 」
半分は残っている塀沿いに折れると すこし開けた地にでた。
「 あら ・・・ ここは・・・ なにかの広場、かしら。 ― あ ・・・ ! 」
−−−−−− −−−− −−−−− ・・・・
あの音が いや 声が 聞こえた。
「 昨夜の、あの声だわ! ・・・ 誰か いるのかしら・・・ 」
広場みたいな台地状の場所には なにもなかった。
フランソワーズは注意深くその地を一周したが 眼を引くものは見当たらなかった。
「 ・・・ ヘンねえ・・・ さっきあの声が聞こえた、と思ったのに。
ふう ・・・ 風はあるのに暑いわ・・・ 」
彼女は台地の斜面に残る石段に 座った。
「 そう ・・・ こんな歌だった・・・? 」
彼女は低く昨夜聞いた旋律を口ずさみはじめた。
上手だね ・・・
「 え?? だ 誰・・・? 」
耳元を こそ・・・っと澄んだ声が通りぬけてゆく。
「 誰?! 今・・・ わたしに話かけたのは ・・・誰? 」
ぱっと立ちあがるとフランソワーズはスーパーガンを抜き身構えた。
同時に 耳と眼 も最大レンジに広げる。
僕? 僕は デュア ・・・
「 ?? 何処から話しているの? ・・・ヘンねえ・・・ どこにも見えない・・・ 」
台地の中央に立ち 油断なく周囲をサーチするがなんの反応も見つけられない。
「 ・・・ 幻聴?? いえ そんなはずないわ・・・ 」
ねえ ・・・ 僕の名前、教えたよ
きみは? 綺麗なお姉さん ・・・
また細い声が 耳にささやく。
「 誰 ?! 」
周囲には風に揺れるもの以外動くものの影はない。
「 あ! ち ちがうわ ・・・ これは声じゃないのね!
わたしの心に直接話かけてるんだわ! ・・・ テレパス? 」
なんだか難しいこと ばっかり言うんだね・・・
僕は ・・・ ここにいるのに・・・
ひゅるるるる ・・・・ また 風が彼女のマフラーを玩ぶ。
「 ・・・ どこ? どこにいるの? ・・・ きゃあ・・・ 」
ざざざざ ― ! 強烈な風に足元の砂や小石が巻き上り 彼女は思わす顔を覆った。
「 ― ここに いるってば。 」
「 え? 」
顔から袖を外せば ― 眼の前に少年がたっていた。
十歳くらいのほっそりした姿は 風の中でも頼りなさげで 黄金色の髪がふわふわ風に泳いでいる。
「 ・・・・!? あ ・・・ あなたは ・・・ 」
「 僕。 デュア。 きみは ? 」
「 ・・・ デュア ??? ど どこから来たの?? 」
「 だから 僕はずっとここに居るたんだってば。 ずっと ずっと ・・・ ね ・・・
こんな風に 笛を吹いて ・・・さ。 」
どこから取り出したのか、 その少年は細い黄金の笛を取り出すと鳴らし始めた。
−−−−−− −−−−−− 〜〜〜〜
「 ・・・?? う ・・・ わぁ 〜〜〜・・・・ す すごい ・・・・ 」
その音は 風とともに宙を舞い踊り きらきら黄金の雫となって降り注ぐ。
たった今まであんなに煩わしく思えた風の音さえ 笛の音の伴奏に聞こえてきた。
「 ねえ・・・ 僕の笛、さ。 おねえさんはたった一度で覚えて歌ってくれたよね・・・
そんなひと 初めてなんだ ・・・ 」
「 ・・・ あなたが ・・・ 吹いているの? 」
「 そうさ。 ずっと吹いているよ、ずっと ずっと・・・・ それが僕の務めなの。
そのために僕はここに生きているんだもの。 」
ぴゅるり ・・・ と 音階をさらうと笛の音が止んだ。
「 ・・・? ・・・ 」
「 ねえ お姉さん。 しばらくここでお話していても いい。 」
「 ・・・ ここで? この ・・・ なにもないところ?? 」
「 うん。 あ こっちに来て? 僕のウチがあるから・・・ 」
「 ??? 」
「 こっち ・・・ こっちだよ 」
眼の前を 彼女よりすこしばかり背の低い少年が歩いてゆく。
ゆらゆらゆら ・・・ 彼の髪が 黄金色の髪が 風に舞う ・・・
「 ・・・ あ あの・・・ え〜と ・・・ 君? 」
「 ― デュア。 」
「 あ ああ そうね、ごめんなさい。 デュア ・・ あの本当にここに居るの? その。・・ずっと。 」
「 うん。 ここで待っていなさい、って ・・・ 」
「 ・・ だれが。 」
「 あの人たちさ、僕を作ったヒトたち。 ・・・ だから僕 ・・・ ずっとここにいるんだ。 」
「 ・・・ あの ・・・ ひとりで? 」
「 うん。 ・・・ いつもこの笛を吹いていたの。 風と一緒に 」
「 まあ ・・・ そうなの・・・ ずっとひとりで ・・・ 」
フランソワーズはごく自然に少年の手をとった。
・・・ しなやかな指を持つ小さな手が ふるえていた。
「 ・・・ 寒いの ・・・ 」
「 寒くなんかないよ! ・・・ ヒトの手って・・・暖かいなあって思ったの。 」
「 そうよ、ヒトの手って暖かいの。 えっと・・・ デュア。
あ わたしはフランソワーズ よ。 」
「 ふらんそわーず ・・・ きれいな名前だね。 」
「 ありがとう。 ねえ デュア、 デュアはずっとここに居てずっと笛を吹いていたの?
― 誰かが 迎にきてくれるのを待って? 」
「 うん。 ああ お姉さん こっち・・・ こっちにきて。 」
少年はフランソワーズの手を引いて歩きだした。
今まで背にしていた台地を振り返り フランソワーズは絶句した。
「 ・・・・・・・!??!? 」
たった今しがた、空が広がっていた空間に、眼の前には 白金に輝くピラミッドがひっそりと建っていたのだ。
それは 朝の光の中にじっと何千年も前からそこにそうしているかのごとく 居た。
「 ええ ・・・ あ! えええ??? ! 何時の間に こ こんなものが・・・?? 」
「 ここが僕の家なの。 ・・・ 僕ひとりしかいないけど。 」
「 デュア・・・! だって さっき・・・ついさっきここを歩いたのよ、わたし。
その時は なんにもなかったわ!? わたしの <眼> にも映らなかったのよ? 」
フランソワーズはピラミッドの入り口で 棒立ちになってしまった。
「 うん ・・・ あのね、 僕が望まないと見えないんだ。
この地には ワルイ奴らも来るから・・・ 僕、 そいつらをやっつけるんだ。 」
「 ・・・ それがデュアの役目なの? 」
「 うん。 ここを護って ・・・ 待っていなさい、って・・・ あの人たちが。
さあ お姉さん、 僕の家にきて? 僕 ・・・ずっと待ってた・・・ 」
「 デュア・・・ 」
少年の手に引かれ フランソワーズはそのピラミッドの中に足を踏み入れた。
待ってた・・・ ずっと 待ってた・・・
さみしくて さみしくて ・・・・ ずっと
愛してくれるひとを 待っていたんだ・・・
澄んだ声が フランソワーズの心に滲み通ってゆく。
「 ね? 教えて・・・ あの人たち って誰? どこへいってしまったの。 」
「 この大地を この街を この森をつくった人たちさ。
太陽と月と星と ・・・ 風を創ったひとたち・・・ 最後に僕を作ったの。」
「 ・・・ つくった・・・? 」
「 うん。 この ・・・ 世界を守るために ・・・
もう一度 あの人たちがやってくるまで 僕はこの世界を守るの。 」
「 でも でも・・・ずっと ・・・ずっと待っていたのでしょう? 」
「 ・・・ うん ・・・ 」
「 誰も ・・・ こなかったの? 」
「 ・・・ 来たよ。 いろんなヤツらが来た・・・ 」
「 そのヒトたちは ・・・ 」
「 知らないよ。 皆 イヤなヤツらだった。 黄金ばっかり欲しがってさ。
僕が 黄金の夢をみせてやったら飛び込んでいったもん。 」
「 黄金の夢?? そのあと、その人達はどうしたの。 」
「 知らない。 夢に呑まれたヤツらのことなんか知らないよ
ねえ! そんなこと、どうでもいいよ。
おねえさん、 ここはね好きなところに行ける魔法があるんだ。 」
「 ・・・ 魔法ですって? 」
「 うん。 僕の笛の音を聞いたひと達に みせてあげてるんだ。
おねえさんの < 行きたいところ > はどこ? < 会いたい人 > に会わせてあげる。 」
「 ええ?? どうしてそんなこと・・・・ するの? 」
「 ・・・ 僕のこと ・・・ 愛してほしいから。
皆 言ったよ? 黄金のありかを教えるなら 可愛がってやるって。
だから・・・ 黄金の夢をみせてやったよ。 」
「 それで ・・・ そのヒト達は・・・? 」
「 皆 ・・・ 夢の世界に入り浸ってそのままさ。 帰りたくないって・・・
僕のこと、愛してくれるって言ったのに・・・! 」
「 ・・・ 黄金の夢 ・・・ 」
「 ねえ! おねえさんの夢はなに? どこに行きたいのかな。 。
「 本当に ・・・ 本当に ・・・ 叶えてくれるの。 」
「 うん。 お姉さんの夢は なに? 」
「 ― わ わたしは ・・・ 」
少年は あの白金の笛を取り出すと ― 澄んだ音が流れはじめた。
−−−−−− −−−−− ・・・・・
「 ファン? どうした、こんなところで ? 」
一時だって忘れたことのない声が 不意聞こえた。
「 ・・・ お ・・・ お兄ちゃん ・・・? 」
「 なにやってるんだ? 早くしないとレッスンに遅れるぞ? 」
「 お兄ちゃん・・・! 」
「 フランソワーズ? あら〜 レッスン、一緒に行きましょうよ! 」
「 カトリーヌ・・・ ああ カトリーヌ・・・・ 」
「 おい フランソワーズ? リハーサルの時間 間違えるなよ! 」
「 ・・・ ミッシェル・・・! ミッシェル ・・・・!! 」
「 ファン、こっちにおいで。 帰っておいで。 」
「 ねえ また一緒にレッスンしましょう、フランソワーズ。 」
「 次の舞台、絶対フランソワーズと組むぞ〜〜〜 」
「「「 ・・・・ こっちに来て、フランソワーズ ! 」」」
兄が 仲良しが 踊りのパートナーが 笑みを浮かべ彼女を差し招く。
「 皆 ・・・ わ わたし ・・・ わたしは ・・・ 」
「 待ってるからな ファン。 皆 お前を待ってる・・・ 」
フランソワーズの前に 懐かしい人々の姿現れ ― そして消えた。
「 ・・・ あ ! お兄ちゃん! みんな ・・・・ 皆 ・・・ 待って・・・! 」
眼の前には 黄金の壁に囲まれたほの暗い空間があるだけだった。
あ ・・・ 皆 ・・・
「 ねえ どう? 会いたい人達に会えた? 」
「 ・・・ え? 」
いつの間にか黄金の音は 止んでいた。 そして人々の姿も ・・・ 見えない。
「 ・・・ デュア ・・・ ありがとう ・・・! 」
「 お姉さん・・・ 」
フランソワーズは きゅ・・と少年を抱きしめた。
「 一目だけでも会えて ・・・ 幸せよ・・・ 」
「 ね? 好きなだけここにいて。 会いたかったヒトと過せばいいよ。
ねえ ・・・ お姉さん 僕のことを 好き? 」
「 え ・・・? 」
「 やっぱり・・・キライなんだね。 ・・・そうさ、 誰も愛してなんかくれない・・・ 」
「 そんなこと、ないわ。 デュア ・・・ ねえ デュア もう一度あの笛を吹いて? 」
「 もっと会いたいヒトがいるの? 」
「 ううん・・・違うわ。 今度はね、あなたの歌を聞かせてちょうだい。 」
「 え ・・・ 聴いてくれるの。 」
「 ええ。 大好きよ 」
「 ・・・・・・・・ 」
少年は 静かにあの白金の笛を吹きはじめた。
― パキ ・・・!
鋼鉄の手が小枝を切り 火にくべた。
遺跡の空はとっぷりと暮れ、そろそろ中天に細い細い三日月がのぼってくるだろう。
ひゅう ・・・・ ひゅうううう・・・
夕方の一時、すこしは収まっていた風が また・・・勢いを盛り返し始めた。 焚き火の炎が大きく揺れる。
「 まだ 戻ってこないのか。 」
火だけをみつめたまま アルベルトは訊いた。
散開して探索した後、 集合時間になっても全員揃わなかった。
― フランソワーズが戻ってこない。
ジョーがさんざん脳波通信を飛ばしたが 返事はない。
彼はとっくに痺れを切らせ 探索に出ていた。
シュ ・・・ッ 独特の圧縮音がして ジョーが姿を現した。
「 ジョー? 」
「 ただいま。 うん。 2キロ四方は見周ってきたんだけど。 足跡もわからない・・・ 」
「 しかしそんなに遠くまでは 行かんだろう?
マドモアゼルだとてこの地の胡散臭さは百も承知のはず。
無謀な遠出はしまいよ。 」
「 そうだ。 彼女も感じていた。 聴いていた。 この地の叫びを 」
「 うん ・・・だから余計に心配なんだ。 全員でもう一度捜索にでよう。 」
「 まあ 待て。 フランソワーズなら大丈夫だろうよ。 」
「 ! なぜわかる? ここは ・・・ すでに何人もの人間が消えているんだよ?
彼女が集合時間までに戻ってこないってことは ― 絶対なにか・・・
ああ もういいよ、ぼく一人で捜してくる!」
「 おいおい・・・ ジョー、ちょっと落ち付け。 誰も行かないとは言ってないぞ。
彼女だってサイボーグ戦士、もう少し状況を見よう。 」
「 ・・・ だけど・・・! 」
「 まあ 落ち着け。 どうした、ジョーらしくないぞ。 」
「 ・・・ うん・・・ 」
ジョーは不承不承に 焚き火の側に座った。
「 散開して調査してわかったが ・・・ ここはそんなに広い土地じゃない。
いや、土地は広いが遺跡 ― ヒトが住んでいたと思われる地域は限られている。
その中で行方不明、とは考え難い。 」
「 そうだな。 我輩も空から調査したが ・・・ <なにもなかった>。
ほら 飲め。 すこし気を落ち着かせろよ。 」
グレートは焚き火で淹れたコーヒーを ぐい、とジョーに突きつけた。
「 あ・・・う うん ・・・・ あちッ! 」
「 そもそも此処は <忽然とヒトが消える> 土地だって? ふん、そんな事が有り得るか!
どこかになにかからくりがあるに違いない。 」
「 だからさ! そのから?なんとかにフランソワーズが! 」
「 ― 誰か 来た。 」
ジェロニモが低く呟き 焚き火を背に立ちはだかった。
「 !? 」
ジョー達も油断なく身構えた。
「 あ !! ふ フランソワーズ・・・!! 」
フランソワーズが 戻ってきた。
ジョーは彼女と認めた瞬間に地を蹴ったが ぎくり、と立ち止まった。
「 ・・・誰だ?! フラン ・・・ きみと一緒いるのは?? 」
「 フランソワーズ。 もっと離れろ。 」
彼女のすぐ後ろに黄金色の髪をした少年がぴたり、と寄り添っていた。
「 ジョー。 皆 ・・・ 彼は デュア。 ここの ・・・ この街の護り人なのですって。 」
「 デュア?? 」
「 ― 護り人??? こ この廃墟の、か。 」
「 そうよ。 ねえ、それにしても 空・・・どうしてこんなに暗いの?
天気でも変わるのかしら。 」
「 ・・・ 今は もう夜だ。 集合時間はとっくに過ぎている。 」
「 え?! そんなはずないわ、 だってわたし・・・ デュアと一緒にいたのは ほんの数分よ?
ねえ デュア ? 」
― ぴゅるるる・・・・ 少年の笛が鳴った。
「 フランソワーズ! しっかりしろよ。 このとおリ もう夜だぞ。 」
「 ・・・ じゃあ あの中は特別な時間が流れるのかしら。 」
「 あの中? きみはどこに居たのかい。 皆でさんざん捜したんだよ。 」
「 あの ・・・ デュアの、彼と一緒に ・・・
ねえ すぐにこの地を離れましょう! 離れなければ・・・! 」
「 フランソワーズ?? 何を言っている? 」
「 そうだぞ、マドモアゼル。 我らがこの地に来た目的をお忘れかな。 」
「 それなのよ! わたし、 聞いたの。 見たのよ・・・
この地を訪れて黄金を求めた人々の末路を。 ・・・夢に呑まれた人々を・・・ 」
「 末路? では 彼らはすでに ・・・?
いや! 我輩の恩人は そんなケチな盗人どもとは違うぞ!
ふうん ? その小僧が鍵を握っているのだな? おい! 坊主! 」
グレートはぱっとフランソワーズを押しのけると 少年の胸倉を掴んだ。
「 グレート! 乱暴はやめて! 」
「 マドモアゼル。 邪魔をしてくれるな。 我輩はどうしても恩人の行方を知りたい! 」
「 ・・・ 皆 ・・・ 帰りたくないって言ったよ。 」
「 なんだって?? 」
「 黄金が欲しいって 黄金の都をもとめてきた人たちさ。
僕が 黄金の夢をみせたたらずっとそこに居るって言った。 皆 そう言ったよ。 」
ひゅるるる・・・・・ ひゅる〜〜〜
風が強くなってきた。
サイボーグ達のマフラーが 煽られ闇夜にその黄が宙に舞う。
「 ― 帰りましょう。 ここに居てはわたし達も災厄に襲われるわ。 」
「 しかし ・・・ 」
「 彼が言ったでしょう? ここは ・・・ 静かに眠らせておくべき地だったのよ。
わたし達は来てはいけなかったの。 」
「 う うむ ・・・ 」
「 帰っちゃうの おねえさん 」
「 デュア ・・・ ええ、もう帰らなくちゃ。 」
「 そんなの ダメだよ。 おねえさん、僕を愛してくれるって言ったでしょう?
それで ・・・ 好きなヒトたちとずっと一緒に居たいのでしょう? 」
「 デュア。 あなたのこと、可愛いと思うわ、弟みたいに・・・ 」
「 ― 一緒にいてくれないんだ。 ・・・愛してもくれないんだね。 」
ゆらり、と少年がフランソワーズに近づいてゆく。
「 ・・・・・・! 」
ジョーは ずい、と前出て彼女を引き寄せ後ろ手にかばった。
「 そこ。 どいて。 お兄さん 」
「 だめだ。 君には渡さない。 」
「 ふうん・・・? そんなこと、言っていいのかな。
僕は 彼女を返さない ・・ 帰さないよ 僕と一緒にいて欲しいんだもの。 」
「 ・・・え ・・・ きゃあ〜〜〜 ?! 」
す・・・っと少年が手を翳すとフランソワーズの身体が浮き上がった。
「 こっち 来て、お姉さん。 また僕の笛を聞いてよ?
二人で一緒に ・・・ 僕のウチでずっと一緒にいるんだ・・・ さあ行こうよ。
お姉さんが会いたい人たちも いるよ? 」
「 ・・・ デュア ・・・! 」
「 フラン!! だめだ、 戻るんだ! 戻ってこい! 」
ジョーは ジャンプしてフランソワーズを抱きそのまま地上に降り立った。
「 へええ・・・!? 僕と力比べをしたいのかな。 !!! 」
「 ウワ〜〜ッ !! 」
少年が手を翳すと 今度はジョーの身体が高く浮き上がり 落下した。
「 きゃあ!! ジョー ・・・! 」
ジョーは途中、加速装置を稼働させ地面との激突を辛くも防いだ。
「 く ・・・ だ 大丈夫さ・・・ 君! やめろ、やめるんだ。 」
「 だから お姉さんは連れて行くっていったでしょう? 」
「 そんなこと、させない。 ぼくが絶対にさせない! 」
カチ ・・・! バン ッ !!!
「 ??? うわ〜〜〜 ・・・・ 加速装置が・・・か 稼働しない?? 」
加速装置のスイッチを噛んだと単に ジョーの身体は吹っ飛んだ。
「 ふうん? お兄さんって強いんだね でも 僕のほうが強いさ。 」
「 く・・・ どんなことをしても ぼくはフランを守る・・・! 」
「 ふん・・・! そんなに空を飛びたいのかなあ 」
「 うわ〜〜〜・・・・!! 」
ジョーの身体がまたまた宙に浮き落下 ―
「 ・・・と〜〜〜 ! ふう〜〜ったく悪ふざけが過ぎるぞ boy? 」
今度は大鷲がジョーをその翼に掬いあげ 渋面している。
「 へえ ・・・ 仲間が沢山いるんだねえ? でも 僕の方が強いよ。 」
「 ・・・ 聞き分けのない坊主だな。 大人の言う事は聞くもんだ。 」
アルベルトが 右手を構えつつじわり、と彼に近づく。
「 僕を撃つつもり? へえ? どうなるかなあ・・・? 」
「 野郎〜〜〜! 」
「 や やめて やめて〜〜〜 !!! 」
「 フランソワーズ・・・ 」
「 やめて。 無駄な争いは ・・・ やめて。 」
「 おねえさん。 一緒に来てくれるんだね ! 」
「 ・・・ 行けないわ。 」
「 やっぱり・・・僕が嫌いなんだね。 やっぱり ・・・ 誰も僕を愛してくれないんだ。 」
「 デュア ・・・ そうじゃないわ。 」
「 だって 皆 僕を置いてゆくじゃないか。
僕が会いたい人に会わせやったのに ・・・ 黄金の夢のこと、教えたのに・・・
みんな 皆 僕を一人にして 僕を愛してくれない・・
もう いいよ。 僕 ・・・ そうか・・・だから皆 迎えに来てくれないんだ・・・
そうなんだよね。 誰も 僕のこと、愛してくれないから。 」
少年は まっすぐにフランソワーズを見つめる。
「 おねえさん。 僕のこと、好きって言ってくれたの・・・ウソだったんだ・・・ 」
カツ −−−ン ・・・・
彼の手から白金の笛が落ちた。
・・・ 白い指が それを拾う。
フランソワーズはゆっくりと少年に近寄った。
「 ・・・ はい、もう落とさないで。 これを吹く あなたが好きよ、デュア。 」
「 ウソなんだろ。 僕なんか誰も愛してくれない・・・ ! 」
「 デュア ! デュア ! ちがうのよ。 そうじゃないの。 」
「 なにが。 」
「 愛して欲しいなら 愛が欲しいならば ― 自分が誰かを愛さなければだめなの。 」
「 ・・・ え ・・・? 」
「 愛されたいと願うなら まず ・・・ あなた自身が誰かを愛するのよ。 」
「 ・・・ 僕が ・・・? 」
「 デュア、 わたしがもう一度会いたいって思っていた人たちに会わせてくれてありがとう。
すごく ・・・ 嬉しかったわ。 でもね 今は・・・ 愛する人と一緒に居たいの。 」
「 ・・・ 愛する人・・・? 」
「 この笛 ・・・ きっとあなたは想う誰かのために愛の音を奏でられると思うわ。 」
「 ・・・ 想う ・・・ 誰か? 」
少年は 手の中の笛をじっとみつめている。
ジョーが ゆっくりと立ち上がった。
「 ・・・ジョー ・・・大丈夫? 」
「 ああ。 ・・・ 想う人がいれば ・・・愛する人がいれば ね ・・・
淋しくても 一人だっても 想う人がいれば ― 生きてゆけるよ。 」
少年は 初めてまっすぐにジョーをみつめた。
「 どうしてそんなこと、言えるの。 本当? 」
「 本当だよ。 だって ― 君はかつてのぼくと同じだもの。
ぼくも ・・・ ずっとずっと思ってた。 願ってた、 愛してほしいって。 」
「 ジョー ・・・ 」
フランソワーズがそっとジョーに寄りそう。
「 愛してほしい、 愛が欲しい・・・ってね。 愛してもらえれば淋しさは消えるだろうって。
けど ― そうじゃないんだ、 それだけじゃだめなんだよ。
ぼくは 愛することを知って愛するひとと巡り合えて <ひとりぽっち>から解放されたよ。 」
「 ジョー。 わたしもよ。 愛するひとがいるから、希望も勇気も湧いてくるの。 」
「 フランソワーズ ・・・! 」
ジョーとフランソワーズはしっかりと手を握り合う。
「 ・・・ お兄さん ・・・ お兄さんの 想うひとって・・・このお姉さん? 」
― ああ。 そうだ。
ジョーはかっきりと頷くと フランソワーズの肩を抱いた。
「 ・・・ そっか。 」
ふら・・・っとデュアは 黄金のピラミッドを振り返る。
「 ・・・ 僕 ・・・ 僕も ・・・ お姉さんのこと 想うよ。
これって ・・・ 好き ってこと? これって 愛してる ってこと? 」
「 デュア ・・・ そうだ、そうなんだよ。 」
「 ふうん ・・・ あれ? なんだか身体が あっかくなってきた よ? あれれ・・・? 」
少年の手から ぽろり、と白金の笛が落ちた。
「 デュア、 どうしたの? 笛が ・・・ 」
「 僕 ・・・ もう笛が吹けない ・・・ かな・・・・ 」
ふらり、と彼は振り返った。
「 うん? なにか 光ったぞ! 稲妻か? 」
「 いや ・・・ それほど高い位置じゃない。 距離は離れていないよ。 」
「 ・・・ 怒ってるんだ。 僕が笛を吹かないから・・・ 」
「 怒る? 誰が。 」
「 僕の作った人たち ・・・ 僕のウチ ・・・ が。 怒ってる・・・ 僕 笛を吹かなきゃ・・・ 」
少年はうろうろと足元を捜すが よく見えていないのか見当ちがいの場所ばかり探っている。
「 デュア・・・ ここよ。 ほら ・・・ はい、 ここにあなたの笛があるわ。 」
フランソワーズが そっと笛を拾い上げ少年に差し出した。
ゴゴゴゴ −−−−−− !!
遠くで何かが・・・動く音がした。
「 ?! なんだ?? 」
「 怒ってるんだ。 その笛を ― あ ・・・ フランソワーズ ・・・・ッ !!! 」
突然デュアが フランソワーズを突き飛ばした。
「 ・・・・えええ?? 」
バシュッ −−−−−−−−
「 きゃあ !!! 」
「 うわ〜〜〜〜〜 !! 」
一瞬 閃光と電撃にも似た衝撃が襲い、 全員が跳ね飛ばされた。
「 フラン!! 大丈夫かッ !!? 」
「 え ・・・ええ ・・・ なにかわからないけど・・・ショック・ガンみたいな攻撃よ! 」
「 ― またくるぞ! 」
バシュッ ・・・・!! バシュッ・・・・!!! バシュッ !!
二度三度 閃光の束がサイボーグ達が居る地を襲ってきた。
「 ― 散れ !! 全員 散開しろ! 」
「 くっそう〜〜 こりゃ 自動追尾装置でもあるのか!? 」
「 皆! 発射源は あのピラミッドよ! 」
「 ピラミッドォ〜〜〜??? そんなモン、あったか?? 」
「 あったのよ、デュアと一緒に現れたの! 座標を送るわ! 」
「 アルベルト ! 地上から頼む ! 」
一声叫ぶなり ジョーの姿は宙に消えた。
「 了解。 ふん、動かねえヤツを狙うなんざ、初心者コースだな。 」
ニ・・っと笑うと アルベルトは膝を付いた。
「 我輩らを忘れてもらっちゃ困るな。 ジェロニモ? 」
「 むう。 」
グレートとジェロニモも散開して黄金に光るピラミッドにスーパーガンを撃ちこむ。
ズ ・・・ズズズ ・・・・ ズガーーーーーン ・・・・!!!
黄金のピラミッドは爆発を起こし ― 次の瞬間 消えた。
「 な・・・なんだ??? 」
「 ・・・ うむ ・・・ 消えた、というより、どこかへ去ったのか? 」
サイボーグ達は呆然とぽっかり空いた空間を見つめていた。
「 デュア ッ !!! 」
突然 フランソワーズの悲鳴が一瞬の静寂を切り裂いた。
「 どうした、フランソワーズ !? ああ ? 」
そこには あの少年が横たわっていた。 身体全体が煤に塗れ焼け焦げていた・・・
「 さっきの攻撃を受けたのか?? 」
「 多分 ・・・ あの笛を狙ってきたのね。 デュアがわたしの手からもぎ取ってくれて・・・ 」
「 それで・・・ こんな傷を! おい、しっかりしろ! 」
「 デュア、 デュア・・・ しっかりして・・・ 今 手当てを・・・ 」
少年の手がゆっくりと動き フランソワーズの手を制した。
「 ・・・ あ ・・・ お姉さん・・・ お姉さんの手、暖かいね・・・
僕の心も今・・・暖かいよ。 ヒトを想うって・・・暖かいね
・・・ ああ こんな暖かい想い 僕 しらなかった・・・ 」
「 デュア・・・ 」
「 そっか ・・・ 僕 お姉さんを想っているから もう ・・・淋しくないや ・・・
・・・ あ い し て る ・・・・ 」
「 ・・・ デュア わたしも愛してるわ ・・・・ 」
「 あ り が と ・・・ 」
「 ・・・ ああ ・・・!? 」
少年の姿は 彼が微笑みを消す前にみるみるうちに崩壊し ― 全てを風が持ち去っていった。
「 ― すべて塵に帰る か ・・・ 」
「 ・・・・・・ 」
グレートの唱える一節を手向けとして サイボーグ達は風の都を後にした。
海辺の邸に戻れば 輝かしい青葉の季節になっていた。
この地にも朝に夕に風が吹くが それはやさしい季節の便り ・・・
今夜も 海風は微睡む恋人たちの熱い汗をくすぐってながれてゆく。
ジョーの腕の中で フランソワーズがぽつり、と言った。
「 ・・・ ジョー 怒ってる? 」
「 え 何が。 」
「 彼・・・ のこと。 愛してるって言ったから・・・ 」
「 ― ばか・・・ フラン 愛してるよ ・・・ 」
「 うん ・・・ 」
ジョーはフランソワーズの瞼の上にキスを落とすと ことん・・・と寝入ってしまった。
淋しい ・・・ 淋しい ・・・ そう、あれは。 一人ぼっちに震える魂の音
ひとりぽっちを哀しむ 孤悲歌 ( こいうた )
ひゅう ・・・・・・・
今も ― あの都には デュア の淋しい笛の音が響いているのだろうか・・・
フランソワーズは ジョーの胸に頬をおしつけた。
さようなら ・・・ デュア
わたしの愛した 少年 ・・・
************************* Fin. ************************
Last
updated : 05,03,2011.
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*************** ひと言 **************
えっと・・・一応原作設定〜〜 あのオハナシです。
こりゃ < そうだったらいいのにな〜 > シリーズですねえ。
珍しくもタイトルが先に浮かんだ話。
・・・ あの巨胸女より 細っこい美少年の方がいいもんね(^.^)v