『  夢見るお年頃  』

 

 

 

**** はじめに ****

このSSは平ゼロ設定ですが my設定が少々はいっています。

フランソワ−ズは都心のバレエ団にレッスンに通っています。

その経緯につきましては拙作のF嬢職業復帰談のシリ−ズを

ご参照くださいませ。

 

 

 

 

 − ありがとうございました〜

 

優雅なレヴェランス( おじぎ ) のあと、短い拍手が続きすぐに止んだ。

はあ・・・と溜息とも呟きとも思える音がスタジオ中に満ちた。

でもそれはほんの一瞬。

 

すぐにくすくす笑いやらぼそぼそ話の声が広がっていった。

 

 − あ〜・・・ 終わった♪

 

どの顔にも一様にほっとした表情が浮かんでいる。

 

 

カツ・・・ン   カッ ・・・!

 

あっという間に人気のなくなったスタジオの隅で少女が一人、

熱心にピルエット( 回転 )の練習をしている。

くるくるとブル−の稽古着が回り、亜麻色の髪の後れ毛がふわりと揺れた。

 

 

「 ・・・ フランソワ−ズ 〜 ? 」

スタジオの入り口から 小柄な少女が声を張り上げた。

「 今日 ・・・ 行くでしょう? 」

「 ・・・あ、 ごめん、みちよ。 今いくわ。 」

稽古着と同じ色の瞳をした少女は 軽い足取りで入り口にむかった。

 

「 ごめ〜ん、自習してたのに。 」

「 ううん ・・・ ちょっと出来ないトコ、復習してただけだから。 」

「 偉いね〜 フランソワ−ズは・・・ 」

「 ・・・偉くなんかないわよ。 クラス中に出来なかったんだもの。 」

「 あたしも、あの組み合わせは苦手だなぁ・・・ 先生は好きだけどね。 」

「 そうねぇ・・・ 本当に難しいわ。 」

ふう・・・と溜息をはき、二人は更衣室へむかった。

 

やっと春になったと思えば、また寒い風が吹いて来る・・・そんな不安定な天気の中、

賑やかな声が表通りを抜けてゆく。

大きなバッグを肩からかけて、女の子たちが笑みを振りまく。

「 さ〜て♪ じゃあ、約束通りあのお店、行きましょ。

 フランソワ−ズご所望の< あんみつ > 食べよう〜〜 」

「 うふふ・・・ 楽しみ♪ どんな味なのかしら。

 あの・・・半透明のキュ−ブみたいなのはなあに。 黒いのは<餡子>でしょう? 」

「 半透明・・・? ああ〜♪ ま、食べてからのお楽しみよ。

 う〜ん・・・こうなったらクリ−ムあんみつにしよう!  」

「 きゃ♪ なんだかどきどきしてきたわ〜 」

 

甘いモノに女の子の関心が集まるのはどこの国でも同じらしい。

黒と亜麻色の頭は並んで <御甘味処> のノレンをくぐっていった。

 

 

 

コトコトコト ・・・・

お鍋が陽気な音をたてている。

いい匂いがキッチンいっぱいになってきた。

 

・・・うん、・・・上手くいってるわ。

 

小皿で味見して、フランソワ−ズはひとりにっこりとした。

今日はすごく珍しいモノを食べた!

宝石箱みたいなスウィ−ツだった・・・

味も食感もちがう様々なものが、それでも見事なハ−モニ−を奏でていて

とても魅惑的で不思議な・・・食べ物。

 

そうね、きっとジョ−は知ってる・・・かもしれないけど。

あ、あれは女の子の食べ物なのかな?

ふふふ・・・ 夢の欠片、のお菓子かしら。

 

お腹も気持ちも、幸せでフランソワ−ズはひとりでにこにこと

お鍋をかき混ぜていた。

 

あら。 ガラスがあんなに・・・

 

ふと顔を上げればキッチンの出窓のガラスはすっかり曇っていた。

桜もほとんど散ったという時期なのに、今日はじっとりと冷たい雨が降っている。

窓ガラスの様子では多分外の気温もさがっているのだろう。

 

こんな日には暖かいお食事が一番よ。

季節外れだけど ビ−フ・シチュウ ・・・ いいわよね。

 

こぽこぽと煮えてゆくお鍋にオタマをいれてアクを掬う。

 

一杯のお腹と暖かい胸に しあわせはすぐやってくるって

ママンが言ってたっけ。

 

母の横にくっついてシチュ−鍋を覗き込んでいたころ、

ダマにならないようにル−を作るコツやら中味がとろとろのオムレツの秘策を教わった。

いま、無意識に母のやり方で料理している自分が なんだか可笑しい。

 

フランソワ−ズ? 火加減に気をつけて・・・

お皿を出して頂戴、ジャン。 ああ、出来たらグラスもね。

パパがお帰りになったら ワインを出していただくわ。

 

そんな母の声が今にも聞こえてくるみたいだった。

 

・・・ねえ、ママン。 知ってた?

わたし。 ・・・ ママンみたいなママンになりたかったのよ。

そうなの、 わたしの夢はね・・・

 

 − ゆめ ・・・

 

カチン・・・

 

オタマが手を離れ、鍋の縁に当たって音をたてた。

 

夢・・・ わたしの ・・・ ゆめ。

少女時代の わたしの夢・・・・!

 

他愛ものないモノやら途方も無いモノも

みんな一緒くたに、でも綺麗に飾り付けられ燦然と輝いていた。

そう・・・ 今日、食べた<くり−む・あんみつ>みたいに・・・・

 

 − でも。

 

 

 

 

「 お待たせしました、クリ−ム・あんみつです。 」

紺絣に紅い帯のウェイトレスが ことり、と厚手のガラスの器を二人の少女の前に置いた。

器のなかで ・・・ フランソワ−ズ曰く ・・・ 透明なキュ−ブがぷるり、と震えた。

 

「 ・・・わあ・・・。 すご・・・・ 」

「 うふふ〜♪ 綺麗でしょう? ココのは芸術的よね〜 」

感嘆の吐息でつくづくと眺めている碧い目の少女の前で

黒い瞳のほうは 満面の笑みでスプ−ンを取り上げた。

「「 では。 いただきます♪ 」」

幸せ一杯の笑顔をかわし、二人の少女はそっとその<宝の山>を制覇し始めた。

 

「 どう? ・・・ 美味しい? 」

黙々とスプ−ンを扱っているフランソワ−ズの顔をみちよはそうっとのぞきこんだ。

「 ・・・・ん! 」

真剣な顔は真剣に頷き ・・・ ひとつひとつの<宝玉>を丁寧に味わっている。

 

「 そう・・・! よかった〜 フランソワ−ズったら・・・な〜んにも言わないから・・

 気に入らないのかな・・・なんて 」

「 ううん、ううん! すご・・・・っく美味しい! 

 ねえ・・・この固いようで柔らかい半透明のキュ−ブは ・・・なあに。」

「 あのね、コレが話題の寒天なの。 面白い食感でしょう? 」

「 うん・・・ 面白いってか不思議ねえ。 かんてん? ジェリ−の固いのみたい。 」

「 そうだね〜。 寒天を使ったお菓子はゼリ−みたいのが多いよ。

 それにね、これはダイエットの味方なんだ。 カロリ−低くてお腹も一杯になるでしょ。 」

「 へええ・・・。 ・・・うん、美味しいわ。 これだけでも美味しいけど

 ほかもモノと一緒に食べると・・・もっと美味しい♪ 」

「 ・・・ 気に入った? 」

「 うん! すごく♪ 日本には不思議なスウィ−ツが沢山あるのね。 」

「 あら〜 スウィ−ツならあなたの国のがエキスパ−トでしょ。

 そうだ〜 夏になったら かき氷、 食べよ? 」

「 かきごおり・・・? 」

「 そう。 う〜ん・・・日本の昔のシャ−ベット、かなあ。 

 フラッペってフランスにもある? 」

「 フラッペ?? 」

目を見張ったフランソワ−ズに、みちよはぱちんと目を瞑った。

「 そう。 フラッペよ。 」

「 フラッペね。 タンジュじゃなくってね。 」

カツン・・・! 二人の少女は笑って床を蹴った。

 

「 ああ・・・ 美味しいわぁ。 」

「 幸せそうね、フランソワ−ズ。 あなたの笑顔みてると楽しくなってくるわ。 」

「 え・・・そう? ・・・幸せっていうか・・・ こんな日、ずっと夢見てたから 」

「 あら、だってパリでだってお友達とお茶したでしょう?

 ああ・・・ お茶じゃなくて カフェ・オ・レとか? 」

「 ええ。 ・・・ こんな・・・日って・・・ その、ずっと憧れていたの。

 こういう ・・・ 普通、いえ、 当たり前の日をすごすのが夢だったわ。 」

「 え〜 夢? う・・・ん、それはさ、フランソワ−ズ、<夢>じゃなくて・・・

 <目標>でしょ。 夢ってさ・・・ なんかもっと遠いカンジじゃない? 」

「 ・・・ 遠い ・・・・? 」

ぷるるん、とみちよが掬い上げた寒天がゆれる。

「 ちっちゃい子が将来大リ−ガ−になりたい、とかワ−ルドカップに出たいとかさ。

 まともに考えたら可能性なんてゼロに近いんだけど・・・ 本人は大真面目なんだよね。 」

「 ・・・ ああ、そうね。 わたしも子供の頃、世界一のエトワ−ルになりたいって

 本気で思ってたもの。 」

「 この業界にいるコならみ〜んな一回はその<夢>、見てると思うな〜 」

そうよね、とフランソワ−ズは小さく笑った。

 

大好きな白いレオタ−ドできゅ・・・っと髪をひっつめた女の子が瞼の裏に蘇る。

いつも一番早く稽古場に行って・・・ レッスンの後も最後まで残って自習していた。

 

 − 世界一のエトワ−ルになって みんなの笑顔が見たいわ。

 

わたしの踊りを見たお客様がちょっとでも幸せな気分になってくれれば最高よ。

そんなバレリ−ナになりたいな。

 

遠い・途方も無い夢だったけど。 でも一段づつ階段を登っていってた。

・・・ そう、 あの日 まで。

 

「 ・・・だからね、寒天でもいいかな〜って。 」

「 え?? かんてん?? 」

いきなり戻ったみちよの話に、フランソワ−ズは目をぱちぱちさせてしまった。

これ?・・・と、彼女は器の中の<半透明のキュ−ブ>を掬い上げた。

「 そ。 わたしは寒天だけど。 寒天は地味でもあんみつには必要不可欠でしょ。

 それに寒天だけ食べて見ると結構趣きのある味がするわ。 」

「 ・・・ ええ それは・・・ そうね。 」

「 あなたはさ、フランソワ−ズ。 <クリ−ム>になれるヒトだと思うけど・・・

 あたしは寒天でいい、ってか寒天になりたいの。 」

怪訝な顔をしている異国の友達に みちよは華やかに笑った。

「 ごめん、なんだか妙なコト言って。

 あたしの夢、う〜ん、いや目標はね・・・ 将来小さな子供たちにバレエを教えること。

 地味で平凡だけど、でも ・・・ そんなにカンタンなことじゃないわ。 」

「 ・・・うん、すごく・・・ いいと思うわ。 みちよ、あなたにぴったりよ。 」

「 ありがと♪  ねえ、フランソワ−ズは? 」

「 ・・・ わたしは・・・・ 」

碧い目の少女はなぜか耳の付け根まで真っ赤になり俯いてしまった。

 

 

 

  − 夢 ・・・

昔の、子供の頃の夢は ・・・ それこそはかなく消えた。

突如 放りこまれた異世界では <夢>など無縁だった。

あの<悪夢>の日々・・・ 生き延びることがそれこそ<夢>だった。

それまで当たり前と思っていた生活は遠い彼方へと押し流され、

最早どんなに願っても手の届かないところに行ってしまっていた。

 

生きる。 それだけが日々の切羽詰った<目標>だった。

 

・・・そして いま。

 

あの日々は文字通り 悪夢 の名の下に封印され 表面上は何事もなかったかのように・・・

<当たり前の日々>を送っている。

それはいつまた失われるかわからない、薄氷の上の楼閣かもしれないけれど、

わざと足元の不安定から眼を逸らせている感もある。

ともかく、見た目は普通の日々を普通に送っている・・・自分達なのだ。

 

わたしの夢は ・・・なに。

 

ふと、我に返ったとき湧き上がってきた思い・・・

平凡な日々だから、なおさら鮮明に<本当の自分>に想いを馳せる。

自分の 夢 

幼稚園に通う子供でも口にする言葉に フランソワ−ズは今、狼狽える。

 

 ・・・ わたしは ・・・ 

 

 

 

「 ・・・おお いい匂いじゃのう。 」

「 博士・・・ お帰りなさい。 お寒かったでしょう? 」

コ−トを羽織ったまま、ギルモア博士がリビングに入ってきた。

「 今日は冬のようだったよ。 ふんふん・・・ 今晩はシチュウかな。 」

「 はい。 こんな日は暖かいものが美味しいでしょう? 」

くんくんと鼻を動かす博士に フランソワ−ズはくすくす笑いコ−トを受け取ろうとした。

「 ああ、いいよ。 このまま・・・とっておきのワインを出してこような。

 お前の料理に花を添えるとしよう。 」

「 まあ、嬉しい♪ お願いしますね。 」

「 うむうむ ・・・ なあ、フランソワ−ズ・・・? 」

「 はい? 」

「 ・・・ 寒い日に帰宅して ・・・・ 温かい料理と笑顔が待っているというのは

 本当にいいものじゃな。 」

「 ・・・ 博士 」

「 ・・・ なんだか 夢のような日々・・・の気持ちがするよ。 」

老いた博士は眼を瞬かせでも笑顔で 地下室に下りていった。

 

 ・・・ 夢のような日々 ・・・

 

これって・・・ 夢・・・?

わたし、夢をみてたの?

 

家族のために暖かい食事を用意して・・・

みんなの帰りを待ってて・・・ パパがワインを取りに行き

お兄ちゃんとわたしはママンのお手伝いで・・・

・・・ な〜んだ いつもと同じ日よね。 

そうよ、昨日と同じ楽しい日なの。

 

知らないヒトだらけの遠い国にいるとか・・・

もう絶対にお兄ちゃんには会えないとか・・・

・・・ 全身がツクリモノの身体にされた ・・・ とか。

そうよ、そんなのありえないもの。

ちょっと ・・・ 転寝して怖い夢を見ただけ ・・・ よね。

 

・・・ え? ・・・

わたし ・・・ もう一人 ・・・ そう、一番大事なヒトを待ってる・・・わ?

 

夢 ・・・? 夢ってなにが・・・?

 

オタマを持ったままフランソワ−ズはぼんやりと博士の後姿を見送っていた。

 

 

 

「 ゴチソウサマでした〜 ああ、美味しかった♪ 」

「 うむ・・・ 料理の腕が上がったのう、フランソワ−ズ。 」

「 まあ、本当ですか。 嬉しいわ。 」

つぎつぎにお皿を、そしてお鍋の中身もほとんど空にして

博士とジョ−は やっと箸を置いた。

ことにジョ−は フランソワ−ズが少々心配になるほど食べてくれた。

 

「 今度はボルシチとかピロシキとか・・・挑戦してみますネ 」

「 おお・・・ 楽しみにしているよ。 」

「 ぼくさ、このごろ毎日晩御飯が楽しみでさ。

 今日は何かな〜って・・・ 玄関のドアを開ける時わくわくするよ。 」

「 ふふふ・・・ そうじゃな。

 ああ、でもレッスンがある時とか友達と出かけるとか、自由にしていいんじゃよ。

 遠慮せんでいいから・・・ 」

「 そうだよ〜。 今日だってもっとゆっくりしてきてもよかったんだよ? 

 ぼくだって ・・・ うん、チン!する料理なら結構できるんだぜ。 」

「 ・・・ ジョ−、それはお料理っては言わないんじゃない? 」

「 う・・・ ともかく、博士と二人の晩御飯くらい・・・なんとか・・・

 きみもまた、新しい発見があるかもしれないし? 」

食事の合間に フランソワ−ズは今日の − くり−む・あんみつとの出会い −

について熱心に報告したのだ。

眼を輝かせ、頬を染めていろいろと語る彼女を博士もジョ−も 

ほんわりと幸せな気分でながめ、その少女らしいおしゃべりに耳を傾けていた。

「 そうねえ。 ありがとう、ジョ−。  ね? 今度一緒に食べに行きましょうよ。」

「 え・・・ 食べにって ・・・ クリ−ム・あんみつ を ・・・ ? 」

「 そうよ。 あ・・・ 嫌い? 」

「 う・・・・ 嫌いってか ・・・ ああいうモノって食べたコトないからなぁ・・・ 」

「 え??? どうして?? 」

「 どうしてって ・・・ ああいう甘味系って 女の子向けなんだよ。 」

「 そうなの? あら・・・だってジョ−はケ−キもアイスクリ−ムも好きでしょ。

 ぱくぱく食べるじゃないの。 」

「 まあ・・・ ケ−キとかは、ね。 でもお汁粉とかアンミツとか・・・

 あの系統は女の子専門、かな〜 日本では。 」

「 へえ? ・・・ああ、そういえばあのお店のお客さんはみんな女の人だったわ。 」

「 だろ? ケ−キ屋は付き合えるけど・・・ 」

「 う〜〜ん ・・・ でも、本当に美味しいのよ? そんなに甘くないし。 

 ・・・いいわ、いつか・・・ ジョ−と一緒にクリ−ム・アンミツ、をわたしの<夢>にするわ。 」

「 え・・・ 夢ぇ? 」

ジョ−の困り顔に 博士も声を上げて笑った。

雨は本降りの様相だったが 邸内には温かな空気でいっぱいになっていた。

 

 

 

「 先に風呂を使わせてもらったぞ。 お休み・・・ 」

「 お休みなさい、博士。 」

「 お休みなさい。 」

博士がリビングのドアをちょっとあけ、湯上りのつやつやした顔を覗かせていった。

 

この邸の風呂場は 日本式の<お風呂>である。

全体が洋風建築なのだがなぜか風呂場は和風だったのだ。

「 ・・・ これはいいのう。 身体が温まって疲れもとれる・・・ 」

まず、博士がすっかり<お風呂・ファン>になってしまった。

もっとも、湯船でゆっくりと本が読める利点が一番の魅力だったらしいのだが。

この国の住民であるジョ−は勿論であるが

初めは眼を見張っていたフランソワ−ズも たちまち<お風呂好き>になった。

「 素敵♪ 脚の疲れがすっかりとれるの。 今度、ハ−ヴ・バスにしてみていい? 」

入浴剤の容器がいろいろ並ぶようになり、季節にはジョ−のアドヴァイスで

<ゆず湯>なども楽しんだ。

・・・以来、来日するメンバ−は次々と<お風呂・ファン>になっていった。

 

「 あ〜あ・・・ じゃあ、ぼくもそろそろ・・・ あ、先に入る? 」

なんとなくTVを眺めていたジョ−が 伸びをして立ち上がった。

「 ううん、どうぞお先に、ジョ−。 」

「 ありがとう。 」

「 ・・・ お休みなさい、ジョ−。 」

「 お休み〜 フランソワ−ズ ・・・ 」

ジョ−はぱこぱことスリッパの音をたてドアに向かった。

 

・・・さて。

ここをざっと片付けて 自分も寝ようかな。

フランソワ−ズは拾い読みをしていた雑誌をとんとんとそろえた。

 

 

「 ・・・・ ねえ。 どうかした? 」

 

・・・ え?!

突然 ジョ−の声がして、フランソワ−ズは飛び上がりそうになった。

もうとっくに出て行ったと思っていたのだ。

 

「 ・・・え ・・・なにが。 」

「 うん、なにがって・・・。 その・・・ きみが ・・・ 」

「 ・・・ わたし ? 」

「 うん。 ・・・ なんだか無理して・・・あ、ごめん。

 その ・・・ 楽しいフリしてる みたいで。 ・・・ちがったら本当にごめん。 」

「 ・・・ ジョ−。 」

 

前髪を横に流したり下ろしたり

もじもじしてこちらを見ているセピアの瞳は ・・・ とても温かかった。

 

・・・ このヒトなら。

 

反射的に立ち上がったまま・・・フランソワ−ズもじっと彼を見つめた。

・・・ 勝手に口が動いてしまった。

 

「 あの・・・ あのね。 くり−む・アンミツ なの。 」

「 ・・・え??? 」

 

今度はジョ−が驚いて眼をぱちくりさせている。

 

「 だから ・・・ クリーム・あんみつ・・・ あ、じゃなくて。 

 その ・・・ わたし ・・・ 夢、そう わたしの<夢>は  ・・・ 」

「 夢? 」

「 ・・・ええ。 ムカシの ・・・ 子供の頃の夢は ・・・ 壊されてしまったわ。

 今のわたしって ・・・ なに。 これからのコトってどう考えたらいいの。

 わたしの<夢>は ・・・ どこへいったの・・・・ 」

「 ・・・ 友達となにか話したの? 」

「 うん・・・ でもごく当たり前のコトなんだけど。

 将来こうしたい、とかこんな風になりたい、とか・・・ みんな夢があるでしょ。 」

「 きみだってあるだろう? 」

「 ・・・ わたし ・・・ 

 子供の頃からずっと 思ってたの。

 わたしの踊りを見たヒトが ちょっとでも幸せな気分になれる・・・そんな

 ダンサ−になりたいなって。  でも・・・ 」

「 素敵な夢だね、きみらしくて。 」

「 でも・・・ でも、ジョ−。 

 今のわたしには そんな踊りは ・・・ 出来ないわ。 こんな ・・・ わたしには・・・ 」

ひく・・・っと妙な音をたてて咽喉が張り付いた。

自分でも声が裏返ってしまうのをどうしようもない。

 

「 わたし・・・ あなたとは違うもの。 本当ならココはわたしの居場所じゃないし。 

 わたし ・・・ どこへ行けば ・・・ どうしたら ・・・ これから 」

「 ・・・ フランソワ−ズ 」

フランソワ−ズは涙声になり両手で顔を覆うと ぽすん・・・とその場に座り込んでしまった。

ジョ−のスリッパが遠慮がちに近づいてくる。

「 ごめんね。 なんか ・・・ 無神経なこと、言ったかな。 」

ごく自然にジョ−も彼女の隣に腰を下ろした。

触れ合ってはいないのだが 彼の暖かさが空気越しに伝わってくる。

「 きみの居場所はココだよ。 」

「 ・・・・・・ 」

スリッパの先を見つめてはいたが、ジョ−ははっきりと言った。

「 その ・・・ いろいろあったけど。 今の、これからのきみの居場所は、

 きみの家は ココなんだ。 ・・・ ぼくは ・・・ きみにココに居て欲しい・・・ 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 」

勝手に決めてごめん、とジョ−はぼそぼそと続ける。

「 だから、さ。 ココで・・・ 夢を捜したら。 」

「 ここで・・・ 」

「 うん・・・ そのぅ ・・・ そうしてくれたら僕はとても嬉しいんだけど。 」

ジョ−は彼女の隣で、うん・・・と手足を伸ばした。

ほんの少し ・・・ 肩先が触れ合った。

「 わたし・・・ ココに居ていいの。 」

当たり前じゃないか、という顔でジョ−は傍らの少女に振り返る。

その瞬間、 ぽろりと涙がひとつぶ彼女のスカ−トに落ちた。

「 うまく言えないけど。 

 夢ってさ。 そんなに簡単には叶わないから夢なんじゃないかな。

 ほら・・・ 『 見果てぬ夢 ( impossible dream ) 』 って歌もあるし。 」

「 ・・・ あら、知ってるわ。 」

澄んだ音色でフランソワ−ズはその古い歌を口ずさんだ。

「 ・・・ 綺麗な声だね。 神父様が、時々聴いていたんだ。

 何時のまにか覚えてしまったよ。 」

「 そう・・・ ジョ−にも思い出の曲なのね。 」

「 うん。 もう・・・ぼくの記憶の中でしか聞けないけど。 

  ・・・ねえ、ゆっくり行くのもいいんじゃない? 」

「 ゆっくり・・・ 」

「 ココでさ、また・・・きみの見つけた夢を追い駆けていったら。 

 あのね。 きみの笑顔は・・・とっても素敵だよ。

 博士も ぼくも きみの笑顔で幸せな気持ちになるもの。」

のんびりした彼の口調が なぜだかとても嬉しくて。

フランソワ−ズは ことん、と隣に座るジョ−の肩に頭を寄せた。

瞬間、彼がびくりと飛び上がるのも可笑しくて、くすくす小さな笑みが漏れた。

「 そうね・・・そうね、ジョ−。 ・・・ ありがとう。 」

「 い、いいえ あの・・・ うん、 よかった・・・・ 」

フランソワ−ズはそのまま、眼を閉じた。

頬に感じる彼の温かさが ともて心地よい。

ひたすら狼狽えている彼の様子が眼を瞑っていてもはっきりとわかる。

 

ふふふ・・・

このまま、眠ってしまったら・・・ どうする、ジョ−?

 

くたり、ともっと身体ごとよりかかってみる。

ますます、彼の身体が強張ったみたいだ。

 

ねえ、ジョ−。

わたしが 今日、友達になんて言ったか ・・・ あなた、知ってる?

わたしの ・・・ 夢。 

本当はもう見つけちゃったんだけど。 

 

・・・ そ ・ れ ・ は ・ ね・・・・・

 

 

 

 

「 え・・・ わたしの夢 ・・・? 」 

「 そうよ。 ねえ フランソワ−ズは? 

 あ、わかった〜〜 もしかしてぇ ・・・ カレシと・・・ 」

スプ−ンを握り締めたまま、亜麻色の髪の少女は俯いて真っ赤になっている。

「 ・・・ やだ ・・・ そんなんじゃ ・・・ 」

「 あたし、知ってるもん。 あの茶髪の彼〜♪ 何回かお迎えにきてたでしょ。 」

「 あ・・・ええ。 でも ・・・ <彼>じゃ・・・・ 

 あの、ね。 わたしの ・・・ その、いつか叶えばな〜て思ってるコトはね・・・ 」

「 うん、・・・なになに? 」

 

ぼしょぼしょぼし・・ 

 

亜麻色の頭と緑の黒髪がこっつん、とくっついてそっと耳打ち。

 

「 ・・・( にっこり ) あは♪ いいね、いいね。 フランソワ−ズらしくてとっても・・・! 」

 

春真っ盛りを 間近に控えたちょっと肌寒い午後、

少女達の笑いに 器の中で寒天がぷるん、と揺れていた。 

 

 

******    Fin.    ******

Last updated: 04,18,2006.                          index

 

 

 

***     ひと言   ***

まだまだ他愛も無い二人、の頃であります♪

純情時代には平ゼロ設定が相応しい・・・ かも (^_^;)

前半で かき氷とフラッペ云々・・・という件がありますが、

<フラッペ>とはバレエのパの一つで トン、と床を蹴ります。

( タンジュも同じくパの名前です )