『  深き淵より  ― (2) ― 』

 

 

 

 

 

 

 

     ・・・ この花はなんだろう・・・・ 

 

ジョーはぼんやりと そのことだけを思っていた。

深い深い眠りの底から ゆらりゆらりと浮き上がってくれば  ―  そこは花園 ・・・

強烈に甘い香りが ど・・・っと彼の鼻腔に入ってきた。

 ・・・ 今、自分は花の、花びらの中に埋もれている ・・・

 

     ・・・・ 花 ・・・?  い や ・・・ 香水 ・・・か

     フラン ・・・  香水 かえた のかな・・・

     いや ・・・ 彼女は こんなに 濃く 点さない ・・・

 

とろぉり、とした濃い薫りが彼の全てを絡めとってゆく。 その甘さは身体の芯まで痺れさせる・・・

ジョーは ゆっくりと瞳を開いた。

 

     ・・・ ここ は。

     羽根布団・・・・ ちがう な

     滑らかで  温かい ・・・ そして この薫り ・・・

 

眼の前には白く輝くものが広がり、彼の頬をやわやわと押す

ジョーはその肌触りに 思わず咽喉の奥がごくり、と鳴った。

 

     ・・・ これは  ち ぶ  さ ・・・

 

 

「 お目覚め ・・・?  ぼうや。 」

「 ・・・ あ ・・・ ここ  ・・・ は ? 」

ジョーのアタマの上から ねっとりとした声が聞こえる。

彼はゆっくりと首をめぐらそうとしたが 白い手がしゅるりしゅるりと彼のセピアの髪を愛撫する。

「 ふふふ ・・・ ここはね。 あなたのお家よ わたしの可愛いぼうや。 」

「 ・・・ 家?  ・・・ あなたは だれ ・・・ 」

「 私はあなたの母です。  ああ ・・・やっと私の元に帰ってくれたのね。

 さあ お休み ・・・ そう ここはあなたの願いがかなう あなただけの星 ・・・

 ぼうやの望みが みんなここにあるの。  

 ぼうやは 愛されたいのでしょう? ただ ただ 愛して欲しい・・・それがぼうやの願いね。

 ・・・ ほうら ・・・おやすみ・・・  」

「 ・・・ ぼ  ぼく の 願い ・・・?    う ・・わ・・・ 」

不意に彼の唇は 熱い唇で塞がれ ― くらくらするほどの濃い甘さを感じつつ ジョーの意識は

再び闇の中に落ち込んでいった。

 

 

 

 

       あ   ・・・  れ  ・・・・

 

白いゆたかな谷間で まどろんでいたはず・・・とジョーの意識は眼を見張るが 次の瞬間

 

       ― 急がなくちゃ!

 

そのひと言が脳内に飛び込んできて ・・・ 

 

ジョーは ― 急いでいた。

電車を降り、バスに乗換え ― やっと教会の屋根が見えてきて。

彼はバスを跳び降り そのまま教会の方へと全速力で駆け行く。

 

      急がなくちゃ・・・! 

      ああ もうこんな時間だし ・・・ それに それに・・・

      早く 神父さまに報告したいんだ ・・・! 

 

ぎゅ・・・っと両手の荷物 ― スーパーでの買い物がぎっしり詰まっている! ―  を持ち直し、

彼はひたすら走る ・・・ 自らの脚で。

そのことを当たり前と感じているジョーが 走る。

 

キ ィ ・・・  錆付いた門を開き、入り口脇に佇むマリア像に軽く目礼する。

聖母の焼け焦げた頬は 今日もジョーに優しく微笑んでくれた・・・

「 神父さま! ただいま戻りましたッ! 」

ジョーは教会の裏手にある建物に駆け込んで行った。

   のぞみ・ハウス   ― それだけ不似合いに煤呆けた表札が彼を迎えた。

もう習慣で チラ・・・っとその焼け焦げの残るプレートに視線を向けてからジョーはドアを開ける。

玄関で靴を脱ぎ飛ばし ・・・ 二三歩あがってから慌てて引き返し 靴をそろえた。

 

    ジョー。  玄関はその家の顔ですよ。

    いつでも 誰でも迎える準備をしておきなさい

 

チビの頃から耳タコになっていた神父さまの小言は いつの間にか彼自身に染み付いていた。

ジョーはそっと靴を端によせると ばたばたと廊下を走っていった。

「 島村君? 帰ったの。 夕食の買い物は ? 」

調理場の入り口が開き 中年の女性が顔を出した。

「 あ、 寮母先生〜〜 これ、これです!  ・・・はい、重いですよ〜 」

「 ああ ありがとう! 助かるわあ・・・  あ。 そうだ、あの・・・? 」

「 ・・・え えへへ  ちょっと先に神父様にご報告してから・・・でいいですか? 」

「 ええ ええ、勿論よ。  お待ちになっていらっしゃるわよ。 」

「 はい。 じゃ・・・すぐに戻って来て手伝いますから 〜 」

「 はいはい ・・・ お願いしますね。 」

「 は〜い! 」

ジョーは にっこり笑うとまたばたばたと奥に駆けていった。

寮母の中年の女性は そんな彼をやはり笑顔で見送る。

「 ・・・ こらあ〜 廊下は走らない・・・って。 ああ、あの顔なら ・・・合格、ね。 」

調理場への入り口で 彼女はしばらく佇んでいた。

「 神父様もお喜びになるわ・・・ よかった ・・・ 間に合って・・・ 

 さ・・・ さあ!  皆の夕食を、とびきり美味しく作らなくっちゃね! お祝いだもの! 」

すん・・・とハナを啜り目尻をそっと払うと彼女はずっしり重いレジ袋をひきずって調理場にもどった。

 

    タタタ  タタタタタ ・・・・!

 

ジョーの足音が 暗い廊下に響く。 

 

    ・・・ あは。  昔の のぞみ・ハウスなら すごい音がするよな 

    ジョー! 廊下は静かに! ・・・ 穴が開きます ・・・  って。

    神父様ってば いつだってちょっと困った顔で仰るんだ・・

    こんなにちっぽけな <家> になっちゃったけど。

    どこもかしこもまだぴかぴかだよね。

    うん、皆でちゃんと掃除 してるもんなあ  神父様のために・・・ってさ・・・

 

ちょびっと眼が潤んでしまい、ジョーは慌てて袖で目尻を擦った。

彼が物心ついた頃、自分の<家>は古びた教会と広さだけはあったけれどオンボロの施設 だった。

そこには多くの孤児たちが神父様の元で暮らしていたのだ。

  ― あの教会と大きな家は もうない。 大勢いた仲間たちも もういない。

やがてジョーの足は緩み、奥のドアに行き着くときにはそうっと そうっと・・・歩いていた。

 

     コン  コンコン ・・・

 

ほとんど真似に近い、ひそやかなノックが聞こえてくる。

「 ・・・ 神父様?  ・・・ あの ・・・ お休みですか。 」

ジョーは 声を落としこそっと囁きに近く問いかけた。

「 ・・・ 神父様 ・・・?  ・・・ あの ・・・ また あとで来ます・・ 」

 

「 ・・・ ジョー。 起きていますよ ・・・ おはいリ。 」

 

嗄れた声がゆっくりとジョーを招きいれてくれた。

「 ! は、はい・・・!  失礼します。 」

彼は細心の注意を払い、ドアをそろそろと開けすり足で室内に入った。

 

   ぷん ・・・と 消毒薬の匂いが漂う ・・・

「 神父様。 只今帰りました。 」

「 ・・・ お帰り、 ジョー。  それで ・・・? どうだったのかな。 」

  かさり ― 毛布が少しだけ動く音がした。

ジョーは部屋の中に飛んで入り 窓辺にあるベッドに駆け寄った。

「 神父様  無理なさらないでください! ああ ・・・どうかそのままで  」

「 ・・・ いや ・・・ 少しは起きないとね。 それに今日は気分もいいし。

 ジョーの報告を せめて身体を起こして聞きたいですからね。 」

「 ・・・ 神父様 ・・・ 」

「 ジョー ? 」

「 はい。  合格しましたッ!  」

「 ・・・ そうですか・・・ おめでとう! ジョー・・・よかった ・・・ よかった・・・ 」

ベッドにやっと身を起こしている老人は ジョーの手をしっかりと握った。

「 あ ・・・ ありがとうございます・・・! 」

「 本当によくやりましたね・・・ ジョーがいつも遅くまで消灯後こっそり勉強していたのを知っていました。

 ジョーなら ・・・ きっと合格するに決まっている、と信じていましたよ。 

 よくやりましたね・・・ さすがジョーです ・・・ えらいえらい。 」

老人は彼の手を片手で握ったまま もう一方の手でセピアの髪をやさしく撫でた。

「 ・・・ 神父様 ・・・ 」

ジョーはその手の感触をとてもとても 懐かしく思った。

そう・・・子供の頃、淋しくて哀しくて隅っこに縮こまっているとこの手が必ず 頭を撫でてくれた・・・

 

      おやおや・・・ どうしたのかね ジョー 

      ここには 皆がいますよ。

      ジョーのことが大好きな 皆がね・・・

 

ジョーは そんな懐かしい言葉を胸の中で聞いていた。

だから ぼくは。 どんな時でも耐えてこられたんだ ・・・  ジョーは固く信じている。

「 ・・・ ああ ・・・ 悪いことをしました。  こんなにオトナになった君を小さな子供のように・・・ 」

「 神父さま! ぼく ・・・ ぼく、とっても嬉しいです・・・

 これで ここの施設の運営を少しでも助けられると思うと・・・! 」

「 ・・・ 立派になりましたね、ジョー。 天国へのいいお土産ができましたよ。 

 君のお母さんに報告します、 おっと 神様にも忘れずに・・・ね。 」

「 ・・・ 神父さま!! そんなこと言わないで・・・! 」

老人は 黙って微笑み、静かに首を振った。 そしてもう一度ジョーの髪を撫でてくださった。 

 ― チビの頃と 神父様の優しい眼差しはちっとも変わっていないのに・・・ 

ジョーのセピアの髪を撫でる手には 力はほとんど残されてはいなかった。

 

島村ジョーは ― セピアの髪と赤茶の瞳を持つ青年はこの教会付属の児童施設で育てられた。

彼は乳飲み子の時分からこの施設にいる ― 母の記憶は ない。

母は赤ん坊の彼をこの地に託し 天に召されたのだ  と神父様はおしえてくれた。

 

「 神父さま。  ・・・ぼく。 まだまだこれから、ですから。

 しっかり監督していてくださいね!  それで ・・・ 悪さをしたら叱ってください。 」

「 ・・・ ジョー ・・・ ありがとう ・・・君が側にいてくれたことに心から感謝していますよ。

 ああ ・・・ ひとつ お願いがあるのですが。 」

「 はい、 なんでしょう。 」

「 明日 ・・・ ここに外国からのお客様がいらっしゃいます。 大丈夫、日本語の堪能な方ですよ・・・

 君に ・・・ 話を聞きたいそうです。 」

「 ・・・ ぼくに? 話って ・・・なんの話ですか。 」

「 ・・・ あの火事のことだそうです。 」

「 ! ・・・・ そ そんな ・・・ 」

ジョーはさっと顔色を変え、今までの明るい声音は固く強張った。

「 ジョ−。 君には辛いことでしょうけれど。 その方に協力をしてあげてください。 」

「 協力 ・・・ ? あの事件の関係者なのですか 」

「 そうです。 あの火事の時、放火して逃げた男達についてはとうとう手掛りはみつかりませんでした。

 ヤツラはジョー、君に罪を被せようとしていた・・・ 見ず知らずなはずの君に ・・・ 」

「 ・・・ ぼくは ・・・ 放火と さ・・・殺人の罪を ・・・ 」

「 そうです。 ヤツらは私を刺し、教会に火を放ち逃げてゆきました。

 あの時 私が死んでいたら  ジョー、完全に君に容疑がかかっていたでしょう。 」

「 ・・・ 神父さま!  神父様が瀕死の重傷の中で ・・・この子じゃない、犯人は・・って

 証言してくださったから ぼくは ・・・ でも でも そのために神父様は・・・ 

「 ジョー。  これは天が私に架した十字架です。 私は喜んでこの身に受けましたよ。

 それで可愛い私のジョーの容疑が晴れるのならば 本当に嬉しいです。 」

「 ・・・・! 」

ジョーは かたり、と跪き、神父様の顔をじっと見上げた。

その 皺多くきざまれた顔は 火傷の痕が無数に残り皮膚の色は変色していた。

犯人たちの放火により、教会とその付属の孤児院は全焼・・・ 

神父は瀕死の重傷を負うが なんとか一命を取り留めた。

    しかし 

教会はなんとか復活したけれど孤児院は閉鎖、神父様は以来病床に親しむ日々が多くなった。

ジョーは その施設を手伝いつつ神父様の介護をして暮らしている。

そして ― 今年はここを出て行かねばならない年齢になっていた。

「 結局 犯人の主犯格・・・というか大元の組織は捕まりませんでした。

 明日のお客さんはその・・・組織について調査している方なのですよ。 」

「 ・・・ でも そのヒトがなんでぼくに? 」

「 ヤツラのことを ・・・ 出来るだけ詳しく教えてほしいそうです。 」

「 ・・・ ぼ ぼく は・・・ 

「 ジョー? 思い出したくない君の気持ちは判りますが。 その方に協力することが・・・

 二度とあのような事件を起こさない予防になります。 」

「 ・・・ わかりました。  それじゃ・・・ 神父さまのために・・・そのヒトに会います。 」

「 おお ありがとう、ジョー。 

 ジョー。 君は ・・・ 君の望む道を歩んでゆきなさい。 いいですね。 」

「 ・・・は  はい ・・・ 」

老人の瞳に 強い光がみち、じっとジョーを見つめた。

弱々しかった手に きゅう・・・っと力がこもる。

「 ジョー・・・ いつまでも見守っていますよ ・・・ 」

「 神父様! ・・・ ああ ごめんなさい、もうお休みになってください・・・ ね? 」

「 ・・・ ありがとう ・・・ 」

ジョーはそうっと ・・・そうっと ・・・ 老人が横になるのに手を貸した。

「 ・・・ ジョー。 愛する人を みつけなさい ・・・ 愛することを覚えなさい。 」

「 ・・・・・・・ 」

するり・・・とジョーの手から皺だらけの手が落ちた。

「 ・・・・?  ・・・・ ああ よかった・・・ 神父様  お休みなさい・・  」

薄い胸が まだゆっくりとだが上下していることを確かめ、 ジョーそうっと部屋を出ていった。

 

 

 

 

「 あなたが 島村ジョーさん ですか 」

「 ・・・ は はい ・・・ 」

大きな瞳が かっきりと彼を捕える。

 

      ・・・!  真冬の 空 だ  ううん  真夏の 海・・・?

 

ジョーは ― その瞬間   脳天から全身に稲妻が走リ抜けるのを感じた。

 

      こ の  ひと  だ ・・・!

 

 

教会のお聖堂 ( おみどう ) でその人と出会った。

その女性 ( ひと ) は 恰幅のよい老紳士に付き添っていた。

おずおずと聖堂に入ってきたジョーを すぐにみつけるとす・・・っと立ち上がり彼を見つめた。

正面の窓から射しこむ光が 亜麻色の髪を照らしきらきらと輝く。

 

     て・・・天使 ・・・? ううん ううん 女神さま・・・・?

     この人は ・・・ だれ

 

「 お忙しいところお邪魔してごめんなさい。 こちらが ギルモア博士です。 」

「 やあ ・・・ 初めまして島村ジョー君  アイザック・ギルモアです。 」

白髭を蓄えた老人が にこやかに立ち上がった。

明らかに外国人とわかる風体の二人は 実に流暢に日本語を話した。

「 あ ・・・ は はじめ ・・・まして。 し 島村ジョー です。 」

差し出されて大きな手にちょっとだけ指をかけ、 ジョーはぺこり、と頭を下げた。

「 あ ・・・ あの? こ ・・・こちらは・・・ お、お嬢さんですか。 」

「 ああ 彼女はワシの助手で・・・マドモアゼル・フランソワーズ。 」

「 は は はい・・・! こんにちは! ふ ふらん  そわ ずさん。」

「 Bonjour Monsieur ?  フランソワーズ・アルヌールといいます。 」

「 は は はろ〜〜 ぼく  あ・・・ まい ねいむ いず ・・・ 」

「 島村ジョーさん、でしょ。 日本語で結構ですのよ。  それで  ・・・ 博士? 」

「 うむ。 早速なのですがな、島村君。  こちらの神父さまにお願いした件ですが。 

 話してくださいませんか。 」

「 は はい・・・! 」

それからの彼らとの会話をジョーは 覚えていない。 心に焼きついたのは あおい瞳と輝く髪 ・・・

そして 透き通る微笑み。

そう ジョーは。  この日 彼女にであった  のだ。

 

 

      折角助けてやったのに。  また お前はあの女とめぐり合ってしまうのだね

 

 

「 ・・・え? 」

不意に ジョーの心に声が響き ― あまり好意的とはいえない調子で言い捨てていった・・・

「 ・・・ な  なに・・・? なんだ、今のは・・・? 」

気がつけば教会の中には ジョーただひとり。  

「 ・・・ あ ・・・あれ? さっきの ・・・ ふらん そわ・・ずさん達は・・? 」

あわてて出口に駆けてゆくと 先ほどの老人と令嬢の後姿が見えた。

「 ふらん そわ ず ・・・さん ・・・ 」

ジョーは そのひとの姿が夕闇に消えるまでじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

崖に下には藍色の波が寄せ、白く砕け また引いてゆき そして また寄せて・・・。

 

    ― 初めてここに来たのは  ついこの間だったんだ・・・

    ぼくは  ・・・ ただ ただ 幸せだった・・・

 

ジョーは憑かれたように 繰り返す波に見入っていた。

「 ・・・ 島村さん? 」

「 は・・・ はい! 」

ジョーは慌てて窓から離れた。

「 ここからの眺め、いつ見ても素敵でしょう? 

 わたし達、この景色がひと目で気に入って・・・ すぐにここを買いましたの。 」

「 ・・・ は はあ ・・・ キレイですね 」

ジョーは相手の顔も見ずに ― 自分の足元だけを見ていたので ― 答えた。

「 お忙しいのに訪ねてきてくださって嬉しいわ。  今すぐに博士もいらっしゃいますから。 」

「 ・・・ は はあ ・・・・ あの! 」

ジョーは意を決して がばっと立ち上がった。

「 はい?  なんでしょう。  」

「 あの! あ ・・・ ありがとうございました! 神父様の葬儀の際にはいろいろお世話になりました。

 あの ・・・ あの・・・ お心の篭ったメッセージや沢山のお花代も・・・ミサにも参列してくださ・・・ 」

「 どうぞ、お掛けになって、島村さん。  

 ・・・ いろいろ ・・・大変だったのはあなたの方ですわ。  ね・・・? 」

「 ・・・ は  はい ・・・ ありが ・・・ 」

ジョーは最後まで全部言うことができなかった。  

泣くものか・・・! この人の前で涙なんか見せないぞ・・・と固く決めて来たはずなのだが。

彼女の微笑みの前で ジョーの決意はあっけなく崩壊してしまった。

「 ・・・ どうぞ ・・・ 」

「 ・・・・・ ・・・・・ 

差し出されたハンカチを 眼になど当てることもできず。 

ジョーはただ ただ その小さな布を手に握り俯いたままぼとぼと涙を落とし続けていた。

 

 

 

そう ・・・ ジョーがその邸を訪れたのは まだそんなに前のことではない。

 

その邸は街外れの崖ッ淵に建っていた。

教会にジョーを訪ねてきた老紳士とその令嬢、と思われる二人はその後、まもなくこの地に住むようになった。

気に入った土地が見つかった ― 懇意にしている日本人の学者も近所に住んでいるから・・・

街外れだが景色のよい場所に館を建てた ・・・ 

そんな近況がジョーのいる教会に届くようになり 最後には必ず記されている言葉があった。 

  ― 是非 遊びに来てほしい ジョー君にそうお伝えください。  待っています。

神父様は笑ってジョーに その手紙を見せてくれるのだ。

「 ジョー ・・・ 一度、訪ねてみたらどうです?  」

「 神父様 ・・・ でも ぼく・・・ もうあの火事について知ってることは全部話しましたし・・・ 

 ぼ ・・・ぼくなんか 行ってもつまらないって思われるだけ ・・・ 」

「 そんなことは ありませんよ。  いい方達だったではありませんか・・・ 

 綺麗なお嬢さんでしたね。 優しい眼差しの方だった・・・ 」

「 ・・・は ・・・ はい・・・ 

なぜか耳の付け根まで真っ赤になって俯いているジョーを 神父様は病床から微笑んで見ている。

「 ・・・ そう・・・ 私のお使いとして ・・・ 訪問してきてくれますか、ジョー。 」

「 し 神父様の・・?  」

「 そうですよ。 ・・・ あの博士にお渡ししたい資料が あります。 頼めますか、ジョー。 」

「 あ・・・ あ ・・・は  はい! 」

ジョーはまたまた頬を染め、それでもにっこり泣き笑いみたいな顔でしっかりと頷いた。

「 お願いしますよ。  あのお嬢さんはとても素敵な方ですね・・・ 

 あの瞳には ・・・ つよく温かい光が ありました。  空よりも海よりも深い・・・ 」

「 はい・・・ はい! 」

「 ジョー。  ・・・ 愛する人を見つけなさい。 そして 愛することを・・・覚えなさい・・・ 」

「 神父さま ・・・ 」

「 これが 私がジョーに最後に望むことです。 」

神父様は ジョーを見つめゆっくりと頷いた。

その数日後、 彼は岬にぽつんと立つ洋館を訪ねた。

 

 

「 ふむ・・・ 君が おそらく 009 になる予定だったのだろうな。 」

「 ぜ・・・・ゼロ・・・? なんですって?? 」

ジョーは ティーカップを持ったまま 絶句していた。

 

どきどきしつつ、初めて訪ねたその洋館 ・・・ あの老博士と令嬢は大歓迎してくれた。

海を見下ろす広い部屋に ジョーは案内された。

美味しいお茶とクッキー ― 令嬢の手作りだそうで ― を頂きつつ談笑していた。

 

     ふうん ・・・ <普通の家> って。 こんな感じなのかな。

     ・・・ 静かだけど ほっこり温かくて ・・・

     ちょっと散らかっていていても ちっとも気にならない・・・

 

ジョーは他人の家にもかかわらず とても気が楽になっていた。

しかし 話の内容はとんでもない展開となり、次第ジョーはただただ目を丸くしているだけとなった。

 

     さ ・・・さい ぼーぐ ・・・・?

     ・・・ え ? それって SF映画とかアニメの話じゃ・・・

 

長い長い話がおわり、老博士は大きく溜息を吐く。

「 ・・・ というわけでな。 ワシらは最後のプロトタイプ ― 009 の改造を待たずに脱出したのだ。

 恐らく ・・・ 009の改造は中止になったのだろう。 」

「 そうですね。 被検体の候補者を彼らが拉致してくる前でしたもの。 」

息を飲み 呆然としているジョーの前で老博士と令嬢は淡々と語る。

「 ワシが最後に聞いた報告は日本での拉致には失敗した、ということだった。

 ・・・ 君。 島村君。 本当によかったなあ・・・ 神父さんに感謝せんと・・・ 」

「 ・・・ は ・・・はい・・・ でも あなた達は その後・・・?」

「 ええ 当然、BGは追撃してきましたわ。 わたし達には死に物狂いの闘いでした。 

 ・・・・ でも こうして・・・ 皆なんとか静かに暮らせるようになりましたわ。 」

「 うむ ・・・ この地は本当に気持ちがいい ・・・ 」

二人は穏やかに ・・・ じつに穏やかに微笑みあっている。

「 ・・・ あ ・・・ あの。 それじゃ。 あなた達は父娘じゃ・・・ないのですか。 」

「 残念ながら 違うのだ。 ワシは ・・・ 彼女を改造した張本人じゃ。 」

「 か ・・・ かい ぞ う ・・・! 」

「 そうよ。 わたしは三番目の試験体 ・・・

 でも博士は今は ・・・ わたしの大切な<お父さん>なんです。 」

「 そう言ってくれて ありがとう・・・・ありがとうな、 フランソワーズ・・・ 」

「 どう・・・して ?? そ、そんな酷い仕打ちをした人を おとうさん って・・・ 」

「 はい? 」

「 ・・・ あ ・・・ い、いえ・・・。 なんでも。  あ!ぼく! もう帰らなくちゃ。

 し、神父さまが心配なんです。 このところ・・・かなり弱っていて・・・

 あ! あの・・・! ゴチソウサマでした!!  」

ジョーは 唐突にソファから立ち上がり頭をさげた。

「 まあ もう?  ・・・でも ご心配なら仕方ないわね。

 そうだ・・・ これ、沢山焼きましたから ・・・ お持ちになって? 

 今・・・ 持ってきますから、皆さんで召し上がってください。 」

令嬢は ぱっと立ち上がるとぱたぱたとその広い部屋を出ていった。

「 あ ・・・ そ、そんな ・・・ 」

「 島村君?  あの娘の友達になってやってくれませんか。

 この地でやっと・・・やっと普通の暮らしができるようになった・・・ 

 彼女も同じ世代の者たちと いろいろ・・・話もしたいだろうしなあ。 」

「 ・・・ は ・・・ あの ・・・ぼ、ぼくなんかで いいのですか。 」

「 おお、ありがとう! 神父さんからきみはなかなか優秀だと伺ったよ。 

 ほとんど独学で資格試験にパスしたとか・・・ 」

「 あ・・・ いえ ぼくは。 まだまだです。 あ ・・・ 」

令嬢が駆け戻ってきた。

「 ・・・ はい、これ。  オーツ・ビスケットです。 こっちはレーズンいり。 」

「 あ ・・・ありがとうございます。 わあ・・・いい匂いだ・・・ 」

ジョーが受け取った包みは まだほんのり温かった。

 

 

「 いい青年だな。 ・・・ 彼を 009 にせんで・・・よかった・・・ 」

「 ええ ・・・ 本当に ・・・ 」

青年を見送りつつ 老博士と令嬢は静かに頷きあっていた。

 

      ・・・・ 素敵なひと ・・・

      でも ・・・ 一緒にはいられない ・・・

      あなたはわたしを追い越してゆく ・・・

 

令嬢の髪が夕陽を捕え茜いろに輝いていた。

 

 

「 ・・・ 美味しいな! キレイな・・・温かい人だ・・ フランソワーズ ・・・ 」

  ― ぽりり ・・・

帰り道、ジョーがこっそり齧った焼き菓子は甘くまろやかで・・・ 優しい味がした。

それが 彼の穏やかな少年時代の最後の残り火輝く時、だったのかもしれない。

 

 

 

 

神父の葬儀の礼を述べるジョーに老博士は 自身も涙を滲ませ 改めてお悔やみを言ってくれた。

令嬢は そっとジョーの好きなビスケットを運んできてくれた。

「 ・・・ いろいろ・・・ 本当にありがとうございました。 

 ぼく ・・・ 今日はお礼と ・・・お別れのご挨拶に来ました。 」

「 別れ ・・・ じゃと? 島村くん ・・・ 」

「 はい。 あの教会も閉鎖になります。 施設にはもう ・・・ 子供達はいません。

 ぼくが最後の住人でしたから。  」

「 ああ ・・・ そうじゃったのですか。 あの火事のあと、規模を縮小したのですね。 」

「 はい。  でも もう・・・きれいさっぱり閉鎖です。」

「 それで ・・・ あなたは? 島村さん ・・・ 」

令嬢が そっと訊ねた。

「 ぼくは ・・・ 就職先の寮に行きます。  頑張って取った資格、役にたちました。

 ・・・ 神父様やあの教会の手助けにはならなかったけど・・・ 」

「 そう ・・・ じゃあこの街を離れるの? 」

「 はい。  あの ・・・! 本当にいろいろ・・・ありがとうございました。

 ぼく ・・・ ここ ・・・ この家、 好き、でした。 なんだかとっても温かくて。 」

「 島村君 ・・・ ああ、そうじゃ。 フランソワーズ? 是非 彼を岬に案内してあげなさい。

 故郷の美しい景色を しっかり見てゆくといいですよ。 」

「 そうね! ふふふ・・・ ここにはまだ来たばかりのわたしがこんなこと、言うのはおかしいけど。

 ここは・・・とってもキレイな所ですものね。 じっくり眺めていらっしゃるといいわ。 」

「 ・・・ あの ・・・ 一緒に・・? 」

「 ええ。 ぷらぷらお散歩しません? まだ夕陽には間があるし、いい気持ちよ、きっと。 」

「 はい! ・・・ ありがとう・・・・! 」

「 ・・・ いい思い出になってくれるといいが。 彼を 009 にせずにすんで本当によかった・・・! 」

連れ立って門をでてゆく二人を眺め 博士は安堵の溜息を吐いていた。

 

 

 

夕風はまだ吹いてはいなかった。

生暖かい昼の風が そろそろ引きあげようか・・・と試案してる中、青年と乙女はゆっくりと歩く。

「 ・・・ いい風・・・!  あら ・・・ あの鳥・・・なにかしら。 」

「 え? ああ あれはカモメです。  あいつらも家にかえる準備してるのかな・・・ 」

「 ふうん ・・・ 白くてきれいね。 」

「 ・・・ きれいなのは ・・・ あなた です 」

「 ・・・え? 」

先に立って歩いていたフランソワーズが くるり、と振り返った。

亜麻色の髪がゆれ 白いうなじがジョーの目を射る。

「 きれいだ・・・・ 」

「 ? ああ  この景色、ね。 ふふふ・・・可笑しいわ〜 島村さんはこの地域で育ったのでしょう?

 こういう風景は見慣れているでしょうに・・・ 」

彼女の青い空が 深い海が 煌いて微笑む。

 

      ごくり・・・・ ジョーは唾を飲み込み 深呼吸した。 そして。

 

「 ・・・ フランソワーズさん。 」

「 はい? ・・・すこし休みましょうか。 案外急な坂道でしょ・・・ 」

「 いえ。  あの ・・・ ぼく。 」

ジョーは一瞬言葉を途切らせ ― く・・・っと息を吸い込むと意を決して口を開いた。

「 ・・・きみが 好きです。 」

「 ・・・え 」

「 ぼくは きみが ・・・ フランソワーズさんが好きです。 」

彼女は まじまじとジョーを見つめた。  その目には ― 深い哀しみが浮かんでいた。

「 あ ・・・ すみません、いきなり。 ふ、不愉快ですよね、こんなこと 急に・・・

 そ・・・それもよく知りもしないヤツに言われて・・・ すいません。 」

ジョーはあわてて頭を下げた。

「 いいえ そんなこと。 わたし ・・・ とってもとっても嬉しいわ・・・・嬉しい・・・

 わたしも 島村さん、あなたのこと ― 」

「 ・・・?! 」

「 博士の話、覚えているでしょう? ・・・ あなたが初めてウチにいらした時の。 」

「 ・・・ あ  は はい。 」

ぱ・・・っと 彼女はジョーの真正面に立った。 そして緩く腕と脚を広げた。

 

「 わたし。 このままなの。  20年後も ・・・そう 50年後も。 」

 

「 え・・・? 」

「 変わらない ・・・ いえ、変われない。 わたしはサイボーグ、これはツクリモノの命。 」

じっと見つめる青い瞳はどこまでも澄んでいる。 そこに見えるのは ― 静かな哀しみ・・・

ジョーは もう一度く・・・っと息を飲み込んでからゆっくりと口を開いた。

 

「 それでも ぼくは きみが 好きです。 」

 

「 ・・・ あなた 勘違いしてはダメよ。 」

「 なにを、ですか。 」

「 わたし、自分を憐れんではいないわ。  同情なら結構よ。 」

「 そんなこと! ぼくは ただ、あなたが ・・・ 好き なんです。 」

「 ジョー。 あなたは生きているの。 ホンモノの熱い血潮が流れ日々変わってゆく肉体を持っている・・

 その人間としての生命 ( いのち ) を 精一杯生きて。 」

「 きみ ・・・ は ・・? 」

「 わたし は。 ツクリモノのこの命を ・・・ 生きるだけ。 それで いいのよ。

 もう 誰も愛さないし 愛されることも ないの。  」

「 そんな ・・!    あの!  ぼくは 母を知りません。  

 母に愛されたい・・・ってずっと願っていたけど。 愛がほしいって望んでいたけれど。

 でも。  ぼくにできることは 愛することなんだって今、わかった・・・・ 

「 ・・・ 愛すること ・・・ ? 」

「 そうです・・・ そうさ!  きみを愛すること・・・! 」

するり、と彼の腕が伸びて彼女を捉えた ― そして きゅう・・・っと抱き締めた。

「 ・・・ ぼくじゃ ・・・ あの ・・・ イヤ、かな・・ 」

「 ・・・ バカなひと、ね・・・ 」

彼女の腕が彼の首にするり、と絡みついた。

「 ・・・ わたしも。  あなたが好き・・・ 愛しているわ・・・!」

「 ずっとずっと好きだった・・・! も何年も前から想っていたみたいな気持ちなんだ・・・ 」

「 ・・・ 真実の愛に 時間はいらないわ。 わたしも すぐにわかったの。

 ああ  ・・・ このひと だって。 」

「 ああ やっぱり・・・! 」

二人は 次第に茜色を帯びてきた光の中で熱く唇を重ねた。

「 ・・・ 島村さん ・・・ 」

「 ジョー です。 フランソワーズさん。 」

「 さん はいりません。 」

「「 ・・・ やっと 会えた ・・・! 」」 

足元に波の砕ける音を聞き、家路につくカモメの舞を頭上に見つつ ― 二人はもう一度唇を重ねあった。

 

 

 

   カツーン  カツーン ・・・・ カツーン ・・・・

 

真っ暗な建物の中、自分の足音だけが相棒だ。

ジョーは習慣になっている見回りを終え、自分の部屋にもどった。 

ライトを消し 少しばかりほっとした。

「 ・・・ これが 最後か。  なんか ・・・ 淋しい気もするけど。 」

ジョーはほ・・・っと一息つき、がらんとした部屋を見回す。

隅っこにスーツ・ケースとスポーツ・バッグがひとつ。  それが彼の全財産で、明日はここを発つ。

「 お休みなさい・・・神父様。 ・・・フランソワーズ ・・・ 」

彼は窓を少しだけ開けて 街外れの岬の方向を見つめた。

「 ・・・ きっと迎にゆくから。  きみに相応しい人間になって それから・・・ずっと側にいるよ。

 ・・・ あ ・・・・ あれ ・・・?

 

   ―  明るい? ・・・ ネオン・・・じゃないよな。 あれは・・・ 火?! 炎・・?

 

ジョーは窓から乗り出して暗闇にじっと眼を凝らせた。 だいたいここからあの岬の洋館が見える距離ではない。

「 ・・・ 気のせい、だよ。 昔のあの・・・火事こと、思い出しているだけさ。 

 第一 あの洋館はすごくセキュリティが固いって・・・ あの博士が言ってたじゃないか。 」

気のせいさ・・・と彼は独り言して、窓をしめた ― 途端。

 

     ジョー −−−−−−− !!

 

かの女性 ( ひと ) の声がジョーの心に飛び込んできた。

「 ?? !  フランソワーズ  −−− !! 」

次の瞬間 ― 彼は部屋を飛び出した。  そして長年の相棒・ボロ自転車を引き出し全速力で飛ばした。

 ― 岬の家 彼女の元へ・・・!

 

 

「 フランソワーズ !!  ギルモア博士!  ・・・ うわ・・・! 」

ジョーが 街外れの岬の突端にようよう到着したとき。 彼の目の前で  ―

 

   その館は 音もなく ・ 白く ・ 激しく 燃え上がっていた。

 

「 な! なんだ〜〜  119番! い、いや、その前に・・・ フランソワーズ?! どこだ?? 」

ジョーは自転車を乗り捨てると 躊躇もなく燃え盛る洋館へと駆けていった。

なぜ こんなにも静かに燃えているのか ― どうして周囲が気づかないのか 

彼はそんなコトは頭にない。 彼が捜すのは かの女性 ( ひと ) の姿のみ・・・!

 

「 ・・・ うわ・・・! 」

飛び込んだ洋館は もう一面火の海だった。 床も壁も天井も ・・・ 炎で一杯だ。

「 ・・・ フランソワーズ !!!  フランソワーズ?! 

火勢に押されつつも ジョーはどんどん中へはいってゆく。 不思議と恐怖も熱さも感じない。

あのリビングと思われる部屋まで来た時  奥に人影が動いた。

「 !! フランソワーズ ・・・! 

「 ?! ジョー??? あなた ・・・どうして?? 」

振り向いた彼女は 炎の色と見紛う赤い服を着ていた・・・・

「 なんでこんなところに来たの!?  危険よ!! 」

「  ― きみが よんだ。  きみの声が聞こえたから。 」

「 ?!  ジョー ・・・ 」

燃え盛る炎の中で 二人はしっかりと見つめあう。

「 ともかく! 逃げるんだ! 博士はご無事かい。 」

ジョーは彼女の腕を引いた。

「 今 地下の研究室をロックしに、あと重要資料を ・・・ ああ、この邸はまだ大丈夫よ。 

 仲間達が手分けしてドルフィンの準備をしているし 」

「 ?? なかま・・? どるふぃん?? でも こんなに・・ ゴホ・・・! 

 逃げなくちゃ! 放火・・・なのかい。 」

「 ・・・ 油断したわ。  まさかこちら側からくるとは・・・! 」

「 ― 来る? ・・・ あの、なにが。 

「 あ ・・・ あの  あ!? 博士〜〜 終わりましたか? 」

「 ??? 」

彼女が誰もいない壁に声をかけた途端に ぱっくりと壁が口を開けた。

眼を丸くして絶句しているジョーの前に ギルモア博士が現れた。

「 ・・・うむ、なんとか。  お!? 君! 島村君! なにをやっておるのじゃ、早く逃げろ! 」

「 ・・ あ ・・・ あの ど ・・・どこ から・・? 」

「 フランソワーズ? 早く彼を外へ!  ワシはこのままドルフィンに移る。 」

「 はい。  ・・・さ、 ジョー! こっちへ・・・! 」

  

    バチバチバチ −−−−−!!!

 

天井で激しく火花が散った。 電気系統がショートしたのかもしれない。

その直後 ・・・  

 

    ガラガラガラ    ・・・・!!!

 

天井の一部が崩れ落ち始めた。 真下にはギルモア博士の背中が見える。

「 あ!! あぶない −−−− ! 」

ジョーの横を赤い影が ― フランソワーズがすり抜け博士の腕を引いた。

「  ああ ! 崩れるッ !!   フランソワーズ ・・・!!! 」

 

   次の瞬間 。   ジョーは  二人の上に飛び込んでいた。

 

   ガガ −−−−ン !!! ガラガラガラ ・・・・!!!

 

無数の瓦礫が ジョーの上に降り注いできた。 彼はあっという間に下敷きになった。

 

     あ。  ぼく・・・ ここで 死ぬの か・・・

     ・・・フランソワーズ ・・・?

     ああ 無事かい  ・・・ よ  か   っ    た ・・・・

 

ジョーの意識は 闇の中に消えた。

 

 

 

「 ・・・ なんということだ。  その少年は? 」

「 今 ・・・ 地下のメンテ・ルームに。 博士が応急手当をしたのだけど ・・・ 」

「 ふうん ・・・助かったのは頭部のみ、なんだ? あの火勢じゃあ無理ないね。 」

「 何処のボーイかね? 博士の知り合いかい。 」

「 アイヤ〜〜 お若い人が ・・・ どうにかならへんか。 」

「 若い。 まだとても若い魂だ。 」

「 ったく! やってくれるぜ、チクショウ〜〜 ! 」

赤い服を着たオトコたちが ぼそぼそと話しあっている。

彼らは あの洋館の崖下に潜航してる潜水艇の中に集まっていた。

「 ・・・わたし。 やっぱり手伝ってくるわ。 」

ただ一人の若い女性が 仲間の返事も待たずにコクピットから出て行った。

それを咎めるものは 誰もいない。

「 そうだな・・・ 関係のない一般人を巻き込んでしまったんだ。

 なんとかその少年が助かればいいがな・・・ 」

「 そうだね。 地下の研究室が無事でよかったよ。 」

「 へ! ・・・ 襲撃してきたヤツらはキレイさっぱり撃退したからよ!

 追加が来るとしても ちょっとは時間、稼げら。 」

「 ともかく その少年の容態が安定せんとなあ。 ・・・ お? ・・・ 博士からの召集だ。 」

「 行くぞ。 」

「 ・・・・・・・・ 」

赤い服の集団は 密かに潜水艇から上陸した。

 

 

「 ・・・ な ・・・・ なんで すって・・! 」

彼女の押し殺した声は ・・・ 可擦れてほとんど聞こえなかった。

「 それしか方法はないのですかね。 」

「 うむ ・・・ 梁がなあ・・・まともに彼の背に落ちてしまった・・・

 彼のおかげで わしもフランソワーズも ・・・ 怪我ひとつせんで済んだのだよ。 」

「 無事なのは頭部だけ、 それも脳組織だけ、ということですか。 

 まだ・・・若いのでしょう? 僕とたいして・・・変わらない年齢とか。 」

「 彼 ・・・わ ・・・わたしを庇ってくれたの・・・

 バカよね・・・! サイボーグを生身の人間が庇ってどうするつもりよ・・!

 ほっんとうに。 なんにも知らないくせに・・・ バカよ・・・! 」

「 フランソワーズ。  あの少年に見えたのはお前だけだったのだよ。 」

メンテ・ナンスルームの前でギルモア博士は沈痛の面持ちだった。

「 結論から言おう。  彼が助かる見込みは1%以下だ。 」

「 ― 博士。  彼を・・・ 彼の脳組織を助けてください! 」

「 フランソワーズ? 」

「 ・・・ 全ての責めは わたしに。 そして彼を サイボーグとして蘇らせてください! 

 お・・・ お願いします・・・ お願い ・・・・ 」

誰もが息を飲み、凍りついた表情をしている。

「 お願いします!  彼を ・・・ ジョーを 殺さないで・・・・!!! 」

「 しかし それは・・・  彼が本当にそうやって生きることを望むだろうか。 」

「 そうだね。  これは彼自身の問題だよね。 他人が決めることじゃないよ。 」

「 それは ・・・そうだけど。 でも! もう 時間がないわ! 

 ええ あとで彼が怒ったら 恨んだら ・・・ すべてわたしが受けるわ。 

 だから・・・! お願い、皆!  あの少年を助けて! 」

 

≪ 僕ガ 訊イテミヨウカ? ≫

 

「 イワン!? 眼が覚めたのね ! 」

ふわり・・・ と赤ん坊を入れたクーファンが宙に浮かんだ。

≪ ウン。  ヤットネ。 火事ノしょっくモアルカモ・・・・ 

  トリアエズ、僕ガ彼本人訊イテミルヨ。 ソレデ イイカイ ≫

「 ええ ええ! お願いね・・・ 」

全員が固唾ののんで見守売る中  ―  ぼう・・・っと一人の少年の姿がうっすらと見えてきた。

「 ・・・ 彼の 意識 か。 」

「 セピアの綺麗な髪だったんだなあ・・・・ 」

「 ・・・ ジョー ・・・・! 」

赤ん坊は じ・・・・っとその姿を見つめている。  

そして ゆらり・・・と傾ぐと彼はゆっくりと頭を上げた。   

 

      ぼくは ・・・ 生きたい! 生きて彼女の側にいたい・・・!

 

全員の心に 彼の強い強いのぞみが飛び込んできた。

「 決まりだな ― 」

アルベルトのひと言に 全員が強く頷いた。

「 ・・・ 博士。 お願いします・・・! 」

「 やはり ワシは 009 を手掛けるのか    」

博士!これはわたしの希望です、わたし どんなに謗られ非難されても構いません。

  わたしは 彼を死なせたくない    」

博士 彼モ生キル事ヲ 望ンデイルンダ   

「 俺たちからも お願いします。 彼を ・・・ 助けてください。 」

 

天才 生体工学者ドクター・ギルモア ゆっくりと力強く頷いた。    

 

 

 

 

フランソワーズは急いでいた。

 

   ―    急がなくっちゃ! 

 

彼女のアタマの中にあるのはこの一言のみ …! 

「 もうちょっとだけ 頑張ってね?  ごめんね・・・あとで角砂糖をあげるから ・・・ 」

彼女は白馬の首を優しく撫でると 身を低くし全速力で駆って行った。 

薄紫の靄漂う 魔法使いの古城へ

 

 

     ジョー ・・・・! 今 ゆくわ !

 

 

 

Last updated ; 06,08,2010.               back       /    index    /    next

 

 

******* またまた途中ですが・・・・

す、すみません〜〜〜 タイム・アップで最後まで行き着きませんでした〜〜

あと一回! あと一回〜〜 お付き合いくださいませ <(_ _)>

そ〜して これじゃすっかりヘイゼロじゃん!!  になってしまったことを

お詫びします〜〜 >>原作設定、にはずだったのに・・・・

もう一つの  平ゼロ・誕生編?? とでも思ってくださいませ<(_ _)>

なにかひと言でもご感想を〜〜 お願いします・お願いします〜〜 ( 泣きっつら〜〜 )