『 Shall we dance ? ― (3) ― 』
フランソワーズは まじまじと目の前にいる男性を見つめた。
「 ・・・? 」
そのあまりに強い視線に さすがのジョーも気になったのかもしれない。
いつもの優しい温かい瞳が ゆっくりと彼女に向けられた。
「 なにかあったのかい? なあ 転んだってどこで? 」
「 たいしたこと ないわ。 ・・・ わたしだって003 」
そこまで言ったとき いきなり涙が溢れてきてしまった。
「 ・・・ や やだ ・・・ 」
「 ! なんでもなくないよ フラン。
とにかく博士に診てもらおう。 はっきり言って その傷・・・
ちょっとスゴイよ 」
ジョーは 彼自身の額を指した。
「 え ・・・ そう? やだ・・・ 」
「 痛むんじゃないのかい?
・・・ 稽古場で転んだって どうして? レッスンで? 」
「 ・・・・ 」
ちょっと待ってて と 彼はバス・ルームにとんでゆき
すぐにタオルを濡らして持ってきた。
「 ほら これで冷やそう。 ね? 」
「 ・・・ あ ありがと ・・・ 」
濡れたタオルは ひんやり心地よく、額の傷が熱を持っていたことに
彼女はやっと気が付いた。
「 ・・・ やだ ・・・ 滲みるわ 」
「 やっぱり博士を呼ぶよ。 滲みるってことは 表面だけの
傷じゃないってことだろ 」
「 ・・・ 転んだだけ なんだけど 」
「 そんなに激しいレッスンだったのかい? 」
「 あ え・・・ ううん 自習してて 」
「 自習で? なにかに躓いたの? 」
「 ううん。 あのね グラン・フェッテやってて ・・・
軸脚が滑ったのよ。 」
「 ぐらんふぇって? 」
「 そ。 ほら ぐるぐる〜〜 続けて回るの。 8回超えたら
軸がずれてきて ・・・ 10回越えて ずて〜〜ん★ 」
「 8回?? 10回?? ・・・そんなに回るわけ??
スケートの はにゅう君だって4回転だろ??? 」
「 あ〜 スケートとはちょっと違うのね。
う〜ん ・・・ そこのテーブル 退けてくれる? 」
「 ?? い いいけど ・・・? 」
ジョーは 怪訝な顔をしつつテーブルを片寄せ空間を作ってくれた。
「 ありがと。 今 やってみるから ちょっと下がってて 」
「 ・・・ う うん 」
「 ん〜〜 靴下だけど・・ ダブル・ピルエットから〜〜
〜〜〜 これでね〜〜 8回すぐて〜〜 」
しゅ・・ しゅ・・・ しゅ・・・
フランソワーズの脚が 空気を切って伸びて引き寄せられ
同時に 彼女はくるくる・・ 回る。
「 ・・・ うっそ ・・・ 」
ジョーは文字通り息を呑んでいる。
「 で ね〜〜 この軸脚が滑って〜〜 転んだの。 ずてんって。
オシリから落ちたと思ったけど オデコもぶつけてたのね 」
「 ・・・・ 」
ジョーは ぽか〜〜んとしている。
「 ね わかった? 転んだ状況。 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
彼はただ ただ かくかく・・・ アタマを縦に振っている。
「 ― よくわかった。 その額をちゃんと見せておくれ 」
ジョーの代わりに 落ち着いた声が聞こえた。
「 ! 博士〜〜 」
ドアの前には 博士が立っていた。
「 あ た ただいまもどりました 」
「 うむ。 荷物おいて すぐにメンテナンス・ルームに来ておくれ。
あの勢いで吹っ飛んだのなら 気を付けねば 」
「 あ はあい 」
「 ・・・ すっげ ・・・・ 」
「 ジョー? 」
「 フラン・・・ フランの脚って 特別仕様 ? 」
「 え なあに 」
「 そのう・・・ なにか特別の装置がついてるの?? 」
「 いやあだあ〜 なんにもないわよ。
バレエをやるヒトなら ある程度のテクがあれば、できるの。 」
「 へ ・・え ・・・ でも どうやって? 」
「 あのねえ 」
「 フランソワーズ。 メンテナンス・ルームに来なさい。
アタマは危険じゃよ? それに オンナノコが額に怪我なんて・・・
はやくおいで 」
博士が割って入った。
「 あ すみません ・・・ 」
「 ねえ フラン〜〜 どうやったらあんな風に 回れるの??? 」
珍しく ジョーが拘っている。
「 ああ ・・・ あれはまあ タイミング ね。 」
「 た タイミング?? 」
「 そ。 軸脚と あとは上げた脚がロン・デ・ジャンブして
回転するの。 ・・・ ごめんなさい 後でね 」
フランソワーズは ぱたぱたと博士に付いていってしまった。
ふうん ・・・?
ジョーはしばらく彼女のいた空間を見つめていた。
「 なんであんなこと できるんだ???
だって なにかの推進力がなくちゃ ニンゲン、回るなんて
不可能 だよね??
」
タイミング よ と彼女はごく普通に言っていた。
「 なら ぼくだってできる かも???
・・・ えっと こうやって こうやって〜〜〜 」
ジョーは 誰もいないリビングの真ん中に立つと
見よう見真似で 片脚を上げて見る。
「 こう〜〜 構えて 脚 あげて〜〜〜 回す! えいっ!!! 」
ずる ・・ どって〜〜〜ん ・・・ ずん!
見事に? 尻から床にに転がっただけ だった。
「 ・・・ いって〜〜〜〜〜 ・・・ あたたた・・・
あ 靴下が滑ったのかもな〜〜 裸足でやってみよ 」
素足になり カーペットのないフローリング部分に立った。
「 よし・・・っと。 あ まずは ぐるぐる〜〜っと
回って勢い、付けてたな〜〜〜 よっし 」
ぶん〜〜〜 チカラ任せに 脚を振り回した が。
どって〜〜〜〜ん !!!
「 ・・・ う そぉ・・・ いってぇ〜〜〜〜 」
天下の009は 実に見事に! 床の上に転がったのだった・・・
ま 魔法だ! フランってば ・・・
あれは 魔法だよ〜〜〜
「 ・・・ あれえ どうしたの?? 床に座って 」
フランソワーズが戻ってきた。
額が半分くらい隠れそうな絆創膏が貼ってある。
「 うわ・・・それ・・・ あ ご ごめん 」
「 いいのよ 博士がね 今日中は取るなって これ・・・」
「 ・・・ 外傷だけだったのかい 」
「 みたいね。 あ〜あ・・・・ もう・・・ 」
「 すぐに治るさ。 あの きみって魔法使い? 」
「 はあ??? 」
「 今さっきさ やってみたんだ。 そのう ・・・ なんとかふぇって 」
「 ・・・ グラン・フェッテ? 」
「 そ! それそれ。 で どって〜〜〜んだよ 」
「 まあ 怪我しなかった? 」
「 おい〜〜 ぼくを誰だと・・・ 」
「 あ シツレイしました。 」
「 ふん 宜しい。 で さ 尻もちついたわけさ。
・・・ フラン きみ、スゴイねえ〜〜 」
「 なにが 」
「 だって・・・ な〜〜んにも使わないのに
くるくる回るじゃん。 上げた脚が ひゅ ひゅ って
回って ・・・ 」
「 なにも使わないって? 」
「 あ つまりそのう・・・ 機械のチカラとか使ってないだろ。
きみは 100%生まれ持った筋肉と腱と骨だけを
使っているわけでしょ 」
「 ・・・ ああ そういうこと。
そりゃ・・・普通の人間のやることだもん。
それにね ピルエットやグラン・フェッテや バレエのテクニックは
ちゃんと力学的な論理の応用なのよ 」
「 り 力学? 」
「 そ。 理屈は ね。 でもそれができるか・・・ってのは別。
これはもう訓練しかないわ 」
「 ・・・ そうなのかあ ・・・ 」
「 そうなのよ。 」
フランソワーズは 額の絆創膏を弄っている。
「 あんまり触らない方がいいんでないかい 」
「 ・・・ うん ・・・ でも気になるのね 」
「 鬱陶しいだろうけど さ 」
「 ん ・・・ あ ねえ ジョー。 聞いていい 」
「 あ? なに 」
「 さっき ね。 サイボーグになってシアワセって言ったでしょ。 」
「 うん。 」
「 ― なぜ。 」
「 え・・・? 」
「 半分機械の身体に勝手に換えられて シアワセ なの?? 」
「 フラン ・・・ 座ろうよ 」
ジョーは フランソワーズを促し、ソファに腰をかけた。
「 ごめん、フラン。 これはぼくの超自己中だけど。
ぼくは 半分機械の身体になった今、シアワセなんだ。
・・・そうだな 機械になったことがシアワセ じゃなくて
今 この環境にいられることが 幸せ なんだと思う 」
「 この環境・・って ここに住んでること? 」
「 ウン。 まあ この家じゃなくてもいいんだけど さ
こうやって そのう・・・ きみや博士と一緒に
普通に暮らして おかえり って迎えてくれるウチがあるって
ぼくには 最高に幸せなんだ 」
「 ・・・ そ ・・・ うなの ・・・? 」
・・・ そんなこと 当たり前 じゃない?
ウチに帰れば家族が お帰りなさい って言って・・・
― あ。
! このヒトには 当たり前 じゃないんだ!
わたしにとってごく自然で当然なことも
ジョーには。
ごめん、って言うのは どっちよ!?
フランソワーズ、
あんたって ほんとに 無神経!!
「 きみは そのう・・・ いろいろぼくなんかが知らない
辛い経験を強いられ ・・・ そのう 今 最低!って感じてる・・・
それなのに無神経だよね ぼく・・・ 」
「 ジョー。
」
フランソワーズは ソファで彼にきちんと向き合った。
「 わたしこそ 自分のことばっかり よね。
自分の感覚で ジョーもシアワセかどうか決めつけたりして・・・
ごめんなさい。 謝るのはわたしだわ 」
「 え そんなこと・・・ 」
「 ううん。 無神経は わたしの方よ。 」
そう よね ・・・
グラン・フェッテが わたしには 普通 だけど
彼には 魔法 に見えるのよ
同じ ね 同じことだわ。
誰かの普通 は 誰もの普通 じゃあない。
「 ひどい質問して ごめんなさい。 」
「 そんな ・・・ でも きみは今・・・
そのう ・・・ シアワセ じゃない のかい 」
「 そうね。 オデコがひりひりするから 幸せじゃないかも〜 」
「 え! あ そ そうかあ〜〜
あ じゃあぼくも 尻から転んでカッコわるくて ・・・
結構打撃なんだぜ〜〜 ・・・ シアワセじゃないな 」
あはは うふふふ やだあ〜 痛いんだぜ ぼくだって
顔を見合わせ声を上げ 笑った。
「 ねえ ジョー。 相談なんだけど 」
「 なに 」
「 あのう ね ・・・ さっき博士に ね
ほら この手当てをして頂いたでしょ。
その時に つい、聞いてしまったの 」
「 ・・・ 」
地下のメンテナンス・ルームは いつも静寂に包まれている。
検査用のキットの電源を落としてしまえば
あとは ヒトがたてる物音だけ、となる。
カチン カチン カタ・・・
博士は手際よく ガーゼやらテープ、鋏を片づけてゆく。
「 ・・・・ 」
フランソワーズは そっと額の < 手当て > に触れてみた。
・・・ 不思議ね ・・・
機械の身体なのに 痛い気がするわ
「 博士 」
「 うん? ああ もう戻ってよいよ 」
「 あのう ・・・ 」
「 なにかね。 ああ 額のガーゼは二日くらい貼っておきなさい。
転んでぶつけた、はその程度の損傷だからな 」
フランソワーズは 額から手を離した。 そして −
「 ― この身体は このまま ですか。 ずっと。 」
003は ギルモア博士をまっすぐに見据えて問うた。
「 このまま とは ・・・ 変化するか ということか 」
「 はい。 練習すれば速く走れるようになる とか
マラソンや水泳のタイムがよくなる とか 」
ああ・・・ と 博士は頷き、真剣な顔で答えた。
「 訓練により 筋肉や腱が発達することは ない。
そして 同時に退化することもない。 ただ ・・・・ 」
「 ? 」
「 使い方 を学習することはある。
おそらく だが。 そういう意味では 変化はするだろう 」
「 ・・・ 使い方を学習 ・・・ 」
「 そうだ。 それは ― 機械の身体だが その身体を司るのは
支配するのは ニンゲンであるお前たちだから だ。 」
「 ニンゲン ・・・ 」
「 そうだ。 機械に使われているのではない。
機械を使っているのだ。 」
「 ・・・・・・ 」
「 これでお前の質問の答えになっているか 」
「 はい。 ・・・ わかりました。 」
フランソワーズは なぜかぺこり、とお辞儀をし
メンテナンス・ルームから 出ていった。
「 ふうん ・・・ そうか。
支配してるのは ニンゲン ってことか なるほどなあ 」
ジョーは 感心した面持ちだ。
「 わたし ね。 なんでこんなに転んだと思う? 」
「 え? ・・・ 練習してたからだろ? 」
「 練習しても しても 上手くできないからよ
あんな風に転んだのって コドモの頃くらいだわ 」
もう嫌になっちゃう・・・と 彼女はボソボソと言う。
「 小さい頃からやってたんだろ バレエ・・・ 」
「 そうね 5歳くらいからかなあ〜 」
「 その頃は転んだりした? 」
「 ええ。 最初は身体の使い方とか全然わからないでしょう?
バレエってね ニンゲン本来の身体の動きを
まったく変えないと 踊れないの。
それを習得するまでは 転んだりぶつかったりしてたわね 」
「 あ そうかあ 」
ジョーは 思わずぽん、と手を叩いた。
「 なあに? 」
「 うん わかった気がした。 」
「 ?? 」
「 ぼくもさ ちょこっとやってみて すっ転んで思ったけど
あれは かなり練習しないとできないよ 」
「 そりゃ・・・ いきなりグラン・フェッテは無理よ 」
「 うん。 それなら さ 」
「 ・・・・? 」
もう一回 調整したらいいんじゃない とジョーは考え 考え言う。
「 調整・・・? 」
「 初めて習うって気持ちで またやってみれば?
きみだって最初は 転んだりしたんだろ? 」
「 ええ 最初はね 皆 そうだと思うわ 」
うん・・・ ジョーは頷く。
「 誰だって最初から あの〜 ぐらん・ふぇって はできない
だろ? 」
「 そう そうよ・・・! 」
「 だから もう一回 やり直してみれば ・・・ どうかなあ 」
「 ・・・ あ ・・・ そっか 」
「 そしたらきっと また以前と同じようになるよ 」
「 そう かも! ちょっとごめんなさいね! 」
「 あ・・? 」
フランソワ―ズは 居間から駆けだし、地下への階段を駆け下りた。
トン トントン ・・・ !
分厚いドアをせっかちに叩く。
「 博士〜〜〜 まだいらっしゃいます〜? 」
ガチャリ。 ロックが開いた。
「 入ってよいよ 」
「 はい! 」
彼女はドアの隙間から滑り込んだ。
部屋は 相変わらずひんやりとし音はほとんどなかった。
その中に 彼女は早足で飛び込んだ。
「 博士 博士〜〜 」
「 ・・・ ? どうしたね 」
片付けをしていた博士は 驚いた顔で彼女を迎えた。
「 あの! さっきの話ですけど 」
「 うん? 」
「 さっきの! あのう 機械の身体は変化しないっていう・・・ 」
「 ああ ・・・ その通りだ。 」
「 それで! わたしの、この身体は 新しいことを習得できますか? 」
「 新しいこと? 」
「 はい。 今までにはない使い方を覚えますか 」
「 ― それはモノによるが ・・・ 」
「 ん〜〜 たとえば わたしの今の筋肉って ダンサーの筋肉とは
ちがうと思うんです。 だから 転んだりする ・・・ 」
ああ ・・・ と博士は 彼女の言いたいことを
理解したらしい。
「 以前と違うんです。 前はできたことが 出来ません。
あ・・・ 踊りで ですけど 」
「 ふむ ・・・ そうさなあ・・・
現在 お前の筋肉や腱 骨格は 踊りに使う方法 が
わからないのではないか 」
「 ・・ あ ・・・ それじゃ 」
「 学習させれば 適切に使えるだろう。 」
「 わかりました。 やっぱり そうなんだわ! 」
フランソワーズは ぴょんぴょん跳ねている。
つい先ほどの 思い詰めた雰囲気は もう微塵もない。
今度は 博士がおずおずと言葉を絞りだす。
「 ・・・ フランソワーズ ・・・ ワシは ・・・
そのう ・・・ なんと言って謝れば 」
明るい声が遮った。
「 博士。 ありがとうございます ! 」
「 ・・・ 」
「 希望を 可能性を ありがとうございます。
わたし、 また踊れるんです。 ええ 以前のように ・・・
ううん ・・・ 以前よか上手く踊れるようになりたい ! 」
「 フランソワ―ズ ・・・ 」
「 あのね うふふふ・・・ジョーが ジョーがヒントをくれました! 」
「 そうか・・・そうか・・・!
ああ アイツはやっぱり ・・・ 」
「 ええ そうです! 仲間の中で 最強 なんですね
わたし ・・・ 頑張っちゃいます〜〜 」
「 ・・・ おいおい あまり無茶はせんでおくれ。
オデコに擦り傷 はもうこれで最後にしようなあ 」
「 うふふ はあい 」
「 まったく・・・ 嫁入り前の娘が・・・ 」
「 明日はちゃんとコレ・・・ 貼ってゆきますから。 」
明るく言うと 彼女はメンテ・ルームを出て階段を駆け上っていった。
「 ・・・ 最強 は あの娘かもしれんなあ ・・・ 」
博士は 泣き笑いみたいな顔で 彼女を見送っていた。
リビングに戻れば ジョーはソファの背に掴まって
しきりに脚を上げていた。
「 っと〜〜 聞いてきたわ。 わたし 明日から頑張る!
あら なにやってるの? ストレッチ? 」
「 ・・・ う〜〜〜〜 あ いや そのう〜〜〜
どうやったら きみみたくに脚、上がるのかなあ って思って 」
「 あらあ あのね いきなりやったら ジョーだって壊れるからね?
少しづつ よ。 」
「 う ん ・・・ どう見ても魔法だよなあ
動力もないのにさ どうしてあんなに回るんだ?? 」
「 あ ジョー。 あのねえ グラン・フェッテは女子のパで
男子はやらないわ 」
「 へえ そうなの? 」
「 そ。 その代わりね、 男子は ア・ラ・セゴンド・ターン が
あるの。 」
「 ・・・ なに たーん ?? 」
「 ア・ラ・セゴンド・ターン。 この国では せごん・たーん って
言うみたいだけど
」
「 やっぱ くるくる回るの? 」
「 そうよ! あ え〜〜と ・・・ これ 見て! 」
フランソワーズは スマホを出すとささささ・・・と目的の動画を
映しだした。
「 これ! ほら 『 海賊 』。 ここからよ 」
「 ??? ・・・ うわああ〜〜〜〜 」
画面の中で 人間コマ みたくぶんぶん回る男性ダンサーを
しげしげと見つめるのだった。
― さて その次の日 ・・・
クラス前のスタジオでは 相変わらずダンサー達が
ごきごき ごにょごにょ〜〜 床で伸びたり縮んだりしている。
「 おはよう〜〜 」
初老の女性が入ってきた。
あ おはようございまあす〜 おはようです〜〜〜
スタジオ中から声が飛んでくる。
「 あ・・らあ〜 どうしたの、そのオデコ 」
マダムは すぐにフランソワーズに気づき問いかけた。
「 あ ・・・ おはようございます〜〜
えっと あの・・・ 転んじゃって 」
「 転んだ? どこで。 」
「 あのう・・・ 自習してて お稽古場で 」
「 え? 昨日??? ここで? 」
「 ・・・はい ちっとも出来ないから自習してたんですけど 」
「 いやだ、ねえ大丈夫なの? お父様に怒られてしまうわ 」
「 あ・・・ 平気です。 擦り傷だけなんで 」
「 擦り傷だけ、って ・・・ 女の子が顔に! 痕になったら大変よ!
お嫁入り前の娘さんが! 気をつけなくちゃ 」
「 はあい 」
素直に返事をしたけれど 彼女のアタマの中は ?? の渦 らしい。
よめいりまえ って。
やだあ 博士もマダムも 同じこと 言うのね?
オデコの傷と なにか関係あるのかしら・・・
よめ いり まえ。
どういう意味??
よめ って 花嫁さんのことよね?
花嫁さんの前になにかあるのかしら・・・
・・・ 日本語はムズカシイわあ
まあ そんな疑問符はクラスが始まれば隠れてしまったけれど。
さて その日の午後 ―
カツ カツ カツ ・・・
駅の構内から 軽い足音が聞こえてくる。
「 あ 帰ってきた! お〜〜い フラン〜〜 」
ジョーは改札口の外から わさわさ・・・ 手を振った。
水色のスカートを翻し 彼女が駆けてきた。
「 ? あ〜〜 ジョー ! どうしたの?? 」
「 えっへん。 お迎えにきました。 お嬢様
さ ぼくの愛車へどうぞ 」
ジョーは ぺこり、とお辞儀して自分の愛車 ― バイクを指した。
「 え え〜 ・・・ あのう いいの? 二人乗り 」
「 このサイズならOKさ。 はい メットして。 」
「 あ ありがと・・・ わ〜〜〜 乗せてもらうの、初めて〜 」
「 そ そうだっけ? さあ 乗って乗って〜〜
荷物、ここに括りつけるから 」
「 ウン ・・・ えい 」
フランソワーズは ささっとスカートを巻き込んだ。
「 ?? なに? 」
「 なんでもなあい。 さあ〜 発進よ! 」
「 らじゃ♪ ゆくよ〜〜〜 」
ババババ −−−−− ・・・
小型のバイクが てれてれてれ〜〜〜と駅前ロータリーを
駆け抜けていった。
タタタタタ −−−−−
風を切り ジョーの愛車は鄙びた道を行く。
「 ねえ ジョー。 日本語 教えて? 」
「 うん なに? 」
「 よめいりまえ って なあに。
日本では 花嫁さんの前になにかあるの??
よめいりまえのむすめが って マダムにも博士にも
お小言いわれたんだけど どういうこと? 」
「 え ・・・ え〜〜〜とぉ ・・・
」
「 なあに よく聞こえない〜〜 」
「 あ〜〜 それは つまり 」
「 つまり なあに? 」
「 ・・・ あのう がんばれ ってこと!
う〜〜 アナタはステキだよ 頑張りなさい ってことなんだ 」
「 まあ そうなのぉ〜〜 嬉しい〜〜 」
ことん。 ジョーの背中に金色のアタマがひっついた。
わほ♪ うひゃ くすぐってぇ〜〜
「 え・・・っと 」
「 ジョー。 ありがと! わたし 頑張るわ 」
「 フラン〜〜 あの でもね 怪我には気を付けて〜〜 」
「 はあい 」
「 あ あの・・・さ ぼくも一言、いい? 」
「 ? 」
「 えっと。 Shall we dance ? その ずっと ぼく と・・・ ! 」
「 え! ずっと って・・・ え あ ・・・ はい! 」
むぎゅう〜〜〜
しなやかな腕がジョーの身体に巻き付いた。
きゃっほ〜〜〜〜〜 !!!!
ねえ あなた。 Shall we dance ?
************************ Fin. ********************
Last updated : 10.06.2020.
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************ ひと言 ***********
コロナ自粛明け ・・・ ダンサー達は皆
フランちゃんと同じです。 地道に 基礎 から
積み上げ直したのでした (*_*)