『 Shall we dance ? ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

  おっはよ〜〜っす!  おはようございまあ〜す

 

Tシャツにジーンズ やら ばさばさ丈の長いスカート やらの

男のコ や 女のコ が 元気に入ってくる。

みな 大股でがしがし・・・ 歩いてくる。

眠そうな顔  ちょっぴり疲れた顔  元気いっぱい〜な顔・・・

いろいろだが どの顔も一様に < さあ やるぞ > の意気が

漲っている。

そして だれもがやたらでかいバッグやらリュックを持っていた。

 

  ― ここは都心ちかくのバレエ・カンパニー。

 

朝のプロフェッショナル・クラスをめざし ダンサーたちが

やってくる時間なのだ。

 

「 それじゃ ・・・ ワシはこれで帰るが。

 帰り道は大丈夫じゃな? 」

瀟洒な建物の入口脇で 老紳士が金髪娘と話し込んでいる。

「 ・・・・ 」

娘は 俯き加減で黙ってこっくり頷く。

「 メトロの入口までの道順 わかるな?  

「 ・・・・ 」

「 あの主宰者のマダムには ようく話しておいたよ。

 やあ 久々オトナのフランス語を聞いたよ ・・・

 洒落た御方じゃなあ 」

「 ・・・・ 

「 お仲間たちもみな気持ちよいね いい雰囲気だ・・・

 さあ 思いっ切り踊っておいで 

「 はい ・・・ 」

「 ほらほら そんな情けない顔をせんで・・・

 せっかく自分の力でゲットしたチャンスではないか。

 なにも心配はいらんよ。  あのマダムもな

 お前の活躍を楽しみにしている、とさ 

「 ・・・ でも あの ・・・

 わたし ・・・ ずっとブランクが ・・・ 」

「 ちゃんと話した。 ワシの都合で踊りから離れざるをえなかった、と。

「 ・・・ あの先生はなんておっしゃいましたか 

「 私はこれからしか 見ません、とな。 

「 これから・・・? 

「 そうじゃよ。 常に前方だけを見ているのじゃなあ・・・

 さあ  笑って! 踊っておいで フランソワーズ。 」

「 ―  はい ・・・ いってきます、博士。 」

金髪娘は やっと笑顔を見せ 手を振って建物の中に消えた。

「 ・・・・ 」

ギルモア博士は 彼女の後ろ姿を見送ると静かに帰路についた。

 

 

  ギシ ・・・ !  年季の入ったバーが 軋む。

 

こんなにしっかりバーを掴むのは 久し振りかもしれない。

フランソワーズは 俯いて足の甲を伸ばしつつ 少し笑ってしまった。

 

   なに緊張してるのよ、 フランソワーズ。

   いったい何年 バーと < 付き合って > いるの?

 

   バレエを始めたばかりのチビっこみたいよ?

 

「 ・・・ いい手触り ・・ 」

改めて眺めたバーは 木が飴色になりすべすべし ― でも

ほんのり温か味が感じられた。

 

   ふふ バーさん ・・・ ボンジュール?

   これからここに来ます、 よろしくね

 

「 ・・・・・ 」

さりげなく 周りを見回せば ―

 

  キュ キュ   ガサガサ   シュ ・・・

 

がさごそ着込んだダンサ―達が 床に座りこみストレッチしたり

脚にテーピングを巻いたり 髪を結ったりしている。

なんとな〜〜く眠そうな顔が多い。

 

   あ あら ・・・ 同じ ね・・・ 

   そうよね どこだって踊りが好きなヒトたちは

 

    みんな 一緒 よね ・・・

 

「 ・・・ 」

隅っこのバーで 彼女もストレッチを始めた。

 

「 おはよう 」

 

元気な声とともに 初老の女性がスタジオに入ってきた。

このスタジオを主宰する女性で 芸術監督も務める。

毎朝のプロフェッショナル・クラス では 団員や研究生たちを

指導するのだ。

ダンサー達からは マダム と呼ばれている。

 

 あ おはよ〜〜ございます  おはようございます おはよ〜〜です〜〜

 

スタジオ中から声が返ってきた。

「 あ ・・・ えっと みちよちゃん? 」

彼女は こちらにやってきて フランソワ―ズの隣にいた

小柄な女性に声をかけた。

フランソワーズとほぼ同年輩らしく 元気な笑顔だ。

「 はあい? 先生 」

「 あのねえ ― 彼女 フランソワーズさん。

 大丈夫 日本語 わかるから。 いろいろ教えてあげてね。

 フランソワーズ 彼女に聞いてね〜〜 」

「 はあい 先生。 」

丸顔の彼女は 大きな目をくるりん、と回しこちらを向いた。

「 よろしく〜〜 アタシ、たなかみちよデス。 」

「 あ ・・・ あ わたし、フランソワーズ・アルヌール といいます。

 どうぞよろしくお願いします 

「 あは・・・ 日本語 上手だね〜〜 」

「 え いえ ・・・ 」

「 あ みちよって呼んでね〜  アタシも今年、入ったから

 同期だね〜〜〜  

「 は はい。 わたしも フランソワーズ と呼んでください 」

「 あは ・・・ キレイな髪ね〜〜 いいなあ・・・

 腕も脚も長くてさ 羨ましいなあ 

「 そ そんなこと  ないです 」

「 ううん〜〜 もうさあ パリなんて憧れだよ〜う ・・・

 ね ね オープン・クラスのスタジオとか ある? 

「 あ ・・・ ごめんなさい わたし ずっとパリから

 離れてて・・・最近の事情はわからないの・・・ 」

「 あ そなの?  ごめんね〜 」

「 い いいえ・・・ あのう・・・? 」

「 はい なに? 」

「 あのう・・・ 朝のクラスって ムズカシイですか? 」

「 ・・・・ 」

丸顔の彼女は ほんのしばらくフランソワーズを見つめたが。

「 うん。 すくなくとも アタシには ね。

 フランソワーズさん あなたにとっては易しいでしょうけど 」

「 !  それは違うです。 

 わたし ・・・ この間のオーデイション、いっぱい間違えたし

 最後までついて行けなかったです。 」

「 ・・・ じゃ 一緒にがんばろ? 」

黒目がちの彼女は ぱあ〜〜っと笑うと 手を差し出した。

「 あ ・・・ ! ええ 一緒ね! 」

 

    きゅ。  

 

この日 フランソワーズは沢山の出会いに遭遇したけれど

 

   ああ ・・・ ! 嬉しいわ〜〜〜

   バレエのトモダチ! オンナノコのトモダチ!

 

   も〜〜〜 最高 〜〜〜 ☆

 

つい先ほどまでの泣きたいほどの緊張感は ゆっくりと解けていった。

 

 ― レッスンが 始まれば・・・ なんとかなる わ。

そうよ バレエは万国共通 なんですもの ね 

 

フランソワーズは 心の底で自分自身を宥めていたのである が。

 

「 はい じゃ 二番から。  ドゥミ 二回 グラン・プリエ〜〜〜

 アームスは ・・・ 

ぽろろ〜〜ん♪ ピアノが鳴って朝のクラスが始まった。

 

    ああ  ・・・ !

    また この世界に戻ってきたんだわ

 

    ・・・ わたし 踊れるのね!

 

 

手足よりももっと心が震えた。

フランソワーズは 滲んできた涙もそのままに 

懐かしい世界に 身を任せるのだった。

 

・・・ けれど。 そんな感傷はすぐに吹き飛んだ。

 

バー・レッスンは なんとかついて行けた。

マダムのクラスは かなりテンポが速く 説明も必要最低限だ。

 

    集中よ! ええ ついてゆくわ!

 

ちまちま順番を間違えたけど バランス・・・で 揺れることもなく

前後の仲間に迷惑をかけることは 避けられた。

 

    ・・・ ふ う ・・・

    ハードなバーだけど・・・

    これ 毎日きっちりやったら 

    すごく脚とか強くなりそう ・・・

 

ほっとしたのも束の間  センター・ワークで

フランソワーズは < 観客 > になりそうだった・・・

 

暗い瞳を持つ仲間達は 信じられないほど強い脚と腰を持っていた。

アダージオの軸脚は 根が生えたみたいで微動だにしていない。

彼ら 彼女らは なんでもない顔で轟々とトリプルくらい軽く回り 

32回のグラン・フェッテなど 朝飯前の顔でやってのける。

 

    え ・・・? えええ??  なに・・・??

 

アレグロは まったくステップの繋がりが読めなかった。

マダムのたった一回の説明で 彼ら 彼女らは 機械みたいに

正確に そして 素早く ・・・ 音にも合って踊るのだ。

 

    う そ ・・・?

    加速装置でも ついているっていうの???

 

「 はい 悪くないわね。 じゃあ バッチュ いれてみて? 」

・・・ざわざわ〜〜 と空気が揺れたけど

ベテラン勢や 若い男子達は 音も高くバッチュをいれて踊るのだ。

 

    ・・・ なんで???

    ここで どうしてバッチュをいれられるのよ??

 

最後のグループの後列で フランソワ―ズはもう右往左往するだけ 

になっていた。

 

「 もっと上〜〜〜〜  根性でバランス、じゃないわよ!

 上〜〜 を目指し続ければ 揺れるはず ないでしょ! 」

「 どっち見てるの〜〜 顔 顔 つけて! 」

「 アームスが先! 」

「 落ちたら 下がって! 」

「 16まで行ったら また 1 から始める気分で ! 」

 

マダムの 要所要所に飛ばす < お小言 > に

ダンサー達は その踊りで的確に応えてゆく。

 

「 ・・・ 皆 すごいわ ・・・ 」

 

そんな熱意の集団に フランソワーズは気後れし 尻ごみし

 ― すっかり乗り遅れてしまった。

 

「 はい〜〜 じゃ 今日はここまで〜〜  お疲れ様でした〜〜 」

 

  ありがとうございました〜〜

全員でレヴェランスをし 拍手で朝のクラスは終わった。

 

「 あ〜〜 終わったぁ〜  うひゃあ 」

みちよは後ろで ぽ〜んとタオルを放り上げた。

「 あっは ・・・ね フランソワーズ〜〜〜

 時間ある?  帰りにさ〜 お茶してかない? 

 近くにいいカフェ あるのよぉ〜 」

話しかけられた当人は バーのすぐ側にしゃがみこんでいる。

タオルに顔を埋めたままだ。

「 ・・・ 」

「 どしたの フランソワーズ 

 あ〜〜 ・・・ 具合わるい? 大丈夫 

「 ・・・ ん  大丈夫  ありがと 

「 あは ほっとしちゃった? ま〜ね〜〜〜〜 

 初日はみんな そうだよぉ 」

「 ・・・ 」

金髪娘は やっと顔を上げ  ぼそぼそ・・・口を開いた。

「 ・・・ 皆 すごくて ・・・ わたしちっとも

 動けなかった わ ・・・ 」

「 あはは〜〜  みんな ね 初日はもう散々なの!

 泣いちゃった子もいるよ 」

「 ・・ 泣きたい わたしも ・・・ 」

「 い〜さ い〜さ 泣いても。 でもさ それよか〜〜〜

 ケーキでも食べにゆこ? 美味しいとこ、あるんだ  」

「 ・・・ でも 自習・・・ 」

「 今日はお休みにしよ♪  ね〜〜 シャワーして さっぱりして

 ねえねえ この辺り 案内するから ね? 」

「 ・・・ そ う・・? あの ご迷惑じゃ・・・? 」

「 ぜ〜〜んぜん♪ あはは アタシも甘いモノ、食べたいのぉ 

「 それなら  ものすごく嬉しいんだけど 」

「 じゃ 行こ〜〜  マスターがさ  素敵なフランス人で

 あ おしゃべりできるよ きっと 

「 そ れなら 嬉しいです 」

「 じゃ き〜まり〜〜〜♪ 」

丸顔と金髪の凸凹コンビ? は 賑やかに更衣室へ向かった。

 

「 ・・・・ 」

そんな様子を マダムは事務室からちらり と眺めて満足気に

にんまりしていた。

 

    ふふふ ・・・ よかった・・・

    まあね 苦労して 泣いて

    一人前のダンサーに なってね

 

フランソワーズ〜〜〜 こっち こっち〜〜〜  

はあい 今 ゆくわあ〜〜

 

元気な声がスタジオから遠ざかっていった。

 

 

「 ん〜〜〜 美味しい〜〜〜 ! 」

「 でしょ? ここのショコラは最高よぉ 」

スタジオ近くの みちよサン・イチオシ! のカフェで

娘たちは スウィーツに夢中になった。

灰色のビロウドみたいな瞳のマスターは にっこり笑っている。

 

    いつでもおしゃべりにいらっしゃい  

 

彼は小声で フランソワーズに言ってくれた。

「 !  はあい♪  きゃ  ステキ〜〜〜

 う〜〜〜ん  オ・レ 最高♪ 」

「 オ・レ っていうんだ? 」

「 そうなの〜  ああ この味・・・ 懐かしくて涙 でそう 」

「 ふうん  アタシも好きだな〜 ここのカフェ・オ・レ。

 それから なんたってガトー・ショコラ だわあ 」 

「 そうね そうね  きゃ〜〜 食べちゃうの、勿体ないくらい 」

「 うん うん♪  ね ここ いいでしょ? 」

「 ええ ええ 最高♪ 教えてくれてありがとう みちよサン 」

「 サン いらないってば。 美味しいもん 食べてさ〜

 まった明日もがんばろ〜〜って 」

「 ・・・ そう ね ・・・ でもわたし・・・

 ついて行けるかしら ・・・ 」

「 へ〜き へ〜き  皆 最初は落ち込むよ 

 でもさ それでへこたれちゃうようなコは いりません ってさ 」

「 ・・・ マダムが? 」

「 ウン。 厳しいけど 努力するの、ちゃんと見ててくれるよ 

 アタシもさ〜 ここに入って最初、 運動神経で回ってるだけ って

 言われたよ? 

「 ・・・ みちよさん グラン・フェッテとか楽々ですものね 」

「 はっちゃけてたんだ 勢いばっかで・・・

 少し 大人しくなったわね〜 なんて言われてるけど 

「 そうなの ・・・ 

「 だ〜から フランソワーズも!  一緒にがんばろ! 」

「 ・・・ うん! 」

 

   カチン。 二人は オ・レ のカップで乾杯をした。

 

 

じゃ また明日〜〜って手を振って メトロの駅に向かった。

 

   ふんふんふん♪  なんか 楽しい〜〜〜〜

   ・・・ そうよねえ こんな時間 久し振り♪

 

   やっぱりね 

   オンナノコにはおしゃべりが最高のエネルギーなの♪

   

   ふんふんふ〜〜ん♪ 今度 バレエ・ショップに行くわ

   ポアントももっと買っておかないと・・・

 

   皆が着てるレース使ったレオタード、見たいし〜

 

 

フランソワーズは 足取りも軽く電車に乗った。

「 ふう・・・   あ。 もうこんな時間 ・・・・

 いっけな〜〜い 急いで帰らなくちゃ 」

午後の車内は 結構空いていて 彼女は本を読んでいたが

すぐに かっくん かっくん ・・・ 居眠りを始めていた。

 

「 ふぁ〜〜  ああ 良く寝たわあ〜〜 

 なんかすっきりしたかも♪   あら ・・?  」

地元の駅で 改札を通ったとき 思わず声を上げてしまった。

 

     え ・・・?  うそ・・・??

 

駅前のロータリーで ジョーが恐ろしく真剣な表情で立っていたのだ。

目敏い彼女は すぐに気がついた。

 

     なにか用事があるの?

     ・・・まさか 迎えに来てくれた ・・・ の?

 

     え。 なんかすごい顔 じゃない?

     怒ってるのかしら。 でも どうして??

 

     ま いっか・・・ふつ〜の顔で・・・っと。

 

できるだけさり気ない風な足取りで 彼女は近づいてゆく。

そして なるったけ明るく振舞った。

「 あ あらあ〜〜 ジョー。  買い物にでも来たの? 」

「 フラン ・・・!  ああ 無事だったんだね! 」

 

    え ・・・ なんで??

    ちょっとぉ〜〜〜 三年振りの再開 じゃないのよぉ

 

彼の真剣な調子に 彼女は思わず後退りしてしまった。

「 ただいま〜〜 ジョー   え・・・? 

「 なかなか帰ってこないから 迎えにきたんだ。

 ・・・ 博士 心配してるよ。  ぼくだって 」

「 あ ごめんなさい ・・・ なにかご用? 」

「 ! そうじゃなくて。 連絡 取れないから 全然。

 ねえ スマホ、持って出ただろう?  

「 え・・・? 」

彼女は やっとバッグを探りスマホを取り出した。

「 ・・・ あ。 電源 入れるの、忘れてたわ 」

「 フラン〜〜〜〜 」

「 ごめんなさい あの レッスン前に切って そのまま・・・

 あのう なにか緊急事態・・・とか? 」

「 そうじゃないけど! 」

「 ・・・ ね 通信 した? 」

つんつん ・・・ と彼女は自分自身のアタマを突いて見せた。

「 使うわけ ないだろう?  ぼく達は普通に暮らしているんだ。

 だから ちゃんと連絡 してくれよ 」

「 ・・・ ごめんなさい ・・・ 」

「 ぼくより 博士に謝ってくれ。 すごくすごく心配してる 」

「 ・・・ はい  ごめんなさい 」

「 だから。 博士に。 さあ 帰ろう。 

 パーキングに車 止めてるから 」

「 ・・・ あ ありがとうゴザイマス。 」

「 行くよ。 ほら 」

ジョーは 荷物持つよ、と手を出してくれたけれど彼女は首を振った。

「 大丈夫。 重くないし ・・・ 」

「 そうかい? じゃあ・・・ 

 あ 夕食の材料は適当に買ったから。 」

「 ありがとうゴザイマス。 」

「 ・・・ 」

ジョーは黙って車のドアを開け フランソワーズも黙って助手席に

乗り込んだ。

 

 

 

 ― 数日後  朝のレッスンの後 ・・・

 

「 あのう  みちよさん? 」

「 なに〜  ねえ < さん > いらないって。 」

「 あは ごめんなさい。 みちよ・・・ 

 教えてください〜〜 」

「 なに〜  あ 美味しいケーキの店? 」

「 それもあるけど ・・・ みちよはポアント どこで買ってるの 」

「 アタシ?  セールの時にがばっと・・・

 あ 最近は通販使うかなあ 」

「 セールっていつ? 」

「 あ〜 今はちょっとないかも・・・ 急ぐの? 」

「 ええ  あの 今 履いてる靴、 もう潰れそうなの〜〜 」

「 あは マダムのクラスはね〜 激しいから ・・・

 ね フランソワ―ズはどこの履いてるの? 

「 ヨコハマにあるバレエ・ショップで サイズが合うのを買ったの。

 これ・・・  」

フランソワーズは 脱いだばかりのポアントを見せた。

「 え〜  ああ C・・・ のかあ ・・・ ちょい 柔いかも。 」

「 みちよさんは なにを履いてるの 」

「 アタシ? アタシは グリシコ。 堅いけどとにかくもつから 」

「 グリシコ・・・って ロシアの? 」

「 そ。 」

「 ロシアの靴が 買えるんだ?? 

「 うん。 あ フランスのもドイツのもアメリカのも 買えるよ 」

「 え そ そうなの?? ・・・ でも 高い? 」

「 あ〜 それほどでもないよ? 

 そうだ 帰りに見てく? 新宿の S・・・ 行ってみる? 」

「 え ・・・ いいの? 」

「 アタシもさ〜 トウ・パッド 買いたいから 」

「 そうなの?? 嬉しいわあ〜〜  あ ちょっと待ってね 」

「 ?? 」

フランソワーズは ごそごそ・・・スマホを取りだした。

「 ウチに電話しとかないと 」

「 へ え ・・・ ねえ アタシと一緒だよね 年齢・・・? 」

「 この前 ほら お茶した日・・・ すごく心配させちゃったの ・・・

 わたし、スマホの電源 オフにしてて・・・

 ちゃんと連絡しなさいって 怒られたわ 」

「 わ〜〜〜 大事なお嬢さんなんだね〜〜 」

「 ・・・ ウチから遠いし あの・・ ち 父とか心配性なの 」

「 そっか そっか♪ まあ 電話しといてあげなよ。

「 ええ ・・・ もう ちっちゃい子じゃないのに〜〜 」

フランソワーズは ぶつぶつ言いつつ電話をかけた。

 

     < おとうさん > より もっとウルサイのがいるから・・・

     まったく〜〜〜

 

     あのね ジョー。 わたし、子供じゃないのよ〜〜

 

「 ・・・ あ フランソワーズです〜〜 あのう 」

 

博士にちゃんと連絡した。 ジョーは まだ帰っていなかった。

ゆっくり行っておいで、と博士は笑ってくれた。

 

     やった〜〜〜 ♪

 

「 お待たせ〜〜 みちよさん。 」

「 お〜〜 それじゃ 新宿、いこっか。 」

「 ええ。 ・・・ レオタードとかもある? 」

「 あるよ〜 あ でもねえ 通販で買う方が安いかな 」

「 そうなの??  教えてください 」

「 はいはい もちろん  あ こっちね〜 

 

     ああ  楽しい〜〜〜

     トモダチと ポアント 買いに行くなんて 

 

     ・・・ ああ あの頃と同じ!

 

バレエ・ショップは 地下商店街の一画にあった。

「 ポアントは こっちだよ 」

「 わぁ ・・・ あ  レペットがある〜〜 」

「 あ パリではレペット、履いてた? 

「 ええ そうなの。  ・・・ また履けるなんて ・・・ 」

「 ?? 日本でも結構人気あるよ? 

 マダムはさあ フリード 履きなさい っていうけど〜〜

 アレ わりかし柔いんだよねえ ・・・ 結構高いし 」

「 フリード ・・・ 懐かしいわ ・・・

 パリではやっぱり高かったのよ ・・・ わあ ・・・ 」

「 ?? ユーロ圏なら そんなの高くないんじゃないのぉ? 」

「 ・・・ あ あの  やっぱり地元メーカーのが 安いし ・・・ 

「 うん うん ・・・ アタシ トウ・パッドのとこにいるね 」

「 ええ。  ・・・ う〜ん サイズとワイズ ( 幅のこと ) は

 ・・・昔と変わっちゃったのよねえ ・・・ 

 本当はこんなに細くてすんなりした足じゃないのに・・・

 勝手に変えてくれちゃってさ アイツらってば (怒) 」

フランソワーズは 一人で密に怒りつつ ・・・ ポアントを選んでいた。

 

 じゃあね〜〜〜 また明日〜〜〜

 

いっぱい買い物をして みちよサンとは駅で別れた。

「 うふふ ポアント 買ったし☆ レペットがまた履けるのよ♪

 レオタードも買っちゃった♪ レース使いなんて初めてだわ〜 」

地下街を行けば 目的のメトロに乗れるはずだ。

「 ・・・ ちょこっと パリに似てる かなあ・・・

 メトロって言うのも 懐かしいな・・・ 

 あ お菓子 ・・・ しゅ − くりーむ ・・・

 あ シュー・ア・ラ・クレーム ね! お土産に買ってこっと♪ 」

山盛りの荷物、だけど最高の笑顔で フランソワーズは 家路についた。

 

     ・・・ ねえ すごく楽しい ・・・!

     レッスンができて

     おしゃべりできるお友達がいて。

 

     お気に入りのポアント 買って

     素敵なレオタード も見つけたわ

 

     そして お土産買って 

       ― ウチに帰るの!

 

「 ねえ フランソワーズ? こんなに幸せって 夢みたい♪ 」

 

  人生 晴れの日が続く時だって  あるのだ。

 

 

Last updated : 09,22,2020.              index        /      next

 

 

**********  途中ですが

個人的に シアワセ〜〜 な フランちゃん♪

ジョー君と一緒じゃなくても シアワセなの (^◇^)

踊るヒト は 踊っていればシアワセ みたいな

トコがありますです・・・ (*´▽`*)

ポアントは消耗品で 週に2〜3足 履き潰すことも

ありますです・・・★