『 くりすます ! 』
♪♪ 〜〜〜 ♪ ♪〜〜〜
TVからは最近 実に頻繁にクリスマス・ソングが流れてくる。
イヴを数日後に控え 正に朝から晩まで聞こるのだ。
TVだけじゃなく スーパーでも商店街でも 駅のホームでも!
「 ん〜〜〜 ・・・ なんかもう聞き飽きた って気分。 」
はあ ・・・
フランソワ―ズはため息をつき 誰も見ていないTVのスイッチを
切った。
「 子供の頃はねえ・・・ 12月の半ばも過ぎてから
時々 クリスマス・ソングが聞こえてくると
ものすご〜〜く わくわくしただけど ・・・ 」
掃除機のスイッチを入れ リビングの掃除の続きを始めた。
ガ −−−− ゴ −−−−−
随分音は小さくなったけど やはり 無音とはゆかない。
そりゃ 静かな方がいいに決まっているけれど 家事にはいろいろ
騒音がつきものなのだ。
掃除機の音、と割り切ってしまえば べつに気にならない。
「 ん〜〜〜 ? なに ・・?? あ ! やだ、また靴下!
う〜〜〜 もう〜〜〜 すぴかってば・・・ ! 」
雑誌の下から 丸まった靴下 ( 勿論!使用済み ) を
摘みあげた。
「 洗濯モノは洗濯カゴに!って 何百回いえば いいのっ ! 」
もう ・・・母は 汚れたソックスを丸めてエプロンの
ポケットに突っ込んだ。
ガ −−−− ゴゴゴ ・・・ズガ
「 ん? なんか吸いこんだ? ・・・ あ〜〜〜〜
これ ジョーの万年筆じゃない?? 博士に頂いたって
すごく大切にしてるのに・・・ なんで? 」
掃除機から 万年筆を救出しつつ 思い巡らせる。
「 ・・・ ! すばるね! お父さん かして〜〜〜って
煩くジョーに付きまとっていたっけ・・・ あのまま返してないのね
う〜〜ん こりゃ お父さんに対してきっちりごめんなさい、を
言わせなきゃ! すばるってば 」
ガガガ −−− ゴゴゴ −−−
掃除機は一段とパワーアップし 呻り声も高らかに? リビングの
埃やらゴミやら ・・・ そうじゃないモノも いろいろと
吸いこんでいった。
「 ふ ・・・ん。 ま こんなもんかしら ね。
ピカピカにしたって どうせすぐに汚れてしまうんですもの・・・
何事も適当 が よろしいのよ、何事も ね。 」
掃除機を片して ちらっと広い窓に視線をなげる。
― ぴかぴか・・・ではない。
下の方には手の跡と思しき曇りが点々としているし
上部には 風雨のシミも残っている。
窓拭き ・・・ した方がいいわねえ ・・・
・・・ 面倒くさい な
別に今日 拭かなくてもいいわよ ね?
や〜〜めたっと。
窓ガラス は 見てませんでした。
「 お茶でも淹れましょ。 ちょっと一休み よ 」
カチャ カチャ ・・・ ふわ〜〜ん ・・・
キッチンのテーブルで 簡単に紅茶を淹れた。
余ってるティーバックで適当にお湯を注いだだけだ。
それでも ― ほっとした。
ふう ・・・
今晩のオカズ なににしようかなあ
ジョーは遅いし 博士がお帰りになるのは年明けだし
う〜〜ん チビ達だけかあ・・・
・・・ てきと〜に カレーかシチュウでいっか
「 なんか ヒマ ねえ・・・ 」
イヴも近いある日のこと。
平日なので ジョーは当然仕事。 この家の台風、チビ達も
小学生も高学年になるとそれぞれトモダチと遊びに出かけてる。
まあ 晩御飯前にはちゃんと帰ってくるけれど ―
おか〜さん ねえ ねえ おかあさん〜〜
お母さん おかさ〜〜ん お母さんってば
朝から晩まで わいわい ぴ〜ぴ〜〜 纏わりついていた子供たち。
何をするにも < おかあさん > が必須で いつでも どこにいても
すぐに彼女の側に戻ってきていたチビたち。
それが ― 今 彼女の両脇は 空いている。
一時 彼女のスカートの両脇は びろ〜〜んと伸びていたのだが
今は 誰もいない。 スカートは原型を保っている。
「 ふ ん ・・・ あら? ツリーのオーナメントが落ちてるわ 」
紅茶のカップを置いて、彼女はすたすたリビングに入ってゆく。
リビングの隅っこには 中くらいの高さのツリーが飾ってある。
もちろん フェイク、生の樅の樹ではない。
「 あらら ・・・ モールも外れてる・・・
え〜と これでいいかなあ ・・・・ 」
赤と金色の玉を しっかり結びつける。 外れていた銀のモールも
ふんわりと掛けた。
「 クリスマス・ツリー かあ ・・・
そうそう あの時 ・・・ ふふふ ジョーの顔ってば 」
フランソワーズは 一人、クスクス笑い出していた。
まだ ジョーと結婚する前 そう、この邸にやってきた年のこと。
「 ねえ 樅の木 ほしいんだけど 」
「 え? なに もみ・・・? 」
「 そうよ。 樅の木! クリスマスなんだもの 」
「 ・・ あ ツリーってこと? 」
「 そうです〜〜 」
ジョーは やっとわかった という顔になった。
この海辺の屋敷で 初めて迎えるクリスマスなのだ。
フランソワーズは 11月も末になるころから、わくわくしていた。
クリスマス なのよ!
やっと普通に 当たり前に祝えるの!
この前 海岸通りのはずれに教会、みつけたわ。
神父さま・・・優しい年配の方だった・・・
「 ぜひ いらしてください 」 って!
ああ 嬉しいわ 嬉しいわ
クリスマスが祝えるのよ〜 !!
仲間達はそれぞれ故郷に帰っていて 今年はこの家で
博士とイワン、そして唯一の地元民であるジョー と
クリスマスを迎えることとなった。
フランソワーズは めちゃくちゃ張り切っていた!
「 うふふ チキン、用意しましょ。
ブッシュ・ド・ノエル 作るわ〜〜 生クリームとか
お菓子作りの材料、 いっぱい売ってたもの♪
あ! ツリー ! 樅の木って ・・・ どこにあるのかしら 」
ねえ ねえ ジョー〜〜 っと 早速地元民に聞いてみたのだが。
「 もみのき? ・・・ それ なに 」
教会の施設で育った、というこの地元民の少年は ぽかん、とした
顔なのだ。
「 それなに って・・・ クリスマスには必須なの!
樅の木がなかったら ・・・ クリスマスじゃないわ 」
必死に言い募っているうちに なんだか涙がこぼれてきてしまった。
「 わ・・・ な 泣かないでよぉ フラン 〜〜〜
もみのき って ネットで検索して ぼく、探してくるから! 」
「 ・・・ 日本には ないの?
日本のクリスマスには 樅の木を飾らないの? 」
「 え・・・ かざる ? 」
「 そうよ! オーナメント・・・ ほら ぴかぴかの玉とか
キンキラしたモールとか。 てっぺんにはお星様なの 」
「 え・・・ あ ああ クリスマス・ツリ― のこと・・・? 」
「 ええ そうよ。 クリスマス・ツリーは 樅の木よ 」
「 あ〜 なんだあ ツリーのことかあ〜〜
・・・う〜〜ん?? どうだろう?? ホンモノの木・・・?
教会ではフェイクのヤツだったんだ。
それもさ 年代物でもうぼろぼろ・・・ 」
「 ・・・ そうなの ・・・ 花屋さんで売ってるかしら 」
「 さ あ・・・? あ 庭の木じゃだめかなあ 」
「 クリスマス・ツリーは 樅の木なの。 あの香がいいのよ 」
「 ふうん ・・・ あ ちょっと待ってて!
あれって針葉樹だよね きっと北の地域に生えてるんだ!
ぼく ちょっと北海道まで行ってくる! 」
ジョーは さっと立ち上がった。
「 防護服に着替えて 加速装置全開すれば すぐ さ!
あ〜 北海道に生えてるかなあ・・・ダメならロシアまで行っても 」
「 ! ちょ ちょっと本気なの??
そんな ・・・ 待ってまって〜 行かないで! 」
フランソワーズは あわててジョーのセーターをひっつかんだ。
「 え? すぐだよ? 加速装置で 」
「 だ だから! ツリー もって加速したらどうなるのよ?
全部燃えちゃうでしょ?? 」
「 あ・・・ そっか ・・・ 」
「 ・・・ ありがと ジョー ・・・ 」
「 え ・・・ だってつり〜 ないのに ・・・ 」
「 うふ ワガママ言ってごめんなさい。
お庭の木、選んでかざりましょうよ 」
「 あは いいね〜〜 なんかウチのクリスマス〜〜ってかんじ。
あ あのさ そのう〜〜 ケーキ 予約した? 」
「 よやく? ううん。 」
「 あ じゃあ ぼく 今から 」
「 えっへん。 ケーキは わたしが焼きマス(^^♪ 」
「 え え〜〜〜〜 うっそ〜〜〜〜 マジ?? 」
ジョーは ホントにちょびっとだけど 跳びあがった。
「 はい マジ よ。 あのね ブッシュ・ド・ノエル って
知ってる? わたしの国のクリスマス・ケーキ
」
「 ぶっしゅ・・?? しらない。 どんな味? どんな味? 」
「 あのね〜 チョコレート味ね。 チョコレート・クリームを
たっぷり☆ 」
「 う わ〜〜〜〜〜 うわうわわわ〜〜〜〜〜
ウチでつくるウチのクリスマス・ケーキ!! どっひゃあ〜 」
「 うふふ・・・ 楽しみにしててね〜 」
「 うんっ !!! あ それじゃさ ぼく! ツリー 探してくる!
大丈夫、加速しないよ〜 街の花屋さん 行ってくるね 」
「 ありがとう! あ でもあんまり無理しないで・・・
なかったらいいの、ウチの庭の木、使いましょ。
それよりね お使い、頼める? 」
「 もっちろ〜〜ん! なに? 」
「 生クリームとチョコレート。 あ メモ書くわね 」
「 了解!! ダウン着て自転車で行ってくる! 」
「 お願いしま〜〜す 」
その年のクリスマス ・・・
一番嬉しがり楽しんだのは ジョーだったかもしれない。
「 ・・・ うふふ ・・・
結局 庭の木にオーナメント、飾ったけど・・・
それもそれでキレイだったわよね。
久々に食べた ブッシュ・ド・ノエル も美味しかったし 」
ふう ・・・
小ぶりなツリーを眺め フランソワーズはやっぱり
ため息を吐いてしまう。
「 ― もっと前 ・・・ そうよ 普通の女の子で
普通に暮らしていた頃 ・・・ ノエル は家族の楽しみだったわ 」
あの頃 ・・・
クリスマスは家族ですごす大切な時間だった。
彼女の家族が特にこだわっていた訳ではなく、街中が いや
生まれ育った国では 誰もがそう思っていた。
「 うん ・・・ ジャンとファンションへのプレゼントは
これでいいか 」
「 まあ 素敵! ありがとう、あなた。 」
「 ふふふ 喜んでくれるかな 」
「 絶対に♪ あ 今晩、暖炉で栗を焼いてくださる 」
「 おう。 任せておけ。 今年はジャンにも教えるよ 」
「 お願いします。 」
「 二人は? 」
「 ああ マーケットにお使いに行かせたの。
ずっと部屋で騒いでいたから・・・ 」
「 そうか。 ああ ワイン、いいのがあったよ。
君、白が好きだろう? 」
「 嬉しい! 楽しみだわあ 」
「 ふふふ あ ディナーは? 」
「 ええ チキンもブッシュ・ド・ノエルも ばっちり☆
今年のチキン、最高よ。 生牡蠣も上等のを買えたわ 」
「 ほう〜〜 待ちきれないなあ ・・・ 一口♪ 」
「 ・・え? あ・・・ 」
ツリーの前で 二人は熱くキスを交わす。
トタトタトタ −−−−
階段を駆け上る賑やかな足音が響いてきた。
― バン ッ !
「 パパ ママン〜〜〜 ただいまぁ〜〜 」
「 レモン と オレンジ 買ってきたよ 」
マフラーをぐるぐる巻きにした兄妹が 頬を赤くして
飛び込んできた。
「 ああ お帰り ジャン、ファンション 」
「 お帰りなさい お使い、ありがとう 」
「 〜〜〜〜 ん 〜〜 いい匂いだあ 」
「 くんくん あ ショコラ? 」
子供たちは 鼻を鳴らす。
「 ふふふ さあさ ママンの特製ディナーを 楽しみにしよう。 」
「 ねえ パパ。 今年から深夜ミサ、行っていいのかな 」
「 おう ジャン。 しっかり妹をエスコートしろ。 」
「 わあ〜い お兄ちゃんと一緒♪ 」
「 うん。 夜中に出かけるって最高!
」
「 おいおい ミサに行くんだぞ 」
「 わ〜かってるって。 」
「 さあさ 二人とも 熱いショコラよ 」
「「 わあ〜〜 」」
兄妹は 歓声をあげ、湯気のたつカップを受け取った。
イヴの日は いつだって家族であったかく・美味しく・楽しく・・・
深夜ミサに参加し 厳かにクリスマスの日を迎えた。
「 ・・・ そう ね ・・・ あの頃の思い出があるから
わたし ― 大丈夫。 いつだってパパやママン、
そしてお兄ちゃんの愛が わたしには詰まっているんだもの。 」
カサリ。 少々草臥れてきたオーナメントの端っこを整えた。
「 リセに入る頃には そうそう ・・・ボーイフレンドとのデートしたり
ダンサーの仲間達と雪の中を歩いたりしたわねえ ・・・ 」
ふ・・・っと 金髪やら 赤毛、ブルネットの少年たちの顔が
次々に浮かんできた。
「 ・・・ふふふ 大真面目にデートしてたっけ・・・
皆 ・・・ どんなオジサンになったのかな。 幸せでいてほしい・・・ 」
〜〜 ♪♪ ♪〜〜〜 ふんふんふ〜〜ん♪
ふっと口に上ってくるのは ― やっぱり 『 くるみ割り人形 』 の
あれこれの曲。
バレエ界では クリスマス といえば『 くるみ割り人形 』 なのだ。
小さなバレエ教室の発表会から 大バレエ団まで 『 くるみ〜 』を
上演する。
「 また 『 くるみ〜 』? なんて文句言ったりしてたけど・・・
楽しかったな ・・・ 一番初めの時は・・・そうそう
キャンディ・ボンボン だったわねえ 」
ティーンエイジャーになってからは コールド・バレエの一員として
雪の精たち やら一幕の客人たち などで舞台も結構忙しかった。
「 一人前のダンサーになったみたいで なんか得意だったわ。
・・・ プロフェッショナル ってあんなものじゃないのに ね 」
ふんふんふ〜〜〜ん ♪
金平糖の精 のヴァリエーションは、今だってちゃんと覚えてる。
靴下裸足 の 金平糖 が リビングで踊っていた。
「 ふふ ・・・ いろんなクリスマスがあったわ ・・・
皆 みんな 楽しかった ・・・ 」
そして。
あの暗黒時代 ― 聖夜がいつだか 忘れていた。
いや ・・・ 日にちの感覚すらなかった。
正気を保つためには < 普通の日々 > を封印するしかなかったから。
狂気の世界の中では 同じ狂気に染まったフリをし、
心の奥の奥に ニンゲンとしての感受性を閉じ込め、護っていた。
「 ・・・ この部屋 ・・ 内鍵が掛かるのね ! 」
フランソワーズは 一人、感歎の声を上げていた。
滅茶苦茶な逃避行の末 極東の島国までやってきた。
迎えてくれたのは ギルモア博士の旧友、というやはり白髪・白髭の
日本人。 柔和な笑顔が印象的だった。
彼の研究所も兼ねた住居に 全員で身を寄せた。
「 お嬢さんがおられるの。 ムスメの部屋をお使いなさい。
なに もう数年前に嫁に行きましてな、今はアメリカにおります。
どうぞ 遠慮なく使ってやって下さい 」
案内されたのは あまり広くはないが 気持ちのいい私室だった。
内部は 和洋折衷、というかフランス人の彼女には
不思議に映ったけれど ドアにはちゃんと鍵が付いていた。
カチャ。 小さな音が 彼女だけの空間 を護ってくれている。
「 ・・・ ああ ・・・・ ああ
泣いても 笑っても 怒っても いいのね ・・・ !
誰も だれも 聞いてない ! 覗かれたりしない ! 」
ぱたん、と木製のベッドに身を投げた。
ベッド・カバーは 手縫いで作られたパッチワークだ。
「 ・・・ ふ ふふ ・・・ ふ ・・・ く ・・・ 」
清潔なリネンに身を横たえ フランソワーズは 一人 声をあげ
笑っていた。 なぜ 笑うのか自分自身でもわからなかったけれど ・・・
その後、海辺のこの邸に住むようになって < 当たり前の感覚 > が
ひとつづつ 蘇ってきた。
熱々のカフェ・オ・レに感激し 素足に纏わりつくフレア・スカートが嬉しく
ピン・ヒールで歩き周り足の痛みに顔を顰めた。
クリスマス・ツリー を見ても涙が流れた。
この国での最初のクリスマス ・・・ 楽しいのに 嬉しいのに
フランソワーズは 流れ落ちる涙を止めることができなかった。
「 うふ ・・・ へんねえ わたしったら・・・ 」
「 ・・・・・ 」
一つ屋根の下で共に住む茶髪の仲間は 黙って 彼女の肩を抱いてくれた。
あ ・・・ あったかい
・・・ 009 って ・・・?
そして − まあ いろいろな紆余曲折? があり
その茶髪少年と手を取り合い まあ いろいろあり ( あり過ぎ )
やがて ・・・ チビっこ天使たちがやってきた!
それは 天国と地獄が入り混じった大騒ぎの日々の始まりだった。
天使たちが生まれて 初めてのクリスマス、
世界各地の オジサン達 からプレゼントが続々届いた が。
アメリカの赤毛のオジサンからは でっかい天然ツリーが届いた!
「 ぅ・・・ ま まさか自分で運んできた・・・? 」
「 ジョー。 いくらジェットだってそれは無理よ〜〜 」
「 ・・・ああ だよ な ・・・ ああ あまぞん か 」
「 あらあ この木、ちゃんと根がついてる!
ねえ ねえ クリスマスが終わったら庭に植えましょうよ 」
「 あは いいね〜 あ でも針葉樹、育つかなあ・・・
この辺 あったかいし 」
「 枯れることはないんじゃない? 裏庭なら 風もあまり当たらないし。 」
「 そうだねえ ふふ・・・ 将来、すばるが登るかも・・・
なあ すばる? 可愛いすばる〜〜 」
ジョーは 揺り籠に眠る彼の息子に語りかける。 もうデレデレなのだ。
「 そうね そうね、 すぴかやすばると飾りつけ できるわね 」
「 いいね〜〜 ウチのウチだけのツリーだよ 」
「 楽しみね すぴかさん♪ 」
フランソワーズは くちゅくちゅ言ってる彼女の娘のくるくる金髪にキスをした。
・・・ そんな 平穏な時間はたちまち過ぎて ―
「 あ〜〜〜 舐めちゃだめえ〜〜 すばる! ボンボンじゃないのよ 」
「 すぴか! ツリーにのぼらない !! 」
「 ほらほら・・・ キャンディの紙を散らさないで 」
「 リースは! 壁にかけておくの! 遊ぶものじゃありません! 」
静かにしっとり・・・ クリスマスを迎えられるまでは
そう ・・・ 数年掛かった。
チビっこ台風たちの後を 追いかけ回すのに必死だったから。
おか〜さん おかあさん おか〜〜さ〜〜〜ん
朝から晩まで呼ばれ続け 小さな手が彼女の両側にぎっちり
くっついていた。
それが いつしか。 いつのまにか ・・・
今 フランソワ―ズは 一人でツリーを飾り
一人で窓辺で ぼんやりお茶のカップを手にしている。
あ〜あ ・・・ 一人になりたい〜〜〜って
いつも いつも 切望していたのに ・・・
今 わたし、一人。 一人ぽっち ・・
一人の時間を 持て余している わ
一人で ぼ〜〜〜っと してる ・・・
悲しいわけでも 嬉しいわけでも ない。
強いて言えば 心が全然動いていないのだ。
・・・ わたしって ・・・
なんなの ・・・
― ガチャン。 玄関のドアが開いた。
「 ただいまあ〜〜〜 おか〜さ〜ん 」
「 おか〜さ〜〜ん ただいま 」
「 フラン〜〜 帰ったよ 」
夫と二人の子供達の声が聞こえてきた。
「 あら 皆一緒に帰ってきたのね? お帰りなさ〜〜い 」
フランソワーズは カップを放りだし玄関に飛んでいった。
ジョーと すぴか すばる。 皆ほっぺが赤い。
どうやら 父子で待ち合わせて駅向こうの大型モールまで
買い物に行ってきたらしい。
「 えへ〜〜 あのね〜〜 おか〜さん あのね、クリスマス 」
珍しくすばるが 先に口を開いた。
「 あ すばる! ナイショだよ?! 」
「 あ。 あ〜〜〜 あの なんでもなあ〜い〜〜 」
「 あらあら なにかしら 」
「「 えへへ ・・・ 」」
「 ジョー お帰りなさい。 一緒だったのね 」
「 ウン 三人でね、買い物してきたよ。 これ・・・
キッチンに運ぶね 」
ジョーはレジ袋を持ち上げた。
「 まあ ありがとう。 すぴか すばる 〜
お父さんの荷物、 キッチンに持っていって。
そしたら オヤツにしましょ。 」
「「 わあ〜〜〜い♪♪ 」」
ガサガサ トタトタトタ −−−
子供達はあっと言う間にキッチンへ消えた。
「 ふふふ ・・・ 腹ペコさんなのね 」
「 そうらしい。 あ ぼくも! 」
「 まあ ・・・ はいはい。 ねえ なんなの?
ナイショって 」
「 あ? ああ ・・・一応イヴの夜までナイショ なんだけど
・・・ ほら これ。 」
「 え? 」
ジョーは 足元に置いていた袋を持ち上げて細君に見せた。
「 あら ・・・ 綺麗! 薔薇? 」
「 ウン。 それが さ・・・ 」
時間は少し遡る。
フランソワーズが 掃除に精をだしていた頃・・・
若い父親とチビ達は ショッピング・モールでごそごそ相談に熱中したいた。
「 なあ お母さんにも プレゼント、 送ろう。 」
「 え お母さんとこにもサンタがくるの? 」
「 すばるってば〜〜 あんた まだ サンタ 信じてるのぉ〜〜 」
「 え そ そんなこと ・・・ ない ・・・ けど 」
すばるは 口ごもり俯いてしまった。
「 まあまあ ・・・ 皆でお母さんのサンタさんになろうよ? 」
「 あ いいかも〜〜 なに あげるの お父さん 」
「 なに〜〜 ? 」
「 なにがいいかなあ? すぴかとすばるは 何がいいと思うかい 」
「 う〜〜〜ん ?? お母さんの好きなモノ・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・ お母さんさあ お花 すきだよね? 」
「 あ! そうだよ〜〜 お花! うえきばち のがいいよ
ね お父さん! 」
「 そっか〜〜 植木鉢のお花 ・・・ 薔薇にしようか。 」
「 「 うん !! 」」
「 なに色がいいかな 」
「「 まっか !!! 」」
「 決まりだあ それじゃ 花屋さんへれっつご〜〜 」
「「 わあ〜〜い 」」
三人は 散々あれこれ迷ったけど 真紅の薔薇の鉢を選んだ。
「 ・・・で これが。 サンタさんズからお母さんへ 」
「 まあまあ ・・・そうなの?? 嬉しい・・・!
なんて綺麗な色 ・・・ ! 」
「 イヴの夜までこそ・・っと世話するよ。 あ 寝室に置いていいかい」
「 お願いします。 ああ すてき ! イヴの夜が楽しみ〜〜 」
「 ふふふ・・・ あ イヴってば ・・・
あのさ〜〜 今年のメニュウは なに? 」
「 皆さんのリクエストですから。 ウチのイヴのディナーは
恒例のチキンのポトフです♪ 」
「 わあお♪ あ それで ケーキ・・・ 」
「 ご安心ください。 今年もとびっきりの ブッシュ・ド・ノエルよ。
いいチョコレート、見つけたの。 生クリームも予約済み。 」
「 わっははは〜〜〜ん♪ めっちゃ楽しみ〜〜〜 」
「 うふふ ・・・ どっちがコドモなのかしらね 」
「 ? なに? 」
「 い〜え なんでも。 」
「 ん? あ・・・ 」
「 ふふふ ん 〜〜〜 」
フランソワーズは するり、と腕を絡ませキスをした。
「 おか〜〜さ〜〜〜ん ! オヤツぅ〜〜〜 」
「 おか〜さ〜〜ん ぜんぶ しまったぁ〜〜〜 よ〜〜 」
キッチンから高声が飛んできた。
「 ・・・あらら ・・・ 」
「 ふ ・・・ 続きは 今夜♪ 」
「 うふふ・・・ 今夜 ね♪ 」
指を絡み合わせるだけで 身体の奥がきゅん!とする。
「 あ そうだわ。 これ ね・・・ ナイショなんだけど
サンタさんズから お父さんへ なの。 」
フランソワーズは ゆる〜くラッピングされた包みをそうっと取りだす。
「 え? ぼ ぼくに?? 」
「 そうです♪ おと〜さん なにがすき?? って
すぴかとすばるがアタマをひねった結果。 」
「 ちょびっと見ていい? 」
「 ・・・ はみ出てるとこ、見て。 二人が選んだの 」
「 これ・・・ スポーツ・タオル ? 」
「 ぴんぽ〜〜ん☆
すばる がね お父さん、ジョギングする時 使うよね〜って。
すぴかが おっきく名前 書いてくれたわ。 」
「 ・・・・ 」
「 どうしたの? 」
「 ・・・ なんか 涙が ・・・ 」
「 うふふ ・・・ ウチにはいっぱいサンタさんがいるわねえ 」
「 ん ・・・ 」
「 おか〜〜〜さん っ オヤツ はあ〜〜〜 ! 」
「 おかあさ〜〜ん おとうさ〜〜ん おなか ぺこ〜〜〜 」
キッチンからの声は ぐんと大きくなった。
「 あ 行かなくちゃ・・・ 」
「 オヤツ オヤツ〜 ぼくも腹減った〜 」
「 はいはい 皆でオヤツ、いただきましょ。 焼き芋があるの 」
「 わっほほ〜〜〜 」
お父さんとお母さんは 腕を組んでキッチンに向かった。
― さて
イヴの夜には すぴか と すばる に ちゃ〜〜〜んとサンタさんがやってくる。
故郷に戻っているオジサン達からも プレゼントが届いている。
年季が入り、ちょびっとヨレているクリスマス・ツリーは
家族の笑顔をたっぷり 眺めることができるはずだ。
皆と一緒のクリスマスね。
わたしの、わたしの家族の わたしのウチの クリスマス
フランソワーズは幸せの中で呟いた。
Merry Christmas !
************************* Fin. *********************
Last updated : 12,24,2019.
index
************ ひと言 ***********
イヴ前夜小噺 ってことで ・・・・
まあ 結局、 島村さんち はシアワセです♪
皆さま めり〜〜 くりすます (#^.^#)