『 今年のクリスマス 』
一年目はパリだった。それも廃墟の中できみに撃たれるという衝撃のオマケつき。
並んで見上げた冬空の花火が妙に目に焼きついている。
でもぼくは、ようやく彼女の名前が呼べたんだ。 彼女も ・・・ ぼくを名前で呼んでくれたよ。
この時やっとぼくらは 009と003 じゃなくて、 ジョ−とフランソワ−ズ になった。
二年目は最低だった。 戦場の真っ只中、それも下手したらヤバい気配が濃厚だった。
ぼくはなんとか突破口をあけようと物陰からずっとヤツラの気配を伺っていた。
トリガ−にかけた指が痺れそうだ。 防護服を通しても夜気が深々と冷えてきているのがわかる。
ふわ・・・と空気がほんの少し揺れて、きみが隣に移動してきた。
さすがに、003だ。 気配はほとんど感じられない。
索敵の結果なにか掴んだのか、とぼくはちらりと彼女に視線を走らせた。
ばちっと目が合ってしまった・・・・と思った次の瞬間。
「 ・・・ああ、日付が変ったわ。 はい、プレゼント♪ 」
きみは・・・ まったく平静な、日常的な調子で言うと さっと伸び上がって ・・・
− ぼくに キスした ・・・ !
それも。 おでこや頬なんかじゃなく。 ちゃんと、本当に、ぼくの唇に!
勿論、ソレはさっと掠めるキスだったけど。 でも。
ぼくが仲間達のこともヤツラのことも ・・・ 一瞬全てを意識から消し去りぼく自身が
フリ−ズしている間に きみはさっさと元の場所に戻っていった。
戦場には不似合いな、ぼくの名前を呼ぶキミの声がいつまでもこころの中に響いていたよ。
それは ・・・ クリ−ムたっぷりのどんなケ−キよりも甘く、纏っている特殊な赤い服よりも
ほかほかとぼくを暖めてくれたよ。
・・・そして 今年、 三年目。
ぼくらは、いやぼくは ・・・ ぼくの生まれ育った国で暮らしている。
博士とイワンと。 そして きみと。
この邸も焼け落ちて建て替えたりしたけれど、最近は落ち着いて回りの風景とも
しっくりと馴染んで来たみたいだ。
イワンのちょっとしたマジックのおかげもあるけれど、地域の人々はこの邸を
岬の洋館、と呼んでさして好奇の目で眺めているわけでもないらしい。
フランソワ−ズはごく当たり前ってカンジにイワンをベビ−カ−に乗せて地元のス−パ−に
買い物にゆくけど、結構顔なじみになってさり気ない立ち話をする人々もいるそうだ。
ようするに。 ぼくらは 普通の日々 を淡々と送っている。
だけど。 こんな風に穏やかに静かに過ぎてゆく日々がこんなに素晴らしいんだって
ぼくは初めて知ったよ。
昔・・・っていうか、その、ただの島村ジョ−だったころ、当たり前に思って時には
あまりの<普通>さに苛立ちを感じたりもしていたけれど、
今ぼくはこの穏やかな日々の大切さがわかるようになった。
・・・もしかしたら。 それはきみがいてくれるから、かもしれないけれどね。
実際、こんな日々が送れるようになるまでには 本当に、本当に
いろいろなコトがシャワ−みたいに襲いかかって来た。
目が覚めてぼくがこの身体になっていて・・・ 何がなんだかわからないまま、
みんなと行動を共にして 生まれて初めて戦場に放り出された。
死に物狂いって表現があるけど、ぼくは。 まさに死に物狂いで毎日を駆け抜けていたんじゃないかな。
今思えば、そんな時でもきみはいつもぼくの側に居てくれたのに・・・
ぼくは気がつく余裕さえなかった。
あの時。
そう、あのとき、流れ星にならなかったら。
ぼくは永久に自分自身の、そしてきみの気持ちに気がつかなかっただろう。
だからぼくは決心したんだ。 そう、決めたんだ。
三度目の正直っていうだろ? 今年こそ。
ぼくの長い間の夢・・・いや、憧れを実現するんだ!
「 クリスマスをやろうよ。 ね、いいだろう? 」
12月も半ばに差し掛かったある晴れた朝、ぼくはギルモア邸のリビングで皆に宣言した。
・・・ みんなって言っても、ぼくのほかには3人しかいないけどさ。
「 うん? ああ・・・ もうそんな時期じゃったかの。 」
そんな時期って、博士! あと10日もないんですよ!
「 あら。 ジョ−も深夜ミサに行く? この辺だったら・・・ 駅の向こうに教会があるわよね。 」
え・・・ そうじゃなくて。 あの、その・・・。
「 キミハ くりすちゃんダッタッケ? 」
あの〜 日本人は・・・宗教にはあまり頓着しないんだよ。
「 いいよね? じゃあ、ぼくに任せて! 」
勢い込んで胸を叩いたぼくを、3人はちょっとびっくりした顔で眺めていた。
・・・そんなに ヘンかな?
まあ、いいや。
とにかく まずはクリスマス・ツリ−を見つけてこなくちゃ。
そんなに大きくなくてもいいんだ。 枝ぶりのいい、元気な樹がいいなあ。
「 おや。 ジョ−はどうしたんだね。 外出か? 」
「 ええ・・・ 多分。 」
翌日、お茶の時間にリビングに現れた博士は 驚いて辺りを見回した。
ソファにはフランソワ−ズが一人ぽつんと座っていた。
そういえば、イワンのク−ファンも見当たらない。
ジョ−が赤ん坊を連れて出かけたのだろうか。
珍しいこともあるものだ、と呟き博士は腰を下ろした。
「 朝食後に、わざわざ防護服に着替えて・・・ふらっとどこかへ出かけたのですけど。 」
「 ほう? なんでまた・・・ 」
いい匂いを振りまきフランソワ−ズは紅茶を淹れる。
「 さあ・・・。 それで、ランチに一旦帰ってきて今度はイワンも一緒にいなくなったんです。
あ・・・ごめんなさい・・・ 手が滑って 」
かちゃん、とカップがゆれてソ−サ−にすこし零れてしまった。
「 ああ、かまわんよ。 このままで・・・ 」
博士は鷹揚にうなずき、今度はきちんとフランソワ−ズに向きあった。
「 いなくなった、だと? ジョ−連れて出たのではないのかね。 」
「 いいえ。 ジョ−はまた防護服のまま出て行って、そのすぐ後にイワンが<消えた> ました。
ですから ・・・ 多分一緒じゃないかなって・・・ 」
「 ああ、そうかもしれんな。 まあ、そんなに心配する必要もあるまい。 」
「 ええ・・・ でも、ジョ−はまだしも、イワンは・・・ベビ−服だけなんです。
風邪ひかなければいいのですけど。 」
「 う〜ん ・・・ しかし、ここで気を揉んでもなあ・・・」
「 見つけたよっ! フランソワ−ズ! 博士も〜 ! 」
博士の言葉が終わらないうちに、ジョ−の声が庭から響いてきた。
「 え・・・ なに? ジョ−ォ?! 帰ってきたの? 」
「 ねえったら! フラン〜〜 庭に来て? 」
「 何処へ行ってたの ・・・ あらっ! 」
「 ね?すごいだろ〜〜 」
フランソワ−ズはティ−ポットを慌てて置いて庭に走り出た。
邸の南側の地はこのごろ、彼女の丹精が実ってやっと庭らしい趣がでてきた。
そこに 島村ジョ−はにこにこ顔で立っていた・・・ 大きな樹を片手で支えてながら。
「 ・・・どうしたの? それって・・・ 」
「 クリスマス・ツリ−さ。 やっと見つけたんだ。 」
目を見張り絶句しているフランソワ−ズに、ジョ−は得意げである。
「 見つけたって・・・ 花屋さん? 植木屋さん ・・? 」
「 残念でした! なかなか気に入った樹が見つからなくて・・・
北の森まで行ってみたんだ。 うんと奥の方なら・・・ 誰の樹でもないと思ってね。 」
「 ・・・ ジョ−、あなた、そのために防護服を・・? 」
「 うん、加速装置でならすぐだから・・・ それで、見つけた! ほら! 」
ジョ−はわさ・・・っと手をかけた樹を揺すってみせた。
「 あら ・・・ いい匂い・・・・ クリスマスの香りね。 」
針状の葉が揺れると 樅の樹特有のちょっと青味を帯びたにおいが香り立つ。
「 ほんとだ、そうだね〜これってクリスマスの匂いだ。 」
ジョ−は嬉しそうにくつくつと笑い、よ・・・っとその樹を持ち上げた。
「 イワンに頼んで、根っ子から<運んで>もらったんだ。
クリスマスが終わったらウチの庭に植えようかなって思って。 」
「 まあ、素敵ね! あら、じゃあちょっと待ってて。 なにか大きな入れ物を探してくるわ。 」
「 うん、頼むよ。 」
・・・楽しそうじゃの。 まあ、二人とも歳相応でイイコトじゃ。
香り高い紅茶を啜り、博士は庭から響いてくる笑い声に一緒になって微笑んでいた。
「 博士モ ソウ思ウ? 」
「 うん? ああ、イワンかい。 お帰り、寒くはなかったか・・・ 」
「 タダイマ。 じょ−ニ付キ合ワサレテ疲レチャッタヨ。 」
ほよん、と浮いてきたク−ファンの主を覗き込み、毛布の端を包みこんだ。
「 それはお疲れサン。 ではミルクを作って来ようかの。 」
「 ウン、オ願イスルヨ、博士。 ・・・ア、熱過ギナイヨウニネ。 」
ほいほい・・・と博士は赤ん坊を抱えるとキッチンへ出て行った。
ジョ−が捜してきた樅の樹は リビングの一角を占領してやっと収まった。
「 こんなに大きな樹だったんだ・・・ 山で見たときは小さいかなって思ったんだけど。 」
「 凄いわね。 お部屋の半分が森になったみたい。 」
「 あ・・・ 邪魔かな。 やっぱり外に置こうか。 」
「 ううん、ううん。 そんな意味じゃなくて・・・ このままで素敵よ。 」
「 そうかな、それなら・・・嬉しいんだけど。 」
本気で樹を外に戻そうとしたジョ−を フランソワ−ズはあわてて止めた。
「 森のクリスマスね、ジョ−。 」
「 うん・・・ あ、飾り、飾り! 星とかきらきら光る球とかモ−ルとか・・・ 」
「 そうねえ。 こんなに大きいと沢山必要ね。 」
「 僕ト博士ニモ参加サセテクレナイカナ。 」
「 あら、イワン、ミルクは終わったの? 」
突然割り込んできた<会話>に フランソワ−ズはにこやかに応えた。
「 ウン。 オ腹イッパイサ。 ネエ、じょ−、イイダロ? 」
「 勿論さ! ウチのクリスマスだもの、みんなでやろうよ。 」
ジョ−もご機嫌である。
そうさ。 誰かのクリスマスに参加させて貰うんじゃなくて。
ウチの、みんなで祝うんだ。 まるごと、独り占めの、ぼく達だけのクリスマス!
晩御飯のメニュ−は ・・・ やっぱりロ−スト・チキンだな〜
あと、勿論ケ−キ♪ うん、できれば両方とも まるごと がいいな。
「 ジョ−? なあに、なにをぶつぶつ言ってるの。 」
「 ・・・え? ああ・・・ごめん・・・ 」
ツリ−を見上げてひとり、呟いていたジョ−の腕をフランソワ−ズが引っ張った。
「 あの、さ。 お願いしても、いい。 」
「 あ・・・わかった! わたしが当ててみせるわ。 ケーキ。 クリスマス・ケ−キのことでしょ? 」
「 え・・・ どうしてわかったの? 」
目を丸くしているジョ−が フランソワ−ズには可笑しくてたまらない。
・・・ 本当に。 このヒトが009だなんて・・・誰も思えないわよねぇ。
赤い服を纏い戦地を駆け抜け暗黙の中に先頭に立っていた戦士と同一人物だと
思う方が無理というものかもしれない。
でも、これでいいのよ、とくすくす笑ってフランソワ−ズは頷いた。
「 任せて・・・って、でもお店で買うみたいに凝ったのは出来ないけど。
それでもいいかしら。 なにかリクエストはある? 」
「 え〜 いいの? 本当に作ってくれるの? わ・・・ すごい。
あのさ、丸ごとのケ−キなら。 きみにお任せさ。 」
「 丸ごと? 」
「 うん。 ・・・施設にいた頃、クリスマスにはちゃんとケ−キが出たけど。
でも、ひとり一切れっていうか・・・ どこかのケ−キ屋さんが寄付してくれた普通の
切り分けられたケ−キだったんだ。 人数もいたから、仕方ないんだけど。 」
「 ・・・ まあ。 」
だからね、とジョ−は照れくさそうに笑った。
「 ケ−キでもツリ−でも。 丸ごと用意して・・・その・・・目の前で分けてみたいなって、さ。 」
「 いいわ、じゃあ・・・張り切って焼くわね! ・・・それならディナ−のチキンも丸ごとがいいの? 」
「 うん・・・って、大丈夫? 」
「 う〜ん・・・? 昔ママンが作ってくれたのを思い出してみるわ。
ちょっと味に自信はないかも・・・ それともお店で買ってきましょうか? 」
「 ううん! あ・・・いいのかな・・・ できればきみの手作りが食べたい。 ・・・だめ? 」
・・・ まあ、このヒトって・・・ 小さな子供みたいね〜 いちいち、いい?ってヒトの
顔を一生懸命で見て。 ふふふ・・・ 本当に可笑しな ・・・ ジョ−。
ええ、いいわ、ともう零れる笑みを隠すこともできずにフランソワ−ズは喜んで引き受けた。
「 すごいな〜 なんだか・・・本当のクリスマスになっちゃうよ〜 」
「 やだ、ジョ−。 本当のってなによ? 」
「 ・・・あ。 そうだよね・・・ ごめん。 」
「 やだわ〜 ごめんって言うこと、ないでしょ。 ・・・可笑しなヒト。 」
「 ・・・ ぼくって・・・ ヘンかなぁ・・・ 」
「 ヘンじゃないけど。 可笑しいわ。 」
青々と枝を広げる樅の木の前で 二人はくすくすと笑い続けていた。
クリスマス本番を前に <ギルモア邸のクリスマス>計画は着々と進んでゆく。
「 どうじゃな。 ちと、巷で見る飾りとは違うがの・・・・ 」
クリスマス前の日曜日、午後いっぱいリビングを立ち入り禁止にして
博士はワインとなにやらごそごそやっていた。
そろそろ日が落ちるころに、博士は少々得意げな様子で二人を呼び入れた。
「 ・・・ わあ! 」
「 すごい・・・! 」
パチンと博士が電気を消すなり、ジョ−とフランソワ−ズは一緒に歓声をあげた。
ジョ−の樅の樹には 青白い光の流れが幾筋も流れていた。
「 例の・・・ちょっと前に話題になった青色発光ダイオ−ドを応用したのじゃよ。 」
博士の説明に頷きつつ、二人は言葉をわすれその幻想的な光に見入っている。
イワンとの共同作品は シンプルな、でもクリスマスに相応しい荘厳な美しさを創りだしていた。
「 コレハ僕カラ皆ヘノくりすます・ぷれぜんとサ。 」
「 ありがとう! イワン。 」
「 素晴らしいわ・・・ イワン、ありがとう。 」
二人から両頬もキスをもらい、赤ん坊もご満悦である。
こうして舞台装置はすっかり整い ギルモア邸はその年のクリスマスの日を迎えた。
「 今日はキッチンに入らないでね。 ランチはサンドイッチをリビングに置いておくから。 」
朝食を終えると フランソワ−ズはきりり、とエプロンの紐を締め上げ博士とジョ−に宣言をした。
「 え・・・ なにか手伝うこと、ないの。」
「 大丈夫。 楽しみに待ってて? ジョ−。 」
「 ウン・・・ 」
キッチンを覗きたいジョ−を フランソワ−ズは笑って押し出した。
「 ここは わたしに任せてね。 」
さて。 ジョ−ご指定の丸ごと・チキン。
これは結局張々湖の助力を借りることになった。
彼はいま、大規模な飯店を構えているが折りにふれてこの邸にやってくる。
数日まえに料理の本と首っぴきであれこれ悩んでいたフランソワ−ズに快く手を貸してくれた。
「 ナニね? ・・・ああ、ロ−スト・チキン。 丸ごと? 」
「 ええ、そうなの。 ジョ−のリクエストなんだけど・・・ わたし、丸ごとは初めてで。」
「 はあん? ・・・ほんなら、ワテが焼いてきまひょ。 ここのみなはんへの
ワテからのくりすます・ぷれぜんとアルよ。 」
「 あら〜 嬉しいわ〜 じゃあ、わたしはケ−キに専念するわ。 大人もどうぞ食べに
来て頂戴。 」
「 う〜ん・・・当日はちょいと無理やな〜 わてらの分を取っといておくんなはれ。 」
「 ええ、勿論。 付け合せのサラダやス−プはわたしが作るわ。 」
こうして 当日のディナ−の準備も怠り無く進み始めた。
着々と進む準備を横目に、言いだしっぺのジョ−は今ヒマを持て余していた。
さて、自分は何をしよう?
ツリ−の飾りは ・・・ フランソワ−ズも可愛い小物を作って飾ってくれたし。
あれ。
なんか・・・忘れてるよなぁ?
・・・ そうだよ! プレゼント!!
ジョ−は本当にちょっと飛び上がってしまった。
そうだ、そうだよ・・・ ちっとも考えてなかった・・・・
教会で暮らしていたころは <みなさんに>って
全員同じ袋詰めのお菓子とか・・・ あまり趣味ではないタオルとかもらったけど。
誰かにプレゼントをあげたりすることはなかった。
とにかく、街へ行ってみよう、と彼は慌てて年の瀬の街に出かけていった。
・・・はあ。
数時間後。 海岸に座り込み 島村ジョ−はもう何回目かわからない溜息に溺れている。
勢い込んで街に繰り出したが ・・・ 貴金属店では 目がチカチカ。
おびただしく並ぶ様々なアクセサリ−に圧倒され、 そこに群がる大勢の女の子にも圧倒され。
最強であるはずの戦士は あっという間に尻尾を巻いて退散してしまった。
それでは、と立ち寄ったデパ−トではむやみに歩き回るだけで
・・・ 結局目移りしてなにも決められない。
最後のトリデ、と駆け込んだ量販店は あまりのヒトの多さとその熱気に たじたじとなり・・・
結局 こうして・・・ 海岸でぼ〜っと膝を抱えている。
どうしよう・・・
コツン。 伸ばした手に砂に埋もれかけた貝殻が触れた。 ・・・・ そうだ!
<その日>のディナ−、ジョ−は新しい料理が出てくるたびに
感嘆の声を上げていたが 仕舞いにはそれは満足の溜息に変ってしまった。
「 さて。 それでは・・・ 」
ケ−キもお腹に収まったころ、博士がにこにこと二人を見つめた。
「 これは・・・わしからじゃ。 」
嬉しそうに博士が差し出した メタリック・ブル−と ピンクの 携帯電話。
「 普通の生活には 必需品だろう? <家族割引>とかがあっての。
・・・ははは、娘と息子の分じゃ、と言って申し込んだよ。 」
「 わ! ぼく、自分だけの携帯って・・・初めて! 嬉しいなあ・・・ 」
「 まあ・・・ 便利になったのですねえ。 電話がねえ・・・ ふうん? 」
博士の < 娘と息子 > は、新しい玩具に夢中になっている。
( 実はな。 娘夫婦と孫の分、と言ったんじゃが。 ・・・ジョ−、頑張れよ? )
どこにでもいる、楽しそうな普通の少年と少女・・・ そんな二人の一面を垣間見て、
博士もまた、ほのぼのと心あたたまる思いだった。
「 わたしは、ね。 」
くすくす笑ってフランソワ−ズはテ−ブルの下から大きな紙袋を取り出した。
「 博士が家族割引なら・・・わたしは みんなおそろい、よ。 」
ふぁさ・・・っと白いふわふわが袋から転がり出た。
「 はい、博士には・・・肩掛けにもなる幅広のマフラ−。
イワンはお包み。 大好きなボタンを端っこにつけておいたわ。 」
・・・ジョ−にはね。
フランソワ−ズは立ち上がると 手にしたふわふわのカタマリをジョ−の首に巻きつけた。
「 普通のマフラ−よ。 この辺りは風が強くて寒いから。 」
みんな同じ白い毛糸で丁寧に編んであった。
「 ね? 家族でお揃いなの。 」
「 ・・・ きみは? きみのもあるよね。 」
にこにこと自分を眺めているフランソワ−ズに、ジョ−は恐る恐る尋ねた。
「 わたし? う〜ん・・・これから編むわ。 」
「 え・・・ じゃ、じゃあさ。 コレ、このマフラ−・・・その・・・一緒に使おうよ。
そのぅ・・・家族で、さ。 」
消え入りそうなジョ−の言葉に フランソワ−ズは満面の笑みで応えてくれた。
「 ありがとう、ジョ−。 じゃあ時々貸してね。 」
言葉が出ずにジョ−はただやたらと こくこくと頷いていた。
「 ぼくは・・・。 こんなので気に入ってくれるかな・・・・ 」
もじもじした挙句、ジョ−がテ−ブルの上に広げたものは・・・
「 ・・・わあ〜〜 綺麗! なあに、これ、貝なの?? 」
自分に、と渡された小箱を開いてフラソワ−ズは歓声をあげた。
「 桜貝っていうんだ。 下の海岸で集めたんだけど。
アクセサリ−とかに加工できるらしいよ。 」
「 なんて綺麗な色なの・・・ ああ、このままで十分よ、
加工するのはもったいないわ。 ありがとう!ジョ−。 すごく素敵・・・ 」
フランソワ−ズは溜息をついて 掌に貝をのせその色合いを楽しんでいる。
ジョ−は・・・ ジョ−も。
ピンクの貝を摘まむ彼女の白い指先にしばし見とれていた。
博士には 波に侵食された貝を磨いてつくったパイプ置き。 灰皿も兼用。
「 ほほう・・・これは面白い! 」
微妙にまろやかな形になった貝をもちあげ、博士は感心して眺めている。
「 ア? 海ノ音ガスルネ ・・・ 」
イワンはク−ファンの中でじっと耳を澄ませている。
彼には ちいさな巻貝を連ねて吊るした<メリ−・ゴーランド>
ゆれる度に貝が触れ合って 細い海鳴りのような音がひびく。
なんだか、拾い集めたものばかりでさ・・・と頭を掻くジョ−に
三人の<家族>は にこにこ顔で答えた。
ジョ−、ありがとう! お前・あなた・キミ らしくて素敵だね、と・・・・
「 あ・・・楽しかった! チキンもケ−キも ・・・ 美味しかった! 」
ジョ−は テラスに出るとうん・・・と伸びをした。
温暖な地方とはいえ、さすがに12月も末の夜気がつうんと身にしみる。
でも、ジョ−の火照った頬には その冷たさが心地よかった。
博士とイワンをベッドに送り、二人で後片付けも終わらせた。
ジョ−は・・・ なんだか久し振りにお祈りをして休みたい気分だった。
「 ジョ−? 寒くないの。 」
からり、とフレンチ窓が開いてフランソワ−ズがジョ−の側に佇んだ。
「 あの。 フランソワ−ズ ・・・ 」
「 なあに。 」
「 あの・・・ 今日は本当に ・・・ ありがとう。 」
え?と蒼い瞳が ジョ−を見上げた。
ジョ−は初めおずおずとフランソワ−ズの肩に手をかけたが・・・
やがて 意を決して彼女をぐいと抱き寄せ。
目を丸くしているこのフランス娘の サクランボの唇を ・・・ うばった。
「 ・・・あの。 ごめん ・・・ 」
・・・くすっ
「 あ、やっぱり ぼくってヘン? 」
いいえ、いいえ。 ・・・・ああ、ジョ−。 とっても素敵なプレゼントをありがとう!
くすくす笑ったまま・・・フランス娘は ジャパニ−ズボ−イの首に腕をからめ・・・
そうして・・・
おかえしキス。
今年のクリスマス。
そうだね、きみとぼく。 知り合って ・・・ 三年目のクリスマス。
ぼくは ここに家族を見つけ ・・・・ きみと初めて ・・・ 本当のキスをした。
***** Fin. *****
Last updated:
12,20,2005. index
*** 言い訳 ***
クリスマスです、はい、お約束の甘々〜〜♪ です。
平ゼロで ヨミ編と完結編への序章の間くらい。 こんなのんびりした
普通の日々があってもいいんじゃないかな〜〜・・・と。
わたくしからのジョ−とフランソワ−ズへのクリスマス・プレゼント、かも〜(^_^;)