『  ちょこれいと  』

 

 

 

 

   ガサガサ ゴソゴソ ・・・

 

「 あ〜〜ん この荷物、どうしよう〜〜

 手が空かないのよね でも下に置く、のはちょっとなあ 」

フランソワーズは 玄関ドアの前で文字通り 足踏み をしていた。

ぱんぱんのショッピング・バッグで両手が塞がっているのだ。

さらに左腕でもうひとつ、袋を下げている。

「 う〜〜〜 手を翳さないとセキュリテイは解除しないし・・・

 チャイムも押せないし〜〜 」

 

ギルモア邸の玄関ドアは鉄壁のセキュリテイを誇り、銃弾やレーザーでさえ

通さない。 

このドアを < 開ける > ためには まずは登録者だけに反応するセンサーに

対処する。 手を翳すだけだが実はAIが瞬時に多種のデータ・チェックをする。

フェイク・データで 通過することは、まず不可能だ。

あと一つの方法は ごく普通にチャイムを押し、中のニンゲンにドアを

開けてもらう である。

 ― で あるが。 この第二の方法を突破するのは至難のワザである。

 

   なぜなら  住人は最新・最強のサイボーグ と 視聴覚強化の

 サイボーグ そして その開発者 なのだから。

 

「 う〜〜〜 ・・・ 誰も見てない わね 」

彼女は周囲を見回し カラスさえいないことを確かめると 

「 ふふん  奥の手を使うわ ! 

かぽん。  片脚の靴を脱ぎ棄てた。

そのまま ひょい、と片脚を目の高さまで上げ ― 両手に大荷物を抱えたまま ―

チャイムのスイッチを 足指で押した。

 

     ぴんぽ〜〜〜ん ・・・   は〜い どなたですか〜〜

 

すぐに内側から 聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「 わたし! ・・・ジョー 開けて。 両手が荷物でいっぱいなの〜〜 」

「 ・・・ へ?  あ ああ フランだね〜 

 ちょい待ち〜〜〜   」

 

  ガチャ ・・・ ごく簡単にドアは開いた。

 

「 お帰り〜〜  う わ・ すっげ荷物〜〜〜 

「 わ ・・・ こっちの袋 持って 持ってぇ〜〜 」

「 お〜〜っとぉ あ 破れた・・・ 」

「 きゃ  中身 出てない? 」

「 それは大丈夫。 ほら そっちのも 」

ジョーは 手を差し伸べてくれた。

「 あ これはね 卵が入ってるから ・・・ しずかに ね 」

「 へいへい・・・ そうっと。 」

「 あ〜〜〜 重かったぁ・・・ ふう〜〜 」

どさ どさどさ。 玄関の上がり框にショッピング・バッグを置いた。

ジョーは その数にびっくりしている。

「 うわ 〜〜  これ 全部もってきたのかい? 

 デリバリーとか頼めばいいのに 」

「 あの〜ね いろいろなお店で買ったから・・・ まとめて頼めなかったの。

 それに〜〜  この位 持てる! と思ったの。

 わたしだって ・・・! 

「 はいはい きみに殴られたら十分 痛いよ。 」

「 ・・・ わたし 殴ったことなんか ないわよ? ジョーのこと。 」

「 たとえだよ   た ・ と ・ え! 

 けど こんだけ持ってて どうやってぴんぽんしたわけ? 」

「 え〜とぉ・・・ それはぁ   あ! 003の特殊能力を使ったの。 」

「 え。 特殊能力??  ぼく、しらないんだけど 

「 あ〜〜 個人情報ですので公開は控えたいと思います。 」

「 ・・・ あ  うん・・・ そりゃ ・・・ 」

「 さあさあ〜 お茶いれましょ。 ジョーの好きなクリーム・ワッフル

 買ってきたわ 」

「 お♪ わあ〜〜い♪  お茶 淹れるね 

「 お願いね  わたし オ・レ。 」

「 了解〜〜〜 」

「 あ これは冷蔵庫・・・  いえ この季節なら大丈夫よねえ

 キッチンの勝手口付近に置いておけば 冷え冷えね 」

彼女は 大きな袋を持ち上げた。

「 ??  なに それ。 ミカン? アイス? 」

「 あ〜〜  違うの  出来れば涼しいトコに置いておきたいのね 

「 ふうん・・? 

「 この季節なら大丈夫って思うけど・・・ 」

「 ??? 」

「 えっと ここに置こうかしら  あ ? あ〜〜〜 」

 

  トンッ !  彼女のスリッパがリビングへの敷居につっかかり・・

 

「 きゃ・・・ 」

「 ! おっと 」

咄嗟にジョーは腕を伸ばし 彼女を支えたが ― その弾みで

買い物袋からは 中身が飛び出してしまった。

「 あ ・・・! 」

 

     ざらざらざら ・・

 

床の上は  チョコレートの海 になっていた。

 

「 あちゃ〜〜 ごめん! 」

ジョーは屈みこんで すぐに拾い集め始めてくれた。

「 あ ジョー・・・ わたしが躓いたから・・・

 あ ・・・ ありがと 

フランソワーズも 慌てて側に屈んだ。

所謂 板チョコ、ミルクタイプ が 床一面に広がっている。

周囲は なんとな〜〜く甘い香りが漂った。

「 ・・・ なんだってこんなにたくさん買ったのかい 

 ほら こっち側の分。  あ ソファの下にも 

「 あ〜〜  ありがとう! もう ・・・ こんなトコにまで 」

「 多分割れたりはしていないと思うけど・・・

 え〜〜と これで全部かな 

二人は 床に這いつくばって部屋中に跳んだモノを

拾い集めている。

「 もう〜〜 部屋中に飛んでいったわ 

 ジョー ありがとう! 」

「 どういたしまして・・・  でもなんだってこんなに

 チョコを買ったの?  」

「 え  」

「 チョコレートの研究でもするつもりかい 」

「 ・・・ あ〜 あの ・・・

 ねえ! ジョーってばわざと聞いてるの? 

「 へ??  な なに・・・ 

いきなり眉を吊り上げた彼女に ジョーはびっくり。

「 ご ごめん ・・・・ あのう なんか そのう〜〜

 気に障ること、言った? ぼく・・・ 」

「 だ〜から。 わかっててわざわざ質問しているの? 」

「 ・・・ あの な なにが ・・・ 」

「 ! チョコの使い道 」

「 だ だから どうして・・・って。 そんなにチョコを

 買ったのですか・・・って思っただけで 

「 ・・・ ほんとう? 」

「 ・・・ 」

ジョーはもう黙ってただただ頭を縦に振り続けている。

口下手な自分が 的確な説明をできるワケないのだ。

言えば言うほど 余計にハナシがこんがらかる ― ということを

ジョーは 今までのつら〜〜い経験からよ〜〜〜〜く学習していた。

 

「 ・・・ そう なの? 」

彼の真剣な顔に フランソワーズはやっと表情を和らげた。

そして ちょこっと頬を染めた。

「 あの! これは 14日用 です! 

「 14日??? 

どこまでも どこまでも どこまでも ニブい彼は またしても

ぽかん、としているのだ。

「 ・・・ あのね! ヴァレンタイン・デー よ!

 プレゼント用のチョコを作る材料です! 」

「 ばれんたいん・・・?

 ・・ あ ! あ〜〜〜〜〜  あの!

 オトコがチョコをもらう日 のことかあ 」

「 ・・・ え。 ( そういう風に思ってるわけ?? ) 」

「 え〜〜 これ全部作るのかい? 」

「 ええ そのつもり。 

「 あ〜〜 そのう 全部 オトコに贈るんだ?

 ・・・ きみが 好き な ・・・?  」

「 ・・・ だってそういう日なのでしょう? 

 日本では女の子たちが オトコノコに 」

 

     ち  が〜〜〜う   ・・・ !

 

ジョーはあやうく叫びそうになり ― なんとか < 制止 > した。

「 あの さ。  義理チョコ ってのがあって 

「 ??? ギリ?? 」

「 たとえば  」

彼は 深呼吸してから 日本のばれんたいん・で〜 におけるチョコレートの

ヒエラルキーについて ( 義理チョコ とか 友チョコ とか。

 そして 本命 とか ・・・ ) 解説をした。

 

「 〜〜 と いうわけデス。 

「 そう なの・・・ ふうん 

「 まあなあ  OLさん、あ オフィスで仕事してるヒト達だけど

 同僚の男性とかに 義理チョコ 配ったりするんだって。 

「 そうなの・・・  日本の習慣、よくしらなくて・・・ 」

「 当たり前だよ  ちょっと特殊だからね 」

「 そっか ・・・ あ でもね、

 バレエ団のみんなにもって行くつもりなのよ〜〜

 あ それと 大人でしょ グレートでしょ 博士でしょ。

 コズミ先生にも!  も〜〜〜 大変 」

「 あ そうなんだ? 」

「 あのね・・・ 包むの、手伝ってくださる?  」

「 い いいけど ・・・ 」

「 うれし〜〜〜 

「 ・・・ あの さ  聞いていい 

「 なあに? 」

「 あの あ〜〜 そのう〜〜〜 きみの故郷では どんなふう?  」

「 なにが 」

「 そのう〜 バレンタイン ・・・ 」

「 え?  ああ べつに恋人同士に限らないわ

 親しい友達とか家族とかにプレゼントするわ。

 あ チョコに限定しないのよ 花束とかキャンデイとか・・

 やっぱりね、花束は嬉しかったわあ 」

「 え。  ・・・ も もらったこと、あるの 」

「 あるわよお〜〜  当然じゃない? 

 好きなヒトからもらったものは もう最高よぉ 」

「 え。 そ そういうヒト いたわけ? 」

「 あらあ〜〜 当然でしょう わたし、お年頃の女子よ〜 」

「 そ そなんだ ・・・  で フランも あげ た ・・? 」

「 ええ キャンディ とか お洒落なチーズとかワイン、 

 あ シガーを贈ったこともあるわ  」

「 そ  そうなんだ ・・・ 」

「 ふふふ〜〜 好きなコの好みを それとな〜〜く探っておいたりしたし。

 楽しかったわあ 」

「 そ そう ・・・ 」

「 でも 日本ではチョコがほとんどで・・・

 それも 女性から男性にあげる日 なんでしょ? 」

「 あ〜  まあ  ・・・・ ね 」

「 だから〜〜 手作り ってきめたの。 

 さっきジョーが教えてくれた ぎり? じゃなくて。

 友ちょこ かなあ。  だけど心を込めて手作りしたいわ 

「 そう なんだ ・・・ 」

 

     きみのリストに ぼく ・・ 入ってる??

     

     きみの 本命 は  誰なんだ??

 

腹の中で叫びつつ ジョーはごくごく < ふつ〜 >を装い

あまつさえ 余裕をみせたく・・・

< 温かく見守る > 立場にいる! 風な顔をしていた。

 

 ・・・墓穴を掘ってるよ! ジョー君!

 

「 ねえ 見て? ラッピング・ペーパーとかも

 選んできたの。  可愛いのがたっくさんあって困っちゃった 

「 ふ ふうん 」

「 さあ  これから頑張るわ♪ 

 あの・・・ 本当に手伝ってもらえるの ラッピング。 」

「 あ ああ いいよ。 」

「 ありがとう! 嬉しいわあ〜 」

「 あ ・・・ ジェットやアルベルトにも 贈るの? 」

「 う〜ん 考え中  」

「 なんで 

「 だって二人は 日本式ヴァレンタイン を知らないでしょう?

 友チョコ ってわからないでしょ? 」

「  う〜〜ん  まあ  ね 」

「 そりゃ仲間だけど 妙に誤解してもらっても困るし。

 あ  ギリちょこ ってポスト・イット、付けておこうかしら 

「 そ  れは ・・・ う〜〜ん 

「 ヘン ? 」

「 それに 義理チョコ って意味、わかんないと思うよ? 」

「 そっか・・・・ 」

「 まあね ジェットは貰えるならなんでも〜〜 だろうけど。 」

「 うふふ・・・ 彼 ショコラ 好きよねえ 

「 うん あ〜 でもねえ 日本のヤツは甘くねえ〜〜って言ってるよ 」

「 そうなの? アメリカのチョコってそんなに甘いのかしら 

「 う〜〜ん??  あ 一度、地元のケーキっていうの、

 お土産にもらったけど ・・・ 

 なんか すんごいカラフルで めっちゃ甘かったよ 」

「 うふふふ・・・  わたしは日本のショコラ、 好きよ?

 いろ〜〜〜んな種類があって楽しいわ。 」

「 あは  コドモチョコなんてオモチャみたいなのもあるし

 たか〜〜いヤツは きっとめっちゃ甘いかも 」

「 ふふ わたしは地味〜〜に ふつ〜の味で手作りします♪ 

「 なんだっけ  お菓子職人さんのこと・・・? 」

「 パティシエ 」

「 そうそう それ!  フランにぴったりかも 」 

「 そうね〜〜 チビの頃には 憧れたわねえ。

 でも そんなに器用じゃないから・・・ ごく一般的にゆきます。

 あの・・・ラッピング、ホントに手伝ってくれるの 」

「 もちろん!  オトコに二言は ない 

「 ???  にごん ってなあに  

「 う〜〜ん  ・・・ ウソは言わないってこと!

 それで何個 つくる予定なのかい 」

「 え〜っとねえ ・・・ 最低でも30コは必要なの。 」

「 え〜〜〜 30コぉ 〜〜〜〜?? 」

「 そうなの。 簡単なチョコなんだけど・・・ 」

「 あ〜〜  義理チョコ? 」

「 そのニュアンス あんまりよくわからないんだけど・・・

 そうねえ 友チョコ かしら。

 いつもお世話になっています〜〜〜 って。 」

「 ああ それで 30コ 

「 そ。 バレエ団のギャルソン達でしょう あと男性の先生方にも。

 それから ちょっとグレード・アップして 大人にグレート。

 あと 博士とコズミ先生。 こちらは上等のものを買ったの。 

「 そなんだ? 」

「 だってえ お世話になっているヒト達ばっかりなんですもの〜

 で ね 思ったの。 」

「 え  な なにを ・・・ 」

「 わたし 幸せだなあ〜〜って。

 こんなにたくさん いろいろチカラを貸してくれるヒト達がいるのよね?

 それって スゴイことだわ 

「 あ ・・・ あ〜 まあ そうだね・・・ 見方を変えれば 

「 だからね〜 皆さんにメルシ〜の気持ち、届けたいのよ。 」

「 ・・・ フラン。 フランらしいな〜 いいなあ ・・

 ぼく ・・・ そういうの、嫌いじゃないよ 」

「 ほんとう?  嬉しいわあ〜〜

 ジョーがわかってくれて わたし ホントに嬉しい!

 ありがとう ! ジョー 

 

   きゅ。 白い手がジョーの両手を包んだ。

 

    うっぴゃあ〜〜〜〜〜 ・・・・

    細くて柔らかい手 だなあ ・・・

 

    ! この手で 彼女は自分自身の道を切り開いてる!

 

    ・・・ ああ なんてすごいんだよう〜〜〜

 

「 ぼ ぼくも ・・・ 頑張る。 

 きみに相応しいオトコに ・・・ なりたい 」

ぼそぼそと言ったその言葉は どうも聞こえてはいなかったらしい。

「 あのね チョコは溶かして型に流して 冷やすだけなの。

 ジョー 箱詰めとラッピング、お願いできる? 」

「 あ バレエ団のスタジオに持ってゆくヤツかい 」

「 そうよ〜〜〜 数が多いから  がんばるわ! 」

 

    ハート模様のエプロン・・・ カワイイなあ〜

    彼女ってさ。 

    ・・・ チョコみたいにあま〜い香がするんだよね

 

    キス したい ・・・!

 

「 ねえ ジョー。 聞いても いい? 」

「 あ  うん  ・・・ なに? 」

「 うん あのねえ オトコのヒトってどんなチョコが好き? 」

「 え ・・・ さ さあ ・・・ 」

「 日本人の男性って あんまり甘いモノ、食べないみたいじゃない? 」

「 そ そう・・? 」

「 そうよ〜〜  あのね パリでは男の子もオジサンも

 み〜〜んなショコラやジェラート、好きよ? 」

「 日本人のオトコも す すきさ 」

「 そうなの? それならいいんだけど。 

 ほら これみて?  この小さなチョコをね トッピングしようかな〜

 可愛いと思わない? 」

「 え  あ  うん ・・・ 」

「 ミルクチョコ と ビターチョコ 両方買ってきたの。

 ねえ 色もちょっと違うから二色にすると美味しそうよね 」

「 そ そうだね 

「 ねえ 男性はやっぱり ビターチョコ がいいの? 」

「 ・・・ あ〜  そ それはヒトそれぞれ ・・・ 」

「 そうよね〜〜  みんなはどうかしら。

 グレートなんか拘りそうね。 博士にはシガー・チョコ なの。

 どう? 面白いでしょう? 」

「 あ そうだねえ  」

「 大人は 中華味? そんなチョコって ある〜〜?? 

「 あはは ・・・ そうだねえ・・・

 あ ラーメンの具にチョコ なんてどう?

 そうだ! ピザ饅ってのあるんだから  チョコ饅 って ?? 」

「 あ それ あるわよ。 この前ねえ コンビニで見たわ 」

「 へ え〜〜〜  知らなかったぁ〜〜〜 」

「 きっとねえ 大人も知らないと思うわ。

 大人には チョコ饅 で決まり♪ 」

「 あ〜〜 いいね 」

「 ふふふ さあ〜〜 あとは 作るだけだ! よ♪ 」

「 へへへ そうかあ 」

フランソワーズは 材料にする板チョコの包装を剥がし始めた。

「 あ 手伝うよ。 これ 全部? 」

「 そうなの。 ・・・ジョーって楽しいのね ♪

なんかこんなに楽しいおしゃべり、久しぶりだわ 」

「 あ そう? ぼくも楽しいな 」

チョコを取りだしつつ いい雰囲気だ。

 

      ・・・ ジョーって

      案外気さくで楽しい人 ね

 

フランソワーズはにこにこ している。

ジョーも 柔らかい表情だ。   

チョコの話題で 二人で盛り上がり楽しいひと時だった。

 

           が。

    

 < これは ジョーに > の言葉は

ついぞ彼女の口からこぼれてこないのだ。

 

     < みんな > とか < 家族 > の中に

     含まれてない・・・のか  

 

          彼女にとって ぼく は 

     ・・・家族でもないのかなあ

 

     こんな笑顔、見せて貰えるだけでも

     幸せなんだ ・・・  うん  そうなんだ

 

穏やかな笑みの陰で ジョーの想いはやるせない。

そんな彼の気持ちを知る由もなく?

明るい彼女の笑顔が 眩しい。

 

簡単な手作りチョコを作りつつ 二人のおしゃべりは続く。

バレエ団でのカッコイイ先輩ダンサーのことや 昔のBFの話 もでた。

「 あは  ・・・ 思い出しちゃったあ 」

「 なに? 」

「 あのね お兄ちゃんってば 毎年ねえ両手にいっぱい持って帰ったわ。

 花束やお菓子や ・・・ 」

「 へえ〜〜 モテモテなんだねえ フランのお兄さん 

「 うふ。 わたしも ずっとお兄ちゃんに花束とシガーを贈っていたわ・・・

 だって ・・・ すき だったから 」

「 え。  ・・・ 兄さん だろ 」

「 ええ 小さい頃からね わたし お兄ちゃんのお嫁さんになる!って

 決めてたの。 」

 「 え!  兄さんの!? それって・・・ マズくない? 」

「 あ〜ら 女の子にとって最初の恋はパパやお兄さんなのよ?

 み〜んな一度は パパのお嫁さんになる! って思うの 」

「 へ  え ・・・ 」

「 だからねえ〜 お兄ちゃんのお嫁さんになれないんだ って

 わかってからも 大好き の気持ちは一緒なの。 」

「 ふ うん ・・・ 」

「 ふふふ 今 思えばヤキモチ妬いていたのかも ね 」

「 そう なんだ ・・・ 」

「 懐かしいな〜〜  ん〜〜 結構上手にできたかも〜〜

 ねえ 見て 見て ジョー 」

お盆の上にはハート型に流されたチョコが 沢山ならんでいる。

「 この上にねえ トッピングするの。 

 アラザン とか 星やらハート型のトッピングなの

 可愛いでしょう?  

「 うん ・・・ きみからもらったら 皆大喜びだよ 」

「 そうかなあ   皆 もっと高価なのを用意していると思うわ。

 わたしはお金もないから 手作りで誤魔化すの 

「 ごまかす、なんて! 手作りの方がず〜〜〜っと価値があるって

 思うよ ぼくは! 

「 まあ ありがとう ジョー。

 あ 冷えたのから箱に入れてくれる? 」

「 あ  うん ・・・ 」

 

< 友チョコ > や < 御礼チョコ > はどんどん出来上がってゆくが

ジョー自身のことは とんと話題に上らない。

 

      なあ  ぼく  って ・・・

      友チョコの対象にも ならないのかなあ

 

ジョーは所謂 青春の悩み の真っ只中にその身を委ねていた。

 

 

一方 フランソワーズは。  明るい笑顔の下で ・・・

やはり 青春の悩み に填まり込んでいた。

 

「 もう〜〜〜〜!  アナタは いったい何が好きなのよ??

 ジョーってばあ〜〜  いろいろ話を振ったのに 〜〜〜 」

 

とにかく 甘いモノ はキライじゃない、むしろ好きなのだ という

ことはわかった。 チョコも好き らしい。

では味の好みは? あれこれ工夫して探ってみたのだが。

一向に彼は自分の好み、いや 自分自身のコトを語らない。

 

     いったい どんなチョコがいいのよ〜〜〜〜

 

手作りチョコを準備しつつ、 他愛もないおしゃべりをしつつ

彼女はものすご〜〜〜く注意深く アンテナ を張っていた  のだが。

 

 そうだねえ ・・・  それもいいねえ・・・

 

彼は一向に これ! を主張しない。

 

     う〜〜〜  もう ・・・〜

     いったいどういうヒトなのよ  ジョーってば!

 

     う〜〜〜 どうしよう??

     最高に心を込めて作ろう!って思ってるのに〜〜

 

     ・・・ こうなったら数で勝負する??

     それも ねえ・・・

 

< 友チョコ > や < ありがとう・チョコ > を 

量産しつつ このパリジェンヌはアタマを抱えていた。

 

 

 ・・・ そんでもって。 いや そうじゃなくても。

月日は無慈悲に過ぎてゆき ― 

 

 さて その当日。

 

ジョーは 都内の雑誌社編集室でバイト中、所謂非正規雇用で働いている。

片付け とか 緊急のお使い とか機動力を生かして縦横無尽?

かなり重宝されている。 

編集長から守衛のオジサンまで み〜〜〜んなに

< じょーくん > と親しまれ癒しキャラとなっていた。

 

それなりに忙しい時間を過ごし 退勤時間となり ―

ジョーは アタマを抱えていた。

 

「 ・・・ どうしよう・・・ こんなにたくさん 」

 

じつは 今朝。

庶務バイトの 島村クンの作業机には チョコの山が出来ていた。

「 あ 配送手配するのかなあ ・・・・ 伝票は〜〜どこだ?

 

       え???   

 

どれもこれも あれもそれも < 島村クンへ > < ジョーくんへ >

なのだ。

「 うっそ ・・・ あ お おはよ〜〜ございます〜〜〜 」

 

     ウソだろう〜〜  ぼく???

     と とにかくこれじゃ仕事 できね〜じゃん

 

     ! こ この袋に突っ込んで・・・

 

しまむらく〜〜ん ?  彼を呼ぶ声が事務所のあちこちから響き始めた。

     

「 あ はあい。 郵便局 本局に行きますぉ〜〜〜 

 はい 大丈夫です。  取ってくるもの、ありますかあ 」

島村クンは すぐに業務に邁進し始めた。

 

 

   けど。  どさ。  

 

帰路は甘ったるい香を発散する大荷物を抱え

彼は足取りも重く ・・・ 帰ってきた。

 

「 ・・・ あの  ただいま。 」

こそ・・・っと玄関のセンサーに申告すれば

「 お帰りなさ〜〜〜い 」

すぐにドアが開き 彼女の笑顔が迎えてくれた。

「 ・・・ た だいま ・・・ 」

「 ? どうしたの 具合 悪い? 」

「 い いや  別に・・ 

「 ??  あら 荷物? 重そうねえ   あらあ 」

 

   どさ。  ジョーはもう隠す気力もなく大袋を運びこんだ。

 

玄関中にあま〜〜い香が漂う。

「 ・・・ あの これ。 そのう〜 」

「 はい。  ・・・ あ  これ チョコ? 」

「 うん  バイト先で   も もらって 」

「 それ  全部? 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

「 まあ   とにかくこっちに置いて? 

 食べ物でしょう? 下に置くのはちょっと・・・ 」

「 あ  うん ごめん ・・・ 」

よいしょ・・・ ジョーは玄関の上がり框にその大袋を置いた。

「 バイト先のみなさんから頂いたの? 」

「 うん ・・・ 机の上に積んであった ・・・ 」

「 そう ・・・ で どうするの 」

「 どうしよう ・・・ こんなコト 初めてなんだ 」

「 え〜〜 今まで もらったこと、ないの??

 ジョーってば モテモテだったんじゃない? 」

「 あのね フラン。 日本には ホワイト・デーってのがあって。

 来月なんだけど オトコは < お返し > をしなくちゃなんないんだ。 」

「 へ え・・ ほわいと・で〜 ねえ ・・・・ 」

「 で さ。 ぼく 施設で暮らしてて お小遣いとかももらってたけど

 余裕なくて。  お返しできないから。 って断わってたんだ 」

「 ・・・ 小さいころから ・・・? 」

「 うん。 」

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

「 だから こんなにチョコもらったこと なくて ・・・ 

 どうしよう?  全部 食べる・・・? 」

「 それは ちょっと ・・・ いくらサイボーグでも 」

「 だよねえ  捨てるわけにもいかないし 

「 だめよ 頂いたものを それも食べ物を捨てるなんて。 

 あ そうだわ  寄付しましょうよ 」

「 きふ? 」

「 そ。 ほら 海岸通りの外れに教会 あるでしょう 」

「 うん。 フランさ 日曜ごとに通ってるよね 」

「 あら 知ってた? 」

「 うん ・・・ ぼくも行きたいなあ と思ってるんだ 」

「 そうなの?  神父さま、優しい方よ。

 あそこに寄付しましょうよ。  きっと有効な使い道、ご存知よ 」

「 あ そうか!  じゃ 今から持ってゆくね 」

「 待って・・・ それ カードとか付いてるわよね?

 外しておかなくちゃ。  ほわいと・で〜 があるんでしょ 」

「 ・・・ ごめん 」

「 謝ることじゃないわ。 さあ 手伝うから 」

「 あ ありがとう〜〜〜〜 」

 

二人で大量のチョコからカードやらシールを外し。

丈夫な大袋に入れて 自転車の荷台に乗せた。

「 行ってくるね。 」

「 ジョー わたしも一緒にゆくわ。 神父さまに説明しないと 」

「 ありがとう!  じゃあ 二人乗りしちゃお。 

 ホントは違反なんだけど・・・

 下の道にでたら 降りて欲しいんだけど 

 フラン、この袋、抱えて後ろに座ってくれる 」

「 いいわ。 この坂を降りるまで ね。

 ・・・ ジョー 大丈夫? 重たくない? 」

「 お〜〜っとぉ  ぼくを誰だと〜〜 

 フラン きみこそ 落っこちるなよ〜〜 」

「 あ〜〜ら 失礼しちゃう。 わたしを誰だと 」

「 はいはい  じゃ 行くよ しっかり掴まってろ! 」

「 了解! 」 

 

   びゅん  −−−−  !

 

違法二人乗り は 夕闇に紛れ坂道を降りていった。

 

 

 ― しばらくの後。  すでに夜の時間になっている。

 

      カラカラカラ。  こつこつこつ

 

自転車を引くオトコノコの脇を オンナノコがのんびり歩いてゆく。

 

「 はあ〜〜〜 なんか気持ちいい夜だね 」

「 うん。 ね 見て? お星さまがきれい ・・・ 」

「 うわあ〜〜 ホントだあ〜 」

「 寒いけど 空気がつう〜んと澄んでいて いいわね 」

「 うん ・・・ す〜〜〜〜 はあ〜〜〜

   あ 美味しい♪ 

「 ふふふ  ねえ 神父様 いい方でしょう? 」

「 うん!  それに愉快な方だね

 ぼく達の話 聞いて わっはっは〜〜 って。

 ・・・ ぼくも日曜のごミサ 行きたいな 」

「 わあ 一緒に行きましょうよ 

 小さな教会だし 参加される方も少ないわ 」

「 そっか ・・・ なんか 懐かしい雰囲気なんだ 

 なんたってぼくは教会育ちだからさ 」

「 そう ・・・ よかった・・・ 

「 え ? 」

「 なんだか寄付することを勝手に提案しちゃって・・・

 ごめんなさい  」

「 え〜〜〜 なんで謝るのさあ〜  

 ぼく  なんかめっちゃ嬉しいよ 

 こんなにいい気分にさせてもらって ありがと フラン  」

カタン。 ジョーは自転車を止め道端に寄せた。

「 チョコのこと、 ごめん。 あんましいい気分じゃないよね。

 それなのに こんなにいい方法、提案してくれて さ。 」

「 ・・・・ 」

「 ありがとう。 ぼく ・・・ あの 迷惑かもしれないけど

 フランのこと とってもとっても大事に思ってます。 」

「 ―  ジョー 」 

 

     きゅ。  白い手が彼の手をしっかりと握った。

 

「 わたし。  ジョーのこと、好き よ 」

「 !  わ わわ わ ・・・ 」

「 ごめんなさい あのう チョコ、ないんだけど ・・・ 

 バレンタイン・デー なのに ・・・ 」

「 ・・・ あ あ あの。 」

彼は彼女に まっすぐに向き合った。

「 あの。 ぼ ぼくも 好き です。 」

 

ジョーは ぎこちな〜〜〜く目の前の細い肩を抱き寄せ ―

 

          さあ〜〜   ちう  は できた   かな? 

 

 

************************      Fin.    ********************

Last updated : 02,16,2021.               index

 

 

**************   ひと言   **************

遅刻気味ですが 2月14日話・・・・

所謂 青春・トキメキすとーりー ・・・・ ( 遠い目 )

永遠の18歳 と 19歳 は 大変ですな (*_*;