『  ち よ こ れ い と 

 

 

 

 

 

  お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズ☆

          ジョーとフランソワーズには 双子の子供たち

          すぴか と すばる がいます☆

 

 

二月 十四日 なのである。

 

女子としては。  本命さん はもちろん、ちょいと気になる男子にはちょこを

プレゼントしたいのである。

 

「 う〜〜〜ん ・・・?  お小遣いはぁ・・・ もう半分使っちゃったしぃ

 買えるのは ふつ〜のチョコだけだなあ ・・ 」

島村すぴか は スーパーのお菓子売り場で唸っていた。

 

すぴかの通う小学校では 帰りの寄り道は禁止! である。

もちろん、すぴかはいつだってまっすぐにお家に帰っている  のだが。

「 ― 通りぬけるだけなら いいよね 〜〜 」

金髪をぎちぎちに編んだお下げを振りつつ 駅に近いスーパーに

一人で入って < 通り抜け > た。

 

「 ふつ〜のチョコ じゃ・・・いやだなあ ・・・・ でも

 カワイイのは お金 足りないから買えないし・・・ どうしよう 〜 」

 かっこん  かっこん  ―  お気に入りのスニーカーがヘンな音をたてる。

スーパーを出てから すぴかはいつもよりず〜〜〜〜っとゆっくりと

ウチへ向かった。

 

「 ただいまぁ〜〜〜 」

「 お帰りなさい。 ― どうしたの、すぴかさん 

お母さんはいつも通り笑顔で玄関を迎えてくれたが すぐに聞いてきた。

「 うん? どうもしない 」

「 そう? 寒いの? 風邪ひいたのかしら 

  ぴと。 お母さんの白い手がすぴかのオデコに当てられた。

「 〜〜〜 お熱はないわねえ  ・・・ なにかあったの、すぴかさん。 」

「 ・・・ ん 〜〜 」

「 ね お話して?  」

「 ん 〜〜〜  あのね、 オヤツ 」

「 え?  はいはい もう用意してあるわよ? ミルク・ティ あっためるわね 」

ほらほら・・・と お母さんは背中に手をあててくれた。

「 うん ・・・ ランドセル、 おいてくるね  

すぴかは とんとんとん〜〜〜 と 二階に上がっていった。

 

「 ・・・ な〜〜にがあったのかな? ウチのお嬢さん ・・・ 」

 

フランソワーズは ちょいと首を傾げ、娘の後ろ姿を眺めていた。

 

 

「 ん〜〜〜〜〜  

キッチンの隅にあるお菓子の戸棚の前で すぴかが唸っている。

「 ? すぴかさん? オヤツはテーブルの上にあるわよ。 

 あ ・・・ クラッカーとチーズ なんだけど ・・・ いや? 」

お母さんが声をかけた。

「 え? う〜〜 ううん!  くらっか〜とち〜ず だいすき! 」

「 それじゃ どうぞ召しあがれ? 」

「 うん ・・・・ 」

ちらちらテーブルの上を眺めつつ それでもすぴかは戸棚の前から離れない。

「 すぴかさん?  ほらオヤツ、どうぞ? それとも別のお菓子がいいの? 」

普段からほとんど好き嫌いを言わない子なので 母は少し心配になったらしい。

「 おか〜さん ・・・ あのぉ  チョコ  ある? 」

「 チョコ?  甘いモノはいらないでしょ? お煎餅なら昨日、おじいちゃまが

 頂いた草加せんべいがあるわよ  そっちがいい?  」

「 あ  うん ・・・ そうじゃなくて ・・・さ。 

 アタシ ちょこ ・・・ ほしい 

「 え?  え〜〜〜〜〜〜 ???? 」

お母さんは すぴかと同じ碧い瞳をますます大きくしてしまった。

「 すぴかさん ・・・ 具合悪いの? 」

「 べつに 

「 でも すぴかさんがチョコなんて・・・ ねえ 本当になんともない?

 アタマ痛いとか ・・・ お腹イタイとか?  お熱 はなかったけど 」

先ほど 玄関で母は娘のオデコをしっかり確かめ、平熱なのを知っていた。

「 おなか痛いときに ちょこなんかたべないもん 

「 そうねえ ・・・ あ なにか悩み事でも ・・? 

「 なやみごと ってなに? 」

「 え〜〜っと そのう こまったなあ〜 とか イヤだなあ〜 とかいうこと。 」

「 こまったなあ〜 は ちょこがほしい!  イヤだなあ〜 は ちょこがない 」

「 ・・・ そ。 ともかく元気なのね? 」

「 うん♪ 」

「 それじゃ オヤツ、食べてから一緒にお買い物 ゆきましょ。 

「 わい〜〜〜〜  アタシ、カート押したげるからね お母さん!

 オヤツ、あとでいいや。 帰ってきてから食べる。  」

「 はいはい ・・ あ ちゃんとダウン 着てちょうだい。 

「 え〜〜〜 さむくないよぉ アタシ〜〜 」

「 今は寒くなくても 帰りは冷えますよ。 ほらほら ・・・ 」

「 う〜〜〜〜 」

ぶうぶう言いつつ すぴかは水色のダウン・ジャケットをとりにいった。

 

 

「 !  あ そっか 」

スーパーに入ったときに すぴかのお母さんはぽん、と手を叩いた。

「 なに おかあさん 」

「 え〜 うふふ すぴかさんが ちょこが欲しい訳がわかったわ 」

「 え ・・・・ 」

「 あれ でしょ? 」

お母さんは < ばれんたいん特設売り場 > の ピンク色の張り紙を指した。

「 え ・・・あ  う  うん ・・・ 」

「 わ〜〜〜 お母さん、応援しちゃう♪ さ 売り場に行きましょ 」

「 う うん ・・・ 」

お母さんはすぴかの手を引いてずんずん歩いてゆく。

 いつもは 先頭をずんずんゆくのはすぴかなのに・・・

「 ねえ すぴかさん 」

「 なに お母さん。 」

「 あのね〜 チョコ・・ 誰にあげるの?  お母さんにだけ 教えて ? 

「   誰にもいわない?

「 うん!  」

「  お父さんにも?  」

「  うん!   ― そんなコト、言ったら大騒ぎだもの ・・・ 」

「  なに?  

「 あ なんでもな〜いで〜す。      誰?

フランソワーズは 売り場の隅に寄って娘の方に身を屈めた。

「 あの・・・ う〜んとねぇ  おじ〜ちゃま でしょう?  

「 うんうん おじいちゃまはいっつもすぴかの味方だもんね。  それから?

「  うん コズミのおじ〜ちゃまにもあげたいんだ〜 」

「 ああ そうね〜  きっと喜ばれるわよぉ 

「 えへ  そっかな〜   あとぉ  すばる  には しさくひん。 」

「 試作?  ま〜 でもチョコなら大喜びよ、 すばるは 」

「 だよね〜   それからあ  

「 うん?  」

なんだかフランソワーズはドキドキしてきてしまった! 

「 えっとぉ〜 ・・・  !  おと〜さん 忘れてたあ 〜  」

「 あは そうねえ 」  

よかったわね〜 ジョー  彼の細君は心の中で呟いた。

 「 あと  ね…  

いつもはきんきん響くすぴかの声が どんどん低くなってゆく。

母はますます娘の身体に密着してゆく。

「 うん うん?  」

「 あ  あのね  ・・・ 」

「 うん?  

「 ・・・わ  わたなべ君   さ 」

や〜〜〜っと蚊の鳴くよ〜な声が フランソワーズの耳に流れてきた。

「 まあ そうなの〜 

すぴかの母は さりげなく相づちをうったが  ―   

 

      やた〜 (^.^) だいちく〜ん  すぴかを宜しくぅ〜  

 

きんこんかんこ〜〜ん♪ と 彼女は ココロの中で大喝采を送った。

 ちょいとクセっ毛で 穏やかで優しいわたなべ君  すばる の < しんゆう > クン。  

フランソワ−ズは  わたなべだいち君 が大好きなのだ。

 

「 えっと? ま〜 それで なにを作る?  ちょこ くっきー?  チョコタルト かな?」

「  …  わかんない   アタシ・・ 」

「  え?  」

「  おか〜さん  すぴか なにつくったら いい?  どうしたら いい ? 」

なんと珍しく 娘は涙声になり 母譲りの碧いひとみに みるみる涙がもりあがってきた。

「    あらら   泣かないでいいのよ〜 

 ・・・ そうねぇ  簡単に出来るチョコのお菓子 ねぇ    」

「 おか〜さん  ・・・ ? 」

いつも元気モノの娘の 不安そうな瞳を見ると母は胸がきゅ となる。

「  そうだ☆  い〜こと思い付いたわ ! 

フランソワーズは 本当に ぽん、と手を叩いた。

「  … おか〜さん   

「 うふふ あのね トリュフ・チョコ つくりましょ☆  

「 とりゅふ? 

「 そうよ〜 生クリームとチョコレートで できるわ  あとね   

 ほら そこの売り場で見ましょうよ 」

「 う  うん ・・・ 」

母はすぴかの手を握ったまま うきうきした足取りで特設売り場に入ってゆく。

フランソワーズ 娘と一緒に 製菓材料のコーナーを 行ったり来たりして

あれこれ・・・ トリュフ作りの材料を選んだ。

 

     うふふ〜 これよ これ! 娘を持った特権よね〜

    きゃわ〜〜〜ん♪ すぴかを生んでよかったぁ〜〜♪

 

「 おか〜さん アタシ、カート押す〜〜 」

「 まあ ありがと。 え〜と これでいいかしらね〜 」

「 晩ごはんのお買いもの、してないよ お母さん。 」

「 あら いっけな〜〜い♪   じゃ まずはお野菜売り場へ GO! 」

「 おか〜さん たのしそうだね 」

「 あら そお? すぴか〜 好きなお野菜、買っていいわよ? なにがいい 」

「 アタシ〜〜  たまねぎ! あと ぷちとまと・・・はウチのがおいしいもんね 」

「 あ そうねえ   それじゃ・・・っと 

「 おか〜さん、どんどんいれていいよ〜〜 」

「 ありがとう すぴか。 晩御飯はねえ ロールキャベツにしようかな 」

「 わあ〜〜い♪ アタシ、とろとろきゃべつ、大好き〜 」

「 一緒に玉ねぎも煮込むわね すぴかさんの好きなたまねぎ 」

「 わあい わあい〜〜 」

 

    うふふ〜〜 いいわねえ〜〜〜

    娘と一緒におしゃべりしながらお買いもの♪

 

母も娘もご機嫌ちゃんでスーパーの中を巡った。

 

 

 

 さて 翌日の午後 ―  めずらしくも すぴかはキッチンに籠っていた。

 

「 さあ チョコを割って。 このボウルの中よ 」

「 うん!  ・・・ えいッ えい〜〜〜 」

「 あらら・・・ 飛び散っちゃってるわよ 」

「 あ ・・・ いっけね〜〜 」

フランソワーズとすぴか が トリュフ・チョコ  作りに熱中しているのだ。

「 全部 割った? 」

「 え〜〜と ・・・ うん、 お母さん。  これ どうするの? 」

「 これを溶かすのよ。 どろどろ〜〜にするの。 」

「 へえ〜〜  にるの? 」

「 煮るんじゃなくて湯煎にするのよ。 」

「 ゆせん? 」

「 お湯の中で溶かすの 」

「 ?? お湯にチョコ、いれるの? 」

「 こうやるのよ〜〜  みてて? 」

「 うん! 

母は お湯を張ったボウルの中に小さなボウルを浮かせ、 湯煎の方法を教えた。

「 わ〜〜〜 どろどろ だあ〜 」

「 溶けるでしょう?  ね 温度 計って 」

「 うん。  え〜〜と 今ね 」

すぴかはキッチン温度計の目盛を読んだ。

「 じゃ ここにホイップ・クリームを入れて 〜〜〜  」

「 うわ ・・・ 」

「 はい、混ぜます! すぴかさん ボウルを押さえてて〜〜 」

「 は はいっ 」

母娘協力体勢で トリュフ の材料が出来上がてきた。

「 で これを丸めるの 」

「 ・・・ あつくない? 」

「 ヤケドするほどじゃないから大丈夫。 でもね ほらこの手袋 はめて 」

「 うん ・・・ 」

「 こねこね〜〜〜 して お団子にして? 」

「 う うん ・・・ うわ くっつくぅ〜〜〜  

 あれ ?  おだんご にならないよ〜〜う 」

「 冷えちゃう前にがんばって すぴか。 」

「 う〜〜〜 」

 

「 ただいまぁ〜〜〜 い〜〜においい〜〜〜  おか〜さん? 」

 

ばん。  キッチンのドアが開いてすばるが顔を出した。

 

「 あら お帰り〜〜 すばる。 オヤツね? 」

「 うん! ね〜〜 なにつくってるのぉ? 」

「 あのね トリュフ・チョコ よ。 」

「 とりゅふ?  」

「 そうなのよ あのね 」

「 すばる〜〜〜〜 てつだって〜〜 」

すぴかがすかさず すばるを引っぱり込む。

「 なに〜〜 」

「 こねこね〜〜 して団子にするの。 てつだって。 」

「 なんで 」

「 弟でしょ! 」

「 だから? 」

「 とにかくてつだって。 はやく! 

「 ・・・ なんだって僕がア〜〜〜 」

「 はい これ! 」

すぴかは 手袋とチョコのボウルを弟に押し付けた。

「 ?  これ ちょこ? お母さん 」

「 チョコにホイップ・クリームを混ぜたの。 」

「 ふうん・・・ これ〜〜 団子にするんだ? 」

「 そんでね〜〜 いっこづつね カラーチョコ・スプレー とか ココア とか

 つけるんだ。  あ それはアタシがやる〜〜 」

「 僕 そっちがいいな〜〜 」

「 あんたは団子づくり やって。 アタシがきれ〜〜にするから 」

「 ・・・ ずる〜〜い〜〜〜 すぴかあ〜〜 」

「 いいじゃん。  あ それからさあ 作ってほし〜もの、あるんだ〜 

「 つくる? おかしとか? 」

「 ん〜〜んん。  アンタ、折り紙とか好きだよね 」

「 まあ ね 」

「 とくいだよね? 」

「 まあ ね 」

「 じゃ さ。 これで いれもの 折って! 」

「 いれもの? 」

「 そ。 このちょこをいれるちっさい箱。 おってね! 」

「  ― え〜〜〜 」

「 好きで得意 なんでしょ? おりがみ  」

「 う 〜〜〜〜 」

「 じゃ やって。 」

「 ・・・ ど〜して 僕が・・・ 」

すばるはぶつぶつ言いつつも 厚紙で小さな箱を折ってくれた。

「 これで い? 」

「 あ〜〜〜 かっわい〜〜 いい いい。  これをぉ〜 えっと・・・あと

 いっこ にこ さんこ ・・・ 四個! つくって! 」

「 え〜〜〜〜 四個もぉ? 」

「 そ。 作って 」

「 すぴか つくれば? これ みほん。 」

「 すばる つくって。 得意で好き なんでしょ 」

「 う〜〜〜〜 

すぴかの弟は口をとんがらしつつも ちゃんと丁寧に小箱を折ってくれた。

「 − ほら〜  つくった〜〜 」

「 わお〜〜〜  ありがと〜〜〜♪  えっと これにね〜〜〜

 とりゅふ いれる・・・ みっつ 入るな〜〜 」

すぴかは 丸めたばかりのチョコ・団子 をこそ・・・っと箱に入れた。

チョコ・団子 いや トリュフ・チョコ は どがひょがしたカタチだったけど

箱入りになって ぐ〜〜んとかっこよく見えた。

「 あら〜〜〜 ステキねえ〜〜 」

「 お母さん ・・・ そう思う? これ ・・・ 喜んでもらえるかな 

「 ええ ええ 絶対に。 わあ〜〜〜 おいしそうねえ  ねえ すばる? 」

「 僕 味見 した〜〜い〜〜〜 」

「 あ いいよ。 これ! 」

すぴかはお皿に残っていたチョコ・団子を差し出した。

「 〜〜〜〜ん ・・・  あ おいし! 」 

「 おいしい? 」

「 うん!! あ〜〜 もっと甘くてもいいな〜〜 」

「 それは アンタだけでしょ。  これ・・・気に入ってもらえるかな 」

すぴかは じ〜〜っと自作のトリュフ・チョコを見つめている。

「 ええ ええ きっと。 あ そうだわ ちょっと待ってね 」

お母さんはにこにこ・・・しつつキッチンの戸棚をあけなにかを出してきた。

「 ほら これはどう?   

「 ? なに 」

「 これに入れて ・・ これで ね ・・・ 」

お母さんは透明な袋にすばる製の箱に入ったとりゅふ・ちょこを入れ

金色のモール ねじねじ〜してくれた。

「 ほら! 」

「 ・・・ うわ ・・・ ! すご・・・ お店でかったのみたい〜〜 」

「 でしょ?  これ、 プレゼントしたら? 」

「 うん♪  わあ〜〜〜 」

すぴかは満足のため息をつきつつ 自作のチョコを眺めている。

「 あ〜〜〜 だれにあげるの〜〜 すぴか〜〜〜 」

すばるが素っ頓狂な声をあげる。

「 ないしょ。 

「 い〜じゃん おしえて〜〜〜 」

「 やだ。  ・・・ これ たべていいよ 」

すぴかはお皿に残った、とりゅふ・ちょこ の残骸? をずい、と出した。

「 え♪ ホント〜  ん〜〜〜〜 ま〜〜〜〜 」

「 すばる、食べ過ぎはだめよ 」

「 ん〜〜〜 ま〜〜〜 」

どうも お母さんの声は耳に入らないようだ。

 

 

 さて。  < ばれんたいん当日 > のこと ―

 

すぴか達の学校では 校内でのチョコ交換 は < きんし > なのだけど 

こっそり交換してすぐにランドセルに仕舞うのなら 見逃してもらえた。

 

放課後 すぴかはそそそ・・・っとわたなべ君の席に近寄った。

「 あの  わたなべくん 」

「 ? あ〜〜 すぴかちゃん〜〜 なに? 」

「 こ  これ・・・! 」

「 え? 」

「 は  はやくしまって! 」

「 う うん ・・・ あ ありがと 」

「 じゃね  ばいば〜〜い ! 」

「 あ すぴかちゃん いっしょにかえろ・・・ あ いっちゃったぁ 」

すぴかはとっくに わたなべ君の前から走り去っていた。

 

 

 

「 ただいま ・・・ 」

「 お帰りなさい ジョー 」

ジョーは その夜 遅くに ― といってもジョーにとってはいつもの時間なのだけれど ― 帰宅した。

「 あの これ・・・ 頼む 」

 ばさ。   大きな紙袋、ぱんぱんの袋がフランソワーズに差し出された。

「 ・・・ あら また? 」

「 うん。 ごめん ・・・ 」

「 ジョーの責任じゃないでしょう?  はい お預かりします。 

ジョーの愛妻は 溜息と苦笑いでその甘ったるい匂いを放つ袋を受け取った。

「 ごめん ・・・ 

「 謝る必要、ないわ。 ね これ・・・いつもの通りに

 カードをはずして全部 福祉施設 教会へ もっていっていい。 

「 あ 運ぶのはぼくがやるよ・・・ ごめん ・・・ 」

「 いいのよ ジョー ・・・ さ 晩ご飯 どうぞ? 熱々よ 

「 ありがと・・・フラン ・・・ 」

ジョーは彼女を抱き寄せしっとりとキスをした。

 

毎年 ジョーがこの日に山のようにもらってくるチョコレート・・・

三月に 御礼のクッキー すばる が腕をふるい  ありがとう

カード すぴか が書くのが 島村さんち の習慣になっている。

 

「 ごちそうさまでした。 あ〜〜〜 ・・・ 美味かった 」

ジョーは満足の吐息で箸を置いた。

「 うふふ・・・ よかった〜 昼間からコトコト煮込んでいたのよ 

「 も〜〜 最高さ・・・ あ〜〜 」

二人は静かに微笑みあい ぽつぽつおしゃべりをする。

話題は自然と < 今日 > のコトになる。

「 え 少女のころのレンタインの日? 

 ・・・ そうねえ・・・ パリじゃ別にチョコじゃなかったわ

 親しいヒトとか そりゃBFとかにお花とかちょっとしたお菓子を上げたりしたけど・・・

「 ・・・き きみも? 」

「 ええ。 パパやママンや お兄ちゃんでしょう ああ あと カレシにも 」

「 か カレシ〜〜〜?? い いたのか??? 」

「 ええ 当たり前でしょ。 わたし、年頃の女の子だったのよ? 」

「 う う・・・ 

「 ジョーだって好きな女の子、いたでしょう? 」

「 ・・・ 憧れの子はいたけど 」

「 あ コクった? 」

「 ! そんなこと、できるわけないじゃん〜〜 」

「 へえ〜〜 案外引っ込み思案〜〜 」

「 ・・・ あ  そうだ、中学の時にさ、御礼なんかいらないから〜って

 チョコ、くれたコがいてさ ・・・ 」

「 うん うん  それで? 」

「 ど〜しても御礼したくて・・・ 教会の庭に咲いてた花、押し花にしてさ

 栞に貼って ホワイト・デーに  ね 

「 まあ〜〜 ステキぃ〜〜 しまむらく〜〜〜ん♪  

「 あは  きっと すぐに捨てちゃったよ 」

「 ん〜〜んん! ジョー 全然わかってない〜〜

 そのコがね 本当にジョーのこと、好きだったら。 

その栞 ・・・ 今でも 彼女の大切な本の間にこっそりしまってあるわ。 

「 そ ・・・ かな ・・・ 」

「 そうです。 島村くんの想い出だわ ・・・ってね 」

「 ・・・・・・ 」

「 ふふふ い〜な〜〜 わたしも押し花の栞、ほしいな〜〜 」

おいおい・・・と ジョーはちょいと苦笑する。

「 あ〜〜 で  すばるは? ウチの長男はチョコ ・・・ もらえたのかい 」

「 ええ 二個 持って帰ってきたわよ  

「 二個だけ? う〜〜む ・・・ 」

すばるは がっきゅういいん でもないし、リレーの選手でもない。

いつもカッコイイ服を着てるわけでもないし、サッカーを習ってもいない。

クラスでも目立つ方じゃない。 

だけど いや 当然、本人はしごく楽し気に小学生ライフを送っている。

それを 母はよ〜〜く知っている。

「 まあ 妥当なトコじゃない? 」

「 う〜〜む ・・・アイツは結構イケメンだと思うんだけどなあ〜 」

「 ふふふ ・・・ ま〜 チョコ、くれる女子がいるだけ喜ばなくちゃね 」

「 ・・・ キツいお言葉ですなあ 」

「 現実をみましょう。  」

「 はいはい ・・・ それで あのぉ? 」

ジョーは 捨てられた仔犬みたいな目で彼の最愛のヒトをみつめた。

「 うふふ ・・・・ 愛してます、ジョー 」

彼女は 小さなチョコを差し出すとぴと・・・っと彼女の最愛のヒトに縋り付いた。

「 わっはは〜〜〜〜ん ♪ 」 

 

 

 さて 翌日のこと。

 

すぴかは登校したわたなべ君のそばに すすす・・・っと寄っていった。

「 おはよ! あの〜 わたなべ君   あの 〜 チョコ …  美味しかった? 

「  へ?   あ〜  たべてないから わかんないや 

   たべてない!?  

「 うん。 」

「 あ ・・・ そ。 」

その日 一日中 島村すぴかさんは元気がなかった。

 

「 すぴか。 どうしたの??? 

またまた しょんぼり帰ってきたすぴかに  お母さんはびっくり・・・

すぐに 訳を聞いてくれたが。

「  ― ま〜 それは  ・・・  仕方ないわねぇ  

「 ・・・  すぴかのこと キライなんだ  」

「  そんなこと ないと思うわよ? あ  だいちくん ちょこ 嫌いとか  」

「 チョコ、  だいすきだよ〜   」

「 ・・・ う〜ん   あら 電話 ・・・ モシモシ? 」

フランソワーズは慌ててリビングの固定電話を取った。

 

「 はい 島村で  ・・・ あら だいち君のお母さん ・・・え? 」

( 以下 盗聴? )

  「 すぴかちゃんからだいちにチョコレート、ありがとうございました 」

 「 あ・・・あの手作りでごめんなさい 」

 「 いえいえ  と〜〜っても素敵♪  あのね・・ 

   ウチのだいちったらね〜 もう タカラモノみたく大事にしてて

   食べたいけど食べらんない〜 ですって ! 

 「 まあまあ   ありがとうございます〜〜 」

 「 あら〜〜 それは私が申し上げたいことです〜〜 

   それでね、作り方を教えてくださいません? 同じのを作って〜って

   だいちがさっきからゴネてるんです 」

 「 あらあら ・・・ 」

 「 オトコノコって 可笑しいわねえ 」

  「 だいち君、 可愛いですねえ 」

フランソワーズとわたなべ君のお母さんは 笑い合いつつ トリュフ・チョコの

作り方について語りあった。

 

「 すぴか〜〜 すぴかさん? 」

「 ・・・ うん ? 」

電話を切ると フランソワーズはソファで丸まっていた娘の隣に座った。

「 すぴか  だいちくんね、すぴかのチョコを大事に大事に 飾ってるって   」

「  え! ほんと  

「 本当よ〜  もったいなくて食べられないのよ。

 あ でもナイショにしといてね って  」

「  うん♪   ・・・ えへへ〜〜〜 うれし〜〜〜  きゃい〜 

「 ふふふ〜〜 よかったわね 」

「 うん♪ えへへ えへへ〜〜〜 」

「 ・・・ あ すばるは頂いたチョコ、食べてたけど ・・・ ま いっか 

 

「 ただいまあ〜〜 」

「 あ お父さん〜〜〜  うわ〜〜い 

珍しくも早い時間に帰宅した父を迎えに すぴかは玄関に飛んでいった。

その夜は ご機嫌ちゃんなジョーは家族と楽しい晩御飯のテーブルを囲んだのだった。

 

「 ふふ ・・・ 大事な娘がつくったチョコを タカラモノにしている

オトコノコがいるってこと・・・ 今はナイショにしておきましょうか 」

 

ジョーのオクサンは エプロンの陰でこそ・・・っと呟いていた。

 

 

******************************    Fin.     *****************************

Last updated : 02,20,2018.                            index

 

 

***********   ひと言   ***********

一週間、遅れましたが・・・ 季節モノです☆

【 島村さんち 】 シリーズは 平ゼロ設定の

延長です。  トリュフ・チョコ、美味しいよね♪