『 あなたに似たひと 』 

 

 

 

 

 

「 あなた、恋をしたこと、ないの? 」

 

あまりにも単刀直入に、しかも唐突に訊ねられフランソワ−ズは絶句してしまった。

音が消え、しん・・・とした空間に 恋 という言葉だけがはっきりと響く。

「 ・・・・ あ ・・・・? 」

ただでさえ、荒い息を抑えているのにますます目の前が真っ白になってしまう。

フランソワ−ズは、目を見開いたままじっと立ち尽くしているばかりだった。

 

「 遊びじゃなくて本当の恋よ?

 全身全霊でヒトを恋したことがあるなら ・・・ 彼女の気持ちがわかると思うわ。 」

よく考えてごらんなさい、とその初老の女性はちょっと悪戯っぽく微笑んだ。

「 じゃあ・・・ 今日はこれまで。 次のリハ−サルで答えを見せてね。 

 お疲れ様でした。 はい、次は ・・・ シモ−ヌとジャックの組? 」

「 はい! 」

フランソワ−ズは次にセンタ−に進み出てきた組に慌てて場所を空けた。

「 ・・・あ ・・・ ありがとう ・・・ ございました ・・・ 」

あわててぴょこんと頭を下げた瞬間に ぱたぱたと水滴が床に散らばる。

 

・・・ 汗か ・・・ 涙か。

 

フランソワ−ズはその姿勢のまま、しばらくじっと床の水玉模様を見つめていた。

 

「 ・・・ よかったよ。  君らしい、可愛い素直なジゼルだ。 

ぽん、とタオルが背中に投げられ、穏やかな声が一緒に降ってきた。

「 ・・・ ニコラ。 」

そっと顔をあげればくるくるくせっ毛の金髪ボ−イがやっぱり汗まみれで笑っていた。

「 ありがと・・・ でも・・・ マダムは・・・ 」

「 うん、きっとね。 君ならもっともっと深い表現が出来るって期待してるんだよ。 」

「 深い? 」

「 君のテクニックは申し分ないと思う。 サポ−トしてて・・・ 一瞬羽でも持ってるのかな〜なんて

 思ったもの。  軽やかなんだ、とっても。 」

「 ・・・ でも ・・・・ 」

困った顔のフランソワ−ズに青年も真面目な顔で、うん・・・と頷いた。

「 軽やかで可愛らしいよ。 ・・・ だけど ・・・ 言ってもいい? 」

「 うん! お願い。 はっきり言ってちょうだい。 

 わたし ・・・ どうして ジゼル に見えないのかしら。 彼女の気持ちって・・・・」

「 うん・・・ なんて言うのかな。 その・・ <辛い恋>が見えないんだ。 」

「 ・・・え? なに。 」

「 辛い、っていうか苦しい恋、かな。 

 ジゼルはどうしてウィリになったのか ・・・ その背景が感じない。 」

「 ・・・ 苦しい恋。 」

「 多分 ・・・ そんなトコをマダムは指摘したんじゃないかなって思うよ。 」

「 そう ・・・・ 」

「 きみのジゼルは ・・・ 悦びで一杯、うん、悦びだけだった。 

 可愛いけど、それはこの 『 ジゼル 』 第二幕のG.P.に求められることかな。 」

 

   ・・・  あ ・・・! 

 

フランソワ−ズは思わず 声をあげ、息を呑んだ。

「 ・・・ そう、そうよね。 わたし ・・・ テクニックにばかり気を取られていて・・・

 あの場面でのジゼルの気持ちを考えるの、忘れていたわ。 」

「 うん、まだ始めたばかりだから仕方ないけど。 」

「 ううん、ううん! だめだわ。 

 恋して裏切られて・・・ 死んでしまって。 ウィリ−になって

 それでも 彼のことを愛してるって ・・・ わたしなら ・・・ 思えるかしら。 」

「 今回は まだ時間があるからさ。 じっくり煮詰めてゆこうよ。 」

「 ええ、そうね。  ありがとう、ニコラ。 」

「 僕こそ。 君と組めて嬉しいんだ。 

 ねえ、今日は時間ある? 帰りにカフェにでも寄ってゆかないか。 」

「 あら 嬉しいわ。 あ・・・でもね、兄が取材旅行から帰ってくるの。

 あんまりゆっくりできないけど・・・ それでもいい? 」

「 もちろん!  じゃ・・・ 下の出口で。 えっと 20分後、でいいかな。 」

「 オッケ−♪ ・・・あ。 彼女に叱られない? 」

「 僕に彼女はいないよ。 」

「 そう? ・・・ 今は信じておくわね。 」

フランソワ−ズはさっと青年の頬に 掠めるようにキスをして、

微笑みを残し、稽古場をしずかに出ていった。

 

   ・・・・ ウィリー っていうか ・・・ フェアリ−だよなあ ・・・

 

亜麻色の髪が戸口から出てゆくまで、ニコラはじっと見つめていた。

そして。

「 ・・・ やったぜ! 」

ポンとタオルを放り投げ、ジャンプして捕まえると金髪のアルブレヒトも

そのまま空中にはじけつつ、後を追った。

バレエ団のスタジオでは次のカップルが 華麗な舞を繰り広げていた。

 

 

 

ガサ ・・・

抱えている紙袋のなかでセロリとトマトが揺れている。

よいしょっと抱えなおし、反対側のレッスンバッグももう一回肩から賭け直す。

 

さあ。 急いで帰って晩御飯、作らなくちゃ。

今日はね、お兄さんの好きなチキンのトマト煮よ♪

 

フランソワ−ズは久し振りに兄と囲む夕食のテ−ブルを思い、自然と笑みを浮かべていた。

いつもと同じ、通い慣れた道なのに 街がとっても綺麗に見える。

でこぼこの石畳の道まで、歌っているみたいだ。

 

ふふふ・・・ あのカフェ、なかなか美味しいオ・レだったわ。

ニコラも 楽しいヒトなのね。

・・・ふうん ・・・ 彼女はいないのか・・・

 

ついさっきまで、向かいあって笑いあっていた彼は爽やかな青年だった。

明るいテラスで お茶をして 他愛ない話に笑いあう・・・

そんな当たり前の日々が いま、とても愛おしい。

カツン ・・・

亜麻色の髪の乙女の足元で、パリの道も小粋な音をたてた。

 

 

「 嬉しいな〜。 憧れの君とお茶できるなんてさ。 」

ニコラは案内したカフェでにこにこと笑顔満開だった。

「 え・・・ 憧れって・・・イヤだわ〜 わたしなんか。

 シモ−ヌやロザリ−の方がずっと上手だし美人じゃない? 」

「 フランソワ−ズ、君ってさ。 もっと自信を持ちなよ? 

 今度の School Performance ( 発表会のようなもの )、オレ、かなり羨ましがられてるんだ。 」

「 だって 『 ジゼル 』 なら、誰だって・・・ 」

「 ノン、ノン! 」

ニコラは金のくせッ毛を揺らせて指を左右に振っている。

「 君と。 フランソワ−ズ・アルヌ−ルと組むから、に決まってるだろ。 」

「 まあ ・・・ 」

「 僕、結構男子達から ど突かれてんだぜ。 ずるいぞ〜ってね。 」

「 そんな ・・・ わたしこそ、ニコラと踊れるなんて思ってもみなかったわ。 

 それも 『 ジゼル 』 ですもの。 ずっと・・・ず〜っとね、踊るのが夢だったの。 」

「 こんなチャンス、滅多にないからな〜。  今回は随分リハの期間が長いから、

 二人で納得がゆくまで踊りこもうよ。 」

「 ええ、そうね。 ね? 足りないところ、ヘンなところ、どんどん言って?

 わたし ・・・ しばらくブランクがあるから・・・カンも鈍ってるし。  お願いね、ニコラ。  」

「 Bon! それじゃ ・・・ 改めてよろしく。 」

「 ・・・ はい。 」

二人はカフェ・オ・レのカップを持ち上げ、かちん・・・と合わせた。

「 このカフェ、素敵ね。 テラスにまで緑がいっぱいで綺麗・・・ 」

「 うん、ここって結構有名なんだ。 あのさ、 有名ってば・・・ 」

初夏の風がふわり・・・とテラスを抜けてゆく。

優しい風にニコラの金髪がゆれ、すこし額にかかった。

 

   ・・・ あ ・・・ ?  この顔 ・・・ 

 

「 ・・・でね。  え? なに。 」

「 あ ・・・ ううん、ごめんなさい。 なんでもないの、ちょっと風で髪が目に・・・ 」

「 大丈夫? 」

「 ええ。 あ、それで? その時、どうしたの。 」

「 うん、それでさ・・・ 」

ニコラはすぐに話の続きに没頭した。

 

  なに・・・? なにか ・・・ 誰か、が見えた・・・?

  誰かが わたしを見つめていたわ・・・・

 

微笑み、軽い相槌を打ちつつも フランソワ−ズの心はその眼差しを探していた。

 

 

「 ごめんなさい。 もっとゆっくりできればいいんだけど・・・ 」

「 いいさ、お兄さん、帰ってくるんだろ。 」

「 そうなの。 久し振り・・・一月ぶりなの。 」

「 うん ・・・ じゃ、また今度。 その時は ゆっくり食事でもしようよ。 」

「 ええ。 ありがとう、誘ってくれて。 」

「 フランソワ−ズ? 」

「 はい? 」

ニコラは振り返り、真正面からフランソワ-ズを見つめた。

 

「 ね。 付き合ってくれる。 」

「 ええ、今度またね。 」

「 そうじゃなくて・・・さ。 」

ぶん、と首を振りニコラはフランソワ−ズの肩に手を置いた。

「 フランソワ−ズ。 舞台以外でもパ−トナ−になってくれる? 」

「 ・・・ ニコラ。 」

「 言っとくけど。 僕、真剣だよ。 」

「 ・・・ ええ。 」

「 あ。 僕と付き合っても<参考>にはならないからね。 」

「 参考? 」

「 そうさ。 『 ジゼル 』 の、さ。 」 

怪訝な顔をしているフランソワ−ズの耳元で ニコラはひそ・・・っと囁いた。

「 だって。 僕は絶対に君を泣かせない。 勿論裏切ったりするもんか。

 ・・・君に、残念ながら辛い恋を経験させては上げられないよ。 」

「 ・・・ ま ・・・ 

「 ・・・ フランソワ−ズ ? 」

フランソワ−ズの肩に置かれたニコラの手にぐ・・・っと力が入る。

空の藍よりも深い色の瞳が きっちりとフランソワ−ズを捕らえる。

 

「 ・・・ いいわ。 」

「 ・・・ Merci beaucoup ・・・! 」

ニコラはそっと触れるだけのキスを フランソワ−ズの唇に落とした。

「 それじゃ ・・・ a demain ( また 明日 ) 」

「 ・・・ あ・・! 」

きゅ・・・っとフランソワ−ズを抱き締めると、ニコラはぱっと駆け出した。

金の髪が跳ね上がり 風になびく。

小鹿みたいにニコラの細くしなやかな脚が地を蹴ってゆく。

「 ・・・ ニコラ〜〜〜 ! 」

青年は呼び声に満面の笑みで振り返った。

「 a demain 〜〜〜 !! 」

フランソワ−ズは大きく手を振り、金髪の青年にキスを投げた。

「 わぁお♪ Merci〜〜〜 」

ぱっと宙に跳びあがり、彼はフランソワ−ズのキスを受け取り 左胸に仕舞う仕草をした。

 

  ああ ・・・ ! こんな恋もいいかもしれないわ。

 

 

こつこつこつ・・・・ 靴音までが軽やかだ。

途中で買ったセロリとトマトと玉葱も 一緒に歌いだしそうだ。

フランソワ−ズは弾んだ心で家路についた。

今日はお兄さんも帰ってくるし。 ・・・ 素敵な日ね♪ 

初夏の陽射しは 乙女の足元に淡い影を写しだしていた。

 

  あ、そうだわ。 煙草、買って置かなくちゃ。 えっと・・・お兄さんのお気に入りは・・・

 

「 Bonjour? 」

フランソワ−ズは足を止め、角の売店に立ち寄った。

兄の好みの銘柄を買い、ついでに夕刊とキャンディを一袋。

「 えっと・・・ハ−ヴのは・・・ 」

棚を見渡していると山と積まれたグラフ誌が目に入った。

若いレ−サ−の笑顔が 表紙を飾っている。

「 ・・・あ ・・・ これ ・・・ 」

・・・懐かしいセピアの瞳に、どきん、と心臓が跳ね上がる。

「 うん? それもかい、マドモアゼル? 」

「 え  ・・・ あ、ううん。 ちょっとね、このヒト・・・ 」

「 ああ。 今モテモテのレ−サ−だろ。 なんだか難しい苗字の・・・

 いや〜〜 この甘いプロフィ−ルに 女の子たちはイチコロだろうね。  あんたもかい? 」

「 あ ・・・ そう、素敵なヒトね。 」

「 ふん。 こんなヨソモノにオレたちのパリジェンヌのハ−トを盗まれたくないねえ。 」

「 ふふふ ・・・ はい、お代。 」

「 Merci.  あ、これはオマケさ、綺麗なマドモアゼル。 」

ぽん、と売店のおっさんはライム・キャンデイ−を放ってよこした。

「 あら♪ Merci, Monsieur 〜〜 」

 

   ・・・ 相変わらず華やかね。 わたしとは住んでる世界が違うんだわ・・・

   ちょっと ・・・ ちょっとだけ 懐かしかっただけ・・・ そうよ。 そうなのよ・・・

 

結局買わなかったグラフ誌の表紙が かえって鮮明にフランソワ−ズの脳裏に蘇る。

 

そう ・・・ いつもちょっと眩しそうにわたしを見つめる彼の瞳。

大地の、温かい色をして ・・・ でもいつもなにか ・・・ 陰が潜んでいたっけ。

柔らかい髪が風に揺れていたわ・・・・ その先が頬に触れるくらい側にいたのに。

ううん、抱きかかえて護ってもらったコトも何回、いえ何十回もあったわ。

彼の温もりを肌で感じ 息使いもはっきりわかるところに ・・・ ずっといたのに。

 

・・・ あれは ・・・ そう ・・・。 もう思い出の底に収めればいいのよ。

 

わたしは。 今のわたしは ただのフランソワ−ズ・アルヌ−ル。

バレエ・ダンサ−目指して日々を送っている、平凡なただの女の子・・・・

 

フランソワ−ズはぶるん・・・と頭を振って。

兄との夕食を囲む、古びたアパルトマン目指し歩き始めた。

 

 

 

「 なにかイイコト、あったのかい。 」

「 あら、どうして。 」

フランソワ−ズはフォ−クをもつ手を止め、兄を見つめた。

「 ウキウキしてる。 このまま踊りだしそうだよ。 」

「 え ・・・ そう?

 だって お兄さんと久し振りのお夕食だし・・・ 」

「 そうかぁ? な〜んか別のヤツのこと、考えてない? 」

「 ・・・ わかる? 」

は・・・、とジャンは両手を派手に上げてみせた。

「 これだもんなぁ・・・ 仕事を終えてやっと家に帰れば

 たった一人の妹は 他のオトコに夢中だよ。 」

「 そんな ・・・ お兄さんは特別よ!

 ニコラとは別だわ。 」

「 ふうん? ソイツはニコラっていうのか。 」

「 あ・・・ ! 」

妹の頬が みるみるうちに薔薇色に染まってゆく。

兄はちょっとほろ苦い笑みを浮かべ、それでも優しく言った。

「 今度、連れて来い。 兄さんが会ってやる。 」

「 ・・・ うん ・・・。 あのね、今度の舞台の・・・

 『 ジゼル 』 を貰えたの、そのパ−トナ−なの。 」 

「 そうか。 それはよかった。 」

「 それにね。 まだ・・・ その・・・ただのお友達・・・ 夢中だなんて・・・ 」

「 ファンション? 」

薔薇色に上気した頬で、小声で付け足した妹にジャンは低く呼びかけた。

「 ・・・ なに。 お兄ちゃん ・・・ 」

「 お前 ・・・ まだアイツのこと。 忘れられないのか。 」

「 ・・・ ! そんなこと ・・・・ ないわ。 

 もう ・・・会うこともない人だもの。 そんな ・・・ そんなコト・・・ 」

「 本当に? お兄ちゃんには隠さなくていいんだぞ。 」

「 本当よ。 だって ・・・ 前だってわたしの片想いだったし ・・・

 あのヒトは ほら、有名人でしょう? 今日、グラフ誌で見たわ。

 まわりにはいろんな綺麗なヒト達がいっぱいよ。 わたしなんか・・・  」

「 ふん・・・ ま、そんなヤツにお前を任せるわけには行かないけどな。

 ただ ・・・ お前達は ・・・ 」

「 いいの、お兄ちゃん。 また、もしミッションがあったら・・・ きっともう無いと思うけど・・・

 <お仕事>だもの。 あのヒトとは仕事仲間だと思ってるわ。 」

「 お前がそう思いたいならそれでいい。  ただな。

 お兄ちゃんは 二度とお前が泣くのを見たくないんだ。 」

「 ・・・ お兄ちゃん ・・・・ 」

兄の大きな手がそっと妹の頬に触れた。

「 お前が幸せでいられるなら、俺はなんでもやってやる。

 それが ・・・ 俺のせめてもの罪滅ぼしだ。 」

「 罪だなんて そんな ・・・ お兄ちゃんのせいじゃないわ。 」

「 いや。 俺は俺の大事なたった一人の妹を護れなかった・・・

 そんな俺に、何も言う資格はないが。 せめて、お前を絶対に泣かせないヤツに託したいんだ。 」

「 ・・・ お兄ちゃん ・・・ 」

「 そう、そうやっていつも微笑んでいてくれよ。

 お前の微笑みが俺のエネルギ−の元なんだ。 昔も ・・・ 今も。 」

「 わたしも・・・ お兄ちゃんがいるから。 絶対に帰るんだ!って思って・・・

 それで ・・・ ここに戻ってこれたのよ。 」

「 ・・・ うん。 もう ・・・ どこへも行くな。 」

「 ・・・ ん。 」

兄と妹は 涙の滲む瞳で微笑みあった。

 

 

 

「 お休みなさい〜〜 お兄さん。 」

「 おう、お休み ・・・ 」

フランソワ−ズはガウン姿で居間を覗いた。

兄はまだテ−ブルいっぱいになにやら資料を広げていて、手だけで応えてくれた。

 

  ふふふ ・・・ お兄ちゃん・・・・ 後姿とかパパにそっくり・・・

 

自分の部屋まで彼女はのんびりとスリッパを鳴らしていった。

今日も 素敵な一日だった・・・。

 

  明日からまた頑張ろう。 

  せっかくもらった 『 ジゼル 』 ・・・ やっと夢の第一歩ね。

 

ふんふん ・・・ 自然と パ・ド・ドゥの旋律を口ずさみ、

フランソワ−ズはドレッサ−の前に座った。

シャワ−のせいだけじゃない、頬がピンクに染まっている。

 

  ― 恋をしたこと、ないの ? ―

 

不意に ・・・ 芸術監督のマダムの声が蘇った。

ブラッシングの手が 止まる。 ハナ歌も 消えた。

 

  恋 ( amour )。 ・・・ 恋 ・・・?

 

フランソワ−ズはそっと口に出して発音してみる。

こころの奥のそのまた奥が し・・・んと震えた。

 

恋なら してる。 勿論。

それも ・・・ ずっと長い間、恋しっぱなしだ。

 

フランソワ−ズは鏡の中の白い顔に語りかける。

 

   そうよね。 わたし ・・・ ずっと恋してる。 

   でも ・・・ ソレをあの人は 知っているのかしら。

   ずっと ずっと わたしが あなただけを見つめていることを・・・

   ・・・ ねえ、気がついている? 知っている ?

   どんなに離れていても あなただけを想っていることを・・・

   ・・・ ねえ、考えたこと、ある? 

 

   わたし。

   ・・・ あなたが 好き。 ・・・ ジョ− ・・・ あなたが。

 

ふと視線を落とせば、写真楯に収まった彼の笑顔  − のポ−トレイト − が目に映る。

いつもどこか淋しい陰を含んだ瞳をした ・・ 彼。

セピアの髪とセピアの瞳の異邦人 ・・・ ジョ−・シマムラ。

 

気がつけば、フランソワ−ズはそのポ-トレイトに頬を押し付けていた。

 

   会えるなら ・・・ 普通の、ごく当たり前の日々に会えたなら・・・

   わたし ・・・ ジョ−、あなたの腕に飛び込んでしまう・・・かもしれないわ。

   そうよ。 わたしは恋してる、いつだって、ずっと恋してるのよ。

 

フランソワ−ズはそっと写真の彼に唇を寄せた。

 

白っぽい月が中空にかかる。

欧州の旧い街はしずかに眠りについてゆくのだった。

次の日、再び白い光が空に満ちた時にこの街は思いがけない客を迎えた。 

そして。

一人のパリジェンヌが 足早にこの街を去っていった。

 

 

 

「 ・・・ 本当によかったのかな。 」

「 え・・・? 」

「 今度のミッション。 きみを呼んでもよかったんだろうか。 」

ジョ−は足元の小石を ぽ〜んと放った。

夕陽をうつし茜色に、金色に揺れる波間に 小石はあっと言う間に見えなくなった。

「 ・・・ ジョ−。 」

「 うん? 」

「 わたし ・・・ 邪魔? ミッションにはわたしは足手纏いなの。 」

「 フランソワ−ズ! なにを・・・! 」

「 本当の事を言って。 」

足元の海よりも、頭上に広がる空よりも深い青の瞳が じっとジョ−を見つめている。

海風が 彼女の金糸にも似た髪をそよがせてゆく。

ジョ−は足を止め、傍らのフランソワ−ズと向き合った。

「 ごめん。 そんなつもりじゃないよ、断じて違う。 」

「 それなら・・・ どうして。 」

「 きみが大切だから。 きみの幸せを護りたいからさ。

 きみを戦闘に巻き込みたくないんだ。 ・・・ きみに戦闘は相応しくない。 」

「 わたしの幸せ? 」

「 そうだ。 ぼくは ・・・ きみにはいつも幸せに、微笑んでいて欲しいんだ。 」

「 みんなそう言うわ。 幸せに 微笑んで・・・って。 兄もニコラも・・・あなたまで。 」

「 皆が きみの幸せを望んでいるんだよ。 」

「 わたし・・・ 生きているのよ? 笑っているだけのお人形じゃないわ。

 わたしの幸せは わたしが決めるの。 」

「 ・・・ フランソワ−ズ ・・・ 」

フランソワ−ズはしっかりとジョ−をみつめ、ひと言ひと言はっきりと言った。

「 わたし。 ジョ−、あなたの側に、あなたと一緒に居たいの。 」

「 フラン ・・・ ! 」

夕映えの光のなか、二つの影法師がぴたりと重なった。

 

・・・ こうして、フランソワ−ズは仲間達と共に星々の彼方へ発っていった。

 

 

 

 

 

 

 

優雅な旋律に乗って舞台ではニコラが闇夜の墓地を彷徨っている。

あの腕に飛び込めばいい・・・!

 

 ・・・ 7 ・・・ 8 ・・・ 次・・!

 

フランソワ−ズは走りこみ、思い切り床を蹴り ニコラにむかってジャンプした。

 

  ふわり ・・・

 

次の瞬間、目に映ったのは真下の床。

ニコラは高々とフランソワ−ズを頭上でリフトした。

 

ああ ・・・ アルブレヒト ・・・ あなたに逢えて 嬉しい・・・!

 

・・ジゼル ・・・! 本当に ・・・ 君か? ああ ・・・会いたかった・・・!

 

再びめぐり合った恋人達は 軽やかに愛の喜びを踊りだした。

ジゼルとアルブレヒトは 束の間の逢瀬に全身全霊で愛を表現し・・・

そして。 

夜明けの鐘と共に、ウィリと成り果てた乙女はしずかに墓場に消えていった。

 

愛しているわ・・・ いまも いつも ずっと・・・・

どうぞ つよく生きて・・・ わたしのアルブレヒト・・・

 

愛しているよ・・・! ずっとずっと・・・

僕のせいで 君を ・・・ 君を黄泉の国に追いやってしまった・・・ 

許してくれ・・・僕のジゼル!

 

恨んでなんかいないわ。 わたしは ・・・ あなたを愛してる・・・

 

ジゼル・・・ 僕のジゼル・・・!

 

・・・さようなら ・・・ 愛しているわ・・・さようなら・・・もう会えない・・・

 

ジゼル・・・・ ジゼル −−−−−−− !! 

 

 

朝の光が恋人の墓所にむなしく崩おれるアルブレヒトを照らし始めた。

 

 

 

 

 ・・・ わ −−−− !!

 

一瞬の沈黙の後、割れんばかりの拍手がその小ホ−ルに満ち溢れた。

ブラヴォ− ・・・ 賛辞の掛け声が何回もどよめきの中から巻き上がる。

 

 

「 ・・・ は はは・・・ なんか 君に 釣られて ・・・ 」

「 ニコラ・・・! 素晴しいわ! 」

 

ニコラはまさにアルブレヒトのままで 半ばよろめいて袖に転がりこんできた。

待ちかねていたフランソワ−ズはバスタオルで優しく彼をくるんだ。

 

「 ・・・ は ・・・ 僕 ・・・ 本当に 死 にそう ・・・な気がして・・ 」

「 凄かった・・・! わたし、いま、ここで泣いていたのよ、ほら? 」

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

ニコラはやっとタオルから顔を挙げ、彼の愛しいジゼルを見つめた。

「 ・・・ ありがとう ・・・ 」

「 さ。 カ−テン・コ−ルよ。 わ・・・ すごい・・・ 」

「 ・・・ おし。 行こう。 」

「 ええ。 」

ニコラはすっと背筋を伸ばし、フランソワ−ズに手を差し出した。

二人は呼吸を整え ・・・ 光の空間へ足を踏み出した。

 

光がつぶつぶになって汗ばんだ皮膚に突き刺さる。

そして ・・・ 沢山の拍手が賞賛の声がどよめきが 嵐みたいに襲い掛かってきた。

満場の観客の熱い想いが 渦を巻いて押し寄せてくる。

ひそひそと二人は呟きを交わした。

 

( ・・・ なんだか押し潰されそうだね ・・・ )

( ええ ・・・ こんなの、初めて・・・ )

 

手を取り合って中央に進み、まずフランソワ−ズが優雅に腰を屈める。

見守るニコラは 次にりりしく胸に手を当て礼をした。

そして。

ジゼルとアルブレヒトは幸せに満ちた笑みを交わし、二人そろってレヴェランスを観客に返す。

 

 ・・・ わ −−− 

 

本公演にも劣らない賛辞は 場内のライトが消えるまで止まなかった。

 

「 ・・・ ニコラ ・・・ ありがとう! もう・・・すごく、すごく素敵なアルブレヒトだったわ!

 わたし、まだ涙が止まらない・・・ 」

「 フランソワ−ズ ・・・ 」

最後に袖に入りやっと大きく息をしてから、フランソワ−ズはニコラに抱きついた。

「 僕こそ ・・・ ありがとう ・・・ 僕の ジゼル ・・・ 」

「 わたし、ジゼルだった? ちゃんと、ジゼルに見えた? 」

「 ・・・ ずっと ギリギリまで君を待っていて よかった・・・! 」

「 ニコラ ・・・ ! 本当に なにもかも・・・ ありがとう。 」

フランソワ−ズは 汗まみれのニコラの頬にこころを込めて、キスをした。

 

 

 

急な事情で国を離れることになったので、今度の舞台はキャンセルして欲しい・・・

途中で投げ出して本当にごめんなさい。

 

フランソワ−ズ・アルヌ−ルはそんな手紙を残しただけで一ヶ月近くバレエ団に姿を見せなかった。

「 いえ。 僕は待ちます。 彼女・・・フランソワ−ズはきっと帰ってきます。 」

他の演目にするか、別のパ−トナ−と組むかと問われたニコラはきっぱりと言った。

 

あんなに喜んでいたのだもの。 どんな事情かわからないけれど・・・

きっと。 彼女はまた戻ってくる。

 

ニコラは信じて疑わなかった。

 

だって。 あの瞳は本当に真剣だった。 そんな彼女・・・僕も本気で愛したんだ。

だから、僕は待つよ。 たとえ 今回のチャンスを棒に振っても僕は君を・・・待つ。

 

 

そして・・・

彼女は帰ってきた。

「 本当ならここに顔を出すなんて出来ないはずよね。 こんな顔、見たくもないでしょう? 

 ごめんなさい、せめてひと言だけでも謝りたくて・・・ 」

謝って済むことじゃないけど・・・と彼女は低く付け加えた。

「 もう二度と ・・・ 舞台には立たないわ、いえ、踊らないわ。 

 本当に ・・・ ごめんなさい・・・ 」

 

「 早く、着替えて来いよ。 謝ってるヒマなんかないぜ。 」 

 

突然舞台を降りたことを謝罪にやってきたフランソワ−ズに ニコラはぽつりと言った。

「 ・・・ え ? だって、そんな。 」

「 早く! ぼんやりしてる時間、ないよ。」

彼は強引のフランソワ−ズの手首をつかむと更衣室へ引っ張っていった。

 

「 外野の事は僕にまかせろ。 君は 10分後にCスタジオに来るんだ。 いいね。 」

「 え ・・・ ええ ・・・ でも、あの ・・ 」

「 でも、は後で聞くよ! 」

ニコラはくるりと背を向けるとすたすたと歩いていってしまった。

 

   ・・・ ニコラ ・・・! わたし。

 

フランソワ−ズは溢れてきた涙を拭うと、きゅ・・・っと唇を噛み締めた。

そうなのだ。

今は どんなことをしても彼のパ−トナ−として ジゼル を踊らなければならない。

それが 自分に出来る最高の謝罪であり 義務なのだ。

 

   わたし。 ・・・ やるわ!

 

滅茶苦茶な1週間は飛び去り・・・ マチネ ( 昼公演 ) ながら満席の観客を迎え、

School Performance の舞台は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

「 あのさ。  ・・・ 行って・・・ いいよ。 」

 

「 ・・・え? 」

噴出す汗の間から、ニコラはじっとフランソワ−ズを見つめた。

舞台からは次の演目の音楽が流れてきている。

「 わかったんだ。  今、舞台で ・・・ わかったよ。 」

「 ニコラ ・・・ なに ・・・? 」

「 君には心から愛するヒトがいる。 

 どんなことがあっても ・・・ きっと君はそのヒトの元に行くんだ。 」

「 どうして そんなこと・・・ 」

「 踊っていて判った。 君は ・・・ ジゼルの心を踊ってた。

 愛してる・・・愛してる・・・ どんな目にあっても 自分は愛してる・・・って 」

ニコラはそっと手を伸ばし、フランソワ−ズの頬に触れた。

「 ああ・・・このヒトは ・・・ 辛い恋をして。 それでも愛を消せないんだってわかった。

 それで。 残念だけど その相手は ・・・ この僕じゃない・・・ 」

 

 

君と踊っていて ・・・ 感じたんだ。 理屈や言葉じゃないんだ。

君の心の叫びが 伝わってきたよ。

 

  愛してる・・・ 私は愛してる。 どんなことがあっても。 たとえ裏切られても・・・

  私は 愛してるの、愛し続けるの ・・・ !

 

ってね。 そして  その相手は僕じゃないんだってことも。

僕には 君と触れるこの指先から、 君と見交わすあの眼差しから・・・感じたよ。

だから。

・・・ 行って いいよ。  

 

「 ありがとう、 フランソワ−ズ。 最高の ・・・ パ・ド・ドゥを。 」

「 ニコラ ・・・ 」

「 ・・・ 行きなよ、早く。 君のあのヒトのところに。 」

「 ・・ ニコラ ・・・ 」

「 でも。 またいつか、踊ってほしいな。 」

「 ええ、ええ! ・・・ もちろんよ、わたしの ・・・ アルブレヒト・・・! 」

フランソワ−ズはもう一度しっかりとニコラを抱き締めた。

 

 

   ・・・ さよなら ・・・ 僕の 金髪のジゼル・・・

 

 

やがて洗い髪を揺らし、大荷物を抱えて彼女は走っていってしまった。

楽屋口から 振り向きもしないで掛けてゆくほっそりとした後ろ姿に 

ニコラはそっと ・・・ 呟いた。

 

 

 

 

「 フランソワ−ズ! 」

「 ジョ−! ・・・ きゃ ・・・ 」

劇場の次の角に停まっていた車から セピアの髪の青年が飛び出してきた。

そして 駆け寄ってきた乙女を軽々と抱き上げた。

「 ・・・ お疲れ様! すごく  ・・・ よかった! 」

「 ありがとう、ジョ−。 あの ・・・ 下ろして・・・ ? 」

「 ダメだよ。 このまま・・・ ぼくの部屋へ行くんだ。 」

「 え・・・ あの、わたし・・・ 荷物もこんなに ・・・ あ ・・・ぁ  」

「 ぼくが持つから。  んん ・・・ 」

さっと口付けで彼女の言葉を封じると、ジョ−はそのまま一緒に車に乗り込んだ。

 

 

「 ・・・ ジョ−! ジョ−ったら。 お願い、ちょっと ・・・・ 待って。

 わたし ・・・ せめてシャワ−を浴びさせて。 」

「 待てないよ、そんな余裕ない。 」

「 あ・・・ きゃ ・・・ 」

ジョ−はホテルの自室へとフランソワ−ズを抱きかかえたまま、突進した。

靴を蹴飛ばして脱ぎ、上着をかなぐり捨て ・・・

そのまま、腕の中の女性 ( ひと ) をベッドにどさり、と下ろした。

 

「 ねえ、お願い。 わたし ・・・ メイクもちゃんと落としてないの・・・ね・・? 」

「 いいよ! そのままで ・・・ そのままがいいんだ! 」

ジョ−は彼女に覆いかぶさると、ジャケットをブラウスを つぎつぎに剥ぎ取ってゆく。

「  ジョ− ・・・! お願いだから・・・ 」

「 フランソワ−ズ・・・!  」

ジョ−はぱたり、と彼女の露わになった胸に顔を埋めた。

 

  ・・・ ごめん ・・・ ごめん、ごめん ごめん ・・・・

 

熱い口付けを そこかしこに残し、頂点の蕾を含みつつ ジョ−はひたすら

おなじ言葉を繰り返す。

 

「 ・・・ あ ・・・ ぁ ・・・ や ・・・ ジョ− ・・・ねえ、 どうした・・・の ・・・ 」

全身を時に震わせ、身悶えし、フランソワ−ズは切れ切れに問う。

「 ・・・許してくれ。 ぼくが ・・・ ごめん・・・。 

 きみだけだ。 ぼくが愛しているのは・・・ きみだけなんだ。 」

「 ・・・ジョ− ? 」

「 さっき・・・ 聞こえたんだ、舞台から。 きみの声が ・・・ きみの哀しみが 

 ・・・ きみの愛が ・・・ ぼくには聞こえたよ。 」

ジョ−は白く温かい渓に頬を擦り付ける。

「 ぼくは ・・・ きみを失いたくない! 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ あなた ・・・・ 」

「 ぼくには きみだけだ。 誓って ・・・ きみだけだよ!

 あんな遠く・・・ 星々の彼方まで行って帰ってきて。それなのに何にも判っちゃいなかった・・・

 今夜、きみの踊りを見て 初めて気がついたんだ。 」

「 わたしの? 『 ジゼル 』 ・・・ 

「 そうだよ! 」

「 ・・・ あ ・・・ん ・・・ 」

ジョ−はまたそこかしこに口付けを落とす。

たちまち 白い肢体に華麗な花びらが散ってゆく。

「 ごめん。 きみがあの星でどんな気持ちだったか。 どんな想いでぼくと ・・・ あの人を

 見つめていたのか・・・・ 痛いほど伝わってきたよ。 」

「 ・・・ ジョ−。 」

「 いつも微笑んでいて欲しい・・・なんて言ってたぼくが きみの涙の原因になっていたね。 

 ごめん ・・・ 本当に ・・・ ごめんね。 」

「 ジョ−。 もう・・・いいわ。 過ぎたことよ。 」

「 だめだよ、だめなんだ。 今日の舞台を見ていて・・・ガンって殴られた気分だった。 

 あの王子サマは・・・ぼくだ。 ぼくはあの星で ・・・ 同じことをしようとしていた。 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズはただ・・・じっとジョ−のセピアの瞳を見つめている。

 

  ・・・ 逃げてはだめだ。 ぼくはぼくの精一杯の誠意を示さなくては。

 

ジョ−は唇をかみ締め、また話始めた。

「 きみの気持ち ・・・ わかっているつもりだった。 でも、全然ぼくは・・・。 

 ごめん。 ぼくにはこれしか言うことができないよ。 」

「 ・・・・ 」

白い腕がするするとジョ−の首に絡みついた。

「 フラン ・・・ ? 」

「 ありがとう、ジョ−。 あなたは アルブレヒトじゃないわ。 

 ほら ・・・ こうしてわたしを抱き締めてくれているもの。 」

 

   ・・・ フランソワ−ズ ・・・!

 

 

 

ふふふ・・・ あなたが一番緊張してたのかしら。

 

フランソワ−ズはそっと身を起こし、穏やかな寝息をたてているジョ−を見つめた。

濃い睫毛は頬に張り付き、そよりとも揺るがない。

熱い奔流に呑み込まれ・・・ 二人して絶頂を極め ・・・

そのままジョ−は眠りの沼に引きこまれてしまった。

 

この人は ・・・ そういう人なのだ。

・・・それでも いいわ。 それでも・・・わたしは。

 

フランソワ−ズは ほ・・・っと小さく息を吐き、静かに彼の胸に顔を埋めた。

 

・・・ おやすみなさい、ジョ−。

いいの、いいのよ。 

たとえ ・・・ これからどんなことがあっても わたしはあなたを愛するわ。

ずっと ・・・ 愛してる。

・・・ そう ・・・ いつか・・・空の塵に還ってしまっても。

 

  ・・・ あなた、 わたしのお墓の前で 泣いてくれるでしょう・・・?

 

淡い笑みを唇に残し、フランソワ−ズは静かに目を閉じた。

 

 

********  Fin  *********

 

Last updated : 06,05,2007.                           index

 

 

*****  ひと言  *****

えっと。 あの長編?前後模様・・・と思ってくださいませ。

今回の目標は! <93らぶ見地からの あのお話の締め括り> ♪♪♪

なんとな〜く中途半端な終わり ( 3ファンとしは、特に! )を

ど〜にかしたい!! ってのが捏造の動機でありました(>_<)

バレエ『 ジゼル 』 に関しましては 拙宅【 あひる・こらむ 】内にて

お話をゼロナイ変換してご案内しておりますので、

ご存知ない方は是非どうぞ♪