『   底  − bottom − 』

 

 

 

 

 

 

一体いつまで降り続くのか・・・

フランソワ−ズは半ば諦めの視線を 灰色の空に投げかけた。

昨日の一昨日も その前も。 雨、雨、 あめ ・・・・

特に激しく降る、というのではないが 傘がなければ確実にそれこそ下着まで

透ってしまう強さで 雨は降り続いている。 そう ・・・ ずっと。

今朝は珍しく曇り空だったが、泣き出す一歩手前みたいな空気に満ちていて

TVの天気予報は 傘は必須だ!と喚いていた。

 

   ・・・ ふうう ・・・

 

もうひとつ溜息をつき、フランソワ−ズは傘をひろげ駅舎から足を踏み出した。

都心からメトロと電車を乗り継いで この駅からまた歩かなければならない。

バスもあるのだが 本数は少なく、時間によっては歩いた方が早いのだった。

そんな 辺鄙な街外れ、岬の突端に彼女の家 − ギルモア邸がある。

 

ぴしゃぴしゃぴしゃ・・・・

 

小さな水飛沫を飛ばし、フランソワ−ズは歩んでゆく。

 

さ ・・・・ さ ・・・・ さ ・・・・・

 

細かい雨音がずっと聞こえていて、もう気にもならなくなっていた。

 

    ああ・・・ 疲れた ・・・ こんな日は やっぱり遠いなあ・・・

   

ぎっちり肩に食い込む大きなバッグを抱えなおし、フランソワ−ズは溜息をつく。

毎朝、都心の稽古場まで通うのは少しも苦ではないけれど、

リハ−サル続きで疲れて戻るとき、雨の田舎道はかなり堪えた。

すれ違う人もほとんどいない。

普段からあまり人通りにないところなのだが 雨の夕方は時折配達車の類が

しぶきをあげて走り抜けてゆくだけだった。

 

   せめて晴れていれば 景色を見ながら歩けるのに・・・

   ・・・ あら? ・・・ こんなトコロ・・・誰 ・・・?

 

ふと気がつくと すこし前方を一組のカップルが歩いていた。

傘は一本だけ、俗に言う相合傘状態なのだ。

雨は段々強くなってきていたし、降りてきた夕闇がなおさら視界を悪くしている。

 

   誰かしら・・・  あれ? あの後ろ姿 ・・・ 似てるわ。

   ・・・ まさか、ね。  こんな時間にここを歩いているわけないわよね・・・

   仲、よさそうねえ・・・恋人同士?  あんな風にジョ−と二人っきりで歩きたいわ・・・

 

フランソワ−ズは知らず知らずに 前方のカップルを凝視していた。

傘でアタマは隠れているし、レイン・コ−トはどこででも見る形と色・・・・ でも。

フランソワ−ズにはその男性の歩き方に 見覚えがあった。

すっすっ・・・と長い脚を運ぶ無駄のない動き ・・・

 

   だって まさか。   ・・・ でも ・・・ 似てる ・・・??

 

一方の女性もレイン・コ−ト姿、ぴたりと彼に寄り添っているのでますますよくわからない。

二人はなにかぼそぼそとしゃべりつつ ゆっくりと雨の中を歩むのだが・・・

不思議なことにフランソワ−ズとの距離は一向に縮まらないのだ。

 

   ・・・ まさか ・・・ ジョ− ・・・?

   ヤダ・・・ また・・・ どこかの女の子を  ・・・・?

   あら。 随分と若いコね。 ・・・ ガイジン??

 

女性の方が彼氏を見上げ首を廻らせたとき・・・ きらり、と彼女の髪が輝いてみえた。

す・・・っと男性の腕が彼女の腰に回され 彼女はいっそうぴたりと彼の肩にアタマを寄せる。

 

   ・・・  だれ ?? そのコは ・・・ だあれ??

 

咄嗟に 眼 を使ったが、精密機械の結集である彼女のレ−ダ−はなにも映しださなかった。

・・・ なに・・・?  もしや。  

だ!っと足を早めた瞬間  ―  一陣の風が吹き抜けた。

 

   わ ・・・ きゃ ・・・!

 

横殴りの雨と風に フランソワ−ズは立ち止まり腕で顔を覆ってしまった。

 

   ・・・ あれ。

 

再び 顔を上げたとき、前方にあの仲の良さそうなカップルの姿はなかった。

・・・ 夕闇迫る中 ・・・ 幻でもみていたのだろうか。

 

   あの女性 ( ひと ) のコ−ト・・・・ 知っている・・・かもしれないわ。

   ・・・ わたし ・・・ どうかしてしまった・・・?

 

しばらく傘を手にその場できょろきょろと見回してみたが、人影はまるで見当たらなかった。

ここは一本道、 もう行く手の坂道の上にはギルモア邸が見えてくる位置なのだが

ずっと彼女の前を歩んでいたカップルは忽然と消えてしまった。

 

   疲れてて・・・ 望みと現実がごっちゃになってたのかなあ・・・・

 

そういえば。 ジョ−と二人きりでの外出はとんとご無沙汰だ。

フランソワ−ズ自身が忙しくなったし、ジョ−はあまり人混みを好まないのだ。

ツマンナイナ ・・・・  ツマンナイ ・・・ わたしだって普通の恋人たちみたいに ・・・

 

   だめだめ・・・ なにか他のコト、考えましょ・・・

   ・・・ そうだわ、今日 ちょこっとスタジオで聞こえたあの話。  

   ジョ−なんか面白がるんじゃないかしら。 今度の舞台が終ったら一緒に ・・・

 

ぴしゃり! 

ピンクのレイン・コ−トはまた元気に岬の洋館めざして歩きはじめた。

 

 

 

「 わあ〜〜 嬉しいなあ! 」

「 ほっほ♪ ほな腕にヨリをかけてつくるさかい、ち〜と待っとってくんなはれ。 」

張大人はドジョウ髭を揺らし、ついでにまんまるなお腹もゆらして ・・・

ギルモア邸のキッチンに消えた。

 

小糠雨とはよくいったもの、毎日そめそめと細かい雨が降り続いている。

この季節は仕方ない・・・ と誰もが諦めてはいるが言葉にならない倦怠感が 

ここ、ギルモア邸にも漂っていた。

一見 少し古びた洋館だけれど その実内部はハイテクを駆使した快適な住環境・・・ なのだが、

自然の力には敵うはずもなく、降り込められる鬱陶しさは拭い去ることはできない。

ギルモア博士も ジョ−もフランソワ−ズも。 そしてイワンでさえも

なんとなく鬱屈とした気分をもてあましていた。

 

そんなある日。

雨音などかき消してしまう勢いで 玄関のドアが開いた。

 

「 コンニチワ〜〜 みなはん、元気アルか〜〜 」

 

「 ・・・ おお、大人。 この天気の中、よく来てくれたのう。 」

「 張大人〜〜 久し振りだね。 いらっしゃい。 」

キンキラなチャイナ服に丸まっちい身体を包み、張々湖がにこにこ顔を見せてくれた。

傘は差しているけれど、彼の周りには雨も跳ね返してしまいそうなオ−ラが取り巻いている。

 

「 あいや〜〜 博士、お元気でっしゃろか。 おお・・・イワン坊、お目覚めか。

 ジョ−はん・・・・ おや、フランソワ−ズはんは? 」

「 うん、このところリハ−サル続きでね。 帰りが遅いんだ。 

 でも 多分もうすぐ帰ってくると思うけど・・・ 」

「 ほう? 公演が近いアルな。  丁度ええ。 元気をつけてあげましょ。

 今日はな、ワテが皆はんにう〜〜んと美味しいもん、上がっていただこう、思いましてな。

 ほれ・・・ とびっきりの食材も持ってきたアルね。 」

張大人は大事そうに下げてきた風呂敷包みを翳してみせた。

「 お。 これは嬉しいのう。  そんな訳で我が家の主婦がお留守でなあ・・・

 このところ ジョ−の チン・・・!料理ばかりで少々味気ない思いだったんじゃ。 」

博士はイワンにミルクを飲ませていたが、相好を崩している。

「 あ・・・ 博士ったら。 酷いなぁ。 いっつも美味しい、美味しいって全部食べてくれるのに。 」

ジョ−がちょっと不満顔である。

「 ま・・・ 誰がやってもあのテの食品は同じ味にできるでのう。

 それがまた・・・ ちょいとつまらない点でもあるな。 

 フランソワ-ズの日によってちょっとづつ味が違うオムレツなんかの方が まさに<味がある>。 」

「 ほっほ・・・ 博士、まさに! それが料理っちゅうもんやろな。

 ほいでは、今晩はワテが皆はんのお口に合う、中国料理に腕を振るうよって・・・

 楽しみにしたってや〜〜 」

ぐい・・・! と腕まくりをし、張大人は悠然と笑った。

 

やがて。 リビングにも食欲をそそる香りが漂ってき始めた。

「 わ ・・・ あ・・・! いい匂い〜〜だ〜〜 」

「 ははは・・・ こりゃ、たまらんのう。 ふむふむ・・・ 晩飯が楽しみじゃ。 」

「 やっぱり手間隙かけたものには敵わないですね。 

 あ・・・ フランソワ−ズ、早く帰ってこないかなあ・・・  」

ジョ−は雨に煙る窓から 海岸通りの方に視線を向けた。

ほんの30分も前に 邸中に澱んでいた湿っぽい雰囲気は見事に払拭されていた。

大人の福々した笑顔と 美味しい料理の香りが太陽の代わりをしてくれたのかもしれない。

 

  ほっほ。 食事は文明のバロメ−タ−あるネ

 

彼の十八番 ( おはこ ) が自然と皆のこころに浮かんだ。

「 やっぱり ・・・ 美味しそうですね。 」

「 ははは・・・ まあ、そう気にするな、ジョ−。 

 お前の料理じゃって なかなかのものだったぞ。 」

「 博士〜〜〜 さっきと随分ちがうじゃないですか〜〜 」

「 いや、な。 決して不味いわけじゃない。 ただ味が画一的で ・・・ 飽きるんじゃな。 」

「 あ・・・ そうですねえ。 そういえばレンジ・フ−ドは似たような味かも。 」

ふふふ・・・・と博士は笑ってミルクの終ったイワンをク-ファンに戻した。

 

「 ・・・ ただいまぁ ・・・ 」

 

「 あ! フランソワ−ズだ。  お帰り〜〜〜 濡れちゃっただろ? 」

ジョ−は玩んでいた模型を放り出し、玄関に跳んでいった。

「 おやおや ・・・ ここにも大きな坊やがおるのう・・・ 」

博士はよっこらしょ・・・と立ち上がりジョ−の模型飛行艇を拾い上げた。

「 楽しい晩飯になりそうじゃ。 親しい家族との弾む会話 ・・・ 最高の献立じゃて。」 

 

 

「 お帰り、フランソワ−ズ。 」

「 ジョ− ・・・・  」

「 ? なに。 どうかしたのかい。  ・・・ああ、ちょっと待てよ、タオルもってくるから。

 あ〜あ ・・・ びしょびしょじゃないか。 」

「 え? ・・・・ええ。 」

フランソワ−ズは玄関で荷物も置かずに 出迎えに出たジョ−の顔をまじまじと見つめるばかりだった。

「 ほら、そのバッグはこっちに置いたら・・・ 」

「 ・・・ ジョ−。 」

「 それから 〜  うん、なんだい。 」

「 ジョ−。 あなた ・・・ あのゥ 今日はずっとウチに ・・・いた? 」

「 え? ああ・・・ 昼前にちょっと駅の方まで博士の用事でいっただけだよ。 」

「 ・・・ そう ?  そうよね。 アレがジョ−のはず ・・・ ないわよね。 」

フランソワ−ズはまだ、レイン・ブ−ツも脱がずに玄関に突っ立ったままだ。

「 一体どうしんたんだい? ほら・・・ 早くあがりなよ。

 張大人が来てくれて。 今晩は大人のスペシャル中国料理さ♪ 」

「 ・・・ そうなの? わあ ・・・ 本当に良い匂い・・・ ! 」

「 ほらほら・・・ 早く濡れたモノを着替えて。 皆で美味しい晩御飯さ。 」

「 ええ。 そうね!  きゃ♪ 楽しみ〜〜 」

やっといつもの笑顔になって フランソワ−ズは玄関から上がった。

「 た ・ だ ・ い ・ ま ♪ ジョ− ・・・ 」

「 お帰り、フランソワ−ズ。 」

二人は誰もいない玄関ホ−ルで 腕を絡め合い熱いキスを交わしていた。

「 さ。 美味しい晩御飯だぞ〜〜 」

「 ふふふ ・・・ ますます良い匂いねえ・・・ 」

 

楽しい夕食は 美味しい料理と賑やかなオシャベリで彩られ・・・

フランソワ−ズが持ち出した話題で 盛り上がったり ― ともかく皆、鬱陶しい季節を忘れた。

張大人は博士と紹興酒を楽しみ、結局ギルモア邸に泊まっていった。

 

 

 

「 なあ。 さっきのハナシな・・・ 」

「 ・・・ え ・・・ ? 」

ジョ−はぴったり寄り添っている良い匂いの身体を愛撫する手をふと止めた。

ふわり・・・とした気分で 彼の手だけを感じていたフランソワ−ズの声が かすかに応える。

「 さっきの、あの夕食の時の。 ほら・・・ なんとかいう高原の謎の大穴。 」

「 ・・・ ああ ・・・ 南米のね。 」

「 うん、そうそう。  よかったら ・・・ 行ってみないか。

 今度のきみの公演が終ったら、 うん・・・ アメリカ組も誘ってさ。 」

「 いいけど・・・ ジョ−、あそこの謎、知っているの? 」

「 いや、きみから初めてきいた。 でも、絶対になにかあるって思わないかい。 」

「 う〜ん ・・・ ガセネタではないとは思うけど。 」

「 なら、行こうよ。 大人もかなり乗り気だったじゃないか。 」

「 うふふふ・・・ そうねえ。 スポンサ−になりまっせェってね・・・・ 」

「 このところ興味を惹かれる事件もないし、この天気だし。

 ちょっと日本を飛び出してみるのも ・・・ いいかも ・・・ 

「 ・・・ きゃ ・・・ ! ジョ− ・・・ ああ ・・・・!! 」

ジョ−の唇が白い胸の頂点を含み 彼の舌は巧みにそして饒舌にそれを攻め立てる。

「 ふふ ・・・ ふ ・・・  南米の謎にも惹かれるけど。

 ぼくが迷い込んでしまった謎は ・・・ この身体さ。 きみの 底 には なにが・・・ ある ・・・? 」

「 ・・・ あ ! ・・・・ や ・・・ じょ ・・・--- ! 」

彼女の暖かい場所に彼自身を沈め ジョ−はどんどん昂まってゆく。

肌がぶつかり合う音が しだいに熱気をふくみねばっこく響きだした。

おなじ調子で途切れるおとのない雨音も 伴奏にも聞こえるたゆとう波の音も

二人の耳には届かない。

しけっぽかった部屋の空気はいつの間にか熱くねっとりとしたものに変わっていた。

 

 

「 ・・・・ さっき  どうしたんだい? 」

「 ・・・・ ? 

再び言葉の世界に戻ってきたとき、 ジョ−はぽつん、と訊ねた。

さくら色に全身を染め、フランソワ−ズは薄く眼を開いた。

「 ・・・ さっき ・・・ ? 」

「 ああ。 ぼくが帰ってきたと時。 玄関でさ  じ〜っと見つめてただろ。 」

「 ・・・ あ ・・・ そう ・・・ ね。 」

「 ぼくの顔、見ている ・・・ みたいだったけど。 きみの心は別のトコだった。 」

「 ・・・ 夢を、 白昼夢を ・・・ みた ・・・の。 

 夢 ・・・? ううん ・・・ わたしの欲望 ・・・ かな・・・ 」

「 きみの 欲望 ・・・?  」

「 ・・・・ うん。 きっと ・・・ アレは わたしのこころの底に澱んでいる ・・・ 想い ・・・

 ジョ−を独り占めしたい ・・・ わたしの夢、よ。  」

「 おかしな子だねえ ・・・ ぼくはここにいるのに 」

ジョ−はふわり、と彼の恋人の身体をもう一度抱きよせた。

「 ・・・ 二人で ・・・ いつも 二人さ。 」

「 ジョ− ・・・ 」

全身に火照りを残したまま ・・・ 恋人達は快い眠りの底に引き入れてられていった。

雨は。

まだ 降り続いていた。

 

 

   そして。

 

一ヶ月後。

ジョ−達は 南米の奥地にある高原に来ていた。

 

「 今度は誘ってもらってよかったぜ。 サンキュ、ジョ−。 」

薪を束ねて 赤毛が素直に礼をいった。

「 いや・・・・ きみとジェロニモは同じ大陸にいるし、誘わないってテもないかな、って。 」

「 俺もよ、あのTV、みたぜ。 ダチどもに日本語、通訳してやった。 」

「 へええ?? あの特番、衛星放送もしたのか・・・ 」

「 ああ、らしいな。 結構こっちでも盛り上がったぜ。 」

「 ふうん? でも結局、あの時点では特になにもみつからなかったんだよね。 」

「 あ〜。 らしい、な。 」

「 だけど、フランソワ-ズが聞き込んだハナシだとさ・・・ 」

ねえ? とジョ−はフランソワ−ズを振り返った。

「 そうなのよ。 放送にはださなかったけど、スタッフのものではない手形がね、

 それも新しいものが あの巨きな穴の壁に見つかったのですって。 」

「 へえ〜〜 手形ねえ・・・ 」

ひゅう〜 と口笛をふき、ジェットは薪を一本焚き火に放り込んだ。

「 ふん。 今夜はここで野営して明日、明るくなってから <降りて>みようぜ。 」

「 ああ。 楽しみだな。 」

「 ほいほい〜〜♪ 晩飯でけたアル。

 ま、満漢全席 ・・・ とはいかないアルが。 野外料理もまたオツなもんネ 」

相変わらず大人は にこにこと太鼓腹を揺すっている。

盛んに燃え上がる焚き火を囲み 思わぬ場所での宴会になっていた。

南米の夜、星はまさに降るように彼らの頭上で煌いていたのだった。

 

 

「 こっち、来いよ ・・・ 」

「 ・・・ だめよ、皆いるのよ? それに こんなトコで・・・ イヤ。 」

「 ばか。 何もしないって。 」

ジョ−はすこし強引にフランソワ−ズの手を引いて自分の横に引き寄せた。

火の番をしつつ サイボ−グ達は交代で眠っている。

二人は寄り添い、焚き火を見つめて 脳波通信で語り始めた。

 

  なんだか ・・・ ミッションの時みたいだね

 

  ・・・ そんなこと、連想しないで。 

 

  ごめん ・・・ 今回はぼく達のレクリエーションだものね。 

 

  そうよ。 お楽しみ企画、でしょ。

  ・・・ ねえ? 本当に なにか ・・・ いると思う? あそこに・・・

 

  う〜ん ・・・ 小説みたいなワケには行かないだろうけど。

  ほら、あの現地に残る伝説、 あれってかなり意味深だよ。

 

  自分の熾した火で死んだ怪物のハナシでしょ。

  そうねえ。 ちょっと怖いけど ・・・ わくわくするわ。

 

  うん、それが探検の醍醐味だろうね。 明日、明るくなったら降りてみよう。

 

  ええ。 ・・・ あ ・・・ なんだか・・・ 眠くなってきちゃった・・・

 

  ふふふ ・・・ いいよ、ぼくに寄りかかって少し眠れよ。

  大丈夫、ぼくはちゃんと起きているからさ。 ほら・・・ おいで。

 

  あら・・・ ジョ−ったら・・・

 

ジョ−は身体をずらし、フランソワ−ズを抱きかかえるように座りなおした。

薪の火は心地よく温かく、安心したせいもあってフランソワ−ズはじきに寝息をたて始めた。

 

やっぱり緊張していたんだな。 フラン、ゆっくりお休み・・・

 

ジョ−はたおやかな身体に腕を回すと そっと抱き寄せた。

燃え続ける炎が 周りの石壁に影法師を映し出している。 ゆらゆらと揺れる二人。 抱き合った影・・・

 

 

「 ・・・ 私のこと。 好きだっていったのに。 」

「 ・・・ え ?! 」

突然 影が壁から起き上がりはなれ ジョ−の前に立った。

「 ?! ・・・ きみは ・・・! 」

「 忘れちゃった? あの夜・・・ 月が綺麗だったわね、満月だったわ・・・ 」

「 ・・・ ヘレン! 」

「 私 ・・・ あなたを援けて撃たれたのよ。 」

「 君! どうして ここに??  ・・・ あ ? 」

ゴウ ・・・ ッ !!

一際大きな薪が燃え上がり ― 炎が明るく燃え上がり ・・・ 次の瞬間、あの影は消えていた。

 

「 ・・・ な、 なんだ・・・?? 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ?  どう したの・・・ 」

「 あ、 ああ・・・ごめん、フランソワ−ズ。 起こしちゃったかい? 」

「 なにか ・・・?  」

「 ・・・ いや。 ちょっと ・・・ 夢でも ・・・ そう、こんなジャングルの夜が見せた幻さ。

 そうに 決まってる。 あれからもうどれだけ経っていると ・・・ 」

「 ・・・? 」

「 ごめん、ごめん。 きっとぼくも居眠りして夢でも見たんだろう。 さ・・・ お休み。 」

「 ・・・・ ジョ−は ・・・ ? 」

「 こうやって・・・ きみと一緒にうつらうつらしているよ。 それでぼくには充分さ。 」

「 そう・・・? 」

「 うん。 だから安心してお休み・・・ フランソワ−ズ 」

「 ・・・ ええ ・・・ お休みなさい ・・・ ジョ− 」

フランソワ-ズはジョ−の腕の中からのびあがり、彼の唇を求めた。

「 お休み。 」

 

  ・・・ あれは。 なんだ・・?? 幻・・・? 

  ヘレン・・・!  許してくれ。 一生 ・・・ 一生、君のことは忘れない・・・!

 

密林の夜はさまざまな想いが じっと息を潜ませ、時に姿を現すのだった。

そしてそれは ・・・ 人の心に喰い込んだ溶けない棘を呼び覚ます。

ジョ−はその夜、 いつまでも焚き火の炎を見つめていた。

 

 

 

 

「 ・・・ さあ! 降りるぞ。 」

「 飛んで降りたら ヤバいか? 」

「 灯り、いりまっか? いつでも火ィはスタンバってますよって〜〜 」

「 フランソワ−ズ。 俺の肩に乗ってゆけ。 」

翌朝 サイボ−グ達は件 ( くだん ) の巨大な穴のさらに深い裂け目を前にしていた。

それはかなり大きな裂け目でジャングルの熱気とはまたちがった風が

かすかに下から巻き上がってきている。

「 ・・・ あ! 水の音・・・ 下に地下水が ・・・ 川があるわ。 」

「 ふうん? ・・・ 下の方が明るいぞ。 」

「 なに? ・・・ ああ本当だ。 人工のモノじゃないな、 燐光かな。 」

サイボ−グ達はかなり広い岩盤の上に降り立った。

「 ここが底かな。 」

「 らしいね・・・ あ! 」

「 わあぁぁぁ〜〜 !」

いきなり白い小さなものが一行めがけて飛びかかってきた。

「 な?!・・・ おい、これは ・・・ コウモリだ! それも 真っ白な・・・・ 」

「 きゃ・・・! コレ・・・ 噛み付かれたわ! 吸血コウモリ?? 」

「 フランソワ−ズ! こっちへ。 ふん、ぼくの皮膚を噛んでみろってんだ。 」

「 オレに任せろ。 」

ぬ・・・っと巨躯を動かし、ジェロニモは飛びかかってくるコウモリの群れを捻りつぶして行った。

 

 

   ・・・・ オヤメ ・・・・ !

 

 

突如 全員の頭に直接呼びかける声が響き渡った。

 

「 ・・・ なんだ?? 」

「 くそう ・・・ 視界がよく・・・利かない! 」

 

   お前達、 何者です!

 

「 ・・・・ なんだ ・・・? どこから誰が呼びかけている? これはテレパシ−・・・ 」

 

   応えるのです ・・・!

 

「 ・・・ ジェット ・ リンク  」

「 張々湖 ・・・ 」

「 ジェ ・・・ ロニモ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ・アルヌ−ル ・・・ 」

 

・・・ これは不味い ・・・ ! すごい精神波だ ・・・・ か、加速すれば なんとか ・・・

 

辛うじて奥歯のスイッチを噛み、ジョ−は素知らぬ顔で応えた。

「 ジョ ・・・ 島村ジョ− 外から・・・ 外の世界から ・・・・きた 」

 

   こちらへ 来なさい。

 

<声> は ぐいぐいと全員をひっぱってゆく。

く・・・! すごい精神波だ。 加速していてもまだ随分感じる ・・・ !

 

一行はふらふらと < 声 > に引き摺られ岩の間をぬって歩いてゆき

やがて頑丈な石柱で支えられた地下の大ホ−ルに辿り着いた。 神殿のようにも見える。

 

おかしいぞ。 どこにも <声> の主の姿はみえない。

向こうは確実にぼく達を認識しているようなのに・・・

 

ジョ−以外のメンバ−はみな、半覚醒状態で大人しく付いてきている。

 

・・・ あ? あれは ・・・ なんだ?? 

 

岩盤のホ−ルの奥、一段と高まった棚の奥に なにか灯りが見えた。

天然の光 − 太陽や燐光ともちがう、硬質の煌きなのだ。

 

炎?? それも・・・ 機械の炎、いや、強烈な光源・・・か?

 

ジョ−は眼を凝らすがフランソワ−ズのようにその内部まで見透かすことはできない。

 

  さあ。 この < 翠の炎 > を浴びるのだ・・・! 

  そして ・・・ 己の欲望に身を焦がすがいい 

 

特に激しい光を浴びたわけではなかった。

しかし

 

  ・・・・ とん ・・・!!

 

なにかが。 なにかの刺激がジョ−の心をゆさぶった。

辛うじて首をめぐらし仲間たちを見れば 皆一様に呆然として立ち尽くしている。

 

( ジェット! 大人!?  ジェロニモ? フラン、フランソワ−ズ?? )

 

脳波通信フル・オ-プンにして呼びかけたがなんの応答もない。

ジョ−は加速を解いて 強張った足をそろそろと動かし始めたその時。

 

「 ・・・ 009!  待っていたわ。 ずっと・・・ 」

「 ? ・・・ 誰だ! 」

「 わかっているくせに。 ・・・ わたし、よ。 ずっとここにいたの。

 あなたは 気がつかないフリをしていただけよ。 」

「 な・・? じゃあ昨夜 焚き火の側にいかのも ・・・ きみか? 」

「 そうよ。 昨夜だけじゃないわ、 わたしはいつだってあなたと一緒にいたの。

 そう ・・・ あそこで命を失ってから・・・ 」

ひやり ・・・ となにかがジョ−の頬に触れる。 眼をこらし全身の神経を集中させたが・・・

周囲から跳ね返ってくるには仲間達の生存反応だけだ。

ジョ−は油断なく身構えた。

「 きみは 誰なんだ。  ずっとぼくたちをつけてきたのか? 」

「 誰、ですって・・・? わかっているくせに。 ・・・ あなたのこころに聞いてごらんなさい。

 ううん ・・・ 眼を開けてよく見れば わかるはずよ。 私のジョ− ・・・ 」

「 やめろ! 」

ごく近く ・・・ まるで息遣いまで聞こえてきそうな感覚にジョ−はあわててぶんぶんと首をふる。

「 きみは! なんの目的でこんなところに現れるんだ。?  

 きみは ・・・ ずっとここにいたの・・・か ? 」

「 ふふふ ・・・ 認めたくないのね、ジョ−。 言ったでしょう・・・ 私はずっとあなたと一緒だったって。

 あなたのこころに、奥の奥にあなたが閉じ込めておいただけ、よ。 」

「 ・・・ ぼく、が? 」

「 そうよ。 あなたは ・・・ 私を助けられなかった・・・ その悔恨と私に魅かれていた・・・ 

 その気持ちをあのヒトに知られまいとして必死だったの。 そう、今もね 」

「 ・・・ ウソだ! そんなコト ・・・ 勝手にハナシを作るな! 」

「 そうかしら ・・・ ?  でも いま ・・・ <翠の炎>が、いえ、あなた自身が

 私を呼んだわ。 ・・・ ねえ ・・・ 愛して。 」

「 ・・・ や、やめろ ・・・!  あ ??? 」

ジョ−が大きく一歩踏み出したとき、 声と気配は消えていた。

 

   ・・・ なんだ??  なんだったんだ・・・?

 

のろのろと辺りを見回す。

彼の一番近くに フランソワ−ズがいた。 彼女は − 石床に身体を折り曲げ眠っていた。

「 ・・・? フラン・・・ フランソワ−ズ ・・・? 」

そっと触れた身体は穏やかに呼吸をし、脈拍も正常だった。

フランソワ−ズは 深く寝入っている。

 

  よかった・・・ ぼくだけか? あんな幻覚を見たのは・・・ 

  あのメカの光はいったい ・・・

 

 

「 ううう ・・・・ ! チックショウ〜〜 」

彼らの先頭を進んでいたジェットが やはり蹲り呻き声を上げている。

「 ・・・ ジェット・・・ ! 」

ジョ−はふらつく脚を踏みしめつつ ジェットに近づいた。

「 はなせ! ソイツはオレの! 手をだすな〜〜 」

懸命にもがいているが、 飛び立つ気配はない。

どうやら 彼はBGに捕まる以前の 幻 に苛まれているらしい。

「 おい! しっかりしろ。 ジェット! 」

ぱん・・・!

ジョ−は暴れまわる赤毛に、かるく一発浴びせた。

 

「 ・・・う ・・・ ! ・・・ あ ? ああ? 

「 目が覚めたかい。 君もあの <翠の炎>を浴びたんだな。 」

「 ・・・ なんだ ・・・ どうしたんだ、オレは・・・

 ジョ− ??  ああ、そうか。 ここは南米だった・・・よな 」

ジェットはまだ焦点の合わない瞳で ぼう・・・っと周囲を見回している。

「 しっかりしろよ! なんならもう一発 〜 」

「 やめとけ。 お前の手が傷つくだけだぜえ。 」

「 なんだよ〜 ちゃんと目が開いてるじゃないか〜  ついでだ・・・ もらっとけ! 」

「 ・・・ おっとォ〜 ・・・ ! 」

ジェットはニヤっと笑い、ジョ−の拳を掌で受け止めた。

「 わりィな。 お前の拳固は一発で ノウ・サンキュウさ。 」

「 ったく! なあ、ジェット。 君も幻覚を見ただろう。 どうも アレのせいらしい。 」

ジョ−はくい、と謎のメカを指した。

「 はん! ・・・ 思い出したくもねエことばっか穿りやがって。

 やっぱあの妙な機械のせいか。 ふ〜ん ・・・ 翠の炎、か。 」

ジェットは仔細を語りはしなかったがやはり彼も 隠しておきたいコト を目の当たりにしたらしい。

「 おい、フランは。 」

「 うん ・・・ 眠ってる。 」

「 魘されてねえか? だったら起こしてやったほうがいいぜ。 」

「 いや。 彼女は普通に・・・ 穏やかに眠っているだけのようだ。 」

「 ふん ・・? 」

「 このメカは一体なんだろう。 いや・・・・ メカというかあの<翠の炎>は?

 見た目、とても地球上のモノとは思えないが。 」

「 どうせロクなもんじゃねえよ。 んな、勝手にヒトの心をかき回しやがってよ。 

 心理作戦か? それにしては悠長だぜ。 」

「 うん、そうだね。 なんの目的でこんなトコにあるのかなあ。 」

「 んじゃ。 ジョ−、お前そっちから撃て。 オレはこっちからヤルから。

 両サイドからス−パ−ガンをお見舞いすれば こんなちゃっちいメカ、イチコロさ。 」

「 え・・・・。 でも少し調べたほうが ・・・ 」

「 ジョ−。 お前・・・ ユルいぞ。 調べるってどうやる? ヘタに弄くってまた妙な思いをするのは

 ごめんだぜ。 」

「 うん ・・・それは・・・ そうだけど。 」

「 ほんじゃ。  オレ、あっち側に行くぜ。 おっと ・・・ あの炎を避けないと。 」 

ジェットは岩陰に張り付きつつ移動してゆく。

「 いいか、ジョ−? せ〜の!でゆくぜ。 」

「 ・・・ わかったよ。 」

ジョ−もス−パ−ガンの照準を決めた。

 

 

    ・・・・ おやめ !!

 

「 な、なんだ・・・?? 」

「 ・・・?  あ! あれを。 」

「 ??? しェ 〜〜〜  オンナかよ。 」

彼らの頭の中に直接響く 声 とともに それは現れた。

 

    撃ってはなりません。

 

翠の炎を真下にして ゆっくりと人影が現れた。

むき出しの肌、白い肌が緑色に染まってみえる。

銀の髪も硬質な輝きをみせ、それは悠然をサイボ−グ達の前にたった。

 

    翠の炎を浴びてお前らにはなんの変化もない。

    お前らは ・・・・ なんだ? 人間か。 

 

「 ! 人間さ! ああ、立派なこの地球の人間だ! そういうてめェはなんだ?

 そっちこそ人間かよ。 」

「 ・・・ ジェット。 アレは音声での会話はしていないよ。 

 テレパシ−で直接ぼくらのアタマに語りかけてる。 」

「 ふん。 上等じゃねえか。  ・・・ う ・・・? 」

「 どうした、ジェット ・・・ あ ・・・ 」

    まずい・・・ 今度は ・・・ テレパシ−というよりもコントロ−ルだ・・・!

 

前方でジェットの身体がグラリ、と揺れ彼は再び床に転がってしまった。

ジョ−も 咄嗟にコントロ−ルされた風を装いフランソワ−ズの脇に身を横たえた。

 

「 そこの ・・・ 巨きなオトコよ、目覚めよ。 」

銀の髪をゆらし それはゆっくりと打ち伏したサイボ−グ達に近づいてきた。

やがて今まで伏していたジェロニモが ゆっくりと起き上がった。

「 おお ・・・ 待っていました。 きっともどってくると信じて・・・長の年月 ・・・ 」

ジェロニモはコントロ−ルされているのか 微動だにせず立っている。

 

「 さ。 炎を。 <翠の炎>を浴びておくれ。 

 これはこころの底に潜む欲望をかき立て現実にしたいと切望させる火 ・・・ 

 お前の望みは この私。 炎で強められれば 共に再び天空へ飛びたてましょう。 」

「 ・・・ こころに潜む ・・・ 欲望 ・・・ 】

「 そう・・・ ヒトの欲望は全ての原動力。 それさえ操れば全てを支配下におけるのだ。

 さあ、ア−ガムン・・・わたくしの恋するひと! 」 

 

   ・・・ よせ! ジェロニモ! 目を覚ますんだ・・

 

ジョ−は跳ね起きてジェロニモに駆け寄った。 その時・・・

 

バシュ ・・・!!!

 

ジェロニモのス−パ−ガンが火を吹き、<翠の炎>を発しているメカを破壊した。

「 ・・・! な、なんということを!! アーガムン、 気でも狂ったのですか!? 」

「 ジェロニモ! 覚醒していたのか。 」

巨漢はゆっくりとス−パ−ガンを収めると しずかに口を開いた。

「 これ よくない。 ヒトがこころに閉じ込めている小鬼を世に放つ。

 ・・・ よくない。 」

「 こころに閉じ込めた ・・・ 」

「 そうだ。 ヒトは皆 こころに小鬼を飼っている。 オレもお前も。 誰でも。 

 それを放つ、よくない。 」

 

  鬼?  ・・・ ああ、そうだ! さっきぼくが見たあれは・・・

  確かに ぼくの慙愧と悔恨から生まれた ・・・ 鬼 ・・・

 

ジョ−はじっとレ−ザ−に溶けた不思議なメカを見つめた。

 

「 うううう ・・・・ なんというコトを・・・! 」

メカの残骸のそばにうずくまっていた女は呻吟していたがやがてよろよろと立ち上がった。

 

「 ・・・わ! 気をつけろ。 また サイコ・ウェ−ブで攻撃してくるぞ。 」

ジョ−はぱっと飛び退き、横たわっているフランソワ−ズの前に立ちはだかった。

「 大丈夫だ。 この女にもう力はない。  生命 ( いのち ) のオ−ラを感じない。 」

「 なんだって? 」

「 ・・・ う ・・・ ううう ・・・ どうしてこんなコトを・・・」

「 ?! なんだ?? その顔 ・・・! 」

「 ・・・ 顔 ・・・?  ・・・ おお ・・・・ おおおおお ・・・ 」

女はメカの破片に映った我が姿に 絶望の声を上げた。

 

  ― ジョ−達の前にいるのは 干からびた老婆だった。

 

先ほどの 硬質なまでに張った身体をもつ女とはとても思えない。

「 ・・・ 私はただ ・・・ お前が再び迎えに来てくれるまで同じ姿で 若さを保って・・・

 一番美しい姿で会いたいと思っていただけなのに・・・ 」

女、 いや老婆は呻き、よろめきつつ神殿の奥へ逃げ込んでいった。

「 今のうちだ! 逃げるぞ、地上に戻るんだ! 」

「 むう。 ・・・ みんな覚醒したぞ。 」

「 ああ・・・ ! フランソワ−ズ ・・・ 大丈夫かい?! 」

石床に伏していたフランソワ−ズはゆっくりと身を起こした。

「 ・・・ ジョ− ・・・ わたし。 どうしたのかしら。  

 ずっと ・・・ ずっとジョ−と一緒にいた ・・・ と思うのだけど・・・ 」

「 さ、早く! 脱出するんだ。 ジェロニモ、他の二人は? 」

「 大丈夫だ。 ・・・ 行こう。 」

サイボ−グ達は石床を鳴らし 降りてきた崖へと駆け戻っていった。

 

 

「 ・・・ く ・・・ もう ダメじゃ。 最後のボタンを押す ・・・ 時が来た・・・ 」

奥まった窪みで 老婆は喘ぎ枯れ木の如き腕が銀色のスイッチの上に倒れた。

 

   ゴゴゴゴ ・・・・・

 

地の底から不気味な音と振動が伝わってくる。

激しい揺れに石壁や天井が崩れ始め、ばらばらと瓦礫が降ってきた。

 

「 ・・・ああ ・・・ ア−ガムン  そこに居たの。 やっと迎えにきてくれたの ・・・ね・・・

 還りましょう ・・・ ! わたくし達の ・・・ 故郷へ  ・・・・ あの懐かしい宇宙 ( そら ) ・・・ 」

 

崩壊する地下神殿の奥から 低い呻きがもれ ・・・ やがてすべては埋没してしまった。

 

 

 

巨大な地下洞穴の外には爽やかな夜風が吹いていた。

這い上がってきたサイボ−グ達は 一様にほっとした様子で暫くは皆 口をつぐんだままだった。

 

地下から響いていた地鳴りも 次第に収まっていった。

 

「 あれは ・・・ なんだったんだろう。 」

 

「 遥か・・・ 太古のこと。 宇宙 ( そら ) の彼方からやってきた人々は事故でこの地に取り残された。」

「 ジェロニモ?? どうしたんだ・・・?」

「 わからない。 オレのアタマにメッセ−ジが残っている。 聞いてくれ・・・ 」

「 は〜ん ・・・ あのきんきらしたおなごはんのイメ−ジを受け取りはったんやろ。

 ま・・・ご供養思って聞いてあげまひょ 」

大人が飄々として提案した。

「 そうだね・・・ あのヒトだって犠牲者だもの。 」

「 ・・・ ええ。 ア−ガムン ・・・ そんな名前で呼んでいたわ。 」

「 聞こえたのかい。 」

「 夢の中で 彼女の意思がびんびん伝わってきたの。  帰りたい 還りたい ・・・って。 」

「 そっか ・・・ そうだろうな。 」

サイボーグ達はてんでに近くの岩に腰をかけジェロニモの伝えるメッセージに耳を傾けた。

彼の一人語りは 草原の夜風に乗り散っていった。

 

 

「 もうすぐ夜明けだ。 それまでここで休んでゆこう。 」

「 オッケー。 草原の日の出もいいぜ。 」

 

「 フラン? どうしたんだい。 」

フランソワ-ズは 先ほどの穴の方をじっと眺めている。

「 ジョ−。 あなたはあそこで ・・・ どんな幻をみたの。 」

「 ・・・ ごめん。 言えないんだ。 」

「 どうして。 わたしが聞いてはいけないこと? 」

「 そうじゃない。 でもこれは ・・・ ぼくが死ぬまで抱えていなくちゃいけないことなんだ。

 どんなに辛く苦しくても、それがぼくの贖罪の証かもしれない。 」

「 贖罪 ・・・ ? 」

「 ぼくは ぼくのこころの小鬼を放ちはしない。

 それで きみを悲しませることのないように・・・・

 それが きみを苦しませることは 決してないように。 ぼくは 誓うよ。 」

「 そう ・・・ ジョ−がそう思うのなら聞かないわ。 でも 忘れないでね、わたしがいつでも

 あなたの側にいるってこと。 」

「 勿論・・・・ !  ぼくも聞いていいかな。

 フランソワ−ズ。 きみは なにか幻をみなかったのかい。 」

「 あの幻は何なのかしら。 」

「 ああ。 あの女が言ってた。 <翠の炎>には心に潜む欲望を呼び覚ます力がある・・・って。 」

「 そうなの・・・ 」

 

「 ったくなあ・・・・ 悪趣味なヤツらだぜ。  大人? おタクは? 」

「 ふぁ〜〜〜 ワテはな、よう寝とったワ。 なんやて、ジェット? 」

「 だ〜から。 大人はどんな <欲望> とやらに悩まされたんだ? 」

「 ・・・ 欲望って、アンタ。  」

ひゃっひゃっひゃ・・・・ 大人はまん丸な腹を揺すって笑い出した。

「 ワテくらいになりまっとな。 仰山もっとる 欲 とはもうなが〜いお付合いのトモダチや。

 今更、どうってコトあらしまへん。 一緒に仲よう〜〜 おねんねしとったアルよ〜〜 」

「 ・・・ は ! すげ・・・・ 」

大人はジェットのコトバを軽く受け流している。

 

「 わたしの 欲望 はね。 ・・・ ジョ−、あなたなの。 」

「 え・・・ ぼく ・・・? 」

「 そう。 あなたと・・・いつも一緒にいたい。 あなたをわたしだけのものにしたい・・・って 

 嗤っていいのよ。 軽蔑する? 

 わたし。 あの炎を浴びなくても、いつでも・・・欲望の幻をみているわ。 あの雨の中でも・・・」

「 ・・・ フランソワ−ズ ! 軽蔑なんて・・・ そんな。 」

ジョ−は彼の恋人をしっかりと抱き寄せた。

「 幻なんかじゃない。 ぼくはいつもきみの側にいるよ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ありがと ・・・ 」

 

「 お。 陽が昇ってきたぜ。 」

「 おお〜〜 草原の夜明けアルな〜〜 」

「 さあ。 ぼく達の家に 帰ろう。 」

「 ええ。 」

 

フランソワ−ズは振り向いて もう一度だけあの裂け目から 底 を覗き込んだ。

 

「 ・・・ あ ・・・ 」

 

そこには。 そう ・・・ ぽっかりと口を開けた暗黒の 底 には。

無限にひろがる星空が ・・・ ほんの一瞬だけ見えた。

もしかしたら。 それはあの老婆の最後のチカラが見せた異星の空 ・・・ かもしれなかった。

 

   ・・・ ねえ。 アナタ。 恋人の待つふるさとに きっと還れたわね・・・

 

フランソワ−ズは こっそりと呟いた。

 

 

***********    Fin.   **********

 

Last updated : 12,04,2007.                             index

 

 

*****  ひと言  *****

はい、あのお話です♪ よ〜〜くみると二人は何気に仲良しってかいちゃいちゃ?してます。

夜も隣で寝てるし♪♪ ジョ−君、 ちゃ〜んとフランちゃんと庇ったりしてるし♪♪

それで、ちょびっと前後を足してみました。

季節はずれなお話で すみません〜〜〜 ( 泣 )

原作の冒頭にあった <特番> とやらを見てみたいものですね。