『 My best partner 』
― パシ −−− !
ジョーの身体が空中で一回転し、そのまま踏み切った岩の上に着地した。
ほんのわずか足元の岩が砕けたが 彼は何事もなかった様子で立っている。
ザザザザ −−−− ・・・・ !
ほぼ同時に大波は磯に砕けなおも勢いよく引いていった。
ジョーは 波しぶきの一滴もその身体に受けてはいない。
「 ・・・ よし。 今度は後ろ向きでやってみよう。 」
再び 沖から押し寄せてくる波を見定めつつ、ジョーは身構えた。
ドドドド −−−−− ン ・・・・!
狭い岩場に 大波が集約された力を叩きつけてくる。
「 ― 今だ ・・・ ! 」
ジョーは 海原に背を向けていたが、 た・・・ッ!と岩を蹴り宙に飛び上がった。
「 ・・・ 一滴でも水しぶきが身体にかかったら。 ぼくの負けだ。
戦場では その一滴で命を落とす・・・ ヤッ! 」
波の飛沫が ほんの僅かジョーの背中に飛んでいた。
「 ・・・ ダメだ! 真剣勝負の気持ちが足りない ! ようし・・・ もう一回! 」
ジョーは飽くことなく波飛沫を相手にトレーニングを続けていた。
― リリリ ・・・・ リリリ ・・・・
軽やかな音が 陽射しいっぱいのリビングに響く。
「 ・・・ うん? おお、もうこんな時間か。 いかん いかん・・・ すっかり忘れるところじゃった・・・ 」
ギルモア博士は 肘掛椅子から手をのばし目覚まし時計にアラームを止めた。
やれ・・・どっいこいしょ・・・ 掛け声とともに博士は立ち上がり読み止しの本の脇におく。
「 さあて・・・と。 ミルクの時間じゃなあ、イワンや。 今日はワシのお守りで我慢しておくれ。
ジョーもフランソワーズも・・・ なにやら熱中することを見つけたらしくてなあ。 」
博士はソファの脇に置いてあるクーファンから赤ん坊を抱き上げる。
彼はよく眠っているのだが 博士は構わず話かけ・・・ 案外器用にミルクを飲ませていた。
「 ・・・ ほいほい もっとゆっくりお飲み。 うん ・・・ そうか そんなに腹ペコだったかい。
遅くなってすまなかったねえ。 」
膝の上の赤ん坊は 一月のうち半分はぐっすりと眠っている。
目ざめていればコンピューター顔負けの頭脳の持ち主も 夜の時間 では普通の赤ん坊をほとんど変わりはない。
時間がくればミルクを飲み、オムツも汚す。
博士は 淡々とそんな彼に付き合っていた。
「 ・・・ と、もう満腹か? よしよし・・・ さ・・・これで よいかの。 」
とんとんと軽く背を叩き 可愛いゲップの音を聞いてから 博士はそっと彼をクーファンに戻した。
クーファンの底は ローリング板がついており、指をかければゆるゆると揺れ始める。
ギ ・・・ギ ・・・ ギ ・・・・
微かな音をたて クーファンはゆっくりと左右にその古風な図体を傾がせてゆく。
博士は本を閉じ、なおも赤ん坊に話しかけていた。
「 後でな、風呂に入ろうな。 さっぱりするぞ。 ああ 大丈夫、安心おし。それはジョーに任せるから。
フランソワーズは多分 ・・・ 帰りが遅いようなことを言っておったからな。 ん? 」
― パタン ・・・・
玄関のドアが閉まった。
「 ・・・ ただいま〜〜 あれ、博士がイワンのお相手ですか。 フランソワーズは? 」
「 おお、 お帰り、ジョー。 フランソワーズはしばらく帰りが遅くなるといっておったぞ。 」
「 あ・・・ そうだった! ええ、なんだか次のステージにリハーサルとか自習とか言ってたです。
でも・・・ いつも夕方までには帰ってくるはずですよ。 」
「 ま、好きにさせておいておやり。 あの娘もな、今・・・自分自身の夢に向かって驀進しているのじゃから。
今度は ― 今度こそは。 ワシはな、出来るだけ協力してやりたいのじゃ・・・ 」
「 ・・・ 博士 ・・・ 」
「 それがな、 今のワシに出来る・・・せめてもの罪滅ぼし、なんじゃ。 」
博士は特に気負うでもなく ― 感情過多になるわけでもなく、淡々と言う。
ジョーも静かに相槌をうつ。
「 ・・・ 彼女の夢。 そうですよね、応援しましょう。 」
「 ああ。 」
「 それじゃ・・・ 晩御飯はぼくが担当しようかな。
この前、張大人が冷凍春巻を置いていってくれたですよねえ。 アレを解凍すれば・・・ 」
「 お。 いいのォ・・・ アレはほんに美味かった・・・
おや、そういえばジョー、お前はもう用事は済んだのかな。 」
「 あ・・・ ええ。 ちょっとした日課ですから。 もう終りましたよ。
さ〜て ・・・ それじゃ晩飯の準備にかかります。 博士、イワンのお守りを頼みます。 」
「 おお お安い御用じゃ。 スーパー・ベビーはお休みタイムじゃからな。 」
ああ ・・・ こんな日々が巡ってくるとはな・・・
遠ざかるジョーの足音を聞きつつ、博士は淡い吐息を洩らしていた。
「 ・・・それでね。 もう時間が足りなくて・・・でもバレエ団のスタジオを使える時間は限られているでしょう?
しょうがないから次回からは貸しスタジオに行こうかって言ってたの。
・・・ ああ・・・ これ、ほっんとうに美味しい ! 」
フランソワーズはお喋りの途中で 春巻を口に運び、またまた感嘆の声をあげていた。
その日、彼女が帰宅したのは かなり遅かった。
ジョー達が夕食を終え ゆっくりとお茶を飲み博士がそろそろ自室に引き上げようか・・・という時間になって
やっと玄関に彼女の声が聞こえたのだ。
「 ― ただいま帰りましたァ・・・ あ・・・疲れた ・・・ あら・・・いい匂い・・・ 」
大きなバッグをぶらさげて、コートも脱がずにフランソワーズはリビングに入ってきた。
「 お帰り! なあ、遅くなるのなら・・・駅まで迎えにゆくよ? 電話をしてくれよ。
あ、荷物持つから・・・ 」
ジョーはソファから飛びたつ勢いで彼女の側に駆け寄った。
「 ・・・ ありがとう、ジョー。 でもまだ・・・最終バスに間に合う時間だから大丈夫よ・・・
それにわざわざ駅まで来てもらうのは悪いもの。 」
「 そんなこと! やっぱりさ・・・その、遅くなると危ないから・・・ ぼくが迎えにゆくよ! 」
「 ありがとう・・・それじゃ。 今度から電話するわね・・・
ああ・・・すごくいい匂いって思ったら♪ 今晩は大人特製の春巻だったのね♪
もう〜〜お腹ぺこぺこなの。 ああ、この匂だけでも・・・きゃあ・・・幸せ〜〜 」
「 うん、この前沢山作ってくれたのを冷凍しておいたんだ。
熱々にしておくから・・・ 手を洗ってこいよ。 あ、ちゃんとウガイもな! 」
「 ・・・ はいはい・・・ 了解です〜〜 ・・・ あああ ・・・ 疲れたァ・・・ 」
フランソワーズはひらひら手を振ると よいしょ・・・とバッグを持ち直し二階の自室に向かった。
「 さて・・・ それじゃ春巻を解凍しておくかな・・・ 博士? なんですか? 」
キッチンへのスウィング・ドアの手前で ジョーは振り向き博士を見つめている。
ギルモア博士は ― 肘掛椅子で肩を震わせて ・・・ 笑っていた。
「 ・・・ 博士。 どうか・・・・しましたか? なにか・・・ 」
「 い・・・ いや・・・・。 なんでもない・・・ いや・・・本当になんでも・・・ ふふふふ・・・ 」
「 ・・・ 博士? 」
「 ふふふ ・・・いや、なに。 お前がさ。 心配性の母親みたいじゃから・・・つい。 」
「 は・・・母親?? 」
「 いや・・・というよりも年頃の娘に気が気ではない父親かの。
ははは・・・そんなに気を揉まんでも大丈夫じゃよ。 世間一般ではまだそんな遅い時間でもないだろ。 」
「 え・・・ でも! 最終バスで帰ってくるなんて・・・! 」
「 なに、この辺りは辺鄙じゃからの。 最終バスもえらく時間がはやいのさ。
ああ・・・ もういいから、早く春巻を熱々にしておいておやり。 すぐに腹ペコお嬢さんが降りてくるぞ。 」
「 あ、そうですね。 博士もお茶・・・入れなおしましょうか。 」
「 いや・・・ワシはもう休むよ。 ・・・ まあ、二人で仲良くおやり。 お邪魔ムシは退散じゃ。 」
「 な・・・仲良くって。 そ、そんな ― ぼく達はそんなんじゃ・・・ 」
相変わらず同じことを口にするジョーに ・・・ まったくなあ・・・ と 博士は苦笑しつつ
イワンを クーファンから抱き上げた。
「 さ・・・イワンや。 今夜は冷えるからしっかり毛布をかけて休もうなあ・・・ 」
「 あ・・・ お休みなさい、博士。 」
「 うん、お休み。 ― まあ、あまり口うるさくせんことじゃよ、ジョー・・・ 嫌われるぞ? 」
「 はあ・・・ 」
博士はくつくつ笑いつつ・・・ イワンを抱いて自室に引き上げていった。
「 あ〜〜〜 お腹すいた! あら?博士は・・・ 」
トントントン・・・・ 跳ねるみたいな足音でフランソワーズはキッチンに入ってきた。
「 あ・・・ うん。 もうお休みになったよ。 ほら。 お待ちかねの熱々だよ 」
ジョーは まだジュウジュウいっている春巻の皿をレンジからとりだした。
「 うわ〜〜 嬉しい〜〜 ありがとう、ジョー♪ 」
さ・・・っとジョーの頬にキスをして フランソワーズはにこにこ顔でテーブルに着いた。
ジョーは食事は済んでいたが、お相伴で自分の湯呑にお茶を淹れる。
「 う〜ん・・・! 熱々の味が身体中に染み渡るわあ・・・ 幸せ・・・♪ 」
「 ふふふ・・・ そんなに食べていいのかな。 ステージが近いんだろ? 」
「 ううん・・・まだまだ先なの。 今はね、ともかく体力勝負なの! ああ ・・・ 美味しい〜〜 」
フランソワーズは大口をあけて 張大人特製の春巻を頬張っている。
「 へえ・・・ きみがそんなこというの、珍しいね。 」
「 そう?? ・・・・ ああ 幸せ・・・ 」
「 ・・・ あの。 よかったらもっと解凍してこようか? まだストックがあるけど・・・ 」
「 え・・・ う・・・ん。 やめておくわ。 食べすぎはやっぱりマズいから・・・
あ〜ああ・・・お腹 いっぱいになったら・・・途端に眠くなってきちゃったァ・・・ あ、ごめんなさい・・・ 」
ふわ〜〜っと大アクビを、彼女はあわてて袖の陰に隠した。
「 そんなに今度のステージって。 大変なのかい。 難しい演目とか? 」
「 ううん・・・そんなことはないのだけれど。 そのう・・・ね、パートナーとの問題なの。 」
「 パートナー? ・・・ ああ。 なんだっけ? パ ド なんとか・・・なんだ? 」
「 パ ・ ド ・ ドゥ、でしょ。 そうなのよ! ・・・ もう大変。
時間も足りないし。 だからね、今度から別の貸しスタジオにも行くことにしたの。
あ・・それでね、しばらくは帰りが遅くなるわ、 心配しないでね。 」
やっとフランソワーズの箸を運ぶスピードが遅くなった。
「 心配って・・・ だからさ、 さっきも言っただろ? 駅までちゃんと迎えに行くからって。
う〜ん ・・・ よかったらその貸しスタジオまで行ってもいいよ。 場所はどこかい。 」
ジョーは真顔で ラックの隅にあった地図を取り上げた。
「 え〜・・・いいわよ、ジョー。 そんなの・・・悪すぎるもの。
大丈夫、一人じゃないし。 帰りは大きな駅まで彼と一緒だから安心して? 」
・・・一人じゃないから心配なんじゃないか・・・とジョーはひそかに舌打ちする。
「 そ・・・ そうかい。 でもいつでも連絡しろよ? すぐに迎えにゆくから。 いいね。 」
「 は〜い ・・・ あ、ありがとう。 ジョーって・・・ 」
お茶を入れてくれたジョーに 彼女はくす・・・っと小さく笑った。
「 このお茶さ、身体が温まっていいんだって。なんてったかな・・・カモ・・・なんとか。
うん? なんだい。 ぼく、 なにか可笑しなこと、言ったかな。 」
「 ・・・ ううん ・・・ ふふふ・・・ジョーったら。 お兄ちゃんみたい。 」
「 ・・・え? 兄さんって・・・誰の。 」
「 わたしの。 ・・・ふふふ・・・あのねえ、わたしの兄もいっつもいろいろ・・・煩くて。
あんなヤツと付き合うな とか 門限は絶対守れ とか。 そうそう、スカートの長さまで干渉したわ。 」
「 す、スカートの・・・ 長さ?? 」
「 ええ。 それじゃ下着が丸見えだ、とかね。 もう大袈裟で口煩くて・・
ふふふ ・・・ ちょっと 思い出しちゃった。 は〜い ちゃんと最終バスまでには帰ります。 」
「 あ・・・ う、うん・・・そうした方がいいよ。 」
「 そうそう・・・それから貸しスタジオはね〜 ここなの。急用があったらわたしの携帯に連絡してくれればいいけど。
ちゃんとしたところだから安心して? ・・・あ〜ああ・・・ もうダメだわあ〜 」
メモをジョーに渡すと、 フランソワーズは欠伸を連発しつつ立ち上がった。
「 ・・・お休みなさ〜い ジョー・・・ 」
「 あ ・・・ ああ。 お休み フラン・・・ 」
お兄ちゃんみたい・・・・か。
・・・ なんか久々に 聞いたけど。 う〜ん・・・複雑な気分だよ。
やっぱり ぼくって。 彼女には < お兄ちゃん > なのかなあ・・・
・・・ あんまり口うるさくすると嫌われるぞ・・・ そんな博士の言葉まで思い出して
ジョーはひとり、 キッチンで深いふか〜〜い溜息をついた。
「 ・・・ だって放っておけないじゃないか。 真剣なんだぜ、ぼくは。 」
ぼそり、と呟くとジョーは立ち上がり・・・食器を洗いにシンクの前に立った。
「 え・・・と? NO.20スタジオは・・・ この階段でいいのなかあ・・・ 」
・・・カンカンカン・・・
ジョーはメモを片手に かなり急勾配な階段を登ってゆく。
その階段は今時めずらしく鉄材むき出しの外階段で、びゅうびゅうと寒風が吹きぬける。
「 うは・・・ 5階って言ってたな・・・もういっこ上、かあ・・・ 」
サイボーグの身にはどうということもないのだが ― さすがのジョーも少々面食らっていた。
「 ・・・ こういうトコロ ・・・ フランの仲間達は皆利用するんだろうか?
駅チカでエレベーター完備・・・ が最近のジョーシキ・・・なんじゃないのか・・・ ? 」
ジョーはもう一回 手元のメモに目をおとす。
「 NO.20 スタジオ。 ― ここだ。 」
彼は目の前の鉄扉のノブに手を掛けた。 防火扉か?と思われそうな重くて無愛想なドアには
でかでかとペンキで 20 と書いてある。
・・・ ギ ・・・ ギギギギ・・・・
「 ・・・ あの〜・・・フランソワーズ・・? 」
がし、っと踏み入れた足で重いドアを押さえ、ジョーが室内に顔を突っ込んだ途端 ―
「 ちがう ちがう 違うってば!! それじゃ・・・全然合ってないでしょう!? 」
優雅な音楽と一緒に するどい声が飛んできた。
あ・・??? ふ、ふらんそわーず・・・??
「 よく聞いて! よく見て! ― わたしは荷物じゃないのよっ!! 」
・・・ ジョーの愛しいヒトは かつて彼が聞いたこともない・鋭い苛立ちの声を張り上げていた。
「 ・・・博士? 昼食ですよ〜〜 」
「 ・・・ん? おお ・・・ もうこんな時間か。 あれ。 ジョー・・・? フランソワーズは・・・
出かけておるのかね。 」
「 ええ。 今日もリハーサルなんだそうです。 あ、昼は彼女が作っておいてくれたサンドイッチですよ。 」
「 おお・・・すまんな。 いや〜〜 日曜じゃというのに・・・あの子も張り切っておるなあ・・・ 」
「 ええ・・・ 昼食くらいぼくが作るからって言ったのですけど。
自分のランチを一緒に作るから・・・って。 あっと言う間にぼくらの分、作ってくれました。 」
「 ほうほう・・・さすがじゃな。 お前・・・果報モノじゃぞ?あんないい娘を嫁さんにして・・・ 」
「 え! ・・・よ、嫁って・・・ ぼ、ぼく達はそんな ・・・別に・・・! 」
またまた例によって・聞き飽きたセリフを繰り返すジョーに博士は呆れ顔である。
「 ジョー お前な。 その言い草、いい加減にもう引っ込めた方がいいぞ?
そうでないと・・・ 本気で彼女に愛想を尽かされるからな。 ふん・・・! 」
「 す、すいません・・・ 」
なにやら機嫌の悪くなった博士にジョーは首を竦めつつ・・・その実、原因はさっぱりわかっていなかった。
「 ― あのゥ・・・ コーヒーでいいですか? それともロシアン・ティーとかにしますか。 」
「 ああ、コーヒーで結構じゃよ。 ・・・あれ、なんだか空模様が怪しいな。 」
「 ええ・・・ 夕方からは降り出すらしいです。 冷えるから・・・雪になるかもって。 」
「 ほう・・・ そうか。 ああ フランソワーズは傘を持っていったかの。 」
「 いいえ。 重たいからいらないって。 少しの雨なら平気だからって。 」
「 迎えに行ってこい。 」
「 ・・・ は? でも今日はそんなに遅くならないって・・・ それにあんまり煩くすると嫌われ・・・ 」
「 いいから! 雪になりそうなんだろ? 疲れて傘ナシで・・・若い娘が! ううむ!
忙しい中、 皆のランチまで作ってくれたんじゃぞ? ジョー、お前、すぐに迎えに行け! 」
「 は・・・はあ。 じゃ・・・昼飯、終ったら・・・ 」
「 いますぐ。 行ってこい。 す ぐ に ! 」
バン ・・・!
珍しくも 博士がテーブルを叩いた瞬間 ― ジョーは文字通りキッチンから飛び出していった。
「 ・・・ふん・・・ ヤレヤレ・・・ 世話の焼けるヤツじゃのう・・・
アイツは戦闘時以外じゃと どうしてあんなに気が利かんのか・・・! 」
灰色になってきた空を見上げ、博士はふか〜い溜息をついていた。
「 うむ・・・ アイツが相手じゃとフランソワーズは苦労する・・・かのう・・・
いやいや・・・ こういうコトはなるようにしかならんしなあ・・・ 」
ふうう ・・・・
どうもこれは新しいメカを開発するよりも遥かに難しい問題なのかもしれない。
「 ・・・ あ あのう・・・・? 」
ジョーは入り口で おずおずと声を掛ける。
重い鉄扉の向こうには ガラン・・・とした空間がひろがっていた。 正面にだけ鏡が張ってある。
ああ、これがつまり 貸しスタジオ なんだな、とジョーはすぐに合点がいった。
ふうん・・・・?
でも スタジオにしては狭いよなあ。 鏡も一面だけにしかないし。
それに・・・ 随分固い素材の床だぞ・・・?
ジョーは何回か フランソワーズを迎えにゆき <バレエ団>の稽古場を見ていた。
彼女が通う稽古場は目の前の空間とは比べ物にならないほど広く、床も足に柔らかい木材だった。
「 ・・・ あの ・・・ フラン・・・?」
「 ほら もう一回! いい? 一人で好き勝手に動くのとは違うのよ?! 」
「 ・・・ わかってるって! 」
「 じゃ、やって。 じゃあ ・・・ 音、掛けるから。 アダージオの出だしからね。 」
「 ・・・・・ 」
がらん・・・とした空間に華やかな音楽が流れ始め 一組の男女が踊り始めた。
いや ・・・ 踊ろうとしていた。
二人はとても真剣な顔つきで甘い調には あまり似つかわしくない、とさすがのジョーも感じた。
男性は かなり ― フランソワーズよりも若い感じがする。
ジョーはなんとなく戸口に脇、柱の陰に身を寄せた。
隠れる必要も その気もないのだが、なぜか・・・まともに眺めてはいけないみたいな気がしたのだ。
男性がリードするカタチで二人はステップを踏んでゆく。
あれ・・・? でも。 ・・・実際にはフランがリードしてる・・・のじゃないかな?
踊りには全く疎いジョーなのだがフランソワーズのことになると 妙にカンが鋭くなる・・・らしい。
はたして 二人はまたもや動きを止め言い合いを始めた。
「 ちがうってば! そのタイミングじゃ 絶対にリフトできないわ! 」
「 ・・・ やってみなくちゃわからないよ。 」
「 そう!? それならやってみましょうよ? アナタのタイミングで。 わたし、落とされても平気よ 」
「 落とすわけないさ。 それじゃ・・・行くよ。 」
「 いいわ・・・ 7〜8、でグリッサードから、ね。 」
「 オッケー。 ・・・ 5 6 7〜8 ・・・っと ・・・ あ ・・・ 」
「 ・・・ きゃ ・・・ 」
青年はフランソワーズを完全にリフト仕切れずに どさ・・・と放りだしてしまった。
うわ・・・! おいおい〜〜 しっかり持ち上げろよ〜〜若いの!
思わず飛び出しそうになり、ジョーは慌てて柱の陰に身を潜めた。
「 もう一回・・・ ! 」
「 ええ、 いいわ。 ― 何回やっても同じだと思うけど。 」
「 いや、今度は。 同じとこから・・・ 」
「 了解。 」
音のない空間に 二人の足音だけが響き ― 再び フランソワーズは床に放りだされた。
「 ・・・ もう一回! ごめん、大丈夫・・・? 」
「 どうぞ? ・・・いいわ、ワン、 ツー・・で・・・! 」
「 ・・・ く・・・! 」
何回試みても 彼はどうしても自分の真上で大きくポーズをするパートナーを支えきれないのだ。
タイミングがズレているのは傍目にも明らかである。
フランソワーズはその度に 床に転げおちたり、中途半端な姿勢でずり落ち青年が捕まえたりしていた。
たとえ床に落ちなくても 失敗していることはジョーにでもよくわかる。
ちょ・・・ちょっと、お前! いい加減にしろよ!
お前のその位置からじゃ・・・ 彼女を持ち上げるのは無理なんじゃないか!?
ジョーは段々イライラしてきた。
踊りには全くの素人だが、何回か見ていれば身体的にカンのよいジョーにはわかってくる。
青年は完全にパートナーのことが視野にはいっていない。 自分自身のカウントで動いているらしい。
お前なあ! 相手をよく見ろよ!
・・・ そんなことじゃたちまち敵の標的になる ・・・ じゃないけど・・・さ!
戦闘中に何回かコンビ・プレーをやった経験もあり、ジョーはパートナーの重要性は充分に承知していた。
目の前の二人は命を的にはしていないが、美を求められる点で違った厳しさがあるのだろう。
ジョーは何時の間にか 熱心にリハーサルを見守っていた。
「 ・・・ どうしたの。 まだ・・・平気よ、わたし。 もう一回やりましょうよ。 アナタのタイミングで・・・ 」
解れた髪を押さえつつ フランソワーズは平然とした様子で青年を見つめている。
頬には床に打ち付けた痕がのこり 稽古着も方々が汚れていた。
いかにサイボーグとはいえ <なんともない> はずはないのだ・・・・
おい! お前〜〜 オレのオンナをそんなに手荒に扱うな!
・・・ コノヤロ〜〜〜 !!
ぐっと拳を握り締め ジョーは辛うじて自分を抑え・・・ もうそれも限界に近かった。
「 納得がゆくまで試してみたらいいわ。 そのためにここ・・・借りたのでしょう? 」
「 ・・・ ごめん。 僕の考え違いだ。 」
「 わかったの? ・・・ それなら いいわ。 ねえ、パ・ド・ドウの意味、わかった? 」
「 ・・・ 意味? 」
「 そうよ。 それがわからないといくらテクニックだけ練習しても無意味だわ。 」
「 ・・・ うん ・・・ もう一回 ・・・頼めるかな。 」
「 いいわ。 じゃあ・・・今度は音を掛けてみるわね。 」
再び音が流れ出した時、 ジョーはこそ・・・っと重いドアを開け外に出た。
< 傘、置いてゆきます。 遅くなるなら電話して! ジョー >
走り書きのメモを挟んだ傘が そっと・・・柱の陰に立てかけてあった。
「 ・・・ほら、 また! 違うってば・・・! 」
「 ・・・ ごめん ・・・ もう一回・・・ ! 」
「 わかったって言ったじゃない?! よく考えてよ! 」
「 わかってるって! きゃんきゃん言うなよ! 」
「 ・・・じゃあ、 やって。 」
ジョーの耳にもしばらくは 二人の <バトル> が聞こえていた。
「 ただいまァ ・・・・ あら。 今日もいい匂い・・・ 」
玄関から フランソワーズの声が聞こえてきた。
「 お帰り! 今日はね、特別メニュウさ。 張々湖飯店に寄ってきたんだ。 」
「 ジョー・・・ あら。 ・・・ よく似合ってるわ〜〜 」
「 え? ・・・ あ・・・ 借りてます、きみの・・・ 」
飛び出していった玄関で ジョーはエプロンを菜箸を握った手で引っ張った。
「 どうぞどうぞ。 わあ、特別メニュウ? 楽しみ〜♪
あ・・・ そうだわ。 ジョー・・・傘、ありがとう! 助かったわ。 」
「今夜も短いキスが降ってきた。
「 さあ〜〜食べましょ。 あ・・・ もしかしてもうジョーは晩御飯、おわった?
ああ・・・、もうこんな時間ですものね。 」
「 ううん。 博士は先に召し上がったけど 僕はまださ。 きみと一緒に食べたくて・・・ 」
「 そう? 嬉しいわ〜〜 一緒に晩御飯って久し振りね。 待たせてごめんなさい。 」
フランソワーズはするり、とジョーの腕に手を掛けた。
「 エスコートしてくださる? 」
「 ・・・ あ。 喜んで ・・・ マドモアゼル。 」
彼女の笑顔が嬉しくて。 ジョーは嬉しすぎてついつい俯いてしまう。
エスコート・・・というよりフランソワーズに引っ張られる恰好で、でもぴたりと寄り添って行った。
「 ・・・え? 別にケンカしていたわけじゃないわよ。 」
「 そ、そうなのかい? でも 二人ともニコリともしないで、さ。 結構きついこと、言ってたし。
あ・・・・ごめん。 立ち聞きしていたわけじゃないんだ。 そのう・・・出てゆくきっかけがなくて・・・ 」
「 全然気がつかなかったわ。 だから傘とメモを見つけた時はちょっとびっくり、よ。
嬉しかったわ。 でもさすがジョーね、気配もわからなかったもの。 」
「 え・・・ っていうか、きみ達が物凄く集中していたからじゃないかなあ。
ぼくは特に意志して気配を消してはいないよ。 むしろ ぼ〜〜っと見てた・・・ 」
「 そう? カレってね。 G.P. ( グラン・パ・ド・ドゥ ) は初めてなのよ、それで・・・
このお姉さんは、ヤング・ボーイを特訓しているってわけ。 」
「 ・・・初めて?? ふうん・・・そういうヤツを踊るのか・・・ あ、温まったよ。
チンジャオロースー と 麻婆豆腐さ。 」
ジョーは少々不機嫌だったけれど、 熱々のお皿をフランソワーズの前においた。
「 きゃあ〜 ♪ 感激♪ ・・・ ジョーも食べるのでしょ? 座って座って。 」
「 あ・・・ うん。 あの・・・ちょっと聞きたいんだけど・・・ 」
「 さあ、 いただきま〜〜す・・・っと。 ・・・ あつ〜〜いけど 美味しい♪ 」
「 ・・・はふはふ・・・本当だね〜 じわ〜っと美味しさが身体中に広がってくみたいだ・・・ 」
「 そうよね・・・ ああ ・・・幸せが染み透ってゆくわ〜〜 」
しばらくの間、キッチンには感嘆の呟きと満足の吐息だけが聞こえていた。
「 ・・・ 美味しいわあ〜〜 ・・・・ あ。 ジョー。なあに? 」
「 ここがピリっと・・・ え? なにが? 」
「 さっき ・・・ ほら、聞きたいことがあるって言いかけたでしょう? 」
「 ・・・ あ。 うん・・・・ 」
ことん ・・・。 ジョーは箸とチリレンゲを休めると顔を上げた。
「 あの、さ。 あの舞台は・・・ いつなのかな。 今、きみが取り組んでいる踊りの・・・ 」
「 ― なにか 起こったのね。 」
す・・・っと彼女も箸を置いた。 青い瞳がまっすぐにジョーに向けられる。
ジョーも しっかりと彼女の視線を受け止めた。
「 うん。 ピュンマから情報が入った。 そんなに大規模ではないと思うけれど。
そもかく 火種 は火種だ。 火消し は早い方がいい。 」
「 そうね。 わたしはいつでもスタインバイ オッケーよ。 今晩こらからでも。 」
しゃんと背筋を伸ばしたその姿は ― すでに彼女は 003 として座っていた。
「 いや。 そこまでは急がない。 しかしきみの舞台なんだけど・・・ 」
「 ジョー。 いえ 009。 気を使ってくれてありがとう。 でも大丈夫よ。
あの舞台はまだ随分先のことなの。 なにせ・・・あのカレは新米なんで早めに特訓していたの。 」
「 ああ そうなのか。 ・・・ 安心したよ。 せっかくのきみの夢をまた・・・・ 」
「 たとえ明日が本番でもね、009。 わたしはミッションに行くわよ?
黙っておいていったりしたら・・・ ジョーだって許さないから。 ようく覚えておいてね。 」
「 ・・・ うん、ごめん。 」
「 なぜあなたが謝るの? 可笑しなジョーねえ・・・ 」
「 フランソワーズ ・・・ 」
彼女は明るい声音で、微笑んでさえいたけれど。 ジョーはそっと震える白い手を握った。
「 ・・・ もうなんにも言わなくていいから、さ。 」
「 ・・・ あ ・・・ ありがとう ・・・ ジョー ・・・ 」
「 うん。 まだ ジョー って呼んで欲しいな。 ・・・ なあ、もうひとつ、聞いてもいいかな。 」
「 なあに。 」
「 ・・・ あの・・・さっきのきみた達のリハーサル見てて・・・
カレが <わかってない> のはぼくにもよくわかったけど。 きみ、恐かった・・・ 」
「 恐いって・・・ わたしが? 」
「 ウン。 あのカレ、ぐさっと来ていないかな・・・って他人事ながら気になってさ。 」
「 あら だって。 ・・・本気だから。 真剣だからよ、怒るのは。
どうでもいい相手に イタイ、とわかっていて本当のことを言ったりはしないでしょう? 」
「 ・・・ そりゃそうだけど。 」
「 でしょ? 本気でうまくやって行きたいから。 いい舞台にしたいから ― 本気で本音を言い合うわ。 」
「 ふうん ・・・ちょっと妬けるなあ ・・・ 」
「 ・・・ 妬ける? だってこれはわたし達の 仕事 なのよ? 」
「 うん ・・・ それはわかってる。 でもさ、恋するココロは複雑でさ。
ぼくの恋人が 他のヤツに <真剣になっている> のは なかなか穏やかじゃないってわけ。
どんな状況であってもね。 」
ジョ−は握っていた細い指を そっと撫でる。
「 ・・・ もう・・・ 相変わらずの焼餅やき、ねえ・・・・ あ・・・ん・・・ 」
「 オトコはね、皆嫉妬深いのさ。 ― おいで。 」
「 ・・・ あ・・・ ジョー・・・ねえ、待って? ピュンマからの件、詳細を教えて。 」
「 今夜は まだ ― 知らなかったことにしてくれないかな。
純粋に ただの恋するオトコとして・・・ この女性を抱きたいのですけど。 」
くい・・・と彼は白い手を手繰り寄せ彼女を引きよせる。
しなやかな身体が ふわり・・・と彼の胸によりそってくる。
「 ・・・ もう・・・。 仕方のないわがままさんねえ・・・ 」
「 ふふふ・・・ 真剣だから。 それにね、恋するオトコはいつだってワガママなのさ。 」
「 随分勝手な言い草だこと。 ねえ・・・ わたし、ニンニク臭いのよ? 」
「 ぼくだってさ。 二人で臭いなら ― わかるもんか。 」
ふふふ・・・・ ははは・・・
恋人達はひくく笑いつつ ― 縺れ合いニンニク臭い唇を重ねた。
「 ― よし。 これで完了だね。 時間ぴったりだ。 」
ピュンマがモニターを睨みつつも明るい声を上げた。
「 全員 速やかに撤収だ。 殿 ( しんがり ) はジョーか。 」
アルベルトがコンソール盤の前から確認を求めた。
「 うん。 完全爆破を確認して引き上げるって言ってたからね。
それじゃ集合地点にドルフィンを移すよ。 」
「 了解。 全員 もう集まっているな? ああ ・・・ スクリーンでも拾えるぞ。 」
「 そうだね、じゃあ・・・アルベルト、君がナヴィしてくれるかな。 僕は本職パイロットじゃないんだ。 」
「 ははは・・・ こっちもご同様さ、索敵は守備範囲じゃないぞ?
ま、ピンチ・ヒッター同士で急場を凌ぐか。 ・・・ 002と005がいる。 」
「 了解。 それじゃ高度を落としてゆくよ ・・・ 早く本職にバトン・タッチしたいな。 」
「 まったくだ。 大鷲が・・・006を運んできたぞ。 あとは探索名人と俊足ヤロウだ。
・・・ うわ! おい、臨時パイロット! お手柔らかに頼むぞ。 」
ガクン ・・・! と一瞬機体がブレたが、 ドルフィン号は無事に合流地点に着陸した。
「 ・・・ ごめん! ああ 心臓に悪いや。 さあハッチを開けるよ。 」
「 了解。 」
ピュンマが見つけてきた 火種 はサイボーグ達が巧妙に <鎮火> した。
それは人里離れた地だったので周囲に及ぶ影響も 最小限に抑えることができた。
彼らはデータを完全に破壊し 施設も爆破 ― それをジョーが確認し ミッションは完了 ・・・ の予定だ。
「 はん! やっぱ平和ボケっての? 実戦から遠ざかると腕がよ〜〜 」
赤毛がコクピットでさかんにスーパーガンを握りなおし、構えなおしている。
「 そりゃ 単にお前の腕が鈍っただけだ。 おい、機内でそんなモノ、振り回すな。 」
「 へ! オッサンもよ〜 無駄弾が多くねぇか。 ・・・ こう、ビシっとな〜 」
「 ― 銃ごと外に放りだされたいのか! 」
「 ホイホイホイ〜〜〜 なんでん、今更揉めてはるんや〜〜 ささ、オヤツにしまほ。
グレートはん、運んでくれはっておおきに。 帰りはラクチンやったでぇ〜〜 」
相変わらずの丸顔にほくほく笑みを浮かべ 張大人は厨房に駆けていった。
「 ひえ〜〜 重 !! 羽が折れるかと思ったぜ。 ・・・ これであとはジョーか?
・・・うん? 我らがマドモアゼルはどこかな。 」
「 あ? 彼女ならよ、途中で先に行ってくれってよ。 ジョーのヤツを待っているんでねぇの。 」
「 撤退にそんな計画はないぞ。 ・・・ アイツは公私混同なんかしない。 」
「 ちょっくら小生が見てくるワ。 どれ ・・・ もう一度ひとっ飛び・・ 」
グレートはハッチから飛び出し様、大鷲に変身していった。
― シュ ・・・ッ!
大鷲と入れ違いに 赤い旋風が吹き込んできた。
「 ジョー。 首尾は。 」
「 完了した。 完全破壊を確認した。 ・・・ あれ、フランソワーズは? 」
「 お前を待っているらしいぞ。 一緒じゃなかったのか。 」
「 そんなこと、聞いてないよ? 計画では 」
ジョーが 再びスイッチを噛もうとした時 ―
「 あ! グレートがもどってきたよ。 ああ、大丈夫 フランを乗っけてる。 」
「 ・・・ そうか! 」
コクピット中に メンバーたちの安堵の吐息が溢れた。
大丈夫よ。 ごめんなさい、心配かけて。 道に迷ってしまったの・・・ぼんやりしてて・・
同じ言い訳を交互に繰り返し、 いつもの笑顔を振りまきつつ・・・ 003はコンパートメントに引っ込んだ。
「 そりゃ、アイツだってたまにはポカをやるさ。 あんまし心配すんなって。 」
ジェットは心配顔のジョーの背中をど! とど突いた。
「 ・・・ ああ そうだけど。 」
「 とりあえず怪我もなさそうだし。 あとは〜我らが安住の地まで一足飛び、で願いたい。
小生は お疲れじゃ 〜〜 」
「 うん ・・・ あとはドルフィンに頼もう。 自動操縦にセットするよ。 」
ジョー も愁眉をひらき、パイロット席に座った。
メンバー達は 思い思いにコンパートメントに戻ったり厨房を覗きにいったりし始めた。
「 ・・・ なんかちょっと ひっかかるんだけどな・・? フラン・・・ 」
「 なにか まだ ある。 」
廊下ですれ違ったとき、ピュンマの独り言をジェロニモJr.が拾って ぽつり、と答えた。
「 なにかって・・・ なにが? 」
「 わからん。 たいしたコトではないと いいのだが・・・ 」
「 ・・・ うん。 僕もそう思う・・・ 」
微かな心配の種を潜ませつつ ・・・空飛ぶイルカはしなやかに滑空して行った。
「 ・・・ おお、お帰り、諸君 ! 首尾は上々・・・じゃったな。 」
「 博士。 ただいま戻りました。 」
地下格納庫で ギルモア博士は満面の笑みをうかべメンバー達を迎えた。
今回のミッションは複雑なものではなかったので、博士と001は留守居をしていた。
「 うむ うむ ・・・ 諸君らが無事でなによりじゃよ、 うむ うむ・・・ 」
「 博士、 データサンプルを少し持ってきました。 分析をお願いします。 」
「 ピュンマ、ご苦労さん、助かるよ。 アルベルト、マイクロ・ミサイルの自動追尾装置の具合は・・・
ジェット、お前の・・・ 」
博士は一人ひとりに声をかけ、各自から簡単な報告を受けている。
「 ・・・なるほどな。 後でもっと詳しく頼むぞ。 ああ フランソワーズ? 今回はあまり・・・ ん? 」
「 ・・・ ただいま帰りました 博士 ・・・ ちょっとお先に上へ・・ 」
彼女は他のメンバー達から少し離れ 格納庫の壁にもたれかかる風に立っていた。
博士はじっと彼女を見つめたがつかつかと近寄り腕を掴んだ。
「 ・・・! おい、ジョー! すぐに彼女をメンテナンス・ルームに運べ。
ピュンマ! 先にいって全ての装置をオンにしておけ。 ― 速く ! 」
突然 博士の声が格納庫に響いた。
「 ・・・ だいじょぶ ・・・です ・・・ あ・・・ 」
あっけに取られているメンバー達の前で フランソワーズはくたくたと床に倒れこんだ。
「 ・・・・?! フランソワーズ ッ !! 」
「 ジョー。 お前よ〜 どうして気がつかなかったんだ? てめ〜のカノジョだろ〜〜 」
「 ・・・ 彼女、コンパートメントに入れてくれなかったんだ・・・帰還中・・・ 」
「 よせ。 俺達だって誰も気がつかなかったじゃないか。
フランがその気になったら 絶対に意志を曲げないってのは全員よく知っているはずだ。 」
「 彼女の怪我、 見抜けなかったのはオレ達全員の責任。 」
「 くそゥ〜〜 あの時! 我輩の背中で ・・・・すでにマドモアゼルは傷の痛みを
じっと耐え忍んでいたというのか! ううう ・・・ なんと迂闊な・・・! 」
メンバー達はメンテナンス・ルーム前の廊下に屯し、そのドアが開くのをひたすら待っていた。
帰還後 倒れた003にすぐに 緊急メンテナンスが行われた。
「 ・・・だったら ・・・ どうして?! 」
「 ・・・ 恐い、のですって。 」
「 恐い?? な、なにが。 」
「 ― ジョー、あなたが。 」
「 ぼ・・・ぼくが?? 」
ジョーは意外な彼女の言葉に 目を白黒・・・ 呆然としてしまった。
「 そうよ・・・ ふふふ ・・・ ジョーが・・ 009がおっかないのですって。 」
白いリネンの中で、フランソワーズが軽く笑う。
ジョーはそんな彼女の微笑を惚れ惚れとみつめている。
博士の迅速・かつ的確な処置のおかげでフランソワーズは 命を取り留めた。
自殺行為にも等しい、と博士は心底激怒した。
そして怪我人本人をはじめ メンバー全員は大説教を喰らい ― 全員が ジェットでさえも 神妙に聞いた。
危機は脱したが 彼女は当分の間ベッドに親しむことになり、ジョーはその側にへばりついていた。
< 大丈夫よ・・・ > という彼女の口癖は、ジョーにより完全に封じられ
・・・ 彼女は徐々に そして 確実に回復してきた。
寒さもまだ厳しい日々、 ジョーは一日の大半を彼女の病室で過している。
「 ・・・ おっかない?? 」
ますますワケが判らず ジョーは半分泣きそうな顔になってきた。
「 あの、ね。 皆が言ってるの。 わたしがダメージを受けるとジョーはヒトが変わるって。
その時のジョーは・・・ 心底おっかないって。 本気でぞっとするって。
最大級に強くなって ・・・ コイツを敵には回したくないって思うそうよ。 」
「 あ・・・ そ、それは・・・ だって大切なきみが・・・ 」
「 ― でも。 ・・・ そんなジョー、見たくないもの。
どんな理由があっても 殺戮マシーンには ・・・ なって欲しくないの。 」
「 ・・・だから ・・・ 隠していたのかい?? もうちょっと放置しておいたら・・・博士が・・・ 」
「 だって負傷したのはわたしの不注意だし ・・・ ジョーや皆の足手纏いに・・・ きゃ! 」
ぱん・・・!
ジョーの平手が フランソワーズの頬を軽く打った。
「 ・・・ ジョー ・・・? 」
「 ごめん。 怪我人を殴るなんてとんでもない、けど。 でも! ぼくは本気だから。
そのう・・・ きみに本気だから 本気で怒る。 そんな考え方はやめろ。 」
「 ・・・ 本気だから? 」
「 そうさ。 きみ、いつか言ったよね。 あの喧嘩みたいなリハーサルは 真剣だから怒るんだって。
本気でいいものをつくり上げたいから イタイことも言うってさ。 」
「 ・・・ ええ、 そう・・・そうね。 」
「 きみの状態を見抜けなかったぼくも最低さ。 波の飛沫ばかりに集中して足元の岩が崩れて
いるのに気がつかなかったんだもの。 」
「 ジョー、 それはあなたの責任ではないわ。 」
「 いや。 ぼくは ― そのゥ・・・ きみを、さ。 真剣に・・・そのゥ ・・・大切にしてゆきたい。
うん ・・・ずっと。 そうさ、一生! あの・・・これって・・・わかってくれるかな。 」
「 ・・・ ふふふ ・・・ 全然わからないわ! ・・・って意地悪して欲しい? 」
枕の上で 青い瞳が悪戯っぽく笑っている。
「 あ ・・・ な、なんだ・・・ 断られたのかと 思った・・・ 」
・・・ はあ ・・・ 大息付いてジョーはベッドサイドにへたり込んだ。
「 まあ・・・ 最強の戦士がどうしたの? ― オッケーよ、勿論。 」
「 ・・・ フラン ・・・ ! 」
するり、と毛布の間から伸びてきた手を ジョーは両手でそっと。 そう・・・・っと押し包み。
心を籠めて口付けをした。
パチパチパチーーーー !
万雷の拍手 ・・・ までは行かないが、会場中から温かい拍手が鳴った。
公演の前座に近い舞台で 今、若いカップルが爽やかにグラン・パ・ド・ドゥ を踊り終えていた。
フランソワーズは前から五列目 中央で熱心に拍手を続けている。
「 ・・・ ちょっと妬けるなァ。 きみがそんなに熱心に見てるとさ。やっぱりアイツと踊りたかった? 」
ジョーは隣の席から ぼそぼそと呟く。
ミッション前に <特訓>していた舞台に フランソワーズはやはり参加できなかった。
例の <大丈夫よ> を 今回もジョーは断固封じたのだ。
「 ええ 勿論。 次の舞台は絶対に・・・! それにね、もし彼がジョーだったら・・・
わたし、絶対に拍手はしないわ。 」
「 ええ?? どういうことかい。 ぼく だったら・・? 」
「 そうよ。 ― まだまだ全然ダメだもの! 真剣な相手には真剣に対処します。 」
厳しいコトを言いつつ、彼女は左手の指輪に唇を寄せる。
「 あは。 ・・・ ふふふ ・・・ それじゃ。
きみに怒られているうちが 華ってことだね。 ぼくの最愛のパートナーさん。 」
「 ・・・ はい、そうです♪ 」
観客席の真ん中で ― 二人は熱く あつ〜〜くキスをした。
************************************* Fin. *************************************
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updated : 01,05,2010.
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*************** ひと言 ****************
よくわからないと思いますが・・・ コレはあの原作、平手打ち話 がモトであります〜〜
( 冒頭のジョー君 シーンで おわかりの方もいらっしゃるか・・・と・・・(^_^;) )
フランちゃんの お相手 を男の子に換えてみたのですが・・・
う〜〜〜ん・・・! 勝手に! 勝手に二人はらぶらぶになっちゃったんですよ〜〜
ジョー君にう〜んとヤキモチ、焼かせてやろう♪ って思っていたのに・・・さ★
彼は日常生活ではあまり役にたつヒトではありませんな。
・・・フランちゃん、苦労するよ??
こんな普通の日々もあり、かな? とお目こぼしくださいませ <(_
_)>
ご感想の一言でも頂戴できましたら 狂喜乱舞〜〜♪