『 きみに ・・・ ! 』
「 ねえ 教えてくれる? 」
碧い瞳が じ〜〜〜っと ジョーを見つめている。
どっきん ― !
009の最新・最強な(はずの)人工心臓が飛び上がった。
うわ ・・・ とぉ〜〜〜〜
な な なんなんだあ〜〜 ぼくがきみに教えることなんか ある??
け けど。 あ〜〜 カノジョぉ〜 キレイだなあ〜〜
カワイイなあ〜〜 ・・・ すごく すごくすご〜〜くタイプなんだけどぉ・・・
! け けど ・・・ そんなコト 言ったら大変だし・・・
お〜〜〜〜 コワ・・・
・・・ け けど ・・・ ぼくだって 〜〜 009 だあ〜
ジョーは ごっくん ・・・ と唾を呑みこみ 一瞬、目を閉じてから ― 答えた。
「 ・・・ いいよ? なに。 」
「 うふ? あの ね〜 ・・・ ジョーのお誕生日って 5月16日って本当? 」
「 へ?? 」
「 だから〜〜〜 ジョーのお誕生日 よ。 5月16日 なの? 」
「 ・・・ え あ うん。 一応・・・ 」
「 一応? うふふふ〜〜〜〜 お誕生日についてそんな風に言うヒトって
初めてよ〜〜〜 」
金髪美人は ころころと笑い転げている。
「 あ・・・ あの。 ぼく さ。 教会の前で拾われたんだ。
その時 ・・・ < 島村ジョー 5月16日 生まれ > ってメモを
もってたんだって ・・・ 」
「 え?? ・・・ ご ごめんなさい ・・・ 笑ったりして 」
「 あ いいよ いいよ 気にしないで 誰にも言ってないもん、知らなくて当たり前 」
「 ・・・ でも ・・・ ごめんなさいね 」
「 いいってば〜〜 それで ぼくの誕生日が どうしたの? 」
「 ・・・ あ! そうなのよ〜〜 それって 明日 じゃない??? 」
「 あ? うん そうだねえ 」
「 そうだねえ じゃないわよ〜〜〜 バースディ ケーキ! 作るわ!
パ―ティ しましょ、ねえ ねえ ご馳走、なにがいい? ジョーの好きなお料理、
作るわよ 」
「 え ・・・ あ ぼく ・・・ カレー ・・・・ 」
「 え〜〜〜 カレー?? う〜〜ん ・・・ あ じゃあね、 カツ・カレーとか
えびフライカレー にしましょうか? どっちがいい? 」
「 う ・・・ そ そんな嬉しすぎて 選べないよぅ〜 」
「 うふふ・・・それじゃ材料を見てからえらびましょ。 」
「 あ … ありがとう 」
「 さあ 買い出しに行かなくちゃ! ジョー 荷物もち お願い〜〜 あ。
明日の主役のヒトには 頼めないわねえ ・・・ 」
「 いいよ〜〜 買い物、行きたい〜〜 ・・ い 一緒に ・・・ 」
「 そう? アリガト。 それじゃ〜〜 うふふ〜〜 」
「 え?? 」
「 あ なんでもな〜〜いっと♪ うふふ〜〜 プレゼント なににしようかしら〜 」
「 ??? 」
上機嫌なフランソワーズのお供をして やっぱりにこにこ顔のジョーは楽しく荷物持ちを
したのだった。
― それは去年の初夏のことだった。
「 ファ〜〜〜・・・・ おはよう〜〜〜 あ もう誰もいないかあ〜〜 」
ジョーは一番遅く リビングに降りてきた。
リビングはきちんと片付いていて 人影は見当たらない。
普段から早起きの博士は 朝一番でコズミ博士の研究室を訪ねて行ったし、
もう一人の < 家族 > フランソワーズも レッスンに都心のバレエ団に通っている。
ふぁ〜〜〜〜 誰もいないのを幸い ジョーは大欠伸連発だ。
「 う〜〜 寒〜〜〜 ヒーターのスイッチ〜〜 切ってあるぅ〜〜 」
カチカチ リモコンを操作すると、彼はキッチンに行き熱々のコーヒーをもってきた。
もっちろん? インスタントだ。
「 ・・・ あ〜〜〜 ウマ〜〜〜 空腹に浸みるなあ〜〜〜
・・・ 飯 つくるの、めんど〜〜 ・・・ 」
周囲を見回すが きっちり片付いていて食べ物らしきものは見当たらない。
もちろん 冷蔵庫を開ければ 卵やらミルク、ハム チーズに野菜・・・ なんでも
そろっている … はず
「 ・・・ なんか食べたいけど〜〜 作るの、めんどいしぃ〜〜 」
はふ〜〜 ・・・ ばったん。
ジョーは コーヒーを舐め舐めリビングのソファにひっくり返った。
「 あ〜あ ・・・ 駅前のまっくにでも行くかあ〜〜 この辺、コンビニないんだよなあ 」
彼には 自炊 という観念は全くない らしい。
ふぁ〜〜〜 ・・・ またまた大あくび。
「 朝メシはそれぞれの自己責任にする。 材料は冷蔵庫にあるからな。 」
在日組の < 共同生活 > が 始まったとき 博士がきっぱりと言った。
「 あら 朝ご飯ならわたしが ・・・ 」
「 いや。 きみにもきみの生活があるだろう? 家政婦をやる必要はないよ。 」
「 え ・・・ でも ・・・ 一人分も三人もたいして変わりませんわ
」
「 ありがとうよ、 しかしな〜 きみの好意に甘えるわけにはゆかん。
そして 晩飯は当番制じゃ。 」
「 あのう ・・・ 」
茶髪ボーイが おそるおそる口を挟む。
「 なんじゃ 009。 」
「 あのう ・・・ ぼく ・・・ カップ麺しかつくれないんですけど〜 」
「 お〜そうか そうか。 それなら学習しておくれ。 」
「 え ・・・ 」
「 ハイな〜〜 ワテの店で修業するアルよろし。 包丁の持ち方から教えまっせ〜〜 」
「 え ・・・ バイトですか 」
「 ちゃう ちゃう〜〜 修業やで? あんさん、料理でお銭をいただこう、いうのんは
そりゃ あんまりですわな。 ばっちり仕込だげまっせ〜 」
仲間の料理人は どん、と胸を叩きにこにこしている。
「 …ひえ ・・・ 」
結局 ジョーの < 修業 > は ほんの一週間で終わってしまったが
ともかく 彼は最低限の < 生きてゆくための食べ物 > を作れるようになった。
なった けど。 ― 料理が好きになった ってこととは別モノだ。
食事当番の日には 結構マトモな夕食を作れるようにはなった。
でも やっぱり基本的にはコンビニで買ってくる が ジョーの食生活 ・・・らしい。
皆 出払ってしまったリビングで ジョーはぼ〜〜〜っと伸びたり縮んだりしている。
「 ふぁ〜〜〜〜 ・・・ 皆 毎日 忙しいんだなあ ・・・
ぼく は ・・・ あ〜〜〜 今日は夕方からバイトかあ〜 」
ぱっふん。 ごろ〜〜ん 行儀悪くも彼はソファに寝っ転がった。
何気な〜〜く 壁のカレンダーに目が行った。
「 ・・・ あ〜 今日はぁ 1月22日 かあ ふうん ・・・ え? 」
!!!! 明後日って !! 1月 24日 じゃないかあ〜〜〜
「 ふ フランの 誕生日だよ〜〜〜〜 」
がばっ !! 彼は飛び起き ・・・ またすとん、と座り込んでしまった。
「 バースデー ・ ケーキ !! ご馳走!! それに プレゼント〜〜〜
どうしよ・・・・ 」
現在 島村ジョー君は この家の住人の一人として安穏な生活を送っている。
衣食住 についてはまったく心配する必要などない。
つまり 何不自由ない生活 を送っている。 それはとても感謝しているのだ。
けど ・・・
「 〜〜〜 どうしよ〜〜〜 フランのプレゼント〜〜〜〜
金 ・・・ ないよ ・・・ どうしよう ・・・ バイト、始めたばっかだし〜
ううう 〜〜 大人に借りる… のもうなあ・・ 」
つまり 余分は金はもってないってことだ。
う〜〜む ・・・ 文字通り、彼はアタマを抱えてしまった。
「 ご馳走 は〜〜 張大人に頼もう! ウン、きっと引き受けてくれるよ
ケーキはぁ・・・ 博士にお願いするしかないよ〜〜
プレゼント〜〜 ヤバ ・・・ 金 ないよ〜〜〜 でもどうしてもどうしても
フランソワーズに贈りたい〜〜〜〜 」
― だってさ。 ともかくものすごく嬉しかったんだもの ・・・
ジョーはちょこっと甘い思い出を振り返る。
「 は〜い 今日はジョーのお誕生日で〜す♪ はっぴ〜ば〜すで〜〜 ジョー♪ 」
「 アイヤ〜〜 おめでとさん。 」
「 おう ボーイも齢をひとつ、重ねるのだな、おめでとう。 」
「 ― こうして祝えることに感謝するよ 」
夕食時、 在日組のメンバー達は にぎやかな食卓に目を見張り ― そして
笑顔と拍手で祝ってくれた。
「 え へ ・・・ アリガトうございます〜〜 えへ ・・・ 」
「 ですから。 今日はジョーのリクエストにお応えしまして、 ハンバーグ・カレー
えびフライ添え、となりました。 どう?? 」
今晩の 志願・当番を務めたフランソワーズは 結構得意げである。
「 う わ〜〜〜〜 ・・・・・ すげ〜〜〜 ぼく、憧れだったんだ〜〜 」
「 ほう 〜〜 えらいにぎやかなメニュウですなあ マドモアゼル 」
「 ・・・ ちょこ〜〜っとお子達向きでんな 」
「 ほう ・・・ ハンバーグ・ステーキ と カレーの合体か ・・・ 」
「 うふふ〜〜 さあ〜〜 ジョーのリクエスト通りの味かしら?
さあ 本日のゲストさん、ご挨拶、お願いね 」
「 え ・・・ えっと〜〜 皆さん ありがと〜〜 いっただっきま〜〜す♪ 」
ジョーはもうほっぺも耳まで赤くなっている。
「 は〜い ここにサラダもあります、どうぞ取ってね。
プチ・トマトとラディッシュは 庭の温室で採れました。 」
「 ほう? ・・・ うん 太陽の味がするな。 」
「 採れ採れのもんは お味がちごうとります。 んん〜〜 ええお味や。 」
「 賑やかでいいのう ・・・ 」
「 うむ うむ〜 マドモアゼル、おぬし料理の腕を上げたなあ 美味いよ〜 」
「 あら そう? グレートに褒めていただけるなんて光栄だわ。 」
「 特になあ このサラダが美味いなあ。
しかし この組み合わせ・・・・ どこかで見た気がするのだがなあ? 」
「 ― お子さまランチ やで。 」
「 おこさまらんち? 」
「 そや。 ふぁみれす やら でぱーとの食堂やらでなあ お子達向けの献立や 」
「 えへへ・・・・ 実は〜〜 そうなんだけど。
でもね! お子様ランチのどのメニュウもみんな好きなんだ ぼく。 」
「 あら だったら ・・・ そのランチみたいに盛り付ければよかったかしら?
わたし・・・ 見たことがないのだけれど ・・・
」
「 あ ! いいんだ、このままが。 ああ 美味しいなあ〜〜 」
お子さまランチ をさ ウチで食べる・・・って憧れだったんだ〜〜
ジョーはホントに小さな 小さな声でこそ・・・っと呟いた。
「 え なあに? 」
「 う ううん オイシイなあ〜〜って 言ったのさ。 」
「 うふふ ・・・ そんなに気に入ってくださってうれしいわあ〜 」
「 ありがと、フラン〜〜〜 ぼく、こんなに楽しいバースデー、 初めてだよ! 」
「 まあ よかった。 じゃ ね。 デザートにはね〜〜 」
「 え!! デザート、あるんだ?? 」
「 あら だってお誕生日なのよ バースデーケーキがなくっちゃ。 」
「 うわ〜〜〜 ・・・ 」
ジョーは感嘆のため息で息がつまりそうな顔をしている。
「 うふふ・・・ でもね、わたしが作ったから・・・お店のみたいに美味しくないかも・・・ 」
「 !!!!! 」
彼はもう言葉を発することもできないで ただただぶんぶんと首を横に振っていた。
― そして
食後には 苺を山盛りのせクリーム満載のバースデー・ケーキ が登場し
ジョーの感激は頂点に達した。
「 え〜〜 この苺はやはり庭の温室のものです。 ちょっと酸っぱいかも ・・・・ 」
「 ん〜〜〜 いやいや 程よい酸味がまた絶妙〜 」
「 そやそや〜〜 苺ォ いうのんは甘いだけが魅力やありまへんで〜 」
「 ふむ ふむ ・・・ 味もよいが香が素晴らしいなあ 」
「 ・・・・・ ・・・・
」
本日の主賓は もうただ黙々とケーキを頬張っている。
「 ジョー あ 苺は好きじゃなかった? 」
「 !!!!! 」
またも 彼は黙ってただただ首を振り続ける。
「 ・・・ す っご・・・おいし〜〜〜〜〜 !!!
こんなケーキ〜〜 ぼく 初めて食べたよ・・・ 」
「 ああ よかった! ジョーのお誕生日 祝えてよかったわ 」
「 あの時 ・・・ ほっんと〜に嬉しかったもんなあ〜 」
ふう 〜〜 ジョーは幸せなため息を吐く。
「 急なことだったのにさ、 プレゼントももらっちゃったし・・・ 」
博士からはネクタイ、グレートは革のキーホルダー、大人はやはり革製のカード・ケース
をプレゼントしてもらった。 フランソワーズからは手縫いの小ぶりのリュック!
それは今でも毎日使っている大のお気に入り・・・というかジョーのお宝なのだ。
「 う〜〜 ぼく 裁縫はできないし〜〜〜 金欠だし〜〜
あ! ともかく ディナーとケーキの件は頼まなくちゃ! 」
ジョーは がばっとソファに座り直すと張々湖飯店に電話を入れた。
「 ウン ・・・ ってことで〜 お願いシマス〜〜〜 」
ジョーはスマホを持ったまま 誰もいない空間に向かって深々〜〜とアタマを下げた。
「 ・・・っと。 ご馳走とケーキはなんとかなった・・・・ けど。
あとは プレゼント か。 これが一番問題なんだよなあ〜 」
金欠も問題だけど、 そもそも何を贈ろうか??? ジョーはアタマを抱えたい気分だ。
「 う〜〜〜 ここで考えててもどうしようもあない ・・・ かも。
とりあえず〜〜 駅前まで出てみようかなあ。 花束くらいなら買えるかもしれないし」
彼はダウン・ジャケットを羽織り、 お気に入りのリュックを背負うと勇んで
岬の家から出かけていった。
「 ん〜〜〜〜 ・・・ 」
ジョーたちが住むのは地方の鄙びた町のそのまた町外れだけれど
駅前はまあそれなりに商店街が開けている。
なんでも売っているスーパーもありし 少し先までゆけば大型のモールもある。
まず ジョーは当てもなくスーパーに入ってみた。
「 ・・・ 野菜やら果物ってのもなあ。 衣類 … これはやっぱ普段着だよね? 」
いくら世間知らず?の青少年でも < 日用品 > を贈るわけにはゆかないこと
くらいは認識している。
だって さ。 フランは ・・・
フランは ― ぼくの大事なヒトなんだもの!
やっぱさ〜〜 彼女の喜ぶ顔、見たいじゃん〜〜〜
オンナノコが喜ぶものって なんだ??
スウィーツ? ケーキとかチョコとか?
いや 小学生じゃないんだしなあ・・・
「 う〜〜〜〜 ・・・・ あ 花束! そ〜だよ〜〜〜
オンナノコって 花 好きじゃん? どっかで花・・・売ってないかなあ〜
あ! そうだ〜〜 隣に花屋、あったよなあ 」
スーパーをあきらめ、花屋の店先を覗いた。
「 うわあ ・・・ もう春みたいだな。 キレイだなあ〜〜 いろいろある・・・・
へえ〜〜 もうチューリップの鉢植え とかもあるんだ? ふうん ? 」
「 いらっしゃいませ〜〜 どんな花をお探しですか? 」
若い女性の店員さんが声を掛けてきた。
「 え ・・・ あ はい あのう〜〜 ぷ プレゼント用の 」
「 ああ 花束ですね? 」
「 そ そうなんですけど ・・・ 誕生日の 」
「 まあ 彼女さんに ですか? やっさし〜〜〜 」
「 い い いや その〜〜〜 」
「 だったら やっぱりバラですよ〜〜〜 ほら こちらのケースにどうぞ 」
「 ・・・ うわあ キレイですねえ 」
「 どんな色にしますか? え〜〜と お勧めはあ〜〜 」
彼女は 濃いオレンジの薔薇を数本、取りだした。
すげ〜〜 ・・・ キレイな色だなあ ・・・
ジョーは感心して眺めていたが ― ふと 値札が目に入った。
! こ これって 一束の値段・・・じゃないよ な
うっそ〜〜 一本でこの値段??
む むり〜〜〜〜〜〜
「 あ あ あの。 スイマセン、 ちょっとまた来ます〜〜 」
「 あ お客さまあ〜〜 」
彼はぺこり、とアタマをさげると 一目散に店から駆けだしていった。
「 ふう〜〜〜 あ〜 もうあの店には行けないよう〜〜 」
どうしよう ・・・
考えもまとまらず、彼はぼんやりと国道を家に向かって歩き始めた。
「 ・・・ う〜〜〜 誕生日はさ 明日! なんだよ〜〜〜
フランは ちゃんとぼくの誕生日にプレゼント、くれたもんなあ ・・・ 」
道は 海岸線に向かって大きくカーブを切った。
左右の雑木林が切れると ぱあ〜〜っと視界が開けるのだ。
「 ふう〜〜 ああ キモチいいなあ〜 やっぱ海っていいよなあ〜 」
ジョーは脚を止めて きらきら輝く海原を眺めた。
「 ん〜〜〜・・・・ なんか海はもう春っぽいなあ ・・・ 風は冷たいけど。 」
上にも下にも ひろがる青い世界を堪能し ふ・・っと視線を戻した時に ―
「 ・・・ あ あの窪地、もう花が咲いてる・・・ 」
国道から外れ細い市道からも逸れてまさに海になだれ込みそうになっている地には
枯草に混じって明るい色彩が点在していたのだ。
あ ! そうだ ! あそこの花!!!
とってもいいよね? 誰の土地かわからないし さ
あの花で花束 作ろう!!
ほら〜〜 一足早い春の使者で〜す♪ ってさ
「 よ〜〜〜し! 」
ジョーは かなりのハイ・スピードで歩き始めた。
う〜〜〜 加速装置! だったらすぐなんだけど ・・・
いっくら住民が少ないからって そりゃマズイよなあ
「 ふ う ・・・ あれ ? 」
地元商店街をすぎると 市道とはいえほとんど車も通らず、歩いている人などいない。
ここから先には 崖っぷちのギルモア邸があるだけで あとは隣り町に抜けてゆくだけだ。
そんな海際の道端に 人影があった。
「 ・・・ どうしたのかな。 あ おばあさん だよ? 具合でも悪いのかなあ 」
ジョーは遠目に眺めていたが わざと足音をたてて歩き始めた。
たっ たっ たっ ・・・
彼が近づいていっても件の老婦人 ― というか地元のおばあちゃんなのだろう ― は
じ〜〜〜っと海の方を眺めている。
「 ・・・ あ〜〜 コンニチワ〜〜〜 あの ? 」
「 ?! あ ・・・ ああ こんにちは お兄さん。 」
「 こんにちは〜〜 あの ・・・ どうかしたんですか? 」
「 はへ? なにが ですかね 」
「 え ・・・ あ〜〜 あのぅ ず〜〜っとそこにいるから ・・・ 」
「 あ ああ ・・・ ワタシはあっちの町のもんです 」
おばあさんは ジョーが歩いて来た方向、海岸通り周辺を指した。
「 あ そうですか ぼくは ・・・ あそこに住んでます。 」
ジョーは崖っぷちの我が家を指した。
「 はへ〜 しっとりますよ〜〜 キレイなお嬢さんと白鬚のお父さんと
ごいっしょやねえ 」
「 は はい ・・・ あの? ここで なにを ? 」
「 ・・・ お花見 しとりますよ 」
「 はなみ??? 」
「 はへ。 お花見ですよ 」
「 この季節に? 桜がもう咲いてるんですか??? 」
「 お兄さん 桜を見るのだけが花見じゃ〜ないのんよ。 草の花でも 樹の花でも
キレイに咲いているのを眺めているとシアワセな気持ちになるわね〜〜 」
「 はあ ・・・ あのぅ どこの花ですか。 」
「 ホラ あそこ。 お兄さんのおうちの近くじゃないのかね? 」
「 あ。 え ええ ・・・ 」
おばあさんは 海を右手に崖っ渕の方を指した。
「 ね〜 キレイでしょう? ずっとこの辺りにすんでいるけれど 毎年ね〜 こうやって
岬の花を眺めて楽しませもらっていますよ。 」
「 あ ・・・ キレイですよ ねえ 」
「 ね? 一足早く春が来てますよぉ〜 」
「 ・・・ そうですね。 教えてくださってありがとうございます。 」
ジョーは ぺこり、とおばあさんにアタマを下げた。
そっか ・・・ そうだよ なあ〜 花は 皆のもの だよなあ ・・・
ぼくが全部採っていい・・・はず ないよ。
ああやって 花見を楽しみにしている人、他にもいるかもしれないし。
けど けど。 プレゼント〜〜〜
どうしよう ・・・
今までの足取りはどこへやら、 彼はとぼとぼと道を辿り海岸に降りていった。
「 ― ど〜しよ 〜〜〜〜 」
ぼすん。 ジョーは浜辺に転がっていた流木に座りこんだ。
「 ・・・ なにかないかなあ〜〜 ああ〜〜 なんだって今日まですっかり忘れてたんだ?
バイト代だってさ、貯めておけば少しは・・・ う〜〜 」
ざざざ 〜〜〜〜 ・・・・ ひゅるり〜〜〜 ひゅる〜〜〜
足元には波が白い飛沫を届け 頭上には付き抜けるみたいに真っ青な空が広がっている。
ふううう 〜〜〜 ジョーは本日何十回目かのため息を吐いた。
「 座っててもどうしようもない ・・・ もんなあ〜 」
のろのろ立ち上がると、彼はとぼとぼ歩きだした。
そしてまた とんでもないことを忘れていたのに気が付き ―
! 明後日って。 博士の誕生日じゃん ・・・ !
「 う〜〜〜〜〜〜〜 どうしよう〜〜〜〜 」
じゃり。 ガリ。 砂の中になにか違う感覚があった。
「 ・・・ あ? ああ 貝殻かあ ・・・・ こっちは岩? 浸蝕されてるんだ〜 」
屈みこんで手にとれば 白い貝殻とつるつるした石だった。
・・・ こ れ ・・・ !
― 翌日24日。 彼女のバースディ・パーティ は大いに盛り上がった。
「 ・・・ な ・・んてキレイでカワイイんだ〜〜〜 」
桜色に頬を染め微笑む彼女をうっとり眺め ジョーはほっんとうに心から嬉しかった。
そして その日の深夜 ―
ギルモア邸のリビングの片隅で なにやらゴソゴソ作業をしている姿が二つ。
コツ コツ コツ カツン カシカシ〜〜
ジョーは 岩を磨いたり削ったりしている。 海辺で見つけた岩を使っているのだ。
「 う〜ん ・・・ ここを削って ・・・ 」
「 あら いいわね〜〜 灰皿? 」
もう一つの影が覗きこんだ。
「 でもいいし〜 パイプ置き でもいいかな〜って。 」
「 いいわねえ 博士 喜ばれるわよ。 ね ジョーから貝殻 と〜ってもステキ♪ 」
「 ・・・ あんなんでゴメンね 」
「 どうして?? わたし、大好きなの。 博士もね、大切になさるわ、きっと。 」
「 そっかな・・・そうだとうれしいなあ〜 フランのは? ひざかけ? 」
彼も彼女の手元の縫い物を眺めた。
「 そうなの。 端切れでパッチワークして ひざ掛けのカバー ・・・のつもり。 」
「 わ〜〜 フランの手作りだもん、博士、大喜びだよ〜 」
「 だといいんだけど・・・ 」
二人は ちょっと笑って見つめ合う。
「 えへへ ・・・ なんかさ、 楽しいよね〜 」
「 そうね そうね うふふ・・・ 実はね〜 ジョーのお誕生日の前の夜もね
わたし徹夜したの〜〜 」
「 え!? あ あのリュック ・・・? 」
「 そうよ〜 大変だったの・・・わたし そんなにお裁縫上手じゃないから 」
「 !!!!!! そんなことない! ぼくのたからものだもの! 」
「 え 嬉しいわあ〜〜 気に入ってくれて ・・・ 」
「 最高だよ〜〜 いっつも一緒にいるんだ。 」
「 まあ ・・・ リュックも喜んでいるわね 」
「 ぼくの相棒だもん。 あ あの さ。 明日 花見に行こうよ。 」
「 花見?? え もう?? 」
「 ウン。 ぼくの秘密の場所、教えるから。 」
「 まあ 楽しみ♪ うふふ ・・・ ステキなプレゼント メルシ〜〜 ジョー 」
ちゅ♪ ジョーの頬に彼女の唇がさっと掠めていった。
「 〜〜〜〜〜 う わ〜〜〜〜〜〜〜〜 ぉ 〜〜〜〜〜〜〜 」
プレゼントを貰ったのは ― ジョー君の方だった のかな?
******************************* Fin. ********************************
Last updated ;01,26,2016.
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************** ひと言 **************
フランちゃん・お誕生日小話〜〜〜
こりゃ どう見ても 平ゼロ93 ですなあ ・・・