『   紅蓮のひと   』 

 

 

 

 

 

 

 

   ・・・ 風が 出てきたな  ―  

 

ジョーは雲ひとつない空を見上げ ぼそりと呟いた。

太陽は中天より少し傾いたが まだまだ旺盛な勢力を誇っている時間だ。

いくら真冬とはいえ 特に心配するほどの風でもないのだが。

 

彼は 僅かに眉を顰めると、大股で室内に戻っていった。

階段を二段とびにあがり、邸内の自室に飛び込みクローゼットを開ける。

「 ・・・ えっと ・・・ ぼくのコート、じゃあ大きいよなあ。 ジャケットかブルゾン・・・  

 あ、あとマフラーもあったほうがいいかも ・・・う〜ん 暗い色ばっかりだな イヤかな ・・・ 」

しばらくごそごそかき回していたが 直に彼は自室を飛び出していった。

   ブルゾンとマフラーをしっかり抱えて・・・

 

 

岬の突端に建つギルモア邸、それは一見ただの洋館だったが建物全体の設計はもとより

敷地内での位置も実に緻密に計算されていた。

海に面した側ぎりぎりに邸が建ち その背後には庭が奥深く広がっておりそのまま裏山の雑木林に続く。

庭は邸が海風を防ぐ形となり、 多くの樹木や畑や花壇で賑わっていた。

 

モトはなにもなかったこの荒地に メンバー達はそれぞれ樹やら花を植えていった。

この邸に定住する者は少なかったけれど 彼らは折に触れて世界中から集い <我が家> を満喫する。

ジェロニモ Jr.は庭のぐるりに暴風林として松を植え 庭の隅には温室を作った。

かなりの面積を占めているのは張大人の野菜畑で その一角にフランソワーズもハーブ類を丹精している。

建物に沿って花壇がだんだんと広がってゆき、これはもっぱらフランソワーズの指示で 

ジョーが ― 時にはアルベルトも ― 穴掘りやら土起こしに汗を流したのだ。

 

この地に住み着いて数年が経ち やっと ・・・ 彼らの<家>は緑に囲まれた安らぎの場所になった。

 

 

「 ジョー。  どこへゆく。 

「 うん ・・・ ちょっと風が出てきたから。 羽織るものがあった方がいいと思って・・・ 」

テラス脇の花壇から ジェロニモJr.が声をかけた。

「 そうか。  岬に近い花壇の東屋にいる。 頼まれてつれていった。 」

「 ・・・ ありがとう! じゃあ 海風が寒いかもしれないね。 

「 まだ 大丈夫だ。 もう少し外の空気を吸わせておいてやれ。 」

「 うん。  そうだね。  ずっと・・・ メンテ・ルームに篭っていたんだものな。 」

「 ああ。  新鮮な空気と太陽の光 そして 風。  これらが無ければ生きては行けない。

 植物も動物も  ヒトも。 」

「 ・・・ 本当にそうだよなあ。  やっと博士のお許しも出たんだし・・・ 

 でもちょっと気になるから。  見てくる。  ああ 邪魔はしないから、さ。 」

「 行け。 待ってるぞ、フランソワーズは。 」

「 ・・・ あ  あは。 そ、そうか な 」

ジョーは赤くなりつつも 足早に庭を横切っていった。

「 花には水  恋人には愛情  ・・・  それが幸せへの約束。 」

ジェロニモ Jr.の呟きは ジョーの耳には届かなかったらしい。

 

  ヒョオ −−−−− ・・・・・ !

 

この国の この地方の。 この季節特有の風が真っ青な冬空を駆け抜けてゆく。

「 ・・・ 近々 大風が来るかもしれない。  季節ハズレの嵐 か 」

赤銅色の肌をした巨人は じっと風の流れを見つめていた。

 

 

 

野菜畑を抜け櫟の植え込みを回ると もう波の音が間近に聞こえてくる。

ジョーはますます脚を早め 防風林に一番ちかい花壇を目指した。

そこには露台も兼ねた中国風な東屋が建っていて 夏場にはよく皆で花火に興じたり夕涼みを楽しむ。

 

    え〜と・・・? ああ いたいた・・・

 

東屋の隅に クッションとショールに包まった姿があった。

ジョーはほっとしつつ声をかけようとし ― そのまま脚を止めた。

 

   チ ・・・ チチチ ・・・ さあ おいで。  チチチ ・・・ほら こっち

   rrrrr   rrrrr ・・・・ ♪

 

微かな口笛に 低い声がまじる。  東屋の日溜りには小鳥たちが集まり餌を啄ばんでいる。

その中心に 彼女が いた。

 

   ほら? こっちよ。  チチチ ・・・ 沢山あるから 皆でおいで。

   チチ  チチチ ・・・  おいで  おいで・・・

 

冬のまろやかな陽射しの中、 黄金 ( きん ) に髪を煌かせ白い頬を僅かに染めて

彼女は 小鳥たちと語りあっている。

 

   ・・・ お腹 いっぱいお食べ。  ええ ここには恐いことなんかなんにもないの。

   安心して ・・・  あら? なあに。  え? 誰か きた??

 

ゆっくりと彼女は足元から顔を上げると まっすぐにジョーの立つ方向に向き直った。

 

「 ・・・ジョー? そうね、 ジョーでしょ。  」

「 あたり。  なあ ・・・ そこへ行ってもいいかな。 あ 小鳥君たちの食事タイムかなあ。 」

「 え・・・っとね。 それじゃ 反対側からゆっくり回ってきてくださる?

 わたし、餌をこっちの方に撒くから。  そうすれば お食事タイムを邪魔しないですむわ。 」

「 うん、わかった。  ・・・ 小鳥君たち〜〜 ごゆっくりどうぞ? 」

ジョーは わざと足音をたてつつ大回りをして東屋まで辿り着いた。

 

「 ・・・ うん、大丈夫みたいだ。 皆 <食事中>だよ。 」

「 でしょう? このコたち、驚かせなければとっても人懐こいの。 皆わたしのお友達よ。 」

「 ふふふ・・・凄いな。  ね、寒くないかい。 ちょっと風がでてきたから・・・

 ジャケットとマフラー、持ってきたよ。   はい ・・・ 」

ジョーはふぁさり・・・と 彼女の細い肩に羽織らせる。

「 まあ ありがとう!  あら これ・・ ジョーの、ね? 」

「 え  あ うん。  わかる? 」

「 ええ。 ジョーの ・・・ 香がするもの。 」

「 ・・・え・・・ ちゃんとクリーニング、してるぜ。 清潔そのものも、だよ〜〜 」

「 ふふふ・・・やだわ、そんな意味じゃなくて。 だってわかるもの、たとえ洗いたてでも・・・

 ありがとう、嬉しいわ。  あら やっぱりぶかぶかだわね。 」

「 ・・・ 可愛いよ、すごく。  隣、座ってもいいかな。 」

「 どうぞ。  ・・・ あら 走ってきた? 」

ジョーはそっと腰を降ろしたが、ふわり ・・・と白い手が彼の腕を捕えた。

「 え?  ちょっとだけ早足・・・  あ。 ここって思ったほど風が当たらないんだね。 」

「 ええ。 すごく温かいの。 波の音が聞こえて 風の声も聞こえて。

 小鳥さんたちが歌いにきてくれるし。 もう ・・・ 最高でしょ。 」

亜麻色の頭が ことん・・・とジョーの肩に寄りかかる。

 

    ・・・ あ。  良い匂いだ ・・・ き  み  の 匂い ・・・

 

豊かな髪はジョーの頬にも触れ 彼だけが知っている香りが鼻腔から忍び込む。

ジョーは腕を伸ばし 彼女の肩を引き寄せた。

「 うん、特等席だねえ ・・・ 冬にはこの辺まであんまり来ないから気がつかなかったけど。 

 すごいね、きみ、こんなスペシャル・スポットを知ってたんだ? 」

「 実をいいますと。 ここはジェロニモ Jr.のお勧めポイントなのでした。 

 彼がね、 固くなったパンと一緒に連れてきてくれたの。 」

「 あ・・・ そうなんだ?  さすがだね〜 彼。 」

「 そうね。 お日様た〜〜くさん浴びて 身体の中もほっこり温まる気分だわ。 

 お日様パワーが身体の中まで染み込んできたもの。 」

「 よかったねえ・・・ そろそろ・・・戻ろうか。  人間もお茶タイムだよ。 」

「 あら もうそんな時間?  嬉しいわ、皆とお茶・・・って ほんと久し振りなんですもの。 

「 うん ・・・ 全員が揃ってないのがちょっと残念だけどね。 え・・・っと? 荷物、全部持ったかな・・・

 毛布にクッションだろ。 あれ この袋は・・・? 」

「 あ・・・ あの。 編み物 なんだけど。ずっと放りっぱなしだったので持ってきたの。

 ・・・でも ちょっと・・・やっぱり無理だったわ・・・ 」

「 ・・・ あとでやればいいさ。  あのさ、抱いてゆくよ。 やっぱり足元が危ないもの。 」

「 ううん。 わたし、ちゃんと歩けるわ。  ここまでだって自分の脚で歩いてきたのよ? 」

「 ・・・ ごめん。  じゃ ・・・行くよ。  あ、 階段あるよ、3段。 」

「 ありがと。 ちゃんと覚えていてよ。  すこし行ってもう一段 あるでしょ。 」

「 お さ〜すが・・・ それじゃ どうぞ、マドモアゼル? 」

ジョーは笑って 彼女の手を取り自分自身の腕に絡めさせた。

「 メルシ、 ムッシュウ ・・・  小鳥さん達? またね・・・ 

彼女はジョーの腕に縋り彼に寄り添い そろそろと脚を進め始めた。

「 ゆっくり ― そうだよ、のんびりしよう。 しばらくはミッションのことなんか忘れて、さ。 」

「 そうね。  もう終ったのですものね。 」

「 ああ。 あそこは ― いまごろ草ぼうぼうの地になってるさ。 

 きっと こんな風に太陽がた〜っぷり注いでね。  ああ いい気持ちだ ・・・ 」

「 ええ ・・・ お日様 ・・・ また遊んでくださいね。 」

 

宙に向けられた白皙の顔は ほんのり染まった頬に珊瑚色の唇 そして ― 

上半分は 分厚いアイマスクで覆われていた。

 

 

 

 

 

「 チックショウ! なにが目的なんだ!? 」

「 おい。 喚いているヒマがあったら片ッ端から撃ち落せ。 」

「 わ〜ってるって! しっかしよぉ! ヤツら アットランダムに攻撃してるんでねえか!? 」

「 あ、そうだね。  うん、確かに。 」

赤毛と銀髪の会話に ごく冷静な声が参加した。

「 え〜〜 マジかよ〜〜 ピュンマ! 」

「 お前も そう思うか。 」

「 うん。  ずっと攻撃パターンを記録してたんだけど。 どう考えても ― 計画性はないよ。

 本当に出たトコ勝負で 僕たちを攻撃してるみたいだ。 」

「 ふん。 今度のヤツらは司令官ナシの烏合の衆なのか。 」

「 う〜ん ・・・ 本来の目的を隠すためのダミー攻撃か、とも考えられるんだけどね。 」

「 は! そんならよ〜 早いトコ、やっつけちまってさっさと帰ろうぜ! 

 ちょっくら 直接にお見舞いしてくるぜ ああ〜〜 イラつく〜〜 ! 」

「 あ、 おい 待て!  ・・・ ち、気の短いヤツめ! 」

赤毛は靴音高くコクピットを駆け抜け ― すぐにメイン・モニターにその姿を見せ飛び去った。

「 まあ いいさ。 ぼくもかなりイライラしてきたからなあ。 」

メイン・パイロット席から ジョーも苦笑している。

 

 

 

東南アジアの密林地帯で またぞろ大規模な麻薬精製工場の暗躍が発覚した。

出所不明な新型のドラッグが爆発的に全世界へ拡散しはじめていたのだ。

情報を得たサイボーグ達は直ちにドルフィン号で現地に向かったのであるが ・・・

肝心の工場は 既に機能停止に近い状態だった。

サイボーグ達は念のため、破壊工作を始めたが途端に工場跡から反撃部隊が現れた。

 

「 やっぱりな。  機能停止はカモフラージュか。 」

「 う〜ん?? でも確かにココにはロクなものは残ってないよ。 中枢部はどこか他にあるのかな。」

「 ともかく 大掃除だ。 ジョー、ドルフィンを出来る限り接近させてくれ。 」

「 了解。  アルベルト、 直接攻撃する気かい。 」

「 念には念を入れないとな。 」

「 ほへ〜相変わらずの徹底主義かよ。ざざざ〜〜っとよ、ドルフィンから遠隔操作で

 <掃除> すりゃいいじゃん。 」

「 いや。 根絶すれば二度と戻らないで済む。 二度手間をかけるよりはるかに合理的だ。 」

「 さすがだね。 しかし 本当に気紛れな攻撃だね! フォーメーションが読めないよ。 」

「 ふん、ならば片っ端から潰してゆけばいい。 害虫退治だ。 」

「 了解 ! 」

「 ラジャ 〜〜 !! 」

サイボーグ達はそれぞれの守備範囲で敵の攻撃に立ち向かっていった。

 

 

 

「 ・・・ ふう ・・・・ 」

ジョーは ごく低い吐息の音を捕え、手元のモニターから顔をあげた。

「 ? ・・・ 大丈夫かい フランソワーズ? 」

ちょうど迎撃が途切れ コクピットの中がふ・・・っと静まりかえった瞬間だった。

各自 <作業> に集中している最中であったなら いかにジョーであっても聞き落としていただろう。

平素 決して弱音など吐かない彼女にしては珍しいことだ。

「 どうした。 疲れたのかい。 」

「 え ・・・ ええ。  なんだかね、 こう ・・・ 散漫な攻撃って 余計に疲れるの。

 集中してこない分、長時間探索エリアをギリギリ一杯広げなくちゃならないでしょ。 」

「 そうか・・・ うん、 メインだけでいいから。 あとはドルフィンの自動追尾装置とレーダーに任せよう。

 きみは中枢部だけ 探索してくれ。 」

「 ・・・ 了解。 ありがとう ジョー・・・ 」

ジョーの指示に チラっと笑みを見せ彼女は再び探索に集中した。

 

   ・・・ 本当に この手の攻撃はかえって神経を使うな。

   絨毯爆撃の方がまだ楽かもしれない。  あまり長引かせたくない・・・

 

ジョーはそれとなく仲間達の様子を見つつ ドルフィン号に次々と指令を出してゆく。

「 ジョー。 一旦撤退しよう。  このままでは疲労するだけだ。 」

「 了解。  うん ・・・ 攻撃も随分頻度が落ちてきたね。 」

「 そうだね。 アチラさんもお疲れのようだよ。  あ、ジェットが戻って来る、ハッチを開けるよ。 」

「 オーライ。  彼が戻ったら高度アップしろ。  俺たちもちょいと休憩だ。 」

「 了解 ― 皆 一旦迎撃中止だ。 」

  ほ・・・っと 音にならない吐息がコクピット中に満ちた。

「 は・・・! 根を詰めるのは 老体に響くわな・・・ いててて・・・腰が・・・ 」

「 グレートはん! 何 言うてはるねん。  さ、お茶の準備や、手伝うてや。 」

真っ先に張大人が席を離れ厨房に駆け込んでゆく。

「 ほいほい ・・・  お 火の玉小僧のお帰りだぜ。 」

「 ひぇ〜〜  腹減った! 」

グレートと入れ違いにのっぽの赤毛がわさわさと戻ってきた。

「 なんかさ ひで〜攻撃じゃん? ヤル気なしっつ〜か気紛れっつ〜か。 

 ヤルならさっさと来いってんだ! 」

「 無駄口叩く前にデータ、入れとけ。  ジョー、高度変更だ。 」

「 了解。 全員着席願います。   あ!? 」

「 なんだ?  攻撃再開か。 」

「 いや  ・・・  全然軌道外れだな。  お もう一発 ・・・・ なんだ?? 」

「 ・・・ ??? 」

 

   パ ァ −−−−− ン  ・・・・!!

 

そのミサイルはドルフィン号の上方で炸裂した。

一瞬 コクピットの中は激烈な光が満ち 全員の視界はホワイト・アウトした。

しかし 機体自体は微動だにせず、彼らの足元が揺れることはなかった。

「 な・・・ なんだ?? くそ〜〜 眼が見えねえ! 」

「 う・・・ 無理に開けちゃだめだよ!  多分すぐに消えるはず・・・ 」

ほぼ 同時にドルフィン号の横を別のミサイルが通過していった。

「 ふん! 掠りもしねえな。 レーダーもナシなのか。 」

「 いや これは ・・・ うわ・・・ こっちのレーダーが滅茶苦茶だ! 」

「 !?? なんだって? 」

 

   ―  ドサ ・・・!

 

「  ―  フランソワーズ!!?? 」

コクピット中が騒然とし始めた時 003は突然座席から床に倒れ落ちた。

「 おい!? フランソワーズ! どうした?  しっかりしろ・・・・ フラン? 」

ジョーは駆け寄り彼女を抱き上げた。

「 ・・・・・・・ 」

「 ・・・ 失神してる・・・! なにがあったんだ? 」

「 ジョー。 多分 さっきのミサイルは彼女の能力を狙い撃ちしたんだよ。 」

「 狙い撃ち? 」

「 うん。 ほら見ろよ。  ・・・ ドルフィンのレーダーも滅茶苦茶だもの。 

 はるかに性能のいい彼女の機能は ずっと敏感に反応するはずだよ。 」

「 じゃあ ・・・ あの散漫な攻撃は。 003の探索能力を潰す手段だったのか? 」

「 恐らく ね。 」

さんざん <引っ張りまわし> 疲れさせ ふ・・・・っと集中が途切れたときに

音響魚雷 と 偏光ナパーム弾が炸裂したのだ。

 

   ― 彼女は悲鳴を上げる余裕すらなく 床に転げ落ち意識不明となった。

 

「 ジェロニモ。 彼女を医療スペースへたのむ。 」

「 おい? ジョー!? 高度アップと言ったはずだぞ?! 」

「 ・・・ 今、叩く。  完全に叩くんだ。   ドルフィン、発進します!! 

「 おわ・・・!? な、なんだ〜〜 」

「 しっかり掴まってろ。  射程エリア内に入ったら即攻撃する。  行くぞ。 」

「 ― うわ・・・!  ・・・ 了解。 」

「 了解。  おい 落ち着けよ。 」

アルベルトは ぽん、とジョーの肩を叩くとゆっくりと革手袋を外しにやりと口の端をねじあげた。

「 ふん。 オレも実はな。 ムズムズしていたところだったのさ。 」

「  ・・・ん。  ありがとう。 」

ジョーはじっと前方を睨んだまま  ぼそ・・・っと答えた。

 

 

 

 

「 ・・・・ うん、まったくね。 あの時には心底 彼を敵に回したくはないなあ〜って思ったよ。 」

「 ってこと! 俺 ヤツの援護射撃が精一杯でよ。  もう おっかないくらい片っ端から百発百中!

 こう・・・ パシ・・!  パシ! パシ! ってよ〜〜 」

「 まあ ・・・ そうだったの? 」

「 前にもあったけどさ。  彼って 君がダメージを受けると もう・・・ヒトが変わるよ。

 なんていうかな、炎のカタマリってカンジ。  」

「 そうそう!  それもよ、しーーん と燃え上がるのな。 ほっんと、不気味ってかおっかないぜ〜 」

「 え ・・・ そ そんなに・・? 」

「 ああ。 あんだけ手古摺ってたあの基地な。 たちまち ・・・ 」

「 ・・・ たちまち?  ・・・ ぁ ・・・ 」

フランソワーズは思わず身を起こしたが すぐにこめかみを押さえてまた枕に頭を埋めた。

身体を丸め 頭を抱えこみ額には冷や汗が浮かぶ。

「 わ ・・・ 大丈夫かい? 急に動かないほうがいいんじゃないかな。 」

「 え ・・・ ええ ・・・ 」

「 博士、呼んでくら。  ・・・おわ! 」

ジェットがドアの前に立った途端に ― 

「 おや・・・ 諸君、そろそろ病人を休ませてやってくれ。 

 見舞いは嬉しいがの、まだまだ本調子じゃないのでな。 申し訳ないが・・・ 」

ギルモア博士が のんびりとメンテ・ルームに戻ってきた。

「 博士! 今 呼びに行こうって ! 」

「 うん?  ・・・おお どうしたね。  ああ、まだ眩暈が取れんか。 うんうん・・・大丈夫じゃから・・・

 ほら ゆっくり ゆっくり・・・な。 」

「 ・・・ はい ・・・ 」

博士に支えられ フランソワーズはようやっと身体を伸ばしベッドに横になった。

「 ちょいとなあ・・・ 念入りにメンテナンスしておいたぞ。 

 まだシステムの作動が不安定じゃから しばらく<能力>はシャット・ダウンじゃ。

 そのほうがお前も楽じゃろう?  ・・・ 可哀想に・・・ 」

博士はそっと彼女の頬に手を当てた。

「 眼をな、保護しておこう。  ・・・ これを着けておくといい。 

「 アイマスクですか。 ああ、僕が・・・ フラン? これでいいかい。 きつくないかな。 」

「 ・・・ ええ ありがとう ピュンマ。 あら ひんやりして良い気持ち・・・ 

 博士 ・・・ もう 大丈夫ですわ・・・ 」

「 いいや。 この際じゃ、しっかり休養しておくといい。 

 のんびり ・・・ のんびり、な。  余計なことは考えずに日向ぼっこでもして過すのじゃ。 」

「 ・・・ それなら ・・・ 上へ戻ってもいいのですか。 」

「 おお 構わんよ。  そうじゃ、しばらくは通常の聴覚だけにしておいた方がいいな。 

 おい、 誰か。 ジョーを呼んできておくれ。 」

「 オーライ!  やっぱフランがいねぇとよ、こう・・・なんつ〜か彩りに乏しくてよ。

 皆が揃っているうちに 茶ァ飲めるのは嬉しいぜ。 」

赤毛は口笛の拍子にあわせ ひょいひょいと地下のメンテ・ルームから階段を登っていった。

「 ・・・ 皆 ・・・ もう帰ってしまうの? 」

「 あ ・・・ うん。 例の麻薬精製工場はもう跡形もなく木っ端微塵だし。

 周囲の大麻畑も完全に焼却してきたよ。 あそこは肥沃な畑になるだろうって ジェロニモが。 」

「 そう・・・ よかったわね。  ピュンマ ・・・ あなたも帰国するの。 」

「 うん。 ごめん ・・・ 君が完全に回復するまで一緒にいられればいいんだけど・・・ 」

「 あ、いいのよ。 お仕事、忙しいのですもの。 わたしなら もう大丈夫。  ただ ・・・ 」

「 うん? なに。  なにが気に掛かっているのかな。 」

「 ええ ・・・ あの。 わたし ね。 見たくないの、 出来れば二度と・・・ 」

「 え。 見たくないって・・・ なにを。 」

「 そのう ・・・ ヒトが変わったようになったジョー ・・・ を、ね。 見たくないのよ。 」

ああ ・・・ と ピュンマは無言で頷くと彼女のベッド・サイドに寄った。

足音を聞き 彼女はゆっくりと顔を向けた。

「 あのね。 そのためにも完全に君が元気になることさ。 

 安心しなよ、 もう すっかりいつもの彼だから。  ほうら・・・ お迎えに駆け下りてきたよ? 」

「 ・・・ あ あら・・・・ 」

ぽう・・・っと頬を染めた彼女が可愛らしくて ピュンマはぽんぽん・・・と白い手を叩く。

「 大丈夫。 半ベソだよ、アイツ。 ・・・ ジェロニモが残るって言ってくれたし。

 安心して養生しなよ。  夏にはさ、また花火大会に呼んで欲しいな。 」

「 ええ ええ。 きっとね。  ・・・ ちょっと・・・ 屈んでくださる? 」

「 ? うん  いいけど・・・・?   うわ〜ぉ・・・♪ 」

「 ・・・ Merci , A  bientot   ( ありがとう またね ! ) 」

すっと珊瑚色の唇がピュンマの頬に触れた。

   ― その途端 ・・・

「 フラン! 上に戻ってもいいのかい!? ・・・・ァ ・・・!! 」

メンテ・ルームのドアを勢いよく開け   そのまま ジョーは棒立ちになっていた。

 

 

 

 

 

「 あの時のさ、アレはないよなあ・・・ 君もピュンマも本当にヒトが悪いや。

 ぼく、思わず眩暈がして アタマの中 真っ白になったもの。  」

「 あ〜ら? ただの さよならのキス ううん、行ってらっしゃいのキスをしただけよ? 」

「 ふうん? そうかなあ〜 なんかさ ・・・ ぼくが降りてくるのを待ってたみたいだったけど・・・ 」

「 そうだったかしら? ・・・ふふふ ・・・ そうかもしれないわ。 」

「 もう ・・・ コレだからなあ 女の子ってのはさあ! 」

「 ジョー? お前まだまだ 修行が足らんなあ ははは・・・ 」

「 え〜〜 博士まで フランの味方をするんですかァ〜 」

「 フランソワーズは 皆に優しい。  邪推するオマエの方がモンダイだ。 」

ジェロニモ Jr.までもが 静かにカップを置きつつ付け加えた。

「 うわ ・・・ 皆してフランの味方して。  これって。 なんだっけ・・・? 四面??? 」

「 四面楚歌。 そうだろう? 」

「 あ! そうそう。 それそれ。  参ったァ〜〜 」

ジョーは大仰に両手を上げ 皆が笑い声をたてる。

 

広いリビングの戸を半分以上開け放ち、彼らは午後のお茶を楽しんでいる。

フローリングの床に冬の陽射しがたっぷりと光の裳裾を広げ どこか温室めいた雰囲気だ。

ジョーは 日溜りに脚を投げ出していた。

短いミッションが終わり メンバー達は帰国したり通常の住いに戻ったりし、ギルモア邸には

再び静かな日々が流れている。 

赤銅色の肌をした巨躯の持ち主が加わってはいるが 彼は誰よりもひっそりと・・・

この地に空気に溶け込んでいた。

フランソワーズも <損傷> から徐々に回復してきた。

 

「 フランソワーズ、どうじゃ?  岬近くまで<遠征>しても疲れなかったの。 」

博士は何気ない風に訊ねるが その眼差しは細かく彼女の様子を観察してる。

「 はい、とても気持ちがよくて。  風とお日様と海の匂いに沢山元気をもらいました。 」

「 ほう それはよかった ・・・ うん、この分じゃとそろそろアイ・マスクを外してもいいかもしれんな。

 うん ・・・ 来週にでももう一回チェックしてOKなら普通の生活に戻ってよいぞ。 」

「 わあ よかったねえ、フランソワーズ! 」

「 え ええ ・・・ 博士、 あの ・・・ <耳と眼> は まだ使ってはいけませんか。 」

フランソワーズは手探りで ティー・ポットからお茶を注ごうとした。

「 おい ぼくがやるよ。  今、 耳 も 眼 も。 使う必要なんかないだろう? 」

「 ええ。 でも  でも ね。  いつなにが起こるかわからないでしょう。

 そりゃ、このお家にいれば安全だけど。 でも ・・・ いつ急なミッションが ・・・ 」

「 その時はね、フラン。 ぼくがきみの代わりをするから。  そんなこと考えないでいい。 

 きみは今、 のんびり・・・・ お日様や ほら、あの小鳥君たちと遊んでいて欲しいな。 」

「 元気になることが 今のオマエの仕事だぞ。 」

珍しくジェロニモが口を挟んだ。 彼のカップの傍には相変わらず木工品が置いてある。

カタリ ・・・ 大きな手が製作中の作品を取り上げた。

「 コレ ・・・ オマエの全快までに 仕上げる。 」

「 まあ なにかしら。 楽しみにしているわね。 ああ ・・・ 早く編み物の続きもしたいわ。 」

「 もうちょっとの辛抱だよ。  あ。 きみが復帰するまでにちゃんと掃除しとかなとな・・・ 」

「 え。 もしかして ・・・ 全然やってない・・・の?? 」

「 俺もジョーを手伝っている。 安心しろ。 」

「 あ なあんだ・・・ ふふふ・・・さっきのお返しかしら? 悪戯っこ・ジョーさん♪ 」

「 へへへ ・・・ まあたまには ね。 

 夕食まで どうする? 部屋に戻るかい、それとも ここがいいかな。 」

「 そうね・・・ 皆と一緒に居たいから。 邪魔でなかったらここに居たいわ。 」

フランソワーズは ぐるり・・・とリビング中に首をめぐらせた。

「 うん、是非。 実はさあ ・・・ 今日はぼくが夕食当番なんだけど。 いろいろ・・・アドヴァイスを

 お願いします! 」

「 あら 喜んで。  今晩のお献立はなんですか、シマムラ・シェフ? 」

「  ・・・ う  ・・・・ は、ハンバーグ かなあ・・・ 」

「 あら また? ま・・・シェフの腕前に期待してます。 」

穏やかな空気がリビングに満ち <家族>は再び訪れた静かな日々にほっとしていた。

「 そろそろ ここを閉めようか。  ・・・・ あれ、 どうした? 」

ジョーはテラスへのフレンチ窓の側の寄った時、突然 フランソワーズがソファから立ち上がった。

「 なんだい、フランソワーズ。  なにか・・・ 」

「 ・・・ 落ちたの。 ええ 確かに ・・・! 」

「 え? なんだって? なにが どうしたって? 」

 

「 ― なにか ・・・ 誰かが 崖から落ちた  わ ! 」

 

「 崖?? あ・・・ 待てよ、フランソワーズ! 」

フランソワーズはスリッパのまま、テラスに走りでた。

「 おい! 危ないってば!  ほら・・・ いったいどうしたんだい、フラン。 」

そのまま 手探りでテラスを伝い下に降りようとする彼女を ジョーは慌てて抱きとめた。

「 崖よ! ウチの下の。 崖から誰かが海に落ちたの! ああ はやく助けにゆかなくちゃ ・・・!

 ジョー ・・・ 離して・・・! 」

「 フラン! 落ち着けよ。  どうしてそんなこと、判るんだい。

 きみは今 <耳> も <眼> もシャットダウンしているはずだろう? 」

「 え ・・・ ええ。 でも でも ね! 聞こえたの。 ああ ・・・ ジョー!早く助けて! 」

「 オレが行く。  フランソワーズ、 位置を教えてくれ。 」

のそり、とジェロニモが立ち上がり二人の背後からテラスに出てきた。

「 この下の崖じゃと?  それなら・・・・ ちょっと待て、救助用のロープを持ってくるでな。 」

博士も本を置き ばたばたと書斎に向かった。

「 ジョー ・・・! 早く・・・! 」

「 わかったよ。  すぐに行く。 だけど きみはここに居ろ。 外に出ちゃダメだ。 

 ここから詳しい位置を脳波通信で送ってくれ。  いいね? 」

「 ええ ・・・ いいわ。  あ・・・海に流される心配は ないみたい・・・ 」

「 そうか。 しかしこの辺は岩場ばかりだからなあ ・・・ 詳しい場所をたのむ。」

「 了解。  」

ジョーとジェロニモは テラスの端から邸の下に広がる海岸線へと降りていった。

 

 

「 ジェロニモ。  ・・・ わかるかい、この辺りだと思うのだけど。 」

ジョーは崖っ縁からきょろきょろと見下ろしている。

「 フランが送ってくれた位置だと だいたいこの辺のはず ・・・ 」

「 ジョー。 アレ だ。 」

「 え ・・・ どこだ? 」

ジェロニモはぼそ・・・っと答えつつすでに崖を降り始めていた。

「 あ 待ってくれ。 ぼくも行くよ。 ・・・・ あれか! あ! 女性・・・か? 」

彼は巨躯を軽々とあやつり岩場に降り立つと倒れていた人物を抱え上げた。

「 ああ。 崖の途中 ・・・ あの松の木にぶつかった。  枝、折れた・・・ 」

「 うん  この枝の上の落ちたから助かったんだ。  ・・・ しかしアタマからの出血がひどいな。

 ・・・ 救急車を呼んだほうがいいかもしれない。 」

「 いや。  この女性・・・ 死なない。  博士に手当てを任せる。 」

「 え ・・・ そうかい。 とにかく早くウチに運ぼう。 」

「 ああ。 」

ジョーとジェロニモは 細心の注意を払い岩場に倒れていた若い女性をギルモア邸に運んでいった。

 

 

「 博士 ・・・ 博士 〜〜 ?? 怪我人の手当てをお願いします・・・

 あれ・・・ ? メンテ室で準備かな・・・ フランソワーズもいないなあ。お〜い フラン どこだい。 

 ちょっときみに頼みたいことがあるんだけどな・・・ 」

二人が戻ってきた時 リビングに人影はなかった。

「 おかしいな。 フランはちゃんとこの女性の位置を送信してくれていたのに。 」

「 ジョー。 地下に運ぼう。 」

「 そうだね。   あ 博士。 例の怪我人を連れてきました。 メンテ・ルームにつれてゆきますか。 」

博士がせかせかとリビングに戻ってきた。

「 ああ お前達。  う・・・ん  そうだなあ・・・ 」

ちらり、とジェロニモが運んできた人物に眼を向けただけで 博士はなにやら考え込んだままだ。

「 博士? あの ・・・ フランソワーズは? 」

「 怪我人は ・・・ うん、上で治療しよう。 奥の予備の部屋に運んでおくれ。

 メンテ・ルームは フランソワーズ専用にセットしてきたのでな。 」

「 え!? 彼女 ・・・ どうかしたのですか! 」

「 ちょいとな。  急激に <能力> を使ったので ・・・ ショックがまだ大きかったのじゃ。

 もうしばらく 外部からの刺激をシャット・アウトしておいたほうがいいな。 」

「 あ! さっき <見て>  <聞いて> くれたんだ?! 」

「 うむ。 どうも咄嗟にストッパーを解除してしまったらしくての。 」

「 ・・・ ぼくのせいです! ぼくが 余計なコトを頼んだから・・・! ・・・ 会えますか。 」

「 今な、休ませておる。 夜まで待ってやれ。 その間に怪我人の治療をしよう。 」

「 博士。 オレ 運ぶ。 」

「 頼むよ。  ああ、 ジョー、 応急処置の道具を運んできてくれないか。 

 ちょっとだけなら・・・ 彼女の顔を覗いてきてもいいぞ。 」

「 はい! 」

ジョーは地下への階段を飛び降りていった。

 

 

  ― ジェロニモ Jr.の予感は ほぼ的中した。

崖下に落ちていた若い女性は ほどなくして意識を回復した。

怪我の程度も出血のわりにはたいしたことはなかったのかもしれない ・・・

 

「 ・・・ すみません ・・・ 」

気分はどうか と尋ねた博士に その女性はぽつり、と応えた。

「 君、 名前は?  よかったらお家に連絡しますが。 」

「 ・・・ 家はありません。 」

ジョーの問いにも 彼女は静かに首を振った。

じっと見つめていたジョーは 初めて彼女の瞳の薄い色と 白く透き通る皮膚に気が付いた。

「 ないって ・・・ ああ、この国の方ではないのかな。 」

「 いえ。 私は もう ・・・ なにもないんです。  全て失くしてしまいました・・・ 」

「 え ・・・ なにか事故にでも遭ったのですか。  

 あ、すみません。 立ち入ったことを聞いて・・・ あの ・・・なにか 欲しいもの、ありますか。

 水とか ・・・ え〜と あの・・・ぼくは  」

「 ・・・ ジョー。  しまむら じょー さん   ね 」

「 え!? 」

ベッドの中から その若い女性はほんの少しだけジョーに微笑み返した。

 

 

「 あの 入ってもいいですか。・・・ この服、どうぞ。  すいません・・・ 気が利かなくて。  」

ジョーは大きくノックしてから そう〜〜っとドアを開けた。

「 はい?  ああ ありがとうごさいます ・・・ 」

「 入ります!   ・・・ あれ。 起きあがって大丈夫ですか。 」

「 はい、 怪我ももうほとんど治ったみたいですし。  こちらの先生は素晴しい方ですね。 」

「 え あ  ・・・ は はい・・・ 」

ジョー達が崖の下から助けた女性は 驚くべき回復力を見せた。

博士は最低限の治療を施しただけだったが すぐに傷は癒えベッドに起き上がれるようになった。

 ただ 記憶だけが戻らなかった。 

 

名前は ― ユウ。   

彼女は何度聞かれてもそれしか答えることができない。

博士が丹念に問診を試みたが なんの成果もなかった。

「 ・・・ まあ  おいおい思い出すじゃろう。  とりあえず警察にも届けておいたし。

 しばらくここでゆっくり養生なさるがいい。 」

「 ありがとうございます ・・・ 」

溜息まじりの博士の言葉にその女性 ― ユウ は静かにアタアを下げた。

「 そうですよ。  怪我が完全に治ればなにか思い出すかもしれないし。

 どうぞ ・・・ 気楽にしてください。 あの ・・・ なんにもできないですけど・・・ 」

「 ジョーさん ・・・でしたわね。  どうぞお気遣いなく・・・ 」

「 あ ・・・ は、 はい ・・・ 」

ジョーはその女性をどう扱ってよいかわからず ひたすらどぎまぎとしていた。

 

 

 

「 そうなの・・・ あれは ・・・ あの人影は女性だったのね。 」

「 うん ・・・ ちょっとびっくりしたけど。 もう傷はほとんどいいんだ。 」

「 そう・・・ よかったわねえ。 」

「 それよりも! きみの方が大切さ。 あの・・・ごめんね。きみに能力 ( ちから ) を使わせてしまって。

 まだ負荷をかけてはいけなかったのに・・・ ごめん・・・ 」

ジョーは そ・・・っとフランソワーズの頬に触れた。

地下のメンテナンス・ルームは今や彼女の病室になっていた。

「 せっかく庭にでられるようになっていたのに。 本当に不注意だったよ。 

 まったくさ、偉そうにきみに指示なんかして! 大バカものさ、ぼくは! 」

「 ジョー ・・・ そんなに自分を責めないで。 うっかり 眼も耳もつかってしまったわたしが悪いのよ。

 でも ね。 ちゃんと働くだってわかってちょびっとほっとしたの。 」

「 え ・・・ だって きみ。  能力 ( ちから ) は ・・・ キライだって言ってるじゃなか。 」

「 そりゃ 好きじゃないわ。 でも・・・ 必要な時にはちゃんと使えるようになっていないと。

 わたしだってね ・・・ 」

「 わたしだって 003なのよ、だろ?  きみって ・・・凄いな。 」

「 凄い ? 」

「 うん ・・・ いつだってちゃんと自分自身のこと、冷静に考えているもの。

 でも 休むときにはちゃんと休んでくれよな。 今度こそきちんと回復してくれ。 」

「 ええ ・・・ ありがとう、ジョー。  あ。 ねえ ・・・ その怪我した方のことだけど・・・  」

「 うん? ああ 奥の予備の部屋を使ってもらっているよ。 怪我はね もうほとんどいいんだ。 」

「 そう・・・ よかったわ。  あの  それじゃね、 ジョーにお願いがあるの。 」

「 なんだい。 」

「 ええ ・・・ その彼女にね 着替えを持っていってあげて。

 わたしの部屋のクローゼット、開けていいわ。  ブラウスとセーター、スカート・・・・

 それで あの。 奥のチェストにね ・・・ 一番下の引き出しに下着が ・・・ 新品の下着がね、

 入っているの。 それも持っていってあげてくださる。 」

「 え ・・・ し ・・・ 下着・・? 」

「 ええ。 本当ならわたしが持って行きたいのだけれど・・・

 まだ ここを出てはダメだって博士が仰るから。 」

「 うん、無理は禁物だよ。  ここは完全にシールド・ルームになっているからね。 

 ・・・ よ、よし。 わかった・・・! 

ジョーは  ― 一大決心をし ぎゅ・・・と拳を握り立ち上がった。

 

    ・・・ やるぞ。  彼女の願いなんだ!

    ぼ  ぼくがやらなくて 誰がやる・・・?!  よ ・・・ し!

 

「 あの ・・・ ジョー? 大丈夫 ・・・ 」

「 ん。  あ  キス してくれる。 」

「 まあ ・・・ ふふふ ・・・ 可笑しなジョー・・・   はい それじゃ元気の出るオマジナイ、ね。 」

「 ・・・ん ・・・ 」

ベッドに身を屈めてきたジョーに フランソワーズはするり、と抱きつき軽く唇を重ねる。

「 ・・・ ああ ・・・ はやく きみを愛したい・・・ 」

「 ・・・ いやな ・・・ ジョー ・・・ 」

「 ね・・・ もう一回 キス ・・・ いいかな。  ンンン・・・・ 」

「 んんん ・・・ ジョ ・・・ − ・・・・そんなに  はぁ・・・ 息が ・・・ 」

「 ごめん。  ああ この唇もこの身体も・・・ぼくのものだから・・・ね。 」

ジョーは さらに身を屈めると彼女の胸元をきつく吸った。

「 ・・・ や ・・・なに、ジョー・・・? 」

「 ちょっとだけ。 これはぼくのサインさ。  もう絶対無理させないからな。 」

「 ジョー ・・・ ここが熱いわ。 わたしの御守にするわね。 」

フランソワーズは胸元にそって手を当てる。

「 フラン ・・・ きみってヒトは本当に・・・!  ああ もうぼくはメロメロだよ〜〜

 ううう ・・・ メンテ・ルームじゃなかったら ・・・ ! 」

「 ふふふ・・・ダメよ。 すっかり元気になってから、ね。 

 さあ あの方に着替えを持っていってあげて? あの ・・・いろいろお困りかもしれないし。 」

「 うん、わかった。  また ・・・ 来るから。 」

「 ええ。 ふふふ・・・甘えん坊さんね、 ジョーってば。 」

フランソワーズは腕をのばし ジョーの頬をさぐる。 

ジョーはその白い指を一瞬口に含んでからキスをし、ぱ・・・っとメンテナンス・ルームを飛び出していった。

 

    ・・・ く ゥ〜〜 ! これ以上一緒にいたら・・・!

    ぼくは ブレーキ、利かなくなっちゃうよ!

 

彼の足音を フランソワーズはいつまでも心の中で聴いていた。

 

 

 

   ― サクサクサク   ・・・  サクサク ・・・

足跡が二組 波打ち際に沿って印されてゆく。

「 ・・・ 砂浜を歩いても疲れませんか。 」

「 ええ ・・・ 歩き難いけど、 大丈夫です。  あの シマムラさん・・・ 」

「 はい。 」

「 どうして私のこと 助けたのですか。 」

「 どうしてって・・・ 」

「 放っておいてくれれば ・・・ よかったのに。 」

「 ユウさん。 事情はわからないけれど。 どんなことがあっても命を粗末にしてはいけないです。

 これは これだけは、ぼくは確信を持って言える。 」

「 ・・・・・・・ 」

彼女は ぷい・・・とジョーの側をはなれ波打ち際に近づいていった。

崖下から助け上げた女性は ―  ユウ という名前しか思い出すことが出来なかったのだが ― 

順調に回復し ギルモア邸近くの海岸を散歩できるまでになった。

ジョーは 調査のためもあり、彼女が落ちていた崖下にきていた。

 

「 なにか思い出しましたか。  ここに・・・君は倒れていたのだけれど。 」

「 ・・・ 見たくないわ。 私 ・・・なにもかも失くしてしまったのです。 

 なんにも ・・・ 思い出すら なくしてしまった・・・ 」

「 すいません、辛い思いをさせて。  じゃあ もう戻りましょうか。 

 あ、 あのう・・・ 服とか。 必要なものがあったら遠慮なく言ってください。 」

「 ありがとう ・・・ シマムラさん。  この服は どなたのもの? 

 あのお家には女性の方はいらっしゃらないみたいですよね。 」

「 あ ・・・う、 うん。  実はね、今 ・・・ 別棟で病気療養中なんだ。 」

「 まあ  そうでしたの。  ・・・ その方 シマムラさんの恋人ね。 

 ・・・ 金の髪に そう・・・空と海の色の瞳 ・・・でしょ。 」

薄い瞳がじっとジョーに向けられている。

「 !? ど、 どうして そ そんなことがわかるんだ?  君は ・・・ 誰だ? 」

ジョーはぎょっとして彼女から 数歩跳び下がった。

「 そうだ ・・・ いきなり僕の名前も当てたよな。  ・・・ NBGの手先か。 」

「 エヌ・・・ ?? アナタ、何を言っているのか わからないわ。 

 私 ・・・ バケモノなの。 他人の思っているコトが どんどんアタマの中に流れてきて・・・・ 」

「 な ・・・ なんだって ・・・・ ? 」

彼女は両手で顔を覆い しゃがみこんでしまった。

長い黒髪がさらさらと肩から背に流れる。

「 ・・・ 皆 気味悪がって・・・逃げていったの。  ええ、 親にさえ捨てられたわ・・・

 だから。 こんな人間 生きている必要、ないでしょう・・・・? 」

「 ・・・ それで 崖から ・・・ 飛び降りたのか・・・ 」

「 そうよ。 それなのに ・・・ どうして放っておいてくれなかったの?! 」

ジョーはそっと 彼女の肩に手を置いた。

「 ・・・ 言ったろ? 命を粗末にしてはいけない。 それに、さ・・・ 」

彼は言葉を切って ぱちぱちと瞬きをし・・・前髪で顔隠した。

「 必要のない人間 なんて いない。  こんなぼくでも必要としてくれるヒトは いるよ。 」

「 ・・・ シマムラさん 」

「 さあ、戻ろう。  きみのこと、博士に相談してみよう。 」

「 ・・・・ 」

ジョーが差し出した手に 彼女は素直に立ち上がった。

「 ・・・ 優しいのね。  アナタの優しさは ・・・ ホンモノね。 」

「 え ・・・さ、さあ。  さ、 ともかく 帰ろう。 

 曇ってきたし。 陽が落ちればまだまだ寒いからね、海辺は・・・ 」

「 ・・・ 嵐 ・・・ あらしが 来るわ。 」

「 え?? 」

ジョーは水平線に視線を飛ばした。

そろそろ日が傾きかけ、空には雲が掛かってきたが雨の気配は感じられない。

穏やかな冬の夕方がやってきただけだ。

 

    ・・・ この娘は ・・・?

    テレパスなのか。  それとも ・・・ 何か他の・・・?

    いや、なんの目的で ここにきたのか・・・

 

「 帰りましょう。 」

ジョーは先に立ってすたすたと歩き始めた。

 

 

 

「 ジョー・・・・! お帰りなさい。 」

「 ジョー。 どこへ行っていた。 」

玄関のドアを開けると 明るい声がジョーを迎えてくれた。 

「 フランソワーズ !!  上に来てもいいのかい!? 」

「 ええ。  やっと博士のOKを頂いたの。  ・・・ あ ・・・ こちらが・・・? 」

ジョーに飛びつこうとしたが 彼女ははっとして向き直った。

「 あ うん。  ほら、きみが見つけてくれた・・・方だよ。  ユウさん。 」

「 まあ ・・・ もうお元気になられたのね? よかった・・・  あ、わたし ― 」

「 ・・・ フランソワーズ さん。  初めまして ユウ といいます。 」

「 あ  あ  ・・・ 初めまして。  ジョー? 」

フランソワーズはそれ以上はなにも言わずに ジョーをじっと見つめた。

「 あ、 ううん。  ちょっとね・・・ ともかく博士と話をしなくちゃ。  書斎かい? 」

「 いいえ リビングよ。  皆でティー・タイムにしようと思って・・・ ジョー達を待っていたの。 」

「 そうか ・・・ 無理しないでくれ。 きみは座ってろよ。 」

「 あら 大丈夫よ。  <普通> の生活なら何をやってもいいよって・・・ 」

「 でも。 頼む・・・ 今日はまだ静かにしていてくれよ。  」

「 相変わらず心配性ね、ジョーってば。 じゃあ ・・・ ともかくお茶を淹れてくれる?

 スコーンもね、焼いたのよ。 オーブンから出して・・・ あと、ジャムとクロステッド・クリームと・・・ 」

「 え、 え ?? ちょ、ちょっとまってくれよ。 え〜と まず お茶だろ。 それから・・・ 」

ジョーは玄関でウロウロしている。

「 あの。 私がお手伝い させて頂きます。 キッチンは・・・? ああ こっち ですね。 」

ユウが す・・・・っと二人の側を抜けて行った。

「 あ ・・・ あの ・・・・ そんな お客さまに ・・・ 

「 フラン、きみはともかくリビングに座ってろ。  ぼくが行くよ。 

 ユウさん? あの〜 ちょっとお待ちください・・・ 」

ジョーはフランソワーズの腕を押さえると大股にリビングを通りキッチンに入っていった。

「 ・・・ ジョー ・・・・  さむい ・・・ 」

  ―カタタタタ ・・・ 玄関横の窓が寒風をうけ微かに鳴っていた。

 

 

 

 

結局 その日のティー・タイムも夕食の準備も ― そして夕食の間もその後も。

フランソワーズはずっとリビングに座っていることになった。

「 あ・・・ あの。 わたし、やりますから。 お客様にそんなこと・・・・ 」

「 そうですよ、 ユウさん。 どうぞこっちに・・・ ぼくがやりますから 」

二人がいくら言っても ユウは笑って取り合わなかった。

実際 彼女は実に器用にお茶を淹れ ・・・ ざっと冷蔵庫をみてたちまち夕食を作り上げた。

 

「 ほう ・・・ たいした腕前ですな、お嬢さん。 」

「 ほんとう ・・・!  このお野菜のポタージュ・・・すごく美味しいわ。 お料理お得意なんですね。 」

「 うむ。 野菜の味が生きているな。 」

皆 口々に料理の出来栄えを褒めた。  夕食の席は穏やかな雰囲気になった。

「 ねえ、 ジョー? 本当に美味しいわよねえ。 」

「 え あ  うん ・・・  あの。 どうぞ あとはぼくがやりますから。 」

ジョーは後片付けに立とうとするユウを 真剣な顔で止めた。

 

「 あの。  初めて なんです。 」

「 ・・・ え? なにが ですか。 」

「 あの ・・・ 誰かのために食事を作って誰かと一緒に食べて ・・・ 喜んでもらえるって。 

 私 ・・・ ずっとひとりでしたから。  」

「 そ そうなんですか ・・・ でも! お世辞なんかじゃなくて本当に本当に美味しかったわ。

 わたし ・・・ 温かい味だったもの。  」

「 え・・・? 」

「 そうだ。 今晩の料理は食べるヒトのために作られていた。 」

「 ふむふむ・・・ そうじゃなあ。 ワシのような老人にも食べやすく、この若者たちも満足・・・

 こんな気配りはなかなかできるものではないぞ。 」

「 本当にありがとうございます。 ごめんなさいね、わたしがずっと・・・その具合が悪くて。

 お客さまをほったらかしにしてしまったわ。 」

「 ・・・ いいえ。 そんな。 私、ずっと一人ぽっちで ・・・

 時間だけは沢山あったから いろいろ ・・・ 料理とか勉強したけど。 

 ヒトに 美味しい ・・・ ヒトに 食べてもらったのって。   初めて ・・・ あ ごめんなさい・・! 」

ユウは ぱっと席を立つとキッチンに逃げ込んでしまった。

「 あ・・・ ユウさん ・・・ 」

「 ジョー。 しばらくそうっとしておいてあげなさい。  いろいろ ・・・ 言いたくないこともあるのだろよ。 」

「 は・・・ はい ・・・ 」

「 嵐が くる。  風が 激しくなってきた。 」

ジェロニモ Jrの呟きに フランソワーズはテラスへの窓に駆け寄った。

「 え??   まあ 本当・・・ すごい風だわ・・・ ねえ、ジョー・・・」

「 うん ・・・ 本当だね。 冬の嵐 か・・・ 」

 

カーテン越しに眺める空は灰色に重く沈み 黒い海面は大きくうねっていた。

ガタガタガタ ・・・  庭のフェンスが音たてて鳴り始めた。

 

 

 

 

   ― ガタン ・・・! 

 

「 ??  あ ! ・・・ キッチンのドアが開いたわ。 ユウさんは・・・? 」

「 え。 後片付けしてくれて・・・ そのあと奥の部屋に戻りますって言ってたけど。 」

「 ジョー、ちょっとわたし、見て来るわ。 」

夜も更け そろそろ二人が寝室に引き上げようか・・・という時間だ。

博士もジェロニモ Jr.もとっくにリビングにはいない。

「 ぼくが見て来るから。  きみは ここにいろ。 」

ジョーは読み止しの雑誌をソファにおくと リビングを出ていった。

「 ・・・ ええ ・・・ でも ・・・ 」

リビングのドアが閉まると フランソワーズは意を決して立ち上がった。

「 ― やっぱりこれも そうなの? だったら ・・・ 行くわ、わたし。 」

 

   ― カタン ・・・

 

キッチンのドアが開いて  閉まった。

 

外は嵐だった。  雪こそ降ってはいないが凍て付く雨が強風に乗って叩きつけてくる。

「 うわ ・・・ すごいわ。  あ・・・門が開いているわね。  

 ちょっとだけ < 眼 > を使わないと ・・・ 」

フランソワーズはしばらくギルモア邸の門の前に佇み四方をじっとサーチしていた。

暗闇も嵐も彼女の < 眼 > にはなんの障害にもならない。

 

やがて ―   「 ・・・ ああ !! 見つけた ・・・! 」

 

一声 低く叫ぶと彼女はずぶ濡れのまま、岬の崖に向かって走り出した。

 

 

崖の上に  彼女は いた。

「 ユウさんッ !!!  戻って・・・!! 」

「 ・・・・・・・ 」

ユウはふ・・・っとフランソワーズの声に振り向いたが すぐにまた崖の突端に足を掛けた。

「 だめ・・・!!  だめよ・・・! 」

フランソワーズは身体を低くし地に沿って進んでゆく。 強風に遮られよく見えないのが幸いだった。

「 ・・・ ユウさん! もどって! 」

「 ・・・!? 」

至近距離まで近づき 彼女は一気にユウに抱きついた。

「 だめ・・・ こんなことをしてはだめ。  ・・・・ え ・・? 」

  ― 一瞬 フランソワーズの全身が硬直した。

ユウはフランソワーズの身体を逆に押さえ込み ―  彼女の心臓に銃口を当てた。

 

「 一発で済ませてあげる。 」

「 な・・・あなた ・・・ 誰・・・ 」

「 岬の家にいる 女 を殺せ。  それがわたしの使命。 初めて私を必要としてくれた人々から

 与えられた しごと  」

「 ・・・ あなたを必要として ・・・ くれた人々・・・? 」

「 そう。 私をバケモノっていわなかった。 このチカラを使いたいって。  だから。 」

ぐ・・・っと銃口が フランソワーズの胸に強く喰込む。

「 あの女を排除すれば。  彼らのパワーは半減するって。 

 そんなこと どうでもいいけど・・・ 私は必要とされていたいの。 

 だって ・・・ 生まれて初めて私を認めてくれた ・・・ 」

   ― カチリ ・・・

ユウの指がトリガーに強く掛かる。

「 ・・・ いいのよ、撃っても。 でも わたしの代わりに皆を ジョーを支えてあげて。 」

「 え ・・・? 

「 あなたを 必要としているヒトは沢山いるはずだわ・・・

 あなたなら チカラ があるから・・・わたしの代わりになれるでしょう。 」

「 ・・・ どうして そんなことが言えるの・・・ 」

「 愛しているヒトに 幸せになって欲しいから。  ただ それだけ。 」

「 ・・・・  ゆ  る  して・・・・! 

  

   バシュ ・・・ !!!

 

一瞬 なにが起こったのか フランソワーズにはわからなかった。

激痛の衝撃とともになにもかもお終い ・・・ 覚悟して眼を閉じた途端に ― 赤い旋風が飛び込んできた。

 

「 許さない。 彼女を傷つけるものは 全て!! 」

 

気が付けば 防護服の胸にしっかりと抱きかかえられていた。

「 ・・・ ジョー ・・・・・  」

「 フランソワーズ!! 無事でよかった・・・!   やっぱり NBGの手先だったんだな! 」

「 やめて・・・! ジョー・・・ わたしはなんとも無いわ お願い ・・・ 

じわり、とジョーはユウに近づいた。

「 ジョー! 彼女は 彼女はね、騙されているのよ。 チカラを利用されて 」

「 でも。 きみを殺そうとした。  ぼくはゆるさない。 」

ジョーの声が ― 感情を一切消去った冷たい音声が 響く。

「 ジョー ・・・ ジョー・・・ やめて。 お願い・・・  」

 

「 ・・・ ありがと・・・ 私の料理 たべてくれて。 美味しいって言ってくれて・・・ ありがと ・・・ 」

「 あ・・・!?!  ユウ −−−−!! 」

「 ― あ ・・・  しまった ・・・! 」

 

風雨の中 淡い笑みを見せると。  ユウは みずから落ちていった・・・

 

 

 

翌日は 見事な冬晴れとなった。

荒れていた海は きらきらと陽光を映し黄金のウロコのごとく揺れている。

 

「 やっぱり NBG だったのでしょうか。 」

「 うむ。  フランソワーズを殺せ と命じたところをみると背後には絡んでおるな。 」

「 計画的だった ということか・・・ 」

「 ユウさん ・・・ 利用されてしまっただけなのに・・・ 」

<家族>は 今度こそゆっくりとリビングから冬の海を眺めていた。

 

「 ・・・ これで 長いミッションは終った。 」

コトン ・・・ とジェロニモは木彫りの像をフランソワーズに手渡した。

「 全快祝いだ。 」

「 まあ・・・ ありがとう!  あら これ ・・・小鳥さんね。 」

「 わあ 可愛いねえ。  ホンモノみたいだ。 」

ジョーもにこにこ覗きこんでいる。

「 ・・・ ジョー。  いつもそんな顔 していてね。」

「 え? 」

「 だって。 ・・・ やっぱり 恐かったもの。  ジョーったら本当に赤い炎みたいだったわ。 」

「 ・・・ きみが 微笑んでいてくれれば。 ぼくは ・・・ ヒトでいられる。 」

「 まあ。  それじゃ・・・ふふふ・・・ 燃えるのは二人っきりの時だけにしてね。 」

「 ・・・え ・・・あ・・・! う、 うん ・・・ 」

ジョーの顔は ―  首の付け根まで真っ赤に燃えていた。

 

   ― 冬の嵐は 去っていった。

 

 

 

*********************    Fin.      *********************

 

Last updated : 02,16,2010.                   index

 

 

************  ひと言  **********

ひえ〜〜〜 これはつまり、ですね・・・

一応原作準拠の 例のあのオハナシに至るまでの話なのでありまして。

それで 【 333333 】 のキリリク作品 なのであります。

お題は <怒れるジョー君> で フランちゃん絡み、とのご指定。

で・・・ちょいと捻ってみたのですが。

キリ番・ゲッター:ぽろん様 のリクエストです〜〜<(_ _)>

ご感想の一言でも頂戴できましたら狂喜乱舞〜〜 ♪♪

どうぞ宜しくお願いいたします <(_ _)>